水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針等に関する質疑回答集(平成14年2月)

1.「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」について

問1 「水道水源のクリプトスポリジウムによる汚染のおそれを判断する必要がある上流域」の具体的な範囲は。
 答 現段階では、具体的な距離等を特定することはできない。
 クリプトスポリジウムは水中における生存能力が高く、流下に伴う不活化はほとんど期待できないので特段の事情がない限り、上流域全てが汚染のおそれを判断する必要がある対象であると考えられる。

問2 汚染のおそれの判断のために、「水源の種類によらず、水道原水の水質検査の結果、大腸菌群が検出された場合には、指標菌の検査を行う必要がある。」とあるが、深井戸も検査を行う必要があるのか。また、水道用水供給事業から浄水の供給を受ける施設も検査を行う必要があるのか。
 答 深井戸においても原水から大腸菌群が検出される場合があり、表流水の影響のある地下水を取水している場合など、構造によってはクリプトスポリジウムの汚染のおそれがある場合があるため、原水の大腸菌群検査で大腸菌群が検出された場合は、指標菌検査を実施し原水の糞便による汚染の監視が必要である。
 また、水道用水供給事業から浄水の供給を受ける施設では、水道用水供給事業により、水道水源の汚染のおそれの判断がなされていれば、自ら指標菌の検査を行う必要はない。

問3 鳥に寄生するクリプトスポリジウムは人に感染するのか。また、人に寄生するクリプトスポリジウムは鳥に寄生して汚染が拡散する可能性はあるのか。
 答 従来、鳥類に寄生するC. baileyi やC. meleagridis は通常はヒトには感染しないといわれていたが、最近の遺伝子解析による研究では、C. meleagridis は免疫不全患者のみならず免疫機能正常者にも感染するという事例も報告されている。また、国内でも免疫機能正常な患者3人からC. meleagridis が検出されている(下記文献参照)。一方、C. baileyi 感染例は海外で1例(エイズ患者)が報告されている。なお、人に寄生する C. parvum は鳥類には感染しないといわれている。
(参考文献)
Yagita K. et al.: Molecular characterization of Cryptosporidium isolates obtained from human and bovine infections in Japan. Parasitol. Res., 87: 950-955, 2001

問4 「し尿や下水、家畜の糞尿等を処理する施設等の排出源がある場合には、指標菌の検査を行う必要がある」とあるが、これはどのような規模の施設をいうのか。
 答 施設の規模にかかわらず、表流水、湧水又は浅井戸を水源としており、水源の近傍上流域又は周辺にし尿や下水の処理施設や浄化槽、家畜の糞尿等を処理する施設等の排出源がある場合には指標菌の検査を行う必要がある。
 なお、水道の取水施設の上流域に位置する下水処理場、家畜の糞尿処理施設等の排出源については、位置や規模を把握し、これらの情報を整理しておくことが重要である。

問5 糞便等の処理施設においてクリプトスポリジウムは除去されるのか。
 答 米国における調査では、下水道流入水に比較して二次処理で96.6%の除去率、砂ろ過まで行うと99.9%の除去率であると報告されている。
(出典:「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」(以下「暫定対策指針」という。)「別添1」)
 我が国における下水を用いた処理実験例では、標準活性汚泥法、曝気槽への凝集剤添加、流入下水の凝集沈殿の各処理において、除去率はそれぞれ90%(1log)以上、99.9%(3log)以上、99.99%(4log)程度の結果が得られている。
(出典:「下水道におけるクリプトスポリジウム検討委員会最終報告書」(平成12年3月、社団法人日本下水道協会)

問6 水道原水に係る汚染のおそれは、発生源において大腸菌等の指標菌の検査を行って判断するのか。また、水道原水についてはクリプトスポリジウムの検査を行わなければならないのか。
 答 暫定対策指針では、水道原水に係る汚染のおそれの判断は、水道原水の検査により行うこととしており、発生源についての水質検査を求めているものではない。
 暫定対策指針では、水道原水の糞便による汚染の指標として有効な大腸菌及び嫌気性芽胞菌の検査によって水道水のクリプトスポリジウムによる汚染のおそれを判断するとしている。

