「社会保障教育モデル授業等に関する検討会(第2回)」議事録

政策統括官(総合政策担当)付政策統括室

日時

令和3年3月29日(月)11:00~12:00

場所

オンライン開催

出席者

構成員(五十音順)
事務局

議題

  1. (1)前回のご指摘を踏まえたモデル授業案修正の方向性等について
  2. (2)社会保障教育モデル授業案について
  3. (3)意見交換
  4. (4)その他

議事録

議事内容

○赤崎補佐
定刻になりましたので、ただいまから社会保障教育モデル授業等に関する検討会の第2回を開催いたします。
構成員の皆様におかれましては、本日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。冒頭は、赤崎が司会を務めさせていただきます。よろしくお願いします。
本日は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、オンライン会議システムを活用しての実施とさせていただきました。
なお、本会議は議事録の作成のため、録音させていただきますので御承知おきください。
また、オンライン会議における発言方法については前回同様とさせていただきます。
会議の進行中に通信トラブルにより接続が途切れてしまったり、音声が聞こえなくなった等、トラブルがございましたら、御案内しております電話番号まで御連絡下さい。
それでは議事の進行に移ります。この後の議事進行は小野座長にお願いいたします。

○小野座長
小野でございます。宜しくお願い致します。
まず、「議題(1)前回のご指摘を踏まえたモデル授業案修正等の方向性について」、事務局から御説明をお願いします。

○和田企画官
政策企画官の和田でございます。
資料1をご覧下さい。
前回、年金についてご議論をいただきました。本日は医療についてご議論いただくこととしておりますが、医療・年金にわたるそれぞれご意見を頂きましたので、それを踏まえた形で、医療の授業案を本日は提供させて頂きます。
論点①モデル事業で取り上げる社会保障制度の題材等について、主なご意見といたしまして、今回公的年金制度・公的医療保険制度を題材に我々は授業案を作らせていただいておりますが、社会保障制度全体の総論的な内容を加えるべきではないかといったご意見や、社会保険の仕組み、意義について教えられる内容を加えるべきではないか、また自分ごとととらえられる題材が必要なのではないか、というご意見を頂きました。我々の方ももちろん年金や医療だけを教えたいと思っているわけではなく、年金・医療を題材に社会保険、社会保障の全体像をご説明したいと思っております。一方でやはり公共の授業では、より深くこれを題材にして考えていただきたいということもありますので、年金と医療をきっかけにしつつ社会保障の全体を考えていただきたいという事で、テーマ設定させていただいているのが我々の当初の意図でございます。できれば、今回作ります公的年金・医療の授業のそれぞれに総論としては社会保障制度の全体像をお示し出来るようにという形で、再構成させていただいております。ただ、その時の題材がなかなか難しくて、本日はまだ仮案として提出させていただきますが、興味を持ってもらえる素材の導入の仕方について是非また後程ご意見をいただければと思っております。授業の中にも医療・年金を一つの題材としつつ、出産・子育て・介護などにも社会保障が役立つということに触れるようなかたちに出来ないかと思っております。
論点②、標準型の授業の難易度等について、年金の中で例えばマクロライドやNISAといったような単語も知ってほしいということで触れる形で原案は作っていましたが、なかなか現場の教員の方に理解が難しい内容でないかというご意見もいただきましたので、今回作る標準型については医療、年金を通じより簡単な内容として再構成させていただいております。
その他前回いただきましたご意見としまして、現場教員の方の負担軽減が必要なのではないか、ルーブリック等の評価の在り方も検討することが必要なのではないかといったご意見や、オンラインを活用するやり方としてはいろいろな外部講師の活用の方法やYouTubeなども考えていくべきではないか、年金局がYouTubeを使った教材を作り始めていますので、又そういったところも使えるような内容になってくればコラボしていきたいと考えております。またこれは全体にわたる意見ですが、広報の観点から我々厚生労働省が教えたい内容が重要ですが、教育いうことですので教え方という観点において工夫が必要になるのではないかというご意見をいただいております。そういったご意見を踏まえまして今回医療の教材をつくらせていただいております。
以上でございます。

○小野座長
有難うございました。それでは、②の社会保障教育モデル事業案を梶ヶ谷構成員にご説明をお願いします。梶ヶ谷構成員の後もう1度机上配布資料について事務局の方からご説明を頂いて、その後で先生方からのご意見を頂戴したいと思います。
それでは、梶ヶ谷構成員お願い致します。

