2022年11月28日 第93回社会保障審議会年金数理部会(オンラインセミナー形式) 議事録

年金局総務課首席年金数理官室

日時

令和4年11月28日 13時00分~16時00分

場所

コモレ四谷タワーコンファレンス

出席者

(委員)
翁部会長、野呂部会長代理、小野委員、駒村委員、佐藤委員、庄子委員、寺井委員、枇杷委員、山口委員

議題

(1)ピアレビューと財政検証
(2)その他

議事

議事内容
○村田首席年金数理官 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第93回「社会保障審議会年金数理部会」を開催させていただきます。
 審議に入ります前に、資料の確認をさせていただきます。
 資料は、議事次第、委員名簿、座席図のほか、
資料1「小野委員提出資料」
資料2「事務局資料」
参考資料1「社会保障審議会関係法令」
参考資料2「令和元(2019)年財政検証に基づく公的年金制度の財政検証(ピアレビュー)の概要及び報告書からの抜粋」
参考資料3「公的年金財政状況報告-令和2(2020)年度-の概要」
でございます。
 次に、年金数理部会の委員の異動について御報告いたします。委員名簿を適宜御覧いただければと思います。
 本年3月31日付で、浅野委員、関委員、永瀬委員が退任され、4月1日付で新たに佐藤久恵委員、庄子浩委員、寺井公子委員に御就任いただきましたので、御紹介させていただきます。
 佐藤久恵学校法人国際基督教大学理事でいらっしゃいます。
 庄子浩公益社団法人日本アクチュアリー会前理事長でいらっしゃいます。
 寺井公子慶應義塾大学経済学部教授でいらっしゃいます。
 次に、本日の委員の出欠状況について御報告いたします。本日は、全委員が御出席されております。
 また、前回の部会開催以降に事務局の異動がございましたので御紹介いたします。
 年金局長の橋本でございます。
 審議官の朝川でございます。
 総務課長の岡部でございます。
 年金課長の若林は、本日公務により欠席しております。
 資金運用課長の西平でございます。
 年金数理官の植田でございます。
 最後に、私、村田が首席年金数理官に着任してございます。
 それでは、以降の進行については翁部会長にお願いいたします。

○翁部会長 委員の皆様には御多忙の折、お集まりいただきましてありがとうございます。
 まず、議事に先立ちまして、私から部会長代理の指名をさせていただきたいと存じます。社会保障審議会令の規定により、「部会長に事故があるときは、当該部会に属する委員又は臨時委員のうちから部会長があらかじめ指名する者が、その職務を代理する」とされています。
 部会長代理につきましては、野呂委員にお願いしております。どうぞよろしくお願いいたします。

○野呂部会長代理 野呂でございます。よろしくお願いいたします。

○翁部会長 それでは、議事に入ります。
 本日の議題は「ピアレビューと財政検証」です。年金数理部会は一昨年の令和2年12月に、令和元年財政検証のピアレビューを行ったところですが、広く傍聴いただける形での部会の開催は困難な状況でした。
 一方で、これまでも年金数理部会はセミナー形式で部会を開催することにより、公的年金財政をめぐって数理的な視点を中核としながら幅広く正確な情報を発信することにより、多くの方々に、取り分け公的年金財政に関心のある方々に理解を深めていただいておりました。
 今回、これをもう少し進めて動画配信にすることにより、オンラインセミナー形式としてより多くの方々にピアレビューについて理解を深めていただく場として今回の部会を開催することといたしました。
 本日は、まず小野委員よりピアレビューを中心とした基調講演をいただき、その後、事務局から本日の議題に関連する事項を報告いただき、後半では委員全員での意見交換を行うことといたします。
 それでは、小野委員よろしくお願いいたします。

