第2回多様化する労働契約のルールに関する検討会(議事概要)

日時

令和3年4月20日(火)9:00~11:30

場所

厚生労働省労働基準局第一会議室 中央合同庁舎第5号館16階
 (東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者(五十音順)

(あん)(どう)(むね)(とも) 日本大学経済学部教授

(えび)(すの)(すみ)() 立正大学経済学部教授

(くわ)(むら)()()() 東北大学大学院法学研究科准教授

(さか)(づめ)(ひろ)() 法政大学キャリアデザイン学部教授

(たけ)(うち)(おく)()寿(ひさし) 早稲田大学法学学術院教授

(もろ)(ずみ)(みち)() 慶応義塾大学大学院法務研究科教授

(やま)(かわ)(りゅう)(いち) 東京大学大学院法学政治学研究科教授

議題

企業及び労働組合からのヒアリングについて
 

議事概要

1.A社(食料品製造・販売業、飲食業、従業員1,000名~3,000名未満(全体の約2割が社員、約3割が契約社員、約5割がアルバイト)
(1)無期転換関係
・有期契約労働者(契約社員、アルバイト等)の無期転換権については法に従って運用。
・2018年3月に従業員全員に案内し、また、常時イントラネットで無期転換権の案内文を掲載。
・毎年4月の給与明細で、無期転換権の保持者及び今後1年以内に無期転換権が発生する者に対して、案内を掲載。
・2021年4月1日時点で、無期転換権を有する者のうち実際に無期転換したのは4~5%程度。
・その理由として、1年更新である点を除き有期雇用の契約社員と無期転換者で処遇等が変わることはない点や、積み立て有給休暇制度について、契約社員の場合は契約期間満了時に買い上げてもらえるので、むしろ契約社員のまま契約期間満了で雇用終了した方がメリットがある点等が考えられる。
 
(2)多様な正社員関係
(短時間社員制度)
・短時間社員とは、年間所定労働時間がフルタイム社員の半分である社員。
・契約社員(導入当時の区分名はパートタイマー)の社員への転換を促進する制度であるとともに、社員がワーク・ライフ・バランスに応じて働く時間を選択できる制度。
・制度導入の背景として、業績向上のため契約社員の更なる戦力化が必要になったこと、社員と同等の能力を発揮する契約社員が増加したこと、また、従業員の過半数を占める女性の活躍推進の必要性の高まり、がある。
・制度目的は、多様な雇用形態の実現、良質な人材の確保、社員との格差解消、契約社員のモチベーション向上。
・①契約社員から短時間社員への転換(一定の要件あり)、②短時間社員からフルタイム社員への転換(1年間の短時間社員経験が必要)及び③フルタイム社員から短時間社員への転換(事由を問わない)がある。
・契約社員から短時間社員に転換した場合一部の諸手当について支給は無いが、フルタイム社員から短時間社員に転換した場合は諸手当の支給が全てある。
・短時間社員制度導入の初年度にほとんどの上級のパートタイマーが短時間社員に転換。
・制度導入後の状況として、フルタイム社員から短時間社員への転換について、育児・病気を理由とした制度利用の例が多く多様な雇用形態の実現に資することができており、また、非正規雇用であれば退職していたかもしれない人材が社員として会社に定着しているという点で良質な人材の確保もできている。
・短時間社員に転換した者の昇格状況を追跡したところ、新卒・大卒の従業員とほぼ同じスピードで昇格できている。
・短時間社員からフルタイム社員への転換の要件としての短時間社員経験年数の短縮等を検討する必要がある。
 
(地域職種限定フルタイム社員制度)
・地域職種限定社員とは、転居を伴う転勤がなく、職種の変更がない社員。
・制度導入の背景として、最近は優秀な契約社員が転勤や職種の変更を好まず、短時間社員制度の受験者が減少傾向となってきたこと、また、売り場をまとめる店長の辞退者が増え社員の配置が急務となったこと、がある。
・現時点では、地域職種限定からそれ以外への社員区分転換ができないので、フルタイム社員・短時間社員のくくりと地域職種限定フルタイム社員・地域職種限定短時間社員のくくりの双方向の社員区分転換を検討する必要がある。
・地域職種限定フルタイム社員の給料はフルタイム社員と同じだが、一部の諸手当について支給は無く、退職金の制度もフルタイム社員と異なる。
・地域職種限定フルタイム社員制度については、筆記試験がなく面接のみなので気軽にエントリーできるという声もある。
・社員の大多数が一度も転勤したことがなく、地域職種限定のような実態であるため、地域職種限定フルタイム社員の処遇(手当等)を再検討する必要がある。
 
