第3回人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議 議事録

労働基準局 安全衛生部 安全課

日時

令和元年10月30日(水) 13:30~15:30

場所

AP虎ノ門11階 Aルーム

議題

(1)現行の取り組み・先進技術の紹介
(2)課題を踏まえて取り組むべき対策について
(3)その他

議事

 

○吉岡中央産業安全専門官 定刻となりましたので、ただいまより第3回人生100年時代向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議を開催いたします。なお、本日は御都合により、飯島構成員、南構成員が御欠席となっております。また、松本構成員におかれましては、所用により途中で退席される予定と聞いております。それでは、以降の議事進行を城内座長にお願いいたします。   
○城内座長 皆さん、こんにちは。それでは、議事に入りたいと思いますので、円滑な進行に御協力くださいますようお願いいたします。また、傍聴の皆様におかれましては、カメラ撮影等をここまでとさせていただきます。御協力をお願いします。
 最初に、事務局から配布資料の確認をお願いします。
○吉岡中央産業安全専門官 事務局より配布資料の確認をさせていただきます。皆様のお手元にある1綴りの資料の下にページ番号、通し番号を振っておりますので御確認ください。まず1ページが次第、3ページは資料1、第1回及び第2回有識者会議における主な意見、7ページは資料2、労働災害の分析、9ページは資料3、高年齢労働者の労働災害防止対策の取組状況、13ページは資料4、主な論点、続いて本日御発表いただく構成員の提出資料です。15ページから植村構成員、21ページから東構成員、31ページから松葉構成員の発表資料です。なお、植村構成員の発表資料について、19ページの2のテクノロジーの活用事例については非公開となっており、スクリーンには投影させていただきますが、資料には含まれません。なお、構成員の皆様の机の上には、その部分、御発表資料と同じものを配布させていただいております。この会議終了後、回収をさせていただきますので御協力をよろしくお願いいたします。最後に、参考資料1として構成員名簿です。資料に不備などありましたら、事務局までお知らせください。
○城内座長 皆様、よろしいでしょうか。それでは議事に入ります。まずはじめに、本日の次第につきまして、事務局から説明をお願いいたします。
○寺島副主任中央産業安全専門官 それでは、次第に従って、本日の議事の進め方について説明いたします。1枚目の次第を御覧ください。はじめに、前回、前々回の意見について御確認をお願いしまして、併せて事務局より資料2と資料3を用いて、災害分析などの補足の説明をさせていただきます。
 次に議事に入り、前回まで課題の洗い出しを中心に御意見をいただいたところですので、本日は対策を中心に御意見をいただきたいと考えております。議事の(1)にありますように、現行の取組・先進技術等の紹介として、構成員の先生方お三方から先進技術、具体的な支援機器の例や、実際に行われている安全衛生対策の取組例などの御発表をいただきます。その後、(2)の課題をふまえて取り組むべき対策について、幅広く御意見をいただければと思っています。
 なお、資料4の主な論点につきましては、その後、中盤で御説明させていただく予定です。以上です。
○城内座長 進め方の御説明について、何か御意見等はございますでしょうか。よろしいでしょうか。それでは、前回、前々回の会議における主な意見と補足説明等について事務局から説明をお願いいたします。
○寺島副主任中央産業安全専門官 それでは、資料1を御覧ください。3ページです。第1回及び第2回、有識者会議における主な意見として資料を作っています。アンダーラインの部分が第2回での意見となっておりますので、その部分をかいつまんで御紹介します。3ページ中ほど、身体・精神機能のデータに関して調査研究の御指摘を改めていただいています。
 下から3分の1程度の所で、危険源の洗い出しとして、リスクアセスメントの必要性について触れられています。下のほうに、警告音等について低い音などで、聞き取りやすいようにすべきではないかといった御指摘がありました。
 4ページ、困っていることなどを職場で話し合えるような、相談しやすい職場づくりが必要であるといった御指摘がありました。中でも「気がかりシート」のようなものを導入して、言いやすい職場づくりが重要といった御指摘がありました。下のほうで、「循環器系疾患に関して」と書いてありますが、脳心臓疾患に関する労災のデータなども踏まえて、高い負荷をかけるような作業の危険性についての認識や、5ページの日頃の健康管理や安全管理が、不十分な作業環境からの影響に留意が必要ではないかといった御議論があったところです。
 5ページ中ほどには、「体力テストと業務とのマッチング」と整理しておりますが、フレイル予防のためのチェックリストの項目の紹介であったり、基準を作るというよりは、そういった気づく目安を示していくようなことが実態に即しているのではないかといった御意見がありました。
 5ページ、下ほどには教育の内容についてですが、就労、就業は健康を向上させるといった御紹介があり、また、新たな職へ就く人へのジョブトレーニングの重要性についての御指摘がありました。
 6ページの転倒事故についてです。新たな職場ゆえのものはないという、何が原因か分からないといった御指摘があったところではありますが、ただ注意力散漫になっている部分が原因になっているケースの指摘があったところです。
 サービス業においてはやはり、さほど危険な作業ではないとの認識があるということで、その部分についてしっかり教育していくことの必要性の指摘がありました。下のほうには設備対策についてのトップの決断であるとか、あるいは就労しているどうか、就労の点と健康維持、健康づくりの点といった職域で行うことと地域での取り組みといった点かと思いますが、そういったところを分けて御議論すべきといった御意見もあったところです。
 続いて災害分析について資料2で説明させていただきます。前回の会議において、高年齢労働者の転倒災害では、加齢に伴う身体的な衰えのほか、不慣れであることが寄与しているのではないかといった御指摘があったところです。このため、事務局において労働災害の発生率すなわち、労働者1000人当たりの災害件数について、経験期間を1年以以上と1年未満との層で分けて分析しています。右の折れ線を御覧いただきますと、年齢が上がるにしたがって発生率は上がってきますが、いずれの年齢層においても経験年数が1年未満の、いわば不慣れな層に災害が多くなる傾向が確認できるところです。
 8ページは同じく年齢と経験の別について、事故の型別に取り出して災害発生率を見たものです。同様に、年齢と経験の両方が災害発生に寄与していますが、事故の態様によって寄与の度合いが異なっていることが特徴として表れてきます。
 資料3、9ページを御覧ください。高年齢労働者の労働災害防止対策の取組状況で、平成28年の労働安全衛生調査(実態調査)の結果を示したものとなっています。様々な業種の事業場を対象としまして、高年齢労働者の身体機能の低下や基礎疾患に伴う労働災害防止対策に取り組んでいますかといった質問をしております。実際に取り組んだ項目に○を付けるタイプの調査になっております。全体では取り組んでいるのが55%強となっております。下は、どのような項目に取り組んでいるかというのがグラフになっておりますが、下から6番目の健康診断実施後の措置が比較的多く取り組まれている一方、上から4、5番目の辺りの体力づくりや健康管理は低調であり、企業規模による差が出ている項目になっています。
 10ページは業種別の取組状況です。グラフが突き出ているところがありますが、こちらの建設業や運輸業では、作業前の体調管理や危険作業の配慮などの取組割合が比較的高く出ている一方で、第三次産業では、全体としてかなり低調な結果となっています。
 11ページは、平成25年と平成28年の結果を比較したもので、残念ながら、平成28年のほうが取組が低下してしまっています。調査の対象や質問の仕方によるところもありますが、一層の高齢者対策についての周知・啓発が必要な状況と思われます。資料の説明は以上です。
○城内座長 資料1は事務局でまとめていただいたものですが、修正の御意見などありましたらお願いいたします。また、資料2、3について御質問等があればお願いいたします。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは、次に移ります。議事の(1)、現行の取組と先進技術の紹介として、構成員より発表をいただきたいと思います。はじめに、株式会社日本政策投資銀行の植村様から御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○植村構成員 ただいま御紹介にあずかりました、私は日本政策投資銀行の業務企画部のイノベーション推進室からまいりました植村と申します。本日は、このような貴重な機会を頂きまして、誠にありがとうございます。イノベーションという文脈では、産業の枠を超えて動きが活発になってきておりますのでテクノロジーの動向からどんな変化が起きようとしているのかを皆様と共有できたらと思い、説明をさせていただきたいと思います。
 まず3ページを御覧ください。日本の生産性が低いというデータを御覧になったことがあるかと思いますが、健康・社会福祉サービスの労働生産性指数に限って取り出したデータになっております。ちょうどこのグラフに掲げております欧米の国で、テクノロジーの動向調査をしてきましたので、これらの国に限ってデータを取り出しております。見ていただきますと、日本の生産性の指数が2000年から低下する中で、他国は、いろいろな要因があるかとは思いますが上昇傾向となっています。やはりどの国も、介護などに限ったデータにはなりますが、人手不足、現場の負担の増加、国の介護費用の負担の増大点が課題となっており、この分野ではテクノロジーを入れてケアの効率性を上げていくとか、ケアの質を落とさずにコストを抑えていく取組を各国が進めていらっしゃるところです。
