2022年12月20日 第10回「精神障害の労災認定基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和4年12月20日(火) 18:00~20:00

場所

厚生労働省議室(9階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
厚生労働省:事務局

議題

  1. (1)精神障害の労災認定の基準について
  2. (2)その他

議事

議事録

○本間職業病認定対策室長補佐 定刻となりましたので、第10回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を開催いたします。委員の皆様におかれましては大変お忙しい中、会議に御出席いただきましてありがとうございます。今回は座長の黒木先生、吉川先生以外の先生方につきましては、オンラインでの参加となります。なお、三柴先生は遅れての御参加となります。
 はじめに、オンラインで参加される先生方へ発言の際のお願いです。マイクのミュートを解除した上で、お名前と発言があります旨の御発言を頂くか、又はメッセージで発言がありますと送信してください。その後、座長から「誰々さんお願いいたします」と指名がありますので、その後に御発言をお願いいたします。
 検討会に先立ち、傍聴されている皆様にお願いがあります。携帯電話などは必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。そのほか、別途配付しております留意事項をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて傍聴されるようお願い申し上げます。また、傍聴されている方にも会議室に入室する前にマスクの着用をお願いしておりますので、御協力をお願いいたします。万一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承ください。写真撮影等はここまでとさせていただきます。以後、写真撮影等は御遠慮ください。よろしくお願いいたします。
 次に、本日の資料の御確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1、第10回における論点、資料2、論点に関する労災補償状況、資料3、論点に関する医学的知見、資料4、論点に関する裁判例、資料5、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針、資料6、心理的負荷による精神障害の認定基準の改正に係る運用上の留意点について、資料7、改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き、資料8、第8回検討会の議論の概要、資料9、第9回検討会の議論の概要、参考資料としまして、団体からの意見・要望を添付しております。以上となります。
 本検討会はペーパーレスでの開催とさせていただいておりますので、お手元のタブレットで資料の確認をお願いいたします。
 それでは、座長の黒木先生、以後の議事の進行をよろしくお願いいたします。
○黒木座長 それでは始めさせていただきます。前回は個別事案を踏まえた検討をしましたが、今回は前回同様、まず、論点1として、「業務による心理的負荷評価表」の検討を行い、次いで、論点2として、「発病の有無、発病時期」について、論点3として、「精神障害の悪化及び個体側要因」による発病について、最後に論点4として、「療養、治ゆ及び再発」について検討したいと思います。まず論点1の「業務による心理的負荷評価表」の検討について、事務局から説明をお願いいたします。
○西岡補償課長 補償課長の西岡でございます。最初に、前回に引き続きまして、私から概括的に御説明をさせていただきます。「業務による心理的負荷評価表」の検討ですが、これまで類型1~7のうち類型4まで御検討いただきまして、今回は類型5・6・7の資料をお示ししております。今回の全般的な見直しの中でも、類型5のパワハラ項目に関しましては、支給決定件数が最も多い重要項目ということ、それから、前回改定の際の検討に関連する事項もあるということで、改めて私から説明をさせていただきたいと思います。説明内容につきましては、前回、第9回の繰り返しになる点もありますけれども、確認的に申し上げますので、御容赦いただければと思います。 資料は1-6ページを御覧ください。一番上の項目を、事務局で見え消しにさせていただいております。この項目の改正経緯につきまして、再度、簡単に申し上げますと、パワーハラスメントにつきましては、令和2年1月にいわゆる「パワハラ防止指針」が出されまして、その後、令和2年6月から職場におけるパワハラ防止対策が義務化された「改正労働政策総合推進法」が施行されたタイミングで本検討会で御議論いただき、認定基準においてもパワハラの項目を新設し、明記したところです。これにより、パワハラ事例については、それまで「(ひどい)いじめ・嫌がらせ」に関する項目で評価していたものを、この項目で評価するということになったものです。
 パワハラ防止指針では、パワハラに当たる行為として代表的な6類型の言動が示されているところですが、現行の基準におきましては、過去の支給決定事例等を参照いたしまして、類型中2類型の「精神的攻撃、身体的攻撃」に関するものを具体例に明記しておりますけれども、評価対象としては、この2類型に限定するものではなく、運用上は6類型全ての言動に係るものを対象としております。このため、項目名としましては、そこにありますように、「上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」ものとしたものです。今回、お示しいたしましたたたき台における主な見直しの点については、2点です。
 1点目は、6類型のうち、現在明記はしていない4類型の内容を追加するものです。これについては、前回改正後にライフイベント調査を実施いたしましたが、このほか、改正後の支給決定事例、これまでの裁判事例等を再度検討した結果、労災補償の観点から、御覧の案のとおり、今般の見直しにおいて、6類型全ての内容を負荷表に盛り込むこととしてはどうかと考えているところです。
 具体例の「中」「強」の関係につきましては、現行の2類型に関する内容と同じように、パワハラに当たる行為が継続的に行われるなど、執拗な場合に「強」としまして、執拗でない場合を「中」としております。なお、新たに追加する4類型の文言につきましては、先ほどの、いわゆるパワハラ防止指針の文言を引用しています。
 2点目は、「強」の具体例の記述の若干の修正です。上から2つ目の例で、現行では「身体的攻撃を執拗に受けた場合」としておりますけれども、これを「身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた場合」としてはどうかと考えております。他の「執拗に」の箇所も同様です。この箇所については、パワーハラスメントに当たると思われる言動に起因する出来事の労災補償上の評価といたしましては、令和2年改正の際の御議論ですとか、これまでの決定事例等を踏まえますと、基本的には「執拗性」を考慮する必要がある一方で、一層、分かりやすい表現にしたいと考えております。現行の運用上におきましては、令和2年改正の際の検討会の御議論を踏まえまして、この「執拗に」は継続の場合のみならず、単発の場合も含むこととしております。このため、継続している場合はもとより、単発であってもひどい場合も含むことを表現するために、「身体的攻撃を反復・継続するなどして、執拗に受けた場合」としてはどうかと考えております。
 なお、この項目に関しては、1点補足して御説明をさせていただきます。これは、令和2年見直しの際に、パワハラに関する出来事の評価に係る運用に関しまして、重要な御指摘・御示唆を頂いた点でして、主に「パワハラ」の出来事と「上司トラブル」のような対人関係の出来事といった、関係する出来事の評価を適切に行うための対応です。
 対人関係の出来事の評価につきましては、従来「業務指導の範囲内」であるか、これを逸脱しているかの区分けをもって評価する出来事を分けておりましたけれども、パワハラの項目が出来ても従来どおりの運用をしておりますと、「業務指導の範囲内」であるか否かの区分けによって適切な評価・運用がなされないおそれがあるというものです。これにつきまして、現状では、まずは請求人御本人の申立てを基に、請求人が受けられた心理的負荷をいずれの出来事で評価することが適当かという観点で対応するということとしておりまして、結果として、「上司トラブル」の評価対象になる場合であっても、まずはパワーハラスメントの出来事に当てはめることを検討することとしております。
 また、労災補償担当部署では、パワーハラスメントに当たると思われる出来事の心理的負荷を適切に評価することが重要であって、パワーハラスメントに該当するか否かを厳格に認定することは目的ではありませんので、客観的な資料等でこれに該当するか否かが明らかでない場合であっても、すぐにパワーハラスメントでの評価をしないということではなくて、「当事者等からの聴取等によって被害者の主張がより具体的で、合理的である場合等については、職場におけるパワーハラスメントに該当する事実があったと認定できる場合に当たると考えられる」として、適切に評価するよう、課長通知で指示をしているところです。概括的な説明は以上でございます。
○西川中央職業病認定調査官 続きまして、本職からこの論点のその他の部分について御説明をさせていただきます。資料1-5ページを見ていただければと思います。こちらは、第7回、第8回の検討会の資料と形式は同じですけれども、第5回において御議論いただいた際の御指摘、その際の項目のたたき台と、今回のたたき台等を比較してお示ししたものとなります。第5回からの変更点としては、項目30の「ひどい」に付けていた括弧を外していること。また、項目36ですが、第5回の資料では、昇進で先を越されたということ、不利益な処遇という面に着目をしまして、「項目24に統合」と書いておりましたけれども、項目24については、処遇の理由をいろいろと例示したことですとか、あるいは具体例から検討しますと、この出来事に伴って問題となる心理的負荷としては、元同僚の方との職場における人間関係の変化に伴う面が大きいと考えられることから、項目24で評価することもありましょうが、項目35で評価することも多いというように思われまして、「項目24・35に統合」という形で修正しております。