 
【質疑応答】
〇短時間社員制度導入の初期は転換が多かったが、その後受験者数も合格者数も低調な理由は何か。
→会社側で社員の数を少なくしようという動きがある点、転換のテストの内容が難しい点、テストに一度又は複数回落ちて嫌になる方が増えてきている点、短時間社員になった場合に転居・職種変更があり得るのを嫌がる方が増えてきた点等が考えられる。
 
〇契約社員から短時間社員に転換した場合(諸手当の支給無し)とフルタイム社員から短時間社員に転換した場合(諸手当の支給有り)で処遇に差があるのはなぜか。
→制度導入当時、契約社員から短時間社員に転換した場合は、フルタイム社員になる手前の準備期間という位置づけで考えており、それゆえに諸手当の支給を無しとしていた。
 
〇短時間社員について賞与の乗率がフルタイム社員の70%とされている理由は何か。
→労働時間が減ることに伴いパフォーマンスも一定程度下がるであろうということを前提として、契約社員の乗率が60%なのでそれを参考に70%と設定した。
 
〇社員(フルタイム社員、短時間社員、地域職種限定(フルタイム・短時間)社員)、契約社員について、それぞれ会社として求める能力等の程度に差はあるのか。
→社員と契約社員の比較で言うと、社員については、転勤・職種変更を経て将来幹部候補になってほしいという狙いはある。社員の中で地域職種限定がある社員とない社員の比較で言うと、限定がある社員は専門職に特化してしまうため基本的には係長クラスまでが限界だが、限定がない社員は転勤・職種変更を経て部長、課長クラスになりうる。
 
〇例えば管理職級のフルタイム社員が短時間社員に転換したケースでは業務上問題は生じないのか。
→そうしたケースはまれだが、そのケースについても事実上問題は生じなかった。
 
〇社員(フルタイム社員、短時間社員、地域職種限定(フルタイム・短時間)社員)、契約社員のそれぞれの処遇や責任の程度等について、従業員に対してどのように説明を行っているか。
→社員に対しては、各種研修の際に説明を行っている他、通達・イントラネットで情報提供をしている。また、契約社員に対しては、採用面接時及び雇用契約締結時に書面に基づいて説明をしており、その他昇級や人事評価の時にも処遇説明を行っている。
 
〇法律上の無期転換に関する5年の契約通算年数の要件やクーリング期間の制度について何か意見はあるか。
→特に意見は無い。元々長期雇用を望んでいない短期雇用の従業員もおり、従業員から早めの無期転換の希望やクーリング期間の制度の廃止の希望の声は聞いたことがない。
2.B社(小売業、従業員10,000名以上(全体の約2割が正社員、約8割がパートタイム社員。他に正社員とおおよそ同数の学生アルバイト。))
(1)無期転換関係
・パートタイム社員、アルバイト社員は、1回目の契約更新(1年/6ヶ月)をもって無期転換。
・1年以上勤務する社員は本人都合がない限り継続雇用しており、むしろ定着率の向上が課題であった。ただし、直近の人事考課で低評価だった場合は、店舗運営責任者等が無期転換するかどうかを検討。
・無期転換後、年に1回等、人事考課に基づく評語の徹底や、健康状態の確認、能力開発のための面接を行っており、こうした面接を行っているため、問題なく運用できている。
・無期転換によって社員の安心感につながっており、また、その他の施策と相まって定着率の向上につながっている。
 