 4ページで、今、どんなテクノロジーの動きが出てきているかを簡単に御説明します。デジタル・トランスフォーメーションという言葉が出ておりますが、こちらはスウェーデンの大学の先生が2004年に御提唱された概念です。ITの浸透が人々の生活のあらゆる面でより良い方向に変化させることを意味しております。2000年に入りまして、インターネットやeメールが普及しその辺りから、データが価値を生み出していくということで、産業の構造等も少しずつ変化してきました。2010年代ですと、新たに大規模なデータを処理して、Big DataとかIoT、AIというものを使い、リアルな空間とサイバーの空間を融合した新しいところで産業の駆け引きが始まっております。
 5ページ、今のところを80年代から見ますと、そのときは、ハードウエア、ものをいかに良い品質で作り上げて消費者に届けるかという点で競い合っておりました。90年代に入りますと、ハードウエアから更にソフトウエアに価値の重心が移ってきております。このときにデータをいろいろと集めて、そこから新しいサービスが生まれてくるということで、現在は、データを活かしたサービスに価値の重心が移動してきております。例えば、製造業ではシーメンスさんなども、スマートファクトリー化ということで、工場をIoTを使って動かしていく取組をされていたりウーバーという新しい配車アプリサービスはIoTによるデータと車の位置情報がマッチングして生まれたものとなっています。
 6ページです。このように、新しくサイバーフィジカルの分野において、データを取り出して新しいサービスを生み出していくというところと、モノづくり企業に関しても、モノを作ってからデータを活かした新しいサービスを作る動きがございます。一方で、メガ・プラットフォーマと言われる、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのGAFA、中国のBATと言われるような企業が、今度は、モノづくりのほうも志向してきております。例えば、このメガ・プラットフォーマの動きでしたら、もう御案内のこととは思いますが、グーグルが自動運転の技術を持って自動車産業にも入ってくる動きが出てきております。
 今までは、性能が良いものを作って、そういった供給側の発想から、お客が必要としているものをどう提供するかといったことでしたが、これからは、お客様とつながりながらどういったサービスを提供するのかという発想が求められているところです。
 7ページです。サイバーフィジカルに関係する今の主要技術をまとめております。まず、はじめにIoTです。こちらは普段の生活の中でも、スマートフォンなどを使っていらっしゃるかと思いますが、モビリティ、工場ですとか、医療、インフラの分野でもIoT化が進められおります。少し先に目を転じてみますと、機械でないもののIoT化が進んでいく未来が来るというところで、紙や衣服にもセンサーが埋め込まれたり、またアメリカでは薬にセンサーを入れて、実際に服薬したかという確認を取る使われ方もされてきています。薬の中にセンサーを埋め込まれるほどセンサー自体が小型化してきております。こういった、普段身近にあるものにもセンサーが入ってくるのでしょう。
 引き続いてAIです。こちらもディープラーニングが進みまして、画像認識などの分野に広がっております。例えば、アルファ碁が日本のプロ棋士を破ったことがニュースにもなりました。先ほどの技術がどのようなところに使われるのかを見たときに、AIによる創造力の代替ということで、技能継承や介護のケアプランの作成などにも使用が進みつつあります。
 次のロボティクスは、人に近い身近な所でロボットの活用が進展しつつあります。また、5Gが普及しますと、現状のコミュニケーションロボットなどは反応のタイムラグがあって違和感を感じる点がなくなって、社会の身近な部分に浸透してくると考えております。
 8ページです。テクノロジーの進歩は、指関数的な変化が起こるということで、あるとき一気広がる可能性があります。こちらの表は、これからどんな産業が出現するかを表した資料です。いろいろなものが生まれる中で、センサーなどがつながって、最終的にはスマートシティに集約されていく、更にその先の世界観をちょっと見ますと、だんだんとユーザーが中心となっていきます。 9ページです。御参考までですが、今後、出現が予測される技術で幾つか挙げております。例えば一番上の、人間拡張といったところが、高齢者の体力が低下したところを補える技術になっていくと考えております。また下段を見ていただきますと、感情を理解していくようなテクノロジーの出現が予測されます。続いて、こういったテクノロジーを活用して今、どのような動きがあるのか、具体的な事例を御紹介します。
 11ページです。こちらは製造業の絵になっておりまして、先ほどのシーメンスの事例になっております。まず工場のスマート化がどのようなものかご説明します。ドイツでは、「インダストリー4.0」が提唱されております。製造業におけるオートメーション化、データ化、コンピュータ化を進めております。こちらはプラントの絵になっておりますが、初めのプラントを作る設計から実際の運用、そしてサービスの提供のところまでデジタルで管理をしています。また、人が実際にいるリアルな現場をデジタルからも制御できます。 12ページです。こちらは建設の現場です。建機自体にセンサーを登載し、稼動中の建機の状態が把握できます。また、土地の測量はドローンを飛ばして、ドローンから得られたデータで、ここをどれくらい削ればいいといった情報も全てデジタルで一気通貫で作成できます。データがあるので現場ではレバー1つで高精度な動きを建機でで再現できます。
 病院の事例ではアメリカのデジタルホスピタルをご紹介します。完全にペーパーレス化しており、本来、人間が提供すべき、やるべきことに集中できるようになったそうです。
 13ページです。実際に、現場で働いている高年齢の方々が身に付けることで役立つテクノロジーを御紹介いたします。こちらは安全管理支援ソリューションシステムです。バイタルセンシングというウェラブルのセンシングセンサーを付けることで、健康管理ですとか安全管理、位置情報管理などを把握できます。健康管理では、例えば熱中症の症状は本人が気付かないうちに進んでしまうことがあるなか、センサーを身に付けることで、データのほうが的確な判断が可能であった事例もございます。
 14ページです。腰痛などを支援するテクノロジーです。こちらは空気圧で動くものになっております。電気を使わないので使用範囲が広がります。今までは価格が50万円ほどしておりました。こういったロボットは、価格が課題一つとなっていますが、11月より新しく10万円台のものをWebや量販店で販売を開始します。 続いて右側です。こちらは異業種からの参入事例ととなります。自動車向けの技術を活かしたパワーアシストスーツです。
 15ページ、こちらは非製造業の例になります。介護関連でIoTを導入し自分が働きたい時間にすぐ働ける環境やバックオフィス業務もその場ですぐに記録ができきます。
 16ページです。こちらは、テクノロジーが聞く、触る、見ることなどに対してどのようなサポートが実現できるかという御紹介をいたします。まず、聞くサポートです。アメリカの事例です。遠隔の診断をしている画面になっております。お医者様と自宅にいらっしゃる患者様、そして一番右に文章が出ているかと思います。耳が聞こえにくい人もこういった治療方法を利用しております。
 触る部分です。こちらはドイツの研究機関です。宇宙技術を身近なところで使う研究をされています。これはそのうちの1つです。手の動きを失ってしまった方がバーチャルな空間の中で、実際にそのものに触っている感触ですとか硬さを感じ取れるものです。
 見るのサポートです。神戸の医療産業都市内のアイケアセンターで紹介されている商品の1つです。今、眼鏡を掛けていると思うのですが、その眼鏡の横に細長い消しゴムぐらいの大きさのデバイスが付いております。こちらのデバイスは、紙に書いてある文字を読み上げてくれる機器になっております。また、読み上げをやめる時はジェスチャーの動きで停止できます。
 次に、左側のロボットです。こちらは人型のサービスロボットです。ドイツの研究所のロボットです。ロボットのベース部分は共通化されており、ロボット箇所にアームを付けるとサービスロボットにとして利用でき、ロボット箇所を収納棚に変えると物を運ぶ搬送用ロボットとして使用できます。やはりロボットを取り入れるには、その空間がロボットの邪魔にならないようなデザインがどうしても必要だということで、その辺が社会実装をしていくためには1つ苦慮されているお話がございました。
 17ページです。テクノロジーの導入はデータの蓄積が必要となります。こちらの写真は、アメリカの医療ネットワークを広げたときのデータマップです。こういった大きなネットワークをお持ちということで、スマートフォンで自分の情報にアクセスできるそうです。独自のデータをお持ちですので、例えば健康診断のアナウンスは個人個人にカスタマイズされた情報を生成し啓蒙活動を行っています。
 データ化が進むとデザインも変わっていきます。例えば、ペーパーレス化されたクリニックでは受付がなくなり、待ち時間も必要ないため、クリニックの用途が診察を受ける用途にプラスして医療情報を必要とする人が集える場所に変わりつつあります。このように、社会実装のためにはデザインも含めて考えていくことも求められます。
 最後です。デンマークの高齢者福祉三原則では、高齢者も社会に参画してもらうことを提唱しております。高年齢労働者が使用しやすいテクノロジーの導入を考える際は、高年齢労働者への価値観の配慮、セキュリティなどが課題の一例として挙げられます。データが集まる仕組みが構築できると新たなサービスが生まれます。日本では、そのような新しい世界像を「ソサエティ5.0」で描いております。テクノロジーを導入するためには、技術が既にある中で社会の有り様ですとか、ロボットが溶け込める住環境などのデザインも考えることが求められるでしょう。また、言葉もデザインの一つと考えております。アメリカで、高齢者を表す「シニア」や「エルダー」といった言葉をより若々しい新しい言葉に置き換えられないかという動きがあるそうです。
