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2015年1月14日 第4回目安制度の在り方に関する全員協議会 議事録

労働基準局

○日時

平成27年1月14日(水)
10:00~11:55


○場所

厚生労働省12階専用第12会議室


○出席者

【公益委員】

仁田会長、鹿住委員、武石委員、中窪委員、藤村委員

【労働者委員】

木住野委員、須田委員、田村委員、冨田委員、萩原委員、松田委員

【使用者委員】

小林委員、高橋委員、中西委員、横山委員、吉岡委員、渡辺委員

【事務局】

谷内大臣官房審議官、松本大臣官房参事官(併)賃金時間室長
久富副主任中央賃金指導官、新垣賃金時間室長補佐

【参考人】

道幸北海道地方最低賃金審議会長
小笠原埼玉地方最低賃金審議会長
荒井熊本地方最低賃金審議会長

○議題

目安制度の在り方について

○議事

○松本参事官 第4回目安制度の在り方に関する全員協議会です。現時点で会長がお見えでございませんので、藤村会長代理に進行をお願いして、開催させていただきます。

○藤村会長代理 仁田会長が来られるまでのつなぎとして、私が司会進行を務めさせていただきます。法政大学の藤村でございます。
 今日は第4回目安制度の在り方に関する全員協議会となっております。本日はお忙しいところ御出席いただき、どうもありがとうございます。本日は土田委員が御欠席です。
 前回まで2回にわたり、全員協議会の検討事項などについて、御自由に御意見を頂いたところです。その中で、大きく分けて次の5点が出てまいりました。
 第1点が最低賃金の在り方について、第2点が3要素の在り方について、第3点が目安審議の在り方について、第4点が地方最低賃金審議会との関係の在り方について、第5点目が目安審議の資料についての5点です。
 本日の第4回の会議では、まずは北海道、埼玉、熊本の3つの地方最低賃金審議会の会長にお越しいただき、お一人ずつ交代でヒアリングを行い、その後に最低賃金の在り方と、3要素の在り方について御議論を頂きたいと思っております。
 1つの地方最低賃金審議会について30分を予定しており、10分程度の御説明を頂き、その後20分程度の質疑ということで進めていきます。それでは、北海道地方最低賃金審議会の道幸会長から御説明をお願いいたします。

○道幸北海道地方最低賃金審議会長 北海道の最低賃金審議会の会長をしている道幸と申します。私はほぼ30年間最低賃金の審議会をやっております。今日は、日頃考えていた本音をお話ししていきたいと思います。
 基本的には地方最低賃金審議会における審議についてお話をしたいと思います。北海道の場合は、生活保護水準との乖離という問題が去年までありましたので、この6年ぐらいはそれが議論の中心になっております。したがって、その点ではいわゆるランク付け、北海道はCランクですが、実質はBランクのような最低賃金の上がり方をしています。
 そう考えると、生活保護水準が最低賃金額決定の基準の1つになった後は、特に北海道はその対象になりましたが、必ずしもランクごとの目安の議論が中心になっているわけではありません。一応ランクごとの目安の議論も考慮していますが、それは副次的な考慮事項だということです。ただ、おそらく昨年、生活保護基準を一応クリアしましたから、今後はランクごとの目安が持つ意味が北海道においても主要な考慮事項になるのではないかと思います。
 目安等について、一番よく分からないのは、中央最低賃金審議会から出る目安が三者一致ではなく、最終的には公益委員の見解だということです。しかし、公益委員見解だけれども、実質はそれが、三者一致とはいいませんが、共通の基準として、各地方最低賃金審議会に提示されるということです。しかし、地方最低賃金審議会に対する提示では、三者一致で決めるようにいっており、中央ができないことを地方に要求することに違和感がありました。
 各地方最低賃金審議会では、三者一致のためにかなり苦労しています。去年は、たまたま三者一致でできましたが、それまではなかなか難しいということです。
 特に、三者一致で決める場合の一番の問題は、中央最低賃金審議会の場合は正式に賃金額を決めなくてもいいので、恐らく公益委員見解でいいのではないかと思いますが、各地方最低賃金審議会の場合は必ず金額を決めなければいけません。決めるということになると過半数、つまりマジョリティをどう形成するかということで、労使で意思の一致があれば間違いなく公益はそれに従うということで、あまり問題ないのですが、なかなかそうはいきません。つまり、公益委員がキャスティングボートを握って、労使のいずれかと意思の一致をするということです。その際、金額を決定しないということによる不利益は大変大きいので、特に労働者側は決める。タイムリーに決めなければ労働者が困るということで、額の問題もありますが、そういう意味では労働者側の協力は比較的得やすいということです。労働者側若しくは労使ともイエスと言わない限りはずっと決まりません。そういう意味では、どうしても三者一致にならなければ、労働者側と公益で多数を形成して決めるということにならざるを得ないのではないかと思っています。
 ただ、去年は使用者側も賛成していただきましたから、三者一致でよかったと思うのです。その際、特に使用者側の委員にいったことは、最低賃金制度の趣旨をどう考えるかということです。使用者側の一般的な見解というのは、賃金というのは一種のコストだから、安ければ  安いほうがいい。そういった内容の議論があり、それはおかしいのではないかと。
 10年ぐらい前には、更に最低賃金が高くなると中国に行くとか、ベトナムに行くとか、そういう海外進出を最低賃金の議論の手段として主張するのは、あまり公平でないのではないか、などと、いろいろなことをいったのですが、そういった議論もありました。
 最低賃金制度をどう考えるか、その社会的な意義や、それをとりわけ使用者側サイドで議論していただきたい。そういう見識のある人が使用者側の委員になってくれなければ、非常に議論がしにくいと感じています。特に、生活保護水準との乖離解消との関係では比較的議論はしやすいのですが、その問題がなくなると、ますます最低賃金制度の趣旨をどう考えるかが難しいということです。
 最終的には、税金が上がるのと最低賃金が上がるのはどちらがいいか、最低賃金が上がるというのは、自分の従業員の賃金が上がるということだから、税金を出すよりはいいのではないかと。つまり自分の会社の従業員の賃金の問題であって、それが上がることをどう考えるかということです。それを社会的なレベルでどう考えるかという議論が必要ではないか。
 これは最低賃金の議論と少し違う側面ですが、賃金政策というか、年収政策みたいなものが、日本の労働政策の中で重視されていないのではないか。つまり、賃金をどうするか、日本人の賃金をどうするかという議論が一方で必要であり、それと最低賃金の議論の両方が必要で、この2つの車輪がない限り、最低賃金だけでは議論はしにくいのではないかと思っています。
 最低賃金の問題に戻りますと、そういう意味では三者一致となるように試みていますが、さっきいったように、重要なのは制度趣旨をどう考えるかという問題と、もう1つは、ここでも議論されていましたが、最低賃金の対象になる労働者や労働の評価です。
 この点については、いわゆる専業主婦をイメージした最低賃金と、一人前の労働者という2つの流れがありますが、私は、生活保護水準がファクターの1つになったというのは、やや生活主体としての労働者という側面が強くなったのではないかと考えています。
 そういう意味では、どうしたら生活できるかという視点が重要で、これは私の個人的な見解ですが、少なくとも社会保険料や税金は払えるぐらいの最低賃金額というのが、一人前の労働者としては必要ではないかと考えています。ただ、いろいろな働き方がありますから、必ずしもそういう見解だけではないと思うのです。ですから、最低賃金の対象になる労働の仕方、労働者像、生活実態についての共通の理解がないというのは、議論を錯綜させる最大の問題ではないかと考えています。
 ランクについては、北海道は経済的にはCランクですが、どのランクが北海道に相応しいかというのはあまり議論はしておりません。地域によって違うのではないかと思うのですが、北海道は実力以上に最低賃金が高いのではないかと思っています。高いということを誇らしく思うか、これは経営上困ると考えるかの違いは大きいと思います。
 北海道は開拓民の地域ですから、地域に対する愛着というのはあまりないのです。他の地方出身の人が知事になるような所ですから。最低賃金の額が高いことが北海道の地域的な価値であるとか、労働者としては働きやすいのだとか、そういう形の議論はあまりありません。そういう意味では、先ほどいったように、社会的な位置付けや、北海道の最低賃金額は今748円ですが、それをどう考えるかという議論はあまりないです。どちらかと言えば、経済的なファクターから議論していくということになります。
 経済的なファクターから議論するということになると、結局は目安額をどう考えるかということにならざるを得ないのですが、これは目安制度がなければ、地方では最低賃金は決められないと思います。つまり、ある程度の目安を中央が示して、それに応じてプラス1円、プラス2円、マイナス1円やゼロなど。目安を前提として話す以外にはないのではないかと思います。少なくとも、北海道では不可能だと思います。一から金額の審議をやるということは絶対にできないです。そういう意味では、目安制度を維持するということでいいのではないか。
 ランク付けについても、どのランクがいいかというのはいいにくいですが、むしろ問題は社会的なインパクトや、強制力や、位置付けで、是非、中央最低賃金審議会で三者一致で決めてほしい。三者一致で決めたということ自体が、最低賃金制度の基盤ではないか。三者一致で決められないような最低賃金制度というのは、果たして一般国民に対してインパクト、説得力があるかどうかということで、これは是非お願いしたい。どうすればいいかは分かりませんが、そのために公益委員がいるのではないかと。そういう部分がない限りは、各地方最低賃金審議会でもそうですし、国民的なレベルでも、説得力が今一つ弱いのではないかと考えています。
 以上です。いいたいことの半分ぐらいはいいました。

