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2017年4月17日 第16回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会

労働基準局

○日時

平成29年4月17日(月)14:00~16:00


○場所

中央合同庁舎第5号館厚生労働省議室(9階)


○出席者

荒木 尚志(座長) 石井 妙子 大竹 文雄 岡野 貞彦 小林 信
小林 治彦 高村 豊 土田 道夫 鶴 光太郎 徳住 堅治
斗内 利夫 中山 慈夫 長谷川 裕子 水口 洋介 村上 陽子
八代 尚宏 輪島 忍

○議題

・解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について
・その他個別労働関係紛争の予防や解決を促進するための方策について
・その他

○議事

○荒木座長 それでは、定刻より若干早いですけれども、定刻にお集まりの御予定の委員の方は皆さんおそろいということですので、ただいまから第16回「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催したいと思います。

 委員の皆様には、お忙しいところをお集まりいただきありがとうございます。

 本日は、垣内秀介委員、鹿野菜穂子委員、中村圭介委員、水島郁子委員は御欠席と聞いております。また、岡野貞彦委員、八代尚宏委員は遅れて到着の予定と伺っております。

 本日の議題ですけれども、「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」「その他個別労働関係紛争の予防や解決を促進するための方策について」でございます。

 お配りしてあります資料の確認を事務局からお願いします。

○大塚調査官 本日の新規資料は3点ございまして、資料No.1が「検討事項の補足資料ver.3」ということで、前回のver.2をバージョンアップしたものでございます。

 資料No.2と資料No.3は、そのほかの論点にかかわる資料でございまして、No.3の縦置きの資料は検討事項案となっております。

 もし、資料に不足とか落丁などがございましたら、お手数ですけれども、事務局までお申し出くださいませ。

○荒木座長 よろしいでしょうか。

 それでは、本日も前回に引き続きまして、「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」議論を深めるとともに、残っておりました「その他個別労働関係紛争の予防や解決を促進するための方策について」も御議論いただければと考えています。

 本日の進め方ですけれども、前回の議論を踏まえまして、さらに議論を深めるための資料として、制度の基本的な枠組みについての論点等を追記した資料No.1「検討事項の補足資料ver.3」と、資料No.2「その他個別労働関係紛争の予防や解決を促進の方策に係る参考資料」を準備いただいています。まず資料No.1について事務局より説明いただいた後、「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」のご議論をいただきたいと思っています。その後で、資料No.2について事務局より説明いただき、「その他個別労働関係紛争の予防や解決を促進するための方策について」の議論に移りたいと考えています。

 事務局から、資料No.1について説明をお願いします。

○大塚調査官 事務局から資料No.1について御説明申し上げます。この資料は先ほど申し上げましたとおり、前回御提出いたしましたver.2をパージョンアップしたものでございますので、変更した箇所を中心に御説明申し上げたいと思います。

 まず、3ページは例1方式ということで、解雇無効判決という裁判上の手続を必須とする仕組みでございます。これに関しまして変更した箇所でございますけれども、3ページの一番下の1行でございまして、解雇が権利濫用で無効とされている場合に、契約終了という効果が生ずる理由についてどう考えるかという部分を追記しております。

 例1に関しましては、前回この仕組みでやるべきではないかということで、平成17年の検討時におきましては、形成の判決、すなわち、労働契約の解消の判決と給付の判決とが引きかえのような関係になっていたところ、これをばらばらで、1回の裁判手続で出すような規定を置けばいいのではないかという御主張が中山委員からあったかと思います。これに対しまして、それを行う場合には、権利濫用であると裁判所が判断した解雇につきまして、一定の事由があるときに契約終了の効果をもたらす規定を設けることが必要と考えられるところ、そういった規定を設ける理由というのは一体どういうことなのかという土田委員からの御指摘がございましたので、この旨、追記したものでございます。

 4ページの例2につきましては、特段記述の変更はございません。

 5ページ以降が例3方式、すなわち実体法におきまして、一定の権利を創設するやり方でございまして、これに関しましては、前回多数の御意見がございましたので一つ一つの論点につきまして適宜追記、変更等をしております。

 具体的には6ページでございますけれども、「1 対象となる解雇」につきまして、前回の検討会におきまして土田委員から御意見がございましたので、そこで出た御意見も踏まえまして書きぶりを修正しております。まず、1つ目の○でございますけれども、冒頭の書き出しは変わりませんで、労働契約法16条において無効とされている解雇と同様のものを対象とするのが基本であるわけなのですが、その次の行に「労働契約法第19条において効力を否定される雇止め」の記述を追加しました。これを対象とすることが考えられるかということで、19条の雇止めに関するルールに関しましては、13ページに労働契約法の参照条文を載せておりますので適宜御参照いただければと思います。

 6ページの1の2つ目の○でございますけれども、こちらでは労基法等違反の解雇、前回の検討会におきましては、土田委員のほうから公益通報保護法で解雇が禁止されている当該解雇を例示されましたけれども、そういったような解雇ですとか、あるいは労働契約法第17条において必要とされているやむを得ない事由を満たさないような解雇、これは労働契約法第17条で無効とされているわけでございますけれども、それらについてどう考えるかということで、1つ目の○とは違う書きぶりというか、別に書き出しておりますので、2つ目の○につきましてはこういったような解雇を対象から外すべきなのか、それとも、労働者申し立てということで労働者の選択でございますので、これを含めるべきなのかといったことなどについて御議論いただければと存じます。

 論点2でございますけれども、「労働者が金銭の支払を請求する権利」ということで、まずは先ほど申し上げた論点1の記述の変更に伴いまして、論点2の1つ目の○に※を追記しております。労働契約法16条と同様の権利濫用以外のルートで無効とされるような解雇を仮にこの新制度の対象とする場合には、要件が変わってきますので、違う要件に差しかわるのではないかといった趣旨の記述でございます。

 論点2の2番目の○でございますけれども、ここは全面書き直しにしております。前回、こちらのほうの資料の書きぶりが悪かったのか、形成権だから撤回ができない、請求権だから撤回ができるという、ちょっと演繹的に決まるかのような前提で、もしかして各委員の皆様方が捉えられてしまっていたのかなという面もございましたので、ここで書いておりますように、まずは労働者が新制度に基づく一定の請求をした場合に、それを一方的な意思表示で取り下げることが労働者保護の観点から必要なのかどうかといったことをまず御議論いただきたいなと思いまして、書きぶりを変えたものでございます。

 前回、本日御欠席の垣内委員から御指摘がありましたので、そのことを後段に書いてございますけれども、仮に取り下げることができる請求権として規定した場合に、2の上の○にあります3つの要件、すなわち解雇がなされていること、解雇が権利濫用であること、そして、労働者が金銭の支払いを求めていることの3つの要件がまず必要になってくる。3つ目の要件がないと、使用者が一方的に弁済をして、労働契約を終了することができてしまうような仕組みになってしまうので、3つ目の要件を何らかの形で書く必要があるのではないかという御指摘の後、書きぶりについては「求めていること」なのか、「求めていたこと」なのかでまた効果が変わってくるのではないかとおっしゃっておられました。

 「求めていること」の場合には、最終的には裁判になった場合に、口頭弁論終結の時点におきまして、労働者が求めていることが求められる。逆に言うと、それまでの間は労働者が一方的な意思で取り下げることも可能になりますので、法的安定性という観点からは少し不安定になるのではないのかという御指摘がありました。他方で、「求めていたこと」とした場合には、一定の時点で労働者が請求をしたということが求められるわけなのですけれども、その一定時点以降につきましては結局一方的に取り下げができないことになりますので、形成権と同様の問題が生じてくるのではないかという御指摘がございました。

 それらを受けまして、最後のほうに書いてございますように、取り下げができない仕組み、形成権として構成した場合につきましては、その課題につきまして権利行使を裁判上の請求に限るとか、あるいは書面など一定の形式による請求に限るといった制度的な手当てを行うというやり方も考えられれば、その後に書いてございますように、権利行使についての周知広報を適切に行っていく、新しくできた新制度は1回請求したならば、一方的な取り下げはできないのだということを幅広く国民の皆様方に周知広報していくという、ソフト面のやり方まで幅広に御議論すればいいのではないかという御指摘がございましたので、その旨の記述をしたものでございます。

 7ページは、「3 使用者による金銭の支払」ということで、解消金の内容といたしまして何が含まれるのかということを改めて整理し直したものでございます。前回の資料のときには、交換条件分とバックペイ分という書き方をしておりましたけれども、その交換条件分という書き方ではサンクション的な意味合いがあることに照らして、ちょっと書き方がおかしいのではないかといった土田先生の御意見も踏まえまして、今回言葉遣いをその辺は変えております。

 具体的な図でその概念を示しますと、7ページの真ん中あたりにありますA案とB案がございます。B案は前回資料のときのB案とC案を統合したものでございます。まずA案でございますけれども、こちらは解消金の中身といたしましては、労働契約を解消することに対応する部分、解消対応部分と、あとは事案によるのかと思いますけれども、損害賠償的な部分、これらが解消金の内容である。バックペイ分につきましては解消金の外側にあると整理するのがA案でございます。B案につきましては、バックペイ分につきましても解消金の中に含めるという案でございます。

 A案、B案の場合も、労働契約が終了するのは解消金が支払われた時点であると仮定した場合に、契約解消のために必要となるお金が変わってくるわけでございまして、A案の場合には、バックペイ分は労働契約終了のために必ずしもその支払いが必要ではない。これに対しましてB案の場合には、バックペイ分も含めた解消金の支払いが労働契約終了の効果をもたらすという点に違いが出てきます。

 A案の場合は、バックペイ分については新制度の外側にあるわけでございますので、ここの部分に関しましては民法536条第2項に基づきまして、現在と同様に請求することも可能という仕切りになろうかと思います。

 これに関連いたしまして、9ページをお開きいただければと思います。「6 金銭的予見可能性を高めるための方策」でございまして、この論点に関しては、上限、下限をどのように設定するのかという議論が前回検討会の場でも行われました。今回、新しく整理いたしましたA案とB案に照らしまして、上限と下限は一体どこに設定することになるのかというものを示したのが真ん中の図でございます。A案の場合には、解消金はあくまでも左側の解消対応部分等でございますので、上限、下限を設定するのは当然にここの部分に限られることになりまして、制度の外側にありますバックペイにつきましては上限も下限もないといった整理になろうかと思います。