○小野委員 ただいま御紹介いただきました年金数理部会委員の小野でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 ここからですので、失礼してマスクを外してお話をさせていただきたいと思います。
 私は当部会の委員として、部会が毎年度公表する財政状況報告書というものがありますが、これに平成29年度分から関わってきました。また、2019年財政検証を受けた財政検証に基づく公的年金制度の財政検証(ピアレビュー)の公表にも関わりました。
 先輩の委員を差し置いて僭越ではございますが、この間の委員としての経験を基に、私なりに年金数理部会並びに2019年の財政検証のピアレビューの報告をさせていただきます。
 本日御説明する内容は、スライドのとおりでございます。
 まずは年金数理部会そのものの御紹介です。こうしたセミナー形式の年金数理部会は近年散発的になっておりまして、今回も4年ぶりです。したがいまして、まずは年金数理部会の紹介が必要だと考えました。
 次に、今回紹介させていただくピアレビューに先立ちまして、評価の対象となった2019年財政検証の結果の概要をピアレビューに関連づけましてごく簡単に説明させていただきます。
 3つ目がピアレビューの御説明ですが、ここでは網羅的な説明ではなくて、今回のピアレビューが従来と異なる点につきまして特に説明したいと思っております。
 最後に、部会の一委員としての私の見解を述べさせていただきたいと思います。
 年金数理部会はかつて総理府社会保障制度審議会の下に設置された部会でしたが、省庁再編に伴って厚生労働省社会保障審議会の下に設置されました。総理府の時代で私が印象的だったのは、部会長をされました船後正道先生とか、たしか年金数理部会セミナーで登壇されましたアメリカの社会保障庁のイーライ・ドンカー氏とか、あるいはイギリスの政府アクチュアリー庁のジョージ・ラッセル氏といった社会保障の運営に従事するアクチュアリーの方々でした。
 さて、発足した年金数理部会には3つミッションがありまして、まずは各被用者年金制度の安定性及び公平性の確保に関し、財政再計算における検証及び毎年度の報告を求めることです。
 2つ目に、被用者年金制度の一元化の具体的な措置が講じられる際の具体的な費用負担の在り方等について、年金数理的な観点から検討及び検証を行うこと。
 3つ目に、農林漁業団体職員共済組合の厚生年金保険への統合に伴い、納付される移換金の検証です。この3つのミッションが課されたということでございます。
 それで、当時の公的年金制度の状況を確認してみますと、ここだけ図が邦歴になっていますので邦歴でいきますけれども、私が社会人になって年金を学び始めたのが昭和54年でございまして、その当時は公的年金は8つあるというふうに教えられました。公的年金の一元化というのは昭和59年の閣議決定にまで遡ると言うことができると思います。昭和60年改正で基礎年金が導入され、1階部分が共通化されたということです。その後は被用者年金の制度間調整を経まして、旧公共企業体共済組合、つまり今で言うJR、JT、NTTですが、平成9年に厚生年金に統合されています。
 各制度からの移換金に関するこの頃の算定方法というのがありまして、拠出時給付確定部分と言われておりますが、老齢厚生年金のスライド再評価分を除いた部分、つまり厚生年金基金の代行部分は事前積立てという考え方に基づいて算定されました。
 たしかJRは、このとき積立金がこの額に満たないために追加の負担が課されたというふうに記憶しております。
 現在の年金数理部会の発足直後に農林年金が統合されましたが、これは後ほど御説明いたします。
 さて、次のスライドですけれども、現在用いられている年金数理部会の紹介です。一番上の箱の2つ目の項目にありますとおり、発足時に3つあったミッションですけれども、現在は「被用者年金制度が一元化された後も、制度の安定性の確保の観点から財政検証結果及び各年度の決算の報告を求め、審議」という、この1点のみになっております。
 これに基づき、年金数理部会はスライドの下半分の左側になりますけれども、5年に1度実施される財政検証について結果や手法のヒアリングを行い、これを分析評価してピアレビュー報告書を作成します。
 一方、右側ですけれども、実施機関、現在は3共済合わせて4つの機関から決算結果の報告を受け、これを集計し、直前の財政検証との比較等の分析を行った公的年金財政状況報告書を作成いたします。
 次のスライドから、当初のミッションが変遷した経緯というものを確認していきます。
 繰り返しになりますけれども、上の緑色の枠内が年金数理部会設置時に課された審議事項、その下の黄色い枠が現在の審議事項になります。比べてみると、設置時のミッションの2つ目の被用者年金一元化に関連した数理的な観点からの検討及び検証と、3つ目の農林年金統合の際の移換金の検証がなくなっています。
 もう一つは1つ目のミッションですけれども、赤字部分の「公平性の確保」という文言ですが、これが現在ではなくなっています。
 まず農林年金の統合ですが、これはいわゆる一元化懇の報告書に基づき、2001年3月に閣議決定がなされ、移換金を含む方向性が確定しました。それで、年金数理部会は2001年12月に第1回が開催されておりますので、これを検証するという役割を担いました。この検証は、統合終了後の2003年6月の第6回年金数理部会で行われました。
 これも余談ですけれども、このときの農林年金からの移換金は旧公共企業体共済組合の統合時と同様の方法、つまり拠出時給付確定部分の現在価値で算出されました。
 ただし、1999年財政再計算で予定利率が5.5%から年4%に変更されました。これを受けて、1999年3月までの拠出分は年5.5%、99年4月以降、統合までの拠出分については年4%で割引を行いました。
 次に被用者年金一元化ですけれども、これは政権交代があった2009年7月に一旦廃案になっています。それで、検討過程で方向性が示された自民党の検討案に基づきまして、2006年3月の第24回年金数理部会で報告がありました。
 それで、2015年10月の統合は積立金の仕分けを厚生年金保険の積立比率に合わせるという廃案になった法案と同じ考え方に基づいておりますけれども、内容に関しては2012年12月の第52回年金数理部会以降、積立金の仕分けの精算まで数度にわたり説明がなされました。
 また、2015年11月に開催されましたセミナー形式の第67回年金数理部会でも報告がありました。
 これらの経緯によりまして、2つ目と3つ目のミッションは完了しました。
 次に、被用者年金制度の安定性及び公平性の確保が制度の安定性の確保になった経緯を、安定性や公平性の定義の変化とともに確認いたします。
 まず、保険料水準固定方式に移行した2004年再計算のピアレビューでは、安定性に関しては「給付が急激に引き下げられるおそれや、老後の基本的部分を支えられなくなるおそれのないこと」、公平性に関しては「制度間で、過去の運営状況等を考慮した上で、同じ年金給付に対する保険料水準に差がないこと」と定義されています。この定義は、2009年財政検証のピアレビューでも同様です。
 2014年財政検証は、被用者年金の一元化を踏まえた検証でした。これにより、厚生年金部分の財政の統合が実現し、保険料も最終的には統一されることになりました。そこで、制度間の公平性は一部経過措置を除き完全に図られたということで、公平性の検証は一区切りということになりました。
 一方、公的年金の安定性を「持続可能性と給付の十分性が、将来にわたり、ともに保たれている状況にあること」と定義し直しました。そして、実施機関ごとに将来にわたり積立金が枯渇することなく給付を確実に行えることと、それから被用者年金の安定性については基礎年金の給付水準を決定する国民年金の安定性が併せて確保されることに着目して分析を行っています。
 今回の2019年財政検証に基づくピアレビューでは、公的年金制度の安定性については前回ピアレビューと同様の定義としましたが、持続可能性の評価検証ポイントとして、積立水準、各種財政指標、収支項目のGDP比を総合的に考慮することや、各実施機関において給付費や拠出金など、支出が期限どおりにできることを挙げています。
 十分性の評価のポイントとして、基礎年金、報酬比例年金への分解を含む所得代替率、世帯人員1人当たりで見た賃金水準ごとの給付水準を掲げています。
 さらに、安定性に関連して、「これまでの財政検証との比較」や「財政検証に含まれる不確実性と感応度分析」での考察も参考に、将来の不確実性を念頭に置きながら評価するということになっております。
 次のスライドは、本日現在、年金数理部会に在籍する委員をお示ししております。右側に赤い星のマークをつけましたけれども、2019年財政検証に基づくピアレビュー公表時に在籍していた委員ということでありまして、ある意味、本日紹介するピアレビューの報告書に責任がある委員ということになりましょうか。
 年金数理部会は「年金数理に関する専門的な知識、経験を有する者等」のみで構成されておりまして、他の多くの部会のような「労働者代表」とか「使用者代表」の委員というのは存在しないというところに特徴がございます。
 この点について私は、当部会は政策決定からは距離があるといいますか、政策決定の議論を行うことを想定した部会ではないと考えております。
 次のスライドは、年金数理部会がこれまで公表した報告書と報告時期をお示ししたものです。ちょっと字が細かくて大変恐縮ですけれども、水色の四角が4つありますが、財政再計算ないし財政検証の報告でございまして、これは年金局が公表したものです。それで、年金数理部会の報告としては、まず赤い四角のピアレビューです。中に数字が書いてありますけれども、レビューした財政再計算ないし財政検証の報告を表しています。
 さらに緑色の四角になりますが、これは毎年公表する公的年金財政状況報告書を示しております。中にFY+西暦の数字、それから一つ下の段に西暦の数字と丸つきの数字がありますが、FYのところは対象とした決算年度でございます。それで、次の西暦は分析に用いた基になる財政検証の数字になります。それから、最後の丸つき数字は同じ財政検証を用いた累積の回数を表しています。
 財政検証ごとに区分けするために赤い仕切り線を入れてありますが、やや不自然な感じもいたします。例えば一番下の左から4つ目の2014年度の財政状況報告書は、2009年の財政検証との比較で分析したものです。ですが、財政状況の検討時期には既に2014年の財政検証とそのピアレビューが済んでいるということになります。
 この状況でなぜ2009年を用いたのかというのが疑問に残るところなのですが、結果として翌年度の2015年度の財政検証報告は2014年の財政検証と比較してはいるものの、2014年度の分析からの連続性がなくなりまして、2014年度の分析が不十分になっているということでございます。この点は、現在の事務局の御努力によりまして、2019年度の財政状況報告書から是正されているということでございます。
 次のスライドは、年金数理部会が実施したセミナーをお示ししたものです。御覧のとおり、当初は年金数理部会セミナーと銘打って2010年までは毎年開催されました。それで、政権交代の混乱もあったのだろうと思いますけれども、3年後に復活したときには年金数理部会の一部としてセミナー形式で実施するということになり、毎年11月の年金の日の頃に開催されていました。しかし、近年は散発的な開催となっております。
 私は基調講演の講師としては2回、パネリストとして出席を含めると登壇は4回となりますけれども、ここでは前回の2018年の11月30日の第18回の年金数理部会でパネラーとして、私の数理部会の委員としての顔見世というような形になりまして、本日も同じようなお立場の先生方がいらっしゃるのではないかと思います。
 遡りまして第60回ですけれども、ここでは2014年財政検証を受けまして基調講演をさせていただきましたが、このときは部会の委員ではなかったのですが、かなり集中砲火をいただいたということを覚えています。
 ただ、私が一番厳しかったのは、「新年金制度の基本原則について」と銘打って実施された2010年の年金数理部会セミナーです。このときは厚生労働省が入る合同庁舎の大講堂で、時の厚生労働大臣が最前列に座った聴衆を前にいたしまして、いわゆる民主党案に関する批判的な見解を述べるという非常にプレッシャーのかかる貴重な経験をさせていただきました。
 ただ、今にして思いますと、私が政策の議論をすべきでないと考えております年金数理部会という器が、時の政権に利用されてしまったのかなということも思っております。
 さて、本日の主題でありますピアレビューの報告の対象となった2019年の財政検証について簡単におさらいをさせていただきます。特に財政検証に用いた数理的仮定を中心にお話をしたいと思います。
 まず人口の前提ですが、国立社会保障・人口問題研究所が社会保障審議会人口部会にて2017年に公表した「日本の将来推計人口」を用いています。中位推計に関しましては、前回の2012年推計との比較で、出生率は向上、平均余命は伸長、結果として高齢化率は低下しているということでございます。
 労働力の前提は、JILPTが2019年3月に公表しました「労働力需給の推計」を利用し、労働参加について3つの前提が設定されているということでございます。
 また、経済の前提に関しましては、年金部会に設置されました年金財政における経済前提に関する専門委員会での検討を基に、全要素生産性上昇率を軸にした幅の広い6つのケースというものを想定しております。前回の財政検証との比較では、労働参加については労働参加が進むケースでは進展、一方で経済前提のほうは控えめとなってございます。
 この長期の経済前提に関しては、歴代の専門委員会ですけれども、これを掲げさせていただいておりますが、再計算や財政検証のたびに専門家による会議を設定しまして、その報告を基に設定しているということなのですが、2009年の財政検証の際の報告に、この黄色い枠囲いのところですけれども、年金財政の将来見通しは人口や経済を含めた将来の状況の予測というよりも、人口や経済に関して現時点で得られるデータの将来の年金財政へ投影、これはprojectionですが、そういう性格のものであることに留意すべきであるというふうに記載されました。
 この考え方はその後も引き継がれまして、2019年の財政検証では、財政検証に当たっては長期的に妥当と考えられる複数のシナリオを幅広く想定した上で、長期の平均的な姿として複数ケースの前提を設定し、その結果についても幅を持って解釈する必要があるものであるとも記載されているということでございます。
 また、2014年の財政検証からは真ん中のシナリオがなくなるように、ケースは偶数設定されているということも、こうした考え方の表れだろうと思っております。
 実際、例えば全要素生産性上昇率に関しましては左側でお分かりのとおり、過去30年間のTFP上昇率の分布の全てが、かつバランスよくカバーできるように設定されているということがお分かりいただけるのではないかと思います。
 これは結果として右側の図のとおり、設定されたTFP上昇率というのはおおむね1990年代後半以降の実績の範囲に設定されているというふうに言えるということでございます。これは計算の基礎、計算の前提の一つの例ですが、このような形で設定をしているということでございます。
 次のスライドは財政検証の結果を示すものでございますけれども、結果的には前回の財政検証と同様に経済成長と労働参加が進むケースではマクロ経済スライド調整後も所得代替率50%確保というふうにされています。経済前提を控え目に設定したマイナス要因が人口の前提と労働参加の前提のプラス要因と相殺されまして、若干お釣りが出たというようなことなのではないかと思います。これについては、ピアレビューの御説明で詳しくお話をいたします。
 ごく大ざっぱな言い方になりますけれども、この結果は見方によっては人口の前提を固定した場合の実質経済成長率と最終的な所得代替率との関係を示しているというふうな見方もできるのではないかと思います。
 一方、人口の前提を変化させた場合ということで、これはこのスライドのとおりでございます。左側では合計特殊出生率が中位推計の1.44に対しておおむね0.2程度上下した場合の影響が示されています。右側では、死亡中位の平均寿命であります男子84.95歳、女子91.35歳から、これもおおむね1.1歳程度上下した場合の影響が示されています。
 1つ前のスライドとともに、このような感度分析を詳しく行うことによって、公的年金制度の将来にとって何が重要なのかということを、計数感覚をもって把握するということが意義深いことなのではないかと思ってございます。
 さて、本日の3つ目のテーマのいよいよピアレビューの件ですけれども、上半分は4ページの資料の再掲ということです。財政検証を実施した当局から財政検証の結果、推計の基礎データの取扱い、推計方法等を確認しまして、推計の基礎データ、推計手法の分析・検証、推計結果の分析の在り方の検証、それから制度の安定性・公平性の観点からの財政検証の分析・検証、それと今後の財政検証への提言等を報告書にまとめているということでございます。
 なお、財政検証の実施主体とは異なる組織によって評価・検証するということがアメリカやカナダでも実施されておりまして、これは4年前の年金数理部会のセミナーにおいて坂本純一さんが御紹介されたとおりということなのですが、ここでは下半分でアメリカの例をお示ししております。
 アメリカでは、社会保障諮問委員会が組成されております。それで、技術委員会は社会保障諮問委員会の審議を支援するために、諮問委員会の指名の下に4年ごとに設置されるアクチュアリー、経済学者、人口学者を中心とした専門家の委員会で、社会保障庁の信託理事会の報告する信託基金報告書に対する評価、助言、提案を行っているということでございます。
 2019年に公表された技術委員会の報告書における諮問事項というのが、一番下の枠囲いになっている事項ということになります。
 2020年12月に公表されました2019年財政検証に対するピアレビュー報告書の構成は、このスライドのとおりでございます。報告書は本編だけで170ページ、附属資料も含めると460ページに及ぶ大部なものだということでございます。そこで、ピアレビューの概要というスライドを用意させていただいておりまして、報告書の概要がまとめられております。
 ただ、この概要というのも、本編は13ページですけれども、第1章と第2章の分析資料を入れますと60ページ弱というボリュームになってしまいます。それで、ここでは私が特に強調しておきたいポイント、特に第1章についてお話をさせていただきます。ピアレビューのそれ以外の部分につきましては、事務局に補っていただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