 続いて、資料1-6ページと1-7ページです。心理的負荷評価表のたたき台です。全体といたしましては、これまでと同じ説明になりますけれども、総合評価の視点について検討要素となっている事項がなるべく漏れないようにするなどの修正を行っております。また、「強」「中」「弱」の具体例について裁判例ですとか、非公開で開催しました検討会で見ていただいた事例などを参考に追加しています。このうち一番上の類型⑤の項目25、パワーハラスメントの項目については、先ほど西岡から御説明をさせていただいたとおりです。
 それに補足いたしまして、※書きとして「性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含む」ということを明示している、このことはパワハラ防止指針においても明らかにされておりまして、労災認定上も、当然そのように運用しておりますけれども、注として記載することに、明示するという形で修正しております。また、更に「強」の具体例のうち、会社の適切な対応がなかった場合について、セクシュアルハラスメントの出来事と平仄を合わせる修正を行っているところです。
 続いて、類型⑥、同僚等から暴行又はひどいいじめ、嫌がらせを受けたとの項目です。令和2年の検討会におきまして、29と30の項目は行為者の性質で分けると、優越的な立場にある方からの行為については項目29のパワーハラスメントで、そうではない方からの行為については項目30で評価することとしていますけれども、このたたき台としては、項目29と同様の修正を行っているところです。
 項目31、上司とのトラブルです。上司とのトラブルとパワーハラスメントの区分については、先ほど西岡から御説明を申し上げたところですが、「パワーハラスメント」としての御主張があれば、まずはそちらに当てはめられないかという視点で検討しているところです。「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動がパワーハラスメントに該当することとなりますので、内容がそもそも業務上必要でなかった場合はもちろん、内容は業務上必要なもの、業務に関する指導などであった場合でも、態様が相当でなかった、行き過ぎであったという場合にはパワーハラスメントで評価するということです。一方で、内容は業務上必要で、態様も相当な範囲内であったということであれば、パワーハラスメントに該当しないことから上司トラブルで評価しているところです。
そういった形で項目29と31を区分し、また、同じように項目30と32と33を区分しています。項目31~33につきましては、支給決定事例等を踏まえまして事例の追加ですとか、具体例の追加とか説明の通知をするという修正をしております。
 次は、6ページの一番下が新規追加のカスタマーハラスメントの出来事です。この出来事は現在、項目30で評価しておりますので、基本的には項目30と同様な具体例を示しているところです。これに加えまして、パワーハラスメントでもありうるように、顧客等の言動自体の内容は業務に関連している。例えば、何らかの要求や指摘があった場合に、その要求や指摘、それ自体はあり得るもの、もっともなものであったとしても、その態様や手段が相当でない、行き過ぎであるという場合にはハラスメントになり、更にそれが執拗なものであれば、強い心理的負荷と評価できると考えられますので、そのような具体例も記載しております。なお、ここで顧客や取引先、施設利用者等というのは業務として接する相手方を想定しておりまして、そういった方に当たらない第三者からの暴行等につきましては、事件、事故といたしまして、項目1や項目2、重度の病気やけがをしたや、悲惨な事故や災害の体験、目撃をしたといったもので評価することと考えております。
 7ページです。上司が替わる等職場の人間関係に変化があったという出来事についても、統合した項目、事例も踏まえての具体例を追加しております。また、負荷表全体といたしましては、できる限り平均が1位の出来事についても「強」や「中」の具体例も示すようにたたき台を検討しているところですが、この項目につきましては「強」や「中」の具体例をお示しし難い。例えば上司が替わった、あるいは同僚等に昇進で先を越された、こういった出来事で強い心理的負荷ですとか、中程度の心理的負荷となるとすれば、その上司からパワーハラスメントを受けたとか、その同僚とトラブルが生じたとか、そういった場合となると考えられますので、そういった場合には項目29~32のいずれかで評価することになるものと考えております。
類型⑦、セクシュアルハラスメントを受けたの出来事については、「強」の具体例のうち、会社の適切な対応がなかった場合について、パワーハラスメントと平仄を合わせる修正を行っております。駆け足となりましたけれども、論点1の御説明は以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○黒木座長 ありがとうございました。事務局から論点1について説明がありました。また、資料1の5~7ページのたたき台で検討してはどうかという提案もありました。御意見や御質問がありましたら御発言をお願いいたします。いかがでしょうか、品田先生、何かありますか。
○品田委員 この点は、もう前回の検討会で相当程程度議論をして、ここまで到達したというところがあったかと思います。そういう意味で、全体の区分けについては問題はないと思っております。ただ、皆さんどう思われるか、もし御意見がある方があったらお聞きしたいなと思うのですが、改めて、裁判例などを見てみる中で、少し適切かどうか、検討が必要だなと思ったのは、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントにもあるのですが、「強」の例の中の最後、今ほど御説明にもありましたが、心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃うんぬんというところですが、その文面の最後の部分「適切な対応がなく、改善されなかった場合」という文言について、「適切な対応がなされなかった場合」では駄目なのかどうか、つまり改善がなされなかったというところまで求める必要があるかどうか、少し考えてもいいかなというような気がしました。
つまり、改善がなされなかったということは結果を求めているわけで、その結果に至る前に、多くの場合、恐らく発病等の状態になられたということをとらえるのではないかという気がするので、ここまでの、そもそも心理的負荷が「中」である以上、ここまでを求めるということが必要であるかどうか、私は少し検討してもいいのではないかというような感覚を持ちました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。今、品田先生がおっしゃった、その適切な対応をされたかどうか、これは1つの大きなポイントだろうというように思いますが、何か、この点について御意見はありますか。丸山先生、いかがでしょうか。
○丸山委員 裁判例というのはあまり詳しくはありませんが、実際の産業現場の例として、例えば、会社の中にいて、パワハラを扱うような委員会とかがあって、いろいろな議論をされて、しかし、通常は認められてもいいようなものが認められなかったり、何ら対応が適切にされない場合があるときに、「強」としての心理的負荷があるといったケースはあると思いますから、その改善があるかないかというのは案外、強度には影響があるかなと私は感じています。
○黒木座長 ありがとうございます。中野先生、お願いいたします。
○中野委員 項目29や30などについて確認させていただきたいのですが、29について御説明いただいたときに、もしかすると私の理解が追いつかなかったのかもしれないのですが、「反復・継続するなどして」という赤字の文言を付け加えるのは、何をもって執拗と判断するのかを明確にするためだという趣旨だと理解をしました。また、この言葉を加えることによって、現在の認定基準よりも判断を厳しくする意図はないのだというように思います。ただ、御説明の中で、単発で行われた場合であっても、程度がひどい場合には「強」のケースに含まれると言われたように思ったのですが、「反復・継続するなどして」という表現を加えることで、かえってその趣旨が分かりにくくなっていないか、特に「中」となる例の柱書きとして、行為が反復・継続していない場合と書かれているので、余計にそういった理解というか、ミスリーディングを招かないかという点がちょっと気になりました。
○黒木座長 ありがとうございます。事務局、いかがでしょうか。
○西川中央職業病認定調査官 事務局からお答えいたします。まず、事務局の説明についての中野先生の御指摘の内容はそのとおりです。これを追加する趣旨として、この「執拗に」の内容を分かりやすくしたいという趣旨で、かつ、現行の運用から厳しくするつもりは全くないと言いますか、現行の運用を正しく伝えたいという趣旨で「反復・継続する」ということと、「などして」ということは反復・継続すること以外にも、その執拗に該当する場合があるというようなことを示したいという趣旨で修文のたたき台を出させていただいたものです。ただ、この説明を聞いてくださった上で、そういったミスリードと言いますか、誤解を招かないかという御指摘を頂いたものと思っておりますので、いろいろとほかの先生方の御指摘も承った上で、どのような方法がいいのかということをまた御議論いただきたいというように思っております。事務局の趣旨としては、狭めるつもりもありませんし、反復・継続が必須だという趣旨でもないということです。
○黒木座長 よろしいでしょうか。
○中野委員 分かりました。「など」に深い意味が込められていることを理解しました。ただ、ちょっとそれが分かりやすく伝わるかどうかという点で、もう少し検討の余地があれば御検討いただくといいのかなと思いました。ありがとうございます。
○黒木座長 ありがとうございます。三柴先生、お願いいたします。
○三柴委員 項目29の、特に具体例について申し上げたいのですが、今回、新たにパワハラ6類型の全てを具体例として盛り込むという御提案を頂きました。賛成です。その上でなのですが、総合評価の視点との関係、特に、その出来事が起きた背景との関係をなるべく明示していただけないかなと、注意書き等でもいいのですが、明示していただけないかなと思います。方法はお任せしたいのですが。
