第15回厚生科学審議会がん登録部会(議事録)

健康局がん・疾病対策課

日時

令和2年11月25日(水)14:00~16:00

場所

AP虎ノ門 NS虎ノ門ビル(日本酒造虎ノ門ビル) 11階 室名B
(東京都港区西新橋1-6-15)
 

議題

(1)がん登録等の推進に関する法律に基づく全国がん登録の利用・提供等の課題について
【公開】
(2)新規申出の全国がん登録情報の提供について【非公開】
(2-1)審議事項1(申出番号 X2020-0005)
(2-2)審議事項2(申出番号 X2020-0006)
(2-3)審議事項3(申出番号 X2020-0003:前回審議継続)
(2-4)審議事項4(申出番号 X2020-0001:追加資料提出)
(3)その他【非公開】

議事

 
○事務局(岩佐) それでは、若干定刻を超えてしまいましたが、ただいまより第15回「厚生科学審議会がん登録部会」を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、お忙しい中、御参加いただきまして、誠にありがとうございます。私、健康局がん・疾病対策課の岩佐と申します。
今回も、新型コロナウイルス感染症の社会的状況を踏まえまして、ウェブでの開催とさせていただいております。不慣れな開催方法でございまして、御迷惑をおかけするところもあろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。
初めに、事務局である厚生労働省のほうで夏の人事異動がございました。その後、初めての会ということで、御報告させていただきます。
私、がん対策推進官の丸山の後任で、岩佐となっております。
また、課長のほうも江浪から古元に代わっております。本日は、公務のため遅れての出席となりますが、後ほど簡単に御挨拶をさせていただければと考えております。
委員の出欠状況でございます。本日は、黒田委員及び荒木委員から御欠席の御連絡をいただいております。また、本田委員、小俣委員から遅れての御参加、また天野委員が途中退席をされるという御連絡を頂戴しております。
本日のがん登録部会の委員定数23名に対しまして、現時点で御出席されている方が19名ということで、議事運営に必要な定足数12名に達しているということを御報告いたします。
また、本日は3名の参考人の方に御出席いただいております。
国立がん研究センターがん対策情報センターがん登録センターのセンター長、東尚弘参考人。
それから、認定特定非営利活動法人日本がん登録協議会理事長、猿木信裕参考人です。
また、内閣官房「個人情報保護制度の見直しに関する検討会」の委員も務めておられます中央大学国際情報学部教授、石井夏生利参考人にも御参加いただいているところでございます。
さらに、オブザーバーとしまして、国立がん研究センターから4名の方の参加について、事前に委員長より認められておりますので、御報告いたします。
それでは、以後の進行につきまして、辻部会長のほうにお願いいたします。辻部会長、よろしくお願いいたします。
○辻部会長 辻でございます。皆様、本日もどうぞよろしくお願いいたします。
では最初に、事務局から資料の確認をお願いします。
○事務局(岩佐) それでは、資料を確認させていただきます。
事前にメールで送付させていただいておりますが、議事次第と資料1、資料2、資料3-1、3-2、資料4-1から4-5、資料5という形でございます。いま一度、お手元を確認いただければと思います。
なお、当会場におけますカメラ撮影等は、これまでとさせていただきます。
○辻部会長 委員の皆様、資料等に問題はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
では、問題ないようなので、議事に入りたいと思います。
では、議題1「がん登録等の推進に関する法律に基づく全国がん登録の利用・提供等の課題について」に入ります。
今回は、がん登録推進法につきまして、国立がん研究センターの東先生と、日本がん登録協議会の猿木先生から、現状としてどのような課題があるのかということ等について、お話を伺いたいと考えております。お二方からお話しいただいた後で、まとめて委員の皆様から、御質問、御意見いただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
まず、東先生から資料1の説明をお願いいたします。
○東参考人 よろしくお願いいたします。画面の共有をさせていただきます。
資料1を御覧ください。スライドのほうにまとめておりますが、がん登録推進法の改正に向けた課題に関する研究ということで、特別研究という形で検討を進めておりますので、その検討過程について、私、国立がん研究センターがん登録センターの東から、お話しをさせていただきたいと思います。
当研究班に求められていることというのは、がん登録推進法の改正に向けて、この法律に基づくがん登録の運営上の課題について、それを抽出し、また幅広く意見を集約して、可能な限り解決策の提言を行うということになっております。そのために、関係者からの課題の抽出や意見収集、国内外の個人情報保護法制との関係整理等を行い、解決策の検討等も行っていこうということになっております。
この御報告では、前半、スライド8枚目までは、段階を追って課題を列挙させていただきます。その後、後半で、考えられる解決策もしくは整理の検討過程について、現時点で考えていることをお話ししたいと思います。
スライド、まずは、収集段階ということになっておりますけれども、3つ課題を挙げております。
1つ目は、現在、複数の医療機関からの届出に関してです。審査・整理を行っておりますけれども、これは個人情報を基に、重複の届出であっても、機械的に完全に一致したものについては、自動で整理されます。ただ、最終的に1割程度の数が目視集約に回るというのが現状でありまして、その目視集約に回ったものは、人海戦術で、この人は同じ、この人は違うという非常に手間がかかることをやっているのが問題となっています。
2つ目は、院内がん登録と全国がん登録、2系統のがん登録が今、存在するわけですけれども、データの収集過程というのは2系統別々になっている点です。院内がん登録を実施している施設に関しましては、院内がん登録を出した後に、その一部の項目、プラス個人情報を全国がん登録のほうに改めて提出するという作業になっております。この整理自体は、電子化して、可能な限り効率化されるようにはなっておるのですけれども、最終的な提出は別々のところにしなければいけない。これが作業の重複となっております。
3つ目は、1つ目の重複整理に関連することであるのですけれども、重複整理しているときに、手元にある情報だけでは同一人物かどうかの判別がつけづらい場合。特に、住所だけが異なるけれども、この住所が全く違うという場合について、それを確認するために住所異動確認調査というものをしています。これは、都道府県を通じて市町村に依頼して、住所が異動しているのを追跡して、同じかどうかを考える、検討するということをやっておるわけですけれども、そちらのほうについては、残念ながら、協力姿勢には市区町村のほうでばらつきが存在しているという現状です。