(2)多様な正社員関係
・地域限定正社員は、通勤時間が1時間以内の店舗3~5店舗ほどに限定して勤務。給与は正社員の80%。業務内容は正社員と変わらない。
・契約内容については、就業規則の社員区分ごとに記載をしているが、年に1回又は半年に1回、契約条件の確認をする際に制度内容について説明をしている。
・パートタイム社員⇔地域限定正社員、地域限定正社員⇔正社員の区分転換が可能。区分転換とは別に、パートタイム社員・アルバイト社員から地域限定正社員・正社員への内部登用も年間を通して積極的に実施。なお、育児・介護短時間勤務制度等が活用されていることもあり、正社員から地域限定正社員への転換の例は少ない。
・パートタイム社員→地域限定正社員の転換について、制度導入当時は人数も多かったが、それ以降は内部登用を積極的に行っていることもあり転換の人数は減っている。パートタイム社員・アルバイト社員から正社員になる方は年々増えている。地域限定正社員から正社員への転換についても一定の実績がある。
・正社員と地域限定正社員の区分での相違は、異動の有無と範囲。地域限定正社員は給与が80%になるが、職務上の相違は無く責任も変わらない。
・店舗の限定について、通勤時間1時間以内で勤務できる店舗を契約書で明示。ただし、契約期間中に勤務地の変更等を個別に行うこともある。
・店舗閉鎖時は、社員区分に関係なく全社員について近隣店舗での雇用を確保。なお、直近で3店舗閉鎖したが、いずれも近隣の店舗での雇用は確保できている。勤務する店舗が自宅から離れてしまう場合には、同業他社や労使で協力してあっせんを行っている。
 
 
【質疑応答】[1]
〇現行の人事制度への見直しにあたって労使で人事制度検討委員会を設置し検討したとのことだが、労働側の構成員はどのような方々で、制度施行どのくらい前から設置し、いつまで設置していたか。
→労働側の構成員は、地域限定正社員制度、無期転換制度創設時共に、組合専従者(執行委員長、副執行委員長、事務局長、副事務局長)。制度導入を検討する約1年前までには設置し、施行後においても運用面を確認する意味から1年間程度は設置している。
 
〇地域限定正社員制度創設時と初回更新時に無期転換する制度創設時のそれぞれについて、正社員や有期雇用社員のニーズをどのようにくみ取り、改訂作業に反映させたのか。また、労使の見解の相違等どのようなことが検討されたのか。
→制度導入にあたり、会社から当該制度対象となる社員に対しヒアリングを行った結果や組合にあがってきているヒアリング結果も反映している。以前設けていた制度では、時間給制から改定をして月給制へ変更、休日日数や1日当たりの労働時間を複数用意し、自分に合ったパターンを選択できるような制度を導入したが、時間給制の方が融通がきいた事や用意した複数の勤務パターンもそこまでニーズはなく、そうした中間的かつ有期(1年)である働き方よりも正社員(無期)として勤務地域のみ限定される方が良いとの声があり、現在の地域限定正社員制度の導入に至った。
 
〇パートタイム社員等の非組合員の意向の吸い上げや制度の周知方法如何。
→会社においては、非組合員からも意見のヒアリングは行っている。また労働組合においても、同じ職場の仲間であるという点から組合員・非組合員の隔てなく意見の吸い上げを都度行っている。新制度の周知方法は、役職者会議にて概要を説明し、全社員に対しては、役職者からの説明に加え、社内向けの通達文書、社内報、また労働組合からの機関誌でも周知をしている。
 
〇制度導入直後を別としてパートタイム社員から地域限定正社員への移行はパートタイム社員の人数全体に比べて少ないように見えるが、その理由は何か。
→地域限定正社員に移行する社員は、正社員(チーフ/主任)と同等の役割を担えるパートタイム社員が基本となっている。パートタイム社員から地域限定正社員への移行が、パートタイム社員の全体人数に比べ確かに少なくなっているが、いわゆるチーフ/主任クラスの人数のうちの約5%が地域限定正社員に移行しているという捉え方をしている。
 
〇地域限定正社員から正社員への移行は限定正社員数の少なさを考えるととても多いと思うが、その多さの理由。
→地域限定正社員から正社員への移行については、パートタイム社員から地域限定正社員への移行当初は自信がなかったものの、地域限定正社員としての勤務から2~3年が経過し、研修や実務経験とともに自信がついたことで、正社員に転換する社員が増えたと認識している。
 
