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2016年3月9日 第5回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会 議事録

労働基準局

○日時

平成28年3月9日 16:00~19:00


○場所

中央労働委員会 労働委員会会館 7階講堂


○出席者

荒木 尚志 大竹 文雄 垣内 秀介 小林 信
高村 豊 土田 道夫 鶴 光太郎 徳住 堅治
中山 慈夫 長谷川 裕子 水口 洋介 村上 陽子
八代 尚宏 山川 隆一

○議題

諸外国の労働紛争解決システムについて(ヒアリング)~イギリス・ドイツ・フランス~

○議事

○荒木座長 それでは、定刻の少し前ですけれども、ただいまより「第5回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催いたします。

 委員の皆様におかれましては、本日も御多忙の中、御参集いただき、ありがとうございます。

 本日は、石井妙子委員、岡野貞彦委員、鹿野菜穂子委員、小林治彦委員、斗内利夫委員、水島郁子委員、中村圭介委員、輪島忍委員が御欠席です。

 なお、おくれて到着予定の土田道夫委員は、途中で御退席されますので、あらかじめ御了承ください。

 本日の議題ですが、前回委員の皆様にお伝えいたしましたとおり、諸外国の労働紛争解決システムについてのヒアリングです。ヒアリングに当たり、イギリス、ドイツ、フランスの労働法を専門的に研究しておられる3名の先生にお越しいただいております。先生方の紹介を事務局よりお願いします。

○松原労働条件政策推進官 それでは、本日ヒアリングをさせていただく先生の御紹介をさせていただきたいと思います。

 座長から向かいまして左側からですけれども、イギリス法の専門家でいらっしゃいます立教大学法学部国際ビジネス法学科准教授の神吉知郁子先生でございます。

○神吉准教授 神吉でございます。よろしくお願いいたします。

○松原労働条件政策推進官 続きまして、ドイツ労働法の専門家でいらっしゃいます労働政策研究・研修機構研究員の山本陽大先生でございます。

○山本研究員 山本でございます。よろしくお願いいたします。

○松原労働条件政策推進官 最後に、フランス労働法の専門家でいらっしゃいます、労働政策研究・研修機構研究員の細川良先生でございます。

○細川研究員 細川でございます。本日はよろしくお願いいたします。

○松原労働条件政策推進官 続きまして、配付させていただいております資料の確認をお願いしたいと思います。

 本日の資料でございますけれども、資料1-1、資料1-2、資料1-3の順番に本日お越しいただいている先生方の資料としまして、イギリス、ドイツ、フランスの順番に用意させていただいております。

 また、事務局から参考資料といたしまして、今までの本検討会の資料から今回の議題の関連部分を抜粋させていただいたものをつけさせていただいております。最後のほうに、ちょっと字が小さいという御指摘もございましたので、少し字を大きくしたA3の表をつけさせていただいておりますので、こちらも御参照いただければと思います。

 以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、本日の進め方ですけれども、まず、各国の労働紛争解決システムについて、お越しいただいた三先生より御説明いただき、それぞれ質疑・応答を行った後に、委員の皆様と全体的な議論をさせていただくという流れにしたいと考えております。

 それでは、早速ですけれども、神吉先生よりイギリスの労働紛争解決システムについての御説明をよろしくお願いいたします。

○神吉准教授 それでは、早速イギリスの個別労働紛争解決システムについてお話ししたいと思います。

 まずは全体像ということで、最初に表を挙げておきました。イギリスでは紛争解決を担う中核的な組織として、雇用審判所があります。まず、制定法で定められた各種の権利に関しては、雇用審判所を第一審の審判所として紛争が処理されることになります。以前は、コモン・ローにおける契約違反に関しては、通常裁判所ルート、2本の筋でいうと下の筋になりますが、県裁判所、高等法院、控訴院、最高裁判所というルートで処理されていたのですが、雇用終了に関する訴えの一部に関しては、雇用審判所を第一審判所として訴えが提起できるようになりました。

 第一審が雇用審判所の場合、第二審は雇用控訴審判所になり、そちらは法律審です。これに不服がある場合は控訴院という通常裁判所のルートに移行することになり、最終的には最高裁判所まで争うことができます。ですので、この四角で囲んであります雇用審判所、雇用控訴審判所、控訴院、最高裁判所というのが通常の制定法上の権利あるいは雇用終了に関する契約違反の一部に関する通常の審級ルートになります。

 この雇用審判所というのは、通常の裁判所と違う点がございまして、雇用審判官という法曹と、労使の審判員の三者構成で訴えが処理される点に特徴があります。ただし、雇用審判官という法曹の単独審理も可能でして、実際上は今、非常に事件数がふえていることもありまして、単独が通常の形態になっているようです。

 また、雇用審判所の特徴として、通常訴訟よりも迅速・柔軟な手続が可能となっております。弁護士による代理を利用するケースが近年では75%と増加傾向ではあるのですが、弁護士による代理を利用せずに、例えば、家族、友人、組合の職員などを伴った訴訟も可能です。

 法律審である雇用控訴審判所に対しては、上訴が認められる法的な論点を含むケースが非常に少ない状況です。

 近年の特徴として、イギリスと日本の大きな違いかと思うのですが、雇用審判所に対する申し立てが非常に多くなっており、濫訴防止の観点から、利用料金が導入されました。具体的には2013年7月29日以降、申し立てに関して、申し立てそのものに対する料金と、審問を利用した場合の料金というものが、そこに掲げてある表のとおり適用されています。これは、まずは訴訟のタイプによってタイプAとタイプBと分けられます。タイプBのほうが若干複雑な訴訟になります。

 申し立て料金としてタイプAを例示しますと、160ポンドとなっております。周知のとおり、ポンドは非常にボラティリティーの高い通貨ですので、これを幾らとするかで若干印象も変わりますが、ここでは170円として、あくまでも御参考までに計算しております。タイプAの申し立て料金が160ポンド、それから、審問利用に進んだ場合は230ポンドで、かなり高いと言えます。これが1人で申し立てをする場合で、共同申し立ての場合は申立者の人数によって2~10人まで、11200人、200人以上といった申し立て料金が下記の表のように決められてございます。

2015年の第1四半期の申し立ては5,400件でしたが、利用料金が全額支払われた事案は70%未満です。料金減額が認められた事案が21%あるのですが、不払いで、かつ減額も認められず却下される事案も出てきています。

 行政システムに関しましては、近年、先ほどの司法システムと密接に絡んだ改正がなされています。行政システムの中核を担うのは、助言仲裁あっせん機関、いわゆるACASという機関で、予算は政府から下りているのですが、運営は独立の機関です。当事者の任意による紛争解決を促進するという位置づけです。

2014年4月6日から、雇用審判所への申し立て以前に、ACASへの早期あっせん申請が義務化されています。これは無料なのですが、それまで労働者は直接雇用審判所に行くことができたのが、まずはACASに対してあっせんを申請しなければいけないことになりました。

 あっせん申請の流れは、枠で囲んだ部分のとおりです。まずは、労働者、使用者または代理人がACASに対してメール、電話、郵便などであっせん申請を行います。そうすると、ACASから早期あっせん支援官が申請者に対して連絡をとります。ここで、あっせんの利用の意思を確認します。この段階で利用の意思がないことがはっきりした場合は、あっせん申請をしたという証明書が出ます。これを持って訴訟に移ることができます。利用の意思があり、かつ、両当事者が同意している間は、あっせんの手続が進みます。この手続は原則1カ月以内を目途として、あっせんの進行は通常、電話で行われるということです。

 あっせんが不調に終わると、あっせんが不調であったという旨の証明書が発行されて、これを持って審判所へ訴えを提起することが可能となります。合意が成立した場合は、あっせん合意書の作成・署名を経て、合意書が法的に両当事者を拘束し、同じ事案に関する審判所への訴えはできなくなります。なお、ACASによる仲裁の利用はほとんどなく、イギリスの場合は私的仲裁の余地もほぼないということを申し添えておきます。

 次に、紛争解決に至るまでのプロセスなのですが、ここに紛争処理件数のグラフを挙げておきました。まず、()ですが、最初のグラフは経年変化割合で新受件数と未済件数を挙げてございます。申し立て料金を導入したのが、2013年の第3四半期にあたります。左のグラフで見ていただきますと、ちょうど新受件数が大きく落ち込んでいる部分です。申し立ての有料化の影響がわかります。

 未済件数も2013年の第3四半期からダウントレンドになっており、審判所の処理件数に申し立て料金の導入が非常に大きくかかわっていることがご覧になれるかと思います。

 実数の表を2ページの下に挙げておきました。ここは単独申し立てと共同申し立てということで数を分けてございます。20122013年にかけては単独申し立てだけ見てまいりますと5万4,000件ぐらいだったものが、有料化が導入された20132014年にかけて、3万4,000件に減っています。そして、20142015年にかけては1万6,420件というふうに、申し立ての有料化以降は申し立ての数が落ち込んでいます。

 共同申し立てに関しても同じような傾向が見てとれまして、一番下の総受理件数をみると、3分の1ぐらいになっています。

 ちなみに「うち不公正解雇事件」と共同申し立ての下に書いた部分は、単独申し立てと共同申し立てを合わせた中での不公正解雇事件ですので、この数には単独と共同の両方含んでいるとご理解下さい。

 次に、処理期間については、申し立て受理から最終判断までの期間を、2015年の第2四半期の数字を挙げてございます。これに関しても、単独申し立てと共同申し立ての両者を合わせた数の中から不公正解雇事件を挙げております。

 これは、中央値で見ていただいたほうがよろしいかと思います。単独申し立ては大体22週未満、共同申し立ては判断自体が非常に複雑であることや、ほかの期間の審理を待って審理が停止されることもあることから、1~2年未満と若干長くなっています。

 不公正解雇事件だけ見ますと、大体中央値で24週ぐらいがめどとなっております。これは平均が35週未満ということからすると、やや短いというか、それほど長期化するわけではないといえます。なお、一番長いのは差別事件という統計が出ております。

 次に、解雇の金銭解決制度でございますが、まず、基本的な不公正解雇の救済法理を確認しておきます。

 イギリスでは、勤続2年以上の「被用者」と定義される労働者は、使用者から不公正に解雇されない権利が認められています。この「不公正」というのがどこで判断されるかということですが、2種類ございます。まず、解雇の理由が一定のものである場合は、自動的に不公正解雇と判断されます。自動的不公正理由としては、例えば妊娠・出産、産休や育休の取得、短時間労働者であることや有期労働者であること、それから、最低賃金の適用を求めたこと、労働組合員であることなどが列挙されております。これは制限列挙です。

 これ以外の事由に基づく解雇の場合は、さまざまな事由を勘案して当該使用者による解雇が合理的だったかどうかということについて審判所が公正・公平に判断することになります。その内容は、労働者の能力や資格がどうであったか、あるいは労働者の行為がどうであったか、それから、剰員であるか否かなどを見ます。その他、解雇を正当づける実質的な理由があるか否か、これを個別に考慮することになります。

 このような観点から、不公正に解雇された判断された場合の救済方法ですが、法的な原則はあくまでも原職復帰か再雇用になります。この場合、原職復帰というのは完全に元の仕事に戻ることで、再雇用というのは違う職種で同じ使用者のもとに戻るという違いがあります。これが命ぜられるかどうかについては、当該労働者の希望や具体的な実現可能性、妥当性などを考慮されます。これが認められる場合には、逸失賃金の支払いも認められます。

 原職復帰・再雇用が認められない場合には、二次的な選択として金銭補償がなされます。資料では3段階構成としましたが、3種類あるという意味で、実質的には最初の2つを合算するのが原則です。まず、1つ目に基礎裁定額というものがあります。これは年齢と勤続年数で算出されます。注7に挙げたとおり、22歳未満は勤続年数×週給の半額、2240歳は勤続年数×週給額、41歳以上は勤続年数×週給の1.5倍という額で計算されます。ただし、これは金銭補償額の最低限を画するものではなく、労働者の行為や、剰員整理手当など別途受けとっている補償金などがある場合には、相殺されます。これが全額減額されることもあります。

 次に、補償裁定額というものが付加されることがあります。解雇によって生じた損害のうち、使用者の行為に起因すると認められる額が、補償裁定額の内容となります。これには消極損害と積極損害の双方が含まれます。基本的には、この2つの合算によって金銭補償がなされるわけですが、使用者が原職復帰や再雇用命令などの審判を履行しない場合にのみ、付加裁定額というものが付加される場合があります。

 次に、不公正解雇事件の処理結果に移る前に、第2段階目の補償裁定額の算定要素を4ページの()で見ていきます。損害の算定基礎は法律上に定めがあるわけではなく、審判例からわかる部分です。

 解雇時から審問時までの税・社会保険料控除後の賃金額、いわゆるネットの賃金額です。それから、使用者からの付加的な給付がある場合は、それも加味します。これは民間医療保険に入っている場合に使用者が負担していた部分であるとか、あるいは自動車を貸与されていた場合には、その費用などを含むようです。また、将来の逸失利益として、解雇時の給与水準の再就職までに要する費用なども認められることがあります。ほかには、職域年金に加入できなかった損失、それから、法律上の権利救済要件を満たすまでの機会損失ということで、先ほど述べましたように、不公正解雇の救済を請求する権利の発生には勤続2年という要件が必要となりますので、そういった機会損失などを算定基礎として含みます。

 また、損害に算定しないものとしては、解雇後に何らかの収入を得ていた場合、たとえば賃金、休職者手当などの社会保障給付などがありますが、それらは損失から控除されます。また、労働者の行為に解雇の原因がある場合は、その部分も控除されます。また、精神的損害に関しては、そもそも対象となりません。

 それから、補償裁定額に関しましては、週給の52週分が上限とされております。ただし、これが現在のところ7万8,335ポンドを超えてしまった場合は、そこが上限となります。4ページで具体的な金額が2015年2月現在のものとしていますが、正しくは2016年、すなわち現在の額でございます。毎年4月に見直されますので、もう1カ月ほどしますとまた変わります。

 戻りまして、不公正解雇事件の処理結果の表です。これは、予審も含めた審問に進んだケースの数字です。棄却と認容が約半分ずつということになっています。

 認容のうち、現職復帰・再雇用は実数で5件、0.1%という数字です。したがって、あくまでも法律上は現職復帰・再雇用が原則ですが、そうでないものが圧倒的多数を占めています。認容の内訳を見ていくと、内容を当事者に一任するというものが8.4%、金銭補償というのが21.5%、補償なしも20.6%という結果です。

 先ほどの補償裁定金額ですが、金銭的な予測可能性の参考として中央値を見ると、20142015年の一番新しい数字で6,955ポンドです。この数字は20122014年にかけて若干上がっています。申し立て料金制度では、料金は訴額ではなく訴訟の内容で決まるため、少額訴訟がしにくくなっていると見る向きがございます。