次に、申出及びその審査における課題についてであります。全国がん登録、あるいはその匿名化情報の提供に関しましては、法20条に基づく届出施設への生存確認情報の提供以外は、全て審議会などの意見を聴くと定められています。ですので、年次の毎年やっている定型的な報告書ですら、そのような審査を受けてという形になりますので、一定の手間と時間がかかるというのが分かってまいりました。
さらに、提供審査の窓口業務を我々国立がん研究センターでやっておるわけですけれども、その中で、スライドに書きましたような様々な課題が浮かび上がっております。例えば、審査の過程において、研究の目的は審査しますけれども、質についてはかなり専門的ということで、原則、評価は行われないということもありますし、データを提供することの安全性に関しても、議論はもちろんするわけですけれども、客観的な評価として、こういったものは安全、こういったものは安全じゃないという評価が未整備であるというのも、判断に迷うところなどがあります。
また、利用者の条件なども、基本的には研究者、アカデミアの方々を想定はしていたと思うのですが、私企業からも興味があるということも言われておりますし、またデータを海外と一緒に解析するのに海外に持ち出してよいかということも、整理がなかなかついていないというのが現状です。
あと、管理体制につきましても、現在は書面上で管理体制が適切かどうかという判定をしておりますけれども、実地監査というものについては、利用規約上は定められておりますけれども、まだ始められていません。
また、最近、御承知のようにコロナ禍がありますので、リモートで解析するといったニーズも聞かれております。それをどういうふうに許可するのか、しないのかといった整理も必要です。また、施設名を特定することを目的とした利用をしたい、例えば、新しい薬の治験をするのに、その治験の対象施設をリクルートするために症例数算出に匿名データを使って、ただし、施設名から症例数の多いところに声をかけたいといった相談もあります。
あと、いろいろ相談に乗っておりますと、既に応諾されて走っている研究と、解析が大幅に重なるのではないかという相談も見られたりして、それをどうするのかといったことを考えていかなければいけないと思います。
また、こういったことをいろいろ考える上で、匿名化審議会は我々国立がん研究センターとしては主に担当しているわけですけれども、それとこちらのような顕名の審議会との判断基準の整合性をとるとか、相談するといった情報共有の必要性もあるのではないかと感じられるというのが、最近のトレンドであります。
次に、20条に基づく院内がん登録、その他調査研究に対する、主に生存確認情報等の提供については、審査は不要ということになっておりますが、30条から34条までの規定に基づく適切な管理が求められているということは変わりがありません。
その規定の解釈においては、次の2枚のスライドで示されているようなことが言われていまして、まとめますと、カルテに転記しないとか、ほかのデータベースには転記しないと言われておりますので、共同研究などをしたいといったときには活用が困難と言われております。
また、院内がん登録への提供ということについては、こちらでは院内がん登録運用マニュアルに準ずる管理をするという整理をしてきておりますけれども、届出施設への提供というのは、必然的に個人情報がついた情報で提供されるために、通常の顕名情報の提供と同様に、生体認証や二重扉などの管理が求められているといった疑義が都道府県の中であり、そのあたりの整理が必要ということを耳にします。
次の2つのスライドは、20条の提供された情報に関する整理ですので、適宜御覧いただければと思います。
次に、活用における課題でありますけれども、まず、匿名データに関して、ほかのデータとリンクすることが、利用規約によって原則許容されていないという問題があります。これをどうするのかということは考えていかなければいけない。
また、利用範囲でありますけれども、施設を特定することにつながったり、利用目的によっては、がん医療の質の向上とがん対策に資するという目的は堅持するにせよ、使い方によっては、企業営利のための利益等につながるということも考えられるような相談も見受けられます。それをどこまで許容するのかといったことについては、明確ではないというのが問題です。
また、顕名情報の提供においてでありますが、顕名情報の提供は、利用過程において、安全管理のために研究者が匿名化して管理するということも考えられますし、そのほうが安全となるのですけれども、そうした場合の管理がどの程度許容されるのかということについての規定がないこと。また、個人情報保護法等にある匿名加工情報という規定ががん登録推進法にはないために、現在の管理方法としては、匿名化した後も顕名と同じレベルの制限がかかるという解釈がされてしまっております。これらをどうしていくのかという問題もあります。
また、サンプリングデータには規定がありません。安全管理の観点から言いますと、悉皆データではなくて、サンプリングデータのほうが安全と考えられるわけですけれども、その規定がないために、基本的にサンプリングでも足りるような内容であっても、悉皆データの申出になってしまうという課題もあります。
さて、かなり駆け足で、ここまで課題を列挙してまいりましたけれども、ここからは一定の解決策に対する検討状況について、お話しをさせていただきます。
まず、最初にありました、突合して重複した届出に関して整理するということでありますけれども、この作業が目視に回っているということについて、これを効率化するということが必要になります。その効率化するためには何が必要かというと、一意性のある番号を収集していくということが有効なのではないかと考えております。昨今話題になります医療用IDといったものが使えるようになるのであれば、これは期待が持てると考えています。
ただ、一方で、新しく集め始めたとしても、過去データにはそういった番号がないので、突合作業が多少複雑になったり、あとは、番号をせっかく入力しても、入力エラーというものはどうしても残るだろうというのは想定しているところです。過度な課題は禁物かもしれません。
番号に関しましては、一般的に何か番号をということは、法律の上でも既に想定されていて、施行規則などについても、特に識別するための当該者に付した番号を集めることも可能とはなっております。
さて、全国がん登録と院内がん登録の重複の届出というものを最初に申し上げましたけれども、これはシステムの問題でありますので、システムを一括届出のシステムに整理いたしますと解決するかと考えております。ただ、収集対象ということについては、原則、現状としては同じでありますけれども、定義の仕方が全国がん登録と院内がん登録で異なっておりますので、今後、がんの定義がICD-Oの定義に従っていくと少し変わってきたりします。その辺を統一化するというのも必要かもしれません。
住所異動確認調査に関しては、市町村の対応のばらつきというのを先ほど申し上げましたけれども、これは明確な法的根拠、さらに事務作業のデジタル化による効率化といったことも考えつつ、法整備、通知の発出などが有効になるのではないかと考えております。
