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2017年3月3日 第13回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会

労働基準局

○日時

平成29年3月3日(金)14:00~16:00


○場所

中央合同庁舎第5号館厚生労働省議室(9階)


○出席者

荒木 尚志(座長) 石井 妙子 小林 信 高村 豊 土田 道夫
鶴 光太郎 徳住 堅治 長谷川 裕子 水口 洋介 村上 陽子
八代 尚宏 山川 隆一 輪島 忍

○議題

・解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について
・その他

○議事

○荒木座長 それでは定刻前ですが、御出席の方はおそろいということですので、ただいまより第13回「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催いたします。委員の皆様におかれましては、本日も御多忙の中お集まりいただき、ありがとうございます。

 本日は、大竹文雄委員、岡野貞彦委員、垣内秀介委員、鹿野菜穂子委員、小林治彦委員、斗内利夫委員、中村圭介委員、中山慈夫委員、水島郁子委員は御欠席であります。

 本日の議題ですが、前回に引き続き「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」であります。

 では、お配りしました資料の確認を事務局からお願いします。

○大塚調査官 本日の資料でございますけれども、3点ございまして、資料No.1、補足資料が、こちらがメインの資料になります。

 そして、参考資料2点つけておりまして、これは前回第12回で配付しました資料と同じものでございます。もし、不足がありましたら、事務局のほうまで御手数ですけれども、お申し出くださいませ。

○荒木座長 よろしいでしょうか。

 それでは、カメラ撮りはここまでということでお願いいたします。

(カメラ退室)

○荒木座長 本日も前回に引き続き、解雇無効時の金銭救済制度の在り方とその必要性について議論したいと思います。

 本日の進め方ですが、まず、前回事務局にお願いしておりました制度の基本的な仕組みを検討するに当たって、参考となる資料を準備いただきましたので、事務局より資料の説明をいただいた後に、議論に移りたいと思います。

 では、事務局から、資料No.1に基づいて説明をお願いします。

○大塚調査官 では、事務局から説明いたします。

 本日、御用意いたしました資料No.1でございますけれども、これは前回の資料2、参考資料2の2ページ目にありました現行の制度との関係について、それと対象となる解雇について、さらには一回的解決について、金銭救済を求める主体のあり方について、これらの論点をより具体的に委員の皆様方に御議論いただくために、御準備したものでございます。

 表紙のところに書いてございますように、これはそういった経緯でつくったものでして、あくまでも議論の素材でございます。現時点で、どの案でいくと確定的に決めているものではないという位置づけで、その御認識の上で御議論いただければと思います。

 表紙をおめくりいただきまして、1ページ目でございますけれども、こちらは基本的な枠組みについてということで、まず、検討の対象がどこにあるのかということを明らかにするために、まとめたものでございます。

 上の枠囲みの※印のところに書いてございますように、金銭の性質、水準などの論点につきましては、今回の制度の基本的枠組みについての大枠の議論をした後に、次回以降に御議論を行うという前提にしております。

 その下の図でございますけれども、上の3つは、現在行われているものでして、解雇が行われた場合に、その後ですけれども、行政のあっせんですとか、あるいは労働審判あるいは地位確認訴訟におきまして、解決が図られている。地位確認訴訟が行われた場合には、解雇の無効判決を得て、現職復帰という道もあれば、判決に至らず、和解の中で金銭の救済で終わっているというケースもございます。

 また、現状では右上の※印に書いていますように、解雇を不法行為とする損害賠償請求というものは、全体の中ではレアでございますけれども、行われてきているという実態にございます。

 今回の検討の射程は、解雇から下の破線で矢印が出ておりますけれども、選択肢の増加ということで、労働者が職場復帰ではなく、金銭救済を希望する場合に、解雇無効時における金銭救済制度を検討しようというものでございます。

 前回の参考資料2の1ページの一番下の※印に書いたように、今回の検討の射程は事後型のものであります。俗にいう、金を払えば自由に解雇できるという事前型につきましては、これは国会におきましても安倍総理大臣のほうから、検討しないということを言われているところでございます。

 事前型というのは、解雇の矢印の前に、金銭を支払い、その後に解雇があり、労働契約の終了と、そういう矢印になろうかと思いますけれども、今回の検討の射程は、あくまでも解雇が行われた後にどうするのかでございまして、それについての具体的な考え方を次のページ以降に示しております。

 2ページ目は、法的な枠組みということで、どういう手法があるのかを示したものでございます。上の太字のところに書いていますように、手続的な手法と実体法的な手法の両方があると考えております。手続的な手法というのは、裁判の中で、裁判所の判断によって、権利関係の変動などの効果をもたらすもの。それに対して、実体法的な手法というのは、実体法の中に権利関係を設定して、それによって実現を図るものでありまして、こちらのほうにつきましては、必ずしも裁判所での判断を必須とするものではない。裁判外での実現というのもあり得るという仕組みになるかと思います。

 下の※印に、民事上の実体法的な権利の例として、賃貸借契約における造作買取請求権の例を記載しております。この2つの手法は、相反するものではなく、両立し得るものになっております。このページの例1は、これまで2回検討が行われたうちの最初の検討時、平成15年の労働基準法改正の検討時に行われたものですけれども、上記にあります手続的手法と実体法的手法を組み合わせたハイブリッド型の仕組みになっております。解雇が行われた後に、ここで地位確認訴訟を起こすという手続的な手法をまずかませる、必須のものとするというものです。そこで、解雇無効が確定した後に、次に実体法的な手法として、労働者が退職と引きかえに一定の金銭の支払いを求める権利ができるというハイブリッド型の仕組みでございました。

 この15年改正のときには、1回の裁判手続で終わらないのではないか、解雇の無効確認訴訟という1回目の裁判、そしてその次にある給付訴訟という2回目の裁判、この2回の裁判を必要とする仕組みになってしまうので、解決までに時間がかかるのではないかといった批判が当時ございました。

 それを受けまして、次の例2ですけれども、平成17年の労働契約法研究会におきましては、この2回の裁判手続ではなく、1回の裁判手続、一回的解決を図るためにはどうすればいいかという観点から議論が行われたものでして、この当時は解雇の有効、無効を確認する確認の判決、一定の金銭を支払う給付の判決、そして、一定の金銭の支払いを前提に、法律関係の変動、すなわち労働契約の解消、そういった法律関係の変動を宣言する形成の判決、この3つの判決を一つの裁判手続の中で求めていこうという形で、検討が行われたわけです。

 次の3ページ目以降は、今の手続的手法とか実体法的手法なども念頭に置きつつ、事務局として、検討素材として3、4、5ページに3つの例を、議論を深めるために提示させていただくものであります。

 3ページ目は、今、2ページでごらんいただきました、過去2回の検討の延長線上でどういう議論ができるのかをイメージして示したものでございます。

 例1は、解雇が無効であることを宣言する確認判決を要件とする金銭救済の仕組みであります。

15年改正の延長線上なのが(1)なのですけれども、解雇が行われまして、まず、地位確認訴訟を起こします。ここで、手続的な手法を前提としてかませる。逆に言うと、4ページ、5ページと違って、裁判外の請求というのはここでは想定していないという仕組みになります。地位の確認訴訟が行われて、判決で解雇無効を勝ち取った場合に、その確定の後にさらに続いていきまして、労働者が金銭救済を申し立てる。労働者の意思表示をかませるわけです。ここで、意思表示があった後に、給付の訴訟を起こしまして、金銭の支払いを命ずる判決が行われた場合に、使用者が金銭を支払って、その支払ったことによる法律効果として労働契約関係を終了するということも法律上明記するというものがこの(1)でございます。

 (2)は、(1)のやり方だと2回の裁判手続になってしまうのではないのかという批判があり得ますので、これを1回の裁判手続で終わらせるということ図示したものでございます。

 中身については、先ほど2ページで御説明したことと同じなのですけれども、この案の最大の問題点は、真ん中あたりの広い枠囲みのところに点々で矢印が出ておりますが、この3つの判決を一回の裁判手続で同時に出すためには、労働契約の終了を宣言する形成判決の前提条件として、一定の金銭が支払われているということが必要であるところ、判決の時点で、同時に3つの判決がなされるということは、一定のお金の支払いを命ずる給付の判決も同時になされるわけです。そうなりますと、判決の時点では、一番下の労働契約の終了という形成原因をお金が支払われていないので満たしていないということになりますので、そこが現行の日本の裁判制度においては難しいのではないかということが、平成17年の検討の際には結論として至ったものでございます。

 そういうこともありますので、論点が2つ書いてありますが、2つ目の最後のほうにありますように、これを実現するためには、別の手続的手法の工夫が必要なのではないか。それとして、何が考えられるのかということを中心に御議論いただくのが、この3ページの例なのかなと思っております。

 4ページはがらっと切り口を変えまして、最初の1ページの右上に※印で書いておりましたように、今は解雇を不法行為として損害賠償請求をするような事例もぽつぽつと出てきています。そういったことを立法事実として捉えまして、制度化するとすれば、どういう形が考えられるのかということを示したのが、この4ページ目です。

 3ページ目と同様に、まず、解雇からスタートします。解雇が行われた場合に、一番上にあります、解雇の確認の訴訟、地位確認訴訟、これは労働契約法第16条を存置するとするならば、引き続きこちらの道も可能。つまり、現職復帰を希望する労働者としては、解雇確認訴訟を起こすことも可能である。それをキープした上で、横に続いていく矢印ですけれども、労働者が損害賠償を請求する道も開く。損害賠償を請求した場合に、使用者が損害を賠償する。裁判に行く場合は、この下の矢印ですけれども、判決の中で、解雇が不法行為とする損害賠償の要件事実が認められた場合には、一定のお金を支払うという給付の判決がなされます。この給付の判決がなされたことを受けて、使用者側が損害を賠償する。そうした場合に、労働契約が終了するという効果を持たせる。そういうことが基本的な流れになろうかと考えております。

 ただ、この図のところに、点線がありますように、不法行為としてお金を支払ったことと、労働契約が終了するという効果を持たせること、これをいかに結びつけるかというのがこの4ページの例の最大の課題になってくると考えております。

 といいますのも、まず、労働契約法の中では、労働契約法第16条の規定によりまして、解雇が客観的に合理性を欠き、社会通念上相当と認められないという要件を課した上で、そういった場合には、権利濫用として、無効となるという効果を課しております。これが大前提であります。

 それに対しまして、この案の中でいう不法行為としての損害賠償請求というのは、要件が、今、申し上げたこととは全く違うわけです。使用者が故意・過失によって、法律上保護された労働者の権利、利益を侵害したと。しかも、使用者の行為と労働者の権利、利益の侵害との間に、相当の因果関係があるという要件があった場合に、お金を支払う。それが、今の民法709条の世界で行われている損害賠償請求でありますけれども、今、述べましたように、民法709条の損害賠償の要件と、先ほど申し上げました労働契約法第16条の要件というのは全く違うわけでありまして、全く違う中で、不法行為に基づく損害賠償請求が行われて、金が支払われた場合に、労働契約法16条の規定があるにもかかわらず、なぜ労働契約が終了するのかということを御議論いただくのがこの4ページの例の最大の論点になると思っております。これが、論点の1番目や3番目に書いてあることでございます。

