子ども食堂応援企画

子ども食堂、その先にある
誰もとりこぼさない社会づくりへの挑戦



 子どもの育ちを支援する重要な役割を果たしている子ども食堂は、子どもの貧困対策や地域交流の拠点として重要な役割を果たしています。この子ども食堂の活動を広げ、継続・発展させていくためにはどんな支援が必要なのでしょうか。

 本企画では、前号の現場訪問に引き続いて、子ども食堂の役割と可能性を、社会活動家でNPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長の湯浅誠さんに説明いただくとともに、今後の継続・発展に向けた官民連携などについて、厚生労働省担当者たちとの議論を通じて考えます。


<提言>
湯浅誠さん
NPO法人全国こども食堂支援センターむすびえ・理事長・東京大学先端科学技術研究センター特任教授

ゆあさ・まこと●1969年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。1990年代よりホームレス支援に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。法政大学教授(2014~2019年)を経て現職。社会活動家。




子ども食堂の役割

 子ども食堂は、子どもが1人でも行ける無料または低額の食堂であり、子どもへの食事提供から孤食の解消や食育、さらには地域交流の場などの役割を果たしています。少し専門的な言葉で言うと「子どもの貧困対策」と「地域の交流拠点」という2つが活動の柱となります。子ども食堂は民間発の自主的かつ自発的な取り組みで、2012年、東京都大田区の八百屋さんの取り組みがスタートとされています。誕生から8年間で、その数は全国3,700カ所を超え、国民の8割が「子ども食堂という言葉を聞いたことがある」と回答するほど知名度も上がっています。社会活動と言えるレベルです。

 この子ども食堂の活動を後押しするために、私たちは2018年にNPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえを立ち上げました。「むすびえ」の名称には、子ども食堂を応援しようとする人たちをつなげる役割を果たしたいという意味を込めています。現在は都道府県単位で子ども食堂を支援するネットワーク団体づくりや、子ども食堂を応援したい企業・団体と協業した子ども食堂の支援活動、その意義や役割などの調査研究などを行っています。①地域ネットワーク支援、②企業・団体との協働、③調査研究――の3つの事業を通じて、子ども食堂の量的拡大と質的拡大、そして社会インフラ化させることをめざしています。

 私は20年以上、貧困の現場で支援活動に携わってきましたが、その観点から見ると、子ども食堂の良さは人をタテにもヨコにも割らないところにあると考えています。一般的に国の政策は「▽この年齢、▽この属性に所属する、▽この所得の人に対して、このサービスを提供する」という仕組みになっています。きめ細かな支援を行ううえでは必要だと考えますが、財政が逼迫しているなかで、課題が多様化・複雑化している状況において、対象者を絞り込んで的確な支援を行うというアプローチは難しいのが現実です。

 その点、子ども食堂は子どものためだけではなく、子育て中の親、ボランティアの高齢者や引きこもりの若者などにとっての居場所となっています。子どもの貧困対策、子育て支援、介護予防、虐待予防など多機能を持つ場所になっているのです。


子ども食堂と行政の違い

 「貧困」と言うと「生死をさまよう」飢餓状態をイメージされがちですが、OECDは「所得の中央値の半分以下」を相対的貧困と定義しています。これに基づくと、日本では「7人に1人が貧困状態」となります。相対的貧困状態には、食事もまともにとれない極貧家庭もありますが、大半は飢えるまでには至っておらず、きちんと服を着てランドセルを背負って通学もしています。

 私は前者を「赤信号」、後者を「黄信号」といった信号の色で表現しています。極貧をはじめ深刻な虐待や非行、不登校などの専門的な支援を必要とする子どもが「赤信号」で、経済的理由で修学旅行に行けない程度の子どもが「黄信号」です。「黄信号は大したことない」と思う人もいますが、たとえば修学旅行に行けなかったことがいじめにつながるなど、ちょっとしたことで赤信号に落ちるケースは少なくありません。黄信号と赤信号はつながっているのです。

 そして日本では、この黄信号の人たちへの支援が不足しています。その一因は黄信号の人たちにも「貧困状態」との自覚がないことがあり、たとえば、黄信号の人は教育相談室などの相談窓口にはほとんど行きません。こうした場所は、もっと大変な「赤信号」の人のためのものだと考えているからです。そこに行くと「大変な人だ」とレッテルを貼られることを恐れての面もあります。結局、「予防的観点が重要」との認識は広く共有されながらも、効果的な具体策には乏しかったのです。