〇社員の区分は異動の有無・範囲のみの違いとのことだが、地域限定正社員は、正社員に比べて月給80%となっている。この20%分は異動についての負担の違いという説明だったが、地域限定正社員における納得感ないし不満の有無について認識しているところはあるか。
→パートタイム社員から地域限定正社員になる場合、業務内容がチーフ/主任と同等になるものの、大幅に給与が上がり、通勤時間の負担もないため、不満は出ていない。また、正社員から地域限定正社員を選択した社員はほとんど居らず、不満等も出てきていない。再雇用の嘱託社員(特に店長職)からは、同じ業務を行っているにも関わらず給与が減ってしまうという声は上がっているものの、その後、勤務地が地域限定正社員と同様に数店舗に限定されている事による通勤の負担減、また店舗規模も多少の配慮をしている事から、給与とのバランスについては納得しているとの声を聞いている。
 
〇店舗の限定について、「通勤時間1時間以内で勤務できる店舗を契約書で明示。ただし、契約期間中に勤務地の変更等を個別交渉で行うこともある。」とのことだが、交渉を持ち掛けられた従業員としては、変更の個別交渉に応じる例が多いか、それとも、変更には応じない(ないしは、それだったら辞める)とする例が多いのか。変更に応じてもらえなかった場合、会社側としてはどう対応するのか。
→当社はドミナントでの出店をしており、多くの社員が通勤時間1時間以内の範囲に複数(5店舗以上)の店舗が存在している。その中で店舗を限定しているため、当初限定をした店舗以外にも、1時間以内で通勤が可能な店舗は複数あり、そうした店舗への勤務を追加したいとの交渉には応じてくれているのが現状。また個別交渉については、無理強いはしていないので、応じてもらえない場合は他の社員で対応している。
 
〇契約期間中での勤務地変更に個別交渉が必要になっているのは、契約書で勤務地限定を明示していることに起因している面があるかと思うが、契約書で勤務地限定を明示することに、会社として配転が自由にできなくなるなどのデメリットは感じているか。
→会社側、労働者側それぞれデメリットは感じていない。
 
〇①地域限定正社員制度を導入したことと②初回更新時に無期転換する制度を導入したことのそれぞれによるプラスの影響と今後の課題。
→①地域限定正社員制度を導入したことによるプラスの影響としては、キャリア社員制度の不具合を解消でき、生活に合わせたスタイルで正社員になるステップを導入することができた点がある。②初回更新時に無期転換する制度を導入したことによるプラスの影響としては、実態に合わせたのみではあるが早期に法対応することができた点、また、パートタイム社員については、5年後の法対応時の更新に対する不安を抱えなくてよいとの声が上がっていた点がある。今後の課題としては、制度の周知と共に、更に制度を活用する社員が増えること、また、時間給のパートタイム社員としての働き方を維持しつつ、チーフ/主任代行を務めるような社員への処遇(均等均衡)を制度面でどのように対応していくかということがある。
 
[1] なお、オンラインの接続状況が悪かったため、B社に対する質疑応答については、ヒアリング終了後にEメールによって行った。
3.C社(自動車製造業、従業員10,000名以上(うち有期雇用労働者は1割未満))
(1)無期転換関係
・全職種において多くの社員を無期で雇用している一方、技能系の現場の一部を中心に有期雇用。
・長期に亘って活躍して頂く場合は、キャリアアップや自己実現の観点から、正社員として活躍いただくべきと考えており、有期雇用労働者から正社員への登用制度(1年以上勤務した有期雇用労働者について、1年目・2年目にそれぞれ1回本人の意思があれば正社員に登用される試験の受験機会を設けている)を法改正前より運用している。
・有期雇用の更新上限は、計画立案スパンや取り巻く環境を総合的に勘案し、法改正前から2年11ヶ月に設定。
・2015年にクーリング期間を6ヶ月に設定した。他方、社員登用の状況については、2015年以降3倍超に増えている。
・有期契約労働者と正社員との働き方や処遇のバランスについて、入社に際し、無期雇用の社員と比較して、求める要件が少なく、また、責任の重さ・役割については明確な差があることから、雇用形態についても異なる点をご理解頂いていると認識している。
・有期契約労働者については、在籍18ヶ月以降で満了した場合、期間満了後の再就職支援として、本人希望に基づき、国家資格の取得支援を会社負担で実施している。有期契約の期間満了者を対象に、関連企業への正社員としての採用を前提とした紹介(人材紹介会社経由)の仕組みあり。
・無期転換制度に関するトラブルや改善を求める事項は特になし。
・有期雇用特別措置法の活用は無い。定年後再雇用については65歳上限。
 