その趣旨ですが、6類型の中には、もともと違法だったもの、違法扱いを受けてきたものとそうでないものがあります。例えば、切り離しとか過小要求というのは、必ずしも法令上規制されてこなかったと思うのです。これは何故かと考えますと、確かに対応によっては、ひどいショックを生むものであっても、社会生活の中で解消やカバーが可能と考えられてきたということだろうと思います。その前提で、特に精神障害に関する認定基準というのは、予防上もかなり参考にされる。例えば、どなたかが講演でメンタルヘルスの話をされるとなると、この認定基準を示して、こういうことはいけないんですよというようにアナウンスされることもありますので、補償の基準ではあるのだけれども、世間一般へのアナウンス効果というのも十分に考える必要があるとなると、要するに、あれ駄目、これ駄目ということで、通常のコミュニケーションまで阻害してしまうことが起きないように、必要な、上司―部下関係等は維持されるように、配慮をする必要があるかなというように考える次第です。以上です。
○黒木座長 ありがとうございました。ほかには、いかがでしょうか。荒井先生、何かありますか。
○荒井委員 今の三柴先生の御助言については、十分に考えなくてはいけないというように思います。それから、その結果を求めているという点については、実質的に、会社の中でのハラスメント委員会の結論と会社の意向が違っていたりとか、いろいろな面で被災者が救済されないというような状況も見受けられます。ですから、私のほうでは、できれば、社会的に、合理的な被災者に対する配慮がされた場合は、「強」には至らないというように考えるのが適正ではないかというように思います。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかには、いかがでしょうか。
○丸山委員 確認なのですが、31の総合評価の視点のところには、括弧付けで「経営者を含む」というのがあります。実際、29の項目でも、上司が経営者であるという場合が多いのですが、これは「等」というところに含まれているということで、あえて書かれていないという解釈でよろしいでしょうか。
○黒木座長 ありがとうございます。事務局、いかがでしょうか。
○西川中央職業病認定調査官 会社内において、優越的な立場にある者からの攻撃等をパワーハラスメントと評価しているということになりますので、経営者が行うものも、起因性は、やはり優越的な立場にあるというように考えられますので、少なくとも労災認定の運用上、含めて運用をしているところです。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかには、いかがでしょうか。
○田中委員 私も中野先生がおっしゃったところが少し気になっていて、現行の運用においても「執拗に」というところで、具体的には反復・継続している場合を中心に考えて、我々が所属している部会でも、1回であったとしても、ある意味「執拗に」と言いますか、一応、積極的に認めるというのは、あまり運用されていないような気がするのです。そういう意味では、1回でも執拗であれば認められるというところをもう少しはっきりと分からせるために、反復・継続は、あくまでも回数的なもののような気がするので、もちろん継続というところで「など」のところで、1回でも長くとかというところもあるかもしれませんが、多分、1回の場合には、いつまでも、ぐちぐちとしつこくというところがあると思いますので、これだと、反復・継続というニュアンスはちょっと違う。やはり、反復・継続という、主に回数、頻度を示す言葉と、「執拗に」という対応を示すのと、ちょっと異質なところがありますし、1回という場合には、特に「執拗に」というところが重きに置かれると思いますので、「執拗に」というところの説明が主に「反復・継続するなど」というよりは、「反復・継続的に」ということと「執拗に」ということを、少し分けて表現してもいいのかな、そのほうが運用上は分かりやすいかなというように、ちょっと感じたところがあります。
 あと、上司とのトラブルがあったというところで、心理的負荷の総合評価の視点では、トラブルに至る経緯や状況等というのが追加されたところで、これは大事なポイントだと思うのですが、具体的な例の中に、そういった総合評価の視点が具体的にはあまり反映されていないところですが、これをどのように考えたらいいのか、具体的な運用の中で、この総合評価の視点にはこうあったけれども、具体的に、どのように運用していけばいいのかというところも、書きにくいところもあると思いますが、可能な範囲で少し追加してもらうと分かりやすいかなと思っています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。このほか、事務局のほうで付け加えることはありますか。
○西川中央職業病認定調査官 御指摘については、中野先生や田中先生の御指摘も含めて検討していきたいというように思っております。ただ、今の運用としては、「強」の例のほうに反復・継続、今の現行の「強」の例は、上司等による、次のような精神的攻撃を執拗に受けた場合というような、この「執拗に」ということの中に、繰り返して何度も行われているということをもって「執拗に」という解釈といいますか、評価をしている事案も多々ありますので、並列で書くのがいいのか、執拗の中での説明として書かせていただくのがいいのかということは、引き続き検討をさせていただきたいと思っております。「などして」の部分が分かりにくいということについては、また検討をしていきたいと存じます。
 また、上司トラブルに至る経緯や状況等という総合評価の視点のところに、これはパワーハラスメントなどに、経緯や状況等ということがあるので、これに平仄を合わせるような形でたたき台として追加させていただいたものですが、実際には、業務指導の範囲内であるのか、業務指導として必要なもの、相当なものであるのか、あるいはそうではないのかといったような判断の中で、事実上、今でも考慮しているものであろうかなというようには思っております。どのようにしたら分かりやすくなるかということについても、引き続き検討してまいりたいと存じます。
○黒木座長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。ほかには、いかがでしょうか。小山先生、何かありますか。
○小山委員 今までに話されたことで、ほとんど大丈夫かなと思います。それから、一番最初に、会社の中で適切な対応がなく、改善されなかった場合というようなことがちょっと問題になりましたけれども、産業医が会社で現実を見ておりますと、ハラスメントがあれば、そういうハラスメント委員会なんかに本人が訴えて、その中で対応してもらうかどうかということになりますので、対応が十分なされなかったというようなこともありますし、また、そういう委員会がないということも問題になりますから、そういう意味からすれば、適切な対応がなく、改善がなされなかったというようなことを、きちんと言葉に書かれてもいいのではないかと思います。
 それから、上司のハラスメントのトラブルに至るその経緯というのが、確かに少し具体的に書いておかれたほうが分かりやすいだろうと思いますし、先ほどから問題になっている反復・継続というのも、読み方によれば、回数が反復・継続という読み方で、それが執拗という言葉に何か代表されるかなと思ってしまいますので、確かに、1回でも、執拗にされてというようなことがありますので、そういう意味では、ここら辺の表現の仕方というのを少し考えてもいいかなと思います。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。中益先生、何かありますか。
○中益委員 私からも今回、特に項目に関してはございませんが、今、31の説明などを伺いますと、例えば、「中」や「強」になるケースに関して、その業務の範囲内であるかどうかとか、これはパワハラですが、態様や手段が相当かどうかというところを考慮しながら強度を見るのだなという点に気付きますので、例えば、前に問題となった配置転換や懲戒処分であるとかといったものが、仮に、それ自体が強いストレスを生むとしても、その態様や手段が相当であるとか、業務の範囲内であるかどうかということを考えながら、つまり規範的に、既にこの基準内においてストレスの強度を判断する構造になっているのだなという印象を持っております。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。吉川先生、何かありますか。
○吉川委員 吉川です。先生方の御意見にほぼ賛成のところもあります。2点ほど追加しますと、最初に品田先生がおっしゃられた改善の部分については、適切な対応の中に、確かに改善をするというのが含まれるという考え方もあるかもしれませんが、こういうように、言葉が改善されなかったというのが残ることによって、結果を非常に重視されているというような形に残るとすると、予防的な部分にも活用されると考えれば、残しておいてもいいかなというように思いました。
 それから、議論の中で出てきていなかった顧客からのカスハラの点ですが、これも既に大分議論がされたところですが、この項目が新たにできるということは非常に大きな意味があることだと思いまして。特に、顧客という言葉が出てはいるのですが、取引先等から、かなり苦労されているような事例もあったりするので、この項目が加わるという点については、非常に重要だなというように思いました。
○黒木座長 ありがとうございます。阿部先生、何かありますか。
○阿部委員 私も先生方の御意見におおむね賛成なのですが、中野先生や田中先生が御指摘になった29のパワハラの反復・継続するなどして執拗に受けた場合のところなのですが、私は、「強」である1例を述べているので、このままでいいのかなというように逆に思ったということで、その典型的な例を挙げているということであれば、点などでも読み込めるのであれば、特に、確かに、ちょっと誤解があるかもしれないですが、より多くある事例の1例として、この書き方でもいいのかなというように思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかには、何か御意見はありますか。
○品田委員 皆さんの意見で、改善されなかったということについて入れておいたほうがいいという意見は納得しました。これでよいかと思います。今ほど、中益先生が御指摘されたことは、実は非常に重要なことで、事実関係を調べる場合に、それが適切なものであったかどうかという規範的な判断が事前になされるということの中で、この基準表に適合するのかどうかということに多少疑問があることは私も同意するのですが、実は、その上司とのトラブルについては、やはり、かなり実務上の要請があるというところが背景にあるかと思います。