 その点、子ども食堂は重要な存在です。地域のお祭りに行くような感覚で、黄信号の子どもも青信号の顔をして行けるからです。「赤信号」対応を専門とする行政や福祉専門職は子ども食堂を、「虐待家庭に入れるのか」「専門的対応ができるのか」と批判しがちですが、その指摘はお門違いです。そもそも色分けしないのが子ども食堂の強みであり、担っているのは、黄信号の子どもが赤信号に転落しないように予防する機能だからです。

 自省も込めて述べますが、長年赤信号対応を行ってきた行政や福祉専門職は黄信号対応を不得手としています。ですから、批判するのではなく、黄信号から赤信号への転落を予防する子ども食堂と、赤信号対応を専門とする行政、福祉専門職が連携して、子どもの貧困対策に取り組むのが理想的な形だと考えています。


目標は社会インフラ化

 国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)では「誰一人取り残さない世界の実現」を通じて持続可能な開発ができるとし、さらに17の目標の1番目に「貧困をなくそう」を掲げています。これは、子ども食堂の発想と方向性が同じであり、日本版SDGsを考えるうえで子ども食堂は最も有効なツールになると考えています。

 子ども食堂は急速にすごい勢いで増えていますが、「すべての子どもがアクセスできる社会インフラ」とまではなっていません。理想は、すべての小学校区(約1万9,500)に子ども食堂がある状態をつくること。この実現に向けて、むすびえでは調査研究事業の一環として、都道府県別の子ども食堂の充足率を出して、各小学校区にどれだけの数があるかをプロットした「子ども食堂MAP」も作成しています。小学校区別の充足率を地図上で「見える化」することで、その整備を促していこうと考えています。

 めざすのは、子どもの登下校の見守り活動のようにすることです。PTAや自治会の方々が見守りをされていますが、それを見て「ご苦労様です」という気持ちにはなりますが、「すごい活動だな」とは思いません。さらに、登下校の見守り活動に対して「そんなことをすると犯罪者が多い地域と思われる」「交通安全教育は親の仕事だ」とは誰も言いません。登下校の見守り活動に対しては、地域のなかでできる人がやる、みんなでできる部分はみんなでやるといった認識が浸透しています。だから誰も特別な活動とは思っていません。子ども食堂をこうした社会のインフラにするのが目標です。それがSDGsにつながっていくと考えています。


<座談会>
子ども食堂×行政で地域のつながりをつくる





湯浅 誠さん(社会活動家、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)


柴田拓己(厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課虐待防止対策推進室長)


唐木啓介(厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長)


野﨑伸一(厚生労働省大臣官房総務課広報室長)






子ども食堂の良さを活かす
支援対象児童等見守り強化事業


野﨑●ここからは湯浅さんのお話をもとに、子ども食堂という民間の取組と行政の支援や政策に関する議論を進めていきたいと思います。まず、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染拡大を受けて実施されている「子どもの見守り強化アクションプラン」について、柴田室長から簡単に説明してください。

柴田●新型コロナ感染拡大に伴う学校の休校や外出自粛が続いたことで子どもの見守り機会が減り、また児童虐待に至るリスクも高まりました。そこで、コロナ禍における見守りを強化するために実施されたのが「子どもの見守り強化アクションプラン」です。就学児童や保育所・幼稚園等の児童、特定妊婦、未就園児等それぞれに学校や市町村の担当部局、要保護児童対策地域協議会(以下、要対協)などの担当を決めて定期的に状況の確認を行うというものです。もっとも行政だけで見守ることはできません。民間団体等の協力を得ながら見守り体制を強化し、児童虐待の早期発見・早期対策につなげる取組です。
 さらにこの取組を推進するため、令和2年度第二次補正予算で「支援対象児童等見守り強化事業」(図)を実施しています。こちらは、子ども食堂や子どもへの宅食等の支援を行っている民間団体等の活動を後押ししながら見守り体制を強化する事業です。それら民間団体等が支援対象児童等の居宅等を訪問して状況を把握するとともに、必要に応じて食事の提供や学習支援などを行ってもらい、そのための経費を助成する仕組みになっています。子ども食堂での食事提供や宅食時に「最近どうですか」と声をかけて、日常の話をしながら、定期的に状況を確認していただくというような流れになります。状況の確認は対面のほか、感染拡大防止の観点から、ICT機器を活用して行うことも可能としています。
 補助基準額は1カ所当たり831万3,000円で補助率は10/10。補助対象は、スタッフの人件費や食料品・日用品の購入費、交通費やレンタカー代、ガソリン代などの食料品の宅配に係る費用、事務局機能の費用など、地域の実情に応じて柔軟に活用していただけるよう、幅広くしております。