(2)多様な正社員関係
・事務、技術等の職種ごとに採用し、「採用辞令」に職種を明記。管理職へ昇格するところで職種が統合していくという人事制度。
・区分間・職種間の転換は無く、労働条件の明示や配置転換等に関する特段のトラブル事例は無い。職種ごとに処遇が設定されているため、職種間のバランスをとる必要性も無い。
・部門や事業所閉鎖等の場合の人事上の取扱いについて、業務職(勤務地限定)の扱いは、事業所閉鎖の場合は、住居の移転を伴わない近隣事業所に異動。
・職種別の人事制度ついて、課題は特に無い。効果として、職種ごとのワーキングライフプランに基づく育成によるキャリアアップの促進ができる点がある。
 
 
【質疑応答】
〇(業務職以外の)地域限定正社員、短時間の正社員等の制度が導入されていない理由は何か。育児等の事情がある場合には別途対応しているのか。
→介護や育児等の事情がある従業員については、別途設けている時短制度や休職制度で対応が可能なので、短時間設定での雇用の必要性が生じていない。
 
〇区分間・職種間の転換がない理由は何か。
→職種ごとにレベルの差はあるが、個別の事情がある従業員については運用の中でその事情を斟酌しながら業務内容を決めていくという対応をとっているので、雇用の形態を変えるという必要性が無い。
 
〇有期雇用労働者数に対して社員登用の合格率はかなり低いように思われるが、その理由は何か。
→社員登用の要件として、一つの作業ができるのみでなく意欲的に複数の作業を習得する意志があるか、職場のチームワークの中に溶け込んで業務遂行できるか等の複数の要件をクリアする必要があり、それらを勘案して登用試験を実施している。
 
〇社員登用された方の社員としての格付けは、新入社員と同じレベルなのか個別に判断するのか。
→当社での期間従業員経験年数を加味した一律の処遇から始める。
 
〇各制度を策定するにあたって、組合員・非組合員に対して、どのように制度周知し意見をくみとったか。
→職場運営の中で雇用形態にかかわらず各種ミーティングを行っており、有期・正社員関係なく、当該ミーティングにおいて会社側からの伝達事項を伝えて声を吸い上げている。
 
〇有期雇用の契約期間を2年11ヶ月とした時、及びクーリング期間を6ヶ月とした時に、労使でどのような議論をしたのか?
→契約期間を2年11ヶ月とした際は、1年→2年11ヶ月と長期化した変更のため、労組からの異論なく、合意された。クーリング期間を6ヶ月とした際は、労働条件ではないため、特に労組との議論はない。
 
〇無期転換制度について、期間を5年から3年・2年に短縮するべき、クーリングの仕組みはとるべきではない等の意見もあるところだが、今後の無期転換制度の方向性等について何か意見はあるか。
→当社で更新上限(2年11ヶ月)まで勤務して、別の仕事をし、また当社で勤務したいと言ってくれる方もいる。クーリングの仕組みがなくなると、エントリーする機会がなくなってしまう、当社としても採用目標を達成して生産を安定させていくといったお互いのニーズに関わる問題になってくるかと考えている。
 
〇クーリングを経てまたC社で勤務するような方について、無期雇用に移行した方がよいのかもしれないが、登用試験に受かりにくいなど社員登用に行かない事情はあるか。
→雇用回数によって差異はあまり感じていない。
4.D組合(製造業関係の労働組合、組合員10,000名以上)
(1)基本的事項
・会社における従業員の雇用区分としては、社員、無期転換社員、シニア社員(60歳以降で退職後に有期雇用契約となった場合)及び有期契約がある。
 
