坂口厚生労働大臣臨時記者会見概要

H13.5.23(水)18:46~19:18 厚生労働記者会見場

広報室

会見の詳細

ハンセン病問題について

大臣:
それでは先程官邸のほうで少しお話をいたしましたが、もう一度最初からいきます。
先日来、このハンセン病訴訟に対します政府の対応決定につきまして、いろいろと話を進めてきたところでございました。特に今朝9時から官房長官、そして法務大臣と私の3人で会談をさせていただきまして、この問題に対する考え方をそれぞれ申し述べたところでございます。そして、そこでは結論を得るにいたらず、「もう少し議論をしましょう。あらゆる場面を想定しながら、もう少し議論をしましょう。」ということになりまして、そうして午後になったわけでございます。その午前9時の会談におきまして、私からはこのハンセン病の皆さん方に対する今日までの経過を振り返ってみて、やはりどうしてもこの皆さん方に心からのお詫びを申し上げなければならない。今日までの医療のあり方、医療の封建的な一面、あるいは閉鎖的な一面もあったし、そして医療行政そのものも考えなければならない点があった。そうした点を考えると、どうしてもこの元患者の皆さん方を控訴するという気持ちにはなれない。私は法律の以前の問題として、この人権問題として患者の皆さん方にお詫びをしなければならないという思いのほうが、先行するということを申し述べたわけでございます。お二人の大臣共によく聞いていただきまして、そうしたことも一つよく念頭に置いて、そしてもういっぺんお話し合いをしましょうということになったわけでございまして。
お昼からご承知のとおり厚生労働委員会がございまして、その委員会の終了後、5時15分からでございましたか、もう一度、官房長官のお部屋に法務大臣と共に集まったわけでございますが、その時に官房長官のほうから、総理のお気持ちも決まったようなので、総理のところにご一緒に行っていただけませんか、こういうお話がございました。その前に総理は4時からでございましたか、元患者の皆さん方、原告団の皆さん方との会談を終えられたところでございました。そこで総理のお部屋に入りました時に、「本当にいろいろとご苦労かけました。この問題につきましては、いろいろな難しい面もありますけれども、控訴せずということにしたい。」こういうお話があった次第でございます。
その内容につきましてはもう一度申し上げますと、まずハンセン病患者、元患者が強いられてきた苦痛と苦難に対し政府として深く反省し、お詫びを申し上げるとともに、多くの苦しみと無念の中で亡くなられた方々に哀悼の思いを捧げます。2番目として、熊本地裁判決については、国政の基本的なあり方に関わるいくつかの重大な法律上の問題点があるので、本判決に対する政府としての立場を明らかにした上で、上記の趣旨に思いをいたし、この際、極めて異例の判断として、政府声明を発表し、本判決に対する控訴は行わないこととする。
3番目としましてハンセン病問題の早期かつ全面的な解決を図るため、以下の措置を講じる。
その処置は、今回の判決の認容額を基準として、訴訟への参加、不参加を問わず全国の患者・元患者全員を対象とした新たな損失補償を立法措置により講じることとし、そのための検討を早急に開始する。
2番目としまして、名誉回復及び福祉増進のために可能な限りの措置を講じる。具体的には患者、元患者から要望のある退所者給与金(年金)の創設、ハンセン病資料館の充実、名誉回復のための啓発事業などの施策の実現について早急に検討を進める。
3番目として患者、元患者の抱えている様々な問題について話し合い、問題の解決を図るための患者、元患者と政府との間の協議の場を設ける。こういう内容のものがまとめられまして、そして、こうした考え方のもとに控訴せずということになった次第でございます。その場に与党三党の代表の皆さん方にもすぐにお越しいただきまして、それで了解を得た上で総理のぶらさがりではありましたけれども会見になった。こういう順序でございました。
判決の主な法律上の問題点として二つの点が挙げられていますが、その一つは、国会議員の責任は国民全体への政治的責任にとどまり、国会議員が個別の国民の権利に関する法的責任を負うのは、故意に憲法に違反し国民の権利を侵害する場合に限られる。これは最高裁の判例でございます。これに対して本判決は、故意が無い国会議員の不作為に対して法的責任を広く認めている。このような判断は、司法がそのチェック機能を超えて国会議員の活動を過度に制約することになり、三権分立の趣旨に反するので、認めることができない。
第2点では民法の規定では、20年以上前の権利は消滅すると定められている。除斥期間これが本判決では結果的に40年の間にわたる損害賠償を認めるものとなっている。この点については患者、元患者の苦しみを十分汲み取って考えなければならないものであるが、そのような結論を認めれば民法の規定に反し、国民の権利義務関係の混乱を生じさせるなど影響があまりにも大きく、法律論としてはこれをゆるがせにすることはできない。
この二つを問題点として明確にしたうえで、しかし、このこともあるが、今までに元患者の皆さん、患者の皆様方に大変な苦痛をかけてきた、そのことを優先をすべきであるという結論に達したわけでございます。だいたい、この経緯はそういうことでございます。