 2019年財政検証ですけれども、実は2015年の被用者年金一元化を受けまして、実施機関である3共済には財政検証の義務がなくなりました。これを受けて、一元化後の2019年財政検証は厚生労働省が実施することになりましたが、実施に当たっては各実施機関及び各所管省で協力して作業が行われているということでございます。
 具体的には、脱退率等の実施機関固有の基礎率は各実施機関で作成いたしまして、実施機関ごとの将来的な被保険者数の見込み方を共有いたしまして、厚生労働省で算出した実施機関ごとの将来の被保険者数を相互に確認した上で、厚生労働省のほうで財政検証作業を実施するといった具合でございます。
 これによりまして何が変わったかというと、従来は各実施機関から計算結果を受領しまして、マクロ経済スライドによる給付調整及びその基礎年金拠出金、同交付金、それから、被用者年金間の厚生年金拠出金及び交付金といった制度間の資金の授受を算出しまして、財政検証結果を公表していたということでございますけれども、一元化後は厚生労働省内で様々な試算が行いやすくなったというふうに考えられます。
 結果として、従来から公表している結果に加えまして、ピアレビューでは、よりきめ細かな変動要因分析であるとか感応度分析を実施できるようになりました。それで、私はこの辺りを見ていきたいと思っております。
 まず、前回財政検証からの変化の要因分析なのですけれども、まずは厚生年金の被保険者数の見込みを見てみたいと思います。
 変動要因分析は比較対象となる新旧のケースを特定しなければなりませんけれども、ここでは前回、2014年財政検証のケースEと今回のケースⅢというものを比較しております。
 ただ、これは比較の必要上選択されたというものでありまして、特にこれが中心的なシナリオと見ているという意図はございませんので、その点は御注意いただきたいと思います。
 グラフの説明ですが、横軸は年度です。それから、縦軸は人数ということで、100万人単位の人数になっております。黒の実線が、新旧を比較した増加分ということです。この中で積み重ねの棒グラフになっていますけれども、それは内訳を表しているということでございます。
 一番上の青が、人口の前提の変更及び実績の相違ということです。その次のオレンジ色が、労働参加の前提の変更及び実績との相違ということです。その下の灰色が、雇用者に占める厚生年金被保険者の割合及び第2号被保険者に対する第3号被保険者の比率の変更ということです。そして、ピンクが上記以外の基礎数、基礎率の変更ということです。これには制度改正が含まれております。
 それで、御覧いただいているとおり、近い将来では灰色の部分ですね。この影響が大きいわけですけれども、遠い将来では青色の部分、人口の推計の変更の部分ですけれども、これの影響が大きいということが分かると思います。
 第2号被保険者の増加と裏腹の関係になるのが、第1号と第3号の被保険者の見通しです。まず左の第1号ですが、当初は雇用者に占める厚生年金被保険者数の割合とか、国民年金第2号被保険者数に対する第3号被保険者の比率等の変更が下方シフトの大きな要因となっているということです。これが2070年代半ば以降で、「人口の前提の変更及び実績との相違」というものがそれを上回る上方シフトの要因となっているというふうな分析ができると思います。
 右の第3号は、当初は「労働参加の前提の変更及び実績との相違」が下方シフトの大きな要因ということですけれども、2070年以降は同じように「人口の前提の変更及び実績との相違」がそれを上回る上方シフトの要因となっているということが分析されております。
 次にいよいよキャッシュフローの部分になるのですけれども、給付費の変化ということで、縦軸は2004年度価格の金額で、兆円単位でお示ししております。
 まずは厚生年金の給付費の変化の要因分析ですけれども、前のスライドまでの人数の変動要因のほかに、ここでは新たに加わっているのが、ちょっと見えづらいですが、黄緑色の積立金の初期値の変更というのが灰色の下に積み重ね棒グラフで示されております。
 それから紫色ですけれども、これは経済前提の変更及び実績との相違ということで、これが金額にした場合の追加要因ということになっております。
 人口の変動の要因の3つは、全期間にわたって上方シフトに寄与する主な要因になっています。当然ですが、人口の前提というのはまず被保険者に影響し、遅れて給付費に影響するということでございます。
 一方で、紫色の経済前提の変更及び実績との相違は、当初おおむね上方にシフトしまして、その後は下方シフトに寄与するといった要因となっております。この当初、上方シフトに寄与するのは既裁定者の年金額改定率の相違によるところが大きいというふうに説明されております。
 次は、基礎年金の給付費の見通しの変化の要因です。こちらも程度の差はありますけれども、人数関係の変動要因の3つですが、これは全期間にわたって上方シフトに寄与するという主な要因となっています。
 人数が増加することと、国民年金第1号被保険者の割合が低下することは、ともに国民年金の財政の改善に寄与しますので、マクロ経済スライドによる給付調整を緩和する効果があります。
 それから、経済前提の変更及び実績との相違は、当初は上方シフトに寄与する要因となっていますけれども、この理由は厚生年金の給付費と同様ということになります。その後は下方シフトに寄与する要因となっていますが、これはマクロ経済スライドによる給付調整が進むためというふうに説明されております。
 こうやって説明していると、年度ごとにいろいろな変化があるというのはお分かりいただけると思いますが、この変化がどういう要因によるものかというのはなかなか想像というか、説明がしづらいことになっておりまして、私もこの資料を用意するときに事務局にいろいろ教えていただきました。どうもありがとうございました。
 先ほども出てきましたけれども、前回の財政検証というのは必ずしも前回以降の制度変更が反映されていないということです。これには注意していただきたいと思います。
 次のスライドは、2004年財政再計算から2019年財政検証にかけての給付水準の変化、これは黒い実線ですけれども、それとその要因を分析したものです。基礎年金と厚生年金の給付の見通しのシフトの要因分析では、経済前提の変更及び実績との相違が2040年頃までは上方シフトの要因となっていますが、当初、上方シフトする理由は財政検証の見通し上、給付水準が賃金水準との対比で高まっているということなのですけれども、3つの要因が考えられております。
 1つ目は、マクロ経済スライドによる給付水準の調整が従前の見通しどおりではないことですね。これが黄色い部分でございます。
 2つ目は、賃金上昇よりも低い物価上昇率で改定されると見通されておりました既裁定者の年金額が賃金水準と物価水準が逆転する場合に、賃金上昇率がそれよりも高い率で改定されてきたこと、これが次の図の右側の赤い部分です。
 それで、3つ目は賃金上昇率により改定されると見通されていた新規改定者の年金額が、賃金上昇率がマイナスで物価上昇率を下回ると、賃金上昇率よりも高い率で改定されてきたこと、これが図の水色の部分ですけれども、この3つが挙げられるということです。
 まずは基礎年金ですけれども、このスライドのとおり、賃金との対比で見た相対的な年金額の水準の見通しは高まる方向に変化しており、2004年度から2020年度前後にかけて拡大しているということでございます。
 その要因として3つの要因がいずれからも一定の寄与が認められているということです。足下において年金額の水準が高まることで給付費が増加すれば、保険料や積立金の財源と均衡するように将来の給付費を調整する必要が生じます。これは、マクロ経済スライドによる調整が長引くことを意味するということでございます。
 次のスライドは厚生年金に関するものですが、当初の上昇要因に関しましては基礎年金と同様の傾向が確認できます。
 しかし、基礎年金とは異なりまして、マクロ経済スライドの効果が最終的にプラスのままですけれども、これは年金額の水準以外の要素も作用した結果、マクロ経済スライドによる調整が緩和されていることを意味しますということでございます。よく言われるように、基礎年金の給付調整が長引いて給付水準が低下してしまった結果、厚生年金における基礎年金拠出金の負担が相対的に軽減されるということで、結果として厚生年金の財政に余裕ができ、スライド調整が限定的になった結果だというふうに考えられます。
 次のスライドは、前回、2014年の財政検証からの所得代替率の見通しの変化の要因分析の表です。この表とセットでスライド調整期間の変動も分析しているのですけれども、こちらのスライドでは割愛させていただきます。
 これも2014年の財政検証のケースEの所得代替率50.6%から、2019年の財政検証のケースⅢの50.8%までの変化が分析対象ということになります。
 まず人口、労働参加、雇用者に占める厚生年金被保険者や第3号被保険者等の要素というのは、全て上方にシフトするということに寄与する主な要因ということがお分かりいただけると思います。
 また、積立金の初期値は上方シフト要因でありますけれども、「経済前提の変更及び実績との相違」というのは下方シフトに寄与する主な要因となっております。
 また、前回から財政均衡期間が5年延びるということになりますが、これも若干ですが、下方シフトの要因というふうになっております。
 それで、基礎年金と報酬比例年金部分に分解しますと、総じて基礎年金の変動が大きいことが分かります。これは、基礎年金は国庫負担が2分の1ありますので、保険料による変動幅の影響の2倍というのが給付の変動幅になるということで御理解いただけるのではないかと思います。
 先ほどまでは経済前提と実績の変化を一括りにしていましたけれども、経済前提に関しては物価、それから実質賃金上昇率及び実質的な運用利回り、いわゆるスプレッドに関する長期の前提に関して個別に感応度分析を行っております。実質賃金上昇率を0.5%上昇させた場合には、所得代替率は1.7ポイント以上上昇しまして、マクロ経済スライドの終了時期は3年早まるという結果になっております。また、実質的な運用利回りを0.5%ポイント上昇させた場合には、所得代替率は2.1ポイント上昇し、マクロ経済スライドの終了年度は4年早まる結果となっております。
 次は、足下の積立金を変動させた場合の感応度分析を行っております。2014年財政検証以降、積立金の運用の在り方が検討されまして、段階を経て現在のような内外株式が50%であるとか、債券を合わせた外国投資が50%というようなポートフォリオになっております。
 このことの評価は別としましても、評価額というのは金融資本市場の短期的な変動の影響を受けやすくなったということは事実だと思います。このため、積立金が仮に10%増減した場合の試算を行ったということです。積立金が10%増加した場合には、所得代替率は1.5%ポイント上昇、それからマクロ経済スライドの終了年度は3年短縮するということです。逆に10%減少した場合には代替率は1.7%ポイント低下しまして、終了年度は3年延長されるという結果になっております。
 こういった事情を背景に、年金数理部会としては財政上の積立金の評価について一定の平滑化というものを提案しているというふうに理解しております。
 分析の最後は、被保険者区分に関するものです。制度改正では被用者保険の適用拡大の議論というものがありますけれども、適用拡大にかかわらず、近年は被用者化によりまして厚生年金の被保険者の割合が増加しております。ここでは厚生年金の被保険者数を1%増減させ、同人数の第1号被保険者が減少ないし増加といったケースを試算しております。
 厚生年金被保険者を1%増加させた場合には、代替率は0.6%ポイント上昇しまして、マクロ経済の経済スライドの終了年度は2年短縮されるという結果になっております。
 分析は以上ですが、次に当部会のミッションであります公的年金制度の安定性の評価につきまして、その要旨をお示ししました。上半分は、7ページの資料と同様ですので割愛します。
 それで、評価結果というのは下半分にありまして、極めて常識的なものです。
 まず持続可能性につきましては、財政均衡を確保する観点から深刻な状況に陥るのは、経済環境がケースⅥのような著しく低迷する場合であるとしています。ケースⅥは、所得代替率が50%を下回ってスライド調整したとしても積立金が枯渇するというケースになります。
 給付の十分性については、所得代替率の50%を基準とすれば今後の社会情勢次第であるというふうに指摘されております。
 さらに、基礎年金における今後の給付水準調整の程度が厚生年金と比べて大きいことも引き続き懸念が残るとしております。これは、特に今後の低所得者層での給付の十分性が懸念されるという指摘になってございます。
 最後に、今後の財政検証への提言をお示しします。このスライドは第5章第1節からの抜粋ですが、御覧のとおり様々なことを提言しておりますが、ここでは項目ごとに説明することはいたしません。
 ここから先は私のざっくばらんな感想が続きます。一般的な話かもしれませんが、有識者という方々は私も含めて必ずしも見解が一致しているものではないと承知しております。納得したとしても、見解を変更するというのは非常に少ないのではないかと思います。これは年金数理部会の委員にも当てはまることだろうと思っておりまして、結果としてこれをまとめる事務局が苦労されるということになるかと思います。
 ここでは一つの例として、次のスライドから確率的将来推計の提案について御説明いたします。
 このスライドにありますとおり、年金数理部会では当初から確率的将来推計の実施というものを提案しています。様々な問題があったとしても、ある程度の割切りをした上で作成していくということは、年金制度の安定性をより詳細に検討するために不可欠なものとなっているというふうに評価しております。
 2014年の財政検証のピアレビューでも引き続き提言したいとして、特に複数の経済前提に基づく結果が並列的に扱われていると、給付水準調整終了の年度の決定をするという財政検証本来の目的が果たせなくなることが懸念されることから、確率的将来見通しは対応策の一つとなり得ると指摘しております。
 これに対して、私はこのスライドのとおり、ピーター・ドラッガーとかラプラスとかを引用しつつ、2009年から示されている現在の財政検証の考え方、つまり「投影」であって「予測」ではないという見解に対して、前回までのピアレビューはこれをどのように受け止めたかが問われているという指摘をさせていただきました。
 確率分布の中心的なシナリオ、つまりドリフト項ということになりますが、ドリフト項は誰がどのような責任で選択するのかということを提示しつつ、前回ピアレビューまで続けてきたこの提案は取下げを含めて見直す必要があると申し上げました。
 その結果が下なのですけれども、今回のピアレビューでは現時点では慎重にならざるを得ないということになりました。
 ただ、若干の未練が残っている言い回しになっておりますが、これは委員間の調整が難しかったということを物語っているのだろうと思います。
 若干時間を超過してしまうかもしれませんが、少し余談を言いますと、聞きかじりの知識で恐縮なのですが、ポアンカレという数学者が三体問題で指摘しました初期値鋭敏性でありますとか、気象学者でありますエドワード・ローレンツが指摘した、いわゆるバタフライエフェクトですね。こういったものは、初期値の観測誤差をなくさなければ将来的な長期予測は困難であるということを指摘していると思います。
 自然科学の世界でさえこのような状況ですので、複雑な関係の組織が多数存在する合理的な個人ばかりではない現実の社会において、全てを方程式で記述できるのか、あるいはエルゴード性を前提とできるのか、さらに、社会科学において初期値は正確に計測できるのか、こういった問題を意識することもなく、確からしさを確率的に見せるということには、私は否定的にならざるを得ないということでございます。
 御報告は以上なのですけれども、年金数理部会に参加させていただいてこれまでの経験から考える私の見解を最後に述べさせていただきます。
 まず、私を含めまして年金数理部会には複数の民間企業出身の委員が在籍しております。民間企業というのは資本主義市場経済という社会のダイナミズムの中で活動する主体ですので、結果として私たちの知識のベースというのは現在では主流派経済学と整合する金融経済学などになるということでございます。
 しかしながら、公的年金に関わらせていただき、公的年金等の社会保障制度というのは、社会の安定を提供することで経済のダイナミズムを支える存在であるということを強く認識するようになりまして、その社会保障制度に対して市場経済の理論だとか基準だとかをそのまま適用することに疑問を感じるようになりました。
 次に、年金数理部会というのは「年金数理に関する専門的な知識、経験を有する者等」から構成されているというのは先ほど申し上げたとおりですけれども、その設置趣旨からも政策を立案する機能からは距離があると考えます。政策立案につきましては、内閣官房の全世代型社会保障構築会議であるとか、社会保障審議会の年金部会等の会議で議論されるものだというふうに考えています。
 3つ目ですけれども、年金数理部会が毎年公表する公的年金状況報告は、複数ある実施機関の運営実績を集計・分析したものでありまして、公的年金制度全体や財政状況の現在地を把握するという意味では非常に有用な資料だと思います。また、財政検証のピアレビューですけれども、これは公的年金の財政検証を別の専門家が確認・評価したものでありまして、他国の例からも意義があるものだと考えております。
 ただ、社会保障に関わるアクチュアリーというのは、実はアクチュアリーの世界では非常に少数派だと言わざるを得ません。かくいう民間出身の私自身も、この年金数理部会の委員の任に値するのかというのは、いささか自信のないところでございます。
 4つ目ですが、年金数理部会が公表する報告書については、率直なところ、読んで理解する気になる人は非常に少ないと思っております。報告書の公表の在り方としては、2017年以降の財政状況報告書から「概要」というプレゼン資料を作成しまして、さらに「ポイント」という要旨を3ページ程度に圧縮して読みやすさを追求したという努力をしております。
 今後は、例えば厚労省の報道発表資料としてポイントを発信するとか、あるいは2019年財政検証のときのように年金部会において報告して政策立案の素材を提供するということなどが考えられるということでございます。
 最後に、本日のような年金数理部会セミナーの役割が「数理的な視点を中核としながら、幅広く正確な情報を発信することにより、多くの方々に公的年金財政に関する理解を深めていただくこと」ということであるとすれば、開催頻度を高めまして視聴者の皆さんから御意見を募り、それを参考に改良していくことが有効だと思っております。皆様からの御意見をお待ちしております。
 私からの報告は以上です。どうも御清聴ありがとうございました。

