2023年11月13日 第97回社会保障審議会年金数理部会 議事録

年金局総務課首席年金数理官室

日時

令和5年11月13日 14時00分~16時30分

場所

コモレ四谷タワーコンファレンス RoomF

出席者

(委員)
 翁部会長、野呂部会長代理、小野委員、駒村委員、佐藤委員、庄子委員、寺井委員、枇杷委員、山口委員

(基調講演者)
 石井氏

議題

  1. (1)将来推計人口について
  2. (2)その他

議事

議事内容

○村田首席年金数理官 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第97回「社会保障審議会年金数理部会」を開催させていただきます。
 審議に入ります前に、資料の確認をさせていただきます。
 資料は、議事次第、委員名簿、座席図のほか、
資料「基調講演資料「日本の将来推計人口(令和5年推計)」の推計手法・仮定設定、推計結果とその応用(石井太氏提出資料)」
 参考資料1「基調講演参考資料(石井太氏提出資料)」
 参考資料2「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要(国立社会保障・人口問題研究所)」
 参考資料3「公的年金財政状況報告-令和3(2021)年度-ポイント」
でございます。
 次に、本日の委員の出欠状況について御報告いたします。
 本日は、全委員が御出席されております。
 また、前回の部会開催以降に事務局の異動がございましたので、御紹介いたします。
 審議官の泉でございますが、本日は公務により欠席しております。
 総務課長の小野でございますが、本日は公務により欠席しております。
 年金数理官の榎でございます。

○榎年金数理官 榎でございます。よろしくお願いいたします。

○村田首席年金数理官 それでは、以降の進行につきましては、翁部会長にお願いいたします。

○翁部会長 委員の皆様には、御多忙の折、お集まりいただきどうもありがとうございます。
 本日の議題は「将来推計人口について」です。
 本日の年金数理部会は、昨年度と同様、動画配信によるオンラインセミナー形式で開催しております。
 公的年金財政をめぐって、数理的な視点を中核としながら、幅広く正確な情報を発信することにより、多くの方々、とりわけ公的年金財政に関心のある方々に理解を深めていただくことを旨とするものです。
 本年度は、公的年金財政を見通す上で重要な前提となる将来推計人口をテーマとし、外部講師として慶應義塾大学経済学部の石井太教授をお招きし、お話を伺うことといたしました。
 その後、後半では石井先生を交えまして委員全員での意見交換を行うことといたします。石井様への御質問は意見交換の中でお願いいたします。
 それでは、石井様、どうぞよろしくお願いたします。

(石井氏 演台へ移動)

○翁部会長 それでは、事務局より講師の紹介をお願いいたします。

○村田首席年金数理官 それでは、石井太様の略歴を御紹介いたします。
 石井様は、1991年3月に東京工業大学大学院理工学研究科修士課程数学専攻を修了後、同年に厚生省に入省され、その後、2005年8月に国立社会保障・人口問題研究所室長、2012年4月より同研究所の人口動向研究部部長を務められております。2019年4月からは、現職の慶應義塾大学経済学部教授でいらっしゃいます。
 また、2014年12月にカリフォルニア大学バークレー校にて人口学のPh.D.(博士号)を取得されてございます。
 以上でございます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、石井様、どうぞよろしくお願いいたします。