 以上を踏まえまして、日本のシステムに対する示唆というのは非常に難しいところなのですが、まず、イギリスでは日本と違って、それほどアクセシビリティーを高めようという方向付けはなされていません。むしろ、濫訴を防止し、調停などで当事者の意思や事案に即した紛争解決をしていくことが重視されています。こういった前提の違いを念頭におく必要があります。

 また、解雇の金銭解決に関して、法的原則としては現職復帰・再雇用が掲げられているのですが、事実上はそのような解決が適する事案が多くないことが特徴です。

 また、金銭的補償の内容については、いろいろな要素があるなか、逸失利益が中心的に判断されると言えるのではないかと思います。

 以上、雑駁ですが、イギリスの報告とさせていただきます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、ただいまの御説明について、何か御質問等あればよろしくお願いいたします。大竹委員。

○大竹委員 御説明ありがとうございました。金銭補償の基礎裁定額の算式が3ページの注7に書いてあるのですけれども、この年齢と勤続年数で決まっている算式ですが、何かを根拠にしてこういう数字になっているというのは、どこかに書いてありますか。

○神吉准教授 数字の根拠についての明確な説明を見たことはないです。

○大竹委員 恐らくは、実態が大体今までの金銭解決の水準がこういうところにあったということですか。それは全然わかりませんか。

○神吉准教授 剰員整理手当と同じ計算なので、これまでの金銭解決の水準を法制化したというものでないことは確かです。

○大竹委員 何らかの理由があるのかなということを聞きたかっただけなので、特にどこかにこういう理由で基礎裁定額が決まっているという文章はないということですね。

○神吉准教授 これが導入された当時の立法資料を当たれば何か説明はあるのかもしれませんが、すぐにお答えできなくて申し訳ありません。

○荒木座長 この数字自体は明文になっているものですね。

○神吉准教授 そうです。

○荒木座長 実態の説明ではなくて、数字自体は文章化されていて、その根拠については今は明確にはわからないということですね。

 ほかにはいかがでしょうか。高村委員どうぞ。

○高村委員 参考となるお話をいただきまして、ありがとうございました。今お話をお伺いしていて率直に感じた疑問があるものですからお伺いさせていただきたいのですが、2010年代に入って濫訴を防止するために雇用審判のサービスの有料化ですとか、あるいはACASのあっせんを前置というお話があって、2ページ下に受理件数の数字をおまとめいただいているわけですが、改正前の20122013年と比較して、20142015年というのは総受理件数で見ても7割近い減少ということですね。濫訴を防止するという意味でいろいろな改正をされたとしても物すごい大きな減少だと思っているのですが、この大きな7割近い総受理件数の減少というのは、前置のACASでのあっせんでの解決が多くなされているからこういうことになっているのか、あるいはACASのあっせんで合意がなされず不成立で終わるというケースも多いのではないかと思います。しかし、システム的には次の雇用審判へ進むわけですが、やはり雇用審判サービスの有料化ということで、そこで多くの労働者が雇用審判へ申し立てるのをあきらめてしまっているということになっているのか、もし御存じであればお聞かせいただければと思います。

○神吉准教授 ACASでのあっせん手続では、約半分が和解などで解決に至ります。単純に考えると、ACASにはこの倍くらいの数が行っていて、そこで不調だったものが審判所に来ていると考えられます。

 御指摘のとおり、イギリスがこの制度を導入する際には非常に批判が多く、かつ、導入されてから提訴が7割減ということで、特に労働法学者の中では実際の権利行使を非常に難しくしていると批判が強いところです。濫訴防止が政府の導入のスローガンだったわけですが、濫訴すなわち使用者に対する嫌がらせ的な訴訟に関しては、相手方の訴訟費用などを負担させるといったようなことをしており、一応統計がとれています。実は濫訴自体の割合はそれほど減っていないという統計になっていて、実際には勝つ見込みがはっきりしていないような権利行使を制限する結果となっていると評価されています。それが本当に濫訴防止という効果があるかどうかは疑問で、かつ、正当な権利行使を妨げている部分が非常に大きいと評価されています。

○荒木座長 よろしいでしょうか。水口委員どうぞ。

○水口委員 ACASの申し立てですけれども、2014年にあっせん前提になったときに、当時でいいのですが、何件ぐらいACASに申し立てがあるのか。

 それから、先ほどACASの解決率が半分ぐらいだったということですが、それはあっせん合意が成立したという趣旨でよろしいのか。

 3点目ですけれども、雇用審判所(ET)の段階では審問だけなのか、ETでの和解みたいなものはあるのか、ないのか教えていただければと思うのですが。

○神吉准教授 ACASに関しては、早期あっせん申請が義務化される以前の数でしょうか。

○水口委員 あっせん申請の数みたいなものがわかれば。

○神吉准教授 義務化される前ですか。

○水口委員 どちらでも結構です。義務化した後でも前でも、もし、わかればで結構です。

○神吉准教授 ACASの件数の数え方が審判所と違うのでわかりづらいところがあるのですけれども、早期あっせん制度が導入された2014年には約6万件が受理されています。うち半分以上が和解と取り下げで、審判所の手続きに進む前に解決しています。

 それから、審判所の手続に進んでからの和解については、審判所での審問のときに随時当事者はACASのあっせんに移ることができまして、それも実際かなり使われているようです。審判所への申し立て後にACASにあっせん申請が来るのが、有料化前の2012年で6万8,000件ぐらい、有料化後の2014年で19,000件くらいで、その約半数が和解で解決します。件数の数え方で違いが出てくる可能性はあるのですが、それなりのボリュームがあって、申し立てはしたけれどもあっせんで終結して、訴訟自体は取り下げて終わるといったパターンも決して珍しくないというか、多いと言えます。

○水口委員 あっせん合意した数というのは先ほど半分ぐらいということでしたが、何件かというデータはあるのですか。

○神吉准教授 2014年のデータで訴訟前和解は約9,000件、その他の理由で審問に進まなかったのが約38,000件です。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。土田委員。

○土田委員 ありがとうございました。4ページの処理結果の表について何点か質問があります。まず、「認容」の中に「当事者に委任」という解決の仕方がありますが、これは当事者に委ねるということなのでしょうけれども、具体的にどういう処理をするのかというのが1つです。

 それから、「補償なし」というのは何を意味するのかよくわからないので、この点について教えていただきたい。

 それと、「認容」中の割合ですけれども、先ほどおっしゃったように、復職・再雇用が原則であるにもかかわらず実際には極めて少ないようですが、この割合の経年変化のようなものがわかれば教えて下さい。

 最後に、脚注7の先ほど質問のあった裁定額ですが、有期雇用の更新拒絶の場合も全く同等の計算式で行われるのかということについてもお願いします。以上4点です。

○神吉准教授 1点目ですが、当事者に委任というのはこれ以上のことは不明で、審判所自体がはっきりとした判断を示さなかったということしかわかりません。当初説明していなかったのですが、雇用審判所の審決は公開されておりませんので、そこから具体例でどういった審判が下されるのかを知るのは非常に難しいところです。

 また、補償なしという2点目の御質問ですが、これに関しては金銭的な補償がない、ただし、それが不公正解雇であったという宣言的な判決がなされるということになります。これは不公正な解雇であったのだけれども、金銭補償は適切でないという判断になるということです。

 それから、復職・再雇用の経年変化に関しましても、ここ20年ぐらいは1%を切っていますので、ずっと少ないと考えていただいて間違いありません。

 4点目、更新拒絶に関しても基本的には違う取り扱いはしていませんので、それが解雇と取り扱われる以上、同じ計算式が適用されることになります。

○荒木座長 ありがとうございました。山川委員。

○山川委員 ありがとうございました。1点だけ簡単な確認的なことですが、イギリスの場合は1つの背景は、不公正解雇制度ができる前は基本的に解雇自由といいますか、随意雇用の法制がとられていたことではないかと思いますが、もう一つは、コモン・ロー系の国なので、契約違反的なことに関しては損害賠償による救済が一般的な法制であり、前置き的なことですけれども、日本の労働契約法第16条のような解雇無効という法律行為が無効になるという発想は基本的には、この制度で裁判所が特別に命令する場合を除けばなかったというか、ないといいますか、そういう理解でよろしいでしょうか。

○神吉准教授 解雇自由かどうかについては違法解雇がありますので、違法解雇と不公正解雇の違いというのは説明すると長いのですけれども、コモン・ロー上も解雇予告手当を支払う仕組みはございました。損害賠償が基本だというのはおっしゃるとおりで、先ほど大竹先生からもございましたけれども、損害賠償が基本だという考え方のもとに、現在の金銭補償の枠組みもできているのではないかと思います。

 それから、解雇無効という救済がありうるかに関しては、イギリスでは無効とはしないとはっきりさせています。ある事案で、一定の解雇は無効にすると読めるEC指令をイギリスがどのように国内法化するかで、イギリスでも解雇無効が結論になるという判断をした下級審があります。しかしイギリスの最高裁では、イギリスでは解雇無効という解決はしていないんだということで、不公正解雇に関して解雇無効というのはいかなる場合であってもとらないということを明示しております。

○山川委員 手続的なものが違法解雇になるということは、私も言い忘れていましたが、おっしゃるとおりだと思います。

○荒木座長 鶴委員どうぞ。

○鶴委員 ありがとうございました。1点、ACASで早期あっせん、先ほどのお話だと半分ぐらい解決していますというお話でした。解決の仕方としては、多分、金銭的な解決というのが主だと思うのですけれども、そこでの実態というのは、先ほど雇用審判所で下されるときの大まかな計算式というのがあるわけですが、大体目安はそれと同じような決着のされ方をしているのか、それとももう少し低い金額でACASのあっせんは決着しているのか、もし情報があれば教えていただきたいと思います。私も、補償なしというのがあること自体かなりびっくりしたのですけれども、今の点をお願いいたします。

○神吉准教授 あっせんの中身は、審判以上にわかりづらいところがありまして、あっせん事例も基本的には公開されていません。特に金銭補償が合意された場合にそれが幾らかという統計もないので、お答えするのは非常に難しいところです。金銭的な解決、少なくとも審判所で幾らくらいの金銭補償がされるかということに関しては、世間でいろいろなカリキュレーターみたいなものが出回っていて、基本的にこれぐらいが出るでしょうといった予測が、勤続年数や年齢、ネットでの週給といったものを入力してわかるようになっているので、それが前提として共有されていると思います。実際にはケース・バイ・ケースで、過失相殺的な労働者側の理由が大きい場合には、そこから大きく減殺されるといった個別の事情が加味されることになろうかと思います。

○荒木座長 徳住委員どうぞ。

○徳住委員 ACASの受付は、メール、電話、郵便でも可能だと書かれている点に関連して、審理のときに日本の場合は同じ場所に集まってやるのですけれども、ACASのあっせんのときはメール、電話、郵便でやるのか、実際のあっせん手続きの進め方はどういう実態なのかということと、ACASであっせんするときの当事者に対する働きかけ、その程度というのは日本との比較ができれば、働きかけが強いのか、弱いのかを含めて御説明いただければと思います。

○神吉准教授 あっせんに関しては、ことしACASのあっせん官とお話をしたのですが、日本の感覚からするとかなり簡易な印象でした。あっせん利用の意思があるかどうかというのも電話一本で聞いて、ないですと言われたらそこで終わりだそうです。必ず対面でという原則もありませんし、とにかく事件数が多く、あっせん官もそれほど多くないので、迅速性を重視して、そこまで立ち入ってはいかないようです。

 あっせん申請もメールや電話でできるのですが、雇用審判所への申し立て自体もオンラインでてきて、フォームがあって、自分の名前や使用者、相手方を入れて、申し立ての内容を書き込んでそのままオンラインで送れるというフォームになっていまして、かなり簡便な手続です。申し立て料金もオンラインでクレジットカード決裁ができ、たしかに簡易・迅速ですが、日本の手続きのような重みはないかと思います。

○荒木座長 垣内委員どうぞ。

○垣内委員 御教示どうもありがとうございます。2点お教えいただきたい点がございまして、1点は、いただいた資料の4ページの20142015年の処理結果で、認容合計が50.7%という数字を示していただいておりますけれども、この認容率については御説明のあった申し立て料金の制度、利用料金の制度の導入の前後で増減があるのかどうか、具体的には申し立て料金を導入したことによって認容率が上がったというようなことがあるのかどうかを教えていただきたいと思います。

 もう一点ですが、同じくいただきました資料の2ページの上のほうで、ACASの御説明に関連しまして、*で私的仲裁の余地はほぼないということが書かれておりますけれども、ACASないし雇用審判所以外に、例えば民間機関であっせんであるとかメディエーション的な調整活動をしているところがあるのかどうかについてお教えいただければと思います。よろしくお願いします。

○神吉准教授 まず1点目の処理結果ですが、棄却と認容の割合は、約10年前は40%台だったことから、若干認容率は上がっていますが、劇的な変化はないと思います。この表は、審問に進んだケースの数字でして、かなりのケースが予審に進む以前で却下されるということから考えますと、却下される事件が多分大きく減っていると思われます。

 2点目ですが、私的仲裁に関しましては、制定法上の権利の多くが放棄できないという条項を伴っておりまして、そういった点から、仲裁ではなく、ACASあるいは雇用審判所での法的な手続に乗せることが原則となっています。特に、民間の仲裁が発展しているということは、イギリスで、少なくとも雇用関係に関してはないといえます。

○荒木座長 よろしいでしょうか。八代委員どうぞ。

○八代委員 どうもありがとうございました。2点お聞きしたいのですが、先ほどどなたかの御質問のときに、有期雇用の雇止めはこの中に入るのかという話で、入るというお話だったのですが、それは例えば日本の契約法みたいに期待権があるときにそれを破られたという意味なのかどうか。単に有期雇用であればイギリスでも契約期限が過ぎれば自動的に雇用契約が解消するのかどうかの確認です。

 それから、もう一つは3ページの注7ですけれども、いわば勤続年数に比例した補償金の額というのは、日本で言えば退職金とほぼ同じ算定方式だと思うのですが、仮にイギリスで労働者が解雇されたときにもらうものは補償金だけなのか、日本のような退職手当みたいなものがあるのかどうかを確認させていただきたいと思います。

○神吉准教授 まず最初の点、有機契約に関しては3ページの注5ですが、不公正解雇を定める雇用権利法上の解雇の定義として有機契約の更新拒絶が含まれています。2年以上の雇用継続をしている被用者に限りますが、更新をしないで雇止めにするということが、期待権とは関係なく、期間の定めのない労働者と全く同様の手続で不公正解雇の判断に乗っていきます。

 2点目に関しましては、特に退職金の定めは日本ほど一般化されておりませんので、それが契約上あれば格別、普通はないと考えられます。

○荒木座長 村上委員どうぞ。

○村上委員 4点ほど質問させていただきます。まず、政府は雇用審判所の申し立て手数料の導入は濫訴防止が目的だという説明をしているということですが、裁判所のコスト削減というような評価もあるのではないかと聞いております。その点はどうなのかということが1点。

