2022年7月26日 第6回「精神障害の労災認定基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和4年7月26日(火) 18:00~20:00

場所

中央合同庁舎5号館厚生労働省議室(9階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
厚生労働省:事務局

議題

  1. (1)精神障害の労災認定の基準について
  2. (2)その他

議事

議事録

○本間職業病認定対策室長補佐 定刻となりましたので、「第6回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を開催いたします。委員の皆様におかれましては大変お忙しい中、会議に御出席いただきありがとうございます。
 今回は、座長の黒木先生以外の先生方につきましてはオンラインでの参加となっております。初めに発言の際の御案内です。会場で御出席の方につきましては、長いマイクの下のボタンを押していただき、赤いランプが付きましたら御発言をお願いします。終わりましたら再度ボタンを押してください。
 オンラインで参加される方に発言の際のお願いです。マイクのミュートを解除した上で、お名前と発言があります旨の発言をしていただくか又はメッセージで「発言があります」と送信してください。その後、座長から「誰々さん、お願いします」と指名がありますので、その後に御発言をお願いいたします。
 また、大変申し訳ございませんが、通信が不安定になったりすることで、発言内容が聞き取りにくい場合がありますので、御了承をお願いいたします。
 検討会に先立ち、傍聴されている皆様にお願いがあります。携帯電話などは必ず電源を切るかマナーモードにしてください。そのほか、別途配布しております「留意事項」をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて傍聴されるよう、お願い申し上げます。また、傍聴されている方にも、会議室に入室する前にマスクの着用をお願いしておりますので、御協力をお願いいたします。万一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、予め御了承ください。写真撮影等はここまでとさせていただきます。以後写真撮影等は御遠慮ください、よろしくお願いいたします。
 次に、本日の資料の御確認をお願いいたします。本日の資料は資料1「第6回における論点」、資料2「論点に関する医学的知見」、資料3「第5回検討会の議論の概要」となります。本検討会はペーパーレスでの開催とさせていただいておりますので、お手元のタブレットで資料の確認をお願いいたします。それでは座長の黒木先生、以後の議事の進行をよろしくお願いいたします。
○黒木座長 それでは始めます。今回は前回までに引き続き、業務による心理的負荷評価表の検討を行いますが、初めにその中で「特別な出来事」、各具体的出来事の総合評価における共通事項、留意事項について検討します。
 次に、心理的負荷の評価期間について検討していきたいと思います。それでは、事務局から資料の説明をお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 それでは事務局から御説明させていただきます。前回の第5回検討会では、業務による心理的負荷評価表に関しまして、具体的出来事の修正や追加・統合、そして、その心理的負荷の平均的な強度について御議論いただいたところでございます。
 御指摘を受けての整理は現在進めているところでございますけれども、今回の第6回では現行の心理的負荷評価表の冒頭部分に当たります「特別な出来事」、その次にございます「特別な出来事以外の総合評価」の共通事項、この部分について御議論を頂きたいと思っております。また、併せて、評価期間の論点についても御議論いただきたいと思っております。
 これまでの検討会と同じように、資料1が論点をお示ししたものとなります。今回、資料2がこれに関する医学的知見です。論点の順に資料1と資料2を併せて御説明させていただきます。
 また、第5回検討会の議論の概要は資料3にまとめてございます。こちらの説明は割愛いたしますけれども、適宜御参照いただければと思います。
 それでは、資料1に沿って論点を御説明いたします。資料1を御覧ください。1ページ目には先ほどの論点の1つ目、2つ目をまとめた形で記載しておりますけれども、少し細かく示したものが、2ページ以降の具体的な論点のたたき台ということになりますので、2ページ目以降に沿って御説明させていただきたいと思います。
 1-2ページを御覧ください。大きな論点の1つ目は業務による心理的負荷評価表についてということで、このうちAで特別な出来事、Bで総合評価の共通事項、留意事項を取り上げております。
 まず、Aの特別な出来事についてです。業務による心理的負荷評価表のうち、特別な出来事に関する部分について、現在の医学的知見等に照らして、どのように考えるかという論点を示させていただいております。ここでこの「特別な出来事」、「心理的負荷が極度のもの」につきまして、現行の認定基準では、その下に*が4つございますけれども、そちらを記載しております。1つ目は生死に関わる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気や怪我をした。弧書きで補足を付けておりまして、業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変し、極度の苦痛を伴った場合を含むということも示しています。
 2つ目が、業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死に関わる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)です。こちら、1つ目は自分がケガをした、2つ目は他人にケガをさせてしまったというものです。3つ目、強姦や本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けたということ。そして4つ目として、そのほか、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるものというようにしております。
 これらについて、現在の医学的知見などに照らしまして、引き続き妥当なものと考えてよいかどうか、あるいは修正・追記などすべきものがあるかどうか、御意見を頂ければと思います。
 なお、その下に書いておりますけれども、極度の長時間労働に関しましては、評価表の具体的出来事のほうでも時間外労働時間数を示して「強」だと示している部分もございますので、そういったものと合わせて検討してはどうかということで、今回の御議論からは除かせていただきたいと思っております。
 右側は参考事項欄です。医学的知見についてICD-10の診断ガイドラインを参考に示しております。急性ストレス反応や心的外傷後ストレス障害(PTSD)ですが、こちらの診断ガイドラインには、その原因となる出来事についての言及がございます。例えばということで、それぞれ括弧の中に示されておりますけれども、自然災害、事故、戦闘、暴行、強姦、自然災害又は人工災害、激しい事故、他人の変死の目撃、あるいは拷問、テロリズム、強姦あるいは他の犯罪の犠牲になること、こういったことが例示として示されております。これらは例示でございまして、こういった疾病と診断された方が、全て特別な出来事を体験されているということは、必ずしも言えないというようには思っておりますけれども、特別な出来事のイメージとして、この診断基準の例示に記載されている内容は参考になるかというように考えております。
 ここで資料2のほうも一度見ていただいて、関連の部分を御説明させていただきたいと思います。資料2の目次を見ていただければと思います。資料2の1ページ、目次でございます。資料2において、本日の論点の全体に関する知見として、1に示したものが先ほど御説明した関連の、ICD-10の急性ストレス反応、それからPTSDの臨床記述ということです。
 目次には2もございますけれども、1のICD-10はWHOが示したものですが、2はアメリカの精神医学会が示しているDSM-5という診断基準です。
 めくっていただいて2-2ページから、ICD-10の診断ガイドラインをお示ししておりまして、2-4ページからDSM-5の診断基準を示しております。DSMのほうでも診断基準のAにおいて、出来事が示されておりますけれども、あくまで参考として御覧いただければと思います。行政実務としてはICD-10に基づいているところです。ただ、このICD-10ですが、既にWHOからは第11版、ICD-11が示されているところですけれども、現時点で確立した日本語訳はまだないという状況でして、ここではICD-10に基づいて御検討をお願いしたいと思っております。
 戻りまして資料1-2ページですが、右側にはそのほか、第3回にもお示ししていましたが「特別な出来事」による支給決定件数とか、あるいは、平成23年報告書の該当部分もお示しをしております。御議論の参考としていただければと思います。
 続いて論点1―Bです。総合評価の共通事項、留意事項ということです。これについてどのような事項を示すことが適当か、という論点を示させていただいております。
 その下に1つ目のポツですけれども、現行の評価表において総合評価における共通事項とされている仕事の裁量性の欠如、職場環境の悪化、職場の支援・協力等の欠如、こういったものについて、総合評価に当たり留意すべき事項として示すことや、具体的出来事として評価の対象とすること、こういったことが考えられるのではないかというようにしております。
 更にその下の3つのポツは、第3回の検討会でも御議論いただきました、賃金の決定や人事評価等の労務管理に関する事項についての考え方、あるいは労働者の行為により引き起こされた出来事についての考え方について、どう整理するかということを、第3回とおおむね同様にお示しをしているところです。