つまり、多くの場合、被害に遭ったという方は、先ほどの事務局の説明でもあったように、パワハラの被害に遭ったというように主張されるかと思います。その中において、当該パワハラであるかどうかは、既に、パワハラの概念が明確になっていることから、29への該当性はそこで判断される。したがって、当該主張がパワハラの概念には当たらないというようなことが、判断において上司とのトラブルという形で判断するというわけでありまして、ある意味、ここはかなり特別と言いましょうか、規範的判断がこの31に該当する中で判断されることになるというわけでして、懲戒や配置転換等において、事前にそうした規範的判断が前提になるというわけではないというように説明すべきかと思います。以上です。
○黒木座長 どうもありがとうございました。それでは、皆様の御意見を事務局のほうで取りまとめていただきたいと思います。
 次に進みます。本日の論点2です。発病の有無、発病時期、精神障害の悪化及び個体側要因による発病、療養、治ゆ及び再発について、事務局から説明をお願いいたします。
○西岡補償課長 補償課長の西岡です。これらの論点のうち、精神障害の悪化に係る論点について私から概括的に説明いたします。こちらも前回の繰り返しになりますが、その点を御容赦いただければと思います。これに関する現行の認定基準ですが、資料1-10のBの右側にありますように、「業務以外の原因や業務による弱い(「強」と評価できない)心理的負荷により発病して治療が必要な状態にある精神障害が悪化した場合、悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められていることをもって、直ちにそれが当該悪化の原因であるとまで判断することはできず、原則としてその悪化について業務起因性は認められない。ただし、別表1の「特別な出来事」に該当する出来事があり、その後おおむね6か月以内に対象疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合については、その「特別な出来事」による心理的負荷が悪化の原因であると推認し、悪化した部分について、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う」とされております。精神障害の悪化の場合については、「特別な出来事」が認められる場合にのみ業務起因性を認めるとしているところです。
 そしてこの基準については、平成23年の認定基準策定時取りまとめられました「検討会報告書」における考えによるものとなっておりますので、その内容を改めて申し上げます。①「既に軽度の精神障害を発病している者が、新たな心理的負荷を要因として精神障害を重症化させることは、臨床において経験することがある。このため、既に業務外の精神障害を発病している労働者が、発病後に生じた業務による心理的負荷が要因となって、精神障害を悪化させることはあり得る」ことを前提としつつ、②当該者の個体側要因、つまりは脆弱性の問題ですが、「一般に、既に精神障害を発病して治療が必要な状態にある者については、病的状態に起因した思考から自責的・自罰的になり、ささいな心理的負荷に過大に反応するのであり、悪化の原因が必ずしも大きな心理的負荷によるものとは限らない。また、自然経過によって悪化する過程において、たまたま業務による心理的負荷が重なっていたにすぎない場合もある」とした上で、③「このような精神障害の特性を考慮すると、悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められたことをもって、直ちにそれが精神障害の悪化の原因であるとまで判断することは現時点では医学上困難であり、したがって、業務起因性を認めることも困難といわざるを得ない。」、④「これらの事情も勘案して、既に精神障害を発病している労働者本人の要因が、業務起因性の判断に影響することが非常に少ない極めて強い心理的負荷があるケース、具体的には「特別な出来事」に該当する出来事があることを要する現行の取扱いに至ったところです。
 そしてこの基準により10年以上運用してきた現状において、これまでの医学的知見や臨床医学の実情等に加えて、これまでの裁判例など様々な事例の蓄積の中で、改めてこの取扱いをいかにすべきかということについて十分な御検討をお願いしたいと考えております。
そこで、現時点における我々事務局としてのたたき台です。1-10ページの論点3のBの下に書いてあるように、基本的には現行の取扱いを維持しつつも、これに加えて強い心理的負荷が認められる場合に、医学的な検討によって業務起因性があると認められる場合があることを、認定基準上明記することとしてはどうかと考えております。その理由ですが、『①確かに、基準策定当時においては、精神障害の悪化の場合、「悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められたことをもって、直ちにそれが精神障害の悪化の原因であるとまで判断することは困難」を伴うものであるとされたところです。これは現時点でも同様ですが、これまでの事例の蓄積を踏まえて、改めてこれらの事案による事案ごとのそれぞれの状況を個別に見た上で、業務による心理的負荷が「悪化」の原因といえるか否かを、臨床医学的な見地、労災補償の観点から判断し得るケース。つまりは、労災保険給付の対象とし得るケースが皆無とまではいえないのではないか。その上で、③現時点における医学的な御判断によるところもありますが、皆無と断定できない以上、本人の個体側要因のほか、症状悪化の態様や、これに至る経緯、その間に生じた心理的負荷の強い出来事の影響度等を総合的に評価した上で、業務による心理的負荷が相対的に有力な原因であるか否かといった観点で業務起因性を判断することは可能であると思われること。』
 以上のことから、事務局として現時点における見直し案を示しております。前回、非公開の場でも事例を参照しながら様々な御意見を頂きましたが、改めていろいろな観点から御検討いただきたいと考えております。たたき台の第2段落の「特別な出来事」がある場合については、その心理的負荷が悪化の原因であると推認するという現行の取扱いを、端的に示したものです。第3段落は、こちらでは特別な出来事に該当する出来事がなくとも、悪化の前に業務による強い心理的負荷が認められる場合には、業務による心理的負荷、個体側要因と業務以外の心理的負荷の状況に加えて、悪化の態様やこれに至る経緯等を十分に検討し、業務による強い心理的負荷によって精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したものと医学的に判断されるときに、業務起因性を認めるという内容となっております。
 この件については、とりわけ平成23年の検討においては、最終的には医学的な判断として現行の基準の内容とされたところです。検討に当たっては、改めて臨床医学経験則からも妥当といえるか否かといった観点から御意見を頂きたいと考えておりますので、御検討のほどよろしくお願いいたします。以上です。
○西川中央職業病認定調査官 西岡から、論点2~4のうち悪化の業務起因性に関する3のBについて説明いたしました。私からそのほかの論点について、資料と併せて説明いたします。論点2~4については、前回非公開の検討会で事案と併せていろいろと御検討いただいたところ、そこでいただいた御意見を踏まえて論点を記載しております。この2~4まで、いずれも関連してまいりますので、続けて説明いたします。
 資料1-8ページから御覧ください。論点2です。Aが発病の有無、Bが発病の時期です。発病の有無については、判断が難しいのは治療歴のない自殺の場合や、他の精神障害をお持ちの場合ということで、これをA1、A2に分けております。まずはA1自殺の場合です。右の参考事項欄に補償状況を示しております。具体的には資料2の3ページですが、労働安全衛生研究所で実施いただいた認定事案の分析結果ですが、自殺事案で受診歴がある者は36%、残り64%は受診歴がない、すなわち精神障害を発病したという医学的判断を受けていない者になります。このため発病の有無は非常に問題になり、原処分においてもまた裁判所においても、発病なしと判断された事案も稀ではないところです。とはいえ、圧倒的に多くの自殺事案は、受診歴がないものであっても、何らかの精神障害の発病があったと判断されています。参考事項欄に医学的知見を示していますが、自殺について「精神疾患ではうつ病、統合失調症、薬物・アルコール関連障害で自殺が多い」とされています(資料3-7頁)。また、平成11年報告書でも「自殺に精神障害が関与している場合が多い」と整理されています。前回検討会においても、その整理は引き続き妥当というご意見が大勢であり、その方向で論点をまとめておりますが、確認をお願いしたく存じます。
 続いて、A2は他の精神障害を有する者の発病の有無の判断についてです。事案を前回非公開でご覧いただきましたが、自殺事案以外に「発病なし」と判断された事案では、請求された内容は、他の精神障害、既にある精神障害の症状の変動・悪化と判断され、精神障害の発病ではないとしたものがあります。一方で、他の精神障害、例えば発達障害やパーソナリティ障害を有していても、さらにそこに新たにうつ病、適応障害などを発病、つまり併発したと判断された事案もあります。こういったものを踏まえて先生方に御議論いただいたところ、論点に記載したとおり、ある既存の精神障害をお持ちの方が、新たに別の精神障害を併発されることもあれば、もともとの精神障害が主たる病態であって、その症状の現れにすぎない場合など様々な場合があり、これらの鑑別については個別事案ごとに先生方の御判断によるほかないという御指摘であったかと存じます。その上で、そのように専門家の判断によらざるを得ないものであるからこそ、監督署では例えば通院中の事案であっても、症状の経過や出来事について十分調査を行って、それをもって専門家の先生方に御相談できるように、予断をもった調査となってしまうことのないよう注意喚起の徹底が必要という御指摘も踏まえて、こういったことを明示してはどうかという論点としております。こちらも前回の御議論の方向性に沿ってまとめたつもりですが、確認をお願いいたします。
 続いて1-9ページ、発病の時期です。発病の時期は出来事評価の期間の起点になるという意味で認定上重要なもので、多くの事案では○月の上旬、中旬、下旬、あるいは○月頃といったような形で主治医の先生、あるいは専門医、専門部会の先生方に診断基準を満たす時期を特定いただいております。ただ、どうしても事案によっては特定が難しい場合があり、その際にもできる限り先生方に時期の範囲を絞り込んだ医学的意見をお願いして判断していくほかはないところですが、その際に参考としていただく記載にどのようなものができるかという論点です。