 また、論点の2番目に書いていますように、民法の要件は、先ほど述べたとおりなのですが、例えば製造物責任法などにおきまして、故意・過失ではなく、無過失責任と、一部責任を転換しております。このように、民法709条の要件をそのまま労働契約法などの実体法に書くのがいいのか、それとも、何らかの要件を変動させる必要があるのかということも、あわせてこの例における論点になると考えております。

 5ページ目は、4ページ目とやや似ているところもあるのですが、まず、解雇が行われた場合に、現行の地位確認訴訟を起こせるということについては、4ページ目と同様でございます。横の矢印に行きますと、現職復帰としての地位確認を求めるのではなく、一定の金銭の支払いを求めていこうという労働者の選択肢を増加するという観点で、横に矢印が流れていくわけなのですが、労働者が金銭救済を請求しますと。そうなった場合に、裁判に行くと、この下の矢印に行くわけなのですけれども、判決の下のところは勝訴パターンなので、下のほうをごらんいただきますと、解雇が客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないと認められるという要件を満たす。これは労働契約法第16条の要件と一緒でございます。この要件を満たした場合、労働者が起こしているのは給付訴訟ということになりますので、一定の金銭を支払えという給付の判決がなされます。給付の判決がなされた場合、使用者側が一定の金銭を支払いまして、それに伴い、労働契約の終了という効果を与える。これが基本的な設計像と考えております。

 ちょっと申しおくれたのですけれども、4ページ目と5ページ目、不法行為のパターンと今回のパターンにつきまして、3ページ目と何が違うのか端的に申しますと、制度の中に地位確認請求、確認訴訟を起こすことを前提としているのが3ページのパターン、4ページ目と5ページ目は、それを入れていないパターンと御理解いただければと思っております。

 5ページ目のこのパターンなのですけれども、論点の1つ目にありますように、こういった仕組みを設けるためには、労働契約法なのか、あるいは解雇に関しては労働基準法などもありますので、そういった何らかの実体法上の根拠が必要ではないのかということ。それと、前回、委員の方々から、こうした実体法的な手法をとるとすれば、要件と効果をきちんと議論しなければいけないという御指摘がありました。要件の部分で申しますと、この3点目でございますけれども、ここには3つ、基本的な要件のみ書いております。

 1つ目は、解雇がなされていること。2つ目が、当該解雇が客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないこと。これはいわゆる解雇権濫用法理として、現行の労働契約法16条と一緒であります。

 3点目が、労働者から使用者に対しまして一定額の金銭の支払いを求めていること。つまり、先に使用者が払ってということではなく、解雇を受けて、労働者が金銭の支払いを求めているのだということを意識するのが、事前型にしないための重要なポイントと思っております。

 以上、申し上げました3点が基本的な要件であるのですが、これに加えまして、何かつけ加えるべき要件があるのかどうかも御議論いただくというのが一つのポイントと思っております。

 なお、参考資料の1、前回お示しした資料の1の4ページ目だったと思うのですけれども、2の(1)が労働者申し立てについての議論でございます。これは平成15年のときの議論ですけれども、このときの2の(1)をごらんいただきますと、ずらずらと書いてありますけれども、一言で言いますと、雇用継続が困難であるといった要件を1点加味しているというのが、平成15年のときの例でございます。

 あと、前後して恐縮ですけれども、補足資料の5ページに戻っていただきまして、論点の4つ目でございます。

 論点の4つ目は効果の部分でございまして、効果としては2つあると考えております。1つ目が、一定の金銭の支払いを求めることができるという労働者側の権利の創設、それと対する形での使用者側の金銭の支払い義務、これが1点目の効果です。2つ目の効果といたしまして、一定の金銭が支払われたことを条件として、労働契約関係を終了させるという効果。この2つが基本になると考えております。

 以上、1ページ目から5ページ目までは基本的に労働者申し立てについての制度設計の検討素材でございました。

 最後の6ページ目ですけれども、こちらは使用者からの申し立てに関する資料でございます。これまで、検討会の場におきましても、複数名の委員の方々から、使用者申し立てについてもきちんと検討すべきだという御議論がございましたので、これに関する参考資料として、用意させていただきました。

 ここの例のところに書いていますように、これは平成15年のときの流れの例でございます。このときの考え方ですと、解雇が行われ、その後地位確認訴訟が行われる。手続的手法がまず前提となる。そこで解雇無効が確定いたしますと、使用者側が申し立て要件を満たす場合につきましては、平成15年のときですので、先ほどごらんいただきました参考資料1の4ページの2の(2)のア、イ、ウの要件をいずれを満たした場合に、使用者側が金銭の支払いと引きかえに労働契約を終了する。そういったことを裁判所に請求できるという実体法的な権利も創設する。そういう流れで考えたのが、平成15年のときの考え方であります。

 これにつきましては、前回も何名かの委員の方からも御指摘いただいたかと思いますけれども、まず1点目は、資料の2つ目の丸のところに書いてございます。これに関してでございますけれども、労働者申し立てと比べて1段階ハードルが高いのではないかといった御指摘が前回あったところでございます。といいますのも、労働者申し立ての場合には、上の図で言いますと、解雇が行われて、地位確認訴訟が行われた後に、労働者側が、戻らなくてもいいのだけれども、一定の金銭を支払ってほしいという意思表示をするわけです。それに対しまして、使用者申し立ての場合には、この図にありますように、そういった労働者側の意思表示が何らないにもかかわらず、一定の要件を満たした使用者が、権利濫用になった解雇の意思表示の次に、重ねて一定の金銭と引きかえに労働契約関係の終了を申し立てることができるという、いわば二の矢を放つことができる仕組みが、使用者申し立てという考え方になります。

 こういったことが、そもそも労働契約法の原則に照らしてできるのかどうか、その是非について御議論いただくのが1点目の論点と思っております。

 2つ目の論点としては、この最後の○のところですけれども、そういった性格もありますので、労働者申し立てに比べると、その要件などにつきまして、厳格な要件にすることも考えられるということで、具体的にはどういう要件が考えられるのかを御議論いただくものでございます。

 先ほどの参考資料1の4ページの2の(2)にありますような、ア、イ、ウのような要件、つまり、解雇が法律上制限された解雇ではない。しかも、公序良俗に反するものではないということ。あるいは、使用者、労働者の関係が壊れてしまっていて、労働契約の本旨に基づく履行が確保できないような場合、あるいは、支払いを約しているとか、そういったことが平成15年のときにも御議論されましたし、平成17年のときには、例えば事前の労使合意とか、あるいは裁判所の手続きをマストとするとか、あるいは差別解雇などについては除くとか、そういったことなどが議論されていますので、そういったことも参考にしながら、改めて御議論いただければと考えております。

 説明が長くなって恐縮ですけれども、以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 本日の議論の進め方ですが、使用者申し立てについて、資料の最後に入っておりましたけれども、これは労働者申し立ての基本的な枠組みについて議論を深めた上で、より複雑で論点の多い使用者申し立てについても議論するという順番で議論をするのが適切かと思いますので、そういうことでお願いしたいと思います。

 では、御質問、御意見等ございましたら、お願いいたします。

 高村委員。

○高村委員 きょう、私がいただいている資料の1ページに関して、私の理解としては、この検討会での議論の対象となっているのは、あくまでも地位確認請求訴訟において、和解をせずに、解雇無効という判決に至る限られた場合について、解雇が無効ゆえ、雇用関係が継続しているにもかかわらず、金銭の支払いによってそれを解消する道筋をつくる必要があるかどうかというのが、この検討会の検討項目ではなかったかと理解をしているのです。

 先ほど、御説明をいただいた、例えば1ページでも、それとは違った感じを受けるのです。「選択肢の増加」というところを見てみますと、必ずしも解雇無効の判決を経た上でというようにはどうも理解できないのです。

 解雇無効時というのは、もちろん、解雇無効の判決を得た時点を意味するわけですが、この案というのは、一体どの時点を想定して新しい選択肢というものを考えているのかよくわからないものですから、もう一度御説明いただけないかと思います。

○荒木座長 事務局からお願いします。

○大塚調査官 今、御指摘いただきました解雇無効の判決を前提とするかどうかというのは、それに限定して議論すべきかどうかというのは、この検討会の場で議論を深めていただければと思っております。

 私どもがこの資料をつくった際の留意点といたしましては、まず1つは、事前型、つまり、お金を支払ったら自由に解雇できるという仕組み、これについてはやらないと安倍総理も国会で答弁されておりますので、それについては検討の対象から除くと思っております。

 そうなりますと、前回資料の参考資料2の1ページの一番下に書いておりますように、検討の射程としては事後型ということになります。ただ、この事後型、日本再興戦略の言葉で言いますと、解雇無効時における金銭救済制度という言葉になりますが、この解雇無効時というのを高村委員が今、おっしゃったように、解雇の無効判決を前提とするという限定的なケースにするのか、それとも、無効となるような解雇について対象とするのかというのは、この検討会の場で議論を深めていただければと思っております。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 水口委員。

○水口委員 議論の進め方なのですが、きょうは法制度論や法技術論を議論するということで、今、荒木座長から、使用者申し立ての前に労働側の申し立てについて議論をするとありました。労働側の申し立てについても、3ページに書かれている例1と、4ページの例2と、5ページの例3、それぞれイメージが違っているので、それぞれ例1についてこうだ、例2についてこうだ、例3にこうだと意見を言ったり、あるいは質問したりすることで整理して、進めていただければと思います。例1、例2、例3を一緒に議論すると、技術論としては混乱した状況になるので、まず例1についての意見という進め方にしていただきたいというのと、そのような進め方でよければ例1について意見なり質問をしたいと思っています。

○荒木座長 もっともな御指摘ですので、例1、例2、例3、これを一度に議論すると混乱いたしますので、御異議がなければ、まず例1についてどういう問題があるか、例2についてどうか、例3はどうかということで進めたいと思いますが、よろしゅうございますか。

(「はい」と声あり)

○荒木座長 それでは水口委員、続けて意見をお願いいたします。

○水口委員 例1の特に(2)、平成17年のときの案なのですが、これは補足資料No.113ページにそのときの検討の問題点が整理されています。

 3ページの例1の(2)については、要は、前回の議論では使用者が金銭を支払うという形成原因の事実が発生していないのに、労働契約の終了という効果を発生することは難しいという結論になったと私自身は理解しているのですが、先ほども説明の中にありましたけれども、この例1の(2)でもやはり、使用者が金銭を支払ったという事実がないにもかかわらず、1回の判決で労働契約を終了するという問題点は何ら変わっていないと思うことが一つで、難しいのではないかと思っています。

