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2016年12月20日 第1回エイズ・性感染症に関する小委員会

健康局結核感染症課

○日時

平成28年12月20日(火)14:00~17:00


○場所

厚生労働省共用第6会議室(3階)


○議題

(1)エイズ対策及び性感染症対策の現状について
(2)後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の改定について
(3)性感染症に関する特定感染症予防指針の改定について
(4)その他

○議事

 

○結核感染症課エイズ対策推室長 定刻となりましたので、ただいまより第1回「厚生科学審議会感染症部会エイズ・性感染症に関する小委員会」を開催いたします。

 開会に当たりまして、福島健康局長より御挨拶を申し上げます

○健康局長 健康局長の福島でございます。開会に当たりまして一言御挨拶申し上げたいと思います。

 まず、本日は年末のお忙しいところ御参集いただきまして、まことにありがとうございます。また、日ごろから感染症対策の推進につきまして、それぞれの立場から御指導賜りまして、改めて御礼申し上げたいと思います。

 エイズ・性感染症の動向でございますけど、特にエイズにつきましては、日本における新規のHIV感染者、エイズ患者の年間報告数は、近年、横ばいで推移しておりますが、依然として検査を受けないままエイズを発症して報告される割合が、全体の3割を占めているということでございます。

 一方、抗HIV療法の進歩によりまして、患者の延命が図られまして、長期療養、あるいは在宅療養との新たな課題も生じているということでございます。

 性感染症に関しては、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマの定点医療機関当たりの報告数が、横ばいで推移しておりますけれども、近年、梅毒の報告数が増加しておりまして、依然として性感染症が大きな課題であるということは間違いないということでございます。

 この小委員会でございますけれども、5年に一度の特定感染症予防指針の改定に向けまして、厚生科学審議会感染症部会のもとに設置をしたというものでございます。

 普及、啓発、教育、検査、相談体制、あるいは医療の提供など、御議論いただく範囲は多岐にわたっておりますけれども、委員の皆様方にはそれぞれのお立場、御経験を踏まえて、活発な御議論をお願いできれば幸いでございます。

 簡単ではございますが、冒頭に当たりましての私からの御挨拶とさせていただきます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

○結核感染症課エイズ対策推進室長 続きまして、委員の紹介をさせていただきます。本小委員会の委員長については、厚生科学審議感染症部会運営細則の第三条に基づき、倉根感染症部会長より、岩本委員を指名いただいておりますので、御報告をいたします。

 また、同運営細則の第四条第3項に基づき、委員長に事故があるというときに、その職務を行う委員については、岩本委員長より味澤委員を指名いただいているので、あわせて報告させていただきます。

 それでは委員の紹介をさせていただきます。

 岩本委員長です。

 味澤委員です。

 荒川委員です。

 白井委員です。

 野津委員です。

 廣田委員です。

 俣野委員です。

 南委員です。

 横幕委員です。

 本日は、早乙女委員より御欠席の御連絡をいただいており、10名中9名の委員に御出席いただいております。

 現時点で定足数以上の委員に御出席をいただいておりますので、会議が成立いたしますことを御報告いたします。

 また、本日は岩本委員長の御指示により、参考人といたしまして、4名の方に御出席をいただいております。御紹介させていただきます。

 大平参考人です。

 高久参考人です。

 松下参考人です。

 森戸参考人です。

 続きまして、事務局より資料等の説明をさせていただきます。

 議事次第、委員名簿、参考人名簿、座席図、資料1~5、参考資料1~4の順になっております。資料の不足等がございましたら事務局までお申しつけ下さい。

 冒頭のカメラ撮りはここまでにさせていただきます。御協力をお願いいたします。

 以降の議事運営につきましては岩本委員長にお願いいたします。

○岩本委員長 それでは、進行役をさせていただきます、日本医療研究開発機構におります岩本と申します。よろしくお願いします。

 それでは、本日の議題の確認ですが、議事次第にありますように、議題(1)が「エイズ対策及び性感染症対策の現状について」、議題(2)が「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の改定について」、議題(3)が「性感染症に関する特定感染症予防指針の改定について」、議題(4)が「その他」を予定しております。

 会議時間は3時間を予定しておりますけれども、円滑な議事進行に御協力をお願いいたします。

 それでは、議題(1)で「エイズ対策及び性感染症対策の現状について」ということですが、事務局から資料の説明をお願いいたします。

○結核感染症課エイズ対策推進室室長補佐 それでは、事務局より資料1~3について説明をさせていただきます。

 資料1は「厚生科学審議会感染症部会エイズ・性感染症に関する小委員会 設置要綱」です。後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針及び、性感染症に関する特定感染症予防指針の直近改正は平成24年1月19日であり、これらの指針については少なくとも5年ごとの再検討を加えていくものとされております。このため、平成281017日の厚生科学審議会感染症部会において、厚生科学審議会感染症部会運営細則第一条に基づき、新たな厚生科学審議会感染症部会をもとに、エイズ・性感染症に関する小委員会を設置し、当該指針の見直しを検討することが了承されました。

 続きまして、資料2「エイズ発生動向とエイズ対策の現状」の説明をさせていただきます。参考資料3に、現行の「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(平成二十四年厚生労働省告示二十一号)」の原文がございますので、適宜、御参照ください。

 まず、1ページ目をごらんください。これは、新規HIV感染者・エイズ患者報告数の年次推移になります。折れ線グラフは、一番上が合計、真ん中はHIV感染者、一番下がエイズ患者の報告数の推移を示しています。2015年の報告では、真ん中のHIV感染者が1,006件、下のエイズ患者が428件、合計で1,434件となっております。参考までに前年は合計で1,546件でした。2008年ぐらいから合計の報告数は横ばい傾向になっております。新規報告件数に占めるエイズ患者の割合は、29.8%でした。また、2015年までの累計報告数は、25,995件となっております。

 続いて2ページ目をごらんください。左上の円グラフは、2015年の「新規HIV感染者・AIDS患者の性別内訳」、右上の円グラフは「新規HIV感染者・AIDS患者の感染経路別内訳」、下のグラフは「新規HIV感染者・AIDS患者の年齢別内訳」になっております。性別内訳では男性が9割以上を占め、感染経路別内訳で見ると、過半数が同性間の性的接触によるものであり、新規HIV感染者は20歳代~30歳代に多く、新規AIDS患者は30歳代以上に多く見られます。

 3ページ目に移ります。ここからは「エイズ対策の現状」についての資料になります。まず、「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」は、「感染症の予防及び感染症患者に対する医療に関する法律」第11条において、感染症のうち、特に総合的に予防のための施策を推進する必要があるものとして厚生労働省令で定めるものについて、当該感染症に係る原因の究明、発生の予防及びまん延の防止、医療の提供、研究開発の推進、国際的な連携、その他、当該感染症に応じた予防の総合的な推進を図るための指針を作成し、公表するものとされております。

 現行の指針の項目は、第一「原因の究明」、第二「発生の予防及びまん延の防止」、第三「普及啓発及び教育」、第四「検査・相談体制の充実」、第五「医療の提供」、第六「研究開発の推進」、第七「国際的な連携」、第八「人権の尊重」、第九「施策の評価及び関係機関との新たな連携」となっております。

 4ページ以降は、現行指針の各項目についての具体的な施策の内容についての資料になります。

 4ページは「患者情報の収集・分析及び提供・公開体制」の略図になっております。後天性免疫不全症候群は五類感性症の全数把握対象疾患であり、診断した医師は7日以内に保健所へ届け出る必要があります。届け出された情報は、次いで都道府県、厚生労働省へ伝えられ、国立感染症研究所(感染症疫学センター)で集計した情報などは、週報などを通じ、各機関へ還元しています。

 5ページ目では、上段は「性感染症対策との連携」、下段は「個別施策層への対策」、特に男性同性愛者に対する具体的な取り組みの説明がされております。

 6ページ目は、「普及啓発及び教育」の取り組みとして、12月1日の世界エイズデー、6月1日~7日のHIV検査普及週間に合わせて行われるイベントなどについて、記載をしております。また、教育の一環として、エイズに関する業務、活動に従事する行政担当者、医療関係者、教育関係者、NGO、学生などを対象に、エイズに関する医学的、社会的な知識などを習得させることを目的とした研修会を実施しております。

 7ページ目は「検査・相談体制の充実」についてです。現在、HIV検査は医療機関において、保険診療として検査が可能で、そのほかに保健所において、無料・匿名で検査・相談ができる体制を整えております。課題は、保健所等におけるHIV抗体検査件数で、近年は13万件程度で横ばいとなっております。

 続いて8ページ目です。こちらは医療体制についての資料になります。エイズ治療拠点病院は、1993年から整備が始まり、現在384カ所ございます。1996年3月に、非加熱血液製剤によりHIVに感染した薬害被害者との和解が成立したことを受け、薬害被害者の救済医療を初めとするHIV感染診療水準の向上、及び地域格差是正を目的に、1997年4月、HIV治療の中核的医療機関である、「国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター(ACC)」が設置され、あわせて全国8ブロック、14カ所の地方ブロック拠点病院が整備されました、2006年には59カ所の中核拠点病院を創設しております。また、HIVによる免疫機能障害は、身体障害の一つとして、障害者総合支援法に基づく自立支援医療制度の対象となり、抗HIV療法等の治療費の自己負担軽減がなされております。

 9ページ目は、現在のエイズ対策研究をまとめたものになります。こちらに記載のある研究は重立ったものであり、全てではございません。

10ページ目は、第七「国際的な連携」、第八「人権の尊重」、第九「施策の評価及び関係機関との連携」の各項目についてまとめたものになります。

 「国際的な連携」としては、さまざまな国際機関への拠出を通じ、国際的な感染拡大の抑制に貢献するとともに、国際会議などへの積極的な参加、派遣により各国との情報共有を図っております。

 「人権の尊重」の項目では、患者等に対する偏見や、差別撤廃のための正しい知識の普及啓発や、プライバシーに配慮した医療保険サービスの提供の整備を進めております。

 「施策の評価及び関係機関との連携」については、関係省庁間連絡会議や、都道府県担当者を構成員とした連絡会議を実施し、エイズ対策を効果的に推進しております。

 以上が、資料2「エイズ発生動向とエイズ対策の現状」についての説明となります。

 続きまして、資料3「性感染症の発生動向と対策の現状」についての説明に移ります。

 1ページ目、「日本の性感染症の発生動向(1)」になります。左側が定点疾患である性器クラミジア、性器ヘルペス、淋菌、尖圭コンジローマの全国約980定点医療機関からの報告数、右側が全数報告である全国からの梅毒の報告数になっております。グラフの斜線部が女性、塗り潰しの部分が男性となっております。

 2~4ページ目は、近年、増加傾向が指摘されている「梅毒」の動向についての資料になります。2ページ目は梅毒報告数の年次推移になります。2010年以降、梅毒報告数は増加を続けており、その報告数のうち、女性の占める割合も2013年以降、増加しております。

 3ページ目は、梅毒患者の性別年齢群別報告数になります。左側が女性、右側が男性の年齢群別報告数になりますが、近年、左側のグラフの四角で囲った部分、若い女性の梅毒患者が特に増加をしております。

 4ページ目は、年齢別に見た梅毒報告数になります。年齢別に2本の棒グラフがありますが、左が男性、右が女性になります。男性では20歳~40歳代、女性では20歳代の報告数が多いです。

 5ページ目は、「定点あたり報告数年次推移(男女別)」になります。性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の定点医療機関当たりの報告数は、ここ数年おおむね横ばいで推移をしております。

 6ページからは、「性感染症対策の現状」についての資料になります。まず、「性感染症に関する特定感染症予防指針」ですが、「感染症の予防及び感染症対策に対する医療に関する法律」第11条において、感性症のうち、特に総合的に予防のための施策を推進する必要がものとして厚生労働省で定めるものについて、当該感染症に係る原因の究明、発生の予防及びまん延の防止、医療の提供、研究開発の推進、国際的な連携、その他当該感性症に応じた予防の総合的な推進を図るための指針を図るための指針を作成し、公表するものとされております。現行の指針の項目は、第一「原因の究明」、第二「発生の予防及びまん延の防止」、第三「医療の提供」、第四「研究開発の推進」、第五「国際的な連携」、第六「関係機関との連携の強化等」となっております。

 7ページ以降は、各項目についての具体的な施策の内容についての資料になります。

 7ページ目は、「性感染症に関する発生動向調査」についての資料です。梅毒は感性症法に基づき、全数届出が必要な五     類感染症で、診断した医師は7日以内に保健所に届け出る必要があります。性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症は感染症法及び感染症発生動向調査事業実施要綱に基づき、指定届出機関(定点)から、月ごとに届け出が必要な五類感染症で、指定届出機関は月ごとに保健所に届け出を行う必要があります。平成27年時点で、性感染症の指定医療機関数は約980カ所で、産婦人科、産科もしくは婦人科(産婦人科系)、泌尿器科または皮膚科を標榜する医療機関を性感染症定点として指定しております。

 8ページ目は、「発生の予防及びまん延の防止」の取り組みについて、性感染症の普及啓発の例を記載してございます。

 9ページ目は、「医療の提供」「国際的な連携」「関係機関等との連携の強化」の項について、具体的取り組みを記載しております。

 「医療の提供」については、医療機関での検査に加え、保健所において性感染症検査を実施し、性感染症前・後に相談指導するための補助を行っております。

 「国際的な連携」については、後天性免疫不全症候群同様に、国際機関への拠出を行っております。

「関係機関等との連携の強化」の取り組みとしては、自治体、NPOと連携し、検査機会の充実を図る取り組みを行っております。

10ページは、「研究開発の推進」として、性感染症に関する主な研究を記載してございます。

 以上が資料3「性感染症の発生動向と対策の現状」についての説明になります。事務局からの資料説明は以上です。

○岩本委員長 ありがとうございました。それでは今の資料に基づいた御説明で、エイズ対策及び性感染症の現状について、何か質問があればよろしくお願いしたいと思います。

○松下参考人 HIV感染者が余り行っていない拠点病院が、誰かが名ばかりとか言っていましたけれども、都道府県が設置した中にあって、アンケート調査をしますと、そういった例がないのでよくわからないというようなことがありました。御意見の中には、拠点病院を見直してはどうかというものがありました。患者さんがすごく多いところと、ほとんど行かれないところが拠点病院の中にあると考えております。対策の現状の中に、ピラミッド型に書いてあるのですが、実際、どのくらいの症例がどこで見られているかということが重要ではないかと思いますので、一言追加させていただきました。