このスライドは、その住所異動確認調査の法的根拠ということをまとめていますので、もし議論があるとすれば、御参照いただければと思います。
次に、定型的な利用申出についての審査ということを先ほど御指摘させていただきましたけれども、法律の改正時には、審議等を経ずに一定程度提供できる情報というのをリストのように新設して、業務の効率化、審査の効率化ということを図るのが必要かと思います。また、持ち回り審査というのも制度としては利用規約上、設定しておりますけれども、どういったものが持ち回りになるのかといった整理も、できれば明示的にしていければと考えております。
2番目に書いたものが、審査に至るまでに研究の質の評価ということが行われないということに関しましては、研究の質を評価し始めると切りがないということ。あと、境界が不明瞭になってしまうということがありますけれども、一定の質の評価というのは今後必要と思いますので、何かしら専門家の諮問委員会のようなものを設置して、計画の妥当性であるとか、データの安全性特に、公表した後のデータ、集計表の安全性といったことも評価して専門委員会等で考えていくというのが必要だと思われます。
次に、申出・審査における様々な課題というところで、前のスライドではかなりたくさんの内容を申し上げましたけれども、それぞれについて、現在、研究班等で検討したり、委員会を設置できないかということを考えたりしておりますし、今後、基準等が必要なことについては、順次整備していくというのが必要かと思います。一番下の点、匿名審議会と顕名審議会との情報共有なども、場を整備していくというのが必要かと思います。
20条提供についてということですけれども、これは管理をほかの情報とは別に整理する。管理の方法について、今は特に20条提供についての管理ということを特出ししていないわけですけれども、これはもともと届出があった病院にあることとか、返っていく情報が生存確認情報だけであるということも含めて考えますと、少し特出しをして、死亡情報についてはカルテの転記を可能にするとか、生存者の情報については新たに同意を得る方法を定めるといったこと。
もしくは、匿名加工の基準などを整備するとか、提供マニュアルを改定して、安全管理体制の記載を院内がん登録運用マニュアルと統一したり、それを周知するような通知を出すことが有効であると考えられます。
活用においても、匿名データとほかのデータのリンクを、どのような方法、どのような条件で許容していくのか。また、匿名のままでリンケージが可能になったら、それは構わないとするのか。それとも、それもよくないとするのかといったことも整理が必要です。本人の同意を取得した独自のデータベースがあった場合、顕名情報だと、もちろん適切な同意を基にリンクできるわけですけれども、匿名情報として、そのままでリンクが可能なのかといったことも、連結可能性を検討することが必要だと考えられます。
利用の範囲についても、ほかのデータ利用に関する法令や規定を基に、利活用・制限の基準についての検討が必要と思われます。
研究者による匿名化や匿名加工情報等の規定についても、改正個人情報保護法や、ほかのデータ利用に関する規定を踏まえて整備していくことが必要でしょうし、リスクに応じた安全管理基準の整備というのが何よりも必要だと思われます。
これについては、サンプリングデータの活用についても整備していくということで、よりリスクに応じた安全管理というものが達成できるのではないかと考えております。
さて、駆け足で様々なことを申し上げましたけれども、各段階において、我々が既に感知しているだけでもかなりたくさんの課題があって、いろいろなことを考えなければいけないということがお伝えできたかなと考えております。研究班といたしましては、さらに広い範囲でヒアリングを行って、今後の法改正に向けた議論に資する資料というものを作成してまいりたいと考えております。具体的には、この後、専用のホームページを作って意見聴取を行うことを考えている次第です。
私からの御報告は以上となります。御清聴ありがとうございました。
○辻部会長 東先生、どうもありがとうございました。
続きまして、猿木先生から資料2の説明をしていただきます。どうぞよろしくお願いします。猿木先生、聞こえますでしょうか。
○猿木参考人 すみません、聞こえますでしょうか。
○辻部会長 聞こえています。お願いします。
○猿木参考人 では、画面共有させていただきます。
日本がん登録協議会理事長の猿木です。本日は、お時間をいただき、ありがとうございます。私からは「がん登録推進法の目的のさらなる達成のために 現状の課題と今後の期待」と題してお話ししたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
日本がん登録協議会(JACR)は、がん罹患、死亡、生存率等の情報提供、学術集会やセミナーを通してがん登録の人材育成に努め、我が国のがん対策の推進に寄与することを目的として活動しています。
我が国の地域がん登録は、1951年に東北大学の瀬木教授により開始されました。その後、原爆の影響を見るために、1957年広島市、1958年に長崎市で腫瘍・組織登録が開始されました。その後、大阪府、愛知県で開始されましたが、全国になかなか広がっていきませんでした。瀬木先生は世界人口を考案し、世界のデータを比較する道を開きました。また、厚労省の課長時代に母子手帳を創設し、世界から高い評価を得ています。
1975年に地域がん登録の研究班がスタートしました。地域がん登録の全国展開を目指して、1992年に地域がん登録全国協議会(JACR)が設立されました。2004年にがん生存率の全国推計値が算出され、2006年にがん対策基本法が成立しました。2012年に地域がん登録は全国47都道府県に広がりました。翌2013年に「がん登録等の推進に関する法律」ができました。
がん登録推進法は、全国がん登録、院内がん登録を整備することにより、がん対策の一層の充実を図ることが目的です。がん登録推進法の成立により、個人情報保護の下で安全管理措置が徹底され、がん登録の完全性と標準化がなされ、日本のがん罹患が正確に把握されるようになりました。これからは、国民に役立つように全国がん登録を活用することが求められています。JACRでは、国民にがん登録情報利用への理解を得る努力をするとともに、国立がん研究センターの委託を受け、都道府県がん登録室の安全管理措置の向上に努めています。
さらなる活用のためには、現在、全国がん登録には、スライドに示すように、5つの課題があると考えます。病院等への生存確認情報の提供、海外へのデータ提供、研究への活用、都道府県がん対策への活用、継続的な精度の維持・向上です。順に説明していきたいと思います。
まず、生存確認情報の重要性について説明します。これは、大分古いデータですが、大阪府立成人病センターで1992年から1993年に診断された、肺がん患者さんの5年生存率のデータです。青が外科手術、赤が全入院、茶色が全入院と全外来です。病院の医療追跡だけで生存確認すると、外科切除の5年生存率は75.8%、全入院では48.6%でした。生存率がこれだけ違うので、生存率の数字を見る際は対象患者を考慮しなくてはいけません。
