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2014年11月12日 第60回社会保障審議会年金数理部会 議事録

年金局

○日時

平成26年11月12日(水)14:00~17:00


○場所

全社協・灘尾ホール


○出席者

山崎部会長、宮武部会長代理、浅野委員、牛丸委員、翁委員、駒村委員、佐々木委員、田中委員、野上委員

○議題

(1)公的年金におけるリスク管理について
(2)年金数理部会の公的年金財政状況報告等の取り組みについて

○議事

○清水首席年金数理官 本日は、会場の皆様方には、御多忙の折、お集まりいただきまして、大変ありがとうございます。

 ただいまから第60回「社会保障審議会年金数理部会」(セミナー形式の年金数理部会)を開催させていただきます。

 初めに、皆様方のお手元の資料の確認をさせていただきます。

 議事次第、座席図のほか、次のとおりでございます。

 資料1は「公的年金におけるリスク管理について(小野正昭氏資料)」でございます。

 資料2は「年金数理部会の活動について」でございます。

 参考資料は「事務局参考資料」でございます。これは本日の議論の参考にしていただくため、事務局において、公表資料のいくつかを取りそろえたものでございます。

 配付資料は以上でございます。

 次に、本日の委員の出欠状況について御報告いたします。本日は、全員出席でございます。会議は成立しておりますことを御報告申し上げます。

 それでは、ここで委員の紹介をさせていただきます。50音順で御紹介申し上げます。

 まず、公益社団法人アクチュアリー会理事長の浅野紀久男委員でございます。

 早稲田大学政治経済学術院教授の牛丸聡委員でございます。

( )日本総合研究所副理事長の翁百合委員でございます。

 慶応義塾大学経済学部教授の駒村康平委員でございます。

 公益社団法人日本年金数理人会名誉会員の佐々木政治委員でございます。

 日本大学文理学部教授の田中周二委員でございます。

 ハノーバー・ライフ・リー日本代表の野上憲一委員でございます。

 目白大学生涯福祉研究科客員教授の宮武剛委員でございます。

 神奈川県立保健福祉大学名誉教授の山崎泰彦委員(年金数理部会部会長)でございます。

 それでは、以後の進行につきましては、山崎部会長にお願いいたします。

○山崎部会長 本日は、会場の皆様方には、御多忙の折、お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。

 本日の議題は「公的年金におけるリスク管理について」と「年金数理部会の公的年金財政状況報告等の取り組みについて」の2つです。

 今回の年金数理部会は、公的年金財政をめぐって、数理的な視点を中核としながら、幅広く正確な情報を発信することにより、多くの方々に公的年金財政に関する理解及び年金数理部会の活動に対する理解を深めていただくことを趣旨として開催するものです。

 今回は、外部講師として、みずほ年金研究所の小野正昭さんをお招きして基調講演をお願いし、その後、意見交換を行うこととしました。

 本日の進め方ですが、基調講演を1時間程度お願いし、15分程度の休憩の後、意見交換を17時まで行いたいと思います。

 それでは、小野さん、御登壇ください。

 カメラの方は、ここで退室をお願いします。

 

(報道関係者退室)

 

○山崎部会長 それでは、議題1「公的年金におけるリスク管理について」初めに基調講演を行いたいと思います。

 事務局より講師の紹介をお願いいたします。

○清水首席年金数理官 本日の講師である小野正昭氏は、昭和54年に東京大学理学部を御卒業後、同年、安田信託銀行、現在のみずほ信託銀行に入社。平成10年に()安田年金研究所に御出向後、年金研究部長を経て、平成19年に()みずほ年金研究所研究理事に就任され、現在に至っておられます。現在、公益社団法人日本アクチュアリー会副理事長を兼務しておられます。

 同氏は、長年にわたり年金数理人として御活躍されており、また、今回の公的年金の財政検証との関係では、「年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」の委員として御尽力いただきました。

 以上でございます。

○山崎部会長 ありがとうございました。

 それでは、小野さん、よろしくお願いいたします。

 私たち委員も、スクリーンを見る都合から、席を移動いたします。

 

(委員全員 席を移動)

 

○小野正昭氏 御紹介いただきました、みずほ年金研究所の小野でございます。

 1時間ほど時間を頂戴しましたので、おつき合いのほど、よろしくお願いいたします。

 私が年金数理部会に参加するのは、今回で二度目ということになります。前回は、2010年に実施した年金数理部会セミナーでした。山崎先生や駒村先生も御一緒だったと思いますが、当時は別の政権だったということもあったかもしれないのですが、議事録の校正までは行いましたが、実は印刷物とかホームページ上の記録という形にはなってございませんでしたので、少し残念だったなということが思い出としてはございます。

 私、実は御紹介にありましたとおり、日本アクチュアリー会で、特に年金の分野を見させていただいている立場にございます。もちろん、今日のプレゼンテーションは、あくまでも個人の立場で行いますが、プレゼンにはアクチュアリー会の、例えば社会保障問題研究会の委員の方々あるいはそれ以外のアクチュアリー仲間との日頃の意見の交換というのが役立っているということは、御紹介申し上げたいと思います。

 本日いただきましたテーマは、「公的年金におけるリスク管理」ということでございます。企業年金とは異なる論点が多々ありまして、確固とした考えを持ち合わせているわけではないのですが、後半の議論の題材を提供したいということで、若干、紙芝居的なものになりますが、御紹介申し上げたいと思います。

(資料1の1ページ)

 御説明内容は、次の4点ということになります。最初の項目につきましては私自身の自己紹介的な面があるので、本日の論点には余りなりにくいのかなとは思います。

 今年特有の論点としては、既に皆さん御承知の「平成26年財政検証」というものがあります。これをスキップしていくということは考えにくいので、まずは、その結果の確認をさせていただきたいと思います。その際、私が考える「財政検証の受けとめ方」のようなものを御披露申し上げたいと思います。

 次に、「公的年金の運営」においては、持続可能性、いわゆるサステナビリティーと十分性、アデカシーの両方を考慮することになると思われますが、そうした観点からリスク管理の論点を示すとともに、必ずしも専門家ではございませんが、昨今話題の積立金の管理、運用についても若干の論点を提示したいと考えております。

 最後に、年金数理部会のセミナーということでございますので、私がこの部会に寄せる「想い」というものを述べさせていただきたいなと思ってございます。

(資料2頁)

 この図なのですが、これは厚生労働省が作成したものに基づいておりますが、参加させていただきました経済前提等の専門委員会の委員としては、、その委員会で使用しました「コブ・ダグラス型生産関数」というものと若干ダブって見えてしまうというのが不思議です。そもそも公的年金というのは、人口要素と経済要素といった社会経済の基本構造の上に形成されました諸制度の一つであり、また、社会保険に基づく社会保障制度の中核を形成する制度の一つであると。このように理解しているわけでございます。

 また、社会保険というのは、保険料の拠出実績が給付に反映するという意味での牽連性を維持したうえで、保険料の拠出者から給付の受給者に向かう再分配の仕組みだと理解してございます。

 さらに、公的年金は、人口構造の今後の変化に備えまして、一定の積立金を保有していると。こういう現状だと思っております。

(資料3頁)

 この図を見ながら感じたことなのですが、次のスライドになりますが、社会保障の数理を担当する方、特に厚労省の方ということになるかもしれませんが、アクチュアリーという職業集団の中の一部のグループということが言えると思います。

 私は、国際アクリュアリー会という各国のアクチュアリー会を会員とする国際組織の会議に参加させていただいているわけでございますが、そこで感じているのは、ここにあるように、アクチュアリーには大きく分けて社会保障の分野、職域年金の分野及び保険の分野に応じた3つのグループがあるのではないかなと。

 そして、それぞれの分野というのはそれぞれの専門性がございますので、互いに思ったほど相互理解がないかもしれないなと思います。

 誤解を恐れずに、その違いを特徴づけるということで申し上げますと、やはり「人」というものと「金融資産」、これの捉え方の違いということに帰着できるのではないかなと思っております。

 「人」に関しましては、社会保障のアクチュアリーというのは、付加価値を生成する源泉であり、また、再分配の対象ということで考えていらっしゃるのではないかなと思います。

 企業年金では従業員ということですので、生産性を向上させる人的資源と捉えます。

 また、保険分野では、リスクの発生源であると同時に、それによる経済的損失から保護をするということによって、「人」の社会活動を支えるという目的があると思います。

 「金融資産」に関しましては、社会保障では、効率的な生産手段構築のために財が移転するというわけでございます。その移転の結果だということだろうと思いますが、企業年金や保険では、債務を裏づける請求権としての金融資産と捉えるのではないかなということなのですが、ともすれば資産自身が付加価値を生成するような錯覚に陥ることがあるのではないかなと思います。

 実は、全てを網羅するような優秀なアクチュアリーというのは稀なのですが、さしあたり私は、このちょうど真ん中に属しますので、今日もこの席にお呼びいただいたのは、このコウモリ的な存在というのが、ひとつの根拠になっているのではないかなと思います。

(資料4頁)

 次に、2つ目の項目ですが、平成26年財政検証結果を確認します。

 現在の公的年金というのは、平成16年改正の方向性、すなわち、保険料水準の上限固定、それから、マクロ経済スライドによる給付の自動調整、有限均衡方式と積立金の活用、基礎年金国庫負担の2分の1への引き上げ、こういったものがほぼ完成した状態だという理解でございます。

 そのため、現在は従来の財政再計算に代えまして、最低5年毎に財政の見通しを作成し、年金財政の健全性を検証するということで、「財政検証」といわれるものを行うという仕組みになっているということでございます。

 検証結果は、主にスライド調整の終了時期と終了後の給付水準という形であらわれてくるということでございます。

 次の財政検証、ですから、スライド調整の終了時点ではなくて、通常は5年後なのですが、次の財政検証までに所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、この財政フレームワークを超えることになると思われますが、所要の措置を講ずることになっているということでございます。

(資料5頁)

 このシートは、将来推計人口と長期の経済前提をお示ししてございます。

 人口推計に関しましては、平均寿命が男女とも最終的には4.6歳延びるという中心的シナリオを設定していますが、出生率、死亡率ともに幅を持って設定しているということでございます。

 長期の経済前提に関しましては、今回は2年半にわたりまして17回専門委員会を開催しまして、ご覧いただいているような8つのシナリオを設定しました。経済前提の設定に当たりまして、基本的には従来から使用している成長経済モデルである「コブ・ダグラス型生産関数」を用いていますが、いくつかの点を改良しまして、また、いくつかのパラメータについては幅を持たせて検討したということでございます。

 そして、何よりも特徴的なのは、今回の8つのケースにおいて、行政側から従来のような基準となるケースを示さなかったということでございます。この点は議論のあるところかと思いますが、後ほど私の考えを御説明申し上げたいと思います。

(資料6頁)

 こちらは足元、2023年までの経済前提ということでございます。足元の経済前提は、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」に基づいているということでございます。

 したがいまして、足元の2つのシナリオが、2023年を越えると8つの長期の経済シナリオに分岐すると、こういうシナリオになってございます。

 分岐は、労働市場への参加が進むケースに対して5つ、それから、進まないケースに対して3つという形になっております。

 足元の経済前提に長期の前提を接ぐというのは、やや変則的な設定になっているということなのですが、そこは政府としての一貫性の確保等の事情があるのではないかなと思ってございます。

 現政権は、経済に関しましてデフレの脱却、それから経済成長というものを至上命題にしておりますので、どうしても経済再生ケースが前面に出てくるということでございます。

 その中で、参考ケースや、さらに経済が悪化するケースH等を試算に含めることができたというのは、あるいは標準シナリオを設定しないという対応の賜物なのかなという気もいたします。

(資料7頁)

 ここで平成26年財政検証の結果を確認しておきたいと思います。

 御承知の方も多いと思いますが、厚生労働省のホームページでは、財政検証の詳細結果をエクセルシートで公開しております。世間では、計算結果というのは8つのケースしか取り上げられていませんが、ケースごとになっているエクセルシートは、オプション試算を含まない財政検証だけでみても実に79個、つまり、79通りの試算をしてございます。

 これらをまとめると、この図のようになります。

すなわち、出生中位、死亡中位の推計人口をベースにいたしまして、8つの経済前提を適用した結果を中心に据えたうえで、出生率と死亡率につきまして、それぞれ低位、高位に変更した場合の結果を全経済前提について計算しているということでございます。

 図の左側がそのイメージをあらわしたものでございますが、ある種の感応度分析に近いというイメージでございます。

 一方、右側ですが、先ほどの中心的な8つのケースを真ん中に置きまして、経済変動を織り込むことによる影響と、それから、国民年金の保険料の納付率を低下させた場合の影響を確認しているということでございます。