 2つ目が、ACASが前置になったことでACASへのあっせん申請が大変増えているのではないかと思われるのですが、急に前置になったことで申請件数に対応する体制が十分だったのかについて、どのような評価がされているのでしょうか。

 3点目は、先ほど「申し立て手数料の導入は正当な権利の行使を妨げることになっているのではないか」という批判もあるとのことで、イギリスの労働法学者の中でもそのような批判が強いとのことでしたけれども、実際問題になっていないのか。申し立て手数料の導入に対し、労働組合などが異議を申し立てたということもあると聞いておりますけれども、その点を教えていただきたいと思います。

 最後に、申し立て手数料の導入とACASの前置がダブルできいているというような評価もあるかと思っておりまして、使用者はACASの早期あっせんの際には和解に応じなかったのだけれども、雇用審判所に申し立てられたことを受けて初めて、それだったら合意をしようかということで、そこから合意の交渉を始めるというような使用者の行動も招いているのではないかという見解もあるようなのですが、その点についても教えていただければと思います。

○神吉准教授 まず1点目、手数料の導入が濫訴防止だけでなく裁判所のコスト削減なのではないかということは御指摘のとおりで、非常に審判所の負荷が重くなっていることが予算的な観点からも問題視されております。ただ、それをコストとは言わず、審判所の「ストレス」という言い方をするんですね。人的な意味も含めて、裁判所や審判所に対する負荷が非常に高くなっているので、それは負担を減らすべきだというような主張がなされていました。それは濫訴防止と表裏一体の理由だと考えられます。

 2点目、ACASの早期あっせん申請が急に義務化された問題ということですが、私の説明がミスリーディングだったかもしれませんが、「急に」前置となったわけではなく、それまでも雇用審判所への申し立てをしたときに、申し立てフォームの写しがそのままACASに送付されていて、今までもACASがあっせんを働きかけてきました。それがあっせんを受けなければ申し立てに進めないといった意味で義務化されたのが、当該義務化です。ただ、義務化で実質的にどこが変わったかは、徳住先生の御質問にもかかわるのですが、あっせんを続ける意思があるかを電話で確認して、なければそこで証明書が出て終わりということなので、それほどは大きく変わっていないともいえます。審判所だけではなくてACASの人員も非常にたくさん仕事を抱えているようで、申し立て手数料を導入したことで全体的な申し立てが抑制傾向であれば、むしろ、そこに効いているかもしれません。

 それから、正当な権利行使に関して組合がどう対応したかという点ですが、TUCを初めとするイギリスの組合は、有料化などの動きには非常に反発していて、正当な権利の侵害だと言っています。申し立ての有料化と同時に集団法も非常に労働組合の活動を制限するような方向で法改正がなされていて、組合の危機感は強いところでございます。

 それから、ACASのあっせん前置と有料化がダブルで作用しているのではないかという点は、先ほど述べましたように、ACASの早期あっせん申請が急速に何か大きな違いを生んでいるとは考えませんが、使用者側の行動としては確かにあっせん申請の段階では特に対応せず、予審から審問に移るところで様子を見てというところはあるかもしれません。

○荒木座長 それでは、中山委員の御質問を最後ということでよろしくお願いします。

○中山委員 御説明ありがとうございました。私は2点。レジュメの4ページの不公正解雇事件の処理結果で、認容の部分で判断について、使用者に対する拘束力について教えていただきたいのですが、復職・再雇用を命ずるような判断が出た場合には、使用者は復職・再雇用を法的に義務づけられるのかどうかが1点。その上に付加裁定額というものがありまして、復職・再雇用命令を履行しない場合に命じられるというので、強制させるために付加裁定額があるわけですが、先ほどの義務づけとの関係で単に付加裁定額が命じられるだけなのかということで、ほかに義務がなければ、その場合、付加裁定額の上限がどのくらいなのか、もしわかるようでしたら教えてください。

 2点目は、4ページの()の補償裁定額の判断要素で、損害の算定基礎となるもののうち、3つ目の将来の逸失利益が大きいという御指摘がありましたが、括弧でくくられた部分で、再就職までに要する費用ということですが、これは実際に当該労働者が再雇用までに要する期間、長い場合も短い場合もありますが、それも何か類型化されているのでしょうか。その点を聞きたいと思います。

○神吉准教授 まず、1点目なのですが、復職・再雇用に関しては、審判が出ましたらその履行が法的に義務づけられます。付加裁定額の上限は法律上は決まっていないので、審判所が適切と認める額を裁定することになります。何かほかにペナルティーはということなのですが、現職復帰あるいは再雇用の判断となった場合には、払われるべき賃金を支払わなければいけないことになります。それには審決の日から利子が発生するので、そういったところに金銭的なプレッシャーがかかるかと思われます。

○中山委員 再就職までに要する費用の2つ目の点ですが、それぞれの労働者が再就職まで相当時間がかかった場合に、かかった分だけの費用が加算されるのですか。そうすると、人によってまちまちですが、バラバラで算定されるのかということなのですが。

○神吉准教授 2点目に関しましては、どんなケースを想定しているかというと、解雇されてから争っている間、実際に別の仕事に就いているのだけれども、解雇された仕事よりも賃金等が低水準だった場合に、元の水準の仕事まで就ける段階を損失と見ているということです。今働いているところで収入があればそれは損害とは算定されないのですが、それがもともとの仕事よりは劣ったものである場合に、その差額のようなものを損害として、しかも、それがしばらく続く見込みがあれば、そこまでを見込みで算定していくということを含んでいます。

○中山委員 それは既に再就職をしている場合ですが、していない場合のような書き方になっていたものですから。

○神吉准教授 していない場合はもちろんです。

○中山委員 1年も2年もかかる人は、それまでの費用が全部逸失利益になると。あるいは1カ月後に再就職した方は、単にそれだけを見るようになるという計算なのですか。

○神吉准教授 そこまで硬直的ではなくて、当該労働者の年齢であるとか、資格や技術に鑑みた、就職のしやすさといったことも加味して決まります。それほどはっきりと決まっているわけではなくて、ケース・バイ・ケースで見ていく要素だと思います。

○中山委員 ありがとうございました。

○荒木座長 1点だけ確認なのですが、基礎裁定額についてもきょうは補償がないということで非常に関心を呼びましたけれども、労働者の行為も判断に入れるので裁定がゼロということがあり得ると。

 それから、補償裁定額について今も議論がありましたけれども、あくまでこれは裁定額を雇用審判所が判断するに当たっての要素であると。いずれについても裁判所の裁量があって裁定額が決まっているという理解でよろしいでしょうか。

○神吉准教授 そうだと思います。審判所の裁量も非常に大きいですし、ケース・バイ・ケースの要素の幅もかなり大きいといえます。基礎裁定額は計算式も決まっていますが、それで一応の金額が算定されたとしても、剰員整理手当の受給や労働者側の事情などで全額減殺されるぐらい、裁量の幅が大きくとられています。

○荒木座長 長時間にわたってありがとうございました。

 では、次にドイツに移りたいと思います。山本先生よりドイツの労働紛争解決システムについて御説明をお願いいたします。

○山本研究員 それでは、ドイツに関して御報告させていただきます。JILPTの山本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 まず、基本的にレジュメに沿ってお話ししたいと思いますが、まず、全体的なお話としまして、ドイツにおける労働紛争解決システムについて解雇紛争を念頭に、大きくは事前予防のシステムと事後処理のシステムという2つの観点から見ていきたいと思います。

 まず、事前予防という点に関しましては、ドイツにおいては従業員代表機関である事業所委員会というものがございまして、これが大きな役割を果たすことになります。といいますのは、ドイツにおいては使用者が労働者を解雇しようという場合には、事業所委員会に対して必ず意見聴取をすることが義務づけられておりまして、また、事業所委員会は一定の場合には解雇に対して異議を申し立てることが可能となっております。これによって事業所委員会のリアクション次第では、使用者は解雇を自制あるいは撤回するということもあり得るわけで、その限りにおいては、この事業所委員会というのが事前予防のために機能するということがあり得ることになります。

 他方、解雇が労働者に一旦通告された後のシステムに関して見ていきますと、これはドイツの特徴ですが、ドイツにおいは解雇紛争というのは全てと言っていいほど司法機関であります労働裁判所において処理されることになっております。日本のあっせんのような行政機関による解決システムというのは存在しておりません。また、いわゆる労働仲裁もドイツにおいては原則として認められておりません。

 また、日本の労働相談のような業務というのはドイツでは行政機関ではなくて、産業別の労働組合によって担われております。ドイツにおいては労働者が産業別労働組合に加入いたしますと、組合員は権利保護サービスを受けることができることになっておりまして、このサービスの中に法的な助言あるいは情報提供などのサービスが含まれています。

 そうしますと、ドイツの解雇紛争の大多数が労働裁判所で処理されている、その理由は一体何なのかといいますと、大きくは2つに分けることかできようかと思います。

 まず、1つ目としましては、日本と異なってドイツにおいては解雇訴訟というのは、いわゆる出訴期間が解雇通知から3週間に限定されております。要するに、ドイツの労働者というのは解雇に対して何らかの不服がある以上は、とりあえず労働裁判所に訴えを提起しなければならないということになっているわけです。

 しかし、その一方で、ドイツの労働裁判所においては、労働者が訴訟を提起しやすいような仕組みも同時に整備されております。といいますのは、ドイツの労働裁判所は第一審となります地区労働裁判所だけでも連邦全体に113配置されており、比較的アクセスが容易であるわけですが、それに加えて通常の裁判所と比べて費用が余りかからない仕組みとなっております。といいますのは、まず、労働裁判所の裁判所手数料といいますのは、通常、裁判所でかかる手数料の3分の2程度に抑えられておりますし、かつ、この裁判所手数料は日本と違って事前納付は不要となっております。また、訴訟が後ほど見ます裁判所の和解によって解決した場合には、この手数料はそもそも無料となります。さらに、労働裁判所においては第一審に限っては敗訴したとしても、相手方、多くの場合は使用者側ですが、その弁護士費用は負担しなくても済むことになっております。

 以上に加えて、実際にドイツの労働者がこれらの訴訟費用を自らのお財布から負担するということは実はほとんどありません。といいますのは、先ほど見ました産業別労働組合の権利保護サービスによって、労働組合の組合員であれば訴訟費用というのは組合から支払われることになっております。

 また、このほかにもドイツにおいてはいわゆる権利保護保険という保険が広く普及しておりまして、組合の組合員でなくてもこの権利保護保険に加入している労働者については、法的紛争の訴訟費用というのはこの保険からカバーされるということになっております。

 以上の事情が相まって、2014年の統計によりますと201,354件の解雇という非常に膨大な数の解雇訴訟が労働裁判所の第一審において処理されているわけです。

 また、処理期間で見ますと、この約20万件のうち約15万件が3カ月以内で処理されておりまして、大多数が比較的短期の間に処理されているものと言うことができます。この点は、後ほどもう一度取り上げたいと思います。

 以上が、紛争解決システムの全体的な話ですが、次に、解雇の金銭解決について見ていきたいと思います。

 既に、御案内の方もおられるかと思いますが、実はドイツの解雇規制における原則的なルールというのは日本とかなり似ております。といいますのは、ドイツにおいては解雇制限法という法律によって、およそ解雇というのは社会的に正当な理由が必要とされ、この社会的正当理由を欠く解雇は無効とされております。解雇無効原則が我が国と同様にとられているということです。しかし、ドイツにおいて特徴的でありますのは、金銭補償による労働関係の終了、すなわち解雇の金銭解決を可能とする制度も同時に幾つか整備されている点です。

 この点につきまして、まず第1に挙げられますのは解雇制限法1a条という条文です。ざっくりと申し上げますが、これは先ほど御紹介しました、ドイツにおいては解雇訴訟の出訴期間が3週間に限定されているということと連動したもので、この1a条というのはいわゆる整理解雇の事案において、使用者が労働者に解雇通知を送るときに、解雇通知の中でこの整理解雇に対して解雇訴訟を起こさないのだったら補償金を払いますよというようなオプションをまず書くと。そして、それを受け取った労働者が、そのとおりに3週間に何もせずに訴えを提起しなかった場合には、その労働者には使用者に対して補償金を請求できる権利が発生するというルールです。また、このときの補償金の額というのは法律の中でかっちり決められておりまして、勤続年数×月収×0.5という式で一律に計算されることになっております。

 この1a条というのは、2003年のドイツの労働市場改革に伴って導入されたルールで、いわば解雇訴訟の前段階における金銭解決制度を定めたものと見ることができます。ただ、実態としましては、この1a条というのは実はドイツにおいてはほとんど利用されていないわけですが、その理由は後ほど説明したいと思います。

 一方、いわゆる日本で議論されているところの事後型の解雇の金銭解決制度に近いものとしまして、ドイツの解雇制限法は9条、10条で解消判決制度を整備しております。これもざっくり申し上げますが、これは解雇訴訟が提起されて、その中で裁判所は、この解雇の正当な理由がないと判断した。しかし一方で、労働者・使用者当事者間の信頼関係がもはや崩壊してしまっているという場合に、労使いずれかの申し立てに基づいて、裁判所が解消判決という判決によって労働関係を解消し、かつ、使用者に対して労働者への金銭補償の支払いを命じるという制度です。この際の補償金の額というのは、月収の12カ月分を上限として、その範囲内で裁判官が特に勤続年数と年齢等を考慮して裁量によって額を定めることとされております。

 ただ、この解消判決というのは、あくまで解雇制限法の中では例外的制度として位置づけられておりまして、本当に当事者間の信頼関係が崩壊しているのがどうか、これを労働関係継続の期待不能性と言いますが、この期待不能性を根拠づける具体的な事実の主張・立証が要求されております。しかも、判例によって使用者からこの申し立てを行う場合には、特に、この期待不能性の判断は厳格に解釈すべきであるとされておりますので、ドイツにおいては、この解消判決制度というのも設けられてはいるものの実際上は活用されることは、まれなルールとなっているわけです。

 このようにドイツにおいては解雇制限法上、金銭解決制度というものが幾つか整備されてはいるわけですが、しかし、1a条も解消判決制度もいずれも余り使われてはいないと。では、そうすると、原則どおりドイツの労働者というのはみんな解雇無効で現職復帰しているのかというと、実はそうでもないようでありまして、ドイツにおける解雇紛争というのは、実は大多数が労働裁判所における和解によって金銭解決を行うことで終了しているというのが実態となっております。といいますのは、ドイツの労働裁判所というのは、もともと一般原則として和解前置主義がとられているわけですけれども、特に解雇訴訟に関して言えば提訴から2週間以内に必ず和解手続を実施しなければならないということになっております。また、この和解手続が不調に終わって判決手続に移行したとしても、判決手続においても裁判官にはできるだけ当事者間に和解が成立するように努力すべきこととされております。