○梶ヶ谷構成員
梶ヶ谷です。どうぞ宜しくお願い致します。
では、資料2-1、2-2、2-3を使って説明をさせていただきます。各構成員の先生方には事前・個別の説明会でご意見をいただきましたので、それをベースに主に3つの点について内容を少し変更しました。
まず前回提示をさせていただいたモデル授業案では、とりあげる疾病が虫垂炎でしたが、高校生の現状を考えれば虫垂炎より、部活や体育の授業という日常の学校生活で起こりえる骨折の方が事例としては多いだろうということで、虫垂炎から骨折に事例を変更しています。
2つ目は、前回提示したモデル授業案ではアメリカの医療保険制度について取り上げていたのですが、これも各構成員の先生方のご意見で削除しています。ただアメリカの医療保険制度との比較ということについては、学習指導要領の公民の「公共」で国際比較もという記述がありますので、教師用のマニュアル等では取り上げることが必要かと考えます。
3つ目は、「標準型」も「熟練型」も人生のライフイベントを取り上げて、最終的にまとめるということ、これが今回の変更点・修正点の基本的な3つです。
なお「標準型」も「熟慮型」のどちらも、「民間保険」についての内容を取り上げました。これについては、公民の『政治・経済』の学習指導要領の解説ではこのような記載があります。
「・・・さらに社会保険の役割と共に自助としての医療保険・生命保険、私的年金保険などの民間保険の役割なども調べ、広い視野から持続可能な社会保障のあり方について自分の考えを説明、論述できるようにすることも考えられる」とありますので、今回は医療保険についてですが、民間保険について追加の論点として取り上げました。学習指導要領の主旨からすると適切ではないかと思います。・・・疾病の具体的事例の差し替えと、アメリカの医療保険制度を削除し、まとめとして人生のライフイベントで2つの「モデル授業案」の締めくくりをしています。「標準型」も「熟慮型」も結果的にさほど大きな内容の違いが現時点ではありません。
そこで資料の2-1の「熟慮型」のチャートを使って説明させていただきます。この「熟慮型」のモデル授業案ですが、授業概要の導入部分、ここでは診療明細書から自己負担や保険給付を簡単に把握する。そして展開に入り展開1では足の骨折で入院した場合の医療費を考えます。さらに展開2では公的医療保険制度の仕組み、これを保険証の役割から考える、さらに展開3では、国民皆保険制度の重要性に触れていくことになります。そして展開4では今説明させていただいたように、公的医療保険と民間保険の違い、「民間保険」について学習する。そしてこの1時間目のまとめとして「共助」の大切さを理解・把握知する。これが熟慮型の1時間目の構成になります。なお、この1時間目の足の骨折の入院事例は「標準型」では入っていません。ここで少し具体的に生徒に考えさせるというのがこの「熟慮型」です。
「熟慮型」の2時間目は導入として1時間目の内容を受けて公的医療保険制度、「共助」の仕組みが極めて大切であることを確認する、そして展開の1番目としては、日本の公的医療保険制度の課題を扱っています。少子高齢化における医療費の増大です。展開2では、公的医療保険制度について私たちや、高校生にどういうような事が出来るか、具体的に考察し議論し、発信してもらうということになります。特に公的医療保険制度の持続可能性について課題があることを理解し把握した上で、限りある医療資源の使い方について社会や個人として何ができるかを考えさせます。展開の3は人生のライフイベントと社会保障です。これが「熟慮型」です。
基本的に「熟慮型」はこういう構成になっていますが、「標準型」には足の骨折の事例がなかったりですが、内容はほぼ同じです。思考する時間、また項目が少なくなっているということですが、おおむね構成員の先生方のご意見を伺ってこのような「熟慮型」・「標準型」というものを提案をさせていただきました。以上です。