生存確認情報をどこから得るかによっても、生存率は変わります。地域がん登録の生存確認情報を追加すると、追跡率は90%以上になり、外科切除の生存率は75.8から61.4%へ、全入院と全外来は48.4%から28%へと大分下がります。生存確認情報をきちんと把握すると、生存率が下がってしまうのです。
次に、役場照会をすると、追跡率は100%近くになりますが、地域がん登録との照合と生存率は大きく変わりません。対象患者の違い、予後調査の方法により、生存率は75.8%から28%まで幅があるので、生存率を公表する際は、対象患者さんや追跡率を明示する必要があります。追跡率は90%以上を目指す必要がありますが、各医療機関で実現可能な生存確認調査方法の確立が課題でした。拠点病院では、入院だけでなく、外来患者さんも集計対象にしています。
私は、2004年4月から4年間、厚労省がん研究助成金による全国がんセンター協議会(全がん協)の院内がん登録研究班の主任研究者を務めました。2004年当時は、各施設のホームページで公表された生存率を一覧表示するなど、生存率の公表が混乱していました。
そこで、全がん協加盟施設が生存率を公表する際の公表指針を定め、それに従って生存率を算定しました。消息判明率90%未満は算定中止。病期判明率60%未満は算定中止。症例数は100例あるいは50例以上。症例数が少ない場合は、複数年集計としました。住民票照会による生存確認(予後)調査の実施をお願いし、生存率を公表する際は、消息判明率(追跡率)を明示することにしました。
一覧表示はしない。施設のコメントを掲載。公表に同意を得られた施設に限るといった配慮により、施設別生存率公表が認められました。全がん協総会で生存率公表を提案してから3年かかりました。
2007年10月に、ホームページ上に全がん協加盟施設の、部位別施設別5年生存率を、公表に同意を得られた施設のみ施設名を明らかにして公表しました。このことは、新聞の一面に大きく報道されました。新聞では胃がんの生存率が報道されましたが、加盟30施設中、公表基準を満たしたのが18施設、公表に同意したのが14施設でした。
これ以降、記者会見の際に生存確認調査の重要性について説明しましたが、実際に記事として取り上げられることは余りありませんでした。また、早期がんを多く診療している施設は生存率が高くなるので、臨床病期の1期と4期の比を取り、病期分布による生存率の違いが分かるように、1期/4期比としてホームページに掲載しました。
全がん協では、2007年に部位別施設別5年生存率を公表しましたが、ホームページでは1997年から2012年の登録症例による生存率を公開しています。先週、データを更新しました。さらに、2012年にKAPWEBによる生存率の公表、2016年に10年生存率を公表しました。10年生存率は、全がん協研究班のデータ蓄積により実現しました。拠点病院では、2007年以降、院内がん登録が義務化され、2015年に都道府県別5年生存率、2017年に施設別5年生存率、2018年に病期別5年生存率が公表されました。拠点病院のデータは、本日の参考人の東先生がまとめています。国では、2016年にがん登録推進法が施行されたことは、皆様御存じのとおりです。
ここで、生存確認情報を把握する方法としての生存確認調査について説明します。全がん協加盟施設では、以前は医療追跡以外に、お悔やみ欄や手紙といった、医師やがん登録室による調査が行われることもあり、研究班では、住民票照会による生存確認調査をお願いしてきました。現在では、拠点病院に対して行っている、国立がん研究センターによる予後調査支援事業のサポートを受けている病院がほとんどだと思います。調査費用は、各病院が案分負担しています。このように、生存確認調査は手間とお金がかかることでもあり、がん登録推進法による生存確認情報の提供に期待していました。
生存確認(予後)調査には多くの課題があり、平成29年、拠点病院の予後調査に関するアンケートが実施されました。国立がん研究センターが住民票を照会した場合、無料対応31.4%、有料対応が62.9%、対応できないのは5.8%でした。自治体の担当者の交代で対応が変わる場合もあるようです。
病院等への生存確認情報の提供について説明します。全ての病院と、指定された診療所が都道府県に罹患情報を届けます。都道府県がん登録室では名寄せをして、その後、国立がん研究センターに提出します。国立がん研究センターで、県間で届出情報の名寄せ、死亡票との照合を行います。全国で悉皆的に同じルールで集められるため、日本の罹患数が正確に計測できるようになりました。届け出した病院や指定された診療所は、都道府県に申請すれば、第20条により、自施設で提出した届出情報に生存確認情報をつけて提供してもらうことができます。
院内がん登録データの活用は、「院内がん登録の実施に係る指針」に従います。しかし、提供された情報を活用するには、平成30年6月28日の第12回厚生科学審議会がん登録部会の資料の内容では、実情に合わず、活用が限定されます。
次に、院内がん情報の活用について説明します。全国がん登録の目的は、第1条に、がん医療の質の向上のために、がん登録情報の活用、調査研究の推進等が書かれています。国や都道府県は、全国がん登録のデータを用いて、報告書等で生存率を公表します。院内がん登録による生存率は、拠点病院等の生存率として国立がん研究センターの報告書で公表されます。現在は、国立がん研究センターの予後調査支援事業がサポートしていますが、2016年症例以降は、第20条により、病院から都道府県に申請すれば生存確認情報の提供を受けることができます。
ただし、第20条により提供された生存確認情報は、第三者提供が認められていないので、死亡日や死因は学会、例えば日本胃癌学会の全国胃がん登録、大腸癌研究会の全国大腸癌登録や研究班、NCD等に提供できません。そうした組織では、生存確認情報が十分把握されなくなるので、精度の高い生存率は算定できません。このままでは、がん治療への貢献、がん患者さんのニーズに応えるのは困難です。
第20条の課題には、都道府県から病院への情報提供が難しいこともあります。病院では、スライドに示したガイドライン等に従って、医療情報や個人情報を適切に扱っています。しかし、生存確認情報を都道府県に申請しても、都道府県がん登録室を対象に作成された安全管理措置の要件が病院の体制に合わないので、提供が難しいと言われることがあるようです。
さらに、全国がん登録から得られた生存確認情報は5年で消去することが求められているので、病院で把握した死亡情報と全国がん登録から得た死亡情報の二重管理となっており、カルテへの転記も認められていません。
第20条の課題の解決。がん対策・がん医療の充実・向上のためには、必要な場合は生存確認情報のカルテへの転記等の診療支援を行い、治療成績を評価するためには、長期にわたる生存確認情報が必須です。各施設がばらばらで生存率を計算するのではなく、学会や研究班等が、治療内容や合併症、細かな病期分類等を考慮して治療成績を比較する必要があります。