○仁田会長 どうもありがとうございました。遅刻いたしまして申し訳ありません。
 まだお話いただくこともあるようなのですが、我々からも、今の道幸先生の御意見に触発されて、何か聞いてみたいことや、御意見を更に伺ってみたいということがございましたら、手を挙げていただければと思います。いかがですか。
 皮切りを私がさせていただきます。先ほど「賃金政策」というお言葉があったと思うのですが、最低賃金と賃金政策が両輪でないと、全体としてうまく回らないのではないかという御趣旨だったと思うのですが、その場合の賃金政策というのは、道幸先生の場合にはどのようなイメージをお考えなのでしょうか。

○道幸北海道地方最低賃金審議会長 むしろ賃金政策というより、ある種の年収モデルというのですかね。政府はいろいろな形で具体的な数字を挙げて、例えば正規労働者はどのぐらいにするということを言っているのですが、私の知識では、一貫して日本の普通の労働者の年収というのは、どのぐらいを想定して政策形成をするかなどの議論があまりないのではないか。
 比較的、年収政策的なのは公務員の賃金ではないかという感じがしているのですが、これはやはり少し特殊ですから。年収政策を議論するというのは、賃金をどう考えるか。賃金は確かに会社にとってはコストですが、労働者にとってはコストではなくて、それによって生活をして、子どもを育てて、将来的な貯蓄もする。そういうワーク・ライフ・バランスのライフの中身を基礎付けるものは賃金にほかなりませんから、大体どのぐらいの賃金があれば、若しくはどういう年齢構成、家族構成で、どのぐらいの賃金が必要かということになれば、もっと具体的な形でいろいろな政策というのが形成されるのではないか。
 一般的な賃金との関係で、最低賃金というのはどういう位置を占めるかという議論がなく、賃金額についての政策が最低賃金だけならば、国民全体の生活との関係では非常に特殊な問題に限定されるのではないかと、そういう印象を持っているということです。

○田村委員 3点あります。1つ目は、生活保護との乖離解消に北海道は非常に時間を要しましたが、この件について、道幸先生はどう思われるかということです。
 2つ目は、我々も北海道を考えるときに、札幌集中化の中で、地域性や、今は寒い冬ですが、季節労働という問題がありますが、こういうことが地域で議論になっているのかどうか。
 3つ目は、道幸先生からありましたが、中央でまとまらないものを地方に公労使三者一致を求めるなという話がありましたが、中央で三者が合意してしまうと、地域の独自性という意味ではマイナス影響というか、議論の幅を狭めないかという気もするのですが、その辺はいかがでしょうか。

○道幸北海道地方最低賃金審議会長 3番目は、そのとおりだと思います。ただ、独自性というのはどの程度発揮できるものか。せいぜい、やっているのは目安プラスマイナスゼロか、目安プラス1円か、2円ですよね。
 この程度の独自性をどう考えるかというのは、極端なことを言えば、地方で議論する意味というのはどの程度あるか。むしろ地方で議論する意味は、皮肉的な表現になりますが、中央で決められなかったことを地方で決めているということ、なるべく三者一致でやっているということぐらいです。金額については地方の独自性を出すということについては、先ほど申し上げたように、気合で1円増やすという、そういうレベルではできますが、それ以上のレベルのことはできないと私は思っています。
 それから、地域との関係は、北海道は札幌と、例えば留萌とは、かなり賃金体系は違いますが、今のところ使用者からは、正面から議論されていません。ただ、先ほど言った生活保護水準をあまりに重視するということになると、生活保護水準自体が地域によって違いますから、そういう意味では、あまりに生活保護水準を重視することも適切ではないのではないか。それとの関係で議論をしましたが、本格的な議論はされていません。
 生活保護との乖離解消に時間がかかったことについては、それだけの力がないからです。初めは50何円乖離があったのですが、大体14円ずつ上げましょうと合意しました。その前は、5年間で15円ぐらいしか上がっていなかったのです。それから見ると、生活保護水準との整合性の配慮をするようになったために、かなり上がったということはいえます。むしろ生活保護との関係では、毎年生活保護水準が変わるというのが、いわば長期的な解消のためにはやりにくいことでした。生活保護水準と比較をする場合に、あんなに細かく比較方法を決めるよりは、おおむね幾らぐらいという比較でよかったのではないかというように、私個人としては思っています。

○高橋委員 北海道の場合は生活保護との乖離がメインのテーマですので、それに関連して2点お伺いしたいと思います。
 1点目は先ほど道幸先生が御指摘のとおり、これは中央最低賃金審議会でも同じなのですが、生活保護との乖離に関しては毎年最新のデータで見ていきますので、絶えず生活保護との乖離が、解消しても生活保護の金額が上がっていくという、逃げ水のようなものになっているというところが問題になっておりました。幸い昨年に全県で乖離が解消しましたが、また今年も新しく乖離が発生する可能性があり、その件に関して、先ほどおおむね幾らという形でとおっしゃいましたが、何かいい御提案があればというのが1点目の質問です。
 もう1点は、北海道の場合は平成23年度から3年間、いわゆる幅目安と言いましょうか、目安金額を特定の金額ではなく、何円から何円という形で、幅でお示しをしてきた経緯がございますが、こうした幅目安に対してはどのように受け止められていたのでしょうか。

○道幸北海道地方最低賃金審議会長 1番目の質問は、そのために厚生労働省があるのではないかということで、私があまり関われるようなことではない。旧労働省と旧厚生省が一緒になっているのですから。
 2番目のほうは、幅目安がいいか悪いかというよりも、目安を出しても、地方ではプラス何円という形で、幅目安のような機能で議論していますから、幅目安でなくても、目安のとおりにやらないということであれば、あまり違わないのではないか。幅目安だからといって、何か特別な議論をした記憶はないです。

○仁田会長 ほかには何かございますか。

○藤村委員 これは割と使用者側から言われていることなのですが、目安を出すときの根拠が分かりにくいと。地方最低賃金審議会にそれを持っていったときに、どういう計算式や根拠で、こういう目安が出てきているのかという説明をしづらいという話がよく出てくるのです。北海道の場合は、そういった目安の根拠は何かという疑問が出てくることはありましたでしょうか。

○道幸北海道地方最低賃金審議会長 そういった疑問を出さないために目安が必要なのではないかと思っているのですが、目安の明確な数理的な根拠付けというのは不可能ではないかなと思います。特に、我々は生活保護水準との関係もありましたから、その点についてはあまり議論にはなっておりません。目安の根拠について議論しても、事務局に聞いても「よく分からない」ということになりますし、そうするとやらないほうがいいのではないかということで、地方に行けば行くほど、目安の根拠に疑問をもつという発想はないのではないかと思います。
 先ほど言ったように、もしも地方で、特に最低賃金制度の意義や金額を議論するということになると、今言った問題に直面しますが、それだけのスタッフや能力があるかとなると、正直多くの場合は難しいのではないかと思います。

○仁田会長 道幸先生、先ほどまだ御意見があるという話ですが。

○道幸北海道地方最低賃金審議会長 先ほどいったように、是非三者一致で決めてほしいということと、地方審議会には括弧付きの自主性しかないのだということ。括弧付きの自主性というのは、今いったように、1円、ゼロ、せいぜいプラス2円の自主性といいますか。これ以 上のことを地方最低賃金審議会で議論することは、私は非常に難しいと思います。
 ただ、地方で自分たちの責任で議論するという点では、一定の意味があると思いますが、それ以上の最低賃金政策全般について、地方審議会で議論できるかというと、それは難しいことではないかと思います。