 2つ目は、前回も少し指摘をしたのですが、もし、この制度が法律的にできるとすれば、労働契約終了の効果が発生するのは、あくまで金銭を支払った時点です。そうであるとすると、解雇が無効となった場合には、当然、賃金の過去分、バックペイが払われるということになります。すなわち、一定額の金銭支払いには、解雇補償金の金銭と、過去のバックペイの金額、これら2つなければいけないわけです。契約が終了するのは、あくまで使用者が金銭を払ったときですから、それまで契約は継続をしていて、労働者は地位確認請求をしているわけです。その場合に金銭の支払いによって労働契約が終了するということになれば、解決金だけではなく、バックペイも支払わなければいけないということに当然なると思うのです。例1の(2)としてイメージが出ているので、バックペイについてはどう考えられているのか。私自身としては、その点がはっきりしないと制度自身が、ここに書かれているように限界があり、法制度上難しいのではないかと思うのですけれども、いかがでしょうか。

○荒木座長 もし、この例1についていろいろな論点があれば出していただいて、それからお答えいただくことでもいいと思いますが、ほかに例1について論点の御指摘はございましょうか。

 長谷川委員。

○長谷川委員 今、水口さんが質問したことと関連して、私も質問なのですけれども、よく解雇の和解のときに、一括支払いではなく、半額だけ払って、あとは何カ月後にもう一回払うという、二回払いというのがよくあるのですが、そういう分割払いの場合はどう考えるのでしょうか。

○荒木座長 ほかに例1についてはいかがでしょうか。

 とりあえず、今の2つの御質問について、事務局からお答えをいただけますか。お願いします。

○大塚調査官 まず、1点目についてお答えしますけれども、平成17年の検討のときには、途中で検討が終わってしまったということもありまして、バックペイ分について含めるかどうかの詳細な検討はしていなかったように思われます。いずれにしましても、金銭の性質論などにつきましては、次回、御議論いただくのではないかと思っておりますが、そのときに、現行民法の536条第2項に基づいて行われておりますバックペイの請求訴訟との関係につきましても、あわせて議論を深めていただければと思っております。

 2点目の、分割払いのときに労働契約終了の効果があるのかどうかにつきましても、そもそも契約終了の時点をどの時点にするのかということも含めて御議論いただければと思っておりますので、そういう分割払いの場合なども含めて、御議論いただければと思っております。

○荒木座長 前回検討したときに、今の御質問の問題について、こうなるということまで必ずしも詰まっていなかったということですね。そういう問題点があることも踏まえて、ここで検討してはいかがかと、そういうお答えでした。

 ほかの点はいかがでしょうか。

 例1についてほかになければ、例2について何か御指摘、御質問はありますか。

 土田委員。

○土田委員 先ほど、水口委員が言われた点、私ももっともだと思っていまして、今、事務局からお答えがあったように、金銭の水準等について次回予定されているのはよく理解できますけれども、きょうの3ページ、先ほど水口委員が言われた一定額の金額支払いというのは、労働関係終了の代償以外にもバックペイを含むべきものなのかどうかという論点は、例えば5ページのマルの真ん中に、「使用者が金銭を支払」という記載がありますけれども、使用者が金銭を支払うの「金銭」というのは何を指すのかというところとも共通する論点になると思います。次回以降はもちろん検討すべきだと思いますけれども、本日も必要な範囲で議論、検討をしたほうがいいのではないかという気がします。

○荒木座長 一定額をどう理解するかということで、民法536条2項の賃金請求権との関係も視野に入れて議論すべきだということですね。

 水口委員。

○水口委員 例1の場合には、普通の民法の考え方・理屈から言ったら、判決が出てお金が支払われるときに、労働契約が解消するという効果が出るということになるはずです。

 今の議論では、労働契約が終了する時点をいつにするのかということも議論の対象ということになります。例えば、労働契約が終了する時点を解雇効力発生時点まで持ってくる余地もあるとすれば、これは限りなく事前型に近くなってくると、私自身は思っているところです。形成原因事実においてお金を払ったということが重要だということであれば、私どもの例1の考え方はやはり効力発生時点はあくまで判決プラス現実にお金が払われたときになるわけで、遡及することはあり得ないのではないかと私自身は思っているのです。もし、遡及するような制度ということになれば、法技術的には非常に問題がある中身になるのではないかと思っていますので、例1について、その点は述べたいと思います。

○荒木座長 ありがとうございます。

 ほかはいかがですか。

 石井委員、どうぞ。

○石井委員 例1について、今の点ですけれども、労働審判や和解では、解雇時点に遡って雇用を終了する、一方で解決金を支払うという条項が割とあると言うよりは、むしろ一般的だと思います。さまざまな組み合わせといいましょうか、終了効の発生時点もそうですし、バックペイは必ずあってしかるべきなのかどうかも含めて、もっと柔軟に考えられるのではないかと思っております。

○荒木座長 山川委員。

○山川委員 テクニカルには難しい点がいろいろ出てくるということだと思いますが、仕組み方で、労働契約の終了時点をどこにするかというのは、いろいろなやり方があり得るとは思いますけれども、そのこと自体がいろいろな議論の対象になりますし、もし、水口委員の言われたような、判決プラス現実に支払われたときであるとしますと、現実にいつ支払われたかによってバックペイの支払う金額が変動する。そうすると、もともとの金銭を支払えという判決の補償的な部分の支払う金額も、バックペイに応じて変動するかもしれないということで、いよいよテクニカルには難しくなる部分があるという感じがします。

○荒木座長 例1について、いろいろと問題点の指摘がありますが、例1についてはよろしいですか。

 それでは、また後ほど戻ってくることも可能ですので、例2についてはいかがでしょうか。

 徳住委員。

○徳住委員 例2については、第7回検討会のときに、裁判例分析の結果が報告されたと思います。そのときの解説だと、年間1,000件の解雇訴訟があるということを前提にして、事例として挙げられたのが18件でしたでしょうか。ですから、膨大な解雇事件のうち、損害賠償型の事件というのは極めてレアだと思うのですね。私も事件を担当したことがありませんし、実務的にもはっきりしていない部分があります。

 事務局に確認したいのは、挙げられた18件の中で、リーディングケースと考えられる判決はどの判決なのか。挙げられているのは下級審だけの判決なので、この中から判例法理を引き出すというのは極めて危険だと思っています。これまで、労働契約法の制定にしても、その他の立法化にしましても、新しい制度を導入する場合の多くは、最高裁の判例や、判例法理で確立したものを立法化するということが一般的だったと私は思います。整理解雇の法理が結果的には立法化されなかったのは、いろいろ理由はありますけれども、明確な最高裁の判例法理が確立していないという問題も一つの大きな障害になったと思います。

 そういう点で、例2の中で、確かに幾つかの判例があることは認めますけれども、この判例に従って立法化すべきだというリーディングケースの判例があるのかどうか。要件と効果は、共通したものが確定していると言えるのか。これらの点について、事務局の御見解をお聞きしたいのです。

○荒木座長 事務局、お願いします。

○大塚調査官 今、徳住先生から御指摘がありましたように、この不法行為に基づく損害賠償請求をするケースというのは、レアケースであると考えておりまして、確かに第7回のときにも幾つか裁判例を御紹介申し上げたのですが、これがリーディングケースだと胸を張って言えるようなものは、事務局としては考えられないといいますか、理論的にも未整理ですし、地位確認訴訟との関係などにつきましても、実際、どうやれば確実にできるのかということが、手法として確立しているわけではないと思われます。むしろ、専門的な知見をお持ちの先生方に、もし参考にするとすれば、このケースを参考に制度化できるのではないかという形で議論を深めていただければと考えております。

○荒木座長 水口委員。

○水口委員 例2について私の意見を申し上げますと、やはり、要件論と効果論の二つに大きな問題点があります。要件論については、民法709条は権利侵害、民法の学説でいくと違法性と今は言われていますけれども、どのような場合に違法性があり、権利侵害だと言われるのかが、これは本当にケース・バイ・ケースです。

 例えば、妊娠したからとか、労働組合の活動をしたからということで解雇になれば、これは即不法行為ということになるかと思います。ただ、解雇にはいろいろなケースがあるわけです。例えば、従業員がボタンのクリックを間違えて1億で発注しなければいけないものを1,000円で発注してしまったというミスがあった場合に、会社に大きな損害をかけたので解雇できるかと考えると、例えばその労働者がミスをする前に長時間労働だったとか、会社が十分に教育、指導をしていなかったなどの場合については、解雇権濫用法理で、労契法16条に基づき、解雇は客観的合理的な理由はあるけれども、社会通念上相当でないということで、解雇が無効になるケースがあると思います。

 では、この場合に、解雇は無効だけれども、使用者に損害賠償請求を負担させていいかどうかということになると、またこれは民法709条の観点で議論しなければいけないし、それについての過失があるかどうかについても議論しなければいけないということになるわけです。

 解雇といってもいろいろな種類がある中で、特に客観的合理的理由が一応あるけれども、社会通念上相当ではないということで無効になるようなケースについて、不法行為として成立するかどうかというのは非常に難しい問題になってくるということになります。

 仮に不法行為の損害賠償請求の裁判例のリーディングケースがあったとしても、あらゆる解雇のケースで、不法行為についての違法性を一律に法律、法文で決めるというのは非常に困難ではないかと思われ、制度上難しいと思う点です。

 それから、効果論については、あくまで不法行為に基づくと、訴訟物は不法行為に基づく損害賠償請求権でありますから、地位確認、労働契約の終了については、裁判所は何ら判断をしないということになります。では、法律に、「不法行為の損害賠償請求を使用者が払った場合には、労働契約の終了原因となる」ということを労働契約法か民法に書くかということになると、地位確認無効の訴訟につけ加えて損害賠償請求も2つ請求する場合があるのですが、以前の議論のときにもあったように、その場合との切り分けをどうするのかということもあり、法律技術的には、損害賠償請求要件論から言っても、効果論から言っても、例2は技術的に難しいと思います。

○荒木座長 ほかにはいかがですか。

 石井委員。

○石井委員 理論的なというよりは、かなり感覚的な話になるかもしれませんが、やはり例2は違和感があります。

 労働契約法16条は、権利濫用論ですから、権利濫用で解雇の効力が生じない。ただ、権利行使の効力が生じないからといって、必ずしもそれが不法行為ではないというのが民法の基本だと、昔、習いました。やはり故意・過失や権利侵害が要件として必要だと。

 そういう意味では、感覚としては、16条では解雇の効力が認められなかった、いま一つ相当性が足りないとか、程度がそれほどではないということがあるにしても、不法行為だと言われるのは、一種悪質性みたいなもの。差別的であるとか、強行法規違反であるとか、もう一歩、悪質というイメージがあるものですから、金銭解決で事件を落着させられるのが、そういう悪質なケースに限るというのは疑問です。いま一つ足りず解雇無効になったというところが対象にならないという結論になってしまうのではないかと思いまして、そこがどうも違和感があるところであります。