しかし、がん登録推進法が施行された2016年以降の症例については、30条から34条の規定により、現在の法律では、学会、研究班等へデータ提出ができません。専門家は、どのようにして治療成績の評価をすればいいのでしょうか。調査するのが困難な生存確認情報を臨床医に還元することにより、がん登録の有用性が理解され、がん登録のさらなる精度向上が期待できると思います。
次に、海外へのデータ提供の課題があります。5大陸のがん罹患(CI5)は、国際がん研究機関(IARC)により、1966年に第1巻が刊行されました。2017年の第11巻では、2008年から2012年の罹患情報として、世界65か国343がん登録室、日本からは、登録精度をクリアした9府県の地域がん登録データが掲載されています。宮城県のデータは、第1巻から掲載されています。
世界のがん罹患ですが、日本のデータは、IARCに提供後、品質チェックを受けて掲載されます。提出が不可能となると、日本はデータなしの灰色か、中国・韓国などの近隣国のデータから近似されます。
世界のがん生存率の比較です。「OECD HELTH at a Glance 2017」に掲載された大腸がんの5年生存率のグラフです。2000年から2004年が白丸、2010年から14年が紫色で表示されています。日本のデータは、品質チェックを受けた16府県の地域がん登録データに基づいています。赤枠で囲まれたのが日本です。データ提出は、日本がん登録協議会のメンバーがサポートしました。世界へデータ提出ができなくなると、OECDから健康達成度世界一と評価された日本のがん治療成績を世界に示すことができなくなります。
研究への活用ですが、課題として、保有期限の制限により、長期に及ぶコホート研究ができなくなります。がん登録は法律の下で行われていますが、例えば患者体験調査などのアンケート調査とがん登録データをリンケージする場合、書面による同意取得が原則であり、がん登録についても書面で同意を取っておく必要があります。リンケージ研究や複数医療機関に及ぶ研究にも課題があります。
スライドに「疫学辞典第5版」に書かれたコホート研究の記載を資料として掲載しました。長期間にわたる観察、長期にわたる研究の必要性が書かれているので、後で御覧ください。
診療情報とがん登録データのリンケージによる多施設研究の必要性を示した図です。真ん中に住民ベースのがん登録(全国がん登録)の矢印があり、左側の第1がんの診断から、右側の死亡まで書かれています。周辺に生活習慣データ、検診データ、レセプトデータ、バイオバンクデータ等、研究基盤データを構成する各種データベースがあります。がん対策におけるがん医療の均てん化を実現するためには、こうしたデータと連携する仕組みが欠かせません。単施設の院内がん登録のデータだけでは、主要ながん種のみの研究に限られてしまいます。
次に、リンケージ研究の同意取得の困難さについては、「疫学辞典」の記載を抜粋して示します。その研究が大規模な対象者数を必要として、研究対象者の一部あるいは全ての対象者が死亡している場合は、インフォームドコンセントを得ることはできません。同意取得が困難な場合の対応を考えておく必要があります。
次に、都道府県のがん対策への活用ですが、中長期的ながん対策の計画や評価に全国がん登録の集計は大変有用ですが、今後のさらなる効果的ながん対策のためには、詳細情報を活用する仕組みが必要であり、そうした詳細データは、全国がん登録で集めるのではなく、他のデータとの活用や研究が必要です。
継続的ながん登録の登録精度の維持・向上ですが、全国がん登録により、日本のがん罹患が正確に把握されるようになり、日本のがん対策に役立てる仕組みの基礎ができました。今後は、全国がん登録、都道府県がん登録、院内がん登録等を適切に維持・管理し、いかに活用していくかが課題です。
長期にわたる継続的な事業の運用のためには、全国がん登録と院内がん登録の整合性を図り、1人、1つの番号等による照合制度の向上を目指し、全国がん登録、都道府県がん登録、院内がん登録等に従事する人材の確保に必要な研修を実施し、登録制度の維持・向上のためには、国による財政支援が必要です。
以上で終わります。御清聴ありがとうございました。
○辻部会長 猿木先生、どうもありがとうございました。
それでは、今、東先生と猿木先生から、それぞれ御説明いただきましたけれども、御説明いただきました内容につきまして、委員の皆様から御質問、御意見いただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。どなたからでも結構ですけれども、何かございませんでしょうか。
羽鳥先生、どうぞ、お願いします。
○羽鳥委員 今、がん登録3.1と3.2と2つあって混在して、現場でも非常に大変だというお話がありましたけれども、こういう無駄な作業はできるだけ省いて、そろえていくような形にはならないものなのでしょうか。①難病・小児慢性疾病②循環器対策等でなどの疾病で登録作業をされていますけれども、がん登録を一番目標として行っているので、そのようなところでこのような混乱がおきないようなモデルをつくっていただき、その方向で進めていただきたいと思います。
以上です。
○辻部会長 ありがとうございました。
ほかにはどなたかいらっしゃいますか。
東先生、どうぞ。
○東参考人 国立がん研究センターの東です。
ICD-Oの3.1と3.2が混在して混乱と御指摘いただきましたけれども、新しくできたICD-O-3.2というものは2020年の症例から、院内がん登録において採用しているものです。これを採用しないことには、現場の臨床で使われている組織系が正しくがん登録に反映されないということで、2020年から採用したわけですけれども、この時期というのは来年になりますので、来年、ICD-O-3.2のコードを全国がんに出すときには自動的に変換するというソフトを国立がん研究センターの中で作っております。
ですので、制度が移行する、コードが移行するということに関する混乱は一定程度あるかと思いますけれども、混在による混乱というのは、我々としては最小限に抑えているつもりですので、ちょっと補足させていただきました。
○辻部会長 ありがとうございます。
ほかにどなたかいらっしゃいますか。
○永井委員 すみません、カメラで出ませんけれども、全日病の永井ですけれども、よろしいでしょうか。
○辻部会長 どうぞ。
○永井委員 個人情報保護法の改正とか次世代医療基盤法等々ができてきていますので、現実的にいろいろなビッグデータを使いながら、医療・患者さんにとってよりよい貢献はどうできるのかというところを真剣に議論しなければ駄目なときに、一方では、コロナ禍で病院などの経営も非常に圧迫されていますし、生産性向上、業務効率を図らなければならない状況です。この2題を聞いていますと、がん登録に関してもいろいろな重複作業が混在していて、もう少し簡便にきちんとスリム化していろいろなデータを、リンケージ研究の場合もそうですけれども、構築していくことを、この一、二年の間にできないものかと病院団体としては考えております。ぜひそのあたりのところをこういう審議会等々を含めて議論していければいいなと思っています。
以上です。