 経済変動を織り込みますと、現在のルールではマクロ経済スライドの効果が限定的であるということの影響が確認できるということでございます。

(資料8頁)

 これがお馴染みの検証結果でございます。結果は、主に給付水準によって示されていますが、給付水準調整の終了年度も示されております。

 細かく見ますと、終了年度は基礎年金と報酬比例年金で異なっておりますし、基礎年金の方が遅くなるということも確認できるということでございます。

 特徴的なのは、ケースEとケースF、この2つのケースの間のギャップでございます。この違いを説明する要因というのは、主に2つと考えられます。

 1つは、足元の経済前提の違いでございます。もう一つは、労働市場への参加の違いということなのですが、恐らく後者、つまり労働市場への参加の度合いの影響が大きいのではないのかなと想像してございます。

 それと、給付水準が上からアルファベット順に並んでいません。これは、積立金の運用利回りの対賃金スプレッドが、賃金上昇率の対物価スプレッドとは逆向きに設定されている。ちょっとわかりにくいのですが、具体的な数字は先ほどのスライド5にございますが、こういった設定が微妙にプラス・マイナスの影響をした結果になっているのではないかなと想像してございます。

(資料9頁)

 次に、出生率と死亡率の影響を見てみたいと思います。これは国立社会保障・人口問題研究所の資料をそのまま引用させていただきました。出生率は、中位の場合は1.35でございますが、これが高位で1.60、低位で1.12とされてございます。

 死亡率は、平均寿命でいうと、最終的には、先ほど現在よりも4.6歳ほど延びますと申し上げましたが、それにプラスすることの死亡高位で考えると、その4.6からマイナス1歳するということでございます。

 低位で考えますと、男女ともプラス1歳寿命が延びるという設定になっているということでございます。

 これも一定の確率的な考慮をいたしまして、幅を持って設定していると理解してございます。

(資料10頁)

 先ほど、ケースEとケースFとの差異が、労働市場の参加の違いによるものと推測いたしましたので、このシートでは、それぞれのシナリオによる労働力人口の推移を確認したいと思います。

 これをご覧いただきましたとおり、参加が進むケースが上の実線でございまして、進まないケースが破線ということになってございますが、労働力人口の差というのは結構大きいということでございます。

 左上のほうに数字がございますが、労働市場への参加が進むケースでは、2030年において5,900万人の労働力人口があるということなのですが、一方で、破線の方は、同じ時点で進まないケースでは5,300万人ということですので、実にここで600万人の差が見込まれているということがわかります。

 こういった状況を踏まえまして、財政検証の結果を見てみたいと思います。

(資料11頁)

 このシートは、出生率と死亡率の仮定の影響を示したものでございます。

 上段のグラフが出生率の影響、下段が死亡率の影響ということでございます。

 また、左のグラフが基礎年金プラス報酬比例年金ということなので、厚生年金ということでございます。

 右側が基礎年金のみということで、報酬比例部分を除いたということでございますので、基礎年金2人分というイメージになるかなということでございます。

 経済シナリオの違いに差をつけないというのが、実はこれ、私も専門委員会の中で発言させていただきまして、特にお願いしたことでございますので、こういったコンセプトのもと、各グラフは8つのシナリオを平等に並べておりまして、それぞれ高位、中位、低位と3本のグラフが各ケースにありますということです。これは、調整期間終了後の所得代替率を示しているということでございます。

 なお、積立金が枯渇するケースというのが、特にケースHでございます。ここは3537という数字がございましたが、ここの表示としては、積立金が枯渇して純粋賦課方式に移行する場合の代替率というのは、その年度以降の代替率の平均値を取らせていただいたということでございます。

 出生率も死亡率も、概して経済の状況が悪くなるほど影響が大きく出てくるということがおわかりになると思います。

 先ほどのEとFとの関係で申しますと、労働市場への参加の影響の評価というのは、例えばケースEの中位のケース、真ん中の棒グラフになりますが、これとケースFの高位のケース、ちょっと濃い青色ですが、これを比較することになるかと思います。

 出生率についても死亡率についても、ケースFの高位の給付水準は、ケースEの中位の給付水準には届かないということでございますので、これを見るだけでも、労働市場への参加の影響というのは、かなり大きいということがおわかりになるのではないかなと思います。

(資料12頁)

 こちらは、これらを厚生労働省で資料としておまとめになられたということで、ここでは今のお話をケースのC、E、G、それぞれ3つのケースについて、出生率の前提が変化した場合と死亡率の前提が変化した場合の給付水準の変化及び終了年度の変化、これについてまとめていただいたものですので、前のページと大体重複するということでございます。

(資料13頁)

 次は、経済変動の有無と国民年金保険料の納付率の前提の影響ということでございます。

 左右のグラフですが、基礎年金プラス報酬比例年金と基礎年金のみ、これに対応しているということは、先ほどと同じでございます。上段が経済変動の有無の影響、下段が納付率の影響ということでございます。

 経済変動という場合に、インフレ率の変動を意味するということでございます。現在のマクロ経済スライドには、名目値を下限とするというルールがございますので、給付水準調整の機能が十分発揮されない場合があるということでございます。この影響を、インフレ率を4年サイクルの波であらわして検証しているということでございますが、マクロ経済スライドの効果の制約というのは、当然ですがインフレ率を低く設定した場合に顕著にあらわれるということでございます。

 そのために、積立金が枯渇しない場合での最悪のケースがGということになりますが、ここにおける影響が最大になるということでございます。

 また、下段でございますが、国民年金保険料の納付率の影響というのは、年金制度に与える影響という点ではほぼニュートラルというのは、過去何回か試算で確認されて、今回も確認ができましたということでございます。

(資料14頁)

 さて、私たちは、以上の財政検証結果をいかに受け止めるべきかということを考えてみたいと思います。

 経済前提の専門委員会に参加させていただき、よくわかったことは、経済前提というのは、基本的には不確実であるということでございます。理論的に設定できるものではないということでございます。

TFP上昇率、全要素生産性上昇率にしても、インフレ率にしても、それ自体を理論的に推定できるわけではありません。かなり端折った言い方になりますが、TFP上昇率を、賃金上昇率や長期金利に変換するために経済モデルが存在するという言い方もできるのではないかと思います。

 しかも、日本はここしばらく前から生産年齢人口が減少し始めているということでございまして、また、少し前から総人口も減少し始めているということでございます。このような社会が長期的に継続するという経済は、私たちというか、世界のどこでもいまだ経験していないことだろうと思います。こういった点で、やはり経済前提は不確実だと考えざるを得ないということです。

 年金財政の議論では、将来推計人口があたかも予見のように扱われています。しかしながら、社人研の報告書を拝見しますと、やはり今回の経済前提の報告書と同じように、これはプロジェクションであると明記されております。出生率、死亡率あるいは国際人口移動というのは、やはり長期的には不確実と考えるべきだと思います。

 以上を踏まえますと、財政検証というのは、全ての面で不確実な将来を計算していることになりますし、それが人間の限界であり、また、それをプロジェクションによって対応するというのが、現実的な対応なのだろうと思います。だからこそ、定期的にこのプロジェクションを見直しまして、それを冷静に受け止め、対応を検討することが必要だということであろうかと思います。

(資料15頁)

 このグラフは、あくまでも御参考ということでございますが、主要各国の2010年までの10年間の実績、これが青色の棒グラフであらわされております。各国の総人口の2010年までの10年間の実績をあらわしたものです。と同時に、各国政府による2060年時点での総人口の想定値を表したものでございます。

 これを見ますと、一番左側に日本がございますが、日本の人口構成が成熟化していて、ほとんど人口が増えないということもおわかりになるとともに、将来の見通しというのが、いかにも自虐的なまでに悲観的であるということもおわかりになるのではないかなと思います。

(資料16頁)

 もう一つの論点でございますが、財政検証のシミュレーションが想定している世界が、ライフサイクルの変化などをどの程度反映しているかということも考えておかなければいけないなと思います。

 この図は、厚生労働白書、平成24年版を参照しているわけでございますが、1920年、1961年、2009年における夫婦の標準的なライフサイクルを示したものだということでございます。ご覧いただければおわかりのとおり、晩婚化とか晩産化といった変化、あるいは定年年齢の変化あるいは平均余命の変化といったものは、反映しているということでございます。

 財政検証が基礎としている将来人口推計でございますが、このような社会情勢の変化を受けて、少子化だとか高齢化だとか長寿化といった現象が継続するものとして、人口の投影を行っているということでございます。

 一方、年金制度は、固定された年齢以降は引退期間ということが想定されているということでございます。

 先ほど御指摘申し上げましたとおり、死亡中位のケースでも平均寿命は男女とも4.6歳延びるということでございます。財政検証は、この4.6年のほとんどが年金受給期間になるということでございますので、そういった状況、財政検証の役割上これは当然なのですが、一方で財政検証が想定している社会というのは、寿命が延びた分は全て年金を受給するというある意味では不健全な社会を想定しているということは、ひとつ認識しておくべきことかなと思います。

(資料17頁)

 項目の3つ目に移ります。公的年金のリスク管理の論点についてということで、いくつか御提示を申し上げたいということでございます。

 まず、この資料は、平成21年の財政検証から引用させていただいたものでございます。

 ここから申し上げたいのは、公的年金の運営というのは、主に「人」による付加価値の生成力、これに大きく依存するということを申し上げたいと思います。そのために、ここでは財政検証のスライドを表示してございますが、この後、スウェーデンの公的年金の制度運営を引き合いに出そうと思ってございます。

 平成21年の財政検証の際に、このような形で公的年金の財源と給付の内訳というのが示されました。一々細かくは申し上げませんが、右側の給付のほうを見ていただくと、これは評価時点を境として、過去期間分と将来期間分に分けられているということでございます。これは、左側の一番下にございます国庫負担についても、同じようなことが言えます。

 一時期、この資料を次のようなバランスシートに変換して議論を行うということがございました。

(資料18頁)

 つまり、先ほどの資料から給付と国庫負担につきまして過去分を取り出しまして、これに積立金を考慮して、ここにお示ししているようなバランスシートを作成したわけでございます。このバランスシートを用いまして、「積立不足」とか「世代間の不公平」だとか、あるいは「債務超過」だとか、こういった議論が一時期ございました。

 企業年金のアクチュアリーである私も、当初は実はなるほどねと思っていました。でも、よく考えてみると、何かおかしいなと思ったわけでございます。大体、世代間の不公平と言いますが、これは積立不足によって発生している現象なのでしょうかということでございます。

 反論として、純粋賦課方式の制度でも、人口構造が全く変わらなければ世代間に不公平はあり得ないわけでございます。こういった例をお出しすると、必ずしも積立不足から世代間の不公平が発生するということではなかろうと思います。

 また、そもそもこれは、企業年金に見られるような事前積立方式のバランスシートということです。賦課方式を前提に運営してきた制度で、ほぼいきなりルールを変更して、反則と言われているような、いかにも釈然としない思いがあったということでございます。そのときに出会ったのがスウェーデンの公的年金の運営でありまして、こちらの議論のほうがよほど大人だなという感じを受けました。

(資料19頁)

 そのスウェーデンの公的年金制度でございますが、制度内容を詳しく申し上げるというよりも、このバランスシートを御紹介申し上げたいということでございます。

NDCNotion Defined Contribution)と言われる部分でございますが、これは賦課方式で運営されていて、なおかつ、給付の数年分の金融資産を保有するという意味では、日本の公的年金と似通っているということが言えるのではないかと思います。

 そのスウェーデンでもバランスシートが作成され、実際にこのバランスシートが制度運営に利用されているということでございます。しかし、ご覧いただけるようにこのバランスシートは、先ほどご覧いただいたような積み立て不足の状態にはなっていないということでございます。

 ポイントは、ここで黄色く記してあります箱でございますが、「保険料資産」という概念でございます。これは、年間の保険料の総額に滞留期間という年数を乗じて算出されるものということですので、ここにその上にありますバッファーファンド、バッファー基金のような金融資産とは異なり「実態がない資産」だということでございます。これがバランスシートの資産側のほとんどを占めているということでございます。

 滞留期間というのは、保険料の拠出から年金受給までの平均的な期間だということでございまして、私は、保険料資産というのは滞留期間にわたって保険料を制度に預けることを支持する被保険者の信頼をあらわしたものに近い、「柔らかい資産」というものだと解釈しております。

 そもそも資産というのは、将来において経済的な便益を受ける権利ということが言えるわけですので、その便益を提供する者が負う債務と表裏一体であるということだろうと思います。そのようなお互いの信用があってこそ金融市場が成り立ち、あるいは社会の諸制度が円滑に運営できるということではないでしょうか。スウェーデンのバランスシートは、このことを訴えているように私としては感じたということでございます。