 このように、まずは労働裁判所において和解のためのフォーラムが制度上設定されていることに加えて、裁判官としても通常、ドイツにおける労働裁判所の和解手続というのは、現地に行くとわかるのですが、15分単位の非常にタイトなスケジュールが詰め込まれておりますので、何とかその間にまとめたいという思いが裁判官に働く場合があります。

 また、労働者としても、通常は現職復帰よりも金銭補償による解決を希望している、しかし、判決までいってしまうと原則は解雇無効ですから、できるだけその手前で決着を付けたい。しかも、和解できれば先ほど申し上げましたように、裁判所手数料が無料になりますから、なおさらのこと和解で決着をつけようというインセンティブが働くこととなります。

 また、一方で、使用者としても訴訟に係る人的・財産的なコストをできるだけ回避したいという思いがあるわけで、特に解雇無効原則のもとでは判決までいってしまうと、いわゆるバックペイを命じられることになってしまいますので、何とかその前に早く切り上げたいということで、労働裁判所の裁判官、労働者、使用者、三者三様の思いが働いて、ドイツにおける解雇紛争というのは約90%が裁判所の和解によって金銭解決しているというのが実情となっているわけです。

 先ほど申し上げましたように、労働裁判所において解雇訴訟が比較的早期に解決しているのもこのためであると言えますし、また他方で、制度として整備されている1a条や、あるいは解消判決制度が実際上余り用いられていないというのも、今申し上げましたように、ドイツにおいては裁判所の和解が極めて有効に機能しているためであるということが理由として挙げられるわけです。

 ところで、こういうふうに裁判所の和解によって金銭解決を行う場合には、あくまでも法律上のルールではないのですけれども、実際上は勤続年数×月収×0.5という算定式を用いるということ、これが既に慣行として確立しております。あとは、個別の事案に応じて、0.5という数字を大体0.252.0ぐらいの幅で変動させるというような取り扱いが行われているようです。ですから、事案によってさまざまではありますが、現地で聞いたところによりますと、この際の変動のファクターとしては、まず重要であるのは労働者の年齢であると。そのほかにも労働者の職種であったり、あるいは地域の物価であったり、企業の規模、あるいはその解雇の違法性に関する心証など、そういうことが考慮対象に入ってくるということもあるようです。

 あと、先ほどのイギリスの例との比較でいいますと、実はこの和解のときに補償金がゼロという解決も行われ得ることがあるようです。どういう場合かというのは、例えば、労働者が悪質なセクシュアルハラスメントを行って、それによって解雇されたという事案で和解するときに補償金は払わないと。ただ、日本で言う離職票に余りネガティブな記載をしないでくれといった解決が行われるということがあるようであります。しかし、これは例外的な例でありまして、通常は金銭による解決が行われるということです。

 こういうふうに見ていきますと、ドイツにおいては法律の建前としては解雇無効原則であると。これが判決手続におけるゴールとしてあるわけですが、しかし、そのルールというのは実は使用者にとってはもちろんかもしれませんが、労働者にとってみても実は必ずしも労働者自身のニーズに合ったものではないと。だからこそ、その手前での和解が非常に機能しているのだという一種皮肉な構造が見られるということです。しかし、これは言いかえると、判決以外の調整的な紛争解決システムが機能するということを期待するためには、実は解雇の実体的なルールというのは、解雇無効原則の方がいいということも言えるわけでありまして、これは恐らく日本でもそう言えるのかもしれません。

 ただ、ドイツにおいては先ほど申し上げましたように、和解において金銭解決を行う際には、今では1a条において法律のルールとしても取り入れられております勤続年数×月給×0.5という算定式を使うことが慣行として既に確立しているということは特徴的なところです。

 この0.5という数字の変動の要因としては、先ほども申し上げましたように、年齢が最も重要であるわけですが、実はドイツの解雇制限法の中には勤続年数が長ければ長いほど、あるいは年齢が高ければ高いほど、そういう人のほうが保護されるべきなのだという考えが見てとれる規定というのが、先ほどの解消判決もそうですが、それ以外にも幾つか登場します。例えば、整理解雇のときの人選基準に関してもそうです。そうすると、先ほどの和解の際の算定式というのは、いわば解雇制限法全体の基本的なコンセプトと合致する点があるからこそ、納得性の高いものとして広くドイツにおいて受け入れられているのではないかと。言いかえれば、ドイツにおける和解実務における迅速かつ安定的な解決というのは、解雇制限法自体によっても支えられているという側面があるのではないかと私は現段階では考えておりまして、そうすると、これはもしかすると、日本と比べたドイツの特徴ではないかと思われるわけですが、あくまでこれは現段階で仮説です。今後きちんと検証することにしたいと思います。

 ということで、さしあたりドイツに関しては雑駁ですが以上です。御静聴ありがとうございました。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、ただいまの説明について御質問等をよろしくお願いします。大竹委員どうぞ。

○大竹委員 先ほどのイギリスと同じような質問ですけれども、勤続年数×月収×0.5という慣行によってそういうものがあるから実際上の和解のときにもこれが使われているという話ですけれども、慣行というのはどういう意味なのかというのが、例えば、日本の退職金やバイト手当とか正当に解雇するときに、あるいは紛争なく行われる解雇のときにこういう水準が普通に行われているということが前提にあってなされているのか、それとも、何か紛争が起こった場合には、このくらいで大体妥結したという意味なのか、どちらも同じなのかもしれませんけれども、あるいは、どこかに何か元になったような法的な基礎があってこういったものがあるのか、もしわかることがあれば教えていただければと思います。

○山本研究員 私も、この算定式が使われ出したのは一体なぜだろうということを長年悩んでいるのですが、いまだに答えは見つけられておりませんで、ドイツにおいては日本のような退職金みたいな制度は基本的にありませんから、紛争が起こっていないときに何か金銭補償が発生するということは基本的にございません。あくまで紛争が起こったときに和解においてこういう算定式が使われているということです。

 この算定式は、昔からずっと使われてきているということは、ドイツにおけるどこの弁護士あるいは裁判官の方に聞いても、そういう答えが返ってくるわけでありまして、いつからかというのははっきりとは申し上げられないのですが、やはり慣行として確立しているということはもはや疑いがないようがありません。先ほど申し上げました解雇制限法1a条は、まさに勤続年数×月収×0.5という算定式を採用しているわけですがこれは、まさに従来和解する和解実務においてこういう算定式が使われてきた、だから、これを法律のルールとして取り入れてしまおうという経緯があったわけです。それほどにまで実務上確立している算定式であるというところまでは言えるのですが、元をたどると一体何なのかということまでは私はまだ突き止められておりません。

○荒木座長 鶴委員どうぞ。

○鶴委員 今の大竹委員の御質問と関連があるのですけれども、2つ目の解消判決制度においては、裁判官による月収12カ月分を上限とする補償金支払い命令とありますよね。ここでは、なかなか利用されていないというお話があったのですけれども、数少ない利用されている例においては、先ほどの勤続年数×月収×0.5というものがイメージされて実際に命令が行われているのか、これも以前にお伺いしたかもしれないのですけれども、裁判所の和解の前置というのは多分、解消判決制度ができた後、制度の前後関係がどうなっているのかということも、もう一回確認のために教えていただきたいのですけれども、そもそも解消判決制度の中における補償金支払い命令の中にこういうものがあったのか、それとも全く別に和解前置の仕組みをやっている中でこの計算式が出てきて、解消判決制度の補償金命令とは全く別の次元で考えたほうがいいものなのか、その辺先ほどの大竹委員の質問に追加という観点ですけれども、教えてください。

○山本研究員 実は、まさに解雇制限法1a条が立法されるときの立法説明を読むとはっきり書いてあるのですが、裁判所の和解によって金銭解決をするときだけでなく、この解雇制限法9条、10条が定める解消判決に基づいて補償金を計算する際にも、あくまで法律上は月収12カ月が上限で、その範囲内で裁判官が裁量によって決定するというのが法律上の規定になっているのですけれども、実はそのときにも勤続年数×月収×0.5という式がどうも使われていたようです。ただ、和解のときと恐らく違うだろうと思われますのは、和解のときは当事者たちが一番最初に呼び出されて会った段階で和解しますかどうかという話をするわけですが、解消判決の場合は、既にこの解雇は不当であるということが判断として一旦出ているわけです。ですから、当該解雇の違法性というものが0.5というファクターに影響し得るということが、解消判決のときと裁判所の和解のときの違いとしては1点出てくるかなと思います。学説では、解消判決によって補償金を算定する際には、勤続年数と年齢を重視すべきだということが言われていまして、そういうところからもこういう算定式を使うことはある種出てくる話かなとは思います。

 解消判決による算定と和解による算定と、どちらが時間的に前後で出されていたかというと、このあたりはまだはっきりとはわかりません。

○荒木座長 八代委員どうぞ。

○八代委員 ありがとうございます。今の続きなのですが、2年以上勤続している労働者が解雇された場合には、2年×月収×0.5ですから12カ月と等しいわけですね。そうすると、20年以上勤務している労働者は当然和解を選んだほうが有利になると。

○山本研究員 ただ、事案によって0.5というファクターがどう動くかはわかりませんから一律にそうだとは言えませんが、そういうこともあり得るということだと思います。

○八代委員 それから、先ほどイギリスの例で言ったような、いわゆる有期雇用の雇止めの場合はドイツではどうなのでしょうか。

○山本研究員 雇止めの場合は当然、雇用期間の満了によって契約が終了しますから解雇ではありません。一方、中途解約、すなわち雇用期間がまだ残っている段階で解約する場合にどうなるかというと、ドイツにおいては個別合意あるいは労働協約上の規定がないと、期間満了前に中期労働契約に対して解雇することはできないというルールがとられております。ただ実際上、協約上あるいは個別合意で一体そういう定めがどれくらいなされているかということは、今はよくわからないところがありますので、直ちには申し上げられないところがございます。

 もっとも、ドイツにおいては有期雇用というのはかなり期間が短いというものもあります。一方で、解雇制限法というのは勤続期間が6カ月以上ないと適用されないということになっておりますから、そういった関係でも解雇制限法によっては中途解約が保護されない有期労働者というのも実際には多いのではないかと推察されるところです。

○荒木座長 先ほど水口委員から手が挙がりましたので、どうぞ。

○水口委員 どうもありがとうございました。3点ほど質問させていただきたいのですが、1点目は今出てきた算定方式の勤続年数×月収×0.5について、私も20年ぐらい前にドイツに調査に行ったことがあるのですが、0.5というのはいわば和解の前提ですから、解雇が有効か無効か、まだそこがわからないというところで0.5が置かれていて、先ほど先生がおっしゃったようなさまざまな心証だとか条件でこの数字は動くという理解でいいのかというのが1点目です。

 2点目は、ドイツも勤続年数によって解雇予告期間が日本と比べて非常に長いと聞いているのですけれども、その点を教えていただければと思います。

 3点目が、ドイツでは解雇制限法において雇用継続が原則だということで就労請求権が判例上と事業所組織法で認められているということですが、実際は復職しないにしても、ドイツ法の理解で判例上就労請求権が認められている意味はどのような点にあるのか、この3点についてお聞かせいただければと思います。

○山本研究員 まず、算定式ですけれども、ペーパーに記載しました和解弁論手続というのは訴えの提起から2週間以内に実施するものですが、ここではまず労働者側からの書面しか出てきていない段階で和解手続をやるということになります。したがって、余り事実関係が明らかでないという状況ですが、ここで和解するということがまずあるわけです。この場合には0.5という数字のままでいくということが多いようですが、例えば、労働者が冒頭に出てきました事業所委員会の委員で、その人に対して解雇を行ったという場合、こういう解雇というのは比較的わかりやすい違法な解雇ですが、そういうものに関しては和解弁論手続の段階においても0.5というファクターがもうちょっと高い数字になるということはあるわけです。一方、その後の判決手続にいって、その中でいろいろな事情がどんどん明らかになっていくといった段階で和解するということももちろんあるわけでありまして、その場合には0.5の変動ファクターがもっと多く出てくるというようなことになろうかと思います。

 解雇予告期間ですけれども、ドイツにおいては解雇予告期間は民法典の622条で規定されております。一番短いのが勤続年数2年未満で4週間、一番長いのが勤続年数20年以上で7カ月ということで、勤続年数比例で段階的に延びていくという形になっております。ただ、労働協約によって通常、解雇予告期間というのは延長されます。例えば、金属産業等においては、法定の水準に加えて1カ月分くらい多く上積みされていることになっております。

 最後の就労請求権の問題ですけれども、ドイツにおいては就労請求権が1985年の連邦憲法裁判所の決定において認められております。ただ、認められているとは言いながらも、この1985年の判例によると、労働者は就労請求権はあるのだけれども、それを主張することができるのは第一審において勝ってから以降であると。要するに、控訴審に行って以降初めて主張できるものであると考えられております。したがって、そもそも裁判所の和解においてほとんどの解雇紛争が解決している中で、この就労請求権が判例において認められていることの意味がどれほどあるのかというのは、私には疑問があるところです。

 さしあたり以上でよろしいでしょうか。

○荒木座長 高村委員どうぞ。

○高村委員 今の水口委員の3点目の質問とも少し関連するのですが、日本の場合は裁判所が解雇無効だとしても労働者に就労請求権が認められていないということで、裁判所が原職復帰を命ずることはないですね。ドイツの場合は、解雇無効となれば原則原職復帰ということになるわけですね。しかし、大半の場合、裁判所の和解で解決しているとおっしゃられましたが、これは日本とドイツの労働市場の違いというのが影響しているのかどうかという気がしたんです。日本の場合ですと、労働条件は全て企業別に閉鎖され、一部の高度な知識を持った人あるいは技能を持った人以外は、転職というのは大体労働条件・賃金が下がっているのが日本の場合の転職の一般的な姿です。一方、ドイツの場合は各地域ごとに産業別の労働組合と産業別の使用者団体が交渉するという、それが地域の中に適用されるという大きな違いの中で、日本のように転職をしても賃金が大きく下がるという心配もない。ですから、あえて判決を求めれば原職復帰という裁判所が命ずるにもかかわらず、裁判所の和解で解決をしているという姿になっているのかどうか、先生はどのようにお考えか少しお聞かせいただければと思います。

○山本研究員 まさに、今お話に出たとおりでありまして、なぜ和解でこれほどまで高い解決率が実現できているのかと。それを支える1つの要因として、やはりドイツにおけるいわゆる賃金制度、職務給制度があると思います。まさに今おっしゃっていただいたように、ドイツでは産業別の労働組合と使用者団体が労働協約を締結し、その中で職務給制度が確立されているわけです。したがって、その中で必要な能力とかあるいは必要な資格・学歴というものが賃金等級表の中に格付けされ、それによって基本給が決まるわけで、これはその労働協約が適用されている限りどこの企業に行ってもその額になるわけです。したがって、転職することによって基本給が下がるということはなく、従来と同じ給与格付けのまま、従来と同じ基本給を維持したまま新しい企業に行けるということが1点あるわけでありまして、それが和解における高い解決率を促進している1つの要因となっていると思われます。