社会的なデザインも含めると様々な関係者が増えますのでステークホルダーを取りまとめていくような点も含めて、高年齢労働におけるテクノロジーの導入を描く視点も求められるかもしれません。駈け足の説明になりましたが、以上です。御清聴頂きまして、誠にありがとうございました
○城内座長 植村様、ありがとうございました。次に、国立障害者リハビリテーションセンター研究所部長の東様から御発表をお願いします。
○東構成員 ただいま御紹介いただいた東でございます。どうぞよろしくお願いいたします。座って説明させていただきます。引き続き、資料の21ページです。私のほうでは、高齢者の介護施設に、最近開発されてきた機器を導入する事例の紹介です。機器を導入したことによって、新たな介護の技術が生まれるのではないかということで、それをモデル的に実施してみようという取組を老健局のほうでやっておられます。私はその事業に実際に関わった経験がありますので、それを御紹介することで、何がしか高齢者の安全な就労の支援につながるような参考になれば幸いです。
 サービス業の中での介護産業は全国的に普及しているわけですが、一方で、人手が不足していることは周知のことかと思います。高齢者に特化したものではなくて、実際には若年齢層も含めて、職場ぐるみで何か取り組んでいかなくてはいけないのだろうと思います。業務を見てみますと、同時進行的な課題が多く、例えばナースコールがパッと鳴ると、そちらに注意を向けなくてはいけなくなり、優先順位判断というのが生まれます。当然、相手は人であって、高齢者であって、しかも、介護が必要な方です。
 もう一方で、特徴的なのが、姿勢変化が非常に多い業種です。そういうことを頭に入れながら、どういった実態なのかをまず調査してみました。特に今回は排泄支援ということに特化しています。21ページの下の段になります。まず、アンケート調査を全国にしておりますが、一番下の欄に経験年数という所がありまして、赤で囲んである所が比較的高年齢層かと。実年齢は分からないわけですが、経験年数からいくと、そういった層に当たるかと思います。一方で、左側にいきますと、5年未満、5~10年の所に意外にピークはなくて、10~20年の所にピークがある状況ですので、今後、10年から20年すると右側の赤枠に入っていくことが見て取れます。
 次のページです。その方々に、身体的負担というのがどういう状況かを聞いてみました。左上の図ですが、コルセットとかサポーターの着用はしているかといいますと、35.6%が着用しておられて、その下、着用理由ですが、腰痛があるということです。これは腰痛の診断がついたというところまで追跡しているわけではありませんので、何がしかの自発痛なりの症状があるという理解です。右側の上にいきますと、過去に腰痛で医療機関等で治療を受けた経験があるかというと、約50%が受けた経験があるとなっております。その下に、肩と膝の痛みで医療機関等で治療を受けた経験があるかというと33%で、何がしか身体の不調があるような状態があって、かつ、もともと持病として持っている方々も含まれているのではないかと考えられます。特に排泄介護に特化してですが、次のページ、身体的負担と心理的負担ということで聞いておりまして、排泄支援では、赤で囲んだ所が比較的多いのではないか。夜間の頻回のナースコール対応とか、シーツを汚した場合の処置とトイレへの移乗、それから、夜間のおむつ交換です。
 次のページをお願いします。心理的負担もやはり夜間の頻回のナースコール対応で、人員が手薄な時間帯での不安というのが出てきています。排泄中の見守りというのもあります。それから、ここで特化するものとして、「おむついじりへの対応」とあります。ちょっとマニアックになりますが、おむつの交換をすることがなかなか、インターバルが開いてしまうとおむついじりにつながってしまうということが出ています。
 こういった結果を踏まえて、実際の現場の方々にインタビューをし、どういった課題があるかを洗い出しております。特に今回、対象としたのは青文字になっている所です。赤囲みの所ですが、移乗支援の課題です。それから、尿便失禁の課題におむついじりへの対応。、今回、この2つに対応しようとしております。特に移乗支援は持ち上げる介護が、2人介護でやるのが一般的になってきておりますが、それが何とか1人にならないかというところにチャレンジしております。
 次のスライドです。まず、移乗支援に対する取組です。右側に、一見、何か見たことないような感じのデザインの図がありますが、これは、白い部分に向かって覆い被さるようにして、立ち上がりを支援してくれるような機器です。膝と腰と腋の部分で支えて、立ち上がりをサポートする、移乗サポートロボットと言われている機器です。こういったものを導入して、3つの介護老人保健施設、それから、特養と言われる介護老人福祉施設に導入を試みました。結果として、A、Bの2つの施設はうまくいきました。Cの施設はハード面で、設備を整えている間にタイムアップとなりました。また、次のページですが、そのCの施設で最終的に取り組んだのは、レールとかにキャスターが引っかかってなかなか動かないことがありましたので、それをクリアするために、メーカーさんと一緒になって取り組んで、ロボットが可動する空間をまず確保した事例でした。
 次、お願いします。導入がうまくいったA施設、B施設の特徴的なところを紹介しますと、左側にグラフがありますが、通常の介護で行った場合のトイレへの移乗の時間です。40秒弱でできております。右側がこの機器を使ったものです。そうすると、113秒かかっているので、相当かかっております。この内訳で、どこに一番時間がかかっているかというと、右側のほうに出てきておりまして、圧倒的にかかっているのが準備です。セットアップというか、準備に時間がかかる。そこから先の行為は倍ぐらいのスピードだったり、3倍ぐらいのスピードだったりというふうになっております。ここで何を考えるかというと、まず時間的コストをどう考えるかということです。一方で、安全面の部分と、勤務自体の負担は機器のほうが小さいのではないかと考えられます。
 テクノロジーがもう少し進んで、少しセットアップの方法を変えれば時間短縮はもう少しできるだろうと思います。そうすると、時間コストが少し減ってくると思います。2人介護でしている場合、これが1人でということになりますので、もう1人はフリーになれる可能性が出てくるわけです。
 次のページです。筋負担はどれぐらいあるかということで、表面筋電図を当てて、背中の筋肉、脊柱起立筋に当てております。これは右左です。もちろん左右差はあります。通常介護のほうが圧倒的に負担は大きいと。これは単位時間当たりの筋の負担量ですが、そうすると、負担は機器を用いた介護のほうが小さいが、時間はかかるということで、そこをどう考えているかということになっているわけです。
 次のスライドをお願いします。機器導入の効果的なところはわかったとして、どんな経過をたどっていくかということで、稼働日誌を毎日付けていただきました。初期の段階はこういうことは大事かもしれないと思いまして、紹介させていただいております。基本的には一定程度の回数をやっていただいて、9割以上は問題なくできたということで、その機器の動かし方は修得され、対象者の満足度も8割を超えている結果になっております。
 次、お願いします。こちらは別な施設ですが、やはり同様な結果が出ております。機器の稼働回数は少なくて、54回ですが、9割ぐらいの満足度が得られていて、最終的には対象者に対する影響は低くなってきているというようなデータです。
 次のスライドをお願いします。実際に機器を使った人たちのユーザビリティーの評価をやってみようということで、使い勝手はどうでしたかというところでは、真ん中の6番の所、4.3となっておりますが、4以上あるということは満足していることになります。一方、上のほうの2番の所は2.6ということで、これは重さ、取り回しが非常に大変であることに由来しているので、そこがスムーズになれば評価があがるだろうと思います。全体を平均しますと、一番下の所の全体の平均値として3.6ですから、やや満足しているという方向からそれ以上という結果になっております。
 次のスライドをお願いします。この後、施設Aさんにインタビューしています。この中で障壁部分というのが一つ出てきているのですが、これは自分に使えないと、最初からあきらめてしまう方があり、高年齢者にその傾向があったということでした。それから、よほどの研修を積んでいかなければいけないとあります。一方で、時間のことですが、自分で行ったほうが早いということも、最初のころは訴えられていたということでした。これについては合意形成をしっかり取りながら進めたということでした。
 2つ目の○の下段の所ですが、導入前・後で定期的な研修とチェックを行うと、よりスムーズに導入ができるのではないかということが挙げられておりました。3つ目の○の所は、今後の運用についての提案をされておりまして、生産性を上げるためにどのような配置をしたらいいか、というところまで考えていただいております。4つ目の○、右側の赤の所ですが、高齢のスタッフも採用可能となるのではないかということで、採用基準にも影響してくる可能性があるとのことでした。それから、一番下の所、小柄な女性スタッフでも機器を使用することで簡単に実施することができたとのことでした。
 次のスライドです。もう1つの施設のほうですが、簡単に説明します。最初は2つ目の○、後半のほうですが、ロボットの見た目や不安感から、使用前から利用者に拒否されることがあったとのことです。そこから関与しなければならないということでした。その下の3ポツ目ですが、立ち上がり、立位保持が援助されることで、2人介助が1人介助へ移行した。スタッフの腰痛予防にもつながったのではないかとのことでした。特にこの施設の取組は、下に導入ステップが書いてありますが、まずリハのスタッフが使用方法や利便性を理解して、介護職に伝達すること。リハの場面で立ち座りの練習として被介護者に使用すること。その後、被介護者が慣れてきたら介護職も一緒にやるというステップを踏んだそうです。ここを全体のまとめとして、次のページをお願いします。
