2022年3月15日 第3回「精神障害の労災認定基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和4年3月15日(火) 17:00~19:00

場所

中央合同庁舎5号館厚生労働省専用第21会議室(17階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
厚生労働省:事務局

議題

  1. (1)精神障害の労災認定の基準について
  2. (2)その他

議事

議事録

○本間職業病認定対策室長補佐 定刻となりましたので、第3回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会を開催いたします。委員の皆様におかれましては大変お忙しい中、会議に御出席いただきありがとうございます。今回は荒井先生、小山先生、品田先生、田中先生、中野先生、中益先生、丸山先生、三柴先生、吉川先生の9名の方がオンラインでの参加となります。なお、阿部委員については、ただいま遅れているところです。
初めに、オンラインで参加される方に御発言の際の御案内を申し上げます。オンラインで参加される方については、マイクのミュートを解除した上で、お名前と「発言があります」という旨の発言をしていただくか、又はメッセージで「発言があります」と送信していただきますようお願いいたします。その後、座長から「誰々さん、お願いします」と指名がありますので、その後に発言をお願いいたします。また、大変申し訳ありませんが、通信が不安定になったりすることで発言内容が聞き取りにくい場合があることに、あらかじめ御了承をお願いいたします。
検討会に先立ち、傍聴されている皆様にお願いがあります。携帯電話などは必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。その他、別途配布しております留意事項をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて傍聴されるようお願い申し上げます。また、傍聴されている方にも会議室に入室する前にマスクの着用をお願いしておりますので、御協力をお願いします。万一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承をお願いいたします。傍聴されている方へお伝えいたします。写真撮影等はここまでとさせていただきます。以後、写真撮影等は御遠慮ください。よろしくお願いいたします。
次に、本日の資料の確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1「第3回における論点」、資料2「論点に関する労災補償状況」、資料3「論点に関する裁判例」、資料4「精神障害等の労災認定に関する専門検討会報告書(平成11年7月29日)」、資料5「第2回検討会の議論の概要」となります。本検討会はペーパーレスでの開催とさせていただいておりますので、お手元のタブレットで資料の確認をお願いいたします。それでは、座長の黒木先生、以後の議事の進行をよろしくお願いいたします。
○黒木座長 それでは始めます。今回は、業務による心理的負荷の考え方について議論していきたいと思います。初めに、事務局から資料について説明をお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 今回は、まず事務局から論点及び資料の全体を説明した上で、論点ごとに先生方に御議論を頂きたいと思っております。なお、本日の資料のうち資料1~4については、論点の説明の中で説明をいたします。資料5については、第2回検討会の議論の概要となります。内容の紹介は割愛いたしますが、適宜御参照いただければと存じます。それでは、基本的には資料1に沿って論点を説明いたします。2~4については、その説明の中で適宜触れさせていただくことといたします。
資料1を御覧ください。1ページ目には論点を大きく2つ示しております。1つ目は、業務による心理的負荷の評価方法についてです。2つ目は、業務による心理的負荷評価表についてです。1ページ目ではまとめた形で記載をしておりますが、これを参考事項などと併せて、特に心理的負荷評価表に関する論点について細かく示したものが、2ページ以降の具体的な論点のたたき台となっております。このため、2ページ以降に沿って説明いたします。
1-2ページを御覧ください。論点の1つ目、業務による心理的負荷の評価方法についてです。こちらの論点は、現行認定基準では業務による心理的負荷の強度を判断するに当たり、業務による心理的負荷評価表を指標として、業務による出来事とその出来事後の状況を一括して、この心理的負荷を強・中・弱と判断することとしています。このような評価方法は、現在の医学的知見や裁判例等に照らしても適当と考えてよいかという論点です。この点については、現行認定基準、平成23年の認定基準の策定に当たり、それ以前の判断指針の評価方法から変更した点となっております。ページの下半分に、平成23年の検討会報告書の抜粋を記載しております。その2段落目「しかしながら」のところですが、判断指針では出来事と出来事後の状況が持続する程度というものを2つ区分し、それぞれに評価し、その組合せにより心理的負荷の強度を判断していたところです。ただ、ここにありますとおり、この方法は複雑で、かつ専門的な判断が必要になるということで、認定基準とするに当たって出来事と出来事後の状況を一括して評価する方法に改められたところです。認定基準を策定して約10年間、この一括して評価する方法で心理的負荷を評価してきたところですが、この方法が現在の知見に照らしても適当と考えてよいかということについて、御議論を頂きたいという論点です。
続いて論点の2つ目です。1-3ページを御覧ください。業務による心理的負荷評価表を指標として判断をしているということで、先ほどの論点1で評価方法について、現行のやり方が引き続き適当と判断される場合に、ということになりますが、指標として判断するこの評価表について御検討いただきたいのが、論点2となります。こちらは更にAとBに分けて、具体的な論点を示しております。Aは、この検討に当たっての枠組みの論点です。現行の評価表はここに書いてありますとおり、構成として、まず特別な出来事と特別な出来事以外を区分している。そして、特別な出来事以外については様々な具体的出来事を示した上で、それぞれの具体的出来事の平均的な強度を示すという指標になっています。さらに、これはあくまで平均ということで、個々の事案に即して実際には心理的負荷の程度がどうであったかということについて、強・中・弱と判断していく。そのための具体例や総合評価の視点を示すというような構成になっております。この構成を基礎として、これからこの内容を検討していくことでよいかどうかという論点となります。この特別な出来事と特別な出来事以外に区分しているということの関係で、右側の参考事項欄にはそれに関する現行認定基準、あるいは平成23年報告書の記載を示しております。
さらに、資料2の支給決定事例等についても説明いたします。資料2を御覧ください。資料2は、論点に関する労災補償状況ということで、監督署の決定に関するデータになります。1つ目のデータは、2-2ページです。こちらは、支給決定事案を特別な出来事も含めて、出来事ごとに分析をしたものとなります。これは、吉川先生のいらっしゃる過労死等防止調査研究センターにおいて、過労死等防止対策推進法に基づいた調査研究として実施をしていただいているもので、監督署から復命書をお渡しして、復命書を見てその事案を分析してくださっているものとなります。ということで、本省で毎年公表している資料よりも詳細なものとなっており、1つの事案で複数の出来事が認定されている場合には、それを全てカウントいただいたものになっております。また、特別な出来事の関係についても、上のほうですが、心理的負荷が極度のものと、極度の長時間労働を区分したものとなっているところです。
論点Aに関して引用している箇所は、この2ページの上のほうの特別な出来事の評価のところで、心理的負荷が極度のものが平成24年~30年の7年間で合計246件、極度の長時間労働については294件あったというような状況を、論点にも引用しております。なお、監督署からセンターに復命書を提供して分析いただくには、やはり一定の時間が必要となりますので、この資料に示しております平成30年までの分析が、現時点で最新のものという状況です。