○荒木座長 土田委員どうぞ。

○土田委員 今の御質問とも関連するのですが、職務給制度の点はよくわかったのですけれども、それとは別に、労働市場において、雇用の流動性の高さというものが職務給制度とは別に日本とは異なる形で影響しているのかどうかということが1点です。

 それから、2点目に和解で90%解決していて、残り10%は恐らく復職ということになるのかと思うのですが、ここの経年変化もどうなのか。つまり、ドイツの1951年解雇制限法は、先ほどから出ているとおり、解雇無効で最終的に職場復帰を念頭に置いていると思うのですが、もともと解雇制限法以来あるいはそれ以前の時代から和解による解決率は結構高かったのか、それとも、経済状況や労働市場が大きく変化して、近年になって大きく変化したのか。つまり、ドイツでは、解雇の実際の解決方法は和解による金銭解決ということで、法の建前と実務が大きく乖離していると思うのですけれども、これはもともと乖離していたのか、それとも何らの変化を経てこのような形になっているのか、以前はそれほど乖離していなかったけれども今は乖離するようになっているのか、そのあたりについて御存じの範囲で教えていただきたいのが2点目です。

 3点目は解消判決制度についてですが、この制度の歴史は非常に古いですね。ワイマールのときからあるのですか。非常に歴史があるわけですけれども、この制度がそれほど活用されなくなってきた理由というのは、一方で和解による解決制度が普及したということがあるのでしょうが、もともと歴史のあるこちらの制度がそれほど活用されていないのはどういう理由なのかというのが3点目です。

 4点目ですが、イギリスのような補償なしというケースも例外的にあるということでしたけれども、その例がよくわからなかったので、もう一回教えてください。

 最後に、ドイツの後にイギリスについてもう一回聞きたいのですが、補償なしということについては裁判所の裁量ということがあるようですが、どういう基準で補償なしという結論に至っているのか、イギリスについてもう一度教えてもらえればと思います。

 以上です。

○山本研究員 指導教授に非常に聞かれたくない質問をされるという状況ですが、最後から言いますと、最後の例というのはフランクフルトの労働裁判所で聞いた実際の例ですけれども、労働者が同僚に対して悪質なセクシュアルハラスメントをしたと。それに対していわゆる即時解雇、日本で言う懲戒解雇でしょうか。解雇予告期間を持たずして解雇するという即時解雇を行って、それに対して訴えを提起したという事案で、そういう事案のもとで和解が行われることになった場合に、悪質なことをしたのは労働者なのだから、それに対して補償金は払わないと。ただ、ドイツにおいては営業法の109条という規定で、日本でいう離職票のようなものを出す必要があり、その中でこの労働者はこういう勤務態度でしたよということを書く項目があるのですが、そこにおいて余りネガティブな記載をしないという内容での和解が成立したという経験があるというお話でした。比較的まれな事例ではあると思いますが、そういうこともあるということです。

 第1点目の雇用の流動性ですけれども、先ほどの職務給の話もありますが、比較的現地でお話を聞いておりますと、日本と比べてかなり再就職がやりやすいような状況がドイツにおいてはあるようです。これが公的な再就職制度もかなり整備されているのですけれども、労働組合がかなり頑張っている側面があるのではないかと。そういう問題に関して最近調べているところもあるのですが、現段階で何かはっきりしたものがあるわけではありません。ただ、日本と比べて再就職がしやすいような土壌というのはあるようです。それが和解における高い解決を促進している側面があるということです。

 一番最後のところが非常に重要であると思いますけれども、和解で90%解決していて、残り10%はどうなのかということですが、もちろん復職している事例は実際にはあるということです。全く復職していないということではありません。ただ、復職というものが可能である例というのは、先ほどの話とも関連しますが、労働者がそもそも40代後半から50代ぐらいで再就職が難しいと。一方で、企業は大企業であって、従来と別のポストにその人に就けることが可能であるという例においては、元のポストではなく、元の企業に復職するということは例としてはあるということです。ですから、そういった例が残り10%の中に入っているということです。

 一方、経年変化ですが、ドイツにおける解雇紛争がほぼ和解で解決しているというのは、かなり古い時期から言われてきたことだと思います。解雇制限法が1951年にできて、その前後でどうだったかということから申し上げますと、実は、ドイツにおいては1951年に解雇制限法ができる以前においては、金銭解決がもともと原則でした。ワイマールの時期、ナチスの時期、両方とも金銭解決が原則です。不当な解雇の場合には、ワイマールの時代は年収の半分、ナチスのときは年収の3分の1を上限に裁判官が補償金を命じるということになっておりました。それが1951年の時点で解雇無効原則に転換し、かつ、労働契約の解消というのは解消判決を通じてしかできないということになったわけです。

1951年に解雇制限法ができて以降、解雇紛争というのは最初のほうは現職復帰したけれども後から和解が多くなってきたのか、それとももともと和解が多かったのかという点に関しては、ここで確たるお答えをすることができません。その点は、もうちょっと突っ込んで調べてみたいと思います。

○荒木座長 よろしいでしょうか。垣内委員。

○垣内委員 いろいろ御教示ありがとうございます。裁判所の和解について若干お伺いしたいのですけれども、争訟弁論手続に移行してからの和解ということになりますと、恐らく裁判所としては一定の心証を形成していて、かつ、その心証を基礎にして強力に和解内容についても指導していくということが多いのではないかと予測されるのですけれども、そういう理解でよろしいかどうかというのが1点。

 それから、90%和解で解決しているうち、冒頭の和解弁論で和解成立となっているものと、争訟弁論手続までいって初めて和解になっているものの内訳みたいなものが、もし一般的な御感触でもおかわりになれば御教示いただければありがたいと思います。よろしくお願いします。

○山本研究員 前者の質問に関しては、まさにそのような理解で正しいかと思います。特に、審理を進めていく中で、この解雇は違法性の程度がどうだったのかということが明らかになっていくでしょうから、その点がこの0.5というファクターに影響するということがもちろんあるということです。

 争訟弁論和解と和解弁論手続との内訳ですけれども、この点に関しては私の手元には確たるデータはございません。ただ、ドイツにおける解雇制限訴訟、先ほど20万件処理されていると申し上げましたけれども、それがどれくらいの審理期間で処理されているのかということはデータとしてはありまして、この20万件のうち6万2,000件が1カ月以内、9万件が3カ月以内という内訳になっていて、もちろん審理の進め方にもよるでしょうけれども、この統計を見る限り争訟弁論手続で和解しているほうが多いのではないかと推測されるわけですが、割合的なものは今、私の手元にはデータとしてはありません。

○荒木座長 和解弁論手続は訴えの提起から2週間以内に実施ということになっていますが、実務上はこれは必ずしも守られていなくて、最初の和解弁論は相当期間がたってからなされているというのが実情ではないかと思います。私もフランクフルトの労働裁判所を傍聴いたしましたけれども、ほとんどの解雇事件が最初の和解弁論手続で金銭解決されているのではないかと思います。統計の読み方も、和解弁論が規定通りには実施されていないという実態も含めて読まれたほうがいいのかなという気もいたしました。

○山本研究員 法律上の期間が守られていないというのはそのとおりでありまして、和解弁論が終わってから争訟弁論を開始するのも、迅速に行われなければならないこととなっているのですけれども、実際はデュッセルドルフなどでは3~4カ月ぐらい開いてしまっているというところもあるようで、期間は守られていないという点は先生御指摘のとおりだと思います。

○荒木座長 徳住委員どうぞ。

○徳住委員 1つだけ質問なんですけれども、解雇無効のときは日本と同じようにバックペイを裁判所は命じることになるのですか。そうした解雇無効時に金銭解消制度の場合に、我が国の場合は確定まで12カ月を超える場合も当然あるような感じがするのですけれども、その時のバックペイの金額と12カ月が上限だとおっしゃる関係はどうなのですか。

○山本研究員 日本と比較して考えた場合に非常に重要な御指摘だと思いますが、日本と同様に、解雇無効の場合には解雇が通知された時点において当該解雇は無効であったということになるわけで、解雇訴訟期間中の未払い賃金というのは当然支払われるということです。これは解雇制限法の中にも規定があります。ただ、そのときに日本で言うところのいわゆる中間収入は控除されることになっていて、これも日本と同様の点です。あと、失業保険から出ている失業手当もバックペイから控除されることになっております。

 解消判決とのかかわりですけれども、重要であるのは解消判決が出たときに労働関係をどの時点で解消するのかという問題で、これは当該解雇に関する解雇予告期間が経過した時点において解消されることになっております。ですから、労働関係解消の効果というのは、判決言い渡し時点よりもさかのぼるわけです。ですから、解雇予告期間までのバックペイというものは発生しますが、それ以降から判決言い渡し時点までのバックペイというのは消滅することになります。これに対しては、かつて財産権の侵害であるということで違憲訴訟が提起された件がありますが、連邦憲法裁判所はこれは立法裁量の範囲内である、合憲であると認めております。ただ、解雇予告期間経過時点から判決言い渡し時点までのバックペイに関しては、12カ月の補償金を算定する際に加味すべきであるとその判決は言っておりまして、そういう処理がなされているということです。

○荒木座長 では、最後の質問ということで中山委員どうぞ。

○中山委員 いつも最後で済みません。今のかかわりで1点だけ教えてもらいたいのですが、解消判決の立てつけなのですが、幾ら幾らを払うことと解消というのは引きかえ関係なのか、支払ったらすぐなるのかという、その法的な立てつけを教えてもらいたいのと、もう一つは、金銭支払いがおくれた場合、例えば一定期間の間に払わないと解消されないよというような金銭の支払の期間的な制約があるのか、それは、それこそ1年も2年もたって払うよと言ったって、その間どうなのかという問題がありますけれども、支払に関する規制的なことが判決ではどうなっているのかを教えていただきたいと思います。

○山本研究員 解消判決が出される場合ですけれども、実際上は解消判決というのは先ほど申し上げましたように、当該解雇に関する解雇予告期間経過時点における労働関係の解消で、使用者に対する補償金の支払い命令ということで、形成判決としての性格と給付判決としての性格の2つを併用する判決であると理解されております。

 解消判決において支払を命じられた補償金の履行確保が一体どうなっているのかということは、恐らく普通に、本当に払わなければ民事執行とかそういう話になるのではないかと考えております。

○中山委員 そうすると、形成的効力ですから解消判決が出た段階でさかのぼる時点はありますが、金銭の支払とかかわりなく契約は解消するのですね。

○山本研究員 そうです。補償金の支払い命令を伴わない労働関係の解消はできないと理解されておりますから、補償金の支払いと労働関係の解消というのは常にセットであるということです。

○中山委員 セットはいいのですが、お金を払わないと解消にならないよという関係なのか、今のお話は一応、形成的効力があるというのは無条件に一定の効力が発生するという意味ですから、解消の効力が発生すると。一方、金銭支払は不履行というのがあるけれども、それはそれで強制執行するというようなことですか。

○山本研究員 先生がおっしゃったような理解になると思います。

○中山委員 そうすると、契約自体はお金の支払いの有無にかかわらず解消してしまうということですか。

○山本研究員 支払い命令は判決としては存在しているわけですよね。それをもとに、どう執行していくのかが問題になるのではないかと思います。お金を払わないと解消の効果が発生しないというような立てつけではないと思います。

○中山委員 引換給付みたいなことではないのですね。例の2005年の日本の今後の労働契約法制に関する研究会報告では、労働者からの金銭解決の申立について,辞職の申出と引きかえに金銭を支払う,というような提言でありましたけれども、わかりました、ドイツでは契約終了と金銭とは別々に考えるということですね。

○山本研究員 そうです。

○荒木座長 では、土田委員どうぞ。

○土田委員 ドイツの立法政策について教えてほしいのですが、山本さんは1951年の解雇制限法を詳しく研究されたと思うので。今問題になっているのは、日本において、解雇無効原則を前提にして事後型の金銭解決制度を導入する必要があるかないか、導入するとしたらどういう制度が妥当かということですが、ドイツの場合は先ほど言われたように、ワイマール、ナチスのときからそもそも金銭解決が行われていた。ところが、戦後になって1951年の解雇制限法の段階で解雇無効の原則を導入して、かつ、解消判決制度という形で金銭解決制度もあわせて盛り込んだわけですね。つまり、ある意味もともと金銭解決制度だったのが、その後に解雇無効原則を加えて立法化したというのがドイツの立法の歴史ですよね。ここが日本と異なる点ですが、1951年まで金銭解決制度をベースにしていたドイツが、解雇無効原則を導入したときの立法趣旨なり立法政策について、どういう考え方で解雇無効原則を導入したかについて教えて下さい。

○山本研究員 指導教授から常に答えにくい質問が来ますけれども、まさに御指摘のように、解雇無効原則というのは1951年の解雇制限法の段階で初めて導入されたものです。それまでのワイマールやナチスの時代はドイツでも金銭解決が原則でした。解雇無効原則というのは法理論的には労働関係ないし労働ポストというのは、労働者の経済的あるいは社会的な存立の基盤であると。したがって、労働関係、労働ポストというのは、その存続を可能な限り保護しなければならないと。したがって、解雇制限法というのは違法な解雇は無効とすることにしたんだというような説明がなされております。ドイツ解雇制限法が一般的に存続保護法であると言われるゆえんです。それが法律の建前的な説明ですけれども、1951年の解雇制限法というのは、実はもとを正すと1950年に当時の労働組合と使用者団体が話し合って、ハッテンハイム草案という草案をつくりまして、その中でこの解雇無効原則というのが既に出てきておりました。

 重要な問題点は、そういう法律的な建前の問題というよりも、むしろ、なぜここで従来の金銭解決原則から解雇無効原則への転換が実現できたのかということですけれども、実はここに関しては私も確たる答えを持てているわけではないのですが、ただ、現地でいろいろ聞いてみた限りですと、1950年あたりのドイツというのは、いわゆる戦後のドイツの経済の奇跡と呼ばれた時代でありまして、どちらかといえば人手不足の時代で解雇というものが余り考えられる状況ではないと。そういう中で、解消判決制度を例外的に認めることを条件に、使用者側も解雇無効原則への転換を許容したのではないかという説明が一つなされているわけです。

 事実、1951年の解雇制限法における当時の解消判決制度は、使用者に関しては先ほど申し上げた期待不能性の要件の立証は不要であるという使用者側にかなり有利な制度をとっておりました。そういう有利な解消判決制度のもとで、使用者側も原則として解雇無効原則の転換を認めるという判断がなされたのではないかという推測を持っております。現在では、使用者が申し立てる場合には、使用者側もちゃんと期待不能性の要件を立証しないといけないのですけれども、当時はそうであったということです。