 こういったことについて、別紙にたたき台を示しておりますので、そちらのたたき台の総合評価の留意事項として併せて示してはどうかという論点とさせていただいております。また、ここでもなお書きが左側の一番下にありまして、現行認定基準の総合評価の共通事項においても、恒常的長時間労働が認められる場合、こういった時間についての規定もありますが、これも具体的出来事における、強の具体例などと合わせて検討してはどうかということで、今回の御議論からは除かせていただきたいと思います。
 ここで別紙のたたき台です。1ページ進んで1―6ページを御覧ください。ここにあるとおり、今、たたき台といたしましては項目を6点お示ししております。あくまで事務局のたたき台ですので、先生方からいろいろと御意見を承って、修正・追加・削除などさせていただければと思いますので、御説明をさせていただきます。
 1つ目です。出来事と出来事後の状況を一体として判断するということについて、平成23年の認定基準からそのようなやり方にしておりまして、第3回の検討会でも、その方向で妥当という整理を頂いたところですが、これを適切に行うための留意事項ということです。出来事それ自体と出来事後の状況の双方を十分に検討する必要がある、ということを留意事項として示しているという内容です。
 2つ目と3つ目のポツは、現行の評価表に記載しております職場の支援・協力等の欠如、裁量性の欠如、これに関するものです。現在1番目に裁量性の話、3番目に職場の支援に関する記載がありますけれども、実際の事例におきましては、職場の支援を検討している事例の方が多いと考えられることもありまして、順序を変更しております。
 また現在、2番目に職場環境の悪化についての記載がありますが、この点は外形的に捉えやすい内容ということもあり、前回、第5回におきまして具体的出来事の項目18・19との関係で、勤務形態の変化や仕事のペースの変化と同様に、作業環境の変化を出来事として捉えてはどうかというたたき台について、おおむね御了承いただけたというところですので、下の※書きにありますが、こちらの職場環境の悪化については、そちらで具体的出来事として評価してはどうか。その結果として、この共通事項、留意事項からは削る方向でいかがかというたたき台となっております。
 ここでこの2つ、職場の支援・協力と裁量性の欠如、これを考慮対象として従前から掲げていることにつきましては、職業性ストレスのモデルにおける仕事要求度-コントロール-サポートモデルから来ていると考えられるところですが、現在、様々なモデルがある中、こういった留意事項として何か追加して示すべきか、あるいはいろいろなモデルはあるけれども、考慮事項は大体ここに含まれてくるのではないか、だったらこのままでよいのではないかという点についても、御意見を頂ければと思います。
 この関係で、資料2の医学的知見について御説明させていただきます。あちらこちら行って恐縮ですが、もう一度資料2をお願いいたします。資料2の3、2-9ページからになりますけれども、そちらでは丸山先生が編者でいらっしゃいます『ストレス学ハンドブック』の一部をお示ししております。このテキスト引用している部分、資料に付けさせていただいた部分では丸山先生の御記載になられた部分と、種市先生が御記載になられた部分がありますけれども、ここでは、現在の職業性ストレスモデルについて分かりやすく概略がまとめられているので、この検討のために添付をしたものです。ページ番号、事務局で付した方のページ番号、2-13ページの左側の中ほどあたり、職業性ストレスの代表的なモデルの説明があります。仕事要求度-コントロールモデル、更にそれが発展した仕事要求度-コントロール-サポートモデル、アメリカ国立労働安全衛生研究所のNIOSH職業性ストレスモデル、そして努力-報酬不均衡モデル、こういったものが示されているところです。
 更にずっと先の2-21ページ、途中から種市先生の記載部分になりますが、2-21ページの左下から右の真ん中位にかけまして、それぞれのモデルの内容について概略の記載があります。こちらを併せて御参照いただければと思っております。そういった様々なモデルがある中で、どういったものを留意事項に示していくかということです。
 資料1に戻っていただき、資料1-6ページです。今3ポツ目まで御説明が終わって、次に4ポツ目と5ポツ目です。これまでの検討会でも御議論を頂いてきた労務管理に関する事項や、労働者の行為により引き起こされた出来事に関する事項です。このうち、労務管理に関する事項については、平成11年の報告書の記載を参考に、事務局のほうでたたき台を作成しております。平成11年の報告書については、資料1-3ページの右側ですが、第一に、職場のルールに基づいて一般的に行われている行為(例えば、昇進、配置転換、昇格・昇級、賃金等)は業務によるストレス要因としては一般には評価対象にはならない。例えば、一定の業績、経験に伴って昇進することや、転勤に伴う引越し、新しい人間関係の形成などに従って、昇進うつ病、引越うつ病という症例は少なからず経験することではあるが、これを直ちに業務起因性があると認めることは適切ではない。しかしながら、配置転換、転勤等についても、その個人を対象に特別の不合理、不適切な対応として行われた場合には出来事として検討の対象とすることはいうまでもないといった記載が、平成11年の報告書にあるところです。
 この考え方について変更をしたということはありませんが、平成23年の報告書には記載のない状況です。この報告書の記載は、例えば配置転換というものが挙げられていますが、この段落では、配置転換後の業務の負荷について論じているわけではなく、配転命令そのものについて議論しているものと考えておりますが、そこの部分に少し誤解があるといけないので、1-6ページでは、今回、たたき台を作成するに当たって、括弧内の例示を、賃金の決定や人事評価等というものとさせていただき、こういったものが一般的な範囲内、会社の通常の人事労務管理の範囲内で行われた場合には、原則として強い心理的負荷とは評価できないが、個人を対象に、特別な不合理、不適切な対応として行われた場合、例えば差別的な趣旨で行われた場合などについては、強い心理的負荷と評価され得るということを記載しているものです。
 また、労働者の行為により引き起こされた出来事、特に故意による非違行為により引き起こされた出来事については、労働者の行為の性質や会社側、相手方の対応の必要性・相当性など、そこに至る経過を総合的に考慮して、心理的負荷の程度を判断するということをたたき台として示しています。
 最後のポツは、当然のことではありますが、この表の中に具体的に示されていなくとも、出来事に伴って発生した様々な事情については、考慮の対象とするということを留意事項として掲げているところです。これらの留意すべき事項について、こういったものもあるのではないか、ここはこうしたほうが良いのではないかなど、様々に御指摘を頂けますと有り難く思います。
 続いて、大きな論点の2番目、心理的負荷の評価期間です。資料1-4ページを御覧ください。業務による心理的負荷の評価期間について、現在の医学的知見等に照らしてどのように考えるかということで、その中をA1とA2に分けています。A1については、現在の認定基準で原則としている発病前おおむね6か月、これが妥当かどうかという論点です。A2は、原則を踏まえ、幾つかの留意事項を示しています。これについて修正等が必要かという論点です。
 まずA1ですが、業務による心理的負荷の評価に当たり、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に生じた心理的負荷を評価対象としていることについて、現在の医学的知見等に照らして妥当と考えられるかということを示しています。
 次のポツですが、医学的知見の状況について、平成23年報告書の取りまとめ当時と大きな変化はないのではないか。この趣旨として、おおむね6か月を変更するに足りる知見はないのではないかという論点を掲げているところです。
 ここで、現行認定基準の基となった平成23年の報告書の内容と、資料2でまとめている現在の医学的知見の状況について御説明をしたいと思います。
 1-5ページには、平成23年の報告書の該当部分を引いています。こちらは、平成23年の報告書も、その前の平成11年の報告書を引いて、これを変えるような状況ではないという形で、評価期間を発病前おおむね6か月というようにしているところですが、その平成11年報告書で、この6か月の根拠としているのは、ここにポツが3つあります。それぞれこういったことを理由に6か月としているところです。
 1つ目は、いろいろなライフイベント調査の調査期間として6か月としているものが多い、これは調査のデザイン、やり方、設計の話です。
 2つ目ですが、これは調査の結果というか、研究結果、個々の事案で出来事と発病との関係を分析した結果ということになるかと思いますが、そちらの各種研究結果においては、精神障害が発病する前1か月以内に、主要なライフイベントのピークが認められるとする報告が多いということ。
 3つ目として、ICD-10の診断ガイドライン、PTSDの診断ガイドラインにおいて、トラウマ後数週から数箇月にわたる潜伏期間を経て発症する。しかし6か月を超えることはまれというような記載がある。こういったことから、この状況について、平成23年においても変わらないということをもって、発病前おおむね6か月を評価期間としているところです。
 10年たちまして、現在の医学的知見の状況について、資料2のほうを御覧ください。資料2ですが、1と2についてもう一度御説明をいたします。診断基準です。診断基準2-2ページからICD-10の診断基準、診断ガイドラインですが、こちらは、そもそもICD-10でも、DSM-5でも、ストレスに関連する疾患としては、2-2ページから2-3ページに挙げています。ここに急性ストレス反応、PTSD、適応障害というものを共通して挙げているところです。それぞれの出来事、ストレスと発病との関係について、このICD-10のほうでは、まず急性ストレス反応について、下から2行目のところですが、出来事の衝撃から数分以内に出現、急性ですから当然と言えば当然なのですが、すぐだということを示しています。
 次のPTSDですが、2-3ページの上から3行目のところですが、トラウマ後数週から数箇月にわたる潜伏期間(しかし6か月を超えることはまれ)を経て発症する。こちらのほうが発症は遅れるが、6か月を超えることはまれだということが記載されております。