 現行認定基準ですが、*の1つ目、出来事との関係において強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病をしたかもしれない、発病の兆候と理解をし得る言動があるけれども、発病時期の特定が困難だというような場合には、この出来事評価を漏らさないように出来事の後に発病したものと取り扱うという記載があり、前回特段御異論の御指摘はなかったものと考えております。
 また、精神障害の治療歴のない自殺事案ですが、もちろん先ほどの精神障害を発病していたと考えられるという専門家の先生方の御判断あっての上ですが、その上で診断基準を満たした時期の特定が困難な場合には、遅くとも自殺日までには発病していたと判断するということについても、前回の御議論の方向性に沿ってまとめたつもりです。こちらも確認をお願いいたします。論点2については以上です。
 続いて論点3、発病後の悪化及び個体側要因による発病についてです。10ページを御覧ください。西岡からは論点3Bについて説明いたしましたので、それ以外の部分と資料について説明いたします。
Aは、そもそも悪化とは何かです。正に治療中の精神障害をお持ちの方の精神障害が悪化したという場合の業務起因性の判断枠組みは、健常な方、あるいは過去に精神障害の既往があっても既に治った方の新たな発病とは区分をした判断枠組みを使っているわけですが、そういった悪化の枠組みを用いるべきものがどういう状況かという論点です。
A1、悪化とされる状況を具体的に示すことが可能かということについて、前回の御議論では事案も踏まえつつ、就労できなくなった場合や自殺に至った場合なども含めて、個別事案ごとの判断とするほかない、専門医の先生方に御判断いただくほかないという方向であったかと存じます。
 これに関する医学的知見として、資料3に幾つか紹介しております。自殺については、医学的知見の7ページに、うつ病では初期と回復期と躁うつ混合状態のときに自殺が起こりやすいというような教科書の記載があります。また資料3-15~17ページにかけて、こちらは加藤敏先生の講演ですが、同様の指摘がなされております。34ページの黒木先生はじめ、日本産業精神保健学会の検討委員会でおまとめいただいた見解においても、自殺というのは発症時点と症状の軽快過程で現実との直面化が行われた場合に生じることが多いというような整理がなされております。
 36ページからは、厚生労働省で委託事業としてお願いしました文献収集の結果です。こちらは悪化に関する文献も収集をお願いしたところですが、検索の結果、収集できた文献が4件にとどまり、悪化の判断基準、悪化の基準も研究によって様々であったというような結果です。資料1に戻ります。こういったことを踏まえて、事例や医学的知見を踏まえると、前回の御議論ではやはり事例ごとに考えていかざるを得ないということで、これについて御意見をお願いいたします。
 併せて同じ10ページの下、A2です。労災保険の業務起因性の判断としては、通院中の方であってもあえて治療中の精神障害の影響、すなわち個体側要因の影響の大きい「悪化」という判断枠組みではなく、新たな発病として、通常の枠組みで判断すべきものも少なくないのではないか。これについてどのようなことを認定基準に示していくべきかといった論点です。
この考え方は、次の11ページにあります平成23年の報告書の下から2つ目の「また」の段落に書いております。事案に即して説明いたします。12ページを御覧ください。悪化などに関して国敗訴となりました裁判例の概要を時系列で記載したものです。悪化の枠組みに関しては、これまで裁判では3件敗訴しており、上3つがその事案です。一方で一番下のB18の事案ですが、内容はよく似ておりますが枠組みが違うもの、発病から自殺まで約3年以上あり、その間通院しつつも安定していた状態で通常勤務を行っていたという事案です。悪化としてではなく、通常の枠組みで判断すべきとされたものです。こういった判断の仕方は、平成23年の報告書にもそのような判断の仕方をすべきものが少なくないということが書かれております。
 10ページに戻ります。報告書を踏まえ、原処分段階でも部会でこのような判断を行っていただいている事案は多々ありますが、このことが認定基準に記載されていないので、認定基準にも明記すべきではないか。また、このような事案を平成23年報告書では「治ゆ(症状固定)後の新たな発病」と表現をしておりますが、裁判例、その他の事例に即してより分かりやすくするために、A2の本文、論点のところでは「症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな発病」という表現としております。そして、このような状況にあって通常の認定基準で判断すべき事案と、やはり悪化の枠組みで判断すべき事案の区分について、もちろん個別に医学的に御検討いただくものではありますが、その検討の参考として、この「症状が安定して通常の勤務を行っていた期間」、この一定期間の目安を示すことができるかどうかについてなど、御議論を頂ければと思います。
 その上で、やはり症状が安定していたとはいえず、悪化の枠組みで判断をせざるを得ない場合の業務起因性を論点としたのがBで、先ほど西岡から説明したところです。本職からはBについては参考事項のみ説明いたします。
まず補償状況の関係です。右側の欄に、細かくは資料2-5ページに書いてある補償状況を記載しておりますが、悪化について業務起因性を認めた事案は、ここ10年間で20件、いずれも特別な出来事があって悪化したとの判断をしているものがあります。一方で強い心理的負荷があったけれども、特別な出来事ではなかったということで業務起因性を否定した事案は、把握されているものとしては10年間で5件あります。
 裁判例は先ほども説明しました12ページを御覧ください。12ページのBの番号は資料4と対応しておりますが、上3つは裁判所が悪化の事案と判示して、その上で、必ずしも特別な出来事を求めなかった、業務起因性を認めたというものです。B30は発病から自殺まで約6か月と経過が急な事案ですが、B40や追加の事案は、当初の発病からかなり経過しての症状変動の事案で、判決文においても「寛解に近い事案であった」ことが考慮されているものです。
 なお国勝訴事案では、悪化の場合の判断枠組みについて現行認定基準を是認して、特別な出来事がないことのみを判断したものは多々あります。このような状況を踏まえつつ、西岡から説明しました論点Bについて御検討を頂ければと思います。
 論点3のCです。11ページ、「個体側要因により発病したことが明らかな場合」の例示についてです。前回非公開で事例を踏まえて御検討を頂いた際には、こういった「個体側要因により発病したことが明らかな場合」を、個別事案の判断としてではなく、一律の例示として認定基準に書き込むことは困難であるという方向性であったかと思います。そのように論点に記載しておりますが、御確認をお願いいたします。
 最後に論点4、13ページを御覧ください。療養、治ゆ及び再発についてです。精神障害に限らず労働災害で被災された労働者の方の社会復帰の促進は、労災保険制度にとって重要な課題です。この観点から精神障害の療養等についてどのような事項を示すことができるかという論点です。
まず精神障害に限らない労災としての用語の定義ですが、治ゆというのは症状が安定し疾病が固定した状態にあることを指しております。慢性の症状は持続しても医療効果、改善を期待し得ない状態です。全快、全治すれば一番よいわけですが、障害が残る場合もあり、それらの後遺障害については障害補償給付が行われます。この治ゆ・症状固定の状態になりますと障害補償給付が行われる一方で、療養補償給付や休業補償給付は行われなくなります。ただ症状固定後も、症状の増悪防止等のためにアフターケアという制度も設けており、症状固定後の診察や投薬等を規定の範囲内で労災保険でお支払いする部分があります。こういった障害認定基準やアフターケアについては、16ページ以降に概要を示しておりますが、後ほど御覧いただければと思います。
 精神障害について右側に労災補償状況を記載しておりますが、詳しくは資料2-6ページに書いてあります。令和2年度に新規に1年以上となった方は354人いらっしゃいます。治ゆ・中断の方が161人で、治ゆ・症状固定になられる方もいらっしゃるわけですし、また新規に労災認定された方は当該年度527人で、全員が1年以上療養ではありません。そうはいいましても、やはり毎年長期療養の方が増えている状況にあります。資料2には、3年以上の長期療養者となる精神障害の方の数が5年前に比べて大きく増加しており、全体に占める割合も5年前の倍近く、全体の8%近くになっていることも示しております。長期療養となると社会復帰が難しくなるという状況もあり、社会復帰の促進が非常に重要な課題と考えております。
 そこで論点4のA1です。療養や治ゆ・症状固定に関する考え方について、より主治医などの皆様の御理解を深めるためにどのような事項を示すことが適当かということです。右の欄に現行の認定基準を記載しており、この趣旨を変えるものではありませんが、主治医等の関係者の理解を得やすいように記載を修正するたたき台を示しております。
たたき台の第1段落は現行基準と同じです。第2段落は、「例えば、精神障害の症状が現れなくなった又は症状が改善し安定した状態が一定期間継続している(「寛解」後「回復」した場合)といった場合や、社会復帰を果たすためのリハビリテーション療法等リワークなどを終えた場合であって、通常就労が可能な状態に至ったときには、投薬等を継続していても通常は治ゆ(症状固定)の状態にあると考えられるというものです。
 資料3-9ページに、うつ病の治療経過の概念図が示されております。これは薬がよく効いた場合のモデルで、全ての事案がこういったよい経過をたどるわけでもないですが、うつ病になって症状が悪くなる、薬が効いて薬に反応して症状が改善しておおむね問題ない状態になる。この状態、安定した状態が一定期間続いていく。そういった一定期間継続した段階で治ゆ・症状固定と考えるという趣旨での記載です。
 資料1-13ページに戻ります。そこまでよくならない場合、「寛解」との診断がない場合でも、先ほどの改善の見込みがないという場合には治ゆの状態にあるものと考えられます。この場合の症状固定の判断は専門医の意見等を踏まえて、慎重かつ適切に行うことを示しております。よくなるときと改善の見込みのないときとの双方について、モデルも踏まえて具体的に記載し、主治医等の理解を深めることができないかというたたき台です。御意見を頂ければと思います。