質疑

記者:
最終的には結論として、午前中は個人のお考えと言うことで控訴しない方が良いと申し上げたと思うんですけれども、最終的には厚労省の意見として正式に総理にあげたのでしょうか。それともそれがなくて小泉首相の判断になったんでしょうか
大臣:
厚生労働省としてのいろいろの物事の整理の仕方、今日までの整理の仕方につきましては私からも申しましたし、そしてすでに官房長官、古川官房副長官のところにこちらの考え方も伝えられていたところでございます。しかし、そこは正式に総理のところまであがっていたわけではございません。今日、最終的にそのような問題も含め、とりわけ今朝からの3人の大臣の話し合いを中心にして、総理にそれを官房長官が伝えられ、そのうえでどうするかということをお考えになったものと思います。
記者:
その厚生労働省としてのこの意見というのはどのような感じだったのですか。
大臣:
それは結論、こういうふうにしようという結論ではありません。私が代表して言っておりますその控訴せずの私の考え方、そしてしかし、そうは言いますけれども今までの経緯としてはこういうこともございましたという事務的な経緯、そうしたものがまとめられているかということであります。厚生労働省としての最終的なこう厚生労働省としてこういう結論というところまで至っておりません。
記者:
あの先程原告であろうが無かろうが立法的措置で今後補償すると、立法に向けた作業と言いましょうか目途についてお聞かせいただければ。
大臣:
多分ですね、今国会中に立法化されるものと思います。そしてそれは議員立法で行われるものと思います。かなり日程的に厳しいなかでございますけれども、今国会中に成立をさせて一日も早く和解。患者の皆さん、あるいは元患者の皆さん方にご報告をしたいというのが現在の内閣の気持ちでございますが、しかし、そうは申しますもののそれまでにこの患者の皆様方の代表といろいろとお話し合いをしなければならないというふうに思いますから、それらの問題を踏まえてのことになると思いますので、今国会中に出来ると確約が出来るわけではございません。しかし、気持ちとしては今国会中に是非とも作り上げたいという気持ちを持っているということでございます。
記者:
議員立法ということですけれども、なぜ政府提案としないのかということと、中身についてもし案があれば。
大臣:
まだ案はございません。
記者:
議員立法はこれはどなたがどこでされるという方向なんでしょうか。
大臣:
それは与党三党が中心になりまして、立法化を進めて、そして野党の皆さん方にもご理解をいただくということになるんだろうと思います。
記者:
東京、岡山の裁判の対応はどのように。
大臣:
そこはこれからお話し合いでございますから、今、ここでどういうふうにということは差し控えさせて頂きたいというふうに思いますが。
記者:
しかし、それをですね決めないとですね、矛盾したことになると思うのですが。
大臣:
だからそのへんのところはこれからの話し合いですから、話し合いの中で進めていく以外にありません。
記者:
総理がですねそういう決断をなさっているのはですね、事前に内々にあるいは内々でなくてもいいのですが、そういった意向であるというのは坂口大臣はご存知だったのですか。
大臣:
全く分かりません。今日お会いをしてる時まで分かりませんでした。
記者:
お会いして、お伺いした瞬間大臣どのようにお感じになられましたでしょうか。
控訴しない方がいいというお考えでいらっしゃいますけれども。
大臣:
控訴しない方がいいという私は考え方をもっておりましたから、総理が控訴せずという考えを固めておられたことに大変敬意を表しました。率直に申しまして、いろいろのことはあるけれども、控訴しなければならないということをおっしゃるのではないかという危惧を持ちながらそこに望んだわけでございますけれども、総理から控訴せずというお言葉を聞いて何かこう体の力がストンとこう抜けるような思いと申しますか、良かったという思いで一杯でございました。