 最後、適応障害ですが、上から3つ目、下から2つ目の段落、「発症は」から始まる段落ですが、発症は、通常ストレス性の出来事あるいは生活の変化が生じてから1か月以内であり、というような記載があるところです。
 次の2-4ページからはDSM-5についてで、こちらは御参考までということですが、PTSDについては、このアルファベットが振られている診断基準においては、出来事と発病時期の関係について記載がないというところです。ICD-10において、6か月を超えることはまれという記載を先ほど御説明いたしましたが、DSM-5においても、何らかの症状が出ていても、診断基準を満たすのが6か月より後だったという場合には、遅延顕症型、遅れて発病したものということで特記することとされていて、一般的ではないという趣旨だと理解をしているところです。
 2-6ページから、急性ストレス障害の診断基準を書いていますが、ずっと送って2-8ページのC.のところ、ここの注に、通常は心的外傷後すぐに症状が出現するというような記載があります。更に適応障害ですが、適応障害のほうはA.のところ、ストレス因の始まりから3か月以内というような記載があるところです。いずれにしても診断基準の状況としては、ストレスと直接関連する疾患、ここにある疾患については、出来事と発病との間について、比較的遅れて発病するPTSDを見ても、数週から数箇月とし、それでも6か月を超えることはまれというような形になっているところです。なお、うつ病や不安障害、そういった他の精神障害については、出来事と発症との関係というのは診断基準には出てこないものと理解しています。
 さらに、そのほかの医学的知見ということで、医学的知見の4、2-24ページです。こちらは、様々なライフイベント調査を踏まえて、その結果、その状況を取りまとめた文献となります。荒井先生から御紹介いただき、下線は事務局で引いたものですが、多くの研究が、疾病はきっかけとなる出来事から3~6か月以内に発病すると報告していたといったまとめとなっているところです。
 次の25ページからPTSDに関する2018年の文献です。田中先生に御紹介いただいたものですが、この文献自体は、出来事と発病との関係を分析することを主たる内容としたものではありません。先ほど少し触れましたが、ICD-11というのが、WHOから新しく示されているところ、ICD-10と11の診断基準の違いについて、過去の研究で収集されたデータを使って、各データが出来事からのどの時期にどの程度、それぞれの診断基準に該当するのかということを分析した文献です。そういったものですので、出来事と発病の間も見てますし、その後の予後というか、障害の持続というのも見ておりますが、そういった全体を評価する期間として、この文献、それ自体としては2-25ページのアブストラクトのメソッドのところですが、出来事から15か月間を分析対象としているところです。もともとのデータは次のページ2-26の横向きになっている、Table1に示されておりますが、こういった予後の追跡も含めて、最短のものでフォローアップ期間が4か月、最長のものが3年というような状況です。
 結果ですが、分析結果は2-28ページに記載がされております。右側のResultsのところにいろいろと記載がされておりますが、今回、この検討会で御議論いただきたい論点に関連する指摘は一番下の行で、この論文で分析したデータにおいてということではありますが、ICD-10でいうPTSDは6か月を超えて発病した事案はなかったという結果となっているところです。
 御参考までに次のページを見ていただくと、いろいろな数の事案を分析したということが分かりますが、この4つの包含図のうち左下の図、出来事の後4か月から9か月後の図では2,025件のデータを分析対象としているところですが、このように、この文献の中で分析したものの中で、6か月を超えて発病したものはなかったという内容かと思います。これらの文献4や5は、ライフイベント調査やその他の研究成果による分析結果として、出来事と発病との関係を論じたものということでお示ししているものです。
 次の文献6は2-33ページになりますが、こちらは平成23年にも検討会で御参照いただいたライフイベント調査の状況をまとめたものです。上はチェックリスト調査、つまり質問紙方式、下がインタビュー、面接調査により行われた研究のまとめとなっていて、平成23年の報告書では、特に面接方式による調査で調査期間が6か月のものが多いということを、6か月を維持する理由として掲げているところです。
 このような新しいまとめがある文献がないかということを、先生方と御相談して探したところですが、現時点において同じようなものは見付けられなかったところです。個別に、生活の質とライフイベントの関係などを見ているような文献は幾つかあったところではありますが、精神障害の発病とライフイベントの関係についての個別の文献や、こういったまとめをした文献というのは見付けられませんでした。
 文献7は、厚労省でお願いをした令和2年度のライフイベント調査ですが、こちらも調査期間は6か月としているところです。医学的知見の状況の御説明は以上となります。
 資料1のほうに戻っていただき、資料1-4ページですが、こういった医学的知見の状況を踏まえて、論点A1について御議論いただければと考えております。そして、その現行の評価期間おおむね6か月ということで、もし6か月で妥当という合意を頂けるのであればということになりますが、A1のところの2つ目の点ですが、この発病前6か月についてはしっかりと判断をする必要があると、出来事が始まったときだけではなく、出来事が継続する状況についても、適切に判断する必要があるということで、例えば、ノルマが課されたという出来事が発病の9か月前にあった、そしてこの発病直前までも含めて、ずっとそれに向けて取り組んでいるというようなときに、スタートが6か月より前だからといって、評価しないということは適切ではないと考えておりまして、直近の発病前6か月の状況は適切に評価する必要があるところです。現行の運用も、そういった形でやっているところではありますが、この旨を留意事項に示すことなどによって、明確にしてはどうかということも、A1の論点として記載しております。
 最後、論点A2です。何某かの評価期間を前提として、その上で留意事項をどうするかということです。現行の認定基準では、出来事の評価の留意事項として、ここには少し要約した形で書いておりますが、4点示していて、いずれも評価期間に関するものとなっています。*の1、2、4は、いずれもこの6か月、発病前おおむね6か月の評価を適切に行うための留意事項です。
 1つ目は、業務上の傷病により長期療養中の場合、その業務上の病気やケガが生じたのは発病の6か月より前であっても、発病前おおむね6か月の間の強い苦痛、社会復帰が困難な状況あるいは死の恐怖、こういったものを出来事として評価するといったことによって、6か月の評価をきちんとやってくださいということを書いております。
 2つ目は、いじめやセクシュアルハラスメントのように、出来事が繰り返されるものについての取扱いです。こういったものについては、開始時からの全ての行為を一体として評価し、そのことによって、この発病前6か月の心理的負荷を適切に評価していくということです。セクシュアルハラスメントの例で言えば、以前に、6か月よりも前に何度か体を触られていた、その相手からここ6か月については性的な発言を受けていたといったような場合に、この6か月の発言のストレスを適切に評価するためには、以前に身体接触があったということは無視できない、無視することは適当でないということで、この全体としてのセクシュアルハラスメントとしては、身体接触のあったものということで、ここ6か月の精神的負荷を評価するに当たっても、そういった経緯も影響してくるものであるから、開始時からの行為を一体的に評価する必要があるとするものです。
 なお、この留意事項について、平成23年に記載をしたもので、当時、パワーハラスメントについては、嫌がらせ、いじめに含めて評価をしていたところなので、パワーハラスメントについて明確に記載はしておりませんが、運用としては、パワーハラスメントはいじめ、嫌がらせから独立したということで、同じように行っているところです。これを明記するかについても御意見を頂ければと思います。
 先に、4つ目について御説明をいたします。現行認定基準の留意事項については、御本人の主張する出来事が発病の6か月より前であった場合でも、発病前おおむね6か月の出来事はきちんと調べて評価をしましょうということが書いてあります。さらに、先ほどのA1のほうの2つ目のポツで御説明した点も含めて、出来事のスタートが発病の6か月より前であっても、その出来事の状況が続いているというような場合については、その続いている発病前おおむね6か月の間の状況についても調査評価するということを、ここに明記するかというようなことについても、御意見を頂ければというように思います。
 飛ばした*3ですが、こちらはより医学的な観点が強い留意事項です。これは、発病前おおむね6か月の起点をどこにするかということについてのものです。生死に関わるケガ、強姦などの特に強いストレス、そういった出来事を体験した場合、解離と書いておりますが、その出来事を忘れてしまう健忘や、感情の動きが鈍くなる、あるいは無感覚になるといった反応ですが、こういった反応のために受診が遅れることがある。場合によっては、医学的に診断基準を満たす日が遅くなる。こういうことが、医学的にあるとされているものと承知しております。こういった状況の場合に、受診から6か月前、診断基準を全て満たしてから6か月前とするのがよいかどうかについて、この健忘などの解離症状、解離反応が生じた時期を起点として、その前おおむね6か月を評価期間とすることが適切な評価となるという趣旨で記載をされた留意事項です。
 先ほど、PTSDの診断基準においても6か月を超えることはまれという御説明をして、「まれ」ということは、ないわけではないということでもあるかとは思いますが、こういった遅れて診断基準を満たすような事案についても、この留意事項によって対応できるのではないかというように考えております。事案としては、正にまれであろうかと存じますが、医学的には重要なものかと考えております。
