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2015年4月24日 第7回目安制度の在り方に関する全員協議会 議事録

労働基準局

○日時

平成27年4月24日(金)
10:00~11:30


○場所

厚生労働省12階専用第14会議室


○出席者

【公益委員】

仁田会長、鹿住委員、武石委員、中窪委員、藤村委員

【労働者委員】

木住野委員、須田委員、田村委員、冨田委員、萩原委員、松田委員

【使用者委員】

小林委員、高橋委員、中西委員、横山委員、吉岡委員、渡辺委員

【事務局】

谷内大臣官房審議官、松本大臣官房参事官(併)賃金時間室長、
川田代主任中央賃金指導官、上月中央賃金指導官、
新垣賃金時間室長補佐

【参考人】

神吉立教大学法学部国際ビジネス法学科准教授

○議題

目安制度の在り方について

○議事

○仁田会長 定刻になりましたので、ただ今から第7回目安制度の在り方に関する全員協議会を開催したいと思います。本日はお忙しいところを御出席いただきましてありがとうございました。
 本日は土田委員が御欠席と承っております。
 前回、川口大司一橋大学教授よりヒアリングを行い、その後賃金改定状況調査等の参考資料について御議論いただきました。今回は神吉知郁子立教大学准教授からヒアリングを行うことになっておりますので、お話を伺いたいと思います。30分程度御説明をいただいた後で 30分程度質疑を行うような形で行いたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