○小野座長
有難うございました。
続きまして、机上配布資料について事務局から説明をお願いします。

○和田企画官
本日机上配布資料として5種類の資料を配らせていただいております。今後全国の授業で使っていくためには、教材として使うための加工が必要となってくる可能性がございますので、本日は恐縮ですが、机上配布資料として配らせていただき、内容について議論いただいた上で今後教材化にあたっての必要な手続きを進めて行きたいという主旨で配らせて頂いております。
机上配布資料①として医療の導入部分に使う領収証・診療報酬明細書で、これは基本形として、保険局が配っている物を使っていますが、より分かりやすくするためには実際医療にかかった時の領収証等を使って頂いた方が身近になると思います。
机上配布資料②、これは熟慮型で議論して頂く際に生涯医療費として、例えば、0-4歳ではそれなりに医療費がかかるが若い頃は医療費が減ってきて、一方65,70,75歳となると生涯医療費が上がって来ている、これを公共という目で見た時に政策的に医療を通した素材として使ってはどうかという提案でございます。
机上配布資料③でございますが、公的保険と民間保険の違いを出す時、民間医療保険ではどのような保険料の形態となっているか、あきらかに年齢と共に保険料が上がっていきまして、この表では75歳までの保険料という設定があってここが非常に高くなっている、ただこれは一つの例で勿論民間の保険ですのでいろいろな保険会社によって例はあるので、どのような形で教材として提示してくことが良いのかご意見をいただければと思っております。
机上配布資料④でございます。これは前回の「社会保障教育推進に係る検討会報告書」の際の議論で、社会保障全体像をお示ししたいということで前回もこういうイメージを作っておりましたので、イメージとしてこれは良い、ただ情報量が多いということと穴埋め試験的なところもありますので、今の構成では最後にこれを教えるということになっていますが、例えば、机上配布資料⑤といたしまして、猪熊構成員が読売の中高生新聞に書かれている漫画のようなイラストですが、今朝ご相談させていただいたのでこれを出して良いかは別ですが、社会保障全体像を教える分かりやすい絵としての資料でして、こういった社会保障全体像を教えられる、もしくは素材として使っていただけるような物が出来れば、前回のご指摘を踏まえた形に出来るのではないかと思い、示させていただいております。以上でございます。

○小野座長
有難うございました。
次は意見交換の方に移らせていただきます。あいうえお順で猪熊、玉木、藤村先生の順で、最後に梶ヶ谷先生にコメントをお願いします。では猪熊先生宜しくお願いします。