 右側の裁判例について、簡単に御説明いたします。右欄のほうに記載しているように、大勢としては、国勝訴事案、国敗訴事案、いずれも発病前おおむね6か月という認定基準は是認され、その枠組みの下で判断されているものというように理解しているところです。ただ、国敗訴事案の一部について、多少なりとも評価期間が関わってくるものについて、ここに8件お示ししております。必ずしも評価期間の相違が敗訴要因であったというものに限らず、負荷の強度の評価の差が敗訴要因であるというものも多いところではありますが、留意事項に沿って、分けてお示ししているところです。*1の業務上のけがや病気について2事例、B9は、10年以上も昔に発病した石綿肺について、発病前おおむね6か月の呼吸苦やその悪化、死の恐怖が、B54のほうは、2年前の負傷による発病前おおむね6か月の左眼の視力低下、疼痛などが強いストレスと評価されたものです。監督署も、その時期の状況を評価してはいたのですが、評価の相違が生じて国敗訴となったというものです。
 *2に関しては3事例です。いずれも上司からの厳しい叱責があった事案です。パワーハラスメントにも当たり得るような執拗な叱責や暴言などがあったもので、先ほど申し上げたように、パワーハラスメントというように評価したのであれば、これは開始時からのものを一体として評価するということになるところですが、そこの判断が裁判所と国とで違っていた、監督署で違っていたということになろうかと思っております。その都度その都度の業務に対応した業務の範囲内の指導であれば、その都度の業務によるものですので、発病前おおむね6か月の業務の負荷を評価するというところになりますが、パワーハラスメントに当たるという評価になれば、開始時から一体として評価するということになったかというように思います。
 *4については3事例です。海外プロジェクトの終了後、国内で別プロジェクトの対応中に、前のプロジェクトに関する損失が判明した、1年前に係長職の兼務が指示されたことに伴って、部下の休職や担務変更など、その業務に対する時間外労働、そういったものが発病前6か月以内にも生じていたなど、1年前からの人間関係の困難が発病まで継続していて、発病直前にも、それに関係する出来事があったというような事案です。こういった事案についても留意事項を踏まえて、発病前6か月の状況を正しく評価していくということによって対応していきたいと、事務局としては考えておりますが、こういった留意事項について御意見を賜れればというように思っております。
 長くなりまして大変恐縮ではありますが、資料の説明は以上です。論点1については論点AとBそれぞれ分けていただいて、論点2についてもA1、A2の順に、先生方の御議論を賜れますと有り難いと考えております。よろしくお願いいたします。
○黒木座長 ありがとうございました。随分議題があるのですけれども、まず論点1、今日事務局から用意された資料について説明がありました。資料1の1ページ、認定基準の検証に係る具体的な論点の1のA、業務による心理的負荷評価表のうち「特別な出来事」に関する部分について、現在の医学的知見等に照らしてどのように考えるかということです。「心理的負荷が極度のもの」について、医学的知見に照らし、引き続きこれが妥当なものと考えてよいかということですが、まず、これについて御意見、御質問があれば御発言をお願いいたします。
○丸山委員 よろしいですか。
○黒木座長 はい、お願いします。
○丸山委員 極度の長時間労働なのですけれども、具体的出来事における労働時間に関する「強」「中」「弱」の具体例等と合わせて検討してはどうかという、その「合わせて検討しては」というのは、どういう趣旨で言われているのか、もう少し説明してもらえるでしょうか。
○西川中央職業病認定調査官 最終的にはこの心理的負荷評価表の「特別な出来事」のところに極度の長時間労働というのを書かせていただいて、その時間が160でいいのかどうかというような話になってくるのかとは思っておりますけれども、その御議論をさせていただくに当たって、極度の長時間労働で示す時間数と、総合評価の共通事項のところで示しております、恒常的長時間労働の100時間という時間数に関すること、そして項目15や16のほうで、倍以上に増えて100時間を超えたというものが強いストレスの例だということなどを示しておりますけれども、いずれも時間数の話になり、いろいろと関連してまいりますので、この検討会の場における御議論を、一度にやらせていただくような形で、後の回に回させていただきたいという趣旨です。
○丸山委員 はい、分かりました。ではちょっと質問したいと思うのですけれども、極度の長時間労働というところは1か月160時間を超えるような、それはかなり極度ですよね。ところが具体的出来事のところは、例えば80時間以上のところに「弱」や「中」のところに注がありますね。注では「他の項目で評価されない場合のみ評価する」となっています。
 つまり、極度の長時間労働については、積極的に評価していっても構わないですけれども、80時間とかそういうところはほかに当てはまる項目がなければ、それを時間で取っても、あるいは時間を検討しても構わないという趣旨なので、少し消極的に捉えるという流れなので、そういう意味ではきちんと区分けしていかないと、混乱してしまうと思います。
 例えば160時間以上の長時間労働というのは、多分、一日に直すと7.5時間ぐらいの残業になると思うのです。それは多分、夜中の12時を回る時間だと思います。100時間で4.5時間ぐらいの時間外で、10時ぐらいの残業になるかと思います。
 というわけで、結局、労働時間と精神障害の直接的な関係性のエビデンスというのは少ないですけれども、睡眠時間が短くなるということで言えば、精神障害の関連性は結構報告があります。例えば、ある大学の卒業生を30年40年追い掛けて、学生時代短時間睡眠であった人が、その後うつ病の発生率が、そうでない人に比べてかなり多いと、そういったエビデンスがあるのです。
 となると、睡眠時間がかなり影響されるのは極度、少なくとも120時間以上ぐらいを超えるような、160時間というのはかなり極度なので、例えば過重労働の面接指導などでも、100時間を超えれば以前から義務化されていますね、報告、面接をするのが。80時間超については、最近の改正で対象が拡大されたところです。それと比べても160時間というのは、かなり極度なのですね、やはり。
 だからその辺のところを、この場できちんと議論して、先ほど私が申し上げたように積極的に取っていくのか、少し抑え気味で取っていくのか、その辺りの議論をちょっとしていただければと思います。よろしくお願いします。
○黒木座長 いかがでしょうか。
○西川中央職業病認定調査官 この検討会の場で、もちろん御議論していただく予定とはしているのですけれども、事務局としてそれに対応する、今先生からも御指摘がありました、医学的知見ですとか、たたき台をどうするかということにつきまして、先ほど先生から頂いた御指摘も踏まえて、別の回で事務局から資料を用意して、御議論をしていただければ有り難いと思っていますので、大変恐縮ですが次回以降、追って後日の別の回という形で、御議論いただければ有り難いと存じます。
○黒木座長 時間外労働の考え方というか、いわゆる極度の時間外労働というと、3週間120時間、あるいは1か月160時間以上。出来事とそれから時間外労働との関係でいくと、ここを消極的、積極的と丸山先生おっしゃいましたけれども、出来事がその時間外労働を引き起こすと。例えばミスがあったためにミスを補うために時間外労働が発生し、そしてそれは100時間以上ということになれば、これは「強」の可能性があるということになるので、出来事あるいは長時間労働、極度の長時間労働と、その考え方を整理するということでよろしいでしょうか。丸山先生、よろしいですか。
○丸山委員 はい、そうですね、長時間そのものが、例えば先ほど言いましたように、160時間と言っても平均して一日8時間の時間外があるというものの積み重ねですよね。言ってみれば出来事がずっと続いている。それを足し合わせて結果的には160時間以上になるから、まとめて1つの出来事として捉えるということなので、ほかの出来事とはちょっと捉え方が違うのです。その辺りも少し踏まえて議論しておいたほうがいいかなと思ったのです。
○黒木座長 そうすると、時間外労働だけを、例えば出来事として、これが睡眠に影響するということで。その出来事がない、あるいはそれもなかなか見抜けないということがあるかもしれないけれども、時間外労働が160時間、3週間120時間以上あるということになると、睡眠に影響するので、ここは時間外労働を出来事として捉えるという方向でいいのですか。品田先生どうでしょうか。
○品田委員 はい、今の丸山委員の御指摘はとても大事でして、この部分だけ、ある意味定性的に決まっている部分なので、これが時間を超えれば必然的に「強」になるということですので、そういう意味では、特別な出来事以外のところ、今日の議論でも総合評価の部分、恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価の時間の部分は、今日は削除されているようですが、議論の中から。そういう意味で労働時間については次回以降、これも含めてまとめて議論するという理解でよろしいでしょうか。
○黒木座長 はい、先ほど事務局から説明がありましたように、そのようにさせていただければと思います。
○品田委員 分かりました。すみません、もう1つ質問です。先ほどの生死に関わるうんぬんの話の中で、業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変するというようなことが、括弧書きで書いてあるのですが、これらを具体的に適用した事例は思い浮かばないのですけれども、この6か月を超えて療養中に、というのは何らかの医学的根拠があって、こうしたことが書かれているのでしょうか。背景がありましたら教えていただきたいと思います。
○黒木座長 では、事務局のほうからお願いします。
