問1 重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)とはどのような病気ですか?
答 SFTSは、マダニにより媒介されるSFTSウイルスによる感染症で、主な初期症状は発熱、全身倦怠感、消化器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)で、重症化し、死亡することもあります。
問2 重症熱性血小板減少症候群は、世界のどこで発生していますか?
答 2011年に中国で初めて報告されました。以降、日本、中国、韓国、台湾、ベトナム、タイ及びミャンマーで患者発生が確認されており、東アジアや東南アジアで発生しています。
問3 日本でSFTS患者はどのくらい発生していますか?
答 2013年1月、SFTSの患者(2012年秋に発症)が国内で初めて確認されて以降、2020年まで毎年60~100名程度の患者が報告されていました。海外渡航歴のない日本在住の患者から分離されたウイルスが、中国の流行地域で見つかっているウイルスのタイプと異なっていることから、以前から日本国内に存在していたと考えられます。2021年以降は、毎年100名を超える患者が報告されており、2025年は過去最高の183名の患者が報告されています(2025年11月2日時点)。
問4 ヒトはどのようにしてSFTSウイルスに感染するのですか?
答 多くの場合、ウイルスを保有するマダニに刺されて感染しています。また、野生動物やネコ・イヌなどの動物の血液からSFTSウイルスが検出された報告があり、SFTSウイルスに感染したネコやイヌとの接触により感染したと考えられる症例も報告されています。国外では患者血液や分泌物との直接接触が原因と考えられるヒト-ヒト感染の事例報告が以前からあり、2024年3月に国内でも初めてのヒト-ヒト感染事例(患者→医療従事者)が報告されています。
問5 ヒト以外の動物もマダニに刺されてSFTSにかかるのですか?
答 国内ではSFTSウイルスに感染し、発症したネコ、イヌ及びチーターが報告されています。これまで、西日本を中心に感染した動物が報告されておりましたが、徐々に東日本での報告も増えており、ヒトでの患者が報告されている地域と重なります。一般的に動物がSFTSウイルスに感染した場合、多くは症状を示さない(不顕性感染)と考えられていますが、ネコやイヌでは発熱・元気消失・嘔吐・黄疸(黄疸はネコのみ)などの症状を示し、ネコは約6割、イヌは約4割が死亡します。また、国内において、シカ、イノシシ等の野生動物やネコやイヌの血液を検査したところ、SFTSウイルスに対する抗体を持っている(=過去にSFTSウイルスを保有するマダニに吸血されて、SFTSウイルスに感染したことのある)動物がいることが分かっています。
問6 ネコやイヌからSFTSウイルスに感染する危険性があるということですか?
答 ネコやイヌがSFTSウイルスに感染すると、発熱や消化器症状などのヒトと同じような症状(問22参照)を示すことがあります。SFTSウイルスに感染し、発症している動物の血液や唾液などの体液に直接触れた場合、SFTSウイルスに感染する可能性があります。実際に、ネコに咬まれたことが原因でSFTSウイルスに感染した事例や発症動物の体液等との直接接触が原因と考えられる獣医療関係者の感染事例も報告されています。ただし、発症していないネコやイヌ、屋内のみで飼育されているネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例はこれまでに報告されていません。
問7 ネコなどの動物からSFTSウイルスに感染しないためには、どのように予防すればよいですか?
答 動物に付着したマダニは適切に駆除しましょう(問19 参照)。飼育している動物の健康状態の変化に注意し、動物が体調不良の際には、マスク、手袋などを着用し、咬まれたり舐められたりしないように注意したうえで、動物病院で診てもらってください。ペットがマダニに刺されないようダニ駆除剤も有効ですので獣医師に相談しましょう。
これまでに、発症していないネコなどの動物からヒトがSFTSウイルスに感染した事例は報告されていませんが、他の動物由来感染症に対する予防の観点からも、動物に触ったら必ず手を洗いましょう。動物を飼育している場合、過剰な触れ合い(口移しでエサを与えたり、動物を布団に入れて寝たりすることなど)は控えてください。
野生動物は、どのような病原体を保有しているか分かりません。野生動物との接触は避けてください。また、動物の死体等に接触することは控えましょう。
体調に異変を感じたら、早めに医療機関を受診してください。受診する際は、ペットの飼育状況やペットの健康状態、また動物との接触状況についても医師に伝えてください。
問8 マダニは、屋内で普通に見られるダニとは違うのですか?
答 食品等に発生するコナダニや衣類や寝具に発生するヒョウヒダニなど、家庭内に生息するダニとマダニでは種類が異なります。また、植物の害虫であるハダニ類とも異なります。
マダニ類は、固い外皮に覆われた比較的大型(種類にもよりますが、成ダニの大きさは、吸血前で3~8mm、吸血後は10~20mm程度)のダニで、主に森林や草地に生息していますが、郊外、市街地でも生息しています。
問9 どのような種類のマダニがSFTSウイルスを保有しているのですか?
答 日本には、命名されているものだけで47種のマダニが生息するとされていますが、これまでに実施された調査の結果、複数の種類のマダニ(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ)からSFTSウイルスの遺伝子が検出されています。日本では少なくともフタトゲチマダニとキチマダニがヒトへの感染に関与しています。なお、中国では、フタトゲチマダニやオウシマダニといったマダニ類からSFTSウイルスが見つかっており、韓国でもフタトゲチマダニがSFTSウイルスを保有しているとの報告があります。

(国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所昆虫医科学部提供)
問10 全てのマダニがSFTSウイルスを保有しているのですか?
