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2013年1月21日 第9回 社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録

年金局

○日時

平成25年1月21日(月)16:00~18:00


○場所

航空会館702・703会議室(7階)
東京都港区新橋1-18-1


○出席者

吉野 直行 (委員長)
植田 和男 (委員)
小塩 隆士 (委員)
小野 正昭 (委員)
武田 洋子 (委員)
西沢 和彦 (委員)
米澤 康博 (委員)
熊谷 亮丸 (株式会社大和総研チーフエコノミスト)

○議題

(1)内外の投資環境の見通しとそれに基づく内外投資の考え方に関する有識者からのヒアリング
(2)労働力需給推計について

○議事

○吉野委員長 ただ今から、第9回「年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」を開催します。皆様、御多忙のところお集まりいただきましてありがとうございます。本日の委員の出欠状況ですが、川北委員、駒村委員、山田委員が御欠席となっています。それでは議事に入らせていただきますのでカメラの方は御退席をお願いしたいと思います。事務局から御連絡をお願いいたします。
○大臣官房参事官 後ろから失礼いたします。年金局の資金運用担当参事官の森でございます。昨年11月の人事異動で前任の原口から代わりました。よろしくお願いいたします。着席させていただきます。本日の資料の確認をさせていただきます。本日の資料ですが、資料1は「内外経済と金融市場の展望」、熊谷先生御提出の資料です。資料2-1は「労働力需給推計(2012年8月)について」です。資料2-2は「財政検証における労働力需給推計について」です。皆さん、お手元にございますでしょうか。本日は、次第にあります1つ目の議題に関して、株式会社大和総研から、チーフエコノミストの熊谷亮丸先生に来ていただいております。
○吉野委員長 ありがとうございます。早速ですが、内外投資環境の変化、その見通しにつきまして、御報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。スクリーンを使いながらやっていただきます。
○熊谷チーフエコノミスト 大和総研のチーフエコノミストの熊谷と申します。本日はお招きいただきまして心より光栄に存じます。私からは大体40分間程度をめどに、内外の経済情勢、そして金融市場の動き等について御報告をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
 お手元の資料の1ページ目ですが、私からは、大体、5つぐらいの柱でお話をさせていただきたい。1は、当面の日本経済の状況です。日本経済は昨年の3月が恐らく景気の山で、景気後退の状態が続いてきた。ただ、11月に一応景気は底入れをして、これから3つぐらいの要因によって、日本経済は徐々に持ち直しの方向に向かってくるという考え方です。1点目としてはアメリカと中国経済が持ち直すこと。2点目としては復興事業に加えて大型の補正予算が編成されたこと。3点目としては日銀が大胆な金融緩和を行っていくということ。この3つの理由でございます。
 2として、今後の世界経済全体をどう見るかです。今、先進国の内需が非常に低迷している状況ですが、他方で新興国については、例えば国の債務のGDPに対する割合は先進国が110%、新興国は30%ですので、まだ財政金融政策の面でかなり新興国の政策の発動余地が残っている。したがって、例えばアメリカの「財政の崖」の問題、もしくはヨーロッパの信用収縮というような、極めて大きな下押しのリスクが起きない限りにおいては、ある程度新興国の動きによって世界経済が支えられてくる。ただ、裏を返して申し上げれば、先ほど申し上げたようなヨーロッパの信用収縮などが、非常に大きなマグニチュードでリスク要因として出てきたときは、新興国だけでは支え切れない。恐らく焼け石に水のような状況です。これを2つ目に申し上げたいと思います。