 まず、ストラクチャーとプロセスとアウトカムというところで整理をしました。1つのモデルとして参考になればと思い、提示をしております。まず左側からいきますと、導入研修をしっかり行って、適応者を選定すること。そして、利用リスクの検討とか環境調整等を行った上で幾つかの取組をしていきました。①の所で、抵抗感を解消するためにリハ訓練で使いました。それから、③の所で、利用者の疾患特性があって、使い方のセットアップを変えました。膝パッドが当たって、膝が痛いという訴えがありましたので、脇で抱え上げる様にに力点をシフトしたということ。それから、チームワークができてきたということで、対象者の選定から機会ごとのディスカッションをすることによって、非常にチームワークがよくなってきたということ。この3つが、不安解消とリスクの回避とチームワークの確立としてあげられ、アウトカムとして、最終的には2人介護が1人介護になってきたということでした。それが、サービスの質の向上につながっていくのではないかという、1つのモデルができました。
 あと3枚です。尿便失禁への対応ということで。夜間にトイレブースに移動リスクが生じるようになったらベッドサイド水洗トイレを利用する施設があるのですが、ベッドサイド水洗トイレというのは文字どおり水洗トイレでして、匂いとか汚物処理の心配はいらないポータブルトイレです。こういうものを導入する事例を紹介します。
 次のスライドをお願いします。一般のトイレまでの移動途中の転倒、失禁リスクを抱えているケースがありました。日中は1人で行けるのですが、夜間は1人で行くと非常にリスクが高まって、途中で失禁してしまったり、あるいは、転倒のリスクが非常に高くて、介護が必要になっている。そういった方が適応になるのではないかということで、その方に対して、下の段のほうになりますが、ベッドサイドに水洗ポータブルトイレを設置する。そうすると、1人でやれるようになってきましたということです。ただし、夜間のみ使うということで、日中は自立性を保っていこうということになっていました。
 最後のスライドになります。それをモデル化していくと、ストラクチャーの部分はやはり同じでして、対象者の選定は特徴的で、中等度のレベルで、日中は何とかトイレに行けるような方が夜間のみ利用する形になって、それによって、①、匂いの解消につながっていったこと、当然、排泄物を処理する必要もなくなったこと。②、動作支援行為の軽減ということで、移動支援の介助がいらなくなりました。③、これは新たな課題として出てきたのですが、トイレ環境との違いということで、ベッドサイドでは立ち上がり時の前傾姿勢が難しいということで、新たに介護が必要になってきたこと。しかしながら、夜間にトイレに移動することが解消されて、転倒リスクが減少し、失禁リスクが減ってきたという効果が出てきたということです。
 このように、具体的に細かく詰めていくと何がしかの効果が出てきまして、基本的には、高年齢者の方々は夜勤は難しいかもしれません。しかし、日中であっても非常に同時進行的課題が多かったりして、待ったなしのところがありますので、チームで取り組むことが必要だろうと思います。現場がどういう状況にあるかを知った上で、どのような機器が有効かをアセスメントして、どのようにして効果を判定していくという流れができていくと、状況はもう少し好転していくのではないかと考えます。以上でございます。
○城内座長 東様、ありがとうございました。続いて、中央労働災害防止協会の松葉様から御発表をお願いいたします。
○松葉構成員 中災防の松葉です。私のほうは高年齢労働者の労働災害防止対策ということで、実際に事業場の現場で実施されている具体的な対策について、事例を盛り込んで御紹介させていただきたいと思っております。前回の議論と結構重なる部分も多いかなと思いますが、よろしくお願いいたします。
 まず、現場での対策というのはいろいろな対策が取られていますが、今回は御紹介の時間も限られておりますので、この4つの対策について、実際にどんなことがなされているかということを御紹介していきたいと思います。特に1番目の安全衛生教育については、高年齢労働者自身への教育と管理監督者等周囲への教育という二方向が必要だということで示しております。
 まず、高年齢労働者への教育ですが、高年齢労働者自身、若い頃に比べて自分の体力が落ちたということは感じておりますが、どの程度落ちたのかというのはなかなか分からない。また、その機能低下によってどんなリスクが生じるのか。あるいはリスクを抑えるために何をすればいいのかというのも、実際には分かっていないというのが実態ではないかと思います。
 こういった課題を念頭に置いた場合に、高年齢労働者への教育という点では、この課題を自分事として認識してもらうことが大事です。スクリーンに映しておりますのは、ある企業が定年に達した従業員に対して行っている教育の内容です。頭の健康づくりの必要性、ここでは健診結果の見方の勉強なども含めて、その後どんなことを自分でケアしたらいいのかということを紹介しておりますが、最後にその教育の中で紹介した内容を、今後自分がどれだけやっていけるのか、いけそうか、少なくとも一番下の行で「私は帰ったら、明日からこれだけはやります」という自己宣言を行い、自分のセルフケアにつなげるというような構成になっております。
 特にここで重要なのが、この「セルフチェック」という部分が大事です。こちらは私ども中災防が厚生労働省の委託を受けて作成した「転倒等リスク評価セルフチェック票」というものです。左側は、例えば人混みの中で正面から来た人にぶつからず避けて歩けるか、あるいは同年代に比べて体力に自信があるかという、御本人の意識を問う調査です。アンケート形式で調べております。
 次に右側にある簡単な体力テストで、実際の体力を計測していきます。そして、この2つの結果を次のレーダーチャートにプロットしてみますと、自分自身が感じている体力と実際に計測した体力のギャップというものが分かるというものです。意識と計測値が一致していれば転倒リスクというのは低い。こちらの一番上のものですが、一番下のように自分では大丈夫と思っていたけれども、測ってみたら「あらあら」という状況だと、「これは危ないね」ということになります。
 こういったものを通じて自分自身の現状を認識し、そこで「あー、これはちょっと気を付けなきゃな」という自覚を促すというような、このアプローチは実際に効果的だなと考えています。また、これを踏まえてこちらは日本整形外科学会が提唱しているロコトレ、いわゆるロコモティブシンドローム予防啓発用のトレーニングとして紹介しているものですが、こういった運動実技を紹介して自分で持ち帰ってもらうということを、この会社の例では行っております。
 ここで株式会社高齢社の事例もご紹介します。こちらは登録者数1,076人、60歳以上の人だけの人材派遣会社です。「元気だから働くのではなく、働くから元気です!」というポリシーを持ってやられている会社ですけれども、この社長さん、緒形さんという方に、私自身が次のような質問をして、その回答を頂いております。高齢社で就労時の教育、高年齢労働者に対する教育で、是非とも理解してもらいたいことは何ですか。①から⑤まで、まずは事故災害を防ぐための基本心得、基礎教育。「これはしっかりと行っています」ということがありました。また高齢者自身、ここからは心掛けのような話になりますが、社会との関わりを持つことの大切さ、また、過去の経歴・肩書は忘れ、頭をさげられるという自分自身であること。身だしなみは常に清潔に、そして仕事があるということに対する感謝の気持ちを持ちましょうと、こういったことを高年齢労働者の方自身に教育している、大事にしているというお話でした。
 また、加えてここの会社では運転適性検査、2番目の認知機能・筋力・体力等についての対策も取っております。最終的には実際に御自身と75歳の時点で面談を実施して、そのときの御本人の意識、一番下になると、補助器具を使わなければいけないようであれば迷惑になるから、もう引こうかなという退職につながることも多いんだよ、というお話でした。先ほど御紹介あったIoTであったり先進テクノロジーを使うと、この辺も更にカバーされていくことが期待できますが、この会社での社員教育は、このような状況です。
 続いて、管理監督者等周囲への教育ということも実際に実施されていますし、重要だと考えております。管理監督者は部下の特性を理解し、適材適所に配置して安全と健康を確保しつつ、チームパフォーマンスを発揮するというのが求められています。しかしながら、自分よりも年上の労働者の心身の特性を理解している管理監督者がどれだけいるでしょうか。この意味で、管理監督者に高年齢労働者に向けた教育と同様の教育、「身体機能はこう変わるんですよ、精神的な機能もこんな変化がありますよ」と、そのような教育を行い、高年齢労働者の特性を理解してもらうということが、まずは大事です。
 更に、実際に事故が起こったときによく聞かれる言葉、「作業者の不注意が原因で」ということがよく言われます。このように作業者のせいにする管理監督者も少なくありませんが、しかしながら労働者の作業行動に起因する災害、これは労働安全衛生法上でも事業者の責任が問われるというものです。そこでこのような事業者責任と、それから権限を委譲された管理監督者としての責任、さらには労働者の健康問題が経営に及ぼすリスクということにも触れて、部下である高年齢労働者の安全と健康確保への配慮を、管理監督者が自分の役割として認識してもらうような教育が実施されております。
 先ほど出てきました高齢社においても、管理監督者にこれだけは理解してもらいたいことは、体力はないので無理はさせない、重い物を持つ、危険な場所の業務等、当然のことですが、この辺の配慮、それから高齢者は仕事ができないという先入感、最初から先入感を持って接しられることが多いが、その先入感をなくしてほしい。一方で契約以外の業務を依頼しないでほしい、頼まれると高齢者は断れないというようなこともお話がありました。
