​はじめに

2022年の我が国の経済は、引き続き新型コロナウイルス感染症(以下「感染症」という。)の影響がみられたものの、感染防止策と経済社会活動の両立が図られ、経済活動は徐々に正常化に向かった。一方、年後半においては、ロシアのウクライナ侵攻や円安の進行等を受けた輸入原材料・エネルギーなどの価格の高騰に伴う物価上昇が続く中、供給制約や外需の弱さもあり、GDPは伸び悩んだ。
 雇用情勢は、2021年以降、感染拡大前と比べて求人数の回復に遅れがみられる産業もあるものの、経済社会活動が徐々に活発化する中で持ち直している。
 賃金については、名目でみると12月における前年同月比の伸び率が25年11か月ぶりの水準となる等、年間を通して感染拡大前の2019年の水準を大きく上回った。こうした中で、2022年の春季労使交渉については、妥結額、賃上げ率ともに4年ぶりに前年の水準を上回った。一方、円安の進行や輸入原材料の価格の高騰に伴う物価上昇がみられ、実質賃金は減少している。
 「令和5年版 労働経済の分析」では、第Ⅰ部「労働経済の推移と特徴」において、2022年の労働経済をめぐる動向を分析するとともに、第Ⅱ部「持続的な賃上げに向けて」において、我が国の賃金の動向やその背景を分析するとともに、賃上げによる企業・労働者・経済への効果や、持続的な賃上げに向けた今後の方向性等を確認している。
 第Ⅰ部では、第1章「一般経済の動向」において、GDPや企業の利益、投資、倒産の状況等を確認するとともに、第2章「雇用・失業情勢の動向」では、雇用者数の推移や、障害者や外国人等多様な労働者を取り巻く状況に加え、有効求人倍率等の求人や失業の動向等を分析している。第3章「労働時間・賃金等の動向」においては、我が国における労働時間、有給休暇、賃金、春季労使交渉等の動向を紹介し、第4章「物価・消費の動向」では、消費者物価の動向や、年齢別の消費性向等を示している。
 第Ⅱ部では、第1章において、25年間、我が国の賃金が必ずしも生産性の伸びほど増加していない状況について、主要国との比較を通じて確認するとともに、生産性と賃金の増加に乖離がみられた背景について5つの仮説を挙げ、これらの検証を行っている。第2章においては、賃金が増加していくことによりもたらされる好影響をテーマに、個々の企業や労働者への効果(ミクロの視点)と、消費や生産、結婚等の経済全体への効果(マクロの視点)に分けてそれぞれ分析を行った。最後に第3章において、(独)労働政策研究・研修機構が実施した企業調査を用いて、業績や経済見通し、価格転嫁、賃金制度等と賃上げの関係について分析を行うとともに、今後、持続的に賃金を増加させていくための方向性として、スタートアップ企業等の新規開業、転職によるキャリアアップに加え、非正規雇用労働者の正規雇用転換を取り上げ、これらが賃金に及ぼす影響を確認した。これらに加え、最低賃金制度と同一労働同一賃金の2つの政策が賃金に及ぼした影響についても分析している。