論点Aについては、2-2のページだけを見ていただければ足りますが、このまま2つ目のデータ、2-3のページについても併せて説明いたします。先ほどの2-2のページは支給決定事例、いわゆる業務上の事案のデータですが、不支給となる事例ももちろんあるところで、そういった事案についてもどのような具体的出来事があったかについては認定をしております。2-3のページは、支給決定事例と不支給決定事例を合わせた全ての決定事案の件数を出来事ごとに示したものとなっております。これは、本省で毎年公表しているものを経年で示したものになります。ただ、先ほどのセンターの分析とは異なり、1事案について1出来事、主な出来事のみをカウントしたものとなっており、複数の出来事まで含めた表示とはなっておりませんが、不支給事案も含めたデータとしてお示しするものです。この資料2については、論点B2でもまた言及させていただきたいと思います。
資料1に戻ります。1-3ページは、先ほどまで説明しておりました特別な出来事とそれ以外の出来事に区分する。また、その他、構成のところに書いております特別な出来事以外は、様々な具体的な出来事とその平均強度を示す。そして、個々の事案に即して強・中・弱のいずれかに区分するための具体例や総合評価の視点を示す。こういった構成を基礎として検討していくということでよいかどうか、御議論いただければと存じます。
続いて、論点2のBです。Aのほうは構成をどうするかでしたが、Bのほうはその構成がよろしければ、その前提で評価表を具体的にどのように整理していくかといった論点となります。B全体を含めた枠ですが、評価表において修正・統合すべき具体的出来事、追加すべき出来事、追加すべきでない出来事、それぞれの具体的出来事の平均的強度、そして強・中・弱と判断する具体例や総合評価の視点について、どのように整理することが適当かという論点です。これに関して、更にB1からB4に細分化をしているところです。
その前に、Bの枠の右側の※のところを少し説明いたします。1つ目の※は、評価表を修正するほか、業務による心理的負荷の評価に当たって留意すべき事項等について、何らかの形で示すことを検討すべきかと記載しております。具体的には評価表の内容を検討いただきながら、何をどこに書くのかという問題になってこようかと思いますが、評価表の中に書くのか、あるいは認定基準の本文に書くのかなど、そういったことも御検討いただく必要があろうかということで書いております。
2つ目の※は、これらの業務による心理的負荷の評価に当たっての基準の具体化、明確化、要するに心理的負荷評価表をどうしていくかについての検討は、具体的な支給決定事例等を踏まえて行うべきではないかということを書いております。特にB2からB4の評価表の具体的内容を検討いただくに当たり、今回公開の場で検討する資料としては、資料2のデータや資料3の裁判例を示しております。実際に認定事例を見てみますと、それぞれの具体的出来事の対応は事案によって様々です。このため、具体的な事案を見て検討いただくことが必要ではないかと事務局では考えているところです。
本日は公開の場で幅広に先生方からいろいろ御指摘を賜りたいと考えておりますが、その上で具体的事案をも見て引き続き検討いただけないかと。ここで具体的な支給決定事例については個別の事案に係るものとなりますので、本検討会の開催要綱の4の(1)ですが、検討事項に個人情報等を含み、特定の個人の権利又は利益を害するおそれがあるときは非公開とするとの規定があります。先生方の御賛同が頂けましたら、次回の検討会を個人情報保護の観点から非公開として、具体的な支給決定事例を御検討いただければと考えているところです。
その上で、論点2のB1です。Bの論点をB1からB4まで細分化しています。まずB1、どのような医学的知見に基づき評価表を定めるか。前回、田中先生に御説明を頂きました2年度のストレス調査のほか、今回の資料2にあるようなデータ、あるいは資料3の裁判例、そして、先ほど説明しました次回に具体的な事案を見て御検討いただくことが必要ではないかということなどを参考にして検討する必要があるのではないかという論点です。それ以外にも、こういった文献、こういった調査等を参照することがよいという御指摘もあろうかと思っておりますので、いろいろと御指摘を頂けますと有り難いと思っております。
ここで資料2のデータ、資料3の裁判例についても触れさせていただきます。資料2については先ほど説明をしたとおり、具体的出来事の件数を示すものとして、B1からB4まで各論点を検討する際に適宜御覧いただければと存じます。資料3について併せて説明いたします。資料3を御覧ください。資料3は、論点に関する裁判例ということで示しております。請求棄却事案、いわゆる国勝訴の事案と、請求認容事案、原告の請求が認められた事案、いわゆる国敗訴の事案です。こちらを両方示しております。1~8ページが請求棄却事案、9ページ以降が請求認容、国敗訴事案となります。この資料を作るに当たり、前回の検討会報告書が取りまとまりました平成23年11月以降、直近の令和3年12月までの精神障害の認定基準に関する裁判例について、確認をしたところです。
まず、請求棄却、国勝訴事案について申し上げますと、その間そういった事案は約250件あるところです。国勝訴の事案については、裁判所の判断が監督署の判断とおおむね同じである、認定基準に基づいた監督署の判断が支持されたというものになりますので、検討の参考にしていただくに当たっては、資料化する事案を絞り込んで、直近の令和2、3年の事案、中でも高等裁判所の判決まで至った事案に絞り込みました。そうしますと、2年間の高裁判決だけでも20件ありましたので、これを資料として示しているところです。
請求認容、国敗訴事案については、3-9のページからになります。こちらについては、労働者性など、精神障害の事案であっても争点が異なるものを除き、平成23年11月以降、令和3年12月までの国敗訴事案が全部で57件です。こちらは監督署の判断とは異なった判断がなされたということで、57件全てを資料として示しているところです。したがって、状況としては訴訟となった事案の8割以上が請求棄却・国勝訴という状況ですが、検討の参考資料としては国敗訴事案を数多く示している状況です。
また、この請求認容、国敗訴事案をまとめた形としては、次の3-10ページのとおり、国・監督署の判断と裁判所の判断との差が分かりやすいよう、これを対比した形の資料としているところです。一つ一つの事案を詳細に説明する時間はありませんが、評価表について御検討いただくに当たり、適宜御参照を頂ければと存じます。
資料1に戻ります。資料2、3については、資料1のBの論点全てに関連するものと考えておりますが、次に1-4ページ、論点2のB2の論点について説明いたします。B2からB4は、評価表を実際にどのように整理していくかという論点になります。B2は、評価表に示している具体的出来事についてです。修正・統合すべきものがあるか、また、調査結果等を踏まえて追加すべきもの、あるいはこういったものは追加すべきでないといったような御指摘があるかという論点です。1つ目のポツですが、お示しする具体的な出来事については、当てはめがしやすいものであることが大事ではないか。また、心理的負荷を適切に評価しやすいものとなるよう検討すべきではないかなど、検討に当たって考慮すべきと考えられる事項を記載しております。他にも、こういったことを考慮すべきといったような御指摘があれば是非賜りたいと存じます。
さらに、個々の具体的出来事を検討いただくに当たっての留意点として、その下にアスタリスクで4つ示しております。最近の職場環境の変化は認定基準の策定から10年たっておりますので、その間の変化に伴って職場における心理的負荷として感じられることが多い出来事は、追加されていることが必要ではないか。また、今ある出来事のうち類似性の高い項目は統合すること。また、頻度の低い項目も統合することなどを検討すべきではないか。3ポツ目、様々な状況を評価するため、出来事の程度を限定しているものについて一般化、抽象化したほうがいいのか、しないほうがいいのかといったことを検討する必要があるのではないか。また、当てはめをしやすくするために、注釈等を活用して、どれに当てはまるのかということを明確にする必要があるのではないかといったことを示しております。それ以外にも留意すべきことがありましたら、それも御指摘を頂いて、そういったことを踏まえて具体的出来事の修正・統合・追加などについて幅広く御指摘を頂ければと思っております。
