技能五輪全国大会2020

―「Made in Japan」を支えるものづくりアスリートたちの挑戦―


 毎年開催される「技能五輪全国大会」を知っていますか? 青年技能者たちがさまざまな職種においてその技術レベルを競い合い、日本一を決める大会です。日本の技術を支えるものづくりアスリートたちの魅力と、未来への挑戦を紹介します。




「技能五輪大会」とは
 都道府県ごとに選抜された原則23歳以下の技能者が、各職種で技能レベルの日本一を競う全国大会。第58回大会は2020年11月、愛知県常滑市で開催されました。

●大会の目的
 大会の目的は2つ。一つは、技能競技を通じて、次の時代を担う若手技能者への努力目標を与えること。もう一つは、優れた技能に触れる機会を提供することで、技能の重要性をアピールして技能尊重の機運を育むことです。そのため出場資格は、各都道府県職業能力開発協会などにより推薦された原則23歳以下となっています。また、「技能五輪国際大会」(※)が開催される前の年の大会は、技能五輪国際大会において競技の実施が見込まれる関連職種に係る選手の選考を兼ねています。
※次回の国際大会は2022年に開催予定





●大会の歴史(1)
 1963年に東京で初めて開催されて以来、毎年開かれています。1990年までは中央職業能力開発協会の主催で、東京都や千葉県内が会場でしたが、1991年以降は都道府県との共催により日本各地で行われるようになりました。1980年代後半から一時減少した参加者も徐々に増え続け、2017年には歴代最多の1,337人が出場し、腕を競い合っています。





●大会の歴史(2)
 ものづくり大国の礎に磨きをかける契機となった技能五輪全国大会。その技能は、隔年開催される技能五輪国際大会(国際技能競技大会)でも大いに発揮されています。日本の初参加は1962年の第11回大会。第12回大会から2大会連続で国別順位で1位を獲得したのを皮切りに、毎回、優秀な成績を収めてきていました。





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<座談会>
若者たちに光を当てたい
――技能者の育成者たちの思い


 今回、若手技能者を育てる側からは職業能力開発総合大学校の市川修さん、株式会社きんでん人材開発部一般工事教育チームの伊藤進さん、ものつくり大学建設学科の佐々木昌孝さん、専門学校岡山ビジネスカレッジの岡本典子さん、厚生労働省からは人材開発統括官付能力評価担当参事官室の山地あつ子参事官にお集まりいただきました。それぞれの立場で感じていることや考えていることをお話しいただきました。




ものづくり人口減少のなか
他国選手のレベルが向上


──現在の日本の技能者のレベルについて、どのようにとらえていますか?

市川●技能五輪国際大会の結果をみると、近年は成績や金賞の獲得数が下がっていることが懸念されていますが、日本の技能者の絶対的なレベルが下がっているわけではないと思います。
 他国のレベルが上がってきていることや、人口減少でものづくり人口が減ってきていることなどもあり、思うように成績が残せていないのだと思います。中国や韓国などでは、優勝者に褒賞が与えられ、技能者のやる気や価値を高めていることもメダル獲得数が増えている理由でしょう。

伊藤●当社に入ってくる新人は、知識や技術を既に持っている人から、初めて学ぶ人までさまざまです。みんな興味・関心を持って入ってくるので、新人のレベルが下がったと感じたことはありませんね。
 ただ、若者のものづくり離れは進んでいると思います。技術に触れる体験教室などを開くなど関心を持ってもらえるようにしていますが、そうした機会も減ってきており、ものづくりに進みたいと考える若者が減ってきているのは確かでしょう。

佐々木●家具木工の分野はヨーロッパが本場ですが、ここ2回の国際大会で日本人技能者が敢闘賞に食い込んでおり、健闘していると思います。課題や傾向を押さえつつ技術を磨く、日頃の地道な訓練の成果が少しずつ出てきたと言えます。
 家具木工をめざす、技能者が特に減少しているとは思いません。

岡本●同じくヨーロッパが本場のアパレルの分野では日本の技能者人口の減少を感じてはいますが、技術が低迷し衰退してきているとは思っていません。近年はアジア諸国の技能者が国際大会で活躍するようになっており、日本も遅れをとらないようにしないといけない状況だと思います。





大会の周知が必要
新たな種目への挑戦も


──日本の技能者の課題とは?

岡本●日本の若手技能者は細かい作業や正確な作業については得意なようですが、応用力や工夫などの機転を利かせるのは苦手な傾向にあると感じています。
 自分も技能五輪に出場した経験があり、目標を持って臨むなかで技術は必ず磨かれていくので、苦手な創意工夫も乗り越えながら大会で活躍してほしいですね。

伊藤●技能五輪への出場は人材育成の手段の一つだととらえています。若手のものづくり分野の人たちには、技能を磨くことはしても、大会で点数を取るための技術を身につけるという意識がない人も多くいます。技術を磨くのは金賞を取るためというのは違う気もしますが、大会で成績を残すという意味では、点の取れる技術力も必要ではないでしょうか。

佐々木●技能者の技術的課題というよりも、技能者を増やし、より技術を高めていくには、技能五輪をはじめとした大会(図)のことをもっと多くの人に知ってもらう必要があると思います。日本では、技能五輪の一般的な認知度が低い。大会に出る選手が誕生したことを誇りに思え、技術者がもっと世のなかで評価されるようになっていかなければ、そこをめざす若者は増えません。

伊藤●確かにオリンピックやパラリンピックはテレビで放送しますが、技能五輪は取り上げられない。ものづくり分野で日本一、世界一になるというのに、大会のことが広く知られていないので、そのすばらしさが伝わっていません。

市川●技能五輪にかかわって約18年経ちますが、周囲で技能五輪を知っている人が一人いたと、母が先日喜んでいました。一般の方の認知度は低いですね。
 日本は、国際大会の種目では製造系が強かったのですが、種目の廃止や統合などでメダル数が減ってしまいました。今後は新種目にも積極的にチャレンジすることが必要です。
 また、国際大会で活躍した人が職場で自らの技能を生かせないこともあると聞きますので、そのあたりについても何とかしていきたいと思います。





課題を踏まえながら
国として継続して支援


──4人のお話を聞いて、山地参事官はいかが思われますか?

山地●技能者の育成の現場から見たさまざまな課題なども受け止めさせていただきつつ、ものづくりの世界の魅力を技能五輪を通じて広く知っていただけるよう、また、今後も技能者がそこをめざして訓練に励んでいただけるよう、国として一層支援していきたいと思います。また、今回、競技をオンラインで配信した全国大会に反響があったので、今後その周知に力を入れてまいります。






 

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年1月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省