○西川中央職業病認定調査官 はい、事務局のほうから御説明しますと、この「6か月を超えて」というのは、医学的にということというよりは、評価期間との関係から、業務上の傷病それ自体が6か月以内に起こっているものであれば、当然に評価の対象となるところ、さらに、先ほどの留意事項のところで御説明したのと同じ話が、ここにも特別な出来事に関しても書いてあるという趣旨でして、6か月以前のもっと古い負傷、古い病気で今でも続いているものであっても評価の対象とするという趣旨でして、書いてあることによって誤解を招くということかもしれませんが、趣旨としてはそういったことです。
○黒木座長 6か月は必要なんですね。
○西川中央職業病認定調査官 6か月以内のものであっても、当然傷病が急変して極度の苦痛を伴ったものであれば、恐らくはその傷病を受けたこと自体を出来事として評価して、その経過、出来事後の状況として、そういう急変があって非常に大きな苦痛があったので、これは特別な出来事で強いストレスです、となりますでしょうし、業務上の傷病それ自体が2年前だったということであると、それ自体は評価期間から外れてしまう、傷病を受けたということ自体は評価期間から外れてしまうわけですけれども、発病に至るまでずっと療養が続いていたと。そこで症状が急変して、非常に痛みを伴ったというようなことであれば、その急変それ自体を出来事として、特別な出来事として、非常に強い心理的負荷であったと評価しましょうという、そういった趣旨で書かれているものです。
○黒木座長 よろしいでしょうか。
○品田委員 はい、趣旨は何となく分かりますが、業務上の傷病によって6か月を超えて療養が必要な疾病ということを考えますと、例えばじん肺などが考えられると思うのですが、じん肺症を負っていた方が、何らかの形で急変して、それによって苦痛が強まったがために、精神障害を引き起こしたという、そういうシチュエーションを想定しているというふうに理解してよろしいのでしょうか。
○西川中央職業病認定調査官 結構でございます。
○品田委員 はい、分かりました。
○黒木座長 そうすると、この1-4のここにも、6か月を超えてというのがありましたか。
○西川中央職業病認定調査官 はい、1-4の留意事項のほうにも、「その傷病の発生は発病の6か月より前であっても」と書いてありますけれども、それと同じ趣旨ではあるのですけれども、いろいろ御質問を伺っていると、かえって分かりにくくなっているのかもしれないと。
○黒木座長 そうすると、精神障害の発症ということも、ある程度明確にしたほうがいいですかね。
○西川中央職業病認定調査官 そうですね、おっしゃるとおり1-4のほうで書いていますのは、「その傷病」というのは精神障害ではない業務上の傷病でありまして、更にその後ろの「発病の」というのは精神障害の発病のという趣旨ですので、その辺りがちょっと分かりにくいということかもしれません。
○黒木座長 その辺りはまた、事務局のほうで検討していただいてよろしいでしょうか。ほかにはいかがでしょうか。特別な出来事に対しての御意見があれば御発言をお願いします。
○吉川委員 吉川ですけれども、先ほどの品田先生の内容にもちょっと絡む話の想定なのですけれども、確かにじん肺はあり得ると思います。それに加えて職業がんなどの場合には、かなり療養が長くなって、療養中に病気が関連した精神障害等を発症するというのもあって、例えば石綿では中皮腫だとか、あるいはじん肺に伴う肺がんもありますし、それ以上にCOPDなどもあると思いますが、やはり業務上の傷病によって療養している中で、それを苦に悪化して症状が増してうつ病を発症して亡くなられるとかということは、あり得るのではないかということを、お話を聞きながら想定しました。
○黒木座長 はい、ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。
○田中委員 田中ですが、よろしいでしょうか。時間外のこと以外についての特別な出来事については、こういった内容でそのままでよろしいかと思います。今議論のありました点については、特に6か月というのはあまり意味をなさないようですので、これはもう外してもいいのではないかと思いました。
○黒木座長 はい、ありがとうございます。そこはまた検討してもらって、よろしくお願いします。ほかにいかがでしょうか。荒井先生何かありますか。
○荒井委員 今の御議論で、大体、現在の知見に相応した判断になっていると思います。6か月を超えてというところは、もうちょっと事務局に精査していただいて、今黒木先生がおっしゃったように加えるのか、あるいは外すのかについて、御検討いただければ一番いいのかなと思います。
 それから160時間が極度であるというのは、これまでの判例等も踏まえて160時間という数字が出ていますし、それから3週間で120時間というのは、前回の検討会で、労務管理上の問題として、このままだと160時間になってしまうという場合に、職場が十分配慮するチャンスとして、3週間で120時間というのを極度のものに加えたという経緯があると思いますので、裁判例は私は1つしか知らないのですけれども、3週間で120時間で極度という判例もあります。以上です。
○黒木座長 はい、ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。御意見ありますでしょうか。小山先生よろしいですか。
○小山委員 ちょっと質問なのですけれども、今のじん肺の経過中で悪くなって、そのために急変してという場合に、じん肺の経過中にということならば、じん肺というのは身体疾患ですよね。その経過中に症状が急変してということは、それなら精神症状の発現や発病時期というのをどう見るのですか。いつを取られるのですか。そこがちょっと分からなくなって、話を聞いていて混乱してしまっているのですけれども。
○西川中央職業病認定調査官 それは事案にもよってくるかと思いますけれども、じん肺それ自体は全身疾患でもありますし、当然、休業を伴うものということでもありますが、ただじん肺で療養中の方が、うつうつとするというような状況になって、精神科にかかられたときに、その治療費それ自体はじん肺の療養としては給付できないわけですね。じん肺の療養ではないので。これを給付するためには、ストレス、業務上の心理的負荷によって精神障害を発病したということになれば、この精神障害の療養についても給付ができることになります。
 また自殺された事案について、過去では裁判例で問題になっているわけですけれども、じん肺によっての死亡ではなくなるわけですので、例えばうつ病によって自殺されたという場合に、死亡それ自体はそのままではじん肺としては給付の対象とならない。これが労災保険給付の対象となるということになるためには、業務上の心理的負荷によってうつ病などを発病されて、その結果として自殺されたということであれば、死亡自体も業務上のものとして給付の対象となるということなので、場面としては、そういうところで問題になってきます。
 発病時期をいつにするかということについては、その事案が診察を受けていらっしゃる場合もあれば、精神科の診察を受けていない場合もありますので、ケースバイケースということにはなってきますけれども、診察を受けていれば、初診のカルテでどういった精神症状が把握されているか、受診なく自殺されたようなケースについては、これはほかの事案でも同じですけれども、その周りの方からのお話を聞いて、どういったような状況でいらっしゃったかということを調べて、先生方に判断していただくという事になるかと思います。
○黒木座長 以前にじん肺の療養中に、じん肺も当然悪くなるのですけれども、自分の腸を果物ナイフで切りだして自殺したという事案があったのですけれども、やはりそれは何らかの精神障害が発症したということで、業務上ということになりましたけれども、そういった形でいいのですよね。だから受診はしていないけれども、精神障害が発病して自殺したということは、そこはまた検討するということでよろしいですか。
○小山委員 極端なことを言えば、じん肺の経過中にかなり重症化してくれば、今日死ぬんじゃないかという恐怖を持ちますので、かなり不安、恐怖な状態になりますので、それが極度になって自殺をしたという、そういう例をここで挙げているのですか。極端なことを言えば。
○西川中央職業病認定調査官 御指摘のとおりでございます。
○小山委員 そういう捉え方でいいのですね。
○西川中央職業病認定調査官 はい、結構です。
○小山委員 不安を持ち始めたというのがそもそもの精神症状の発症ですよね。それが極度になっていって自殺をしたという。その極度になったときの、その状態をこれでは言っているのですね。
 そうなれば、その6か月というのが何の意味を持つのかということになってくるので。治療していて、もしこの方の鬱状態がひどくなって自殺をしたということならば、それがちょうど6か月前を捉えて、その6か月の治療というのは、じん肺の治療を言っているのか、精神症状の発症としての治療期間を言っているのかというのが、ちょっと曖昧な感じがするのですけれども。
それだと6か月とこだわらなくても、じん肺の治療中、経過中に精神症状が、確かにじん肺は進行性で悪化していきますから、不安になって極度な不安で自殺をしたという、その時点を捉えればということになるのですけれども、そうなれば6か月というのは、別にあってもなくてもいいのではないかなと思います。
○黒木座長 小山先生のおっしゃることはよく分かるので、そこの文章がちょっと分かりづらいですね。
○小山委員 その辺をまた、きちんと分かるような記載の方法をお願いしたいと思います。
○黒木座長 では、事務局のほうでよろしくお願いします。
○西川中央職業病認定調査官 分かりづらいことがよく分かりましたので、善処いたします。
○黒木座長 それでは引き続き、今度は特別な出来事以外に関して各出来事の総合評価ですね。先ほど事務局のほうで示された共通事項、留意事項、これにどのような事項を示すのが適当かということについて検討したいと思います。
 これについては資料1-6、別紙、総合評価における留意事項ということで説明がありました。これについて御意見、御質問があれば御発言をお願いします。
○田中委員 田中です、よろしいでしょうか。仕事要求度-コントロール-サポートモデルにおいても、コントロールやサポートというのは重要な緩衝要因としてモデルでも示されているわけですので、サポートと裁量性については総合評価としてまとめて評価するのは妥当だと思っています。以上です。
○黒木座長 これでよろしいということですね。