 これに対しまして、隣のB案の場合は2通りの考え方があり得るのかなと思っております。1つは、上限と下限を設定するのは、あくまでも解消金の中の解消対応部分などであるということで、A案と同様の性質の金銭についてのみ上限、下限を設定するやり方が1つ、もう一つが右側なのでございますけれども、バックペイ分も含めた解消金全体に上限と下限を設定する案というのもあり得るかと思います。

 右の場合には、既に発生している未払い賃金債権に関しまして上限を超えてしまう問題も出てくるかと思います。この場合の上限の考え方につきましては、理論上、2通りあり得ると思われます。1つが、超えた部分につきましては現行の民法536条2項と同様に、当然に別途請求できるという考え方、もう一つが上限を超えた部分については、新しい権利をつくるものである以上、その超えた部分については消滅させるという判断も理論的にはあり得るのかなと思いますので、両案についてそれぞれの問題点がどうなのか、どうあるべきかといったことを含めて御議論いただければなと思っております。

 前後して恐縮ですけれども、8ページの上の「4 労働契約の終了」の論点部分でございますが、ここに関しましては、まず今回の資料におきまして解消金という定義づけにいたしましたことなどの上のほうで変えた部分に伴う変更を施しておりますのと、2つ目の○の1つ目の※の最後のほうでございますが、括弧書きを追記しております。「解雇無効に関する要件該当性を判断しない和解や労働審判とは異なる」といった記述を追記しております。

 「5 他の訴訟との関係」でございますけれども、これは前回までに垣内委員、その他からいろいろ問題提起とその解決の方向性について御議論なされたかと思いますので、それを踏まえて記述を変更しております。

 例えば1つ目でございますが、二重起訴の問題につきましては、訴訟物が異なるのであれば、解消金請求訴訟と地位確認請求訴訟は二重起訴の関係にはないといったことを書いております。また、例えば新制度に基づく解消金請求訴訟と解雇を不法行為とする損害賠償請求訴訟、あるいはバックペイの請求訴訟との関係につきましては、結局先ほど述べました解消金の中にバックペイを含めるのか、あるいは損害賠償見合いのお金を含めるのかなどと連動して、ここでの結論が出てくる。すなわち既にバックペイ分も何も含んであるということであれば、それは訴訟物が重なってくることになりますけれども、もし解消金にはバックペイ分などが入らないということであれば、別途請求が可能ということにもなってきますので、結局は解消金の中にどういう性格のお金を位置づけるのかということにかかってくることかと思っております。

10ページにつきましては、これまであまり議論がございませんでしたので、今回議論を深めていただければと思いますけれども、「7 時間的予見可能性を高めるための方策」として、消滅時効をどうするのかといった論点についてもぜひ御議論いただければなと思っております。書きぶりにつきましては前回と変更ございません。

 資料の11ページでございますけれども、こちらは使用者申し立てに関する記載でございまして、これにつきましても前回と書きぶりは変更ございません。

12ページは、一方的な取り下げ撤回を認めるかどうかの議論に関しまして、現行の解雇に関する意思表示などがどうなっているのかを示したものでございましたけれども、一番下に形成権とは何か、請求権とは何かといった記述を追記しております。

13ページは、先ほどちらっと御紹介しましたけれども、対象となる解雇の議論に関しまして、御参照になりますような労働契約法の関連条文を書き出したものでございます。

14ページも、対象となる解雇に関連いたしまして、参考になる資料として追記いたしました。諸外国における不当解雇に関する救済手段のあり方と、15ページが禁止されている解雇について諸外国での取り扱いがどうなっているのかといった資料でございます。

15ページに関して一言だけ申し上げると、国によってどういった解雇が禁止されているのかというのはさまざまでございますけれども、法律で禁止されている解雇につきまして、少なくとも労働者申し立てに関していいますと、対象から外していない国が多いのではないかと見受けられます。

 資料1につきましては以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、解雇無効時の金銭救済制度について御議論いただきたいと思います。

 ただいまの資料No.1について、御質問、御意見等ありましたらお願いいたします。

 鶴委員。

○鶴委員 どうもありがとうございます。

 前回欠席しましたので、今の事務局からの御説明、前回の議論も含めて少し考え方、意見を申し上げたいと思います。

 まず、具体的な制度設計のところに入ってくるので、もちろんいろいろな考え方があると思うのですけれども、原則的なものも少し考えなければなということを思っております。大きく分けて、私の頭は3つぐらい思い浮かべているのですけれども、1つはこれまでの仕組みというのがあるので、それにある程度うまい接続を考えていくというのも制度設計のときに少し考えなければいけないなと思っています。

 2番目は、非常に複雑な制度になると、なかなかコンセンサスを得るというのは難しい。どの制度を考えるときもそうなのですけれども、なるべく簡素でわかりやすい制度をつくるというのが非常に重要なのかなと。

 3番目に、もう言わずもがなですけれども、ここにも労使双方の代表の方に集まっていただいているわけですれども、双方の納得をちゃんと得られるようなものを考えることが必要なのかなと思います。

 大きく分けて3つの論点について申し上げたいのですけれども、1つ目は金銭の支払いの請求の後、請求を取り下げることはできるかという問題があって、今回一つの仮定の中で、労働者の選択肢をふやす考え方があるわけですが、一方で何でも労働者がふらふらふらふらいろいろな選択ができることを考えるべきなのか。十分な情報を持った上で、熟慮し、納得した上で、金銭請求をする仕組みというのが重要で、こういう仕組みがうまく働くためにやはりコミットメントをちゃんとやらなければいけない部分は私は非常に重要な部分なのかなと。そういうふうにすると、先ほど事務局から御説明があったように、例えば権利行使を裁判上の請求に限るという形で、シンプルに考えてしまってもいいのかなと思います。

 2番目、解消金の性格でバックペイをどうするのかというのが非常に大きな問題になっていると思うのですけれども、これも先ほど申し上げた、なるべく簡素でわかりやすいことを考えると、むしろB案で、その後上限、下限も含めてどう考えるか、非常に制度設計が複雑になるなという感じを持って、それならば7ページのA案のほうが、つまり、バックペイの扱い方については従前どおりという扱いで、もうバックペイがもらえなくなるということではなくて、これまでと同じ扱いという考え方というのは一つあるのではないのかなと思っています。

 ただ、そういう場合でも、これまで委員の中から、裁判を長引かせるということはバックペイをたくさんとれる、そういうことは現実は余りないということもおっしゃっていたのですが、そういう行動をある意味で起こらないように抑制する仕組み、何らかのそういう制度設計も私はぜひ必要なのかなと。両方組み合わせる必要があるかなと思います。

 最後、3点目なのですが、多分9ページの上限、下限の議論ももう少し具体的な議論をする必要があるのかなと思います。荒木座長も御編者で入っていらっしゃるJILPTから「解雇ルールと紛争解決」という御高著を出されているのですが、その中に非常にいろいろ詳しく、各国の制度もあります。

 例えば上限、下限の設定で、企業の規模別とか年齢別で、規模別でいうとイタリア、年齢別でいうとドイツというのはそういう仕組みをやっているのですが、状況に応じてそういうものを変えたほうがいいのか。いずれにしても、ある程度合理的な説明ができても、やはり差別的な扱いという形が強くなるので、一本で議論したほうがいいのか、その辺は具体的な議論になってくるような感じがします。

 上限ということも、だんだん数字の議論を私はする必要があると思っていて、イタリア、スペインというのは一番高い例として24カ月という数字を出しているのですが、当然南欧のレベルというのはヨーロッパでも非常に高過ぎるのではないかという議論、それから日本の場合は賃金に非常に年功的な要素が入っているので、余りヨーロッパの数字をそのままとってくるというのはどうなのか。こうなっていくと、どれぐらいのところを目安にしていくのか、もう具体的な数字の話を当然しなければいけないのだと思うのですけれども、やや広げて考えても、10カ月超20カ月未満とか、そういう間に入ってくるような話を、そのあたりでどのぐらいなのかという話もしていかなければいけないのではないかということです。

 最後、下限の議論もすごく難しいと思うのです。上限、下限の話をやっていくと、私は必ず労使協定の話をせざるを得ないのではないのかな。簡素組合、簡素代表者と使用者の間で話し合って、例えば一般的に決められた水準より低過ぎるのだったら、労使協定において少しそれを上げるという制度設計を必ずこの話の中に入れていかないと、最後に制度としてまとめるのは難しい。ただ、そもそも労使協定というのもいろいろ難しい問題があるというのは、前回もちょっと御発言があったようなので、私自身も重々承知しているつもりなのですが、今後ここに突っ込んで議論するために、今、私が申し上げた視点というのは、どうしてももうしていかなければいけないのではないのかなと思っています。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 土田委員。

○土田委員 今の鶴委員の御発言を受けて、論点提起も含めて話をしたいのですが、6ページの論点1「対象となる解雇」については、前回も、基本的には16条の解雇と19条の雇い止めに限定すべきだと言いましたが、これについてはまだほかの委員からそれほど意見をお聞きしていないように思いますので、ぜひ御意見を伺いたいと思います。

 同じページの2の1つ目の○の6行目、復職意思の喪失要件をどうするのかというのは大きな問題で、私自身は、復職意思の喪失時点をいつにするかということはもちろん問題ですけれども、設定する意味はあると思います。

 ただ、復職意思の喪失という要件は、7ページにあるとおり、今回は解消対応部分とバックペイ分となっているわけですが、もともと地位確認の放棄、バックペイ等への対応に限定されるのではないかという御意見もあるのだろうと思いますけれども、復職意思喪失要件を設けるとすれば、7ページの金銭解決制度全体についての要件に位置づけることが可能ではないかと思います。

 6ページの下の2つ目の○、前回出た形成権、請求権、撤回可能性の話ですけれども、一つ考えられるのは、今、鶴委員も言われましたが、ある程度情報を得た上で、熟慮した労働者が判断をした後に、その撤回をどこまで認めるかというのは一つの論点かと思います。ただ、ここのところをクリアするために、一番下のところ、裁判上での請求に限定すべきかということですが、それは前回申し上げたとおり、事実上裁判外での請求というのは、要件2があるものですから簡単にはできないとは思いますけれども、制度設計として裁判上での請求に限定してしまうというのは、今回の制度を労働者に広く使ってもらうという本来の趣旨からすると、そういう形に限定するのは必ずしも望ましくないのではないかと思います。

 続けていいでしょうか。

○荒木座長 どうぞ。

○土田委員 7ページの制度設計のところですが、結局B案もよく見ると、2の「バックペイ分」のところに「全額又は相当額」というのがあって、相当額というのは前回のC案に相当するものだと思います。