○岩本委員長 ありがとうございます。事務局、お願いします。

○結核感染症課エイズ対策推進室室長補佐 拠点病院の患者数については、現在、研究班にてデータを収集しておりまして、今後、皆様に御提示できればと考えております。

○岩本委員長 横幕先生、追加がありますか。

○横幕委員 松下先生から貴重な御指摘をいただきまして、言われていたことを数字にしましょうということで、今回、詳細な調査を行っております。具体的な数字は手元に資料がないので控えますが、ゼロの病院、もしくは1桁の病院がかなりあることは確かです。事務局からはピラミッド型の構造を示していただきましたが、疾病の予後等の改善を考えますと、むしろ多疾患の専門医療機関の連携ですとか、ピラミッドではなくても、ネットワーク的な医療を構築する時期かもしれません。そういったことも含めて患者数、地域差等も含めて、この予防指針に反映させていくのが適当かと思っておりまして、それに対して正確な情報を提供していきたいと、研究班としては考えております。

○岩本委員長 その他、いかがでしょうか。

 今、エイズに関して拠点病院の話         が出たので、性感染者に関して、例えば、これは拠点病院とは呼んでいないですけれども、定点観測されている診療機関があります。そのあたりも、どの辺に分布しているのかとか、先ほど性感染症の診療科は、泌尿器科と産婦人科、それから皮膚科を標榜する医療機関となっているわけですけれども、エイズと性感染症は予防指針を別々に作るわけですけど、例えば、こういう診療機関で定点観測のない梅毒がどのくらいとか、例えば定点観測が当たっているところは梅毒の報告も多いのかとか、あるいはHIV報告がどのくらい行われているかとか、そこの分布も今の時代にどのくらい適当なのかという点も少しあるか思いますけれども、荒川先生、いかがですか。

○荒川委員 おっしゃるとおり、今、梅毒がふえて、HIVも検査数が減っているので、実態はふえている可能性もあるということです。その中で、定点観測というのは先生もおっしゃったように、大多数が産婦人科か泌尿器科で、一部皮膚科です。したがって、専門性の上からHIVの方はまず行っておられないです。

○岩本委員長 定点観測とは何なのか、みんな知らないですよね。

○荒川委員 ただ、HIVと梅毒は全数報告で、その上、診療科の専門性が分かれていますので、梅毒に関しましては、当然、皮膚科、泌尿器科、婦人科へ行くことになるのです。ただ、梅毒に関してはずっと罹患率が低く推移していて、最近増加しているので、若い医師が本当に梅毒を的確に診断できるかという啓発の問題もあって、いろいろ考えると、今の医療体制、あるいは定点の考え方も、ある程度再構築は必要かとは思います。

○岩本委員長 定点というのはどうやって決めているのですか。厚労省がもちろん決めているのでしょうけれども、医師会とか、いろいろなところの推薦で決めるのですかね。何カ所あるのかとか。

○結核感染症課エイズ対策推進室室長補佐 そちらの資料は次回、提示させていただきます。基本的には、平成24年に結核感染症課から調査についての通知というのが出ておりまして、性感染症の定点医療機関の選定方法というのは、診療科、医療機関の種別ごとの実際の医療機関数を反映するよう、まずは診療科による層化ということで、産婦人科、もしくは泌尿器科、皮膚科、それから病院と診療所にわたって抽出しております。それぞれに関し、診療実績があると考えられるのにもかかわらず、長期に報告がない場所などは、各自治体で見直しを行うというふうになっています。基本的には自治体が決めるということで、厚生労働省が決めているわけではないです。

○岩本委員長 そういうことですか。失礼しました。もっとHIVと梅毒は全数報告で、確かにほかの4疾患は定点観測ですから少し議論が違うわけですけれども、今非常に梅毒がふえているとか、HIVも減り方が悪いとかいうときに、定点観測のところがずっと年次別に変化がないので、この際、少し定点観測地点がどういうところに分布されているのかということは把握しておく必要があるのではないかという気がします。例えば全ての都道府県に人口分布がどうなっているのかとか、細かいことを言えば、そういうところも大事かなという気がします。

 白井委員、お願いします。

○白井委員 自治体にとっては定点報告を受ける立場になるのですけど、確かに以前の予防指針の改定のときにも、定点のあり方というのは積み残しになった議論ではないかと思っています。ゼロの発生報告のところはやめようというような意見も出ましたので、自治体によってはそれを受けて変えているところもあります。自治体と医療機関というか医師会との関係の中で、連携をどう持つかということもありますし、発生報告が多いところは、逆に忙しくて定点報告を出せないので、それを加味してくれというところもありますので、実態把握としては自治体によっては難しいのかと思います。

 ただ、今回改めて現状を把握してという機会は必要かなと思いますし、その改定に向けても、委員会からサジェスチョンすることができれば、自治体が受けて、また改定するということはできるかなと思っています。

○岩本委員長 ありがとうございます。拠点病院、定点以外でも結構ですので、何かほかにいかがでしょうか。

○松下参考人 エイズ対策の現状の5ページにある、「個別施策層への対策」ということが書いてあって、何か暗い写真が選んであるようですが、上の「検査しないとおしおきよ!!」がやたらと明るいのに対して、下の個別施策層は何か暗い感じですが、こんなことはございません。コミュニティセンターはみんな明るくやっていますし、文化的な活動もやっていますので、そんなことを追加して言っておきたいです。

 私はこういうところに訪問して思うことが幾つかあって、一つは同性間性的接触ということになっているのですが、中にはトランスジェンダーの方がいます。参加しているトランスジェンダーの方は、いわゆるゲイの人とはコミュニティをつくれない場合があるとおっしゃいます。ですから、本当の性的マイノリティーの方でコミュニティセンターに来られてない方がいらっしゃいますね。ですから、そういう方のリスクというものに関しては十分な把握をされていないということを思いました。私の知っている方は、このMSMのコミュニティセンターに参加されていまして、そういう方だけであればいいと思うのですけれど、自分はゲイではないと思っていらっしゃるトランスジェンダーの方がいます。

 それから、もう一つはバイセクシャルの方々です。これもどうも若い方々の中でふえているという話がございまして、コミュニティセンターと接触を持たない、いわゆるリスクグループがある。

 それから、個別施策層といいますと、一固まりのように聞こえるのですけれども、さまざまな性的嗜好を持った方々を含めておりまして、一つのネットワークではカバーできないということが実態としてあるということです。今日、傍聴に来られている方の中にはそういう事を考えていらっしゃる方がたくさんいらっしゃると思いますけれども、ここにはこれだけしか書いてないのです。「個別施策層はこういうものである」と書いてありますけれども、実態は少し異なっているということを申し上げたいと思います。

 もう一つ私が質問したいのは、6ページの国や地方自治体において、世界エイズデーとかHIV検査普及週間についての評価です。本当に現場の検査、保健所の先生方を含めて皆さん頑張ってやっています。少ない予算で頑張って、いろいろなイベントを地方でもやっています。赤坂の「RED RIBBON LIVE 2016」のような格好いいのがあれば、たくさん集まってくれると思うのですけれども、なかなか予算的にできない。そういう中で頑張っているわけですけれども、このアウトカムがわかりません。要するにこのイベントを打って、どのくらい実際に検査がふえたのか、24歳以下の検査がふえたかということがわからないのです。ここが多分、問題点であります。先ほど性感染症でも若い方の女性の感染が多いというのがありましたけれども、やはり、自分のジェンダーのアイデンティティーが確立していない状態で、自分がゲイかどうかわからない方々が24歳以下では多いというふうに私は伺いました。そういう方々も活発な性活動をされておりまして、そういう方にアピールするような企画だったと思うのですが、それだったらどのくらいふえたのだ、どういう評価になるのかということを聞きたいと思います。

○岩本委員長 事務局から何かありますか。

○結核感染症課エイズ対策推進室室長補佐 こういった啓発の評価というのは、非常に難しいと感じております。こういった啓発をすることで、この世界エイズデー、それからHIV検査普及週間に関しては、保健所での検査数が少し伸びるということは、今までのデータなどからきているのですけれども、各自治体などの取り組みで、若い人たちがどれくらい検査に行ったかというような詳細までは残念ながら追うことができません。これは無料、匿名の検査という特徴からそういったことはできません。ターゲットとしたい年齢層にどれだけ届き、それが検査にどれだけ向かったかということは、残念ながら今の情報収集のシステムでは把握はできないということになります。ただ、こういったイベントを通じて、保健所検査が伸びることは、今まで皆様御存じのとおりわかっておりますので、そういったことを行っていくことで、検査に行っていただくと、厚労省としては取り組んでまいりたいと思います。

○岩本委員長 あと、一つは松下先生に反論ではないのですが、5ページの下の写真が暗く見えるのは、顔を出さないとか、人数が集まると、その中で特徴的な人がいるとわかりやすいとか、いろいろなことがありまして、個人特定をされないためにこういう写真に使われるので、暗い雰囲気になっている点があるのかなと思います。

○結核感染症課エイズ対策推進室室長補佐 事務局のほうで準備した写真が背景が少し暗かったのかもしれません。申しわけございません。

○松下参考人 しかし、明るい雰囲気でやっています。特に新宿二丁目なんかは明るい雰囲気です。それだけコメントしたいだけです。

○岩本委員長 あと、もう一点、あまり機会がないので申し上げます。私は出演者なので先ほどのイベントについて言うと、特に「RED RIBBON LIVE 2016」というのは、基本的に出演者には出演料は払われていませんし、非常に金額的には少ないものです。それから、「検査に行きましょう」ということは非常に訴えられていますけれども、もう一つはHIV/エイズそのものの情報をいかに若い人に流すかということで、これもニコニコ動画であるとか、ことしに関してはLINE LIVEが入って、実際の二時間強のセッションの中でアクセス全体が50万件あったので、その人たちにHIV/エイズの情報が短時間でも流れたという点に関しては、それなりのインパクトがある数字でした。結局、この会場に来なければ情報が聞けないという時代ではないので、そういう点では非常に放送局も通じて努力はされているとは思います。

 そのほか、いかがでしょうか。

 次に、実質的な議題(2)に移ります。「エイズ対策及び性感染症対策の現状」については、その折々にあれば、御質問いただければよろしいかと思います。

 議題(2)で「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の改定について」、まずは、きょうお越しいただいた参考人の方々から御意見をいただきたいと思います。

 大平参考人からよろしくお願いします。

○大平参考人 はばたき福祉事業団の大平と申します。よろしくお願いいたします。

 この特定感染症予防指針に問題については、もともとがエイズ予防法を改正して、そして新しい感染症のもとに人権を配慮したということで、そういう方向で新たにつくられたところなのです。もともと日本のエイズ問題に立ち返らせてもらいますと、1982年ころから米国由来の非加熱製剤からの血友病患者の感染が日本のエイズの始まりなのですね。そこで、当時の厚生省、血液製剤メーカー、血友病専門医による感染の危険性とか、汚染製剤の回収にかかわる事実の隠蔽ですとか、血友病医療現場での感染を告知しないという、感染拡大を含む人権侵害が起きたということで、かなり人権的な問題が大きい、致死的感染症としてクローズアップされてきました。その社会的差別などで、私たちは当時から社会生活を閉塞せざるを得ないような環境がつくられてきたというところもあります。そこはずっと現在までもまだ続いているというところは、この予防指針の一つの大きな流れの中では、かなり核心をつくというところではないかなと思うのです。その人権の問題がきちんと人権と医療の提供と、そしてそれに基づく予防の推進ということで、そこのところがセットになっていないと、なかなかこのエイズの問題というのは世界的にもまだまだ解決されていないというところがいっぱいあり、そこは重要なところだと私たちは考えております。

 先ほど事務局から説明がありましたけれども、裁判の和解を踏まえて、致死的感染症の急を要する医療体制の問題というのは、国を挙げてつくっていただいたということころがあります。私たちも一緒になってそれをつくりあげたというところがあって、エイズ対策は裁判所でいいますところの、衆知を結集してHIV医療体制を構築するというところが一つの根源になっている。当時、父権主義的な医療体制や、患者にかかわる医療者などの問題については、盛んに議論はされていたわけですけれども、それの弊害を払拭しようというところで、HIVの医療体制はチーム医療ですとか、それから、患者参加型医療の導入によって、かなり政策的な医療として展開されてきているという、患者数が少ない割には、きちっと手厚い医療体制ができているというところは、そういうもともとの問題があったというところです。

 この政策医療の展開の中で、治療、研究開発継続が保障されて、治療環境が構築されているというのは日本の一番誇るところではないかなと思っています。ですから、この継続医療の保障で、感染を自覚して、感染拡大を防ぐというのが、本来は患者の立場としては極めて重要なところなのですが、そこはなかなか自覚されていないというところが、まだまだ教育啓発の問題も含めて、問題点が大きいなと思っております。この感染拡大を防ぐ医療を予防的に講じていくということが、やはりこのHIV医療の一つの芽になるところではないかなと思います。やはり医療と予防がセットになっている、両輪になっているところが今後の一つの課題でもあると思います。

 予防については、新感染症法施行後、感染拡大に対しての、先ほど松下先生からも個別施策層の対応について、やはりきちんとした評価と課題を整理して、無駄な経費をかけるというのではなくて、もっと実行的な施策をどんどん展開していくことが重要なことなのだろうと思っています。

 感性防止の新たなる疫学調査をもととして、そして実効ある手段の構築というのが、これから求められるところでもあるのだろうと思いますし、また、それと予防的ないろいろなたとえばCD4500の枠を外すとか、それから今後もし、特定の集団に対しては予防的な抗HIV薬を投与するということも将来的には考えていかなければいけない問題ではないかなと思っています。そこには積極的に国がリーダーシップを持って展開していかないと、これは委員会だけで決めていく問題ではなくて、かなり国のリーダーシップが重要なテーマになってくることだろうと思っています。

 あとは教育の問題について、このHIVに対しては治療がきちっとできていなければ、死の病というところは変わっていないので、そこはきちっと健康教育の中でも死につながる治療困難な感染症からみずからの体を守るというスタンスと、それから他者にそういう疾患を与えてはいけないという自律的な考えを、きちっと教育の中で教えていくというということも、今後の重要なテーマなのではないかなと思っています。

 あとは、性感染症の問題も含めて、もともとエイズ予防法のとき、私たちが反対した問題としては、やはり人間の営みとして性の問題というものはあるわけなので、そこを制御するということは難しいところでもあるので、そこについてどういうふうに予防に介入していくかというところは、かなり疫学的なテーマの問題を含めて、厳密に段階を踏まえて、世界の流れを見ながら対処していくことが大事ではないかと思っています。日本にエイズが登場して30年以上たつのですけれども、今は現状維持というような形らしいのですが、それはやはり抑えられていないというところが示されている現状なので、原因究明から見直しを図る必要があるのではないかなと思います。日本のHIV/エイズの実態把握が正確に行われているのかどうかも含めて、もう一度立ち返ってみる必要があると思っています。

 啓発については、先ほど岩本先生もおっしゃいましたけれども、若い世代については、ああいう広報手段で、エイズに対しての偏見というのがだんだんと薄らいでいることは確かに効果が上がっているのではないかと思っていますけれども、そこが本当に内実として薄らいでいるのかどうかというところは、まだよくわからないところもあります。ですから、そこを今後どういうふうに実効ある広報をしていくかというところは、もうちょっと評価と、いろいろな形でのやり方を考えていくことは、必要なのではないかと思っております。