(資料20頁)

 このバランスシートから得られる教訓としていくつかございまして、まずは賦課方式の運営において、積立金は確かに重要であるということではございますが、そのインパクトは限定的であるということがあります。先ほど御紹介申し上げたように、結果がアルファベット順になっていないという意味での影響はございます。しかし、あくまでも限定的な影響なのだろうなと思います。

 むしろ重要なのは、保険料資産の充実なのだと思います。日本もスウェーデンも、保険料率が固定されているという点では同じですので、保険料資産の充実への対策というのは、被保険者の報酬の増加と被保険者数の増加、これは滞留期間を延ばすということになるのだろうと思います。

 このことは、生産性を向上させることと就労期間を延ばすこと、これによって達成されるわけでございます。そういう意味では、社会経済が持続可能であれば年金制度も持続可能であるというごく当たり前のことを認識することが、重要なのかなと思ってございます。

 なお、技術的な話ですが、この議論は下にございますとおり、日本の年金制度でスウェーデンのようなバランスシートを作成するべきだということを主張するわけではないということは、ひとつお断りさせていただきたいと思います。

 さて、日本の年金制度は、マクロ経済スライドによって収支を相等させているということですので、結果は最終的な給付水準に反映されるということですし、そういう意味では給付水準という意味での十分性の確保に資することになるということでございます。そこで、十分性に関する論点を検討してみたいということでございます。

(資料21頁)

 このグラフは、年度別の所得代替率をあらわしています。左側が基礎年金プラス報酬比例、右側は基礎年金ということでございます。

 平成16年財政再計算と平成21年財政検証による想定も表示したということですが、先ほど御紹介申し上げましたとおり、平成26年財政検証というのは、8つのシナリオを並列的に表示するというコンセプトがございますので、グラフが若干見づらくなっていることは御容赦いただきたいと思います。

 ここで基礎年金の給付水準に着目いたしますと、再計算・財政検証の度に給付水準調整期間が長期化する。結果として給付水準が低下するという問題が指摘されているというのは、御承知のとおりでございます。これについて、オプション試算との関係で議論が必要になってくるかなと思います。

 御承知のとおり、オプション試算というのは3つございます。マクロ経済スライドのフル発動。2つ目が被用者保険の適用拡大でございます。3つ目が、高齢期の保険料拠出が給付水準に与える影響ということでございます。

(資料22頁)

 まずは、マクロ経済スライドのフル発動のケースの結果を、グラフに表示したということでございます。

 これは、土俵を揃える意味で、左側の青いグラフでございますが、こちら側の比較対象となるグラフというのは、「経済変動があり」のケースということになってございます。この状況で、現行の制約を外したうえでマクロ経済スライドをフル発動した効果を見るのが、この計算の趣旨でございます。

 先ほどのお話と同様に、フル発動の影響というのは、経済前提が悪いケースほど効果が顕著に表れるということがわかります。ただ、この政策単独では、平成16年当時に想定されていた基礎年金の給付水準であります約28.5%程度でございますが、これには届かないということもわかります。この政策は、受給者には痛みを強いる困難があるということでございますが、大方の意見としては異論の少ない政策であると理解してございます。

(資料23頁)

 次が、被用者保険の適用拡大でございますが、適用拡大は、対象者を220万人としたケースと1,200万人としたケースの2通りを検証しております。

 適用拡大すると、例えば所得のある3号被保険者から保険料が見込めると。一方で、給付は2階部分だけ追加になる。あるいは報酬の低い第1号被保険者が第2号になると、少ない保険料で1階と2階の給付の両方を提供する。あるいは全体として第1号被保険者が減少するので、基礎年金拠出金の負担が大分変ってくるとか、いろいろな影響があるということなので、これを一つ一つ分析することは私には難しいのですが、全体としては給付水準が引き上がる方向を示しているということでございます。

1,200万人というのが、果たして事務的に可能なのかどうか、これはよくわかりませんが、ここまで来ると基礎年金の給付水準が大分挽回するというのも、計算結果としては出てきてございます。

 被用者保険の適用拡大は、第3号被保険者問題とも絡み合ってございまして、大分難しく、かつ、政治的な問題にもなっていると承知してございますが、結果として負担がふえるグループを説得して実現をすることが大きな目標だと思ってございます。

(資料24頁)

 次が、基礎年金の拠出期間の延長の影響ということでございます。納付年数の上限を現在の40年から45年に引き上げる。つまり、年齢にすると65歳までに納付期間を引き上げて、納付年数が延びた分だけ基礎年金の給付額に反映するということでございます。

 基礎年金制度ができたときに、給付は65歳が支給開始であるという一方で、拠出が60歳までということで、個人的にはこのギャップにやや違和感を持っていましたが、まずはこのギャップを埋めるということなのだろうと思います。

 これは、満額の基礎年金が現在の40分の45になるということでございますので、基礎年金の増額に効果があることは当然でございます。第1号被保険者に60歳以降も負担を求めるということになりますので、これも一定の痛みはございますが、強い異論はないのではないかと思っております。

 以上のオプションは、総じて採用が望ましいということになると思います。十分性の観点からすると、これら一つ一つの影響は検証してございますが、この3つのオプションの組み合わせによる政策効果というものがある程度見えれば、より望ましいかなという感想を持ちました。

(資料25頁)

 最後に、このオプションの3ですね。2つ目の検証がございまして、拠出期間を延長した上で65歳以降も就労して、受給開始年齢を繰り延べるとした場合の効果を検証したものでございます。

 これは、グラフでご覧いただきますとおり、CとEとGとHという4つのケースに基づきまして、それぞれ65歳の支給を66から70まで、1歳刻みで繰り延べた結果の給付水準を表しているということでございます。

 前にも述べましたとおり、受給開始年齢を固定するというのはある意味で不健全だということでございますので、70歳というのがいきなりではないにしても、このような対応の一部は実現すると考えるほうが妥当なのではないかなと思います。

 ただし、このような対応は雇用との接続がないと意味がない。また、いわゆる支給開始年齢の引き上げという議論とは一線を画するものだろうと思います。

 支給開始年齢の議論というのは、右のグラフで言うと、雇用延長がなければ青い水準のままでありますし、雇用延長があったとしても繰り延べ増額を行わないということですので、オレンジ色の水準にしかならないということでございます。この状態で開始時期のみを繰り下げることを考えるということだろうと思います。しかも、こうした変更というのは、現実的には、将来の受給者にしか適用できないという点に留意が必要だということでございます。

 いずれにしましても、支給開始年齢の引き上げというのは、その定義を明確にしたうえで議論をすべきということになるのではないかなと思います。

(資料26頁)

 以上を踏まえまして、十分性の観点から若干の論点を示させていただきますが、まず、基礎年金にマクロ経済スライドを適用すべきではないという議論があり、それも一つ考えられるかと思いますが、その場合には、現在行っている保険料水準固定方式との関係を明確にしたうえで議論をする必要があるのではないかなと思います。

 それから、給付水準の調整期間を統一させなければいけない。基礎年金の調整期間が長くなるということで、統一させるということを考えた場合に、現在の基礎年金拠出金の負担方法を経ない財政の統合というものをした場合に、様々な問題が出てくるのではないかと思います。こういったあたりも、運営ということではなくて、設計の論点にはなるかと思います。

 残り2つ、ここでお示ししてあります2つのポツにつきましては、先ほど御説明申し上げたとおりでございます。

 なお、参考までに、スウェーデンにおける生年コーホート別の受給開始年齢の変化というのを掲げてございます。

 スウェーデンは、61歳以降で受給年齢が選択できる仕組みになっている。しかも、後世代ほど余命の伸長がございますので、それに連動しまして給付の水準が低下してくるということでございますが、ちょっと見づらくて恐縮ですが、濃いグラフから薄いグラフになるに従って後世代ということになります。だんだんと受給開始年齢が早まってきているという現実もあるというところも、一つ留意しておく必要があるのかもしれないということでございます。

(資料27頁)

 次に、積立金の運用に関する論点でございます。

 私は、資産運用の専門家ではございませんが、これまでのアクチュアリーとしての経験から、いくつか指摘させていただきたいと思います。

 ひと頃流行りました世銀方式の積立制度に関してですが、社会保障のアクチュアリーの間では、積立方式に移行したことによって国債の増発が必要となります。増発分をこの個人勘定で購入するということが考えられるわけでございますが、これは国全体で見ても何も変わらない。依然として賦課方式であるということは、ほぼ常識的な議論だと理解してございます。

 これは、例えばでございますが、一般会計と特会とを、企業式に言うと連結決算をしたというイメージで考えていただければわかりやすいのではないかなと思います。

 その点、証券さえも発行しない米国の公的年金、OASDIですが、この積立金の非市場性の連邦債による運用、これを評価する向きもあるわけです。こういった議論は、私としてはちょっと理解に苦しむと感じております。

 また、国債というのは、ある意味「後世代への先送り」の典型であるということが言えると思いますが、安全資産だからといって国の積立金としてこれを運用対象とするということは、どのように理解したらいいのかなという点もあるかと思います。

 それから、積立方式でもない制度運営で債務のデュレーションを図るというのは、やや当惑しますということで、これは次のページで御説明申し上げます。

 また、海外には、公的年金や社会保障のための積立金と国外の資産のみで運用するという国が、少ないですがいくつかあるということでございます。

 ただ、これは一つ参考になるかもしれませんが、日本のような経済規模を持つ国にとってこれが実行可能かというと、疑問符がつくということでございます。

 その他、最後の2つにつきましては最近の議論でございますが、GPIFの運用基本方針の話につながるかもしれませんが、こういった部分につきましては、パネルのほうにお譲りしたいと思ってございます。

(資料28頁)

 公的年金の債務のデュレーションということでございます。純支出のデュレーションというのが正しい言い方なのかもしれませんが、これについては前々からおかしいと思っていたので経済前提の専門委員会でお話ししました。相手が著名な金融経済学者ばかりでしたので、ややおっかなびっくり御紹介申し上げたのですが、結果としてはわかってもらえなかったかなという感じがいたします。

 年金数理部会で申し上げるのは多少気が引けるのですが、平成22年度の年金数理部会の報告書の中に掲載されたのが、上半分のような数字でございます。

 公的年金の投資ホライズンが長い。これはいいのですが、どのぐらい長いのかということに関して報告書は、国年、厚年、それぞれ50年を超えるという結果を提示しました。どうもこれが、その当時、世の中に流布してしまったのではないかなと思って指摘させていただいたわけです。なぜ不適切なのかというと、例を見ていただけるとおわかりになると思いますが、現在の積立金と10年後の保険料収入、この2つによって20年後の給付の支出を賄うといったスキームを利息ゼロで考えた場合に、純支出のデュレーションというのは実に35年という結果が出るということでございます。

 この35年というのは、もうキャッシュフローが一切なくなった時点の期間ということになりますので、このデュレーションというのは何を意味しているのかなということでございます。

 一方、下半分のように金利感応度としてデュレーションを計測することがあります。積立方式の企業年金というのは、金利変動による債務と資産のミスマッチを防ぐための債券運用の手法を検討するという趣旨でデュレーションを導入しました。そういう意味では、こういったデュレーションをよく使うわけですが、その意味では、デュレーションというのは、フルファンディングでないとあまり意味を持たないということになると思います。

 こういったことを考えますと、賦課方式の制度で投資期間の目安としてデュレーションを計測するのはどういう意味があるのか、疑問を持ったということでございます。

(資料29頁)

 以上が、ある程度の論点の提示ということになりますが、最後に年金数理部会への期待を述べたいということでございます。

 実は、私はここ10年ぐらいになるかと思いますが、できる限り年金数理部会の傍聴をさせていただいておりまして、この部会のファンの1人でもございます。そういった観点から申し上げたいと思います。

 公的年金の財政を見守る経済学者とアクチュアリーの部会ということでございますので、私としても親近感があるわけでございます。ここにお示ししてございますとおり、公的年金の財政構造というのを考えると、給付なり保険料というのが賃金に連動しているということでございますので、賃金上昇率が基準となるということは、これも厚労省さんの資料ですが、ここでお示ししているとおりだということでございます。しかしながら、それだけでは十分でない部分があるということでございます。

(資料30頁)

 この図は、最新のものよりも1年古いのですが、GPIFの運用報告の抜粋でございます。

 平成24年度の名目運用利回りは、9.56%でございました。これを4.1%という長期の名目運用利回りと比較するのは完全に間違いということは、おわかりになるかと思います。比較をするために、まず実質ベースに直すということが必要です。この年の名目賃金上昇率は0.21%でしたので、実質は差し引きといいますか、割り算をするわけでございますが、9.33%という数字が出てきます。この9.33%の比較対象となるのは、平成21年検証において想定された実質運用利回りということになります。長期の前提ではございませんということです。