 A案とB案の違いは結局何かというとバックペイが入るかどうかということですが、解消金の性格からすると、いつの時点でしたか、水口委員が言われた、その当時は「代償」という言葉を使っていましたけれども、何についての代償なのかということを考えたときに、過去分の経済的な補償と、もう一つは将来働けたであろう分の補償と2種類あるだろうということで、A案は結局解消金については解消対応部分、つまり、将来分の補償に限定している案だと思います。B案についてはバックペイを含むわけですから、過去分の経済的補償と将来分の補償の両方を含む案になろうかと思います。

 A案とB案を見ていただきたいのですが、B案の2の全額と相当額を分けまして、全額をB案の1と名づけておきます。A案とB案の1は、どちらにしてもかなりすっきりした制度だと思う。今、鶴委員が言われたように、バックペイ分を完全に区別すると確かにすっきりします。

 しかしながら、B案についても、先ほど事務局から御説明があったように、9ページの「論点3のB案の場合」の左側のように、解消対応部分に上限を設けつつ、バックペイ分については設けないという制度設計にした場合には、バックペイは上限なしに請求できることになりますので、その点ではわかりにくくはない。かつ、このB案でいきますと、紛争は一回に解決できるという意味で迅速な対応ができるだろう。

 いずれにしましても、前回も出たとおり、バックペイそのものについて上限を設けることはあり得ない話ですので、A案とB案のバックペイ分全額を含めて、かつ、バックペイ分については上限を設けないという9ページの案の2つは選択肢になり得るのかなと思います。

 ただ、デメリットもありまして、A案の場合には、バックペイが別途請求できるわけですから紛争が長期化するという問題がありますし、B案の解消対応部分かつバックペイについて上限を設けない案をとる場合に、一体バックペイはなぜここに入るのか。前回、最後に中山委員が言われた点です。理論的にそれを説明できるのかというところは確かにあるかと思います。7ページのバックペイ分の相当額を組み込むというのは、前回のC案で私が言い出したところですけれども、これは非常に煩雑でわかりづらいし、バックペイの別途請求も可能だということになるとよくわからんという話ですので、ここは全額のほうで考えるほうがすっきりするのかなという気がします。

 もうちょっと続けますと、考慮要素についてもお話がありましたけれども、A案の場合には、解消対応部分というのは将来働けたであろう分の補償が入り、慰謝料が入ってきます。さらに、不当解雇に対するサンクションという機能が入ってきて、具体的考慮要素も考えなければいけないわけですが、年齢、勤続年数をどうするのか、配偶者とか扶養関係をどう考えるか。さらに、以前申し上げましたが、解雇の不当性をどう考えるのかということが出てきます。

 B案につきましても、1についてはほぼ同じような考慮要素になるかと思いますが、金額そのものは、A案ですとバックペイは入りませんから相対的に低い。B案の場合には、バックペイも含むわけですから相対的に高いことになる違いはありますが、どちらにしても、考慮要素そのものはそれほど変わらないのではないかと思います。

 その上で、上限、下限をどうするかですが、9ページになりますけれども、下限は当然設けるべきだろうと思います。上限ですが、設けないという選択肢もあるかと思いますけれども、設けるとすると、予見可能性の観点から設けるべきだということになります。

 そのときに一つ考えておきたいのは、9ページの一番下に「限度額に係る参考指標」というものがありますが、金銭解決制度を考え、上限を設けるとした場合に、参考とすべき指標はやはり一番下の早期退職優遇制度、希望退職制度の割増額だと思います。性格としては、解雇の金銭解決は労働者に帰責事由がない、つまり、解雇に合理的な理由がないのにもかかわらず雇用を終了させる制度ですから、それに最も近いのは早期退職優遇制度の場合ということになります。そうすると、これで言うと具体的な平均値が15.7と出ていますから、上限は当然これを上回るべき額になるはずだというのが私の意見です。もちろん具体的な数字は考えなければいけないわけですが、上限、下限を設ける場合に、制度の考え方からして、いかなる金銭とすべきなのかについては今のようなことになろうかと思います。

 最後に、これも鶴委員からありましたが、労使の交渉あるいは協議による金額の上限、下限の設定です。これについては今「労使協定」という言葉が出ましたし、以前労使委員会の話も出ましたが、前回私が言ったのは労働協約です。労働協約に限定する選択肢があると思います。これは解雇について地位確認をせずに金銭解決をする制度ですから、それを制度化するだけの労使自治は労働協約に限定すべきだという考え方はあり得ると思います。これについては、さまざまな御意見があるでしょうから、また御意見を伺えればと思います。

 長くなりましたが、以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。

 八代委員。

○八代委員 ありがとうございます。

 大分整理されてきたわけですが、今までに出ていない論点として、私は労働審判との関連をもうちょっと強調したほうがいいのではないか。今までの議論というのは、更地に民事裁判だけについてこの制度をつくったらどうなるかという御議論だと思うのですが、既に労働審判という制度があって、しかもこれがちゃんと機能していることは多くの方が認めておられる。

 私が恐れているのは、仮に民事裁判でこういう金銭補償の制度ができたときに、それが著しく労働審判より有利であれば、そちらにみんな飛びついて、これまで労働審判だけで解決できたものまで裁判のほうに行ってしまったら大変なことになるわけで、裁判のほうがとても対応できなくなる。むしろ、これまで労働審判で不満を持っていた労使が裁判に行ったところで大して得られるものは差がないという納得性があれば、ある意味では労働審判がもっと活用される。そういう労働審判と民事裁判との代替性を考慮する必要があるのではないか。

 そういうふうに考えたとき、例えばバックペイの問題についても、私の理解では労働審判では論点3のB案といいますか、全部一緒に入っている、バックペイを別に取り出して議論することはしていない。それであれば、民事裁判のほうも基本的にそれに近い方法が望ましいのではないかということであります。

 私自身、まだよく理解していないのですが、解消金の性格というのが今、土田先生から将来分の賃金に相当するものだというお話がありましたが、例えば非常に年功賃金が大きな企業の場合、途中で解雇されて転職すると非常に損失をこうむるわけです。だから、当然それについて補償しなければいけないというロジックがあるわけですが、中小企業の場合だとそんなに年功制がない。どこの企業に移っても大して賃金が変わらない場合だと、解消金が非常に小さくなるわけです。

 私がこの問題で一番大事だと思うのは、労働者間の不公平ということでありまして、これをもうちょっと考えなければいけない。具体的に言うと、大企業と中小企業の労働者の差であって、これは賃金が違うというのは、職種別労働市場ではありませんからある程度やむを得ない面があって、しかし、解雇の補償金について、ただでさえ中小企業と比べて高賃金の労働者が非常に有利になる仕組みというのは、一種の日本的雇用慣行における既得権を、これまでは雇用慣行であったものが法律的に容認することになって、ここはもうちょっと慎重に考える必要があるのではないか。

 前回の議論で、賃金の水準が違うのは当たり前であって、それを年収にしたら何カ月分の賃金ということでイコールであればいいのではないかという、たしか長谷川委員の御意見があって、そこは私も理解している点なのですが、何カ月分の賃金というところが裁判に訴えやすい大企業の労働者の場合は優遇されて、それができない、せいぜい労働審判程度で終わる中小企業の労働者がそこまでもらえないということは、依然として問題ではないかと思うわけであります。

 以上、とりあえずそれぐらいでやめておきます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 徳住委員。

○徳住委員 解消金に上限を設けるかどうかについて、議論が集中しているので、その点について触れたいと思います。私自身は労働事件を多く担当している中、上限を設けることは利用率を下げて不適切であるという立場で、この点について意見を述べたいと思います。

 1つは、バックペイを含めるかどうかの問題です。A案を取った場合、確かに理論的には整合性を持っているように見えますけれども、バックペイだけを取り出して訴訟を提起し、裁判を続ける労働者がどれぐらいいるかということもあり、やはり解消金の中にバックペイ及びバックペイ相当分を含み、処理すべきではないかと考えます。この考え方からすると、解消金にバックペイを取り込むとした場合、相当分としない限り、上限を設けることは大変難しくて、その場合は、労働契約の終了時までということが原則になります。こうしたことを踏まえると、上限を設けることができないのではないかなと私は思います。

 問題は、解消金の考慮要素です。先ほど土田委員が整理されておっしゃった点は、私は大変重要な問題を含んでいて、事件を担当していますと考慮要素というのはさまざまあって、大変金額が膨らむ事例を数多く見ています。事例の一つは、45歳以上の上級管理職や管理職の場合の解雇事件です。こうした事案では、会社の経営権の主導権争いで負けたグループの上級管理職が解雇されたり、会社の経営方針が大幅に変わって、そのことによって管理職が解雇になる場合があります。その場合は、その管理職たちはそれまで会社に対する貢献度は極めて高いのですけれども、解雇されてしまうと再就職の道がほとんどない状況に置かれます。

 このようなケースを、どのようにして解決しているかというと、多くの場合は定年が60歳の場合が多いのですけれども、定年までの残りの勤務期間を考えて、その期間を解決金の中に持ち込む場合が数多くあります。これらの場合は先ほど言いましたように、会社の経営権の変更だとか、制度変更、経営権の争い等によるものですから、労働者個人、上級管理職にはほとんど責任がありません。かえって、正しい立場をとっている場合も結構あって、早期の解決をしてあげたいと思う場合もあります。

 先ほども申しましたように、定年までの残余期間の全部ないし半分といった結構多くの月数になる場合があるのです。私が担当した中では、57歳の上級管理職の事案でしたが、この場合は3年間を会社が補償するからやめてもらえないかということで解決しました。また、50歳の管理職の場合は、あと10年の勤務期間がありましたけれども5年で解決しました。資料9ページに限度額に関する参考指標として「早期退職優遇制度・希望退職制度の割増額」があり、この平均値が15.7か月分ですから、上限は2年、3年を超えているはずなのです。そういう点で言うと、企業貢献度が高いものの、会社の経営権変更等により会社をやめざるを得ない場合の解消金の金額は結構膨大になる可能性があって、こうした場合に上限を設けることは問題ではないでしょうか。このようなケース・事例もあるので、上限を設けるのは不適切ではないのかと思います。

 もう一点は、解雇に至るまでの会社の不法行為、ハラスメントの問題です。これは結構深刻な問題で、解雇すると解雇無効で争われるために、最近の会社の経営者は、多くの場合は事前に退社強要を執拗に行うケースが増えています。また、マタハラ等のハラスメントをされた労働者の解雇というのも、大変深刻な問題です。

