巻貝:ピロフォルバイドa(光過敏症)
1 | 有毒種 | アワビ類(クロアワビ、エゾアワビ、メガイ、トコブシなどのミミガイ科の巻貝)。 サザエも弱いながら有毒[1]。2月から5月の春先のアワビの中腸腺(ウロ、ツノワタ、トチリと呼ばれている)のみが有毒である[2]。 東北地方では「春先のアワビのツノワタ(内臓)を食べさせるとネコの耳が落ちる」という言い伝えが古くからある。 春先のアワビのツノワタを食べたネコはうるしにかぶれたようになり、かゆいためかよく耳をかき、耳がなくなってしまうこともあるという。 クロアワビ(矢印は中腸腺) |
2 | 中毒発生状況 | きわめてまれ。明治時代に2件(北海道奥尻島および長崎県壱岐島)、戦後間もなくの1947年3月に岩手県気仙郡三陸町で1件(患者数16人)の中毒記録がある程度[3]。 |
3 | 中毒症状 | 光過敏症で、発症には日光にあたることが必要。摂取して1〜2日で、顔面、手、指に発赤、はれ、疼痛などが引き起こされる。 やけど様の水泡が現れ化膿することもある。全治には約20日を要する。死亡することはない。 |
4 | 毒成分 | |
(1)名称および化学構造 | ピロフェオホルバイドa [1, 4]。クロロフィルaの誘導体で、アワビの餌である海藻のクロロフィルに由来すると考えられる。 ピロフェオホルバイドaが春先にだけ中腸腺に蓄積する理由は不明である。 図1 ピロフェオホルバイドa(左)およびクロロフィルa(右) |
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(2)化学的性状 | 青紫色の柱状結晶。溶液は濃緑褐色で、日光あるいは紫外線を当てると強い赤色の蛍光を放つ。水に不溶で、アセトン、メタノールには易溶。 融点247〜250℃。吸収極大(ジオキサン):668 nm(e 51000)、610 nm(e 7800)、559 nm(e 3100)、537 nm(e 9500)、509nm(e 12000)、470 nm(e 4200)。 | |
(3)毒性 | シロネズミ(ラット)の経口投与実験では、5 mg/100 gが発症量[1]。 | |
(4)中毒量 | ヒトでの中毒量は不明。 | |
(5)作用機構 | ピロフェオホルバイドaは可視光線下で強い蛍光を発する色素で、光増感剤の一種である。 腸管から吸収されたピロフェオホルバイドaは、血液を介して生体内各組織細胞に運ばれる。 この物質の存在下では、光により活性化された酸素が細胞膜を構成している脂肪酸(アラキドン酸)等を酸化して過酸化脂質をつくり、 この過酸化脂質が生体膜の組織細胞の破壊その他の各種の障害を誘発したり、毛細管の透過性を高めて、 皮膚のそうよう感を生じるのであろうといわれている[5]。 | |
(6)分析方法 | クロレラの既存フェオフォルバイド量(クロロフィル分解物量をピロフェオホルバイドaに換算した量)については、 溶媒分画後のクロロフィル分解物画分の吸光度(667 nm)測定により定量する方法がある[5]。ピロフェオホルバイドaだけでなく、 関連化合物(フェオホルバイドa、フェオフィチンa、クロロフィルa)も同時定量するには逆相HPLC法[6-8]が簡便である。 | |
5 | 中毒対策 | 春先のアワビ類の中腸腺は摂取しない。 無毒の中腸腺の色は灰緑色ないし緑褐色、有毒な中腸腺の色は濃緑黒色であるので、中腸腺の色で区別可能である。 |
6 | 参考事項 | クロロフィル分解物を原因とする食餌性光過敏症としては、クロレラで7件が記録されている[9]。 また、台湾では、乾海苔による光過敏症も報告されている[8]。そのほか、漬け物(野沢菜、高菜)[10]やスピルリナ[11]も光過敏症を起こす可能性が指摘されている。 |
7 | 文献 |
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