○荒木座長 ほかに例2についてはいかがでしょうか。

 それでは、例3に行ってよろしゅうございますか。

 例3については、どのようにお受けとめか、御意見をいただきたいと思います。

 水口委員

○水口委員 例3を読んでいてよくわからない点につき、新たに不当解雇、違法解雇の場合に、労働者に金銭請求をする権利を付与するという制度をイメージして、それを前提に、おそらくこうなのだろうと考えてきたことを話すと、訴訟物が何かと考えた場合、これは金銭請求、補償金の給付を求める請求権ですね。それだけではなく、労働契約の解消の判決を得るという形成訴訟でもあるということになり、それもセットになっているもの。労働契約の解消は、金銭の支払いを条件として行われる、その金銭請求権が、訴訟物ということになるだろうと思っています。

 では、その金銭請求権は、民法上、法定債権と言われるものになります。そういうことになるので、労働者の申し立ての場合には、労働契約を解消するという形成判決を求める訴訟と、金銭の支払いを求める給付訴訟ということになるわけですから、当初から完全にバックペイは含まれないということになるのでしょう。

 その場合に、契約終了の効果が生じるのは、判決日なのか、解雇の効力発生日なのかというのは一つ問題になってきますけれども、先ほどの例1で申し上げたとおり、平成17年の議論で難しかった点でもあり、形成原因、つまり金銭の支払い、提供でもいいのですが、金銭の支払いという形成事実が出て初めて形成判決ができるという構造から言って、例1の場合が難しいというのであれば、例3の場合にも難しい論点が出てくると思います。

 それから、効果の問題でどう考えるかよくわからない点があります。例えば、わかりやすく言えば、地位確認訴訟をしないで、実体的形成権、請求権を労働者が申し立てをして、一審判決で解雇が有効だという棄却判決が出たとします。この場合の訴訟物はあくまで先ほど申した法定債権の給付訴訟と、形成訴訟ですから、地位確認請求権は訴訟物になっていないので、実体的形成権、請求権の訴訟で負けたとして、地位確認訴訟の別訴が起こせるのかという問題があります。控訴もするとして、別の裁判で地位確認訴訟を起こす選択ができるかという点も同様です。民事訴訟で言えば、重複起訴、二重起訴に当たるかどうかが問題になりますが、普通の感覚で言ったら、訴訟物が違うのだから、地位確認訴訟は提起できるとなるはずです。その場合どうするのか。

 これは、訴訟経済上問題です。一審で金銭請求をして、敗訴した場合には、地位確認訴訟を起こせないということを、既判力論や、訴訟物理論では制限できないということになると、政策的に法律でそのような提訴はできないと定めなければいけないということになります。その場合には、地位確認訴訟を求めるというのが、労働者の裁判を受ける権利になるところ、それを制限していいのかどうかという論点も出てきてしまいます。

 あと、既判力の問題で、金銭請求訴訟を行い、敗訴判決で確定をしてしまった場合、訴訟物は違いますから、地位確認請求訴訟に既判力は及ばないですね。ですから、地位確認請求を別訴で起こせるという理屈になり、民事訴訟の普通の形式論理から言ったらそうなってしまうのではないかと思っています。

 さらに、このことは裁判上の形成権の行使だけではなく、この表を見ると、裁判外でも行使できると書かれていますね。では、裁判外で、裁判をする前に労働者が解雇され、金銭請求をする、交渉すると、形成権を行使したことになります。裁判外上の形成権行使です。使用者との間で交渉が決裂してしまったときに、一旦形成権は行使したけれども、改めて地位確認訴訟を起こせるのか。それとも、一旦裁判外で形成権を行使した以上は、もう地位確認訴訟は起こせないとしてしまうのかという法律技術上の問題が出てきて、裁判外で形成権を行使することを前提にすると、非常に複雑な地位確認訴訟、金銭請求訴訟が乱立をすることになってしまうという、大きな技術上の問題点があります。このことを制限していくということになると、裁判を受ける権利との関係ではどうなるのかという問題も出てきてしまうと思えてきて、もし実体的請求権を与えるとなれば、考えれば考えるほど、どのような制度なのかというのが分かりません。

 あと、細かい話ですけれども、時効との関係で言ったら、形成権ですから、今の民法だったら10年ですね。また、不法行為で言ったら、今の民法なら3年で時効になります。地位確認訴訟は一応時効がないとされていますが、その関係をどうするのか。今度、債権法改正があるので、形成権の訴訟の時効もおそらく5年になるので、統一されるのかもしれませんけれども、時効の行使についてもどう考えるのかとなります。労働者側に金銭救済の実体的請求権を与えるという是非は置いておいて、法技術的に考えると、今、言った点が私自身もよく理解できないほど錯綜した議論になるのではないかと思います。

 もし、何かお考えがあれば、事務局からも、あるいはほかの先生方からも意見をいただければと思います。

○荒木座長 かなり法的に込み入った問題提起をいただきましたけれども、今の点についてお答えいただいてもいいですし。

 鶴委員、どうぞ。

○鶴委員 かなり詳細に個別の制度についてもお話しいただいて。ただ、私も法律の素人なので、今、例3を検討するときに、3つぐらい非常に重要な点があるのだと思うのです。

 1つは、例1と例2を比べると、矢印を見ると、例1、例2ともに点線の矢印がある。この点線の矢印というのは、あるものがここに行くときに、やはりそれなりにいろいろテクニカルに難しい部分があるということを事務局も先ほど御説明をされていて、例3の図を見ると、一つ一つの矢印については、点線の矢印はないのです。全部実線になっている。一応こういう仕組みを考えると、それぞれの流れに沿って、こういう流し方で制度をつくるということが、もちろんいろいろな条件があるのだと思うのですけれども、基本的にできるという理解に立っていいのか。

 私は素人なので、では、実体法上どうするのかということにおいては、実際に法律上に、どの法律をどう変えればどうなるのか。これもまだ、今、頭の体操の段階だと思うので、法律の専門の方にどういうような方法があり得るのか、そして、多分、この矢印が素直にこうそれぞれ進んでいくためとして、事務局が出されているのは、権利の発生要件と法的効果という2つが基準にあり、多分、ここはもっとこういうことを入れなければいけないとか、こう考えなければいけないとか、議論はいろいろあると思うのですね。ただ、ここを十分権利の発生の要件を考慮して、法的効果ということをきちんと考慮すれば、一つ仕組みとしてこういう仕組みはあり得るのかどうなのかというところが、今後議論していくことの本当にかなめになるところだと思うのです。

 今、事務局として、この矢印に点線がないということは、今、ここに論点に挙げられていることをある程度クリアしたらこういうものがある程度できるかもしれない。点線になっている部分がない。このことについて考えることができるのか、できないのか、逆に委員の先生方から御教示をいただければと思います。

 以上です。

○荒木座長 輪島委員、どうぞ。

○輪島委員 ありがとうございます。

 鶴先生と同じ趣旨なのかもしれませんが、私どものイメージは、平成15年と平成17年の議論で、非常に難しかった課題が、整理をされていて、超えることのできないぐらい大きなものだと理解をしています。鶴先生の御説明は非常にわかりやすくて、結局、例1と例2はそこのところでは超えられないものがここにあり、例3はそういう意味ではそこと今までの議論の積み重ねから、違うものを導き出そうとしているものなのかどうかというのがよくわからないのですけれども、そういう整理でいいのかどうかだけ、お聞きしたいと思います。

○荒木座長 では、今の点について、事務局からお願いします。

○大塚調査官 今のお三方の質問というか、御指摘に対しまして、事務局としてこのペーパーをつくったときの考え方を御説明したいと思います。

 まず、今、鶴委員ないし輪島委員から御指摘がありましたように、5ページ目の例は、3ページ目の平成15年、17年のときのクリアできなかった点を解決するためにはどうすればいいかということで示した図でございます。違いとしては、先ほどの水口先生の訴訟物ということに関して言いますと、3ページ目は、基本的に確認訴訟、確認の判決と、給付訴訟、給付の判決、それと、法律関係の変動を宣言する形成の訴訟、形成の判決、これらが基本的には全て訴訟手続の中で求められるような方式を考えていたところであります。

 特に15年のときには、2回の裁判手続になって長期化するのではないかという指摘、また、17年のときには、形成判決の前提とするような形成原因が判決の時点でお金が支払われていないので満たされていないという問題があり、できなかった。それらを踏まえて、5ページ目の例の訴訟物は、ここの例ですと給付判決、給付訴訟一本です。労働契約関係の終了というのは、いつの時点にするかは論点でありますけれども、お金が支払われた場合に労働契約関係が終了することを例えば法律の中に書き込めば、それがお金が支払われた後の当然の法律効果として出てくるのではないかということを御提起申し上げているものです。

 先ほどの水口先生のほうから、この5ページの仕組みの後に、後訴、後の訴訟で地位確認訴訟が起こされた場合はどうなるのかという御指摘もございました。5ページのスキームからすると、給付訴訟、給付判決一本でいくことになりますので、判決の中では金を支払えという給付の判決しかないわけです。そうなりますと、判決の主文で地位の確認を宣言しているものではありませんので、そういう意味では、既判力は及ばないことになるのかもしれません。ただ、これは要件設定の仕方などにもよると思いますけれども、5ページの判決のところに書いてございますように、労働契約法16条の要件と合わせるということにするならば、主文の中にはなくとも、判決の理由の中では何らかの判断がなされて、無効となるような解雇なのかどうか、裁判所が判断することになろうかと思います。

 そうなりました場合、仮に後訴で地位確認訴訟が起こされた場合には、形式的には既判力は及ばないのかもしれませんけれども、使用者側のほうから、前訴でこういう訴訟が起こされて、同じ解雇事案について事情の変更もなくこういう判断がなされたという証拠提出、主張、立証がなされれば、それはしんしゃくされるとも考えられますが、この点も含めて、専門的な御見地からの検討を深めていただければと思っております。

 また、裁判外の形成権につきましても、水口先生から御指摘がありましたけれども、裁判外でこの法律のスキームに基づきまして、実体法上の権利に基づきまして、一定の金銭の支払いが行われた場合に、あわせて本件解雇について争わないという合意がなされていることなども、その後に影響してくるとも思われますけれども、この点につきましても、専門家の方々からの御意見をいただければと思います。

 最後の時効の部分につきましても、民法の形成権あるいは損害賠償請求にかかる消滅時効のほかに、例えば労働関係で言いますと、賃金等の請求権は2年という消滅時効がありますし、法的な安定性と労働者保護の観点の両面から、どのような時効があるべきかということもあわせて御議論いただければと思っております。

○荒木座長 ありがとうございました。

 徳住委員。

○徳住委員 私は少し違った観点でこの問題を考えたいと思います。例3の金銭解決の仕組みは、私は裁判外の解決の仕組みとしては十分導入を検討する余地があると思いますけれども、裁判上での解決については、水口先生が言ったような要件、効果も含めて問題があり、そのほか労働者のために不適切だという点で反対です。