記者:
判決からこれまでの期間がちょっとあるのですが、かなり大臣の中でいろいろな葛藤があったと思うのですが、その中で一番大きかったものというのはどういうことでしょうか
大臣:
やはり患者の皆様方にお会いをさせていただいたことが一番大きかったというふうに思います。元患者の皆様方から今日に至るまでの生々しいお話を聞かせていただいて、それは本当にあの涙無くして聞くことのできないようなお話でございました。気持ちとして、私は医療の場に携わってまいりましたから、今日までのその犯した罪というのは誠に重いというふうに思っておりましたし、それになんとか応えなければならないという強い思いも持っておりましたが、現実にそこに直面した元患者の皆様方からのお話というのは、先日、多磨全生園にお伺いを致しましたけれどもそこまでのお話は聞いておりません。今回初めてであります。やはりその元患者の皆様方の切々たるお言葉とういことに、本当に身の震える思いでそれを聞かせていただいた、やはりそのことによってこうせざるをえない、やはりこれは、控訴をしてはならないという思いに私は傾いていったわけであります。おそらく聞いておりませんけれども、総理も今日10分間という予定が40分間お会いになったそうでございますが、その皆様のお言葉を聞かれて私は大きく変わられたのではないかというふうに思っております。
記者:
損失補償の問題に戻りますけれども、これは裁判と全く切り離して原告の方達にも一律に裁判の命じられた賠償とはまた別に支払うということになるわけですか。
大臣:
これから決めることでございますので、今確定的なことを申し上げることは出来ませんが裁判に参加している人、していない人の区別なくそこでやっていこうということですから、裁判に参加をされている人に対してもやはり同じようにというふうに私は理解を致しておりますけれども、そこはこれからの話し合いになるだろうと思います。また原告団の皆様方を含めました全療協でございますか、その皆様方のお考えにもよると思います。
記者:
年金はその退所年金ということは、要するに療養所を退所した方を対象に療養所と同じ様な。
大臣:
そういうことです。
記者:
だいたい金額も同じ様な感じというような。
大臣:
多分そういうことだと思いますけれど、これはこれから決めていくことです。
記者:
これから決めるのはこの協議の場という所を基本に。
大臣:
そうですね。
記者:
メンバー的にはどういうところを対象に考えていますか
大臣:
そこまではまだ決めておりませんからなんとも申し上げられませんが、厚生労働省の誰かもそこに参加をさせていただいて、やはりいくんだろうというふうに思います。
記者:
原告の人の要求としては厚生労働大臣とも協議したいとおっしゃったんですけれども、大臣として。
大臣:
それは節目節目でそういうことがあればそれはお受けさせていただいて結構でございます。しかし、具体的ないくつかの問題を詰める作業というのは、とてもじゃないですけども私では十分な能力がございませんから、もう少し能力のある人にやっていただくということになるでしょう。
記者:
当然事務局は厚生労働省ということになりますか。
大臣:
まあそういうことでよろしいでしょうかね。
記者:
設置する時期はいつ頃になりますか。
大臣:
これもこれからお話し合いをして決めることでございますが、こうなりましたらできるだけ早くそれは決めたいというふうに思っております。
記者:
与党3党の幹事長が途中から入られたようなんですけれども、与党の代表の方はその場で初めて総理から結論を聞かされたと思うんですが、どういった反応なんでしょうか。異論とかでなかったんですか。