 3として、中国経済です。短期的な話ですが、日中関係の悪化が日本経済に対してどの程度影響を与えるかを申し上げたい。2点目としては、当面の中国経済は財政金融政策によって緩やかな持ち直しの方向に向かう。ただ、3点目として、中長期的に見ると非常に設備ストックの過剰等の大きな問題が山積しているような状況ですので、中長期、3年から5年ぐらいのスパンで見るときに、中国についてはやや慎重な見方をとっておく必要があるだろうと思います。
 4として、日本経済のリスク要因です。中長期で見ると、経常収支が2015年から2020年前後にかけて赤字化の可能性が出てくる。短期のリスクとして最大のものは「欧州ソブリンリスク」で、これは後でシミュレーションをお示しいたしますけれども、ヨーロッパが本当に厳しい状況なったときは、大体、日本のGDPに対する下押し幅は4%程度です。これは、リーマンショックのときの日本の経済の落ち方が3%台の後半でしたので、それに匹敵するぐらいのリスクが存在する。2点目として日中関係の悪化、3点目としてアメリカの財政の問題、そして4点目として地政学のリスクが起きてきたときに、原油が10ドル上がると日本のGDPは0.2%、大体1兆円程度落ちてくるという計算です。
 最後に5として、「アベノミクス」の話と金融市場の展望ということで申し上げたいと思います。長い目で見ると、今、日本の株というのは非常に割安な状況にあるという認識をしています。他方で長期金利に関しては、2015年から2020年前後にかけて経常収支の赤字化の可能性が出てきますので、ある程度2015年前後までに財政再建のめどを付けておかないと、債券相場がかなり崩れる可能性が出るのではないかと考えています。以上が全体の概要です。
 2ページ目を御覧ください。世界経済の具体的な見通しです。5年、10年のタームになりますと予測していくのが非常に難しい部分がありますけれども、ある程度、2015年から2017年にかけては、主要国の経済が巡航速度のところに動いていく。その中で、いちばん下の段にある中国については、今までは保8ということで8%を保ってきましたけれども、恐らくこの後、成長率が徐々に低下して、例えば2030年にかけては5%台ぐらいのところまで、中国の成長率は落ちてくるという考え方をしています。ちなみに今年と来年の成長率に関しては、実はアベノミクスの影響を完全に織り込んだ改訂が、この図表ではまだできていない状況ですので、恐らく補正予算の編成等を入れ込んだときには、2013年、2014年はここよりも若干高めの成長率になってくるということです。
 3ページ目を御覧ください。日本経済がどこから立ち上がってくるかですが、3ページの下にある図表は、1980年代までの過去8回の景気の回復局面において、どういう要因によって戻ってきたか。横軸の0が景気の谷、左側に-4四半期、右側に+5四半期ということで、過去8回の平均的な景気回復のパターンを見ています。結論としては、上の四角の2,3です。1つは金利の低下を受けて住宅投資と設備投資が戻ってくる。画面で言えば住宅投資は黄色で塗ってある部分、設備投資は左上からのブルーの縞で書いてある部分です。こういう金融政策の効果が80年代までは効いていた。公共投資についてもかなり景気の下支えの効果があったということですので、一言で言えば、80年代までの日本経済は財政金融政策によって立ち上がってくるというのが通常の姿であった。
 ところが、次の4ページ目を御覧いただくと、これは1990年以降の日本経済の動きですけれども、画面の赤で塗ってある部分です。輸出が悪くなると景気が後退して、海外経済が戻り輸出が戻ってくると日本経済は回復するということですから、昔ほどには財政金融政策が効かなくなり、輸出が戻らない限り日本経済はなかなか拡大しないという状態が起きているということです。
 5ページ目を御覧ください。冒頭、これから明るい材料が3つぐらいあると申し上げましたけれども、その大きな要因として海外経済の持ち直しが想定される。このページのいちばん上に赤で書いていますが、「米国の日本化」、いわゆるジャパナイゼーションということで、これからアメリカが、日本の失われた10年のように10年、20年と長期の低迷を辿るという考え方がアメリカの日本化です。私は、この日本化という考え方については極めて懐疑的な考え方をしています。ここでお示ししているのは、世界大恐慌と日本の平成不況には3つの共通点があるということです。1点目は政策対応が失敗したこと。2点目は労働市場が硬直的で実質賃金が高止まりをして、これは亡くなられた東京大学の侘美光彦先生などもおっしゃっていたことですが、その結果、設備投資が10年がかり、20年がかりというスパイラル的な低迷を示したこと。3点目は不良債権問題、金融システムの毀損です。いずれも右端のヨーロッパについては△が付いていますので、ヨーロッパは政策対応次第ではジャパナイゼーション、日本化の可能性が否定し得ない。