○仁田会長 どうぞ。

○小林委員 2つほど伺いたいのですが、北海道は東西でいけば600kmという広大な地域である。都市を抱えている所で言えば、札幌、旭川、そのほかがかなり小さな市町村という違いがあるわけです。道幸先生が先ほどおっしゃった北海道の最低賃金は高いということに関して、直感で申し上げるならば、札幌を中心とした最低賃金額になりつつあるのかなという感じがあって、その他の地域、道東地域などそういう所に今の最低賃金額が与える影響はどのようなものがあるかについて、お伺いしたいと思います。
 それと、道幸先生は最低賃金の委員として30年の歴史がおありということですが、ここのところ数年は生活保護との乖離解消のため、解消額という意味で最低賃金額を幾らにしていくということで、毎年の額が決まっていたと思うのですが、過去のときは、北海道の中のどこの 地域をターゲットというか、標準に置いて、目安を含めて考慮して最低賃金額を決めてきたのか、お伺いできればと思います。

○道幸北海道地方最低賃金審議会長 2番目の御質問については、目安だけです。いろいろな議論をすると混乱して終わりとなりますから、基本的には目安だけです。
 1番目は、札幌中心に念頭に置いているというよりは、むしろ生活保護水準との乖離解消のため金額を上げてきているので、札幌のウェイトが北海道の生活保護水準に与える影響という点では若干関係しますが、特定の地域を念頭においているというよりは生活保護水準との関係を念頭に置いていました。
 ただ、現状の水準がどうなっているかというと、今は748円ですから、パートの労働者の賃金はほとんど750円から800円になっています。下の賃金が上がってくると上の賃金が上がりませんから、パートを中心として非常に圧縮した形の賃金層が多くなっています。
 使用者側の委員からの意見として、最低賃金が上がるのはやむを得ないけれども、最低賃金が上がると勤続年数が長い人に対するプラスアルファができなくなる。つまり賃金の最下層が上がってきたから、同じように上の層の賃金を上げるということになると、あまりに影響が大きいから、結局賃金体系というのはフラット化していくと。フラット化すると、いい人が継続就労しない。それをどう考えるかということは問題です。一応、最低賃金法には違反しないけれども、経営の仕方はかなり変わってきているのではないかと感じています。

○仁田会長 よろしゅうございますか。道幸先生、貴重な御意見をありがとうございました。

(入退室)

○仁田会長 引き続きまして、埼玉地方最低賃金審議会の小笠原会長から10分程度御説明いただいて、その後、20分程度、質疑を行うという手順で話を進めたいと思います。小笠原会長、本日は目安制度の在り方に関する全員協議会の審議のために御意見を賜りたいと思います。よろしくお願いします。

○小笠原埼玉地方最低賃金審議会長 埼玉地方最低賃金審議会会長の小笠原と申します。どうぞよろしくお願いいたします。3点ほどに集約をして、説明を簡潔にさせていただきます。10分ほどということでしたが、質疑応答の中で具体的に取り上げさせていただいたほうがよろしい、そういった論点が多くあると思いますので、私から総括的に3点ほどお話をさせていただきたいと思います。
 1点目ですが、資料No.1、平成22年以降、どのような水準で引上げが行われてきたかという一覧表です。これは御覧いただいてお分かりのとおり、一番特徴的なのは結審日が全国に先駆けて非常に早く設定されているということと、いずれの年度も公労使三者一致で決めてきているということです。これは、私が会長になる前からの埼玉の伝統のようですが、三者一致で決められるかどうかということをまず枠組みとして、その水準を具体的に決めていくという決め方になっているようです。それを踏襲してきております。
 したがって、労使関係要因で決めてきておりますので、目安との関係で申しますと、目安は労使関係的な三者一致のための配慮をする際の出発点にはなりますが、実態として、示された目安自体の妥当性やその中身の観点から埼玉県の実情に照らして議論をし、それを踏まえて水準を出すということにはなっておりません。目安額があり、それに対して、三者一致ができる範囲で1円積めますか、2円積めますかという話で決めてきているということです。
 2点目は、対象労働者としてどういう労働者を想定しているか、あるいは隣県等との位置付けはどうかという点について、これは恐らくどこの都道府県でも同じ事情を抱えていると思いますが、埼玉もその特徴として、県内に閉じた労働市場を持つ地域と、オープンな労働市場を持つ地域が混在しています。例えば埼玉県の秩父という地域、あるいは川越という地域がありますが、比較的、労働市場が地元に閉じていて、ローカルミニマムがそこに成立しています。隣県等とのオープンな労働市場ということでいきますと、埼玉都民と言われますように、 東京都に仕事を持って、埼玉で生活をするという方々がいます。同時に、東部地域、春日部などにいきますと、千葉県との労働市場のオーバーラップが出てまいりますし、熊谷などの県の北部にまいりますと、群馬県との行き来が出てくるということです。したがって、最低賃金をローカルミニマム、特に最低生活水準を担保できる賃金水準のローカルミニマムという観点で考えると、明らかに県内に階層性が成り立っているということです。実際は水準を決める議論の中で、それぞれの地域を代表する委員がおりますので、地元を考慮した御主張をなさいます。ですから、群馬県を考慮すべきだとか、あるいは千葉との横並びや、あるいは東京に対して埼玉がどういう位置付けを持つべきかといった観点で議論はありますが、それが埼玉県の審議会として集約された、基準化されたものになっているかどうかという点では、なかなか難しいという実情があります。
 3点目として、目安そのものについて審議会がどういう考え方を持っているかという点についてですが、今年度、埼玉の地方最低賃金審議会としての議を経まして、私の名前で仁田会長宛てに目安についての意見を提出させていただきました。目安について、地方最低賃金 審議会の考え方を直接お伝えすべきではないかという考え方が委員の中に非常に強くて、そういうことに至ったわけです。
 目安に関する公益委員見解の中に、労働者側、使用者側ともに基本的な見解が述べられているわけですが、金額審議についての具体的な審議内容が、いまひとつ伝わってこないということがあります。労働者側、使用者側の意見が一致しない状況の中で、目安の水準を公益委員として決定しているという事情だけが理解できる形になっているかと思います。ですので、現在の目安の仕組み、枠組みを維持することを前提に考えた場合でも、例えばこれからちょっと申し上げますような見解の示し方は、可能なものであるかどうか、御検討いただきたいということなのです。
 例えば平成26年度目安額Aランク19円の根拠を示す中に、「労働者側、使用者側の意見の一致しない状況の中で、公益委員としては連続して低下している実質賃金の改善と、中小・零細事業者の経営状況の厳しさの双方に配慮しつつ、かつ日本経済の好循環実現という観点から、各ランクごとに掲げる引上げについて、それが妥当だと判断をした」といったような一言が入っておりますと、もちろん地方審議会としての自主性を発揮しながらの審議ではありますが、目安というものがどういう考え方の上に成り立っているかということを議論の出発点に置くことができる。現在は、目安の考え方が示されていないものですから、労使関係要因という、これまでのルールにのっとって、三者一致でどの辺まで決められるかという決め方になってきたといった関係があります。
 ただ、埼玉では労使関係要因で決めていることについて、私自身は非常に肯定的な評価を持っております。これはILО等における国際的な最低賃金を決める際の手続論として、労使の関与が強く求められているわけで、審議会方式をとらない場合であってもそうせよということですから、審議会方式をとっている場合にはなおさら、労使関係の要因を直接的にその場で配慮して決めるということについては、私は埼玉としては非常に良い最低賃金の決め方を行ってきているなという自負を持っているところです。以上、私から3点申し上げました。

○仁田会長 せっかく小笠原会長がお見えになってお話を伺えるので、何か質問等ありますでしょうか。皮切りに私から。先ほどの貴重な御意見、ありがとうございました。今年の目安についての御意見を頂いたのですが、それは今までの目安に比べて、今年の目安が分かりにくかったという話なのか、それとも今までの目安も分かりにくかったけれども、それが積もり積もって、こういうことを是非言わなくてはいけないという議論になったのか、その辺を伺わせていただければと思います。

○小笠原埼玉地方最低賃金審議会長 地方といいますか、私たちからは、なぜこういう目安になっているかということは、推測レベルですが理解はできます。もう1つ、根拠を示すと言っても、数字の根拠はもちろん示すことはできないわけです。考え方の根拠を示す際に、考え方そのものの中にも非常に政策的な配慮が入りますので、わずか1行を入れるのも大変な作業であるということが推測できます。ただ、毎年の目安が現在の形ということになりますと、私たちが受け止めるのは目安の金額だけですので、その金額だけが提示されたときに、それを尊重して議論の出発点に置くのですが、自分たちが議論していることの出発点が、どういう考え方に基づいて出てきている出発点なのかということについてのコンセンサスが得にくいということなのです。ですから、推量の中でコンセンサスを作っていくと、今度は埼玉の労使の見解が割れてしまいますので、現在は、労使関係要因で三者一致の決定をしてくださいということで決めているということです。その限りでは、今の仁田先生のお尋ねについていいますと、今年度だけの特別な事情ではなく、この間、私たちでずっと持っている印象ということになります。