○猪熊構成員
前回出たいろいろな意見をとりいれて頂いて有難うございます。他の先生方のご意見も、大変参考になりました。教育現場を知らない者の勝手な感想ですが、今回、2点お話しさせていただければと思います。
1点目は今日の資料の医療のことです。梶ヶ谷先生がご苦労なさって今回医療のモデル授業案を出していただきまして、ありがとうございました。見たところ、医療で知っておいて欲しいことは概ね入っていると思いました。国民皆保険で、保険証1枚あれば国民が皆、医療にアクセスできること、基本3割という自己負担があること、高額療養費制度も使えること、負担割合については年齢によって違うこと、予防、また、民間保険の話も入っていて、もし医療で2時間作るとすれば要素としてはこういう感じかなと思いました。
その上で、もし私が高校の先生だったらどういう授業をしたいかを考えてみました。実現性は別として、1時間目では、できたらアメリカのマイケル・ムーア監督の「シッコ(Sicko)」というドキュメンタリー映画の最初の部分を流したい。冒頭、3分ぐらい、事故で2本の指を切断した大工の話が出てきて、手術で中指をくっつけるのに6万ドル、薬指ならば1万2千ドルかかるがどっちにします?と医者に聞かれ、ロマンチックな大工は結婚指輪に必要な薬指を選んだとあるのですね。
映写するのに許可がいるとか、いろいろ難しい面があるかもしれませんが、その部分を見せるだけでも、随分学生さんをひきつけられるのではないかと思います。日本と全然違う、日本であれば保険証1枚でどこの病院に行ってもその日のうちに診察してもらえ、基本3割の自己負担で治療が受けられるのに、そうじゃない国があるのだということがわかります。診療を受けるまでに何日もかかるような国も世界にはあるのだといったことを付け加えてもいいと思います。ともあれ、この映画によって、日本の制度を結構分かりやすく説明できるのかなと。日本の中にいれば医療を受けることは空気や水みたいに、あたりまえのように思いがちだけれど、実は違うとわかります。高額療養費制度があるために医療費があまり高額になったら自己負担は減らせるという説明もできます。また、日本の医療制度はとても良いシステムとして海外から評価されてきたが、超長寿社会になって年をとると病気にかかる人が増えるので、今は医療のお金が大変なことになっていますといった話ができるといいのかなと。
医療で2時間といった場合、医療保険制度の他に医療提供体制というものがあります。今、コロナで関心が高まっていますが、日本は病床数はすごく多いけれど、病床あたりのマンパワー、医者や看護師の数は少ない、そこをどうしますかという話もできるといいなと思います。というのは、2040年には働く人の約2割は医療・福祉人材として必要と言われていますが、これだけ少子化が進んでいる中でそんなに人材は見込めません。2040年といえばあと約20年後、今の高校生は働き盛りで、彼らのお父さん、お母さん、また、おじいさん、おばあさんは、相当医療や介護が必要になる。そういう時代を生きる彼らに、病院の役割とか、人手とか、お金のこととか、そういう課題があることを知ってもらいたい。医療で知っておいてほしい知識を2時間でやるとすると、医療保険と医療提供体制とで2時間やる。そういうことも考えられるかなと思ったのが1点です。
もう1点ですが、前回の話で、今回のモデル授業案についてある程度合意がなされたと思います。つまり、すべての高校の公共の時間で使ってもらえるような社会保障の授業案を作るということです。2時間というのはとても不満なので、是非政治等に働きかけてもう少し時間を延ばせればと思いますが、現実にはなかなか厳しいようで、せめて2時間割いてもらい、そこできちんと使ってもらえる教材を作りましょうということだと思います。そのための教材を作るということですが、今、年金と医療バージョンがあって、その中に標準型と熟慮型があって、それがそれぞれ2時間ずつあります。これをどのように今後示していくのか。2時間しか授業時間が本当にないのだとすれば、2時間できちんと先生の助けになり、使ってもらえる教材、まず2時間バージョンをきちんと作ったらどうかなと思いました。前回のご説明の中で、高校の先生方がこのモデル授業案をどう使うかについて、標準型と熟慮型を混ぜて2時間にして使ってもらうとか、年金だけを使ってもらうとか、そこは現場で考えていただいて、という話もありましたが、私が先生なら年金と医療の標準型と熟慮型の組み合わせを自分でまた考えなければいけないなら、使うだろうかと。ぱっと使えるものがなければ、一から自分で考えた教材の方がいいとなって、せっかく作っても使ってもらえないことになりかねないかと危惧しました。
もちろん、年金と医療が大事というのはすごく分かりますし、社会保障の中でも社会保険、社会保険の中でも年金と医療をきちんとわかっておいてほしいという狙いはわかるのです。ですが、授業時間が2時間しかない場合、年金の標準型だけ使わせてもらいますねといわれるのも、ちょっとこちらとしては切ない気がします。先ほど、年金、医療だけに限るということではないが、年金、医療をきっかけに全体を考えるような教材を作ることを厚労省としては考えているというご説明がありました。そういう考え方もあるかもしれません。ただ、私は個別制度に行く前に、なぜ社会保障が必要か、もし社会保障がなかったらどうするのか、保険料をなぜ払わなければいけないのかという疑問が出ている中で、なぜ保険料を払うことが必要なのかといったことを、まず腹落ちして理解してもらわないと、個別制度の知識を入れてもあまり理解が進まないのではないかと考えています。反対に、うちはお金があって民間保険に入るから公的制度のことは別にいい、とかなってしまわないか。個別制度から入ると、例えば、年金は終身で物価スライドがあるなど、知識のある生徒はどんどん理解を深めていくけれど、そうでない生徒との知識の格差がむしろ拡大してしまうのではないかと。最初に全体像を学んでから2時間目に年金や医療にいってもいい、そういう教材が作れないかと思いました。
その全体像を学ぶにあたっては、できるだけ抽象的にならず、具体的で、高校生が自分事として学べるような内容にしたい。今、あなたが学校に来て学べているのはラッキーなんですよ、あなたのおじいさん、おばあさんが要介護や認知症、無職の場合、社会保障がなければあなたのお父さん、お母さんが養うために働かなくてはいけないかもしれない、もしくは介護のために親元に行かなければいけなくて、高校生のあなたとは一緒に暮らせないかもしれない。生活が大変になり、あなたも高校をやめて働かなければいけないかもしれない。あなたがもしそうせずに済んでいるのは、介護保険や年金保険、医療保険があるからだということを分かってもらう。自分が今ここにいて、親と一緒に暮らせたり、親が祖父母の扶養にあくせくしなくてもいいのは何故なのかということを学んでもらう。それで全体像や制度をわかってもらえるのではないかと思います。
また、前回、玉木先生が、結婚すると相手の親がその扶養の枠に入ってくるという話はとても生徒に響くと話されていて、印象に残りました。高校生が自分も将来、結婚したいとか子供が欲しいなどと思った場合、年収600万円の相手を見つけるのは今、とても難しいといわれます。自分たちの生活だけでもなかなか厳しいところ、若い2人が4人の親を養う場合に、自分たちが潰れないためにはどういうことがあればいいか。公的制度があります。もちろん、民間の制度もあり、それも大事だけれど、働くことで公的な制度を、公的な保障を太らせる方法もあります。といった感じで、公的な社会保障について、まず、きちんと教えるということが大事だと思います。
高校生が40年先、50年先の自分の年金のことを考えるのは難しくても、自分の親とか祖父母を念頭に置きながら今の自分の立場について考えてもらうということ、高校生を中心に必要事項、全体像を教えることができればいいのかなと思います。
それと、授業時間が2時間とされた場合、2時間で何を教えるかということは、よく議論をした方が良いと思っています。社会保障ナカリセバどうなったかとか、公的な制度って何のためにあり、保険料はなぜ払う必要があるのかとか。場合によっては、税金ではなくなぜ保険料なのかという議論も必要かもしれません。出来れば、社会保障の財源の規模として、GDP 比の2割ぐらいの大きなお金が使われているとか、高齢化に比して日本の社会保障の給付の規模は大きくないんだよとか、そういうことも知っておいてほしいと思います。ただ、それを2時間でどこまで入れるかについては、他の先生方のご意見を伺いたいと思います。勝手な意見で恐縮ですが以上です。