 具体的にどういうことかといいますと、5ページの「裁判外での解決」の中で、行政ADRを例に書いていますけれども、労働審判は裁判外・裁判上のどちらに入るのかという問題を考える必要があると思うのです。労働審判は非訟事件で裁判ではないと言われていますから、私は裁判外での解決と見るべきで、あくまでも非訟事件として見る必要があるのではないか。

 その場合に、労働審判が大変迅速で適切な解決を図られている理由はいろいろありますけれども、1つは、労働審判の主文のあり方に極めて特異性があるのですね。調停で70%解決しますけれども、20%で労働審判を言い渡されているわけです。その場合に、解雇が有効か無効かについての判断は、通常の裁判と違って、厳格な証明を要しない、大変ラフジャッジの判断であるものの、その判断は案外適切、妥当だという評価を得ている上で、大変多様性を持った主文が言い渡されています。どうしてそれが可能かと言うと、先ほど言いましたように非訟事件で、形成的な要素を含んだいろいろな主文とすることが可能だからです。労働審判法20条で、「労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行う。」「労働審判においては、当事者の権利関係を確認し、…紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる」旨が規定されています。「相当と認める事項を定めることができる」とあるので、これまでの地位確認型のものとは違った主文がたくさん出ています。

 私は大変これに興味を持っていて、担当した事件を集めてみました。裁判所の協議会において、非公開な労働審判制度であるけれども、主文だけは裁判所が収集、公開して、その制度趣旨も含めて検討するべきではないかと再々言ったのですけれども、最高裁はこの主文をいまだもって収集していないというのが公式見解になっており、最終的にどのような扱いになっているかわかりません。

 このような非訟事件特有の主文がありまして、東京地裁は少なくとも、労働審判を言い渡す前に調停案を出すのですけれども、最近は調停案と労働審判の主文が全く同じとしているのです。なお、一時は違っていた時期もあります。

 これはどういうことかと言うと、私が経験した事件の主文ですが、解雇事件の事例1では、まず1つは解雇が無効であることを確認すると言うのですね。2番目に、申立人は自己都合によって退職したことを確認します。これは大抵、解雇日に退職したことを確認するという強引なやり方の主文を出すのです。その上で、解決金を幾ら払いなさいとして終わらせているのですね。これが1つの事例です。

 事例2では、1項目は、相手方は解雇を撤回すること、2項目に、会社都合による合意退職をしたことを確認するとします。この場合、大体解雇日に退職したことを確認して、解決金を払えとなります。事例3は、私が担当した事件ではないのですが、雇用契約が終了したことを確認し、その上で金銭解決として幾ら払えとなっています。労働審判法20条は、大変工夫された相当の事項を命令することができる根拠条文となっており、しかも、労働審判は非訟事件のために相当な命令を出すことができるという構造を持っているのです。

 ただ、労働審判の申し立てに関し、未整理であり問題だと私が思っている点は、解雇無効の場合、不法行為による損害賠償を労働審判で最初から申し立てた事例があるかどうか、私は全く存じ上げていないのです。

 多くの場合は、地位確認型の労働審判を申し立てて、調停と労働審判のときに一旦金銭解決型の調停案、主文に変化して、異議が出る場合があります。異議が出た場合は、さらにそこで戻って、地位確認型の請求の趣旨に変化して判断していくという構造になっています。この辺りの調整はあると思うのですけれども、相当と認める事項を定めた判決を出すことによって、労働者側が金銭解決でいいですよと言った場合は、形成的な要素も含めて、労働契約関係を終了させながら、金銭の解決を図るという構造を労働審判制度そのものが持っているわけですね。

 このように考えれば、例3で示されたようなものを考えなくても、私はもう少し制度の趣旨等を重視すれば、もっと機能的な労働審判制度となり、解決の効果が上がるのではないかと思います。ましてや、裁判外の解決である都道府県労働局のあっせん等も、これはあっせん案を出した場合には、両方が同意すれば解決するのですから、どういう内容のあっせん案にするかは別にして、労働契約の終了をうたいながら金銭の解決を出せるということがあります。あっせん案をのむかのまないかというのは両方の意見で決まるので、その点は都道府県労働局の充実によって十分機能してくるのではないかと私は思っています。

 では、なぜ、通常訴訟の中に解雇の金銭解決制度を創設することが不適切で妥当でないかというと、これは要件のところが問題になっていきます。どれくらいの金銭になるかはわかりませんけれども、バックペイをずっと払え、バックペイは毎月毎月解雇無効の間は出てきますから、相当のプレッシャーが使用者にかかってくるわけです。しかし、金銭解決制度だと、一定の範囲の金銭、これはバックペイを含むのか、慰謝料だけなのか、逸失利益を含むのか、この点について本日は議論しないということですから、別途大きな問題になってくると思うのですけれども、要件としては労働者側は解雇権濫用であることを立証しなければいけません。

 これは、地位確認訴訟で、解雇権濫用で無効だと主張するのと全く同じなのです。主張、立証が、地位確認訴訟では、裁判を担当された方はわかりますけれども、相当激しい主張を立証する上、証明は厳格な証明でやられるのですね。そうすると、結果的に、通常訴訟は1年ぐらいかかります。東京地裁は一時10カ月でしたけれども、現在は1年4カ月ほどかかります。解雇無効で金銭賠償、金銭の有無を判断する以上、使用者側は徹底的に争うという争い方になります。

 ですから、結果的にはバックペイという抑圧効果もない中で、こういう本格的な訴訟をやらなければいけないということは、労働者にとっても結構な負担で、大変な労力を要するということがあり、解雇無効ということが確実なのに、わざわざバックペイをもらわないで金銭解決でいくかという、そのモチベーションが労働者に湧いてこないという問題があります。

 この問題は、これまでこの検討会でも意見がありました。先ほども申したように、ドイツ型の制度は、例1の検討の中で、我が国で導入するのは難しいのではないかとなりました。報道にもありましたように、フランス型がこれに似た構造を持っていて、解雇補償金制度のもと、使用者側が1、2年となぜ金を払わなければいけないのだということを徹底的に争う。これは労働者側から見た場合、大変酷な訴訟制度を持ち込むことになるのではないか。

 以上のことから、私は例3の金銭請求制度については、労働審判を含む裁判外での解決の中で充実させることが考えられるし、その点を考える余地はあるとしても、通常訴訟の中にこの制度を持ち込むことについては、労働者のモチベーションがなく、使用者側が早期に紛争を解決するモチベーションがわくインセンティブがないということから、労多くして実入りは余りないということで、私は不適切であり、妥当ではないと思っています。

○荒木座長 ありがとうございました。

 土田委員。

○土田委員 これまでの議論を踏まえて少し発言したいのですけれども、先ほど言われた例1と例3の関係ですが、例1で結局、金銭の支払いがされていない限り、形成原因がないということについては、5ページの例3のほうで、使用者が金銭を支払い、給付訴訟と給付判決で労働契約の終了ということを法定するというような、そのような位置づけをすれば、例1との違いは出てくるだろうと思います。

 それが5ページ目の論点の1つ目の○、「このような仕組みを可能とするためには、実体法上の根拠が必要ではないか」と。逆に言うと、実体法上の根拠を設けることによって、例1との差別化を図ることは可能だろうと考えています。

 今、徳住委員が言われた点ですが、1つは、これまで政策的な可否という段階でお話があった、従来の制度を充実させることで可能なのではないかというお話と、それから、より踏み込んで、裁判上の解決の制度設計をした場合に、今の話では、例えばバックペイが組み込まれないとすると、それに見合った要件として、解雇の合理的理由と社会通念上の相当性まで求めるということはどうなのかというお話でした。それは確かにそういう可能性はあると思いますけれども、そもそもバックペイを含むかどうか自体について、バックペイを含めるという制度設計をすれば、そこの点はクリアできるわけですから、今回の例3が、今のお話で、完全に検討価値がなくなるとは考えておりません。

 それを前提にしまして、例3の論点1つずつについて意見を申し上げたいのです。

 1つ目は、実体法上の根拠が必要ではないか。これは必要だろう。必須であって、これがないと先ほど言った問題は解決しないわけです。その次に、権利の発生要件や効果について、これはもちろん検討する必要がある。

 問題は3つ目と4つ目なのですが、権利の発生要件として何を考えるのか。マル2の解雇権濫用法理については、効果をどう考えるかということで、今、お話したように、バックペイを含めるということにした場合、この要件は当然考えられるわけです。

 次に、従来からの議論の一つとして、解雇の金銭解決制度を設けることで不当解雇を誘発するのではないかという懸念があります。私が着目したのは、先ほど事務局からも御説明がありましたが、前回出てきた資料No.1の4ページの2の(1)のところです。この当時、労働者が職場復帰をしたとしても、労働契約の本旨に従った義務を履行することが困難となる状況が生ずることが明らかであるという要件が入っていたわけです。この考え方に近いのがドイツ法でありまして、ドイツ法の考え方は、解雇が社会的に不当であること、つまり、日本でいう解雇権濫用法理に相当する要件プラス、もう一つ要件を加重していまして、労働関係継続の期待不可能性という要件が金銭解消制度の中に入っています。

 なぜ、これが入ったのかというと、私が以前、論点整理の中でお話しした、解雇権濫用法理の構造というものは、雇用保障を前提にしているわけだから、そもそも金銭解決制度というものを導入していいのかという疑問に基づくものだと思います。この疑問を前提とすると、仮に金銭解決制度を導入するとしても、その要件は通常の解雇権濫用法理に加重したものを考える可能性があるわけですが、その発想はドイツでして、ドイツの場合には、雇用保障を解雇法制の基本的な理念として位置づけるわけですが(向こうの言葉では存続保護と言っています)、その観点からすると、単に解雇が社会的に不当であるだけではなく、労働関係継続の期待不可能性という客観的な要件を付加すべきだという要件論になるわけです。

 この要件に相当するのが、今、紹介した前回の資料No.1の4ページの2の(1)、労働契約の本旨に従って義務を履行することが困難という要件です。ドイツの場合には、これはどういうものかと言うと、使用者から誹謗中傷が行われている、あるいは違法行為が行われている、そういう客観的な事実を立証しなければいけないわけなのです。ですから、ある意味、解雇の誘発を防止して、そして雇用保障の趣旨を貫徹するということになれば、このような厳格な要件を課す可能性もあると思います。

 ただ、この制度設計のデメリットが何かというと、そういう要件を加味すると、今度は逆に適用範囲が厳格化されてしまう。つまり、労働者が申し立て、解雇が合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではない、それから金銭の支払いを求めているという3つの要件では足りないわけで、客観的に労働契約の本旨に従って義務履行をすることが困難であるとか、労働関係継続が期待不可能という要件が加わるわけですね。そうすると、適用範囲は当然限定されることになってきます。いいかえると、制度があまり機能しないということになる。