○田村委員 今日はありがとうございました。2点お伺いしたいと思います。労働者側なり経営者側はいろいろな団体がありまして、そこでそれぞれ意見を交換しながら、まとめて発言をするということがあるわけですが、埼玉県内、あるいは関東圏での公益側委員の意識合わせや、考え方の一致を図る機会、そういうものがあるのかどうか、必要なのかどうか、少しお伺いをしたいというのが1点目です。
 2点目は、直近のデータを取る必要性から、中央最低賃金審議会の目安を出すのが7月の末、若しくは8月の頭になることが続いておりまして、10月1日発効を目指すとすると、地方の審議がお盆前の窮屈な日程となります。この時期の問題についてはどうお考えか、お伺いしたいと思います。

○小笠原埼玉地方最低賃金審議会長 まず時期の問題については、これは審議の実質を確保するという意味で、現在のロードマップに支障があるとは考えてはおりません。中央最低賃金審議会で出されてきた目安の伝達を受けて、それに基づいて審議をするということですので、目安の時期がいつになるかということについては、少なくとも審議日程等を決める際に、そういうことが問題になったことや、あるいは何か改善をすべきだという意見が出たということは、これまではありません。
 公益委員間のすり合わせなのですが、私は本来、特に東京都、千葉県との間では、そういう機会があってもいいかとは思っております。お尋ねの論点に直接関わらないところですが、実際に最低賃金ぎりぎりのところで生活をしておられるような、働いている方々の声を、直接 審議会の場で意見聴取をするなり、参考意見として求めることはなかなか難しい。地方最低賃金審議会において調査審議するということになっておりますが、実際は審議会の様々な先生方の事情等も考慮すると、調査というところまではなかなか難しいところがありますので、 少なくとも公益委員レベルでは実態を把握しながらやっていかなくてはいけないということです。埼玉の中だけではやはり知恵が足りないということがあります。先ほど言いましたように、労働市場が相当オーバーラップしている中で、そのオーバーラップしている所の公益委員の 皆さんとのレベル合わせといいますか、意識合わせといいますか、そういうものはやる機会があればよろしいと思っております。
 ただし、それぞれの地方局の事務局が非常に有能でありまして、他県の情報を適宜、非常に適切な形で交換してもらいながら、それを審議会に伝え、特に公益委員の打合せの場にそれを伝えていただきながら、公益委員としては他県情報を十分頭に入れながら審議を運営していくということが、今のところはできております。だから、場はありませんけれども、それによってそれほど支障が出ているということでもないと思います。
 田村委員が今おっしゃったことに関連いたしますが、公益委員の役割といいますか、特に目安の金額から出発する議論をしますと、労使の委員の方が自分たちで、きちんと資料を自発的に整えて、あるいは足で歩いた情報を取ってきて、それを審議会の場にエビデンスとして示すということが、だんだん低調になってくるという傾向があります。私は埼玉の委員を十数年やっておりますが、かつて1円上げるか上げないかという攻防の時代には、相当に細かい資料まで、それぞれ持ち込まれながら議論をしたことがあります。現在は、目安が例年より高めに出てくる中で、それを飛ばして目安から議論が出発しています。審議会は労使の議論の上に立って成り立っているわけですから、労使がきちんとした議論をしていく場にするという意味で、公益委員の役割は、あまり審議会を最初から主導していくという形にならないほうがいいかなという実感を持っております。

○高橋委員 本日はありがとうございました。埼玉県に関しては、千葉県がAランクで、埼玉県がBランクという関係にあります。しかしながら、最低賃金の金額そのものはまた別の水準であるということがあると思います。現行のランク制度について、何かお考えがあれば教えていただきたいというのが1点目です。
 2点目は、先ほど来、目安の金額から出発するという審議方法であるということをお伺いしました。ちょっと極論かもしれませんが、中央最低賃金審議会が目安の金額そのものを示さないという形で、参考資料だけ提示して、あとは地方の完全な独自性に委ねるという考え方もあり得ると思うのです。目安金額を示すか、示さないかということについての会長のお考えをお聞かせいただければと思います。以上2点です。

○小笠原埼玉地方最低賃金審議会長 高橋委員の今の御質問は、かなり最低賃金制度の本質に触れてくる問題だと思います。埼玉の会長としての発言を超える部分もありますが、ランク制度は、都道府県最低賃金という形をとっておりますから、目安を示すためにランクが必要になってくるということなのだろうと思うのです。
 今の御質問は2つあって、2つ目は埼玉がBランクに満足しているかどうかということですが、簡単に言えば、不当な取扱いだと思っております。そういうことがありまして、埼玉はどんどん上がっていくということになっているわけです。高橋委員は、特に千葉県とのバランスとおっしゃいましたが、そのとおりで、春日部地域、同じ線路で同じ労働市場圏を持っている所にこんなに差があるわけで、現在のランク制度を維持する場合に、ランクを決めるときには、このことも配慮していただきたいということです。当然、その際の検討には、ランクを決める際に考慮される各指標についての見直しも入ってくるだろうと思いますし、指標の加重をどのように付けるかということについても、当然検討が必要かと思います。
 ランク制度そのものについてですが、これは都道府県別の最低賃金制度ですので、ランク制度をとることについてはやむを得ないと考えております。ただ、今申し上げましたように、実際に埼玉はBランクにランクされていて、私たちから見れば大変不当と思っております。ですから、制度ができた経緯はありますが、ランク制度の背景にある都道府県別の最低賃金という制度の作り方そのものが、現実にこれだけ労働市場が広域化している中で、適切かどうかということはあると思います。
 先ほど私は県内でもローカルミニマムは違うということを申し上げました。同一の都道府県の中でも、かつて京都で北と南で2つの最低賃金に分かれていたことがあります。そういう同じ県内の中でも、ローカルミニマムの実態に照らせば、都道府県最低賃金が維持できないところがあった。現在でも、制度上そうなっているからやむを得ないのであって、ローカルミニマムでいきますと、皆さん、地域別の最低賃金を作りたいというのが本音のところだと思います。今、無理をして1都道府県に対して1つでやっているということです。だから、ローカルミニマム的な観点に立つと、都道府県を一色に潰すというのはやや難しいというか、検討すべき時期に来ているかと思います。
 ちなみに、私の考え方は、都道府県よりももっと広い範囲の最低賃金制度を作る必要があると。特にイギリスのLow Pay Commissionのやり方などを少し研究しています。つまり、最低賃金額だけを決めるのではなくて、最低賃金がどういう問題性を抱えて、どんな構造の中でそうなっているかということについての調査も含めて、きちんとできるような体制も必要なのだろうと、併せてその点も申し上げておきたいと思います。
 目安ですが、現行のやり方では、やはり目安は必要だなと思います。それは先ほど申し上げましたように、ナショナルミニマムではなくてローカルミニマムで決めていくというやり方ですから、ナショナルなミニマムの考え方はどうなっていくのかということについて、片一方で基準が必要ですから、指針的な目安という意味で、これは維持していただいたほうがいいと思います。考慮しながら自主性を発揮してくださいということも、併せておっしゃっていただいているわけですから、そのとおりに、目安を受けて、私たちは審議をしていけばいいと、現行で言うとそういうことになると思います。

○藤村委員 どうもありがとうございます。中央最低賃金審議会で議論をするときに、しばしば最低賃金額の水準をどうするのだという意見が、特に労働者側から出てくるのです。そのときに、大分前の政府レベルの政労使の会議になりますが、最低800円、平均1,000円という数字も出てきたりしています。地方最低賃金審議会でお話になるときに、そういう水準については、議論として出てくるのでしょうか。

○小笠原埼玉地方最低賃金審議会長 もちろん出てきておりまして、特に労働者側の委員の方は、やはり生活できる賃金という考え方で、その適正な水準がどこにあるかということは、常に頭に置かれながら議論をされていると認識しております。できるだけ800円、1,000円を目指したい、といった具体的な数字になりますが、これは先ほど申し上げた話でいいますと、ナショナルミニマム的な発想です。だから、この国で働いて生活をしていく、その最低生活費を賃金という形で確保する、その最低水準はどこにあるかということを時給で割っていったときに、800円、1,000円という話です。ところが、地方最低賃金審議会の中の議論はローカルなミニマムを随分配慮しますから、この地域で生活する最低限というのは、どんなものかという議論の仕方です。テーマとしては金額なのですが、その背後にある考え方というところになりますと、最低賃金法が想定している最低生活資金としての賃金をどのように考えていくかという、そこはなかなか難しい議論になってきてしまいます。一時期、会長に成り立ての頃は、そういう議論をふっ掛けたことはありますが、ちょっと地方最低賃金審議会のレベルの議論ではないなということで、その後はその議論はせずに過ぎてきております。ですから、主張の1つとして、その金額が出てきているということです。