(2)無期転換関係
・現在では、有期のプロジェクト等特殊な場合にのみ有期契約の雇用となっており、その数もそれほど多くない。
・無期転換ルールに対応するために行われた取組みとして、会社と労使の専門委員会をたちあげて種々論議を行ってきた。特に無期転換社員に関しては、ユニオンショップ協定の対象にしているので、労働協約の内容も含めて議論を行ってきた。
・無期転換制度は2018年4月1日に導入。
・対象者に関しては、本人が希望をすれば、内容を説明して、無期転換又は社員登用の希望を聞く。無期転換を希望した場合は、無期転換社員というかたちで、無期雇用契約に転換する。社員になることを希望した場合は、社員登用の試験を実施の上でその基準を満たせば社員に登用する。
・処遇に関しては、社員・無期転換社員共に就業規則において勤務制度、休暇制度、福利厚生等を定めている。
・社員への転換を希望したが登用試験で基準を満たさなかった方は、無期転換社員になるが、本人が希望すれば年に1回継続的に社員の登用試験を受けることができ、また、上司から改善すべき点等のフィードバックを受けることができる。
・有期契約について明確な更新上限は設けていない。クーリング期間はない。
・労使論議については、転換の仕組み・プロセスや転換にあたって有期契約の労働条件を引き継ぐこと等をまず話し合い、その後、同一労働同一賃金関連法の施行にあわせて主に労働条件について話し合った。
・労働条件について、同一労働同一賃金関連法を参考にしながら、無期転換社員と社員との間の労働条件の不合理な差異をなくすようにし、実際にも勤務、休暇制度、福利厚生等についてはほぼ社員と同等のものとなっている。
・能力開発支援について、全従業員に対して能力開発や面談・フィードバックが行われている。
・無期転換導入の効果としては、やはり雇用が安定したという点と、また、労働条件が向上した点が挙げられる。他方、課題としては、転勤や職務の限定の観点から社員と無期転換社員で賃金が全く同一ではない点や、無期転換社員の賃金制度が明確ではない点が挙げられる。
・法制度面での改善を求める事項は特にない。なお、通算契約期間を5年から短縮すべきかという点について、実際の運用の中で特に困っているわけではないが、一般的には雇用の安定の観点からもう少し短くてもよいのではと思う。
 
(3)多様な正社員関係
・労働時間について、社員は、フルタイムが基本であるが、短日数勤務・短時間勤務の場合もある(育児・介護、治療との両立、キャリア開発等の事由に限定)。無期転換社員等は、契約として短日数・短時間勤務の契約もあり、それとは別に社員と同じような短時間勤務、短日数勤務の制度もある。
・社員と異なり、無期転換社員等は、異動・転勤が無く、また、業務についても契約上限定をしている。
・採用時や労働契約上の限定明示の点について、会社においてジョブ型人材マネジメントを導入しようという動きはあるが、実際はジョブマッチングという、本人の希望を聞きながら採用しており、労働契約でジョブに関して限定明記しているわけではない。ジョブ型人材マネジメントは、そのジョブだけの雇用というものではなく内部での人材活用の活性化や経験者採用等の観点で導入したマネジメントという意味合いである。
・勤務時間・場所等の限定について、昨今テレワークも普及し、また、単身赴任の解消も検討を始めているところで、現段階で従業員からの要望が強いわけではない。
・会社において、上記で説明した区分以外の積極的な限定社員を作ろうという動きは現状無く、社員からの要望も強くない。
 
 
【質疑応答】
〇有期契約の労働者の問題についても労使交渉されてきたとのことだったが、労使交渉において、労働組合非加入の有期契約の労働者の意見をどのように集約したのか。
→組合員である無期転換社員(元有期契約)等からの意見を集約することを通じて、有期契約労働者の意見を類推した。
 
〇無期転換社員の処遇について一部個別契約とのことだったが、具体的にはどのような取り扱いとなっているのか(就業規則には規定があるがそれとは別に個別に定めるケースがあるのか、そうではなく、例えば労働時間等は就業規則には規定がなく個別契約のみに定められているのか等)。
→就業規則には、例えば休暇制度(出産休暇、介護休暇等)、年次有給休暇、フレックスタイム勤務制度、福利厚生制度等が規定されている。他方、個別契約には、短日数・短時間勤務にする場合のその旨や賃金等が規定されている。
 