 そうすると、もともとここの議論で、私も申し上げましたけれども、労働者の救済手段を多様化するという観点から、解雇の金銭解決制度の可能性を追求するというスタンスと矛盾するという問題がありますので、その点をどう考えるのかということがあります。

 それと、ドイツ法がなぜこういう要件で限定しているかというと、日本法と違い、就労請求権が保障されておりまして、職場復帰は可能ですので、金銭解消制度のほうでこういう形で要件を加重しても特段問題がない。そこが日本と異なるところですので、かなり難しいという気はしますけれども、全く考えられないわけではないと思います。

 ついでに要件としてもう一つ考えられるのは、前回も言いましたが、平成17年の時点にありました、労使の集団的合意を要件とするという考え方もあると思います。正確に言いますと、解雇の金銭解決の申し立てについては、解決金額の基準について事前の集団的合意、労働協約または労使委員会の決議が行われた場合に限って認めるというものです。個別的契約は、労使間の交渉力・情報格差がありますし、就業規則は合意ではないので、労働協約ないし労使委員会の活用ということになるかと思います。

 仮に、集団的労使合意を要件とすると、政策論の話になるかもしれませんが、前回、水口委員がおっしゃっていた、補償金を下回る、例えば7~8割での解決金の提示というものについて、一定の抑止効果があると期待できるのではないかと考えています。

 それから、最後の効果のところですが、これは次回の課題だと思いますが、私は先ほどから言っていますとおり、法定債権とした場合に、労働関係解消の代償に加えてバックペイを含めるものとして設けるべきであろうと思います。この前提としては、労働契約の終了時期が補償金の支払い時点であるということが前提になると思いますけれども、その上で、バックペイを含めるという選択をすることは法政策としては可能だろうと思いますし、効果の中の「使用者に金銭支払い義務が発生」の金銭の内容については、そう考える必要があるのではないかと考えています。

 なお、仮にこのような制度を設けた場合に、既存の地位確認請求、今のバックペイを加えたという場合に、別途、地位確認請求に伴う逸失賃金請求、この請求は当然妨げないようにすべきであろうと思いますし、その上で、労働契約が終了することを法定するという制度設計は可能と考えております。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 山川委員。

○山川委員 いろいろな御議論が出てきまして、何人かの方が共通して御指摘をされたのは、やはり金銭の性格のお話かと思います。金銭の性格はそれ自体として問題になることはもとより、そもそもなぜ例3の制度をつくるのかという制度の趣旨にかかわるのではないか。つまり、損害賠償請求と異なるとすると、なぜ、金銭を請求できるのかということで、これは制度の趣旨とその金銭の性格あるいは法的効果を関連させた議論をする必要があると思いますので、この次に予定されていると先ほどお話がありましたので、そもそもなぜこのような制度になるのか。それから、損害賠償とかバックペイなどとの関連について、素材、資料等を御用意していただければいいのではないかと思います。

 先ほど、土田委員がおっしゃられた、労働関係の解消の代償ということで、例えば、本来解雇無効であったら継続的な地位が確認なされるところを、それを放棄するけれども、そのかわりに金銭という形で補償をする、そういう趣旨のお話かなと思いましたが、そういう点も含めて、特に、損害賠償との違いや、バックペイの違い等について、議論できるような資料があればいいと思います。前提になりますのは、例の3は、形成権や形成訴訟という要素は入っていないということで、そこが例1との違いであろうかと思います。

 あと1点だけ、行政ADRとの関係についてですが、これは私の紛争調整委員会のあっせんでの経験ですと、やはり条文があるなしで結構説得力が違うと言いますか、解雇権に関する労契法の16条や、あとは19条や17条も条文ができたことによって、合意ベースの解決を図る上では結構効果があったので、そういう意味があろうかと思います。その意味で、訴訟で使う場合はあくまで選択ですので、地位確認をすることができるということは妨げないので、地位確認請求をしたい方はそれをすればいいということになるのではないかと思います。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 水口委員。

○水口委員 例3について、給付請求、給付訴訟だけだということで、法的効果については、法定債権として何らかの基準で決まった金銭が支払われれば、労働契約法か民法かわかりませんけれども、労働契約終了原因事由を法律に決めて、労働者が申し立てて、法定にされた基準どおりのお金を払えば労働契約が終了するという、終了事由というのをどうやら新たにつくるというのが、事務局のイメージだと思います。しかし、賃貸借と違い、労働契約法や民法には労働契約終了事由というのは何も規定されていないので、実体法に権利等を創設するということになれば、ほかのケースはどうなるのかということも非常に詰めて考えていかなければいけないということになるだろうと思います。

 給付請求ということになれば、先ほどは既判力の話でしたが、本日は民法や民訴法の先生がいらっしゃらないのですけれども、民事訴訟法114条では、「確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する」と書かれています。学説上は争点効などいろいろな論争がありますけれども、それは通常は認められていない。この既判力の民事訴訟の大原則をどうするのかということにもかかわってくるだろうということを指摘したいと思います。

 このように考えれば、仮に給付請求となったとしても、土田先生が先ほど指摘されたと思いますけれども、裁判外での解決についても、労働契約が合意解約による終了ではなく、この制度により終了ということになれば、基準に基づいた金額を払わない限り、労働契約終了の効果は発しないということになります。一方、現状は裁判前に交渉して、合意解約+解決金支払いで終了するという処理をしていますけれども、それと解雇無効の裁判での解決金基準で支払って終了するという制度との関係をどうするのかということも出てくると思います。土田先生が言うように、そうなれば解決金の水準につき底上げできるではないかということも、確かにそういう効果があるのかもしれませんけれども、制度論として考えたときに、裁判で解雇無効の場合の一定の解決基準を払って、初めて労働契約が解消できるとなったら、それ以下の水準の交渉での合意解約の効力とどう関係するのかということも考えるべきではないかと思います。この新しい論点も出てくるかと思います。

 気がついたことにつき、論点提示という意味で意見を申し上げました。

○荒木座長 長谷川委員。

○長谷川委員 水口先生にお聞きしたいのですけれども、例3の場合の「労働契約の終了」とこの図にありますね。このときの労働契約の終了は、合意解約なのか、それとも解雇なのか、それとも自分で退職したことなのか、労働契約の終了は、合意解約・解雇・辞職の3つのパターンがあると思うのですが、例3の場合はどのように考えれば良いのでしょうか。

○水口委員 例3を作成したのは私ではないのですが、資料に書いてあるのは、例3に基づき法定されるであろう一定の基準額を払えば労働契約は解消するという意味での労働契約の終了と私は理解していますけれども、どうでしょうか。

○荒木座長 事務局からいかがですか。

○大塚調査官 今、水口先生から御指摘のありましたように、法律上、一定の基準が示されるならば、その金額が支払われた場合に、法律上、労働契約が解除される、その事由を定めるものだと考えております。

 ちなみに、いつの時点で契約が終了するかどうかは、これから御議論いただければなと思っております。

○荒木座長 ほかには、いかがでしょうか。

 どうぞ。

○長谷川委員 質問なのですが、解雇規制に関しては、大体の場合、労働協約や就業規則に解雇の手続や事由が規定されています。それから、労契法16条の解雇権濫用法理に基づき地位確認訴訟を提起することに分けられると思うのです。解雇事由が就業規則に書いてある場合、また、労働組合からの意見聴取、本人からの意見聴取をするといったことが労働協約に書いてあると思うのですけれども、こうした労働協約や就業規則違反は、例3のどこに含まれてくるのですか。

○荒木座長 事務局、どうぞ。

○大塚調査官 事務局として、このペーパーをつくったときの考え方といたしましては、現在であれば解雇権濫用法理に基づいて争われるような解雇がここの対象になるのだろうなと考えております。ただ、前回資料、今回お出ししました参考資料2の2ページ目のところにも書いてございますように、対象となる解雇をどうするかにつきましては、御議論を深めていただければなと思いますけれども、労働協約違反の解雇あるいは就業規則違反の解雇がそもそも解雇権濫用法理のスキームの中で判断されているのかどうか、制度の対象とするべきなのかどうかも含めて、先生方の専門的な御見地から御検討いただければと思っております。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 今、言われたように、解雇の際にさまざまな手続が設けられることがあります。今、事務局がお答えになったとおり、手続違反の解雇を解雇権濫用法理の枠組みで捉えるのか、それともそうでない枠組みで捉えるべきなのかという論点が一つあると思うのです。例えば、仮に就業規則に労働者の弁明機会規定や意見聴取規定があったとして、その違反があった場合、今の裁判実務では、16条の枠組みで捉えると思うのですね。解雇手続が十分ではないから、社会的相当性を欠くという扱いがあると思います。

 ところが、先ほどおっしゃった労働協約の協議条項、これは結局、前回のペーパーの2ページの2つ目にある、対象となる解雇をどうするのかという論点と絡むと思うのですが、ここで例示されているのは、国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇など、法令で禁止されている解雇、あるいは差別的解雇ですね。こういった解雇についてはどう考えるかというのが一つの論点です。

 意見を言ってしまいますと、私はそういう解雇は金銭解決制度の対象に含めるべきではないと考えていますし、それから、労働協約上の協議約款違反の解雇も含めるべきではないと考えています。労働協約の協議条項というのは、これに規範的効力(労組法16条)を認めることが前提ですが、誰のどういう利益を保護しているのかと言うと、労働者個人も保護していますが、労働組合の団結権も保護しています。つまり、労働組合が団体交渉をして、そういう協議条項を勝ち取ったわけですから。ということは、協議条項に違反して行われた解雇というものは、雇用保障に違反していると同時に、団結権侵害の意味があると思うのですね。そうなると、協議条項違反の解雇については、団結権侵害の側面があるわけですから、今回例示されている法令違反の解雇と同様に対象外にすべきだろうと思います。つまり、解雇権濫用法理の枠組みで捉えられる解雇と、法令違反の解雇を区別したうえで、後者は金銭解決制度の対象から除外すべきですし、協約上の協議条項違反の解雇についても、法令違反に準じたものとして考えて、対象外とする選択肢があるというのが私の意見です。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 村上委員。

○村上委員 長谷川委員から、就業規則の手続の違反の解雇についてどう考えるのかについて質問があり、土田委員から御見解があったのですけれども、就業規則の解雇事由に該当しないということで解雇無効になるのではないかという事案については、どのように考えればよろしいのか、その点についてもぜひ教えていただければと思います。

○土田委員 これは恐らく、研究者によっても、実務家によっても考え方が違うと思いますけれども、私は就業規則の解雇事由に該当するか否かという問題は、労契法16条の客観的合理的理由の有無の枠組みで判断できると思いますので、今、御指摘の点については、16条の合理的理由の枠組みに入ると考えています。