○仁田会長 あと1つ伺いたいのですが、昨年度の状況の違いの1つで、この資料の中にもありますが、春季賃上げ状況で賃上げが行われたというのが、状況変化としては大きかったのではないかと思うのです。それについては、埼玉地方最低賃金審議会内では何か議論はありましたか。

○小笠原埼玉地方最低賃金審議会長 金額に落とし込んだ議論をした記憶があります。つまり、目安が出ました。その賃上げ分をどのぐらいの額として具体的に乗せていくかという議論として行った。これは昨年に特徴的な議論だったと思います。現に2円ぐらい乗せたと思いますが、そういう反映のさせ方でした。

○仁田会長 分かりました。ほかにはいかがでしょうか。

○藤村委員 毎年三者一致というのは、ほかの都道府県を見てもあまりない状況なのですが、労使で合意できる水準でということが出発点だという御説明だったと思います。その場合、目安で示された金額の、例えばマイナス1や、そういう話も含めた上で最後三者一致に持っていくということなのでしょうか。あるいは、普通はゼロから始まって、プラス1か2かという、そっちのほうの議論が中心になるのか。そこの辺りはいかがでしょうか。

○小笠原埼玉地方最低賃金審議会長 そうですね。目安からマイナスする議論は、それを最初にしてしまいますと、埼玉の場合は、労働者側、使用者側との個別の協議で進めていくやり方なのですが、たとえ個別協議でやっていったとして、私が議事管理を技術的に相当工夫したとしても、マイナスの議論から始めると、どうしても行き詰まりが出ます。一時期、目安に対してではありませんが、現行の最低賃金に対してマイナスということが、かつて1円、2円上げる攻防の時代にはあって、審議会が相当にデッドロックに乗り上げてしまったという経験があります。それ以降いろいろな事前の意見調整などインフォーマルな意見調整も含めて、マイナスからの議論はやめましょうということで調整をしてきています。ただ、それが労使双方にとって、どれだけ妥当性を持つかということについては、まだ審議会として検証はしていませんが、少なくとも三者一致でずっと来ることができていることについていうと、多分そういう審議の進め方について、手続としても同意を頂いているということだろうと思います。

○仁田会長 ほかにはいかがでしょうか。小笠原先生のほうで、他に御意見がございましたら、この際ですから。

○小笠原埼玉地方最低賃金審議会長 今日は埼玉の実情について意見をということで、それ以上の準備はしてきておりませんので。

○仁田会長 それでは、埼玉地方最低賃金審議会の小笠原会長、御退室いただいて結構です。どうもありがとうございました。

(入退室)

○仁田会長 本日は遠路、どうも御苦労様です。ただいまから、熊本地方最低賃金審議会の荒井会長から10分程度で御説明を頂いて、20分程度の質疑時間を取るというスタンスでお話を進めたいと思います。時間についてあまり厳格にお考えになる必要はありませんので、よろしくお願いいたします。

○荒井熊本地方最低賃金審議会長 ただいま紹介いただきました、熊本地方最低賃金審議会で会長を仰せつかっています荒井でございます。本日はこのようなヒアリングの機会を頂き、大変感謝しております。よろしくお願いいたします。時間の都合がありますので、大体3点か4点ぐらいに絞りたいと思います。大きな項目として、最低賃金の現在の水準についてどう考えるか、独特の経済状況や事情があるか、あるいは、近隣地域における位置付けや金額ランクはどうかというものを含めて説明したいと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは、ちょっと時間が掛かるかも分かりませんが説明いたします。最低賃金の現在の水準については、労使の考えは異なっていまして、労働者側委員はここ数年、賃金の上昇率が低く、ゆとりある生活ができない労働者、また、貧困ラインで生活する多数の非正規労働者を考えると、最低賃金の引上げが不可欠であり、また、現在の水準は雇用戦略対話での政労使合意に比べまだまだ低いといい、毎年、大幅な賃上げを主張しているところです。これに対して、使用者側委員の方々は、景気低迷が続く中で、中小・零細企業の経営は、まだ改善されておらず、支払能力もなく、引上げは困難であると主張しています。
 現在の最低賃金水準に関しては、労使の考えに大きな隔たりはありますが、熊本地方最低賃金審議会は、両者の見解を十分に認識した上で、九州Dランクにおける熊本県の位置付けとして、毎回ではありませんが、大方、先頭を走って結審することが多く、ある意味でDランク県の最低賃金相場を形成してきています。
 それから、いろいろな経済指標で見る県経済の大きさから判断して、県経済の実勢に見合った最低賃金、これも毎年こういうことを頭の中に置いて決めております。さらに、いろいろな人材や若者の流出などの状況を総合的に判断すると、現在の最低賃金は、あるべき水準と、やや乖離しているのではないかと考えております。
熊本県最低賃金は、着実に上昇していることは間違いないのですが、今一つ大きな問題は、ランク間の最低賃金格差です。委員の方々も御承知のように、この10年間、熊本県最低賃金と全国加重平均や、最低賃金の最高額である東京都との最低賃金格差は、絶対格差にしろ、相対格差にしろ、一貫して拡大しています。ランク間の最低賃金格差が拡大しているのは、ランク別の引上げ率がほぼ同じである点に、大きな原因があるのではないかと考えております。
 2番目は、審議において目安がどのように参考にされているか。これは目安以外にどのような要素を重視して審議しているかということとともに御説明いたします。御承知のように、毎年7月中旬から専門部会を設置し、最低賃金の審議が始まりますが、7月下旬の目安伝達後、労使の基本的見解の表明、意見交換を経て、金額審議を行っているわけです。熊本地方最低賃金審議会においては、まず第1に、目安額の根拠、賃金改定状況調査の第4表を様々な角度から検討しているわけですが、審議においては、目安の位置付けというかウェイトは大きく、引上げる最大の根拠になっています。
 ついで、最低賃金決定の三要素、支払能力、生計費、地域における類似の労働者の賃金をどう捉えるかで、労使のほうから様々な検討が加えられます。さらに、県経済の実勢、中小・零細企業の状況を考慮、加味するなどして、金額審議は目安額を中心に行われ、最終的には、公労使ともに、目安額を基に、熊本県の最低賃金引上げを決定しています。
 今説明しましたように、目安額が、事実上、熊本県の最低賃金引上げを決定しているわけですが、ここ数年の目安額、また、近年の大幅な目安引上げにおいても、地方最低賃金審議会の引上げ額は、目安どおりか、若しくは、1~2円の小幅な上積みであって、地方最低賃金審議会としては、最低賃金制度の本質的、抜本的な審議がほとんどできない状況にあります。最低賃金引上げ額は、目安額に強く連動しているわけです。毎年、公労使から、地方最低賃金審議会の役割とは一体何だろうかとの疑問が発せられています。
 目安制度の地方最低賃金審議会の審議に与える影響を考えますと、目安制度は、地方最低賃金審議会の役割を削ってきたのではないだろうかと考えております。地方最低賃金審議会の役割は、今や目安額を追認する機関に変容したのではないだろうかと思っております。 目安先導というか、目安提示によって、地方最低賃金審議会の最低賃金審議の幅は、年々狭くなっていると感じています。
 3番目、近年の目安に対する公労使の受け止めはどうかという点です。近年の目安額を見てみると、賃金改定状況調査の第4表のアップ率を大幅に上回っており、公労使委員ともに驚きをもって受け止めているのが現実です。また、労使からは、最低賃金決定の三要素などに基づく、経済的根拠だけでは説明できないとの意見が寄せられています。また、中央最低賃金審議会において労使合意が得られず、公益見解が提示する目安額を基に、地方最低賃金審議会では金額審議が行われるわけですが、毎年、使用者側委員から厳しい批判を受けるのは、中央では使用者側委員が反対しているのに、地方では目安額に更にプラスアルファした形で結審されるという最低賃金決定の在り方です。
 さらに、公労使から受けるもう1つの厳しい意見は、目安提示に関する公益委員見解についてです。地方最低賃金審議会において、目安を尊重と言いながら、同時に地方の自主性発揮を期待するといいますが、最低賃金がほぼ目安額に準拠して結審している現況を考えると、いかに自主性を発揮すればよいのだろうか。地方最低賃金審議会の公労使は毎年、苦悶しています。
 最低賃金審議会は、労使の集団交渉ではなく、最低賃金額が社会的に見ていかにあるべきか、県経済の実勢に見合った最低賃金とは何かを公労使で審議し決定する社会的合意の場であると考えています。現在、地方の最低賃金審議は、目安額に準拠する形になっています。目安制度が最低賃金審議の制約条件になっているように思われるわけですが、これでは自主性の発揮がなかなかできないというところです。
 最後に、目安の在り方についてです。地域別最低賃金は、昭和53年度から全国的に整合性ある決定が行われるよう、47都道府県を4つのランクに分け、中央最低賃金審議会が最低賃金引上げの目安額を提示してきました。目安制度は、地方最低賃金審議会の金額審議に一定の役割を果たし、地域別最低賃金の普及に寄与してきたことは説明するまでもありません。しかし、目安制度は現在、幾つかの課題を抱えています。ランク間の最低賃金格差の拡大、目安額に準拠する最低賃金の引上げという実態、地方最低賃金審議会の自主性発揮に関する問題など、幾つかの課題を抱えています。確かに、目安制度は最低賃金制度の発展に大きな役割を果たしてきたことは間違いありません。今後も、制度の基本的枠組みは継承されるべきであると考えております。しかし、現在、ランクの区分、提示方法など、技術的な側面の見直しもさることながら、ここで説明してきましたように、目安制度の抱える課題を検討し、また、制度を見直す機会に来ているのではないだろうかというのが、熊本地方最低賃金審議会としての考えです。
少し時間が長くなりました。まだ御質問はありますでしょうが、一応、4点だけ説明させていただきました。ありがとうございました。