湯浅●むすびえでは今春、こんな時だから「地域を支える存在になってほしい」との願いを込めて「むすびえ・こども食堂基金」を設け、助成事業を始めました。この基金と、第二次補正予算の「支援対象児童等見守り強化事業」には共通点が多かったので、「行政も現場と同じ問題意識を持っている」と強く感じました。「新しいつながり事業」もそうですが、緊急事態宣言を受けて子ども食堂と行政の連携はかなり進みつつあるように思います。

柴田●湯浅さんの指摘にもありましたが、行政による給付は「この要件に当てはまる人のこの部分の取組に対する給付を行う」と条件がつきます。しかし、民間の取組を支援する観点では、あまり細かく条件を定めると、子ども食堂等の創造的な活動を制限し、その良さを損ねてしまう可能性があります。「支援対象児童等見守り強化事業」においてもこの点に悩みましたが、結果的には現場の皆さんが使いやすい内容になったと考えています。また、このような柔軟な仕組みにした背景には、この事業が行政と民間団体等が対等なパートナーとしてタッグを組み、子どもの見守りや健やかな育成に協働で取り組んでいく契機になればという思いもあります。

唐木●同感です。たとえば、生活困窮者自立支援制度では生活保護受給世帯を含む生活困窮世帯の子どもを対象に、子どもの学習・生活支援事業を行っています。そのプログラムでは生活支援の一環として調理実習もできるようになっています。新型コロナの感染拡大を受けて、この調理実習が難しくなったのですが、子どもたちに食事を届ける場合にはその費用にも活用いただけるようにしました。
 また、「新しいつながり事業」においては、新型コロナによって失業あるいは内定を取り消された人などに「つながり推進員(臨時雇用・有償ボランティア等)」として入ってもらい、見守り等を通じて、地域のなかで孤立しがちなつながりの弱い人たちとの関係づくりを進めてもらっています。このように新型コロナによってもたらされた「危機」をプラスに転換できるような取組を進めていきたいと考えています。

湯浅●自治体関係者からは子ども食堂に対して「子ども支援系の部署が担当で、児童虐待系とはラインが違う」「支援対象児童の問題はデリケートなために民間団体は関与させにくい」といった声も聞きます。「支援対象児童等見守り強化事業」「新しいつながり事業」に対しては、そうした現状を打破するきっかけとしても期待しています。


つながり続ける意思が
子ども食堂の最大の強み


湯浅●新型コロナの感染拡大によって、子ども食堂は「つながり続ける意思を最優先する場所」だということがはっきりしました。緊急事態宣言が出ると、その多くは休止するのではなく食材や弁当配付に切り換えました。さらに食材の調達が難しい場合、文通をしてつながりを継続しているところもありました。このことから単に食事提供をする場ではないことがわかると思います。
 強いて言うなら自治会に近いでしょうか。子ども会も敬老会もするなど、自治会は課題別に分けることができませんが、子ども食堂も同じです。行政による支援のあるべき姿に関する明確な答えは持ち合わせていませんが、民間ベースで広がってきたという点にサジェスチョンがあると思います。

唐木●子ども食堂に対して、困窮者支援・虐待予防といった何か1つの政策に紐付けてしまうと、対象となる人や活動が限定されてしまい、子ども食堂の持つ可能性を損なうおそれがありますよね。