 そういったところで、今後また、見直しの時期までの予防指針として、今の新しい知見と、抗HIV薬も大変進歩しているところもありますので、そういう治療の実態も踏まえて

どういう指針をつくっていくかというところは、前の指針にとらわれずに新しい視点を導入していったらいいのではないかなと私自身は考えました。

 以上です。

○岩本委員長 ありがとうございました。

 それでは、高久参考人、よろしくお願いします。

○高久参考人 よろしくお願いします。日本HIV陽性者ネットワークジャンププラスの高久です。

 今回の予防指針の見直しに当たって、ぜひHIV陽性者、あるいは日本で累計2万5,000人くらいになっていると思いますが、こういった人たちの感じていることや声を、ぜひ反映させていただきたいと思っております。きょうはお招きいただきましてありがとうございました。

 それで、今回、大平さんからも言及がありましたように、全体として実効性のある予防指針にしていただきたいというとこと、それから人権ですね。差別、偏見の解消というところに力を入れてほしいのが私の発言の趣旨になります。

 実効性という部分については、前回の予防指針の見直しから5年経過しまして、振り返ってみて、具体的に誰が何をするべきかというところの記述が弱かったのではということであるとか、あるいは前回の予防指針改定の目玉として、NGOとの連携というところが随所に書き込まれましたが、それを受け取った自治体等では、連携によって何を具体的にすればいいのかとうところが余り伝わっていなかったのかなと思うところもあります。そういったところを少し踏み込めたらというふうに思っています。

 人権というところに関して、日本のエイズ対策で置いてけぼりになっていると感じるのは、差別、偏見の解消だと思います。これは最も力を入れるべきと考えていて、何もHIV陽性者の生きづらさの問題だけではなくて、予防とか検査とか、そういったところにも十分に関係ある話と考えています。特に近年では治療も進歩し、十分に仕事を続けて生活していけるとか、治療によってほかの人に感染させるリスクを下げることができるようなこともわかってきていますので、予防指針の第一にも「科学的根拠に基づいて」と書いてあるけれども、やはりこういった視点をどんどん取り入れている必要もあるかなと感じています。

 現状としては、HIV陽性の判明がわかった人もそうですし、後ほど申し上げますが、医療の現場とか、就労の現場とか、あるいはプライベートの人間関係の中で、まだまだ差別、偏見というのが根強く存在する事例がありますので、そういったHIVはすごく怖い病気、死の病気という、放置すれば死の病気ではあるのですけれども、治療があるにもかかわらず、まだまだそういったイメージが根強いということ、判明した人についても地獄に突き落とされるようなショックを受けるところは変わっていません。ここのところを改善していく必要があるかなと思っています。

 わかりやすく言うと、怖い病気というネガティブなイメージから、多くの人が早く検査を受けることが自分のためにも社会のためにも得なのですよという、もっとポジティブなイメージで捉えていくというイメージの転換が必要な時期が来ているのではないかと思います。これはこの5年間の検査数、陽性判明数も横ばいであるということや、治療が進歩したということ、それから世界的には、この後、松下先生からもお話があるかと思いますが、PEPとかPrEP といった取り組みが議論されるというところからしても、この差別、偏見というのはすごくハードルになっていて、この現状打破というところと、差別、偏見というのを解消していくというのが、一つのキーになるのではないかと思っています。

 個別の具体的な話をさせていただくと、今、HIV陽性者に大規模なアンケート調査を2013年から2014年に実施しました。「HIV Futures Japan」という調査です。この調査の中で、最も課題であると感じましたのは、HIV陽性者のメンタルヘルスです。既に抗HIV治療そのものよりも、こういった社会的なつながりの中で、差別、偏見、あるいは被差別不安、そういった中で自主規制をしている中で、身体的には生きていけるけれども、希望を持って生きることが難しいというようなところで、鬱、気分障害、不安障害の疑いありという人たちが半数以上ということで、一般住民に比べて非常に高い数字になっています。こういったことから、拠点病院等でも治療そのものは充実していると私も感じていますけれども、メンタルヘルスのチェックの問題ですとか、カウンセラーの活用ということももっと推進していく必要があるということ。

 それから、同調査では、HIVについて話ができる人といない人で、やはりメンタルヘルスの状況が大きく違うということもありまして、患者会とか支援団体といった民間リソースの活用が余り推進されなかったこの5年間であると感じております。そういった医療機関とNGOとの連携をもっと深めていただきたいなと感じています。

 エイズ予防指針の第五の四には、「患者とその家族を支援する観点から、その地域のNGOとの連携、社会資源等の活用について情報を周知する必要がある」とあるのですけれども、主語が書いていません。ですので、このHIV患者というのは基本的に拠点病院等に通院して、そこで情報を得る、もっと言うと、そこでしかHIVのことを話せないという人が多いので、そういったところを拠点病院等が患者への情報周知を担っていただきたいというのが私の希望です。

 それから、具体的な差別事例に関しては、私どもいろいろなアンケートや交流会などでも、そういった話を聞きます。相談を行っている現場でもそういった声があると思うのですけれども、差別の実態がなくなっていないというところで、差別、偏見の撤廃への努力については、エイズ予防指針の第八の二に記述があるのですけれども、実態として、国や地方自治体が何をやっているかというと、エイズの普及啓発に関しては、ほとんどが検査と予防の呼びかけに終始しているのではないかなと思います。これは差別、偏見の解消の具体的な実践とは言えないと感じています。中にはHIVは恐怖の病気というイメージを利用して、「早く検査に行きましょう」であるとか、「予防しましょう」といったメッセージがまだまだ発信されてしまっています。これだと差別、偏見の解消にはつながらないので、こういった人権的な取り組み、先ほども申し上げましたがイメージの転換といったところを、具体的にどう書いていいかわかりませんが、予防指針の中でそれが見えるような形にしていただきたいなと思っています。

 それから、若年層について、教育が非常に重要であると感じていますけれども、このことはエイズ予防指針の第八の二にも記載がありまして、「厚労省が文科省、法務省等との関連機関や、自治体との連携を強化し」とあるのですけれども、皆さん御存じのとおりだと思いますが、性教育を一足飛びに変えるのは非常に難しい現状があるということは聞いております。実際に現場の先生方の声をアンケートなどで見ていても、昨今話題になっているLGBTの問題を教育の現場で扱うことすら難しいというのがまだまだ現状であると思いますので、ここをもっと力を入れる必要があるではないかと感じております。

 それから、省庁間の連携ということもあるのかと思いますが、地方自治体でも感染症を扱うような健康とか保健、教育と人権と、それぞれ担当部署があるのですが、これらの連携というのがうまくいっていないところが多くて、エイズのことは感染症対策でやっているけれども、この問題は教育とか人権とかが本当は重要なのだというところを、もう少し踏み込んで記述したほうがいいのではないかと思っています。

 医療体制については、もちろん拠点病院等では十分なHIV陽性者への治療は提供されていると考えておりますけれども、一般医療機関での理解というのは非常に置いてけぼりになっていて、そこで診療拒否や差別など、問題もこの5年間にたくさん起こって、報道に上がってきたものもあると認識しています。幾つかの都道府県では協力病院、協力歯科、協力診療所といった形でネットワークづくりを、先ほど横幕先生のお話もあったように、そういったことをやって、患者への紹介、拠点病院からの紹介に応じて、患者さんに紹介するという取り組みをやっていますが、こういった動きを都道府県全てで実現できないかと思っています。それから、制度がある都道府県においてもそうなのですけれども、患者側がこういった自治体の取り組みをほとんど知らないので、こういった周知も拠点病院で積極的に行っていただきたいと思います。

 それから、障害認定に関してなのですけれども、HIV感染症は身体障害認定の対象になっていて、最近、治療を早く始めるほうが予後のためにもいいし、また、ほかの人に感染させるリスクも下げるということで、患者も早期に治療を始めたいというニーズが高まっていると考えておりますが、その認定の基準がどうしてもCD4の値であるとか、そういった身体状況によって、余り早く取得するとよくないという状況になっているので、そういったところを、これから感染を抑止する一つの手段として、できるだけ早期に治療を始められるような福祉制度の運用について見直しができるようなことを予防指針の中でぜひ議論していただきたいと思っています。

HIV患者の中で、結構な数の人が子供を持ちたいと思っていることが、先ほどの「HIV Futures Japan」の調査でも明らかになりました。これは女性、男性、ヘテロセクシャルの男性はもちろん、ゲイ男性の中にもそういう人たちが一定いるのも明らかになっています。こういった子供を持ちたいというのはそれぞれの自由だと思うのですけれども、やはり治療しながら子供を持つというのが難しいので諦めているという人たちも多くて、特に情報を知らないという人たちが多いです。実際的には、医療を十分に施されていれば、出産も可能であるとなっているはずですので、そういった情報提供もぜひ行っていただきたいと思っています。

 都内拠点病院のほうで、患者さんへの情報提供をしてほしいということを何度か申し上げました。それによって拠点病院というのは今でもアップアップというか、毎年1,500人ずつふえているわけですので、診療に十分な時間を割けなくなっている状況があるのではないかと思っています。一方で治療が進んできて、必ずしも全ての患者がきめ細かい診察とかカウンセリングを必要としなくなっていることも事実だと思いますので、こういったところで、エイズ予防指針の第五にも、見直しについても、安定した患者さんがこういったブロック拠点や中間拠点病院、今、非常に限られた数ですけれども、こういったところ以外の拠点病院とかがいいのかわかりませんが、拠点病院とかクリニックなどで受診できるような体制に、これから5年とか10年とかかけて変えていかないと、どちらにしてもエイズ予防指針に書いてあるようなことが実現できないかと思うので、そういったことを地域のかかりつけ医を含めて、一般医療機関との連携、あるいはエイズ診療の裾野を広げるという方向での見直しというものをぜひ行っていただきたい。具体的には、自立支援医療の指定が一つに限られていることですとか、指定要件そのものが厳し過ぎるのかもしれないとか、そういったような視点もあると思いますので、これらについては専門家の方々を交えて、ぜひ議論していただきたいと思っています。

 私からは以上です。

○岩本委員長 ありがとうございました。

 それでは、森戸参考人から、御意見をいただきたいと思います。

○森戸参考人 大阪HIV訴訟原告団で理事をやっている森戸と申します。本日は、このような発言の機会を設けていただき、ありがとうございます。今回、後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の改定ということで、意見を述べさせていただきます。

 私は血友病であり、血液製剤でHIV感染した当事者であり、当事者からの意見をお話させていただきたいと思います。先ほど、大平さんからや高久さんからもあったように、HIV感染者及びエイズ患者の人権の尊重というのが最も重要であると思います。すなわち、HIV/エイズの人権問題の差別、偏見の解消そのものがHIV/エイズの問題解決の一つなのかなと思います。具体的な差別、偏見の解消に向けた各種政策を、今後期待しております。

 最初に、差別、偏見の要因の一つとして、医療現場から伝わる差別、偏見についてお話をしたいと思います。私が医学系の大学やいろいろな大学で、学生さんの前でお話をさせていただいているのですが、それは今では大分少なくなったかと思うのですが、エイズの診療拒否の問題です。これは、大きな病院でいろいろな事情があるにせよ、結果的にHIV陽性者やエイズ患者を診ないということは、多くの医学的知識を持たない一般の国民の方から見ると、あんな大きな病院で診ることができないくらいにとても怖い病気というふうに思っても不思議ではないと思います。そのことが、HIV/エイズには近寄らないという意識を植えつけさせていく一つなのかなと思います。結果的に医療現場から差別、偏見がひとり歩きしていることをいま一度知っていただきたいと思います。

 先ほどからも出ていますが、教育の問題は非常に重要だと思います。大学で講演をさせていただく機会が幾つかあるのですけれども、医学系だけではなく、社会学部系でもお話しさせていただいたのですけれども、根本的な話なのですけれども、「エイズとHIVは違うのですよ」とか、「今は治療で治るのですよ」とか、検査を行うことによって、本人のみならず、周りの方も感染を防ぐという話をさせていただきます。

 少し難しい話もあるのかもしれませんが、今の20代の若者にとっては、後でレポートを見させていただきますと、「とてもためになった」「どこでも教えてくれなかった」というのを目にすると、私としてもとてもうれしく思います。彼ら彼女らに偏見、差別はほとんどないと思っております。ですので、5年後、10年後がうまくいっていただければ、期待なのですが、差別、偏見がよくなるのではないかと思います。

 次に、今回の見直しに対して、予防指針に書かれている点について、検証が行われていないということを、何人かの方がおっしゃったかと思うのですけれども、私の知らないところでどこか検証が行われているのか、これから検証が行われるのかわかりませんが、ぜひ検証を行っていただきたいと思います。そこで具体的に、細かい点なのですが、2点ほどあります。

 1点目なのですが、いただきました参考資料3、平成24年改定の予防指針の4ページにあります、第五「医療の提供」の一の1、「医療提供体制の充実」の最後の段落で、「各種拠点病院における医療従事者への啓発や各種拠点病院間の医療連携の推進、担当医師のみならず担当診療科を中心とした各種拠点病院としての医療提供体制の維持等、医療体制整備の進捗状況を評価できる仕組みを検討することも必要である」との記載があるのですが、この点について、実際に検討が行われているのかどうか、なければ、今後、この委員会で検討していただくことを望みます。

 2点目なのですけれども、同じく第五「医療の提供」の一の2、「良質かつ適切な医療の提供及び医療連携体制の強化」についての後半部の段落で、「さらには今後は、専門的医療と地域における保険医療サービス及び福祉サービスとの連携等が必要であり」、途中省略しますけれども、「看護師等の地方ブロック拠点病院及び中核拠点病院への配置を推進することが重要である」との記述があると思います。特に前者の場合、いろいろな連携についてはエイズの対策の主管はこちら健康局と思いますが、省内の他局との連携ができているのかというのも、私が見ても甚だ疑問に感じるところを指摘するとともに、後者の看護師の配置について、特に中核拠点病院においては私の知る限りではなかなか配置が進んでいないと思いますので、以上の2点を指摘させていただきたいと思います。

 次に、今回予防指針の改定ということで、予防について述べさせていただきます。予防と言えば検査だと思うのですが、先ほどから皆様が言われているとおり、早期の発見は、患者自身の予後のみならず、新規の患者の増加を防ぐことにもなるので、多方面からHIV検査の充実を望むところですが、HIV検査に関して、現在、保健所等で実施している無料、匿名の検査の充実は言うまでもなく重要だと思います。ただし、多くの保健所等で行われている検査前後のカウンセリングについての重要性は認めつつも、HIV検査は特別なものであるというような考え方を少し緩和してもいいのかなと考えてもいい時期が来たのではないかなと思います。そのことによって、予算面や人的に余裕ができた分、保健所等での検査のキャパをふやすことが、もしかしたら可能なのかなと思います。

