新型コロナウイルス最前線

新連載
新型コロナウイルス最前線 第1回


新型コロナワクチンは万能か?
開発の最新事情と今後の展望



 世界中で大問題となっている新型コロナウイルス感染症。本連載では、その動向や対策などを紹介します。

 第1回目は、実用化が期待されている新型コロナウイルスワクチンです。厚生労働省の正林督章健康局長に、その現状や期待できる効果などを聞きました。




厚生労働省健康局 局長
正林督章
しょうばやし・とくあき●1991年、旧厚生省に医系技官として入省。健康課長時代には健康増進法の法案策定に取り組む。2009年の新型インフルエンザ感染症の対策を担い、新型コロナウイルス感染症の対応については、今年2月、横浜港に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での対応を行った。8月に健康局長に就任し、引き続き新型コロナウイルス感染症対策において中心的な役割を果たしている。


ワクチンの効果とは?

●そもそもワクチンとはどのようなものなのですか。

 ワクチンとは病原性を除去したり、弱めたりしたウイルスや細菌などを体内に入れて、病気に対する免疫をつけたり、免疫を強くしたりするものです。その効果としては、(1)集団免疫効果(接種していない人にも波及する効果)を含む感染予防(感染者が減少)、(2)発症予防(発症者が減少)、(3)重症化予防(死亡・入院などの重症患者が減少)の3つがあります。

 たとえば、麻疹のワクチンは感染予防が期待できる一方、インフルエンザワクチンは感染予防効果がないとされています。「インフルエンザの予防接種をしたのに罹患した。なぜか」という疑問をお持ちの方もいますが、もともとインフルエンザワクチンは感染予防を目的としたものではなく、一定の発症予防や重症化予防を目的としているのです。

 新型コロナワクチンは、発症予防や重症化予防が薬事承認のポイントです。なお、集団免疫効果に関しては大規模に接種するまでわかりません。


●「副反応(副作用)もある」と聞きますが、その心配はないのですか。

 ワクチンの接種により、副反応が起きることはあります。多くは発熱や注射した部分が腫れるといった程度ですが、ごくまれに、重い副反応が起きる場合もあります。

 以前、コロナウイルスの一種であるネコ伝染性腹膜炎ウイルスのワクチン開発時に、ワクチン接種後にウイルスに感染すると、免疫細胞が暴走してサイトカイン(免疫系細胞から分泌されるタンパク質)を過剰に放出し、かえって症状を悪化させることがありました。ADE(抗体依存性増強)と呼ばれていますが、こうした問題はワクチンの開発段階や薬事審査の段階でチェックされます。

 日本では、ワクチンの安全性を確認するため、接種後に生じた症状について継続的な情報収集を行っており、その情報は国の審議会に報告し、安全性に問題がないかを専門家が評価しています。なお、万が一、ワクチンにより健康被害が生じた場合に備えて、予防接種法に基づく健康被害救済制度を設けています。


ワクチンを世界中の研究者が開発中

●ワクチンはどのように開発されるのですか。

 ウイルスやその断片的な部分を使ってつくるほか、近年はウイルスそのものを使わず、遺伝子情報や遺伝子組み換え技術によって製造するワクチンもあります。新型コロナワクチンについてはさまざまなアプローチで開発が進められています。


●新型コロナワクチンの開発にはどのくらいかかりそうですか。

 ワクチン開発には一般的に年単位の時間がかかりますが、新型コロナウイルスについては世界中で流行、いわゆるパンデミックが発生しており、各製造販売業者はできるだけ早期にワクチンを実用化し、皆様にお届けできるように取り組んでいるところです。

 ワクチンは第1相試験、第2相試験、第3相試験※という3つのステップを経たものを、そのデータに基づき厳正な審査を行って承認しています。新型コロナワクチンに関して国内では、大阪大学等が開発を進めるDNAワクチンが第1相、第2相試験を開始しており、国立感染症研究所や東京大学医科学研究所などが開発しているワクチンも、早期の臨床試験をめざして開発が進められています。

 一方、海外ではすでに第3相試験に着手している企業もあり、開発は海外のほうが進んでいます。しかし、コロナウイルスのワクチン開発は難しいとされ、ワクチン開発が予定どおりに進むかどうかわからないため、完成時期について具体的に申し上げるのは難しいのですが、できる限り多くの国民の皆様が予防接種を受けられるよう、国内外を問わず、早期に完成したワクチンから検討してお届けすることを目指しています。


●新型コロナワクチン承認後、どのような流れで国民が接種していくようになりますか。

 通常の定期接種と同じように、国民の皆様はお近くの医療機関で接種を受けるという流れをイメージしています。できる限り早く新型コロナワクチンを国民の皆様にお届けできるよう準備していますが、工場の製造能力にも限界があり、一度に国民全員分を用意できるわけではありません。医療従事者、高齢者や基礎疾患を持つ方々というように、一定の順番を決めて、接種していただくことになると思います。


●さまざまな情報が飛び交っていますが、新型コロナワクチンの情報に触れる際に気をつけるべきことはありますか。

 メディアやSNS等で飛び交う事実に基づかない情報に惑わされないことです。「ワクチンさえ打てば新型コロナには罹患しない」「このワクチンは危険なワクチンだ」といった声を耳にしますが、現段階では有効性や完全性について明らかになっていません。国民の皆様が惑わされず、接種の判断ができるよう、厚生労働省では今後、治験データ等をもとに新型コロナワクチンの有効性や安全性に関する正確な情報を提供していきたいと思います。


※第1相臨床試験 安全性や体内動態を中心に調べる臨床薬理試験
第2相臨床試験 安全性を確認しつつ有効性の瀬踏みをする探索的臨床試験
第3相臨床試験 それまでに得られた有効性・安全性の仮説を検証する検証的試験
第4相臨床試験 市販後に、有効性と安全性にかかわるさらなる情報の収集を目的に行う臨床試験
出所・日本薬学会『薬学用語解説』






広報誌『厚生労働』2020年11月号
発行・発売:(株)日本医療企画
 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省