 私が最近担当した事例で、ある有能な女性労働者が別の会社からスカウトされて入社し、大変活躍して給料も上がったのですけれども、彼女が結婚して妊娠したことを会社に通知した途端に社長の態度が一変しまして、彼女から仕事を取り上げて、別の業務に配転してしまいました。そして、ささいなことを見つけて執拗に叱責したり、勤務態度を攻撃したりした結果、彼女は鬱病状態になってしまいました。その後、会社側は彼女が出産して休業している間に解雇したのです。このような解雇は、均等室からだめですよと言われて、一旦職場に戻ったのですけれども、今度は彼女が妊娠する前のいろいろな勤務態度を執拗に調べて、たくさんの陳述書を提出し解雇してきたという事例だったのです。裁判所の中で激しい論争になりましたけれども、最終的には、裁判所は「彼女の妊娠を理由とした解雇だ」という心証をとりまして、不当解雇ではないかということで解決しました。その場合の会社のとった不当な態度は損害賠償的要素に該当すると思いますが、損害賠償的要素としては大変なものがありますから、当然解消金の金額も膨らみます。このような観点からも、私は上限を設けることについては大変問題があると思っています。

 また、諸外国の例が紹介されましたけれども、諸外国の中でも必ずしも上限を定めている国は多くないのです。以前、検討会の場において、難破元裁判官が、「自分は解雇有効だと思う場合は3カ月を上限に、解雇無効だと思う場合は1年を中心に考える」、「そのかわりにどういう判断をするかということは裁判官、労働審判ですと労働審判委員会に任せてもらわなければ困る」ということをおっしゃいましたけれども、私は事案の累積で十分妥当な解消金の金額が定まっていくと思いますので、あえてこの時期に上限を設けることについては、改めて反対だということを意見として申し上げます。

○八代委員 今、徳住委員がおっしゃったのは特殊なケースであって、当然ながらここの限度額プラスマタハラの補償をつけるわけで、それはもちろんマタハラのほうは上限なしで構わないわけで、ここはあくまでもハラスメント、不法行為がない場合の解雇を議論しているのだと私は理解しておりますが、いかがでしょうか。

○水口委員 バックペイの問題をまず申し上げたいと思います。先ほどの議論で、バックペイについて、いくつか意見が出されたのですが、その中で、「労働者が裁判を引き延ばして、たくさん解決金なり、バックペイをとろうという行動のインセンティブになる」という御指摘があったのですが、その点は前回も申し上げたように、労働者は早く解決したいというのが普通の心情です。

 バックペイが持っている機能ということなのですけれども、これはある意味で使用者側が解決をする決断のインセンティブになります。例えば、労働審判で一定解雇が無効だという心証が出たときに、労働審判は平均75日で解決していますから、労働審判で解決すればバックペイが少なくて済みます。そこで、労働審判で合意の上で解決することになります。この点は、本訴であっても同様で、通常1人解雇されたケースであれば、1年以内ぐらいに心証が裁判所から開示をされるなかで、これ以上争っていっても、使用者が敗訴する、あるいは高裁へ控訴しても敗訴の可能性が高い場合には、バックペイが和解なり解決をするインセンティブになっていることになります。何らかの形でバックペイに上限を設定するというのは、現在有効に機能している労働審判なり、本訴なりの調停だとか和解の解決に極めて影響を与えるということになります。バックペイは、使用者側が早期に解決するインセンティブになっているということは、理論的には見ておかなければいけないだろうと思っています。

 こうした観点から、7ページにあるA案、B案を見ると、A案の場合にはパックペイは別だということになるのですが、理論的に見ると解消金を一定の基準で払えば労働契約を終了するわけですから、バックペイはそこで終了になり、ある意味ではバックペイに上限をかけることと同じことになります。よって、私はA案というのは現実的ではなく、B案の中で、解消金としてバックペイ分全額を含むというのが基本になるはずだと考えます。A案の場合には、要するに労働契約は解消金を使用者が払ってしまえば、その時点でバックペイを支払わなくて済むということになってしまうので、先ほど言ったバックペイのインセンティブということをなくしてしまうことになり、私は選択肢として適切ではないと思っています。A案を取った場合には、解消金だけを払ってバックペイを払わなくても労働契約を終了するというメリットを使用者に与える必要はないのではないかということになり、制度設計としては、B案でないとおかしいのではないかと思っています。

 もう1点は、鶴先生がおっしゃった「簡単でわかりやすい制度」ということになると、資料6ページ記載の形成権構成か請求権構成かは別として、一旦金銭を請求してしまったらもはや撤回し得なくなります。私は、請求権構成は十分あり得ると思っていたのですが、垣内先生のご指摘を踏まえると、請求権構成であっても同じ問題が出てくることになり、裁判外の行使をすることもできることになりますから、撤回できないというのは実態には全く合わないのではないかと思うところです。

 その意味では、前回と繰り返しになりますけれども、解雇された労働者は、転職するのかどうか、転職先があるのかどうなのか、転職先として良いところが結局見つからなかった、期待して転職活動をしたけれどもだめだった、45歳・50歳といった年齢の場合にはもとの職場に戻って働くしかないということをさんざん悩まれた結果、裁判の提訴に踏み切っているわけです。こうした現状を踏まえると、制度の柔軟性を確保できないことになれば、形成権であろうと、請求権であろうと、制度的にも問題になってくるだろうと思います。

 特に裁判外行使をする場合、例えば裁判外行使をして、使用者が解雇は違法、無効だと思って一定のお金を払った、それで終了したつもりだと思っていたケースが問題となります。基準金額について、今後、上限、下限を入れるかどうかわかりませんけれども、法律が想定していた基準額より少ないとか少なくないということでまた別途争いが起こることが想定されます。結果としてこうした複雑な制度になってしまうことを、議論の際には念頭に置かなければいけません。また、鶴先生がおっしゃっている「簡単でわかりやすい制度」ということになると、金銭請求をした労働者はもはや地位確認請求などをしても職場に戻れない形での制度設計をするしかわかりやすくならないものですから、そうなると、今私が言った実態の労働者の保護に欠けることになってしまうのではないかと危惧をしているところです

 以上です。

○荒木座長 輪島委員。

○輪島委員 ありがとうございます。

 少し議論が戻ってしまって恐縮でございますけれども、先ほど八代先生がおっしゃった点は私どももそのように思っておりまして、むしろさらに心配をしています。労働審判制度は、現状では非常にうまく活用されている仕組みだと評価をすることができるのだろうと思っている。事務局は新しい制度をつくると、むしろ裁判が多発をするとか、非常に予期しないことが起こるのではないか。それは水口先生もずっとこの間、御意見の中でおっしゃっておられたと思います。整合性がとれるというよりは、予期しないハレーションが起きるのではないかということを非常に心配をしているというのが1点目でございます。

 2点目は、土田先生が先ほどおっしゃった点で、解雇無効時における金銭救済制度において、あらかじめ労使協定または労働協約で、労使がその先でどういうふうになるのかということを事前に決めておく準備という意味で、協定ないし協約ができるものなのだろうかと疑問に思うところです。以上です。

○大竹委員 まず、6ページの一番下の取り下げ云々というところの下2行ですけれども、権利行使を裁判上での請求に限るとなると、八代委員、輪島委員がおっしゃった労働審判制度への影響がかなり大きくなってくると思うのです。ですから、鶴委員はわかりやすいという意味では裁判上での請求に絞るべきだという議論なのですけれども、これに絞るのはやり過ぎだろうと私は思っています。例えば、一旦書面などの一定の形式による請求をすれば取り下げできない形にするというのは一つの案で、そうでないと、労働審判制に対する影響が大きくなり過ぎて、労働審判から裁判にかなりの人が移行してしまう可能性を心配します。

 7ページ目のA案かB案かということについては、金額的には余り違わないと思いますけれども、別途請求する事務的な問題等を含めると、B案のほうが労働審判に近い制度ということに加えて、1回で手続が済むという意味では簡単だということだと私も思います。

 9ページ目の議論で、B案の場合にバックペイ分の上限、下限の設定の仕方というところですが、これも難しいところがあります。私たちが昨年労働審判制のデータを分析したときは、平均的にいうと下限は5.5カ月、6カ月ぐらいで、勤続年数に応じて30%ずつふえていくというのが全体の場合の結果でした。ただその場合は解雇が心証上有効に近い場合も含まれていますから、解雇が無効である可能性が高いものが多いと私たちが判断する推定では、最低が9.6カ月、勤続年数ごとに0.8掛けで増えていくという推定結果でした。それはバックペイ分も含んでいますから、例えば労働審判は2~3カ月で大体終わりますから、2~3カ月分がバックペイ分である。そうすると、最低限9.6カ月というのは6カ月分ぐらいに相当するのではないか。上限は勤続年数に応じて違ってきているのではないか。上限をつくるかどうかは別にして、相場としてはそのぐらいで考えられるのではないかなというのが、推定結果はまだ不完全かもしれないですけれども、昨年の結果を考えるとその程度の水準ではないかと思います。

 以上です。

○荒木座長 ほかにはいかがですか。

 村上委員。

○村上委員 今、資料No.1についてさまざまな御議論がありました。まず1ページについて「1全体像」とありますけれども、私は「解雇された労働者の保護を図る観点から、労働者の選択肢を増やす方向とすること」についてどう考えるかということについては、これまでも申し上げてきましたけれども、基本的には新たな制度は不要であるという立場で議論に参加してきております。

 今までの議論も聞いていても、これは誰のための、何のための制度かということが明らかではありません。また、労働者としてはこういった制度を基本的には求めていないと思っておりまして、基本的には新たな制度は不要という立場です。

 ただ、こうした立場ではありますけれども、この間、具体的にどのような制度が考えられるのかということで、事務局より例1から例3、そして使用者申立まで出されてまいりましたので、それについて疑問点などを提示してきました。その多くはこの資料No.1に記載はされてきているのですが、まだ御記載いただいていない点がございますので、その点について何点か申し上げたいと思います。

 資料5ページの例3のところで論点2がございます。細かい中身は6ページにもございますけれども、解雇があって、労働者が金銭救済を請求する場面について、労働者側からの撤回の問題しか書かれておりませんが、労働者が主張する解雇無効事由に該当する事実に関して、例えば仕事上のミスを理由に解雇された場合に、同じようなミスをしたほかの労働者は解雇されていないことや、ミスに対する指導や注意もなく、突然解雇を通告したなどの事実を主張して、使用者がその事実の存在を認める自白を行った場合について、使用者は解雇の意思表示が無効であって、解雇の効力は生じていないことを認めて、労働者が労働契約上の権利を有する地位にあることを認めた上で、使用者が労働者に対して労務提供を求めた場合に、2つの疑問がございます。