○翁部会長 小野委員、どうもありがとうございました。
 それでは、事務局より本日の意見交換に関連する事項について説明をお願いいたします。

○村田首席年金数理官 では、事務局より資料2についての御説明と、それから参考資料2、参考資料3の御紹介をさせていただきます。
 まず資料2の事務局資料を御覧ください。
 スライドの右下のページ番号で1ページを御覧いただきたいのですが、こちらは年金数理部会の役割についてです。
 先ほど小野委員の御講演でも御紹介いただきましたけれども、年金数理部会は平成13年の公的年金制度の一元化の推進に係る閣議決定の要請を踏まえまして社会保障審議会に設置された部会でございます。平成27年10月に被用者年金制度が一元化された後は、公的年金制度の安定性の確保の観点から、5年ごとの財政検証の結果と、各年度の決算の報告を求め、審議しております。
 続きまして、2ページを御覧ください。こちらは、「年金数理部会の位置づけ」についてです。
 スライドの上半分、グレーのところが公的年金各制度、各実施機関が行うこと、下半分の水色のところがそれを受けて年金数理部会が行うことになります。
 まず公的年金各制度では、少なくとも5年ごとに財政検証を行いまして年金財政の健全性を検証しております。また、毎年度決算を実施して収支や積立金額の整理を行っています。
 これに対しまして、下のほうですけれども、年金数理部会は5年ごとの財政検証時にピアレビューを実施いたしまして、年金数理の専門家である第三者の立場から財政検証の検証を行っております。
 それに加えまして、財政検証と財政検証の間においては、毎年度の決算について各制度から報告を受け、前回の財政検証以降の財政状況について財政検証の将来見通しと比べて大きな変化が起きていないかなどについて確認しまして、財政状況の分析・評価をしております。
 これらの年金数理部会における検証や分析・評価がフィードバックされまして、各制度での次の財政検証につながっていくという流れになっています。
 このように、財政検証とピアレビュー、さらに毎年度の決算と財政検証の比較が一つのサイクルになっているということでございます。
 続きまして、3ページを御覧ください。こちらは、「公的年金の体系」図となっております。
 現在の公的年金制度には、国民年金、厚生年金がございますが、まず1階部分として全国民共通の国民年金がございます。民間被用者や公務員等につきましては、2階部分として厚生年金があります。公的年金の被保険者数は令和3年3月末時点で6756万人となっております。
 続きまして、4ページを御覧ください。「公的年金の財政の仕組み」についてです。
 こちらは、昭和60年改正による基礎年金制度の導入に伴います経過措置などの終了した後の姿を概念としてお示ししておりまして、主な収入、支出についてまとめています。公的年金では被保険者の区分ごとに、国民年金勘定、厚生年金勘定、共済組合等の厚生年金保険経理があります。また、基礎年金を取り扱う勘定としまして基礎年金勘定があります。
 左側の被保険者のところですけれども、まず各勘定の収入であります保険料につきましては、自営業者等の国民年金第1号被保険者の保険料は国民年金勘定へ、それから民間被用者の第1号厚生年金被保険者の保険料は厚生年金勘定へ、それから公務員等の第2~4号厚生年金被保険者の保険料はおのおのが加入する共済組合等の厚生年金保険経理へと拠出されます。
 また、支出である給付についてですが、図の右下のところになりますけれども、給付のうちの基礎年金給付は基礎年金勘定からまとめて受給者に支払われておりまして、その財源として国民年金勘定、厚生年金勘定、厚生年金保険経理の各勘定から基礎年金勘定へ基礎年金拠出金が拠出されます。この基礎年金拠出金に対しまして、各勘定には国庫・公経済負担が収入として入ってきます。
 一方で、基礎年金給付以外の給付についてですが、こちらは各勘定から直接受給者に支払われておりまして、国民年金勘定からは第1号被保険者の独自給付が、それから厚生年金勘定、厚生年金保険経理からは報酬比例年金などの厚生年金給付が受給者に支払われます。また、被用者年金制度が一元化されたことから、厚生年金勘定と共済組合等の厚生年金保険経理の間では厚生年金拠出金、交付金がやり取りされています。
 次に、5ページを御覧ください。こちらは「公的年金の財政均衡の単位」についてでございます。先ほど御覧いただいた図の上に、青と赤の線で財政均衡を図る単位を示しております。
 まず、青い線で囲んでいるところが国民年金の財政均衡の部分になります。国民年金勘定において、入ってくる収入と出ていく支出、それからここには書かれておりませんが、保有している積立金、それらを対象として財政の均衡が図られるということでございます。
 また、赤い線で囲んでいるところが厚生年金の財政均衡の部分です。こちらは厚生年金勘定と共済組合等の厚生年金保険経理、これらの全体を一つの財政単位として財政の均衡が図られます。
 ここで、財政均衡の仕組みについて御説明しておこうと思います。平成16年改正以降の財政フレームでは、保険料水準を固定し、給付水準を調整することで財政への均衡を図る仕組みとなっておりますが、マクロ経済スライドによる給付水準の調整は、固定した保険料水準、それから国庫負担及び積立金による財源により、今後おおむね100年間の財政均衡期間で年金財政が均衡すると見込まれる給付水準に到達するまで続けるものでございます。
 財政単位の異なる国民年金と厚生年金の双方におきまして、年金財政が均衡するまで給付水準調整を行う必要がありますが、国民年金と厚生年金で財政状況が異なることから、1階部分の基礎年金と2階部分の報酬比例年金で給付水準調整の終了年度が異なっております。
 国民年金につきましては、支出の大部分が基礎年金拠出金であるため、基礎年金の給付水準調整により財政への均衡を図る必要がありまして、このため財政検証における給付水準調整期間の推計は、まず1段階目として国民年金の長期的な財政が均衡するように基礎年金の給付水準調整期間を決定しまして、次に1段階目で決定しました基礎年金部分の給付水準を踏まえ、厚生年金の財政が均衡するように報酬比例部分の給付水準調整期間を決定するという2つのステップに分けて推計が行われております。
 このように、基礎年金と報酬比例部分の給付水準調整の終了年度をそれぞれ決定することにより、国民年金、厚生年金ともに財政の均衡を図ることが可能となっているということでございます。
 この結果としまして、基礎年金の給付水準は国民年金の財政状況に影響を受けることとなり、報酬比例部分の給付水準は基礎年金の給付水準と厚生年金の財政状況に影響を受けることになるといった構造になっております。
 次に6ページを御覧ください。こちらは「公的年金の財政均衡と財政検証」ということで、財政の均衡を図る期間についてお示ししております。
 平成11年財政再計算では、将来における全ての期間を考慮に入れて財政の均衡を考える方式であります永久均衡方式を採っておりました。
 しかしながら、平成16年改正においては、現在生まれている世代が年金の受給を終えるまでのおおむね100年間を財政均衡期間に設定しまして、この財政均衡期間において年金財政の均衡を図る方式である有限均衡方式を採用いたしました。
 例えば平成16年財政再計算では、財政均衡期間は2005年度から2100年度までとなっておりました。次の平成21年財政検証では、財政検証の実施時を起点として、そこからおおむね100年間という期間が財政均衡の期間となっておりまして、16年財政再計算から5年ずれて2100年度から2105年度までが財政均衡期間になっております。
 以降、財政検証のたびに財政均衡期間は5年ずつシフトしてきておりまして、直近の令和元年財政検証では2020年度から2115年度までが財政均衡期間になっております。
 このように、平成16年財政再計算以降の財政検証におきましては、その都度、財政均衡期間の終了年度が5年ずつ先に延びていくといった特徴がございます。
 続きまして、参考資料2を御覧ください。こちらは、最初から58ページまでが年金数理部会において令和2年12月に取りまとめました令和元年財政検証に基づく公的年金制度の財政検証、ピアレビューの概要となっています。
 また、本日の御審議に当たり、ピアレビューの報告書に掲載されている図表の中で関連しそうなものについて、事前に委員の皆様に御相談しておりまして、御要望のあった図表のうち概要に含まれていない図表について報告書から抜粋いたしまして59ページ以降におつけしております。
ピアレビューにつきましては、小野委員の御講演でも紹介いただいておりますけれども、3ページの本報告書の構成に記載されていますように、第1章「令和元年財政検証の結果」、第2章「公的年金制度の安定性」、第3章「将来見通しの作成過程」、第4章「情報開示の適切性」、第5章「今後の財政検証に向けて」といった内容について検証を行っております。
 おのおのの章の要旨が、4ページから14ページにまとめられております。また、15ページ以降に分析資料を掲載しておりますので、適宜御参照いただければと思います。
 最後に、参考資料3を御覧ください。こちらは、年金数理部会で毎年度の決算についてヒアリングをし、「公的年金財政状況報告」という形で取りまとめているものですけれども、こちらの資料は直近の令和2年度の財政状況報告の概要でございまして、本年3月に取りまとめられたものです。
 説明は省略いたしますけれども、中身としましては被保険者や受給権者、財政指標の現状及び推移、それから実績と財政検証結果との比較、積立金の乖離分析、そして公的年金に係る財政状況の評価といった内容になっております。公的年金の財政状況を理解する上で御活用いただきたいと思います。
 事務局からの説明は、以上となります。

○翁部会長 ありがとうございました。
 この後、ピアレビューと財政検証について意見交換を行って議論を深めてまいりますが、ここで一旦休憩とさせていただきます。

○村田首席年金数理官 それでは、これより10分間の休憩といたします。再開は14時30分を予定しておりますのでよろしくお願いいたします。
 
(休憩)
 
○翁部会長 それでは、部会を再開いたします。
 本日は、オンラインセミナー形式で開催しております。ここで、改めて委員の紹介をいたします。事務局からお願いいたします。

○村田首席年金数理官 それでは、改めまして全ての委員を御紹介申し上げます。
 株式会社日本総合研究所理事長の翁百合部会長でいらっしゃいます。
 元ニッセイ基礎研究所代表取締役会長の野呂順一部会長代理でいらっしゃいます。
 年金数理人の小野正昭委員でいらっしゃいます。
 慶應義塾大学経済学部教授の駒村康平委員でいらっしゃいます。
 学校法人国際基督教大学理事の佐藤久恵委員でいらっしゃいます。
 公益社団法人日本アクチュアリー会前理事長の庄子浩委員でいらっしゃいます。
 慶應義塾大学経済学部教授の寺井公子委員でいらっしゃいます。
 公益社団法人日本年金数理人会前副理事長の枇杷高志委員でいらっしゃいます。
 相模女子大学人間社会学部教授の山口由紀子委員でいらっしゃいます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 ここからは、前半の基調講演や事務局からの説明を踏まえまして意見交換を行います。ピアレビューと財政検証ということで、幅広いテーマではありますが、大きくテーマ1「ピアレビューの役割と意義について」、テーマ2「令和元(2019)年財政検証のピアレビューについて」、テーマ3「今後のピアレビューに望まれること」などの3つのテーマについて議論を進めてまいりたいのですが、よろしいですか。
 それでは、そのように進めてまいります。
 それでは、まずピアレビューの意義や役割などにつきまして議論いただきたいと思います。御発言のある方は、どうぞ挙手をお願いいたします。
 山口委員、お願いします。

○山口委員 山口です。よろしくお願いいたします。
 小野委員の御講演では、公的年金の財政検証について歴史的経緯を含めて御解説をいただき、ありがとうございます。私からは最初に初歩的な質問で恐縮なのですが、年金財政の財政検証のピアレビューの基本的な性格についてお伺いしたいと思います。
 部会の検証はピアレビューというのですが、ピアレビューといいますと通常関係当事者間の相互的なチェックというイメージがあります。こちらのピアレビューの場合は政府の検証が自己チェックであるとすると、部会が第三者チェックという位置づけになるのでしょうか。そこでこの数理部会による評価、ピアレビューの特徴ですとか、あるいは政府による検証評価との視点の違いといったところについて改めてお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。

○翁部会長 これは御質問ですけれども、新しく入られた方もいらっしゃいますので、こういった初めてピアレビューというものに接せられて何か感想とかコメントがありましたら、新しく入られた委員からも併せてお伺いして、後から今までいらっしゃる委員の先生方や、あとは事務局のほうにいろいろコメントをいただければと思います。
 それでは、新しく入られた委員の方、ほかはいかがでしょうか。
 佐藤委員、お願いします。

○佐藤委員 どうもありがとうございます。
 私も、小野委員の御講演は大変勉強になりました。私は、そもそもの質問で申し訳ないのですけれども、ピアレビューというのは結局、誰のためにやるのか。これは、究極的には年金の受給者である国民のためではないかと拝察するのですが、その理解で合っているかどうかということと、そうであれば分かりやすさと、それから安心感ですね。
 ピアレビューの目的として制度の安定性を検証するということがありましたけれども、年金をもらう立場の人としては、私は事業会社で年金運用の仕事が長かったのですが、やはり受給者が知りたいのは、まずこの制度は安心なんですか、ちゃんと約束されたものはもらえるんでしょうかと、そういったところが非常に大事かと思いますので、小野委員の御講演の最後に、大量の報告書を読むのは正直難しいと、私もそう思いますので、将来的にその分かりやすさ、簡潔さというのもあるとよいのかなと思った次第でございます。
 以上、感想でございます。

○翁部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、庄子委員お願いいたします。

○庄子委員 庄子でございます。御指名ありがとうございます。
 私はもっとベーシックなところで、初めてということもありますので御質問したいと思います。先ほど御説明いただきました事務局資料の1ページで右の下のほうに「財政検証に基づく公的年金制度の財政検証(ピアレビュー)」という記載があるのですが、ここは縮めて読むと財政検証に基づく財政検証というふうにも読めまして、私の日本語的語感ではちょっと分からないなと思いました。ここのところは結局、前半の財政検証と、後半の財政検証を行う主体が誰なのかというのを、きちんと明示した表現にすることで理解が進むのではないかなと思いました。
 小野委員の資料を拝見していると、これは厚生労働省が実施することになっているという記載もありますし、そうは言っても各実施主体と協力して作業がなされているということもありますので、前半の財政検証というのは厚生労働省や実施主体に基づく財政検証であって、後半の財政検証というのは年金数理部会が行う財政検証というふうに理解しているのですけれども、それで正しいでしょうか。また、法令等で規定された用語ではなく、単純にこういう資料の表現であれば、分かりやすさという点では見直してもいいのではないかと感じたところでございます。
 実際に自分が委員になって、やっていけるのかということについては非常に心配をしておりますので、併せて申し上げたいと思います。
 以上でございます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、寺井委員お願いいたします。

○寺井委員 まず、小野委員のほうからすごく丁寧な御説明をいただいて、非常に勉強になりました。ありがとうございます。
 私のほうからは、先ほど庄子委員が使われたのと全く同じ図なんですけれども、財政検証と毎年度の決算が並べられている図を見て率直に感じたことをお伺いできればと思います。
 まず、財政検証の後で、こちらの年金数理部会でピアレビューも行っている。非常に丁寧に財政検証を行って、かつその上でピアレビューも行っている。考え方によっては、これだけでも十分なのではないかなとも取れるのですけれども、その上、さらに毎年度の決算のヒアリングを行い、そのヒアリングに基づいて分析評価まで行っている。その財政検証と毎年度の決算についての分析評価、この両方がなぜ必要なのかというところをお伺いできたらと思います。
 それからもう一つは、毎年度ヒアリングをやって分析評価していることが、具体的に特にどのような点で次の財政検証のピアレビューに生かされているのか、何か例などを教えていただけると理解が進むように思いました。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございました。
 それでは、小野委員、いろいろ今、御質問がありましたので、お答えになられる範囲でお答えいただき、あとはベテランの委員の方にほかにも補足していただいたり御意見いただいたりしたいと思います。
 まず、小野委員お願いいたします。