問7 指標菌を大腸菌と嫌気性芽胞菌とした理由。また、検査方法はどのようにすればよいか。
 答 改訂前の暫定対策指針では、糞便の汚染の指標として、これらの菌と糞便性大腸菌群および糞便性連鎖球菌は水道原水の糞便による汚染の指標として有効であるとしていたが、必ずしもこれら全ての検査を行うこととしていなかった。
 今回の指針の改正では、水源の種類によらず原水から大腸菌群が検出されており、クリプトスポリジウムが除去できる浄水処理を実施していない施設にあっては、毎月、大腸菌および嫌気性芽胞菌の検査を行い、定期的に汚染のおそれの監視を行うこととした。
 指標菌は、糞便汚染の指標としての有効性等の知見を勘案し、温血動物の腸管内の常在菌であり糞便中に多数存在する大腸菌及び塩素耐性を有しクリプトスポリジウム等原虫との高い相関が認められている嫌気性芽胞菌とした。
 大腸菌の検査方法は、特定酵素基質培地法(ONPG-MUG法(MMO-MUG培地、IPTG添加ONPG-MUG培地)、XGal-MUG法(XGal-MUG培地、ピルビン酸添加XGal-MUG培地))において培養後に紫外線の照射により定性的に確認する方法により確認するものとする。
 嫌気性芽胞菌の検査方法は、ウェルシュ菌芽胞の検査により定性的に確認する。ウェルシュ菌芽胞の検査方法は、75℃で20分間の加熱処理後に、ハンドフォード改良培地法、M-CP寒天培地法又はDRC法による。

問8 改正前の暫定対策指針で有効とされていた糞便性大腸菌群又は糞便性連鎖球菌が検出されたことがある場合は、クリプトスポリジウムによる汚染のおそれがあると考えるのか。
 答 水道原水の糞便による汚染の指標として糞便性大腸菌群又は糞便性連鎖球菌も有効であり、クリプトスポリジウムによる汚染のおそれがあると判断すべきである。なお、暫定対策指針に示す毎月1回以上実施する水道原水の指標菌の検査は、指針に示すとおり大腸菌及び嫌気性芽胞菌とされたい。

問9 大腸菌群が原水で過去に一度検出されたが、その後一度も検出されていない場合も指標菌を検査する必要があるのか。
 答 過去に大腸菌群が検出され、現在検出されない理由が明確であり、かつ、今後とも大腸菌群が検出されることがないと考えられるためクリプトスポリジウムの汚染のおそれを監視する必要がないと判断できるのであれば、指標菌の定期的な検査は必ずしも必要ないが、水源の上流又は周辺の排出源の状況を考慮した慎重な検討が必要である。

問10 原水で指標菌検査を毎月1回以上実施するのはどのような施設か。
 答 原水のクリプトスポリジウムによる汚染のおそれを継続的に監視するため指標菌の検査を毎月実施することとしたが、暫定対策指針では、次の(1)〜(3)の全てに該当する施設にあっては、原水で指標菌の検査を毎月1回以上実施することとしている。
(1)水道原水から大腸菌群が検出されたことがある場合、又は、水源となる表流水・伏流水・湧水の取水施設の上流又は浅井戸の周辺に排出源がある場合。
(2)水道原水から指標菌が検出されていない場合。
(3)クリプトスポリジウムを除去できる浄水処理を実施していない施設。(ろ過処理を行っていない施設、ろ過池出口の濁度を0.1度以下に管理できない施設等)

問11 井戸からのポンプアップ時に塩素注入を行っているような、滅菌前の原水の採水が困難な施設では、指標菌の検査は滅菌後の水の検査でよいか。
 答 滅菌後の水で指標菌の検査を行う意味はなく、滅菌前の原水を採水して指標菌の検査を実施する。

問12 「水道の原水から大腸菌群が検出されたことがある場合」に指標菌の検査を行うこととあるが、原水の大腸菌群の検査を定期的に行う必要があるか。
 答 「水道法の施行について」(昭和49年7月26日環水第81号)において原水の検査を少なくとも毎年1回行うこととしており、原水の大腸菌群の検査を毎年定期的に実施されたい。

問13 「指標菌検査のための採水量は、大腸菌50mL、嫌気性芽胞菌100mLを原則とするとされているが、これらの採水量の根拠は。
 答 これらの菌の検査において、一般的に使用されている採水量とした。