 1点目が、労働者が行った金銭救済請求の意思表示は、効力を有し続けて、労働者は使用者に対して金銭救済を求め続けることができるのかどうかということです。また、その場合、使用者が金銭支払いを拒否して、労働者に労務提供を求めて、労働者が労務提供を拒んだ場合、使用者は労働者の労務提供の拒否を理由にして、その次の解雇の意思表示を行うことが可能になるのかどうかということです。もしできないのであれば、その法的根拠は何なのかということについても、論点としてぜひ記載をいただきたいと考えております。

 2点目は、5ページの論点3にある「使用者が金銭を支払」というところでございますが、この点についても記載を御検討いただきたいと思います。使用者が金銭の支払いを拒否した場合、労働契約が終了せず、労働者は使用者に対して、労働契約上の労働者としての権利を有する地位の確認及び賃金支払い請求は可能であると解されるけれども、それでよいのかどうかということです。この地位確認請求や賃金支払い請求訴訟の提起後に使用者が金銭を支払った場合、労働契約は終了するのかどうかという点についても論点だと思いますので、ぜひ記載をいただきたいと思います。

○中山委員 私は、既に実体法に権利を創設する仕組みについては反対ということで申し上げましたが、この点をもう一つ実務的に補足しておきます。この実体法の権利というのは金銭請求で、裁判外でも行使できるということですけれども、解雇が濫用で無効になる場合が前提ですから、条件つき権利です。ところが、裁判実務でも解雇が濫用かどうかの判断というのは極めて難しいし、裁判所ではシビアな事実認定も必要ですし慎重になされております。裁判所の1審で濫用、2審で濫用ではないというケースやその逆も多々あります。これを裁判外の簡易な機関でやるといっても、解雇濫用という前提の条件成就があるのかどうかというのはきちんと判断していかなくてはいけない。そうなってくると、実務上、そんなシビアな事実認定も含めた濫用に関する判断を裁判所以外で適切に行うことは困難であると思っております。これは補足です。

 次に、先ほど来、バックペイの話は資料No.1の7ページの論点3でA案、B案ということで出ておりまして、バックペイありきという前提で議論が進んでいるので、この点について私のほうでも申し上げたい。バックペイはA案、B案いずれもあるということで、B案は契約解消の要件として解消金とともにバックペイの支払いも一緒に要件化する。A案は契約解消の要件は解消金支払だけで、バックペイは別だということですが、いずれにしろ解雇の紛争の際に金銭解決を考える場合に、バックペイありきという図になっているのです。ですけれども、バックペイというのは契約解消時点までの未払賃金ですから、A案、B案いずれでも、例えば1審判決後控訴になってバックペイが増える、あるいは労働者の金銭請求が遅いからバックペイ額が増額になるということもある。これでは金銭的な予見可能性がない。水口先生は先ほどそういう労働者はいないのだということですが、制度のたてつけとして、そういう人が絶対にいないなら心配する必要はありませんけれども、現実にいろいろなケースがあり得るので、したがって、制度のたてつけとして、それは普通ないから考える必要はないというのは相入れないところです。

 もう一つは、解雇の金銭解決制度自体の考え方なのですが、バックペイをA案、B案で考えるというのは、要するに、無効な解雇の法的な金銭清算もするということでしょう。そのうえで、さらに契約解消のためにどのぐらいのお金を乗っけて契約を解消させようかということですから、無効な解雇の法的な金銭清算を大前提とする考え方です。けれども、私はそういう考え方に異論があります。典型的な例でいくと、勤務態度が問題だといって解雇されたような場合です。解雇が濫用か否か、裁判所として微妙だけれども無効だと判断したときでも、実際には労使の信頼関係が回復しがたい事情がある、使用者だけに責任を帰すべきものとも言えないという事案です。このような場合、事案の実情に応じて一定の金銭で契約を解消させるという考え方をとるのであれば、基本的にはバックペイは考えないで、契約の解消金一本で考えるという考え方も十分あるはずです。A案、B案いずれもそうはなっていないのですが、資料No.1の7ページのところにある解雇時まで契約終了時点がさかのぼるということであればバックペイは発生しないし、予見可能性という点も明確となる。バックペイは当然だという考え方自体はむしろ解雇の金銭解決制度を設けようという趣旨、考え方からすると、私はどうもちょっと違うのではなかろうかと思います。

 したがって、バックペイではなくて契約の解消金一本で考えて、もちろん各事案でバックペイも相当考慮すべきというのであれば、あくまで考慮要素としてバックペイの部分を考えて、解消金として幾らにすべきかを検討するのだろうと考えます。解消金の上限、下限につきましても、いろいろなケースはありますけれども、解消金と別にバックペイもありきの形では上限下限の意味をなさない。バックペイが基本はないということで、解消金一本で上限を設けるか下限を設けるかということで考えるべきではないかと思っております。

 先ほどのヨーロッパの制度というのが出ましたけれども、ヨーロッパの制度はもちろん日本の制度とは違うわけですが、いただいた参考資料2の35ページに「補償金の算定方法」というものが出ておりますが、バックペイというものを考慮しないで算定しているケースがドイツは典型だと思いますが、ほかの国でもあろうかと思いますし、決してバックペイありきが古今東西当然だということではないと思いますので、その点も考慮すべきだと思います。したがって、八代委員が先ほど労働審判の関係でバックペイを入れるべきではない、入れるのは適切ではないという御趣旨の発言をいただきましたけれども、私も結論的にはそういうふうに考えるところであります。

 以上です。

○荒木座長 石井委員。

○石井委員 石井でございます。

 実体的に権利を創設する仕組みという点については、新しい雇用終了の制度をつくる以上は、実体法上、新しいものをゼロからつくらなければならないと思いますので、その意味では賛成だと考えております。

 ただ、権利行使については細かい議論も出てまいりましたけれども、権利関係を不安定にする撤回の場合はどうするのかということもありますので、やはり裁判上で権利行使する必要があるということで設計すべきではないかと思います。それが今ある制度、労働審判を崩さないためにも必要なのではないか。裁判外で請求できることになりますと、それこそテレビで法律事務所がコマーシャルをしていますけれども、何かありましたら夜間でもどうぞお電話くださいということで、解雇されたときにはどうぞ、こちらへという話になって、金銭の水準にもよると思いますけれども、雪崩を打ってそちらのほうへ行くこともあり得るところかと思いますので、混乱を生じるのではないか。まずは慎重な権利行使ができるようにということを考えたほうがいいかなと思っています。

 バックペイについて、どちらのインセンティブになるかという議論も同じく、今までの制度であれば早期解決を何よりと考えていますということでしたけれども、新しい制度ができたことでどういう影響があるかわかりませんので、今ある労働審判における解決金額を一つの基準にして制度設計するのが、無難という言い方は変ですが、弊害は少ないのではないかなと思います。

 以上です。

○土田委員 石井委員と中山委員に質問ですけれども、石井委員はB案に賛成だということですか。

○石井委員 そこまで言っておりませんでしたが、バックペイ分も含む、ただし上限があることが必要だろう。長引けば長引くほど積み上がるというものでは、うまく機能しないだろうと思います。

○土田委員 労働審判に近づけるというのはそういう意味ですか、B案がベターだと。

○石井委員 そうです。ただ、期間が短いせいもありますけれども、感覚的に実態として労働審判でバックペイがめいっぱい入っているわけではないと思っているので、それを前提とすべきかと思います。

○土田委員 中山委員に伺いたい。

 先ほど、A案、B案もバックペイありきだとおっしゃいましたが、A案は違うのではないですか。A案というのは、解消金は解消対応部分だけに限定して、別途請求は可能だけれども、バックペイには何らさわりませんよということです。

○中山委員 A案ではバックペイは、別に請求ということですけれども、先ほど来の議論だと、いつ契約が解消するかというので、A案でもそうですが、解消金支払い時に契約が終了する前提の図になっていますから、支払い時となると、これは訴訟で最終的に判決が確定して実際に解消金を払ったところまでバックペイが発生するということになる。A案もこの点で予見可能性の乏しいバックペイありきという仕組みであり、私は認めるべきではないという意味です。

○土田委員 わかりました。

 その上で、B案とA案を比べたら、理論的に考えるとA案のほうがすっきりしていると思うのです。しかしながら、実体法に権利を創設して迅速に解決するという立法政策として考えた場合には、9ページの〈論点3のB案の場合〉の左側、解消対応部分については上限を設ける可能性があるけれども、バックペイ分については設けないという選択肢もあると思うのです。この場合、7ページのA案かB案かというのは一つ政策判断が入ると思うのですけれども、労働者に救済の選択肢を多様化して、かつ、迅速に解決し、わかりやすい解決にするという観点を踏まえると、先ほども言いましたが、B案があり得ると思います。皆さんの意見をよく伺っているとB案を支持する意見も多いという気がしました。

 その際に、先ほど考慮要素のことを言いましたが、例えば将来得られた分の補償であるとかサンクションということになってきて、しかも、先ほども言いましたように、参考とすべき指標が早期退職優遇制度だということになると、B案は相当高額になると思います。そうすると、使用者側からすると何だということがあるかと思うのです。

 ただ、問題を考える原点、出発点としては、6ページをもう一度見ていただくと、要はここで問題となる金銭解決制度というのは要件2があるのです。この制度は、不当解雇であって、しかし、地位確認はせずに金銭で解決を求めることを前提とする制度ですから、例えば和解とかあっせん、労働審判で、必ずしも白か黒かがはっきりしないという前提ではなくて、解雇に理由がないことを前提にして、かつ、金銭解決を認めるものです。ですから、ある程度考慮要素の中に先ほどのサンクションであるとか将来分のものが入ってきて、かつ、相対的に相場が上がっていくのは当然の話だろうという気はします。

 ついでに、先ほどから御質問があったもので、例えば八代先生から言われた将来分を考えると、将来ずっと勤続できたことを前提とするような額になるのかということの御質問かと思いますけれども、それはそうではなくて、上限を仮に設けるとすると、考慮要素の中に具体的には再就職に要する期間等々が入ってきますから、未来永劫にそれを補填するわけではない。