 もう一方、病院やクリニックでHIV検査をふやすという考え方について、この場合、ただ単に医療機関で検査をふやすというのは、いいことなのですが、問題もあると思います。前提条件として、検査前後のカウンセリングの質の向上が重要であり、その過程で無断検査は論外なのですが、opt-outと呼ばれる各種検査のうち、HIV検査を受けないという自由も尊重するといいますか、守っていただきたいと思います。

 なお、これら人権等にきっちりした体制が整備された医療機関でのHIV検査が望まれます、ただし、医療機関での検査の充実は、保険財源を使うものであり、負担増にもなるので、保険当局の担当課と相談の上、実施に向けて検討いただければというふうに考えます。

 以上、2点につきまして、ぜひ検討いただきたいと思います。

 あと、予防に関して、この後、松下先生からお話があるのかもしれませんが、予防投薬について触れさせていただきます。諸外国のデータで予防に効果があると聞いておりますが、現状、日本で実施するのは幾つか大きな問題があるということも十分承知しております。とはいえ、日本でもその形態は少し異なるものの、例えば、公衆衛生面からのインフルエンザワクチンの投与や、疾病予防の観点からHPVワクチンなども実施しておりますので、HIV感染について、予防面からの対策を考えることができるのではないかと私は考えます。ただ、薬代は誰が持つといったような問題もあると思いますので、製薬会社との話し合いも必要になるかと思いますので、今後、予防投薬に関して検討を始めるのもありなのかなと思います。

 最後に、現在改定中の予防指針につきまして、未来5年後の改定時、5年前の予防指針の改定はとてもすばらしかったものだと誰もが言えるような指針になることを大いに期待して、私からのお話を終わりさせていだきます。ありがとうございました。

○岩本委員長 ありがとうございました。参考人にはまた途中で御意見があれば、発言いただければありがたいと思います。

 ここで、松下参考人から、資料に基づいて御説明をお願いしたいと思います。

○松下参考人 森戸先生、ありがとうございました。おっしゃったとおりでございます。確かに今すぐこれをやれば感染が予防できるという方法はありません、しかし、これを考えていかなければならない時期に来ています。きょうは発言の機会を与えていただきまして、委員の先生方、岩本先生、ありがとうございます。

 エイズと取り巻く状況は大きく変わりつつあります。それは治療が非常によくなったということと、予防に関する新しい知見が出てきたことです。そういった意味では予防指針も、これからは未来を見据えた改定が必要だということになります。今、森戸先生がおっしゃったとおりです。

 私は昨年、予防指針に関する研究として、様々な立場の方々をお招きして5回ほど会議を開き、拠点病院関係者と保健所関係者さらにHIV感染予防に関わるNGO/NPOを対象としたアンケート全国調査をおこないました。いろいろな勉強をしましたし、4か所コミュニティセンターにも行きまして、実態を見てきました。

15分しかいただいておりませんので、結論が最初にあります。今話がありましたとおりです。治療によって予防は可能になります。ですから、その原理を踏まえてHIV感染症の患者さんの早期発見が重要です。感染している人を皆発見して、皆治療すれば感染はコントロールできるのです。今、未検査の方々が、数千人いらっしゃるということで、そこでの感染拡大があります。これらの未検査者の検査機会をふやすべきだと思います。要するに今の保健所検査で大体25%~30%わかっているのですけれども、かなりの数の未検査の方々が保健所に行って検査を受けていないと考えられる中、さまざまな検査の機会を与えられる必要があると考えます。その一つは病院でやられるPITC検査(Provider initiated testing and counseling)です。それから先ほどの話にあったopt-out検査です。こういったものを本格的に導入していく必要があると考えます。現状で7割の方が病院で見つかっているわけですから、これを2倍にふやせば、かなりの方が見つかるということが言えます。

 もう一つは、暴露前予防、Pre-exposure prophylaxis PrEP)、予防薬投与です。これが世界で有効性が認められたということがありまして、ハイリスク群に関して、PrEPを柱とした予防キャンペーンが行われています。PrEPは、HIV検査が陰性ではなければ効果がありませんから、検査に行って、陰性の場合の予防プログラムの柱としてPrEPが入っています。ハイリスク行為などに関するカウンセリングがあり、safer sexのエデュケーションをする。あるいは、PrEPの長所、欠点をお話しすることが必要なので、医療機関の関与は必ず必要になると思います。

 それから、UNAIDSが提唱しています、「90-90-90 by 2020」ですね。2020年までに感染者を見つけてできるだけたくさんの人を治療しようということがありますが、今までの動向委員会の疫学データでは、国際的に必要とされるカスケード解析には十分なデータを得られていないという実態がありますので、有効な政策立案のためにも、こういった疫学データの収集の改善が必要です。これは先ほど横幕先生から少しお話がありましたけれども、前部分に関しても、別の研究班でまたお話があるということでございます。

 それから、このように実際にコミュニティセンターや検査センター、保健所、検査会等、いろいろなところの人に聞きますと、日々努力を重ねて、たくさん感染者が見つかるようにこれまでやってきたということで、現状の予防指針では精いっぱいにやっているのだと、私には聞こえました。ですから、予防指針に、次の時代に向かった何らかの改定をしたのだというような枠組みの変更、あるいは見える形での改革が、彼らが元気に、次の感染予防のため働くのに必要ではないかと思います。

 さて、先ほど皆さんにも御紹介のあった、この図です。20072008年くらいから横ばいですね。これがHIV感染者、これがAIDS患者です。御存じのとおりです、この2006年~2010年、木村先生、市川先生のMSMの検査数を増加させる戦略研究がありまして、これはかなり有効だったと思います。

 もう一つは、抗ウイルス薬が進歩しました。前はたくさん飲まなければならず、たくさんの副作用があって続けられなかったのが、今は1日1回、1個で副作用が少ない、飲みやすい、耐性になりにくい薬ができてきています。皆さん、薬を飲んで一生普通に生活することができます。先ほどお話がありましたが、私の診ている患者さんの中にも、子供ができて幸せに暮らしている人がいます。ですから、そういう現状になっているということが余り周知されていないという問題もありますけれども、このような状態で、患者さんの数が横ばいにはなっています。

 このような状況で、新規に感染が判明する患者さんが、毎年1,500名ずつふえていきます関係上、感染者数はずっと蓄積していきます。もちろん、亡くなる方もあります。発症している方の数名は亡くなります。全体だと一年に数十名、日本では亡くなっていると思います。

 ですから、感染者総数として、千何百人は毎年毎年増加している現状があります。これに関しましては、満屋先生、岡先生、川田先生、2014年の日経新聞に発表されていますけれども、一人当たりにかかる医療費が1年間でおよそ250万円です。ですから、40年この方々が生きて、1,500人ずつ毎年ふえるとすると、毎年1,500億円ずつの医療費の負担を蓄積していっていることになります。

 ですから、感染予防というのは、実は重点的に取り組むべき、緊急性のある課題なのです。追々やっていこうとか、先延ばししていいというテーマではないと私は考えます。

 これは世界でもそうです。世界ではもっと顕著なデータで、新規感染者数は1998年くらいをピークに下がっていっています。現在、210万人です。死亡者数も、抗ウイルス薬のアクセスが拡大しまして、2008年くらいからだんだん減少しています。PEPFARとかグローバルファンドのおかげで、世界中のHIV治療が必要な感染者に抗ウイルス薬が供給されています。90%にはなかなかいかないのですが、抗ウイルス薬のアクセスは改善し、死亡数が減少しました。ただここに100万人のギャップがあります。、新規感染例が100万人多いため、毎年100万ずつ感染者総数が増加しているわけです。

 実は1998年以降の新規感染者数の減少は、これまでの日本と同じような予防指針のおかげなのです。Buchbinder博士が2年前のCROIで発表されたときの内容ですけれど、正しい知識の普及啓発、検査体制の充実、それからSafer sex、こういった行動変容を起こすような教育。こういったものを頑張って行われた。

 それだけではありません。Harm Reductionneedle exchangeというIDUInjection Drug User)のプログラム。それからCSW(Commercial sex worker)に対する積極的な介入。途上国に行きますと、本当にたくさんの涙ぐましい努力が行われていますし、先進国でもゲイの方々のコミュニティセンターをつくって、勉強会をやって、感染予防をきちんとやるということは行われてきて、新規感染の減少が見られてきました。 さらに、2008年ころから、抗ウイルス薬のアクセスが改善したのですが、新規感染の減少はやや横ばいになって、現在210万人というレベルです。一方、抗ウイルス薬の普及で、死亡数は減少し、感染者総数では、一昨年100万人増加しました。分母がふえた関係上、ARTのアクセス、抗ウイルス薬のアクセスが、なかなか増加しないという現状になっているところです。

      さて、CROIBuchbinder先生が言われたのは、このPrevention 2.0です。きょうは言いませんけれども、男性の割礼は感染を50%抑制できます。PrEPは大体80%~90%抑制できるという臨床試験があります。それから、先ほどから話題になっていますが、抗ウイルス治療がいきわたると、それで感染が予防できます。ですから全員の早期治療ができれば、完全にコントロールができるという話です。

 これらの感染予防の新時代を予防指針にぜひ生かしていただきたいと思います。

さて、一番有名なのはHPTN052という感染者と非感染者のカップル、これをdiscordant couplesといいますけれども、片方がHIV陽性、片方が陰性です。しかも陽性の人のウイルスが陰性の人に感染した場合が、パートナーからの感染の頻度となりまして、3年ほどの観察期間に、治療を先延ばした人では27名感染し、すぐ治療を開始すれば、1例あったのですが、ほとんど感染しないことが判明しました。この治験に関しては Cohen先生が2011年の国際エイズ学会で発表し、とにかく治療を拡大しようということが、この後、行われてきたわけです。

HPTN052の最終結果は、昨年、東京でありました日本エイズ学会で発表されまして、「早期治療で93%感染が減少する」ということが示されました。実を言いますと、詳細な検討で、治療群における感染例は、治療が十分ではなかったときに感染していることが明らかになっています。同一ウイルスによる感染は93%抑制できる。しかし、観察期間にパートナーではない方からの感染が起こっている方々が目立てきます。当然ですが、そこの感染予防はできない。ですから、Treatment as Preventionだけで感染予防ができるかというと、それはパートナーが一人の場合だけであって、そのほかとの性行為がない場合は大丈夫ですけれども、それ以外の性行為が抑制できない場合は、やはり感染があり得ることになります。

 一方、HPTN052の結論である、「治療でウイルス量が抑制されていれば、ほぼ他者への感染は起こらない。」という知見は大きなインパクトがありました。以前の治療ガイドラインでは、CD4500以上の人は治療しなかったですし、あるいは350まで待つと言われていたのだけれども、そうではなくて、早期治療は、その人の利益になるばかりでなく、パートナーへの感染を起こさないということから、全ての人を治療しようというAll Treatの概念へ発展しました。

 それが2015年のWHOのガイドラインに反映され、「全てのHIV感染者で抗ウイルス療法を開始するべきである。」となりました。

 一方、先ほど言いました、UNAIDSのほうは「90-90-90 by 2020」という野心的な目標を掲げました。すなわち、2020年時点でHIV陽性者の90%は検査を受ける。日本ではまだここまでは行っていません。90%は抗ウイルス薬を受ける。さらに、そのうち90%は治療の効果で体内のウイルス量が検出限界以下になっている状態で、この目標の達成によってHIV感染症はコントロールできる。2030年にはHIVは脅威ではなくなるというのが、UNAIDSの言っていることであり、治療の普及が高い予防効果を持つということが基礎になっています。

 しかし、ここになかなか到達できないのが現状だと思います。一番難しいのは、日本では陽性者の90%が検査を受けるかどうかということです。

 これは岡先生が調査された、ACCでのデータですけれども、当時、来ている患者さんの91%が治療を受けて、その88.1%が成功している。要するに90%が治療を受け、90%で治療効果があるということは比較的簡単に達成可能なのです。ただ、問題なのは、未検査の感染者をどれだけ把握できているか、90%に至るほど検査を受けに保健所や病院に来てくれるかどうかという問題が残っています。このためには、今の検査体制では十分ではないというのが私の受けている印象であります。

 それはこのデータが物語っています。これはACCの西嶋先生が行った調査ですけれども、2011年から2014年の間に、ACCで新規感染例として来た症例が、保健所等での自発的調査(VCT=Voluntary Counseling and Testing)によって診断された例が32%あったそうです。しかし、その4分の1はパートナー告知によるもので、純粋にVCT検査で保健所に行ったのは23%にすぎなかったということです。

 また、先ほど高久先生から御紹介があった「HIV Futures Japan」の井上先生の調査でも、これはエイズ患者も入っているので、HIVにすれば高いかもしれませんが、VCT検査の割合は24%と、非常に数字が合うという驚きの結果だったわけです。ですから、残りの70%くらいの方々は、病院で見つかったり、みずからほかの病院に症状があって行って、HIV検査を申し出られたり、勧められたりして検査をして見つかったということになります。発症した方もこの中に入っていますので、無症状の感染者でのVCT検査受験率はやや高くなります。

 こういうふうに、現状の保健所を中心としたVCT検査だけでは、未検査感染者を把握することは難しいと思います。

 それから、きょうは時間がなくて話しませんけれども、木村先生を中心に郵送検査の枠組みが考えられておりますし、それからaktaでは、そういった郵送検査をCBO community based organization、コミュニティが中心となって配っていくというトライアルもありまして、そちらでもハイリスクといわれる方々が2%以上、陽性で見つかっているということで、ハイリスクグループということが、我が国でもはっきりしているということです。

ハイリスクグループといいますと、もう少し進んだのがPrEPです。暴露前予防という選択肢です。これはWHOが昨年の9月に、strong recommendationhigh-quality evidenceということで出しています。全てのHIVのハイリスク群に選択肢が提供されるべきであるということです。ですから、ハイリスクであるかどうかというのは一つの問題なのですけれども、想定される集団の2%がHIV陽性という数字が考えられているということです。PrEPは米国では既に認可されています。

PrEPとはどういうものか少しお話しますと、「暴露前予防内服」ですね。多分これが正しい訳でしょう。未感染、感染していないことが必要ですから、検査しないといけません。HIV検査に行く一つのモチベーションになります。ハイリスクな人が感染リスクを軽減するために、抗ウイルス薬を予防的に内服することで、現在はツルバダという名の薬だけが感染予防効果のエビデンスを持っています。1日1回1錠の内服の継続によって、アドヒアランスが良好であれば、理論的には90%以上、臨床試験では86%の感染予防が得られるということです。

 なぜPrEPが必要なのか、コンドームで100%予防できるという説があるかもしれません。しかし、Safer sexが予防の基本であるけれども、現実的には限界があります。いろいろな方に今回聞きまして、コンドームの使用は50%という方が高いほうで、40%ぐらいが普通という言い方であったと私は記憶しています。予防効果が86%まではなかなか上がらないというのが現実のようです。