○神吉立教大学准教授 立教大学の神吉と申します、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
 お手元にお配りしましたレジュメに沿ってお話したいと思います。今回のお話をいただいた時、まず最低賃金のあるべき水準の議論に問題意識があるというように伺いました。これは大変大きなテーマで、法の概念論だけでは結論が出にくい問題だと考えております。
 そこで、本日は先進国がどのようなロジックで、何を指標に最低賃金を決定しているかという具体的なテーマからこの問題を考えてみることにします。一つの素材として、イギリスとフランスの最も新しい資料を御紹介したいと思っております。
 まずフランスなのですが、既に御承知のことと存じますが簡単に制度概要を説明させていただきます。フランスの法定最低賃金は全職域成長最低賃金、これをSMICというように以降略したいと思いますが、これが1970年より全国一律で決定されております。ただし、見習期間については年数と年齢による減額があるということで、これは後ほど御紹介します。
 制度目的なのですが、制度設計としては低賃金労働者の購買力の保証、それから国民経済の発展への参加を保証するという2つの目的が法律上明記されています。
 決定方式なのですが、その目的に沿った3つの決定方式があります。まず、1月1日に定時改定ということで、基本賃金、平均賃金の購買力増加分の2分の1以上を必ず上げるということになっています。この際、ここに書いていないのですがインフレ率も加算をされます。これが定時改定です。
 一方で随時改定があり、年度の途中であってもインフレ率が2%を超えて上昇した場合、その上昇分が最低賃金も上昇させるということになっております。
 この1と2は法律上の義務とされており、自動的に改定される。法律上はデクレ(政令)で決定するということになっているのですが、上げなければいけないということで自動的に改定されるという仕組みになっております。
 政府裁量というのがあるのですが、定時改定と随時改定に上乗せ部分をどれだけ乗せるかということが政府裁量ということになってきます。裁量で決定できるのはあくまでもプラス部分だけ、自動的に決まる部分が大きいというのがフランスの最低賃金の仕組みになっております。
 定時改定の計算例を下の*のところで挙げておきました。例えば2014年の増額は1.1%増額ということになっております。その内訳は、前年度の基本賃金購買力増加分が0.9%なのですが、この2分の1ということで四捨五入して0.5%分です。これにプラスして消費者物価指数、インフレ率を反映させています。これが0.6%だったので足して1.1%というのが定時改定の上昇率ということになっております。それが前年度SMICの時間当たり9.43ユーロに掛けて9.53ユーロということで、2014年からフランスのSMICは9.53ユーロということになっております。
 政府裁量額なのですが、それらの自動的な公的改定に加え、どれだけ上乗せするかということに関しては労使の団体である団体交渉全国委員会という委員会の答申を受けて政府が決定することになっています。伝統的にそうなっていたのですが、2008年、新たに政府から独立した「専門家委員会」というものを設け、その年次報告書の内容が近年非常に影響していると言われています。専門家委員会というのはどういう人なのかを注で挙げておきました。基本的には公労使と言えるのですが、特徴としては経済や統計の専門家が多いことが挙げられます。
 2ページ、近年の改定状況ですが、18歳以上の通常労働者と見習実習生の最低賃金ということで分けてお示ししています。見ていただくと、1月1日の所で変わっているのが定時改定です。2011年には12月1日、2012年には7月1日に改定がありますが、これは先ほどお話したインフレ率が2%を超えて上昇した場合を反映させており、12月時点で既に2%を超えていたので9ユーロに2%以上増額分を掛けて9.19ユーロ、7月1日の所もインフレ率が2%を超えましたので改定されたことが反映されています。
 見習実習生なのですが、この数字を見ていただきたいと思います。これはSMIC比で決まっており、例えば18歳未満であれば1年目はSMICの約4分の1という、かなり思い切った低い額が設定されています。あとで御紹介しようと思うのですが、ヨーロッパでは大体最低賃金が適用されるのは若年の労働者が非常に多い。若年、それから入職したての一番脆弱な労働者に関しては、雇用を失わせないようにかなり低めの額が設定されるということがここから分かると思います。
 では、最低賃金労働者はフランスではどういった特徴があるのか。専門家委員会の分析を基に幾つか挙げておきました。専門家委員会での考慮要素はどのようなことを考慮しているかということは、参考資料として後ろに挙げておきました。翻訳より実物のほうが伝わるものがあるかと思い、原文をそのままコピーさせていただいています。フランス語で載っているものです。見開きで目次、2ページと3ページに挙げておきました。これを見ていただきますと、大体専門家委員会が何を考慮要素としているのかがお分かりになるかと思います。簡単に御説明すると、1.は労働市場の状況、例えば雇用や失業情勢などといったマクロ指標を考慮しています。あるいは、賃金と生産性の動態であるといったことです。
 2.では最低賃金の国際比較ということも考慮しています。最初はかなりマクロな視点で考えているということですね。
 3.に移りまして、これはSMICと賃金の動態をフォローアップするという部分です。4.ではSMIC近辺の賃金形成について更に深く考察するとしています。5.は賃金から生活水準まで、直訳するとそういうことになるのですが、その賃金、可処分所得がどのようにSMICの引上げに応じて変化していくかを今度は若干ミクロに見ていくといった姿勢を取って結論を出しています。
 専門家委員会は、基本的にはSMICの引上げには慎重な姿勢を示しており、最近もリーマン・ショック以降もずっとヨーロッパの不況があり、政府裁量はほとんど上乗せされておりません。ですので、自動的改定の部分のみでSMICは上がってきているということになっております。
 一時期、サルコジ政権下で引上げだけでなく、引下げも考えられるのではないかということが俎上に載ったのですが、そこまでには至らず、消極的に上乗せをしないことで今まで来ているという状況にあります。
 戻りましてSMIC労働者の特徴なのですが、フランスでは最低賃金労働者のことをSMICにかけてsmicardというように呼んでいます。最低賃金で働く労働者が2014年時点で約160万人というかなりの規模になっています。見習実習生や臨時雇用者を除く全労働者の10.8%ということで、かなり高いことが言えるかと思います。
 またちょっと飛びますが、レジュメの最後、8ページのところに専門家委員会の分かりやすいグラフがあったので、そのまま貼り付けました。これを見ていただきますと、最低賃金額がフルタイム労働者の平均賃金に比べてどれぐらいなのかということが挙がってきています。これは中央値を取って、それと比較しているものです。これで見ていただきますと、この赤い部分がフランスでかなり高い、60%を超えてきている。平均賃金の60%を超えているということなので、そもそもこのSMIC自体が相対的にかなり高いわけです。ですから、全労働者に占める最低賃金労働者が1割を超えてくるといったことに結びついています。
 折角なので先に見ていきますが、イギリスが1999年のところから実線が始まっている国になっています。グラフで言うと、最後のところは真ん中辺にある国、これで大体45%ぐらいということがお分かりになるかと思います。日本はJaponなので、これで見ていくとかなり低いところに位置付けられる。40%を切っているという位置付けになりますので、これを念頭に置いて見ていきたいと思います。
 戻ってフランスの裁量部分の考慮要素なのですが、SMIC労働者、smicardの分析をすると以下のとおりになります。まず、使用者規模に関しては、企業規模が小さいほど最低賃金労働者比率が高い。これは大体想定どおりかなと思うのですが、10人未満企業では大体24.4%の労働者がsmicardであるという調査結果になっています。これが500人以上の企業になると、4.6%ということで少なくなっていきます。
 産業別で見ていくと、圧倒的に多いのは宿泊・飲食業、特にファストフードに限ると63%がsmicardということになっています。それからサービス業、医療品小売、ヘルスケアなどの職域も最低賃金労働者が多いパーセンテージとなっています。このパーセンテージは全smicardの内訳ではなくて、この業種、産業職種に従事している人のうち何パーセントがsmicardかというパーセンテージなので、足して100になるというものではないということに御留意いただきたいと思います。
 逆に少ない部分としてはエネルギー、IT、それから金融・証券などに関しては最低賃金で働く労働者は非常に少ないという特徴があります。産業によってかなり偏りがあるということです。
 性別に関しては、女性のほうが男性よりも有意に多くなってきています。その原因として、女性はパートタイム労働者、それから宿泊・飲食業といった低賃金産業に従事する割合が高いということが指摘されていますが、条件を調整したとしても、女性のほうが最低賃金労働者となる確率は高いというように言われています。
 これはヨーロッパの特徴なのですが、年齢に関してはやはり若年者にかなり偏っている。25歳未満の労働者に関しては、その3割弱がsmicardだということになっています。ほとんどの場合、最初の雇用というのはSMICで始まるということがフランスでの通常の状態で、それは余り無理ないことなのですが、同じ条件で調整しても若年者のほうが最低賃金労働者となりやすいという傾向が指摘されています。
 生活水準との関係はどのようなものか。次のグラフは生活水準で十分位に分けた場合、下から何番目の十分位にいるかを青いブロック、これは賃金がSMICの1.1倍未満の労働者、その後オレンジが1.1倍から1.3倍、グレーが1.3倍から1.5倍といったように、どれぐらいの賃金で働いている人が多いかを示しています。このグラフで分かることは、第1~第3十分位の世帯ではやはりSMICに張り付いた賃金で働いている労働者がかなり多いことが分かると思います。最低賃金を上げると高所得世帯にも影響が及ぶので、余り低水準の生活水準を上げることに寄与しないと言われたりするのですが、偏りは明らかに下位のほうにあるということがここで前提とされているということです。
 このようなフランスの最低賃金の特徴なのですが、簡単にまとめますと、水準自体は論点とはなっていないということが一つ挙げられるかなと思います。ただし、これは水準が全く問題になっていないという意味ではなくて、むしろ社会保障制度でSMICがかなり参照されて活用されていることが挙げられます。というのは、フランスで言われるいわゆる生活保護みたいなもの、それを設計する時にそのレベルをどうするか。フランスの場合は最低賃金が先にあったので、生活保護の水準をどのように考えるかといった時、働いている人のほうが働かずに 福祉からお金をもらう人よりも少ないということはあり得ないだろう。そこで、SMICの大体8割を上限にしようということで生活保護が設計されています。日本とはちょっと違って、最低賃金を決める時に生活保護を見るのではなくて、生活保護が最低賃金を基準としているというのが一つの特徴です。
 もう一つ、フランスの最低賃金決定の特徴としては、法律上の自動的な引上げ方法というものが決まっていて、それによって動く部分が非常に多いということです。実はフランスでは過去、標準生計費というものを設けて、絶対的に生活に必要な額を出して、そこから最低賃金 を逆算しようという試みをしたこともあります。しかし、それは挫折して、現在のように法律上、物価と平均賃金とを連動させるというスライド方式に落ち着いたという経緯があります。
 もう一つは労使の関与が限定的だということが挙げられると思います。先ほど、労使の団体である団体交渉全国委員会が答申を出すというお話をしたのですが、これは専門家委員会ができる2008年以前には労使の関与を担保する一つの方式だったのですが、この答申というのはほとんど実質的な影響を持たないと言われています。私も研究をしている時、どうにか答申の内容を知りたいと思ったのですが、現地の専門家に聞いても学者に聞いても「そんなものは見たことがない」ということでした。公開もされていないようで、多分参考にされていないと思うと言われてしまって検討できていないのですが、裁量に効いているというものではないようです。
