高齢者の保健事業を介護予防と一緒に

 今年の4月から、高齢者保健事業を国民健康保険事業および介護予防の取り組みと一体的に実施する取り組みがスタートしました。そこで、この取り組みの背景と狙い、現状について、厚生労働省の保険局高齢者医療課長の本後健さんに伺いました。



厚生労働省保険局高齢者医療課長
本後 健
ほんご・けん●1997年東京大学法学部卒業、同年厚生省入省。1999年保険局医療課、2004年厚生労働省老健局計画課課長補佐、2007年静岡県厚生部障害者支援局長、2013年厚労省医政局総務課課長補佐、2015年社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長、2018年大臣官房総務課企画官、同年厚生労働大臣秘書官、2019年社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課障害児・発達障害者支援室長などを歴任。



国民保険と広域連合を適正に継続させる

――今年4月からスタートした高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施には、どのような狙いがあるのでしょうか?

 国民の健康寿命の延伸です。高齢者は複数の慢性疾患を持っていることが多く、また認知機能や社会的なつながりが低下してしまうフレイル状態 ※1になりやすいという問題を持っています。健康を維持するための疾病予防に加えて、生活機能を維持するための支援が必要です。

 しかしながら、従前75歳以上の方が加入されている後期高齢者医療広域連合(以下、広域連合)の保健事業では、被保険者の健康診査は行っているものの介護予防の取り組みは市町村が主体となって実施していたため、健康状況や生活機能の課題に一体的に対応することができていませんでした。

 このような課題に対して、住民に身近な市町村が高齢者の心身の状況に応じた細やかな支援を行えるよう法整備を行ったのです。


医療専門職が地域全体を見て支援を行う

――疾病予防や重症化予防のための保健事業とフレイル状態に陥らないための生活機能維持を含めた介護予防を市町村が一体的に実施するとのことですが、具体的にはどのように進められているのですか?

 保健事業を委託された市町村に、事業全体のコーディネートや企画調整等を行う医療専門職(保健師等)を置き、さらに高齢者への個別支援や通いの場等への関与など実働部隊として日常生活圏域に保健師、管理栄養士、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等を配置します。前者は市町村の職員、後者は地域の医療機関等への委託も可能です。

 この体制で国保データベース(KDB) ※2の分析や訪問等を通じて、地域の健康課題等を把握するとともに、健康問題を抱える、閉じこもりがち、健康状態不明、フレイル状態にある高齢者を特定して、必要な医療・介護サービスにつなげていきます。

 こうしたハイリスクの人たちのサポートはもとより、医療専門職が積極的に通いの場 ※3に加わり、そこで健康教育や健康相談、保健指導など、地域の高齢者全体を対象としたポピュレーションアプローチも展開し、フレイル予防にも力を入れていきます。


2024年度には全自治体で実施

――4月から始動して、現状をどのように捉えていますか?

 本事業は、2024(令和6)年度までに全自治体で実施することをめざしており、現時点(11月現在)では全体の2割の約330市町村で事業を開始しています。来年度は新たに449市町村が開始予定です。

 新型コロナウイルス感染症の影響で通いの場の減少や訪問が難しいなどの課題もありますが、広域連合の努力もあり順調なスタートを切れたと評価しています。


――最後に、国民の皆さんに知ってもらいたいことは何ですか?

 今後、地域の通いの場にも医療専門職がかかわっていくことや、市町村の職員が必要に応じて自宅に訪問する取り組みが各市町村で行われることになります。このことを知っていただきたいです。

※1
要介護状態に至る前段階として位置づけられる。身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自律障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を指す

※2
国民健康保険団体連合会が保険者の委託を受けて行う各種業務を通じて管理する「特定健診・特定保健指導」「医療(後期高齢者医療含む)」「介護保険」等の情報

※3
住民が活動主体となって地域にある集会所などを活用して、歓談したり、体操したり、ほかの人と一緒に趣味を行うなど、高齢者が日常的に地域の人々と触れ合うことができる場





広報誌『厚生労働』2020年12月号
発行・発売:(株)日本医療企画

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年12月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省