 それから先ほどお話しましたように、「治療が予防になる」だけでは陽性パートナー以外からの感染が予防できないということです。

 それから先進国でMSM(男性間性交渉者)の方々の中では、感染者の明らかな減少を認めていないところがあるということです。

 ですから、今のTreatment as Prevention(TasP)だけでは、やはり感染予防効果が十分得られない可能性があって、それに加えてPrEPが必要ではないかということです。

 ゲイを対象としましたPrEPのエビデンスが3つあります。2010年のiPrEX試験でも予防効果はみとめられましたが、最近のPROUD試験とIPERGAY試験の結果には、おおきなインパクトがあり、WHOによってPrEPの導入が推奨されることになりました。アドヒアランスが良好であれば、80%~90HIV感染を予防できるとの報告です。

 この様に効果がよいのは、肛門性行為をされる場合においても、用いられるツルバダという薬剤の直腸内濃度が十分に保たれるということがわかっています。ですから100%飲んだ方がいいのですけれど、100%服用しなくても効果が期待できるという報告もあります。重篤な有害事象はありませんし、耐性ウイルスの出現頻度もプラセボ群と有意差がなかったということです。しかしながら、PrEPを導入するに当たっては、やはり長期毒性や耐性の問題はあるし、PrEPのデメリットやメリットの話もあるので、医療的な予防効果や安全性のモニタリングが必要と私は考えますし、そのように考える先生が多いです。

 世界的には、アドヒアランスが良好なハイリスク集団にいかに導入するかというような状態になっているのが現状です。

 このスライドは20165月の状況ですが、現在、20カ国ほどで、PrEPは、ほぼ認可の状態にあると、Chris Beyrer先生から聞きました。歴史的には、米国で2012年、フランスで2015年、カナダ、オーストラリア、ペルー、ケニア、南アフリカ、それから韓国も申請しているという話のようです。

 このように各国が申請していて、グローバルスタンダードに合わせていこうということだろうと思いますけれども、多くの国々で、PrEPが可能な状態にしていこうということです。

 導入には様々な壁があり、時期尚早という意見もありますが、PrEPを望む方々にもその権利があるということで、問題点を一つ一つ丁寧に考えていきながら、どういうシステムで導入するかということが大事だということだと思います。

 これが懸念事項です。安全性のなかでも長期毒性はわかりません。一方、服薬が守れないと、やはり耐性が起こる可能性もあります。

 それから予防薬を服用しているという理由で、コンドームをしない人がふえ、性感染症が増加するのではないかと言われています。臨床試験では、性感染症の頻度には、対照群と差がなかったと報告されています。IPERGAY試験では、プラセボ群と比較されています。もちろんプラセボだから実薬群と性感染症の頻度は一緒ですね。PROUD試験というのは、PrEPの導入をすぐ行うか1年延ばすかの2群に分けて試験をやっています。PrEPを直ちに開始した群と1年延ばした群で、性感染症の頻度はほとんど変わらなかったと報告されています。ですから、PrEPをやらないからといって、コンドーム使用率がふえるわけではない。あるいは、PrEPをやっているからコンドーム使用率が減ったわけではないという結果になっています。もちろん、実際の臨床現場で必ずしも正しいかどうかはわかりません。また、PrEPの導入には、費用対効果の問題、制度的、経済的問題がまだあるということも事実です。

 それから、PrEPの導入には医療機関の関与が必須だと私は思います。最近、個人でツルバダを輸入して、PrEPとして使っているゲイの方がいると伺いました。医学的なプログラムなしに個人輸入でのPrEPが行われますと、コントロールが不可能になることが懸念されますので、保健医療機関が関与するプログラムの整備が不可欠だと思います。まず、非感染であることを確認しなければなりません。確認した上でカウンセリングと、Safer sexのエデュケーションを受けて、この役割は、CBOcommunity based organization)との連携が必要ですけれども、こういうものをしていただいて、それからリスクとベネフィットの説明をして、PrEPプログラムに入るのがいいと思いますし、これには定期的な検査が含まれていく事になります。

 費用対効果の観点から、感染のハイリスク群を対象とすべきとなっています。ハイリスクの判断ももう一つの問題点として残ります。ですから、PrEP導入を前提としたプログラム(デモンストレーションプログラム)の準備を始めるために、問題点を整理していく必要があります。

 もちろん、PrEPで全てが予防できるわけではありません。基本は教育・カウンセリングによる行動変容です。しかし、教育効果に関しては、高く言う人で20%、低く言う人は数%ですけれども、これはゼロではないのです。ですから、これはぜひやるべきだし、Safer sexや特定のパートナーとの性行為といった話はすべきだと思います。それに加えて、全員を治療するという目標のために検査機会を最大にすること、本日は話しませんが、暴露後予防(PEP)、それから暴露前予防(PrEP)といったことを推奨していくと同時に、ハイリスクの方々が定期的にHIV検査を受けやすい環境をつくってほしいということです。これが大事で、結局、ハイリスクの人たちが何回も行けないような検査センターでは困るということです。

 さて、最後に私がやりました調査の一部を御紹介します。

 エイズの予防指針は3本柱ありましたという話で、教育、検査、予防、普及啓発、相談体制の充実というものでして、これらをやったということです。

 御存じの通り、正しい知識の普及啓発及び教育、これが一つの柱です。検査・相談体制の充実、医療の提供が柱だったわけです。これらが「個別施策層」というようなキーワードでどのように評価されたか、現場の人たちに聞きました。

我が国のHIV/AIDS対策が成し遂げたことは何かを聞くことになっていまして、先ほどお話があったとおりですが、拠点病院体制を初めとした医療体制の整備、厚生医療などによる医療費の補助、派遣カウンセリングシステム、さまざまなことが大変よくできていて、我が国のHIV陽性者が世界最高水準の医療やケアを受けられることは多くの方が評価しています。それから、無料・匿名のHIV検査・相談体制が全国で整備されていること、検査普及月間・エイズデーを中心とした予防啓発活動、さらにコミュニティセンターの事業化などによるエイズ予防戦略は一定の効果を果たしたと評価されました。

 これまでの施策は間違いではなかったということを皆さん実感していますが、これ以上、新規感染を減らすには今の状況では難しいと感じられています。

 それで、「個別施策層」という問題を先ほど取り上げましたが、この「個別施策層」に着目した重点施策がうまくいったか、検査・相談体制の充実はどうだったかというと、これは、「強化された」「強化されなかった」「どちらともいえない」が3対3対3でした。これは場所によって変わっていて、検査数と利便性の向上によって検査数が増加したなどの答えが多く、保健所・行政機関では「強化された」が多かったのですが、拠点病院などでは、余り強化されたと考えられませんでした。これはなぜかというと、保健所から見つかっている患者さんが必ずしもふえてないからだというようなことが言われていました。

 一方、地域における総合的な医療提供体制の充実はどうだったかというと、両方とも「順調に進んでいる」で、50%くらいでいい値です。先ほど言いましたように全く患者さんと関係ないところが数十%あるので、これはほとんどの医療機関も行政機関も患者を診ているところでは、比較的に順調に医療体制の供給はできたという判断でした。

 それから、先ほど高久先生がおっしゃったような、NGONPOとの連携はどうだったかというと、「推進された」が38%で、「されていない」が58%で、されていないほうが多いです。「推進された」というのはどこだったかというと、保健所・行政機関で、しかも東京、大阪、名古屋、福岡、沖縄、仙台というNGONPOがあるところでした。コミュニティセンターがあるところでは行政機関と保健所と連携してキャンペーンが行われたのです。ですから、そこでは「推進された」と高く評価されていますが、医療機関は置き去りになっていて、ほとんどのところではNGONPOとの連携は行われなかったし、あるいは、NGONPOがない地方では、少数のゲイの人たちがいるけれども、なかなかNGONPOとの連携が図れなかったというのが実態でありました。高久先生のおっしゃるとおりで、これをどのよう評価していくか、裾野をどう広げるかが大きなテーマだと思います。

 それから行政関係の方に、平成24年の指針の中に、「個別施策層」に対する検査の目標設定を行うとあったのですが、これは実際にはできないということです。先ほどお話があったように、年齢もわからなければ、性的嗜好もわからないし、このような無理なお願いなどもあって、実際には80%が「設定されていない」という回答で、17%は少し勘違いした答えになっています。

 それから、先ほどお話がありました、opt-outの話です。人権ということに配慮してopt-out、あるいはもう少しリスクファクターがある方に対する検査、これを「導入すべき」と答えた医療機関は56%で、ほぼ患者を診ているところは、「できるだけ早く、たくさん見つけてほしい」「発症して来ないでほしい」と思っているわけですね。それ以外は時期尚早という考えもあります。opt-outだと、断る時にやはり人権的に問題があるのではないかという考えですね。

PrEPの導入もそうであり、47%が「導入すべき」で、拠点病院の方はみんな導入してほしいという回答です。時期尚早だという回答もありました。

 一方、行政は両方とも時期尚早であるという考え方が多かったです。なかなかこの辺の理解が得られていなというのが現状でありまして、このopt-out検査、PrEPの導入に関しては医療機関と行政機関の意見は大きく異なっているのが現状です。

 これはそれぞれの見方が違っていて、医療機関は、いきなりエイズ、あるいはいろいろな状態でいろいろな病院を回ってくる患者を診ていますから、そういった意味でも、早く検査をして、早く見つかっていれば、いろいろな医療行為をしなくて済むと考えていると思います。無駄が少なくということを考えていると思います。

 最後に意見聴取です。いろいろありました。

 「我が国におけるHIV感染症/AIDS対策の概観」ですが、本人の書いたとおりに書きました。コンドーム使用率をゼロから50%までに引き上げたので、高齢のゲイの男性としては奇跡に近いことだと思っている。ですから、この方も50%まで上げられたと考えられています。しかし、ゲイコミュニティ側ももうこれはなれ切っている。「HIV Futures Japan」の井上先生の中に、Safer sex fatigueという言葉があって、みんな勉強して知っているけれども、聞き飽きているというか普通になってしまっていて、50%が限界だということを実際の当事者の方から聞きました。

 それから、治療体制・医療面では治療の長期化、感染者の高齢化、地域連携と、今あったキーワードが全部出てきています。それから、早期治療の徹底、こういったものがこれからの方針として重要であります。

HIV検査につきましては、これまでの配慮が十分でなかった点も指摘されています。たとえば、外国人の無料、匿名検査が受けられるところが少ないです。それから、多様なセクシュアリティの若者、若年層に向けた取り組みが十分ではない。これらの方は、検査に来ていないということです。これは「個別施策層」に入ると思いますが、対策は十分ではないということです。

 先ほど、どなたから意見がありましたが、非拠点病院や開業医などでも検査ができるように、もっとプロモーションするべきではないか。早期発見、早期治療のメリットを強調した周知が必要であるという御意見をいただきました。

 これは予防面、最後ですけれども、TasPPrEPは大事なのですが、HIV感染症の偏見は解消されていません。陽性者の問題は、性的少数者(LGBT)や社会的弱者(低所得、低学歴、家庭環境)、これらの問題と実は重複します。ここで医療問題としてだけ検討するのではなく、さまざまな社会の中でHIV感染者と共存して、彼らが早く検査に行って治療を受ければ、みんなと普通に暮らせるし、新規感染を起こさないということについてのキャンペーンをやるべきだということでありまして、社会全体で理解・受け入れを促進することを期待するという御意見でした。

 「結論」は先ほどと同じです。

 「世界エイズデー」が、12月1日にありました。このパンフレットは一般に配られていますし、予防財団のホームページにもあります。

 「HIV preventionに手を広げよう」というのがスローガンです。今、一番重要なのは予防なのです。予防して、とにかく新規感染の阻止のために「HANDS UP 手を上げよう」ということが言われています。

 岩本先生が前はIAS(国際エイズ学会)の委員だったのですが、現在は私がIASの運営委員会に参加しておりまして、前理事長のChris Beyrer教授はハーバード大学の疫学者ですが、一緒に食事をするチャンスがありまして、「日本のPrEPはどうなっていますか?」と聞かれたので、「まだ議論があるところです」と言うと、「もう議論の余地はないでしょう。なぜならば、PrEPのほうがコンドームよりも予防効果が高いじゃない。」と言うのです。これが実際の彼らの感覚です。コンドームは100%と私たちは言うのですが、そういうことではなくて、50%だというわけなのです。ですから、PrEPはきちんと飲めば80%~90%抑制でき、もう20カ国で導入されているのです。そういった意味で、ワールドスタンダードはそちらのほうに動いているのだと実感しました。

 この、「世界エイズデー」のHANDS UPのポスターの手のひらの真ん中にあるのが、PrEPだということを述べまして、私の話を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

○岩本委員長 ありがとうございました。

 今の3人の御参考人と、それから現在の状況について、最後の松下先生の御発言に何か質問、御意見等、いかがでしょうか。

 高久参考人、お願いします。

○高久参考人 松下先生のお話のPrEP について、少し意見と補足をさせていただきたいと思います。私はHIV陽性であると同時にゲイですけれども、2001年に感染がわかってから、新宿二丁目でコンドームを配るところから、この問題にかかわり始めていますけれども、PrEP というものが出てきて、新しい予防の選択肢が必要だということ、コンドームの使用率、多分ゲイの間で50%というのはずっと続いていて、この状況が恐らく頭打ちで、教育とかきちんと力を入れていけば、また変わるのかもしれませんが、現実的な問題を考えると、この状況が横ばいで続くのかなと思っています。その中で選択肢がふえることはいいと思っているのですが、果たしてこれが最終的に、PrEP が新しい予防手段として定着するかどうかということです。これを導入するのであれば、本気で目指してほしいと思っています。

 そこに向かっての一つの課題として、安全性とかアドヒアランスとかの問題を挙げていただいたと思うのですが、私はやはりここにHIVのイメージの転換ということを一つの課題として上げておきたいと思っております。

 例えば、アメリカと比べると、アメリカは感染者数が100万単位なので、一概に稀釈して言うのもどうかと思うのですけれども、例えばゲイ男性が出会い系のアプリで、ほかのゲイ男性と出会おうというときはすごく活用されています。特に日本でも、20代の人たちなんかは、aktaとかのいろいろな活動も大事ですけれども、ゲイタウンといわれる新宿二丁目の中に出てくる人は本当に減っていて、出会いの主戦場はネットというか、スマホのアプリなどで出会っていると考えていいと思うのです。

 そういった中で、アメリカなどで使われている出会い系サイトを見ると、「私はこういうタイプが好きです」とか書いてあるわけですが、その中に自身のHIVのステータスについて表明するところがあるのです。選択肢が選べる欄もあって、「HIV陽性である」とか、「PrEP を使っている」とか、「私は感染しているが、検出限界以下である」といったことが普通に選べるのです。そういったことが日本でできるかというと、今のHIVに対する、社会のというよりか、ゲイコミュニティの中ですらHIV対するイメージはそこまで追いついていない。そこまでライトに自分の意見を表明できるということになっていないと思います。