参考事項として、右側に医学的知見と支給決定の状況を記載しております。まず、医学的知見のストレス調査について、別紙参照と書いてありますが、これについては2ページの1-6から1-8のページになります。1-6と1-7は、今回のストレス調査の項目を一覧で示したもので、丸数字が現在評価表に記載されている具体的出来事となります。この一覧は、注釈も含めて非常にボリュームがありますので、その先の1-8は事務局において関連しそうな出来事をまとめて横に並べるといった整理をしたものになります。あくまで事務局で仮に整理をしたものですので、いろいろ御指摘もあろうかと思いますが、事務局のたたき台としては、基本的には一番左の列に既存の具体的出来事を並べているところです。ただ、8番と9番、11番と12番など、関連しそうな出来事については横に並べるということもしております。また、グレーの色を付けている出来事については、右上の欄外に記載しておりますとおり、項目15「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に関連すると考えられるものではないかということで示しているものです。
一方、太字の事項については、新規の調査事項です。基本的には既存の出来事に関連しそうなものは、真ん中の列や右の列の既存の出来事と同じ箱の中に記載をしているところですが、既存の出来事に含めにくいのではないかというものは一番左のところに書いているものがあります。こういったものを追加するかどうか、あるいは真ん中の列や右の列のものでも特出しして追加したほうがいいというものがあるのではないか。類似性が高いと思われるもの、関連するものを統合すべきかどうかなど、いろいろと御指摘を頂ければと思っております。
1-4ページに戻ります。支給決定の状況です。参考事項で資料2に言及しておりますが、先ほど御案内しました資料2の支給決定事案を見ますと、ここに記載をしておりますように、複数の出来事を全て計上した場合でも、7年間で0件の出来事であるとか、ごくわずかな出来事もあるところです。また、決定事例全体では0件というものはなかったところですが、全体で1万4,000件近くの事案がある中で、一桁のものや十数件のものもあるところです。頻度の少ないものなどについてどうしていくか等についても、御意見を頂ければと存じます。なお恐縮ですが、この右側の括弧内、(資料2の3)とあるのは、資料2の2の誤りです。訂正をさせていただきます。
さらに、その下のB3の論点です。こちらは平均的な強度をどのように定めるかです。現在の心理的負荷評価表に示されております平均的強度は、おおむね今回のストレス調査の平均的強度の分布と一致しているところではありますが、一部の出来事についてこれを改める必要があるかどうか。その際、他の出来事の評価との整合性や、令和2年度のストレス調査における分析結果等についても考慮する必要があるのではないかという論点です。こちらも参考事項として、右側に医学的知見、ストレス調査について別紙参照とありますが、こちらは1-9のページになります。1-9は、令和2年度のストレス調査に関して2つの表を示しております。上側の表は、ストレス件数の平均点の分布を、既存の具体的出来事については、平均的な強度のⅢ、Ⅱ、Ⅰ別に示したものです。丸数字は、その既存の出来事を示しておりますが、この出来事について今回の調査で示された平均点の数直線上にプロットしたものが、この図になります。一番下の数字は新規の調査事項です。
丸数字のところは全体として見れば、右上から左下に帯のようになっていると考えられ、現在の平均的強度と調査結果の分布はおおむね一致していると考えられる状況にありますが、この帯のそれぞれの端の部分について平均的強度の見直しの必要があるのか、そうでないのか、どういったことを考えて検討する必要があるかが論点となるところです。また、その下の表は調査研究の報告書内で分析をされていた項目反応理論に基づいた分析結果に基づくストレス強度の提案ごとにプロットしたものとなります。委託事業としての調査研究においての分析結果ですので、この検討会における御議論を縛るようなものではありませんが、これも含めてどのように考えていくかということになろうかと思います。
令和2年度のストレス調査はインターネット調査の方式で実施されたもので、インターネット調査については一般に多数の回答を得られるなどの大きなメリットがあり、今回も3万件の回答を頂いているというメリットがある一方、この報告書の127ページでも指摘されておりましたが、回答者がインターネットを利用している方に限られるなどの調査手法上の限界もあるところです。こういった点も含めて、医学的知見としての調査結果をどのように尊重し、またその限界についてどのように考えていくか。そして、この具体的出来事ごとの平均的強度をどう整理していくか、現時点での御意見を幅広に賜れますと幸いです。
最後の論点はB4、資料1の5ページ目に戻ります。B4については、強・中・弱と判断する具体例や総合評価の視点を示すに当たり、どのような出来事に留意すべきかという論点となります。どのような出来事、どのような事項を考慮して、どのような状況を強と判断すべきか、あるいはどのような状況を強に至らないと判断すべきかということです。1つ目のポツは、B2と同様に検討に当たって考慮すべきと考えられる事項を記載しておりますが、他にもこういったことを考慮すべきというような事項があれば、是非御指摘を頂きたいと思っております。
2つ目のポツは、これまでの検討会においても指摘があった事項と関連する論点を提示しているところです。広い意味で業務に関連する事柄ではあるが、そのことによる心理的負荷について業務に内在する危険とは評価し難い場合があるかという論点です。アスタリスクを3つ示しております。賃金の決定や人事評価など、労務管理に関する事項といったものに関する心理的負荷については、当該決定等が個人を対象に特別な不合理、不適切な対応として行われたものであるか否かにより評価が異なるのではないか。非違行為に係る懲戒処分や、そういったことの疑義に係る事実確認についても、労働者の行為の性質や会社側の対応の必要性・相当性により評価が異なるのではないか。一方で監督署においては、例えば懲戒処分の妥当性等を判断することはできないところですので、結局個別事案における様々な事情を総合的に考慮して心理的負荷の程度を判断することとなるのではないかということを示しております。
こういったことも含めて、どのように考えていくか、どのような事項を総合評価の視点として示すべきか、また示すべきでないか。さらに、現行認定基準における強・中・弱の具体例についても、こういった例を書くべきだとか、この現行の例は修正したほうがよいなど、様々な御指摘があろうかと思いますので、これもまた幅広に御指摘を頂きたく存じます。
右側の参考事項ですが、現行認定基準のほか、裁判例と平成11年の報告書について示しております。裁判例については恐縮ですが誤植があり、事案番号が1つずれております。1つ目のA14となっているのがA13の誤りです。2つ目がA10の誤りです。詳細は必要に応じて資料3で確認いただければと思いますが、ここに書いておりますように、賃金が低く決定されたことについて評価の対象としないとしたもの。それから、飲み物代の不整合に関する説明を求められた出来事について、その対応から強い心理的負荷を与える出来事ではないとした裁判例があるところです。一方で国敗訴事案のほうでは、人事制度の選択についての心理的負荷を評価したものであるとか、解雇の通知の心理的負荷を評価したものなどがあるという状況です。
また、この賃金の決定など、労務管理に関する事項についての考え方が、平成23年の報告書においては特段の言及はありませんが、平成11年の報告書、認定基準の前の判断指針を作るに当たっての報告書においては、ここにありますとおり言及がなされているところです。職場のルールに基づいて一般的に行われている行為は、一般的には評価対象とならない。しかしながら、その個人を対象に特別の不合理、不適切な対応として行われた場合には、検討の対象とすることは言うまでもないという指摘です。報告書の全体については資料4としておりますので、これも適宜御参照いただければと思いますが、こういった資料も踏まえて論点について幅広く御指摘を頂ければ有り難いと存じます。
長くなりましたが、資料1から資料5の説明は以上です。冒頭申し上げましたとおり、それぞれの論点ごとに区切って先生方の御議論を賜れますと有り難く存じます。また、大きな論点2のB、すなわち評価表の具体的な内容などについてはBの最初に説明しましたとおり、本日幅広に御意見を承った上で、具体的な事案も見て、引き続き御検討いただければ有り難いと考えております。説明は以上です。御議論のほどよろしくお願いいたします。