○辻部会長 ありがとうございます。これは御意見ということでよろしいですね。
○永井委員 そうです。
○辻部会長 ありがとうございます。
ほかに委員の皆様から何かございますでしょうか。
中西先生、お願いします。
○中西委員 猿木先生にお伺いしたいのですけれども、以前、この審議会でもカルテの転記ができないことについて、これはかなり問題じゃないかという話も出ました。また、今のお話を聞きますと、海外での活用が難しくなる。すなわち、法律が逆にこの登録制度の活用を阻害しているとも判断しかねないような状況だと思いますが、海外におけるこういったがん登録に関する法制度等はどういう状況になっているか、もしそれが分かれば教えていただきたいと思います。いかがでしょうか。
○猿木参考人 ありがとうございます。
海外の登録制度については、私より、恐らく祖父江先生とか大木先生のほうが詳しいのかなと思いますけれども、今回は、法律の中に海外へのデータ提供ということが具体的に記載されていないということで、なかなか難しいということだと思いますので、ぜひその辺を海外に安全に提供できる方法を考えて、今回、悉皆性のあるデータですので、それを全て海外に提供するというのは、これは国家的にもかなり大変なデータになりますので、そこをどうしたら海外のデータと比較できるのかというのを検討していただければありがたいなと思います。
○中西委員 ありがとうございます。
○辻部会長 今、猿木先生から祖父江先生、大木先生というお話がありましたけれども、いかがでしょうか。海外の事情につきまして、情報提供ありますでしょうか。
○祖父江委員 祖父江です。
私、余り詳しくないのですけれども、耳学問で聞いているところによると、個人情報の管理に関しては、ヨーロッパはかなり厳しめで、アメリカは緩めと、僕はそのように捉えております。ですから、日本だけがこういう状況にあるというわけではなく、個人情報の扱いで研究的な利用がある程度制限されてしまうということは、国際的にも割と生じていることであって、そこのデータをどのように活用していくかは、海外の情報もきちんと得ながら協調していくことが重要だと思います。
○辻部会長 大木先生、いかがでしょうか。
○大木委員 大木です。
先ほどの祖父江先生のとおりです。私のほうでは、法律の中で出していいのか、出してはいけないのかを一生懸命読もうと思うのですけれども、どこにも記述が明確になくて、それで出す前に議論が必要かと思い、今回挙げさせていただいたと思っています。
○辻部会長 大木先生あるいは猿木先生、祖父江先生、どなたでも結構ですけれども、CI5にデータを出せない国は、日本がそうかどうか分かりませんけれども、日本以外にあるのですか。
○祖父江委員 大木先生、分かっていますか。
○大木委員 大木です。
そのあたりは、明確にいつから、どの国が出せないということは、私、完全には把握していません。もしかしたら東先生のほうが詳しく把握されているのではないかと思います。
○辻部会長 東先生、いかがでしょうか。
○東参考人 どの国がやっているのに出せないのかというのは、すみません、私も知らないです。
○辻部会長 それでは、その辺、後で整理していただきたいと思います。
どうぞ、お願いします。
○石井参考人 中央大学の石井です。今までの御議論の中で個人情報保護の話が出てきましたので、幾つかコメントをさせていただこうと思っております。
東先生の資料ですと、7ページと15ページ、20条における院内がん登録への対応策と書いてある部分についてです。
7ページの資料に図が載っておりまして、院内がん情報から転記したいけれども、制約があるといったことが課題になっていると認識しております。診療情報を転記することでどういうリスクが発生するかということを考えますと、見る人がすごく増える、診療情報に触れる人の幅が非常に広くなってしまうというところが、個人情報保護、また、情報セキュリティの観点からのリスクが上がる要因になると思われます。それに対して、セキュリティを維持しつつ、どのようにしたら転記できるかということを考える必要があるわけです。
例えば、診療情報に転記を認めたとして、そのときの条件を追加するという方法があります。情報にアクセスできる人の制限をかけたり、監査を実施したり、後の利用範囲を制限したりといった方法が1つです。
もう一つは、できるかどうか分からないのですが、院内がん情報に診療情報からの転記を認めて、保護されている領域の中での情報の利活用を進めてみることも考えられます。セキュリティを落とさない代替策を講じつつ、20条に基づく院内がん登録の情報を利活用できる手段を考えるとよろしいのではと思っている次第です。
また、先生方のお話の中で、死者の情報の取扱いも出てきましたが、死者の情報の中に生存者の情報が含まれてしまうと、個人情報になってしまうという問題があります。死者の情報、すなわち亡くなった人のカルテを使って、生きている人が診療を受けるわけではないと思いますので、死者の情報だけ別に管理しておき、生存者の相続人の方や遺族の方が、その病院との関係で死者の情報を使わないという対策を取ることによって、死者の情報を分けるということはできるのではないか、と考えております。
さらに、匿名化についてもルールがあったほうがいいというのは、まさにおっしゃるとおりです。実は匿名と思っていても、そうでないという情報が結構あるのではないかと思います。日本の個人情報保護法の解釈上、例えば個人情報を提供する場面を考えたときに、提供元において識別性があれば個人情報であると評価するのか、提供先において識別性があれば個人情報であると評価するのか、提供元と提供先のどちらで識別性を判断するか、という議論がありますが、提供元基準の解釈が取られています。
これは何を意味するかといいますと、例えば病院からどこか第三者に情報提供する場合を考えたときに、氏名やIDを隠しただけでは匿名化したことにはならず、病院の中で個人を識別できるような形になってしまっていると、それは提供元において個人情報になってしまいます。そのため、一部の情報を隠して第三者に提供するという行為は、個人情報、個人データを提供する行為に当たってしまう。そこで、匿名加工情報の制度を別途作って、識別行為の禁止のルールなどを設けていたりするということがあります。
このように、先行している日本の個人情報保護法制の匿名化の議論、匿名加工情報の規律といったものを、がん登録の領域で正しく使えるようなルール設計が必要になってくるだろうと考えています。
第三者提供のところでは、きちんと匿名化されている、又は、統計化されている情報であれば利活用の制限はなくなりますが、個人データとして評価されるものを国内の第三者に提供する、あるいは国外の第三者に提供するような場合は、本人の事前同意などの第三者提供の要件が別途定められています。
先程来、同意が取れないからというお話が何度か出てきておりますけれども、国内への第三者提供にしても、外国への第三者提供にしても、法令に定めがある場合や公衆衛生の向上の目的で本人の同意を得ることが困難な場合というのは、提供することが認められています。そのようなことで、法令の中にきちんと規定を設けるか、あるいは公衆衛生向上目的ということで、国内の第三者、外国への第三者に提供することができるか否かの解釈論を整理してみることが考えられるかと思いました。