 さしあたり私からのお答えとしては以上です。

○荒木座長 それでは、時間もありますのでドイツについては以上といたします。どうもありがとうございました。

 では、引き続いて、細川先生よりフランスの労働紛争解決システムについて御説明をお願いいたします。

○細川研究員 御紹介いただきました、労働政策研究・研修機構の細川でございます。よろしくお願いいたします。

 なお、ペーパーに沿ってお話しさせていただきますが、既にイギリスとドイツのやりとりで、委員の先生方の御関心のある事項はある程度わかってきている部分もあります。そこで、これまでの質疑で出た内容についてフランスがどうなっているのかについても、適宜補いながら御説明させていただきます。当初の予定よりちょっと報告時間が長くなる可能性があることを御容赦いただければと思います。

 まず、ドイツと同じように解雇をめぐる紛争解決システムから説明していきますが、フランスにおいても事前予防と事後処理について制度を分けることができるかと思います。特に、フランスにおいて特徴的なのは事前予防ということで、使用者が労働者を解雇するときの手続が法律で決まっております。事前に書面で面談に呼び出しまして、面談を実施して、その上で解雇通知書を書面で送付するといった手続が定められているということが特徴かと思います。

 なお、その目的としては、熟慮期間を設けることによって、1回は解雇することを決めた使用者が、やっぱりやめたほうがいいかなということで撤回するなどの事前解決をすると。この熟慮期間ということで、呼び出しから面談までの期間を5日間、それから、面談の実施から解雇通知書の送付までは2日間、これはそれぞれ営業日換算ですが、空けなければならないとされております。もう一つの目的として、このやりとりの中でなぜ労働者が解雇されたのかを明らかにして、労働者が来たるべき訴訟の準備をするといった2つの目的があるとされています。

 もっとも実際には、1番の熟慮期間を設けることで事前解決しようという方はほとんど機能しておらず、せいぜい「頭に来たので、おまえは明日から来るな」というような機会主義的な解雇を防止するという程度にとどまっております。実際は労働者が訴訟の準備をするための手続となっているのが実態のようでございます。

 なお、ドイツでは事業所委員会の意見を聞くという手続がある等、労働者代表の手続の関与という説明がありましたけれども、フランスにおいては使用者が解雇手続に入った場合には、従業員代表とか労働組合が解決のために機能するということはあまりないようでございます。

 次に、事後処理にいきます。フランスにおきましてもほとんど全ての解雇紛争は司法機関である労働裁判所で処理されておりまして、行政機関による解雇紛争解決は行われていないようです。また、労働仲裁もドイツと同じように原則として認められないということになっております。労働者に対する相談業務等は、主に産業別労働組合によって担われているようです。訴訟代理を組合がやることもできるとなっていますが、解雇のような個別事案ではあまり行われていないようです。

 それから、フランスでは日本の労働基準監督官に似た労働監督官という行政官がおりますけれども、この監督官が相談を受けるということはあるようではありますが、解雇紛争の解決に関してどの程度かかわっているのかは申しわけないですが、現状では把握していない状況でございます。

 次に2番で、労働裁判所制度の特徴にまいります。フランスもドイツと同じように全国に労働裁判所が点在しておりまして、近年、再編が行われているので、100%今日の時点で204あるかどうかわかりませんが、私の数え間違いでなければ204だと思います。なお、管轄単位は控訴院という日本の高等裁判所に類似するものが単位となっておりまして、日本で言う都道府県、フランスで言えば県ですけれども、そういったものが単位になっているわけではないようです。

 それから、手続として特徴的なものとして調停前置主義が採用されており、申し立てがなされた後にまず調停を実施しなければいけないことになっております。その後、調停が不調だった場合には口頭弁論、これは原則として1回とされています。それを経て判決にいくということでございます。しかし、残念ながら調停の成立は非常に低い、現在全国平均で約10%程度です。ただ、判決までいっているのは6割強だということで、その残りはどうなっているんだという話になるわけです。これは明確な統計等がないので確たることはわかりませんが、私が調査で伺った話では1つには、労働者が判決にいくまでの時間的・経済的コスト等を嫌って取り下げるというケースもあると言われていますし、それから、この間に労働者と使用者の間で実は裁判外である種の和解のようなものが成立して、取り下げ等になることがあるということは伺っております。

 実際に労働裁判所に行きまして口頭弁論を見学したことがあるのですが、労使の代理人・弁護士が出てきて、通常はもちろんお互い口頭弁論するのですが、中には双方の代理人がタタタタッと書記と裁判官のところに寄っていって、ごにょごにょと話して、「ああ、わかりました」となって、「では」となっているケースがあって、それは恐らく当事者でかくかくしかじかで解決したので、これはもうなしでいいですということを伝えていたということだろうと思います。

 それから、調停への関与について、どれくらい裁判官が関与するのかでございます。これはいろいろ聞きましたけれども正直ケース・バイ・ケースだそうです。ただ、私が伺った話によれば、解決できそうな事案であれば、かなり時間をかけて何とか調停の成立に持ち込むように努力するし、ぱっと状況を見てだめそうだなと思ったら、すぐ終わらせるという、大体そういったことが行われているようでございます。

 それから、経年変化の御関心もあったかと思いますが、調停の成立率は年々下がる傾向にあると言われています。その背景は確たることはわかりませんが、これは労働組合の方に伺った話なので、その点を前提でということですが、1つは、経済のグローバル化等いろいろな事情もあって、フランスの古きよき使用者がいなくなって、ドライに白黒はっきりつけようという経営者が増えたからだといったことを言う人もいます。もう一つは、地方によって解決率がかなり違うということで、これは事情として恐らくパリなどのように件数があまりにも多いところでは、調停になかなか時間を使っている余裕がないということで、なかなか調停がうまくできていない。けれども、地方に行くと件数は減るので調停にいろいろ手を入れることもできる。結果として調停の成立率が上がるといった背景があるという可能性はあろうかと思います。これは私の推測です。

 なお、司法省の統計によれば、申し立て件数自体は2009年の207,770件をピークに減少傾向にございまして、2012年の時点では175,174件。なお、これは労働裁判所に対する申し立て件数全体ですが、そこにも書いてあるとおり、その中の個別解雇事件を占める割合が98%ということですので、事実上同じようなものだと御理解いただければと思います。

 それから、経済的コストについてにいきます。労働裁判所への申し立て費用は昔は無料でしたが、2011年の10月1日から35ユーロになりました。なぜ35ユーロになるかは実費という趣旨なのだろうかと思います。弁護士費用については自己負担となっております。これは労働事件に限らずですけれども、フランスにも一般的な公的扶助制度があります。しかし、これを受けられるのは日本風に言うならば生活保護受給者ぐらいの人でないと受けられないということなので、通常であればこの公的扶助制度を労働者が受けることはほぼ無理だということだそうです。

 それから、労働組合に加入していれば、その組合が弁護士費用等の支援制度を持っている場合がありますが、そういう支援制度を持っているのは大抵ホワイトカラーや管理職の組合が中心のようです。しかも、フランスは組合の加入率は非常に低い、民間では大体8%くらいですから、これを使える人もほとんど少ないということなので、大多数の労働者は弁護士費用は自腹で出しているということだと思います。なお、フランスの労働裁判制度は本人訴訟は可能ですけれども、実際には弁護士なしで訴訟を続けることは困難だという声が聞かれておりまして、実際、統計によりますと、弁護士なしで判決までたどりついたのは28%しかないようです。

 それから、時間的コストについて。申し立てから一審判決までに要する期間は平均で15カ月。一番ひどいところですと、パリの郊外にナンテールというところがあるのですが、そこの裁判所では今大体3~4年かかるという状況だそうでございます。なお、調停の成立率が低いと申し上げましたが、首尾よく調停で解決した場合は大体手続にかかる期間は2.5カ月だそうです。なお、一審判決までこれぐらいかかると申し上げましたが、日本と比べてどうかという点について日本の数字は存じ上げないのでわかりませんが、控訴率も高く約64%となっています。控訴されると大抵破毀院という日本の最高裁に該当するところまで行くようで、そうすると最低でも4年ぐらいかかるというのが現地での話でした。

 以上が、紛争解決制度についてのお話でございます。

 次のページに行っていただきまして、解雇の金銭解決制度についてお話をいたします。何で金銭解決が括弧になっているかと申しますと、フランスの場合はそもそも金銭解決が原則でございます。したがって、金銭解決制度を語る場合はフランスの解雇制度そのものについて語るということになるという事情がございます。

 フランスの解雇制度は大きく分けまして、禁止される解雇とネーミングされる、日本でも労働基準法第19条等で禁止される解雇が規定されており、さしあたりそれと似たような理解でいいかと思いますが、差別等の人権侵害、組合労働者代表に対する解雇といったものについては禁止されております。禁止される解雇に該当するとされた場合には、無効だということになりまして、労働者が復職するか金銭解決するかを選択することになっております。

 なお、この場合において復職を選択した場合のバックペイはどうなるかについて御関心があろうかと思います。これはフランスの法理論が非常にややこくしてわけがわからないところがあるのですが、無効という言葉を使ってはいるのですけれども、私の理解では、実際には判決が出た日から契約関係が復活すると考えられているようです。要するに無効と言われても、それは解雇を通告されてから判決が出るまでの日の契約関係が復活するとはどうも考えられていないようです。したがいまして、バックペイという形ではなく、違法に解雇されていた期間の賃金に相当する損害賠償の請求という形に理屈上はなっているようでございます。

 なお、その場合の控除についても御関心があろうかと思いますが、これについては損害賠償の算定という形になっておりますので、必ずしもはっきりしたことはわかりません。個別の事案で判断されるようでございます。ただ、幾つかの裁判例を見ますと、その間に受けていた失業手当については控除することとした破毀院判決がございます。これに対して、これは労働組合員の解雇事例であり、どこまで一般化できるかわかりませんが、違法解雇された期間にほかで就労して収入を得ていた部分について控除を認めないとした破毀院の判決もございます。

 この禁止された解雇以外の解雇については、不当解雇、濫用的解雇とも言われます。これについては無効とはならず、不当解雇補償金というものを支払うことになっています。条文上は、裁判官が労使に対して復職をしてはどうかを提案できるという制度になっていますが、これは事実上機能しておりません。労働裁判所の方に聞きましたけれども、0.1%でもないのかと聞いたら、裁判官が復職を提案するのは0%だと言っていましたので、ないと御理解いただいて構わないと思います。

 なお、不当解雇でも人的解雇、個別の労働者解雇をするものと集団的に経営上の都合で解雇する経済的解雇、日本で言えばいわゆる整理解雇に分けられまして、整理解雇については別途詳しい制度がございますが、これについては今日の話とは若干離れるかと思いますので割愛させていただきます。

 その上で、不当解雇についての実体的要件としては、日本と同じように現実かつ重大な理由、日本で言えば客観的合理的な理由と、社会的相当性とされていますが、このような実体的要件がございます。これを欠けば濫用的な解雇と評価されることになっています。フランスにおいても不当解雇についての法制度が労働法典に規定される以前においては、民法の理論を用いて判例法理によって不当な解雇が救済されていたといった事情がありまして、実体的要件としては、それをそのまま受け継いだということです。ただし、フランスの民法学においては、日本の民法学では権利の濫用というのはその効果が無効になると考えられているようでございまして、その結果、解雇権濫用法理についても解雇権の濫用の場合は、その効果が無効となっているようですが、フランスの場合は一般的に権利の濫用が無効という形ではなく、損害賠償の支払いという構成になっているということがございます。その結果として、フランスの場合は濫用的解雇についても同じように権利の濫用だから賠償にかわる解雇補償金の支払いといった仕組みになっているということでございます。このあたりの民法学における理論の違いについては、私は民法の専門家ではないので立ち入ったことは説明できませんが、ざっくり言うとそういうことだということでございます。

 なお、不当解雇と認定された場合の使用者のコストがどれくらいか、実際にどれくらいかかるのかということに御関心がある方もいらっしゃるかと思いますので御説明申し上げます。まず、不当解雇補償金というものを払わなければなりません。これは勤続期間2年未満または従業員数が10人以下の場合は実損害額と法文上は規定されております。これに対して勤続年数2年以上かつ従業員数11人以上の企業の場合には、下限が賃金6カ月分相当額と定められております。ただし、上限は現時点では設定されておらずに、賃金6カ月を下限に裁判官が決定するということになっております。何で賃金6カ月が最低額なのか、なぜ実損害額にしないのかについては、6カ月の算定根拠ははっきりとはわかりません。しかし、なぜ下限を決めているのかについては、単なる損害の補償というだけではなくて使用者に対する制裁としての色彩もあるのだという説明が一般にはなされております。

 では、具体的な金額はどう決まるのかということでございますが、フランスにおいてはドイツのような、先ほど山本先生から説明があったような確たる計算式のようなものはないようです。実務について現地の人に聞くと必ず返ってくる答えは、まず「ケース・バイ・ケースだ」ということです。さらに、「ケース・バイ・ケースであるのはわかるけれども、もう少し具体的にどうなのか」と聞くと、ドイツのような算定式は出てきませんが、考慮される要素としては勤続年数、年齢、当該労働者の再就職の困難度などが考慮されるということです。再就職の困難度というのは、もちろん年齢といった事情もありますし、要介護の親御さんを抱えているとか、ひとり親であるとかいった事情、あとは障害があるといった事情等が考慮されるということです。結果的には、一般的には1218カ月分ぐらいの額が裁判官から言い渡されるようです。

 なお、算定式がないにしても、例えば、実務上で退職金や整理解雇をする場合の補償金の額が影響しているのかという御関心もあろうかと思います。まず、フランスにおいては退職金制度は余り一般的ではないという事情がございます。それから、経済的解雇を行う場合に事前に希望退職などをとって、お金を払うので合意で辞めてくれないかということについても、一つは集団的な従業員に対しての手続を踏まなければいけないという事情もあり、日本のようには一般的には使われてこなかったように思います。最近になって大分そのような手続もみられるようになったようですが、いずれにしても、実務が先にあって、それが影響して決まっているということはないのかな、という印象を持っております。なお、これまでのやりとりでも出てきましたけれども、使用者の落ち度の大きさなどの解雇に至る経緯などももちろん考慮されるようでございます。

 このほかに、使用者側が払わなければいけないものとして法定の解雇補償金がございます。これは解雇の当・不当にかかわらず支払いを義務づけられる補償金でございまして、法律で決められているのですが、産業別の労働協約で産業別に決められているのが実務のようでございます。参考までに申し上げますと、勤続年数×月収×5分の1というのが法定のルールということになりますので、額としてはそれほど大きくありません。ただし、これは解雇が正当である場合でも払わなければいけませんし、解雇が不当である場合には不当解雇補償金にプラスαで払わなければいけないことになります。