○石井氏 ただいま御紹介いただきました、慶應義塾大学の石井でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
 本日はこのような機会を頂戴いたしまして、ありがとうございます。感謝を申し上げます。
 それでは、本日は「「日本の将来推計人口(令和5年推計)」の推計手法・仮定設定、推計結果とその応用」ということで、お話を申し上げたいと思います。
 まず最初に、令和5年推計の結果とそのベースになっております、私の専門でもあります人口学について、簡単にお話を申し上げます。
 こちらのスライドですけれども、これは非常に長期的な日本の総人口の推移を示したものになっております。縦に破線がありますけれども、これが直近の国勢調査である2020年のところでございますので、長期的に見ますと、これまで日本の人口というのは一貫した増加傾向にあったということになります。
 これに令和5年推計、将来推計を付け加えましたのが、次のスライドになります。オレンジ色の領域が将来推計の結果です。これは死亡が中位仮定で、出生が高中低、3通りの総人口をお示ししていますけれども、出生仮定が高中低どれであったとしても、今後は一貫した減少基調になることが見込まれるわけです。
 次のスライドですけれども、こちらは令和5年推計に関する概要をお示ししたものになっています。令和5年推計は、今、お話をした2020年の国勢調査を基準としまして、将来の人口を推計したものでして、本年4月の第23回社会保障審議会人口部会に報告をして公表という形になっております。
 本日、この推計の考え方等についてお話をするのですけれども、下のほうに赤い字で「投影」という言葉を書いてございます。投影というのは、英語ではプロジェクションと申しますけれども、公的な将来人口推計の基本的な考え方になっていますので、これについても今日のお話の中で御紹介していきたいと思います。
 さて、先ほど非常に長期的な総人口をご覧いただいたのですけれども、もう少し現在に近いところで、1920年から2120年を示したものがこちらのグラフになっております。先ほど申し上げましたとおり、真ん中のところにある線が2020年、直近の国勢調査のところでございますので、今後、我が国というのは、これまで歴史上経験したことがないような人口減少社会になるということが、このグラフから分かるということになります。
 ただ、歴史上経験したことがないというのは、これだけではございませんで、もう一つ大きな変化がここで起きております。それは皆さんも御存じだと思いますけれども、人口の年齢構成が大きく変化をするということです。
 こちらのグラフは、総人口を3つに分けまして、0~14歳人口がオレンジ色で示したものです。それから、15~64歳人口が緑色で示したものになります。それから、65歳以上人口が青色で示したものになっておりますけれども、このような3区分でご覧をいただきますと、オレンジ色の年少人口、あるいは緑色の生産年齢人口というのは既に減少が始まっているということになります。
 これに対して、青色の老年人口とも申します65歳以上人口というのは、一貫して増加をしてきたわけですけれども、今後もしばらく増加をしまして、出生中位、死亡中位仮定では2043年にピークを迎えた後、減少するという見通しになっているわけで、これまでも急速な高齢化を日本は経験したわけですが、今後も高齢化が続いていくと見込まれるということになっております。
 老年人口は2043年がピークで、その後、減少するのですけれども、先ほどご覧いただいたように、総人口も減少することになりますので、総人口の中に65歳以上人口が占める割合、65歳以上人口割合というのは、実は一貫して上昇してまいります。
 こちらがそのグラフを示したものですけれども、青い線が急速に上昇してきておりまして、2020年には28.6%まで上昇してきたわけです。ただ、今後も65歳以上人口割合は増加をするということで、2070年にはほぼ4割の水準まで増加をしていくことが見込まれるということになります。
 こういった年齢の構造を表す際に、人口学では人口ピラミッドというものを用いますので、人口ピラミッドを幾つかご覧いただきたいと思います。
 こちらが1920年の人口ピラミッドを示したもので、これは我々が普通ピラミッドと言って想像するような、下のほうに裾野が広がったような形をしているわけです。
 50年後の1970年も、下のほうに裾野が広がったような形になっているわけです。
 さらにその50年後である2020年、直近の国勢調査ですけれども、これをご覧いただきますと、近年の少子化で若い人口がすぼまってきているのに対して、青い部分、これが65歳以上人口に当たりますが、この割合が大きくなってきているというのがご覧いただけます。
 さらに50年後、2070年の人口ピラミッドはこういう形になり、ピラミッドというよりは、逆三角形に近いような形態になりまして、65歳以上人口割合が4割というのは、こんな形の人口ピラミッドになるということがご覧いただけると思います。
 さて、ここまでお話をしてきたような将来人口推計というのは、先ほど私の御紹介のときにお話しいただきました人口学というものをベースにして作成をしております。そこで人口学というものがどういうものなのかということを少し御紹介したいと思います。
 人口学というのは、英語でデモグラフィーと言っておりますけれども、これは名前のとおり、人口を研究する科学なわけですが、こちらにドーナツのような図があるのですけれども、ドーナツの真ん中の緑色の領域は、人口変数、例えば人口の数であるとか、出生、死亡、移動、そういった数のことを人口変数と言いますが、人口変数自体であるとか、あるいは人口変数間の相互関係を数学的あるいは統計学的な観点から定量分析する分野になっていまして、ここのことを形式人口学、あるいは方法論と呼んでいます。
 ただ、人口というのは、人口変数だけで動いているわけではございませんで、やはり人口の外側の経済、社会、そういったものとの相互関係で動いてきているということがございます。そういった意味で、人口変数と外部の環境を考えるのがドーナツのオレンジ色のところの実体人口学、サブスタンスとか、人口理論とも言いますけれども、そういった領域になります。そういう領域では、例えば社会学、経済学、様々なバックグラウンドを持った研究者が研究を行っているという形になっています。
 ただし、実体人口学、形式人口学、それぞれだけではなくて、分析の際に両者を合わせながらやっていく、つまり、形式人口学、実体人口学の両者があっての人口学というのがその特色と言えるのではないかと思います。
 さて、今、お話をした形式人口学と実体人口学、緑色とオレンジの領域があったのですけれども、そこに具体的な人口変数ですとか、あるいは様々な要因を埋め込んだのがこちらの図になっております。
 特に形式人口学領域の緑色のところをご覧いただきたいのですけれども、左のほうに人口、出生、死亡、移動というところがあります。これが先ほど申し上げた人口変数になるわけです。ただ、人口の数とか、出生、死亡の数を見ただけでは、例えば死亡の水準が高い低い、出生の水準が高い低いというのは分からないわけです。そこで、それを測定して把握し、分析するというのが人口学方法論で非常に重要な問題になります。
 そのためには、左から右への紫色の矢印の形で、出生率、死亡率のような人口学的率に変えることによってそれを測定することが形式人口学での一つの重要な問題になります。
 それに対して、例えば与えられた出生率、死亡率、そういった出生や死亡の水準があったときに、それが表す人口の姿とはどういうものなのだろうかという、右から左への矢印も人口学方法論で重要な問題になるわけですけれども、これを実現する一つの方法が人口推計です。与えられた出生率や死亡率から人口をつくり出していくということなのですけれども、今日のお話の中心であります人口推計というのは、人口学方法論上ではこんな位置づけもできるということになるわけです。
 ここまで人口学と将来人口推計ということでお話をしたのですけれども、最初にご覧いただきました令和5年推計、これは公的な将来人口推計ということになりますので、その考え方等について、次にお話をしたいと思います。
 先ほど令和5年推計は、第23回の社会保障審議会人口部会に報告して公表になったと申し上げたのですけれども、ここ何回かの将来人口推計では、人口部会の中で仮定設定等について説明をしながら公表していくという形を取っていまして、令和5年推計に関しましても、ここでご覧いただいているような人口部会が開催されております。
 この中で、第21回の人口部会のところに、赤い字で「将来推計人口とは-その役割と仕組み-」と書いてありますけれども、これが公的将来人口推計の考え方について社人研から説明した議題になっています。
 こちらのスライドは、そこから取ってきた資料ですけれども、ここではいわゆる公的将来人口推計というものはどういった役割があり、どういった要件を満たさなければいけないかということが書かれています。特に今日のお話の関係で申し上げれば、社人研の将来人口推計というのは、公的年金の財政検証に使われるということがあります。また、そのほかの様々な施策でも使われているということになりますので、そういった意味では、この推計に求められるものとして、客観性・中立性があるわけです。
 ただ、一方で、将来は不確定・不確実なものであり、科学的に将来の社会を定量的に正確に描く方法は、残念ながら持ち合わせていないということになります。そういった中で、いかに客観性・中立性を保ちながら、科学的に推計を行うかという方法論が人口投影ということになるわけです。
 一般に、公的将来人口推計は、諸外国でもそうですけれども、50年間あるいはそれ以上の期間を対象とする極めて長期の推計を行っております。これは仮定値、特に出生仮定が変動したときに、それが人口に与える影響というのは、長期の推計値を見なければいけないということがあるので、こういう長期の推計が人口学的に必要になっているということです。
 ただ、そういった非常に長期的な将来には、不確実性が伴うことになります。そういった中で、客観性・中立性を保ちながら科学的に行うのが人口投影ということでして、人口学で行われる公的な将来推計はこの考え方に基づいております。
 人口投影とは、例えば人口自体、あるいは人口を動かす変動要因である、出生、死亡、移動について、基準時点までに得られた人口学的データの傾向・趨勢というものがございますので、これに一定の仮定を設定し、それによって導かれる将来の人口像を示すというのがその考え方になります。
 特に公的な将来人口推計、社人研の推計では、人口変動要因に関してこれまでの趨勢を将来に向けて投影するという考え方で行っていることになるわけです。そうしますと、これはあくまでこれまでの傾向・趨勢から導かれる将来像、すなわち過去から現在のデータの中にある安定的な構造を抽出し、それをモデル化して、そのモデルを固定し、そこから導かれる将来を示すことになるわけでありまして、人口投影というのは、将来推計とは言うわけですけれども、将来を当てようとする予言や予測とは本質的に性質が異なるものであると言えるかと思います。
 具体的に将来推計を行うプロセスですけれども、これも各国の推計で標準的な方法とされているコーホート要因法と呼ばれる方法に基づいています。
 こちらのスライドの図は、その手続を示したものですけれども、ある年の人口から出生、死亡、移動による変化を通じて、次の年の人口をつくり出し、それを逐次的に繰り返すことによって、将来をつくっていくということになるわけです。したがって、これに必要なのは、出発時点の人口、基準人口と言いますけれども、それと将来の出生、死亡、移動の仮定値です。先ほど申し上げましたように、この仮定値をつくるときに、これまでの人口学的データの傾向・趨勢を将来に投影するという形で仮定設定を行っていることになります。
 将来推計というのは、将来のことを見ているようではあるのですけれども、実は過去から現在に至るデータをどういうふうに把握し、分析し、モデル化するかということが重要であるわけです。ある意味では、過去から現在への動きを映す鏡がプロジェクションであるとも言えるかと思います。
 そして、もう一つ、将来人口推計というのは、その結果だけを見ますと、先ほどご覧いただいたように、総人口であるとか、年齢3区分別人口であるとか、マクロ的なものが表に示されているのですけれども、一方で、将来人口推計を行うときは、今、申し上げたような出生、死亡等のモデル化が必要になりますので、それを通じまして、例えば出生のモデルを考えるときには、結婚や出産の時期がどう変化しているのか、あるいは死亡であれば、老後の長さがどう変わるのかというような、我々のライフコース変化にも関連しているということになるわけです。
 今、お話ししたように、将来推計人口を行うときには、これまでのデータの傾向・趨勢から安定的な構造を見いだしてモデリングをするわけですけれども、例えば推計を行った後、新しいデータが得られてきますと、その趨勢の延長からは導き得ないような構造変化が起きることは当然あり得るわけです。ただし、人口投影とは、それを当てようとしたり、予見することを目的としたものではありません。
 では、そういった構造変化にどういうふうに対応するべきなのかということですけれども、科学的な対応としては、各時点の推計というのは、投影手法に忠実に実行し、時間の経過に伴って新しい人口学的なデータが得られたときには、その傾向を反映させた新たな投影を行って、定期的に将来推計の見直しをしていくということになるわけです。
 一方で、こういった人口投影の性格を鑑みますと、推計モデルの作成に当たっては、その時々の人口動向を分析し、そこから新たな傾向が見いだされたとすれば、それを適切に捉えて表現するという専門技術、方法論の洗練が求められることになるわけです。ただ、そういった新しい人口動向をどういうふうに解釈するかということ、あるいは行ったモデリングが妥当なのかということを考えたり判断するに当たりましては、方法論だけではなくて、実体人口学的な基礎理論も必要になるわけです。
 したがって、将来人口推計の実行に当たりましては、先ほどお話ししたドーナツの両方、形式人口学、実体人口学の両方が求められるということで、総合的な人口学的知見を深めることが必要になるわけです。
 さて、科学的に将来人口推計を行うということに関しまして、国連欧州経済委員会、UNECEがそれに関する報告書を出しています。これは将来人口推計の公表に関する勧告という報告書で、これはそこから取ってきた図を日本語にしたものなのですけれども、左下に作成者とあります。これは推計の作成者を示しているのですけれども、欧州では多くのところで統計局が作成を行っていることから、左下は作成者(各国統計局)となっています。日本やフランスなど、研究所が推計を行っているところもあるわけですけれども、そうでない国では、右下にあるように、研究者や学会という、もう一つのプレーヤーがあるということになります。
 これに対して、一方で、作成された推計を使う利用者が上のところにあるわけで、この報告書では、こういった関連するプレーヤーの間の意思疎通というものを改善し、そのために必要な推奨される方法、グッドプラクティスというものと、勧告、レコメンデーションズを示すというのが目的の一つとされています。
 この報告書の目次を示したのがこちらのスライドになっています。今、お話をした勧告が第2章から第5章までの四つの章になっていて、各章の中では勧告に対応するグッドプラクティスが述べられているのですが、実は2章の前に1章として、分析枠組みと用語という章があります。その冒頭の文章を引用しているのですが、ちょっと長いので、最後のところだけ御注目いただきますと、「実際のところ、予測や投影についての一般的概念やそれらから何が期待できるのかなどは、しばしば誤解されている」とされています。人口推計や投影の考え方というのが正確に理解されていないというのは、日本でもそういう面があるのですけれども、この報告書の冒頭にこういう文章があるというのは、欧州でもそういったことが共通しているということがうかがえると思います。
 今まで客観的・中立的・科学的に将来推計を行うことの重要性についてお話をしたわけですけれども、このためには、やはり作成者だけではなくて、先ほどの3つのプレーヤー、推計の利用者や学術専門家を含めたそれぞれのプレーヤーがこれを十分に理解した上で、科学的な人口投影が行われ、使われていくという環境が必要であり、UNECEの報告書が目指しているのには、こういうこともあるのではないかと思われます。
 我が国の公的将来人口推計も多くの面でこの報告書のグッドプラクティス等に沿っている、あるいは例えば人口部会での説明を通じて、それ以上の説明責任を果たす取組を行ってきておりますので、今後もこういった科学的基礎に基づいた人口投影が行われていくことが重要ではないかと考えます。
 さて、ここまで公的将来人口推計の特にプロジェクションという考え方をお話ししましたので、次に具体的な仮定設定等についてお話を申し上げたいと思います。