 ただ、アメリカについてはバーナンキが日本の失敗に徹底的に学んで、昨年1月の時点でインフレターゲットを導入し、現状は更に失業率の目標を作って強化する方向へきている。労働市場の硬直性も、アメリカは非常に労働市場が柔軟ですのでサイクルとしてはまず賃金の調整があって、そこから若干のタイムラグを置き、設備投資の先行指標である非国防資本財受注が戻ってくる。それから金融システムも、日本が10年かかったことをアメリカは2年も経たないうちにストレステストをやって、この金融システムは、今、極めて健全な方向にきているということがあります。これらの点から見ると、アメリカは決して長期の構造不況ではなくて、ジャパナイゼーションに陥る可能性はかなり限定的ではないか。
 これらに加えて、例えば日本は一貫して円高に悩まされてきましたけれども、アメリカは輸出倍増計画を立て、うまくドルを調整してある程度輸出が経済を支えている。また日本は少子高齢化ですが、アメリカは移民によって人口がまだわずかながら増える流れが続いている。さらに長いスパンで見ればシェールガスの劇的な技術進歩によって、恐らく対外バランスが中長期でかなり改善してくる構造要因もありますので、アメリカについてジャパナイゼーションの可能性というのは、それほど大きなものではないという考え方をしています。
 6ページ目を御覧ください。ここでお示ししているのが、日米で不動産時価総額がGDP比で何倍あるかです。日本はバブルのピークで5倍弱までいき、今、バブル前の平均よりもちょっと下のところで止まりつつある。これに対してアメリカも、2005年の不動産バブルのときは2.6倍までいったわけですが、現状はバブル前の平均ぐらいの1.8倍程度のところまで調整している。実際、例えばS&Pのケース・シラー指数やその他の動きで見ても、恐らくアメリカの不動産価格の調整は、もともとサブプライムローン問題の後の調整の中でアメリカの最も根底にあった問題ですが、この不動産の調整の問題は完全に峠を越えてきた可能性が高いという見方です。
 加えて、7ページ目を御覧ください。もう1つのアメリカの根底にあった問題が家計のバランスシート調整です。上のピンクの線で、フローベースの元利払いが可処分所得に対してどれぐらいあるかを見ると、過去最低レベルに近いところまで利払い負担は軽くなっている。加えて下のブルーの線がフローの可処分所得とストックの総債務の割合ですが、これも今、ほぼトレンドラインのところまで戻ってきていますので、アメリカの根底にあった不動産の調整に加えて家計のバランスシート問題も、ほぼ峠を越えてきた可能性が高いという考え方をしています。
 9ページは復興需要の影響ということで、ここは軽く見ていただきたいと思います。左上が公共投資、右上が住宅投資です。それぞれ被災地を中心にある程度日本経済を支える動きが続いている。下の図表の部分は復興需要による景気に対する下支え効果ですが、当面1%程度、基礎票として日本のGDPを支える動きが想定されるということです。
 10ページ目です。ここは大分議論の分かれるところではあると思いますが、私どもは、日銀が大胆な金融緩和を行っていくことが、日本経済に対する下支えの効果を有するという考え方を持っているわけです。恐らく明日の決定会合でインフレのめど(goal)が、インフレの目標、そして水準的にも1%から2%へという変更が、かなりの蓋然性で想定される。
 11ページの左の図表ですが、グレンジャーの因果性ということで何が何に対して影響を与えているかを見たときに、このベースマネーや金融緩和がストレートに物価、経済に影響を与えるのではなく、株や為替といったマーケットを通じて市場の期待を変えることにより、このことが物価や実体経済に対して影響を与えてくる側面がありますから、実際問題として日銀がスタンスを変えることによって、1,000円以上株価が上昇し、10円以上円安になっていることが、最終的には実体経済のところに徐々に及んでくる可能性が高いという考え方です。