○小野委員 ありがとうございます。
 全てにお答えしているかはちょっと分からないんですが、私はピアレビューと財政検証報告書というのはセットだと考えております。今のスライドでもお示しいただいたとおり、ピアレビューというのは年金局が実施した財政検証について結果とか手法についてヒアリングを行って、検証分析した結果や提言をまとめたものだということになります。
 専門家による成果物を他の専門家が別の目で確認するという、いわばピアレビューというのは専門家同士のキャッチボールというような側面はあると思います。
 ただ、この報告書を公表する意義というのは、例えば財政検証の際に仮定した諸前提が将来の投影という視点で見て偏りがないものになっているか。今回は偏りがないという評価になっていますけれども、これをピアレビューによって財政検証という作業の適正性を担保しているという、そのことを世間にお示しするということにあるのではないかと思います。
 また、毎年度公表している財政状況報告書は、財政検証後の制度の推移というのを財政検証で示した幾つかのケースとの対比で、いわば現在位置を確認するということが趣旨になると思います。その確認は、そもそもその財政検証が偏りのない前提で作成されていなければ意味がありませんので、そのためにもピアレビューが必要だということですし、そういう意味で、この2つはセットなのだろうと思います。
 庄子委員がおっしゃったとおり、私もこのネーミングですね。ピアレビュー報告書のネーミングについてはやや違和感を持っておりますので、検討していただいた方がいいと思います。
 国民の皆さんへの提示の仕方というのは、なかなか中身が専門的なので難しいとは思います。さはさりながら、いろいろな方法を模索していったらいいんじゃないかというのが私の最後のお話です。結果や手法についてヒアリングを行うということで、結果の妥当性だとか手法の妥当性というのを判断して評価するというのはあると思うんですけれども、佐藤委員がおっしゃったような、この制度が安心かどうかという評価には価値観が入ってくると思いますので、これは年金数理部会で行うべきことなのかどうか。ただ単に、事実を指摘するということのほうが私はよろしいかと思っています。
 以上です。

○翁部会長 大分いろいろな御質問にはお答えいただいたかと思うのですけれども、先ほど分かりやすさということで開示の重要性について今、少し小野委員からもお答えいただきましたけれども、枇杷委員、この点についてコメントいただけますか。

○枇杷委員 御指名ありがとうございます。枇杷でございます。
 非常にこの報告書というのが大部になっていて、百何十ページ、資料を合わせると400ということになるので、誰が読むのかなというのを考えたときに、やはり一人一人の一般の国民の人が読むのはちょっとハードだろうというのは共通認識だと思います。
 一方で、小野さんのお話の中にもあったように、この資料を使って政策の検討をされる方にとっては必要な情報というのもたくさん入っているということなので、全部カットしてしまうということでもないのかなということで、利用者のいろいろなタイプに応じた開示の在り方を考えることというのは非常に大事かと思っています。
 国民にある意味、今の立ち位置、年金の財政の立ち位置を理解してもらうということだけであればもう少しショートバージョン、あるいは動画ですとか、そういったものの活用ということが有益なような気がしますが、政策を決めていただくような立場の人は、よりこういう視点から見たらこうとか、あるいはその前提として置いてあるのはこういうことなのでこれを考えてほしいというような検討ができる材料はやはり必要かと思いましたので、ユーザーを特定してユーザーごとに応じた開示というのが大事だというふうには思っています。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 野呂委員、駒村委員、何か補足的にコメントがございましたらお願いいたします。

○駒村委員 ありがとうございます。
 まず、この年金数理部会のピアレビューの意義なのすけれども、年金制度は人口推計に合わせて 5年に1度、この法律で見直していくということは、これができるから逆に言うと年金制度は安心できる。要するに、世の中が変わっているのに年金制度がそれに対応できていない。それ自体が問題なので、まずきちんとこれをやる。
 年金政策に関しては、政策サイクルとして年金審議部会のほうがやるということになっている。その中で人間ドック的な、今どうなっているんだ、将来予測と比べてどうなのかというのを見てもらう。
 それに対して年金数理部会というのは、さっき小野委員が配付された資料の2ページ目に書いてあるのですけれども、もともとは厚生労働省にあった部会ではない。総理府の社会保障制度審議会で、審議会という名前がついているんですけれども、これは事務局を持った別立ての省庁というところで、厚生労働政策の様々な年金施策に関して議論をする場であったのだろう。つまり、チェックアンドバランスの関係にあったのだろうと思われます。
 これが省庁改正で厚生省に組み込まれたので、同じ厚生労働省内でやっているように見えるのでちょっと分かりづらい感じになっていますけれども、こちらはまず毎年の人間ドックまではいかないですが、健康診断をやって、おかしなことが起きていないかをちゃんと見る。
 それからもう一つは、人間ドックの結果についてその前提とかチェックポイントに見落としがないのかというのを専門家が再度見るということで、人間ドックのセカンドオピニオンみたいな役割を果たしているのかなと思っております。
 したがって、どうしても難しくなる。専門家同士の議論になってしまうのでどうしても難しくなりますので、そこをいかに年金部会にフィードバックしたり、国民とコミュニケーションしていくのかというところに気をつけなければいけないと思います。
 その上で、小野先生とは同じ部分なのか、違う部分なのか、ちょっと悩ましい部分があるんですけれども、必要なコメントはやはりやるべきなのではないかと思います。年金財政の安定性の検証だけではなくて、年金制度の安定性、持続可能性と給付の十分性をチェックするということであると、何らかの政策的な含意のあるメッセージを出すこともある。これは前回、追加試算というものが出ているので、小野先生は少し禁欲的ですけれども、私は分かったことに関してはもう少しメッセージを出してもいいのではないかと思います。
 後でまた小野先生に教えてもらいたい、あるいはリストを一回調べていただきたいのは、先ほどのプレゼンで16ページにアメリカとカナダの例を紹介されて、これは坂本さんがやられた話のときだと思いますのでその資料をまたチェックすればいいと思うんですけれども、カナダなどは完全に年金政策のつくり方が州単位で、州から選出された大臣と、それから中央政府のところで協議するということで、それをめぐっていろいろな問題も起きていたわけですので、各国の年金のシステムとそのチェックのシステムの同じ部分と違う部分は一体何があるのかなというのは見て、改めて数理部会とピアレビューの意義を考えていく必要があるのではないかと思います。
 あまり物にたとえると誤解を受けるかもしれませんけれども、たとえたほうが伝わりやすいかなと思いましたので、今のような人間ドックとか健康診断とたとえました。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 私たちの年金数理部会は今、厚生労働省に移っていますけれども、こういう背景もあって中立的にやっているということを意識して議論していく必要があるということだと思いますが、今のこともぜひ事務局のほうに後ほど何かコメントがありましたらお願いしたいと思います。
野呂委員、お願いいたします。

○野呂部会長代理 ちょっと重なりますけれど、私がこの部会の委員をお引き受けするときにいただいた説明では、年金数理部会というのは、企業で言うところの外部監査みたいなもので、内部の監査とは別の立場で、外部から監査をするということでお聞きしました。
 それで、今、駒村委員からお話がありましたとおり、もともと年金数理部会は、総理府という別の組織であったんだということで、そう考えますと、決算ですから過去法のようなものですけれども、決算自体は厚生労働省内部で行い、それを外部から監査する。
 また、財政検証というのはどちらかと言うと企業における経営計画のような、将来法みたいなもので、それもまた外部で監査して、毎年度の決算では、前回の経営計画との差異分析も行う。年金数理部会は、そういう外部監査のような機能を持っていると教えていただいきました。
 ただ、今は両方とも厚生労働省の中に入ってしまったので、少し分かりにくいかなということは思っております。
 以上でございます。

○翁部会長 どうもありがとうございました。
 何かぜひここでコメントという委員の方、いらっしゃいますか。よろしいでしょうか。
 今、多くの委員から、まず開示のことにつきましては少し工夫が必要ではないか。読み手、受け取り手にとっていろいろ分けて考え方を整理した上で出していったらどうかというような提言。それから、この文言ですね。これ自体は直す余地がないのかという御提言。それから、今、駒村委員からも海外の事例にも沿った形で何か少し御紹介いただけないかというようなこともございましたが、今までの様々な議論を踏まえまして村田様からちょっとコメントいただければと思います。

○村田首席年金数理官 先生方には、いろいろと御議論いただいてありがとうございます。いろいろな御意見がありましたけれども、次回のピアレビューに向けてまた年金数理部会のほうで委員の皆様に御議論をいただきまして、よりよいものにしていけたらいいなと思います。
 それから、先ほどから財政検証の財政検証という言葉が分かりにくいとか、いろいろなお話があったので、若干過去のこととかをお話ししたいのですけれども、もともと平成16年改正より前は、全ての公的年金制度では財政検証ではなくて財政再計算というものを行っておりました。
 その頃、その財政再計算を受けて年金数理部会のほうで行う検証のことを財政検証と称していたという感じだったのですが、16年改正の財政フレームで本体のほうのいわゆる厚生年金と国民年金の財政検証、少なくとも5年ごとに行われる財政と現況の見通しの作成、そちらのことを財政検証という呼び名で呼ばれ始めまして、だんだんとそちらのほうがよく使われる用語になってきた。
 そういうことも踏まえて、年金数理部会のほうでは同じ財政検証という言葉だと分かりにくいということで、それを区別するという意味で、26年の財政検証の検証をするときからピアレビューという名前でこちらのことは呼ぶということで、ピアレビューという名前をつけたという経緯がございます。
 ただ、いろいろと言葉が分かりにくいというのはおっしゃるとおりだと思いますので、次のピアレビューのときにもしよいアイデアがあればそういうふうに名前を変えていくということもありじゃないかとは思いますので、先生方の御議論をよろしくお願いいたしたいと思います。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、ぜひまた次回のピアレビューに向けて、皆様、御議論の中でいろいろと御提案などいただければと思います。一応、ピアレビューの役割と意義というところについては大体このぐらいかと思うのですが、何か追加的にございますか。
 小野委員、何かございますでしょうか。

○小野委員 先ほど駒村委員から、私は禁欲的だというふうに指摘をされましたので、それに関して私が思っているところを少しお話ししたいと思います。
 さっきも示したとおりで、年金数理部会というのは政策を企画するという立場からは少し距離があるなと思っておりまして、それは過去、部会長代理をなさった宮武先生なども同じようなことをコメントされていたかと思います。
 整理のためには、例えば年金数理部会で御発言されるよりも、年金部会の駒村先生として御発言されたほうがよろしいのではないかと思います。
 以上です。

○翁部会長 いろいろ皆さんの御意見はあると思いますけれども、貴重な御意見ありがとうございました。
 それでは、次の議論に移りたいと思います。「令和元(2019)年の財政検証のピアレビューについて」、意見交換をいただきたいと思っております。
 4つの論点を考えておりまして、1つ目が「公的年金の財政の仕組みについて」、2つ目が「公的年金制度の安定性」、3つ目が「前提条件の設定・推計方法のあり方」、4つ目の論点が「財政検証の情報開示・提供のあり方」でございます。この順番で議論を進めてまいりたいと思いますが、よろしいでしょうか。

(首肯する委員あり)

○翁部会長 では、このような形で進めてまいりたいと思います。
 それでは、まず「公的年金財政の仕組みについて」、議論をいただきたいと思います。御発言のある方は、どうぞお願いいたします。
 では、野呂委員お願いいたします。

○野呂部会長代理 それでは、年金財政と今回の出生率の関係について、少し意見を述べたいと思います。
 前半の事務局説明にもありましたけれども、現在の年金財政、向こう100年間の収支を見て均衡を図る有限均衡方式を採っておりますが、そのために前回の財政検証では、出生率のところで若干のひずみが出たのではないかという見方がございます。
 簡単に言いますと、出生率が上がると20年後から被保険者数が増加して、保険料収入が増えるけれども、一方の年金支払いについて増加するのは65年後ということで、100年というタームの中で考えますと、収入は80年分増えたけれども、支出は35年しか増えていないというアンバランスが生じて、年金財政がある意味で過度に改善したかのように見えたということです。
 逆に、次の財政検証では出生率が下がっていると思いますので、財政が実態以上に悪く見える可能性もあるかと思います。
 同様のことが厚年の被用者適用拡大でもあるのではないかと思います。短時間労働者の加入が増えますと、当面は保険料収入が増えますけれども、やがて彼ら・彼女らも年金受給者となりますから、支払いが増加するということで、やはりここにも収支のタイムラグが発生するということになります。
 このように、100年という有限均衡方式の下では、収支のタイムラグが生じて、そのことが年金財政の振れ幅を増幅させており、こうした点につきましては、情報提供という意味では、しっかり開示しなければいけないと思うんですけれども、かなり技術的な話ですので、その説明方法には工夫が要るかと思います。
 それから、有限均衡方式によるある意味でのゆがみを是正するということでは、保険数理的なやり方になりますけれども、有限均衡方式とは別に、毎年の被保険者や受給者について、年齢群団ごとに保険料の収入現価、年金の支出現価を計算して、それを比較することで、出生率の変化によるゆがみを除いた分析ができるのではないかと思います。要するに、現価で見ることによって、収支のタイムラグの影響を除くということも可能かと思います。
 年金加入者は、始めのうちは保険料を払っていただけるのですけれども、やがては年金受給者になるということで、民間の保険と同じように、収支のタイムラグがある。これを考慮せずに、単年度ごとに現金ベースでの収入と支出だけを比較すると、財政において潜在的な負債のようなものを見落とすのではないかと思います。出生率を含めて、こうしたタイムラグ問題は、単に有限均衡方式だけの問題ではなくて、年金財政そのものの見方の問題というふうにも考えられるかと思います。
 ちょっと長くなりますけれども、出生率につきまして、今年の出生率は76万人ぐらいではないかという報道もございます。これは年金財政にとってはもちろんですが、日本の経済・社会にとっても大変な問題なわけで、この要因につきましては、いわゆるコロナによる一時的なものと、少子化、非婚化、あるいは貧困層増加などの構造的なものにきっちりと因数分解することが、今後大事かと思います。
 今後の財政検証も含めて、割り切りといいますか、一定の前提を置いてでも構造的なものと一時的なものに分けて分析するということを提案したいと思いますので、よろしくお願いします。
 以上でございます。