○小野座長
有難うございます。ここから先生方皆さん構成員と呼ばせていただきます。では玉木構成員、宜しくお願い致します。

○玉木構成員
先程猪熊さんがおっしゃった「社会保障がなかったら」という導入は大変良いと思います。私も授業で「君達がしっかりしなくては駄目」という意味で、女性が離婚してシングルマザーになって、非正規のおばさんになってしまったら、その後ほぼ間違いなくすごく貧乏な婆さんになって行く、非正規のおばさんから貧乏婆さんになるというフレーズをよく使います。これで、今、自分の経済的な将来をしっかり考えなくてはいけないなという自覚を持ってもらい、さらに、その非正規のおばさんがもし病気になったら本当に子供がご飯を食べられない、そう言うと、社会保障の話に繋がっていくのではないかと思います。これが第1点です。
第2点については、先ほどご紹介いただいた机上配付資料の中に棒グラフで年齢別の医療費がありましたが、あれは非常に impressive だと思います。共助ということを強調しなければならないのですが、共助には今いる人間の間でリスクをプールするということと、今の人間と将来の人間との間と、縦横両方あるはずなのですが、今高校生たちがいる位置が、棒グラフの中のボトムですよね、このボトムに今君たちはいるのであまりピンとこないかもしれないが、君達も必ず70、80、90歳になるんだ、今の世の中病気で死ぬということは20、30代ではほとんどないので、自殺しない限り必ず70、80歳になるんだということ、君たちが80歳になった時にこの305万円とか254万円とかの負担を自分でできるのか、というところから入って、この棒グラフの平均的なところ、真ん中で切った負担をずっと何十年もやっていくというほうがいいだろうという言い方、これが共助の1つのやり方だよということがあるとわかりやすい。視覚的にもこんないいものがありますから、また子供達は結構お金について敏感ですよね、そうするとお金に絡む話が数字で出てくると、それも何十何兆円とか生活実感ないものではダメで、100万円、200万円とか生活実感から届き得るところ、そこの話に持っていくと、教室の現場で伝わりやすいと思います。
3点目です。猪熊さんが仰った「シッコ」という映画は示唆するところが非常に多くて、別のシーンでアメリカ人がヨーロッパに行って病気になった、病院に行ったらドクターが「あなた昔どういう病気しましたか」と既往症を聞いてきた。アメリカで既往症を聞かれるのは、既往症を保険に入るときに告知していなかったのだから保険金払わないぞ、という流れで聞かれることが多い。ところが、「なんとヨーロッパの医者は私の病気を治すために既往症の情報を求めてきたのだ」、とくるわけですね。この辺が完全な民間ベースの医療保険と公的な医療保険の決定的な違いになるわけです。
先ほどの机上配付資料でもう1つ、民間の医療保険の保険料表がありました。あれはご指摘の通り、年齢が上がっていくと保険料が高くなっていきます。なぜ高くなっていくのかというと、20歳より70歳の方が、保険会社にとってハイリスクだからです。保険会社にとってハイリスクな人は高い保険料を払う、つまりリスクが高い人間はたくさん負担する仕組みになっている、これが民間です。ところが公的な医療保険、特に我が国の制度の場合には、昨日心臓の手術をしました、おととい肝臓をやりました、でも今日もう1回肺の手術ができるわけです。これは、どんなにハイリスクだといっても、保険料が上がるとか、保険に入れないことはないんだ、ということです。これは、民間ベースではまずできないです。民間ベースの場合は、リスクと保険料の交換をしていますが、これを保険会社の利益が多くなるようにやるという制約が掛かってくるので、ハイリスクの人は負担が多くなるとか入れないことになります。80、90歳になったら普通の民間の医療保険に入れませんよね。これはリスクが高すぎて、それに見合うような保険料を取ろうと思ったら商品にならなくなってしまう、だからなくなる、市場の失敗として起きてしまうのですね。90歳の人は民間ベースなら保険に入れなくなる、それを何とかするのが公的なやり方だ、という説明です。
この辺が自助ということを教える時に課題になります。貯蓄をしましょうという自助でなく、保険の自助というのは、非常に限界があるということ、特に年齢によってリスクが高まっていくような場合、年齢が上がっていくと所得を稼ぐ能力が下がり、保険料を払う能力が下がるということがある以上、年齢とともにリスクは上がっていくものについては民間の保険は有効ではないです。したがって、自助ということを授業で言う時に、先生方の間で保険という仕組み、リスクと保険料の交換であるという経済的な原理原則について、深い理解が必要です。ここなしに、民間で、自助ですよ、やたら大きな政府はいけません、という文脈で言ったら、これは共助という理念を否定しながらということになってしまいます。ですから共助ということ、特に世代間の共助ということを含めて考えなければいけない社会保障の場合には、自助としての民間の保険は、相当、授業での扱いが難しいです。私が現場の教員だったらようやらんという感じです。以上です。