 ちなみに12ページを御覧いただくと、縦軸が輸出の競争力、横軸が輸出のシェアで、日本、ドイツ、韓国の競争状況を見たものです。御覧いただくと、緑の線の韓国は一貫して右下の方向にきている。これは一言で言えば、価格を下げて輸出シェアを伸ばすという薄利多売の戦略を取っているのが韓国です。これに対して左下に動いているブルーの日本は、収益性が悪化する中で同時に輸出シェアが低下する状況ですので、極めて厳しい状態が続いている。他方で真ん中の赤のドイツは非常にブランド力が強いので、ある程度値崩れを防ぎながら一定程度の輸出シェアを保っている。日本は韓国のマーケティング力、薄利多売とドイツのブランド力に挟まれるような形で、少し苦戦している状態がある。
 その中で13ページ、円高が日本経済の足を引っ張ってきたことがあるわけですが、縦軸が輸出の収益力、横軸が為替の動きです。日本は一貫して右下の方向に動いている。つまり為替の円高が進む中で収益状況が非常に圧迫されてきた。他方で緑色の韓国は、ウォン安をテコにして薄利多売の戦略を取ってきたことがありますので、為替の円高は日本に対してマイナスのインパクトを及ぼしたという理解です。
 横道に外れますが、14ページを見てください。為替のレートとして何が日本の株と一番連動しているかということで、上の図表がTOPIXと円ウォンレート、左下がドル円レート、右下がユーロ円レートです。日本の株は、一番上のグラフのウォン円レートと実はほとんど同じような動きをしている。ですから韓国と非常にライバル関係になってきましたので、韓国との相対的な競争状況が日本株に対してかなり影響を与えてきた。その意味で円高を是正することが、日本にとってはかなり大きな意味を持ってくるということです。
 消費税については、詳細は時間の関係もありますので16ページです。昨年、私は日本中を敵に回すような本を出してしまったわけですが、消費税についてはこの本にありますので、景気に対する影響ということで17ページです。1点だけ申し上げると、左側が消費の動き、右側が住宅の動きです。全体としては下の図表ですが、2013年度は駆け込み需要によって、一旦、消費と住宅投資が上がってくる。ただ、2014年度、2015年度はこの反動が出るような形で、基準ケースと比べたときにマイナスの影響が生じるということがあります。
 財政の状況については21ページを御覧ください。これが、2020年度のプライマリーバランスのGDP比のシミュレーションです。御注目いただきたいのは左下に1か所だけピンクで塗ってある部分です。このシナリオで、横軸の名目成長は3%の成長をする。そしてここでは2つ目の条件として消費税は15年に10%まで上げることを織り込んでいる。その上で、なおかつ縦軸の社会保障費を2010年代後半に年率で4%ずつ抑えていったとして、やっと唯一のシナリオとして、2020年度のプライマリーバランスが水面上に出てくる。高成長の達成、消費税増税、社会保障の合理化を三位一体でやっていったとして、やっと2020年度のプライマリーバランスが黒字化するということです。
 22ページを御覧ください。世界のほうに話を移していきたいと思います。ここでお示ししているのがBRICs諸国のGDPの内訳です。真ん中の2007年までは、画面ですと赤で塗ってある純輸出がBRICs諸国の経済を押し上げる方向に効いていた。ところが右端の図表を見ていただくと、2008年のリーマンショックの後、ヨーロッパの危機などがBRICs諸国の輸出を押し下げる方向にきています。今まではヨーロッパ先進国だけの問題であったものが、かなり輸出のルートを通じて、今、BRICs諸国、特に中国の経済に悪影響が波及している状態です。
 そうなってくると、23ページを御覧ください。そもそも輸出が悪くなったときに内需が連動して落ちるのか、それとも内需は違う動きをしてくるかが非常に大きなポイントですけれども、23ページは先進国の動きを見ています。左上がアメリカ、左下が日本、右上がヨーロッパ、右下がOECD全体です。特に左下の日本については輸出と内需がほぼフル連動で、ほとんど同じ動きをしている。よく一部の経済評論家などに、日本は経済の中で輸出のウエイトが15%しかないので、日本にとって輸出は重要ではなくて内需のほうが遥かに重要だという議論があります。確かにウエイトは15%しかない。ただ、輸出は非常に裾野が広く、結果において輸出と内需がほとんど同じ動きをしてくることがありますので、やはり日本は輸出主導型の経済構造であり、経済の基本的な方向性は輸出によって決まってくる。
