特集

特集1
新たなスタートに向けて
就職氷河期世代を応援します


 就職氷河期とは、一般的に雇用環境が厳しい1990年代前半から2000年代前半にかけて就職活動を行った世代を指し、そのなかには希望する就職ができず、現在も不本意ながら不安定な仕事に就いている、無業の状態にある、社会参加に向けて支援を必要とするなど、さまざまな課題に直面している方がいます。

 本特集では、こうした方々が正規雇用やキャリアアップをめざすのに役立つ支援策や窓口を紹介します。


◎「就職氷河期世代支援プログラム」が策定されました

 就職氷河期世代への支援を充実させるため、本年6月に国は「就職氷河期世代支援プログラム」を打ち出しました。関係者で構成されるプラットフォームの形成・活用、就職氷河期世代に向けた広報、就職や資格取得の支援などの事業の展開などが盛り込まれています。






<インタビュー>
まずは、あなたの話を聞かせてください



NPO法人「育て上げ」ネット 理事長/工藤  啓(くどう・けい)さん
1977年、東京都生まれ。米ベルビュー・コミュニティー・カレッジ卒業。2001年、ひきこもり、ニート、フリーター等の就労支援団体「育て上げ」ネットを設立。2004年5月、NPO法人化。金沢工業大学客員教授、内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員などを歴任。

 ひきこもりやニートなどの就労支援を行うNPO法人「育て上げ」ネット理事長の工藤啓さんに、就職氷河期世代の特徴や就労支援のポイントなどを伺いました。


●親の高齢化により経済的な余力がない

――就職氷河期世代が就労において抱えている課題とは何でしょうか?

 就職氷河期世代の親は60代から70代が中心で、仕事を辞めているケースも多く、家庭にバックアップ機能がないことが特徴として挙げられます。経済的に余力がないことが、同世代にとって「早く現状から抜け出して正社員として就職しなければ」といった焦りにつながりがちです。

 就職活動には、お金がかかります。面接に行くには移動コストが発生しますし、地方であれば車を持っているかどうかが影響してきます。
就職氷河期世代に限りませんが、今の就労支援は、支援が必要な人に来てもらう来訪型が中心。ハローワークなどに来ない人のなかには、経済的に来ることができない人もいます。交通費を支給する、支援者が訪問する、オンラインで対応するといった支援が求められているのです。

 就労支援を行ううえでの難しさは、支援を必要としている人がどこにいるのかわからず、なかなか出会えないこと。出会えれば7~8割は成功したと言えます。当法人では、ご家族に来ていただき、ご家族経由で本人に情報を伝えるなどして支援につないでいます。

 支援自体も、今はオンラインでできます。たとえば、当法人では面接の練習や履歴書の書き方の指導、相談などをオンラインやSNSで行っています。

――経済面以外にも、課題はありますか?

 当法人で調査したところ、仕事から3年以上離れると、90%以上が「どうしたらよいかわからない」、4人に3人が「他者が怖くなる」と答えています。就職が決まらないのであれば相談すればいいと思うかもしれませんが、相談するには自分の課題を整理し言語化し、相談相手を選択するという複雑な工程があります。相談すること自体が苦手な人もいますし、相談したら「ダメな人」と思われるのではないかと不安を感じている人もいます。当法人では、「あなたの話を聞かせてください」と伝え、課題を整理できているか、認識できていない課題はないか、といったところからお手伝いをしています。

 また、就労支援というと、本人に合った仕事を紹介することと捉えられがちですが、それだけではありません。相談をしに来る人は、「自信をつけたい」「社会性を身につけたい」「漠然とした不安を解消したい」「コミュニケーションへの苦手意識を改善したい」といった悩みを抱えています。
ある利用者は、面談中に好きなこととしてピアスづくりを挙げました。そこで、ハンドメイド作品を扱う通販サイトで、つくったピアスを販売するのを支援。これが売れたことで自己肯定感が高まり、採用面接を受け、いま販売と就職を両立しています。


●8割は3年後も同じ職場で働いている

――企業にとって、就労に困難を抱える人を採用するメリットは何でしょうか?

 ジョブトレという支援プログラムを利用した若者は、9割が正社員やアルバイトとして就職しています。企業のなかには、「雇っても使えない」「すぐに辞めてしまうだろう」と思っているところもあるでしょう。しかし、その9割のうち82%は、3年後も働き続けており、ご自身のキャリアを積まれています。

 その理由の一つとしては、利用者と企業をつなぐ支援機関の存在があります。それぞれが困りごとを抱えたら、支援機関が間に入り、話を聞いて調整することで定着しやすい環境が生まれるのです。

 求人を出しても人が集まらないと悩んでいる企業には、働きたいと考えている若者がいることをぜひ知ってほしいですね。


 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2019年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省