 名目運用利回りが2%、名目賃金上昇率が2.8%、ややイレギュラーな感じもするのですが、これが設定されておりましたので、想定されていた実質運用利回りというのは、マイナスの0.76%ということになります。これと比較するわけですから、運用利回りが財政に貢献したのは9.33%とマイナスの0.76%を比較しまして、10.09%になると。これが正しい分析ということになります。

 ただし、運用の面ではこれが正答だということになりますが、年金財政を考えるとさらに分析が必要だということでございます。その分析を毎年毎年行っているのが、年金数理部会だということでございます。

(資料31頁)

 これは、その年の積立金の実績を、財政検証の時に想定した積立金と比較して、相違の原因を分析したものだということでございます。財政検証は5年に一度しかありませんので、分析は直近の財政検証の時点から経過年数だけ行うということになります。この例ですと、3年度分の分析が必要だということになります。

 この乖離の要因としては、そもそも財政検証の出発点における計算時点の関係で乖離した分というのが、まずございます。それと、名目利回りが財政検証の見込みと乖離した分というのがございます。それから、運用収入以外の収支残に見込みと異なった分があり、さらに、運用利回りに関しましては、賃金上昇率を上回る実質の分、これが見込みと乖離した分と、それから、賃金上昇率自身が見込みと乖離した分に分けてございます。

 しかし、財政全体を考えますと、例えば名目賃金の実績と将来の見通しが乖離したことによって、将来の給付額は変わることになります。また、既裁定のスライドが想定したスプレッドから乖離すれば、その分が給付のキャッシュフローに反映されるでしょうということになります。つまり、企業年金流に言えば、比較すべき債務も変動するでしょうということでございます。

 公的年金は、企業年金のような数理計算を毎年行うわけではございませんので、一定の制約のもとで若干の割り切りも入りますが、「債務の変化」というのを「評価の基準となる積立金額」という項目にしておりまして、これに反映させたうえで実際の積立金と比較すると、こういう作業をやっているということでございます。

(資料32頁)

 こういった乖離が、なぜ債務のほうに影響するかという一つの項目として、既裁定者のスライド等々、スプレッドが変わった場合にどうなるかみたいな話とか、それを中心として、いろいろ現行のスライドとか再評価あるいはマクロ経済スライド等々の評価を1つの図にしたものということでございますが、諸々の影響によって今後の給付の流列というのが変わりますし、もちろん保険料の流列というのも変わるということで、対象とすべき金額が変わってくるということになろうかと思います。

(資料33頁)

 これは、平成23年度と24年度の報告から、厚生年金の分析結果を掲載したということでございます。

 「将来見通し」というのが青で示されてございますが、これを「評価の基準となる積立金額」、これに変換していくわけですが、この変換の過程というのは結構複雑なので報告書をご覧いただくということにいたしまして、結果だけを指数化してご覧いただきます。

 これによりますと、平成23年度については、基準となる積立金が98.9に対しまして、実際の積立金が98.0ということでございますので、若干の不足ということでございます。逆に、平成24年度は、先ほど見ましたように運用が非常に好調だったということもございまして、基準となる額97.6に対して、実際の積立金は102.3ということでございますので、大分好転したことがわかるということでございます。

 このような丹念な分析というのは、年金制度の財政の評価にとって極めて有用だということでございます。

 こういう分析をしているわけですが、やはり現実問題として、財政検証は毎年はできないということなので、既存の資料からできる限り丹念に調整をしているということでございますから、一定の限界とか割り切りというのがございます。それにつきましては本日の資料の2の10ページあたりに一定の制約が記述されていますので、御参照いただきたいと思います。

(資料34頁)

 最後になりますが、表題と中身が違っていまして恐縮でございますが、平成27年には被用者年金の一元化が控えてございますので、年金数理部会の役割というのは、今後ますます重要になるのではないかと思います。

 公的年金の評価には、バランスシート論だとか運用利回りについて、単純に4.1%で比較するだけだといった、一見するとわかりやすいのですが、間違った議論というのが多々ございます。分析内容はちょっとさわりを見ていただきましたが、やはり難しくてもその正当性を平易にアピールしていくということが、結果としては年金制度の信頼性とか持続可能性を高めることになるのではないかと思います。

 その意味で年金数理部会も、年金制度のリスク管理の重要な一翼を担っているのではないかと思いますし、そういう意味で今後の御健闘を期待したいと思います。

 以上で私の御説明を終わりにしたいと思います。

どうも御清聴ありがとうございました。

 

(拍手)

 

○山崎部会長 ありがとうございました。

 それでは、ここで一旦休憩といたします。

○清水首席年金数理官 それでは、これから15分間の休憩といたします。再開は、1525分ということにいたしますので、よろしくお願いいたします。

 

(休 憩)

 

○山崎部会長 それでは、休憩前に続き、部会を再開いたします。

 ここからは、委員との意見交換を行うとともに、会場からの皆さんの御意見やコメントも承りたいと存じますが、その際、皆様に御留意していただきたい点について事務局よりお伝えいたします。

○清水首席年金数理官 御発言をいただく方に、あらかじめお願い申し上げます。

 まず、御発言いただく方は、マイクが通路に3つ置いてございますので、そこまで移動していただき、御所属とお名前を言っていただいたうえで、御発言をお願いいたします。

 御発言は、本日の議題について、部会委員または外部講師である小野さんへということでお願いいたします。年金局への質問は、御遠慮いただければと思っております。

 また、より多くの方に御発言いただくために、発言事項につきましては1つか2つにしていただきまして、発言時間につきましても、他の皆様への御配慮をお願い申し上げます。

 最後に、御発言は、後日、議事録として、厚労省のホームページに掲載することになりますので、その点御了承ください。

 以上でございます。

○山崎部会長 それでは、各委員の皆様方から、一言ずつコメントや小野さんへの御質問を頂戴いたします。

 最初に、部会長代理の宮武さんからお願いします。

○宮武部会長代理 小野さん、ありがとうございました。私は年金数理がわかりませんので、大変基本的なことを確認あるいは御質問したいと思っています。

 今回の財政検証では、人口とか労働、経済などの動向によって8通りのメニューが示されたわけであります。ヒトやカネをうまく使えば食べたくなるというメニューが5通りあって、ヒト、モノ、カネをうまく使わなかったらちょっと食欲が湧かないような3通りのメニューが出ていると。こういうことでありますが、社会や経済の動向によって、年金制度というのは、まさに左右されるものであるということを改めて教えてくれる。意義があったと思います。

 ただ、政府や厚生労働省は評論家ではありませんから、やはりそのうちどれかを選ぶということになるわけであります。そうしなければ、政策立案も年金の制度運営もできないわけでありますので、どれかを選ばなければいけない。財政検証というのは、そういう意味では、これだけメニューをそろえましたよと。お客さんどうですかと。こう言って示すと。それが本来のあり方であると小野さんはお考えなのかどうか。それが一つ聞きたいですね。

 それから、食欲の湧くA~Eまでのどのメニューを選んだとしても、労働面でも経済面でもきわめて高いハードルをクリアしていかなければいけないわけですね。財政検証というのは、さまざまな前提を踏まえて、直近のデータで未来を投影する作業である。小野さんも、まさに実績の投影であるとおっしゃったわけでありますが、様々な前提の中には、やはり希望的な観測とか政治的な思惑も入っているわけでありますので、ある意味では、全て不確実な流れの中で、言わばより望ましい未来へ向けてこのハードルを飛び越えてくださいと、こういう言わば社会全体に対するメッセージというか、ノルマというものを財政検証は発しているのかなと思うのですが、御意見をお聞きしたいと思います。

 3点目は、財政検証が不健全な社会を想定しているとおっしゃったのは、とても意味深長な言葉で興味深く聞いたわけであります。確かに、寿命が延びているのに働く期間は延ばさないままで想定をしている、計算をしているとかあるいは本来は厚生年金に加入すべき被用者が国民年金に入ったままの状態を追認している。そういう意味でも、その指摘というのは、財政検証というのは、ある意味では、年金数理の世界を越えて制度と制度を取り巻く社会の問題点とか矛盾というものを指摘している。警告というか、そういう役割を担っているのかなとも思ったわけであります。

 この3点、素朴な疑問に答えていただければと思います。

○山崎部会長 続きまして、浅野委員、お願いいたします。

○浅野委員 それでは、私のほうからコメント等をさせていただければと思います。

 初めに、公的年金のリスク管理というこれまで余り議論されたことのないテーマにつきまして、小野さんから大変貴重なレポートをいただいたということで、大変感謝を申し上げるとともに、敬意を表したいと思います。

 リスク管理と考えたときに大切なことは、3つあるのではないかなと思っております。

 1点目は、まずリスクとして何を認識して、それをどのように計測するかということ。

 2点目が、リスクを管理する、コントロールする、マネジメントする体制がしっかりできているのかどうかということ。

 3点目に、リスクカルチャーというものをどのように醸成していくかということではないかなと思います。

 まず、リスクとして何を認識して、どのように計測するかということについては、一般的には、リスクといいますと市場リスクであり、保険リスクであるとか、オペレーショナルリスクということですが、これらについては、今回のオプション試算を通じて、リスクがどういうものかということの理解が、随分進んだのではないかと思います。つまり、このオプション試算が、公的年金のリスク管理ということに随分役に立ったのではないかと思います。

 一方で、リスク管理とその計測といったときに基礎となるのは、バランスシートではないかと思います。公的年金制度で、この作成はなかなか難しいのかもしれませんが、この検討は大切ではないかなと思います。

 その中で、小野さんから御紹介されたスウェーデン方式のバランスシート、こういうものが日本でできるかどうかというのは別の議論かもしれませんが、将来の世代から収入が見込まれる「保険料資産」というものが計上されていることを見ますと、公的年金のリスクで何が一番重要かということで言いますと、少し雑駁的な言い方かもしれませんが、世代間の相互扶助というのを前提の制度であり、やはり国民の理解というのが公的年金においては最大のリスクファクター、トップリスクではないかと考えられます。これは計測をできるものではなくて、定性的なリスク評価ということになりますが、この点について国民にしっかり理解をしてもらうことが重要です。この点については、こうしたBSをつくることによってわかったのではないかなと思います。

 2点目が、リスクをどのように管理していくのか、その体制はどうなのか、どのような体制が必要なのかという点についてでありますが、小野さんからは、この年金数理部会もリスク管理の対象の一翼を担っているというお話をいただいたわけですが、そう言われてみれば確かにそうだなというところがありまして、逆に言いますと、現在は公的年金をめぐるリスク管理体制というのが、必ずしも明確になっていない点もあるのではないかと感じます。公的年金のリスク管理の体制についての整理も必要ではないかと思います。

 整理という意味では、先ほど申しましたリスクとして何を認識するかということなのですが、こうした公的年金にまつわるリスクは何なのかということを、一度原点に立ち返って整理することも必要なのではないかと考えます。

 リスク管理の体制ということですが、PDCがどのように働いているのか。またはリスクが顕在化したときにどういう対応が図れるのかということが、当然考えられるということではないかなと思います。

 3点目で、リスクカルチャーの醸成ということですが、これは先ほど申しました国民の理解というところにもつながるかと思うのですが、アウトプットをどのようにしていくかということかと思います。

 先ほども申しましたように、今回のオプション試算は、この点でも大変意義深くて、すばらしい英断ではないかなと思います。このオプション試算というのは、オプションの中身にもいろいろ議論があると思うのですが、そもそも長期推計は不確実性が高いというお話が小野さんからもありましたように、リスクシナリオが発生した時にどうなるのだろうかということを示すことが大切ではないかと考えます。ストレステストと言ってもいいかもしれませんが、次回の財政検証の折にはそうしたものを国民に示していくことも大切ではないかと思います。

 資料にもありましたけれども、2060年には今の人口の7割を下回るという推計もある中で、そうした社会はどのようになるのだろうというのは、今、我々もなかなか想像ができないわけですが、こうしたストレステストというのは、そうしたことを想像するということが大切であり、それが将来に持続可能性と十分性を備える上では大切ではないかなと思います。そういう点では、こうしたオプション試算の拡大というのも、今後大切になってくるのではないかと思います。