○黒木座長 大変膨大な資料を簡潔に説明していただきました。具体的に出来事をどう評価していくかを検証するということだと思います。それでは、資料1の2の認定基準の検証に係る具体的な論点を、項目ごとに議論していきたいと思います。初めに、1の業務による心理的負荷の評価方法のAについて、御意見、御質問があれば御発言をお願いいたします。
○品田委員 品田です。
○黒木座長 はい。
○品田委員 特に意見はないといったらなんですが、これでよいと基本的に考えております。特別な出来事とそれ以外というような区別をすることも、実務的には非常に合理的だったと思いますし、さらには強・中・弱という評価の形で具体例を当てはめていくことも、非常に分かりやすかったかと思います。また、平均的な強度を示すということも、それぞれの具体例と結び付ける際におけるイメージを作る意味において、非常に有意義であったと思いますので、基本的にここは、これまでを踏襲していいのではないかと考えます。以上です。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
○三柴委員 よろしいでしょうか。
○黒木座長 はい。
○三柴委員 全体にこれでよいと考えますが、1点だけ申し上げます。後に論点として出てきます項目立てとの関係で、現在、最終的な評価は、中+中=強となり得るという原則が取られておりますが、これは単純に量的な足し算、つまり、既存の項目に該当するものの数が多ければ強となりやすいということではなくて、この問題の特質を考えて質的な判断となるように、単純に足し算で強と判断されないようにということが強調されるべきかと思います。以上です。
○黒木座長 中と中が必ずしも強にはならないので、これはあくまでも出来事の判断ということで、総合的に判断することになりますね。
○三柴委員 そうですね。そのことがより分かりやすく書かれればいいかなという程度です。以上です。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。まず、Aの出来事をどうとらえるかと。出来事と出来事後の状況をどうとらえるかということに関して御意見を頂けると有り難いです。そうすると、これについては、出来事と出来事後の状況を一括して心理的負荷の強度を弱・中・強と示す方式は適当であるということでよろしいでしょうか。
田中先生、何かありますか。
○田中委員 その方法で適切だと思っております。
○黒木座長 ありがとうございます。それでは、論点2のAです。資料の3ページの2、業務による心理的負荷評価表の検討のA、現行の評価表の構成を基礎として、その内容を検討していくことでよろしいでしょうか。これは、2のAです。特別な出来事、特別以外の出来事によって、特別な出来事でなければ今度は強い出来事は何かということで、順番に判断していくということです。これについては、何か御意見はございますか。これもよろしいでしょうか。進め方としては、平成23年の認定基準以降これでやっていますので、これでよろしいでしょうか。それでは、現行の評価表の構成を基礎とした上で検討を進めていくという結論にしたいと思います。
次に進みます。今度は、資料の3ページのBです。Bの議論で、心理的負荷評価表の見直しに関する各論です。大きなテーマとしては、心理的負荷評価表について、修正・統合すべき具体的出来事、追加すべき出来事、追加すべきでない出来事、それぞれの具体的出来事の平均的強度、強・中・弱と判断する具体例や総合評価の視点等について、医学的知見などからどのように整理することが適当であるかということについてであります。
では、B1について、どのような医学的知見に基づいて心理的負荷を定めるかということです。1の3ページを見ていただければと思います。これについては何か御意見はございますか。
○品田委員 品田です。
○黒木座長 品田先生、ありがとうございます。
○品田委員 基本的には、医学的知見に基づいて当該調査研究で決定されていくべきであって、そういう意味においては、過去の決定事例とか裁判例等を斟酌することは、あまり合理的ではない結果を生むのではないかと思います。しかしながら、強度についてはそうした医学的な知見だけではなかなかバランスを取ることが難しいかと思いますので、そこにおいては、これまでの考え方の中でどれが実際上、強と認められるような強い心理的負荷をもたらすかどうかは、個々に考えていくべきかなと考えます。以上です。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
中益先生、いかがでしょうか。

○中益委員 ありがとうございます。それでは、私は医学的知見というわけではないのですが、承知している限りで申しますと、例えばヨーロッパでは、2004年10月8日に職業性ストレスに関する枠組み協定が結ばれまして、その中で、職場において発生するストレスの全てが労働由来のものとはいえないというような見解が、簡単ではありますが述べられております。これを受けて、例えばイタリアなどでは、労災保険の対象を職場におけるストレスの一部に限るという行政上の解釈が出されることとなりました。日本とイタリアなどでは、労災保険の認定の構造がそもそも違っておりますので、そこは注意して見る必要があるかと思いますが、どういったものがストレス評価に入っているのかとか、認定に当たってどのような立証をさせているのかとか、そういったことは、もしかしたら日本の制度にとっても参考になるかもしれません。また、ほかのヨーロッパの国でも、同様の動きがあった可能性もあるように思いますので、そういった辺りも資料として調べることができるようでしたら、参照できればよいのではないかと思います。以上です。
○黒木座長 現在でも職場のストレス、職場以外のストレス、それから個体側要因と、これが原則ですので、認定実務では一応、順番にやっていくということです。
○中益委員 ありがとうございます。もう一点よろしいでしょうか。実は、今申しましたイタリアの場合、職場上のストレスを限定するという解釈は、後で出てくるB4の論点との関係で参考になります。つまり、労務管理上のストレスのすべてを労災保険制度の対象とはせずに一部のものに限るという解釈です。要するに、日本でこれまで検討していないようなストレス評価がなされており、参考になるかなということです。
○黒木座長 ありがとうございます。
吉川先生、いかがですか。
○吉川委員 中益先生が紹介された内容と重なりますが、欧州では2004年に職業性ストレスに関する枠組み合意に基づいて、PRIMA-EFというストレス対策の欧州のガイドラインが出ています。心理社会的リスクの指標の介入のストレスのモデルとして、ばく露があってストレスが発症するという一方向だけではなくて、そのストレスは社会や組織や個人への影響が出て、その状況はまたばく露側に戻っていくというような、双方向のようなストレスの出方があると。
具体的には、既に認定基準の総合評価の中に入っているところなのですが、ばく露があった後、職場がちゃんと対応してくれたかどうかとか、前回のパワハラのときにその項目がより明確に入ったと思うのですけれども、職場がサポートしたのか、それに対してどのような支援があったのかというところがストレスの発生に影響を与えているととらえられてきているところです。ですので、全体を考えるときに、ばく露要因だけを見てその結果こうだというよりも、ばく露、出来事に加えてそれが職場でどのように対応されたのかという部分についても、より注視しながら評価ができると。これは多分、総合評価で取り上げるべき内容なのだろうと。既に入っているところだと思いますが、そういうところは、これからもより重視していきながら内容について検討していく必要があるのではないかなと思っております。
○黒木座長 今、吉川先生がおっしゃったことはすごく大事なことで、ストレスがどう本人に影響して、それを周りがどうサポートするか。認定表の中では支援体制の欠如ということで評価することになっているので、そこはすごくいい視点だと思います。ほかにはいかがでしょうか。
○荒井委員 荒井ですが、1点よろしいでしょうか。
○黒木座長 どうぞ。
○荒井委員 ストレスと心理的な反応の強さを決定していく1つの強い要素として、出来事と心理的な反応の近接性が大事だということがあります。例えば特別な出来事の場合には、多くの場合は近接して心理的な反応が起こっているということがありますので、遠い出来事のストレス度は、相当因果の中では少し因果が緩くなるというような視点がこれまでもあったと思いますが、これからも維持するべきだと思います。以上です。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
○丸山委員 いいですか。
○黒木座長 丸山先生、どうぞ。