 2008年の専門家委員会の設置以降は、統計データ、特にマクロの統計データが非常に政府裁量の発動に効いているという印象を持っています。先ほど見ていただいた目次なのですが、大体100ページぐらいの報告書が出ており非常に充実してきています。だんだん長くなってきて、データもかなり充実してきているので、公表するということも含めて最低賃金をどのように決めていくべきか、そして何を考慮していくか、ということはかなりパブリックになってきているかと思います。
 次にイギリスの最低賃金なのですが、1999年より全国最低賃金といった制度があります。これも見習期間と年齢による減額があります。4ページの近年の改定状況で挙げており、21歳以上、それから18歳から21歳、18歳未満、見習訓練生で別々の額があります。地域による減額は特にありません。
 制度目的に関しては法律上の明文がありません。政府の基本方針としては、低賃金労働者の雇用に悪影響を及ぼさない範囲で、可能な限り上げていくことを目的としております。
 決定方式そのものとしては国務大臣に決定と変更権限があります。ただし、低賃金委員会という独立の委員会があり、そこへ諮問することが慣例になっています。慣例であって義務ではないのですが、例年必ず諮問をして勧告を受けることになっています。
 低賃金委員会の構成も注に挙げておきました。労使と公益委員のような形なのですが、経済を背景とする学者が若干多いかなというのが特徴です。
 改定状況を見ていただくと、ここもフランスと同様、見習期間に関してはかなり思い切った減額が設定されていることがお分かりになるかと思います。これも入職したての労働者、それから若年者がイギリスでもフランスと同様、かなり脆弱性があるというように見られている一つの反映となります。
 最低賃金を決定する時に何を考慮しているかということなのですが、低賃金委員会のスタンスとしてはエビデンスの検証ということを非常に重視しております。具体的にどのようなことをしているかについて、その報告書から取ってきたのですが、コンサルテーションに対して書 面回答が163件、オンライン調査に対する回答が549人、定例会議にいろいろな団体を呼んだのが15団体、口頭セッション参加32人、これは全部報告書に載っている数字です。関係者と会合が30回、視察が会合54回で現地8回、地域的に最低賃金労働者の存在というのは偏りがあり、そういった最低賃金労働者が多い所に実際に現地に視察に行くということをやっています。雇用・賃金状況に関して外部委託調査をやっており、これが6件です。これ以外に国立統計局の経済調査の結果も活用するということです。
 2015年の低賃金委員会報告書の一番新しいものについても参考資料に目次(Contents)を挙げておきました。フランスの専門家委員会のものを次に挙げています。これを見ていただきますと分かるとおり、非常に大部なもので、300ページ以上の報告書が毎回出ております。報告書自体は毎年冊子として実際に公刊されています。オンラインでも全部公開されております。
 6つの部に分かれているのですが、最初は最低賃金額をめぐる経済的状況が第1章、これはGDPやインフレ率、賃金上昇率、失業率などのマクロデータです。
 2番目として、全国最低賃金のインパクト、最低賃金労働者がどのような人なのか、その賃金改定状況がどういったものであるかということを見ていきます。
 第3章では、若年者と見習訓練生の状況というものを分析しております。あと、今、見習訓練生の適用額の構造を見直そうという動きがあります。
 最後、1から5までの状況を分析した上で、低賃金委員会がどのような最低賃金額を勧告するかといった理論づけ、それからAppendices、大体300ページぐらいのボリュームがあります。ここに使っている図表、統計データやグラフが全て載っているということになります。これを 公刊して、どうしてこの額で最低賃金に決まったのかをかなり説明するということになっています。
 これに基づき、最低賃金労働の特徴を整理すると、イギリスでも大体120万人ぐらい最低賃金労働者がいます。これは全労働者の約5.3%ということで、フランスよりは少ないかと思います。
 使用者規模に関しても、企業規模が小さいほど比率が高いということです。産業・職種に関しても清掃、理髪、宿泊・接客と、やはりホスピタリティー業が非常に多く、人数では約4分の1が宿泊・接客の労働者ということになっております。
 性別に関しても、女性労働者のほうが男性労働者よりも最低賃金労働者になりやすいということです。
 年齢に関してはそのグラフのとおり、やはり若年労働者にかなり偏りが見られます。特に16歳から17歳、18歳から20歳までは、ここに挙がっている数字自体はそれぞれの年齢に適用される最低賃金額を下回っている労働者のパーセンテージが、大体12%ちょっとなのですが、成人の最低賃金と比べてみると73%が成人の全国最低賃金以下、18歳から20歳に関しても4割以上が成人の最低賃金額を下回っているという状況になっています。
 生活水準に関してなのですが、世帯所得の分布で見ると、最低賃金労働者は第3~第6十分位に分布しております。それだけ見ると、やはり最低賃金というのは生活水準とは乖離しているのではないかと言われるところなのですが、整理していきますと稼働年齢のみの所得分布にすると第2~第4十分位と下がってくる。更に、無職や年金生活世帯を除くと第1~第2十分位に多くなるということなので、先ほどのフランスと同じように低所得の世帯に最低賃金労働者が多いといった傾向を見て取ることができます。
 結論なのですが、要旨を以下に挙げておきました。と言っても、結論だけでも非常に長いので要旨中の要旨です。こういったロジックで最低賃金の勧告額を決めたということが書かれています、これはお読みいただければと思います。インフレ率などを勘案して、実質的に上げ たいのだけれども、雇用状況を悪化させるという判断から今の3%ぐらいの上げ幅になったことが説明されています。
 こういったイギリスの最低賃金決定の特徴を整理すると、「生活賃金」といった考え方は今のところ明確に排除されているということが挙げられます。その原因としては、家族状況や社会保障制度、あるいは税制などによって可処分所得がかなり影響されるから、賃金が低いイ コール生活水準が低いということではない、ということが前提となっています。
 ただし、イギリスの特徴としては、低賃金労働者の賃金収入を上げていくことが社会保障負担を減らすということで、納税者、ひいては社会の利益になるのだというメリットが考えられている点が挙げられます。
 また、今まで見てきたように、エビデンスに基づく政策決定の一つとして位置付けられているのが大きな特徴であると思われます。労使委員は低賃金委員会の委員としてもちろんいるわけですが、出身母体の代理人ではなく、労使の意見というのはヒアリングで別途聴取するという立場を貫いています。もっとも、そうは言っても、最低賃金の増額自体に関しては立場の違いがかなりありますので、そこは紛糾するわけなのですが、全会一致でないと政府に対する説得力を欠くということが意識されています。そうなってくると、低賃金委員会はその議論はもう割れているのだからということで無視されて、政府裁量で最低賃金が決まってしまう可能性があり得る。そういったプレッシャーを背景に、今までのところは議長と有識者委員の投票権を背景に労使が妥協するといった構造になってきています。ここは三者構成ではあるのですが、今までは勧告が全会一致で出されており、政府もその勧告額をそのまま採用しているといった状況にあります。
 こういった英仏の最低賃金決定の特徴を見てきて、その制度が本当に素晴らしいと考えているわけではないのですが、純粋に彼我の差異に着目して3つの示唆があるのかなということで整理しています。マクロに関するもの、ミクロの視点に関するもの、それからアカウンタビリティーの3点で御説明させていただきます。まず最低賃金の目的ということなのですが、イギリスとフランスの目的として挙げられるのは生活水準の改善といったことではなく、低賃金の改善ということにフォーカスを当てているということが挙げられると思います。低賃金と生活 水準が低いということ、これがイコールではないということを前提として、低賃金のほうにフォーカスしているということです。それゆえ、それは本来国家の責任ではないか、企業に責任を負わせるのは筋ではないのではないか、という話にならないというところに特徴があります。
 低賃金の改善の前提として、労働者のみならず、社会にとって望ましいというスタンスを取っているのは特にイギリスに顕著です。低賃金というのは結局社会に対する負荷となる。格差を縮小して、福祉への依存を減らすという点で低賃金の改善というのは社会的に意味があるということを言っているのがイギリスの制度かと思います。それゆえ、事業の支払能力といった考慮要素がないということです。ただし、そういった観点を全く加味しないかというとそうではなくて、雇用や経済への影響といった点でマクロの視点でこれを考慮しているということが特徴として挙げられると思います。結局のところ、例えば生活保護のような絶対的な最低生活水準というものを考えるのか、それとも格差を問題として相対的水準で考えていくのか。例えば、平均賃金をメルクマールとしていくフランスのような考え方を取るのか。これは恐らく 相対的水準を考えていったほうが最低賃金は高くなっていくと思われます。二つの基準があって、どの辺で落ち着かせるかということに関してはそれぞれの社会の考え方であろうかと思います。
 日本の場合は絶対的な水準のほうにかなり近く、特に最低賃金法第9条第3項などからして最低生活にリンクしているわけですが、それがむしろ最低賃金が低い条件に止まる一因となっているのではないかと考えられます。これは法律上の構成なのですが、現在の絶対的な 水準を問題とする方向の中でも課題があるのではないかというのが一つです。具体的にはいろいろ指摘されているところですが、最低賃金額と生活保護水準の比較方法についても考慮の余地があるのではないかということです。最低賃金額は名目上いっぱいいっぱい、理論 上もいっぱいいっぱいをとって、生活保護水準は実績で勘案するという方法が本当に妥当なのかというところは一考の余地があるのではないかと考えるところです。
 これがマクロの視点だとすると、ミクロの視点としては最低賃金の影響を受ける労働のタイプ、あるいは労働者がどのような者かをもう少し明確化してもいいのではないか。諸外国ではこれをかなりやっており、誰のための最低賃金かということになると思います。
 特に影響を受けやすい領域がもし明らかになるのであれば、それに対して特別の措置を検討する可能性があり得ようかと思います。ただ、現行制度そのままでやると減額特例ということになってしまうのですが、それで良いのかどうか、もしかするとこの全員協議会の範疇を超えるかもしれないのですが検討の余地があるかと思っています。
 これがマクロの視点とミクロの視点に対する示唆とすれば、最後はもう少し手続的な側面、アカウンタビリティーです。社会的な位置付けをもう少し明確化する余地があるのではないかと思います。なぜ最低賃金額なのか、議事録を見せていただいたのですが目安に関しては 名人芸なのではないかというようにありました。その名人芸を誰でも分かりやすいようにする、そしてフィードバックを受けてうまく改善できるといった方策を取るためにも算定根拠を明示してある程度説明する。例えば今、「時々の事情」ということで目安がかなり動いていると思うのですが、その事情というのはどういった事情なのか。見通しであるから示せないといった意見もあるとは思うのですが、見通しであっても合理的な根拠を示すことは例えばイギリスのレポートの中にもあります。こういった見通しが立てられるからこれぐらいの上昇幅に止めて おきたいといった根拠を出せば、それは十分説得力があると思います。そういった明示と説明といったことで最低賃金の決定をオープンにしていくことも一つ、方策としてはあり得るのかなと考えられるところです。
 私からの説明としては以上としたいと思います、よろしくお願いいたします。