 令和5年推計ですけれども、この中で基本推計と呼ばれる部分があります。これは2070年までの50年間の総人口について推計するものです。先ほど申し上げたとおり、推計には出発時点の人口とそれから将来の出生、死亡、移動の仮定値が必要であるというお話をいたしました。基準人口については、2020年の国勢調査になっておりますので、仮定設定、出生、死亡、移動、それぞれについてお話をしたいと思います。
 まず出生仮定についてお話をします。将来の出生仮定というのは、出生数の推計のところに用いられるわけですけれども、それに直接的に必要なのは将来の年次別・年齢別出生率になります。年次別のことを期間データと言っております。この図では左側のほうで、年齢別・年次別のデータが必要になるわけです。
 ただ、出生の行動というのは、生涯でどれくらいの子供を産むかと考えることが基本にあります。このためにはコーホートといいまして、生まれ年別の観察が必要になりますので、出生仮定を実際に行うときには、コーホート単位で行っております。図の右側がコーホートデータですけれども、年次・年齢を表す図で、45度線上を進んでいくのがコーホートということになります。
 もう一つ、図の上側は、年齢別のパターンを示しているのですけれども、それを累積していったものが下側になっておりまして、これを再生産年齢、通常15歳から50歳未満、満年齢でいうと、15歳から49歳のところで出生行動が行われると考えますが、それを上限の50歳まで累積したもの、累積のグラフだと最後のところになりますけれども、これが合計の出生率の水準ということで、合計出生率あるいは合計特殊出生率と呼ばれているものになるわけです。
 特に右側の下のところ、コーホートの合計特殊出生率が示すのが、その生まれ年の女性が生涯で平均してどれくらいの子供を産むかという水準になります。
 今のお話を前提に、コーホートの年齢別出生率をどういうふうに仮定設定していくのかという、その手順を示したものがこちらになります。中長期的な仮定ということで、今、お話をした合計水準、合計特殊出生率をまず最初に設定します。それを考えるために、2020年の基準時点で全く実績がないコーホート、これは2005年に生まれ、2020年に15歳になった女性ですけれども、それを参照コーホートと言っております。
 次に、後でお話をしますように、コーホート合計出生率の要因分解式に基づいて参照コーホートやそれまでのコーホートに関する合計水準を定めていきます。
 ただ、これは合計水準が定まっただけということで、これを年齢別のパターンにしなければいけないので、拡張リー・カーター・モデルと呼ばれるセミパラメトリックモデルを使って年齢別パターンをつくっていくというのが次の作業になります。
 こうして各コーホートの年齢別の出生パターンができますので、これを年次別・期間に組み替えると、将来の仮定値ができるということになるわけです。
 ただ、今回は足下のところで、皆さんも御存じのとおり、新型コロナ感染症の拡大がございました。将来的なプロジェクションには、新型コロナ前のデータを使って、新型コロナがなかったらという形で出生パターンが推計されているのですけれども、それに対して、足下のところ、2020年から2022年に観察されている結婚・出生の落ち込みと、その後の影響については別途見込み、短期的な変動を加えるという形で、仮定設定が行われています。
 こちらは人口学でよく使うレキシス図と呼ばれるもので、横軸に年次、縦軸に年齢を取ったものになっています。先ほどお話ししたように、コーホートは、ここを45度線で走っていくことになります。
 基本推計は2020年から2070年と申し上げましたが、こちらにオレンジ色の縦線と茶色の縦線があります。この間で、かつ再生産年齢区間、15歳以上50歳未満ということで、右側の色の付いた長方形領域の年齢別パターンが必要になるわけです。ただし、出生仮定は、コーホート単位で行うので、45度線上で考えていくことになります。
 そうしますと、例えばここに水色の45度線がありますけれども、これは1970年生コーホートで、2020年で50歳に到達していますので、全ての実績があるコーホートです。水色の領域というのは、実績があるわけなので、ここは推計の必要はありません。
 その下に緑色の線がありますけれども、これは1980年生コーホートですので、これに関しては推計をしなければいけない領域が出てくるということになります。
 そして、実績が全くなくなるコーホートが赤色の線、2005年生コーホートということで、これが先ほど申し上げた参照コーホートになるわけです。
 さて、コーホート合計特殊出生率の算定式を使って合計水準をプロジェクションすると申し上げたのですけれども、それに関しては、まずこれまで出生に関する要因がそれぞれどのように動いてきたのかを見ることが必要になりますので、それを見ながら、長期的な合計水準の仮定がどのように設定されているかをお話ししたいと思います。
 まずこちらのスライドは、戦後の日本の出生数と出生率、それから、人口を長期的に維持するために必要な出生率の水準、このことを人口置換水準と言っていますが、その3つのグラフを示したものになっています。
 青い折れ線が合計特殊出生率、年次別・期間の合計特殊出生率の推移で、赤い細線が長期的に人口を維持できる人口置換水準になっていまして、少子化とは、合計特殊出生率が人口置換水準を下回って推移する状態です。
 こちらをご覧いただきますと、青いグラフが1970年代の半ばから赤い線を下回って推移していますので、我が国では1970年代半ば以降、出生率が人口置換水準を下回る少子化が続いているということになります。
 こういった出生率の低下、少子化というのはどういうふうにして起きてきたのかということですけれども、ここで先ほどお話をしたコーホート合計出生率算定式という要因分解を用います。
 先ほど、コーホートの合計出生率というのは、その世代の女性が平均して何人のお子さんを産むかという、その平均水準であるというお話をしたわけですけれども、一方で、我が国では婚外子が非常に少ないという特色があります。したがって、結婚の中で出生が起きる確率が高いわけで、出生の水準を考えるときに、結婚を考慮に入れた要因分解を使っています。
 これによりますと、コーホートの合計特殊出生率水準は、50歳時未婚者割合という50歳時点までに結婚する女性の割合という要素、結婚した女性がカップルとしてどれくらい平均して子供を産むかという夫婦の最終的な平均出生子ども数というファクター、それに加えて、離死別、再婚という、大きく3つのファクターに分かれることになります。
 ただ、この背後にもう一つ、我が国では晩婚化が引き続いて起こってきていまして、平均初婚年齢が変化する、初婚年齢パターンが変化するということが、50歳時未婚者割合と夫婦の子ども数に影響しています。
 さらに夫婦の子ども数は、晩婚化が影響する部分、晩婚化以外が影響する部分とがあるのですけれども、こういった変数がどういうふうに動いてきているのか、その傾向・趨勢がどうなっているのかということを見ることが、プロジェクションでまず必要になるわけです。
 そこで、これらの変数の動きを見てみたいと思うのですけれども、まずこちらのグラフは、人口動態統計による平均初婚年齢の推移を示したものになっています。
 こちらのグラフで、下側の赤い線の女性の平均初婚年齢をご覧いただきたいのですが、先ほど日本で少子化が始まったのが1970年の半ばからというお話をしたのですけれども、1975年より右側のところを見ると、平均初婚年齢が急速に上がっていることがお分かりいただけると思います。先ほど申し上げましたように、日本では結婚の中で出生が起きる確率が高いので、平均初婚年齢が上がり、結婚が先送りされますと、未婚の女性が増加し、未婚の女性からは出生が起きにくいということで、出生率が低下します。このようにして、日本の少子化が始まったということになるわけです。
 こちらは、国勢調査の女性の年齢階級別未婚者の割合を示したものです。中ほどに赤いグラフがあるのですけれども、これは20代後半の女性の未婚者の割合です。1975年以降をご覧いただきますと、25~29歳の未婚者の割合が急速に上がっており、晩婚化によって未婚者の割合が増加をし、これで少子化が始まったということがわかります。
 ただ、結婚の先送りというのが、例えば20代の女性が30代や、30代前半の女性が30代後半など、単に5年や10年繰延べをしただけであれば、より高い年齢の未婚者割合は上がらないままフラットになっているはずです。
 ところが、このグラフの右下のほうを見ると、30代や40代でも、現在に近づくにつれて、この水準が上がっています。すなわち、晩婚化によって日本の少子化は始まったのですけれども、単なる晩婚化にとどまらずに、50歳まで結婚しない非婚化につながっていったということになります。これは先ほどの算定式における、50歳で結婚しない割合が大きくなるということですので、これによりコーホートの水準が下がっていくという傾向・趨勢が現れてきているということになります。
 一方で、子どもの数はどうなっているのかということですけれども、こちらは社人研の出生動向基本調査から結婚持続期間別の平均子ども数を見たものです。一番下の青い線が0~4年、赤い線が5~9年、オレンジ色の線が10~14年で、緑色の線が15~19年の平均子ども数になっています。
 出生動向基本調査では、緑色の結婚持続期間15~19年の平均子ども数のことを夫婦の完結出生子ども数、あるいは夫婦の完結出生児数と言っていまして、いわゆるカップルが生涯で産んだ子ども数の水準の指標として継続的に観察をしています。
 一番左が1975年ですので、少子化が始まった時期なのですが、これをご覧いただきますと、少子化が始まった当時には、ほとんど夫婦の完結出生児数は変わっていなかったということになります。
 この傾向が変わり始めたのは1990年代で、赤いグラフをご覧いただきますと、1990年代に入って、結婚持続期間5~9年のグラフが下がってきているわけです。ここで下がったものが10~14年に伝播し、遂に2000年代に入って、夫婦の完結出生児数も下がり始めたという傾向・趨勢が出てきたということになります。
 このように、少子化は、最初は晩婚化、あるいはそれによる非婚化ということが始まりだったわけですが、1990年代以降、今度は夫婦の結婚子ども数も下がるという傾向・趨勢が現れてきたということがお分かりいただけると思います。
 もう一つ、離死別、再婚の影響ですが、こちらは国勢調査の女性の年齢階級別に見た離婚者割合で、近年ちょっと下がっているところもありますし、これは一番上まで見ても10%なので、割合としてはまだまだ低いわけですが、ただ、長期的に見ると増加をしてきたという傾向がございます。
 ここまでご覧いただいた要因を踏まえて、参照コーホートの水準をプロジェクションしたものがこちらになります。平均初婚年齢は、実績が全てある1970年生では27.2歳だったものが28.6歳まで上昇、50歳時未婚者割合は15.0%だったものが19.1%まで上昇します。
 それから、夫婦の子ども数ですけれども、晩婚化の影響、平均初婚年齢が上がる影響もあるのですが、それ以外に行動が変化するという影響もあり、両者を合わせますと、実績で1.83人だったものが1.71人まで減少します。
 離死別の効果はやや緩みますが、あまり変わらないので、これらを総合しますと、コーホートの日本人女性の合計出生率は、1970年生まれが1.45だったものが1.29まで減少していくということになるわけで、今後、将来世代でさらに出生の水準が下がっていくことが見込まれるということになります。
 ただ、ここまでで分かったことは、いわゆる合計水準、合計特殊出生率がどうなるかということですが、実際に将来推計をするときには、年齢別のパターンが必要になります。
 そこで、今回の令和5年推計では、これを出生の年齢パターンとして推定するために、セミパラメトリックモデルである拡張リー・カーター・モデルを使っております。
 拡張リー・カーター・モデルが今回使われた理由ですけれども、右上のほうに小さいグラフがございまして、黒い線が1970年生コーホート、赤い線が1980年生コーホートの年齢別出生パターンなのですが、例えば赤のグラフをご覧いただきますと、若年のところで、こぶみたいなものが出ているということがご覧いただけます。これはいわゆる婚前妊娠による出生、よくおめでた婚などとも言われますけれども、そういったパターンがこぶのような形で出ているのですが、こういうパターンというのはパラメトリックなモデルで表現するのが難しいということで、今回、拡張リー・カーター・モデルが導入されたということになります。
 その基になっているリー・カーター・モデルというのは何かということをお示ししたのが下半分になります。リー・カーター・モデル自体は死亡率のモデルで、この後、御説明する死亡仮定でも実際に使われているモデルですけれども、log(mx,t)が対数死亡率のパターンを示していますが、xを年齢とし、axという標準的なパターンと、その残りをbxとktの掛け算で示しております。tは年次ですが、ktというのは、ある年次の死亡率の水準を表すパラメーターで、ktに対して、年齢別にどういうふうに変化があるのかというのがbxということで、対数死亡率をこういう形で表すのがリー・カーター・モデルということになるわけです。
 では、今回の出生モデルは何が拡張になっているのかということですが、こちらが出生の拡張リー・カーター・モデルを示したものです。出生は先ほど申し上げたように、死亡と違って年次別ではなくてコーホート別に推定しますので、添字がxとcになっていますけれども、対数ハザードのパターンについて、先ほどと違うのはHcという項があるのと、bxとktの掛け算がシグマで和になっているところです。
 Hcは、先ほどコーホートの合計水準を推計したので、それをここで統制するというのが目的になります。axは年齢パターンで、死亡のリー・カーター・モデルと同じですけれども、それに対して、死亡のリー・カーター・モデルでは、bxとktを1項だけ使っているのですが、出生のほうではそれを3つ分使うというところがリー・カーター・モデルとの違いになります。
 こちらはそれぞれのパラメーターを示したもので、こちらが先ほどの式の中で、axと呼ばれる平均ハザードのパターンになっています。それに対して、bx、年齢ごとの変化というのが左側、kc、コーホートごとの変化が右側ということで、こういったものを使ってプロジェクションを行うのが年齢別パターンへの分解になるわけです。
 このようにして得た年齢別パターンについて、コーホートの合計特殊出生率を示したものが左側のグラフになっているのですけれども、実際に推計するときにはこれを年次別期間に組み替え、その合計出生率が右側ということになります。これは先ほどお話ししたように、いわゆるコロナの効果がなかったとしたらという長期的なパターンになるわけで、2020年から2022年のコロナの結婚・出生の影響を考慮したものが太い実線になるわけです。このように出生の仮定が行われたということになります。
 これに基づいて出生率と出生数の見通しを示したのがこちらのグラフになっています。折れ線は、今、ご覧いただいたものと同じですけれども、これをご覧いただきますと、例えば中位仮定では、2020年は1.33という水準ですが、おおむね横ばいぐらいになるような形で、2070年の1.36まで推移していくという見込みになっているわけです。出生率だけを見ますと、横ばいのように見えるのですけれども、先ほど人口を長期的に維持するために必要な人口置換水準というお話をしましたが、それは近年の日本だと2.1ぐらいの水準になっていますので、1.3から1.4というのは、その3分の2ぐらいの水準になります。
 そうしますと、ある世代から次の世代に3分の2という大きさでしか置き換わっていかないということになるので、親が小さい娘世代をつくって、娘世代がさらに小さい孫世代をつくるという縮小再生産がどんどん行われていくことになり、出生数はこちらでご覧いただくように、どんどん減少していくことになるわけで、こういった出生数の減少というのが、最初にご覧いただいたような長期的な人口減少を導いていくということが、こちらからもお分かりいただけるのではないかと思います。
 次に死亡の仮定についてお話をいたします。
 死亡に関しても、将来の死亡による変動の推計を行うために、将来生命表をつくるという形で、先ほどお話をしたリー・カーター・モデルを修正したモデルを使っております。
 リー・カーター・モデルは先ほどご覧いただきましたけれども、そのパラメーターを推定したものがこちらです。左側の太い線が標準パターンaxで、細い線がbx、変化のパターンです。一方で、右側のktが死亡の水準を表すもので、このマーカーがついた実績値を将来にプロジェクションしているのが右側の図になっています。
 リー・カーター・モデルに修正を加えたというお話をしたのですけれども、我が国の近年の死亡率改善というのは、1970年以前の死亡率改善と少し様相が異なっておりまして、こちらのグラフは生命表のlxというパターンを示したものになっています。
 横軸は年齢で、10万人の出生者がどれだけ残存しているかという、平均的な残存確率を示しているのですが、一番内側、水色のグラフは1947年のグラフですけれども、これをご覧いただきますと、0歳近辺で乳幼児死亡率が高いので、1回すとんと落ちてから、だらだらと下がっていくようなカーブになっています。ある意味では横軸、縦軸とlxカーブの形が三角形のような形になっているわけです。