○仁田会長 どうもありがとうございました。ただいまの荒井会長の御説明について御意見、御質問等あればお願いします。

○萩原委員 1つ、荒井先生からのお話の中にありましたが、熊本は比較的、九州の中では早めに審議を決めるという形になりますが、この意味合いとしましては、やはり、発効日が1つ要因となるのか、あるいは、熊本としての独自性を出すために早期に決めるという、周りの 影響を受けずに決めたいという部分があるのか、少しこだわりの部分が何かあれば、教えていただきたいと思います。

○荒井熊本地方最低賃金審議会長 労使の本音は十分には分からないのですが、使用者側の委員の方からも、九州ブロック会議などで、やはり熊本がトップを切っていただきたいというようなことをいわれると、後からよく聞きます。
 労働者側の委員の方々は、やはり熊本がトップを切ることで頑張っていただくという意味で、他県が熊本に1円上乗せするかどうかはともかくとして、福岡がCランクですが、福岡を除けば九州の中で経済規模が大きい熊本が、そういうことを示さなければならないという気持ちは、労使ともにあるようです。そういう意味で相場形成をしているということです。

○高橋委員 2点、質問したいと思います。1点目は、ランク間格差の拡大ということについてです。私は、ランク制度を維持している以上は、ランク間格差が拡大するのは、制度上のメカニズム的に自然な形であると理解しております。他方で、中央の審議会では、労働側は専らC、Dランクの引上げを、底上げという形で主張しています。それはランク制度を維持することと矛盾することだと私は考えているのです。現行のランク制度の在り方について、荒井会長の個人的見解でも結構ですので、廃止すべきである、或いはこういう形で見直すべきであるといったような、何か具体的なお考えをお示しいただければというのが1点目です。
 2点目は、地方の自主性発揮に関してです。実は先ほど、埼玉の小笠原会長にも同じ質問をしたのですが、自主性の発揮のためには、むしろ、中央最低賃金審議会としては目安金額を示さず、皆様の御参考となる資料だけ整備して、あとは完全に地方でお決めいただくというのもあるのではないかと考えておりますが、そうした審議の方向について、個人的な見解をお示しいただければと思います。以上2点です。

○荒井熊本地方最低賃金審議会長 最初の点ですが、今おっしゃいましたように、目安制度がA、B、C、Dランクごとに提示される限り、相対格差も絶対格差も開いていくことは、これはもう、数字のマジックではなくて、当たり前のことです。ただ、それはあくまでも制度上のことですが、地方の、特に労働者側の委員の方から言えば、「どうにかならないのか」というのが本音で、我々から見ても、全国加重平均との差は、熊本は結構大きいわけです。ここ10数年間で見ても開いているわけで、どこかで何か順番をシャッフルできるような仕組みがあればいいと、私もいつも思っているわけです。そういう意味で、ランクの入れ替えができたり、もう少し目安の幅を作っていただければいいと思っているのです。しかし、これも考えてみれば、目安制度ができた当時、1、2年はよかったのですが、目安に準拠していってランク間の格差が開いていく、ちょうど池の水がパチャパチャやっていてもまた元に戻るという意味で、私はあまりそこのところは期待していないわけです。
 次の点です。地方審議会の自主性発揮の点については、我々も本来は頑張って勉強しなくてはならないのですが、どうしても目安額が提示された後、それに基づいて審議する形になります。参考資料だけを示して地方審議会にお任せという考え方もありますが、市場メカニズムが働けば、やはりどこかに収れんするように、これもあまり、長い目で見ると、どこかが基準となって、また準拠していく可能性があり、相場ができてしまうので、これもなかなか難しいなとは思っております。ただ、私が今回、特に危惧している点は、金額もさることながら、地方の最低賃金審議会の果たす役割が、だんだん小さくなってきている。そういう意味で、自主性発揮が必要だと思っているわけです。
 それともう1つは、最低賃金というのは、労使交渉の場ではない。あくまでも労使が審議会で最低賃金とはどうあるべきか、あるいは、働く労働者、あるいは中小・零細企業が成り立つにはどうあるべきかを考える場ですから、ちょっと言葉は悪いのですが、1円、2円の刻みではなくて、もう少し哲学的というか、そういう意味での審議ができればいいと、いつも思っているわけです。なかなかそこは許されないという意味で、もう少し自主性の発揮が期待される場でありたいというのが、これは私個人の考えです。ちょっと的外れかも分かりませんが、それでよろしいでしょうか。

○田村委員 3点あります。中央最低賃金審議会は公益見解としての上げ額を、ランクごとに示しているというのがこれまでの経過ですが、地方の独自性、あるいは労使の合意を求めるときに、引上げ額で示すのがいいのか、ランクごと、あるいは地域ごとの絶対水準的なもの  を示しながらどれくらいかけて近づけるのか、政府が示した水準との乖離解消の方向性を示すみたいなことがいいのか、もし御意見があったらお伺いしたいのが1点目です。
 2点目は、九州の中では比較的早く熊本は決めていただいておりますが、単年度で結審をしながら、毎年の繰り返しになっていますが、積み残し的な課題がこれまであったとしたら教えていただきたい。例えば、こうであるべきだけれども今年は無理なので2年掛けてやりましょう、3年掛けてやりましょうと。これは生活保護との関係ではそれぞれ地域であったのですが、ほかの課題があるとすればお教えいただきたいのが2点目です。
 3点目は、若者の流出、特に九州は博多地域への流出みたいなことがあるのだろうと思いますが、そのときに、最低賃金あるいは産業別最低賃金は、どの程度の格差は許されるものなのか、やはり同額であるべきなのかという御意見があればお聞きしたいと思います。