○小野座長
有難うございました。
それでは藤村構成員よろしくお願いします。

○藤村構成員
よろしくお願いします。ご説明、有難うございました。
標準型と熟慮型が同じような内容なので、標準型の資料に沿って気がついたことや感想を述べさせていただきます。
まずリスクという言葉がたくさん出てきますが、家庭科では社会保障を「共に生きる」という単元で扱っていて、社会保障とは「人間として最低限の生活を保障するための仕組み」だと教えています。目標のところで、評価規準はどうなっているのか。この目標が達成できたのかどうか、どのような資料でどのような観点で評価するのか見取れませんでした。「理解する」という言葉が出てくるのでこの授業では知識・技能を見取るのかなという想像はできます。導入と展開2で「高いと思うか安いと思うか」を問う言葉や「負担できるかを考えさせる」という言葉が出てくるのですが、結論ありきで誘導的な問いではないか、ということが気になりました。このような誘導的な問いの場合、あらかじめこちらで結論を説明する方がベターではないかという感想を持ちました。
展開1のところで「知識を整理させる」と言う言葉が出てきます。新学習指導要領では「どのように教えるか」というところに力点を置いて教員は授業を展開していくようにということが言われていて、「主体的・対話的で深い学び」というキーワードが文科省から示されています。対話をしながら、ICTを 活用しながら理解させるために、この展開1の「知識を整理させる」というところについては、どのように教えるのかということも書くと、現場の教員はとても助かると思いました。例えばクイズなどでも良いので能動的な活動を示すと良いのかなと感じます。
展開3のところでも「理解する」という言葉が出てくるのですが、これも先程と同じです。民間保険会社の年齢別の保険料などを示しながら説明するという内容が出てきましたが、必ず押さえたい内容だという前提として、この部分を何で教えるか。例えば文章を読ませるとか漫画のようなものを見つけてきて示すとか映画などの既存の動画を参考にするとか、ただ教員が説明する、資料を見てもらう、という授業でなく、生徒が能動的に動き、しかも教員がたくさんの事前準備が必要だったり高度な資料が必要だったりということではない活動が良いと思います。生徒の能動的な活動が見えるような示し方ができると良いかなと思います。
最後のまとめで「気付かせる」という言葉が出てきますが、 どうやって気づかせるのかと言うことも疑問に感じました。また、「リスクに見舞われる」という言葉が出てきます。家庭科では、人生で望んでいなかったり想像していなかったりするライフイベントに直面することはあるが、 社会保障として最低限の生活を保障する仕組みが日本にはあるということを教えています。進学校では日本がユニバーサルヘルスカバレッジを早期に達成したことで健康寿命が延びたということも教えていますが、例えばそういうアブローチで、まず最初に社会保障の全体像を示してから授業に入っていくという意見に私も賛同します。
熟慮型については進学校を想定した時に、目標に沿ったオープンクエスチョンを提示すると良いのではないかと思います。熟慮型を別に用意するのではなく標準型で基本を抑え、更に1時間かけて何らかの探求的な活動ができるような課題を提示すると良いのではないかと思います。
オープンクエスチョンの場合はルーブリックを示して、何をどう評価するかということも併せて提示してあげると、現場の教員は単なるおしゃべりの場で終わらせず、きちんと評価もできる活動になるのではないかと思います。先程猪熊さんから「ぱっと使ってもらえるものでなければ」というご発言があったように、授業ですぐに使える役立つ教材作りをメインにして、その教材を使った授業例として作っていただいたような指導案も示すのか、指導案を示してこのようにやってくださいと言うのか。もし役立つ教材作りをメインで考えた時に、例えば「NHKfor School」とか経産省が出している「STEAMライブラリー」のような 学びのプラットフォームを作って、教材を使いやすい形で提示すると良いのではないかと思いました。オープンクエスチョンの例としては広島大学教育ビジョン研究センターというところが「社会科教科書執筆者からの挑戦状」というおもしろい動画を出しています。1つめの課題は教科書を読んでまとめさせる課題、2つめはオープンクエスチョンで深く追求させる課題が出ています。手元に資料がありますが、例えば「教科書を読んで今日のヤフーニュースで取り上げられていた国の名前と州、そこがニュースになった理由を一覧表にしましょう。」というのが1つめの課題で、2つめの課題は「世界の国々の国旗をグループ分けしましょう。あなたの分類とその基準を教えてください。文章、イラスト、動画いろんな答えを待っています。」です。動画を見てクイズに答えるとか資料を参考にクロスワードパズルに答えるとか、生徒が主体的に楽しみながら授業に取り組めるような教材を提示していただけると、現場の教員は自分の裁量で生徒の実態にあわせてアレンジができるだろうということは感じます。以上です。

