医療・介護同時改定

医療・介護同時改定
#03医系技官 座談会

医療・介護同時改定

令和6年度は、6年に一度の診療報酬・介護報酬の同時改定が行われる節目の年であり、高齢者人口がピークを迎える2040年頃を見据え、医療と介護の連携等、様々な視点からの検討が必要です。患者・利用者が必要なサービスを受け続けられるよう、部局の垣根を超えて一丸となり取り組んだ同時改定について振り返ってもらいました。

令和6年度診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて動きだした当時の議論の様子を教えてください

佐野佐野
令和4年6月頃から、令和6年度の次期同時改定で何をすべきか議論を始めようという話になり、まずは保険局医療課と老健局老人保健課が集まって、勉強会を開催するところ始めました。制度の概要から初めて、徐々に中身をどうしていくかという話をしていきました。最初は2月に1回くらい、令和4年の年末には月に1回、多いときは月に2回くらいやりました。最終的には障害部も参加して50人規模になりました。
加藤加藤
医療介護障害の連携が中心にあり、高齢者救急、認知症、訪問看護、リハビリテーション・栄養・口腔などがありました。高齢者救急は、前回の平成30年診療報酬・介護報酬改定にはない新しいテーマで、コロナ禍において軽症・中等症の急性期の高齢者が施設から多数入院し、入院中にADLが低下して退院できない課題がありました。

当時のチームでの議論は、どんな雰囲気でしたか?

加藤加藤
みんなフラットに意見を言い合うために、職種や入省年次かかわらず、勉強会をしていたのですが、それは義務感ではなく、「診療報酬・介護報酬の同時改定をしていくにはどうすればいいか」という思いで、皆、自発的に集まっていました。
また、メンバーだけでの議論に終わらせず、課内の方針も確認しながら、勉強会を進めました。こうしたプロセスを経て開催したのが、「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(以下「意見交換会」)」です。
福田福田
意見交換会は、中央社会保険医療協議会と介護給付費分科会の委員に参加していただき、厚生労働省内の勉強会で取り扱った内容を実際に議論してもらいました。各委員に医療と介護の同時報酬改定に向けて、何が課題でどう解決するべきかという共通認識をもつことができました。
加藤加藤
意見交換会は、「地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携」、「リハビリテーション・口腔・栄養」、「要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療」、「高齢者施設・障害者施設等における医療」、「認知症」、「人生の最終段階における医療・介護」、「訪問看護」を議題として取り上げました。印象に残ったのは人生の最終段階における医療・ケアについてです。委員のご親族においても、施設から医療機関へ搬送されると、共有されていたはずの人生の最終段階にかかる本人・家族の意志が引き継がれないという発言がありました。現状の制度では対応できていない、本人・家族の思いをそのまま受け止められる仕組みをどうつくるか、医療・介護の制度間の狭間にあるグレーゾーンにどう対応するか。これが「医療・介護連携」が必要な点であり、同時改定の意義だと言えます。
福田福田
「身体拘束」は課題のひとつです。医療機関の現場では、身体拘束をしている実情があります。介護側の身体拘束ゼロについての取組を日本慢性期医療協会の委員が医療側に紹介することで、新たな気づきが生まれ、身体拘束ゼロの共通認識を得た感触がありました。6年後の同時改定の際に議論するテーマが無くなるぐらいに充実した意見交換会でした。

今回の同時改定では、医療・介護連携を推進するための施策が多数導入されました。これらはどのようなものですか?

加藤加藤
まずは、「介護福祉士」についてです。看護職員の負担軽減や処遇改善を図るための看護業務の補助に関する体制の整備を評価する「看護補助体制充実加算」が見直され、介護福祉士についても盛り込まれました。この加算1と2の施設基準で、医療機関に3年以上勤務したことがある看護補助者の配置を求める。その看護補助者とは、「介護福祉士の資格を持つ人」、「3年以上の勤務経験があり、適切な研修を修了した看護補助者」のいずれかとしました。勉強会や意見交換会で、急性期や慢性期、在宅などさまざまな医療現場で介護職によるケアの必要性が高まっていることが共通認識となり、結果として、「介護福祉士」という文言が初めて診療報酬の中に出てくることになりました。
佐野佐野
介護側での改定の一つに協力医療機関との連携の強化があります。介護保険施設について一定の要件を満たす協力医療機関を定めることを義務付ける(経過措置3年間)とともに、平時からのより密な連携を評価するは「協力医療機関連携加算」を新設しました。介護施設の入所者への緊急時、医療体制が十分ではないことを踏まえたもので、医療機関との連携体制の強化を促すものです。
福田福田
そうですね。意見交換会で運営基準において入所者の急変や入院治療に対応するため協力病院を定めることとされています。一方で、協力医療機関との連携の内容は様々であり、対応を強化する必要性がありました。意見交換会の議論をきっかけに生まれた加算と言ってもいいかもしれません。
加藤加藤
その政策を推進するために、介護保険施設の入所者の病状急変時に在宅療養支援診療所等が往診を行った場合の評価として「介護保険施設等連携往診加算」、協力医療機関の医師が診察し、入院させた場合の「協力対象施設入所者入院加算」を診療報酬側に新設しました。
佐野佐野
そのほかには、在宅における医療・介護の連携強化の一つとして、通所・訪問リハビリテーションでは、医療機関からのリハビリテーション計画書の受け取りを義務化をした上で、リハビリテーション事業所の医師等が、医療機関の退院前カンファレンスに参加した際の評価として「退院時共同指導加算」を新たに設けました。
加藤加藤
診療報酬側では、他の保険医療機関等の関係職種がICTを用いて記録を共有した患者に係る診療情報等を活用した上で、医師が計画的な医学管理を行った場合の評価を新設しました。在宅医療は地域のクリニックによるかかりつけ医機能を重視した訪問診療、往診は評価されるようにしています。

医療・介護連携を推進するための施策以外にも様々な改定が行われました。印象に残っているのはどのようなものですか?