○仁田会長 どうもありがとうございました。それでは早速、ただ今の御説明について御質問等ございましたら、お願いしたいと思います。いかがでしょうか。

○横山委員 両国について、2点質問させてください。第1点は適用除外を受ける労働者がいるのかどうか。いるとすれば、どのような層の労働者か。
 第2点は、最低賃金について罰則付きの強制があるのかどうか。この2点について教えていただきたいと思います。

○神吉立教大学准教授 質問ありがとうございます。適用除外については基本的に両国とも、正に労働者という範疇に該当していればですけれども、それに関しては、多分、日本でいうと障害者の減額特例とかそういうことですよね。それは基本的にはないということになって います。罰則に関しては、イギリスは賃金の監督といったものをやっていますが、フランスは刑事罰があります。イギリスは監督はあるのだけれども、刑事罰といったものはないですね。未払い賃金という扱いになるので、それを請求していくという形になります。

○横山委員 ありがとうございました。

○仁田会長 ほかにはいかがでしょう。

○萩原委員 SMICのところでお聞きしたいのですが、基本賃金の購買力増加分というのは、いわゆる賃上げ分と取って考えていいのでしょうか。もしそういうことであれば、どの程度の範囲での賃金上昇と考えればいいのか、ちょっと教えていただければと思います。

○神吉立教大学准教授 購買力というのは実質的に使えるお金ということなので、可処分所得だと思っていただければと思います。実質賃金は増えても、ほかの社会保障負担とか増えてしまうと、使えるお金は減ってしまいますので、実際に購買に使えるお金ということなの で、手取り部分とざっくり考えていただければと思います。

○萩原委員 ありがとうございました。

○仁田会長 ほかにはいかがですか。

○武石委員 非常に参考になりました。ありがとうございます。ちょっと3点、お聞きしたいのですけれども、まず、フランスが上昇率が決まっていくと、要は最初の設定が%での改定になっていくので妥当かということで、絶対的な額に関しての議論というのがないのかどうかというのが1点です。
 それと2点目が、例えばデフレになるとマイナスになると思うのですが、マイナスの改定というのも理論上あり得るのかどうかというのが、フランスに関しての2つ目の質問です。
 それから、もう1つ、イギリスとフランス両方とも全国一律の額になっているのですが、この辺りに関して、やはり都市部と地方は違うと思うので、そういった議論に関して何か御存じでしたら教えてください。

○神吉立教大学准教授 まず1点目で、フランスに関して、もともとの水準はどうなのかということなのですが、これはSMIC以前に別の最低賃金制度が戦後、第二次世界大戦後にあったのですが、それが余りにも低過ぎるので、それで仕切り直して1970年から現在の状況に なっています。そのときに実は、実質的な最低賃金の額をかなり上げておりまして、そのときに、かなり平均賃金のパーセンテージが割と高かったのですね。これで見るとフランスだと45%ぐらいなのですが、そこからちょっとずつ上がってきたと。これ以前はもうちょっと低かったのですが、ある程度上げてしまったので、現在は水準は全然問題になっていないということです。むしろ高過ぎるので、SMICの労働者が非常に多いということが、フランスの活力を削いでいるのではないかということは逆にあります。ただ、それが少な過ぎるということは、最近では余り問題になっていないかなと思います。
 デフレのときにどうするのかということですが、インフレで上げるという法律上の明文はあるのですが、デフレで下げるということは制度設計としてはないので、多分この法律を作ったときには考えていなかったわけです。ただ、その経済成長が停滞していくという状況に陥りまして、それでどうにか下げられるようにしようということで考えられたのが、専門家委員会だったのですね。法律上の決まりはあるのだけれども、何か裁量で下げられることを検討しようということで専門家委員会を作ってみたのですが、やはりちょっと、そこは抵抗が強くて、現在の 法律上の権限としては下げることはできないということになっています。
 それから、全国一律にすることはどうなのかということですが、公正な賃金というのは、全国どこであっても、やはり生活ということは離れていますので、賃金の公正な在り方ということを考えていけば、それは地域においての違いは設けるべきではないという考え方が非常に強 いようで、フランスの専門家にも聞いてみたのですが、これは公正という観点から、やはり全国一律であるべきだという意見が多かったです。ただ、1970年以前の最低賃金制度では、実は地域別の減額がありまして、それは、やはり生活というところから、生活費の違いに応じて、地域別の減額もパリが一番高くて、周辺になればなるほど下がるという制度設計をしていたのですが、それが妥当ではないという考え方で変わったのが現在の制度だということになると思います。

