IDESコラム vol. 39「番外編:別れと出会いの季節」

感染症エクスプレス@厚労省 2019年3月22日

結核感染症課長:三宅 邦明

 結核感染症課長の三宅です。年度末に当たり、コラムを担当させていただくこととなりました。さて、この1年を振り返ると課の業務で一番時間をかけたのはやはり風しんに対する対策です。この4月で大体40~57歳になる男性、1500万人を超える働き盛りの方々を対象に、三年間限定で定期接種として麻しん・風しん混合ワクチンを打ってもらおうという新しい施策の設計に邁進していました。

 実は、この対象年齢より上の世代は、定期接種導入前で自然感染により90%以上の方が免疫を持ち、この下の世代は全員が予防接種を受けていてやはり90%以上の方が免疫を持っているのですが、この世代だけは、先天性風しん症候群の発生を防止するため女性のみが定期接種の対象となっていた時代で、自然感染もせず、予防接種も受けなかった男性が多く、集団免疫が成立する85%を下回る免疫保有の世代なのです。そのため、ここをターゲットにすることは、とても自然な流れではあるものの、働き盛りの世代で休みを取ってワクチン接種などの時間を空けてもらいにくいこと、住民票のある市町村に住んでいない方も居ること、非常に対象人口が多くワクチン・予算の確保が難しいことなど、多くの難題を抱えていました。

 これらの課題をクリアするため、まずは抗体検査をして免疫が無い・弱い方のみを対象にワクチン接種を行うこと、全国どこでも検査、ワクチン接種ができること、費用・時間を節約できるように健康診断の上乗せとして実施できることの三点を可能とするスキームが構想されましたが、どれも前例の無い方法ばかり、、、何度も、課題解決の断念が議論された中で、これらの課題がクリアされ晴れて、この4月より本格的に始動できるようになりました。ここに至るまでの担当を超えて日夜奮闘してくれた課員、健康局の先輩方、財務省・総務省・人事院などの協力、政治家の方々の支援、医師会・知事会・市町村会・健診機関を取りまとめる団体の方々など本当に多くの方の協力によってできたものです。本当に素晴らしいチームだからこそ乗り越えられたと思います。この施策は予防接種法における麻しん・風しん対策の第五期接種として結実しました。

 ところで、第一期が1歳時、第二期が小学校入学前ですが第五期ってなんででしょう。

 実は、子供時代に感染するのが普通であった麻しんが2007年には、大学を中心に流行し、東京都内では、4月に創価大学が全授業の休講に踏み切ったのを初め、5月に入ってからは、上智・日本・東京工科・成蹊など、その後の1年間で80以上の大学、70以上の高校が休校になってしまった事件があったのです。やはり、自然感染世代と二回接種世代の間にある世代で、麻しんの流行が少なくなったために麻しんウイルスに接触する機会が減ったため免疫能が落ちてしまったためでした。そのため、中学校一年生となる世代と高校生三年生に予防接種を5年限定で麻しん・風しん混合ワクチンを打つことにより合計10学年に二回目のワクチン接種の機会を持ってもらうこととしました。これが、今はすでに終了していますが、第三期と第四期だったわけです。これにより、2015年には、我が国は麻しんの排除に成功しました。このため、現在も麻しんの外国からの流入がありますが比較的小さな流行で終了しているのです。

 ここで注目したいのは、2007年の流行が春だったことです。これは、気候など自然の影響と言うよりも、新しい集団生活が開始される時期という社会的な影響によるものです。

 よく知られている史実ですが、16世紀にスペインがアメリカ大陸に侵入した際に持ち込まれた天然痘がその疾患の免疫を全く持っていないアステカ王国の国民に大打撃を与えたり、クリストファー・コロンブスの率いた探検隊員がアメリカ上陸時に原住民女性と交わって梅毒に感染してヨーロッパに持ち帰りヨーロッパで梅毒が大流行したなど、人の移動、人々の新たな出会いが感染症の大流行のきっかけとなり得るのです。感染症は世界の歴史に大きな影響を与えているのです。

 風しんの今回の新たな施策を担ってきたチームもこの春で大きく入れ替わります。それぞれの者が新たな業務に挑戦します。別れはいつも悲しいものですが、それがあるから新しい仲間に出会い、新しい業務に挑戦もできるのも事実です。実は、私もこの春に24年間育ててくれた厚生労働省を辞めて、新しい仕事に挑戦します。別れと出会いの季節である春。やり残したことも多く、名残惜しい仲間もいっぱい居るのですが、、、新しい仲間を楽しみに新たな挑戦に出発します。皆さんも、いろいろな別れ、出会いがあることだと思います。勇気を出して踏み出しましょう。仕事を一緒にやってくれた方々、育ててくださった諸先輩方、めちゃぶりに応えてくれた多くの仲間たち、長い間ありがとうございました。そうそう、対象年齢の男性の方は、ぜひ、抗体検査もやってくださいね。春の生活環境の激変の中で、麻しん、風しんを拡げないために、、、

(編集:成瀨浩史)

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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