湯浅●そうです。少なくとも学童保育がもう一つできるようなことにしてはいけないと考えています。そうなると100歳の高齢者は行けなくなってしまうからです。もちろん「行政は手出しするな」というわけではありませんが、子ども食堂は、子どもの貧困対策や多世代交流などの多様な課題に応えられる場としての役割が国民の共感を得たからこそ、ここまで増えてきたのだと考えています。民間の取組には「財源が脆弱」という弱みがありますが、「頑張っているから」と寄付やボランティアが集まりやすいという強みもあります。
 実際、子ども食堂にかかわっているのは、主に地域の“ふつう”の人々で、福祉の専門職ではありません。そして、「貧困問題にかかわろう」という高い志を持っていなくても参加できるのも強みです。理屈ではなく、肌感覚で何とかしないといけないと感じ取って行動しているのかもしれません。今はこの強みを使って広げていく時期だと認識しています。そのため、政策に関しては現状、子ども食堂の良さや強みを活かすという点から考えていけばいいのではないでしょうか。

唐木●現場にとってどんな支援が望ましいか。確かに子ども食堂について、行政と現場が一緒に考える時期に来ていると思います。


暮らしに不可欠な情報は
まだまだ整っていない


湯浅●むすびえでは各小学校区にある子ども食堂をプロットした「子ども食堂MAP」を作成していますが、現在自治体と連携して、子ども食堂を含めた子育て系や高齢者系、障害系などの居場所をすべて地図にプロットした「地域の居場所総覧」をつくろうと呼びかけています。自宅周辺にどんな居場所があるのかをプロットした地図はほとんどありません。暮らしにエッセンシャルな情報はまだまだ整っていないのです。

柴田●「地域の居場所総覧」ができれば、高齢者はもちろん、子育て世代の支援にもつながると思います。現在、名称や所管は違いますが、地域ではさまざまな通いの場ができており、多世代化も進んでいます。保健師や介護関係者、障害関係者、社会福祉協議会などが中学校区や小学校区で横串を刺した活動を展開すれば、見守り機能も強化されるはずです。行政がまとまることができれば、地域にも良い影響があると思います。

湯浅●肌感覚ですが、地方のほうが進んでいる気がします。高齢者と引きこもりなど明確な線引きをしてしまうと、それぞれ数が少なくて手の打ちようがなくなるうえ、地域がこぢんまりとしているほうが生活者として見やすいのかもしれません。とはいえ、都市部でも小学校区まで落とし込めば同じでしょう。自治体の意識によって成否は左右されると思います。


つながりづくりに向けて
黄信号を受け入れる場は重要


野﨑●先ほどのインタビューで「赤信号」「黄信号」の例を出されていました。湯浅さんは長年貧困問題に取り組んでこられましたが、そこから子ども食堂の支援に力を入れるようになったのはなぜですか。

湯浅●90年代から貧困問題に取り組んできましたが、当初は「日本には貧困問題などない」と思われていたため、極端な赤信号でなければメディアも取り上げてくれませんでした。そこで、誰もが共感を呼ぶ深刻な子どもたちを取り上げていった結果、一般の人は「貧困問題=赤信号」と捉えるようになり、黄信号の貧困は見えにくくなってしまったのです。何とかしないといけないと考えていたところ、子ども食堂は見事に黄信号対応を行っており、自分がコミットすべき場所だと考えました。私の反省点ではありますが、時代の流れとして必然だったとも思っています。

野﨑●今回、在宅勤務が増えるなかで、家族の「普段気にならないこと」が気になったり、関係がうまくいかなくなったりすることがありました。それまで「青信号」であっても、環境が変われば簡単に「黄信号」「赤信号」になってしまう可能性があると実感しました。一方、行政は虐待の通報など一定のラインを超えないとなかなか動けません。子ども食堂のような場の重要性を実感しました。

湯浅●そのとおり。子ども食堂に対して、「専門的支援ができない」と批判するのは間違いで、専門的支援は行政の責任のもとで行えばいい。それぞれが役割分担して機能を発揮できるようにするためにも、つながりづくりが重要であり、その点についても第二次補正予算の「支援対象児童等見守り強化事業」「新しいつながり事業」には期待しています。

野﨑●さまざまな環境の変化があったとしても、何らかの身近なつながりや専門的支援につながれば、深刻化を避けられる場合も多いと思います。さまざまなつながりが存在し重なり合っていることは、社会のセーフティネットとして重要です。多くの人が世代などを超えてつながる場としての子ども食堂の重要性を改めて実感しました。本日はありがとうございました。

※座談会は2020年9月11日に実施。肩書きは当時のものを掲載


広報誌『厚生労働』2020年10月号
発行・発売:(株)日本医療企画
 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年10月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省