特集

採用をアップデートする
就職氷河期世代を活かせ!!

 バブル崩壊後の厳しい経済状況のなか、未就職や不安定な働き方を余儀なくされてきた就職氷河期世代。政府は「就職氷河期世代支援プログラム」を通じて、その支援に乗り出す一方で、「中途採用は経験者」との認識を持っている企業が多いのも事実です。他方、少子高齢・人口減少時代を迎えて、人材不足で悩んでいる企業も少なくありません。そこで本特集では、就職氷河期世代支援プログラムはもとより、就職氷河期世代の就労支援や企業の支援の現状・課題を紹介します。


 バブル経済崩壊後の不況期(概ね1993年~2004年)に学校卒業期を迎えた世代のなかには、当時の不況と新卒一括採用スタイルの影響を受けて、その後のキャリアをうまく描けないまま、就労面で苦労してきた人が少なくありません。この世代における不本意非正規雇用の割合(2018年)は14.1%で、全体(12.8%)よりも高いのはその証左の一つです。

 こうした状況を踏まえて、厚生労働省では2006年以降、フリーター・ニート等を対象とした再チャレンジ施策に取り組んできました。各種施策に加えて経済環境も追い風となり、就職氷河期世代の就業状況は大きく改善し、2008年に88万人いたフリーター等の数は、2018年に52万人と、約36万人も減少しています。一方で、不安定な就労を続けざるを得ない人たちも一定数存在します。

 「自己責任ではないか」との声もありますが、バブル崩壊後の不景気を背景に、学卒時に不安定な就労や無業になったこと、たとえ就職しても本来の希望業種・企業ではなかったことにより早期に離転職をした結果、能力の開発機会が少なく、企業に評価される職務経歴も積めていないケースが少なくありません。社会人デビュー時の躓きが、今も尾を引いているのです。さらに、加齢(特に35歳以降)により、企業側の人事・採用慣行等から安定した職業に転職する機会が制約されやすく、不安定な就労状態ゆえ収入が低く、将来にわたる生活基盤やセーフティネットが脆弱だとの指摘もあります。

 実際、「就職氷河期世代は、その就職期がバブル崩壊後の厳しい経済状況にあったがため、個人の意思に関係なく、未就職や不安定な就労等を余儀なくされ、引き続きその影響を受けている方たちであり、その活躍に向けて支援する必要があります」というのが、国としての基本的な考え方です。そして、これを受けて、政府は2019年度の骨太の方針において、就職氷河期世代を対象とした、3年間の集中支援プログラムを策定しました。厚生労働省はこれに沿う形で、「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」の各種施策を、今年度から展開しています。
就職氷河期世代の就労の問題は、決して「自己責任」の一言で片付けることはできないのです。




Part3 制度紹介

活躍を後押しする
就職氷河期世代活躍支援プラン

 政府は昨夏、就職氷河期世代(以下、氷河期世代)を取り巻く現状を踏まえ、活躍の場を広げるための3年間の集中就職支援プログラムを取りまとめました。これに沿う流れで、厚生労働省は「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」に基づいた施策を、2020年度から展開しています。その方向性や内容を、厚生労働省人材開発統括官若年者・キャリア形成支援担当参事官室の大坪祥一室長補佐に解説してもらいます。


厚生労働省人材開発統括官
若年者・キャリア形成支援担当参事官室
室長補佐
大坪祥一




支援対象を3類型に分け
集中した支援パッケージを展開


 「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」の目的は、氷河期世代の就職・正社員化および多様な社会参加を実現することです。▽地域ごとのプラットフォームの形成・活用、▽氷河期世代の一人ひとりにつながる積極的な広報、▽対象者の個別の状況に応じたきめ細やかな各種事業の展開--の3つを基本的な方針に掲げ、具体的な施策に落とし込んでいます。主な支援対象は▽不安定な就労状態にある方、▽就業を希望しながら長期にわたり無業の状態にある方、▽社会参加に向けたより丁寧な支援を必要とする方(ひきこもりの方など)--の3類型です。2040年には高齢期に達する氷河期世代を支援するには、今を逃すわけにいきません。そこで、ここでは同プランの主な取り組みについて解説します。

 まず、都道府県・市町村レベルのプラットフォームによる支援を推進していきます。これは、都道府県労働局(国)と都道府県の労働・保健福祉部局(自治体)が関連団体と協力しながら地域の実情に合わせた支援のプラットフォームをつくり、実際に対象者と接する市町村の関係者が集まる市町村プラットフォームと連携しながら、進めていくことが基本です。全体概要は図1のようになります。

 この体制で3類型の対象者にアプローチし、長期にわたり無業の状態にある方やひきこもり状態の方には中間的就労や社会参加の場等を提供したり、就職活動をしている方たちにはハローワークや就労支援機関等を通じて、地域企業での正規雇用を促したりしていきます。福祉と就労をはじめ各界が一体となったこの支援体制は、愛知県、大阪府、福岡県、熊本県で既にモデル事業として実施しており、今年度以降は全国展開を進めています。