 小野さんへの質問というわけではございませんが、小野さんのレポートを伺いまして、私のほうでリスク管理という観点から少し考えた点であります。

 以上であります。

○山崎部会長 続きまして、牛丸委員からお願いします。

○牛丸委員 まず、小野さんに深くお礼申し上げます。お話を聞かせていただきまして、いろいろと勉強になりました。本当にありがとうございました。

 3点質問をさせていただきます。

 第1点目は、先ほど宮武部会長代理が質問されましたことと重なります。御講演の中でも触れていらっしゃいましたが、今回の財政検証は、21年度とは異なりまして、いわゆる標準ケースといいますか、そういうものは設定しないで、8つのケースを並列させたということであります。もちろんこの前提、状況が違って、8つのケースはこうなりますと、それを出していただいたことには意味がありますが、そこまでで標準ケースを設定しなかったこと、私個人としてはそこの点に不満があるのですが、こういう形のものについて、小野さんはどのようなお考えでいらっしゃるかということが第1の質問です。

 第2の質問は、資料のスライド27ページの一番下のところに少し関連することです。ここにはGPIFという言葉がありますが、そうでなく一般的な話をお聞きしたいのですが、公的年金の積立金の運用主体のあり方についてのお考えをお聞きしたいということです。

 運用上のリスクを考慮しながら運用の構成を決める、それがその組織でありますが、私が特にお聞きしたいのは、運用上の単なるリスクということではなく、そうした意思決定を行うその組織自体が持つべき要件と言うのでしょうか、すなわち、例えばその意思決定を行う際の独立性といいますか、そういうことが重要ではないかと思うのです。つまり、その独立性が確保されないとなると、いわゆる運用上のリスクとは違う意味のリスクがそこに入ってくる。そういうことで、こういう資産運用を決定する組織として持つべき要件と言うのでしょうか、それについてのお考えをお聞かせ願いたいということです。

 先ほどのお話の最後に、数理部会のあり方についてお考えを示していただいたことで、我々数理部会として、さらなる役割を果たしていかなければならないという強い意識を持ったわけです。この数理部会も、先ほどの資産運用とは違う意味で、やはり中立性というか、客観性というか、そういうものをしっかり保ったうえで、行われた財政検証をさらに検証する、そういう役割があるかなということを考えた次第です。

 お聞きしたいのは、資産運用の運用を決める組織のあり方についてであります。

 3番目は非常に細かいことでして、用語の説明をしていただきたいということです。私はわからなかったということで、スライド番号14ページなのですが、非常に細かい話で大きな話ではございません。その3つ目のところに「人口推計も『予想』ではなく、実績の『投影』である」という文章があります。これを改めてお聞きしたいのです。

 説明していただきたいのは「予想」という概念です。というのは、普通我々が人口推計をするときに、これまでの実績といいますか、それを前提としながら今後を予測します。そういう予測とここで言う「予想」というのは違った意味なのか。ここで全く違う概念としての「予想」というものを考えていらっしゃるのか。非常に小さな話ですが、このあたりを説明いただければと思います。これが3点目です。

 以上3点、よろしくお願いいたします。

○山崎部会長 随分質問がたくさんありますが、小野さん、この辺でお答えされますか。

 とりあえずお願いします。

○小野正昭氏 いろいろありがとうございます。

 私は、そんなに見識が高くないので、お答えできるものとできないものとあるのですが、まず、宮武先生のお話で、8通りを並列的に出したのだけれども、どれを選ぶかということを、最終的には政策立案のときに決めなければいけないでしょうというお話であるとか、A~Eまでという比較的いいシナリオの中で、それはある意味ノルマかなというお話だったと思います。

 それに関して私が思うのは、基本的には今回の財政検証というのは、これからの議論の始まりなのではないかなと思っております。並列的に出したのは、このプレゼンの中でも申し上げましたとおり、リスクという言葉と不確実という言葉は一応使い分けておきたいなと思うのですが、リスクというのは、確率事象に一定の分布を想定することができるという世界で、それさえもできない、分布自体がよくわからないというのが不確実ということで、一応私としては使い分けているつもりではおります。今回のプレゼンの中では、主にリスクというよりも不確実に関して議論をさせていただいているということで、そういう意味ではどれを選ぶか、あるいは牛丸先生から、ひとつ標準ケースを設定しないというのは御不満だというお話を頂戴したのですが、どだい不確実なものというのは、いくら行政が頑張っても標準シナリオの特定ができないということだと思うのですね。ですから、その意味で私は専門委員会の中では、ぜひとも並列的に並べていただきたいということを発言させていただきました。

 ですから、それも含めて、皆さん、この8つのケースについていろいろ印象を受けられるだろうと思います。何が本命というか、標準ケースかということについても、皆様方自身が受けとめる受けとめ方というのはいろいろ違うのだろうと思うのですが、その判断というのは、マスコミを含めて皆さん方が判断することです。皆さん方の責任において判断することです。

 ということで、これについては厚労省の部会でもあります年金部会の委員の皆さんも、やはり同じだろうと思います。その中で皆さんが議論をしていったうえで、何となくその方向性がまとまっていくのではないのかなと思っております。あくまでもこれからの議論だということでございます。

 そうはいっても、誰しもシナリオはうまくいったほうがいいと思いますので、ある種のノルマというか、目標値を与えているというのは、そういう受けとめ方をされる方もいらっしゃると思いますし、それはそれでよろしいのではないかと思います。

 不健全な社会と申し上げましたが、ちょっと申し上げていること、書いたことが若干矛盾している部分がありまして、スウェーデンで支給開始年齢が早まっていると御紹介申し上げました。不健全、これが選択可能な支給開始年齢になると、みんな選択は早目にしてしまうというのは、これはどうしたものかなというところもありますし、一年金制度の中での設計として解決できる問題もあるかもしれないのですが、そうでない社会全体のあり方とも関連してくるというのは、御指摘のとおりかなと思います。

 それから、浅野委員からのお話でございます。先ほど申し上げましたとおりで、リスク管理といった場合に、やはりそのリスクというものが一定の確率事象として考えられる場合ということを想定するということが、まずは定石かなと思いまして、そのためには、やはり企業年金でもバランスシートを作成しますので、そのバランスシート上でリスクを管理していく、これがスタンダードなやり方だということです。そういったこともありまして、バランスシートが何かないかなということで探してきたらスウェーデンにぶち当たったということなので、基本はバランスシートアプローチだということなのです。そこから先は、少なくとも人口推計に関してはいくつかシナリオがありますが、それは一定の分布を持った確率事象の範囲内でもって想定できることだということなのですが、超長期を考えると、それを超えたものは絶対にあるはずだということで、そこは不確実だと思いますし、経済事象につきましては、基本的に最初から不確実だと私は思いますので、バランスシートは作成したものの、それをいかに活用していくかということに関しては、あまりテクニカルな方法はないかなと思っています

 ストレステストのお話がありました。私は今、思っているのは、先ほど各国の将来人口推計と比較した図がございましたが、日本の将来推計人口というのは、中位推計でさえも非常に自虐的だと思っておりまして、そういう意味では、それが1つのリスクシナリオなのかなという気もいたしましております。将来推計自体がストレステストなのかなという気もいたします。

 それから、積立金の運用のリスクに関して、意思決定を行う組織のあり方とか、年金数理部会の中立性のあり方ということに関して御質問を頂戴したのですが、昨今議論されているGPIFのガバナンスの問題とかという話になりますが、ガバナンスの話、組織とか体制とかという話に関しましては、私は不勉強でお話しできるような材料を持っていないので、コメントをさせていただく能力がないということでございます。年金数理部会につきましては、1点だけお話しできるとすれば、たしか、カナダのCPP、ケベック州の年金、こういったところの数理報告は、民間のコンサルティング会社がチェックをしているということもあったと思いますが、そういうことも考えられなくはないなというところでございます。

 それから、私のスライドの14ページで「予想」という言葉を使わせていただいたのですが、これは御指摘のとおりなのですけれども、私は単に「予想」というのは当てにいく行為というか、そういう意味を含めて言葉を使わせていただいたということでございます。

 ちょっと不十分ですけれども、今までのところはそういったところでございます。

○山崎部会長 皆さん、よろしいですか。

 ありがとうございました。

 それでは、続きまして翁委員、お願いします。

○翁委員 御説明、ありがとうございました。大変体系立ててお話をいただきまして、勉強になりましたし、非常に示唆に富むお話であったと思います。

 いくつか質問というか、コメントをさせていただきたいと思います。

 1つ目は、今までも少し議論が出ましたけれども、8通りの前提のお話でございますが、まさに小野先生が強調されていたように、年金制度の持続可能性というのは、社会経済の持続可能性に依存するわけでございまして、ですからこそ経済成長の前提というのが非常に重要になってくると思います。

 5ページで示されているように、この前提は本当に幅が広い形になっておりまして、例えば賃金上昇率にも関係してくる、生産性の上昇率については、0.51.8まで非常に幅の広い前提となっておりまして、その結果として年金財政が非常に大きく影響を受けるという形になっております。

 先ほどの御説明にありましたように、決め打ちはできるものではございませんので、こういった何通りかのやり方を示す。それから、2020年までの政府の経済成長の目標との接続に御苦労されたというお話も伺って、なるほどなと思ったわけですが、年金数理部会といたしまして、例えばこれをレビューしていく場合に、生産性というところをどのようにこれから見ていくのかなということについて、考えていく必要があるのではないかなと思っております。

 日本の今までの成長を長いタームで見てきますと、生産性は、70年代、80年代はプラスに寄与してきました。90年代、2000年代に入ってから、いろいろな構造的な要因もあると思うのですが、やはりキャッチアップ型の技術移入が減ってきたり、第二次産業への労働移動が減ってきたりとか、そういう構造的な要因もあって生産性が低下してきているという側面はあるのかなと思っております。

 一方で、それが全部先進国に共通かといいますと、ドイツなんかでは、まだ生産性が高くプラスに寄与しているという部分もあって、一概には言えないわけでございますが、やはり経済の発展段階とか、日本独特の経済の状況なども考えながら、こういった前提をどのように考えていくかということについて、レビューをしていくというか、考えていくということも必要ではないかと思うのですけれども、こういう点について何かコメントがありましたらお教えいただきたいなと思います。

 2点目でございますが、これは年金の運用のところに関連するところでございます。小野先生は27ページで触れておられますが、この間、基本ポートフォリオをGPIFが広げていく、多様化していく、国債だけでなくリスク資産、外国資産も大きく増やしていくという方針を示しているわけでございます。一つお伺いしたいのは、海外には国外のみに投資する国もあるということで、グローバル化というか、運用のポートフォリオの海外資産が増えるということに関して、どのように考えていけばいいのかということについて、もし御見解があれば教えていただきたいなと思います。

 先ほど御説明がありました財政検証のところでも、運用利回りというのは我が国の経済成長率とインフレ率、あと、タームプレミアムもあると思うのですが、そういったことで運用利回りというのは考えられている。そういった中で、積立金に海外資産が増えていった場合に、これをどのように考えて行けばいいのか。例えばそういった国外のポートフォリオの部分は、自然利子率は、新興国などを考えますと、経済成長率に影響を受けると考えますと、若干高いはずであるということがあると思います。

 その意味で、海外資産に運用のポートフォリオを広げていくということに関しまして、前提は賦課方式なので大きな影響は受けないわけなのですが、こういった将来の人口動態の変化のために備えている積立金について、これを外国資産に広げていくということに関して、何かこういった考え方を修正したほうがいいのではないかということが、もしございましたら教えていただきたいというのが2点目でございます。

 3点目は、同じく年金のポートフォリオの多様化ということに伴いまして、ここの数理部会といたしまして、年金財政の観点から資産運用のリスク管理ということに関して、どのような視点で見ていけばいいとお考えになっているかということについて、お伺いしたいと思います。

 先日のGPIFからプレスリリースされたものを見ましても、より一層のリスク管理が重要であるということで、名目賃金上昇率からの下振れリスクがどのぐらいあるかということをちゃんと見ていく必要がある。それから、株式などについては下振れ確率も大きい場合がある。そういったことに十分目を配る必要がある。

 そのために、GPIFとしてのリスク管理体制というのは、リスク管理ツールの高度化とか、コンサルタントの採用とか、いくつかの点を指摘されているわけでございますが、年金財政全体の観点から、私ども年金数理部会としても考えていかなければいけないと思っております。この点について何か御示唆があれば教えていただきたい。

 その3点でございます。

○山崎部会長 続きまして、駒村委員、お願いします。

○駒村委員 小野先生の御報告は非常にわかりやすくて、私もほとんど納得するところばかりでございます。

 2つほど教えていただきたいというか、お知恵をいただきたいところがございます。

 1つ目は、今の翁先生の御意見にもつながるところでありますが、年金数理部会というのは、私の理解は、財政検証について再度検証をする。そして、毎年の年金財政についてチェックをするという役割だと思っております。そういう意味では、なるべく客観的に見ていくということが重要だと思います。