○荒井熊本地方最低賃金審議会長 目安は引上げ額がいいのか、金額がいいかですよね。その辺りは、もちろん委員の方もいろいろ考えておられるとは思うのですが、なかなかこれがこうだと言えるものを、私自身は持っておりません。ただ、どうしても賃金の決定というのは、九州で言えば福岡を除きDランクですので、結局、お互いに眺めますので、引上げ額であろうが、どうしても金額では基本的にあまり変わらない。むしろ、もう少し審議をやりたいと言えば、熊本県自身はまだまだ行われていないのですが、県経済の実勢に見合った賃金とは 一体何か、これはもちろん屁理屈的に言えば、そんなものはなかなかないのですが。やはり経済規模から言うと、別に自慢する県ではありませんが、人口的にも、県内総生産にしても結構大きな県ですので、そういうことからすると、九州他県に比べてもうちょっとどうにかしてほしいというのが、労働者側の意見です。使用者側の意見もあるのですが、先ほど言いました、中小・零細の企業がたくさんありますので、なかなかその辺りは難しいということです。
 2番目です。これは私もちょっと分からないのですが、そういう意味での経年的な、何かギブアンドテイクの積み残しは具体的にはありません。ただ、熊本は割と、労使が最低賃金で対立するというのは、もちろんあくまで審議会での対立ですから、喧々囂々と対立するわけではないのです。委員の方も御存じのように、労働問題というのは最低賃金だけではなくて、いろいろな箇所で、働く労働者の雇用問題にしろ、派遣の問題にしろ、そういうところでお互いに労使が協力しなければならない。そういう意味でいろいろなところでやっていますので、そういう意味から言うと、借金や黒字にはなっていないのではないか。私はその辺りを調べておりませんので、もしかしたら労働者側の委員や使用者側の委員からお叱りを受けるかも分かりませんが。
 3点目です。中央で作られる最低賃金に関する制度の解説などを読みますと、セーフティネットなどいろいろ出てくるのですが、地方から言うと、もちろんセーフティネットとしての最低賃金機能は大きいのですが、1つは、人材流出が結構大きいわけです。もちろんマクロ的に見れば、昭和30年代から労働力が東京に向かって吐き出されてきたことはずっとあるわけで、今日でも吐き出されているわけですから、大きな政治問題になっているわけです。しかしながら、1つはやはり賃金の問題です。もちろん、多少、賃金が上がったからといってブレーキを掛けることはなかなか難しいけれども、最低賃金には、人口流出を阻止する機能としての役割も持たせなければならないというのが、私が会長になってから常に3点か4点言うときに必ず主張することです。使用者側の委員や労働者側の委員から、それほど取り上げられないのですが、しかし、地方から見ると、やはり大きいです。というのは、今おっしゃいましたように、熊本は福岡に近いですから、県境を越えるとちょっと高くなるわけです。ですから、どうしても労働市場的なエリアから言うと、やはりそういった人材流出はあります。金利が上がると、 資本が急速に日本に入ってくる、あるいは出るということがあっても、賃金の場合は、上がったからといって、そんなにドッと来るわけではありませんが、ジワッと効いてくるメカニズムを持っているのが、賃金の重みではないかと私はいつも思っております。十分答えたかどうか分かりませんが、お許しください。

○鹿住委員 今、地方の県の経済の実勢や、それを表すのはなかなか難しいということ、ランクの考え方も難しいということだったのですが、例えば、地域の実情を示すデータ、指標として、どういう業種が多いかなどの地域の産業構造や、あるいは、九州の各県へは大企業の 工場が随分進出していますので、そういった状況、あるいは中小企業で言えば、最近、倒産件数は少ないのですが、廃業がかなり増えていますので、そういった状況も考慮に入れるべきではないかと思うのですが、熊本県の場合は、そういったところはどういう状況になっていますか。

○荒井熊本地方最低賃金審議会長 すべてうまく答えられるかどうか分かりませんが、毎年、審議会が始まりますと、委員の方も御存じのように、事務局から県の産業政策や県の経済の実勢について、詳細な説明が行われます。御承知のように、県内総生産や製造業の出荷額等はどうしてもデータが遅れますから、2年遅れぐらいになりますが、そういう意味で使用者側の委員とのずれが出てくるのですが、それはそれとして、熊本の経済状況が出されます。それから、それと併せて、日銀短観や鉱工業生産支出や財務指標など、もちろん、今、鹿住委員がおっしゃったような倒産件数についても出てきます。出てくるのですが、先ほど言いましたように目安が提示されたら、審議として目安が中心になってしまうのです。もちろん前段で、経済実勢についても真剣に審議しますけれども。それが先ほど言った本音の部分なわけです。ただ、使用者側の委員の方から、本当に零細を抱えている所では、そういった倒産も、やはり後継者がいないから、あるいは借金の返済ができないからという形で説明を受けたりしますので、資料は結構あると思います。
 ただ、残念ながら、進出企業の中では、すべて大手ではありませんが、結構大手あるいは大手関連がありますので、ほとんど賃金ベースが参考にならないところがあります。我々も事業場視察をさせていただきますが、やはり地場の企業は「苦しい、苦しい」と言いますが、進出企業で大手の管理責任者の方々は、最低賃金の話は「そうですか」というところであまり問題とならずに終わるところがあります。そういう意味で、進出企業等に関するデータは、もちろん件数は分かっていますが、あまり扱っていないというのが事実です。

○鹿住委員 そういう進出企業の状況や、あるいは業種的に福祉関連ではどうしても賃金が低かったり、あるいは旅館やサービス業ではやはり低かったりと。そういう産業構造の状況というのが、最低賃金や賃金の状況に与える影響は、やはりあるということですね。

○荒井熊本地方最低賃金審議会長 あります。今おっしゃった2つの点ですが、鹿児島は割と福祉関係の大学も多いですし、福祉関係の施設等が多いので、働いている従業員の方は多いです。今、社会的問題になっていますように、そういう介護の俸給の問題などは、我々も十分分かっております。それともう1つは、阿蘇や人吉を抱えておりますので、温泉などがあります。いわゆるホテルではなくて旅館ですが、そういう宿泊サービスの所もありますので、そういう所では労働の実態がいかにあるべきかは、頭の中でそれを描いているのですが、確固たる、定期的なデータを持っていないのです。賃金がどうかというのは、私個人もかつて10数年前に調査したことはあるのですが、鹿住委員がおっしゃるような意味では、全体的に鳥瞰するほどのものを持っておらず、場合によれば審議が少し抜けているところはあるかも分かりません。ですが、労働局に作っていただくデータを基に、相当把握しています。

○武石委員 1点御質問です。熊本県は平成25年、26年と、労働者側が反対しての結審になっていると思うのですが、平成25年は九州地域において労働者側反対での結審、が多く、全国としては非常に少ないケースだったと思うのです。この辺りの審議の状況について、どういうふうに結審になったのか、簡単に教えていただければと思います。

○荒井熊本地方最低賃金審議会長 1つは、Dランクの中でも競い合っているというか、熊本と鹿児島というのは、結構、経済的には張り合っているところがあるのです。今でも鹿児島の最低賃金額は熊本県より1円高いと思うのです。これは、労働者側の委員からすれば、せめてその額に並ばないと難しいという意見があるということが1つ。あるいは、先ほども言いましたように、九州の中で先頭を切って決定するためには、少し高めで決定したいという意見があります。そうなると、今度は使用者側の委員の方がそれは難しいというという中で、ぎりぎりのところで決めたとすれば、労働者側が反対という形になります。
 私自身は新聞記者によく言うのですが、最低賃金は全国の順位の争いではないので、最下位が問題ないわけではないけれども、むしろ、働く労働者や経営者にとって満足すべきかどうか、これでいいかどうかを示す場なのだから、あまり熊本は最下位などということを書くなとは言うのです。労働者側の委員の方も、使用者側の委員の方も、どうしてもその辺りはこだわるところもあるのです。
 実際、数年ほど前に、先頭を走っている熊本を九州で一番最後に持ってきたことがあるのです。鹿児島はいつも決定が遅いので熊本を最後に持ってきて、相互に見合いながら決めたということもあります。しかし振り子と同じで、また戻ってしまうということで。ですから、これはあまり意味がないと、私は個人的には思っております。だけど、もちろん労働者側の委員の方からすれば大変なのです。それでよろしいですか。

○武石委員 ありがとうございます。

○仁田会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは本日は長時間にわたり、どうもありがとうございました。遠路お出でいただいて貴重な御意見を伺いました。

○荒井熊本地方最低賃金審議会長 どうもありがとうございました。

(退出)

○仁田会長 それでは、残りの時間で、最低賃金の在り方、三要素の在り方について御議論いただくということになっております。事務局から資料を用意していただいておりますので、その説明をお願いします。

