特集

法改正に合わせて進めよう
女性活躍とハラスメント防止


 今年6月から「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が施行されます(一部を除く)。本特集では、改正の内容について事例を通して解説します。


●社員の離職を招かないように

 年々、女性の働き手は増加し、昨年度は総労働力人口の約45%を占めるほどになっています。
 しかし、国際的にみると、出産・子育て期に労働力率が下がる、いわゆる「M字カーブ」の底や女性管理職の割合はいまだに低く、女性の力を十分に発揮できているとは言えません。

 また、職場におけるハラスメント対策という課題もあります。2018年度には、全国の都道府県労働局の総合労働相談コーナーに寄せられたいじめ・嫌がらせに関する相談は8万件以上にものぼりました。

 これらの相談のすべてがハラスメントに当たるわけではありませんが、放置をしていると事態がますます悪化し、社員の離職を招くことにもなります。

 今回の法改正をきっかけに、各企業がハラスメント防止などの課題にきちんと向き合い、的確に対応していくことで、女性をはじめとした多様な働き手がより活躍できる職場づくりにつながるのです。


<インタビュー>
法改正のポイント
女性活躍とハラスメント防止対策を進める理由


 国は今、法改正により「女性活躍」と「ハラスメント防止対策」を進めています。その背景や目的、具体的な内容について、厚生労働省の担当者に聞きました。
(雇用環境・均等局雇用機会均等課  課長補佐/丸茂友里子さん)



●就業環境の整備へ向け一括して法改正

 今回、法改正が行われた背景には、現在の日本の女性の職場における活躍の状況と、ハラスメントの相談件数の増加などがあります。

 女性の労働者数は年々増加しており、2019年には総労働力人口に占める女性の割合は44.5%にまで上りました。

 その一方で、年齢階級別労働力率が出産・子育て期に下がるいわゆる「M字カーブ」の問題があったり、平均勤続年数や管理職の割合が男性に比べて低かったりと、女性の活躍は国際的に見るとまだ遅れているのが現状です。

 またハラスメントについては、職場での「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が年々増加し、2018年度は8万件を超えました。いじめ・嫌がらせなどによる精神障害の労災認定件数も増えており、パワーハラスメント(パワハラ)は企業において大きな問題になっています。

 既に事業主に防止措置義務が課されているセクシュアルハラスメント(セクハラ)も、相談件数が依然として多く、年間約7,000件も寄せられています。パワハラ・セクハラの防止対策強化は喫緊の課題と言えます。

 こうしたなかで、急速な高齢化による労働力人口の減少問題を抱える日本が、グローバル化などの社会経済情勢の変化に対応し、持続的な成長を実現していくには「人材の多様性の確保」が不可欠です。

 そのためには、日本の最大の潜在力である女性をはじめとした多様な労働者がそれぞれの能力を十分に発揮して活躍できる就業環境の整備が重要であることから、女性活躍推進法や男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法などを一括して改正しました。


●取り組みの裾野を広げ「見える化」を促進

 女性活躍推進法の改正は、前回の2015年の改正から3年後の見直しの時期を迎え、さらなる推進に向けて対策の強化を図ることが目的でした。

 改正のポイントは3つあります。

 1つ目は、女性活躍の取り組みの裾野を広げるため、行動計画策定・情報公表の義務の対象事業主の範囲を常用労働者数301人以上から101人以上までに拡大したこと。

 2つ目は、女性活躍の状況の見える化を促進するため、301人以上の事業主について情報公表の内容を強化したこと。

 3つ目は、取り組みが優良な企業の認定制度の「えるぼし」よりも水準の高い「プラチナえるぼし」認定を設け、行動計画策定の免除や公共調達での上乗せ加点評価などのメリットを付与したことです。

 1つ目の行動計画は、自社の女性管理職比率や労働者の各月ごとの平均残業時間数などの4つの基礎項目を把握し、女性活躍に関する課題を分析したうえで、課題に応じた取り組みと数値目標を盛り込んで策定します。策定後は、都道府県労働局への届出と外部への公表、労働者への周知を図ってもらいます。

 2つ目の情報公表の内容強化については、これまで一定項目のなかから1項目を公表すればよしとしていたのを、職業生活に関する機会の提供(=働きがい)と、職業生活と家庭生活の両立(=働きやすさ)の各項目から1つ以上、計2つ以上の項目を公表することを義務づけました。

 女性が活躍し続けていくためには、「働きがい」と「働きやすさ」を両輪とするバランスのとれた取り組みを推進することが不可欠だからです。

 女性活躍を実現するためには、女性の働き方だけに焦点を当てるのではなく、長時間労働の是正など企業全体の働き方改革を進めることが重要ですので、労働者一人ひとりが自分ごととして捉えられるような形で、男性も女性も働きやすい、働きがいのある職場づくりをめざしてほしいと思います。


●相談体制の確立などパワハラ防止措置を義務づける

 労働施策総合推進法などの改正のポイントは、職場におけるパワハラについても、セクハラや妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメントと同様に、事業主に対し相談体制の整備などの防止措置を講じることを義務づけたことです。併せてセクハラなどの防止対策も強化しました。

 パワハラは相手の人格や尊厳を傷つける、あってはならないものですが、業務上必要かつ相当な指導との線引きが難しい面もあります。そうした点に留意しながら、パワハラのない職場づくりと円滑な業務運営・人材育成の両立を図っていくことが重要です。

 パワハラ防止のための指針では、パワハラの定義の考え方や、事業主が講ずべき予防から再発防止までの措置内容を具体的に示しています。厚生労働省のホームページでリーフレットやパンプレットも掲載していますので確認してみてください。


<取り組みを進めるうえでのポイント>

 女性活躍に関する取り組みでは、単に計画をつくるだけでなく、企業のトップが積極的に関与し、PDCAをきちんと回すことが重要です。パワハラ防止措置義務に関する指針では、就活生やフリーランスなど自社の労働者以外への言動や取引先など社外の人からの言動についても望ましい取り組みを記載していますので、積極的な取り組みをお願いします。




 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年6月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省