 続いて、リスクアセスメントということについてお話させていただきます。職場では高年齢労働者を受け入れる際に、心身の特性を考慮したけがや病気の可能性を「見える化」して対策を取っているかどうか、これは重要なポイントになります。リスクアセスメントというのはスライドにもありますが、「作業に潜むリスクを洗い出して、その大きさを見積もり、優先的に対処するものを明確にしてリスク低減措置を検討して実施すること」と定義されております。
 こちらは、職場における腰痛予防対策指針の参考資料に示されている介護作業者向けのリスクアセスメントシートです。介護作業としては、先ほども東先生のお話にあった移乗介助作業とか、あるいは食事介助作業とか様々な作業がありますが、そのいろいろな作業の中で作業姿勢、重量負荷、頻度など、腰痛リスクにつながる要因の程度を作業者自身で全員でチェックして、その結果を持ち寄り、皆が腰痛リスクが高いと認識している作業、これをまずは特定します。
 そして、その優先度の高いものから順に対策を打っていくというのがリスクアセスメントですが、極めてリスクの高い抱え上げ作業などについては、先ほど御紹介のあった、このようなマシンリフトなどを導入する、このハード対策を実施するということが原則となります。ちなみに腰痛対策に限らず、事業者責任として、まず最初に実施すべきは、歯車が剥き出しの機械にカバーを掛けて、挟まれ・巻き込まれを防ぐというような対策、あるいは床面の段差、凸凹をなくして転倒を防ぐというような設備改善などのハード対策、これがまずは検討し実施すべきことと考えております。
 そして次にソフト対策として、作業手順書、作業マニュアルの必要性ということが出てまいります。前回も社会福祉施設さんから事例の紹介がありました。介護施設で作業手順を進めて組織的に取り組んでいる所は少ないと申しましたが、介護作業や飲食店等のサービス産業は、作業形態が家庭生活の延長上にあります。したがってその作業は誰でもできると思われがち、特に人に教わらなくてもできると思われがちなのですが、しかしながらその作業の頻度、あるいは作業環境を考えますと家庭とは異なる、そういった点で家庭とは違うリスクが潜んでいるということに焦点を当てる必要があります。
 この点で、こちらは食事介助の図ですけれども、左側の図は、自分が机に正面に向かったまま腰をひねって、利用者さんに食事を提供している。これを繰り返すことというのは、いわゆる腰痛のリスクが非常に高まるわけです。家庭では1人だけですからできますけれども、何人も何人も繰り返していれば当然腰痛になる。そうならないために右側の姿勢を取って、利用者さんに正面に向かって介助すると、腰痛リスクは下がるのです。これは実際に板橋区の蓮根ひまわり苑という施設が、先ほどのリスクアセスメント表で10個の作業をリスクアセスメントした中で、3つの重大リスクと選定された作業の1つです。その作業をこのようにルール化して、今ではこのような作業で徹底しているという実態があります。こういった作業マニュアルの導入ということは、高年齢労働者が安全で健康に働くためにも、是非必要ではないかと思っております。
 そして最後の対策ですが、職場環境改善等によるメンタルヘルスケアということになります。高年齢労働者の職場適応を進める上では、メンタルヘルス対策というのが欠かせません。更年期を迎え身体も変化しますが、役職定年など社会的な役割も変化する中では、気分障害あるいはメンタル不調のリスクも高まってまいります。このような状況において高年齢労働者が孤立することなく、チームに溶け込んで何でも話せる職場環境というのが重要です。
 法定のストレスチェック制度において、職場集団のストレス状況を踏まえた職場環境等の改善が、事業者の努力義務として示されておりますが、その職場環境改善の考え方、こちらのスライドの上のほうを読み上げます。「職場環境等の改善は、職場の問題点の改善(ストレス要因の軽減)を通じて、円滑な職務遂行を促進し、連携の強化や業務配分の見直しなどを行い、効率的な働き方や職務満足感、能率の向上といった職場の活性化を期待するものです。また、建設的な議論をすることにより、メンバーが職場の運営に積極的に参加することで、職場の一体感を促します」。
 こういう考え方が正に職場環境改善であり、ここで職場環境改善の方法、例えばトップが「これで改善するぞ」と一方的に決めるやり方もありますし、また産業保健スタッフが専門的な立場からアドバイスして改善するという方法もありますが、実際に現場で働いている人たちが、自分たちで課題を見付け、その対策を話し合って検討し、そして自分たちで実行する、こういった従業員参加型の職場環境改善というのが最も効果的と言われております。こういうグループワーク、ディスカッションの中で、さらにはこういったアクションチェックリストを活用して、自分たちが今できていていい所を更に強化する、あるいはできていない所を新たに改善していく、このような対策を実施していくのがこの方法ということです。
 実施すると、例えばですが、製造ラインが1階にあって上司が2階にいるという製造系の現場、ストレスチェックでは「上司の支援がない」という回答が非常に高まっていましたが、実施した対策は上司の机を1階に降ろしただけです。それによって、その上司の支援というのは格段に改善しました。
 同様に、廊下から丸見えの電話オペレーターの皆さんは、周りを通る人の視線が気になり、いつも緊張の中で作業をしていたので、仕事のコントロール度が下がっていた。対策は、カーテンを引いただけです。それによって「自分のベースでホッと伸びもできるわ」と、そのストレスが一気に低下したという実例があります。こういった職場環境改善というものは、高齢者のメンタルヘルスケアに非常に重要になると思います。
 今、こちらで示したものは、今の職場環境改善の方法ではありませんが、熊本県にある重症心身障害者支援施設たまきな荘という所で、施設長さんが独自に自分で実施した、前回も御紹介しました利用者支援で気になる「気になるシート」、前回は私が「気がかりシート」と言ってしまったのですが、「気になるシート」だそうです。
 この左側のペーパーが「気になるシート」、誰々さんの支援をしている中で、「うーん、ちょっとこういうところが気になるんだよな」、例えば「どうもあの人の支援、私、苦手なんだわ」でも結構なのです。そういった気になることを記入して、ポンポンとポストに放り込んでおいて、2か月に1回それを回収して、そのグループ全員でそれを話し合ってみる。そうすると、「あっ、それだったら誰々さんのケアは、私が代わってあげるから大丈夫よ」とか、そのような改善に結び付いている。このようにお互いに気になることを出し合い、それを自分たちで改善する仕組みは、先ほどの職場環境改善につながるところではないかと思います。
 また、右側の「ポジティブアンケート」というのは全く別な取組なのですけれども、例えば人と接する態度や姿勢が素敵だと思う自分の同僚の職員、誰か1人挙げてくださいと、その人のどんなところが素敵ですかというようなものをみんなから出してもらって、それを情報共有します。そうすることで、「ああ、なるほど、私もああなりたいわ」というようなポジティブな意識づくりができるようになる。こんなことも併せてやられているそうです。
 また次は、全く違うアプローチですけれども、こちらは矢崎総業及び矢崎エナジーシステムという会社が実施しているもので、朝礼のときに体操をします。10分間の体操です。ただ、この体操はもともとは11種類あるのですけれども、そのうち2種類だけ、「今日は2種類だけやりましょう」ということで実施します。御覧のとおり二人組でやっておりますが、この二人組のペアは毎日人が代わるそうです。それをずっと毎日繰り返すことによって、約400人いる従業員、ほぼ全員が顔と名前が一致している。さらには「彼、最近何か元気ないね」とか、あるいは「ここのところ体操に出てきていないよ」ということで、何か体調不良、あるいはメンタル不調になりかけている状況も早く気付いてサポートできる。ですからこの工場では、いわゆるメンタル不調の長期休業者は、ここ数年出ていないというお話も頂いております。このようなアプローチでのコミュニケーションづくり、メンタルヘルスケアも、具体的対策として重要です。
 初回に中災防のほうからお配りさせていただいた「エイジアクション100」、これはこのような様々な分野でのチェックリストであり、対策が盛り込まれているものですが、これを先ほどの職場環境改善、あるいはリスクアセスメント等に活用していただけると効果的です。これは株式会社東芝の事例ですが「エイジアクション100」を活用した転倒防止のための取組の計画例で、実際にこの計画に沿った取り組みがなされ、効果をあげています。
 最後になりますが、またまた高齢社の事例です。不慣れな職務、職場への不適応等、高年齢労働者のメンタルヘルス対策はどうしていますかということについて、緒形社長さんは「現場の状況把握とコミュニケーション良化の推進に尽きる」とお話されております。①から③までの具体的な対策を取ります。さらには受け入れ先の職場環境整備の申入れについて、先方との懇親会でもそういう情報交換を行い、この会社としては改善が図れない場合には「うちは引き揚げます」と言うことで対策を取っているそうです。私の話は以上でございます。御清聴ありがとうございました。
○城内座長 植村様、東様、松葉様、非常に貴重なプレゼンテーション、ありがとうございました。それでは、先ほど事務局から説明もありましたように、本日は高年齢労働者の安全衛生上の対策を中心に、御議論をお願いしたいということです。前回までの議論と、本日頂いた先進技術の取組の現状についての御発表を踏まえ、御質問、御意見等がありましたら発言をお願いいたします。いかがでしょうか。髙田様、お願いいたします。
○髙田構成員 貴重な御発表、ありがとうございました。最後の松葉様の御発表について、スライド4の定年時の教育のところですけれども、この定年時の教育というのは、どのような方が企業で実際になさっているのか。産業医とか産業保健スタッフはどのような関わり合いを持っているのか。それらのことを教えていただければと思います。