○仁田会長 ほかにはいかがですか。

○横山委員 少し知識が古いので、誤っていたら教えていただきたいのですが、フランスの労働時間法制には、かなり広範な適用除外が規定されていると記憶しています。例えば、路面運送労働従事者については、週46時間をもって週40時間労働とみなすといったものがあっ たと思います。その場合、時間給で規定されている最低賃金の算定基礎は、実労働時間、みなし労働時間のどちらになるのでしょうか。

○神吉立教大学准教授 それは、みなされたほうでやると思います。

○横山委員 ということは、結果的に、いわゆる対象除外ではないけれども、労働者の対象にかなりバラつきがでてきますね。

○神吉立教大学准教授 そうですね、算定が難しい労働者に関しては、実労働時間との乖離は否めないとは思います。

○横山委員 フランスの場合、労働時間法制の適用除外が、デクレによってかなり広範囲に設定されていますね。

○神吉立教大学准教授 はい。そういった意味では適用除外といってもいいのかもしれませんが、最低賃金の設計としては、そこまで広くないように思います。

○横山委員 先ほどの御説明で、制度としては適用除外がないということは、よく分かったのですが、実質的に適用除外はないのでしょうか。

○神吉立教大学准教授 船員とか軍人であるといった適用除外は、もちろんあるのですけれども、一般の労働者に関しては、余り適用除外は積極的に作ろうとはしていないといえると思います。

○横山委員 ありがとうございました。

○仁田会長 ほかにはいかがですか。

○田村委員 2点、お伺いしたいと思います。先ほどありました武石委員のことと同じなのですが、7ページの日本に対する示唆の所で、イギリス、フランスとも全国一律で、日本の場合には地域、都道府県で、今は決まっているという現状がありますけれども、一番最後の算定 根拠の明示ということになりますと、例えば経済情勢だとか、生活費だとかというのは、正に都市部と地方との差を更に明確にするような形で、格差が広がっていくと思いますが、先生のお考えとして地域でやっている日本の状態と、先ほど御発言いただきました英仏のような全  国一律との関係で、どちらのほうが低賃金労働者にとっていいと考えられるのか、もう少し御発言いただけたら有り難いというのが1点でございます。
 もう1つは数字の問題で、2ページにあります比較ですけれども、3の(1)使用者規模によって10人未満の所の影響が24.4というのがフランスで出ておりまして、イギリスのほうは逆に、5ページの一番下から2行目、10人未満は12.2と、ちょうど半分ということで、10人未満という 規模の比較ができる、この差の原因は何なのだろうかというのがもしありましたら、教えていただきたいと思います。

○神吉立教大学准教授 ありがとうございます。まず、2点目から先にお答えしますと、この数字というのは10人未満企業で働いている労働者のうち、最低賃金労働者が何%かということなのですが、これはなぜ半分ぐらいなのかというお話は、恐らく最低賃金自体の水準とも 関係していまして、フランスの場合、先ほども見ていただいたように、平均賃金と比較して高いレベルなので、多分そこで賃金が張り付いている労働者というのが相対的に多くなりやすいということが言えると思います。
 実際、最低賃金労働者は全労働者の割合が、フランスでは10%ぐらいで、イギリスでは5%ぐらいといったように、全体のボリュームからもその割合というものが違ってきていますので、最低賃金が低くなればなるほど、多分そういう社会であればあるほど、最低賃金労働者の数というのは、相対的に少なくなると考えられますので、そういったところで違いがあるのかなと思います。
 最初に御質問していただいた点ですが、都市部とそうでない部分の差が明確になるのではないかということなのですが、これは日本が地域別を採っていて、そしてしかも生活を考慮する以上、そうせざるを得ない状況なのかなと思います。生活ということを法律上は考慮するということになってますが、一方で賃金の低廉な労働者というところで、賃金の低廉さ自体にも着目しておりますので、生活に着目するのか、それとも賃金の問題だと考えるのか。そこを分けることで、もしかすると生活費ということにこだわり過ぎないような制度の運用ができる かもしれないなとは思っております。最低生活というところを強く打ち出せば打ち出すほど、格差というのは地域で開いていくのは不可避なのではないかと思っております。

○中西委員 本日は大変、興味深い御講演をありがとうございます。2点、質問させていただきたいのですが、フランス、イギリス両国とも大変、移民労働者の多い国だと思います。その移民労働者と最低賃金との関係について、少々、御説明いただければと思います。
 あと、もう1点は、いずれの国も、やはり最低賃金で働く労働者の割合が男性よりも女性の方が高いという、それにつきましての是正措置であるとか、何か積極的な両国における働き掛けなどがございますようでしたら、大変興味のあるところですので教えていただけますでしょうか。我が国におきましても、これからいろいろな男女の格差につきましても、議論が活発になされていくであろうと考えられますので、御説明いただければと思います。よろしくお願いいたします。

○神吉立教大学准教授 ありがとうございます。移民労働者に関しては、やはり、どちらの社会でも非常に苦慮しておりまして、実際この統計資料でも、人種、出身国などによる最低賃金労働者割合というのを出しております。それを見るとやはり、移民労働者というのは統計的にも有意に、最低賃金労働者が多いということが明らかに出ております。そして、移民労働者の居住割合の多い地域がやはり、最低賃金労働者が多くなるといった地域的な傾向もありますし、人種、国籍、それから信仰、宗教状況によっても、実は大きな違いがあるということが統計調査によって、明らかにはなっております。
 ただ、若者であるという年齢や、見習であるといった客観的、中立的な指標と違って、人種によってアカウンティブアクションをとるというのは非常に難しいところなので、そういった問題自体は、ここ数年ずっと明らかにしつつ、それに対して直接のアクションをとるということは、していないということですね。人種で最低賃金労働者の割合が多いということ自体を明らかにするということで、一つの政策的な意味があって、それは人種政策として、恐らく最低賃金それ自体をいじることではなく別のところで、恐らく就職のあっせんであるとか、そういった労働 市場を整えるというところで、対策していくというところだと思います。
 女性労働者の問題に関しましては、イギリスでは最低賃金の制度の枠組みで対処するということはしていないのですが、機会均等委員会という所がありますので、そこの援助によって、もし性別を理由とする差別、格差が生じているとすれば、それは別の方策を賃金差別といった枠組みで性差別の是正を図っていくという仕組みになっていると言えると思います。