 続いて論点A2です。社会復帰の促進の観点から長期療養者の増加は大きな課題で、療養を継続しながら就労することが可能と医師が認める方については、社会復帰を推進する体制整備が重要ではないか。併せて療養期間の目安について、あらかじめ示しておくことが被災労働者の方などが療養の見通しを立てて、円滑な社会復帰を促進するために重要ではないかということです。
 右の欄に医学的知見を示しておりますが、資料3の10番の文献、療養期間が長期にわたると、文献では3年未満で治ゆした事案と5年以上治ゆしていない事案を分けて分析したときの結果が載っております。やはり長期療養の方は、社会復帰に至る割合が低くなっています。また11番の文献、資料3-64ページの表に、ここに示したデータが載っております。精神障害により休業した方の約7割は1年以内に職場復帰をしており、復帰までの期間の中央値は約4か月と、それ以上長く掛かってもなかなか復帰する方が増えていかないという文献もあります。症状が重い方がなかなか職場復帰できないという側面もありますが、また一方で早期の職場復帰、復職支援は円滑な社会復帰のために重要という側面もあるかと思います。
 その上で社会復帰の促進のための論点の詳細として、ここに幾つかポツで書いてあります。関係機関との連携を図って長期療養者の社会復帰に取り組む必要がある。また療養期間の目安については、右の医学的知見のところにある教科書や診断ガイドラインの規定を基にした目安を示すことができないか。また職場復帰が可能とならない場合も含めて、産業医の先生方の御見解を踏まえて、療養開始から1年6か月~3か年当たりが経過した時点で医学的判断を求めていく必要があるのではないか。
さらには、こういった職場復帰支援に関する制度や、療養期間の目安、労災保険制度以外の様々な支援制度も含めて適切な情報提供を行うことなどによって、被災労働者の方や主治医の御理解を深めていく必要があるのではないか。こういった様々な取組の重要性について御指摘を頂きつつ、さはさりながらこの検討会は労災認定の基準に関する検討会、業務上外に関する検討会ですので、ここでは取組の必要性等について御提言を頂くにとどめ、社会復帰支援の詳細に関してはこの認定基準の問題とは別途検討を深めていくことが必要ではないかという整理をしております。これらの論点について御意見をお願いいたします。
 最後のBは、対象疾病が一旦治ゆ・症状固定した後、再びその治療が必要な状態が生じた場合の取扱いです。精神障害については日々新たな心理的負荷の影響があるために、こういった場合については新たな発病として、その際の心理的負荷を新たに検討して判断しております。精神障害の特質に即した取扱いで、前回の検討会でも妥当と考えてよいとの御意見であったかと思いますが、御確認をお願いいたします。長くなりましたが、資料2~4の説明は以上です。論点ごとに御議論いただければと思います。よろしくお願いいたします。
○黒木座長 ありがとうございました。ただいま事務局から論点2~4までの資料の説明がありました。はじめに資料1-8ページの論点2、「発病の有無、発病の時期」について検討します。
 まず発病の有無についてA1、「治療歴のない自殺事案」、A2、「他の精神障害を有する者」の発病の有無の判断について、まとめて御議論いただければと思います。自殺事案については精神障害が関与している場合が多いと整理すること。また既存の精神障害を有する者については併発の場合もあれば、もともとの精神障害の症状の現われの場合など様々な場合があって、鑑別は医学専門家の判断によるほかなく、適切な調査が実施されるよう、その旨を明示することが示されています。
 論点は前回の御議論を踏まえた方向性となっているかと思いますけれども、御意見、御質問をお願いいたします。御発言があればよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。小山先生、何かございますか。
○小山委員 前回も申し上げたとおり、自殺というのは詳しく状況を、経緯を見ていけばいつ頃に発症したかというのが分かりますので、そういう情報をしっかりとつかまえるという、そういう意味からやはり専門の先生に判断を任せるということでいいのではないかなと思います。
 それからまた悪化か新たな病気の併発かというのも、薬は飲んでいても飲んでいなくても、治療をやっていてもやっていなくても、一定期間ある程度仕事に就いていられる、前と同じような仕事に就いているかどうかは別としても、ある程度の仕事に就いていられるような状況ならば、一応症状固定、寛解になるのですか。寛解、症状固定として良くなったと見て、それ以降に発症するならばまた新たな発症と見て、そのときに因果関係がどうであるかというのをきちんと判定すればいいかなという、大体この前論議していたのをうまくまとめていただいているかなと思って聞いていたのですけれども、それぞれ職場のところでどうかなと思う点はありますけれども、本質的には今説明されたので、大体私としては納得という感じで聞いておりました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。既存の精神障害の場合にはある程度一定期間安定した状態が続いた後に、悪化するなりということは新たな精神障害ということで、また再度カウントするということもあり得るということなので、ほかにいかがでしょうか。荒井先生いかがですか。
○荒井委員 これは純粋に医学上の寛解・治ゆ論と、補償学上の症状固定・治ゆというものを頭の中で整理していくことが必要になると思っています。それの方法としては一番私たち臨床医が事案について適切な判断ができる根拠は、多くの労働局でされているのですけれども、病歴を症状、就労の有無、それから薬物療法あるいはリハビリテーション等を時系列的に並べて、どの時点で治ゆし、どの時点で悪化し、あるいはどの時点で寛解しているのかということを、根拠をもって判断できるケースもありますので、そのような事案の情報の収集が非常に大事だと思いますし、一定期間の寛解後に新たな発病という言葉がありましたが、そういうふうに採用して、その前の半年を評価して過去に既往歴として精神障害がおありになる方でも、寛解後の発病というものを承認するということが、今の事務局からも説明がありましたけれども、妥当な判断だろうと思っています。
 ですから用語の整理が医学上の治ゆ・寛解、それから補償学上の症状固定・治ゆというものを明確にしていくことが重要になってくるのだろうと思っています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。この件に関しては他にどうでしょう。丸山先生、何か御意見ございますか。
○丸山委員 まず自殺について、これは海外の心理学的剖検の報告からも大体85~95%ぐらいは精神障害の発病があるということなので、これは大体そのように受け入れられていると思いますから、それでいいと思います。ただ発病の時期とかどういった精神障害を発病しているかということを見ていくのは、かなり悩ましいところもあります。
 なぜなら本人は自殺してもういないので、本人の申立てを聞き取ることはできないわけで、どうしても職場の周囲の方や、上司の方、それから家族、特に配偶者から聞き取ることになるが、どれだけ客観性があるかというところは悩ましいことがあります。この辺りはやはり先ほどからお話があるとおり、専門医の医学的な判断というところが重要かと思います。
 それから療養の長さですよね。先ほど一定期間という表現がありましたが、その一定期間というのがどの程度を指すのかというのがまた悩ましいのです。これについては具体的にある程度数字を示すのがいいのか、数字を示した場合に、当然おおむねは治ゆ・症状固定するのだろうと思いますが、一部には治療が非常に長期化するという場合もあるので、それはきちんと補償していかなければいけない。ではその見極めを誰がするのか。その辺りも制度的にきちんとしておく必要があると思います。
 いずれにしろこの辺りは、医学的な判断が非常に絡んでくる部分ですので、労災的な判断というところも突き合わせながら、高度な判断が慎重になされていくべきだと思っています。
○黒木座長 ありがとうございます。認定の際にある程度一定の期間安定していれば、そこの時点を捉えて新たな精神障害が発病しているかどうかということで、「強」の出来事があるかどうかということを検討するということだと思いますけれども、田中先生、何か御意見ございますか。
○田中委員 今取りあえず、A1とA2ですよね。それについては前回も検討しましたし、事務局提案どおりで全くいいと思います。
○黒木座長 よろしいでしょうか。ほかに御意見ございますか。法律の先生方何か御意見ございますか。品田先生いかがでしょうか。
○品田委員 前回も申しましたように、基本的には医学的な判断に委ねるしかありませんので、やることはそのプロセスと条件を整えるしかないと考えています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。それではこの発病に関してはよろしいでしょうか。
○三柴委員 一言だけすみません。賛同の意ですけれども、今回の制度というか表現の改訂で、要するに症状の安定を重視するということだと思うのですけれども、それは補償法学上も適当ではないかと思います。結局、継続的な労働参加等の日常社会生活上の行動障害が見られないということになると思いますので、くどいですけれども、補償法学上も適当ではないかと考えます。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。それでは次に進みたいと思います。次に論点3、精神障害の悪化及び個体側要因による発病について検討します。Aのどのような状態を精神障害の悪化というかの判断についてです。具体的にはA1の悪化とされる状況を具体的に示すことが可能か。A2の症状の変化が生じる前の状況が一定期間通院・服薬を継続しているものの症状がなく、又は安定していた状況で通常の勤務を行っていた事案については、ここで言う発病後の悪化の問題としてではなく、症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな発病として、認定要件に照らして判断するものが少なくないということで、この件に関しては今議論したということでよろしいでしょうか。
 次に精神障害が悪化した場合の業務起因性ということで、これをどう考えるかということです。前回の議論も踏まえて、このたたき台の資料の1-10で示されていますけれども、これまでの特別な出来事に基づく判断に加え、特別な出来事がなくても業務による強い心理的負荷がある事案については、精神医学的検討により、悪化の態様なども精査した上で、業務による強い心理的負荷が、既存の精神障害の自然経過を超えて、これを著しく悪化させたと認められる場合には、業務起因性を認めてもよいのではないかという議論です。これについて御意見お伺いしたいと思います。いかがでしょうか。前回も議論した部分ですけれども。荒井先生。