 次に、解雇予告補償金というものがございまして、これは解雇予告期間がフランスにもあるのですけれども、解雇通知を送ったら、そのまま来ないでくれという使用者が少なくないので、その予告期間相当分の補償金を払わなければなりません。法律上は勤続年数2年未満の場合は賃金1カ月分相当額、勤続2年以上の場合は賃金2カ月分相当額となっています。先ほど手元で調べてみましたけれども、産業別の労働協約でも大体同じような解雇予告期間を定められているようで、例外的に管理職クラスなどはもうちょっと長めに設定されているようでございます。

 次の有給休暇相殺補償金というのは、有給休暇を消化し切れなかった部分について、解雇されたので使えなかった分については補償するということでございます。

 最後に、失業手当の償還ということで、不当解雇された労働者に対して支払われた失業手当について、給付した機関に対して使用者が償還しなければならないとされています。その労働者が失業手当の給付を受けていた機関に対して返すということでございます。

 以上のような費用をすべて合計しますと、不当解雇だとされた場合の使用者のコストの合計額はどのくらいかと使用者団体の方にお伺いしたところ、「大体賃金の2~2年半ぐらいは払わなければいけなくなるかな」ということをおっしゃっていました。

 なお、これは純粋に解雇についての話でございましたので、解雇に至る経緯で例えばハラスメントがあったとか、あるいは時間外労働に関する賃金の未払いがあったとか、同一労働同一賃金原則に反する賃金差別があったといった事情があれば、労働者は別途上乗せ請求が可能ということでございます。

 なお、2015年8月6日だったと思いますが、Macron法と呼ばれる法律で、不当解雇の補償金の上限設定を入れるということが規定されておりましたが、フランスの場合、法律が議会で議決されてから大統領の審署によって効力が発生する前の段階で、憲法裁判所に相当する憲法院に提訴することができまして、そこで憲法に合致するかどうかチェックが行われることがあります。このMacron法も、憲法院に提訴された結果、一部が違憲だとされました。結果、上限部分については削除され、憲法院で憲法違反だとされた要素を修正し、再び法案に乗せるということがおこなわれています。いずれにせよ2016年には上限設定自体は導入される見込みだというのが現在言われているところでございます。

 なお、どこの部分が違憲とされたのかということですが、実はこのルールは勤続年数と企業規模・従業員数という2つの基準を用いて設定していたのですが、従業員数ごとに基準を設けたという部分について、従業員数・企業規模は労働者が受けた損害と関係ないだろうということで、企業規模ごとに差をつけるのが法の下の平等に反するので違憲だと憲法院は述べています。

 最後になりますが、日本への示唆ということでございます。日本とフランスでは労使関係システムや賃金システムはかなり違う部分がございますので、その部分を御承知いただいた上でこんなことが言えるのではなかろうかということを申し上げたいと思います。なお、労働市場の流動性とかそういう要素はどうなのかという御質問がドイツのところでありましたけれども、労働市場の流動性がどれくらい影響しているかについては、私は正直、現段階ではわからないと申し上げたいと思います。ただし、1つ指摘しておくべき点として、ドイツと同じようにフランスでは産業別労働協約によって賃金等級がかっちり決まっております。例えば解雇なり何なり、自分で辞職でも構いません、労働者が退職して新しく仕事を探す場合にも、そのときに自分が持っていた労働協約上の等級をベースに仕事を探すことになります。その場合の等級ごとの最低賃金額が産業別労働協約で決まっているので、再就職した場合にもちろんいろいろな手当との関係があって下がるということがないわけではありませんが、少なくとも大幅に下がるということはないという事情があります。その結果として不当解雇補償金の計算のときに、結局その労働者が再就職するまで大体どれくらいかかりそうかというところをベースに計算する、それによって大体労働者が受けた損害を回復できるだろうということを認めやすいといった事情があるということは、日本とフランスの違いとして押さえておいたほうがいいところなのかなと思います。

 その上で、以下4点挙げておきました。この検討会のタイトルに合わせて透明性という観点を挙げておきましたが、不当解雇補償金の最低額を法定化することによって、解雇が不当であるとの判決を得られた場合に、労働者が救済内容を少なくとも最低6カ月分はもらえるだろうということが予測できるという部分は大きいのかなと思います。これはあくまで可能性です。そういったことを言っているという話を現地で聞いたわけではありません。先ほどフランスでも弁護士をつけないと、なかなか訴訟継続は難しいと。かといって、弁護士の費用を担保する制度があるわけでもない。先ほどドイツについて山本先生から説明があった弁護士保険みたいな制度ですが、フランスについては私も聞いてみましたが、そのような制度が普及しているわけではないようでございます。では、労働者は訴訟費用をどうしているのかと思ったのですが、1つの可能性として、要するに勝訴判決を得られれば、どれくらいお金がもらえるのかというのがわかるので、例えば弁護士の方も、勝てば大体どのくらいその労働者が得られそうかというのがわかるので、費用についてもある程度最初の段階では甘く見積もるといったことも考えられるのかもしれません。そういったことで、勝てば少なくともこのくらいはもらえるという面で、最低額が決まっているということが労働者の申し立てを促進している部分があるのかもしれません。

 他方で、使用者が不当解雇とされた場合に、どれくらいお金がかかってしまうのかを認識させることで、先ほどもちょっと申し上げましたが、ある種の機会主義的な解雇を抑制するという効果があるのかもしれません。これもあくまでも仮説でございます。

 2つ目として、納得性の観点ということで、不当解雇補償金、金銭解決制度を仮に入れた場合に、上限設定をしたり、算定基準を明確化したほうが透明化になっていいのではないかという指摘はしばしばされるところですが、これについては議論のあるところかと思います。ただ、現地で、ある労働法の先生に伺ったときには、事案に応じて裁判官が救済額を決定すると。それでお互いに話を聞いて、このケースだったらこのぐらいが妥当だろうといったプロセスを経ることで当事者の納得を促す部分があるので、上限はともかくとしても、余り細かく基準をかっちりと決めてしまうというのは、納得性の観点からはどうなのかなと思うといったことをおっしゃっていたことを紹介させていただきます。

 それから、紛争予防と解決の迅速化という観点です。フランスの経験をみると、先ほど申し上げたとおり、紛争の件数は非常にたくさんありますし、時間も非常にかかっているということがございます。したがって、フランスの経験から、金銭解決制度が紛争予防解決の迅速化に資すると言えるかというと、フランスでは少なくともそうなっていませんと端的に言えるかと思います。先ほどドイツについて、最後に判決までいってしまうと解雇無効になってしまう制度になっていることが、和解でさっさと解決してしまうという労使当事者の行動を生んでいるという説明が山本先生からあったかと思います。それが唯一の方法かどうかはわかりませんが、いずれにせよ当事者同士の和解等による解決のインセンティブ、紛争を迅速に解決するインセンティブを設けることのほうが、紛争予防や解決の迅速化という観点からは実効的なのかなという印象は持っております。

 最後に、フランスの労働裁判所は実は今いろいろ課題を抱えておりまして、先ほど御紹介したMacron法でもいろいろと改革が導入されたところでございます。これについて現地で聞かれた話は大きく2つございます。フランス労働裁判所が抱えている課題の第一は、処理件数が余りにも多過ぎるということです。裁判に時間がすごくかかっていると申し上げました。口頭弁論は1回なのに何で時間がかかるのですかという話になるかと思うのですが、要するに、順番待ちがすごいという事情のようです。実際の訴訟上のやりとりに時間がかかっているわけではないようで、あまりにも紛争件数が増えてしまうと、結果として処理し切れなくなって解決が遅れてしまうという問題がある。そこで、フランスでも裁判以外の方法による解決を促そうと政策のかじを取りつつあるようです。日本においても直ちに当てはまるかどうかは議論のあるところだと思いますが、フランスでそういう課題を抱えているということがございますので、日本においても件数が過剰にならないようにそれぞれ適切に解決するというシステムは考えたほうがよろしかろうという印象は持っております。

 もう一つの問題として、フランスの労働裁判所は控訴率が非常に高いと申し上げましたが、その1つの背景として労使代表の裁判官がそれぞれ出ているのですが、これに対しての信頼が余り高くないという事情があるそうでございます。日本の労働審判ではまた異なる事情もあろうかと思いますが、フランスで信頼が低い理由として、労使代表の裁判官に対する教育訓練が十分されていないということ。それから、職業裁判官との役割分担をどうするかという問題を抱えているということなので、日本の労働裁判制度で考えた場合にも、労使代表の方に対する教育訓練や職業裁判官との役割分担はもしかしたら課題になるのかもしれないなとフランスの経験からは感じたところでございます。

 私からは以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、どうぞ御質問等をお願いいたします。大竹委員。

○大竹委員 御説明ありがとうございました。私の印象なんですけれども、フランスの解雇の紛争解決手段を聞いていると、時間もかかるし、審判に対する信頼も低いし、非常に非効率な感じがするのですけれども、2ページの最後に納得性の観点で、事案に応じて裁判官が救済額を決定することで当事者の納得を促すと。でも、統計的な事実からいったら納得していないからこそ控訴が多かったり、時間がかかったりしているということで、ここの意味がよくわかりませんでした。やはりルールがはっきりしていないから納得性が低くて時間もかかっていると、全体的な印象からするとそう感じたのですけれども、算定基準を明確化しないことで納得性が高いとおっしゃっているところをどう考えればいいのかをもう少し御説明いただければと思います。

○細川研究員 御質問いただきありがとうございます。今、御指摘いただいた点は私の説明が不十分だったということがありますので、補足させていただきます。

 控訴率が非常に高いというのは、基本的に金額に問題があると考えられているわけではなく、解雇の有効性それ自体について争われている事情がございます。また、統計等で把握をしているわけではなく、現地でそのような話を聞いたという点をご承知おきいただきたいのですが、使用者側の控訴が多いということで、何でこんなに控訴するのですか、実際に控訴されて逆転するのですかと伺いましたところ、回答としては、実は控訴率は高いけれども結論は変わらないことが多いのだそうです。では、なぜ控訴するのですかということを伺いましたところ、フランスの労働裁判所の場合は、判決文を書くのに労使代表の裁判官が主導するということで、その結果、こういう言い方はちょっと語弊があるかもしれませんが、弁護士の方から見ると法理論的にいかにも穴がありそうに見える判決というのが少なくないのだそうです。それもあって、要するに労使代表の裁判官に対する教育をちゃんとやらなければいけないという事情があるということだそうでございます。結論については、それほど不当な結論になっていないと上級審では判断されているという事情が一つはございます。

 先ほど、大竹先生から御指摘いただいた当事者の納得という点においては、その意味では解雇の有効性というより金額についての当事者の納得という部分にフォーカスをしていただけると、つまり、請求した労働者側としては事情を聞いてもらって、そういう状況ならこれぐらいの額になりますかねとしてくれたほうが納得するだろうし、使用者にもそういうふうに考える人もいるだろうと。他方で、解雇そのものの有効性判断という観点から見た場合、弁護士から見ると法的に穴がありそうなので、これは控訴したら勝てる可能性が高いですよというケースが非常に多くなってきているといった実態があろうかと思います。非常に複雑ではあるのですが、フランスではそのように考えられているということでございます。

○荒木座長 長谷川委員。

○長谷川委員 1つ確認したいのですけれども、フランスの労働裁判は労が2名、使が2名で労使の非職業裁判官だけで構成され、職業裁判官がいつも関与するわけではないですよね。したがって、判決も労2名、使2名が交代して書くというところですよね。職業裁判官が入ってくるというのはどういうときなのでしょうか。

○細川研究員 貴重な御質問をいただきありがとうございます。今、長谷川先生から御指摘いただいたとおり、フランスの労働裁判は審判の段階では原則として労働者側の代表の裁判官2名、使用者側の裁判官2名で実施されるということになっています。では、職業裁判官1名設定されているけれども、どういうときに出てくるのですかということだと思いますが、これは2対2になったときは職業裁判官が入って決めるといったルールになっているということなので、3対1とか4対0で労使の裁判官がこれでいきましょうということになれば、実務上は断言できませんが、ルール上は原則として労使の裁判官が全て処理することになっているということでございます。

○荒木座長 ほかにいかがでしょうか。村上委員どうぞ。

○村上委員 何点か質問なのですけれども、1点目は、訴訟期間が長いということですが、労使の裁判官だけで審理しているときと、職業裁判官が入ったときとではかなり違うのではないかと思いますが、その点で何か数字をお持ちでしたら教えていただきたいということです。2点目は、先ほどの御指摘の中で、非職業裁判官に対する信頼度が低いというお話の背景として、職業裁判官と非職業裁判官の間の物事の見方の違いもあるのではないかという指摘もあるのですが、その点についても少し詳しく教えていただければと思います。

○細川研究員 まず、1つ目の職業裁判官が介入する場合としない場合で、どれくらい期間が変わるかということについては、申しわけないですが私の手元の資料ではないのでわからないところでございます。ただし、私が実際に向こうの労働裁判所で見た限りでは、口頭弁論が終わった後に当事者に対して判決はいつだからと判決期日を伝えているようでした。したがって、その後に結局2対2になって職業裁判官が入ってきて、その結果として、例えばもう一回口頭弁論をやり直しましょうとか、審議に時間がかかるので流しましょうということは少ないのではないかと思います。職業裁判官が入るかどうか、ただその1点だけで期間が変わるということはフランスでは恐らくないのではないかと思います。

 2つ目の御質問についてですが、御指摘の部分はかなりあろうかと思います。ただし、具体的にどうしてそう言えるかは紹介できないのですが、今回の労働裁判所改革は司法省サイドがかなり主導しているようでして、実は労働者側も使用者側も反対だという話を聞いています。恐らく法務省側から見ると、素人裁判官に余りにも権限を与えていて、結果としてきちんとした判決が出ていなくて控訴率が高過ぎて、簡単に言うと上級審の裁判所が困っているので、もうちょっとちゃんとした判決を一審から書いてもらいたいといった意向があるのではなかろうかと。これは全くの推測ですが、いずれにせよ、そういう対立があるというのは御指摘のとおりでございます。

○荒木座長 八代委員どうぞ。

○八代委員 ありがとうございました。先ほど、フランスはドイツと同じように退職金はないと言われたのですが、解雇補償金というのは解雇が合法でも支払いが義務づけられるという意味では、事実上、日本の退職金とどこが違うのかということです。

 それから、フランスもそうだと思いますが、仮に退職金がなくても企業年金があれば、労働者にとっては同じことですよね。だから、企業年金も含めて教えていただきたいという点でございます。

○細川研究員 確かに、退職後の生活保障という観点から見た場合、解雇補償金というのがある種フランスにおける退職金類似の制度なのではなかろうかという評価はあり得ると思われます。仕組みとしてはまさに退職に伴ってもらえるお金なので、形の上ではそのとおりということになります。ただ、額がそれほど高くない、勤続年数×月収×5分の1ということは、勤続20年でも賃金4カ月相当ということになります。もちろん日本は退職金制度は法定化されていませんし、企業・業種その他によって全然違いますので一概に述べることはできませんが、私の調べた限り、フランスにおいて例えば経済規模が大きな業種であれば、解雇補償金の額が大きい額になっているかというと、そういうことにはなっておりません。例えば、私が手持ちで持っているのは銀行業の協約なのですけれども、銀行業の協約でも今は法定の解雇補償金と同じ額になっているということです。その意味では実際の金額で見た場合に、日本の退職金とはちょっと違うのではなかろうかという印象は持っております。