○仁田会長 ほかにはいかがですか。

○鹿住委員 今日は貴重なお話をありがとうございました。3点ほど質問があります。1点目は、見習実習生の扱いなのですが、ちょっと記憶が定かではないのですが、数年前にフランスで見習実習生の継続雇用を義務付けるとか何とかという話があって、そうすると逆に若年層の雇用が減るのではないかという懸念があったかと思うのですが、この資料では一応、3年目まで年数が書いてあるのですが、これは同一企業で見習実習生を採用した場合に、3年以上継続して雇用するという義務はあるのでしょうか。つまり、見習実習生の賃金はすごく 安いので、見習ばかり採用するという企業も出てくるのではないかと思うのですが、企業に対して見習実習生の継続雇用というのが義務付けられているのかどうかということを教えていただきたいと思います。
 それと、2点目は、日本ですと雇用主側の支払能力ということも一応、検討に入るのですが、フランスやイギリスは雇用主の支払能力というのは、最低賃金決定に考慮されているのか。
 もう1点、その際に、ちょっとフランス語を読めないので、英語の報告書を拝見すると、統計資料の中に生産性が掲示されていたかと思うのですが、例えば生産性の上昇、向上というのは、どのぐらい重視されているのかというところを教えていただきたいのですが。

○神吉立教大学准教授 ありがとうございます。まず最初の点ですが、見習実習生と訓練生と、フランスとイギリスで訳が変わってしまっているのですが、余り深い意味はないです。見習中の労働者に関してということなのですが、これは、3年以上雇わなければいけないという 法律上の義務は特にないです。ただ、推奨されているわけなのですが、企業としては、やはり見習中の安い労働者を使いたいというのも、実は社会的に問題になっていまして、21歳以上であっても3年目までだと78%で安く雇えるのに、3年を超えてしまうと高くなってしまって、 そこで労働コストは掛かるというところで、やはり切りやすかったんですね。
 それをどうにかするために、フランスは継続雇用をしてもらうために若年の労働者を雇った場合には、賃金だけではなく、いろいろな社会保障負担が使用者側にも掛かってくるのですが、その社会保障負担を免除するといったようなことで、若年労働者の雇用を促進しようとしたわけですが、それは国庫をやはり圧迫しますので、結果、本来なら使用者が払うべき社会保障負担、賃金部分を国家が肩代わりし続けるということに対する批判もありますが、なかなかやめられないというのが現状かなと思います。その負担付き雇用といわれていますが、 それが実際にフランスでは結構多いので、その訓練中とそれ以降のギャップを埋めようという施策はあるのですが、それがうまくいっているかどうかは、またちょっと別の問題と言えるかと思います。
 2点目ですが、雇用主側の支払能力は、考慮要素としては、考慮されていません。ただ、経済に対する影響といった、もうちょっとマクロの視点で、これを考慮していると言えるかなと思います。生産性ですが、そのパーセンテージ自体は、そこまでインフレ率や平均賃金の上昇率よりは考慮されていないです。いろいろデータはあるのですが、その数字自体が直接効いているという印象が余りありませんが、生産性の伸びが落ちてきているので、見通しとして、余り賃金も雇用も上げないほうがいいだろうといった意味で、若干ブレーキになり得るという 程度かなと思っています。実際にたくさんデータがあり過ぎて、どの数字が効いているかということは、ちょっと言いづらいのですが、そこまで大きくないかなというのが印象です。以上です。

○木住野委員 フランスの場合ですけれども、フランスという所は非常に労働契約の適用率が高いということがありまして、多分、協約賃金というものがもう一方に控えていて、それが社会的規範としての役割が非常に高いと思うのですけれども、そういうものと併存している状態で、SMICとはルール間の関係としてどういう関係に実際にあたっているのかちょっと教えていただきたいと思います。

○神吉立教大学准教授 ありがとうございます。おっしゃるとおり、フランスでは協約の一般的拘束力は非常に広うございますので、協約で賃金が決まるというのは一般的ですし、しかも、それが望ましいと考えられています。やはり賃金というのは労使が向き合って決定する事項なので、本来は労使が話し合って、そして協約という形になったその賃金水準で決定していくべきだと考えられているのですが、その協約の一番下のレベルですね。そこをSMICが支えるという位置付けになっています。協約賃金があるべきで、ただし一番下の部分はSMICが 下支えしているという制度設計をしています。
 ところがSMICというのは、説明したとおり物価によってどんどん上がっていくものなのですが、協約の場合、改定されないことがあるので、実は現在の協約賃金の十何%かは、SMICを下回っているといったことが指摘されていますので、本当は協約賃金というのは高くて、最低賃金はその一番下のレベルを支えるものであるにも関わらず、実際にもSMICを下回っている協約賃金がかなりあるので、それをSMICが押し上げるといった、法律上はSMICが払わなければいけないので、協約上の賃金が低ければ書き換えられることになるのですが、実際には支えるというよりは押し上げているような状況に一部ではなっていると、指摘をされています。

○中窪委員 どうもありがとうございました。もうちょっとラフな全体的に政治状況について、フランスについては、やはり、これだけSMICが上がってくると、本当に使用者にとって過重な負担だと、工場も外に行くという議論があると思うのですけれども、サルコジ時代に政府の裁 量について、マイナスという議論があったようですけれども、この水準自体を再考するというか、そういう政治的な動きというのはあるのでしょうか。
 それからイギリスについては、やはりサッチャー時代に1回、何もなくなったものを復活させたわけですけれども、これはもう完全に定着して、キャメロンさんもこれを維持するということでいるのか。やはり、これについても、もう少し抜本的な改革というものが提案されているのか。その辺りをちょっと教えていただければと思います。

○神吉立教大学准教授 ありがとうございます。フランスに関しては、高過ぎるという議論はずっとありまして、これが結局フランスの成長力を削いでいるんだという声も根強くあるわけですが、ただし、非常にあそこは労使というか労働組合が強いので、ここはどうしても死守したいところだと思います。ですので、高過ぎるから、もうちょっと下げるべきだという議論は常にあるのだけれども、そこを実際に切り込むまでに至らないというところかと思います。
 イギリスに関しては、そもそもサッチャー政権下で最低賃金が何もない状態に1993年になって、そして労働党が政権を取った1998年に法律ができて、1999年から現在の制度になっているわけですが、その空白の期間に何が起こったかというと、そもそも以前にあった、かなり違う形の最低賃金制度をやめてしまったというのは、やはり自由競争が大事で、最低賃金というのは結局、経済を阻害しているのだから、ないほうが雇用も増えて良くなるとしてもうやめてしまったわけですが、実際に起こったことというと、賃金がどんどん下がっていきまして、 当たり前なのですが、労働者の生活状況は悪くなったと。
 しかも、それで失業率は改善するかと思ったら、ほとんど改善しなかったのですね。低賃金だけが進んで、雇用状況は改善しなかったということで、直接的にかなり問題になったのは、結局そういった賃金で生活できない人たちが福祉に頼るようになってしまったので、社会とし て賃金ではなくて福祉に頼るようになってしまった人たちをどうにかしなければいけないということが一つ背景にあって、そして1999年の全国最低賃金制度の創設につながったということがあります。
 ですので、政権がその後、連立政権に変わりましたけれども、最低賃金という歯止めがないと、結局、賃金で生活できない人たちが福祉のほうに来て、納税者の負担になるんだ、社会の負荷になってしまうんだという考え方が、今の政権でも受け継がれていると思います。これをもうやめようといったサッチャー政権のように、新自由主義的な考え方は、そこまで強くないかなと考えています。政策、アジェンダとして、これをなくそうというのは、多分、見たことがないので、恐らくそこまで、これをなくすという強いところには至っていないのかなと思います。