 これは、ぜひ意識調査とか、感染していても検出限界以下であれば移らないといったようなことが、ゲイコミュニティの中でどの程度知られているかということも、今、研究されているようなので、その結果も踏まえたいと思いますけれども、まだまだそのような状況ではないと思います。

 むしろ、インターネットなどをのぞくと、HIV陽性者がハッテン場と呼ばれるようなゲイ男性が集まってセックスをするような場所で感染を広げているような言説のほうが圧倒的で、まだまだ科学的根拠に基づいた感覚というふうにはなっていないのですね。この普及啓発をきちんとしないと、私はPrEP を導入してもなかなかうまくいかないかなと思います。

PrEP をハイリスク層の人たち、コンドームを使わないアナルセックスを、知識がありながら好んでする、もしくは仕方なくする、例えば、コンドームを着けると痛いといった理由もあると思うのですが、そういったような事情でコンドームを使わないセックスをする人たち、かつゲイの人たちにいかに届けるかということになると思うのです。恐らく諸外国で行われている研究は、そこにカウンセリングであるとか、定期的な検査であるとか、何日前から飲むとかの服薬管理を綿密にやって、どうかということをやっていると思うのですけれども、例えば、日本でそれを導入したときに、そういった性行為を好んでする人たちで、まだ感染をしていなくて、かつ、定期的に病院へ行って処方を受けて、服薬管理ができるという人たちの人物像が、私には浮かばないのです。

 研究レベルではそういったキャンペーンをして、PrEP に飛びついてくる人もいるのかもしれないのですけれども、最終的には感染動向のレベルで、感染者数が減ってきたと思われるくらいではないと、PrEP 導入した価値がなかったということになると思うので、本気でやるのであれば、HIVについて、少なくてもゲイコミュニティの中で、できれば社会全体の中で、一つの感染症として特別な病気ではない、恐怖の病気ではなく、早く治療すればいいという病気なのだという、イメージが変わっていくということを前提にしないと恐らくうまくいかないのではないかと思いますので、ぜひPrEP の検討に当たっては、そういったことも踏まえて予防指針の見直しを行っていきたいと思うのです。

 以上です。

○岩本委員長 ありがとうございました。

 大平参考人、お願いします。

○大平参考人 この予防指針ができて、新しい時代の予防指針をつくるわけですけれども、これまでの予防指針はどこが主体で、誰が努力するのかというところがなかなか明記されていないということと、多分に患者とか感染者については受け手の問題として全部出てきているのですね。そういう時代ではなく、だんだんやはり自分たちで自律的にどういうふうなことができるのかという方向性を出せるような指針に変えていかないと、偏見も問題もそうですし、誰かが解決してくれるだろう、誰かが救ってくれるだろうという話だけの問題ではなくて、もう少し自分たちが打って出るという、感染者、患者がいろいろなことで世の中に出ていけるような下地をつくっていくというのが重要なのではないかなと思います。

 古い話ですけれども、薬害エイズの和解のときに、内部疾患の身体障害者手帳の対象としてHIVを和解の条件の中に入れたのは、やはりそこから自分たちが努力して、何とか社会生活ができるようにしていく。医療も含めてですね。そういうことで、基本的に自律性を持った形で予防に努め、そしてまた感染の治療についても自分たちが率先して取り組んでいく。そういうことを自分たちが手を挙げてやっていってほしいということで、この制度を導入したわけですけれども、だんだん今はみんな受け手のような形で、それをただ利用するというふうな形だけになっているというところは、今後、予防的な医療を導入するときには、やはりそこは見直さなければいけない点だと思うのです。そういう点も含めてどういう形がいいのかというのは、これからの指針に生かしていただきたいと思います。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 今、松下先生の御発表で思ったことがあるので、クリアにしておくために一つだけ申しあげます。

 松下先生のスライドの10ページですけれども、何パーセントがボランタリーな検査を受けているかということは大変大事なことではあるのですけれども、このACCの調査の西嶋さんのファーストオーサーになっている論文に問題点が1つあります。これはACCで来た患者さんが、何人がボランタリーで陽性と分かった人がボランタリーとなっていて、あとは病院で病気として紹介された人が何パーセントになっているので、保健所とかそれ以外でボランタリー検査をした人が何人紹介したかという、保健所あるいは保健所等の機関がどういう病院にどれだけ紹介していますというデータがないと、この数がボランタリー検査を受けたパーセンテージですよというのがひとり歩きすると危ないと私は思っています。これは一医療機関のデータなので、片側からしか見ていないので、ボランタリー検査をやっているほうから、どのくらいの患者さんがどこに送られているかというデータがないと、その点でいうと、去年2015年のHIVで陽性が分かった人が1,006人、保健所等で陽性と分かった人が450人くらいです。だからHIVの中で45%くらいなのです。ただ、日本の場合は3割がエイズになって見つかり、その人たちが入ってくるので、恐らく45%よりは検査に行かない人が多いので、それを掘り起こせますか、あるいはその人を予防できますかという話が非常に大事になっていくのだと私は思っています。

 ちょうど西嶋論文はピアレビューを通っているのでいいのですけれども、その辺が問題があると私は思っております。

 それから、もう一点、ちょうど高久さんと大平さんがあるポイントを言っていただいたので、私は非常に大事だと思うのは、例えば年間5万人の陽性者がでるアメリカでPrEP をやる場合、かなり公衆衛生的施策としてPrEP が使われているわけです。PrEP を受ける人物像がわからないということを高久さんがおっしゃいましたけれども、その場合に、日本だと匿名の検査があって、こちらでは医療があるわけですよね、そうすると、PrEP というものをある程度匿名の人たちを対象に、ばっと公衆衛生的にそういう施策を日本の政府が打つのか。それとも、医療機関に入ればこれはマンツーマンですから、一人一人がわかった上でPrEP をやるという話とは、整理して考えていかないといけないと思います。

 また、自分の体は自分で守るのだと大平さんがおっしゃった、そういうモチベーションを上げていくのは大事だと思うのですけれども、このままずっと議論が滑っていくと、PrEP というのは、どちらかというと諸外国でやっているのは感染がもっととまっていなくて、そこに公衆衛生学的にも予防投与しましょうと。そこは、私は実態を知らないので、誰か今度実態を調べてもらいたいと思っていますけれども、要するに一人一人を特定してPrEP をやっているのではないと思いますよ。ある程度のくせ、それこそ、どのくらい感染が減りましたという数のデータでしか出てこないデータとなっているので、それだと、果たして日本の社会の中で、それをやったときに、踏みこたえられますかという問題があると前もって思っております。

 ほかいかがでしょうか。参考人の方々の御意見を参考にしていただきながら、もう少しHIVのところで、事務局の説明の資料2に、現在の指針の項目が第一~第九までありますけれども、ここの部分について、今度の指針をつくるのがこの小委員会の目的なので、このあたりの項目はこう変えたほうがいいのではないかというのを、今日の議論の中で、御自身の考えの中で言っていただくとか、あるいは、この9項目も多いから、少し整理したらどうかとか、そういうような次の指針に向けた全体的な意見をここからお願いしたいと思います。いかがでしょうか。

○高久委員 第九の「施策の評価及び関係機関との新たな連携」ですけれども、何人かの先生からも、施策の評価がきちんとされていないのではないかという指摘がありました。毎回、疑問なのは、社会の認識はどの程度なのか、例えば森戸先生がおっしゃったように、若い人たちの間では何となく偏見がないのではとか、私もそんな気もするのですけれども、具体的にどんな人たちがどの情報をどこまで知っているのかというベースの調査があるのでしょうかというところなのです。それが例えば5年間なら5年間、国や自治体が、「RED RIBBON LIVE」もそうですけれども、いろいろなキャンペーンをやって、それにどの程度変わったのか、これは性感染症全般もそうだと思うのですが、例えばHIVはコンドームを着ければ防げるということを誰がどこまで知っているのかと、そういうことはきちんと追っていかないと、普及啓発の成果というのはいつまでたっても見えないと思うので、そういったことができないのかなと意見として思いましたので、発言させていただきました。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 廣田先生、お願いします。

○廣田委員 資料2です。1ページのグラフは新規の感染者と患者なのですが、このグラフの左上に累積報告数2万5,995人と出ております。多分、この中からは亡くなられた方もいらっしゃるでしょうから、いわゆる有病患者数、プレバレントケースとしては何人くらいなのですか。          

○結核感染症課エイズ対策推進室長 現在、定期通院をしている患者数ですね。研究班のデータでは2万1,000人くらいと聞いていますが、それも含めて、今後、医療体制班からのデータでお示しをしたいと思います。

○廣田委員 新規の感染者、あるいは患者の数が常に前面に出るのですが、2万人というと、国で5,000人に一人ですよね。5万人の小さな市でも10人、東京都で1,000万とするなら2,000人です。その人数を考えると、拠点病院という発想だけでいいのか、いわゆる一般の医療機関に広げていってもいいのではないかという気がします。一般の医療機関に広げていくということになると、先ほどのPrEP も一般のところでカバーできるような状況ができてくるのではないか思うのです。あまりにも拠点病院にとらわれ過ぎるというのは必ずしも得策でもない気がします。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 横幕先生、お願いします。

○横幕委員 患者数であるとか、各病院の通院者数、もしくは自治体ごと、二次医療圏ごとの通院者数については把握をしておりますので、その公表につきましてはまた事務局等とも相談して、しかるべき方法で提示をしたいと思います。今、御意見いただいたように、地域によって、通院者数、患者数等、かなり異なる状況があります。

 私の考えとしましては、今まで我が国において、HIV感染症感染者、エイズ患者について、そういった正確な情報が余りにもなかったということで、この2年間で収集してまいりましたので、今回の予防指針の改定に際しては、収集した情報をもとに御議論いただいて、予算等も含めた議論になるかと思いますが、拠点病院が背負うべき機能等も含めまして、御議論いただけるような資料を提示できるようにいたしますので、また次回以降ということでよろしいでしょうか。また、事務局と図りまして提供できるようにしたいと思います。

○岩本委員長 日本のプレバレンスの問題は、新規報告の部分はきちんとした、ソリッドな報告なのですね。匿名ですからダブルカウントの問題も多少あるのですが、諸外国だとエイズとHIVは基本的に別の統計になっているのですけれども、この国は新規診断のときにHIVとエイズに分けるようになっています。HIVの人がエイズになったとか、あるいはHIV感染者が死亡したというのを病変報告と呼んでいて、それが1999年の法改正のときに任意報告になったわけです。任意報告ですので、死亡者数を国のデータから拾っていくとアバウトな数字しか出てきません。先ほど横幕先生がおっしゃった、拠点病院での死亡数と法的に報告された数字をこの際ちゃんと調査して比較するのは大事と思います。

 それから、外国人は一応報告されるシステムになっているのですけれども、外国人が今まで約10%と報告されているのですけれども、この外国の人たちが何人くらい日本に残っているのかいうのも、何人、国から出て行ったのかわからないのです。そのあたりをできるだけ実地の病院から全部、数字を挙げていただいた固い数字と、今までの日本の法的な匿名性の原理の中で拾えてきた数字をある程度比べて、どの辺の誤差があるかというのを先生方に見ていきたいので、次回ぐらいまでにはそれを出せるようにはと思います。

○廣田委員 そういった数字というのは、正確に越したことはないのですけれども、どうしても限界があるわけで、私が言いたかったのは、プリバレントケースがこれだけあるのだったら、ある程度、一般の診療機関でも対応できるというところを目指してもいいのではないかということです。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 白井先生、お願いします。

○白井委員 参考人の方が来てらっしゃいますので、ぜひ教えていただきたいのですが、この予防指針の中でも、個別施策層とか患者等への人権配慮という言葉があるのですけれども、個別施策層と言い切ってしまうと、行政のほうでは集中して対応をとっていく効率のいい予算の使い方をしようという考え方はあるのですが、逆にそこに集中することで、ほかの方への情報提供が余り十分でなかったり、どうしても一般の住民の方々に、当事者意識から離れて「私たちは関係ない」というような意識を持たせたり、裏腹なことがあるのではないかなと思うのです。

 それと、検査も受けやすいような体制ということで、保健所等でもある程度プライバシーに配慮してということも行っていますけれども、当事者の方々に十分な対応ができているかというと、難しい点もあると思います。その辺について、個別施策層という言い方がこれからもずっと続いた方がいいのかどうか、全国で5,000人に一人くらいの感染者の割合になってくると、誰もが当事者であるという意識を持てるような予防指針の表現にするにはどうしたらいいかと思いますので、お考えがあれば教えていただきたいです。

○高久参考人 参考人が4名いらっしゃるのですが、私の方を見て話されていたので、私が思うところを回答させていただきます。

 予防指針は法的な文書ですので、当然、客観的な事実に基づいて、男性同性間での性的接触が大半であるということから、個別施策層というふうに規定すべきであるのは全く異論もなくて、このままキープするべきではないかなと思っています。

 ただ、その行政が具体的に何をするかというところについては、いろいろなアイデアがもっと出されてもいいのなと思います。現状では少なくとも、今、懸念とおっしゃっていたような、わかりやすくいうと、ゲイ男性だけの病気でしょうと受けとめられるのではないかと思えるほどの啓発のされ方はそもそもしていないと思うのですね。誰しもに関係ある病気ですとか、対象を特定せずに、一般的に「HIV予防月間なので」「エイズ検査普及週間なので」みたいな感じで、ぼやっと啓発しているのが一般的に地方自治体がやられているものだと思います。それはそれで別に間違っていないとは思っていますけれども、力の入れどころとして、個別施策層に対してより予算を割くとか、効率的に投資するというのは別に間違った考えではないし、むしろゲイ男性に限らず、一般的な人たちにどういうふうに啓発するかというのは、感染症対策を行っている保健所だけではなく、教育とか、そういったところで取り扱っていくことで、十分教えられるはずですので、そういったところでカバーされていけばいいのかなと思います。

 感染症対策としては、あくまでゲイ男性を中心としたMSM層に対して、いかに予防啓発を進めていくかということに尽きると思います。そこについては、おっしゃっているほどの懸念は私は持っていないです。

○岩本委員長 大平参考人、お願いします。

○大平参考人 私は、先ほどの個別施策層の件について、これからの時代をつくっていく今度の指針の方針としては、個別施策層をどういうふうに分類していくかとか、どういうふうに評価していくかということは、もう一度考え直す必要があるのではないかなと思うのです。

 例えば、MSMの人についても、ハードゲイの人とか、そういう問題と、それからおとなしいと言ったら語弊があるのかもしれませんが、カップル、パートナーが固定している人とか、そういう方たちとの問題点の違いとか、それから、異性間の方たちというのは着実にふえているところもあるので、そういう方たちが今後の対象として、どういうふうに一般的に啓発していったらいいのか、そういうことも含めて、エイズ・イコール・ゲイみたいな感じの今のキャンペーンというところから、もう一歩何か考え直す時代に入ってきているのではないかなと思うのです。