 ところが、1970年以前は、特に乳幼児死亡率、若年死亡率の改善が大きく、それによって平均寿命が伸長したということがあります。若年死亡率が改善しますと、すとんと落ちるというのがなくなりまして、横に出てから落ちるという形にlxカーブが変わっていくわけで、そうしますと、囲まれる部分が四角形に近づいていく、矩形に近づいていくということで、このことを生存数曲線の矩形化と呼んでいるわけです。
 1970年以降も平均寿命は延び続けたのですが、それは矩形化というパターンではなくて、今度は高齢死亡率の改善によって、lxカーブが右に張り出すような、死亡率曲線でいえば、右のほうにシフトするような形で死亡率改善が起きるようになったということになります。そこで、我が国のこういった死亡の遅延という特性をうまく表現できるようなモデルとして、リー・カーター・モデルを修正したモデルを使ったのが社人研の推計になります。
 具体的には、高齢のところで、線形差分モデルといいまして、死亡率改善を横方向へのシフトで表すような形で考えるモデルになっています。こちらのグラフですけれども、年齢別の対数死亡率パターン、平均的なものを表しているのですが、通常、死亡率を改善するというのは、これが下のほうに下がって、死亡率が低くなるという形で死亡率改善を考えるわけなのですけれども、このモデルではそれが右のほうにシフトすると考えてモデリングを行っています。その改善量というのが年齢別にありますけれども、年齢の線形関数になるようなモデルがこのモデルということになるわけです。
 こういったモデルを使って、長期的な平均寿命の見通しを示したものがこちらになります。左側が実績値で、右側が将来推計値ということで、この推計によれば、若干改善速度は緩やかになるのですけれども、今後も改善が続いていく、平均寿命は延びていくという推計になっているのがお分かりいただけると思います。
 仮定値の最後として、国際人口移動の仮定についてお話をします。
 国際人口移動は、日本人と外国人に分けて設定がされています。
 まず日本人ですけれども、これに関しては、直近の平均的な入国超過率のパターンを固定して設定するという形になっています。
 こちらは横軸が年次で、縦軸が入国超過率ですけれども、左側が男性、右側が女性の入国超過率のパターンで、赤が今回推計、青は前回の平成29年推計ですが、パターンとしては大体安定しているのですけれども、若干入国超過の傾向が強くなるような形の変化が起きているということになります。
 次に外国人の設定です。今回の推計の特色の一つとして、外国人の設定があるわけですけれども、こちらはその設定を示したグラフになっていまして、左が入国超過数の総数の実績値と仮定値、右が入国超過の年齢パターンになっています。
 まず左側をご覧いただきますと、黒のマーカーで示されたものが実績値で、色がついているのがこれまでの仮定値なのですけれども、直近の平成29年仮定値というのが下にあるのですが、実際にはそれよりも直近のところで、かなり大きい水準の入国超過が観察されてきました。
 そこで、今回の推計では、直近の平均的な入国水準を将来仮定値とするということで、年間16.4万人の入国超過というのが2040年まで続き、その後は男女・年齢別の入国超過率が一定という仮定値になっています。ただ、これは全体の水準を示したものですので、これをまた年齢別にばらまかなければいけないわけですけれども、その年齢別パターンを示したものが右側ということになるわけです。
 これによって、今回の推計の一つの特色として、外国人の割合が大きくなっていくということがあります。左側は外国人人口の見通しを示したもので、黒が総数ですが、足下で274万7000人だったわけですけれども、これが2070年には939万人まで増大ということで、右側は割合を示したものですが、2070年には10%を超えて、10.8%と見込まれるということになります。特に若年層では、その上昇が顕著で、緑色が生産年齢人口に占める割合ですけれども、さらに大きいスピードで上昇しているのがお分かりいただけると思います。
 さて、ここまで令和5年推計の仮定設定等についてお話をしたので、次に将来推計の応用ということで、最初に将来人口推計と公的年金財政の関係について少しお話をしたいと思います。
 これは公的年金の財政検証を公表したときの年金部会の資料から取ってきたものです。公的年金財政にとって長期の財政計算というのは必須であるわけですが、やはり将来推計人口と同じで、未来のことを定量的に予言することはできませんので、一定の前提を設定した投影による財政計算を行い、定期的にその前提を見直して、新たな財政計算を実行するというのが財政検証であるというのは、皆様、御存じのところだと思います。
 この中で、将来の人口については、社人研の将来推計が用いられているということで、直近の令和元年財政検証では、平成29年の推計が用いられたということになっております。
 どこに将来推計人口が用いられているのかということですけれども、こちらは財政検証の全体像を簡略化したものですが、左上に将来推計人口というものがございまして、これを使って被保険者の推計が行われているということになるわけです。
 もう一つ、下のほうに給付費の推計がございますけれども、給付費の推計のために、財政計算の中では将来の受給者の年金失権率が必要になりますが、その中でも将来人口推計の将来生命表が使われていまして、具体的には基準年次の年金失権率が将来生命表の最終年次の死亡確率に向かって改善するような設定が行われているということになるわけです。
 一般的に公的年金財政と人口の年齢構造がどういう関係にあるのかということですけれども、現在、賦課方式に近い形で行われている厚生年金・国民年金に対して、人口の年齢構成が財政に与える影響というのは、生産年齢人口に対する老年人口の比率である老年従属人口指数で見ることができます。
 こちらは令和元年の財政検証に使われた平成29年推計の老年従属人口指数を見たものですが、黒が出生中位・死亡中位仮定であるのに対して、赤と青の実線がありますが、これは死亡を中位にしたまま、出生を高位と低位にしたものです。
 一方で、赤と青の破線がありますけれども、こちらが出生を中位にしたまま、死亡を高位と低位に変えたもので、死亡を変えた場合には足下からすぐに変化するのですが、長期的には出生の変化のほうが影響は大きいということがご覧いただけると思います。
 令和元年財政検証では、その報告書等の中で、実際に人口の前提が変化した場合の所得代替率への影響を示しています。出生については、高位のときにプラス2~4%、低位ではマイナスの3~5%であるのに対して、死亡では、高位ではプラス2~3%、低位でマイナス2~3%ということですので、やはり先ほどの老年従属人口指数の乖離と同じように、出生のほうの影響が死亡より大きいことが分かるわけですけれども、ただ、先ほどのグラフで見たような、出生の乖離よりも死亡の乖離が小さいというほどの、大きな違いがないことがお分かりいただけると思います。
 一般に人口変動が長期的な年金財政に与える影響というのは、少子化の影響が注目されることが多いわけですけれども、死亡率、長寿化の影響も小さいものではないということですので、その不確実性にも注意が必要であろうということになります。
 もう一つ、将来的に国際人口移動が活発化した場合、注意が必要になる点として、将来人口推計と財政検証の乖離がより大きくなるということがあると思います。
 例えば社会保障協定が充実して、外国人が国外で受給することが増えたり、あるいは日本人が海外に移住して受給することになると、国内の受給者が減少するということもありますので、こういった意味で乖離が大きくなる可能性があるということです。
 もう一つ、先ほど被保険者だけでなく、年金の失権率にもこの推計が使われているというお話をしましたけれども、そういった意味では、今後の年金受給者の死亡率改善と日本全体の死亡率改善というものの関係も再考が必要になる可能性があるということです。したがって、現役時代に日本で働いていた外国人の職種、賃金などが将来の死亡率にどういう影響を与えるかという、現役の状況と受給時の死亡率の関係、こういったものの重要性が増す可能性があります。
 アメリカでは、従来からSSAの死亡データが研究に使われていますし、我が国でも、近年、医療・介護データの研究利用も進んでいるということがありますので、今後、我が国の公的年金受給者の死亡データを研究利用することについても検討が必要ではないかということが、ここから言えるのではないかと思います。
 次に外国人受入れが一般的な公的年金財政に与える影響として、社人研の是川部長と人口学的な影響に関する分析を行った研究がありますので、ここではそれを簡単に御紹介したいと思います。
 本来、先ほど申し上げましたように、日本人と外国人の公的年金上の取扱いは精密に考えなければいけないわけですけれども、この研究では少し単純化をしまして、外国人も日本人と同じような扱いをしたとし、低賃金の外国人男性労働者を毎年10万人受け入れた場合どうなるかというシミュレーションを行っています。
 その際に、外国人だけを受け入れたケースAと、それに対して家族の帯同、呼び寄せがあったり、あるいはそこから第2世代が誕生するというケースBという、2つのケースでどういう影響が出るかということを見た研究になっています。
 ただ、ケースBに関しましては、低賃金で入ってきた男性労働者の第2世代以降も低賃金であるB1、第2世代以降は高賃金になるB2と、2つのケースを設定しています。
 こちらが、今、お話をしたケースA、ケースB、それから、基になっている基本ケースの老年従属人口指数の見通しを見たものになっています。
 黒が基本ケースで、この基本ケースは平成21年の財政検証に基づいていますけれども、老年従属人口指数がこのように推移するのに対して、ケースAでは、外国人労働者を受け入れますので、老年従属人口指数が低下することになります。ただ、長期的に見ますと、低下の影響はあまり大きくなっていかないということです。これは時間の経過とともに移入した外国人が高齢化していくという影響があるために、その効果が薄まってしまうということがあります。
 一方で、ケースBでは、より老年従属人口指数の低下が大きく、長期的には第2世代以降の誕生があるということで、低下幅がより大きくなるわけです。
 それを厚生年金の財政状況で見たものがこちらです。これはマクロ経済スライド調整前の厚生年金の賦課保険料率を見たものですけれども、このグラフをご覧いただきますと、先ほどのグラフと似ているのがお分かりいただけると思います。
 黒の基本ケースに対して、青のケースAでは、賦課保険料率は下がるのですけれども、長期的にはその効果が薄まっていってしまうわけです。これは移入した外国人の高齢化によるものですが、ケースBでは、第2世代以降が寄与するということで、長期的にも賦課保険料率が下がるということになりますし、仮に第2世代が高賃金になると、よりその効果は大きいということがお分かりいただけます。
 それを所得代替率への影響として見たものがこちらです。一番左が基本ケースで、平成21年財政計算に基づく基本ケースでは、所得代替率が50.1%まで低下しますけれども、ケースAでは53.9%、B1では57.2%、B2では57.7%まで上昇します。
 色分けがしてありますけれども、下の青いところが基礎年金部分、黄色いところが報酬比例部分になっていまして、特に基礎年金部分の代替率が、ケースAでは29.4%、B1、B2では33.4%まで高くなるということで、外国人受入れによって基礎年金水準の低下幅が減少しているのがご覧いただけると思います。
 一般に外国人労働者受入れの議論というのは、当面の労働力不足を補う短期的視点で行われることが多いわけですけれども、今、ご覧をいただいたように、受け入れた外国人は将来高齢化していく一方で、第2世代以降の誕生があれば、新たな社会保障の支え手を生み出す原動力ともなり得るということで、こういった長期的な定量シミュレーションに立って考えることが重要ということが、ここからお分かりいただけるのではないかと思います。
 残り時間が少なくなってきたのですけれども、もう一つの応用として、多相生命表と配偶関係別の将来人口推計というお話をしたいと思います。
 ここで御紹介する多相生命表と配偶関係別の将来人口推計は、今年の日本人口学会の年次大会で報告した研究で、来年の『人口問題研究』の特集号で刊行予定になっているものです。
 多相生命表とは何かということですけれども、普通の生命表は生存という状態と死亡という状態があって、その二つの状態だけを記述をしているのですが、配偶関係の多相生命表というのは、生存の状態を四つに分けて、未婚、有配偶、死別、離別という状態を考えて、その状態間の移動と死亡への遷移を考えた生命表になるわけです。これを使いますと、結婚とその解消などのライフコース指標を得ることができます。
 代表的なものとしては、遷移がどれぐらいの割合で発生するかという期待発生確率というものですとか、あるいは平均的にどれくらいの年齢で発生するかという平均発生年齢というものがここから導かれることになるわけですけれども、例えば離婚した女性がどれくらい再婚するのかという確率は、普通の統計からは分からないのですが、多相生命表をつくりますと、例えば離別状態から再婚にどれぐらいの確率で変わるかということが導かれるわけです。
 これは上のほうが1980年、下が2019年の指標でして、例えば1980年には離別状態から6割ぐらいで再婚が起きるのですけれども、2019年では約半数ぐらいしか起きないということが、ここから分かるということになります。
 もう一つの平均発生年齢についてですけれども、これもいろいろなイベントの発生年齢が分かるのですが、例えば死亡年齢を見てみたのがこちらのグラフになっています。
 一般的に多くの年次や年齢で、未婚者の死亡率が未婚者以外の死亡率よりも高いということが観察されます。これは未婚が原因になって死亡率が高くなっているのではないかと捉えられることもあるのですが、実は健康状態が良好でない者が結婚する割合が低いという、いわゆるセレクション効果も大きいということに注意が必要ではないかと思います。
 こちらは配偶関係別生命表による平均死亡年齢を示したもので、茶色い線が未婚者の平均死亡年齢になっています。緑色の破線で示したものがあるのですが、これが未婚以外をまとめたものということで、左が男性、右が女性ですけれども、これをご覧いただきますと、未婚者の平均死亡年齢は確かに未婚以外より低いのですが、近年、未婚化が進んできていますので、両者の乖離はだんだん小さくなってきているということが、ここからお分かりいただけるのではないかと思います。
 そして、配偶関係別生命表を使って、さらに先ほどお話をした将来推計人口を組み合わせることによって、将来の配偶関係を推計することが可能です。先ほど総人口は減少するというものをご覧いただいたのですけれども、減少する総人口を4つの配偶関係に分けたものがこちらのグラフになるわけです。
 特に高齢の配偶関係というのはどうなっているのかということで、こちらは65歳以上の配偶関係別の構成割合を示したものです。横軸が年次で、左が男性、右が女性なのですけれども、こちらをご覧いただきますと、一番下のところ、未婚者の割合が急速に増加していることがお分かりいただけると思います。
 さらに75歳以上がこちらのグラフになっていまして、75歳以上ですと、足下では未婚者の割合は非常に低いのですけれども、それが高いスピードで増加していることがお分かりいただけると思います。
 私が大学の授業でこちらを説明するときに、冗談を交えてなのですけれども、将来、母さんオレオレ詐欺が減少するのではないかと言っているのですが、先ほどお話ししたように、日本では未婚者から出生が起きる確率が低いので、未婚者が増加をするということは、子どもがいない高齢者が増えるということになります。そうすると、「母さん、俺、俺。」と電話がかかってきたとしても、「私は結婚もしていなければ、子どももいません。」というような高齢者がだんだん増えてくるということになるのではないかと思われるわけです。今、我々が高齢者といいますと、子どもや孫がいるおじいちゃん、おばあちゃんを想像するわけですけれども、この推計結果から分かることは、将来、子どもや孫がいなくて、家族のサポートを得られない人々が増加をする可能性があるということです。
 こういう、支援や介護が必要になっても、家族サポートが期待できない人への対応の問題というのは、これまでも世帯推計の中で配偶関係別人口が示されてはいたのですけれども、世帯推計で示されていたのは2040年までですので、その傾向というのは、2040年以降もっと深刻になる、この傾向がさらに強まるというのがこの推計から分かるということになります。
 公的年金制度も高齢者像を考えながら設計することが求められると思うのですけれども、ある意味では現在とは異なる高齢者像に基づいた制度設計が求められる可能性があるというのが、この配偶関係別の将来推計から分かるのではないかと思います。
 大体時間になったと思いますので、これで私のお話を終わらせていただきます。御清聴どうもありがとうございました。

