TOPICS:改正年金法

より多くの人が より長く 多様な形で 働く
社会への変化に対応した年金制度改革


 老後の生活設計において重要な役割を担う公的年金制度は、5年に1度実施される財政検証の結果を踏まえて、社会・経済の変化を制度に反映する見直しが行われています。今年5月に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律(以下、改正年金法)」の主なポイントを、年金局の古川弘剛年金広報企画室長に聞きました。




古川弘剛さん
厚生労働省 年金局 年金広報企画室長


●被用者にふさわしい保障短時間労働者が厚生年金に加入

――今回の改正年金法の主なポイントは何ですか?

 今回の改革の趣旨は「長期化する高齢期の経済基盤を支えるための年金制度の構築」であり、具体的には「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」と「高齢期における就労と年金」がポイントです。


――「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」とはどのようなことですか?

 簡単に言うと、厚生年金の適用を短時間労働者の方々に拡大することです。現状、パート労働者など週の所定労働時間が20~30時間の短時間労働者の場合、従業員501人以上の企業に勤めていれば、厚生年金の適用対象となりますが、従業員500人以下の企業では対象になりません。そのため、中小企業で勤務する短時間労働者の多くは、厚生年金ではなく、国民年金に加入しています。しかしながら、制度導入時から企業規模で厚生年金の適用を区分することに対して疑義がありました。そこで、改正年金法では、被用者にふさわしい保障を実現するため、企業規模要件を見直しました。
 具体的には、2022年10月には従業員(適用拡大以前の厚生年金被保険者の人数)が「101人以上」、2024年10月には「51人以上」まで、段階的に引き下げます。これにより、全国の短時間労働者65万人が新たに厚生年金の適用対象になります。
 厚生年金保険料の負担は労使折半なので、適用拡大により、保険料に係る事業主負担が増加する分、中小企業の経営に影響を及ぼします。厚生労働省においては、経済産業省と連携し、「中小企業の生産性向上等に係る支援策」として、さまざまな補助金や助成金の制度を用意しています。制度施行までにこれらを活用しながら、保険料を負担できる経営体力をつけていただきたいと考えています。


●就労と年金受給の選択肢拡大

――「高齢期における就労と年金」については、どのような改正がなされるのですか?

 まずは、働きながら年金を受け取る仕組みの拡充です。年金受給者が60歳以降、就労し給与を受け取っていると、収入額に応じて年金支給が一部停止する「在職老齢年金」という制度があります。現状、60~64歳の在職老齢年金制度(低在老)の基準額は月28万円ですが、2022年4月からは基準額を、65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)の基準額である47万円に合わせて引き上げます。低在老は高齢者の就労意欲に与える影響が一定程度確認されている点、女性の就労を支援する点などを考慮して、基準額を見直しました。
 一方、高在老は、基準額を据え置きます。検討過程において、そもそも在職老齢年金制度は、保険料に応じて支給する年金制度における例外的な仕組みであるという指摘、高在老の単純な見直しは、高所得の高齢者を優遇するものであるという指摘などがありました。今後の高齢期の雇用環境の変化を踏まえると、在職老齢年金制度の在り方の検討は肝要であり、この課題への対応は、年金制度だけではなく税制や各種社会保障制度における保険料負担などへの対応とも併せて、引き続き検討します。
 また、「在職定時改定」を導入します。現状、65歳以上の年金受給者が就労すると、給与の一部を保険料として負担することになりますが、この保険料が年金支給額に反映されるのは退職時(資格喪失時)以降でした。働きながら年金を受給する高齢期の経済基盤の充実を目的として、2022年4月以降、65歳以上の年金受給者について、在職中でも年金額の改定を毎年1回10月に行います。仮に65歳の方が標準報酬月額20万円で1年間就労すると、66歳時点での年金受給額が年額で1万3,000円程度、増えることになります。


●受給開始時期の選択肢拡大私的年金の制度変更で多様なニーズに応える

――今回の年金改革で老後の生活設計がしやすくなると聞きました。

 そうなると考えています。1つは、年金の受給開始時期の選択肢の拡大です。現在は60歳から70歳の間で自由に選べますが、2022年4月からは、1952年4月2日以降に生まれた方を対象として、75歳までその選択肢を拡大します。65歳より後に受給を開始する場合(繰下げ受給)の増額率は1月当たり0.7%で、仮に70歳に繰り下げて受給を開始する場合は42%、75歳の場合は84%、それ以降の年金額が増加することになります。
 もう1つは、私的年金制度の見直しです。2022年4月以降、公的年金と同様に、企業型確定拠出年金(企業型DC)・個人型確定拠出年金(iDeCo)ともに、受給開始時期の選択肢を現行の60~70歳から75歳の間までに拡大します。
 また、同年5月からは、加入可能年齢を企業型DCは65歳から70歳まで、iDeCoは60歳から65歳までに引き上げます。加えて、確定給付企業年金(DB)は、現行、支給開始時期を60~65歳の間で労使合意に基づき設定できますが、この範囲を70歳までに拡大します。
 このように、公的・私的年金の受給開始時期などが柔軟になることで、老後の生活設計の選択肢がより一層広がることを期待しています。たとえば、「64歳までは厚生年金とiDeCoに加入、65歳以降は就労を短時間にしつつ企業年金やiDeCoを含む貯蓄を活用し、厚生年金の受給を繰り下げる。72歳で退職し、増額された厚生年金を中心とした生活設計をする」など、ライフプランに応じて、より柔軟に両年金制度を組み合わせることも可能になります。
 まずは、今回の改正年金法の趣旨・内容を周知し、それが社会に正確に浸透するよう、戦略的に年金広報を進めていきたいと思います。


 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年7月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省