問14 水道事業者が行うべき、クリプトスポリジウムの検査の頻度等を示す予定はあるか。
 答 当面のところ検査の頻度を示す予定はない。クリプトスポリジウムに関する水質検査のあり方については、今後の研究やWHO等における検討等をもとに検討していくこととしている。

問15 原水濁度が0.1度以下の場合も指標菌が検出されれば、ろ過施設が必要か。また、一度でも指標菌が検出されればろ過施設が必要か。
 答 暫定対策指針に示す「ろ過池出口の濁度を0.1度以下に保持すること。」とは、ろ過処理が適切に行われたことを確認するためのものである。ろ過を行う前の、原水の濁度が0.1度以下であっても、浄水処理を行わなければ、クリプトスポリジウムが存在した場合、除去されず水中に存在したままとなることとなる。このため、原水濁度が0.1度以下であってもクリプトスポリジウムの汚染のおそれがある施設においては、ろ過施設が必要となる。
 また、原水から指標菌が検出されたのが一度であっても、指標菌の検出原因が明らかにされ対策が行われていなければ、原水の糞便による汚染を否定することはできないため、ろ過施設が必要となる。

問16 原水濁度を監視し、原水が通常より高濁度の場合には取水停止することでクリプトスポリジウム対策になるのではないか。
 答 原水のクリプトスポリジウムの汚染のおそれがある場合、クリプトスポリジウムを除去することができる浄水処理を適切に行うことが必要であり、施設基準においては「原水に耐塩素性病原生物が混入するおそれがある場合にあっては、これらを除去することができるろ過等の設備が設けられていること」とされている。
 なお、通常より高濁度の場合に取水停止を行う措置は、ろ過施設が整備されるまでの過渡期の対策として、クリプトスポリジウムが原水中に流出する可能性が通常より高くなる場合である、原水の濁度が通常より高い場合における措置として示したものである。

問17 「急速ろ過を用いる場合にあっては、原水が低濁度であっても、必ず凝集剤を用いて処理を行うこと。」とあるが、原水濁度が0.1度以下の場合、凝集剤がわずかでも添加されていればよいのか。
 答 急速ろ過におけるクリプトスポリジウムは、凝集剤の凝集効果により、沈殿及びろ過過程で除去されるため、凝集剤を適切に添加する必要がある。
 凝集剤の添加量の決定は原水水質によって異なるので、ジャーテスト等により適切に決定することが必要である。

問18 予防対策のうち、浄水場での対応のなかで「ただし、上流の河川工事等が水道原水の濁度を上昇させている場合、底泥をまき上げない工事等、必ずしもクリプトスポリジウムによる汚染を生じさせないものもあるため、当該工事の種類、場所その他を勘案して取水停止の必要性を判断すること」とあるが、このような検討が必要な理由は。
 答 河川工事には、例えば、しゅんせつ工事のように河川の底泥をまき上げてしまう工事がある一方で、一部の護岸工事のように底泥をまき上げることがない工事もある。クリプトスポリジウムのオーシストは河川の底泥に沈殿している可能性があるため、当該河川工事の種類、場所その他を勘案した上で、判断する必要がある。

問19 クリプトスポリジウム対策にはろ過施設が必要だが、除鉄・除マンガンの砂ろ過施設はクリプトスポリジウムが除去できるろ過施設と見なすことができるのか。
 答 クリプトスポリジウムの除去は、急速ろ過であれば凝集・沈殿・ろ過の一連の処理により、緩速ろ過であればろ過砂の周囲に形成される生物膜による作用によりクリプトスポリジウムが除去される。このため、これらと同等の能力を有する施設であれば、クリプトスポリジウムが除去されるが、多くの除鉄・除マンガンの砂ろ過施設は凝集・沈殿の処理を行っておらず、クリプトスポリジウムが除去できる施設と見なすことはできない。