〇労働条件について、同一労働同一賃金関連法を参考にしながら、無期転換社員と社員との間の労働条件の不合理な差異をなくすようにしたとのことだが、法律にはない取り扱いということで会社側から難色を示された等はあったのか。
→労使協議の中で、有期のみ労働条件を上げて無期転換はそのままにするのは理にかなっていないという点は会社側も理解を示しており、結果的に上記のようなかたちに落ち着いた。
 
〇法律所定の無期転換の対象者に対する説明のタイミング(無期転換権が発生する前の契約更新の段階から説明しているのか、無期転換権が発生する契約更新の段階で初めて説明しているのか等)。
→無期転換権が発生する前の契約更新の段階から説明している。
 
〇社員登用の試験内容や登用基準に対する組合側の意見(厳しすぎるか、ある程度納得感があるか等)。
→社員登用の試験は、一律の筆記試験等があるわけではなく、各事業所で実施されその内容も各事業所によるものであり、普段の仕事ぶりを見て面談を実施している。難易度が高すぎないかという点は組合も懸念していたところであり、労使協議の専門委員会の中で確認してきた。
 
〇社員登用試験に合格しなかった場合にやる気を失ってしまう等のネガティブな面はあるか。
→モチベーションが下がってしまう従業員もいるが、適宜組合からコミュニケーションをとっている。
 
〇無期転換の対象とならないような有期契約労働者はいるか(有期契約の更新の上限は無いとのことだったが、実際の運用上無期転換が起こらないようにするような扱いはあるのか)
→有期契約は有期のプロジェクトについて利用されるが、各プロジェクトの期間に応じて5年を超えない範囲で期間を設定しつつ、また、必要に応じて社員に転換するという取り扱いである。
 
〇社員と無期転換社員の間で能力開発機会について違いがあるか、ある場合はその内容。
→少なくとも担当する業務に必要な教育、安全・技能に関する教育、コンプライアンス教育等については同等であると認識している。長期の雇用を前提としたキャリア開発教育については、事業所等に任されている部分がある。
 
5.E組合(製造・流通・サービス業等の産別労働組合、組合員の男女比=4:6、正社員:パート=4:6、女性パートが約5割。)
(1)無期転換関係(※以下のデータ関係は当該産別に加盟する労働組合へのアンケート結果)
・権利発生までの通算期間は5年の企業が約7割、5年未満(初めから無期雇用を含む。)の企業が約3割。
・無期転換した契約社員有りの労働組合が約4割(契約社員は初めから無期としているところが多いことも影響)、無期転換したパート有りの労働組合が約6割。
・正社員への転換制度有り(就業規則への記載有り)の企業が約6割、正社員への転換制度有り(就業規則への記載無し)の企業が約4分の1。
・正社員への転換実績がある企業のうち、契約社員・パートから正社員に転換した実績のある企業は約7割。
・無期転換時の要件は、契約社員・パート共に、①人事部門などの面接結果、②上司の推薦の順に多い。
・「今後希望する働き方」についての組合員意識調査の結果は、全体の過半数が「今の職場で働きたい」、「正社員として働きたい」は全体の2割(男性だと4割)。この数字の高低というよりは、こういった望んでいる方々がいることに重点を置いて希望者にしっかり選択肢を提供したい。
・E組合の基本的考え方は、無期雇用を基本とし働き方の転換制度を設けること
・「別段の定め」を利用し職務内容や働き方を現行と大きく変更する提案があった場合は、労働条件の不利益変更とならないよう労使合意のうえ、あくまで一つの選択コースとして設定し、それを選択しなくても無期転換できるようにすべき等と主張してきた。
・課題・改善を求める事項としては、
①職務自体が期間限定の場合を除き、無期雇用を基本とし、均等・均衡ある処遇を前提とした働き方の転換ができる制度の導入が必要、
②有期契約労働者の無期転換申し込みまでの期間については3年とする(労働基準法第14条に無期労働契約以外の労働契約期間は3年を超えてはならないと定められていることを勘案し3年)、
③無期転換にあたり、職務の内容等が変更されないにもかかわらず、無期転換後の労働条件を低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではないことの徹底を求める、
④無期転換・正社員転換制度について、労働者への周知や相談体制の整備など、促進にむけた取り組みがさらに必要。
 