○丸山委員 今、荒井先生が言われたことは大事な点で、例えばラザルスなどは、コーピングは結構近接して、つまり、ストレスが掛かった場合、出来事があって、その後早い段階で発動するものとしてとらえて二次認知あるいは一次認知などという話をしているわけです。先ほど出ましたサポートは重要ですが、結構タイムラグがあって起きる。つまり、そもそもがサポートできるような状況を過去において作り上げているかどうかとか、いろいろな要素が作用してくるので、その入れ方というのが非常に難しいところはあります。ただ、現行の中で、その後の状況のところで、そういうことも含めて判断の中で総合評価していますので、既に入っていてそのことが欠落しているとは思いません。それから、時間が掛かってのいろいろな反応というのは、個人的な状況であったりほかの要素が微妙に絡んでくるとか、あるいはサポートも家庭のサポートであったりとか、いろいろなものが複雑に絡んでくるので、そういうことも含めて平均的な心理負荷の強度の段階ではなくて、今は強・中・弱、つまり出来事とその後の状況を含めて判断しているということになっていると思います。以上です。
○黒木座長 ほかにはありますか。今、B2まで話が進んだと思いますが。
○三柴委員 でしたら、よろしいですか。
○黒木座長 はい。
○三柴委員 まずは、これは医学の先生方への質問というか疑問のようにもなるのですが、例えばNIOSHの職業性ストレス評価のモデルで出来事、ストレスフルイベントと評価できるもの、仕事の質量ともされているものについては、国によって違うという分析ができるものなのかということを伺いたいなと。日本でJCQ(Job Content Questionnaire:職業性ストレス質問票)とかJBCQとかを作ったときに、ある程度アレンジをされたと思いますが、もう少し日本的な作り方ができないものなのかと。というのは、例えば配置転換にしても、日本人が居場所を重視するとすると、職場のコミュニティから排除されるとかというような評価の視点ができるものか、医学的にどうなのか関心があるということです。それとの関連で、人事措置について説明が尽くされているかとか、キャリアの中断の可能性がないかとか、そういうことも考慮すべきか伺えればなと思っていること、これが1点目です。
もう一点は、現状の評価表の中の21番の配置転換等ですが、これらは人事措置なので、例えばアメリカの多くの州が言うように、あるいは平成11年の検討会報告書にも同趣旨が記載されているように、正当な人事措置は高く評価しないということについて、できれば認定基準の中でなるべく高い位置付けで書いていただけないかなと考えています。理由なのですが、やはり精神障害に関する評価の質的性格を考えたときに、業務内在危険とは言い難いのではないかということです。本当は、例えば適正を欠く配置転換とか、そういう人事措置を出来事というようにすべきなのだと思いますが、補償認定行政が人事措置の合理性の審査を補うのはなかなか難しいので、正当な人事措置を高く評価しないといったことを評価表から外出しなどで記載していただくというのがいいのではないかなと思います。
本来、補償行政が認定判断できないことを補償の対象にすること自体、是非が問われるので、人事労務の妥当性判断の体制というのは取るべきだと思いますが、見ると、実のところ国が敗訴というのは自殺事案が多くて、結果から判断している面もあるように感じられます。特に精神障害の労災認定基準というのは、社会的なアナウンス効果とか行為規範性も強いので、労使双方のためにも公正な基準設定が重要かなと思っております。長くなりましたが以上です。
○黒木座長 適正配置と適正な配置転換というのは、会社は適正だと思っていても本人が入った状態で初めて反応してしまうとか、あるいはその業務が向いていないとか、いろいろなことがあるので、適正配置を定義するのはなかなか大変だと思いますが、これはまた事務局で検討していただければと思います。先生、1点目についてはどういうことを答えていただければよろしいですか。
○三柴委員 要するに、国際的なストレス評価モデルでストレスフルイベントとされているものというのは、国の文化によってとらえ方を変えてもいいのかと、一言で言うとそういうことです。
○黒木座長 どなたかご発言をお願いします。事務局どうぞ。
○西川中央職業病認定調査官 ちょっと直ちにお答えできないので、調べさせていただいてもよろしいですか。
○荒井委員 荒井です。よろしいですか。
今、日本の共同体から外に出るということの重要性は、多くの論文でそれによって精神障害が発生するという論述は多いので、今の御指摘に関しては、一定の日本固有の意味はあると思います。ただし、ライフイベント研究の一番最初になった鬱病のオンセットに関する出来事としては、exitという、要するに会社を辞めるとか、そういうある集団から外に出てしまうということが有意な要因となっているというのが最初の結論ですので、そこは割合、世界に共通したところなのではないかと。日本の村社会からの排除などと似てはいるのですが、日本の場合には村社会、集団から排除されるというのがより強く感じられるのが、一般的な精神医学的な知見だろうと思います。
○黒木座長 三柴先生、よろしいですか。
○三柴委員 この場はこの限りでというか、有益な知見をありがとうございます。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
○品田委員 品田です。
○黒木座長 品田先生、よろしくお願いいたします。
○品田委員 話をB2に戻させていただきたいと思います。どのようなものを追加すべきか、また統合すべきかということについては、事務局の方で最近の職場環境の変化のこと、さらには統合する可能性、また必要性があるもの、一般化、抽象化する必要性がないかというような3点を挙げていただいています。まず、最近の職場環境の変化については、何ら新しいものが必要だとは考えておりませんし、思い付いておりません。しかし、統合化する必要性があるものは、幾つかあるのではないかと思います。例えば⑧と⑨のノルマに関するものとか、先ほど三柴先生もおっしゃられた配転と転勤とか、概念としては同じようなものなので、そういう意味でそういうものは統合化して、まとめてお示ししたほうがむしろ適用しやすいかなと思います。
さらに、一般化、抽象化が必要かどうかということで言えば、例えば大きな説明会や公式の場での発表というようなものが出てくるのですが、あまりにも唐突というか、非常に矮小化された形で提示されているので、能力や経験に相応しない任務を負わされたというような形で、より包括的な表現を用いるということが考えられるのではないかと思います。幾つか非正規であることをもって特別に見る出来事が設定されているのですが、それはそういう事情がある、また医学的知見の中においてそういうことがストレス要因になる例が多いということで、こういうものが設定されていると思うのですが、これも国籍とか性、性的指向も含めてですけれども、そうしたことを含めた差別を禁じる項目で包摂するという方法もあるのかなという気がいたします。これはなかなか表現が難しいので、強い具体的な提案があるわけではないのですが、検討してみていただけたらなという思いがあります。
○黒木座長 非常に重要な御意見をありがとうございました。確かに使うほうから考えると、どのように当てはめていくかと。当てはめるときに、この出来事がどこにも当てはまらないとか、そういうことも結構あるので、やはり包括的なところと具体的なところ、そこをうまくかみ合わせるような、そういった認定表というか心理的負荷表ができるといいと思います。ほかにはいかがでしょうか。中野先生、どうぞ。
○中野委員 中野です。よろしくお願いいたします。私も今の品田先生の御発言に関連して、具体的な出来事についての修正・統合・追加に関して発言させていただきます。現在、表に載せられている事項の修正や統合については、おおむね品田先生と同じ意見でして、この表は複雑になりすぎないほうが使いやすいのではないかと。つまり、一般的な出来事を書いた上で、具体的な判断基準のところで細かなことを示すというほうが、認定の実務においては使いやすいのではないかと思いますので、ノルマの達成に関する事項とか、長時間労働や連続勤務に関する事項については一般的な表現として、評価の視点や判断の具体例で具体的な基準を示すほうがよいのではないかと考えます。