問20 直接ろ過方式の場合、どのようにしてクリプトスポリジウムが除去できる施設と判断すればよいのか。
 答 凝集直後の微小フロック(マイクロフロック)を沈殿させずにろ過する、直接ろ過方式の施設は、施設の能力、原水の状況、管理の方法等によりクリプトスポリジウムが除去できる施設であると判断することも可能である。
 このような施設では、原水の濁度が高い場合にあっても、ろ過池出口の水において、大きさが約5μmのクリプトスポリジウムと同程度の濁質が流出しないような施設能力がある場合、クリプトスポリジウムを除去できる施設であるといえる。なお、ろ過池の除濁容量は、沈殿池と比較すると小さいことから、沈殿を行わないこのような施設では、原水の濁度が通常より高い場合の処理についての十分な検討が必要である。
 さらに、このような施設においても、ろ過池出口の水の濁度を0.1度以下に維持すること、そのための適正な薬品の注入操作、pH調整、逆洗操作を行うことが重要である。
 なお、クリプトスポリジウムの代替として使用可能なトレーサーも開発されているので実験プラント等による実証実験等に活用されたい。

問21 予防対策のうち、浄水処理の徹底のなかで「ろ過池出口の水の濁度を常時把握」とあるが、自動計測器による24時間の連続監視でなければならないのか。
 答 自動計測器による連続測定が望ましいが、1日何回か採水して検査することでもさしつかえない。その際、得られた結果を速やかに浄水処理操作に反映することができる体制の確保が重要である。なお、肉眼では0.1度は判断できないので、検査機器による測定を行うことが必要である。

問22 クリプトスポリジウム対策として施設整備を行う場合、国庫補助制度はあるか。
 答 クリプトスポリジウム等病原性原虫対策としてのろ過施設の整備に対する補助として、急速、緩速又は膜ろ過の施設の整備に対して、上水道では水道水源開発等施設整備国庫補助金の高度浄水施設等整備費で、簡易水道では簡易水道等施設整備費国庫補助金の生活基盤近代化事業の増補改良において補助を行っており、施設整備を行う際に活用されたい。

問23 浄水処理の徹底のなかで「ろ過池出口の水の濁度を常に0.1度以下に維持すること」とした根拠は。また、「浄水処理に関する記録を残すこと」とした理由は、また、その様式及び保存期間はどのようにするのか。
 答 米国水道協会白書及び過去にクリプトスポリジウム禍に見舞われた経験があるミルウォーキー市において、公衆衛生上のリスクの観点から目標とすべきとされている数値等を参考とした。
 なお、我が国のろ過方式による浄水処理を行っている浄水場においては、適正な管理のもとでろ過池出口の水の濁度を常に0.1度以下に維持することは、技術的に可能なレベルと考えられる。
 また、記録を残すこととしたのは
(1)クリプトスポリジウム症が発生した時やクリプトスポリジウムが浄水中で検出された時の原因究明
(2)原水中で通常より高濃度のクリプトスポリジウムが検出された際の過去の浄水処理状況の確認のためである。このため、ろ過池出口の濁度の連続的なデータ等の保存期間はこれらの確認を可能とするために潜伏期間及び医療機関での検査期間を考慮し、1ヶ月間程度以上は保存されることが望ましい。様式については、必要事項の確認が可能なものであればよい。

問24 クリプトスポリジウム症が発生した場合の応急対応のなかで、「水道が感染源であるおそれが否定できない場合」には、水道事業者等が水道利用者への広報・飲用指導等を行うこととなっているが、具体的に、どういう場合にこの判断をすればよいのか。
 答 以下の全てに当てはまる場合には、水道水がクリプトスポリジウム症の感染の原因であるおそれは否定できないと判断できる。
(1)同一浄水場系統の給水区域内に広く多数の下痢患者が発生していること。
(2)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症新法」という。)に基づき、当該浄水場系統の給水区域内における複数のクリプトスポリジウム症患者に関する医師の届出があること。
(3)クリプトスポリジウム症患者の発生が、当該浄水場系統の給水区域内に限定されかつその給水区域の広い範囲に及んでおり、原因が特定できないこと。

問25 水道が感染源であるおそれが否定できないことから水道事業者等による飲用指導等が行われた場合や水道水がクリプトスポリジウムに汚染されたおそれのある場合には、水道水を飲用以外の用途(食材・食器等の洗浄、洗顔、洗濯、入浴等)に使用できるか。
 答 クリプトスポリジウムの感染経路は、このオーシストの経口摂取であるから、経口感染のおそれの無い用途においては、使用可能である。ただし、飲用以外の用途であっても経口感染のおそれがあるものは避けなければならない。
 具体的には、次のような対応方法があるので、水道の使用者に十分な周知、徹底を行うことが必要である。
対象 対応方法
食材 十分加熱調理すること。生食食材は、洗浄の際に煮沸した後の水を用いてすすぎを行うこと。
食器 煮沸した後の水を用いてすすぎを行うこと。
洗顔
入浴
水が口に入らないよう十分注意し、水をよくふき取ること。用いるタオル類は、十分乾燥させたものを用いること。
洗濯 乳幼児が口に入れる可能性の高い、タオル、前掛け、衣類等については、充分乾燥させること。