○荒井委員 繰り返しになりますが、先ほど申しましたように症状固定あるいは治ゆ状態から新たな発病があるということを、一つの前提としてその時点では強い負荷があったとすれば、業務上の災害とみなすという整理が分かりやすいと思います。今までの慢性的に悪い状態が続いていて、それが更に悪化したという前提よりも、今のいろいろな事例のシェーマというか時系列な病歴を見ますと、一時期は良くなって、その後安定していた時期から悪くなっていたというのを見ることが多いので、そこは新たな発病という整理でこの特別な出来事を求めないということ。あってもいいのですけれども、「強」であっても外というのは、そんなに多くはないと考えています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。これに関していかがでしょうか。既存の精神障害があっても、今までは特別な出来事でないと業務起因性が認められなかった。しかし状況によっては既存の精神障害があったにしても、強い心理的な負荷があれば業務上として検討するという議論であります。丸山先生いかがですか。
○丸山委員 まあ同様なのですけれども、やはり安定した時期に入っていけば、特別な出来事がなくても通常の悪化の「強」で認める場合があっていいかと思います。
○黒木座長 これは安定した時期でなくても、例えば強い心理的な負荷が非常に認められるという場合でも、これは業務起因性を検討するということでよろしいですか。
○丸山委員 はい。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかには御意見ございますか。
○田中委員 よろしいでしょうか。私も先生方と同じで、でも悪化の場合のみ特別な出来事を要件にするというのは、やはりちょっと厳しい基準だったと思いますし、実際に臨床的にも特別な出来事でなかったとしても、強い心理的負荷で自然経過を超えて病状が非常に悪くなるということはあることですので、今回こういった変更というのは非常にリーズナブルだと思っています。
○黒木座長 ありがとうございます。品田先生お願いします。
○品田委員 私も基本的には賛成なのですが、前回の検討会で御提示いただいた裁判例をその後少しゆっくりもう一度見てみたのですが、そうした中でやはり国敗訴の案件を見ていきますと、やはり行政判断とかなり感覚が違うといいますか、相違が明らかであるような気がしました。そうした中でやはり医学判断に委ねるだけでは、なかなか偏差を小さくすることが難しい案件もあるんだなという印象を持ちました。
 そうするとやはり特別な出来事がない場合、該当しない場合においても、発病後の悪化と見て業務上と認定されるような要件については、ある程度詳細に示したほうがいいのではないかと改めて感じました。そういう意味で今回御提示いただいた提案は、前回の議論をかなりしっかりとまとめていただいていますので、またその内容及びその視点においても、私はかなりいいのではないかという印象を持っています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはよろしいでしょうか。
○阿部委員 「特別な出来事」に更に例外の書き方を追加したという点は、私も賛成なのですが、何か特別な出来事がない場合にも「強」の場合に認められる場合があるという、最後の書き方の些末なことなのですけれども、書きぶりとして「また認めることとする」という意味の書き方なのですけれども、例えば原則としては特別な出来事が必要だけれども、しかしそうじゃない場合でも認められる場合があるとか、そういう書き方のほうが特別な出来事の例外ですよというのが分かりやすいのではないかと思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ここは事務局のほうで書き方をちょっと検討していただきたいと思います。荒井先生。
○荒井委員 今の阿部先生の例外というか、先ほどおっしゃいましたように、治ゆ状態あるいはある程度精神的な状態が良くて、新たな発病を認定できるのが一つの代表例だろうと思っております。いままではそこに「強」を求めていたわけですが、もう少し病歴を詳細に見ますと、一定期間服薬していても通常就労をしていて、ある強い出来事があってその後新たな発病をするという考え方で、特別な出来事を求めないということだろうと思うのですが、それをどういうふうに書くのかは、これまでの特別な出来事を少し求めすぎていたところを緩和していくというか、見直したということを書いていただくことになるのだろうと思います。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。一定期間、安定した状態でなくても、既往の精神障害が特別な出来事によって悪化した場合には認めるのは、今までの現状です。しかし、特別な出来事でなくても、いわゆる強い心理的な負荷があって、自然経過を超えて悪化したという場合も業務起因性を検討するということでよろしいでしょうか。ありがとうございます。ほかには御意見はありますか。大丈夫ですか。今の御意見は、また事務局で取りまとめるようにしていただきたいと思います。
 では、次に論点3Cについてです。「業務による強い心理的負荷が認められる事案であって個体側要因によって発病したことが医学的に見て明らかな場合を例示すること」についてです。これについては、前回、御議論がありました。明らかな場合の例示は困難でないかとの方向性があったと思いますが、これについて、御意見は何かありますでしょうか。よろしいですか。田中先生、いかがですか。
○田中委員 そうですね。明らかなものを例示していくのは少し難しいことだと思います。
○黒木座長 ほかの先生方、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは、論点3の検討を終わります。
 次に資料1-13ページ、4、「療養、治ゆ及び再発」について検討します。まず、A「被災労働者の社会復帰に資するため、精神障害の療養等についてどのような事項を示すことができるか」について検討します。はじめにA-1、「療養、治ゆ(症状固定)に関する考え方について、より主治医等の理解を深めるために、どのような事項を示すことが適当か。」についてです。たたき台も示されています。これについて御意見、御質問があれば御発言をお願いいたします。
○丸山委員 丸山です。よろしいですか。
○黒木座長 丸山先生、どうぞ。
○丸山委員 先ほど、少し先走って言いましたが、この部分の「一定期間」という表現ですが、これはどの程度を指すのかが、案外悩ましいところです。具体的な、例えば、年数を示すのか、その辺りをここで検討していただければいいかと思いますが、いかがでしょうか。
○黒木座長 ありがとうございます。いろいろ文献等については示されていますが、先ほどお話されましたが、再度、事務局から具体的なことをお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 事務局から御説明をさせていただきます。まず、A1には療養や治ゆ(症状固定)に関する考え方を概括的にお示しをしたものです。事務局として提示させていただいたこのたたき台にあるように、ここのたたき台では「一定期間」という書きぶりで書かせていただいています。
 また、A2で社会復帰の促進のためにどういったことが示せるかについては、療養期間の一般的な目安について、あらかじめ示しておくことができないかという趣旨で、そこには、A2の真ん中辺りの一つ目の*のところに、右のほうの、「医学的知見」にあります適応障害に関するICD-10の診断基準、あるいはうつ病に関する「標準精神医学」に記載されたものを参考としまして、療養期間の目安を一概に示すことが困難である場合、医学的知見を踏まえて、例えば、うつ病の経過が未治療の場合、一般的に約6か月~2年続くこと、既往障害の症状の持続は遷延性抑うつ反応の場合を除いて通常6か月を超えず、また遷延性抑うつ反応については持続は2年を超えないことを示すことができる、そういったことを示せれば有難いというたたき台です。
 これらは、あくまで一般的な目安でして、定義等とは違うものですので、個別に判断をいただいたときに、当然、これにはまらない事案もあると。2年たっていても非常に症状が変動していて、また改善も見込まれるなどの事案もあり得ますが、一般的な目安として示すことができないかが、このA2の論点です。
 A1は、どちらかというと症状固定の定義で、「例えば」であるので、全てという趣旨ではありませんが、治ゆ・症状固定の状態はどういうものと考えるかについての定義的な位置付けとしまして、症状が現れなくなった場合や、改善し安定した状態が一定期間継続している場合であって、通常就労が可能でなどというようなことを示しており、ここは「一定期間」というような書き方であるのかとは思っております。先ほどの新たな発病と判断する場合の「一定期間」をどうするかは、論点3のA2の論点としてはあるかなと思っております。そこも先生方の御議論によって、「一定期間」のままにしておいたほうがよいということであれば、御指摘を踏まえ、考えていきたいと思っております。雑駁な説明になりましたが、よろしいでしょうか。
○黒木座長 新たな発病の前の「一定期間」、それから認定されて療養期間として「一定期間」を示すという、この期間を提示することができるかどうかです。いかがでしょうか。荒井先生、いかがでしょうか。
○荒井委員 今、事務局から話があったように、具体的な数字を明確に出すというのは非常に困難だろうと思っています。私たちが通常の臨床で症状固定というのに最初に出会うのが、障害年金の1年半です。これは我々医師の判断ではなくて、自動的に1年半で症状固定となっているわけです。それ以外の非器質性、器質性の精神障害によって、私は症状固定の時期は違うとは思っていますし、それから寛解の定義についても、半年と考える先生もいれば、数箇月と考える方もいらっしゃるので、それは様々なのですが、いずれにしろ、2年あるいは3年を超えない間に症状固定はするというのが、大体、私たちの一般的な、今、たどり着いている結論ではないかと思っています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。今、荒井先生がおっしゃった厚生年金と国民年金の障害認定は、これは初診時から1年半後に障害認定をするということですね、先生。