○新垣室長補佐 それでは、資料No.2、3、4について御説明いたします。資料No.2がお手元にあるかと思います。前回、昭和52年の報告にある地域特殊性を持つ低賃金とはどういう意味か、目安ができてからも状況変化を踏まえて、目安の意義、役割を整理してはどうかという御趣旨の御発言がありましたので、目安制度創設に至るまでの議論を、より詳細にまとめたものです。
 御承知のとおり、目安制度は昭和52年12月の中央最低賃金審議会答申より創設されたものですが、それに先立って2年半にわたる議論が行われました。
 1ページ目です。昭和50年5月の労働大臣からの諮問にありますとおり、当時の状況としては昭和60年以降、最低賃金の年次推進計画に基づいて、都道府県ごとの地域別最低賃金が全国に行き渡った段階ではありましたが、中小企業問題、それから賃金格差もなお大きく残されているという状況でした。この中で、労働4団体から全国一律最低賃金制の統一要求がなされ、この問題を含めて最低賃金制の在り方についての諮問がなされたという経緯です。途中経過の議論の説明は省略いたします。
 5ページ目の昭和51年3月の中間報告です。こちらの中間報告までに、金額のアンバランスや手当の取扱い、金額水準、対象労働者の問題、それから改定時期が遅れるといった問題が討議され、中間報告では、最低賃金決定において、中央最低賃金審議会の積極的機能を発揮する方向について検討することが適当とされました。
 6ページ目の先頭に、金子小委員会委員長の総会での説明が抜粋されておりますが、こちらにあるとおり、当時金子小委員会委員長は、地域別最低賃金の性格は産業別最低賃金の落穂拾い的なものから一般的最低賃金という性格のものに変化してきたので、中央最低賃金審議会が最低賃金の決定方式に積極的な機能を持つところから議論を始めたらどうかと。積極的機能というのは、全国一律最低賃金制も1つの選択肢だし、決めるのは地方最低賃金審議会だけれども、決定の基準や目安を決めるのも選択肢の1つだということで御説明いただいています。
 8ページ目です。その後、昭和52年3月まで小委員会で更に議論を重ねて、「2 得られた結論」にありますとおり、都道府県ごとの最低賃金の決定は、「地域間、産業間の賃金格差がかなり大きく存在し、したがって依然として地域特殊性を持った低賃金の改善には有効である」が、全国的な整合性を常に確保する保障に欠けることも否定し得ないと。このため、「全国的な整合性の確保に資する見地から、中央最低賃金審議会の指導性を強化する」ため、1つには「最低賃金額の決定の前提となる基本的事項」、表示単位期間等について考え方を整理すること。もう1つは、改定について、「毎年中央最低賃金審議会がそのときの情勢に応じ、何らかの方針を作成し、これを地方最低賃金審議会に提示する」こととされました。
 この「何らかの方針」について、同年9月まで議論され、9ページ目の小委員会報告にありますとおり、「毎年、47都道府県を数等のランクに分け、最低賃金額の改定についての目安を提示する」こととされました。これが10ページ目の昭和52年12月の答申となり、現在まで目安制度として行われています。
 14ページ目以降は、その後の経過について、6月の第1回会議資料を多少詳しくしたものですので、必要に応じて御参照ください。
 18ページ目以降は、資料2-3、三要素の用語の定義についてと題する資料です。本日は三要素の議論ということで、最低賃金法第9条の地域における労働者あるいは賃金について、現行どのように解釈されているのかの解説を抜粋したものです。「解説」の二の部分、「地域別最低賃金の具体的水準については、地域によって物価や労働者の賃金等が異なり、全国一律の額として決定することは不合理であることから」、「本条第二項において地域ごとの要素を考慮して定めなければならない」としています。
 また19ページ目ですが、19ページの五で、「『賃金』とは、当該地方の労働者あるいは低賃金労働者の賃金水準等である」としています。また19ページの○ですが、平成19年改正の際に、「類似の労働者の」賃金から、「地域における労働者の」賃金に改められたところです。 改正前の最低賃金法では、地域別最低賃金だけではなく、産業別最低賃金や職業別最低賃金を前提として、決定基準が規定されておりましたので、産業別最低賃金であれば同じ産業の労働者、職業別最低賃金であれば同じ職業の労働者、地域別最低賃金であれば同じ地域の労働者という意味で、「類似の労働者の賃金」と表現されていました。これを、平成19年改正で、安全網としての役割は地域別最低賃金に特化することを前提としたため、地域別最低賃金の決定基準については、類似の労働者とあえて表現する必要はなく、地域における 労働者という表現で足りるとしたものです。したがって、「地域における労働者」という表現については、従前の「類似の労働者」から考え方が変わっているものではありません。
 続いて、資料No.3について御説明いたします。資料No.3は三要素に関して、現在諸外国では、支払能力を考慮して決定するものはあまりないと聞いているが、諸外国の最低基準の決定要素はどうなっているのかという御質問がありましたので、簡単ではありますが、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランスについて比較したものと、我が国が批准しているILО131号条約の規定を取りまとめたものです。ほかの国については、また次回御用意させていただきたいと考えております。
 御案内のとおり、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスとも、幾つかの方式を併用しながら全国一律での設定方式を採用していまして、そのうちアメリカのみが議会で法律を改正して決定する方式、ほかは審議会で改定をする方式を採っています。
 2ページ目です。上のほうの「決定基準」の所ですが、我が国については御承知のとおり、三要素を総合勘案することと、生活保護施策との整合性に配慮することが規定されていますが、各国様々な資料を用いて決定をしています。アメリカにおいては法律上、決定基準としての規定はありませんが、現行の最低賃金の実質的価値や平均賃金との乖離、雇用への影響等の資料を民主党、共和党のそれぞれが用いているようです。イギリスについては、経済全体への影響に配慮するということで、雇用の増減や平均賃金の伸び率、物価上昇率などの資料を用いているとのことです。ドイツでは、新たにこの1月に施行された最低賃金法で規定が置かれておりますが、労働者にとっての必要な最低限度の保護、公正かつ機能的な競争条件、雇用といったことが条文上記載されております。フランスのSMICでは、1つ目は物価が2%以上上昇したときにその上昇に応じて引き上げる方式、2つ目は生産労働者の実質的賃金の購買力上昇分等を勘案した年次改定、3つ目は政府による任意改定という方式が用いられています。
 3ページ目です。ILО131号条約及び135号勧告において、いかなる要素を最低賃金の決定基準とするかというところです。「(4)決定基準」を御覧ください。最低賃金の水準の決定に当たって考慮すべき要素として、「(a)労働者及びその家族の必要であって国内の賃金の一般的水準、生計費、社会保障給付及び他の社会的集団の相対的な生活水準を考慮に入れたもの」、「(b)経済的要素(経済開発上の要請、生産性の水準並びに高水準の雇用を達成し及び維持することの望ましさを含む。)」と規定されております。
 前回の、使用者の支払能力というものは、あまり考慮されている国は少ないのではないかという御質問についてですが、一番最後の4ページ目の中ほどの所に、平成26年6月のILО第103回総会において提出された、議題報告書の抄訳を記載しております。この中で、伝統的に採用されてきた3つの条件は以下のようなものである。(a)労働者の必要、(b)使用者の支払能力、(c)当該経済のいずれかにおける類似の労働に対する賃金、又は、より一般的には、関連する給与所得者や他の社会的集団の相対的な生活水準、と記載されております。その上で、各国がどのような決定基準を採用しているのかを比較して、それが報告書に記載されているのですが、その中で「企業の経済的能力」を考慮している国は、日本を含め18か国記載されております。また、それ以外の経済的要素として「国の経済的状況」、カナダ以下20か国。「経済発展の要求」、イギリスなど9か国。「生産性」、14か国。「雇用」、「経済競争力」などの経済的要素が各国において考慮要素とされています。資料No.4は第2回、第3回での御発言要旨ですので、必要に応じて御参照いただければと思います。以上です。

○仁田会長 多分、これは時間的に制約があるので、御議論は次回に回すのが適当かと思いますが、何か資料についての御質問等ありましたら、承っておいたほうがよろしいかと思います。いかがでしょう。よろしいですか。では、いずれにしろ、最低賃金の在り方並びに三要素の在り方については、次回においても議論をするという予定になっておりましたので、そのときにまた改めて御意見等を承りたいと思います。
 それでは、本日は以上でよろしいでしょうか。次回以降のスケジュール案について事務局から説明を頂きたいと思います。

○松本参事官 資料No.5です。次回2月は今回と同様に、静岡と大阪の最低賃金審議会の会長にお越しいただいて、御意見を伺いたいと考えております。第5、6、7回と、それぞれ2、3、4月に各項目を順次議論していき、5月の論点整理に至りたいというスケジュール案です。差し支えなければ、これで進めさせていただいてはどうかというお諮りです。

○仁田会長 このようなことで、よろしいですか。それでは、結構タイトなスケジュールではありますが、御協力を頂いて進めてまいりたいと思います。最後に事務局から事務連絡をお願いします。

○新垣室長補佐 次回の第5回目安制度の在り方に関する全員協議会は、2月16日(月)10時から開催いたします。場所についてはまだ決まっておりませんので、追って御連絡いたします。

○仁田会長 それでは、以上をもちまして、本日の全員協議会は終了といたします。本日の議事録の署名については、須田委員と高橋委員にお願いをしたいと思います。それではこれにて終了とさせていただきます。どうもお疲れさまでした。


(了)
<照会先>

労働基準局労働条件政策課賃金時間室
最低賃金係(内線:5532)

代表: 03-5253-1111

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 中央最低賃金審議会(目安制度のあり方に関する全員協議会)> 第4回目安制度の在り方に関する全員協議会 議事録(2015年1月14日)

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