特別企画

知ってほしい、相談してほしい
薬剤師活用術
~あなたのまちのアンサングシンデレラ~



 薬剤師って、どんな仕事をしているか知っていますか?
 薬についての専門家? そのとおりですが、実は、薬だけではなく、健康や栄養、介護に関することも気軽に相談できる頼もしい存在なのです。身近にいるからこそ、薬剤師の機能と役割をもっと知ってほしい、大いに活用してほしい。特別企画では、さまざまな場所で働く薬剤師にスポットを当てます。


 (C)フジテレビ


●厚生労働省医薬情報室長がさまざまな業務内容を説明します

薬剤師の仕事は
薬を調剤するだけじゃない

厚生労働省 医薬・生活衛生局総務課
薬事企画官/医薬情報室長
安川孝志(やすかわ たかし)さん




多岐にわたる業務
すべては患者のため

 処方箋に従って調剤し、患者さんに渡す。これが薬剤師の仕事だと思っている方は多いのではないでしょうか。しかし実際は、患者さんの目には触れないところで、多岐にわたる業務を行っているのです。
 服薬方法、薬の効果や副作用の説明などの服薬指導はもちろん、処方箋を入念にチェックし、必要に応じて医師に相談したり提案したりすることもあります。その後も、副作用はないか、指示どおり服薬しているかなど、患者さんに目を配ります。
 薬に関する専門職として、安心して服薬してもらうことで薬による治療効果を高めるという職能を発揮するのが、薬剤師の本来の役割です。患者さんのために何ができるかを常に念頭に置いて仕事に取り組むことが求められます。


薬学知識を臨床現場で
役立てる能力が必要

 薬剤師として仕事をするには、大学の薬学部で学び国家試験に合格しなければなりません。2006年に薬学部は6年制になり、カリキュラムは大きく変わりました。
 薬に関する知識を習得するだけでなく、その知識を薬局や病院などの臨床現場でどう役立てていくかに主眼が置かれるようになったのです。それに伴い国家試験の問題も、この症状の患者さんにはどのような薬が適切か、この処方において注意しなければならないことは何かなど、薬剤師としての資質が問われる内容になっています。
 資格取得はゴールではなく、薬剤師としてのスタートライン。日々勉強し、現場で患者さんと向き合い経験を積みながら職能を高めていくことが求められます。


薬のことだけでなく
健康などに関する相談も

 薬剤師の勤務先は、次のページに示したようにさまざまです。薬局やドラッグストア、病院などで働く薬剤師は、単に処方箋に従って薬を調剤したり、市販薬を販売したりするだけでなく、患者さんの疑問や相談にも応える役割を担っています。
 たとえば、薬の量が多いから少なくしてほしい、薬を服用したら体調が悪くなったなど薬のことだけでなく、健康や栄養、介護などに関することも相談できる身近な存在なのです。薬剤師は薬を渡すだけと思われがちで、薬局の場合は処方箋がないと入りにくい印象がありますが、遠慮せずに声をかけてください。
 薬を安全に服用するには、患者さんが薬剤師に対して自身の情報を提供することも大切です。複数の病院を受診している場合は同じ成分の薬を処方されていることがありますし、処方薬の作用を変えてしまう市販の健康食品やサプリメントを飲んでいる場合もあるからです。なんでも相談できる「かかりつけ薬剤師」を見つけることをお勧めします。
 昨年の制度改正により、今後、(1)薬剤師には薬を渡した後も、服用期間中に患者の服薬状況の確認などを行うことを求め、(2)医療機関と連携して、入退院時の対応や在宅訪問を行う薬局、がんなどの専門的な薬学管理を行う薬局を認定する制度を設けます。薬剤師・薬局の役割をさらに強化し、患者を支える存在になっていくことを求めています。


●薬剤師の勤務先は、こんなに多様

◎医療機関(病院・診療所)
 基本的に薬局と同様の業務ですが、病院での主な対象は入院中の患者です。注射剤や点滴用の輸液も取り扱うほか、医師や看護師などとチームになり、薬の専門職としての職能を発揮します。ベッドサイドまで足を運び、服薬後の様子に目を配り、治療効果や安全性の確保を考えて業務に当たります。

◎薬局
 処方箋に従って薬を調剤し患者に渡すのは、仕事のごく一部。患者に薬の効能や副作用などを説明・指導するほか、処方箋をチェックし、必要に応じて医師に相談・提案するなど、患者の安全を確保する役割を担います。在宅療養中の患者への服薬指導など、訪問薬剤師としての業務も増えています。市販薬の販売や健康相談にも応じます。

◎製薬会社
 研究者として薬の臨床データ収集や新薬の開発・製造に携わる薬剤師もいれば、医薬情報担当者(MR)として医療機関・薬局などに自社の薬の情報提供を行う薬剤師もいます。難病やがんなどの治療に有効な新薬の開発への期待が高まる今、薬の研究は医学の未来を左右する重要な仕事です。

◎ドラッグストア(店舗販売業)
 さまざまな市販薬を販売しており、薬剤師がいないと販売できない市販薬もあるため、幅広く市販薬を扱うには薬剤師は不可欠な存在です。来店する利用者の相談や質問に答えながら、症状に合う市販薬を選択・説明し販売するのが仕事です。健康相談にも応じます。

 上記の4つのほか、国や地方自治体などの行政機関、薬の卸売販売業などの企業、
薬学教育・研究にかかわる大学など、さまざまな場所で仕事をしています。




●厚労省勤務の薬系技官(薬剤師)に聞く!
国家試験運営を通して薬剤師の質向上へ
三山 由芙子(みやま ゆうこ)さん




 6年制の薬学教育で薬局と病院での実務実習を体験したことで、臨床現場で患者と直接向き合う仕事にも魅力を感じました。でも、勉強を重ねるに従い、自分の目の前にいる患者だけでなく、多くの方々の役に立つような大きな影響力を発揮する仕事がしたいという気持ちが高まってきました。そこで、医薬品の承認審査や安全対策のほか、薬剤師にかかわる制度設計なども行う厚生労働省に入省しました。
 主に薬剤師の国家試験の運営にかかわる業務に携わっています。薬学の知識だけでなく、臨床で求められる能力が問われる問題の割合が増加している今、薬剤師として高い資質を持っている人材を現場に送り出すことに貢献したいと考えています。また、かかりつけ薬剤師・薬局についての国民への普及啓発や、薬剤師の生涯研修などを進める取り組みにも携わっています。


対人業務の本質を踏まえICTの活用を考える
中 雄一郎(なか ゆういちろう)さん




 半年間、薬剤師として大学に勤務していたのですが、携わっていたのは治験という限られたジャンルでした。その点、行政機関は長いスパンでトータルに薬にかかわることができます。そこに大きな魅力を感じて、厚生労働省に入省しました。
 現在、取り組んでいるのは、薬剤師によるICT活用に関する業務です。ICTの発展を踏まえて、薬剤師がいかにICTとうまく付き合っていくかは大きな課題となっています。オンラインによって、画面越しに患者さんと対面し服薬指導などを行う。こうした手法が用いられる時代が近づいていますが、あくまで薬剤師は対人業務。患者のニーズに合った対応が求められます。
 今後、ICT導入に関して、行政がどうルールを決め、どう指導していくかが重要だと考えています。

 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年5月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省