その上で、追加すべき出来事に関してなのですが、事務局が御用意くださいました資料1の8ページを見て検討させていただきました。まず、ストレス調査の調査事項の4の「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」については、事務局の資料では仕事内容や仕事量の変化に関連付けられているのですが、もともと雇用されていた人がそのような業務に従事した場合は、確かに現行の評価表の15番、仕事内容や仕事量の大きな変化に該当し得るのですけれども、雇用開始当初からそのような業務に従事した場合には、必ずしも15番には該当しないのではないかと。つまり、仕事量や内容の変化とは言えないと思われます。また、現在の評価表の②悲惨な事故や災害の体験、目撃といったものとも必ずしも同一ではないように思われます。つまり、常時緊張を要求されるような業務ということであって、必ずしも突発的な事故や災害の経験というわけではないと思いますので、この事項については新規に項目を立てることを検討してもよいのではないかなと思いました。
もう1つ、近年話題になっているところですが、調査事項の68番のいわゆるカスタマーハラスメントについても、現在の評価表の関連する出来事、事務局の整理ですと11番の顧客や取引先からの無理な注文、12番のクレームに関連付けられておりますけれども、必ずしもそれらと同一ではない、無理な注文やクレームにまとめられないようなケースというものもあるように思いますので、新規に項目を立てることを検討してもよいかなと思いました。以上です。
○黒木座長 貴重な御意見をありがとうございました。この件に関しては、特にカスタマーハラスメントとか、最近、利用者が職員に暴力を振るうとか、こういったものをどこの出来事でとらえるかというのはなかなか迷うところがありますので、これはまた事務局で整理していただければと思います。ほかにはいかがでしょうか。B2はよろしいでしょうか。
それでは、B3に進みます。ここでは、既存の具体的出来事を修正・統合した具体的出来事の平均強度をどのように定めるかということについてです。この件に関して御意見、御質問があれば、御発言をお願いいたします。阿部先生、どうぞ。
○阿部委員 強度について、資料1-8や資料1-9にある上司とのトラブルの件ですが、31に当てはまるところで、点数の分布を見ますと、現在はⅡの出来事になっていますが、今回はⅢですか。
○西川中央職業病認定調査官 それは正に今から御意見を頂きたいところですが、確かに調査上は結果として平均点は高かったというものです。
○阿部委員 平均点が高かったということでしたが、調査に信憑性がないというわけでは全然ないのですが、例えばパワハラとの違いをあまり理解されずに、パワハラなのだけれども、上司とのトラブルのところで拾っている対象者の方がいるとすれば、必ずしも高い強度が出ていることをそのまま基準として反映しなくてもいいのではないかと、私は個人的に思っております。パワハラというのは、パワハラの法律の定義に当てはまる結構厳格なものをパワハラと、労災の基準でも当たる場合には多分入れているのに対して、上司のトラブルというのは意見の対立とか、結構幅広いものが含まれているので、それが今回のストレス強度ではかなり高く、強く出ていたので、その点についてはほかの先生方の御意見も聞きながらですが、現在のままでいいのではないかと思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。調査結果等、具体的な強度に関しては、やはり質問紙法の限界もありますし、解釈の仕方もあるので、そこはまた事務局で検討していただきたいと思います。
○中益委員 幾つかの項目に関して、契約内容に左右されるものはないか御検討いただけないかと思います。例えば、責任の負担に関する5番や、仕事内容の変動に関する15番、勤務形態の変化に関する18番、配置転換に関する21番など、契約内容によって受止め方が違うものがないかという趣旨です。つまり、配置転換が予定されない形で契約を結んだ労働者が、転勤で非常に遠隔地に行くとなれば、ストレスが大きいように思いますが、もともとそのような労働契約として予定されていた場合には、ストレスがより小さくなるのではないかということです。統計上では契約内容によって分けて集計していないと思いますので、さまざまな契約を結んだ労働者の回答が混在したうえでの平均値となっているのではないかと思うのと同時に、別の視点としては、かりに契約内容を考慮すべきとなったとき、労基署が果たして契約内容を評価できるのかどうかという実際上の問題もあるように思いますので、御検討を頂ければと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。この件に関しても、事務局で検討していただきたいと思います。それでは、このB3に関しては、ほかにはよろしいですか。なければ次に進めさせていただきます。資料の5ページのB4です。ここでは強・中・弱と判断する具体例や、総合評価の視点を示すに当たり、どのような事項に留意すべきかという問題意識です。この件に関して何か御意見、御質問があれば御発言をお願いします。
○品田委員 まず、これは区別しなければいけないのは、賃金の決定や人事評価の問題と、本人の非違行為との関係の問題は区別して議論したほうがいいかと思います。まず、賃金や評価の問題については、正に三柴先生がおっしゃったとおりであって、労働法学者は大概そういうふうに考えると思います。まず、こうした職場又は職業における心理的負荷を業務上ととらえるという考え方は、その前提として、通常の労働関係では起こり得ない、又は起こってはいけない契約上の変更や労働環境について心理的負荷をもたらすものとして、特別に業務上の事由であると考えようとするものだととらえるべきかと思います。
そうしますと、三柴先生がおっしゃった配置転換の問題とか、賃金の決定とか、業務評価などといった問題は、正に使用者の裁量権の範囲にある問題若しくは契約上の問題ということになりますから、それを逸脱しているようなものではない限り、これは正に中益先生がおっしゃいましたが、そういうものではない限り特別なものと考えてはならない。しかしながら、これは平成11年の報告書にも書いてありますが、配転等については特別な不合理、不適切な対応として行われた場合には、これを対象とするという形で設けられた。十分この時期にも考えられたのだなと思うのですが、そういう場合であれば良いというような形にしておかないと、これはリジッドに契約上も問題ということでとらえてしまうと硬直して何もできないことになってしまう。つまり、使用者の裁量権の問題であるけれども、しかしながら、それについて判断できる範囲はどこなのかということをストイックに考えた上で、問題をとらえる必要がある。
そうしますと、賃金の減額とか低い評価というのはどう考えても難しいかという気がします。つまり、就業規則若しくは賃金規程で、それぞれに決まるものですので、当該賃金規程や就業規則がおかしいということになりますと、これはそれを受け取った労基署が問題だという話にもなるかもしれません。そもそも、その問題について、そうした労働条件の変更等の問題について、労働者が労働組合や裁判所に駆け込んでいったという場合においては、使用者と争う事態になっていることが十分想定されます。
そうしますと、それらの争いがなされている状況の中において、労基署が独自に当該契約内容の変更等を不合理だとか評価が低かったとかいうことはおよそできない。つまり、労基署の仕事ではないと考えるしかない。そうしますと、当該起こった環境の変化や労働条件の変化が、正に平成11年の報告書が書くように、特別な不合理性、不適切な対応は、基本的には差別とか、そういうことが起こっている背景にあって行われるものでないと、対象にしてはならないということで考えるべきかと思います。
この点は、先ほど三柴先生は、正当な人事は対象としないと付け加えたらとおっしゃったのですが、正当であるかどうかが、そもそも大きな争いになるので、むしろ私はそこには触れないほうがいいのではないかという気がしております。以上です。
○黒木座長 非常に貴重な御意見をありがとうございます。吉川先生、御意見をお願いします。
○吉川委員 品田先生の話から非常に飛んだ話で申し訳ありません。労働時間の評価の取扱いについて、今回の新しい改訂では、少し整理、あるいは考え方について先生方と検討できるといいかと思いました。今、過労死等のいろいろな事案の分析をしながら、労働時間というのはかなり客観的にとらまえることができて、労働時間があることによって認定を進められる、進められないというところに実務としては関係していると思います。
