医系技官Voice

#07医系技官Voice

世の中の幸せのために・・・

医政局長浅沼 一成ASANUMA Kazunari

平成3年入省。疾病対策課を経て、平成12年に佐世保市に出向。健康危機管理対策室長、内閣官房新型インフルエンザ等対策室企画官、血液対策課長、結核感染症課長、危機管理・医務技術総括審議官を経て、令和5年9月より現職。

医政局長 浅沼  一成
医政局長 浅沼  一成

世の中の幸せのために、制度を作る

1991年、医大を卒業後、直ちに入省した厚生省(当時)で最初に手がけた仕事は、公的骨髄バンク(現・日本骨髄バンク)を作ること。当時は厚生本省に医系技官は少なく、卒後1年生といえども、本でしか知らなかったビックネームの医学部教授の先生方に直接、お話をさせていただきながら、制度策定の調整を図るなど、今から思うと大胆に仕事をさせてもらえました。民間の骨髄バンクや日本赤十字社など、関係者の皆さんのご支援も受けながら、わが国の公的骨髄バンクを設立に携わることができました。たくさんの血液疾患の患者さんを救うことができる公的制度を作った達成感や充実感は感無量で、計り知れないものでした(ちなみに、1994年、私も骨髄ドナーになりました)。

その後も、2013年の薬事法改正(医薬品医療機器法に改称)では、コンピュータ・プログラム(アプリケーション)を医療機器として扱う等、将来を視野に入れた改正に担当室長として携わりましたし、2016年にはWHO(世界保健機関)の薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランに基づき、担当課長として「AMRアクションプラン」をわが国で初めて策定するなど、様々な制度の策定や法改正に携わることができました。

制度を作るのは、関係者間の調整が不可欠であるとともに、財源確保や各種の手続きが必要で、決して簡単なことではないのですが、先見性と強い動機・使命感を持って、チームワークを大切にし、周囲の協力やご支援を得ながら一歩一歩進めれば、必ずや達成されるものであります。

「世の中のために頑張ろう!」と公的骨髄バンク設立に取り組んだ時の初心を忘れることなく、今は、医療提供体制の課題解決に向けて、日々取り組んでいます。

世の中の幸せのために、制度を活かす

2000~2003年の3年間、「福祉のまちづくり」を掲げた佐世保市で保健福祉部長(佐世保市保健所長を兼務)を務めてきました。スタートしたばかりの介護保険制度や児童福祉制度、障害福祉制度、生活保護制度など、厚生労働省が取り組んだ新制度や制度改正がどのように運用され、市民の皆さんのお役に立っているのか、また、課題があるならどのように解決すれば良いかなど、市職員の皆さんとともに取り組んできました。

例えば、地域療育センターとして設置した佐世保市子ども発達センターにおいて、要望が高かったリハビリ医療機能の充実を図るため、新規にST(言語聴覚士)の採用を実現したり、生活保護受給者の方々の保健医療問題に取り組むために、担当課に保健師を配置し、受給者の方々の健康支援・疾病予防に資するなど、福祉の領域に保健医療の観点を加えながら、市独自の施策に挑戦してきました。

一方、佐世保市介護保険事業計画や佐世保市エンゼルプラン(次世代育成支援 佐世保市行動計画)、長崎県から委託された佐世保圏域医療計画などの計画関係においては、市民の皆さんから検討会の委員を公募し、市民の声を活かしながら策定に取り組みました。また、佐世保市保育所7カ所のうちの4カ所の公設民営化についても、各所毎の委託先選考委員会に保護者会委員をお願いしたことで、保護者会からのご要望を踏まえた委託先を円滑に選考することができました。

私は運が良く、医系技官としては珍しく市役所勤務を経験することができましたが、現場で活かれる制度は国の机上論だけではなく、市民の皆さんとの対話と活動で生み出せる「市民参画」や「現場主義」が重要であるという「気づき」を得た貴重な3年間でした。

世の中の幸せを揺るがす、危機に対応する

地震等の自然災害やパンデミックに対応するのも厚生労働省の重要な業務。振り返れば、防災服を身にまとい、2000年の有珠山噴火で政府現地対策本部に派遣されて以降、2009年の新型インフルエンザA(H1N1)パンデミックの際には、担当室長や内閣官房企画官として、政府全体の対策に当たり、2011年の東日本大震災では、厚生労働省対策本部員として当初から対応に取り組み、福島県にも長期派遣されました。その後も2016年の熊本地震、2018年の大阪北部地震、西日本豪雨災害、北海道胆振東部地震と、現地派遣等も含めて経験を重ねてきました。担当審議官として挑んだ2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの水際対策や担当局長として挑んだ2024年の能登半島地震の災害医療対策も、これまでの経験を活かしながら、省内外の皆さんと協力して取り組むことができました。

被災地の皆さんに取ってみれば数十年に一度の災害でも、日本全体で見ればほぼ毎年のように災害は起こっています。国の業務として災害対策に勤しんでいる我々だからこそ、政府一丸となって迅速で適切な現地災害支援が可能なのです。「困っている人を助けたい」という「医の志」こそが、危機対応の原点です。

医系技官に興味がある方にメッセージを

医師免許を取得して、今後の医師人生を考えた時、臨床医学に進んでも良し、基礎医学の道を極めても良し、ビジネスやアーティスト、スポーツ選手など他分野に挑戦しても良しですが、社会全体の健康水準を向上し、健康を脅かす危機に対応する公衆衛生/社会医学も、世の中のためになるという点からも大変魅力のある選択だと思います。

医師としては希少な部類ですが、自分に適した仕事とは何か、自分の存在意義は何かと悩んでいる方こそ、社会に貢献できる厚生労働省の仕事をぜひ覗いてみて下さい。

また、厚生労働省は、社会医学専門医の取得を目指せる職場であり、福利厚生の充実やワークライフバランスの実践にも責任を持って取り組んでいる職場でもあります。

ぜひ、入省試験の受験をご検討頂きます様、よろしくお願いいたします。

医政局長 浅沼  一成