問26 「水道水がクリプトスポリジウムに汚染された可能性のある場合には、給水停止」とあるが、汚染された可能性の判断の方法は。
 答 水道が感染源であるおそれが否定できない場合(問24参照)であって、さらに以下の全てに当てはまる場合は、水道水がクリプトスポリジウムに汚染された可能性があると判断できる。
(1)感染症の発生の状況、動向及び原因を明らかにするための調査が行われ、その調査の結果や情報の分析の結果から、例えば特定の食品、プール、噴水等が原因でないことが明らかであること。
(2)当該給水区域に給水している浄水場の浄水の検査結果から、クリプトスポリジウムの存在が確認できなくとも、濁度の上昇等その存在が示唆されること。

問27 クリプトスポリジウムによる感染症の発生は確認されていないが、浄水でクリプトスポリジウムが検出された場合、その対応は給水停止となるか。また、人に対する感染性が不明の種類のクリプトスポリジウムが検出された場合、給水停止が必要か。
 答 クリプトスポリジウムには、人に感染する種類のものも感染性が不明のものもあるが、仮に検出されたクリプトスポリジウムが人に感染する種類のものであるとすれば、その水を飲用することにより、クリプトスポリジウムの集団感染が発生するおそれがあると考えられるので、給水停止すべきである。
 また、人に対する感染性が不明な種類のクリプトスポリジウムが検出された場合も、これらが含まれる水を飲用することにより、クリプトスポリジウム症の発生する可能性を否定できるものではないことから、給水停止は必要である。
 なお、クリプトスポリジウムの検査結果の正確を期すため、確定的な判断が困難である場合には、「飲料水におけるクリプトスポリジウム等の検査結果のクロスチェック実施要領について」(平成11年1月21日衛水第3号厚生省生活衛生局水道環境部長通知)を参考にすること等により対処されたい。

問28 浄水でクリプトスポリジウムが検出された場合の感染のおそれの大きさは。
 答 クリプトスポリジウムの種の同定及び不活化しているか否かは、現状では判断が非常に難しいとされているが、浄水で人に感染性のあるクリプトスポリジウムのオーシストが検出された場合の感染確率は、Hassらの研究成果から関係式(注1)が提案されており、これを使って試算すると以下のとおりである。
 1人1日当たりの飲用水量を約2Lとすると、浄水中にクリプトスポリジウムのオーシストが1個/20Lであった場合、オーシストを摂取する可能性(確率)は1日あたり0.1個である。
 オーシストを0.1個摂取したときの感染確率は、Haasらの関係式から、 P(0.1)=1−exp(−0.1/238.6)=0.00042と試算される。すなわち、 1個/20Lの濃度の浄水を1日に2L飲用した場合、1日あたりの感染確率は、0.00042であり、言い換えれば1日に10,000人に約4人が感染する確率があることになる。
 浄水中のクリプトスポリジウムの存在は、あったとしても極めて少ないと考えられるが、クリプトスポリジウムが常時1個/20Lの濃度で均一に存在しているとすれば、1年間で見た場合の感染確率は(注2)より、P365=1−(1−0.00042)365=0.14216となる。
 これは言い換えると1年間に、10,000人の内、約1,400人が感染する確率になると試算され、集団感染の発生するおそれが強いと判断せざるを得ない。

 (注1)Haasらの関係式
      P(N)=1−exp(−N/k)
   ここで、P(N)摂取個数Nの時の感染確率
摂取個数
パラメーター(クリプトスポリジウムの場合、k=238.601)
 (出典:Haas, C. N., Crockett,C. S., Rose, J. B., Gerba, C. P. and Fazil, A. M. (1996) Assessing the risk posed by oocysts in drinking water. Journal of American Water Works Association 88(9),131-136)

 (注2)単回及び反復暴露後の感染確率の公式
      Pn=1−(1−P1n
   ここで、n 反復(1日分がn回)暴露による感染確率
反復回数
1 単回(例えば1日)暴露による感染確率