(拍手)

○翁部会長 石井先生、大変貴重な基調講演をいただきました。どうもありがとうございました。
 この後、意見交換を行って議論を深めたいと思うのですが、一旦、休憩をさせていただきたいと思います。

○村田首席年金数理官 では、これより5分間の休憩といたします。もうすぐ15時12分になりますので、15時17分から再開ということにさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 
(休憩)
 
○翁部会長 それでは、部会を再開いたします。
 本日は、オンラインセミナー形式で開催しております。
 ここで、改めて委員の紹介をいたします。事務局からお願いいたします。

○村田首席年金数理官 それでは、委員を御紹介申し上げます。
 株式会社日本総合研究所理事長の翁百合部会長でいらっしゃいます。
 元ニッセイ基礎研究所代表取締役会長の野呂順一部会長代理でいらっしゃいます。
 年金数理人の小野正昭委員でいらっしゃいます。
 慶應義塾大学経済学部教授の駒村康平委員でいらっしゃいます。
 学校法人国際基督教大学評議員の佐藤久恵委員でいらっしゃいます。
 公益社団法人日本アクチュアリー会前理事長の庄子浩委員でいらっしゃいます。
 慶應義塾大学経済学部教授の寺井公子委員でいらっしゃいます。
 公益社団法人日本年金数理人会前副理事長の枇杷高志委員でいらっしゃいます。
 相模女子大学人間社会学部教授の山口由紀子委員でいらっしゃいます。

○翁部会長 それでは、ここからは前半の基調講演を受けて意見交換を行います。講師の石井先生にも加わっていただきます。
 将来推計人口ということで、幅広いテーマではありますが、大きく2つのテーマ、1つは「将来推計人口の考え方について」、2つ目は「将来推計人口の仮定設定、推計結果及び年金財政との関係について」ということで、さらにこのテーマ2については、「出生・死亡について」「国際人口移動について」の2つの論点に分けて議論を進めてまいりたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。

(首肯する委員あり)

○翁部会長 それでは、そのように進めてまいります。
 では、まず初めに、将来推計人口の考え方(「人口投影」の考え方など)について議論いただきたいと存じます。御意見や御質問などございましたら、よろしくお願いいたします。いかがでしょうか。
 それでは、枇杷委員お願いいたします。

○枇杷委員 ありがとうございます。
 石井先生、まず貴重な御講演、大変参考になりました。ありがとうございました。
 お話を伺いながら改めて思ったのですけれども、この投影という話と、それから予測ということの関係といいますか、理解、受け止め方についてコメントをしたいと思います。
 先生も投影という言葉を使っておられて、私もそういう意味ではそういう関係の仕事をしているので、投影は投影であって予測とは違うんだということは理解しながらやっているつもりですが、受け止め方といいますか、一般の方の受け止め方としては、やはり投影というのは将来を予測しているような数字が並ぶものなので予測だと、つまりこのような将来像になるんだというような誤解をやはり招きかねないのかなということは非常に感じたところです。
 特に、予測の仕方を非常に精緻にやっていくということは、中立性とか客観性を担保し、より実態に近い投影をするためには必要なプロセスだと思うのですけれども、突き詰めていくほど、逆に言うと当たるのではないかという誤解を生むような矛盾といいますか、そういうことも少しあるのかなと思いましたので、その辺りで我々もこの予測といいますか、投影を使って財政の問題を考えていく上では、限界を理解しながらやっていくということは非常に重要だと思いましたし、一般の方が受け止めていただくときの留意点としても、その辺りをしっかり認識していただくということが大事だと思いました。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 ほかに御意見ございますでしょうか。
 では、寺井委員お願いします。

○寺井委員 石井先生、どうも詳細なお話をありがとうございました。とても理解が深まりました。
 私のほうからは、少し石井先生に質問をさせていただきたいのですけれども、今の枇杷委員のお話と関連するのですが、今日の石井先生のお話の中で重要なグラフが出てきて、その中で高位推計、中位推計、低位推計と、3本のグラフが並んでいるような図が幾つかございました。ちょっとそれを見ると、ほぼ中位推計に実際の値が当てはまるのではないか。それで、もし外れたとしても、高位推計と低位推計の間には収まるだろうというふうについ思ってしまうのですけれども、そのような受け止め方といいますか、考え方は必ずしも適切ではないのかどうか、この辺を教えていただけたらと思います。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、石井先生お願いいたします。

○石井氏 御質問ありがとうございます。
 今、投影というお話がございました。その投影の考え方というのは、これまでの人口学的データの傾向、趨勢というのがあったとして、それが今後も続ければというものになっているというお話を申し上げたわけですけれども、そういった意味では今後そういった安定的な構造から、新しいデータが乖離するという構造変化が起きる可能性というのはあるわけです。
 それで、この高位推計、低位推計というのも、あり得る最大、最小の幅を示したものではございませんで、あくまでも投影というものを行ったときに、その投影の幅というのを示したものになるのですけれども、大きな構造変化があった場合には、当然のことながら高位推計よりも高かったり、あるいは低位推計よりも低かったりというようなことはあり得るということですので、この高位推計、低位推計も投影としての幅ということ、あるいはその投影の幅によって将来の人口というのはどのように違うのかという形でご覧いただければと思います。

○翁部会長 ありがとうございます。
 この点について、ほかにいかがでしょうか。
 小野委員、いかがですか。

○小野委員 ありがとうございます。
 そもそも人口推計というのは「推計」という言葉を使っているわけですけれども、人口推計という用語は、例えば国勢調査のない年の人口の推定にも用いられるということですね。こういった使い方とか、標本から全体を推定して計算する作業も推計というふうに言われます。こういうことからすると、将来人口推計というのは意図とは違う印象を与えてしまうのではないかと思います。
 私たちが議論しようとしている将来人口推計というのは、むしろ石井先生が用いられている人口投影という言葉がふさわしいと思いますし、この際、名前を変えていただくというのも一つのアイデアかなと思いました。
 以上です。

○翁部会長 ありがとうございます。
 石井先生、何かコメントありますでしょうか。

○石井氏 名称については私が何とも言えないところはあるのですが、将来人口推計というのはかなり一般的に使われていますので、なかなかすぐに変えるというのは難しいかなと思います。ただ、私も講演などで説明をするときには投影という言葉をなるべく使うようにはしていますので、そういうところで両者の性格の違いというものの御理解を深めていきたいとは思っております。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、この話題についてまた戻ってくるかもしれませんけれども、次に進めて「将来推計人口の仮定設定、推計結果及び年金財政との関係について」、意見交換をしたいと思いますが、まず出生と死亡ですね。ここにつきまして議論をいただきたいと存じます。御発言のある方は、どうぞお願いいたします。
 駒村委員、お願いいたします。

○駒村委員 その前のテーマだったのかもしれませんけれども、石井先生がかつて社人研にいらしていて、この人口推計にかなり関わっていただいたと存じます。小野先生と私は人口部会に入っているのですが、人口部会ではかなり限られた回数の中で議論をしなければいけないということで、作業について少し教えていただきたいと思っています。
 この推計結果と、推計をした年に現実になった場合に当然ギャップが出てくるわけですけれども、基本的にはこのギャップを修正するように推計式をその都度、最適なものを再現できるように修正していると、こういう考え方でよろしいのかという点を少し確認したい。そのギャップを埋めるように、このギャップをどう評価して、どういう議論が研究所内で行われているのかというのをちょっと知りたかったもので質問させていただきました。

○石井氏 ありがとうございます。
 この推計を行った後、その後もちろん実績値が出てくるわけで、プロジェクションというのは予言ではないのですので、当然出てくる実績値との乖離は生じるということになります。
 それで、その乖離というのは実は人口がどういうふうに動いているのかというのを考える上で重要な示唆を与えてくれるものでして、ある時に推計を行って、その時点で得られている過去の実績から導かれる推計値があくまでプロジェクションなのですが、そこから実績が乖離したというのは、ある意味ではそれとは何か違うことが起きているとも捉えられるわけです。
 それで、それはどれくらい違っているのか、そしてどういうふうにして生じているのかというのを分析するということが重要であって、それに関しては例えば非常に大きい違いではないけれども、パラメーターが少し違うように動いてきたのであれば、モデルはそのままだけれども、パラメーターを違うものにするということになりますし、非常に大きな変化が生じているのであれば、そのモデルを再検討するということも必要になります。一般に推計の後の乖離分析というのは、その次の推計でそれをパラメーター修正すればいいのか、あるいはモデルを改良しなければいけないのかということを考えるための材料として使うということになるわけです。

○翁部会長 ありがとうございます。
 そのほかに御質問や御意見いかがでしょうか。
 小野委員、お願いします。

○小野委員 では、最初にコメントをさせていただき、続いて質問ということでお願いいたします。
 年金数理部会による令和3年度の公的年金財政状況報告においても、年金財政を考える上で出生率の動向について注視していく必要があるということを指摘しておりまして、出生率については重要視してきたということでございます。
 それで、今回の出生の仮定設定についてということですが、人口部会の委員だったから申し上げるわけではないのですが、妥当だと考えております。コロナの影響を受けて急激に減少した合計特殊出生率が、一見するとその後、短期間で上昇するように見えますけれども、中長期的には外的ショックによる短期変動を除外して仮定を設定した後に、短期変動の影響を別途見込んで反映させるということで、標準的な推計方法を使った結果だと考えております。
 また、コロナ禍で減少した婚姻とか出産については、その後の反動を想定していないと確認させていただいております。
 なお、出生率については今後も引き続きその動向を注視していくべきだと考えているということは言うまでもないということです。
 それで、質問なのですけれども、出生率というのは従来からコーホート出生率ということでした。つまり、石井先生の資料の28ページの黄緑色と黄色のエリアを外挿するということになるのかと思います。
 そこで、2つ質問させていただきたいのですけれども、まず死亡率は期間死亡率を外挿して作成していますが、出生率はコーホート出生率を算出しているということで、これは素人的には不思議に思ってしまうということなのですが、それぞれ理由があるのではないかということです。その辺りを、若干復習になるかもしれませんけれども、御教示いただきたいと思います。
 それで、その際、今回出生率作成に用いるモデルとして新たに拡張リー・カーター・モデルを導入していますけれども、変更の経緯とか推定上、苦労された点などがあれば教えて下さい。
 これは必ずしも石井先生が実際に手を動かしたわけではないのだろうと思いますけれども、想像ということになりましょうか。
 次に、諸外国における出生率生成モデルについて、特徴や日本との違いについて、日本ですと掛け算を4つして合計特殊出生率を求めているというようなことがありましたけれども、 こういったところで作成の仕方について諸外国との違いがあれば、これについても教えていただきたいということでございます。