 先ほどの治療の問題についても、医療との接点が多分に多いところなので、一般的な予防としては、エイズというものについても、HIV感染症についても、一般的な教育というものを広めていく中で、いろいろ多方面の要素を入れて啓発していくことが必要なのではないかと思います。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 野津先生、どうぞ。

○野津委員 岩本委員長の先ほどの投げかけに戻りますが、指針の項目についての意見です。私は学校健康教育を専門にしておりまして、その立場からです。資料2の3ページに、エイズ対策の予防指針の項目として一覧表が出ており、資料3の6ページには、性感染症の予防指針の項目の一覧が出ております。これを見比べると、非常に類似した項目で整合性があるわけですが、そうした中で、「普及啓発及び教育」が、エイズのほうにはあり、性感染症には見られません。性に関する教育においては、エイズも性感染症も同様に、教育が非常に重要ということで、学校教育などでは取り扱っているところであります。ぜひ、次の指針に向けて、こうした項目がエイズでは継続されて、性感染症にも同じ項目が示せるよう、項目立ての工夫ができないのかという意見でございます。キャンペーン等で、こうしたことが伝わってきますと、学校教育の実践の後押しとなり、また教育効果にも影響があると思いますので、ぜひ工夫をしていただきたいです。

 あと、用語的に「発生の予防及びまん延の防止」というところにも、もちろん教育のことが入るわけでしょうから、、その内容的な整理が必要になってくると思います。また、「普及啓発」と「教育」の違いも分かりにくいのでその辺の用語の見直しをしてはどうかと思います。

 以上です。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 荒川先生、お願いします。

○荒川委員 今、野津委員がおっしゃったことに非常に賛成です。まだ、性感染症の予防指針の話に入っていないのに、こういうことを言うのも先走りなのですが。

○岩本委員長 先生、言っていただければ、そこで入ります。

○荒川委員 確かに「普及啓発及び教育」が、性感染症の予防指針に項立てされていないのは少し弱いかと思います。性感染症の特定予防指針の中には、教育ということに関しては、前段の総論的なところに、「教育関係者等が連携する」という言葉が入っています。もう一つは、「発生の予防及びまん延の防止」の五「相談指導の充実」に、医療機関及び教育機関との連携という言葉が出てきます。しかし、それぐらいしか出てこないのです。はっきりと、教育啓発をかくかくしかじかに行うということは出てまいりません。ですから、ここは厚生労働省としては文部科学省に遠慮されているのかなと、熟読した時に私は思ったのです。ですから、「学校現場」とか、もう少し突っ込んだ言葉を入れていただくわけにはいかないのかということを非常に感じました。その点をご議論いただければありがたいと思うのです。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 それでは、荒川先生、その点はずっと続く話ですので、議題(3)を先生から資料に基づいて御説明いただいて、そちらの議論をして、HIVも性感染症としての問題が一番大きいので、一緒に討論したいと思います。

○荒川委員 それでは、この資料は50枚あるのですけれど、全部をくわしく話すつもりはございません、20ページほどは疫学ですのでご説明申し上げまして、後半の30ページはざっと見ていただくということにします。ただ、お手元の資料は色がうまく印刷できていないところがあるので、スライドで後半も流させていただきます。

 私は厚生労働科学研究の「性感染症に関する特定感染症予防指針に基づく対策の推進に関する研究(20122015年)」というのを4年間やらせていただきました。「それからみえてきたもの」ということをタイトルにつけさせてもらいました。

それはどういうことかと言いますと、2012年発行の性感染症の特定予防指針の最初のところに、疫学の大切さが書いてあります。そこで、感染研がやっておられる発生動向調査、これは委員長が最初に、定点の考え方は確かかとおっしゃいましたけれども、その定点の定め方というのはずっと議論のあるところでもありますし、この指針そのものにも、他の疫学も参考にしながらということも書いてあるのですね。感染研ももちろんこの研究班には入っていただいております。感染研の感染症疫学センターの砂川先生のグループも研究班に加わっていただいて、一緒に仲間でやっております。

 感染研のデータのサマリーはさきほど事務局から報告がありました。ここでは研究班として熊本先生、小野寺先生からの流れで、私がこれを引き継ぎましたので、このセンチネルサーベイランスという手法で定点動向調査とは別の面からの推計疫学を続けてきております。それを御紹介します。

具体的には、その指針に盛り込まれている5大性感染症ですね。全国に7つくらいのモデル県を設けまして、そこの医師会に登録されている産婦人科、産科、婦人科、泌尿器科、皮膚科、性病科という標榜をしている全ての医療施設、一般的にこういった5つの性感染症を最初に診るであろうこれらの施設、に調査票を送りまして、毎年10月ひとつき間に、その月に来た全ての性感染症、STDを集計し、日本人口に敷衍させ、1年間の受診数を推定するという作業をしてまいりました。

 結果なのですが、これは5歳刻みで書いているのですけれども、2012年、最初の調査年ですが、男性では20代では淋菌、クラミジアが大体同じような頻度で見られ、20代後半に全体的なピークがあり、それから20代前半というふうになっています。

 女性は5歳若くて、20代前半にピークがあって、10代後半も含めてクラミジアがかなり多く、これらは医療施設を受診しているということはすなわち発症者ですが、全国の人口に敷衍して推計していますので、20代前半は10万人当たり500人ということは、大体160人に一人くらいがクラミジア感染で発症して受診しているということになります。そういうふうに見ていくと、かなり若い年代にクラミジアが相当多いという従来言われていたことがこういうふうに検証できました。それから、ヘルペスなども比較的女性に多いということが従来言われてきたことですが、ここでも明らかになりました。これは動向調査でも同じようなデータが示されており、基本的には矛盾しません。

2013年は2012年に比べまして、スケールが変わっておりますので、実際はふえているのです。男性は20代前半にピークが移行してきている。女性は余り変わらなくて、20代前半、10代後半、20代後半でクラミジアが多く、ヘルペスはやや年配も含め多いです。淋菌は従来の報告通り、男性のほうに多いです。

 これがその次の年です。やはり全体的にクラミジアがふえています。

 各年代とも左端の小さいピンクの棒グラフは梅毒なのですが、2015年になると梅毒が目立ってくるということが言えます。女性でもです。

 梅毒だけ示しますと、20代前半の女性にかなり増えてきているというのは、これは動向調査と非常によく符合するデータが出ました。全年齢で見ると、明らかに男性でも年々増えていますし、女性でも増えています。2015年はかなり増えています。男女が余り変わらない数になっているのです。

 男性で40代に若干のピークがあり、10代にも結構あるということです。

 もう一つはクラミジアです。これは圧倒的に20代前半に多くて、それから20代後半、10代後半に多いです。全体的に見ると、男女ともにふえているというデータなのですね。

 全てのSTD、先ほどの5種を中心に全部入れましたら、この4年間で増えており、しかも20代前半にピークがあるということがわかります。

 これをもう少しわかりやすく、クラミジアとか全部ばらします。非淋菌、非クラミジアは除外しまして、そうすると男女ともクラミジアは年々ふえているし、ヘルペスは女性で増えているし、梅毒も男女とも、ほかよりも丈は低いですが、ふえているということがわかりました。

 特に一番多いクラミジアの場合は、男性は2人に1人が発症して受診する。女性は5人に1人しか自覚しない、発症しない。あとは保菌で、保菌であっても性交渉で感染性はある。あるいは、保菌のまま腹腔内感染を起こして卵管癒着を起こして不妊になるなど、そういうことが非常に憂慮される疾患ですが、そういうことから、STD、発症してDiseasesで把握された年間大体数万人の今のデータを、男性は2倍、女性は5倍しますと、保菌者を含めた数として、2015年には年間50万人くらいはクラミジアの感染を受けているだろうというふうな推計がされます。

 参考として、京都府立医科大学の岩破先生のデータをごらんください。クラミジア感染がよく知られるようになってから、妊娠期にクラミジア抗原の有無を、子宮頸管から検査するようになりました。2000年代に入って、妊婦のクラミジア陽性率はだんだん減ってきていたのですけれども、2012年を底にして、また増えてきているということです。

 それからもう一つ、感染研の先ほど事務局からご紹介いただいたデータを、もっと細かく年代別に分けたものですけれども、クラミジア感染では一番上の紫の×が20代後半で、緑が20代前半、それから、四角の赤は10代後半ということで、女性では明らかに3つの年代が多い、男性は20代に多いということです。10代後半は、少子化で人口が少ない中でも、そこそこ見られるということで、やはり3つの年代の若者は非常に問題だということがクラミジアでははっきりしています。

 淋菌もそうですね。20代後半から、20代前半が多いです。そして、女性では10代後半もそこそこあるということがわかります。

 以上、まとめますと、この4年間のセンチネルサーベイランスから、男女の梅毒、及び男女のクラミジア、女性のヘルペス感染がふえています。これは京都府のデータからクラミジアがふえているということとも、符合します。

 先ほど申し上げた、クラミジアというのは50万人病だということです。

 それから、先ほどの年代別に見て、梅毒、クラミジアとも、20代前半、20代後半、10代後半が多いです。梅毒は先ほど申し上げた40代男性に多いので、これはやはり感染研のデータとも符合します。男性は20代、30代、40代にある程度押しなべてあるということです。

 いずれにしても、若者、生殖年代への啓発の重要性が再認識されたということです。

 私が提言したいのは、無自覚無症状(保菌状態)の性感染症(クラミジア感染等)を含めた実態の継続的把握のために、一つは妊婦健診がかなり日本は充実していますけれども、それでもやはり受けていない人をもっとカバーしていくとか、あるいはそれを通じて把握される感染症動向の医療者や国民への広報を充実させるということです。あまり皆さん実態を知らないということが問題です。

 それから、若者への性感染症予防の正しい知識の普及が最大の防波堤であり、先ほど野津先生からの御発言にもありましたけれども、そのためには教育関係者への啓発、すなわち今後は教育関係の方には特に正しい性感染症知識を知っていただく、それを生徒に伝えていただくということも重要です。

 それから保菌者が、HIVも同様ですけれども、適切な検査が受けられて、早期の治療に結びつけるシステムが求められます。心配だったら検査を早くする。そうでないと不妊になりますよと言った啓発も必要。感染を放っておくといろいろな問題があることの周知が求められます。

 これで多分、10分近く経ちましたので、あと5分でざっと流します。

 これは、実は私どものこの研究班の研究分担者になっていただいている私のお隣の席におられる白井先生は、この委員会には行政から出ていただいていますけれども、この研究班では非常に重要な研究分担者でございまして、これは厚労省から昨年、要望がありまして、白井先生が中心となって若者への啓発スライドを作成したものです。以前、日本性感染症学会が日本思春期学会と共同でつくっていたものがあったのですけれども、もっと性感染症に特化したものをということで、急いで白井先生のグループでつくっていただきました。これは日本性感染症学会のホームページトップ画面から誰でもアクセスできるようになっています。PDF48枚、しかも白井先生に書いていただいた解説つきです。

 こういうような目次で、どういう感染経路があって、どんな病気がるのか、もちろんエイズのことも書いていますし、Safer sex、コンドーム、この辺のことを解説しています。

40枚も見せられませんが、抜粋して一部をご覧に入れます。

 性感染症はどういうふうに伝播していくのかという説明です。

こういうふうに、ペニスとバジャイナの絵を描いて、病原体というのがいるという説明です。

 いろいろな疾患がありますという説明です。

 非常に軽いものから、ほっておくと命にかかわるものもありますよという説明です。

 梅毒もリバイバルがあるということですね。それから先天梅毒のことなどの説明です。

 それから、Safer sexの説明です。

 教育啓発には当然コンドームの話をしなくてはいけないので、正しいコンドームの着け方、注意点です。

 財布に入れていたら破れるというようなことも書いています。

 冗談ぽく、コンドームを持っている人は、エロい人ではなく、偉い人だということも書いてあります。

 それから、幸せになるためにできることということでの、もろもろの記述です。

 もっと勉強したい人は、ガイドラインを誰でも見られますよとそのURLも記載しています。これは中高生も自学自習できるということで、白井先生を初め、5名のエキスパートにつくっていただきました。

 咽頭感染というものは、淋菌でもクラミジアでも、性器に感染している人の何割かが咽頭にもそういうものを持っていますよというデータです。

 

 それから、梅毒も結構、口腔咽頭梅毒というものがあり、見逃されているということを、東京女子医科大学の余田先生が以前から警告を発しております。

 このbutterfly appearanceとか、これ皆様、一目瞭然と思うのですが、こういう特徴的な梅毒の口腔内2期疹、2期病変です。

 こういうところに梅毒の病原体が多数います。ですから、オーラルセックスすると、感染を受けて男性のペニスに初期硬結ができるということになりますです。

 それとか、こんなふうに見えます。

 このように舌の裏に乳白斑をつくったりします。

 これは先天梅毒です。先天梅毒は、いろいろな徴候があって、新生児の顔のところにしわが寄ったようになっていたり、いろいろ報告がありますが、こういう全身の落屑様の変化が見られることもあります。先天梅毒も、小児科医が見逃すと大変なことになるので、こういうふうなことの啓発も今後必要かと思います。

 先天梅毒は感染研の砂川先生のグループが非常に丹念に調査されていまして、これは昨年、13例あったわけですが、今年はそれをすでに超えているようです。

 それを個々に調査されると、東京がちょっと多いですけれども、全国にまたがっているということです。

 若年妊娠、未婚、性産業従事歴あり、こういう人たちのところからの出生が確認されています。ですから、妊婦健診をもう少し充実させて、何回も梅毒は妊娠中に調べなくてはいけないのではないかとか、そういう提言をさせていただいております。

 以上です。

○岩本委員長 ありがとうございました。今の荒川先生の御説明に関して、御質問、御意見等ありますか。

 味澤先生、お願いします。

○味澤委員 荒川先生にお聞きしたいのですが、調査した医療機関というのは、定点と一緒なのですか。

○荒川委員 定点ではなくて、7県の医師会に登録されている全ての産婦人科、泌尿器科、皮膚科のクリニックないし、それらを病院で標榜しているところです。兵庫県ですと500機関以上あります。

 ただ、調査の過程で、調査票の中に定点か、定点でないかか、丸をつけるところを設けておりますので、もし、定点のところだけ集計しようと思えば、できる準備はしておりますが、現状ではそこまでの解析はしておりません。

○味澤委員 というのは、定点で見ると性感染症は梅毒以外はふえていないのですよね。なだらかに落ちていて。先生のデータを見ると梅毒以外も増えており、随分違うので、そこら辺を考えなければいけないのかなと思いました。

○荒川委員 これは、先ほど白井先生もおっしゃったように、定点が随分以前から固定された定点で、性感染症がほとんど来られないようなところも残っているので、そこをどう考えるかということがあると思います。

○岩本委員長 大平参考人、お願いします。

○大平委員 お尋ねしたいのですけれども、性感染症に関する予防指針について見させていただくと、言葉は余りよくないですが、救いがないなと思うところがあります。やはり医療の提供というところが、もう少しはっきり書かれていないと、性感染症に対してのいろいろな取り組みというところが弱くなるのではないかと気になりました。