【参考】
 米国のEPAが提案している「飲料水の微生物許容感染リスク10-4/年以下」を達成するための条件を、Hassらの関係式を使って試算すると以下のとおりである。
 1年間に1人が感染する確率P365が10-4以下でなければならないことから、P365=1−(1−P1)365≦10-4であり、これを満足するP1は、約0.000000273以下と計算される。すなわち1日に1人が感染する確率をこの値以下にする必要があるということである。
 また、1日の摂取個数N個による感染確率をこの値以下にするには、P(N)=1−exp(−N/k)≦0.000000273であり、これをN/kについて解くと、N/k≦2.73×10-7となる。k=238.6であるから、N≦6.51378×10-5を得る。2L飲んだときにこの個数を摂取するということであるから、飲料水 1Lあたりのクリプトスポリジウムの数は、6.51378×10-5÷2=3.25689×10-5個以下である必要がある。これは、1÷(3.25689×10-5)=30,704L≒30m3であり、飲料水約30m3に含まれるクリプトスポリジウムの数が1個以下である必要があるということと同じである。
 つまり飲料水によるクリプトスポリジウムの感染リスクを10-4/年以下とするためには、常時30m3の浄水のなかにクリプトスポリジウムが検出されないことを確認する必要があると試算される。
 このようにクリプトスポリジウムの感染リスクが例えば10-4/年以下といった低いレベルにあることを、常時水質検査によって確認することは非現実的であることから、水道事業者は、常に浄水場の運転管理に注意を払い、間違いのない浄水処理を実施することが求められる。

問29 水道水以外にクリプトスポリジウムによる広域汚染のおそれはあるのか。
 答 1995年に米国において50人が感染した事例があり、原因はクリプトスポリジウムで汚染された食物と推定されている。
 また、米国疾病管理予防センターの調査によると、親水施設等(Recreational Water)を介した水系感染事例として、クリプトスポリジウムによるものは1993〜1994年の2年間に6件、1995〜1996年の2年間に6件の報告があり、ほとんどが水泳プール水を介しての事例であったと報告されている。
(出典:米国疾病管理予防センター(CDC:Centers of Disease Control and Prevention). MMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report))

問30 クリプトスポリジウム症が発生した場合、患者に対する措置はどのように行えばよいか。免疫力が低い患者が感染した場合の措置はあるのか。
 答 詳細は、専門の医師や文献等により確認していただきたいが、参考までに概略を示せば以下のとおりである。
 「免疫機能が正常であれば、不顕性感染(症状無し)または発症しても自然治癒する傾向が強い。すなわち、発症した場合、下痢を主症状とし、嘔吐、腹痛、発熱、体重減少などがみられることはあっても、1〜2週間で自然治癒する。
 エイズ等免疫機能が低下している患者では、下痢が長期間持続したり、激しい下痢により脱水症状を起こし急速に衰弱する。治療薬としては、パロモマイシンが使用されていたが、製造中止のため現在は入手できない。アジスロマイシンやクラリスロマイシンが使われるが効果は不定である。
 いずれの患者の場合も、糞便の衛生処理には特に留意すること。」
(参考:「内科学」朝倉書店、「伝染病予防必携日本公衆衛生協会」)
(その他の参考資料:「クリプトスポリジウム等原虫疾患に関する情報・資料集」クリプトスポリジウム等の原虫類による食品及び環境の汚染除去と感染対策に係る研究班、原虫類の診断治療に関する情報収集と分析に関する分担研究班(厚生科学研究補助金 新興・再興感染症研究事業))

問31 消毒のみを実施している場合等、急速ろ過法、緩速ろ過法又は膜ろ過法のいずれをも用いていない浄水場に係る水道水についての安全といえる条件は。
 答 水道原水に糞便による汚染がないことが明らかである場合、即ち(1)上流域に発生源がなく、(2)指標細菌が検出されていない場合には一般的に安全であると考えられる。

問32 水道水がクリプトスポリジウムに汚染された可能性のある場合は、給水停止の措置を講じ、対策を実施した後、給水栓、配水池及び浄水池のそれぞれにおてい水質検査を実施し給水を再開するとあり、水質検査は、確実性を高めるため、各3試料について40L(一ヶ所について40Lを3回、合計120L)ずつ採水し行うこととされたが、1ヶ所あたりの採取試料数と採水間隔は。
 答 採水は40Lの試料を3試料採取(40L×3試料=120L)することを、給水栓、配水池及び浄水池のそれぞれで行う(120L×3ヶ所=360L)。また、採水間隔は、連続した採水でかまわない。