 それから、労働協約でどう定めるのかと輪島委員からの御質問ですけれども、むしろ私のほうが質問したいのですが、労働協約で労使がうちの会社では水準をこう設定するのだという制度設計をすることは可能ではないのですか。できると思うのですけれども、それを前提に言ったのですが、仮にそういうことができるとしたら、それは裁判所を拘束する制度設計にしてもいいのではないかと考えています。

 最後に、10ページの「7 時間的予見可能性を高めるための方策」のところですが、これはそもそも先ほどの迅速性という制度趣旨を考えれば、例えば参考に挙げられている中では、賃金の2年間に合わせて制度を設計することが考えられるのではないかと思います。

 以上です。

○荒木座長 高村委員。

○高村委員 ありがとうございます。

 私は、依然として新しい制度の導入の必要はないという基本的な考え方は変わらないのですが、議論をお聞きする中で率直な疑問を持っているところがあります。仮に金銭の支払いの判決が出たときに、訴訟を起こした労働者は請求していた金額よりも下回る金額だった場合です。不満だ、不服だとしたときに控訴や上告ができるのかどうか。もし控訴や上告ができるとすると、最終的な判決が確定するまでの間、雇用関係は継続していると理解をしてよろしいのかどうか。その辺がはっきりしないものですから、お伺いをしたいと思いまして発言させていただきました。

○荒木座長 あわせて、長谷川委員に御発言いただきましょうか。

○長谷川委員 私、土田先生に何点か教えてほしいのですが、事前の集団的な労使合意によって解決金の額の基準を定めることもいいのではないかというお話で、先生は労働協約だったらどうかとおっしゃいました。労使協定と労働協約は異なるので、労働協約となると労働組合との関係になりますが、その場合、労働組合があるところは、労働協約の中に解雇というときにどういう書き方で記載することになるのでしょうか。それがまず1つ教えていただきたい点です。

 2点目は、先ほど、土田先生が労働審判のことをおっしゃっていましたが、労働審判は基本的には審判法で、権利義務関係を踏まえて調停を試みつつ、調停ができなかったときは審判を決するということなので、基本的には解雇が有効か無効かということを踏まえてやるのだと思うのです。その点で、ほかのADRと違うのではないかと思うのですけれども、どうなのでしょうか。

 3つ目は、これは事務局にお尋ねすべき点なのだと思うのですけれども、6ページの「1 対象となる解雇」の最後のところに「労働者申立においては、このような禁止されている解雇についても、労働者保護の観点から対象とすることについてどう考えるか」とありますが、労働者保護の観点と言えるのかどうかというのは、私自身、まだ分かりません。したがって、どうして、この部分をもって労働者保護と言い切れるのかなと思い、質問しました。

 最後に、労働契約法という新しい法律をつくるときにもいろいろな意見がありました。労働契約法の場合には、判例が確定していて、それが広く行き渡っており、安定しているものを法律化していきましょうということで、ある意味では非常に慎重に扱いながら、労働契約法ができました。

 今回、解雇の金銭解決というのは、そのような判例があるわけでもないですし、裁判例があるわけでもなくて、そのような中で、本当に新しい権利を創設するわけですけれども、検討会の中で議論していて、実体法をつくるというのはやはり難しいのだなというのを率直に思っています。

 そのような意味では、いろいろな方から意見が出されておりますので、私もそれをいろいろ自分なりに検討しています。検討すればするほど、新しい権利をつくるというのは難しくて、冒頭から「労働者保護」と書かれているのですが、私は何回も議論してきましたけれども、実体法につける新しい権利が本当に労働者保護になるのかどうかというのは、私はまだ自分でイメージできないでおります。新しい制度ですから、判例などもない中で、委員からいろいろな意見を出しながら議論しているわけですけれども、なかなか難しい課題だなと感じていることを率直に申し上げたいと思います。

○荒木座長 中山委員。

○中山委員 中山です。

 先ほど、土田委員のほうで解雇無効は不当解雇なのだからということでお話がありましたので、私のほうでつけ加えたいのですが、要するに、解雇が無効でも損害賠償請求はまた別だということで、確かに解雇無効という意味を不当といえば不当な解雇なのですけれども、これは不法行為になるわけではないというのが一つです。仮にバックペイを支払い時まで全部認めることになると、無効な解雇の現在の法的な結末の法的清算に準じてバックペイという清算金をつけるという処理方法です。もともと労使の信頼関係が維持できない、労働者にも結構問題があるという場合もあるのですから、そういう実情に応じて適切な金銭解決を考えるという制度と考えれば、これと別に解雇無効の場合のバックペイの金額もそのまま加算されるというのは、どうも解雇の金銭解決制度を設ける目的とか趣旨からすると私どもは理解できない。端的に言えば解雇時にさかのぼって、バックペイは発生しないというのが一番複雑でないし、簡素な制度になると思っていますし、解消金の中にサンクションだとか慰謝料的要素が含まれるということについても、不法行為を伴う違法な解雇と、そうではない解雇権の濫用解雇があって、基本的には後者のそうではない解雇を前提に制度をたてつけるということですから、解消金の中に慰謝料とかサンクション的なものは私は入れるべきではないと考えます。

 以上です。

○荒木座長 土田委員に対する質問がありましたけれども、関係しますか。

 先に土田委員からお答えいただいて、水口委員、おくれて来られた岡野委員からも、何か御意見があれば後ほどお聞きしたいと思っておりますのでお願いします。

○土田委員 先ほどの労働協約の件ですけれども、私がイメージしているのは、ある企業で団体交渉して労働協約を締結する。解雇する際には下限としてこれだけ、上限としてこれだけという金額を決めるとします。それが裁判所を拘束するということの意味は、仮に金銭解決制度で解消金の上限と下限を設けた場合に、その法定基準に対して協約基準が優先するという効力を持たせる。なおかつ、協約の今の額については規範的効力を持たせる。したがって、強行法規的な意味を持ちますから、仮に労働者が個別契約で協約上の下限を下回る額に応じたら無効になる。上限を下回る額を個別契約で合意しても無効になる。協約の上限を上回る個別契約はどうするかというと、これは有利原則で労働組合が認めればオーケーだという趣旨です。労働審判とADRの違いについても、もちろん認識はしています。

 次に、中山委員の今の指摘ですけれども、例えば解消金にサンクションであるとか慰謝料的なものも含めると、先ほど長谷川委員が労働者保護になるのかならないのかとおっしゃったけれども、この制度を先ほどから私が言っているような考慮要素を含めた趣旨で設計し、かつ、早期退職制度などを参考にする場合は、バックペイがあり、かつ、それとは別に相当相場の高い金銭解決ができる。地位確認を望まない労働者にとっては、リセットする際のサポートとしては私は相当大きいと思いますよ。

 ですから、どういう形で労働者保護になるのか、誰に向けた制度なのかということに関して、私がイメージしているのは、労働者の選択肢を増やすという制度設計で、具体的には、9ページのB案の左側のものです。この制度設計ですと、まさしく労働者保護にかなうものだと思います。

 かといって、中山委員が何度もおっしゃっているようなことに対して私も何度も言っていますが、解雇にもいろいろあるわけで、その際に解雇の不当性というのも考慮要素に入ってくると、必ずしもどんどんどんどん青天井になる、100%労働者が有利になるわけでもないので、そこは考慮要素に入れることで対処できないかと思っています。

○荒木座長 水口委員。

○水口委員 先ほど、土田委員がB案に賛成の人が多いというまとめ方をされて、もしかしたらその中に私も入っているのかなと思い、発言しました。私は、A案が適切ではないということで、それB案を申し上げたまでです。結論的に言えば、仮にB案でバックペイが全部入ったとしても、裁判外でも権利行使できるような金銭請求権というのは非常に不安定になって、仮にバックペイを上限に入れるという話になってくると、労働審判に対する影響が多いと考えます。金銭解決請求訴訟、本案訴訟に雪崩を打って提訴行動をとるということについて、私も輪島委員や石井委員と同じ予想をしています。その点だけが申し上げたかったことです。

○荒木座長 長谷川委員の質問の中には、6ページの1の2つ目の○で、禁止されている解雇の場合に、労働者保護の観点から対象とすることをどう考えるか、なぜこれは労働者保護なのかという質問がございましたけれども、諸外国の例を申しますとヨーロッパの国では金銭解決が原則となっている国が少なくない。しかし、そのような国でも、差別的な解雇については無効となって復職できるというのが一般です。つまり、差別的な解雇が無効となって復職できるという状況で、労働者があんなところには復職したくないと金銭解決を望む場合には、金銭解決が可能となっているというのがヨーロッパでは一般的です。そういう場合に、労働者が望む解決をできるようにしたほうがいいのではないかというのが6ページの「労働者保護の観点から」という趣旨ではないかと理解しています。

 斗内委員。

○斗内委員 ありがとうございます。

 この間の御議論を伺っていますと、「解雇無効時」というものが、労使で争いのあるものなのだろうと思っております。その観点からは、例えば資料の6ページにありましたように、「2 労働者が金銭の支払を請求する権利」 のところでどう判断をするのかということに始まると思いますし、先ほど御議論がありましたように、ハラスメントのところは別なのだというと、それはそれで別に請求権ができてくるのかということにもつながります。そうすると、先ほどから御議論がある解消金というのはどこまでの範疇のものを指すものなのか、解消金の定義づけも必要なのではないかなと考えながら、議論をお伺いさせていただいておりました。

 労働者保護という観点からしますと、もともとの解雇無効の争いごとがある中での話ではなく、例えば資料No.2の4ページにもありますように、海外では、例えばドイツなら勤続年数が長くなるごとに、いわゆる解雇予告期間が延びていきます。日本は勤続年数が伸びても変わらず30日ですので、むしろ労働者保護ということを目的にするのであれば、このような解雇予告期間を勤続年数に応じて延ばすという手だても十分考えられるのではないかということで発言をさせていただきました。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、技術的な観点に関係なくても結構ですけれども、岡野委員からいかがでしょうか。

○岡野委員 経済同友会の岡野と申します。

 法律的なお話が多かったので、なかなか口を挟めないというか申しわけなかったのですが、私どもも経済同友会として、今この問題について意見書をまとめておりまして、近々何らかの形で発表したいと思っておるのですが、そこの問題意識だけをきょうは確認をしたいと思って発言をさせていただくのです。

 そもそも論として、現在の日本の裁判制度の中で、解雇が有効か無効かを地位確認訴訟で判断はされるのですが、もし働いている方が職場復帰を望まない場合、ほかの手段が裁判上ないのではないかというところから我々の問題意識は出てきているわけです。職場復帰以外の手段がないことに対して、金銭を支払うような仕組みの解決の仕方があるのではないかということがもともとの発端であったわけです。