 今回の財政検証に伴って、先ほど翁委員からもお話があった運用計画が変更されたと。これは財政検証に連動するものということになると思います。GPIFが積極的にリスクをとりに行き、ガバナンスを強化するというのは、一つのあり方だろうと思います。ただ、今日のお話の中でもタイトルがまさにリスクということになるわけで、この積立金の運用のリスクについて、中期計画そのものがどういう評価ができるのかということを、やはり年金数理部会のほうもチェックしていく必要があるのではないかという感じを持っておりますが、その点について小野先生の御意見などをいただければなと思います。それが1点目です。

 2点目は、恐らく26ページの資料が、小野先生が今日議論したい部分ではないかなと思って、あえてクエスチョンマークで書いてあるところで、まさに私も、このいずれの点も深く考えなければいけないことだと思います。基礎年金にマクロ経済スライドを適用しなかった場合には、どういうことが起き得るのか、あるいは厚生年金と国民年金の財政統合ということをしない限り、なかなか基礎年金の報酬比例部分の調整期間を統一する方法はない。しかし、それは一体何を意味してくるのか。入口、制度が違って保険料の徴収も違う中で、それが一体どういう意味があるのかということ。

 オプション推計、オプション計算の統合というのは大変おもしろいので、これもそう思いますし、さらには支給開始年齢の引き上げの議論も、単に支給開始年齢を引き上げるのか、雇用を連動させて拠出期間を延ばしながら上げていくのかというのは話が違うのだという話も整理していただいたと思います。私も後者でなければ意味がないだろうと思っておりますが、もしかしたら、トーンが違うところがあるとするならば、やはり60歳代後半の雇用の拡大を長期的に誘導していくということに、政府がコミットメントする必要があるのではないかなと思っております。その上での受給期間の繰り上げというのが、標準支給開始年齢を決めた上である程度本人が選ぶという形になるのかは、言い方の違いかもしれませんが、そういう理解をしております。この辺、もし、お考えのことがありましたら御説明いただきたいなと思っております。

 以上です。

○山崎部会長 ここでまた小野さんから。

○小野正昭氏 集中砲火のようで厳しいですけれども。

○山崎部会長 お答えできる範囲内で。

○小野正昭氏 翁先生のお話ですが、そもそも私、経済学者ではないので、TFPの捉え方とか、これの数理部会とのレビューの仕方ということに関して、特段見識を持ち合わせているわけではございません。ただ、先日、日本アクチュアリー会で年次大会がございまして、そこでの御講演の中でおもしろいなと思ったのは、国全体の話もそうなのですが、TFPをパーキャピタで捉えるという話がございまして、総人口で割るのか、あるいは生産年齢人口で割る、調整するのかという話だと思うのですが、生産年齢人口によるパーキャピで見ると、日本というのは他国と比べて全然引けをとっていないよというお話があったのを、非常に印象深く聞いていたということでございます。

 そういう状態でありながら、全体で見ると必ずしもよくないというのは、やはりTFP1.8%とかというのは確かに高いハードルかなという個人的な感想は持ちますが、それ以上のコメントができないということでございます。

 それから、積立金の運用に関して、ちょっと生煮えの議論なのですが、海外資産への投資ということを書かせていただきました。これは御承知のとおりで、例えばノルウェーの石油基金といわれる、これは年金だけではなく、社会保障全般ということだったと思いますが、グローバルファンドということで、海外投資を専門にやっているという話が、事例としてはございますということですね。これは、必ずしも保険料の積立ということではございません。

 それから、もう一つ、たしかアイルランドが同じように積立金を海外に投資をしていたということがあったと思いますし、そのアイルランドは、例の金融危機のときに、大分国家財政が困ったというときに、積立金を取り崩してキャッシュを確保したという経緯があったのではないかなと思います。

 ですから、そういう意味では海外投資というのも、ほかの国の成長をとりにいくということもあると思いますが、リスク分散という観点から必要かなと思います。ただ、それは、ここに書きましたとおりで、日本国債をその投資先の国が買っているということになりますと、これは大分違うかなということですね。日本国債が万一のことを考えると、そのときに、その国債を持っている国が日本の国の公的なファンドが投資しているというわけですから、引きかえにその投資しているファンド、証券をどうするかという問題は、やはりちょっと出てくるのではないかなと思いますね。

 たしか、アルゼンチンがデフォルトしたときに似たような話があったのではないかなと思いますので、そこは留保条件付きということになりますが、ちょっと注意をしながら海外投資を考えていくことが必要かなということでございます。

 それから、積立金の運用に関しては、駒村先生も御指摘になったのですが、年金数理部会としてどのような検証をするかということで、たしか、専門委員会の中で、公的年金の積立金の運用のあり方は何を目標とすべきかという議論がありまして、それは対物価の実質なのか、対賃金の実質なのかということをかなり議論した経緯があったと思います。今日の御説明の中で、私は、厚労省さんの資料の引用でしかないのですが、基本はやはり賃金連動なので、賃金が標準になるでしょうということを申し上げました。

 ただ、資産運用の世界で言うと、賃金をヘッジする資産というのは多分ないだろうなと思っておりまして、その意味では、賃金をヘッジするということはないにしても、やはりそれなりの変動を想定しながらそれを管理していくということが、財政の構造としても妥当なのではないかなと思っております。

 ちょっと話が長くなってしまうかもしれないのですが、今日の参考資料の中にGPIFの運用方針の変更というのがございまして、この冊子の右下のページでいきますと4ページだと思うのですが、厚労大臣から示された中に実質的な運用利回り、つまり名目賃金上昇率を差し引いたものを実質と言っているわけですけれども、それを最低限のリスクで確保することというのが1つの目標になっているということですね。それから、中期的な経済情勢を踏まえたフォワードルッキングなリスク分析をしなさいという話とともに、名目賃金上昇率から下振れリスクが全額国内債券運用の場合を超えないことということが示されてございます。

 振り返ってみますと、今までの運用というのは財政検証で出てきたとおりで、国債並みのリスクでもって分散投資効果を考慮したうえでポートフォリオを決めるということでしたので、名目リターンの中の有効フロンティア的な議論でもって終わることができたのですが、ここは国債というのを基準にしつつも、結局、下振れリスクというリスクのはかり方という面では、基準は同じでも、測度というか、物差しがちょっと変わってきたなということが、今回、現状のポートフォリオと比べると大分違った結果が出てきた。これが1つの原因なのではないかなと私は考えたということでございます。

 そういう意味で、ポートフォリオが大分変ってしまったので、これを数理部会としてどう受けとめるかというのはよくわからない面があるのですが、一応、まずはそういった分析をすることかなと思います。

 それから、駒村先生からいくつか制度設計の面で御指摘いただきました。私自身も制度をこうすべきという確固たる信念は本当に持っていないので、なかなかお答えしにくいのですが、ひとつ支給開始年齢の話でございますが、何となく議論がループしているようなところがあるのではないかなと思うのですね。

 そもそも出発点は、A~Hまでのシナリオの結果に基づいて給付水準がどうなるかということを議論していたということですね。その給付水準を議論していくと、中にはちょっとうまくない結果が出てきますねということでした。うまくいくケースも、人によってはちょっと楽観的だという受けとめ方をするのではないかということだったと思うのです。だからどうするかというときに、結局、最終的な所得代替率を確保するためにどうするかということを議論しているということだったわけです。支給開始年齢の引き上げというのは、単にそれだけをやると、ターゲットにしている将来の受給者の給付を削る話になってくるということで、何か議論がぐるぐる回っているような気がしてしようがないのですね。それがもしそうだとすると、なかなか受け入れられない議論になるのではないかと思うので、そこも踏まえながら、現実的にはどういう対応をすべきかということを考えていかなければいけないなというのが、今の私の見解でございます。

 以上でございます。

○山崎部会長 小野さん、お疲れでしょうが、まだしばらくお願いいたします。

 佐々木委員、お願いします。

○佐々木委員 今日は、公的年金制度のリスク管理ということで、全体的な内容を大変わかりやすく御説明いただきまして、ありがとうございました。

 ちょっとその視点とは別の視点になるかもしれませんが、当然、公的年金制度も非常に重要だと思うのですが、国民一人一人のリスク管理という点で、資産の形成とか医療制度とか、いろいろなことがあるわけです。

 それに関連して申し上げますと、今回の財政検証では、資料の5ページ目にありますように、賃金上昇率が2.3%~0.7%の範囲で8通りのケースで計算されているわけですね。

 例えば2%上昇ということになりますと、ちょうど35年間で2倍になる。ここにも示されていますが、今、賃金水準は35万円ですから、今世紀半ばに約70万近くに到達して豊かさが2倍になると考えていいのかなと思っているのですが、現実を見ますと、賃金水準の高い製造業は海外移転が非常に増えているわけですね。それから、建設業は公共事業が削減されて、これも大幅に減っているということで、国内はサービス産業の増大とか、あるいは非正規化が進行して、賃金水準が上がりにくい構造になっているのではないか。これが今後、長期的にどのように克服されて変化していくのか、難しい部分がありますが、現状そういうことだと思います。

 賃金水準が2倍になれば、これから2人に1人が高齢者という超高齢化への対応とか選択肢、例えば保険料負担であるとか、代替率が多少減っても実質的な豊かさは増えてくると、そういう状況が考えられるのではないかと思うのですね。そういうことで、むしろそうでない場合が、国民一人一人にとってもリスク管理が非常に重要な形ではないかと思うのです。

 したがって、ちょっと自虐的と言われるかもしれませんが、今回の財政検証においては、そういった足元の状況も踏まえて今後の状況は、やはり厳しめのシナリオ、これが国民一人一人の生涯設計とかリスク管理、ひいては公的年金のリスク管理、こういったものにつながる重要なことではないかと考えています。ちょっとざっくばらんな意見で申しわけないのですが、そのように考えているのですが、もし、お考えがあればお聞かせいただければと思います。

 以上です。

○山崎部会長 田中委員、お願いします。

○田中委員 今日は、小野さんから、非常に詳細に公的年金のリスク管理というテーマについて、恐らく今までは余りこういう議論がされたことはなかったので、非常に感銘を受けました。

 そこで、公的年金とリスク管理はなかなか結びつかないと思うのですが、世の中では、例えば金融業界にいれば銀行のバーゼル2とか、保険のソルベンシー2とか、金融機関のリスク管理については相当議論もあるし、実務も定着しているというのが一方にございます。それから、企業年金においても、昔、小野さんもやられたかもしれませんが、年金ALMというのを一応やっておりまして、それなりになじみがある。

 これらのものは、いずれにせよ銀行、保険については自己資本というものがありまして、それがどう毀損されたかというのをリスクととる。それから年金AMLでも、剰余金とか不足金とか、そういったものが一応リスクメトリクスになっている。すなわち、リスク計測という概念がないと、正確な意味でのリスク管理ということができないと思うのですが、公的年金では果たして何をリスクと捉えるのかという根本問題が、実は整理されていないのではないかと思うのですね。

 それで、小野さんのレポートの中でも、そういうことを意識されていると思うのですが、十分性からのということでかなりいろいろな分析がされている。これからだけでもいろいろなことが示唆されるわけですが、公的年金の場合は、結局、国民の厚生水準というのですか、それがあるレベルを維持できない。それが果たして所得代替率だけなのでしょうかというのが一番の疑問でありまして、最近、NHKなんかでも多重介護の話とか、後期高齢者になって給付額の分布が非常に低い下位25%とか5%の人は、本当に生活保護すれすれの人もいるわけですね。そういったところにインパクトを与える給付面へのインパクトというのが、実は国民に対するリスクでもあり、公的年金の最も重要な目的を達成できていないということかもしれないのですね。

 ですから、金融機関のいわゆる自己資本比率がどうのこうのという話ではなくて、公的年金の場合には、そういったリスクについての再定義みたいなものがまず必要で、そこからその目標を達成できない確率というのですか、そういったことが求められるのではないかと思うのですが、その点についてぜひコメントをいただきたいというのが1点です。

 あとは、今回、厚生労働省から79通りものシナリオが提示されております。ただ、それについては発生確率というものを全く付与されていないのですが、もし、客観的に確率が付与できれば、これだけでも十分なリスク管理の手法になってしまうわけですね。100200もやれば、それがある程度ジャスティファイされれば、それはそれでもある意味でリスク計測ができているということなので、こういうシナリオをどんどんふやしていくのはいいのですが、そこについての蓋然性というか、そこを担保するものがないと、単に数字だけが出ていて解釈ができないということになるので、不確実性とリスクは違うというお話もありまして、大変難しい問題なのですが、この辺をどのように整理して国民に示すと、それなりに世間の納得性が得られるかという点についてコメントをいただきたいということです。