○石井氏 御質問ありがとうございます。
 まず、出生でコーホートでの設定を行っていることですけれども、死亡というのは期間効果が大きいのに対して、出生というのは説明の中でも少し申し上げたのですけれども、出生の行動自体が生涯でどれくらいの子供を産むかという形で考えるということがありますので、その行動プロセス自体をコーホートで捉えるほうが自然であるということがまず1つございます。
 もう一つは、そういった観点で考えたとき、例えば合計の出生率水準を考えたときに、コーホートというのは安定的に推移するのですけれども、ピリオドのほうは、例えば29ページで1966年のところにへこむところがあります。これはひのえうまで、出生率がその一年だけ下がっているわけですけれども、これはテンポ効果といいまして、その年に出生するのを避けて前後の年に出生するような効果というものが期間の出生率には出てくるということがあるので、安定的であるコーホートで設定をしています。
 次に、今回拡張リー・カーター・モデルを採用した理由ですけれども、それに関して資料の36ページの右上に小さいグラフを出しました。この赤いグラフが1980年コーホートの年齢別パターンなのですが、若年のところに少しこぶみたいなものができているパターンです。
 それで、日本だとこのこぶぐらいで済んでいるのですが、人口部会の資料にもあるのですけれども、例えばアメリカだと多峰性分布のような、二山の分布になっていたりして、年齢ごとの出生のパターンが近年複雑になってきているということがあります。
 こういう複雑なパターンをパラメトリックなモデルで表すのはなかなか難しいところがあるので、リー・カーター・モデルのようなセミパラメトリック、リレーショナルモデルとも言いますけれども、平均的なパターンは実績のパターンをそのまま用いて、そこからの変化を数学的関数で表すと複雑なパターンもモデリングがしやすいということで、今回拡張リー・カーター・モデルが使われたということになります。
 それから、諸外国の出生率推計ですけれども、これは実はいろいろありまして、日本と同じようにコーホートで仮定設定をしている国もあります。ドイツとか、イギリスとか、それからお隣の韓国とかもコーホートでの出生モデルを使っているのですけれども、一方でピリオドで設定している国もあり、アメリカは期間の出生率を設定しているので、国によってそれぞれかなと思います。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、野呂委員お願いいたします。

○野呂部会長代理 先生、どうもありがとうございました。
 2点ほど、プライマリーな質問で恐縮なのですけれども、年金財政の影響ということで、実は昨年の当部会の財政報告は先ほど小野委員も言われたとおりに出生率の低下が非常に深刻な問題であるというふうな問題提起をしたわけなのですが、今日御説明いただきました55ページの先生のまとめの3つ目ですと、少子化の影響が注目されることも多いけれども、一方で長寿化の影響も非常に大きいですよということでアナウンスいただいているわけです。
 ただ、簡易生命表などを見ますと、長寿化につきましてはかなり頭打ちの傾向があるということで、前回この部会でもとりわけ出生率ということでやったわけですけれども、一方で今回の将来人口推計を拝見しますと、出生率の問題はうまくすれば外国人の流入でカバーできるかも分からないが、長寿化のほうはそうもいかないとも読めるので、その辺りはどちらがどちらという問題でもなかろうかと思うのですけれども、年金財政ということではどのような感じか、先生の御感想をお聞きしたいと思います。
 もう一つは、先生の御説明いただいた中では30ページですけれども、コーホートの合計出生率につきましてはこのような3つ、4つの掛け算でできる。未婚者割合であるとか、子供の数であるとか、あるいは晩婚化であるとか、要するに直接、合計出生率を設定するのではなくて、そのパーツで設定したデータの掛け算でやっているわけなのですけれども、ということは逆に言いますと、出生率の低下などの要因につきましてはこうした晩婚化、未婚化、あるいは少産化について因数分解できるとも理解できます。
 もしそうだとしますと、私どもの年金財政につきましても出生率の低下の影響が大きいというだけではなくて、もう一段リアリティーがあるといいますか、突っ込んだ晩婚化の影響であるとか、もう1人しか産まない御夫婦が増えているんだということで細かく分析できるような気もしたのですが、その辺りはさらに今ざっくり言っている出生率の低下とか、あるいは国で言えば少子化対策というのではなくて晩婚化対策とか、少産化対策とか、そのように分けたほうが、より分かりやすいような気もするのですけれども、その辺りはいかがでしょうか。

○石井氏 御質問ありがとうございます。
 まず1点目のところでございますけれども、実はおっしゃるとおり、長期的な人口の年齢構成に出生と死亡とどちらの影響が大きいかというのは、これは人口学の方法論の教科書にも出てくるのですが、出生率のほうが大きいというのが答えでして、長期的な人口年齢構成というのを大きく規定しているのは、やはり出生のほうが影響としては大きいということになります。
 ただ、1つ注意しなければならないのは、その分析は安定人口理論を使って、出生率と死亡率がある値だったときにどういう年齢構成になるかというものから導かれた古典的な分析なのですけれども、その分析をやった当時は、出生率が人口置換水準くらいの高さのときの分析なのですが、今の日本ではもっと出生の水準が低いので、安定人口の年齢構成も高齢化します。
 そうすると、出生と死亡のどちらの影響が大きいかと言われれば出生なのですけれども、では死亡率の影響はネグリジブルかというと、実はそういう高齢化した安定人口の下では死亡率が改善するとやはり高齢化というのが起きます。
 そういった意味で、ここで申し上げたかったのは、出生率の影響の方が大きいというのは間違いないのですが、ただ、死亡率の影響が小さいということではないということになります。
 次ですけれども、コーホート合計出生率の算定式はコーホートの合計特殊出生率を分解し、それぞれのファクターに分けたものになりますので、おっしゃるようなことは可能だとは思うのですが、ただ、1点注意が必要なのは、上の二つのファクターには、それぞれ初婚年齢パターンがその背後に入っていて、例えば夫婦の子供数の低下というのは晩婚化によって低下する部分と、それからそれだけでは説明できない部分、行動の変化によって変化するという部分の2つに分かれているので、それぞれが完全に独立に動いているのではないという点にはちょっと注意が必要かなとは思います。
 ただ、そういったことを御注意していただければ、この分解式を利用して考えていただくということは可能かとは思います。

○翁部会長 ありがとうございます。
 この点につきまして、ほかにいかがですか。
 駒村委員、お願いします。

○駒村委員 先ほど、小野先生から諸外国との違いというお話もありましたので、この人口部会でも少し数字が出たのですけれども、ほかの先進国ではかなり婚外子が多いということになります。それで、日本は婚外子は非常に少ないのですけれども、別に歴史的に少ないわけではなくて、第二次世界大戦前はかなり多かった時代もあります。
 婚外子が海外ではどういうふうに推計されているのかというのをちょっと教えてもらいたいなと思って、日本の戦前のようなことが起きないとは思います。戦前の家族制度はまたちょっと違った部分がありますのでそのまま戻るとは思いませんけれども、婚外子の部分の推計というのはほかの国ではどういうふうにやられているのかというのが一つは知りたい部分かと思います。
 それから、将来の予測で、先ほどもひのえうまの話があって、次のひのえうまは2026年ですけれども、まさかひのえうま効果をここで考慮するということは当然必要ないわけでありますが、ただ、1966年のときの資料を見せていただくと、それ以前のトレンドから外れて子供が増えていて、どんと落ちて、また増えている。
 このひのえうまがどうしてこういうふうに前後でゆがんだかというのは、何か研究が進んでいるのでしょうか。
 すみませんが、その2点をお願いできますか。

○石井氏 質問ありがとうございます。
 まず、婚外子の諸外国での扱いということですけれども、御説明の中で、日本では婚外子の割合が現在は非常に低い、もちろんこれも若干増加傾向はあるのですが、諸外国と比べると非常に低い水準なので、出生に影響を与える要因、人口学では近接要因と呼んでいるのですけれども、日本の推計ではその一つである結婚がファクターとして大きいということで、モデルの中でもそれを使っているということです。例えば婚外子の割合が大きくなると、それを要因として使っても推計の改善にならないということになるので、そういうときには結婚を考えずに、直接、出生を考えてモデル化をするのが普通ではないかと思います。
 それから、ひのえうまに関しては、もちろん研究はあると思うのですけれども、一般的には、その頃ひのえうまの迷信がかなり話題になって、いろいろなところで取り上げられ、その年に産むのは回避しようという行動が取られたのではないかと言われています。
 その結果として、その年ではなくて、タイミングを調整して前の年に産んでしまおうとか、その後の年にずらそうとか、そういうことが起きたのではないかと言われています。
 あと、そのときの出生率を出生順位別に見ると、第一子よりも第二子以降での調整が多かったとされているので、第一子はやはり授かったので普通に産んだけれども、第二子以降だと少し調整をするような意図が働いたのではないかということが言われていると思います。

○翁部会長 ありがとうございます。
 出生、死亡について、ほかに御質問ございますか。
 それでは、小野委員お願いします。

○小野委員 何度もすみません。
 石井先生の資料の中で、54ページのグラフを見ますと、結局出生のほうが死亡と比べると人口構成上は従属人口指数に対する影響というのは非常に大きいというふうに示されております。一方、55ページを見ると、この2つの要因の所得代替率に対する乖離幅というのは54ページのグラフほど大きくないということを御指摘いただいていたのが非常に印象に残っております。私なりの解釈をしますと、54ページの真ん中に縦棒がありますが、この縦棒の左側を見ると、結局、死亡の影響がまずは先に乖離が始まるということですね。
 ですから、真ん中から左側は全体的には死亡の影響のほうが大きい。それで、右側になると、これは少子化の影響のほうが大きい、出生のほうが大きいということになります。そのプラスマイナスの効果で思ったほどの差が出ていないということの御指摘と理解しまして、私としては非常に感銘を受けたといいますか、重要な御指摘だったと思っております。
 以上です。

○翁部会長 石井先生、もしコメントがありましたらお願いいたします。

○石井氏 ありがとうございます。
 全くそのとおりで、死亡は高齢の死亡率が変化すると、老年人口がすぐに変化をするわけですけれども、出生は生産年齢人口のところに入ってくるまでは変化がないので、出生の変化が影響を与えるには一定のタイムラグがどうしても出てくるというようなことがあります。やはりこういった問題というのは、単に出生と死亡のレベルだけではなくて、それがどういうタイミングで、どういう年齢層の人口に影響を及ぼすのかということが重要ではないかと思います。

○翁部会長 非常に貴重な示唆をいただいたと思います。
 それでは、またこちらに戻ってきても結構ですけれども、国際人口移動についてもいろいろな興味深い論点があるかと思いますので、御質問や御意見がありましたらどうぞ。
 では、庄子委員お願いいたします。

○庄子委員 ありがとうございます。
 石井先生、今日は本当に興味深いお話をありがとうございました。資料の50ページですが「外国人人口の将来推計」の2つ目の丸で、令和5年推計でも2045年で総人口に占める割合が6.1%、2070年では10.8%ということで、10%を超えてくるとなると、これがなかなか無視できないような割合だと感じたところでございます。
 それで、教えていただきたいのは、57ページ以降で2015年の研究のことを御紹介いただいていますが、これもやり方としては投影ということで、最初に初期値を設定して、あとはそれを伸ばしてみたもの、という理解でいいのかというのが1つめの質問でございます。
 それから、59ページがメインになるのでしょうか。賦課保険料率のグラフが書いてあるのですが、特に収入の低い男性の受入れがあっても、その後、B2のケースで第二世代以降で高賃金となるような世代に移り変わっていくと、財政への影響がかなり大きいというところが示唆されています。ここは令和5年の推計には反映されているものではないと理解しているのですが、今の令和5年の推計との関係や、ここから示唆されることで特におっしゃられたいことや、苦労されたところなどお教えいただければと思います。よろしくお願いします。

○石井氏 御質問ありがとうございました。
 まず、最初に57ページからの是川先生との共同研究のことですけれども、投影なのかどうかという話の御質問だったと思うのですが、これは投影とは違うものでして、もともと平成21年の財政検証というのがベースである基本ケースになっているのですけれども、そこにさらに男性労働者外国人を毎年10万人、別途受け入れたとして、日本人と同じ年金制度を適用するとどういうふうになるかというシミュレーションを行ったものになっています。ですから、財政検証の基本ケースのところはプロジェクションなのですけれども、そこにさらに上乗せしている部分はあくまでもシミュレーションというものになっているということになります。
 それで、もう一つ、第二世代とか第一世代の賃金ということですけれども、平成21年財政検証というのは財政検証そのものなので、その中では世代ごとの賃金が違うということは全然含まれていないわけですが、一方で、それとは別途推計した外国人労働者と、そこから誕生する第二世代以降には、独立に賃金プロファイルを設定して計算をしていますので、その計算の中で第一世代と第二世代の全ての賃金プロファイルを低賃金にしたのがB1で、第二世代だけ高賃金を設定したのがB2ということになります。そこはいわゆる基本ケースのところとは全く別にシミュレーションして、そこで賃金プロファイルを変えることによって効果を見ているということになります。