 これと対照的なのが次の24ページです。新興国は一目で分かるとおり、先進国と比べれば輸出と内需の連動性が低いということがあります。特に面白いのは右下の中国です。中国は輸出と内需がむしろ逆相関のような関係がある。これは、よく保8などと言って8%なら8%という最終の数字を達成する政治的な動きがありますので、輸出が悪くなると、その分は財政金融政策によって内需をふかして、この2つが逆相関で結果において成長率を達成してくるというのが、中国などを中心とした新興国の動きであるということです。
 26ページ、ここで世界経済・日本経済のシナリオによるシミュレーションがあります。横軸は先進国でどれぐらい内需ショックが起きるか。縦軸は、これに対して新興国が政策対応でどう立ち向かっていくかです。画面左上のベースシナリオは、先進国のショックがなくて新興国も何も政策を発動しないときで、ここを基点のゼロとする。右上は、ヨーロッパとアメリカでショックが起きて、新興国が何も政策発動をしなかったとき、日本の成長率は1.7%、世界の成長率は1.2%程度落ちる。他方で左下は先進国のショックはなくて新興国がフルに政策を発動する。金利を2%下げてGDP比で5%分財政を出していったときに、大体、日本のGDPは1%弱程度上がってくる。そして一番右下ですが、先進国でショックが起きて新興国が政策をフルに発動したとしても、やはりこのケースは焼け石に水であって、日本のGDPは0.8%程度落ちてくる。結論として、新興国が政策発動すれば一定の下支え効果は当然あるわけですが、先進国で本当のリスクシナリオが起きてきたときには、新興国がどれだけ頑張ったとしても、全体としては焼け石に水のような状況であるというシミュレーション結果です。
 27ページを御覧ください。中国については3つ申し上げたいと冒頭に申しましたが、1点目としては日中関係の悪化が日本経済に対してどの程度の悪影響を与えるか。上の図表に3つのルートのまとめがあります。これがメインシナリオということですが、対中輸出が半年程度低迷したという前提の下では、国内の生産が1.8兆円、GDPが6,200億円程度落ちる。具体的な内訳は下の図表にありますが、輸送用機器、自動車がいちばんきつくて、これに加えて化学、鉄鋼の素材や一般機械、電子部品などがマイナスの影響を受ける。これらを全部合計すると生産に対する下押しは1.8兆円程度ということです。2点目としては、現地法人の売上げが1年間に1割減ったとすると、マクロの利益ベースで1,000億円超のマイナスのインパクトが生じる。訪日中国人のお客様が1年間に4割程度減ったとすると、GDPベースでは大体940億円程度のマイナスの影響が出てくるということです。
 28ページがシナリオ分けしたケースです。シナリオ1が、下の注釈を見ていただくと3か月程度で終息する楽観シナリオ、シナリオ2は前のページで御説明した半年間低迷するメインシナリオ、シナリオ3は1年間更に悪化するというリスクシナリオです。この黄色い所を見てください。今後、2013年度ぐらいまでを展望すると、シナリオ1の楽観ケースで日本のGDPに対する下押しは0.1%弱、シナリオ3で非常に悪くなったときが大体0.4%程度という結論です。
 次に中国の当面の動きですが、29ページを御覧ください。ここで緑の線でお示ししているのが、今、中国ウォッチャーが一番注目している景気循環信号指数です。これは10個のデータを合成したもので、これを使うと政策判断の局面を5つに分けることができる。「過熱」「やや過熱」「安定」「やや低迷」「低迷」ということですが、大体、中国の過去の例を見ると、下から2番目の「やや低迷」がレッドゾーンです。ここに入ると、この画面では紫色で書いてある金利の大幅な引下げが行われる。こういう財政金融政策の発動によって、下から2番目の「やや低迷」の滞留時間はそれほど長くなくて、そこから徐々に循環的に戻ってくるという傾向がある。要は純粋な資本主義ではなくて社会主義市場経済です。根っこは社会主義ですから今回もかなり大幅な政策発動を受けて、ここ1~2か月、中国経済はかなり循環的な持ち直しの動きが生じている状況です。