2.「水道に関するクリプトスポリジウムのオーシストの検出のための暫定的な試験方法」について

問33 暫定的な試験方法では蛍光顕微鏡が必要とされているが、今後より安価な機材で定量試験が可能となる見込みはあるのか。
 答 現時点では、他の方法の見込みはたっておらず、当面、蛍光顕微鏡を使用する方法により対処する必要がある。

問34 暫定的な試験方法とあるが、将来、蛍光顕微鏡を用いる方法が用いられなくなることがあるという趣旨か。
 答 将来本試験方法を部分的に改良したり、他の方法を追加することもあり得ることから「暫定的な試験方法」としているが、いずれにしても蛍光顕微鏡を用いる方法が不適当と判断されることはないと考えている。

問35 厚生省が指定・推奨している検査用キットはあるのか。
 答 暫定的な試験方法では、クリプトスポリジウムの染色法として特異抗体(モノクローナル抗体等)を用いた方法を紹介しているが、指定・推奨している特定の検査用キットはない。

問36 病原性細菌等を測定する場合には、汚染や感染防止のために特別な施設を要するが、クリプトスポリジウムの場合には、施設の構造上、どのような配慮が必要か。
 答 一般的な病原性細菌やウイルス用のバイオハザード防止対策に準じていればよい。試験の実施に当たって、実施者自身が感染しないことはもちろん、環境中に病原体を放出しないよう十分配慮することが重要である。

問37 クリプトスポリジウムの判定方法のポイントは。
 答 クリプトスポリジウムの判定を行うためには経験と技術が必要であり、これを有する検査員が、試験方法に示すFITC標識蛍光抗体染色で緑色の特異蛍光を示す類円形の粒子で3.5〜6.5μmの範囲に入るもののうち、試験方法の判定条件に示す3条件※のいずれかを確認することが必要である。この際に前提となる、FITC標識蛍光抗体染色を確認する場合、一部の藻類等が交叉反応して染色され特異蛍光を示すことがあるため、B励起フィルターによる観察と並行してG励起フィルターによる蛍光像観察により正確な判定を行うことも有効である。なお、試験方法は暫定的なものであり、随時見直しを行うこととしているので、適切な方法を選択することが重要である。
 さらに、確定的な判定が困難であるときはクロスチェックを行い正確な確認を行うことも有効である。

※)「水道に関するクリプトスポリジウムのオーシストの検出のための暫定的な試験方法」に示す、判定の3条件
i)蛍光抗体染色像又は微分干渉像で明らかに縫合線が観察される場合。
ii)微分干渉像でスポロゾイトが確認される場合。
iii)DAPI染色の結果、オーシスト中のスポロゾイトの核が明瞭に観察される場合。
 なお、実際の検査で検出される紛らわしい生物の写真が下記に掲載されているので参照されたい。
日本水道協会、水道の原虫対策に関する研究報告書(平成12年度).pp. 28-60.(本質疑回答集の添付資料に顕微鏡写真例を示す)
国立感染症研究所ホームページ
http://www.nih.go.jp/~tendo/atlas/japanese/plankton.html

3.その他

問38 水道水質管理計画にはクリプトスポリジウムの検査を位置づけていないが、同計画で検査機関とした全ての機関でクリプトスポリジウムの検査ができるようにすべきか。
 答 必ずしも全機関で検査体制を整備することを意図しているものではなく、むしろ、検査員の検査技術の向上により、検査結果の信頼性を高めることが重要である。
 また、検査結果の正確を期するために策定された「飲料水におけるクリプトスポリジウム等の検査結果のクロスチェック実施要領」を積極的に活用して、緊急時の対策を円滑に実施することが重要である。