○松葉構成員 こちらの教育ですが、基本的に会社の中では産業保健スタッフの方が健診結果の見方とか、その辺は御紹介をしています。そのほかにこちらの運動の実技であったり栄養に関しての講義などは、実は私ども中災防のほうから講師派遣をさせていただいて、このような内容を提供しているというものです。
○髙田構成員 ありがとうございました。
○城内座長 津下さん、お願いします。
○津下構成員 最初に植村様からお話いただいた、日本では生産性が低下していますよとか、中小企業が多いということもその1つなのかなというのは、どこかで関連性を読んだことがあります。また、事故とか対策の遅れというのも中小企業のほうが、大企業より遅れている状況だと。ご紹介していただいたテクノロジーを導入しようと思うとなかなか中小だと難しいし、またいろいろな安全教育などもしにくいのだろうなと思います。高齢者が実際に働くとなると中小で非正規と言いますか、そういう労働の形態も多いとなると、そこをどうやっていくのか。例えば中小の事業場を束ねて一緒にやっていくような動きなどがあるのか。そういう事業主体が共同して取り組めるような事例や、そういうことで全体のコストを例えばネットワーク化をした事例とか。こういうテクノロジーのことも含め、中小企業などに対してこれを波及させるためにはどんなことが必要なのか。それから中災防の教育についてもそうだと思いますが、そこへの波及のグリップというか責任というか、なかなかそこまで手が回らないところに、何かアプローチする手段があるのか。また、それによって効率性が上がったりという報告はあるのでしょうか。
○植村構成員 例えば介護の文脈から言いますと、介護のケア事業者は大企業を全部まとめても、他の産業とは少し特殊な感じであまり大きくなく、いろいろな事業者がいっぱいいらっしゃる状態になっているところです。そういったところで、今、例えば介護ロボットの実証実験なども進めているところで、1つ課題になっている点が、ロボットの機器などで新しいテクノロジーを搭載したものが作られている。それをある施設で実証実験し、ここの文脈で使えるなということで隣の事業場でも使ってみると、実はやり方が違ったりします。事業者のやり方が違うということで、いろいろなところの標準化というか、IoTを通すのが先なのか、そのための標準化が必要なのかは鶏と卵ですごく難しいところかなと思います。今、介護ロボットで議論になっているのは、機器それぞれのプラットフォームで同じデータベースを繋げていく仕組みのところが必要かなと、そういう議論をしているところです。
 同じように中小の事業者に関しても、恐らく今の時点でテクノロジーという観点で言えば、日本では皆さんがインターネットを使ってアクセスしたりということで存在している状況だと思うので、そこをどう繋いでいくかというところが、社会をデザインするところにも絡んでいくのかなと思います。そこのところはテクノロジーがある中で、どう社会の中に実装していくかというところで具体的にお答えできないですが、そんな点を課題として感じているところです。
○城内座長 よろしいでしょうか。松葉様、お願いします。
○松葉構成員 特別な事例になってしまうかなと思いますが、中小規模事業場向けの対策としまして、私ども中災防では現在、厚生労働省からの補助事業として中小規模事業場安全衛生サポート事業という事業を実施しています。こちらについては申込みがあった事業場に対し、私ども中災防のほうから講師を派遣し、社員教育等に生かしていただくというような制度で、その中では、今日、御紹介したような内容を紹介しているケースもございます。最近、比較的多いのは、正に社会福祉施設あるいは小売業等の第3次産業から依頼が多くあって、これが全て無料で実施できるということで依頼されますが、それを実施した以降、なかなか経済的なものが続かないという点があるなというのが実感です。ある程度、第3次産業等の中小規模事業場も、働く人の安全と健康の確保に関心を持ってきているけれども、なかなか自分の所でお金を出してまでの対策は難しく、足踏みしていると感じています。
 一方、健康経営の機運が高まり、「うちも健康経営をやるぞ、従業員を大事にするぞ、そのほうがリクルートにもいいぞ」と経営者の意識が動いている中では、会社でお金を出して、あるいは健保組合の保健事業をうまく活用して、健康確保の取組をする。そんな動きが最近見えてきているなという感じがしています。
○城内座長 そのほか、河合様、お願いいたします。
○河合構成員 今日はハイテクノロジーの話も伺いましたが、これは高齢者の安全性の向上ではなく、高齢者の仕事を奪うほうに話がいくのかなという感想を持ちながら聞いていたところです。それはちょっと置いておくとして、この会議の議論が私のイメージしているものと随分違う方向に進みつつあるなということがありますので、私の中の違和感を御説明したいと思います。
 まず、この会議はそもそものタイトルに「人生100年時代に向けた」と付いているわけで、高齢労働者のイメージを2019年の高年齢労働者と思っていると、多分、齟齬が出てくるだろうということです。現状は、元気だから働くというイメージで高年齢労働者のことを我々は考えるわけですけれども、今後は人生100年時代ですので年金の兼合いもあり、働かざるを得ないという状況の方が広がってくる。さらに現状の就職氷河期の人たちが高齢化してくることを考えると、極めて低資産、低所得のまま高齢期を迎えた人たちが働かざるを得ないということで、労働への向き合い方が現在の高齢者とは全く違ってくるわけです。要するに仕事を選べない状況がどんどん広がってくる。
これを経営側から見た場合に、どういうことが言えるかというと、これまでは高齢者の活用という考え方でした。これが2019年の高齢労働者に対する企業側のイメージなのですが、ここから先は高齢者も主役として働いてもらう存在になっていくということです。高年齢労働者が任せられる仕事の質と責任が極めて大きくなっていく。今後、どんどん変わっていく。かつ、職場そのものが人手不足がずっと続くとなっていくということです。今、政府全体としては70歳まで働ける社会を目指すということで議論を進めているわけで、年齢によって解雇することをなくしていく方向に社会は動いていくとなると、正規雇用者の高齢化が問題となってきます。この話を私は1回目の会議でも申し上げたのですが、どうも現業部門の労災防止の話を中心にずっとされています。けれども、多分、そうではなく、事務職の人も含めた高齢労働者の数が増えてくる状況に対して備えていかなければいけない。現状、そういう人たちが増えていく状況の中で、こういう人たちも含めて安全性を確保していくという方向に議論を持っていかないと、何かちょっと違うものができてしまうのではないかと私は思います。
 これは事務局にお願いしたいところですが、前回、また今回の現業部門の労災防止の話は大事な話なので、これを私は否定するつもりはないのです。これはこれでやはり柱としてきちんと立てていかなければなりません。まだまだ足りないところがあるので今後のガイドラインに何を書いていくのかは考えなければいけない。その一方で、もう1つの柱として、現業部門以外の仕事を含めて高齢労働者が増えていく状況を踏まえたガイドラインづくりについても、どうしても立ててもらわないといけません。現業部門以外の高齢労働者の数が、現状の現業部門で働いている高齢労働者の数よりも多くなっていく可能性があるということで、こちらもテーマとしてきちんと議論の俎上に乗せていただきたいと思います。
○城内座長 貴重な御意見、ありがとうございました。そのほか何かございますか。松葉様、お願いします。
○松葉構成員 今、河合先生のほうから現状の労災防止対策というお話がありました。その点で例えばリスクアセスメントですが、リスクアセスメントは作業の内容が変わったときには改めてやる。環境が変わったときに改めてやる。この高齢者が増えていくということ自体が環境の変化で、その変化に応じたリスクアセスメントをしなければいけないよということだろうと思います。加えて、先ほどの作業手順書、作業マニュアル、それこそ中小規模事業場では、そういったものを活用することがそもそもないと思いますが、高齢労働者が安全に作業するためには、そういったものを活用することが極めて重要になってくる。ですから高齢労働者の身体特性、精神特性を踏まえた新たな作業マニュアル、こういった視点は重要ではないかと思っています。
○河合構成員 それは、おっしゃるとおりだと思います。
○城内座長 そのほか、ございますか。よろしいですか。松田様、お願いします。
○松田構成員 今の河合さんの御意見は非常に大事だと思っています。有名な論文ですけれども、前の慶應大学塾長の清家篤先生が出されているもので、高齢者が労働を継続できる条件が3つ、パネル調査で明らかになっています。専門的技術を持っていること、職住近接であること、健康であること、この3つに合った枠組みを作っていかなければいけないと思います。
 アメリカがなぜ高齢者の雇用を継続できるかというと、コミュニティカレッジみたいなものがすごく機能していて、そこで継続的に新しい技術を地域で学ぶことができるのです。日本は住民が継続的に何か新しい技術を学んでいく場所がないのです。例えば、一番典型的な例がIT技術だと思いますが、うちもいろいろと人を雇いますけれども、中高年の人を雇うときに一番問題になるのがパソコンが使えないということです。要するにパソコンを使うというトレーニングをどこでも受けていない人が、いきなりやって来ても全然仕事ができない。そう考えたときに、でも、これって分かっていたことなわけです。要するに、これからこういう労働が必要になってくると分かっていたけれども、そのスキルを学ぶ場所が公的な所にないということが起こっている。
 先ほどロボットの導入、新しい技術という話をされましたが、これからどういう所で高齢者が働くのかを先に考えて予想し、そこに必要な技術をちゃんと学ぶ場を整備して、それに関連していろいろなリスクが出てくるはずですから、それをやるということ。その準備をしないと、このままの流れでずっと行っても、多分、ミスマッチが起こってしまうと思います。それは、今、おっしゃったとおりだと思います。そういう意味で、そういうことを少し考えなければいけないのかなと思います。