 ずっと昔の話なのですけれども、エイズに対してどういうふうに取り締まっていくということで、性病予防法でやるか、単独立法をつくるかどうかというところで、私たちはもめたことがあったのですね。性病予防法にするには、救いがある分、救済の部分というのですかね、そういうものを十分取り入れて、そして、改正性病予防法ということであれば、うまくいくのではないかなと思っていたのですが、エイズ予防法が立案されてしまって、そちらのほうへ行ってしまったわけです。

 そういう意味で、もう少し今の時代を考えて、性感染症がふえていくような要素が多分にあるとしたら、それに対しての治療機関の確保とか、そういうものを何か国の施策の中に取り組むような形で、みんな割とかかりやすい環境をつくっていくということも大事ではないのかなと思いました。

○荒川委員 確かにおっしゃる通りで、医療機関にどうアクセスしていいかとか、検査はどこへ行ったらどう受けられるかとかいうことは、この指針を読んでもわからないのです。この指針は一つの考え方としては立派に筋が通っているのですけれども、そういったかみ砕いたことが余り書かれていない。しかも、疾患別の解説はほとんどありません。性感染症とはどんな病気かというイメージが湧かないのです。その辺があるので、私としては、これを研究班から見たときに、もう少し、先ほどの教育のことすなわち、必ずこういう教育を受けてもらうのだということであったり、個々の疾患に関して、こういう医療機関に行けば大丈夫だとか、そこで特定の診療科を記述するのは、法律的な文書の場合に可能なのかどうかは非常に微妙かもしれませんけれども、これだと、どこに行ったら検査を受けられるの、どこに行ったら治してもらえるのかが、確かにわかりづらいと思います。

○岩本委員長 そのほかはいかがでしょうか。

 味澤先生、どうぞ。

○味澤委員 指針の項立てですが、エイズのほうは9項目で、性感染症のほうは6項目なのですけれども、基本的なところは同じだと思います。先ほど荒川先生が指摘されたように、前回の指針のときも確かに同じような議論をしたような覚えがあるので、性感染症にとっても教育は大事なので、いっそのこと、項はそろえたらいいのではないかと思います。性感染症のほうに9項目あっても少しもおかしくないと、先ほど読んでいて思いました。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 荒川先生に質問なのですけれども、性感染症は五類ですから、国籍はそのままでは感染源の調査はでてこないのですけれど、病院の調査をしたときは、どのくらいのパーセントが日本人なのでしょうか。マイグラントポピュレーションを知りたいというというだけですよ。国籍的に分けようというのではなく、流動人口がどのくらい関与している可能性があるのかというのを考えるために割と大事だと私は思っています。

○荒川委員 国籍の記載は調査票では求めていません。もし、重要と思われるのでしたら、2017年度が一つのまとめの年になりますので、その年度の調査にそれを盛り込むことはできます。今までは記載しておりません。

○岩本委員長 HIVの歴史でも、92年に外国人女性がふえていると、当時は国籍条項をエイズ予防法で取っていたので、よりはっきりと出ていて、それが減ったのです。新規ですけれども。今、逆に言うと、特に東アジアの人々の動きが活発になってきていますので、そういう意味での流動人口と考えられる人たちとどうかと、医療体制とも絡むし、外国人の医療をどうするのかという問題にも絡むので、比較的大事だと思っております。

 それ以外いかがでしょうか、エイズと一緒の論点でも結構です。

 白井先生、お願いします。

○白井委員 前回の性感染症予防に関する予防指針の改定にも、私はかかわらせていただいたのですけれども、その当時もエイズと一緒に議論したらどうかという話もありながら、並行してやれなかったというか、最後だけ一緒に字面を合わせたみたいなところもありましたので、その辺では今回は一緒にできるということはよかったのではないかなと思っております。

 この際、指針自体を一緒にするというところまではいっていないのかもしれませんけれども、感染経路としては共通することが多いですし、対応にしても、自治体が受ける場合については、エイズであろうが、性感染症であろうが、同じ予算の中でやっていますので、共通したものを統一したほうがいいかなと思います。

○岩本委員長 指針としては別につくるようですけれども、共通項はできるだけ共通として扱えればよろしいと思っております。

 横幕先生、お願いします。

○横幕委員 項立ての件で少し御意見を申し上げたいと思うのですが、第8項の人権の言葉の定義をどう定めるかだけは御議論いただきたいと個人的には思っております。確かに、医療をどこまで捉えるかというところに関して、ここは定まってくるかと思いますが、予防指針、その後、医療の提供というところにどこまで絞るかということもあるのですけれども、差別、偏見なく、安心して医療を受けられるというところまでにとどめる、もしくはもっと広いところまで定めるか、要は人権という言葉の定義、言葉をどう定めて、どう指針の中に盛り込んでいくかは、性感染症の方とも一緒にするということであれば、ぜひ、御議論いただきたいです。

○岩本委員長 もう少し、自分の考えで言っていいかと思います。ぼやっとしてよくわかりません。

○横幕委員 実際、例えば、医療の役割として生活支援云々とか、差別、偏見なく安心して生きていく、セクシャルマイノリティーの方のサポート、もしくは個別施策層の中に、薬物の方の問題もあり、外国人の問題もあり、教育の問題もあり、全て盛り込んでいくときに、少し荷が重い、もしくは少しフォーカスがぼけるという考えは持っております。

 予防等の指針で、病に苦しむ方を少なくする、もしくはなってしまっても安心して治療が受けられる、そこから新たな感染者を生むリスクを減らすというところをしっかりするのであれば、予防指針でしょうべきところを絞らせていただけると、もう少し骨の通った指針になるのではないかと、個人的に思っております。

○岩本委員長 人権とその医療の関係が、よくわからないのですが。

○横幕委員 全てを盛り込んでしまうと、少し大変かと思います。正直、医療のしょうべきところが少し大きくなり過ぎる気がします。私たちの役割としては、きちんとした医療を提供すること、全ての方が安心して医療を受けられるような体制をつくることです。そこで得られた情報を行政等に提供していくことが基本だと思いますので、そこにフォーカスがいくというか、ある程度、専念でき、きちんとした医療本来の役割を果たすというところに絞っていけるような形で決めていただけるといいかと思います。

○岩本委員長 それはそれでいいのではないですか。やはり医療の役割は、基本的には病院、医療施設の中でやるのだろうから。

 味澤先生、お願いします。

○味澤委員 横幕先生は普段、病院だけなので、医療という面だけになったと思うのですけれども、指針の場合、別に医療だけでなく、行政とかさまざまなところで、この国のこの領域の今後5年間の指標になるものだと思います。人権というのは医療だけではなくて、いろいろなことを含んでいるので、そういうふうに御理解していただいたほうが良いのではないかと思います。

○横幕委員 基本的なところは充分理解しております。特に血友病の歴史等については充分把握しているので、各先生方、行政等が、そこを包括的にしょうという形の指針にしていただきたいというのが趣旨であります。

○岩本委員長 俣野先生、お願いします。

○俣野委員 今回の見直しにおいて、この5年間で新たにわかってきたこと、あるいは、現状を見て、今後、新たにという考えで検討することについては十分理解できているのですが、もし、5年前の改定において積み残し、あるいは先送りにしたような議論があるようでしたら、次回にでもその情報をそろえておいていただけると、参考になりますので、できましたらお願いします。

○岩本委員長 荒川先生、お願いします。

○荒川委員 味澤先生も白井先生も前回も委員なのですね。ここの中に、前回も委員されている方が何人もおられるかと思うのですが、多分、口腔咽頭感染というのは、性感染症の特定感染症予防指針のほうに前回初めて入ったのですね。コンドームが明記されたのも前回ですか。要するに、5年前にできたとき、何が新たに入ったのか教えていただければと思います。先ほどのご意見にあった積み残しも、それから見えてくるところもあるかと思うのです。

 今回、実際に起こっていることを考えると、2012年まで梅毒がほぼ横ばいであって、この指針が出た後に、2013年からなぜか増えているのです。それは今後5年間、さらに増え続けるのかどうかとか、そういうことは見越せるのか。見越せるのであれば、梅毒のことをある程度特化して書くべきかと思います。

 私は前、9月の終わりぐらいに厚労省にお邪魔して少しだけ意見を申し上げたことがあるのですけれども、こういう形の指針の文書には、個々の疾患の解説はそぐわないというご見解があったようです。性感染症の場合、5大疾患の名称、指針の最初にぼんと書いてあり、後の検査のところでも、少し各疾患のことが書いてあるけれども、具体的にこの疾患はこういう検査をするとか、増えているとか、減っているとか、そういうことは全然言及していないので、そこまで踏み込んで、そうすると医療ガイドラインとどこが違うのだみたいになってしまうかもしれないですけれども、そこの根本的に書きぶりですね。こういうふうに全体的にアバウトにと言うと語弊がありますけれども、何々が重要である、何々が必要であるというふうな文書で、一貫してやるべきことだけ書いていくのか、実情がこうだからこうですと、もっとプラクティカルなものにするのかというのは気になります。

○岩本委員長 定点報告と個別報告とが違う疾患などについては、私は書いてもいいと私は思うのですが、事務局はいかがですか。

○結核感染症課エイズ対策推進室長 事務局からお答えさせていただきます。

 基本的には予防指針、大臣告示という形で出させていただきますので、基本的に指針、まさに方向性についてお示しをするという形になる文書かと思います。そういう意味で言うと、先ほど荒川先生からございましたように、ある程度、診療のガイドラインとは違うものであろうかと思います。一方で、現状について、きちんと小委員会で御議論いただき、その上で、例えば前文とかで、端的にこういう状況であるというところは踏まえていただくことはあるとは思っております。

○岩本委員長 梅毒などは、今まで報告していなかった医療機関が、急に報告しているようになったとかはないのですか。

○荒川委員 梅毒は、私もいろいろなところから情報を聞くのですけれども、専門家の第一線の先生方も解釈はさまざまです。海外でも結構増えています。外国人観光客がふえてくると多少影響があるのかなという方もいます。証明する手立てはほとんどないのですが。

 第一線で毎日診ている医師の方は、いろいろと日本を取り巻く環境が変わってきているということもあるのではないかとおっしゃいます。

○岩本委員長 そのほかいかがでしょうか。

 どうぞ。

○白井委員 前回の積み残しとおっしゃっていた中に、定点のあり方というのが、やはりちょっと消化不良だなというところもあります。口腔等の性的接触というのを入れていただいた中で、その実態が把握できないような定点になっていますので、例えば耳鼻科であるとか、口腔外科がいいかどうかはわかりませんけれども、いろいろなところが全身性の疾患としての性感染症を診る、何かそういうものが拾えるような形の定点のあり方も必要ではないかなと思っております。

○岩本委員長 ありがとうございます。

 いかがでしょうか。どうぞ。

○松下参考人 両方ともそうなのですが、文章が長いですよね。若い人は読まない、読みにくい。これは官僚用語だからしようがないと言われるかもしれませんが、もう少し文章を簡潔にしてはどうかなと思いますけれども、どうでしょうか。

 先ほど、高久先生からも御指摘がありましたが、誰がどこで何をしなければいけないかがわかりにくい文章になっているのですよね。その一つの理由は文章が長いからだと思います。

○岩本委員長 事務局、お願いします。

○結核感染症課エイズ対策推進室長 文章に関しましては、いろいろな有識者の御意見を踏まえて書いているものでございますので、どうしても先生方の御意見を踏まえて書いていくと長くなってしまうというところもあろうかと思います。

 一方で、ここの文については、先生方の御意見で削ってもいいという話がありましたら、そこは削られる部分だと思いますので、そこについても忌憚のない御意見をいただければと思います。

○岩本委員長 それ以外に何か。きょうは大体出尽くしましたか。

 どうぞ。

○白井委員 この際ですのでいろいろ言いたいのですけれども、誰が何をというのは本当に大事だなと思います。これを見るのは、自治体がこのような指針に沿って対策をとるというようなよりどころにもなるかと思うのですが、誰がと書かれたときに、例えば市町村ということだと、ちゃんと市町村の予算が確保できるのかということにもなると思いますし、そのよりどころをきちんと、厚生労働省に要求できるのかということにもなると思いますので、以前のときにもその辺はあいまいにされてしまったのかなと思います。

 それと、言葉が長いとおっしゃった中で、読みにくいということになると、他人ごと意識が高くなると思います。誰もが、もちろん自治体というか、その対策をとる人たちが読めるということにもなるとは思うのですが、ある程度は、自分たちの他人ごと意識がないような、これが日本の性感染症、またはエイズの予防指針として、みんながアクセスできるような内容になればいいかなと思っています。

○岩本委員長 それでは、大体よろしいですか。参考人の方々もよろしいでしょうか。

 どうぞ、大平さん。

○大平参考人 誰がというところでは、国と都道府県が一番挙がっているわけですけれども、本当に国がきちんとやっているというかというと、積み残しはいっぱいあると思うのです。そこが、今度、予防指針をつくるときには実行していただきたいというのが一番の本音です。

 最終的には国の方針というのがここに定められているのですけれど、このうちのどのくらいが実行されているのかどうかというところが、誰も評価していないのでわからないのですけれども、見させていただくと、これもやっていないな、これも足らないなというのが結構あります。そこは、もし、指針を立てるとしたら、ちゃんと責任を持って実行するということを願っています。

○岩本委員長 事務局はこういうところ、次に向かって何かというところはありますか。

○結核感染症課エイズ対策推進室長 今、さまざまな御意見をいただきましたので、これについては次回以降、座長とも相談させていただきながら、また各委員も個別にまた必要な情報がございましたら聞かせていただいて、そこを加えた上で、恐らく今、大平参考人からもございましたけれども、課題がどういうところになっているのかですとか、あと、現状と課題ですね。それプラス、本日、こういうふうにすべきであるという方向性についてももらっておりますので、そういうところについて整理をさせていただくことは、一つあるのかなと考えております。

 また、本日、幾つか事務局のほうから資料として出してほしいというものがございましたら、座長と御相談させていただきながら、次回、準備をさせていただきたいと考えております。

 いずれにしても、小委員会におきまして、現状の指針、それも含めた指針に書いているこういうところができている、できていないというところを評価をいただいて、それを踏まえて新たな指針を改定していくという作業をしていきたいと思っておりますので、急ピッチな会議になるとは思いますけれども、引き続きよろしくお願いしたいと思います。

○岩本委員長 先生方の御意見を踏まえて、先生方へ直接、事務局から御意見を伺うこともあるかと思いますし、その有識者の御意見も伺った上で、今日の議論をもとに、事務局から論点等について、整理をして資料を出させていただくということでよろしいですね。

 次回、第2回は1月23日の午後2時ということになっています。

○結核感染症課エイズ対策推進室長 今、委員長がおっしゃいました、第2回の開催につきましては、1月23日の14時から開催を予定しておりますので、よろしくお願いします。

○岩本委員長 それでは、長時間、どうもありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 


(了)

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