 ここの議論の場でも多少議論があったと思いますけれども、例えば労働組合等の支援が受けにくい中小企業の働き手の方にとっては、なかなか解決金が得られずにやめていっているような現状もあるとすれば、何らかの金銭解決の仕組みがあるべきではないかというのは、もともと私どもの問題意識ですし、議論の最中にもあったと思いますが、労働審判とかあっせんは非常に利用されているし、大変いい仕組みであることは事実なのですが、いわゆる個別事案ごとの判断によるところが大きく、解決金額や解決に要する時間に対して予見可能性が低いがために、紛争を取り扱う機関や手続の内容によって大分内容に差が出ているではないか。

 そういうところも踏まえると、まず解雇が無効とされる場合において、公正かつ客観的な基準に基づき、金銭的な救済を行える制度を構築すること、さらに既存の制度よりも使いやすくて、公平で納得性の高い解決が得られるような制度があればそれに越したことはないということ、これらを通じて、もし法的手段に訴えられる十分な補償もなく、不当解雇される働き手をその手前の段階で、今までの審判やあっせん等でも迅速に救える仕組みの一つの指針にもなるのではないかという仕組みをつくるのが重要だというのが私どもの基本的なスタンスになっています。

 したがいまして、この延長線上に行きますと、何らかの形で金銭の水準は決めたほうがいいという結論になるのですが、私どもで議論をしているのですが、バックペイの議論がここでも非常に行き来していまして、そこの詰めが同友会の中でも詰まっていないものですから、その水準をどのぐらいまでと結論を出すにはもう少し時間がかかると思いますし、私個人の意見をここで申し上げるわけにはいかないので、ただ、何らかの水準はつくるべきだ、それは上限も含めてということを議論はさせていただいております。

 この論点の中でいくと、使用者による申し立てなのですけれども、原則はあくまでも解雇が権利濫用に当たるということで判断をされるわけですから、働き手の申し立てが原則であることは間違いないのですが、労使の信頼関係が著しく破綻しているような場合に、使用者側も例外的に申し立てをする権利を認めることも検討してもいいのではないかということも一つの論点にはさせていただいております。この辺については、破綻というのは何なのかとか、誹謗中傷合戦みたいなものが現実的にはあると思うのですが、もともとこれはあくまでも職場復帰をしない働き手を前提にしているわけですから、そういうときに使用者側からの申し立てもあってもいいのかもしれないという議論も多少させていただいているところが現状になっています。

○荒木座長 ありがとうございました。

 小林治彦委員。

○小林(治)委員 日本商工会議所の小林でございます。

 私も法律的な議論がわからなかった部分もありまして、総論として、商工会議所の考えている現状につきましてお話しさせていただきたいと思います。

 解雇無効時における金銭救済制度を設けることについては、議論すべき論点が多々あることがわかったということです。ただし、議論のスタートを振り返りますと、2015年3月の規制改革会議の提言におきましては、あくまで労働者からの申し立てというのが前提になっておりましたので、岡野委員も言いましたように、職場に復帰するか、復帰しないで金銭補償を受けるかを労働者自身の選択肢として増えることについては、労働者にとってもプラスになるのではないかということで考えてきました。

 商工会議所の会頭として三村会頭がいつも言っているのは、解雇に関するルールが明確化され、労使双方が納得する早期解決制度が実現することについては、従来から私どもとしては賛同しています。制度について検討すべき論点は多々ありますけれども、専門家の皆さんと協力しながら一つ一つ議論していただければありがたいということであります。

 現状においても、会社側と金銭によって雇用契約を終了することは行われておりますけれども、この制度が導入されたときの懸念事項といたしましては、訴訟が頻発するのではないかということでございます。この制度が導入されたといたしましても、まずは民間のADRや、現在成果を上げております労働審判制度などの既存の紛争解決システムを活用することの順位づけが大切だと思っております。この周知、PRもぜひお願いしていただきたいと思います。

 もう一点でございますけれども、金額の水準というお話も出てきておりますが、金銭的に予見可能性を高めることが大切だと思っております。特に中小企業にとっては支払い余力というものが非常に重要になってくると思いますので、算定根拠を明示する方法には賛同するのですけれども、やはり解雇に至った背景であるとか、労使の責任の度合い、企業の支払い能力など個々の事情もございますので、企業横断的に一律の水準を決めることは難しいのではないかと常に言っております。

 また、時間的予見可能性を高める観点から支払い請求権の一定期間の消滅時効を設けることについては異論ございません。今のところ、私どもで考えているところは以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 村上委員。

○村上委員 時間のない中、申しわけありません。今、消滅時効の話がございましたので1点意見を申し上げておきたいと思います。

 一定期間の消滅時効を設けることについては、現在民法(債権関係)改正関連法案が国会で衆議院を通ったばかりですけれども、そういった議論はある中で、ここだけ取り出して議論をするのはいかがなものかと思っておりますので、全体像の中で議論いただきたいと思っております。

○荒木座長 それでは、この議論はまた次回にも継続することにいたしまして、本日はもう一つ議題がございます。「その他個別労働関係紛争の予防や解決を促進するための方策について」です。

 この論点につきまして、事務局より資料No.2に基づいて説明をお願いします。

○大塚調査官 資料No.2と資料No.3が対になってございます。

 先に資料No.3の検討項目の最後のページをごらんいただきますと、3ページの一番下ですけれども、3のその他というところで書き出しております。書いてある内容は大きく2点です。

 1点目は労働基準法の解雇予告手続に関しまして、紛争の未然防止の観点から何か措置を講ずべきかどうかという点、もう一点目が紛争が起きたときの紛争当事者の費用負担の軽減策については何か考えられるのか。あと、その他に何かございましたらということで、こちらの検討項目に書き出させていただいております。

 これらのファクトに関する資料が資料No.2でございます。資料No.2の2ページ以降は、解雇予告期間に関する資料がしばらく続いております。こちらは我が国におきましては、労働基準法第20条に基づきまして、解雇の際には30日前に使用者が予告することが罰則つきの義務規定となっております。この30日という期間を減らすためには、それに相応する平均賃金の支払いが必要ということになってきまして、いわば即時解雇の場合には30日分の予告手当が必要ということになっております。

 この法的効果なのですけれども、日本の場合には、解雇予告期間を経ない解雇、手当も支払わずに予告手続違反の解雇につきましては、罰則の対象となるわけでございますけれども、民事法とは切り離されておると考えておりまして、解雇予告手続を踏まなかった解雇が直ちに民事上無効になるかというとそうでもなく、また逆もしかりで、解雇予告手続を踏んだ解雇が民事上有効になるかというと、そうではないという関係にございます。

30日になった理由なのですけれども、2ページの一番下のところに書いてございます。寺本廣作さんという方が労働基準法ができたときの厚生省の担当課長でございまして、こちらの著作によりますと、労使双方の団体に対してアンケートをとった結果、1カ月程度前というのが一番多かったことが積極的な理由になっています。消極的な理由としては、60日前に予告するという別案については、正常な労使関係ではなくなる期間が長くなるのでとらなかったということでございます。

 3ページ目は、過去にJILPTが行った調査でございまして、左側は解雇予告期間としてどれだけの期間をとっているのかというデータでございます。データとしてぴょんと飛び出ておりますのは1カ月程度前ということで、これが一番多いことになってございます。

 右側は具体的な解雇予告手続について、何をとったかということでございますけれども、最も多いのは、解雇理由の明示ですとか解雇日の明示ということになってございます。

 4ページ目でございますけれども、これは諸外国との比較でございます。まず予告期間に関しましては、上のほうのドイツなどにございますように、勤続期間に応じて予告期間を延ばす国が幾つかございます。法的効果の部分は右のほうでございますけれども、日本と同じように刑事罰の対象になるのだが、民事法には関係ないというのは例えば韓国などがございますけれども、上のほうだと例えばイギリスなどにおきましては、解雇予告期間を置かなかった解雇に関しまして、その期間分の損害賠償請求ができるとか、あるいはドイツのように、解雇予告期間を置かなかった解雇は無効となるというふうに民事法と絡めている国もございます。

 5ページ以降は、紛争当事者の費用負担の問題に係る資料でございます。5ページはあっせんを初めとする各種紛争解決手続に関して費用がどの程度かかるのかということで、この表の一番右のほうに費用がかかるかどうか、かかるとすれば幾らかが並べておりますので御参照いただければと思います。なお、ここでは東京弁護士会だけを特出ししておりますけれども、地域によりましては無料の法律相談を行っているような弁護士会もございます。

 6ページは、弁護士費用に関する記述でございまして、弁護士費用といたしましては、ここに書いてございますように、着手金とか報酬金、その他いろいろな名目の費用がございます。

 これに関しては、7ページのような報酬規程というものがかつてございまして、こちらは日弁連の報酬規程ですけれども、具体的な報酬の目安が定められていたわけでございます。ところが、こちらの報酬規程に関しましては平成16年4月以降は廃止されたことになってございますので、現在では弁護士等がそれぞれの報酬に関する基準を作成して、事務所に備え置くという取り扱いになってございます。

 8ページは、労働審判に係るものでございますけれども、左側は労使双方の当事者がどれぐらいの割合で弁護士にお願いしたのかというものを示したものでございまして、ともに8割を超えているものでございます。右側は費用負担に関する感覚でございますけれども、上は労働審判にかかる裁判所の費用について高いと思うか、安いと思うか、下が弁護士費用について高いと思うか、安いと思うかでございまして、ここにございますように、裁判所の費用に関しては安いと思われる方のほうが多い一方で、弁護士費用に関しては高いと思われる方のほうが多いということになってございます。

 9ページでございまして、これは外国の例でございますけれども、ドイツとイギリスを例示しておりますが、ドイツにおきましては、訴訟に関する費用ですとかその他もろもろのものを保険商品、単独商品として権利保護保険といった保険商品をつくり出しているといった例でございます。

 下の2番に書いてございますように、ドイツにおきましては、産別労組が無料で労働相談を行ったり、訴訟代理を行ったりという取り組みもしているところでございます。

10ページでございますけれども、こちらは我が国におきまして、今申し上げた権利保護保険的なものをどう考えているのかということでございますけれども、平成13年の司法制度改革審議会の意見書案の抜粋でございます。このページの後段にございますように、「訴訟費用保険の開発・普及に期待する」ということで、民間におきまして、このような保険が開発されて、普及されることに期待するという意見が付されていたところでございます。

