ビジネスと人権~責任あるグローバル・サプライチェーンに向けて~

背景

 サプライチェーンにおいて企業に責任ある行動を求める国際的な意識の高まりは、1970年代に遡ります。経済発展における国際的な企業の役割の重要性が認識されていく中、OECDによる「OECD多国籍企業行動指針」(1976年)、ILOによる「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(1977年)が策定され、国連においては、1970年代から多国籍企業の国際的規制に関する議論が行われ、2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、「国連指導原則」という。)が全会一致で支持されました。
 また、国連指導原則の実施を促進すべく、G7の枠組みでも、2015年のG7エルマウ・サミット(ドイツ)において「責任あるサプライチェーン」が初めて首脳宣言に盛り込まれ、グローバル・サプライチェーンを通じて国の単位を超えた労働課題に焦点があてられました。こうした流れを引き継いで、日本がG7議長国を務めた2023年5月、G7広島サミットの首脳コミュニケにおいても、グローバル・サプライチェーン上において、「国際労働基準及び人権、特に国際労働機関(ILO)によって採択された基本条約の尊重を確保すること、また、技術協力によるものを含む、SDGsの目標8に沿ったディーセント・ワークの促進にコミットする。」と合意しました。G7プロセスにおいて、グローバル・サプライチェーンにおける人権やディーセント・ワーク確保の重要性が改めて共有されました。
 我が国では、関係府省庁が協力し、国連指導原則を踏まえ、2020年10月には「『ビジネスと人権』に関する行動計画」が2022年9月には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定されています。
 厚生労働省では、グローバル・サプライチェーン上の人権尊重について、労働行政の政策知見を踏まえ、①これまで実施してきた国内政策手法の活用と、②課題を改善・是正するための国際協力の在り方について検討するため、2023年8月に「国内の労働分野における政策手段を用いた国際課題への対応に関する検討会(ビジネスと人権検討会)」(座長:佐藤博樹東京大学名誉教授)を立ち上げ、同年12月13日に報告書を取りまとめました。
 本ページでは、「ビジネスと人権」を巡る国内外のフレームワークとともに、ビジネスと人権検討会の報告書、同報告書を踏まえた厚生労働省の取組について紹介します。

我が国の取組

「ビジネスと人権」に関する行動計画


2020年、関係府省庁連絡会議において、企業活動における人権尊重の促進を図るため、「ビジネスと人権」に関する行動計画が策定されました。本行動計画においては、「ビジネスと人権」に関して、今後政府が取り組む各種の施策が記載されているほか、企業に対し、人権デュー・ディリジェンスの導入促進への期待が表明されています。

責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン


2022年9月、「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」での議論の結果等を踏まえ、日本政府のガイドラインとして決定しました。国際スタンダードを踏まえ、企業に求められる人権尊重の取組について、企業の事業活動の実態に即して、具体的かつわかりやすく解説し、企業の理解の深化を助け、その取組を促進することを目的として策定したものです。  

責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料(経済産業省資料)

「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」では、経済産業省において、人権尊重の取組内容をより具体的かつ実務的な形で示すための資料を作成することとしており、2023年4月、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」が経済産業省資料として公表されました。
 

 

厚生労働省の取組等

「国内の労働分野における政策手段を用いた国際課題への対応に関する検討会(ビジネスと人権検討会)」(座長:佐藤博樹東京大学名誉教授)(2023年12月13日に報告書を取りまとめ)

 
報告書の概要[557KB]
報告書[2.0MB]

検討会について(検討会開催ページ)

検討会報告書(提言)を踏まえた厚生労働省の取組等の紹介


 

国際的な取組等

国連「ビジネスと人権に関する指導原則」

2011年、国連人権理事会において、全会一致で支持された原則です。ビジネスと人権の関係を、1.人権を保護する国家の義務、2.人権を尊重する企業の責任、3.救済へのアクセスの三つの柱に分類し、人権を保護する国家の義務を再確認するとともに、企業には、その企業活動及びバリューチェーンにおいて人権に関する諸権利を尊重する責任があることを明記し、人権尊重の具体的方法として「人権デュー・ディリジェンス」の実施も規定されました。
 

国際労働機関(ILO)「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」

「ILO多国籍企業宣言」とも呼ばれ、社会政策と包摂的で責任ある持続可能なビジネス慣行に関して、企業(多国籍企業及び国内企業)に直接の指針を示した文書です。

国際労働機関(ILO)労働における基本権利に関する原則/ILO基本条約

労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」(1998年採択、2022年改正)において、全てのILO加盟国は労働者の基本的権利に関する5つの原則(「結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認」、「あらゆる形態の強制労働の撤廃」、「児童労働の実効的な廃止」、「雇用及び職業についての差別の撤廃」及び「安全かつ健康的な作業環境」)を尊重等すべきものとされています。当該5原則を具体化した10のILO条約は、ILO基本条約と呼ばれています。

OECD「多国籍企業行動指針」

1976年にOECDが策定した指針であり、多国籍企業に対して責任ある行動を自主的にとるよう勧告しています。世界経済の発展や企業行動の変化などの実情に合わせて改訂され、直近では2023
年に6回目の改訂が行われました。
「行動指針」の普及、「行動指針」に関する照会処理、問題解決支援のため、各国に「連絡窓口」(NCP: National Contact Point、我が国においては外務省・厚生労働省・経済産業省の三者で構成)が設置されています。

OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針(外務省)

OECD「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」

2018年にOECDが策定したガイダンスであり、「多国籍企業行動指針」を実施するための実務的方法を提示しています。