○小野座長
有難うございました。
それでは梶ヶ谷構成員お願い致します。

○梶ヶ谷構成員
構成員の皆さんのご意見を伺って、一番難しかったことは「標準型」と「熟慮型」の区別でした。作業はやさしい内容で基本的なことを主にする「標準型」と、少し高度で細かな知識、そして考えさせる内容を主にした授業案はどうだろうかということで、PT作成 の先生方により「標準型」と「熟慮型」ということで始めました。ただ内容について両者の「すみ分け」が難しかったということがありました。そして年金保険については2時間、医療保険は2時間ということで作成しましたが、実際の授業では年金だけで2時間、そして医療保険で2時間、計4時間を使う授業の構成は難しいということもあります。
さらに社会科の教員はどうしてもコンテンツ、学習内容に注視してしまいがちだとも思いますが、今回はどういう形態での授業を展開し、あるいは生徒に何をどのように考察させるかということが結果的に少なかったのではとも思います。また内容的なことですが、医療保険にしても年金保険にしても、「保険」ということについて、もう少し重点を置いて扱うべきだったように思います。さらに学習指導要領・解説では財政との関係を考察させ、年金保険も医療保険も学習させるという記述もがあります。いずれにしても全体的にもう少し高校生が把握しやすく理解しやすい身近な事例を活用する必要があったのではないかと思いますし、今回は取り上げられませんでしたが年金について労働問題との関係を、そしてさらにもう少し範囲を広げて、例えば低所得や貧困の問題などを医療や年金に反映できればよかったとも思いますが、今後は改訂や教員用のマニュアル等で盛り込めればとも思います。

○小野座長
有難うございました。事務局から何かありますか。では構成員の皆様の方から2回目で何かご発言されたい方があれば時間の許す限りでお願いしたいと思いますいかがでしょうか?よろしいでしょうか。では玉木構成員お願いします。

○玉木構成員
現場のご意見を聞きたいのですが、医療や年金は社会保障の各論ですが、導入部で、総論として、保険を政府がやっているということを入れるというのはどうでしょうか。現場においてある程度熟慮型をやるような学校であれば、可能ではないかという気もします。
今回の資料は年金を別建てで作っていますが、保険についての一般的な理解があると、長生きリスクについては年金、医療費のリスクは医療保険、失業のリスクは雇用保険という様に応用が利きます。そうすると授業を受けた生徒たちも、いっぱい分かったという満足感が得られるのかなと思います。制度ごとにやっていくと、結局、すぐ忘れて終わってしまうということになってしまいますから、現場の先生方のご意見を最大限受けるために、総論的なこと、あるいは保険というものについての理解を提供できるかどうかを議論すると、良いのではないでしょうか。授業時間が限られている中ではありますが、分かる子は10分保険について話をすれば分かってしまうと思います。時間的なコストパフォーマンスがいい授業が可能かもしれないという気がします。