渡邊渡邊
「地域包括医療病棟入院料」の新設が印象的です。新たな区分の入院料の創設は、2014年度の「地域包括ケア病棟入院料」以来10年ぶりです。これは今回の診療報酬改定のテーマの1つでもある、高齢者救急をはじめとする地域医療の推進に向けて、救急受入、早期退院に向けたリハビリテーション、栄養管理、在宅復帰支援などの機能を包括的に提供する病棟を評価するものになります。地域包括医療病棟は看護師配置が10:1で、これまでの枠組みでは急性期病棟の看護配置ですが、誤嚥性肺炎や尿路感染症に医療を提供している場合には在宅復帰支援などの機能を発揮することを評価すべきという考えで作られています。地域における医療資源を適切に活用し、持続可能な地域医療提供体制を維持していくために、病院間の機能分化・連携強化のキーパーツになることが期待されています。

地域包括ケア病棟でも在宅療養中の方の受け入れが求められてきました。今回の「地域包括医療病棟」はどのように違うのでしょうか?

渡邊渡邊
ADLの低下した高齢の救急搬送患者を多く受け入れ、「急性期状態からの速やかな離脱に向けた十分な医療提供を行う」、「早期の退院に向けたリハビリ、栄養管理などを十分に提供する」、「退院に向けた支援を行う」ことで早期の在宅復帰を可能としています。地域包括ケア病棟の違いは、地域包括医療病棟の入院患者の平均在院日数21日以内を要件としており、地域包括ケア病棟の平均在院日数60日以内よりも短い期間で治療して退院することを目指しています。

その他には、春闘などで賃金上昇が話題になりました。同時改定における賃上げの状況を教えてください。

加藤加藤
高齢化などにより医療需要は増加しているものの、医療業界は、人材確保のために必要な賃上げの状況が他の産業に追いついていないといった理由もあり、特例的な対応として、令和6年度の診療報酬改定で医療従事者の賃上げの実現を目指すこととなりました。対応は二つに分かれており、「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」は初診等の評価を上げて賃金の改善、「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者」は入院基本料等を上げて賃上げに資する措置をすることにしました。

対象となる医師はなぜ40歳未満となったのでしょうか?

加藤加藤
医政局医事課で医師の働き方改革を担当していた際、医療現場では、若手医師の長時間労働によって成り立っている側面があること、その一方で、時間外手当等を支払いされていない実情があることを知りました。こうした実情を踏まえて、40歳未満の勤務医師にも賃上げの対象としています。
福田福田
介護報酬については1.59%のプラス改定を行い、このうち0.98%は「介護職員等の処遇改善」に充てられることになっています。

最近話題の、マイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認など、同時改定における医療DXの状況を教えてください。

渡邊渡邊
医療DX推進体制整備加算を新設しました。医療機関がオンライン資格確認により取得した診療情報・薬剤情報を実際に診療に活用可能な体制を整備し、また、電子処方箋及び電子カルテ情報共有サービスを導入し、質の高い医療を提供するため医療DXに対応する体制を確保している場合の評価をしています。
加藤加藤
オンライン資格確認等システムと連携することにより、本人の同意のもとで、電子カルテ情報(傷病名、感染症、アレルギー、薬剤禁忌、検査情報、処方情報)及び健康診断結果報告書を全国の医療機関等で取得・閲覧可能となることでより適切な医療を受けることが可能になります。医療DXは、医療分野でのデジタル・トランスフォーメーションを通じたサービスの効率化や質の向上により、わが国の医療の将来を大きく切り拓いていくものです。

最後に普段の仕事への思いも含め、医師、医学生にひと言ずつお願いします。

加藤加藤
診療報酬改定には中央社会保険医療協議会という場で審議が行われますが,私はその事務局の一員という立場でした。何十回にもわたる審議が行われ、最終的に診療報酬改定を迎えました。診療報酬制度の改定を通じて同じような志を持つ仲間と日本の医療を制度から良くすることができるのは、1人ひとりの患者を日々診るのと同等、あるいはそれ以上にやりがいがあり、面白い仕事であると思います。社会を変えるために何かしたいと思っている人にはぜひ厚労省の門を叩いて欲しいです。
渡邊渡邊
医師のキャリアとして臨床や研究以外に医系技官という道があることをまだ知らない人の中にも、大きなやりがいを感じられる方はいると思います。ホームページなどで医系技官の情報をみて、少しでも興味を持ったら、まずは自分の目で仕事ぶりを確かめに来ていただきたいです。
福田福田
介護報酬改定の作業をしている間はひたすら仕事という状態が続きました。肉体的、精神的なきつさはありましたが、介護報酬改定の大きな責任を感じながら仕事をすることができ,とてもやりがいがありました。自分自身が医療や介護に対して思っていることをそのまま仕事に対するモチベーションに変えることができる、そして使命感も非常に大きい仕事です。少しでも興味を持ったら、ぜひ一度ご連絡いただければと思います。
佐野佐野
医師として働いていたときはリーダー的な役割を期待されることが多いですが、医系技官としては、1つのチームの中で協調してやっていく必要があります。医系技官の勉強会を通じて、コミュニケーションを取りながら、仕事を進めていきました。たくさんの人の話を聞きながらやっていけることが大事じゃないかと思います。一緒に、新たな課題に挑戦したい人は医系技官の門をたたいてほしいです。