○翁部会長 大変貴重な御意見、ありがとうございます。
 そのほかいかがでしょうか。
 駒村委員、お願いいたします。

○駒村委員 この年金数理部会は毎回、毎回の年金改革にコミットしているわけではありません。先ほど禁欲的かどうかというのは程度の問題でありまして、私もやはりチェックはまずあるべきだと思っておりますけれども、一方では今、野呂委員がおっしゃったように人口推計のつくり方は人口部会のほうでやっているわけで、これは人口推計のお作法というか、短期のインパクトをあまり大きく評価しないやり方をしている一方で、何か見落としの部分もあるのではないかというところ、あるいは全要素生産性が労働者の年齢構成によってどちらに触れるのかというようなところも経済前提委員会のほうでは十分議論されていなかった部分もある。
 その見落としているような部分を学術的な根拠に基づいて議論するという部分は必要なのではないかと思います。労働力の動きなども18ページ、19ページに出ていますけれども、予想と比べてまた違う部分もあって、これなどもこの背景に一体何があるのだろうかと。
 何を申し上げたいかというと、これはなかなか事務局に求めるのはしんどいかもしれませんけれども、そういう研究開発的な視点も大事なのではないか。これは、もしかしたら年金局全体で常にやられていることなのかなとも思われます。
 私は、昔お世話になった先生からいろいろ本を引き受けたときにびっくりしたのは、年金局の中で年金に関する研究の雑誌みたいなものを年に何回かみんなで作って、それをすごく研究されていたというのを知って、非常に研究熱心なんだろうなと思いますので、経済前提から漏れ落ちているような、様々な人口前提で漏れ落ちているようなもので、これぞというものに関してはやはり我々は研究開発的な視点で議論をする部分、それは事務局にも期待したいと思います。
 最近読んだ論文でも、なぜ繰上げ受給を選ばない人が多いのかという研究、これは直接の研究ではないんですけれども、人間の寿命に関する期待形成に関する研究というのがあって、人間の寿命予測は生存確率どおりには全然予測していないで、生存率とずれて予測している傾向が、バイアスがあるという研究が何本か出ていて、それだと実は割増し率ではなかなか反応してくれないみたいな研究なども出ておりますので、いろいろな不思議な問題が出てくると思うんですね。
 例えば、もう一個前のピアレビューだったと思いますけれども、今のはもしかしたら出ていないかもしれませんが、60歳から繰上げ受給している人の死亡率はどんな状態になっているのかというようなデータも出ている。これは、65歳まで待てないという人はどういう人なのでしょうかというと、ちゃんと死亡率は高い。つまり、長生きしない人が早くもらっているということが見えたりするので、年金施策のほうで必ずしも議論し切れていない部分などをやることも必要で、そういう意味では完全なおさらいというわけではない部分もあるのかなと思います。
 あとは、この間、国際的な会議に行ったんですけれども、もう少し発信力というものもあって、いろいろ聞かれました。これも大きな宿題になってしまうと思うんですけれども、少なくとも年金制度の安定性、持続可能性と給付の十分性のチェックというのがこの部会の責任ということであれば、そこで聞かれたのは、年金の対GDP比があるところからデータが止まっているんだけれどもあれはどうなっているんだ、なぜ公開しないのかとか、国際基準で合わせたモデル所得代替率ではなくて、いわゆる自分自身の所得代替率で国際比較をすると日本の数字は随分低く出るんだけれども、これについて反論はあるのかとか、そういうような議論がありまして、そういったことに関してもモデル年金代替率と個別代替率の違いなども国民に分かりやすく伝えていく必要があるのではないかと思います。
 あとは、長くなってしまいますけれども、一回一回の年金改革にコミットしないということはいい部分もあって、連続的に年金の動きを見ることができる。だから、今日事務局に配っていただいた資料の60ページ、61ページなどは、これを見ると2004年の年金財政再計算のときですけれども、2035年で積立比率はピークになって、あとは2100年に向けてずっと落ちていくんだ。だから、ある日、ある時から積立金はどっと減っていくんだというふうに信じている方もいるわけですけれども、それはその時点の話であって、5年たてば、実は2100年には1年分じゃなくて2年分になったり3年分になっていたりして、ピークポイントもどんどんずれていくという性格がありますので、こういったものを連続的に見ながら、さっき野呂委員がおっしゃったようなことで何が起きているのか。
 あるいは年金部会のほうで行った改革、例えば今、見てみると適用拡大を徹底的にやろうということは、所得比例で保険料に入っていただく方を徹底的に増やしていって、国民年金の加入者、1号の加入者を減らしていくという政策に切り替えているわけで、これは随分政策が繰り返されていくうちに、その形、年金の見える形も随分変わったのではないかなとか、あるいは年金の十分性というものを補うためには年金確保給付金みたいなものもこの間導入されているし、あるいは公私年金が一体的に改革されて代替率を補うような性格を持つようになってきたというようなことも含めて、全体の大所高所に立ってこの間、年金がどう変わってきたのかなというものも評価するというのと、政策的になってしまいますけれども、こういったものを整理するというのもちょっと離れている部会の役割かなと思います。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 やはり年金の財政の仕組みというのは、さっき野呂委員からも御指摘がありましたけれども、有限均衡方式というやり方を取っているがゆえに出てくるゆがみとか、特性とか、そういったことを有限均衡方式そのものを一般の人に説明するというよりは、そういった特性があってこういう結果が出ていて、どういうことに気をつけなければいけないのかということがもう少し分かりやすく伝わるといいと思いますし、私たちが見ていく上でも気をつけていかなければいけないということかと思います。
 あとは、先ほど事務局からも御説明がありましたけれども、基礎年金の給付水準が国民年金の給付水準の財政状況に影響を受けて、かつ報酬比例の給付水準がさらにその基礎年金の給付水準と厚生年金の財政状況に影響を受けて決まっているというような状況になっておりまして、この辺りも今、基礎年金と報酬比例のマクロ経済スライドの調整期間が違うというようなことが出てきていますけれども、その背景がどうしてこうなっているのかというようなことも説明が必要なのかなと感じております。
 それから、特に少子化の問題、今回の2020年のピアレビューはむしろ少し好転したからこうなったという評価でしたけれども、これからは少子化が進行していく中でどういうふうに禁欲的にウォーニングをしていくのかということかと思うのですが、その辺りはいろいろな分析、さっき私も野呂委員がおっしゃったように一時的、構造的なところをどういうことと理解するのか。 コロナがありましたので、その辺りも含めて考えておいたほうがいいと思いますし、今、駒村委員がおっしゃったような様々な現状で起こっている大きな変化、些細な変化、小さいものも大きいものもデータでしっかり踏まえた上で、なぜ起こっているのか、見落としがないかというようなこともやっていく必要があるのかなということかと思います。
 何かこのような点についてコメントがありましたらお願いいたします。どなたかいらっしゃいますでしょうか。よろしいですか。
 では、小野委員お願いいたします。

○小野委員 「公的年金の財政の仕組みについて」ということで取り上げるとすれば、部会長がおっしゃられたとおりで基礎年金の部分の財政の仕組みと有限均衡方式と、この2点が大きくクローズアップされるのではないかと思います。私の理解では、1985年の制度改正によりまして基礎年金が導入されたわけですが、このときに基礎年金は各制度からの基礎年金拠出金の拠出によって賄われる仕組みが導入され、その拠出金は基礎年金給付全体を各公的年金の被保険者の頭割りで比例して負担するということだったかと思います。
 それで、2004年の改正による保険料水準固定方式への切替えがあったわけですが、それは結果として指摘されているとおり、被用者を含む基礎年金の給付水準が国民年金の運営次第でもって決まってしまう構造になってしまったということなのだろうと思います。
 対処方法は幾つかありまして、財政検証のオプション試算とか、あるいはピアレビューの際の検討過程での追加試算で示されましたということなのですけれども、ここは政策の議論ですので直接的な評価というのは申し上げませんし、今後検討されていくのではないかと思いますが、頭割りで負担するという85年当時の約束をどう考えるかということは一つあるのではないかと思います。
 有限均衡方式は皆さんお分かりのとおりで、財政検証を行えば均衡期間が5年ずつ後ろに伸びていくということは私たちにとっては当然なことだと思いますけれども、周知はされていないということなのですが、そのほかテクニカルなことはいろいろあるわけですが、どこまで理解していただくかというのは現実問題として限界があるのではないかということです。けれども、今回ピアレビューの要因分析の中でこの財政均衡期間が5年伸びることによって、所得代替率で言うと0.2%ぐらい低下の要因になるということを分析していますが、そういったことでもって可視化するというのが第一歩なのかなとは思います。
 それから、出生率に関しては現在、人口部会等で議論しているところですけれども、これも私と駒村委員は同じく人口部会の委員ということなので、公開もされておりますから申し上げますが、基本的にはここ1、2年のコロナの実績というのはモデルの中には取り込まないという方向で検討中というです。ただ、それ以前からも出生数の低下傾向というのは顕著になっているので、前回と比べると相応の結果が出てくるのではないかとは思います。
 それは見守るしかないですねということなんですけれども、ちょっとコメントの中で気になったのは、世代ごとの保険料と給付との関係というのを分析してしまうということになると、これはある種、世代間の不公平とか、そんな議論につながってしまうのではないかということを私はちょっと危惧しております。
 そもそも私は最後のページで申し上げましたとおりで、保険とか、それから企業年金等の私的年金というのは基本的にダイナミックな経済社会の中で運営していく制度だと思っています。ある種のセーフティーネットである社会保障制度を考える際に私的年金と同じ理屈を適用するということは、私は適当でないと考えております。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 財政の問題は今また追加的にいろいろ重要な御指摘をいただいたと思いますが、さらにこれからも深めていきたいと思います。
 次に、「公的年金制度の安定性」について少し議論に入りたいと思うのですけれども、前提条件とか、そういった推計とか、それをその次に少し検討していきたいと思うのですが、まずこの安定性のところにつきまして何か御意見がございましたらお願いしたいんですが、小野委員、特に安定性の点でコメントがございましたらお願いいたします。

○小野委員 ありがとうございます。
 2015年に被用者年金が一元化されまして、それ以前から財政を統合していました国共済と地共済に加えまして、被用者年金全体の財政的な統合というのが被用者年金間の拠出金・交付金の運営によって実現しているということです。
 2019年の財政検証のピアレビューでは、持続可能性を積立水準とか、各種財政指標とか、収支項目のGDP比等を総合的に考慮して評価するとしておりますけれども、積立水準とかの財政指標については年金制度の成熟度によって決まるというよりも、むしろ有限均衡方式によっておおむね100年後の積立度合いが1となるような運営を想定しているということですので、財政均衡期間の途中経過とか、終了時点での積立金を1年分保有しているかとかといった観点から評価するのだろうと思います。そういう意味で、評価の観点が若干違ってくるのかなと思います。
 また、実施機関ごとの検証については、先ほど申し上げました拠出金・交付金の仕組みや、国共済と地共済との関係で決められました仕組みによって実質的には担保されているのではないかと思います。したがいまして、制度全体の積立金が枯渇するケースはⅥのみであって一定の持続性があると評価されているように、個々の実施機関ごとの評価というのは少し優先順位としては落としてもいいかなと思います。
 給付の十分性に関しては、所得代替率で基礎年金と報酬比例年金への分解を含むと書いてありますが、それとともに、1世帯1人当たりで見た賃金水準ごとの給付水準により評価するというふうもされています。
 それで、結果としては、給付の十分性については経済が振るわない状況での給付水準には2016年改正による改善が見られるものの、所得代替率50%というのを基準とすれば今後の社会情勢次第であるという極めて常識的な指摘がなされているのは申し上げたとおりです。一方で、基礎年金における今後の給付水準の調整の程度が大きいことも引き続き懸念事項だというふうな評価をされています。
 私個人としては、財政検証のピアレビューというのは、当部会の設置の趣旨からすると結果と手法の検証であって、繰り返しになってしまうのですが、毎年度の財政状況報告書が実施機関の決算の報告を受けてまとめるものですので、評価について当部会がどこまで踏み込むことがよいのかというのは非常に迷うところがあります。
 この点についてはプレゼンでお示ししましたとおりで、変動要因分析とか感応度分析によって安定性の確保のためにはどのような要素の改善が必要なのか、または効果があるかというのを検証していますので、この辺りが大いに参考になるのではないかと思います。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 安定性につきまして、何かほかに御意見がおありの方いらっしゃいますでしょうか。
 どうぞ、佐藤委員お願いします。

○佐藤委員 1点よろしいでしょうか。すみませんが、これも私は新米なので初歩的な質問かもしれないのですけれども、この安定性を検証するのに前提条件というのは結構重要なファクターだと思うのですが、民間ですと財政検証の前提に大きな変動がある場合、その再計算のトリガーみたいなものというのが定められているんですけれども、公的年金の場合には何かそのようなトリガーはあるのでしょうか。それとも、もう5年間は何があってもやらないのか。どういう仕組みになっているのでしょうか。

○翁部会長 基本的にトリガーという概念ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○村田首席年金数理官 一応、公的年金制度の財政検証については5年ごとと決まっているわけではなくて、少なくとも5年ごとということですので、その前の財政検証から5年の間に著しく何か財政的に危ないという状況があったら、別に5年を待たなければいけないと決まっているわけではないということだと思います。
 ですから、状況を見ながらやっていくということだというふうに私どもは認識しております。

○佐藤委員 分かりました。ありがとうございます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 何かすごく大きな変化ということについて、今まで基準とか議論されたことはあるんですか。

○村田首席年金数理官 特に何か基準を設けたということはこれまでなくて、毎年度、毎年度、大丈夫なのかなということを年金数理部会の場で見ていただいて、今まで特にそういった問題があったということはなかったということで、本当にそういったことが起きることがあれば基準について考えなければいけないこともこれからあるかもしれませんけれども、これまではそういったことはなかったということです。