ハローワークに専門窓口を
設置してチーム支援を実施


 氷河期世代の不安定就労者に対する支援としては、「ハローワークにおける専門担当者によるチーム支援」も実施しています。これは簡単に言うと、キャリアコンサルタントなどの専門担当者が就職支援チームを組み、個別支援計画を作成し、求職者一人ひとりの強みの発見や職務経歴書の作成指導、面接訓練、適性や能力等を踏まえた希望する業種の求人開拓など、就職への意欲喚起から職場定着までの伴走型支援を行う仕組みです(図2)。なお、希望する仕事に就くためにスキルが必要な場合、職業訓練のあっせんなども実施します。

 不安定就労者への就職支援に向けて氷河期世代の不安定就労者の多い全国16の都道府県労働局では、民間事業者のノウハウや創意工夫を活用する民間委託の事業を実施します。取り組み内容は次の通りです。

①不安定就労者に2カ月程度(最大3カ月)の教育訓練等のスキルアップにつながる取り組みや職場実習等を実施
②訓練等を経て安定就職した後も、定着支援を実施


短期間で資格や技能を習得
正社員就職・転換に効果


 1~3カ月ほどの訓練期間で、安定就労につながる資格等の習得を支援する「短期間資格等習得コース事業」も創設します。これは業界団体等に委託して、訓練と職場体験等を組み合わせ、正社員就職を支援する出口一体型の訓練です(図3)。委託先は11団体で、求職中の非正規雇用の方が働きながら受講しやすいよう夜間、土日の訓練やeラーニングなども提供します。

 資格・技能例としては、IT系エンジニア、小型クレーン、フォークリフト、安全講習、自動車運転免許(大型一種、大型二種、中型、準中型)、などが予定されています。これらを習得し、業界団体傘下の求人事業所で半日から3日間程度の職場見学・職場体験や、ハローワーク等と連携した就職支援を通じ、正社員就職へとつなげることが目的です。

 有資格者等は業界でも即戦力となり得る存在です。これまで経験のない分野であっても、訓練により資格・技能を習得し、職場見学・職場体験により業界や仕事を理解することで、正社員就職をめざすことができます。

 なお、同コースでは業界団体傘下の事業所にも働きかけ、この事業をきっかけとして、非正規雇用の方の正社員への転換を図ります。


氷河期世代の正社員雇用で
一人当たり最大60万円を支給


 正社員経験のない方や経験が少ない方、あるいは非正規雇用の方の正社員就職支援策として、「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」も創設されました。

 支給要件は図4のとおりで、これを満たすと、対象労働者一人あたり、最大で60万円が支給されます。こうした助成金を呼び水に、氷河期世代の不安定就労者の正社員雇用に取り組んでいただくのが狙いです。


長期無業の方やひきこもりの方への
職業的自立支援も強化


 同プランでは、40歳未満の若年無業者等の職業的自立支援の拠点である「地域若者サポートステーション(サポステ)」の支援対象を40歳代まで拡大します。ここには生活困窮者自立支援窓口や福祉事務所、ひきこもり地域支援センターからの案内だけではなく、これら福祉機関等へのアウトリーチ型支援(出張相談)を実施するための相談員も配置します。サポステの取り組みを強化し、長期にわたり無業の状態にある方をハローワーク・訓練実施機関につなぎ、ひいては多様な形態での就業を実現するとともに、将来的には正社員への移行、その他のキャリアアップをめざします。ステップを踏みながら正社員として就業できるように支援していくわけです。

 これらを実践するためには、都道府県や指定都市に設置されているひきこもり地域支援センター(県域)及び福祉事務所設置自治体の自立相談支援機関(市町村域)といった相談窓口の連携強化が必須になります。そこで今年度からは専門性の高い相談支援体制を構築するため、医療、法律、心理、福祉、就労支援等の多職種から構成されるチームの、ひきこもり地域支援センターへの設置を促進します。市町村の自立相談支援機関に対する専門的なアドバイスや、当該支援機関と連携して、当事者への直接支援も実施します。市町村においても、地域のひきこもり状態にある中高年の方に対して、適した居場所やボランティア活動の機会を提供するなど、ひきこもり支援を進めていきます。

 また、ひきこもりに関する専門知識への理解を深め、専門性を高めるため、生活困窮者自立支援制度人材養成研修で、ひきこもり状態にある方やその家族への支援に関する研修を実施し、ひきこもり支援に携わる人材の養成研修等も展開していきます。


アウトリーチの充実・強化で
本人や家族に情報を提供


 もちろん各種施策は、支援が必要な人の手元にその情報が的確に届かなければ意味をなしません。そこで、ご本人やご家族、関係者に対して、安定就職・社会参加の道があることを伝えるため、インターネット広告やSNS広告などさまざまなメディアを活用し、専用のHPやハローワークから各施策につながる流れを構築していきます。氷河期世代に対する国の各種支援策については、関係省庁・経済団体との連携、地域ごとのプラットフォームの活用など、あらゆるルートを通じて展開していきます。

 厚生労働省としては、これまでさまざまな課題に直面されてきた氷河期世代の方々への支援が、今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、後戻りすることのないように、関係者とともに、しっかり取り組んでいきたいと考えています。



 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年8月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省