○田中委員 そうです。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。品田先生。
○品田委員 はい、この総合評価における共通事項というものは、実務においては、さほど影響があるものではないような気がします。ここに照らして何かを判断するということは、事案でもあまり見たことがありません。しかしながら、それぞれの出来事を考える際に、その背景まできちんと理解するという意味で、その背景を明確にしたものと理解してよいのかと思います。
 その中で今回、これまでは4項目になっていたものを6項目とされているわけですが、この従来あるものはそれでよいと思うのですが、4番目の部分、恐らく法律関係の方は多少皆さん違和感を持たれるのではないかと思いますが、これまで何度もお話してきていますけれども、いわゆる賃金決定や人事評価についての問題を、当該行為が個人を対象に特別の不合理、不適切な対応として行われた場合はうんぬん、強い負荷と考えるというようなことが書かれているのですが、これについては私は反対であります。
 これはBのところの右側にもありますように、配転や転勤等についてのことと似て非なるものでありまして、配転や転勤については言わば労働条件の変更とか、その人の生活状態が変わるという意味で、ある意味法律的行為、法律行為という側面を持つと言えます。そういう意味で、いわゆる一般的な人事評価や賃金決定とは全く違うと考えます。
 つまり、その人の身分に関わっていろいろな状況変化が起こるものであり、何よりも客観的に把握しやすいものであります。また当該変化に対して事実をある意味客観的に、若しくは定型的に把握が可能な問題であります。更には配転や出向については、言わば合理性の判断基準について、最高裁の判断も含め一定のメルクマールがきちんと出ていますので、それが不当なものであるかどうかは、恐らく労基署の職員においても判断できるかと思われます。
 ところが一方で、賃金決定とか人事評価というのは、これはもう正に事実行為でありまして、様々な事情の下に起こるものであります。そしてそのことが不当であるかどうかは、前も申しましたように、就業規則を精査しなければならないし、事実の調査はかなり突っ込んだものである必要が出てきます。そうしますとこれも前に申しましたとおり、その中における労使の民事的な紛争に巻き込まれてしまう危険性もあるわけでして、このことを1つのメルクマールとして判断することもできるというような形にしておくことは、大いなる混乱をもたらすものであると私は思います。
 さらに、たたき台の6番目に書いてあることが、ちょっと意味が不明なのですけれども、これを置いておくことの意味もちょっと分からないので、その他は特に問題ないと思いますけれども、今言った4番目と6番目について、私は必要ないのではないかと思います。以上です。
○黒木座長 中益先生、何か御意見はございますか。
○中益委員 私は、資料1の留意事項の6つあるうちの4番目と5番目に若干疑問がございます。先ほどの話では、特に4番目などで、業務ではなくて配転命令そのものを、配転命令などの結果としての業務ではなく、人事権行使自体を業務起因性の起点と見るという発想が説明されまして、それ自身、私はどうかなと思いますけれども、仮にこの点をおくとしても、使用者行為の一般性であるとか、あるいは労働者の行為によって引き起こされた出来事であることが業務起因性の判断と関係するのかなという感じがいたします。むしろ、これは同種の労働者という基準の点から、心理的負荷の強度を分けることができるのではないかなという気がいたします。つまり、同種の労働者という考え方は、職歴や年齢に照らして、その労働者の職業上のプロフィールに相応するような業務は、相応するものとして強い心理的負荷を生まないと見るわけですけれども、今言ったような意味での職業上のプロフィールから乖離した業務を課すような場合には、強い心理的負荷を生むというように見るものではないかと考えております。
 そうしますと、例えば賃金決定を挙げますと、その労働者の業務に相応した賃金、例えば時給制ならば、当該労働者の労働時間に応じて賃金を支払うとか、成果賃金もそうですけれども、その成果に応じて払う以上は、仮にその賃金が低くて、事実強い不安を与えたとしても、これは当該労働者の業務に相応する業務を課しており、その相応な業務に連動した賃金である場合には、強い心理的負荷を生まないと、それだけのことではないかなという気がいたします。
 また、5つ目の点も、例えば典型的に想定されるのは、懲戒処分ではないかなと思いますが、労働者の行為に鑑みて、何か懲戒処分が科されたとして、それは業務として降格されたり、より低い業務を課されるというようなことはあると思いますが、その懲戒処分が相当である以上は、そこによって課された業務も当該労働者の職業上のプロフィールに合うわけですから、それである以上は、強い心理的負荷を生まないというように見ればよいのではないかなという感じがいたします。
○黒木座長 事務局から、先ほど品田先生がおっしゃった、必要ではないのではないかなどということに対してはいかがですか。
○西川中央職業病認定調査官 品田先生からの御指摘については、4ポツ目、特に括弧の中ですが、「賃金の決定や人事評価等」という、先ほどの中益先生のお話で言えば、相応するものかどうかというのを、監督署が見て分かりにくいものを挙げることが、非常に誤解を招くと言うか、適切でないのではないかという御指摘というように理解をしたところです。
 先ほどのお話では、品田先生は配置転換について、配置転換後の業務とは別な話として、その配置転換命令それ自体の負荷について論じられていらっしゃったと思いますけれども、それであれば、ここにあるような、特別の不合理、不適切なものであるのか、そうでないのかというのが、多少なりとも判断することが可能な余地があると言いますか、そういったものであるけれども、今のたたき台で括弧の中に書いてあることについては、これを挙げてしまうと、後段の判断すら非常に難しいので、こういったものを挙げることは適切ではないのではないかという御指摘であったものと理解をしております。ただ一方で事務局が懸念いたしましたのは、配置転換それ自体を、配置転換だけを切り取って、「配置転換」という文言を世の中の皆様が御覧になられたときに、配転命令のことだけを考えてくださるのか、配置転換というのは当然その後の業務も通常伴うものですので、そちらも含めて一般的であれば評価しないという話になってしまうと、またそこは誤解を招くのかなということを事務局は懸念して、こういったたたき台とさせていただいたところですが、御指摘それ自体は、中益先生のお話とも通じるところもあると思っておりますし、非常に分かるところではあるのですが、どのように直したらいいかということについては、また整理させていただきたいというように思います。
○黒木座長 分かりました。三柴先生、御意見をお願いします。
○三柴委員 ちょっとだけ前の論点に戻りますと、6か月うんぬんというのは、私の理解では佐伯労基署長事件なども踏まえて、恐らく不可逆進行性の疾病の例をイメージされているのではないか。だから、これはもう治らない、ずっと不安が続く症例だということがはっきりするかどうかの確定のために、6か月と置いたのかという気がしています。
 今回の論点についてですが、強調させていただきたいのは、私はこの表現からあまり変えなくてもいいと思っています。4ポツ目もです。6ポツ目も、多少工夫が必要だとしても、そんなに変える必要はないと思っています。理由は、たとえ人事労務に絡むからと言って、業務上外の判断というのは法的な判断ではないということを、改めて強調させていただきたいと思っています。
 中益先生の御意見というのは、要は条件落差を御指摘になったと思います。これは私の見解と通じるところがあるかもしれないのですが、ただ、その条件を見るときの基準が、契約だけを見るとか、あるいは判例があるかとか、そういうことは参考にはなるのだけれども、そこばかりを基準にするというのはまずいのではないかと思っています。
 以前もお話したように、アメリカでも、要するに正当な、あるいは合理的な人事労務行為については、業務上とは見ないということがかなりの州で書かれていると。これは何でかということですが、結局は、労災認定というのは確かに制度上過失かどうかというのは、労使ともに見ない前提ですが、しかし、結局精神の問題になると、業務上のストレスと捉えることが、社会常識にかなうかということが、どうしても問われてくるということだと思います。したがって、例えば自業自得と言えるような事情であれば、あまり救わないという方向になるでしょうし、使用者側の事情としても、正当な人事労務行為であるということであれば、それによって被災したように見えても、あまり救わないということになってくるのかなと思います。
 他方で、縷々申し上げているように、例がいいか分からないけれども、高所恐怖症とか、何か常識的に理解可能な事情を抱える者が、例えば使用者に対してそのことを申告したというところで、正当な配置を受けずに、わざわざ高所労働をさせられたみたいなことであれば、それは救ってもいいのかなということで、そこのメリハリは、通常の法的な判断と違った目線で見ないといけないのではないかと考えています。もちろん参考にはなりますが。
○黒木座長 法律家の先生の話を聞くと、非常に難しいですね。この点に関しては、事務局で品田先生、中益先生、三柴先生がおっしゃったことを参考に、また検討していただきたいと思います。
○品田委員 今の三柴先生の意見に反対なのですが、業務上外の判断は正に法的な判断です。結論において、法的な判断として裁判において影響をもたらすことが多々ありますので、そういう意味においては、法的な判断として見ざるを得ません。
 そうした中で、正当な人事評価であったかどうかというようなことについて、労基署の職員が巻き込まれてしまった場合において、仮にそれを正当ではなかったという判断をしたことをもって、原告が裁判において、その当該人事評価の違法性について裁判をした場合において、労基署はそのことを違法だと判断をしたという立場の中で、この問題に携わらざるを得なくなることがあります。