長くなっておりますが、例えば、解説書の中には、日本で発生した感染症の国際共同研究のために、患者の個人データを外国の医療機関に提供するような場合は提供が認められるというケースとして挙げられています。これを大量に提供していいかというところが、また課題になってくるわけですが、そうした点も踏まえて、現行の個人情報保護法制で提供が認められるのはどこまでかという点を整理した上での議論が必要になるだろうと感じているところです。
最初に、内閣官房の検討会に参加させていただいていることを御紹介いただきましたけれども、公的部門のルールを民間に寄せる方向での議論が進められているところです。外国への個人データの提供についても、今、検討中という状況ではありますけれども、公的部門においても何かしらのルールができるだろうと思います。
最後に、越境適用のルールで一番有名なのはEUのGDPRで、EUから個人データを国外に移転するときには、移転先の国に十分なレベルの措置が保障されていなければならないというのが大原則になっています。日本の民間の個人情報保護法については、十分性の判断を受けています。ただ、匿名加工情報については、補完的措置が必要になっていますので、その辺も調査した上で整理が必要かと思います。
以上です。すみません、長くなりました。
○辻部会長 ありがとうございました。大分いろいろな論点を整理していただいて、分かりやすくなったかなと。これからもまた御指導いただきたいと思います。
今、チャットのほうで白井先生から手が挙がっているみたいですけれども、白井先生、何か御質問ございますか。
○白井委員 猿木先生の19枚目のスライドで、16自治体の分が海外に提供されるデータとなっているのですけれども、その地域性ということも考慮されているのか。また、品質チェックを受けてということなのですが、それで全て日本のデータとしてサンプリングができているのか、これが限界なのか、増やしていく必要があるのか、これを維持したら大丈夫なのかということをちょっと質問しようと思いました。
○辻部会長 猿木先生、お願いします。
○猿木参考人 このデータは、データを提供した後にデータチェックを受けて、そのチェックを受けたところのデータだけを利用して算定されていると思います。ですから、データを出しても、データの精度が低ければ、当然掲載されないということになります。そういうことですので、データ精度を上げていく努力は、それぞれの都道府県、これまで地域がん登録側でかなりやってきております。今回、全国がん登録になりましたので、そういう意味では、ここの精度がかなり上がってきていますので、これからは海外にデータ提供できるということであれば、ここに載せられる都道府県が増えてくると思います。
以上です。
○辻部会長 ありがとうございます。
白井先生、これでよろしかったでしょうか。
○白井委員 白井です。
ありがとうございました。自治体の努力もしていかないといけないなと思いましたので、ありがとうございます。
○辻部会長 ありがとうございます。
引き続きまして、部会の先生方から御意見、御質問いただきたいのですが。お願いします。
○家原委員 家原です。
先ほどから出ております第20条の診療や医療にフィードバックできない、生存確認がカルテに記載されないということは、本部会でも以前に話題になったところで、先ほど石井先生の御発言で、カルテに記載すると見る人が増えるという点が問題だという御指摘があった点に関して、一般的にカルテ情報といいますのは、医療者間で守秘義務が守られており、カルテ情報を開示する際にはそれなりの手続が踏まれるところでありますので、そういったことを考慮いたしますと、私は医療機関にフィードバックすることに問題があるとは少し考えにくいと思いました。法の第20条の改正に向けて、もう少し何か踏み込んだ手続が要るのかとか、教えていただければ。石井先生に質問でございます。お願いいたします。
○辻部会長 石井先生、お願いします。
○石井参考人 ありがとうございます。
見る人が増えるということに関してですが、院内がん情報登録データベースの管理方法と診療情報の管理方法が違うのではないか、ということが申し上げたかった点です。医療従事者の中でアクセスできる人の数が違うのではないかというのが私の認識だったのですけれども、その点は正しいということでよろしいですか。その前提での意見だったのですが。
○辻部会長 家原先生、いかがでしょうか。
○家原委員 病院の施設でアクセス者が増えるということでございましょうか。これは、がん登録されていない、ほかの方のカルテと同条件だと思いますし、基本的には医療機関で診療に関係ない方のカルテは見ないということが、一般的に施設で規定されていると思いますので、誰もが見るのは物理的には可能ですが、医療倫理的にはしていないと私は理解しておりますが。
○石井参考人 物理的な管理方法などが違うというのは、私の認識で正しいですか。
○家原委員 院内がん登録とカルテは別だと思います。
○石井参考人 院内がん登録情報のほうから診療情報のほうに情報が転記されていって、院内がん登録情報、がん登録制度において取り扱う情報の流通性が高まってしまうと、診療情報において管理できる情報が増えていくことになります。一般論にはなりますが、個人の情報をひもづけやすくなるなどの、個人情報の観点からのリスクは上がる可能性はあるという意見を申し上げたつもりでした。私としては、代替的なセキュリティの措置が講じられるのであれば、生存確認の情報を転記することをやってはいけない、ということまでは言わなくてもいいのではないかと思います。
では、代替的な措置をどうするかということで、方法としては、利用範囲を制限したり、セキュリティのレベルを現状から上げてみたり、アクセス制限を強化したりとか、監査を入れたりするなどが考えられます。ジャストアイデアで思いつくのはその程度ですが、院内がん登録情報から診療情報に移ったものについて、管理を慎重に行うためのアラートを出すような仕組みもあるかもしれません。その辺の取り得る対策を抽出してみる方法があるかと思っています。
もう一つは、できるか分からないですけれども、院内がん情報のほうに診療情報を移して研究活動に使うことなど、そうした処理ができるのか、できないのかといったあたりも考えられます。転記自体の条件を厳しくすることもあるかもしれません。
○辻部会長 ありがとうございます。
今日も20条提供について結構御意見いただいていますので、今の段階で東先生、猿木先生、それから中西先生も先ほど御発言されましたけれども、先生方から何か御意見ございますか。はい。
○中西委員 中西です。
先ほどから石井先生等からもお話がありますけれども、カルテの転記のこと、あるいは海外へのデータの移送のことにつきましては、例えば感染症の話は、そういったきちんとした法律等に定められていいます。個人情報保護法というのは、御存じのように全ての法律の劣後に位置するものでありますので、このがん登録の仕組み、あるいはこの法律の意義ということを明確にし、そして、個人情報保護法をきちんと尊重した上でがん登録の活用について記載すれば、個人情報保護法があるから、これができない、あれができないということではないと思っています。