問39 感染症新法では、保健所や地方衛生研究所の役割はどのように位置づけられているのか。
 答 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第9条に基づき定められた「感染症の予防の総合的な推進を図るための基本的な指針(平成11年4月1日付け厚生省告示第115号)」の「第一 感染症の予防の推進の基本的な方向」で、保健所については地域における感染症対策の中核的機関として、また、地方衛生研究所については、都道府県における感染症の技術的かつ専門的な機関として明確に位置づけるとともに、それぞれの役割が十分に果たされるよう、これらの機能強化をはじめとした対応を進めることが重要とされている。さらに、「第五 感染症に関する調査及び研究に関する事項」で、地方衛生研究所においては、都道府県等の関係部局及び保健所との連携の下に、感染症の調査、研究、試験検査及び感染症に関する情報等の収集、分析及び公表の業務を通じて感染症対策に重要な役割を果たしていくこととするとされている。
 このため、地方衛生研究所等に国立公衆衛生院で実施している「水道クリプトスポジウム試験法実習」の受講経験者が在籍する場合は、水道行政担当者と相互に連携を図り都道府県内のクリプトスポリジウム対策を推進することが重要である。

問40 クリプトスポリジウムが検出された場合等における関係機関との連携はどのようにすべきか。
 答 水道水中からクリプトスポリジウムが検出された場合においては、衛生担当部局及び医療機関においても適切な対応が図られるよう「水道水からクリプトスポリジウムが検出された場合の対応について(通知)」(平成13年11月26日厚生労働省健康局結核感染症課長通知)により通知されており、水道水からクリプトスポリジウムが検出された場合は、各都道府県に連絡し、衛生担当者と連携を図り対応を行うことが重要である。
 また、クリプトスポリジウム症の患者が発生した場合、大量のクリプトスポリジウムを処理することとなる下水道との連携を図るため、「水道水等においてクリプトスポリジウムが検出された場合の関係機関との連携について」(平成13年12月28日付け厚生労働省健康局水道課水道水質管理室事務連絡)により、関係機関との連携を依頼したところである。浄水からクリプトスポリジウムが検出された場合及び原水から通常より高濃度のクリプトスポリジウムが検出され浄水処理における対応が困難となり水道水からクリプトスポリジウムが検出されるおそれがある場合は、その情報を関係機関に連絡し、必要な連携を図ることが重要である。また、下水道において通常より高濃度のクリプトスポリジウムが検出されたとの情報連絡があった場合は、水道事業者等において適切な浄水処理を行うことが重要である。


(資料)

Cryptosporidium parvum顕微鏡写真例

(Cryptosporidium parvum例1) 採水地点 江戸川、採水年月日 平成13年1月15日、水温2.6゜C

FITC像 DAPI像 微分干渉像 G励起像

(Cryptosporidium parvum例2)採水地点 利根川、採水年月日 平成13年2月19日、水温6.2゜C

FITC像 DAPI像 微分干渉像 G励起像

出典:(社)日本水道協会,「水道の原虫対策に関する研究」報告書,平成12年度,p36,Cry.14及び16

Cryptosporidium parvumの特徴
i) 一般的特徴
 クリプトスポリジウムパルバムのオーシストは類円形で、その長径は約5μmであるが、測定状況によって3.5〜6.5μmの範囲に入る。オーシスト壁は薄く平滑で、その1ヶ所に縫合線(脱嚢時の開口部分)と呼ばれる亀裂様構造を有する。内部には4個の三日月型をしたスポロゾイト、残体とその他の顆粒を含む。標本によってはオーシストが変形して紙風船がひしゃげたような形状を呈することがある。また、縫合線が開口し、内部構造が消失していることもある。
ii) 蛍光抗体法で染色されたオーシストの特徴
 B励起下でのFITCの特異蛍光は緑色である。オーシストが示す蛍光は一様ではなく、辺縁(シスト壁)の蛍光が強く、それに比して中央部は弱い。観察の方向によっては縫合線が確認できることがある。オーシストの内部が赤色、又は強い黄色を呈することはない。
iii) DAPI染色されたオーシストの特徴
 UV励起下でのDAPIの特異蛍光は青色である。オーシスト内にスポロゾイトの核が1〜4個青色に染って見える。
iv) 微分干渉像の特徴
 表面が平滑なオーシスト壁、その中に1〜4個のスポロゾイト及び残体とその他の顆粒構造が確認できる。
v) G励起像の特徴
 多くの植物プランクトンは細胞小管内に色素を含有しており、G励起下で橙色から赤色の蛍光を発する。C.paruvumは赤くは光らず、わずかに赤く見える程度。


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