○翁部会長 ありがとうございます。
 そのほかいかがでしょうか。
 駒村委員、お願いします。

○駒村委員 先ほど5年ごとと言ってしまったんですけれども、5年以内ですね。正確には5年以内ということで、確かにトリガーというのは考えたこともなかったんですけれども、もしかしたら何か大きな経済的な問題とか自然災害的な問題があって、保険料が入って来ない状態が起きたときには多分、非常事態で判断されるのかなと思っていますけれども、なかなか現時点で先生がおっしゃるタイプのトリガーというのはないのかなと、私は考えたことはありませんでした。
 安定性の話なんですけれども、先ほど小野委員から85年改正の頭割り、要するに事務局資料の5ページがとてもいい資料なのですが、基礎年金勘定というある種のプールに頭割りでお金をみんなで出し合っているという構造なわけで、それはそれでフェアな構造だったと思うんですけれども、2004年からそれぞれの年金財政で財政均衡をしなければいけない。
 そのときの前提が、基礎年金と厚生年金がマクロ経済スライドが同時に終わるというような想定をしていたわけですけれども、その後の経済情勢というのはそうはならなくて、国民年金のほうが財政的には不安定になってくる。そうすると、国民年金からの有限均衡をバランスを取るためにはマクロ経済スライドを長くしなければいけない。そうすると、基礎年金拠出金が少し流れが悪くなってくると、厚生年金勘定からの基礎年金も拠出金も悪くなってきて、基礎年金額がどんどん下がっていってしまう。
 厚生年金からしてみれば、基礎年金に出す栄養が減ったので少し太ってしまった。あるいは、これには国庫負担は入っていないですね。国庫負担は入れたほうがいいかもしれませんけれども、基礎年金に払うための国庫負担も浮いてしまったというのがこの話です。
 そうなると、これは年金数理部会でどこまで議論するかということなのですけれども、そもそも2004年の有限均衡をそれぞれの財政勘定で閉じていてよかったのでしょうかというのをここで議論するのか、政策になってしまうのか、難しい話ですけれども、その意味するところというのはまた政策的な意味として出てきますが、閉じるという2004年がよかったのかどうか、ちょっと考えてみたいなとは思っています。それが数理部会ののりを越えているかどうかは分かりませんけれども、そういう視点は重要かと思います。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 そのほかいかがでしょうか。よろしいですか。
 非常に貴重な論点がたくさん出てきたと思います。経済環境がケースⅥのように著しく低迷しない限りは、基本的には持続可能性は一定程度確保されているというふうになっています。しかしやはり経済環境も随分このケースⅥというのが同じように起こる可能性はあり、小野委員の先ほどの御説明ではこれはプロジェクションではないということだったのですけれども、足元を見ますとやはりなかなか厳しいこともあり、しっかりこの辺りは検討していくことは大事かなと思います。
 今のところはⅥ以外では大丈夫なんですけれども、ピアレビューのときには新たな目で見ていくということが大事と思っておりますし、今、駒村委員がおっしゃった点も非常に重要な示唆があったと思います。先ほどの頭割りの問題、2004年の考え方をどういうふうに考えていくかというようなこともちょっと念頭に置きながらこれから議論していければと思います。
 それでは、次に移りまして「前提条件の設定・推計方法のあり方」について議論をいただきたいと思います。今の議論とも関連するところがございますけれども、何か御意見がありましたらお願いいたします。
 では、庄子委員お願いいたします。

○庄子委員 庄子でございます。新任でございますので、もしかすると的外れなお話をしてしまうかもしれませんけれども、その辺は御容赦いただければと思います。
 先ほどの小野委員の御説明の中でも、人口動態の予測、または変動がこの財政検証の中でもすごく大きな意味を持っていると私は理解しております。それぞれの前提条件の置き方ですね、出生数、それから受給権者数をどう見積もるか、労働参加率、あとは配偶者の有無なども前提条件に入っていると思うんですけれども、要素としては複雑で、簡単に整理できるものではないというのは承知しているつもりです。
 前提条件を算出している検討主体も違っていると思いますので、それぞれをひもづけるというのは難しいとは思うのですけれども、例えばこの数理部会の中で、この数字がこういうふうに動いたらその結果としてこちらの数字はこちらの向きに動くというのはきっと妥当なんだろう。逆にそうなっていなければ、これを一緒の前提として推計に織り込むというのはいかがなものか、というような見方はないのかなというふうに思っております。
 例えば、近年、本当にもう結婚したくないという若者が増えているというような報道に触れたことがありますけれども、婚姻をしていない人の数が増えれば出生数も減っていくというのがつながってくるのか。一方で、結婚しないという選択をした人が増えるということは、自らの労働参加によって生計を立てる必要がその人にとっても生じてくるということで、労働参加率などは上がってくるのではないか。自分の非常に単純な考え方なんですけれども、そんなふうに思っているのですが、財政検証の前提に当たってその辺の完全なリンクは難しいと思うものの、矢印の方向が全く逆向きになったものが計算前提として使われていないかとかというのは、前提を見るという意味ではあってもいいのかなと思いまして、そこら辺はもちろん財政検証を行う主体の方々がまず御覧になられていると思うんですけれども、数理部会としても理解しておくというのは意味のあることなのではないかと思いました。すみません、的外れかもしれないんですけれども、そういうところについて、もしこれまでこうでしたよというお話があれば教えていただきたいと思いますし、そういうところを考えることも一つの方策なのではないかと思いまして申し上げました。
 以上でございます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 出生率との関係というわけではないんですけれども、私学共済などの労働参加率上昇は、女性の方が保育士さんになられたとか、そういうような動き自体は把握するようにしていて、最近では短期のパートタイマーの人たちが多く入ってきたので大きく動いてくるとか、そういう要因分析はいろいろヒアリングの際に聞いたりしています。また、今おっしゃったような、遡ってこれはどうなのかというようなことは事務局に調べていただき、いろいろ議論をしたりとか、そういうこともあります。まさにさっきこれは駒村先生がコメントされたことともすごく関わりのある話で、実際に起きている事象とか、それがどういう背景で動いているのか、学術的な調査も含めて検証して考えていくということが大事だということをおっしゃっていて、そこにすごく近い話だと思うんですが、もし駒村先生からこの点についてコメントがございましたらお願いしたいのですが。

○駒村委員 なかなか難しい話ですよね。確かにこの辺は相関があるのにその相関を全く無視した過程でやっているというのは、いろいろ実は考えればあるんだろうと思いますし、今の私学共済の構成員だってこれから子供の数が減っていく中で、では私学共済の見通しというのはそれと比べて整合性があるのかどうなのかという話も出てくると思うんですね。
 したがって、これは未来の予測に関して小野先生から、ここも禁欲的という話がある一方なんですけれども、今の学問的な研究の中でベストを尽くした予測というか、相関については着目するというぐらいは考慮してもいいんじゃないかなとは思います。

○翁部会長 ありがとうございます。
 野呂委員、お願いします。

○野呂部会長代理 そうした要素ごとの相関関係ということについては、なかなか難しい問題だと思います。私のささやかな知識では、独立して外部から入力する変数と、それに従属して後で決定する変数とに分けて、経済前提等をつくっているというふうに聞いております。ただ、例えば女性の労働参画が増えると出生率が上がるのか、あるいは下がるのかということなどについては、ひょっとしたら相関関係があるのかも分からないですけれども、例えば私が勤めていました研究所の中でも、相関関係があるという研究員と、相関関係はないという研究員がおりまして、やはりよく分からないということだと思います。
 ただ、いろいろなデータから継ぎはぎにしていることは間違いなく、経済前提の中でも非常に気になったのは、例えばTFP、全要素生産性においては、当面10年間は内閣府試算を用いており、その後は過去の実績をつなぐことにしており、その結果、10年目のところでものすごく大きな段差ができるんですね。
 この辺りは何とかならないかなということは、これは相関関係とは別の問題ですけれども、いろいろなデータをつなぎ合わせるという中では、改善の余地があるように思っています。

○翁部会長 ありがとうございます。
 では、お願いします。

○駒村委員 小野先生と一緒になった人口部会でちょっと議論をしたことがあるんですけれども、日本では男女の寿命差が6歳、これはずっと6歳、大体6歳で変動している。これだけ差があるのは実は日本と韓国、OECDではこの2か国だけである。ほかの国は、2歳から4歳の幅の中にほとんど入っている。
 これは、女性の社会進出と、もしかしたら寿命の乖離の間に相関関係がある可能性もあるわけですよね。だから、この6歳差が本当に今後も6歳差のままかどうかは分からない部分もあるんですけれども、その学術的研究があれば少しそこは留意ポイントとなってくるのかもしれないなと思います。
 人口部会の部会長に、学術的な研究はありますかと聞いたところ、なかなかはっきりはまだないということなので、そこは6歳の仮定でもいいと思うんですけれども、そのように何か例えば、今の例もそうなのですが、女性の社会進出による仕事のストレスとか不規則な生活によって男女の寿命差が縮まるという研究があれば、そこは少し幅をもって見ておかなければいけないということだと思います。
 ただ、学術的にやはり今の学術的な研究のエビデンスがあるレベルでの話になるかなと思います。ありがとうございます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 どうぞ、小野委員。

○小野委員 相関という意味では、経済前提の専門委員会で用いている経済モデル、コブ・ダグラス型生産関数というものですけれども、委員の皆さんのご指摘と比べるとごく一部かもしれないのですが、このモデルで一応は考慮しているとも言えると思います。
 どんな形かというと、GDPの要素として労働投入量というのがあるわけで、その中で労働者数というのが人口の情報から入力されるという格好で、今後の賃金上昇率であるとか、今後の積立金のリターンであるとか、そういったものに対して影響するという意味での相関です。
 こういったものについては反映されているということで、一部かもしれないですけれども、そういう要素は考慮しているということは御指摘申し上げたいということです。

○翁部会長 ありがとうございます。
 庄子委員、お願いします。

○庄子委員 複雑な内容だということがよく理解できました。
 私は人口動態で出生率とかのほうを主に着目していたんですけれども、経済前提がその出生率に与える影響なども考え始めると、もうとてつもなく難しいパズルを解いていかなければいけないということは理解できました。
 ただ、その中で何か関連があるところを、全然違う向きのものを扱ってしまうというところだけは、我々の中でもチェックしていかないといけないのかなということで理解しました。ありがとうございました。

○翁部会長 そうですね。ありがとうございます。
 それでは、次に「財政検証の情報開示・提供のあり方」につきまして少し議論を進めたいと思うのですが、枇杷委員、この点につきましてコメントをお願いいたします。

○枇杷委員 ありがとうございます。
 情報開示の話は先ほどもあって、誰に対して何の情報が必要とされているのかということをにらみながらというのは先ほど申し上げたとおりなのですけれども、一つ思うところとしては、センシティビティーを見せるということは非常に重要という話を先ほどもいただきましたが、その中でストレスシナリオ的なものをもう少し見せるということも求められるかもしれないなと思いました。
 御案内かと思うんですけれども、金融機関などの経営の判断のときにそういうことが義務づけられている。健全性の維持のためにそういうことが義務づけられているのですけれども、そういった視点ももしかすると検討の余地があるのかなということを一つ思いました。
 それから、部会のピアレビューの場でも再三言われていたかと思うのですが、基礎になるデータですね。出発点のデータの確からしさということについて、現状は率直に申し上げると、御担当の方からこのようにしてチェックをしておりますというふうなことの御説明を受けて、一応、得心を得つつ、数字が去年と比べておかしくないかとか、実感と比べてかけ離れていないかというような、ある意味オーバーオール的なチェックを我々はしていると思っているんですけれども、本当の意味でデータが正しいということをもうちょっと確認をしているプロセスというのが見せられたほうがいいかなということはこの活動の中でも感じておりましたので、財政検証のアウトプットとしてもその部分は少し工夫の余地があるのではないかと思いました。
 最後は、先ほど議論になっていました基礎率の系列相関について、例えば経済が変わったときに、例えば出生率が変わる、婚姻率が変わるみたいな話については、国民の人も多分そういう目線でこの前提を御覧になる人もいると思いますので、そこが納得いかない前提になっていると予測の前提自体に信頼が得られないということにもつながると思いましたので、技術的にできるかどうかの話とは別に、もしそういうことをやるのであれば、あるいはやらない場合であれば、ここはこういうふうにしていますという説明ですね。ここは必要なのかなと思いました。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 野呂委員、いかがですか。