○荒井委員 そうです。
○黒木座長 ありがとうございます。品田先生、どうぞ。
○品田委員 今の期間の問題は、基本的にも法医学的な問題だと思うのですが、ただ、労災による精神障害の発病においては、忘れ去られてはいけない3点のポイントがあるのではないかと思います。
 まず、第1に社会復帰です。労災においての社会復帰は職場復帰と考えられるべきでして、職場復帰ができるための期間がどうであるのかの視点が、まず必要なのではないかと思います。2つ目は、労災によってもう療養を始めている以上、つまり、職場から離れている以上、発病の原因となるストレス要因は既に除去されている、なくなっているという状況の中で問題を考えていくべきなのだろうと思います。3つ目は、先ほど医学的ないろいろな論文を御提示いただきましたが、その中にもありますように、やはり適切な治療を受けていれば半年とか一定の期間の中でかなりの人たちが治ゆする、若しくは症状固定する状況が見受けられていますので、そういう意味においては、労災によって療養補償給付等を受けている方は、基本的には適切な治療を受けられているはずですので、その点もやはり加味された形で検討すべきなのではないかと思います。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。非常に悩ましい問題もあるのですが、先ほどの事務局の、3年未満に7割ぐらいは職場復帰、社会復帰する、しかし、5年以上の治ゆしない事例はほとんど職場復帰できないのが現状でして、これはなぜかという非常に難しい問題は多分あるだろうと思います。
 なぜかと言うと、いわゆる職場が関係して具合が悪くなった、そうすると同じ職場に戻るかどうかはなかなかできないこともあるし、それから職場ストレスということを本人が受け止めて、あえて戻ることはなかなか踏み切れないこともあり、療養が長引いてしまう事例もあり、ここは非常に難しいと思います。しかし、先ほど、品田先生がおっしゃったように、やはり究極はこの職場復帰、社会復帰をどうさせるかのめどを立てていかなくてはいけない。このためにも、この一定期間目安を立てるということは、ある程度必要かなという気がいたします。ほかに御意見はいかがでしょうか。田中先生、何か御意見はありますか。
○田中委員 そうですね、寛解までの期間について具体的にするのはやはり難しいので、「一定期間継続している」という表現にならざるを得ないところが多いのかと思います。ただ、学会等の調査で比較的はっきりしているのは、症状固定と考えるべきは、やはり2年から3年ということが、医学的コンセンサスが得られる部分だと思います。労災の障害であれ、そうでない精神障害であれ、治療の目標や社会復帰の目標は、ある程度めどを付けてないとなかなかモチベーションが上がらない現実があります。異動する、転職する、またもとに戻るにしても、ある程度、それを目指した準備をどういうふうに始めていくかは、目標がない場合は治療をしていてもうまくいきませんので、療養の見通しを立てるためにも、ある程度の基準の、2、3年といったところを見定めた上で、その途中の期間で医学的な判断をまた求めながら、促進的に求める制度の運用があったほうが、復職という最も大事な、職場、仕事に戻ってもらうという、復職として、労働者としてまた戻ってもらうことは、とても大事なことだと思いますので、症状固定のある程度の原則を判断することは、期間についてはある程度定めたほうがいいのではないかと個人的には思っております。
○黒木座長 労災保険における療養の期間を、ある程度、一定期間を示すということでよろしいですか。
○田中委員 そうですね。
○黒木座長 ありがとうございます。小山先生、何か御意見がありますか。
○小山委員 今の先生の御意見に、ほぼ賛成です。労災で治療をしてらっしゃるのですから、ある程度の見通しは立てないといけないだろうと思います。そういう意味からすれば、「一定期間」はある程度は定められるのではないかと思います。だらだらと治療して中断しているような人たちを混じえての問題ではないので、そういう意味からすれば、治療目的を立てて治療をする中ですから、大体の見当を付けた中で決めないといけないかと思っております。
○黒木座長 ありがとうございます。丸山先生、いかがですか。
○丸山委員 本人のアドヒアランスを促進する意味では、ある程度の治療目標が、どこまでにというのがあるのはうなずけるのですが、ただ、ここに書き込むかどうかは、なかなか難しいところがあり、ここは「一定期間」という書き方にして、例えば、運用のところで、うまくそういうことが表現できないかと考えます。その辺りは、事務局はいかがでしょうか。
○黒木座長 ありがとうございます。
○西川中央職業病認定調査官 事務局です。先ほどの御説明と少し重複してしまうかもしれませんが、今、事務局のたたき台として考えているところについても、13ページのところで、症状固定というのはどういうものと考えているかについては、この「一定期間」という文章があるところは、一定程度よくなっているものを想定しての書き方です。「精神障害の症状が現れなくなった、又は症状が改善し安定した状態が一定期間継続していてといった場合であって、通常の就労が可能で投薬等を継続している場合」と、この書き方をたたき台として示させていただいていますので、ここの「一定期間」は一定期間とだけ書くというたたき台です。
 先ほど、先生方から別途、御指摘を頂いております、初診時からの全体としての治療期間の目安をどのように示すかは、また別途の論点かなと思っておりますが、そちらについては、こちらのたたき台ではA2になります。一定程度お示しをしつつ、こちらは定義とかとは全く違いまして、あくまで一般的にこのように言われているというお話ですので、そういった例外があり得るものとして、教科書的には約90%以上とあるとおり、100%ではないことは前提のもとにお示しをして、見通しをもって状態の悪いときから状態のいいときを目指して考えて、治療を進めていただけると有難いかなと。正に先生方のおっしゃった、円滑な社会復帰、円滑な治療のためにそういったものの目安を示すことが資するのではないかということで、示させていただきました。
○黒木座長 ありがとうございます。三柴先生、いかがでしょうか。
○三柴委員 私は社会復帰のところについて申し上げたいと思っていたのですが、よろしいですか。
○黒木座長 大丈夫です。
○三柴委員 あくまで今後の検討材料としての意見です。前回、外国の例もお示しして、今回の事務局からの案で、補償を開始してもスクリーニングの機会を設けることが妥当ではないかという案を頂いております。これについて、前回、スクリーニングの機会を仮に設けたとしても、スクリーニング自体を適切に行えないと形式化してしまうという御意見をどなたかから頂いて、もっともと私も思っておりました。スクリーニングに際して、もともとの認定のときの根拠になった出来事との相関は考えてもいいのではないかと思っています。つまり、こういう出来事でこういう補償がされている中で、いつまでたってもなかなか治ゆしない、あるいは症状が安定しないのはどうなのかなというのは、これは制度論上は考えてもいいのかと。ただ、黒木先生が先ほど言われたように、臨床医学上は、いろいろあるというのはよく承知していますので、一つの検討材料として意見を差し上げました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。中野先生、いかがでしょうか。
○中野委員 全体の御議論には異論はありません。先ほどから先生方がおっしゃられているように、定期的に医学的判断を求めること自体も適切だろうと思います。ただ、論点のA2の*で出てくるように、療養期間の目安を具体的な数字として示すことが、事務局やこの検討会での議論の意図を超えて、労災保険給付の打切り時期を示すように受け取られてしまわないかということに、少し懸念を抱きました。ですので、事務局でこれからたたき台を詰めていただくと思うのですが、必要な給付までを打ち切られてしまうのではないかという懸念を抱かれないような書き方を、留意していただいたほうがいいのかと思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。この「一定期間」を示すということは、これは打ち切ろうということではなく、先生がおっしゃったように、次につなぐことが目的ですから、そこは事務局でまた検討していただければと思います。ほかにはよろしいでしょうか。職場復帰も、今、御議論をしていただきましたが、ほかに御意見はありますでしょうか。
○吉川委員 私も今の最後の論点については、「一定期間」について賛成をしています。特に、実務の中ではある程度期間が決まることにより、それを目標にしてリハビリをしていく、先ほど、先生方の中で、治療の目標を立てて、それに向けて進めていくことで復帰が促進されると。今、仕事の両立支援をいろいろ議論されている中で、期間の中で計画を立てて復帰していく、やはりそれも治療の方法だと思いますので、その時点で、今回の議論の中ではとても重要なことではないかと思いました。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかに御意見はありますでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございました。
 それでは、資料1-14ページ、Bの「対象疾病がいったん治ゆ(症状固定)した後において再びその治療が必要な状態が生じた場合は、新たな発病と取り扱い、改めて認定要件に基づき業務上外を判断することについて、医学的知見の状況等を踏まえ、妥当なものと考えてよいか」、前回の議論ではこれは賛同が得られましたが、何か御意見はありますでしょうか。これは妥当ということでよろしいでしょうか。ありがとうございます。以上で論点4の検討を終了したいと思います。委員の皆様の御意見は、事務局で取りまとめをお願いいたします。
 本日の議論はここまでにしたいと思います。委員の皆様方、様々な御意見をありがとうございました。本日の議論全体を通じて御意見、御質問があれば御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
では、本日の検討会はこれで終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。
○本間職業病認定対策室長補佐 長時間の御議論、ありがとうございました。次回の検討会の日時、開催場所については、後日、改めてお知らせをさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。