 例えばオランダの場合だと、ワークシェアリングをやっているわけですけれども、ちょっと形は違いますが、今、ビュートゾルフというオランダで一番伸びている介護の株式会社があります。ここはどういうことをやっているかというと、バックヤードに35人しか労働者はいません。管理部門に35人の人がいて、約6500人の現業の人たちは4~5人のチームで動いているのですが、そこでやったことを記録するだけなのです。その後の事務作業とか請求事務は全部中央管理部門がやってくれる。だから労働生産性がものすごく高くて、1時間当たり55ユーロ稼いでいるのですが、そのうちの48ユーロが給料に回っています。今、オランダで一番伸びている会社の1つですけれども、これは要するに、そういうのに付いて行けない人たちに対して、専門職が後から後ろで支えるという組合せをやっているわけですが、そういうスキルミックスの考え方をやっていかないと、これからの世の中は合わないのではないかと思いました。今、河合さんのお話を聞いてそう思いました。そういうことも、多分、この議論と併せてやっていかないといけないのではないかと思います。
○城内座長 ありがとうございました。そのほか、漆原さん、お願いします。
○漆原構成員 今、河合先生の皆様の議論をお聞していたのですが、働く高齢者をとりまく対策について、例えば、高齢者に対するリカレント教育も含めて、総合的に厚労省の中でも色々な会議体で検討されているところだと思います。労政審基本問題部会では、高齢法の改正などについて検討がなされています。この会議ではたまたま、ミッションとして、「安全と健康」がフォーカスされており、この場では、そのことについての検討が正にされるという認識でいます。一方、この場では、ブルーカラーの安全の議論が多かったですが、ホワイトカラーの健康対策も必要です。冒頭のプレゼンにありましたデジタル・トランスフォーメーション(DX)についても、経産省では「2025年の崖」など、高齢者したエンジニアが労働市場から退出した後のシステム保守の人員確保について警告していますが、本当に2025年に高齢期も含めてエンジニアがいなくなってしまうのかというと、多分、そうでもないかもしれません。そのためには、高齢期のエンジニアが、健康で安全に働くために労働時間をどうするのかなどの「ソフト面」の対策とか、あるいは高齢期における癌など何らかの疾病を抱えながら、それでも働き続けられるための両立支援が必要であると思います。そこで、こうした内容についても、この場で検討するのかどうなのか改めて確認させていただければと思います。
○城内座長 仕事の枠組みも踏まえて、事務局から何か御説明はございますか。
○村山安全衛生部長 大変貴重な御意見の投げ掛け、ありがとうございました。漆原委員から、この有識者会議の射程について御質問いただきました。これは正に河合委員から先ほどお話いただきましたように、今後、人生100年時代を迎える中で高年齢労働者の方々の在り方も変わり、主役になってくる職場での安全と健康づくりに向けて何をやっていけばいいのか。取り分け、労使あるいは行政の施策の中で何をやっていけばいいのかについての検討会議として、議論をスタートさせていただいております。
 その議論の進め方や今までの力点の置き方につきましては、貴重な御示唆もありましたので、足らざる部分は補っていく必要があると思います。ただ、基本的に、命を落とされるとか、その後のクオリティオブライフが失われるひどい労働災害というのは防いでいかなければいけない、という点はコンセンサスとしてまずあるのだろうと思います。
 同時に、本日も宿題返しの資料説明で改めて見ていただきましたように、重大な労働災害が特に第3次産業で増えているとか、あるいは中小企業の事業場で起こっていて、そういった事案に対して、どうにかしていかなくてはいけないという柱があるのも間違いないだろうと思います。他方で、もう1つの柱として、今、松田委員や河合委員から御指摘いただいたような、より幅広い観点について、漆原委員からは他の審議会等との守備範囲の整理も含めてということでしたけれども、そうした議論につきまして他の分野に発信していただくことも含めて、議論は大いに深めていただければと思います。ただ、軸になるのは基本的に命を失う、あるいは重大な労働災害に遭って労働喪失が起こってしまう、また、その後のことにおいてケアが必要になってくる。そういった労働災害について、どうしていくのかというのを第一に押さえながら、全体を深めていただければ有り難いというのが事務局の率直なところです。何とぞよろしくお願いしたいと思っています。
○城内座長 ありがとうございました。そのほか御意見、河合様、お願いします。
○河合構成員 これから雇用延長とか定年延長とか、定年そのものがなくなっていくという状況になってくると、60代で管理職としてずっと現場を指揮してやっていくとか、例えば私の前の職でもありますけれども、夜勤ローテがあるような仕事に高齢労働者になってもずっと入り込んでいかなければいけないなど、少し前だったらもっと若い年齢で卒業していた仕事に引き続きということになってきます。ホワイトカラーも職場で倒れるのです。私は何度も救急車が来た場面に遭遇しましたけれども、高齢労働者が増えてくれば現業部門だけでなく、ホワイトカラーの中でも命を落とす状況というのは、これから拡大する一方ということです。ここも忘れてほしくないというのが私の言いたかったことです。
○城内座長 ありがとうございました。そのほか御意見はございますか。矢田様、お願いします。
○矢田構成員 この有識者会議の射程と部長がおっしゃいました件ですが、私どもの高齢者雇用支援機構では、高齢者の雇用継続とか定年延長を考えている企業を訪問していろいろお話を聞きますと、定年延長を考えるときには、従業員の健康問題や安全衛生が一番の課題になるとおっしゃいます。その上で、高齢者の働き方やモチベーションの問題、賃金・処遇、キャリア支援といったことが課題になっていくと考えている企業が多いと思います。高齢従業員により長く働いてもらいたいと思えば、健康対策や安全衛生の課題というのは、経営者として1番目に取り組む必要があろうと思いますので、是非、この有識者会議の議論についてはそこにフォーカスしていただきたいと思います。また、高齢従業員をいかに戦力化するのかという課題もいろいろな方面で議論が進んでいますので、そういった議論も踏まえながら、是非、健康と安全に関する議論を深めていただきたいと思います。
○城内座長 乍様、お願いします。
○乍構成員 第1回で弊社の事例として、高齢化の社員を安全で長く働いてもらうために、体力面からサポートしている取り組みを報告させて頂きました。体力テストを事例に取りますと、その結果が腰痛とか膝痛などの筋骨格系疾患や体力低下による労働災害対策に結び付かないと、企業でやっている意味が余りないと言いますか、ちょっと言い過ぎかもしれませんが、一般的な体力測定の概念だと、運動能力を見て評価して終わりになりやすいと思います。手が回らないところに、アプローチする手段があるのかと津下先生のご意見にもありましたが、体力機能を見て労働災害対策としてフォローする人が誰もいない。私は産業医・保健師と連携して仕事をしていますが、保健師の方のような位置づけで、それを体力面からできる人と言いますか、例えば安全に働くために体力面から支援する資格と言いますか、理学療法士、作業療法士、鍼灸・柔整師、健康運動指導士、医療機関と現場をつなぐ我々アスレティックトレーナーであるとか、いろいろな資格を持った人たちが労働衛生の三管理などを勉強して、新しい資格として協会けんぽであるとか産保センター、あるいは企業に配置できるような仕組みも検討する必要があると思います。人生100年時代ということを考えた場合、支援という点では体力は必ず落ちていくので、そこを支援する人がいないというのを現場では感じています。
○城内座長 津下様、お願いします。
○津下構成員 私はこの会議で期待したいこととして、従前のように60歳定年かなと思っていたら、どんどん延びていく時代の中で、昔、作られた労働安全衛生法のルールとか指針など、今の労働者に既に合わないところを検討すべきではないかと思います。例えば過労死の考え方や基準、就労時間の考え方、またサポートの仕方なども、今、既に高齢労働者の健康を守れない部分も見えてきたので、そこは足下の話として早急に対策を講じていただきたいと思います。
 それから、他部局も含めて人生100年時代にどういう働き方になるのかという未来像を考えている、それに合わせて健康や安全も考慮したビジョンを描いてほしいというメッセージを発信する部分と、おっしゃるように二本柱かなと思います。まずは今、私自身としては、ご提出いただいたデータから、予防できるものもまだ予防できていないという現実に目をそらさないことが大切と思います。体力とか疾病の重症化とか、それが中小や見守り難い中で起こっているところについて、早急に見直せる部分については御検討いただいて、提言につなげていくことが必要なのかなと思っています。
○城内座長 ありがとうございました。高木様、お願いします。
○高木構成員 労働安全衛生総合研究所の高木と申します。ここまで幅広い議論が行われていますが、現状、高年齢労働者の死亡災害発生率は高く、休業日数を見ても休業1年以上労働災害は高年齢者が非常に多いなど、高年齢者の労働災害防止が重要な課題です。しかしながら、このようなことは世の中で十分に認識されておらず、このため、高年齢者の労働災害をいかに防止するかをこの有識者会議の論点の柱とし、この有識者会議の最終的なアウトプットは、それを軸として示してほしいと思います。
○城内座長 どうもありがとうございました。時間も迫ってまいりましたので、御発言のある方は挙手をお願いします。砂原さん。
○砂原構成員 今の意見、いろいろな御議論、そのとおりだなと思いながら拝聴していました。一方で整理して考えたいなと思ったのは、高齢者と若い人の安全配慮というのが、どう違うのかというところを明確に論議して、そこを明らかにする必要がまずあるのかなと思いました。高齢者が高齢期になっても働き続けるために、健康であり続けられるようにすることの責任というのは、事業主も果たすべきものがあるでしょうし、医療保険者が果たすべきものもある。高齢者の健康にかかわる様々な主体には、それぞれの役割があるので、それをミックスして初めて高齢期も働ける形になってくると思います。だから、この点を整理しながら御議論させていただけると有り難いなと思ったのが1点です。