○庄子委員 ありがとうございました。
 投影という言葉は、あくまでも過去の実績を基にして推計したパラメーターで伸ばしたもの、それに対して2015年の研究は過去の実績からは見られないけれども、仮に10万人、外国人労働者を受け入れたらということで、ここの部分はシミュレーションということでしょうし、また、第二世代のところの前提の置き方というのも、ここも仮定値として置いたということで、そこもシミュレーションというような考え方だということでよろしいですか。

○石井氏 そのとおりです。

○庄子委員 ありがとうございました。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、佐藤委員お願いいたします。

○佐藤委員 石井先生、今日は本当に勉強になりました。ありがとうございます。
 私も国際人口移動のところで資料の56ページに関する質問なのですけれども、こちらの資料に国際人口移動の活発化は将来推計人口と財政検証との乖離をより大きくする方向に働くと、今後この割合が増えていくということであればその乖離が大きくなる可能性も高くなっていくわけなのですけれども、そういった場合にお話しの前半で不確実性とか構造変化に対応するには定期的な検証が大事であるというお話があったのですが、現在の頻度は5年、今回この国際人口移動の仮定については’15年から’19年ということで、コロナを避けた結果にはなっておりますが、この頻度は5年といって割り切るしかないのか、それとも先ほど乖離についての取扱いで分析をされるというお話もあったのですけれども、何か有効な分析があるのか。
 今後、コロナのようなことが起きないことを願うばかりですけれども、何か大きな変動があった場合にどういうような対応が有効であるかということを教えていただけないでしょうか。

○石井氏 ありがとうございます。
 まず、この人口推計の頻度ということなのですが、やはり国勢調査が基準人口になりますので、その基準人口が調査される5年が一つの目安というか、それに対応して新しい推計をつくるということになっております。
 もう一つ、先ほどいわゆる実績とその推計の乖離というものの分析が必要であるというお話を申し上げたのですけれども、やはりそれは1年、2年だけの分析ではなかなか難しいということもありますので、5年でも十分ではない部分もあるのですが、やはり5年程度のその後の経過というのを踏まえて新しいものをつくるということで、これくらいの頻度で更新していくというのは、ある意味ではリーズナブルではないかなと思います。
 あと、先ほどのUNECEの報告書で、諸外国で作成者がどれくらいの頻度で更新しているかというのを調べているのですけれども、その最頻値は5年ということだったので、やはり各国はセンサス等のサイクルに合わせてやっていることが多いかと思います。

○佐藤委員 分かりました。どうもありがとうございます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、山口委員お願いいたします。

○山口委員 よろしくお願いします。
 石井先生、どうもありがとうございます。
 私の質問は、先ほどの推計結果全体の部分と、公的年金財政との関係というところに関係していると思うのですけれども、先ほど老年従属人口指数についてお話があったのですが、年金の財政状況を評価する指標に、年金扶養比率があります。これは年金制度の成熟状況も表していて、現在のところ、2019年の財政検証の将来見通しを上回り、厚生年金が2.48で基礎年金が1.97ということです。今の日本の状況を人口構造から国際的に比較をしたときに、どのような傾向とか特徴があるのかを質問させていただければと思います。よろしくお願いします。

○石井氏 御質問ありがとうございます。
 年金扶養比率というのは、老年従属人口指数との関係でいうと、ちょうど逆数のような関係だと思います。老年従属人口指数が生産年齢人口分の老年人口ということなのですけれども、年金扶養比率は逆に受給者数分の加入者、被保険者数という形で、何人で支えるかという指標ですので、両者の関係としては逆数のような関係になっていると思います。
 そういった意味で、老年従属人口指数とか、あるいはもうちょっと単純に65歳以上人口割合のような高齢化を示すような指標について見ますと、現在、例えば65歳以上人口割合で言えば、日本は諸外国でも非常に高い、トップクラスのレベルになっていまして、これまでの推移の特徴としては高齢化のスピードが非常に速いということがあったわけです。
 もう一つ、この推計によれば、今後も日本は少子化が引き続いていきます。そうしますと、出生率が低い水準にとどまりますので、今後も65歳以上人口割合が上がっていき、さらなる高齢化が進んでいくというのが特徴的なところだと思います。
 本日お配りしている参考資料の33ページのところに図6がございます。これは、各国の将来推計と日本との比較をしたものになっています。これは論文が少し古いので平成29年推計のときのものなのですけれども、2つグラフがあるのですが、左側が2020年近辺の年齢3区分、右側が2060年または2065年の年齢3区分ということで、現在の65歳以上人口割合が高い順に並んでいます。
 これをご覧いただきますと、これは平成29年推計ですが、日本は38.4%まで上昇していくということで、各国も上昇しているのですけれども、それよりも非常に高い水準だということがお分かりいただけると思います。
 唯一例外が、右から3番目に韓国がありますけれども、韓国は46.1%まで上昇していくということで、これは皆さん御存じだと思いますが、韓国は現在非常に低いレベルの出生率になっていて、それが引き続きますと日本よりもさらに速いスピードで高齢化が進んでいくということになります。そういった例外はあるのですが、それを除いてもやはり日本の今後の高齢化のスピードというのは、諸外国から見ても速いということがお分かりいただけるのではないかと思います。

○翁部会長 非常に参考になる図表ですね。韓国も本当に大変ですが、日本も非常に課題先進国だということがよく分かると思います。ありがとうございます。
 そのほか、いかがでございますか。
 では、野呂委員お願いいたします。

○野呂部会長代理 先生のお話の中で、やはり国際人口移動の活発化と財政検証の影響が極めて大きいというお話で、全く勉強になりまして、その割には今の外国人労働者の方の労働実態もそうですけれども、年金加入やら家族の状況ももう一つよく分からないという話も聞いておりますので、1つは感想ですが、将来に向けてもそうしたデータとか統計の充実が非常に必要だなということを感じた次第でございます。
 それで、ここからは質問になるのですけれども、1点はあまり御説明にはなかったのですが、今回の国際人口移動については年間16万人の流入超というシナリオ以外に、条件付推計というものがあったと思うのですけれども、これは7万人程度ということで、前回推計並みということで推計しているのですが、これと例えば出生やら死亡であるところの高位、中位、低位との関係で、各国の条件付推計は言ってみれば低位だというふうな理解で、例えば年金財政を見るときに考えていいのかどうか。この条件付推計の位置づけについてお聞きしたいというのが1点でございます。
 それから、非常にこれもプライマリーな質問なのですけれども、御説明いただいた49ページの右のグラフの見方がよく分からないのですが、これは流入超が20代でどっとあって、それ以降は個人の固有名詞等の出入りがあったとしても、ほぼチャラといいますか、プラスマイナスゼロという意味ではないかと思うのですけれども、そうしますと20歳代で入ってきた人というのは、人の出入りはあったとしてもそのネットとしては入りも出もないということで、そのまま高齢になってしまう。
 そうしますと、今回のゼロ歳で生まれてくる新生児が減って、20代で入ってくる外国人の方が代わりに増えるということになると、むしろ高齢化のスピードが速まるのではないかというふうに私は想像したのですけれども、結果はそうでもなかったように思いまして、その構造がちょっと知りたいと思いました。
 といいますのは、実際に外国から入ってきた方がどれくらいの期間、仕事をして、どういう家族を持ってというのが今後大きなテーマになるかと思う中で、そこのところがまず想像できないかと思いまして、技術的な話ですけれども、教えていただきたいと思います。

○石井氏 御質問ありがとうございました。
 御質問の前に、1点おっしゃっていた、こういった統計の充実、特に先ほど少しお話しさせていただいたのですけれども、外国人が増えてくるときに、例えば受給者の死亡率の推計に関してもこれまでとは違う考え方をしなければならない可能性もありますし、年金受給者のデータの研究利用については、実はこの年金数理部会でも過去に例えば受給者の年金額別の死亡率の違いというのを見てはどうかというような意見が議事録を見ますと委員から出されているということもありますので、今後その重要性は高まってくるのかなということを感じた次第です。
 それから、御質問の1つ目ですけれども、条件付推計の位置づけというお話かと思います。先ほど高位、中位、低位というお話をしたこととの関係もあるのですけれども、高、中、低というのは出生、死亡についてあくまでもプロジェクションとして、そのプロジェクションにも不確実性があり、その幅をお示しするものです。
 これが、高位、中位、低位の位置づけになるわけですけれども、一方で条件付推計というのはそれとは違うものです。先ほど、プロジェクションとシミュレーションの違いというお話もあったのですけれども、条件付推計はある意味ではシミュレーション、反実仮想シミュレーションと呼ばれるもので、仮定値が大きく変わったときに、それが将来どういうふうに人口の規模や構造に影響を与えるのかというのを理解するため、分析するために提示しているものです。
 ですから、例えば出生のレベルも機械的に設定していて、1.0とかから2.2まで幅を等間隔にして設定したら、それが長期的な人口の規模・構造にどういう影響があるのかを見るというものですし、外国人の入国超過に関しても、0、5、10、25、50、75、100と、0から100万人までの非常に大きい幅で変化を与えて、それが長期的にどういう影響を及ぼすかというのを見るということが両者の違いになります。
 ただ、その中には、平成29年推計のときの6.9万人だったらどうかというのも入っていますし、5万人というのも入っているので、もう少し低かったらどういう将来の人口の規模・構造になるのかというのをそこから見ていただくことはもちろん可能ではないかと思います。
 それから、49ページですけれども、右側のところはおっしゃるとおりで、入国超過者の年齢分布というのを示したものになっていまして、これが過去の実績に基づきますとこういうふうなパターンになるということです。それで、高齢のほうではおっしゃるとおりで、ほぼゼロぐらいになっているのですけれども、実はグラフだとよく分からないのですが、若干マイナスで出国超になっている部分がありますので、若いところでは入国超が多くて、高齢のほうではほぼゼロに近いのですが、若干の出国超過のような形になっているというパターンになっていますので、それを将来に向けて固定して投影しているということになります。
 もともと条件付推計もこのパターンを使って、人数の規模を変えてシミュレーションしていますので、若い世代の人口が入ってきますと、もちろんそれは先ほどの年金のシミュレーションのときにもお話ししたように、長期的に見ると高齢化はしていくのですけれども、ただ、当面やはり若年人口が増えるということで、足下のところでは若年化するようなパターンになるということになるわけです。

○翁部会長 野呂委員、よろしいですか。

○野呂部会長代理 後者のほうですけれども、20歳で入ってくる人というのが25歳としますと、40年でもう高齢者になってしまう。0歳で生まれてくる人というのは65年たたないと高齢者にならない。外国人の方が50歳ぐらいで結構帰国されるのであれば、日本の人口が40年先でも、2070年でも、前回推計よりも高齢化が遅れるというのは分かるのですけれども、これでしたら外国人が25歳で入ってきて40年後には65になるので、むしろ高齢化が早まるように直感的に思ったのですが、そうでもないところの原因がよく分からないという質問だったのですけれども。

○石井氏 それは、この年齢パターンで入ってくる規模が仮に増えたとしますと、その増えたパターンというのはそのまま続くわけです。だから、20歳の近辺で入ってくる規模は増えるので、もちろん入ってきた人は年数をかけて高齢化するのですけれども、さらに毎年、毎年、若い人が補充されてくるということになるので、もちろん長期的に見ればそれが高齢化をしていくわけなのですが、短期的にはまず若いほうが増えるという影響が大きいので、その分が低年齢化に寄与するという構造になっています。