そういう意味では、この法律は非常にすばらしい法律でありますが、結果として、実際には運用上の困難が出てきたというのは間違いないと思いますし、そういった点は、次の法律の改正あるいは法律の運用の見直しをすることによって、どなたにも迷惑のかからない活用法が出るのではないかと私は思っております。
また、先ほどカルテの話もありました。確かに、物理的には多くの人の目に触れることは可能にはなりますが、今、膨大なカルテ情報が日本中に存在している中で、そこからいろいろな情報、個人情報が漏れてきて大事件になったということは、めったにはないような気がしております。加えて、カルテというのは存命の方を対象とするのが主体でございますので、不孝にして亡くなられた方の情報がそこにあることをあえて活用しようということは、その物理的な量の、さらに膨大な情報量の中からは、非常に現実感がないのではないか。
つまり、100%できないかということは、そうではないかもしれませんけれども、現実的にここからがん登録の情報を記載された方から取ってきて云々ということは、まずあり得ないのではないかというのが私の率直な感想でございます。
以上でございます。
○辻部会長 ありがとうございました。
猿木先生あるいは東先生、何か御意見いただけますでしょうか。
猿木先生、どうぞ。
○猿木参考人 猿木ですけれども、20条の問題、今でも、例えば研究計画書をきちんと出すということも必要ですし、そういうことをやればある程度できないことはないかと思います。それは、2015年の症例まではいいのですけれども、2016年の全国がん登録になってから、そこの20条による第三者提供ができないというところでなかなか難しくなるということです。今までできていたことが、2016年の症例からはひょっとするとできなくなってしまうということがありまして、今のうちにそこの課題を解決していただきたいなと考えます。
以上です。
○辻部会長 ありがとうございます。
東先生、何か御意見いただけますか。
○東参考人 御指名ありがとうございます。
20条提供で皆さんが一番欲しいのは、恐らく生存確認情報のうち、誰が、いつ亡くなったのかという情報ではないかと思います。ですので、この情報は基本的にはもう亡くなった人の情報ですので、もちろん生存されている方に関連する範囲においては個人情報かもしれませんけれども、大半は余り個人情報とは言えない情報ではないかと思いますので、そこは特別に使えると整理しても、問題は大きくならないのではないかと予想します。ただ、今の法律上では保有期間といったものもありますので、提供を受けた場所からほかのところに置いてしまうと保有期間を超えてデータが保存されてしまうリスクがあります。
その辺、次の法律改正でちゃんと整理して、安全性ということを必要十分に考えればいいのではないかと思いますし、これはほかのこともそうだと思います。海外への提供ということについても、海外には日本の法律が適用されないということが一番の大きな問題です。ということは、安全であるということをきちんと確認できる、評価できるという方法で安全なものを出すといったことを確立しなければいけないと思います。
今、恐らく一番欠けているのは、安全性をきちんと評価する、こういうやり方をしたら何%の確率で漏れる。それが5%だったら大丈夫でしょう。有意差も5%で判断するわけですし、そのぐらいで大丈夫でしょう。10%、まあ大丈夫じゃないか。そのぐらいの感覚の下に、出せる、出せないという議論を客観的にしないと、感情的に、これはまずいかな、これはいいかな。でも、何%なのか分からないねというのではいけないと思います。この辺の研究を進めていかなければいけないのではないかなと思っております。
以上です。
○辻部会長 ありがとうございました。
この件につきまして、予定された時間に大分近づいてきましたので、今まで発言されていない委員の先生方からお一人、お二人ぐらい、もし御意見いただけたら。お願いします。
○山本隆一委員 先ほど石井先生のほうから、セキュリティレベルが違うのでというお話があったと思うのですけれども、データベースのセキュリティレベルと、1人の個人のカルテ情報のセキュリティレベルというのは、含まれている数が1人分か多数かということによって管理が非常に厳しくなっているわけですね。例えば、地域がん登録とか全国がん登録もそうですけれども、その元の情報というのは診療録から全て出てきているわけです。診療録の情報を転記するなり、直接出てきているわけです。
そういう意味では、それに対して生存情報をつけ加えたところで、ほんの少しの情報の付加であって、それに何か特別な障害があると思えないし、セキュリティレベルも今の診療録のセキュリティレベルで多分十分だろう。がんで亡くなった方の死亡情報というのは、普通の診療録に入っているわけですから、あくまでもそれは転院先で亡くなった、あるいは開業医のところで亡くなったという情報が入ってくるだけですので、それほどセキュリティレベルを上げなければいけないという理由にはならないと思うのです。むしろ、これはこの制度が始まったときの慎重なスタートという意味で、少し抑えぎみに始まっていることですから、そこは検討して制度的に緩和すれば私はいいと思います。
それから、東先生のほうが安全のレベルをというのは、安全のレベルというのはいろいろな考え方があるのですけれども、この場合は、基本的には移動するのは集計情報だと思います。そうすると、その集計情報から個人が識別できるかできないかというのが安全性の基準になるので、それは他のデータベースとの照合というのをある程度考えないといけないですけれども、識別性の評価というのは比較的簡単です。
一方で、データを提供するときに、個票が入った状態で、それを安全に管理できるかどうかという意味の安全管理は、これはかなりレベルの違う話で、そこは相当慎重に判断しないといけないということになるだろうと思います。
以上です。
○辻部会長 ありがとうございました。
もう予定された時間になってしまいましたので、本日はここまでとさせていただきますけれども、現状のがん登録制度でいろいろな課題、問題点が明らかになってきているということは事実ですので、今後、法改正に向けて、いろいろな議論がこれからあろうかと思いますので、今日いただいた課題につきましては、今後のがん登録部会におきまして、一つ一つ整理していく必要があるかなと思いますので、またこれからもどうぞよろしくお願いしたいと思います。
それでは、2つ目の課題に移らせていただきます。「新規申出の全国がん登録情報の提供について」に入ります。これより非公開となりますので、マスコミの方、傍聴の方は御退出をお願いいたします。
○猿木参考人 猿木です。ありがとうございました。退出します。
○辻部会長 ありがとうございます。
では、事務局、始めてよろしいでしょうか。
○事務局(岩佐) もう少々お待ちいただけますでしょうか。
(報道関係者退室)
 
 

照会先

健康局がん・疾病対策課

代表03-5253-1111(内線3826)