○仁田会長 そろそろ時間ですが、何か。よろしゅうございますか。では1つだけ。2ページの所にフランスの最低賃金労働者が見習実習生、臨時雇用者を除く全労働者は10.8%と書いてあるのですが、これは臨時雇用者を除く、見習実習生は規制があるから分かるけれども、 臨時雇用者を除くというのは、どういう理由なのかなという疑問を持ったのですけれども。

○神吉立教大学准教授 そうですね。どうして臨時雇用者を除くかというのは、ちょっとはっきり分からないのですが、ただ、臨時の人に関しては、恐らく把握がしづらいというのがあるのではないかと、推測するところですけれども。

○仁田会長 臨時雇用者について、最低賃金をこのまま適用しないというわけではないと。

○神吉立教大学准教授 そうですね。はい。多分、数を決定するときの、統計の取りやすさということではないかと思います。

○仁田会長 よろしゅうございますか。今日は大変、貴重なお話を伺いまして、我々は非常に参考になりました。ありがとうございました。
 それでは神吉先生、御退席いただいて結構ですので、どうもありがとうございました。

○神吉立教大学准教授 本日はどうもありがとうございました。

(神吉立教大学准教授退室)

○仁田会長 気分の切り替えがなかなか難しいのですけれども、神吉先生からいろいろと参考になる御意見を伺ったと思いますが、本日、この後の時間におきまして、御意見を頂くということになっております。お手元の資料No.3というのが基本的な資料です。以前お諮りしたス ケジュールにおいて、5月に論点整理を行うということになっておりました。そこで、そろそろ論点整理に向けて議論を整理していく必要がありますので、特に論点の漏れがないということが重要かと思いますので、資料No.3を参考にしていただきながら、それに対する追加の御意見等がございましたら、お出しいただきたいと思います。いかがでしょうか。

○須田委員 資料No.3の2ページ、一番下の○の所ですが、もう少し補強していただけないか、というのは、これまでも発言してきたつもりですが、具体的には、これまでの円卓合意、雇用戦略対話合意、2007年の法改正は、従来の上げ幅、一般労働者がどれだけ上がったかと いう上げ幅だけではなくて、最低賃金水準がどうあるべきかということも考えろという流れの中でやってきたのだという認識をしておりまして、そういう意味で、地方から「分かりづらい」とか、「根拠を明確に示せ」と言われるのですが、逆に地方が第4表にこだわって見すぎているのではないか。このことに対して、中央最低賃金審議会サイドの説明が足りなかったのか、中央最低賃金審議会だけではなく全体として最低賃金をどう考えるのか、という切り口の問題のところが、中央と地方との乖離があったのではないのかという趣旨で言ったつもりでおりますので、そういった文章に補強していただければ有り難いと思います。

○仁田会長 ほかにはいかがでしょうか。事務局でただ今の意見について何かコメントはございますか。

○松本参事官 今の御意見を踏まえて、少なくともこの資料についてはしかるべく。

○仁田会長 ほかにはいかがですか。

○田村委員 すみません。ちょっと文章というか、どう理解していいのか。1ページ目の一番上で、使用者側の発言の2行目の所にあります、「労使双方とも処分権限のある賃金交渉当事者ではなく」とありますが、処分権限というのはどういうことを指すのか、理解しづらいもの ですから、その言葉の説明があるのか、又は別の言葉にさせていただけるのか、それだけ説明いただきたいと思います。

○仁田会長 使用者側で何か御意見ございますか。

○横山委員 処分権限というのは、正にその文字のとおり通りです。企業における労使交渉で決まった賃金については、交渉当事者である使用者が実際に支払うことになっています。ところが、この協議会の場では、私どもは交渉当事者ですが、支払当事者ではありません。 使用者側代表として話をしておりますが、直接自分たちが支払うわけではない。したがって、そこに差があるという意味で、処分権限のある賃金交渉の当事者ではないという表現を使ったのです。

○田村委員 そうすると、労働組合は交渉当事者ではありますが、処分権限はないものですから、ここには労使双方と書かれていますが、労側はそうではないねという認識が私どもにあるものですから。

○横山委員 この場においては、労使ともに処分権限のある賃金交渉の当事者ではないと思っていたのですが、労働者側についてはそうではないとおっしゃるのであれば、その御意見に従います。少なくとも、使用者側は、処分権限のある当事者ではないと考えております。

○仁田会長 田村委員が今言われたのは、春季労使交渉、通常の企業内の賃金交渉において、使用者は処分権限があるけれども、労働組合は交渉してその金額を決めるだけであって、処分権限というものはないのではないか。賃金を払う責任を負っているのは使用者なの で、言葉の語感に違和感があると。

○横山委員 今のお話について言えば、個別企業の労使交渉であれば、労働者側にも義務は発生すると考えます。賃金引上げの際に、賃金だけではなく、他の労働条件など付随的なものがも決まるからです。処分権限という言葉に違和感があるというのであれば別ですが、 労使交渉であれば、労働者側も使用者側もそれぞれの立場でやるべきことがあり、この協議会の場では、それが間接的なものになっているということを表現したかったのです。春季労使交渉においても、労働者側にそういう権限はないということであれば、それは労働者側のお 立場の話ですから、修正していただいて結構です。

○高橋委員 2点意見を申し述べたいと思います。1点目は、地方最低賃金審議会の会長から指摘された事項への対応についてです。これまでの本協議会において、何名かの地方最低賃金審議会の会長にお越しいただいて、貴重なご指摘を伺いましたので、秋以降の本協 議会再開後は、その指摘事項になるべく対応を図っていくという方針で審議を進めていければと考えます。
 2点目は、目安の公表の在り方についてです。中央最低賃金審議会の総会の答申を待たず、目安小委員会の徹夜審議の翌日に、公益委員見解がプレス発表されることがあります。そのときに厚生労働省が記者会見すると、公益委員見解には一切触れられていない全国加 重平均なる金額を発表してしまうのです。まだ目安の段階で、地方最低賃金審議会で審議される前に、全国加重平均というものが計算されてしまうのはおかしいと思います。また、全国加重平均は、人口の多い都道府県の影響を強く受ける数字であって、実際の最低賃金とは 違う概念です。そうしたものが1人歩きしていく公表の在り方に対して、私は強い疑問を持っています。
 そこで、中央最低賃金審議会の総会の答申を経て公開するのが基本だと思いますが、その前に公益委員見解として公表する場合に、公益委員見解にあるランクごとの引上げ幅以外の付随的な統計を発表するのかということについても、検討を深めていく必要があると思います。