 そういう意味において、これは一定の判断をすることが、法的な問題になるということを理解した上で、考えざるを得ないということです。もし、このことが必要であると言うのであったら、なぜ具体的な出来事の中に組み込まないのかという話も出てこようかと思います。これはやはり具体的な出来事として組み込めないような、そういう曖昧さがあるから、先ほど言ったような事実行為であることによって、法的な判断をすることが難しいから、具体的な出来事に組み込むことができないのだということを理解すべきです。
○黒木座長 品田先生がおっしゃることはすごく分かります。事例の中でも、本人の主張と会社の主張が全く食い違っていると。そのどちら側に立つのかということも含めて、判断をする側にある程度の責任が出てくるということは当然あるので、法的な部分も当然関係してくるというのはおっしゃるとおりだと思います。
 ただ、ここをどのようにするかということは簡単ではないので、ここはまた事務局で検討していただければと思います。よろしいでしょうか。品田先生、よろしいでしょうか。
○品田委員 結構です。
○黒木座長 中野先生、どうぞ。
○中野委員 今の御議論とはまた別の点になります。資料の6ページの※のところです。先ほど事務局から御説明がありましたように、職場環境の変化を共通の事項から外して、単独でストレスを発生させ得る具体的な出来事として取り扱うということ自体には、私も反対するものではありません。
 ただ、この事項を共通の考慮事項から外すことによって、職場環境の変化が、ほかの出来事と相まってストレスを生じさせているような場合に、そのことが評価されなくなるのではないかと捉えられないか。つまり、誤解が生じないようにという点は、気を付けたほうがいいのではないかと思いました。
○黒木座長 確かに、職場環境の変化と言うと、この2つだけのことに集約されるのではなくて、ほかの要素も入っているので、このほかの要素に入っているところは別のところで評価されるということであれば、それはそれでいいかと思うのですが、ここの表現とか、あるいはこれを本当に外していいのかどうかということも含めて、また検討していただければと思います。阿部先生、どうぞ。
○阿部委員 今の6ページ、4番目の正当な労務管理につきまして。法律の先生方のお話を聞いていて、基本的に正当な労務管理については強い心理的負荷として評価されないということは、皆さんの共通認識だと思います。そうであれば特別の不合理とか不適切な対応というのは、例えば差別されたなど、ほかの項目で拾うので、わざわざここに書かなくてもいいのかなと思いました。これが1つ目です。
 あと、些細な点なのですが、3つ目の仕事の裁量性の欠如した状況の括弧内の表現方法についてです。「他律的」という言葉ですが、労働契約はそもそも他律的な側面をもつものなので、※があればよくて、括弧の「他律的、強制的な仕事」というのは、括弧内にあえて書かなくてもいいのではないかと思いました。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
○三柴委員 私に誤解があるのかもしれません。品田先生と意見が違えているような感じがしてしまいましたが、実はそうではないのかもしれません。要は、品田先生の御趣旨というのは、労働法違反だったら業務上というのに近いような感じがするのです。もしそうであったら賛成です。
 要するに、正当な人事労務行為というのは、法的に見ても違反ではないわけです。だから、もしそういう観点でおっしゃっているのであれば、失礼をお詫びしつつ、私も賛成ということになります。
 ただ、これは考え方の基本のスタンスの問題なのでしょうけれども、私は別に法を無視していいと申し上げているのではなくて、業務上外の判断というのは、そもそも基本的に法的判断、法に基づく判断であるということは合意です。その上で、精神の問題について、業務上のストレスの強さをどう評価するのかという点については、法は参考になるけれども、そこだけに囚われるわけにはいかないということを申し上げたいということです。
○黒木座長 品田先生、よろしいですか。
○品田委員 結構です。
○黒木座長 それでは次に進みたいと思います。資料1-4の「心理的負荷の評価期間」についての検討に移ります。Aの業務による心理的負荷の評価期間について、現在の医学的知見等に照らして、どのように考えるかという論点になります。検討項目は、資料1の4ページのA1、発病前おおむね6か月の間に生じた心理的負荷を評価対象にしていることについて、現在の医学的知見等に照らして妥当か。それと、A2、評価期間に関連する留意事項について、現在の医学的知見等に照らして妥当と考えられるか。ほかに留意事項はあるか。
それでは、A1の業務による心理的負荷の評価に当たり、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に生じた心理的負荷を評価対象としていることについて、現在の医学的知見等に照らして妥当と考えられるか。これについて御意見、御質問があれば、御発言をお願いいたします。荒井先生、どうぞ。
○荒井委員 前回お示しした資料は古い研究でございますが、2020年のモノグラフですが、それによっても、3ないし6か月という数値が示されておりますし、それ以外のICD-10での紹介がございましたように、それより長い調査期間の研究もあるわけですが、そこの調査の妥当性と言いますか、そこに疑念が生じるということがございます。それで、現時点でビフルコさんがモノグラフの中で、「3ないし6か月」というように記載しているのは、現時点での医学的な知見の総括ではないかというように考えております。
 もう1つ申し上げておかなくてはいけないのは、チェックリストとインタビューの差です。これは、現在ここで労災認定の基準について検討されているわけですが、チェックリストだけによる結論、あるいはインタビューだけによる結論では、なかなか正しい結論に至らないというのが、今の医学の常識になってきているのだろうと思っております。
 今、監督署等で調査していただいているものは、チェックリストに基づき、かつインタビュー、面接等を総合するという作業がなされておりますので、ある意味では、先進的な取組を日本はやっているというように考えていいのではないかと思います。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。丸山先生、いかがですか。
○丸山委員 皆さん御存じだと思いますけれども、古くは内因、外因、心因と言いますか、原因との関係で精神障害を考えるということでしたが、DSMとかICDでは、操作的な診断基準ということで、症状とか状態を幾つ満たすかということで診断を付けていきます。そのときに、原因をたぐっていくという作業がどの程度行われているか、診断基準に盛り込まれているかというのを見ていくと、明確に示されているのは、ストレス性の精神障害です。具体的に言えば、急性ストレス反応、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、適応障害、これだけではありませんが、主にこの3つが代表的なものです。
 ここに明示されているのは、臨床記述だけで診断のガイドラインまで今回は資料として上げられていなかったので残念に思いましたが、ICDの適応障害の中で、基本的には「1か月以内の出来事」と書いてありますが、ガイドラインのところまで読み進めば「3か月未満」という表現が出てきます。つまり、適応障害は多くとも3か月を見ると。PTSDは見ても6か月見ておけばいいということになります。PTSDは精神障害の中で、どれだけのものかと言えば、かなり重いのです。治りは割といいかもしれませんけれども、衝撃としては、ストレス性の出来事が必ず要件として必要であって、それはかなり強烈なものでなければならない。適応障害はそこまでいかないけれども、ストレス性の出来事であって、それなりの衝撃があるということが前提なのです。
 つまり私が言いたいのは、PTSDほどのストレス性の出来事が前提になっている場合でも、6か月見ておけばいいというのが、おおむね世界中の専門家の意見なのです。つまり、ある特定の文献にこうあるということは、それほど大きなエビデンスにならなくて、診断基準の中に盛り込まれているというのが大きな根拠になるのです。それはなぜかと言うと、その分野の専門家というか、多くの人が叡智を絞って、いろいろなデータ、資料、経験に基づいて、その数字を出しているということですから、その診断基準に書かれている範囲がかなり重いと私は思います。6か月で、ほぼほぼ十分だということになりますので、現在の6か月の範囲というのは妥当だと思うので、続けていただければいいと思います。
○黒木座長 ほかにいかがでしょうか。田中先生、いかがですか。
○田中委員 私も丸山先生の意見と同じです。これまでイベントのばく露と、発症期間までの研究が行われていない理由は、いろいろな出来事に対する反応は遅くとも3か月以内には発症するという共通の臨床的なコンセンサスがすでにあるからです。解離などの症状があって、一番発症が遅くなる可能性があるPTSDでさえも6か月以内とされていますし、労災ではPTSDの申請も多いので、6か月ということで十分ではないかと考えます。
○黒木座長 小山先生、いかがですか。
○小山委員 丸山先生、田中先生の言われたとおり、私も大体6か月というのが妥当だと思っております。丸山先生が詳しく説明されたように、DSMにしてもICD-10にしても、6か月というところがきちんと出ておりますので、やはり6か月を守ったほうがいいのではないかと思います。さらにもっと古いときをつかまえてということならば、今度はその出来事を調査していただく段階になって、調査もしづらくなってきています。6か月程度だったら、調査もきちんとやっていただけて、出来事もきちんと把握できるのではないかと思っていますので、そういう意味でも6か月が妥当かと思っております。以上です。
○黒木座長 私も経験上、6か月を見ていればいいかなと思います。ICD-10のPTSDはA基準ですね。これは「破局的・脅威的」という書き方がされています。それからDSM-5は、「危うく死ぬ」、「重傷を負うかもしれない体験」というのがPTSDのA基準です。そして急性ストレス障害のA基準も全く同じように、「危うく死ぬ」、「重傷を負うかもしれない体験」と書いています。そして私は、この急性ストレス障害、急性ストレス反応、その後にPTSDに移行するという事例がかなり多いというように考えるのが、臨床的な観点から自然ではないかと思っています。発症が遅れてというところが、なぜそうなのかということは、やはり症例を読み込まないと、その事例事例によって違う。しかし、おおむね先生方が言うように、6か月ということで十分だろうと思います。