11ページは、そういった民間の費用補償保険に関します実態でございますけれども、我が国におきましては、自賠責を中心にこういった保険商品がどちらかというと特約という形で普及してきたところでございますけれども、その次のパラグラフに書いてございますように、最近では民事紛争全般を対象とした単独商品なども開発、普及されつつあるところでございます。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、ただいまの資料No.2について、御質問、御意見等がありましたらお願いいたします。

 高村委員。

○高村委員 費用という問題に限って申しますと、これまでも申し上げたことですが、労働審判あるいは訴訟を含めて弁護士費用というのは、先ほどの事務局の説明でも、やはり労使ともに高いという認識を持っています。ですから、そこが一つのアクセス障害になっていることは明らかであろうと思います。例えば、法テラスでも代理援助という制度があるのですが、昨年発表された法テラス白書の平成27年度版を見ても、実際に1年間に決定された代理援助の件数のうち労働事件というのはわずか2.3%、自己破産ですとか民事再生などの多重債務、あるいは離婚問題が圧倒的に件数を占めて、労働問題での代理援助の決定というのは、物すごく低いのが実態です。むしろ年々1%ずつ下がっているぐらいの状況でして、そうしますと、法テラスの代理援助だけでいいのかという問題が一つあるだろうと思います。

 今、事務局からあった訴訟費用の保険の問題、労働組合を含めて、どこまでこれが普及できるかというのは今の時点では何とも言えませんが、なかなか制度の普及というのは保険制度がどこまで進むか、考え方としては一つあるのでしょうけれども、果たしてこれが今後どこまで有効な手段として発展していくかというのは、まだまだ今の時点では疑問視という感覚を持っております。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 徳住委員。

○徳住委員 まず、解雇予告期間の問題ですけれども、私、使用者側の予告が長くなるのは結構な面もあるかなと思うのですけれども、それとの関連で、労働者の解約期間がどうなるかという問題があります。現在の民法627条の年俸制の場合には、3カ月以上という期間があって、その議論を見ていると、労働側も3カ月以上前に退職することを告げなければいけないという考え方も結構有力に主張されています。こうした問題があるので、ここの場合は双方なのか、片面的なのかということは議論していく必要があります。

 日本の場合は、解雇予告手当という手当の制度があって、短い場合は手当で処理しなければいけません。即日解雇の場合は30日分払わなければいけないという原則があるので、解雇予告期間を見ると、諸外国にない点について、考えていく必要があるのではないかなと思っています。

 権利保障保険の関係では、将来的に我が国でも考えるべき内容を含んでいます。私は日弁連の意見書に賛成なのですけれども、資料No.2の11ページに「企業等を契約者とする団体契約で、団体の構成員が加入する商品など、新たな権利保護保険商品が販売されている」ことを記載されていますけれども、最近この動きが損保を中心に広まっています。大きいところでは、企業側が丸ごと保険を掛けて、例えば離婚だとか損害賠償、金銭請求の事件で権利保険が出ているのですけれども、労使紛争に係った労働者の問題はどうするか、この点は大体オプションにかかっているのです。企業側が自分を相手にしてくる労働者の労使紛争の保険、弁護士費用保険をオプションで掛けるというのは考えられない仕組みになっているので、やはりここは考えどころではないでしょうか。

 労働組合もいろいろ努力されていまして、連合東京と連合神奈川は労働者が労働審判制度を申し立てると、一定の資金援助をする制度を確立しているのです。ですから、労働組合がこういう制度を確立するということは大変重要だと思うのですけれども、これから長い時間をかけて検討すべき課題だと思いますけれども、企業が掛ける権利保険ではなくて、やはりドイツ型の労働組合が掛ける共済的な権利保険というのも、ぜひ労働組合で考えてもらう時期に来ているのではないでしょうか。ドイツなどに行きますと、労働組合が多くの法曹資格者を雇用して、申立書を書くことを全部手伝うなど、申し立ての準備に関与してきているので、そういうことも含めて労働組合の自助努力ですけれども、考えていく時代に入ってきているのではないかと思います。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 小林信委員。

○小林(信)委員 ありがとうございます。中央会の小林でございます。

 解雇の予告期間について延長する話というのは、これは条文に労働現場を考えた上で、検討していく必要があるのかなと感じています。また、労働現場にどういう影響が出てくるのかというのを十分精査しながら検討していっていただければと思います。

 もう一つは保険なのですけれども、労側は多分余り保険はないでしょうが、今、企業側の場合は、総合賠償保険を今それぞれ団体、日商さんも私どももいろいろ考えていまして、製造物責任のPL保険から始め、役員の損害賠償責任保険というのも今パッケージでいろいろな保険が売られています。今後、労働争議のものについて加えていくかどうか。現状では労働争議に関係する保険は多分そんなにないと思うのですけれども、声が上がっていない部分が多分あるのだと思います。

 今までの議論を先ほどの資料No.1で申し上げれば、労働関係の裁判案件がふえることは決して企業側も望んでいません。長くなればなるほど、弁護士費用がかかる形になるので、それは先ほど日商の小林委員が言っていましたけれども、今までの労働審判制度が有効に機能しているので、どちらかというとそれに持っていっていただきたいということもありますし、新たな金銭の解決の制度ができれば、またそちらのほうに労働審判から裁判のほうに流れることになれば、対策を講じなければならないことが出てくるのでしょうけれども、現状のところでは、余り裁判関係の案件がないことで、保険制度もまだそれだけのニーズが出ていないような状況にあることだけは報告しておきます。

 以上です。

○土田委員 今の小林委員の御発言、それから1つ目の議題の幾つかの御発言について意見を述べたいのですが、まず岡野委員から御紹介いただいた同友会の問題意識というのは私は全く共有していまして、いい見解をお聞かせいただいたと思っています。つまり、現行の裁判制度では地位確認訴訟しかないところで、別の救済を望んでいる労働者に対して法制度を提供することに意味があるのではないかということです。

 その観点から言いますと、金銭解消制度を作ると、労働審判から流れるのではないか、労働審判に影響があるではないかという御意見がありますが、そもそもそれのどこがいけないのかという気がします。つまり、21世紀に入って出てきた潮流の「法の支配」という観点から見れば、例えば本訴事件で解雇の新たな制度を設けて、救済を多様化させるというのは妥当な方向性だと思います。また、確かに労働契約法は、先ほど長谷川委員がおっしゃったように、判例法理があって、それを立法化したものですが、さらに判例を先取りして、法によって救済制度を多様化することも「法の支配」の一つの役割なので、そういう観点からすると、この制度については余り消極的に考える必要はないのではないかと思います。ただし、法の安定的運用という観点からすると、裁判外における行使は認めないほうがいいのではないかという御意見はそれなりに納得するところです。

 他方、最後に岡野委員に申し上げますが、使用者申し立てはもう諦めてはいかがでしょうか。例えばもし設けるとしたら、上限は設けず、定年までの雇用で全額を支給するといった話になりかねません。

○長谷川委員 私自身、何も今現在の制度が全部いいと思っているわけではなくて、時代に要請されたものがあれば、新しい制度を作ることは必要だと思っています。しかし、今回の新しい権利を創設する、実体法につくるというのはなかなか難しいなと思っているということでありまして、そのところは皆さんも同じなのだと思います。

 そういう意味では、様々な論点というものが多数浮き彫りになったことが、この検討会の特徴なのではないかなと思います。最終的にはトータルで見て、どう判断するかというのが求められてくるのではないでしょうか。私自身は、制度創設に消極派ではございませんけれども、解雇の金銭解決について、手続法でやったほうがいいのか、実体法でやったほうがいいのか、この時期につくったほうがいいのかというのは、もう少し議論経過等を見極めなければわからないのではないかなと思っています。

 例えば、八代先生がよく、「気の毒な中小企業の人たち」とおっしゃいます。そういう意味では、解雇されたときの労働審判だろうが、通常訴訟だろうが、そのような申立をしたり、訴訟を起こした場合には、やはり費用の問題というのは非常に重要なわけです。使用者のほうは最近損保会社がいろいろな保険をつくっていまして、そういう保険に加入する動きも出てきましたけれども、労働者の方はまだそういうものがなくて、今あるのは法律扶助制度だけなのです。

 先ほど言われたように、法律扶助制度は、労働事件ではさほど使われておりません。やはり弁護士費用が出ないからといって、法律扶助制度を使おうという流れにはなっていませんし、法律扶助制度自体がなかなか厳しいので労働事件まで回ってこないというのが現状だと思うのです。八代先生が言うように、労働審判とか通常訴訟の中で労働者を救済することであれば、そういうものを強めるとすれば訴訟費用の問題はとても重要な問題です。法律扶助制度がありますけれども、こうした援助をどうするかというのはもっと別の仕組みが考えられるのかどうかについても検討する必要があります。それは企業に対する保険ではなくて、個人の労働者に対してどういうものをつくるのかというのは、これからの検討課題ではないかなと思っています。

 労働組合も一部の先進的なところはやっていますけれども、それは47都道府県のうちでたった2カ所でありまして、なかなか個人に支援するところではまだうまく機能していません。厚労省も今回の資料の中に検討事項として記載したのですから、どういうことが厚労省としてもフォローできるかというのはぜひ検討してほしいと思います。私自身ももう少しこの問題を考えたいと思います。

 今のところ、労働審判はボランティアでやっている弁護士がいまして、手弁当のため赤字だと言われていますので、訴訟費用の問題というのは非常に重要な問題です。私はこの検討会の中でこの課題が議論できたことは非常によかったのではないかと思っています。

○村上委員 資料No.3の3ページの一番下のところに記載のある、「その他、個別労働関係紛争の予防や解決を促進するために何らかの方策が考えられるか」というところでございます。この点は、これまでの検討会でも高村委員などが発言してきたところでありますけれども、紛争の未然防止という観点からは使用者も労働者も双方、とりわけ使用者の皆さんが基本的なルールをまず知ることが必要ではないかと考えております。

 以上です。

○荒木座長 それでは、時間になりましたので、きょうはここまでにしたいと思います。

 本日、幾つかの論点についてはさらに検討すべき点が残されたように思いますので、次回までに各論点に係る議論が一巡するようにやっていきたいと思っています。事務局には、次回の議論を深めるべく資料も用意していただきたいと考えております。

 では、次回の日程について、事務局からお願いします。

○大塚調査官 次回の日程でございますけれども、現在は調整中でございますので決まり次第、場所とともに追って御連絡いたします

 以上です。

○荒木座長 それでは、本日の検討会は以上といたします。どうもありがとうございました。


(了)

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