大臣:
異論ございませんでした。
記者:
健康局長はですね、厚生労働省の中でどうやら漏れ聞くところによると、ご自分もお医者でありですね、実は本当は控訴断念だったという話を聞いたんですけれども、今回健康局としてあるいは部下の人にどう報告するか。
健康局長:
まだずっと大臣とご一緒でございましたから中で話をしておりません。
記者:
どんな印象を持たれましたか。
健康局長:
大臣のご決断に大変敬意を表しております。
記者:
今日午前の法務大臣、官房長官との3者協議では坂口大臣の方は控訴をしない方がいいというお考えを伝えたということですが、官房長官や法務大臣からはそれに反対する意見とかそういうふうな控訴すべきだというふうな話は。
大臣:
よその大臣のことまでは私が申し上げるのは失礼でございますから差し控えさせて頂きたいというふうに思いますが、少なくとも官房長官は聞き役で、そして私と法務大臣がそれぞれ意見を開陳をさせていただいたということでございます。
記者:
控訴しないということの厚生労働行政に与えるデメリットは実はあるんじゃないかと思うんですが、それについてはどうですか。
大臣:
物事は何事もメリットとデメリットがありますから、控訴しなかったことによりますところのデメリットというのもそれはあるのかもしれません。しかしメリットの方が大きいと思っております。
記者:
厚生労働省として今までいわゆる療養所入所者対策というのは、歴代担当課長含めまして、補償的な、個人的なものだと思うんですけれども、国家の犠牲になった補償的な意味合いが強いとご覧になって施策を進めてきたところがあるんですけれども、そういったようなものは今回患者さん達に代わりまして小手先でしか無かったというふうにお感じになったんでしょうか。
大臣:
今までのものが小手先であったとは思いませんけれども、しかし、患者の皆さん方が「我々が犯された人権侵害というものに対して、やはり応えていただくのは控訴せずということがあって初めて応えていただくことに、それがあってお詫びの言葉も初めて聞きたい。」こういうことでございました。この控訴せずという言葉を抜きにしてどれほどお詫びをいってもらっても聞くことはできないということでございました。ですから私が申し上げたいのは同じことをやっておりましても控訴せずという前提のもとでやりますのと、そして、今までやってまいりましたことではやはり意味合いが違ってくるというふうに思っております。
記者:
謝罪とかお詫びというのは政府から患者の皆さんにあらためてそういう機会は設けられるということになるんですか。
大臣:
政府としての声明と申しますか、それは一議にかけないといけないものでございますから、明日のうちに持ち回り閣議でやりますか、それとも明後日まで待ちますかそこは明後日ということになりますとぎりぎりの25日ということになりますので、ちょっと今のところわかりませんが、各大臣のご了解もいただいて政府として正式に患者の皆様方に対する言葉を含めて、そして、今回のこの決定の経過等を出すという手はずになっております。
記者:
局長にもう一言お願いしたいんですが、今回の決定によりますと過去の隔離政策というものの違憲性をはっきりと認めた判決というものが確定する。そのことについては事務当局者としてなにか感想ございますか。
健康局長:
らいの予防法を廃止する法律によって今運営しておりまして、私どもとしてはそういう意味では従前のこの政策を引き続き医療福祉の充実をさらに図っていきたいと思っておりますが、大臣が前から申されておりましたように今回の判決を1つの節目として、先程おっしゃりました退所者給与金、あるいはハンセン病資料館等のですね、そういう今までの対策の延長線上にさらに今後充実強化していきたいと思っております。

(了)