 あと、ついででございますが、投影というお話がありました。今、金融界ではストレステストというのが非常にはやりで、かなり蓋然性は低いけれども、その金融機関が破綻してしまうかもしれないというシナリオを選び出して、いろいろな計算をするということなのですが、100年安心というわけではなくて、100年もあるといろいろなことが起きますから安心ではないと思うので、例えば日本では原発事故がありましたし、その前に東日本大震災、噴火もありますし、諸外国との関係、中国との関係、いろいろありますので、こういったものは年金のシミュレーションに全く入っておりませんが、こういうものをストレスシナリオとして入れることについて、果たしてどう考えたらよいかということについてコメントをいただきたいということです。

 以上です。

○山崎部会長 最後になりましたが、野上委員、お願いします。

○野上委員 今日は、密度の濃いプレゼンをありがとうございました。

 (アイウエオ順で)8番目の質問ということで、どんどん質問事項がなくなっていきまして、まさにこういうのをテールリスクというのだなと、ハラハラドキドキしながら待っていたわけでございます。ということで、8番目ということでHシナリオに当たるのかなと。そういうことで、テールリスクについて御質問をさせていただきたいということでございます。

 テールリスクが発生したときに、そのリスクを誰が負担するのかというのは実は大きな問題ではないかなと思っております。終局的には、まさかGPIFの方に負担いただくわけにもいかないので、終局的には国民が負担する。これはだれも異論がないと思うのですが、どういうやり方で負担していくのかということについては、あまり議論されていないのではないかなと思います。

 考えてみますと、大きく言って3つあるかなと。1つは保険料を上げる。もう一つは給付を下げる。3番目は、やはり税金で負担する。この3つかなということです。

 問題になりますのは、今、消費税の関係で担税力というのが議論されておりますが、リスク負担能力のない方に負担させると、社会的にいろいろ大きな問題が出てくるということかと思います。

 まず、保険料を上げるというやり方を考えてみますと、よく言われるのは、現役世代だけが負担するのですかと。例えば運用の失敗あるいはガンが治るような薬が出て寿命が大きく延びたという負担を、若い人だけに負担させるというのは、やはり社会的に問題があると。しかも、今の被用者年金の保険料の体系というのは、所得比例でございます。要は、消費税と一緒で所得の低い人ほど負担が大きくなると。要は、保険料を上げるというのはそういう逆進性があるのではないかと思います。

 もう一つのやり方は、給付を下げる。この場合、一気に下げるというやり方は、社会的になかなか難しい。そうなりますと、マクロ経済スライドを通してということになりますと、やはり若い方に負担が行く。マクロ経済スライドも保険料と同じように、一律下げるというやり方です。例えば0.9%毎年下げていくということですが、あれは10万円の年金をもらっている人も、20万円の年金をもらっている人も、同じ率で下げていきます。ですから、そういう意味でここにも逆進性が出てくるという問題があります。

 となると、やはり税金で負担するのかなということになりますが、今日来ておられるかどうかわかりませんが、財務省の方は、そういうことはけしからぬということになるので、そういう社会的な弱者が入っているような年金制度では、リスクというのはなかなか負い難いのではないかなと思いますが、その点について御見識をお伺いできればと思います。

 2つ目の質問ですが、Hシナリオというと、途中で完全賦課方式に変わるということでございまして、小野先生のプレゼンを見ますと、一方で保険料資産ということもスウェーデン方式のところで評価されておりまして、一方で国債に全額運用したときは賦課方式と同じということで、若干、賦課方式に対してネガティブな印象を持ったのですが、私自身は、言ってしまえば賦課方式というのは、老いては子に従えと。要は、私の年金を子供の世代の判断に任せるということで、老いては子に従う方式ではないかなと思っております。そうなりますと運用リスクはないし、物価上昇のリスクもないということで、リスク管理の観点からすると賦課方式というのは結構、良いやり方ではないかなと思うのですが、その点についても御見識がありましたらお聞かせください。

 以上でございます。

○山崎部会長 小野さん、よろしくお願いします。

○小野正昭氏 ありがとうございます。

 まず、佐々木委員のコメントですが、賃金上昇率に関しては、足元の状況と比べると大分乖離があるというお気持ちが背後にあるのかなと思いながら、お伺いした次第です。

 そういう意味で、足元を考えながら、国民一人一人はこの結果を厳しめに受けとめて自分のリスク管理をするというのは、まさにそのとおりだろうと思います。ここに御指摘申し上げているのは長期のシナリオということで、やはりモデルの都合上さまざまな制約が出てくると思うのですね。

 例えば専門委員会の中でも、開放経済ということで海外との収支とかを要素に入れないといけないという話もあったと思うのですけれども、さはさりながら、おおむね100年のシミュレーションをするということですので、足元の状況だとか一定の傾向が100年間ずっと続くという、ある種発散するような世界を考えるというのは、なかなかできないということがあると思います。経常収支がその一つの例だということで、ここで設定しているモデルの中で出てくる結果が、長期としてはそのとおりなのですが、足元と比べると大分違和感をお持ちになるというのは、佐々木委員の感想としては、そういう方もいらっしゃるなということだと思います。

 それと、田中委員のコメントは、私にしてみると全然知識のない分野だと思うのですが、申し上げましたとおりで、問題提起としては、こういった公的年金に限らずいろいろなもののリスクを管理するためには、リスクメジャーというのが必要ですねということですね。それで一定の数値化をしたうえで、それを管理することが必要ですねということなので、それを公的年金に適用するとしたらどんなものがあるかなということだろうと思うのです。先ほどお話ししましたとおり79通りあったということで、それに確率を与えられないかというお話だったと思うのですが、人口推計については、一定の設定したモデルの範囲内で確率は与えられる。出生率も、死亡率についてもある程度は与えられるのではないかと思いますが、私の認識としては、経済の8通りについては確率は与えられないということですので、結果として、リスクメジャーというのはつくり得ないのではないかなと思います。

 それから、銀行とか保険に関していくつかのリスクメジャー、バーゼルとかソルベンシー基準だとか、そういったことがあるというのはおぼろげながら承知しているわけなのですが、やはり基本は資本不足による破綻というのがあると思うのです。やはりこういう公的な制度で破綻ということを想定しながらリスク尺度を設定していいのかどうかという問題は、論点としては出てくるのではないかなと思います。

 そういう意味で言うと、野上委員がおっしゃられたテールリスクもそうなのですが、保険とか銀行とかは基本的に一定の契約があって、リスクを受けた者はその契約に従ってきっちりと保証をしなければいけない、あるいは支払わなければいけないという世界で考えているということなのですが、企業年金もそうなのですが、特に公的年金はそういった世界とはちょっと違うかもしれないなということで、例えばスウェーデンが、今のバランスシートによる調整方式をやっているわけですが、あの中で管理し切れないリスクをスウェーデンでは保険不能リスクと言っていまして、基本的には何かでカバーすることはできないのだと、ヘッジすることはできないのだということを最初から認めてしまって、顕在化したリスクをどうするかといったら、それは国民全体で負担するしかないですよという意味では、保険料も上がるし、給付も下がるしという形で、全体として国民全体で調整していくのがスウェーデンの仕組みだということなので、そのテールリスクを評価するのはなかなか難しいかもしれないのですが、リスクが迫ってくる前になるべく早く対処するということが、唯一公的年金ができることなのかなと思っています。

 それから、私は先ほど積立方式というか、賦課方式が否定的だとお受け取りいただいたかもしれないですが、そうではなくて、賦課方式で運営している制度を無理に積立方式にして、それで国債を買ってもらうということをしても実態は変わりませんねということを申し上げたかったので、私はむしろ、公的年金に関しては賦課方式を支持する立場ですということでございます。

○山崎部会長 お疲れさまでした。

 時間は余りございませんが、ここで会場から御質問なりコメントをいただきたいと思います。手短にお願いいたします。

 いかがでしょうか。論客がそろっていると思うのでございますが、御遠慮なく。

 どうぞマイクの前にお進みください。所属と名前をお話ししてから。

○質問者 ニッセイ基礎研究所の中嶋でございます。ありがとうございます。感想と質問を1点ずつです。

 感想としましては、今日は公的年金のリスク管理というありそうで今まで議論がなかった話題がテーマでして、最初に、政府が8通りの前提を示していることについて、2通りの御意見が委員の方から出たりして、リスク管理やリスクの認識自体も難しい問題なのだなということを改めて実感いたしました。

 御質問はリスク管理で、先ほど小野さんからも話がありましたが、テールリスクに対して早目に手を打っていく、あるいはテールリスクでなくても、リスク、変動に対して早目に手を打っていくことが一つ重要かと思いますけれども、例えば現在のマクロ経済スライドの仕組みですとかそういったことについて、どの程度リスクを緩和しているといいますか、リスクに耐えられる体制になっているのか、その点について、小野さんを初め御意見のおありの方に御感想をいただければと思っております。

○山崎部会長 いかがでしょうか。小野さんを初めということでしたから。

○小野正昭氏 今、平成16年改正のことを思い出してみますと、それ以前というのは、まずは給付というのが現状の規定どおりで想定されるということで、それに基づいて制度を運営していくと、その結果として保険料がとてつもなく上がるということを何回か繰り返してきたということですので、それに関してかなり不信感みたいなものがあったかなということだろうと思うのです。そういった不信感なり批判を取り除くという形でもって保険料の上限を設定したということでありまして、その結果としてマクロ経済スライドという仕組みを取り込むことによって、かなり長期的にはなりますけれども、給付の水準を徐々に落としていく仕組みを組み込んだということだろうと思うのですね。

 ですから、そのスキームというのは非常によかったというか、当時は、国民からは前向きに受けとめられたと思いますし、将来の保険料の上昇という形で出てくるリスクを前もって対処したということにはなるかと思います。

 ただ、いろいろ御指摘があるように、その後のデフレ経済というのがありましたので、意図せざる現在の受給者世代の給付水準の上昇というのが出てきてしまったということですので、これからの話になると思いますが、これをマクロ経済スライドがフル適用されるといういろいろな諸施策を通じて対応するというのも、やはりリスクへの対応だと思っております。

 以上です。

○山崎部会長 では、駒村さん。

○駒村委員 中嶋さんの御質問は、多分、小野さんの資料の32ページのマトリクスなんかも意識されているのかなと思いますけれども、よくよくこの4つのマトリクスの4番目と3番目に書いてあることを読むと、やはりこの判断がどうだったのかと。例えば「不適当だが、名目額を割り込んでまで新規裁定者に合わせるのは不適当」と書いてある。本来は、財政的な安定性を考えるならば、いずれもデフレ状態の賃金に合わせたほうが調整できたわけで、要するに、この数年間のパターンとしては、この第4象限と第3象限の下2分の1がめったに起きないだろうと思っているものが、何回も何回も繰り返し起きているということに対して、果たして初期のマクロ経済スライドの設定が正しかったかどうかということは考えなければいけないなと思っております。

 以上です。

○山崎部会長 ほかによろしいですか。会場からもうお一人どなたか。

 よろしいでしょうか。

 ほぼ予定どおりの時間でございますが、本日はみずほ年金研究所の小野正昭さんから「公的年金におけるリスク管理について」と題して、アクチュアリーと業務分野、平成26年財政検証結果の確認、公的年金のリスク管理における考慮事項、年金数理部会の役割と期待などについて貴重な御報告をいただき、年金数理部会の委員、さらに会場の皆様を含め意見交換をしてまいりました。

 今日のテーマである公的年金のリスク管理についてですが、公的年金にはどのようなリスクが存在し、それをどのように管理していく必要があるかということについて一定の議論ができたと思っております。

 特に、公的年金のリスク管理については、運用リスク以外にもさまざまなリスクがあるということ。さらに、一般にリスクと考えられているリスクについても、50年、100年を考えるときわめて不確定で不確実であるということも指摘がありました。ましてや、将来の社会経済状況には非常に不確実な要素があるわけで、定期的な財政検証こそが必要であって、その結果を冷静に受けとめてリスク管理を行う必要があるということでございました。

 さらには、突き詰めていくと、公的年金においては、結局、国民の年金に対する信頼あるいは世代間の信頼関係が一番必要であるということと、民間の企業年金では債務とされているものが、将来に予定されている負担を国民が受け入れている限りは、保険料資産として考えていいということだったと思います。

 そういう意味では、18.3%の保険料上限あるいは国民年金で言うと、1万6,900円の上限にあと一つというところまで、我々は負担を受け入れてきていて、将来のもう少しの負担についても、これを拒否する雰囲気は全くない。そういう意味では、相当な信頼関係を確保しているのかなと思います。

 その一方で、将来の高齢世代につきましては、基礎年金について想定外の給付水準の低下が避け難いということになっていて、今回のオプション試算というものを含めて全体を評価すれば、それなりの対応方法があるのだということであります。

 そういう意味で私自身は、8つのケースを想定したということは、将来に向けて建設的な議論、前向きの議論を展開していく上での新しい切り口を年金局が提供してくれたのかなと思っております。