 それから、企業年金について御指摘をいただいたのですが、フランスの年金システムについてまではそれほど詳しくないので、本日この場でお答えするのは難しいです。ただ、企業を移る場合の年金の権利の継続性ということはフランスでも問題にはなっておりまして、フランスもどうしても短期間雇用が多いことが問題になっていますので、そういう議論があるということは事実でございます。それ以上のことは私からはお答えできないことを御容赦いただければと思います。

○八代委員 解雇補償金は、自発的退職には適用されないと考えていいのですね。

○細川研究員 御指摘のとおり、自発的な退職の場合は払われません。ただし、フランスでは法定合意解約制度というのが2008年にできまして、労働者と使用者で合意解約をする制度を法定化しました。その法定合意解約で辞める場合は、使用者側が法定合意解約制度に即した補償金を払わなければいけないことになっています。この法定合意解約の場合の補償金は、法定の解雇補償金を下回ってはいけないということになっていますので、合意解約の場合には少なくともその額は払われることになります。

○荒木座長 水口委員どうぞ。

○水口委員 どうもありがとうございました。フランスの労働裁判所は労側・使側計4名の非職業裁判官で実施されるということですが、調停の成立が10%というのはドイツなどと比較して非常に特徴的だし、日本の労働審判と比較しても非常に特徴的なのですけれども、その理由ですが、先ほどから出ている労側・使側の非職業裁判官が担当しているからそうなるのか、あるいは詳しく説明していただいて驚いたのですが、不当解雇補償金、解雇補償金、解雇予告補償金など勝てば手厚いですね。しかも、最低6カ月ということになっているので、解雇無効原則でなくても判決を狙ったほうが労側としてはいいということから和解で合意するインセンティブがなくなって、裁判所に決めてもらったほうがいいという理由なのか、そのあたりは現地ではどのような意見なのでしょうか。

○細川研究員 御質問いただいたことはまさに私も関心があるところで、なぜ、こんなに和解がうまくいかないのですかということを質問しました。彼らはまず最初に、「フランス人は白黒はっきりつけたがる性格だから」と言うのですけれども、そういうことは言ってもしようがないので、もう少し実際的な理由を教えてほしいと聞きますと、今、水口先生から御指摘のあったように、和解で解決するインセンティブがないというのはやはり大きいようです。つまり、どのみち判決までいってもお金なわけです。そして、使用者側からすれば勝てそうだと思ったら和解するわけがない。要するに、勝てば1円も払わなくていいわけですから和解するわけがないですし、労働者側から見ても勝てそうだと思ったら、和解で落とすよりも判決までいった方がたくさんお金がもらえるだろうといった思考が働くという部分は現地の方もおっしゃっておりました。簡単に言えば、判決にいってもお金なのだったら和解をするインセンティブがないので、それだったら行くところまで行こうといった行動になっているという部分はあると思うということは、現地の方もおっしゃっていました。

○荒木座長 ほかにいかがでしょうか。山川委員どうぞ。

○山川委員 ありがとうございます。禁止される解雇は人権侵害の解雇等というお話ですけれども、無効でも労働者が金銭補償を選択できるということなのですが、これは先ほどおっしゃられた、無効とはいっても実質的に損害賠償的な取り扱いがなされる、契約が復活するということとの関係で金銭補償も損害賠償的なものと見てよいのかという点と、金銭補償の水準等に関するデータがあるのか、そのあたりをお聞きできればと思います。

○細川研究員 法文上は、禁止される解雇の場合には、労働者は復職をするか金銭補償を選択できること、金銭補償を選択する場合には、濫用的解雇の場合の不当解雇補償金の額を下回ってはならないこと、これしか定められていません。したがって、日本風に言うとバックペイに該当する、まさに「違法に解雇されていた期間の金銭についての補償が払わなければならない」ということが、法文上は明確に定められてはおりません。ただ、不当解雇補償金を下回ってはいけないとなっているので、実務上はその点も恐らくは考慮されるのではなかろうかと思います。

 それから、実際の額がどれくらいになっているのかというのは、禁止される解雇自体の件数がそれほど多くないという事情もあり、統計的なところは私のほうでは持ち合わせておりません。申しわけありません。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

 それでは、イギリス、ドイツ、フランスについて大変貴重な御報告をいただき、議論をさせていただきました。残りの時間20分弱ですけれども、今の報告を受けて委員の皆様から自由に御議論をいただきたいと思います。

 水口委員どうぞ。

○水口委員 初めての情報もあって、まだ整理できていないのですが、今後恐らく日本での金銭解決制度がどうなるか、これから諸外国の法制度も踏まえての議論になっていくかと思います。今お聞きしていて思ったのは、裁判制度全体そうですけれども、労働紛争の個別解決事件というのは和解や調停、労働行政システム、それから、紛争の判決がどうなのかというものが非常に有機的に関連して回っているのだなという印象がしました。ドイツは和解の成立率が非常に高い、しかも短期だと。フランスは金銭補償が原則だということで、補償金の下限が決まっていて、これから上限も決まろうとしている。しかし、調停成立率は低くて審理期間は長期化しているということ。これらドイツとフランスの制度の一部だけを取り出すのではなくて全体的な裁判制度、労働紛争解決システムがどう機能しているのか、それを有機的に見ないと一部分だけ取り出して、フランスがこうだから、ドイツがこうだから、イギリスがこうだからと持ち込むのは、非常に慎重にやらないといけないのではないかという印象を非常に強く持ちました。

 もう一つは、イギリスでの解雇予告については質問しなかったのですけれども、イギリスも 雇用期間の長さに応じた最短の解雇予告期間 があるとJILPTの報告書には書いてあります。ドイツやフランスも勤続年数に応じて、勤続年数が長ければ解雇予告期間も長いという制度になっているのに対し、日本は10年勤めても、20年勤めても解雇予告期間は30日ですよね。いわば裁判を提起することが難しい中小・零細企業の労働者の保護ということであれば、この解雇予告期間をドイツなどを例にとって勤続年数に応じて長期化するほうが、即効性があるのではないか、そういう面も見なければいけないのではないかと思い、きょうの英仏独の全体は今後の検討をするときの視点に非常に参考になり得ると思いました。今、日本の労働審判制度はうまく機能しているときですが、制度として壊れていない、機能しているものに何か新たに入れるときは、現行制度を壊してしまうようなこともあり得るのではないかという印象を非常に強く持ちました。感想めいていますけれども、1点述べておきたいと思います。

○荒木座長 ありがとうございました。八代委員どうぞ。

○八代委員 私の印象では、きょうのヒアリングではどこの国でも解雇の金銭補償の仕組みがある意味では常識になっている。日本は、それが常識ではなくて和解という形で間接的に使われている。ただ、和解というのは企業の支払い能力の面に大きく影響されるので、非常に労働者間の不公平が大きいのではないかと。だから、和解がいいか、判決がいいかというのは、国の事情によって一言では言えないのではないかと思います。だから、フランスで和解が少ないからだめだということにはならないのではないかと考えます。

 もう一つは、ここには入っていない退職金制度であって、ドイツやフランスは勤続年数に応じて解雇手当があるけれども日本はないというのは、まさに日本は退職金がそのかわりに勤続年数に応じてあるからといえます。ドイツやフランスは退職金がないからだという、解雇補償以外のものとの関連を同時に考えないといけないのではないか。特に日本の場合は慣行として、労働者の自発的退職でも退職金が払われるわけですね。これはある意味では、非常に労働者にとって有利な仕組みである。ただし、それはもちろん大企業の労働者であって、中小企業の労働者はそうではないわけです。だから、ぜひ、いつかの時点で退職金の国際比較があわせて必要だと考えます。

 それから、先ほど企業年金というのは実は退職金の代替的な機能を果たしている。しかし日本の学界の縦割り構造では、企業年金はその専門家、退職金は労働の専門家に分かれている。実際は日本でも退職金の企業年金化が進んでいますから、本当は両者を一体としてとらえなければいけない。その意味ではお手数ですが、企業年金と退職金と解雇手当の関係をどこかで議論していただきたいと思います。

○荒木座長 村上委員どうぞ。

○村上委員 きょうは御報告いただきましてありがとうございます。水口委員がおっしゃったこともあるのですけれども、印象的なのは金銭和解をするときにも金額というのはケース・バイ・ケースで決まっていくのだということは、いずれの国でも同じなのではないかと思っております。ドイツについて質問をしようかと思っていて時間がなかったのですが、私もドイツの職業裁判官と非職業裁判官、それぞれいろいろな方に伺ったところ、勤続年数×月給×0.5という算定式はスタートラインとしてあって、まだ解雇が有効か無効かわからない状態であり、勝敗の可能性が五分五分であることから「0.5」だということで、実際は解雇が無効か有効かというところが一番大きなファクターで金額が実際に決まっていくのだというお話を伺いました。本日も、皆様から大体ケース・バイ・ケースだということを伺いまして、やはり一律に何か決めるというものではなくて、実際はいろいろな要素で決まっていくのだということが、本日の御報告では大変印象的でございました。

 以上です。

○荒木座長 長谷川委員どうぞ。

○長谷川委員 きょうは3人の方よりご説明いただき、どうもありがとうございました。イギリスのACASと雇用審判所の関係だとか、ドイツの労働裁判だとか、フランスは久しぶりに丁寧に聞き、すごく参考になりました。ありがとうございました。やはり各国においていろいろなことを努力しているのだなと思うとともに、私は我が国の制度設計もなかなかよくできているなと思っています。労働局の個別紛争の解決制度をつくるときもそうだったし、労働審判をつくるときもそうであったように、いろいろな国の紛争制度を参考にしながら、我が国はどういう制度設計がいいのかなということを非常に深く検討したのだなということを、先生方の3ヶ国の報告を聞いて感じました。それぞれの国のよさと、今どういうところで悩んでいるのかもよく見えましたので、これ以降の検討会の議論の参考に大いにさせていただきたいと思います。

 ただ、1つだけわからなかったのはフランスですけれども、使用者と労働者の2人ずつの非職業裁判官で審理しているとのことでしたが、非職業裁判官に対してはどのように研修しているのか、その際の研修の費用はどうしているのか、そういうことに非常に関心を持ちました。やはり労働者も使用者も納得できるような解決策を出すための努力が必要で、信頼されるためには納得する解決策を出すことが重要なのだと思います。したがって、そこは別の機会でもいいですけれども、労使の非職業裁判官の研修やスキルアップを聞かせていただければと思いました。

 以上です。

○荒木座長 何かお答えはありますか。

○細川研究員 余り細かい御説明はできませんが、現状では労使の裁判官の研修は年に1回行われているそうです。ただ、その期間もそれほど長くはなく、年に1回しかないということで、それだけでは不十分だということは言われているようでございます。それをもうちょっと何とかしようという意向もあると聞いております。

○荒木座長 山川委員どうぞ。

○山川委員 非常に有益なお話を3国について伺いました。ポリシーの選択の問題とは別に、いわばものの見方の問題なのですけれども、解雇の金銭解決、紛争解決システムの問題として議論しているものが、お三方のお話を聞いて、それだけの問題ではなく要するに実体法の問題、結局、解雇が無効とされるかどうかというあたりとかかわっている。つまり、解雇が無効であるとされていると、特に使用者側申し立てのときには解消判決ということで契約を解消するという手続を用意する。しかし、無効を前提としなければそのような手続は要らないという形で、手続の問題だけではなくて、実体法と手続法の両方を考える必要があるという感じがいたしました。

 また、労働者側から考える場合は、損害賠償の場合には不法行為制度とのすみ分けみたいなことも出てくるのかなということで、手続や紛争解決システムだけでは考えにくい側面があるというのが私の印象です。

○荒木座長 鶴委員どうぞ。

○鶴委員 貴重な御説明をどうもありがとうございました。私のほうから3点あるのですけれども、確かにイギリス、フランス、ドイツというのは非常に典型的な制度で内容も個々異なるところがあって、我々も輪郭の違いというのは理解できたと思います。

 もう一つ、国際比較ということになると、きょう土田委員からいろいろな制度の変化や立法がどういう経緯で起きたのかというお話があって、そのことについてほかの国の例を考える場合に、きょう事務局からお配りいただいているのですけれども、多分イタリアやスペインというのは、そういう意味ではかなり参考になるのではないかと。イタリアなどもかなり大きく制度を変えたりしているので、また今後、個別の議論になっていくときに、そのようなお話を聞ける機会があればいいかなと思いました。

 2番目は、先ほど八代委員からお話があったのですけれども、金銭解決の問題を考えるときに退職金はどうなのかと。退職金というのは賃金システムの話です。日本の場合は後払い式の形になっている中での退職金制度があると。それから、年金も企業側から見ればどういう支払いをするのかということと一体として考える必要があって、きょうは話が出なかったのですけれども、賃金システムや賃金プロファイルがどうなっているのかという話を今後、一緒に議論していかないと難しいなと。

 その関係で3点目、きょう高村委員から非常に貴重なお話があったと思いますが、国ごとに状況が違うので、それをしっかり考えると。特にヨーロッパの場合は産業別や職務別の労働市場になっているので転職しても賃金が余り下がらないという話で、日本の場合はそこは違う。それは賃金システムの問題でもあるのだろうと思います。その点について1点、きょうイギリスのお話の中で、算定根拠として何を見るのかということになると、本当はこの企業にいればこれだけもらえたのに、別の企業に移ったらそこで逸失したもの出てくるというところが補償の対象になり得るのだということなんです。そういうことを例えば補償金の中に明示的に考えていけば、日本にドイツのような労働市場がないから検証はできない、だから和解や金銭解決がなかなか難しい、現職復帰を考えなければいけないのだということにはならない。そこを適切に補償していくという制度設計を考えていけば、そこも考えることができるのではないかと。こういうことも少し示唆をいただけるような、皆様から大変貴重なお話を聞けて大変有益だったと思います。ありがとうございました。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

 きょうはイギリス、ドイツ、フランスについて大変貴重な御報告をいただき、委員の皆様にも非常に充実した議論をしていただけたと思います。若干早いですけれども、きょうはここまでにしたいと考えます。

 では、次回の日程について、事務局からお願いいたします。

○松原労働条件政策推進官 次回第6回の検討会の日程でございますけれども、4月下旬を目途に現在調整をさせていただいております。確定し次第、開催場所とあわせまして委員の皆様に御連絡したいと思います。

 以上でございます。

○荒木座長 それでは、第5回の検討会は以上といたします。どうもありがとうございました。

 

 


(了)

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