○翁部会長 ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。
 駒村委員、お願いします。

○駒村委員 国際移動以外でもよろしいですか。

○翁部会長 はい。

○駒村委員 56ページは物すごく重要なことを御指摘されていて、これはまさに人口問題の研究、年金の研究、特に最後の丸などはとても重要ではないかと思っていて、諸外国では支給開始年齢の引上げに伴って、職業とか収入によってはそれほど寿命が長くないのに、それをどう考えるのかという議論があるわけですけれども、日本はそういう職業や所得別の寿命に関しての議論があまりなくて、そういう政策的な議論もできない。
 それから、ざっと見た限りだと、日本でも繰上げ受給を選んでいる方というのはどうも失権率が高そうだ。つまり、65歳まで生きないから繰上げを選んでいる可能性もある。
 逆に言うと、繰下げを選んでいる人はみんな寿命が長いのかというと、それはよく分からないということで、これは本当に非対称なのかどうなのかということもおそらく制度では考えなければいけない。
 あるいは、共済を見ても失権率の動きというのはほかのグループともどうも違うような感じもするわけですけれども、この辺は研究が進んでいくと、先生はどういう政策に使えるようなアイデアがあるのか。例えば、どういうふうなデータ、既存のデータでどういうデータを使うべきだと考えられているのかというのが1点目であります。
 それから、4つある質問のうちの2つ目で、この2つで一回止めますけれども、67ページの御指摘もとても重要で、要するに単身で子供もいない、配偶者もいないという方がこれから急激に増えてくる。この上での公的年金制度を考えなければいけないというところで、これはおそらく公的年金制度だけではなくて社会政策、社会保障政策全般でもある程度これを見越したことを考えなければいけないので、この最後の部分については公的年金についても今とは異なる高齢者像とおっしゃると、すぐに考えつくのは、モデル年金というのは代替率を評価するための仕組みなので、あまりベンチマークとしてはふさわしくはないかもしれませんけれども、年金のイメージの表示の方法とか、あるいは身寄りがなくて75歳以上の単身高齢者が増えてくるとなるとお金の管理能力に問題が出てきますので、2か月単位で年金をあげるという制度は問題があるのではないかと思いますけれども、ほかに先生はどういうことを単身高齢者割合が上がることによって年金政策を考えなければいけないと思っていらっしゃるか。
 この2点をお願いできればと思います。

○石井氏 非常に重要なポイントを御質問いただきまして、ありがとうございます。
 まず1点目ですけれども、こちらの資料の56ページにありますように、職業や所得別の死亡率が日本ではあまりデータがないので議論ができないということは全くおっしゃるとおりです。人口動態統計でも職業・産業別統計というのがあることはあるのですけれども、実はそれは死亡であれば死亡の直前のときということになるので、大体の方は無職になってから死亡されるので、そういう職業・産業別統計ではなかなか分からないということがあります。もう一つ、実はそういった高齢者の死亡の職業で何が重要かというと、現役時代にどういう職業だった人の死亡率が高いのか、低いのかということが重要な点でありまして、現役時代と受給世代の関係が分かるデータというのは実は年金しかないということがあります。
 そういった意味でも、アメリカではソーシャルセキュリティーエージェンシーの受給者データを使って、職業や所得階級別の死亡分析が行われているので、日本でもそういった分析を行って、所得階層別に死亡率がもし違うということがあるのであれば、具体的な政策ということではないですけれども、年金財政を考える上で財政計算にそれを反映させるようなことも不可能ではないのだろうと思いますので、そういった応用は一つ考えられるかなと思います。
 それ以前の問題として、今後働き方が多様化していったときに、その受給者の死亡率はどうなるのかという分析は、まさに公的年金のデータからしか得られないということもあるので、その活用を今後検討するということも方向性としてはあるのではないかというのがここでお話を申し上げたことです。
 それから、最後の未婚の高齢者の増加ということですけれども、全く駒村先生がおっしゃるとおりで、1つはモデル年金のようなモデルで、現在考えている高齢者とは違うような高齢者像というものが求められてくるので、そういった意味では未婚のまま高齢者になった場合の年金はどうなるのかということを示すことも重要です。その際、先ほどおっしゃったように、このときに問題になるのは、子どもとか孫のサポート、例えば介護、医療等ですけれども、そういったサポートが得られないということです。そういった高齢者に対してのサポートの方法としては現物で行う方法と現金で行う方法と両方があり得るとは思うのですけれども、例えば利用料を支払わなければいけないとしたら、そのための所得をどうすればいいのかということを考える上で、公的年金がどういった役割を果たすのかということにもつながってくるのではないかと思います。今の高齢者はそれを家族が支えることで成立していて、それによって今の消費額があって年金額も決められているのですが、今後それと同じでいいかというと、これだけ結婚とか、あるいは配偶関係というものが変わってくると、そういったものの前提自体を見直していかないといけない可能性もこの推計から考えられるのではないかと思います。

○翁部会長 あと2つ、どうされますか。
 ほかにもぜひ御発言されたいという方はいらっしゃいますか。よろしいですか。後でまた感想も含めて、もしありましたらぜひ御発言の機会を持ちたいと思います。
 では、駒村委員、短めに2つお願いいたします。

○駒村委員 
 もし未婚者が既婚者グループや多数派よりも特に男性の場合、寿命がかなり短いと考えると、マクロ経済スライドを相殺するために繰下げ受給をリコメンドしてもちょっとかわいそうなことになってしまうのではないかと思っていたのですけれども、この63ページについては男性のものもあるのでしょうかということが1つです。
 それから、この記述の中で女性の再婚率が半分まで下がっているというのはどういうことをもたらしてくるのかというのがこのページの質問です。
 次のページは、左側は特に結婚時のセレクション効果によって80年代はかなり寿命差が長い。これは、病気とか障害を持たれているのでそもそも寿命が短いし、結婚もちょっと難しかったという方だ。
 一方、未婚率が上昇してきているので、普通の方も障害のある方もない方もどんどん未婚グループに入ってきているので乖離がどんどん小さくなってきている。
 ただ、現実に50歳未婚率が3割近くまでになってきて、しかもそこは所得階層でかなりセレクションが効いている可能性も男性についてはあるという統計もある。低所得者が未婚になっているということで、やはりそこで何か寿命に差が出てくるような効果があるのではないか。この障害、病気によるセレクション効果と、所得階層による短命効果と、あとは結婚自体が何か男性の寿命に影響を与える。こういう3つぐらいのファクターがあると思うのですけれども、そういう研究があるのかどうか、ちょっと教えていただきたいと思いました。

○石井氏 御質問ありがとうございます。
 まず1点目、男性はやっているかということに関しては、一応男性もあります。ここでは女性だけ載せましたけれども、男性の多相生命表もございますので、そちらからもそういう指標は得られるということになります。
 あとは、再婚の確率が下がっているということなのですが、実はもう一つ上の離別する確率をご覧いただくと、離別する確率は上がっています。離別する確率は上がったけれども、そこからの再婚の確率が若干減っているとも考えられるので、ここでは離婚した女性の再婚する確率が減ったと書いたのですが、その前提としての離別というものの変化もあるということかと思います。
 それからもう一つ、64ページの男性の未婚者と未婚者以外の死亡年齢の違いということで、やはりおっしゃっているように乖離が減少してきたのは、昔は皆婚世代で未婚者が非常に少なかったということで、健康の状態があまりよくない人は結婚できなかったために、セレクションによって未婚者の死亡率が高くなったという影響が大きかったのがあると思います。
 ただ、それだけの影響ではもちろんなくて、おっしゃっているように、結婚することによるプロテクション効果があって、それが死亡率を下げる効果、そういった因果関係ももちろんあるので、それは多分両方の効果があって、その結果がこういうふうに現れているということだと思います。
 ただ、日本では例えば所得との関係という意味で言うと、所得階層別の死亡データというのは特にポピュレーションベースではないというのがありますので、もちろん地域を特定したり、あるいは標本調査などを用いて、社会疫学分野でSES別の死亡率を研究したものは日本でもあるとは思うのですが、ポピュレーションベースで行ったものはあまりないということではないかと思います。

○翁部会長 ありがとうございます。
 大変活発な御議論をいただきましてありがとうございます。もし最後に意見交換を通じてお気づきの点がございましたら、ぜひコメントを少しずついただければと思いますが、いかがでしょうか。
 寺井委員、いかがでしょうか。

○寺井委員 ありがとうございます。
 先ほど石井先生が、人口推計というのはいろいろな政策の基礎となる非常に大事な統計なんだということをまずおっしゃられて、その上で使用する上で限界もあるんだということもおっしゃったんですね。やはりまずは限界があるということをしっかり伝える大切さとともに、その前提値を改定して、そのときにもう一度財政検証をしていることから、財政検証と財政検証のピアレビューの重要性も改めて確認できたこの会でした。
 そういう意味では、私自身も人口推計を使った計算結果を解釈するときの注意点について非常に勉強になりましたし、年金数理部会の使命は何かを改めて確認した次第です。ありがとうございます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 それでは、小野委員いかがでしょうか。

○小野委員 昨年、報告をさせていただきまして、その際にドラッカーとかラプラスという数学者を引用しつつ、将来の不確実性を指摘させていただきました。例えば初期値鋭敏性だとか、あるいはバタフライ効果というのは、初期値のほんのわずかな誤差が将来を様変わりさせることというのを指摘しているということだと思います。
 自然科学の世界でさえもこのような状況ですので、複雑な利害関係を持つ組織が多数存在する合理的な個人ばかりではない現実の社会において、全てを方程式で記述できるのか、あるいはエルゴード性というのを前提とできるのか、さらには、初期値は正確に計測できるのか。こうした問題を無視する論というのは無責任でありまして、これは人口推計への安易な批判にも当てはまると思っております。
 本日のセミナーの眼目は、私は人口推計が人口投影であるということを理解していただくこと、これに尽きるんだと思っています。
 しかしながら、石井先生の資料の22ページを拝見しまして、人口投影への理解が難しいというのは万国共通のことだと理解しました。私たち専門家と言えるかどうかは分かりませんけれども、引き続き作成者、利用者、立案者、意思決定者との間の一貫性を改善するということについて協力すべきだというふうに感じました。
 以上でございます。

○翁部会長 ありがとうございます。
 そのほかに、ぜひコメントしたいという方はいらっしゃいませんか。
 佐藤委員、いかがですか。

○佐藤委員 1点だけ、ありがとうございます。
 最後のページの新しい子供のいない高齢者の対応ですけれども、この制度設計は時間がかかるということですので、ぜひ早めの対応が求められるかと思います。よろしくお願いいたします。

○翁部会長 ありがとうございます。
 ほかはよろしいでしょうか。
 それでは、野呂委員から一言お願いいたします。

○野呂部会長代理 人口推計は大変勉強になりましたし、とりわけ外国人の問題につきましては本当に大きな問題ということで大変認識を新たにいたしました。
 私事で恐縮なのですけれども、私は今、両親の介護をしているのですが、そういう施設、あるいは高齢者サービスで働く方のかなりが外国人でして、彼ら、彼女らなしではサービス自身が成り立たないという状況なので、今日のお話も含めて、そういう外国人の方にはぜひ年金に入っていただいて安心して長く働いてほしいなという思いが強いのですけれども、翻って考えますと、年金というのは外国人に限らず、日本で働いている労働者の方がどういうふうな働き方をして、どういう生活、どういう家族を持っているかということのある意味で鏡みたいなものなので、年金の入り方、あるいはその状況を見ることによって社会の実装が知れるのではないかと思って、そういう意味でもこうした我々年金数理部会の仕事そのものも大事だなということを実感した次第でございました。
 どうも今日はありがとうございました。

○翁部会長 ありがとうございました。
 私も大変勉強になりまして、いろいろな御示唆をいただいたなと思っています。
 まず投影という捉え方とか、あとは少子化や死亡の推移についても時間軸を持って年金について考えていく重要性とか、また駒村委員もおっしゃられましたけれども、国際人口移動の活発化がやはり財政検証に非常に大きな影響を与えるという御示唆もいただき、このデータの整備とか、または研究をさらに深めていく必要性とか、年金のデータの活用と発信の必要性とか、非常に重要であると感じました。
 また、個人的には外国人の第二世代とか、そういう人たちが日本にいていただけるように考えていかないと、年金の議論もできないので、そういう環境整備も非常に重要なことだなと思っております。
 あとは、最後の御説明の家族の姿の変化ですよね。高齢者モデルが変化してきているということを念頭に置いた検討の必要性も非常によく分かりました。大変有意義な意見交換と基調講演をいただいたと思っております。本当にありがとうございました。
 年金数理部会は、今後将来推計人口を前提として行われる財政検証の後に、ピアレビューを行っていくということで、その際には、本日の議論をぜひ参考に検討を深めていければと思っております。
 本日御視聴いただきました皆様方におかれましても、今後の年金数理部会の活動に是非注目し、また御支援いただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、これをもちまして本日の部会は終了いたします。長時間にわたり、皆様どうもありがとうございました。