 こうしたことから、公的年金のリスク管理は、年金数理部会にとりまして非常に重要な課題であると同時に、年金数理部会のこれまでの活動が公的年金のリスク管理に対して一定の役割を果たしているということが、小野さんからも一定の評価をしていただいたわけでございますが、本日の議論の中でも改めて確認されたと思います。

 今後の年金数理部会では、本日の議論を踏まえ、リスク管理という視点、観点も大切にしながら、毎年の財政状況の分析、評価、そして財政検証、財政再計算時のレビューを進めてまいりたいと考えております。

 以上が、とりあえず私のまとめとさせていただきます。

 それでは、議題1の「公的年金におけるリスク管理について」は以上といたします。

 小野さんには、席の移動をお願いいたします。小野さん、今日はどうもありがとうございました。拍手をお願いします。

(拍手)

 

○山崎部会長 続いて、議題2の「年金数理部会の公的年金財政状況報告等の取り組みについて」に移ります。

 事務局より資料の説明をお願いいたします。また、今日は会場の皆様に向けて、演台からお願いいたします。

○清水首席年金数理官 清水でございます。

 事務局から、年金数理部会の活動について、簡単に御説明させていただきますが、その前に、今日、皆様方のお手元に「ねんきんネットであなたの年金を簡単確認」というパンフレットをお配り申し上げていると思います。このパンフレットをぜひご覧いただきたいことと、もう一つは、中ほどに掲載されておりますように、「年金の日フォーラム」というものが、日曜日ですが1130日に開催予定になっております。こちらはまだ席に十分余裕があるということですので、ぜひ御参加をいただければと思います。

 それでは、貴重なお時間を拝借して、私から簡単に御説明申し上げたいと思います。

(資料1頁)

 最初に、年金数理部会の役割を簡単に御説明したうえで、毎年の公的年金の財政状況の年金数理部会による分析・評価、それから、5年毎の財政検証・財政再計算時の年金数理部会による検証と、この2つについて御説明申し上げたいと思います。

(資料2頁)

 まず「年金数理部会の役割」ですが、このスライドの左側に示されますように、年金数理部会では、毎年、公的年金各制度から決算時の報告をいただいております。年金数理部会では、これをベースに、直近の財政検証・財政再計算における将来見通しとの比較など、分析を行ったうえで、各制度の財政状況を評価し、その結果を報告書にまとめ、公表しているということでございます。

 それから、スライドの右側に示されますように、財政検証・財政再計算に際しましては、基礎率、基礎数、推計手法、推計結果、結果の分析といったことについて各制度から詳細な報告をいただいております。

 年金数理部会では、これを基礎として各種の分析を加えたうえで、制度の財政について総合的な評価を行い、その結果を報告にまとめ、公表をしているということでございます。

 その際には、制度の財政についての留意点や、今後の財政検証・財政再計算に向けた課題を指摘するといったことも行っているということでございます。

 このように年金数理部会では、公的年金制度の財政に関する分析・評価、財政検証のレベルアップ、及び、年金財政に関する情報開示ということについて、言ってみれば息の長い活動を行っているということでございます。

(資料3頁)

 このスライドは、年金数理部会が毎年行っております財政の横断的な分析について示しております。御存じのように、公的年金制度では、制度間でお金のやりとり、調整を行っているわけでございます。基礎年金の拠出金、交付金や、国家公務員共済と地方公務員共済の間で行っている財政調整、旧JRJT共済に対する支援といったものがあります。例えば基礎年金の拠出金・交付金については、概算でまずやりとりをし、2年後に精算をしておりますので、時系列の分析をする場合には、そういった精算の影響というものも考慮する必要があるということがございます。

 このように、制度の横断的な分析というときには、こういったお金のやりとりの影響を十分把握しておく必要があり、同時に、制度全体の財政収支状況を把握する際、俯瞰的に見る場合には、そうしたやりとりは一旦除外する必要があるということでございます。

(資料4頁)

 具体的には、ご覧いただいている表の左の列は、これが各制度の数字を全て足し合わせたものなのですが、そこから制度間のやりとりである項目を除外すると、右の列のような形になるということでございます。こういう形で制度全体の収入がいくらあって支出がいくらある、あるいは積立金が全体としていくらあるのか、こういったことが俯瞰的にご覧いただけるように工夫をしているということでございます。

(資料5項)

 それから、財政状況の指標化ということがございまして、従来から、年金数理部会では、各制度の財政収支の状況をより的確に把握するために、財政指標というものを用いてきたということでございます。

 このうち年金扶養比率といいますのは、1人の受給権者を何人の被保険者が支えているか、こういったことを示す指標でございます。

 総合費用率というものは、制度の実質的な支出のうち、自前で財源を用意しなければならない部分の、標準報酬総額に対する比率ということでございまして、これが実際の保険料率に比べて多いか少ないかということが、1つの評価の視点になるというものでございます。

 また、独自給付費用率という指標は、基礎年金に関する部分を除いた費用率でございます。

 それから、収支比率という指標は、今、申し上げた、自前で財源を用意しなければならない部分の、保険料収入と運用損益の合計に対する割合ということで、これが100%を下回っていれば、その年の保険料収入と運用損益で、自前で財源を用意しなければならない部分が賄えたということでございます。

 それから、積立比率という指標ですが、これも自前で財源を賄わなければならない部分に対して、その前年度末の積立金がどのぐらいあるかという指標でございます。この指標では、積立金は前年度末の数字を使いますので、当年度の運用状況がすぐには反映しないものになっていることには、御留意いただきたいと思います。

(資料6頁)

 今年3月に公表されました公的年金財政状況報告(平成24年度)では、被用者年金一元化を踏まえまして、一定の割り切りのもとで、制度全体の財政指標を新たに推計をしたということでございます。これについては、注に挙げておりますようないくつかの割り切りをして推計をしているわけでございますが、こういったものについても、引き続き工夫してまいりたいと思っております。

(資料7~8頁)

 スライド7頁の乖離分析は若干、ややこしいものでございますが、先ほどの小野さんの基調講演にありましたので、時間の関係上、詳しい説明は省略させていただきたいと思いますが、スライド8頁の具体的な数字でご覧いただきますと、例えば厚生年金について、平成24年度末の積立金の将来見通しの乖離分である2.3%というのは、どういう要因によって発生したかということで、(A)(B)(C)というものに分けて分析をしているということでございます。

(資料9頁) これも先ほどの小野さんの基調講演で触れていただいたのですが、年金数理部会では、「評価の基準となる積立金額」というものを使って、年度末の積立金の状況、財政状況を評価しているということでございます。仮に、今後の保険料収入と給付支出が賃金上昇率に完全に連動するとした場合、ある年の賃金上昇率の実績が、例えば前提より1%低かったとする場合、100年後に保有すべき積立金というものも、見込みより1%少なくて済むわけでございます。したがいまして、現時点で保有する積立金というものも、将来見通しより1%低いところで、将来見通しと同じレベルで財政均衡するということになるわけでございます。

 しかし、実際にはどうかといいますと、今後の新規裁定者の年金額というのは、裁定時から、基本的には賃金上昇率の変動分が年金額に反映されますから、その分だけ給付費が変動するということで、賃金連動するということになるわけですが、既裁定者の給付に関しましては、物価スライドということですので、給付のなかには必ずしも賃金に連動しない部分が含まれているということでございます。

 そういうことで、将来見通しとの比較において、賃金上昇率に係る前提と実績の乖離により生じるとしていた変動を、物価上昇率に係る前提と実績の乖離により生ずる変動に置きかえることによって、先ほどすべてが完全に賃金連動すると仮定した議論を補正する必要があるわけでございます。

 具体的には、そういう置きかえをしたときに生じる差額分の将来キャッシュフローというものを、運用利回りの前提で割り引いて一時金に換算するということをしております。その一時金換算額だけ、完全賃金連動するとしたの場合の積立金に対して補正すれば、将来の給付キャッシュフローが過不足なく賄える、すなわちそれが「評価の基準となる積立金」ということで、それを基準に財政が評価できるということでございます。

(資料10頁)

 これについての具体的なグラフにつきましては、先ほどの小野さんの基調講演にもありましたので省略をさせていただきますが、いずれも24年度末の財政状況については、各制度とも実績の積立金が評価の基準となる積立金を上回っていたということでございます。

(資料1113頁)

 このあたりは省略させていただきます。

(資料14頁)

 最後に、今後の財政検証・財政再計算に向けた要留意・検討項目ということにつき、御説明させていただきます。

 これは、前回の財政検証、つまり平成21年の財政検証や財政再計算のレビューにおいて、年金数理部会が今後の課題として指摘をしたものでございます。

(資料15頁)

 4点ございます。1点目は、国民年金の財政の詳細な分析ということが指摘されていたということでございます。まず、基礎年金の調整期間と報酬比例分の調整期間のずれということでございます。まさにこの点は今日も議論されましたが、今回の財政検証では、非常に重要な論点の一つになっているということでございます。

 第2の指摘につきましては、前回の財政検証では、国民年金の納付率が目標とされていた8割に設定されていたということと関係がありまして、それが今回の26年財政検証では、御存じのとおり、国民年金の保険料納付率に関しては、現状の60%で推移した場合と、平成30年度以降65%まで向上した場合の2通りが示されています。その2つの場合で、所得代替率にどの程度の影響があるかということも示されているということでございます。

(資料16頁)

 それから、共済年金における被保険者数の見通しということでございます。

 平成21年の財政再計算では、国共済プラス地共済、両方を合わせたものということでございますが、我が国の生産年齢人口に対する被保険者数の割合が一定と見込まれていたわけでございます。これについての年金数理部会の指摘は、警察や自衛隊のように、人口が減少しても一定数必要と考えられる職種の被保険者がいるということも踏まえて行われたものでございます。実際、今回の国共済プラス地共済の財政再計算の資料では、我が国の総人口に対する被保険者数の割合を一定と見込んで財政再計算を行ったといったことが述べられているわけでございます。

 私学共済については、平成21年の財政再計算では、学齢対象人口の減少に連動して被保険者数が減少すると見込まれていました。

 これについての年金数理部会の指摘は、前々回の財政再計算からの被保険者数の実績を見ると、必ずしも学齢対象人口の減少に連動するようにはなっていないということも踏まえて指摘されたものでございます。今回の私学共済の財政再計算では、平成36年度までは、学校種別加入者数の動向を踏まえて、被保険者数が推計されているということでございます。

(資料17頁)

 3点目は、経済変動の影響の計測ということでございます。

 前回までの財政検証・財政再計算では、経済前提については一定の数値で見込まれておりました。いわゆる決定論的な推計が行われていたわけでございますが、この点について年金数理部会は、特にマクロ経済スライドが、物価や賃金が下落する局面では働かない仕組みになっているといったことを踏まえて、経済変動を考慮した推計も行っていく必要があるということを指摘していたということでございます。

 今回の財政検証では、事務局の参考資料に含まれている財政検証の資料、スライドの1516ページでございますが、経済変動を仮定した場合の影響というものも試算されているということでございます。

(資料18頁)

 最後に4点目でございます。確率的将来見通しということです。いわゆる決定論的な推計に対比されるものとしては、ストカスティックな、確率論的な将来見通しというものがあるわけでございます。

 これを行うためには、基礎率について何らかの確率分布を仮定する必要があるわけでございまして、そういう難しさはあるわけでございますが、今後の課題として指摘していたということでございます。

 

 このように、年金数理部会の財政検証・財政再計算時の検証(レビュー)というものは、その5年後を見据えた、息の長い指摘なり提言を行っているということでございます。

(資料19頁)

 最後に、今回の平成26年財政検証・財政再計算時の年金数理部会による検証(レビュー)について概略を説明いたします。本年9月29日の年金数理部会で、各制度から、財政検証・財政再計算の概略を御説明いただいたということでございますが、今後につきましては、各制度から詳細な資料の提供や、内容の御報告をいただいたうえで、年金数理部会及び同事務局により分析・検討を行っていくということを予定しております。

 そして、最終的には、検証報告を取りまとめたいと考えているところでございます。

 私からは以上でございます。

○山崎部会長 ありがとうございました。

 ちょうどほぼ定刻になりましたので、このあたりで終了したいと思います。

 年金数理部会では、今後も公的年金制度の財政状況につきまして注視してまいりたいと思います。

また、今後の財政状況報告の作成や財政検証・財政再計算のレビューに当たりましては、本日の議論を踏まえて進めてまいりたいと思います。

 お集まりいただきました皆様方におかれましても、引き続き公的年金財政につきまして御関心をお持ちいただけるようお願いいたします。

 本日はこれで終了します。

どうもありがとうございました。


(了)

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