特集

おいしい水道水を守る

 水は、私たちの生活に欠かせないもの。日本では、蛇口をひねればいつでも「飲める水」が出てきます。この水の安全と安定供給を守るためには、国民一人ひとりが水についての現状と問題点を知り、水を守る一員だということを理解しておく必要があります。

問題:人口減少で収入減少
問題:水道管の老朽化・耐震化
問題:知識を持った人材の不足


世界的に見ても高品質な日本の水道水

 蛇口から安全な水が出る国は、世界的に見ても少なく、十数カ国といわれています。皆さんが思っているよりも少ないのではないでしょうか。
 日本は森林が多く、全国各地で定期的に雨が降り、その雨が地下水として蓄えられます。日本の水は、地形と地層に含まれる岩石の影響で、飲みやすい軟水がほとんどです。水道水として地下水から水を引いている市町村も多くあります。個人的には、熊本市の水(地下水)は特においしいと思いました。自分の住んでいる地域の水の水源を調べてみてもおもしろいですよ。
 また、硬水は、洗剤が溶けにくいという特徴があります。そのため海外で硬水の地域の洗濯機には、洗剤を溶かすための機能がついていることも。当たり前に飲めて、洗濯の際も問題がないのが、日本の水なのです。
 人は1日1.5~2リットルの水分を摂取するように推奨されています。これは水で補給することが一番で、日本では水道から質の良い水が得られます。コーヒーやジュース、お茶では糖分が多かったり利尿作用があるため、おすすめできません。
 意外と知られていない日本の水の価値を、国民一人ひとりがよく理解し、いつまでも守っていきたいですね。
 (日本アクアソムリエ協会認定 アクアソムリエマイスター鶴田雅人さん)




課題に合わせて法改正
水道事業の支え隊


 これまで水道事業を巡るさまざまな施策や法律があり、現状や課題を踏まえてその見直しや改正を重ねてきました。昨年10月施行の改正水道法のポイントについて、厚生労働省の担当者に聞きました。

厚生労働省 医薬・生活衛生局 水道課
水島大輝さん


「普及率を高める」から「安定・安心・強靭化」へ

──水道法改正の背景を教えてください。

水島●高い普及率を達成している日本の水道は、現在、「持続(安定供給)」「安全」「強靱」の3つの実現を理想に掲げて取り組んでいます。
 この取り組みを進めるにあたって、社会的情勢の変化等により顕在化してきている課題があります。


──課題とは何でしょうか?

水島●大きく4つの課題があります。
 一つ目は、これからの人口減少で水道需要や得られる収益が減少するということです。これまで水道事業は人口や需要の増加に伴い拡大してきましたが、日本は既に総人口が減少傾向にあります。水道事業者の多くが小規模で経営基盤が脆弱とされていますが、今後、需要と収益の減少が予想される中でどのように事業を継続していくのかという課題です。
 二つ目は、高度経済成長期ごろに作られた多くの水道管等の施設が老朽化してきていることです。昨今、大雨や台風等の災害が激甚化しており、施設の更新が一層求められています。また、耐震性についても適合している施設数は多くないのが実情です。以前からその必要性は認識され続けてはいるものの、今の水道事業者等の財務状況や体制ではすぐに全てを取り替えることが難しいため、計画的かつ効率的に更新を進める必要があります。
 三つ目は、これまで水道事業を担ってきた技術的・経営的ノウハウを持つ職員の多くが高齢化しているという人材の課題です。水道事業に携わる職員の全体数が長期的に減少し続けていることも考慮すると、今後、経験豊富な職員が引退されることで、人手不足・技術不足といった悩みを持つ事業者が増えることが懸念されます。
 最後は、水道だけではなく他のインフラも同様かもしれませんが、これまでに述べた課題は地域や事業ごとに状況が異なるため、全国一律に現状維持を目指すのではなく、地域や事業別に持続可能な水道の将来像を考えていく必要があるということです。
こうした課題を対応していくために水道法改正を行ったのです。


──改正法のポイントは?

水島●図表の1~5に示していることが今回の改正の主なポイントです。例えば、改正法で、都道府県による水道事業の基盤強化計画(広域計画)の策定や新しい官民連携手法を整備することができました。これまでも広域連携や官民連携の仕組みはありましたが、改正法では、より様々な形でステークホルダーが水道事業に関わることが可能となり、水道のあり方の選択肢が増えました。


──今後の水道事業の方向性については、どのように考えていますか。

水島●水道法改正時では全国的な課題とその対応方針中心に議論・検討してきましたが、施行段階となる今後は、地域ごとに個別の状況をよく踏まえつつ、それぞれに適した広域連携や官民連携の具体例を作っていくことが重要です。また、そうして生まれた先進的な優良事例がほかの地域の参考になっていくことにも期待しており、そのための広報・周知も重要です。
 これまでの水道は国や自治体が法律や方針を作り、事業者は事業の拡大や維持管理を目的として進めてきました。これからは、国や自治体だけではなく企業や住民も一緒になって、それぞれの地域に最適で持続可能な水道の形を考えていかなければいけない段階に来ているのだ、と思っていただければ幸いです。




 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年7月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省