○小野座長
有難うございます。それでは今の発言に関連してでも構いませんが、いかがでしょうか。藤村構成員お願いします。

○藤村構成員
社会保障をきちんと教えてあげた方が良いのかなと。高校卒業後すぐに働く子が多い学校の生徒達の中には、社会保険について「よくは分からないけれども国にお金を取られている」とか「払わなくて良い人もいるらしい」とか漠然としたことしか理解していない印象もあります。社会保障について知っておくことは役に立つ、自分の人生を守るためにもこういうことをちゃんと知っておいてほしいと思うので、社会保障についてもう少し丁寧に教えていきたいと思います。

○小野座長
有難うございます。では猪熊構成員お願いします。

○猪熊構成員
総論から始めると抽象的な授業にならないかとか、保険について教えるのは難しいんじゃないかとか、そういう懸念もあると思いますが、公的な保険、社会保障がなければどうなるかということをまず教えていただくといいのかなと思います。個別制度もそれぞれ深く関わっています。年金は、現役時代にどれぐらい働いたかの結果ですし、仕送りする子供の数や、長生きする人の数によって給付の水準も変わってきます。高校生中心の物語というか、高校生を中心にものを考えさせる授業にすれば、総論から始めても抽象的にならずに済むのかと思います。お金の話は興味や関心がある人が多いので、賃金や年金額を具体的に出して教えるのも悪くないのかもしれません。
サービス精神をもって、読む人に分かりやすいものを作るのがいいと思います。2時間バージョンの教材を作った場合、モデル試験問題とか評価基準とか、そこまで含めたワンセットの教材を作った方が現場の先生方に役立つなら、そういうことも考えたらいいと思います。
今後の検討を進めるにあたって、教壇に立っている現場の先生方の話をもっと聞かせていただけるとありがたいと思いますし、場合によっては、どういう教科書や教え方であれば興味を持つかを、高校生にヒアリングしてもいいのかなと思います。以上です。

○小野座長
有難うございました。
では事務局のほうからお願いします。

○和田企画官
本日は貴重なご意見ありがとうございました。まさに前回もそのようなご指摘いただいておりますし、社会保障の全体像をどうお示しするのがいいのだろうということで、医療を題材にして悩みながらやって来たので、冒頭机上配付資料4と5の説明をさせていただきまして、今の構成だと資料4しかなかったものですから、これだと役人的にはよく出来ているのですが、これを高校生にと言うと分かりにくい、情報が多すぎると思います。今の構成は資料4を一番最後に持って来させて頂いておりますが、逆に今いただいたような指摘を踏まえて資料5のようなわかりやすいものに作っていければむしろ冒頭でつかみとしていいのではないかと思いました。
もう1点悩んでおりましたのは、社会保険に集中して社会保険料の支払いの場面においては、その意義を教えたいと思っておりますが、社会保障全体で申しますと労働の分野もありますし、子育てや障害者福祉中心の部分もありますので、そこまで手を広げ出すとつかみでわかりやすいと言いながら分かりにくくなるところを懸念しながら作っております。本日頂きましたご指摘では、高校生が一番出会う場面に近いところが一番高校生の興味をひくだろうというご指摘はその通りだと思いますので、本日頂いたご指摘もさらに踏まえまして、資料5をより高校生が出会う場面に近づけていくような形ができれば、ご指摘を踏まえたようなより良い興味を持ってもらえる事業の導入にできるのではないかなと考えました。より高校生が興味を持っていただける内容、より高校生に近い内容でどういうものがあるか、本日の議論を踏まえまして引き続き検討させていただきたいと思います。

○小野座長
有難うございました。それでは委員の皆様方いかがでしょうか。
特にございませんか。よろしいでしょうか?それではここで今日の議論としては締めくらせていただきたいと思います。
事務局の方から第3回の検討会では今日と前回の議論を踏まえまして修正を行った社会保障教育のモデル授業についてご確認を頂く予定と伺っております。
それでは事務局の方から次回の日程についてお願い致します。

○赤崎補佐
第3回検討会は事務局より追って御連絡をさせていただきます。

○小野座長
第3回検討会は事務局より追って御連絡をさせていただきます。
 本日は貴重なご意見どうもありがとうございました。本日の検討会はこれにて閉会いたします。
どうもありがとうございました。

以上