○荒木座長 村上委員。

○村上委員 実務的にはどのようになっているのかということはあるかと思うのですけれども、解雇権濫用法理の法制化をする際の議論の過程の中では、解雇権濫用法理は立法化されても、従前からある就業規則による解雇規制や、労働協約による解雇規制は何も影響を受けないということは確認されておりますので、その点も含めて検討をする必要はあるのではないかと思います。

○荒木座長 この5ページの図で、解雇されて、上のほうに行くと、解雇は無効で地位確認してくださいという訴訟があるのですね。これは何ら変わりがなく、今後も存続するということです。この中で、今、言われたような就業規則の解雇規定の違反など、そういう問題は全部従来どおりこの中で議論がされるということになると思われます。

 下の場合は、労働者は金銭救済を請求するというルートを新たにつくるというのは、労働者が金銭救済を望んだ場合でありまして、労働者自身が地位確認請求をしたいという場合は、従来とは何ら変わらないという理解でよろしいのでしょうか。

○大塚調査官 今、座長から御指摘ありましたように、従来どおり地位確認訴訟の道というのは残っているものでございますし、地位確認訴訟による現職復帰ではなく、金銭の救済を受けたいという労働者向けに新制度を御検討いただく。御検討いただくに当たって、要件、効果をどうしていただくかを御検討いただくことであろうかと思っております。

○荒木座長 水口委員。

○水口委員 法律論というか、技術論とは違うのですが、労働者が早期に金銭で解決するということは、これまで1年ぐらいかけて行ってきたヒアリングの中で、労働審判の運用において解決されているということになるわけですね。この点については、労働審判でどういう基準で解決されるのかがわからないではないか、その部分の透明性が欠如しているのではないかという御指摘もありました。

 今、この制度を改めて考えたときに、労働審判が機能しているときに、労働者が復職ではなく、早期の金銭救済を求めているときに、これだけ大議論して、そもそも設ける必要性があるのか。本人が早期に金銭救済を受け、解決したいというのであれば、労働審判において早期の解決ができれば良いと考えます。解雇無効かどうかということにつき、労働審判で議論し、最終的には調停案が示され75日ぐらいで解決しているわけですね。そのときにやるのは、合意で労働契約を終了する。終了時期は、解雇日になることもあれば、調停成立時になることもあるということで、なぜ例3のようなものを大議論して設けなければいけないのかが、今、話を聞いていてよくわからなくなっています。正直、解雇解決金の基準をつくるためにだけ議論をしているという感じがしており、現在、労働審判で解決がされているのに、このような大ごとの新しい制度を作る必要があるのでしょうか。また、二重起訴、既判力などの大問題がある制度が必要だという立法事実がよくわかりません。もし立法事実があるとすれば、何らかの解決金の基準を示すという、それだけなのかなと思っているのですが、そのあたりはいかがですか。

○荒木座長 石井委員。

○石井委員 今の点ですが、労働審判が十分機能していて、これを大切にしていく必要があるというのは、始まる当初、私もそういう発言をした覚えがありますし、今でもそう思っていますが、でも、それは双方同意しないと成立しないですね。労働審判に組み込まれている調停、それから裁判上の和解もそうだと思います。

 世の中には、相手のある話で、合意ができず、かといって判決で結論が出たといっても、それで解決するわけでもなく、戻せない、戻れないということもありまして、それは事案としては大多数がそうだという話ではないとは思いますが、やはりそこの解決方法が必要だというのが議論の出発点だと思いますので、新しい選択肢として、新しい解決方法を設けることには意味があると思います。

 あと、フライングだと言われてしまうかもしれませんけれども、確かに労働者側から見れば、早く解決したいと思えば労働審判で申し立てますということでしょうが、一方、使用者側申し立てもぜひ検討していただきたいという、フライングですが、意見として申し上げます。

○荒木座長 八代委員。

○八代委員 私も今、言われたことと基本的に同じなのですが、労働審判がうまく機能しているのは全くそのとおりだと思いますけれども、もっと補償金を減らしたいと思っている使用者、あるいはもっと増やしたいと思っている労働者がいるときに裁判に訴える。そのオプションがあって、しかも裁判だと、仮にバックペイが無制限に認められたら、労働審判よりはるかに多くの補償金が取れる。また、認められないと、今度は使用者にとって有利になる。だから、そういう逃げ道をなくして、労働審判でも裁判でも、結果的に使用者も労働者も補償金に大きな差がないというような状況をつくらないと、労働審判が本当の意味の迅速的な紛争解決の手段にはならないのではないか。だから、解雇の金銭補償ルールが裁判に適用されれば、私はかえって労働審判の活用がふえるというケースもあり得ると思います。

 それから、経済学の観点から言うと、当事者のインセンティブというのが大事であって、例えばバックペイの額をどこまで認めるか。延々と訴訟していればするほどバックペイが膨れ上がってしまうので、一定の限度額で打ち切るような仕組みも必要ではないかと思いますが、これは専門家にお任せます。

 3番目は、ここで解雇と言っているのが、新卒採用をして、途中で能力不足かリストラかの原因で解雇されたときにどうするかというイメージで実例がつくられていると思うのですが、中途採用のケースはどうか。これまでの判例でも、特定の仕事について中途採用をされた人が、その仕事能力を十分に発揮しないときに解雇されたとき、解雇有効の判決が出る場合が多い。それに対して、新卒採用で長い間働いている人が能力不足だとすると、それは半分は使用者の責任もあるのではないかとして、解雇無効になるという場合が多いなど、かなりその両者は違うので、そこを分けて考えないとおかしいのではないか。

 どう分けて考えるかというと、国家戦略特区で、事前に明確な労働契約を結んでいれば、これは就業規則ではなく、労働者も合意した労働契約を結んでおく。どんな仕事をするか。それが十分にできないときは解雇するという、かなり細かい、欧米型のような労働契約をきちんと結んでおく。そうすると、それに労働者が反した場合には解雇しても構わないというようなルールが工夫されているので、ぜひ次回、議論の参考にしていただければと思います。

○荒木座長 高村委員。

○高村委員 先ほど、水口委員が、復職を求めずに金銭で解決するということであれば、それは解決の時間的な問題も含めて、労働者は労働審判を選択するだろうと。そういう意味では時間をかけて新たな制度を議論する意味がどこにあるのだという御発言があり、それに対して石井委員から、確かに労働審判についてはさらに機能を高めていくにしても、調停というのは、双方の合意ということですから、こういう手続も必要ではないかというお話がありました。もともとこの検討会に議論が課されるに当たって、紛争の解決の予見性を高めること、それは時間的な予見性を高めるということも入っていると思うのですが、お金の問題を訴訟でやるということになると、果たして解決の時間的な予見性を高めるという点では、私は逆効果になるのではないかという気がしているものですから、一つ発言させていただきました。

○荒木座長 八代委員。

○八代委員 今の高村委員の意見について、訴訟が始まってしまえばそうかと思いますが、逆に、こういう場合にはどれだけの金銭補償が取れるというのが労使双方ともわかっていれば、最初から訴訟は起こさないという予防的な意味がこの解雇の金銭補償ルールにあるのではないか。だから、そちらも考えていただかないと、バランスを欠くのではないかと思います。

○荒木座長 それでは、例1から例3まで議論してきましたけれども、はい、村上委員。

○村上委員 先ほども、5ページの例3について、解雇には3つのパターンがあるのではないかということで申し上げたのですけれども、申し上げたかったことは資料のつくり方についての問題でございます。

 前回も議論がございましたし、今回も御紹介がありましたとおり、平成1517年でいろいろと制度設計されたけれども、結局、技術的な問題があって失敗したという経過を踏まえれば、今回はきちんとした議論をしなければならないのではないかと思います。

 そのような見地から考えますと、1点目として、例3の図の真ん中にある「訴訟の提起」をした後、2つに矢印が分かれています。矢印の先には、判決の内容として解雇権濫用法理のみで書かれていますが、そうではない場合についてはどうするのかということを考えなければいけないのではないかというのが入り口の問題です。

 それから2点目に、労働契約の終了という出口の問題がございます。これまで、水口委員などからも御指摘ありましたとおり、解雇権濫用法理のような場合について、一定額の金銭支払いを命ずるという判決が出た後、使用者が金銭を支払うと、労働契約の終了になるということですけれども、使用者が命じられた金銭を支払わなかった場合には、どのような法的効果が生じるのかということは、この図だけに基づく議論はなかなかできないのではないかと思います。

 例えば、使用者が判決で命じられた金銭の額に不服で金銭を支払わなかったら、いつまでも労働契約は継続して、使用者は賃金の支払い義務を負うのか、また、この場合、判決主文には賃金支払いを命ずる条項はないので、労働者はもう一度、最初から裁判を行って、賃金支払いを求めなければならないのかといったことなどもすべて検討した上でないと、きちんとした制度設計はできないのではないかと思います。

 法律制度の制度設計に関するフローチャートを作成する場合には、要件を充足する場合はどうなるのか、その要件を充足しない場合はどうなるのかということも書いていかないと、きちんとした議論にならないのではないかと思います。

 さらに、使用者が金銭支払いを拒否した場合であるとか、相当な年数を経過してから使用者が支払った場合はどうするのか。また、先ほど長谷川委員からもありましたけれども、分割払いした場合はどうするのかといったことも、さまざま論点がございますので、もう少し、丁寧なつくり込みをしないと、最終的に整合だった制度設計はできないのではないかと思います。

 以上です。

○荒木座長 長谷川委員。

○長谷川委員 先ほど村上委員が発言したことに加えて、次回、資料を作成する際のお願いです。例えば、5ページでは「訴訟の提起」とあり、判決が出て、使用者が金額を支払う場合しか書いていないのですけれども、解決金を払うくらいだったら職場に戻すということだってあると思うのですが、資料ではその記載がないのです。今回の資料にあるチャート図の提示は、初めてだから仕方がない部分があると思うのですけれども、次回はこうした点も含めて、もう少し論点といいますか、議論しなければいけないところについても細かく出してもらわないと制度設計の議論はできないかなと思います。

 先ほど、今回の例3について、要件のところにもっとつけ加えなければいけないものがあるのではないかと土田先生もおっしゃっていた点について、なるほどなと思いながら聞いていました。労契法16条は解雇権濫用法理ですけれども、もしかしたら解雇の金銭解決制度を導入するとしたら、これは解雇権濫用法理ではない別の法理をつくらなければいけないのではないかと私は思いました。正当事由説と言うのですけれども、そういうことも検討しなければいけないのではないかと思います。

 以上です。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 鶴委員。

○鶴委員 これまで、私も先ほど問いかけをしまして、委員の皆様のお話を聞いていて、確かに、この場合はどうなるのかとか、こういうケースはどう対応するのかとか、普通ではないようないろいろなものに対して、それぞれを細かく見ないと、確かに長谷川委員のおっしゃるように制度設計は難しい。私もそのとおりだと思います。