(2)多様な正社員関係
・転換後の雇用形態は、契約社員・パート共に、限定のないフルタイムの社員が約6割。続いて、勤務地限定社員、職種限定社員、短時間社員の順で多い。
・E組合の雇用形態の転換制度についての考え方は、
①均等・均衡を確保するため労働者が働き方を選択、転換できる制度をつくること、
②個人のライフプランやライフサイクルに応じてフルタイム・パートタイム勤務を選択でき、十分な生活が営める雇用の実現に向けて取り組むこと。
・流通部門の特徴として、正社員が広域展開、異動、転勤が多いという実態があり、それらとの関係で正社員にならないという選択をするケースもある。
・(単発的な制度改定のみではなく)無期転換や多様な正社員という点からの総合的な人事制度の構築が課題。特に、無期転換後の労働条件や多様な正社員の中での地域限定社員の働き方等を労使で話し合って決める必要がある。
 
 
【質疑応答】
〇実際に無期転換後の労働条件が有期のときを下回るようなことが起きる又は起きそうな場合に、企業、単組、労働者(組合員・非組合員)等に対してどのようなアクションをしているのか。
→企業への対応としては、諸手当の改定や時間外労働への影響等について、不利益変更がないかたちでの対応を徹底してもらっている。組合員への対応としては、制度改定の内容や時期について大衆討議を行うこと、情報公開をすることが必要になってくる。非組合員への対応としては、企業との交渉状況やそれが組合員の労働条件改善に反映されることを伝えた上で、組織化もにらんだかたちで対応を図っている。なお、単組からは、人事制度構築の際に特に手当等について相談があるが、不利益変更に関するルール等を示した上でヒアリングを行う等している。
 
〇現状では、無期転換の際に労働条件が下がるというようなことは生じていないか。
→基本的には生じていないという理解であるが、仮に時給換算等した場合に労働条件が下がるようなことがある場合はしっかり労使協議で再検討することを促している。ただし、相談がないとそのような事態も把握できないので、個別具体的に実態を把握できるよう指導をしている。
 
〇説明の中で無期転換制度や雇用形態の転換制度についてのE組合の基本的考え方が示されていたが、この考え方は、傘下の単組に対してどのように伝えていたのか(単組が企業と労働条件交渉を行うにあたって、この考え方にたって交渉してほしいと伝えていたのか等)。
→基本的な考え方は所属組合に伝えて、それに基づいた協議を促している。ただし、所属組合が企業と交渉するときは行き詰まってしまうこともあるので、同じ業種・規模感の別の企業の事例を幅広く共有して協議を促進している。
 
〇「今後希望する働き方」についての組合員意識調査の結果として、「正社員として働きたい」は全体の2割(男性だと4割)と説明があったが、正社員を希望しない人の具体的な理由は何か(例えば、性別や雇用形態別に理由の違いに特色があるか等)。
→雇用形態ごとに違いはあるかもしれないが、やはり正社員の役割が非常に重過ぎる点や全国転勤がある点等が理由のようである。正社員の中でも特に中間管理職、マネージャー、主任クラスは、役割が重くなり長時間労働につながっているため、働き方の改革が必要だと考えている。こうしたこともあって総合的な対策中で、しっかり取り組む必要性があると認識している。
 
〇正社員希望を妨げる要因として、役割が重くなるという点は、異動がある点や勤務時間が長くなる点と比べて、どれぐらい労働者の意思決定に影響を与えているという印象か。
→勤務地や勤務時間を限定したいという意向もあるとは思うが、担当する業務の範囲、予算の重さ、顧客のクレーム処理を行わなければならないこと等の点で、実際に近くで見て「正社員のような働き方をしたくない」という気持ちになっているということはあると思う。


※なお、第3回も引き続き企業等への非公開のヒアリングを行うこととした。

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