今、心理的負荷が極度のところ、ここの極度の長時間労働に160時間という数字が出ています。項目の具体的出来事の16番に80時間というのが出ていて、それが強になるときには2か月間で1か月あたり120時間である。あと、特別な出来事以外の総合評価の中で、恒常的な長時間労働とするときに100時間というのが出ている。このように幾つか数値が出てきています。これはいろいろな負荷を判断するために非常に重要なものとはなっているのですが、その際に、例えば恒常的長時間労働の場合には、中の出来事と近接性があるとかないとかという部分が非常に評価されていたり、項番16の80時間の時間外労働の場合には、項番17の2週間以上にわたっての連続勤務とも関係すると思うのですが、ここで出てくる80、100、160という部分に関して、負荷としてどのように考えていくべきかというのは、時間軸で見た上での表があったり、あるいは考え方みたいなものが整理できると、全体の中での負荷要因の中を整理していく際に参考になるのかなとは思いました。
B2のところで、品田先生、中野先生からも、シンプルな形での具体的な出来事のタイトルを書いていくとか、分かりやすくしたほうがいいという意見があったのですが、例えば17番に2週間以上にわたって連続勤務を行ったというのがあり、この連続勤務を行うことによって睡眠が取れなくなって、睡眠障害が起きて健康障害を起こしてくるという形になりますと、例えば連続勤務の中に、脳心のほうで検討されたインターバルが十分取れていないというのが新たな認定基準の中に盛り込まれたと思いますけれども、そういった睡眠時間が確保できない長時間労働とは何なのかも評価視点の中に、労働時間の評価の中に入れていくことで、睡眠が取れているか、取れていないかという部分が少し客観的に得られるような判断材料ができるのかなと思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。確かに労働時間と睡眠との関係は非常に大事で、これは労災認定の判断指針のときには、生理的に必要な睡眠が確保できないような状況が数週間続くという場合に認定ということになったわけです。23年の認定では、具体的な数が出てきて、1か月160時間、出来事がない場合でも120時間が2か月連続あるいは100時間が3か月連続となりますと、これは業務上という形になりますし、先生がおっしゃったように、出来事があって恒常的な長時間残業が続き、そして睡眠を障害するような状況であれば認定ということになって、かなり具体的にはあるのですが、吉川先生がおっしゃったように、もう少しこれも整理ができたらと思いますので、事務局のほうでよろしくお願いします。
○三柴委員 先ほどの中益先生と品田先生の御意見に関連して1点だけですが、精神障害の労災認定基準なので、法的な契約との関係を強調しすぎることが良いかどうかというのがあります。契約との関係では、例えば経営学でいう心理的な契約という概念が出てきていますが、要するに慣行とか個別の関係性を踏まえた期待なのです。ですから、法的な契約の概念とは違うわけです。その意味で、私が正当という文言を使ったのは不適当だったかもしれませんが、11年の報告書には合理性について少し説明を加えて、期待を著しく侵害する措置であるとか、そういうような表現だったらあり得るのかなと思いました。以上です。
○黒木座長 法律的なことは非常に難しいので、ここもまた後日、事務局で検討させていただきます。中野先生、御発言をお願いします。
○中野委員 先ほどからの品田先生や三柴先生の御議論に関連して、私も1つ述べさせていただきます。まず、現在の評価表でも既に非正規雇用の契約満了が具体的な事項として掲載されておりますし、配置転換や転勤、理解者の異動など、一般的に行われる人事異動も具体的出来事として掲載されております。
これらを評価対象として維持するのであれば、労務管理や契約内容に関連するような業務に関連する出来事も、広く検討対象とした上で、原則としては弱であって、今、御議論があったように、例えば特定個人を狙い打ちにするような差別的な意図をもって行われた場合に、個別事案に応じて評価をするというのがバランスが良いのではないかと思います。
心理的負荷の程度を強と評価する場合をどれだけ限定するかというのが議論なのかと思いますが、いずれにせよ、差別的な取扱いに当たるような場合には強として評価をする以上は、これらの出来事を評価表に載せておかなければ、そもそも評価の対象とならないのではないかと思いますので、評価をする以上は表に載せざるを得ないのではないかと思います。どのような場合をどう評価するのかを、判断の視点や具体例でどこまで書き込むかということになると思います。以上です。
○黒木座長 確かに今、先生がおっしゃったように、どこまで書き込むかというのも非常に大事なことだと思いますので、この辺もどう書けば一番使いやすい、あるいは誤解を生まないかということで検討していただければと思います。ほかにはいかがですか。田中先生、何か御意見はありますか。
○田中委員 今までの議論を聞いていまして、ちょっと難しいなと思ったところです。実際、労基署のほうではルールに従ってきちんとした合理的な判断をしていただいているのか、差別がどの程度のものなのか、個人の期待との乖離はどれぐらいあるかということは、なかなか分かりにくいところもあって、結局は個別事案に従ってその出来事について、基本的な我々の運用上は、まともな対応を会社がしたかどうかで実際には決めるところが大きいのです。ですから、それを評価表に載せて、どれだけきちんと言語化できるのかどうか私は分かりませんが、常識的に考えて、会社側がきちんとした対応をした上であれば、それはきちんとした評価をすべきだと思います。表に落とし込むにはどのようにすればいいかノーアイディアですが、まっとうな対応をきちんと会社がした上でのことであれば、それは過重に評価すべきではないのではないかとは考えております。
○黒木座長 ありがとうございます。小山先生、何か御発言はありますか。
○小山委員 今までの皆さんのお話を聞いていて、もっともだと感じておりますので、特に発言はないのですが、今言われたとおりに、実際に書き込むのがどうなるか、まっとうなと言われても、何がまっとうなのかということになってきますので、それをどう表現するかというのは非常に難しいので、どういうような表現で書き込むかというのは非常に大切な問題になってくるかと思います。
確かに配置転換とか転勤のときに特別な不合理、又は不適切な対応をしていなければという、そういうことをきちんと断っていましたので、その程度のところでもいいのではないかと、そういうような表現の仕方で、それぞれ個別案で考えているということを残したほうがいいのではないか。あまり具体的に書き込んでしまいますと、それで身動きが取れなくなってしまうようなところもあります。そういう意味での書き込みをどうするかというのは十分検討していただきたいと思いました。
今までの話で、具体的な出来事の評価、修正か統合かというところも今まで議論されたとおりのことですが、事務局に作っていただいた1-8とか1-9、決定されたその後の支給決定件数などを見ておりますと、時代時代によって少し皆さんの考え方が変わってきているということなのです。そういう意味では、十分今後も変わり得る可能性はあります。その辺も踏まえながら、現在の状況でどれぐらいの負荷を感じているのか、きちんと評価されたほうがいいのではないかと思います。1-9でストレスの平均点の分布と、IRTに基づくストレス強度の提案を比べながら見ておりましたが、2年度のストレス評価の平均点が出てきておりますので、それを参考にしながらストレス強度の提案を考え直してもいいのではないかと。こういうことも新しい見方として取り入れてもいいのではないかと聞いておりました。以上です。
○黒木座長 調査結果等、今までの研究と言いますか、やはり、これをもっと再度検討し直すということだと思いますので、またよろしくお願いします。中益先生、御意見をお願いします。
○中益委員 ここで問題になっているのは、使用者が行った一方的な決定が労働者にストレスを与えると、そういう局面なのかと思います。この問題については、結論としては先生方と同じように考えるのですが、個人的に思うところがあるので述べさせていただきます。
まず、労災保険法にせよ、労働基準法にせよ、業務という概念は、労働者が従事する労働活動を中心とする概念だと思われますので、使用者の一方的な決定自体が当然、業務となるかには注意が必要のようではないかと思います。使用者が一方的に決定をなし、それに応じて労働者が何らかの労務に従事しないうちに、それを業務というふうに評価できるのか、あるいは業務と起因性があると評価できるかどうかも若干微妙なように思います。
