特集

安心・安全な職場づくりがカギ
成功する高齢者雇用



 「生きがいがほしい」「生活のため」……。さまざまな理由で「働きたい」と考える高齢者は増えています。一方で、労働災害に占める高齢者の割合も増加しています。高齢者が安心・安全に働ける職場づくりを考えてみましょう。

 高齢者の雇用は、企業側にも高齢者側にもメリットがたくさんあります。企業にとっては人手不足の解消だけではなく、高齢者にはこれまでに培ってきたスキルや経験があるため、若手社員の育成や技能の伝承にも役立ちます。高齢者にとっても、収入を得られるうえ、仕事が生きがいや仲間づくりにもなり、充実した生活につながります。


●高齢者雇用の現状と課題

◎働きたい高齢者は多い
 働けるうちはいつまでも    42%
 (図表1)

 現在働いている高齢者のうち、「働けるうちはいつまでも」働きたいと考えている人は4割以上に上ります。加えて、「70歳くらいまで」は21.9%、「75歳くらいまで」は11.4%という回答から、働きたい高齢者が多いことがわかります。


◎60歳以上の割合は年々増加
 労働者に占める60歳以上の割合  17.2%
 (図表2)

 労働者に占める60歳以上の人の割合は、2002年は9.4%と1割に満たなかったものの、年々増加。2005年に10%を超えて以降も、着実にその割合を増やし、2018年には17.2%と、6分の1を占めるようになりました。


◎60歳以上の労災は多い
 60歳以上       26.1%(4人に1人)
 (図表3)

 2018年は、全産業で12万7,329件の死傷災害が発生しました。そのうち、60歳以上の人が被災したものは3万3,246件で、26.1%に上ります。死傷災害の被災者の4分の1を60歳以上の人が占めており、その防止に努める必要があります。

※労災の例
 ・濡れている床で転倒
 ・高所から墜落
 ・不自然な姿勢が原因で腰痛に
 ・機械の回転部分にはさまれる
 死傷災害では、60歳以上の人が被災する割合(休業4日以上)が過去10年間で8ポイント増加。働く高齢者が増えるとともに、労災も増えています。




●インタビュー
人事制度の整備が肝要
組織変革で高齢者を戦力に

藤波美帆さん
千葉経済大学経済学部准教授
学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構などを経て現職。



 高齢者を戦力化できる組織のあり方について、組織マネジメントを研究する千葉経済大学経済学部准教授の藤波美帆さんに伺いました。

◎給与額の根拠をきちんと説明

 今の会社の多くは、2013年施行の改正高年齢者雇用安定法(会社に、定年以降も働きたい人は65歳まで雇用する義務を課す)に対応するのが精いっぱいです。もしくは、まだ定年を迎える社員が多くないため、高齢者を活用できる仕組みができていないという状況です。しかし、今後、定年後も働き続ける社員の増加を見越して、今から手を打っておくことが大切です。

 高齢者は、仮に定年前よりも給与が減ったとしても、その額と仕事や役割との関係について納得できればモチベーションまでは下がりません。今は、定年後も仕事の内容があまり変わらないのに、「高齢者だから」という理由で一律に給与を下げられてしまうので、モチベーションが下がってしまうのです。

 高齢者に対しては、「転勤がない」「役職に就かない」などの給与の根拠を示すとともに、期待する役割を伝えることが重要です。加えて、60歳以降もパフォーマンスを評価し、賞与や昇給などに反映することで、戦力となってくれます。


◎50代からキャリアを考える

 50代の社員には、2~3年に1回の頻度でキャリアプランを考えてもらいましょう。そのなかには、定年後にどんな働き方をしたいのか、同じ部署で働き続けるのかも含まれています。そして、所属長と話し合ってもらいます。所属長からは、会社が期待する役割を伝えます。こうした話し合いをすることで、今の部署で働き続けるのか、別の部署で違う仕事をしたらよいのかも、明らかになります。

 また、定年後も働き続けている社員が、自分の体験談を定年前の社員に伝えることも有効です。それを社内報に載せてもいいでしょう。定年を迎える社員は定年後に向けた準備ができますし、定年を迎える社員がいる部署も環境を整えていくことができます。

 会社によっては、継続雇用の社員の悩みに対応するサポート要員を用意しているところもあります。

 高齢者雇用を成功させるには、トップが本気で取り組むことが肝心。朝礼やイントラネットなどで社員に思いを伝えることで、人事部も動きやすくなります。継続雇用の場合、会社がそれまで育ててきた人材ですから、上手に使わなければ損です。

 人事制度は会社から社員へのメッセージです。継続雇用は定年後も働いてほしいという要望ですし、仕事や役割ベースでの評価は仕事・役割に基づいて頑張ってほしいという思いの表れです。試行錯誤しながらも、それぞれの会社に合った仕組みをつくっていってほしいですね。


●戦力化を成功させるには


 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年2月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省