 ほかによろしいでしょうか。それでは次に進ませていただきます。最後の検討項目です。資料1の4ページのA2、評価期間に関連する留意事項について、現在の医学的知見等に照らして妥当と考えられるか。他に留意すべき事項があるかについて、御意見、御質問があれば御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。この留意事項については、出来事をどう捉えるかということが。中野先生、どうぞ。
○中野委員 ※が*の4関係とされているのですけれども、どこに位置付けるのが適切なのか、*4との関係をどう整理するのかというのを伺いたく思います。*4は、本人の主張する出来事が発病の6か月より前のものであっても、そのことによって門前払いをするのではなく、発病前6か月間の事情をきちんと調査・評価するという趣旨であると理解しました。これに対して※は、6か月より前の出来事から継続している、その出来事から続いている事情をきちんと調査・評価することだとすると、これはむしろ*4よりも、先ほどから議論に出てきていた*1のほうに近いように思われるのです。むしろ1を包括するような留意事項のようにも思われるのです。どのように整理すればよいのかという点を教えていただければと思います。
○黒木座長 では、事務局のほうでお願いします。
○西川中央職業病認定調査官 たたき台を作ったときには、*1は逆にすごく狭いことが最初から書いてあったせいで、もう少し全体に共通する*4とくっ付けるほうが分かりやすいのではないかということで、こういったたたき台にさせていただいたのです。先生の御指摘も非常によく分かりますので、書き足したときに1と4の関係をどうするか、現行の4はそのまま残しておいて、1を一般論に広げた書き方にするのか。いずれにしても「特別な出来事」の話からしても、ここで「発病の6か月より前であっても」という記載がよいのかどうかというお話も先ほどからありますので、一般論だけ書いておいて、この話は削っていいのかもしれません。そういったことも含めて、一旦整理させていただきたいと思います。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。出来事のハラスメントに関しては6か月に限らず、最初から一連の出来事として見ていくということなので、これは非常に妥当かなと思います。荒井先生、何かありますか。
○荒井委員 2のパワーハラスメントを例示するかという議論がなかったので、一言申し上げます。いじめやセクシャルハラスメントという項目が、6か月以上持続しているものについて取り上げているわけですが、パワーハラスメントも同じように、この中に含めていくのが平等というか。どちらも職場では許容されないことですし、期間については例外的なというか、今は6か月という御議論がいろいろあったわけですが、それを超えて評価の対象とすることが妥当かと思いますので、パワーハラスメントもその*2の中に一緒に書き込んでいただけると、統一が取れるかなと思います。以上です。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。丸山先生、どうですか。
○丸山委員 大体そのような方向でいいかと思います。ただ、6か月を超えて調査の対象とするかどうかというところが、やはりいろいろな現場の状況を踏まえながら考えていかないと。確かに慎重を期せばいろいろな出来事、今言われたようなパワハラであったりセクハラであったりというのは、できるだけ長く見ていくほうがいいという議論が成り立たないわけではありませんけれども、例えばパワハラなどは昨年度辺りも、急激に件数が増えています。その辺りのマンパワーのバランスの増強がすごくあれば、十分な対応ができるかもしれませんし、もちろん必要であれば、その方向で考えていくことが大事ですけれども。ただ私は思うのですが、例えば同じパワハラであっても、最近1か月以内にあったものと6か月前にあったもの、もっと言えば1年ぐらい前にあったものは、その時点では「強」、あるいは「中」といっても、発病までの期間の長さによって、影響度や評価が随分変わってくると思うのです。そこら辺も考えていかないと、出来事だけを見てすぐさま6か月だ、あるいは6か月を超えていいのだというのは、議論がもう少し慎重であってもいいかなと思ってしまいます。
○黒木座長 発病した地点から6か月、それを超えて調査するということだけれども、そのハラスメントの行為がその人によって一連行われていて、何か変化があって発病したということもあるので、そこは丸山先生のおっしゃるように、事例によってどう解釈するのか、どういうように見るのかということに尽きるかと思います。ほかにはいかがでしょうか。田中先生、何かありますか。
○田中委員 いや、特に指摘すべきことは。
○黒木座長 大丈夫ですか。吉川先生、何かありますか。
○吉川委員 吉川です。先生方の議論に大きな追加はないのですけれども、1点。今日の議論ではないかもしれないのですが、疾患名を決める場合に、発病時期の決定がなかなか困難な事例もあるのではないかと推測します。具体的には病院に受診をして、その時点で診断される場合もあれば、PTSDなどではなくてうつ病などの場合、最初は睡眠障害から始まって、診断基準は全部満たさないけれども、徐々にそれが続くことによって、ある時期から症状が確定する、症状が幾つも重なって診断基準に合致するという場合に、発病時期が結構曖昧というか、ずれてしまう可能性もあるのかなと思います。
 私は精神科ではないので、その辺りははっきり分からないのですけれども、そういった場合に評価期間をスタートする時点を、どういうようにするかというのは、専門家の先生に聞きながら判断されるところだと思うのです。診断時期というか、発病時期が難しい案件もあるのではないかとは思いました。これを留意すべき事項に入れるかどうかというのは難しいし、検討すべきかどうかは分からないのですけれども、課題としてはあるのではないかという理解でおります。先生方からも御意見などがあれば。
○黒木座長 今の吉川先生の御意見に対して何かありますか。小山先生、どうでしょうか。
○小山委員 やはり診断するときには、きちんと診断基準を満たしているということが、第一になるので、発病時期を考えるときには、その時点を発病と見ております。確かにその前から前兆みたいな症状があって、前兆から出てきた時期を発病時期と捉えるかどうかが問題になると思いますけれども、きちんと診断基準を満たしてるということを、しっかりと考えることにしています。
 例えば、双極性Ⅱ型障害とうつ病の鑑別ですね。初めは、うつ病という診断が付いていても、結局は後で双極性Ⅱ型障害だと診断されると、それが正確な病名になってきます。そうなれば、その時期をいつにするかというのが問題になってくるのです。双極性障害と診断されるまでに、平均7年ぐらいは掛かっているというデータもあるのです。そうなれば初めにうつ病と診断されて、正確な診断名が付いていなくても、それが間違いかというと、そうでもないという問題も確かにあるので、発病時期の捉え方というのは、非常に難しいところがあります。
 私が診断評価する場合には、やはり診断基準が整ったときの時点をもって発病時期としています。そういう意味では、外来に来るのが遅れて来る方もいらっしゃいますし、かなり早めに来て、どうかなという疑いがあれば、そのときは疑いということにしていますので、そこら辺で、どちらを取るかというのが問題になるかもしれませんが、発病時期としてはそういう捉え方をしております。
○黒木座長 発病時期について荒井先生、いかがですか。
○荒井委員 診断基準を満たすことは必要だと思いますし、これは必須な項目になっていかないと思うのですが、日常あるいは社会生活に明確に支障が出た時点は、1つのポイントとして発病を想定するように考えております。と申しますのは、詳細な面接においても診断基準が、必ずしも全部聞いている時間があるわけでもありませんので、やはり病気休暇を取ったとか欠勤してしまったというように、就労者にとっての大きな出来事が発病の兆候であると、オンセットではないかと考えております。
 もう1つは、これからやっていくときには、主治医の医証に書いてある発病日を、一定程度尊重してやっていかないと、丸山先生が先ほど御指摘になられたような、膨大な調査が必要になってくるので、現実に診察されている主治医の発病時期が合理的であれば、それを採用していくというのが一般的ではないかと思います。以上です。
○黒木座長 田中先生、何か御意見はありますか。
○田中委員 いや、特に追加事項はありません。
○黒木座長 丸山先生、いかがですか。
○丸山委員 特にありません。
○黒木座長 特に訴訟上、発病時期によって出来事の捉え方が全然違ってくるので、発病時期というのは本当に難しいのです。私の個人的な考え方としては、診断基準というのはすごく大事で、そこで成立すると。しかし睡眠障害や何らかの兆候がある、生活が崩れる、欠勤が始まる、遅刻が始まるといったときに、本人が自覚をしていないことがあります。まさか自分がうつ病であるというのは、後で振り返って分かることもあるのです。そうすると、やはり兆候が出た時点を発病時期と捉える場合もあるのではないかと思いますので、そこのところで少し含みを入れておいていただいたほうがいいかなと思います。
 ほかにいかがでしょうか。ないですか。よろしいでしょうか。そろそろ時間になりましたので、ここで検討会を終了とします。頂いた御意見は事務局で整理をして、また、まとめていただければと思います。それでは終了したいと思います。どうもありがとうございました。
○西川中央職業病認定調査官 ありがとうございました。
○本間職業病認定対策室長補佐 長時間の御議論をありがとうございました。次回の検討会の日時、開催場所については、後日、改めてお知らせさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日は大変お忙しい中、ありがとうございました。