○野呂部会長代理 この年金数理部会は、一応は専門家向けのものだということですけれども、一方で、一般の方への情報提供ということについても、ちょっと申し上げたいと思います。
 この部会の委員をやらせていただきまして、公的年金全体の安定性を見ているということで、重要な役割を担っているなと感じております。
 一方で、今、国民の年金に対する疑問や不安というのが依然として根深いかと思います。 その中には、ある意味で誤解とか行き過ぎた不安ということもあるかと思いますが、この年金数理部会での議論の結果は、そうした国民の誤解や行き過ぎた不安に対して、かなり答えを出している面があるのではないかと思います。それだけに、今日のテーマのピアレビューも含めて、専門家に対する情報提供ももちろん大事ですけれども、一般の国民の方の疑問や不安に答えるという視点も大事かなと思います。
 冒頭にもお話がありましたが、今、普通の人が一番知りたいのは、おそらく「将来いくら年金をもらえるのか」ということではないかと思いますが、これについては、一部に偏った報道もあったりしまして、必ずしも正しい情報が伝わっていない。
 ただ、将来の年金額は、あくまでも超長期の経済や社会の仮定に基づくものです。従って、「将来いくらもらえますよ」ということは当然ながら断言できないので、一定の前提条件に基づいて、年金額の見通しを示すということになるのですけれども、現時点では、この前提条件が分かりにくいと思います。
 例えば、経済前提がケースⅣとか、出生率が中位とかいっても、この道の専門家以外にはなかなか分からないのではないなと思います。例えばですけれども、出生率について、生涯非婚率が何%、子供を何人持った場合など、具体的にイメージしやすいような形に焼き直した表現にできないかというのが第1点目でございます。
 それから、将来の年金額につきましては、最初に、名目の年金額と将来の物価、あるいは将来の名目賃金との比較を示したほうが分かりやすいかなという気もします。これについては、名目では数字が大きくなり過ぎて誤解が生じないかという問題もありますが、ただ、指数とか割戻し現価だけではなかなかイメージできにくいというのが一般的なので、まず名目を示した上で、その後で賃金対比の所得代替率や、物価上昇率で割り戻した年金額を示せば、理解が進むのではないかという気もします。
 それから、所得代替率につきましては、これは年金受給者全体の数字なのですけれども、これでは高齢者のいわゆる貧困状況をつかみにくいと思います。例えば、将来の年金受取り額の金額分布を出すことで、低年金者の動向などを見られないかと思っています。高齢者の貧困化が社会問題になっておりますので、例えば「何年後には高齢者の何%が貧困になってしまう」というような、そういった警鐘を鳴らすこともできるのではないかという思いがございます。
 以上でございます。

○翁部会長 貴重な御提言ありがとうございます。
 何かこの情報開示の点で、これだけはというようなコメントがありましたら。
 駒村委員、お願いします。

○駒村委員 今の野呂代理の話とかなり重なるところなのですけれども、ノーベル経済学賞を取ったカーネマンの研究で二重過程理論というのがあって、これは割と脳神経科学の中ではきちんと学術的な根拠のある、割と説明力の高い仮説理論と言われているんですけれども、人間の意思決定は情動的な部分、すぐに頭にくるとか、悔しいとか、損をするとか、こういう部分と、それから、いや、待て待て、よく考えたらそれは合理的な話なんだよねというゆっくり起動する部分のバランスで決まる。
 それで、先にファーストの情動的な部分とか不安な部分とかが動いて、後からよくよく考えたらこうなんですよということでいろいろ選択をしていくんですけれども、我々はどちらかというとつくっているデータというのはこの熟慮的なスロー的な部分なわけですよね。
 しかし、一方では、その扇情的なというんでしょうか、不安をあおるような説明もついつい先に表に出てしまう。これはいろいろ報道の在り方の問題もあると思うんですけれども、それはなるべくこの年金の話では少し控えていただきたいなと思う一方で、我々も分かりやすい情報提供に努めないと、分かってくれないほうがいけないのではなくて、やはりいかにかみ砕いていくのかというのは大事だと思います。
 それから、このたび、政府のほうは金融教育のシステムをかなり拡充して新しい部門ができるという報道でありますけれども、イギリスなどは金融リテラシーを使った国家戦略みたいなものが出てきていて、日本でいうと恐らく厚生省のエージェンシーみたいなところで公的年金、公私年金の状況も含めて、いろいろなお金の相談に伺うようなシステムもでき始めていると聞いているので、国民とのコミュニケーションのツール、年金シミュレーターもつくられていると思うんですけれども、公私年金を含めて自分たちの年金が将来どうなっていくのか。これは楽観的でも悲観的でもない等身大の数字で、その数字がつくられた根拠が年金部会であり、それをチェックしているのは年金数理部会であるというのが分かるような形で情報発信をしていく必要があるのではないかなと思います。
 以上です。

○翁部会長 大変重要な御指摘だと思います。多くの方たちはすごく年金の先行きについて不安を持っていますので、やはり正確な情報が伝わるようにいかに貢献できるかという視点でいろいろ考えていく必要があるかと思いました。
 あと十数分になってしまいましたので、最後に皆様方から今後のピアレビューに望まれることや、今日言い足りなかったこととか、または本日の基調講演や意見交換を通じて気づかれたこととか、何でも結構でございますので、お一人1分ちょっとずつぐらいコメントいただければと思います。2分ぐらい大丈夫ですね。
 それでは、山口委員のほうから順番にお願いいたします。

○山口委員 名前順で最後かと思って今、油断しておりました。
 今日はいろいろな専門の先生方からのお話を伺って、日頃、部会で行っている作業に対する理解を深めることができました。
 今お話にもありましたけれども、国民にこの部会で検討している内容について、年金制度とか御自身がもらう年金に照らし合わせて、それに対する有益な情報をいかに提供できるかが課題であるということを改めて認識しました。それから一人の国民として考えますと、もらう側であり、それから保険料を出す側であるといったときに、その両方、出したのともらうのがどう見合っているかが個人としては重要なのですけれども、そのときに制度との関係でそれが決まってくるという視点というのはなかなか持ちづらいと思います。例えば繰上げとか繰下げのように、どのようにもらうかということにも関係してきますし、今、制度改正の議論もしていると思いますけれども、どれぐらい拠出し続けるかなど、より広い情報を得て理解していけるようになり、いろいろな誤解とか不安が多少なりとも軽減されると良いという思いで今日のお話を伺いました。
以上です。ありがとうございます。

○翁部会長 どうもありがとうございます。
 それでは、枇杷委員お願いいたします。

○枇杷委員 ありがとうございます。
 私自身いろいろなお話を聞いて、改めて責任の重さといいますか、重要な役割を担っているということを再確認できたと思います。
 それで、やはり最初の話になるんですけれども、ピアレビューというのは何なのかというのは答えがあるようでない感じだと思いますし、表現の問題も含めて国民からどう見られているかということはまず一番大きな課題だと思います。
 外部監査という話が出ましたけれども、通常の企業の会計監査ですと会計基準というのは決まっていて監査基準も決まっている中で皆さん同じメソッドでやるという共通認識がある世界なのですが、ピアレビューの領域は多分、対象にする制度は1個しか日本にはなくて、その中でどういうふうな見方をしているかということはほとんどの人は知らないという状況だと思います。
 逆に言うと、この部会で何を、どういう視点を見てくれているのかということを我々も明らかにしつつ、それで十分かどうかを検討しながらいろいろなことをやっていくことが大事だなと思いましたので、模索しなければいけないことはたくさんあると思うんですけれども、そのように動いていければというふうに思います。
 ありがとうございました。

○翁部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、寺井委員お願いいたします。

○寺井委員 今日は私も発言したことにすごく責任を感じておりますし、ほかの委員の方々のお話を伺って、ここで独立性を確保しつつ中立的に分析評価を行っているからこそ、ピアレビューの結果にはものすごく価値があるといいますか、意味があるんだなというのを痛感しております。
 私は専門の一つが財政学で、学生にも年金財政の持続可能性という授業で話したりするのですけれども、思いますと、この言葉自体、結構難しい言葉で、国民といいますか、被保険者目線に立つと、先ほどもほかの委員の方がおっしゃったように、自分が払った保険料がどう返ってくるかということだと思うんです。
 ここではピアレビューの中で経済や社会の環境について非常に前提条件をたくさん置いて、かつ感応度分析までやっていて、これだけ深い内容をいかに国民に分かりやすく説明できるかというのが非常に重要で、国民目線といいますか、被保険者目線で使う言葉を一つ一つ考えていくということが大事なのではないかなというふうに今、痛感しているところで、そういうふうにやっていきたいと思います。
 以上です。ありがとうございます。

○翁部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、庄子委員お願いいたします。

○庄子委員 ありがとうございます。
 まだこれからだと思います。年金数理部会のメンバーとしてきちんと役割を果たせるようにするためには、まだまだたくさん勉強しなければいけないことがあるなということを本日のこのセミナーで認識を新たにいたしました。
 以上でございます。

○翁部会長 ありがとうございました。
 佐藤委員、お願いいたします。

○佐藤委員 ありがとうございます。
 コミュニケーションというのがこの部会でも非常に重要で、今日100年という言葉が何回も登場したと思うのですけれども、非常に超長期で、その中に何があっても不思議じゃない期間だと思うんですね。例えば財政検証を実施したときと、検証したときでも大きな乖離が出ればそこでも議論がある。これにいかにうまくつき合って、国民をはじめ皆様にお伝えしていくかということが大きな課題だと理解しました。ありがとうございます。

○翁部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、駒村委員お願いします。

○駒村委員 人口推計のほうで発表されている将来の生命表、2065年の値と、そのときになると男性の4割、女性の7割近くが90歳まで生きます。中位寿命が男性88歳、女性94歳と極めて延びていくわけですね。
 当然、長寿リスクが延びれば年金の不安というか、年金の支持率が上がってしかるべきなのに、年金に不安を感じているということだと思うんです。これをどう払拭していくのか。
 そもそも人間というのは、あまり将来のことを考えると気持ちもよくない。あるいは、長期のことを考えるのは苦手だという傾向はあるのでしょうけれども、それでも年金のほうはある程度、先を見ながら、しかも外れたら微調整もちゃんとするシステムがありますよと、この内容をいかに国民の方に分かりやすく、様々な数字を我が事として皆さんが人生を考えるときの一つの手がかりとして、この長い人生でいつから年金をもらうべきなのか、いつまで働くべきなのか、資産をどうするのかというライフプランをつくる一つの情報としても利用できるような形で提供できればと思います。
 そのメカニズム自身は数理部会のほうでちゃんと見ていますから、チェックしていますからということが伝わるように、もう少し数理部会のプレゼンスを上げたいなと思っています。これはどう発表するかということ次第かと思いますが、また頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。

○翁部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、小野委員お願いいたします。

○小野委員 皆さんがおっしゃっていることに同感です。私は、ピアレビューも財政状況報告書もそうなんですけれども、公的年金の制度運営に資する役割を果たしていかなければならないと思っていますし、そういった観点から専門家同士の議論を深化させていくとともに、年金数理部会が健全な制度運営に役立っていることを世間に知っていただくということが重要なのだろうと思います。
 ここから先は非常に具体的かつ小さなことかもしれないのですけれども、年金数理部会が保険料水準固定方式に移行する以前から改良しつつ用いられている各種の財政指標ですけれども、これは一度棚卸ししてみるのもいいかなと思います。
 それと、特に財政状況報告書では実施機関の決算の統合が重要である一方で、実施機関ごとの分析というのは財政が一体化してしまった現在は、申し上げたとおり重要度がちょっと低下しているのではないかと思っています。この点も、報告書の章立てを見直すとかによって読みやすさを改善していくことに若干でもつながっていくかなと思います。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 では、野呂委員お願いいたします。

○野呂部会長代理 多くの委員の方々も、一般の国民の皆さんへの情報発信ということをおっしゃっておられまして、これは非常に大事なことだと思います。その中で、一般の方への情報発信という意味においては、その中身と同時に、情報を伝えるルートといいますか、デリバリー手段ということも大切かと思っております。
 例えば、メディアを通じた情報発信ということでは、定期的なプレスリリースを分かりやすく行うとか、あるいは専門誌の記者を集めて記者レクをするとか、そういうことも大事で、そうした際には、この「年金数理部会」という、ちょっといかめしい近寄り難い名前も変えたほうがいいかなという気もいたします。
 それから、意外に大事なのがタイトルの付け方で、大げさな表現にはならずに、しかし国民の心に届くようなタイトルを選ぶということになりますと、あるいはコピーライターのようなプロの知恵を借りる工夫も要るのではないかと思います。
 実は私が研究所で仕事をしているときも、そうしたプロのアドバイスを受けましたが、「ああ、そうか、こういう角度から訴求すれば的確に伝わるのか」というふうに、目からうろこの落ちることが何度もありました。一度検討されたらどうかと思います。
 また、年金局に設置された年金広報検討会などを通じまして、この部会単独ではなく、年金制度全体として広報をやっていくということも考えてはどうかと思います。
 それから、余計なお世話かもしれませんけれども、今日、司会進行をしていただいた翁部会長は、政府の重要会議に数多く参加されておりますので、もし可能であれば、そうした場でもちょっとピーアールしていただけないかなというのが最後の意見でございます。
 どうも失礼いたしました。

○翁部会長 今日は、皆様本当にありがとうございました。
 小野委員には大変貴重なプレゼンテーションを1時間、大変分かりやすくしていただきまして、私たちも含めて大変理解が深まったと思います。
 また、後半の意見交換では率直ないろいろな御意見が出ましたし、また、新しく入られた方々については素朴ないろいろな質問をいただいて、長くやっていると気がついていない点とか、やはりこういうことを考えなければいけないというような気づきもありまして、大変よかったと思っております。
 本当に皆様おっしゃっているようにいよいよ超高齢時代になりまして、国民の生活の基盤である年金、公的年金というのは非常に重要な生活の基盤だと思いますし、それがどうなっていくかということを検証する極めて責任の重い仕事だと思いますので、今後ともぜひ皆様の御協力を得ながらよい仕事ができればと思っております。
 また、多くの皆様が、どういうふうにプレゼンテーションしていくのか、プレゼンテーションの仕方ももっと分かりやすく、部会の名前やピアレビューそのもののネーミングについてもいろいろ工夫してもっと分かりやすくしていく必要があるのではないかというような貴重な御提言もいただきましたので、ぜひそういったことも踏まえて厚生省には御検討いただければと思います。
 私自身もいろいろと頑張っていきたいと思いますが、皆様もそれぞれの御活動の立場で、これから議論することで何か発信できることなどありましたら、ぜひよろしくお願いしたいと思っております。
 今日の意見交換はここまでとしたいと思いますが、事務局のほうから何かございますか。よろしいですか。
 それでは、ちょうど4時になりましたので、これをもちまして本日の部会は終了いたします。
 長時間にわたりまして、どうもありがとうございました。