 ただ、どんどん細かい、あの場合はどうなのだ、あの場合はどうなるのだということになると、基本的な制度設計をするときは、それだとなかなか前に進まなくなってしまう。私が先ほど申し上げたように、大きな矢印というところが、例えば、きょう出た意見というのは、基本的に権利の発生要件とか、法的効果、前者であればさらに信頼関係がなくなるとか、ドイツ式の話もございましたし、法的効果、バックペイの話もございました。そういうところをどこまで細かく積み上げていくのかという話と、それができれば、できるのか、できないのか、やはり大きなところを議論するし、ど真ん中の話をしっかり見ないと、周辺のところがどうなるかわからないから議論ができないというのではなかなか前に進まない。

 それと、私は労働審判のほうはうまくいっている。何でこんな制度をつくるのか、それも御議論の仕方としてあり得ると思うのですね。ただし、ある意味で、いろいろなところとの連関をきちんと考えないといけないというのは、制度設計をするときの基本なのですけれども、今回みたいに、一つ一つ虫眼鏡みたいに見て、一つ一つの仕組みが本当にできるのか、できないのかという、むしろ視野を狭めて見るということをやらないと、これはどうなのだ、あれはどうなのだという話で前に進まなくなる。

 私は、ある意味で制度設計を個別に積み上げてみて、現在のある制度が、新しく制度をつくることによってかなりゆがんでしまうのではないかとか、そういうほかの制度とのインタラクションや整合性というのは、多分、最後に考えて結論を出していく話なので、途中でその話が出てしまうと、本質論のところが全然議論がされないまま、本当にこれがいいのか悪いのか、ど真ん中の話はいいのですか、それとも周辺の話がよくわからないからだめなのですかと。

 お話を聞いていると、どうしてもきょう、そういう印象になってしまうので、やはり議論の仕方、皆さんがおっしゃっていることは全部もっともだと思うのですけれども、それだとなかなか議論が深まらないなというのも、済みません、感想になって申しわけないのですけれども、以上です。

○荒木座長 村上委員。

○村上委員 今、鶴委員から御指摘があったのですけれども、私どもがいろいろ指摘しているのは、決してレアケースのことを言っているのではありません。使用者が金銭を支払わない場合というものもございますし、現実に労働審判などでこういった解決金を支払わなくてはいけないのであれば、職場に戻すというような使用者の行動もあります。そういった場合に、要件と効果がどうなっていくのか、ほかの権利との関係をどうするのかということをきちんと整理した上で議論する必要があります。仮に新たな制度をつくったときに、裁判所で混乱が生じてしまうということにはなってはならないと思っております。

 今、申し上げているのは、この資料自体をもっと充実させていただきたいということです。例えば、使用者が支払わなかったケースはどうなのか、また、職場に戻したケースはどうなるのか。その場合に、労働契約の終了というのはいつの時点なのかといったことを、きちんと検討できる資料を提出していただきたいということでございます。

 以上です。

○荒木座長 例1から例3まで議論してきましたけれども、その後に使用者からの申し立てについても資料がついておりますけれども、この点についてはいかがでしょうか。御意見等、ございますか。

 石井委員、どうぞ。

○石井委員 先ほどフライングで申し上げたとおりですが、紛争解決の必要性というのは労使双方ですので、使用者側からの申し立てが必要だと思います。要件はこれからの議論になるとは思いますけれども、今までの議論を聞いていますと、労働者申し立てだけなので、議論が難しくなるところもあるかと思うのですね。例えば、一旦金銭請求のほうで敗訴した後で地位確認訴訟を申し立てられたら長引くではないかというようなのも、使用者側から見れば、そこは解雇有効で、地位不存在確認の主張をその前にしていると思いますので、既判力を生じさせようというのであれば、そこは反訴提起となると思います。

 労使の双方から考えていかないと、必ずしも効率的な議論ができないところがあるような気がしますので、制度設計としてもゆがんでしまうような可能性があるような気がしますので、使用者からの申し立てについても議論していただきたいし、導入していただきたいと思っております。

○荒木座長 輪島委員。

○輪島委員 ありがとうございます。

 きょうは、時間的なバランスが、使用者申し立てのほうはこれで終わってしまうと寂しいような気がするので、次回引き続き、御検討いただければと思います。

 一つ、鶴先生にお伺いしたいのですけれども、規制改革会議の報告書では、労働者申し立てのみというような整理で御報告があり、その後の再興戦略では、労働者申し立てという表現は消えていたかと思うのですけれども、その点についての経緯や意味というのはあるのでしょうか。

○鶴委員 この場でどのぐらい内部の検討の話を申し上げられるかというのは限界があると思うのですけれども、基本的に会議体の中で考え方が異なったということだけは申し上げたいと思います。だから、規制改革会議と産業競争力会議とは、この問題については考え方を異にしていたと。

 ただ、我々、閣議決定された文書をごらんになると、それは政府としてどういう方針でやるのかということについては、政府全体としてコンセンサスが得られる部分に落ち着いたということです。ただ、規制改革会議という会議体から、意見というのは出させていただきましたので、そこの中ではそういう形でまとまったと御理解いただければと思います。

 以上です。

○荒木座長 徳住委員。

○徳住委員 使用者側の申し立てを認めるかどうかに関しては、安倍首相の「お金によって解雇が自由にできる」という発言が、この制度との絡みで、私は重要な意味を持っているのではないか。

 先ほど水口弁護士が言いましたけれども、例3は解雇無効時の事後型でなくて、少なくとも事前型に極めて近い構造を持っています。もし、ここで使用者側の申し立てを認めると、自分で解雇しておきながら、一定の金銭を払うから労働契約を終了しますという申し立てを認めてしまうという、金によって解雇が自由にできるとの構造を残すので、私はこれは絶対に認められない部分だと思っています。

 さらに、例3は、一応、労働者側の申し立てということになっていますけれども、最近、労働審判や通常訴訟でも、使用者側からの雇用関係不存在の確認訴訟というのは頻繁に起こっているのです。労働審判でも申し立てられていますから、この場合に、払うべき金銭はゼロとして労働契約を終了させるのか、それとも一定の金額を示せば労働契約を終了させるのかという問題があり、これは理屈から言うと、そこに歯どめがかかっていないので、使用者側の逆提訴を認めてしまうということになるのですね。使用者側の申し立てを認めないとともに、例3の場合でも使用者側からの逆提訴の申し立てをどう遮断できるかという点も考えておく必要があるのではないかと思っています。

○荒木座長 山川委員。

○山川委員 今の点ともかかわりますが、6ページのところで出ている例は、手続的手法ということで15年の話が出ていますが、今回の労働者側の申し立てのところは、実体的手法を中心にしてつくられているということで、その性格については一定の金銭補償請求権みたいなものというのが例3ということでした。

 そうすると、それと平仄を合わせると、マル6のほうも実体的手法でいくとどうなるかを考える必要がありまして、先ほど事務局は二の矢と言いましたが、まさに、ある意味そのとおりで、要するに解雇できると。

 離婚の条文で申しますと、夫婦の一方は、婚姻を継続しがたい重大な事由があるときに、離婚の訴えを提起することができる。これを解雇に当てはめると、無効な解雇をした使用者の一方は、雇用関係を継続しがたい重大な事由があるときは、雇用関係解消の訴えを提起することができることになり、それでいいのかどうかという議論をすると、相当質的には、労働者側に金銭補償請求権を与えるかという議論と、使用者側に二の矢と言われるような解雇権を、無効な解雇を前提として与えるかどうかという議論になるので、従来は手続的手法だから、使用者に申し立てを与え、労働者に申し立てを与えるという、割と同一平面の話だったのですが、実体法的手法ということを考えると、金銭補償を労働者に請求権を与えるかという問題と、使用者に新たな解雇権を与えるという問題の2つだと整理すると、次元の違いが割とクリアになるのではないかと思います。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 今の山川委員の補足ですけれども、次回、冒頭で使用者申し立てを継続してやっていただいきたいと思うのですが、ぜひ、石井先生と、それから中山先生にもお伝えいただきたいのですけれども、今の二の矢論、つまり、解雇をした使用者がさらに金銭解決の申し立てをするということが、実体法の話も含めて、契約法上どう評価されるべきなのか。それについて石井委員や中山委員はそれにどうレスポンスするのか、御意見をぜひお聞きしたいので、次回、その機会があればお願いしたいというのが一つです。もう一つは、先ほどちょっと出てきましたけれども、仮に金銭解決制度を設けたときに、どういう解雇が対象になるのかということについては、きょうは余り議論できていませんから、この点も次回、最初に議論できればいいかなと思います。

 以上です。

○荒木座長 八代委員から手が挙がっておりましたが。

○八代委員 さっき、山川先生が言われたことの関連かもしれませんが、解雇問題というのは離婚問題と非常に共通性があるのではないか。離婚の場合も、夫が浮気したときに、有責者である夫が金を払って離婚できるのはおかしいという考え方はヨーロッパにもあったわけですけれども、浮気した夫と婚姻関係を無理やり継続することが本当に妻の立場にとっていいのかという問題もあったわけです。だから、有責者のほうからでもしかるべき補償金を払えば良いという論理もあるわけです。

また、使用者が圧倒的な力を持って、労働者は常に弱い立場だという前提が、常に正しいのかどうか。実例は相対的に少ないかもしれませんが、とにかく職場で問題のある労働者のほうが守られていて、定年退職までの給料を払わない限りはやめないと言ったときにどうなるかという問題も一部ながらあったと聞いています。

 先ほども、例えば、余り補償金が大きいと職場復帰を認めるという話がありましたが、そのときに、よくある追い出し部屋という労働者にとっても使用者にとっても、無駄なことが生じているというのは、しかるべき金銭補償というのが使用者から申し立てられない今の制度にあるのではないか。仮に労働者の地位確認が認められても、企業には配置転換の自由度が容認されているで、労働者が自ら補償金を申し立てるのを企業が待つような行動が容認されることは問題ではないかと思っております。

○荒木座長 それでは、時間が参りましたので、本日の議論はここまでとしたいのですけれども、いろいろと委員から御要望もありました。特に例3についてかなり突っ込んだ意見の交換ができましたが、かなり根幹に関わる問題について、さらに議論をすべきではないかという御提示もありましたし、それから金銭の支払いという場合に、どういう額か、どういう性格の金銭かというのは、一応括弧に入れて議論しましたが、そこも詰めないことには、実は制度全体も定まらないかもしれないということがあります。

 そこで、きょうは使用者側申し立てについて時間が少な過ぎるという御指摘もありましたので、次回は、金銭的予見可能性、それから時間的予見可能性について議論したいと思いますけれども、あわせて、本日積み残しとなった制度の仕組みの問題についても、次回、引き続き検討したいと考えております。

 では、次回の日程について、事務局からお願いします。

○大塚調査官 次回日程でございますけれども、現在調整中でございますので、後ほど場所とともにお知らせいたしたく存じます。

 以上です。

○荒木座長 きょうは時間を延長しまして、申しわけありませんでしたけれども、本日は以上といたします。

 どうも、ありがとうございました。


(了)

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