また、実質的な理由としては、他人の一方的評価に服したり、またそれによって不利益を受けるということは、労働契約に限られないようにも思います。例えば、学校における入試とかがそうです。あるいは、就労の局面に限っても、例えば自営業者などが、従来と同じような働きぶりではあるけれども、顧客からの評価が下がって、報酬が下がるということもあり得えます。したがって、他人からの一方的な評価に服して、それがストレスを発生させるというのは、労働契約に独自のストレスではなく、一般生活上のストレスと考えることもできるのではないかと思います。
こう考えると、使用者が一方的に評価なり決定なりをなし、その後、労働者がその指揮命令に服しながら労働を提供するわけですが、この労働の提供を自分の意思どおりにはできないことに労働契約の独自性があるように思いますので、これをストレス評価の対象にすべきではないかなという気がします。
逆に例えば、先ほど自営業者も一方的な評価によって不利益を受けることはあるといいましたが、しかしながら自営業者は自分の自由意思に基づいて就労の仕方を変えていくことができるわけで、その点に労働契約との違いがあるのではないかという感じがします。
よって、原則として、やはり業務となった時点で、例えば配置転換を命じられて、実際にその配転後に労働者が従事した業務が過重だということになってからの評価が原則なのかと思います。ただ、ストレスの強度の評価に当たっては、当然、正当な人事評価として行われた結果の業務であればストレスは低いと評価されるように思います。他方で、例えば差別禁止規定に引っ掛かるとか、裁量権の濫用に当たるようなケースでは、ストレスの強度の評価が違ってくるのかなという気がしますので、結果的には先生方の意見に賛成です。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。品田先生、御意見ありますか。
○品田委員 先ほど吉川先生のお話で、睡眠の問題が出てきたのですが、実際に睡眠ができないということでどんどん悪化させるというケースは多いと思います。そうした中で、これをとらえることは非常に価値があると思いますが、なかなか実際の基準との関係において、個人の生活レベルの問題を盛り込むのは難しいので、そこで、例えばインターバルは一時期問題になりましたが、脳心の判断において脳外科の先生が、労働時間の長さ自体は脳心にあまり影響はもたらさないが、インターバルの短さは脳心に影響をもたらすのだということをおっしゃっていました。そうした中で、精神の問題においてもインターバルの短さが何らかの悪影響を及ぼすと先生方は考えられるのであれば、どこかにそういうことを入れられないかと思うのです。この点は是非検討していただけないかと思います。以上です。
○黒木座長 今、品田先生がおっしゃったことに関して、御意見はありませんか。なければ、これも事務局で検討してもらっていいですか。吉川先生、どうぞ。
○吉川委員 睡眠の専門の田中先生もおられるので、私が発言するのもあれですが。やはり、インターバルについては幾つか数値が出ていて、例えば、自動車運転者だと改善基準告示で8という数字が出ていたり、医師の働き方改革では、過労死基準で働くドクターが追加的健康確保措置としなければいけないインターバルは9時間という、9という数字が出ております。脳心の認定基準では11という形が出ております。欧州では11時間というのがあると思いますが、私たちの研究所で行った調査では、11時間は1つの健康悪化の目安と出ていて、恐らく働き方や、自発的に休めることができる睡眠の確保ができるのかとか、いろいろな状況があるので、やはり業種とか働き方によって9がいいのか、11がいいのか、業種・職種で異なる働き方に、一律に1つの数値に決めるのは難しい可能性はあると思います。ただ、本人が翌日、睡眠欲求がない状態で日常仕事ができる。例えばお昼ご飯を食べた後に眠くなるといったら、前日の睡眠が不十分なわけですが、人によって違っているとは思います。
その意味で、インターバルという概念は健康確保のために非常に重要だということは、一般化してきていると思います。数値を入れるかどうかは別にして、このインターバルをきちんと取った睡眠時間、仕事から離れて休息が取れるような環境を作ることが人間らしいということは、医学的にもかなり確かめられてきていると思いますので、インターバルについての考え方を認定基準の中にうまく入れていくべきだと思います。恐らくノルマがあったり、あるいは亡くなられた方とかは、何日までに納期があるけれども駄目出しをされて、それで徹夜を繰り返して最後までいったけれども、結局できずに鬱病になってしまったり、あるいは命を絶たれたりしているという状況があります。やはり仕事の影響の結果、インターバルが短くなり、睡眠も不十分で仕事の効率が下がるという悪循環もあると思います。その睡眠が十分確保できたのかという部分が、インターバルという名前で、何かうまい形で評価の中に入れられるといいのかなと思います。
○黒木座長 ほかにはいかがですか。
○三柴委員 1点だけ吉川先生に。例えば不調等でしんどいのに産業医面談を受けられなかったという項目を追加するというのはありですか。○吉川委員 認定事案などを読みますと、忙しくて病院に受診することができなかったとか、忙しい結果、誰かに助けを求める機会を失っているというのは実際にあると思います。その意味で、本人が希望したけれども、それが何らかの理由で優先度を下げられてしまうような状況があれば、それは負担要因として考えられることはできると思います。しかし、産業医に会ったから助かったかというのは、その後医療に適切につなげられるような、ここにおられる先生方につながるような環境ならいいのですが、面談する場があっても、結局、解決しなかったものもあるかもしれませんので、やはり、面接指導を受けたことがゼロイチで判断されるというよりは、体調悪化の文脈の中で評価されるものとして取り上げられていくというのは良いとは思います。
○三柴委員 それは吉川先生の別の場面での発言というか、研究報告でも、結局、個別の健康管理のニーズに応えていくというのは、今、このスキームしかないわけですよね。
○吉川委員 面接指導ですね。長時間労働で面接指導を受けたり、ストレスチェックでの高ストレス者が相談ができるような枠組みがあるということです。確かにその意味では、ストレスチェック制度が導入されて、いろいろな意味でいろいろな御意見があるというのは、私も理解しています。高ストレス者だったので産業医の先生に会いませんかという案内が来たので、そこで初めてパワハラで悩んでいるということを産業医に話すことができて、産業医がが医的に、または本人の同意のもと人事と連携するなどのアクションをすることによって防げたという事例は確実に増えてきていると思います。それが相対的に政策としてどのぐらい効果があるかどうかというのは分からないですが、少なくともそれによって助かっている方たちがいることは事実だとは思います。
一方で、中小企業の50人未満だとなかなか産業医にリーチができないとか、面談する機会が少なければ、そういうところにアクセスができる人たちだけが支えられて、アクセスできにくい方たちはより不利な条件になってるかもしれません。不利な条件だから、心理的負荷も高かった、なので認定されやすくなると言えば、そういう考え方もできるかもしれませんが、その面接指導等の二次予防策の効果と、認定基準を検討する際の取り上げ方というのは、ほかの先生方の意見も聞きながら判断していくのがいいのではないかとは思います。
○三柴委員 ありがとうございました。あくまで議論の誘導のための問題提起でした。○黒木座長 ありがとうございます。確かに認定された自殺事案に関しては、6、7割は医療機関を受診していないと。本人自身も例えば疾病状態に入っているかどうかを自覚していないという事案もあるので、この問題は非常に難しいような感じがします。ほかに御意見はありますか。それでは先生方、本当に様々な御意見ありがとうございました。頂いた御意見は事務局で整理していただいて、心理的負荷評価表の内容については、次回に具体的な支給決定事例を踏まえて、更に検討を進めることにいたします。なお、事務局から説明があったように、支給決定事例は、個人情報を含み、特定の個人の権利又は利益を害するおそれがありますので、次回開催は、開催要綱4の(1)に基づき非公開とします。以上で本日の論点に関する議論は終了しました。本日の議論全体を通じて御意見、御質問があれば御発言をお願いします。なければ閉じてよろしいですか。それでは、検討会を終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。
○本間職業病認定対策室長補佐 長時間の御議論ありがとうございました。次回の検討会の日時、開催場所については、後日改めてお知らせをさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。