○須田委員 1点目の精神はそのとおりだと思うのですが、参考にとどめ、この場で主体的に検討して答えを出すというのも一方で貫きたいと思いますので、地方最低賃金審議会の会長の方々から指摘されたことを否定はしません。それを受け止めつつ、その上で我々はどう 考えるかという、前向きな議論をさせていただければ有り難いなと思います。
 それから、2点目、労働者側もそう思っています。この全員協議会でやることかどうかは別として、例えばこの夏の審議会の段階で、公表の仕方をどうするのかというのは、1つ考えたほうが良いと思いますし、公表の仕方が結果として地方最低賃金審議会に、先ほど言われた ような、前提を逆に植えることになって、目安の根拠が分かりづらいみたいなマイナス影響も出ているのではないかなという印象を持ちますので、そこは事務局で考えていただければ有り難いと思います。

○松本参事官 ただ今の労使双方から一致して、事務局の目安の公表方法について、現状問題があるという御指摘を頂戴しました。これは正に一致した御指摘ですので、何が可能かという点は、事務局として考えてまいりたいと思います。

○仁田会長 我々は公表しなくても、向こうが勝手に計算するということはあり得るので、実際にどういうことができるのかというのは難しい問題かなと私は思います。ほかの論点でいかがでしょうか。今載っていない意見を言ってはいかんというようなことではありませんので、 引き続き、検討を進めるということになっております。秋以後、かなり会合を設定していくことになります。
 では、その場合に、どのような論点を御議論いただくことになるのかということについて、現在時点での御意見を賜ればと思いますが、事務局で、一応たたき台のたたき台のような、当面の進め方についてというペーパーを用意していただきましたので、事務局から説明をお願いします。

○松本参事官 資料No.2について事務局から御説明いたします。この5月で論点整理した上で、秋から議論を再開するということですが、その際にこれまでは資料No.3のように仮に整理しておりますとおり、5つの項目に分類して議論を進めてきたわけでございます。秋以降、年 内又は年度末に取りまとめるに当たっては、何らかの検討事項の優先度合といいますか、順番を決める必要があるのではないかと思われ、仮に一旦資料2を作成いたしました。これまでの頂いた御意見からすると、まずは、賃金の低廉な労働者の実態がどうであるかといった点を基に議論すべきという御意見を頂戴していますので、まずはそれを大前提として、それをまずお示しし、その後の議論で2つ掲げています。賃金改定状況調査その他の参考資料の在り方、ここに対しては、本日も幾つか御意見を頂戴していますが、地方最低賃金審議会に対する説明の在り方を含むもの。これが1点目です。2点目はランク設定の在り方で、これは定例的にランクの都道府県の組み替えにとどまらず、指標の在り方、また、区分の数も含めて御議論いただければというのが仮の案です。なぜこの2つを挙げたかという点ですが、5年前の全員協議会で、引き続き検討すべきであると指摘された事項を参考にしているのと、今回の過去6回の御議論の動向を、事務局としてこのように受け止めたということで、決してこれをもって拘束するという趣旨はございませんが、これをたたき台として御意見を頂戴できればと思います。事務局からは以上です。

○仁田会長 それでは、当面の進め方について、御意見を頂きたいと思います。

○須田委員 これまで、資料3にあったとおり、いろいろな議論をしてきた結果を、「当面」というのがついていますが、こういうことで絞るという方向性は理解しますが、最終的な文章がないもので、いっぱい議論をしてきてなぜこうなったかというストーリーが、どのようになるのか   ちょっと分かりづらいので、今の段階で了解とは明確に言えないのですが、事務局からあったように、5年前の宿題、それからある一定程度期限があるという中で、何をどう優先的に議論するのかという意味においては、示された内容は理解できるかなと思います。ただ、使用 者側の皆さんから怒られるかもしれないけど、回りくどくて申し訳ないですが、これまでの議論の中では、そもそも目安制度をどうするかとか、目安を示すことはどうなんだという御意見もあったかと思うのです。そういう意見もふまえつつ、この2つにすると、目安審議は大事にし つつ、これからも目安を示そうねという前提の元で議論していくと私は受け止めてしまうのですが、さっきの資料3との関係、全体のストーリーとの関係で、我々はこの文章だけ見ると、そう前提を置いてしまいますけれども、それでいいですよね、あるいは労働者側としてはそう受け止めますという意味で了解したいと思います。

○仁田会長 ほかに御意見ございますか。それでは、特に御意見がございませんようですので、本日の段階では、議論をこれまでといたしまして、重要なことは論点整理案というのは、これから作成してまいらないといけないのですが、一応論点整理に含める可能性のある議論を一通りお出しいただいたということで、本日までの議論を基にして、論点整理の案というのを、事務局で御作成をいただければと思います。次回におきましては、その論点整理案について、御議論、御検討をお願いするというような手はずで進めたいと思いますが、よろしいでしょうか。

(異議なし)

○仁田会長 ありがとうございます。

○小林委員 これから論点整理ということで、今までの議論してきた経緯を書くというのも1つありますし、先ほど当面の進め方ということで、資料2で事務局が言われていたのですが、5年に1回、全員協議会を開いて、ランクの設定の在り方を見直しましょうというのが、前の宿 題では大きな1つだったのだと思います。資料を見ると、賃金改定状況調査その他参考資料の在り方が上にあるのですけれども、ランク設定の在り方というのが、当面最初に考えることだと思うので、是非とも順番を入れ替えて、ランク設定の在り方を上にして、賃金改定状況 調査その他参考資料の在り方を下に、その順番で、秋以降考えるのをやっていただきたいというのがお願いです。

○仁田会長 事務局から何か御意見ございますか。

○松本参事官 事務局としては、順番についてはいろいろな考え方がありますが、事務局としては、どちらが先というのはありきではないと思いますので、労使御異論がなければ順番を入れ替えた形で論点整理案をお示ししたいと思います。

○仁田会長 これはいずれにせよ、秋以降の議論についての進め方ということですよね。よろしゅうございますか。
 それでは、事務連絡をお願いします。

○新垣室長補佐 どうもありがとうございました。次回の第8回の目安制度の在り方に関する全員協議会は、5月12日(火)の10時から開催いたします。場所につきましては、追って御連絡させていただきます。

○仁田会長 それでは、以上をもちまして本日の全員協議会を終了といたします。本日の議事録の署名委員につきましては、松田委員と渡辺委員にお願いしたいと思います。それでは、これにて終了といたします。お疲れさまでございました。


(了)
<照会先>

労働基準局労働条件政策課賃金時間室
最低賃金係(内線:5532)

代表: 03-5253-1111

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