 さはさりながら、人生100年と言っても、いきなり100歳で元気に働くというところを想定しながら議論していくのは、あまり現実的でないと思います。最初のほうでいろいろ御説明があったとおり、だんだん国民が健康になって健康面では10歳くらい若がっているという話もありました。そう考えると、当面のターゲットとして、どのぐらいの時期に、どのぐらいの年齢の人が健康で安全に働けるようにするかを明らかにしながら、まずそこを最初のターゲットにして、将来、どこまでという形の論議ができるといいのではないかと感じましたので話をしました。
○城内座長 木田様、お願いいたします。
○木田構成員 今日、事務局から出ています資料4の主な論点ですが、具体的なガイドラインに落としていくという中で企業側としては、ある程度社内の中に仕組みとして落とせるようなガイドラインを、最終的に作っていかなければいけないという認識があります。本会議の第1回目から、いろいろな規模の企業の事例ということで各産業の方からハード面・ソフト面の好事例の紹介がございました。そういったものを具体的に各企業の中で落とし込んでいけるような仕組みということで、先ほど松葉さんから紹介のありましたエイジアクション100の考え方がとても参考になると思いました。対策に導くガイドとして、安全と健康の取り組みをカテゴリー別に分けて客観的に評価することで、自社の体制の強み、弱みをしっかり認識して弱いところに手を打っていくという流れは、正に仕組みとして各企業が落とし込める考え方ではないかと思っています。
 そういった中で、ハード面の対策にお金が掛かるという課題についても、先週、京都で開催された全国産業安全衛生大会で、先ほど厚労省の方から紹介のあった労働災害を防止するための中小企業への助成も考えてみえるということをお聞きし、中小企業の取り組みをサポートする有効な制度だと思いました。
 また、ハード面の対策と合わせて、安全衛生教育等のソフト面の対策もしっかりとやっていく必要があると考えています。しかしながら、忙しい現場(業務)の中で法定の安全衛生教育に加え、高年齢者を対象とした安全衛生教育を単独で設定することが難しい状況があると思います。そこで、弊社では安全衛生教育単独ではなく人事機能と連携して、「いきいきセミナー」という教育を50歳になったタイミングで実施することにしました。具体的には、60歳に向けたワーキングライフプランを考えるカリキュラムに加えて、60歳以降も高年齢者の方にいきいきと安全・健康に働いて頂くために体力づくりの重要性を認識してもらうための動機付けとして、体力測定と運動指導もカリキュラムに織り込むことにしました。その後も年に2回は上司としっかりと話合いをすることで60歳以降のキャリアプラン実現に向けた方向の確認と動機づけを継続的に行っております。忙しい業務の合間にいかに時間を捻出し、各企業の実態を踏まえ工夫を凝らしながら高年齢者に向けた教育を充実していくことが重要ではないかと考えています。
 また、今後ガイドラインに基づくハード面・ソフト面の取り組みを各企業に普及していくための方策として、先ほど乍さんの提案された高年齢者をサポートする資格みたいなものをつくったり、ガイドラインを基に、企業内でしっかり活動を展開できる人を育成するための研修等を整備して、広げていくことも有効ではないかと思います。ガイドラインを形骸化させないためにも、そういった取り組みも検討していければどうかなと思っています。
○城内座長 鈴木様、お願いします。
○鈴木構成員 今の木田さんの前半のお話しと同じことかと思いますが、今日、事務局が準備した資料4についての討議が時間の関係でまだですけれども、資料4の主な論点について具体的に意見交換して、ガイドラインに持っていったらいいのではないかと私は思っています。ガイドラインは、大企業だけでなく中小の企業でもできるような、かつ具体的な内容が必要かと思います。そういう意味では、今、ここに記載されている主な論点は、今までの2回の会議で出たいろいろな課題を整理した内容かと思いますので、これらの論点について具体的に意見交換したら、よろしいかと思っています。
○城内座長 論点について御紹介、お願いいたします。
○寺島副主任中央産業安全専門官 もう時間がございませんが、13ページ、資料4の主な論点の所を御覧ください。今までいろいろ御意見を頂いておりまして、特に報告書に取りまとめていくに当たり、軸となる事項を何にするのかというところは、また御相談させていただければと思いますけれども、現時点における事務局の案といたしまして、1にガイドラインの内容、2以降に国などが取り組むべき内容ということで、事務局としてはこの形で整理してはどうかということで考えたものです。(1)から(6)の内容については、時間の関係もありますので割愛させていただきますが、こういった構成でやることを想定しているところです。
 2の所ですが、事業者・労働者の取組が進むようにガイドラインをまとめたとしても、それを展開していくための役割が必要だろうということで、2の(1)には広報戦略とか現場への普及方策、(2)は行政などが指導するための方策、(3)が特に中小企業などなかなか取組が遅れがちな所に対する働きかけとして、人材育成や取組の普及に関する事業のようなものであるとか、今、言及がありました助成金のような制度で、どういった所に支援していくことが必要かといったことの御意見もいただければと思っています。3の地域の健康づくりや健康保険の保険者との連携、この辺は先ほども少しお話があったところですので、この辺りも論点として入れ込んでいく必要があるかなということです。4として、今後、普及啓発に当たりましても、そのエビデンスとなる調査研究について、今後、進めていく必要があるのではないかということでまとめています。以上です。
○城内座長 ありがとうございました。主な論点について何か、ここはもっとこうしたほうがいいとか、これはどうかという御意見はいかがでしょうか。これで進めてよろしいでしょうか。高木様、お願いします。
○高木構成員 2の指導・支援の工夫という所で、中小零細事業場に対する働きかけとありますが、これは私も大賛成です。そして更に、シルバーサービス人材センターも加えていただければと思います。現状、シルバーサービス人材センターなどで働いている高年齢者の災害発生率の高さは目を覆いたくなるほどです。しかも、仕事は業務請負契約で、いわゆる一人親方のような存在となり、安全指導、安全教育を受ける機会に乏しいのが現状です。ここでまとめたものが、そういうところにまで波及していくと高年齢者の労働災害減少に大きくつながると思います。
○城内座長 鈴木様、お願いします。
○鈴木構成員 今、事務局から示された資料には、いろいろな項目が示されていますが、次回以降に、これらの項目について詳細にまではいかないかもしれないですが、具体的にこうしたほうがいいのではないかというような議論の場が予定されているのでしょうか。例えば、健康管理、健康づくりとありますが、1つの事例として、それにはどんなことをやったらいいのかということに対して、例えばラジオ体操を毎日しっかり行うというのもあるかと思います。そういうレベルまでの議論は、この会議の中では予定していないのでしょうか。それについてお聞きしたいと思います。
○寺島副主任中央産業安全専門官 なかなか細かい時間が取れるかということだと思いますが、今後の進め方につきましては、先生方にお諮りしたいと思いますが、いかがでしょうか。
○津下構成員 今、3の健康づくりの所で言うと、例えば厚生労働省の健康局で地域・職域連携推進の更なる推進のための新たなガイドラインを作られて、その中で地域保健が中小企業や事業場の健康支援を、もっと力を入れてやりましょうみたいな、そういう他部局との事業の関連性を十分に意識しながら共通の言葉で盛り込んでいくと、地域側も一緒にやっていきやすいのかなと思いますので、それぞれで作られている仕組みというか、そういうものを十分に押さえることが必要なのかなと思いました。
○村山安全衛生部長 進め方については、座長のほうで仕切っていただく話かとも思いますけれども、先ほど砂原委員からお話の出た、関係者の整理の上で、もちろん連携というのはそれぞれの立場の違いがあっての連携ということだと思います。そこの基本的役割を出発点として、きちっと押さえる作業は必要だろうと思っているというのが1点と、津下委員から御指摘がありました連携の点は、なかなか質疑に加わっていただく時間もないですけれども、他部局あるいはスポーツ庁も含め、毎回、議論に参画していただき、資料内容等について相談しながらやっております。シルバー人材センターについて高木委員から御指摘がありましたけれども、本日も担当課も来られておりますので、今後とも、事務局としての連携の中で叩き台を準備していきたいと考えています。その上で今後の進め方については、本日、御示唆も種々頂きましたし、報告書の構成についても、木田委員から御指摘がありましたように具体的な取組を落とし込んでまとめていく前提として、河合委員からありましたように、どういう議論の整理ないし哲学の整理が必要かというところから考えることが大事かと思います。本日の御議論を確認して考えていこうと思っています。
○城内座長 皆様、お忙しい方ですのでなるべく時間を守りたいのですが、既に5分過ぎてしまいました。それでは、本日の議論はここまでとしたいと思います。次回は、これまでの会合で構成員の皆様から示された意見を踏まえ、報告書の骨子について御議論いただければと思います。それでよろしいでしょうか。それでは、事務局において準備を進めていただければと思います。進行は事務局にお返ししますので、よろしくお願いいたします。
○吉岡中央産業安全専門官 ありがとうございます。次回、第4回の有識者会議につきましては、11月27日(水)、午後1時半からを予定しております。それでは、本日の会議はこれで終了といたします。本日も活発な御議論を頂き大変ありがとうございました。