答 全てのマダニがSFTSウイルスを保有しているわけではありません。中国の調査では、患者が発生している地域で生息しているフタトゲチマダニの数%からSFTSウイルスの遺伝子が見つかったと報告されています。日本国内では、これまでに複数のマダニ種からSFTSウイルスの遺伝子が検出されていますが、ウイルス保有率は地域や季節により違いがあるものの0~数%です。
問11 マダニに刺されたことにより感染する病気は国内に他にありますか?
答 日本紅斑熱、ライム病など多くの感染症がマダニによって媒介されることが知られています。北海道ではマダニによって媒介されるダニ媒介脳炎の患者が報告されています。また、ダニの一種であるツツガムシによって媒介される、つつが虫病もあります。
問12 国内で患者が報告された地域以外でも注意が必要ですか?
答 SFTSの患者は、これまで西日本を中心に報告されていましたが、2025年に関東や北海道で感染した症例が報告されました。そのため、全国的に感染リスクがあると考えられ、SFTS患者の発生が確認されていない地域においても注意が必要です。
問13 マダニからSFTSウイルスに感染しないようにするためには、どのように予防すればよいですか?
答 マダニに刺されないようにすることが重要です。特にマダニの活動が盛んな春から秋にかけては、マダニに刺される危険性が高まります。草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖・長ズボン(シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる、または登山用スパッツを着用する)、足を完全に覆う靴(サンダル等は避ける)、帽子、手袋を着用し、首にタオルを巻く等、肌の露出を少なくすることが大事です。服は、明るい色のもの(マダニを目視で確認しやすい)がお薦めです。DEET(ディート)やイカリジンという成分を含む虫除け剤の中には服の上から用いるタイプがあり、補助的な効果があると言われています。また、屋外活動後は入浴し、マダニに刺されていないか確認してください。特に、首、耳、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏などがポイントです。マダニに吸血された場合には、無理に引き抜こうとせず、皮膚科などを受診してマダニを除去してもらってください。
問14 マダニに刺されたら、どうすればよいですか?
答 マダニ類の多くは、ヒトや動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から、長いものは10日間以上)吸血しますが、刺されたことに気がつかない場合も多いとされています。吸血中のマダニに気が付いた際は、無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくしてしまう恐れがあるので、医療機関(皮膚科など)で処置(マダニの除去、洗浄など)をしてもらってください。また、マダニに刺された後、数週間程度は体調の変化に注意をし、発熱等の症状が現れた場合はすみやかに医療機関で診察を受けてください。その際、マダニに刺されたことを医師に説明してください。
問15 SFTSウイルスに感染した動物を食べてもSFTSにかかったりしませんか?
答 動物由来食品(肉や乳など)を食べたことによって、ヒトがSFTSウイルスに感染したという事例の報告はありません。また、SFTSウイルスに対する抗体を持った動物も報告されていますが、抗体自体に病原性はないため、抗体を持っている動物を食べても問題ありません。ただし、一般的な注意事項として、野生動物を食用にする場合(ジビエなど)は、動物由来感染症や食中毒を防ぐ観点から、捕獲・処理・加工する際の衛生的な処理や十分な加熱調理等、適切な取扱いを行うことが重要です。
参考:食品安全委員会 「
ジビエを介した人獣共通感染症」
厚生労働省「
ジビエ(野生鳥獣の肉)の衛生管理」
問16 SFTSにかかりやすい、または、重症化しやすい年齢はありますか?
答 日本でこれまでに確認されたSFTS患者の年齢層は、5歳~90歳代で、全患者の約90%が60歳以上となっています。亡くなった患者の多くは50歳以上なので、高齢者は重症化しやすいと考えられます。
問17 SFTSの致命率はどのくらいですか?
答 国立健康危機管理研究機構の研究によると、日本のSFTS患者の致命率は27%です。一方、中国では10%とする報告もあります。(参考:致命率(case fatality rate)とは、ある特定の病気にかかったと診断され、報告された患者のうち、一定の期間内に死亡した患者の割合を示したものです。)
問18 マダニ以外の吸血昆虫を介してSFTSにかかることはないのですか?
答 ありません。
(参考:一般的に、蚊やマダニなどの節足動物が媒介する感染症は、その病原体ごとに媒介する節足動物がおおよそ決まっています(例えば、日本脳炎は蚊、日本紅斑熱はマダニ、発疹チフスはシラミが媒介します)。SFTSにおいては、マダニがヒトへの感染に関わっています。)
問19 ペットにマダニが付いていたのですが、そのマダニを介してヒトがSFTSにかかることはありますか?
答 ペットに付いているマダニに触れたからといって感染することはありません。しかし、マダニに刺されれば、その危険性はあります。マダニ類はネコやイヌ等、動物に対する感染症の病原体を持っている場合もありますので、ペットの健康を守るためにも、ペットがマダニに刺されないようにしましょう。また、付いているマダニは適切に駆除しましょう。ペット用のダニ駆除剤等がありますので、かかりつけの獣医師に相談してください。散歩後にはペットの体表をチェックしてください。目の細かい櫛をかけることも効果的です。マダニが咬着している(しっかり食い込んでいる)場合は、無理に取らず、獣医師に除去してもらうのがよいでしょう。