 他方、中長期で考えたとき、中国経済については少し慎重な見方を取っておく必要があるのではないか。ここで縦軸でお示ししているのが労働係数で、下の注釈を見ていただくと労働係数=労働/実質GDPです。横軸は資本係数で、資本係数=実質設備ストック/実質GDPです。いずれも値が小さくなって、左下の原点のほうに近づくほど資本や労働の効率が良くなっていく。そして左上から右下に何本も平行線が引いてありますが、これがいわゆる単位等量曲線ということで、この1本の線上であればマクロ的な技術レベルが一定であり、右上のほうに行って原点から遠ざかるほどマクロの技術が停滞する。左下のほうに行って原点に近づくほどマクロの技術が進歩する。78年の改革開放路線の後、中国は主として資本装備率を上げて労働の効率を良くする形で、かなりマクロの技術進歩を遂げてきた。ところが、ここ数年ぐらいは、ほぼ横に平行に右のほうに行っている状況ですので、かなり設備の過剰感が出る中でマクロ的な技術の停滞が起きてきているのが、現状の中国経済の状態です。
 特に深刻なのが31ページ、資本ストックの過剰問題があります。これは日本銀行がよく使う図表で設備のストック循環ですが、縦軸がフローの固定資本形成増加率、横軸がいわゆるI/K比率で、Iが設備のフロー、Kがストックです。時計回りでグルグルと回りながら設備ストックの調整が進んでいく。この中で御注目いただきたいのは、左上から右下に何本も点線が引いてあります。これが事後的に計算した企業の期待成長率と対応しているということで、右上に行くほど期待成長率が高く、左下のほうに行くほど期待成長率が低い。この2012年の時点で私どもが逆算してみると、中国ではマクロ経済が11~12%程度成長するという前提の下で設備の意思決定が行われていた。ところが実力は保8ではなくて保7、7%の方向に近づいてきていますので、中長期で見ると左下のほうにグルッと回り込むような形で、これはある意味、日本のバブル期に匹敵するぐらいの極めて大きな設備のストック調整圧力が蓄積している。
 これらに加えて、例えば賃金インフレの問題がありますし、もしくは労働力人口が今は減り始めているという問題がある。それが財政のところに跳ね返ってくることがありますので、中国については、向こう1、2年は財政金融政策のカンフル剤で比較的底堅いと思っていますが、短期楽観、中長期悲観ということで、中長期的に見れば中国経済はかなり慎重な見方をしておく必要があるのではないかという考え方です。御参考までに32ページで、今後の中国経済についてデータを外挿して大体の成長率を想定してみると、2030年にかけては、5%台ぐらいのところまで成長率が下がっていく可能性があるという見方です。
 35ページを御覧ください。リスクとしてはここにまとめていますけれども、ヨーロッパが本当に悪くなったときは、大体日本のGDPが4%(約20兆円)程度落ちてくる。日中関係の悪化は先ほど申し上げたように大体0.1~0.4%程度、アメリカの「財政の崖」の問題が出ると大体日本は4~5兆円程度GDPが落ちる。そして地政学のリスクとして、これは原油が50ドル上がったときですけれども、50ドル原油が上がると大体日本のGDPは1.0%(5兆円)程度落ちてくるということです。その意味でヨーロッパがどうなるかということが非常に大きな鍵を握っているわけです。
 36頁を御覧ください。まず定性的な話をさせていただくと、リーマンショックと今回のヨーロッパの危機を比較したときに、どちらのほうが、どういう点で良いのか悪いのか。悪いほうから申し上げると、民主主義の壁(ポピュリズム)という問題がギリシャサイドでもドイツサイドでも存在する。「財政危機」と「金融危機」が非常に悪い形でスパイラル的な悪循環を起こしてしまう可能性がある。3点目として、リーマンショックのときは中国が4兆元、50兆円の対策を打って、これが世界経済を救ったわけですが、今、中国は公共投資などを出してもせいぜい1兆元ぐらいですので、そこまでの大盤振舞はインフレ圧力がくすぶる中でなかなかできない。この3点ぐらいがマイナス要因です。
 他方、プラスの要因ですが、当時のリーマンショックでよく言われた「毒まんじゅう」問題というのは、サブプライム商品の中でどこに毒があるか分からないので、良いものも悪いものも全部投げ売りになって価格が2割以下のところまで急落した、ある種の金融パニックの問題であった。ところが、現状はストレステストをやって保有先が全部判明していますので、当時のような金融パニックに陥る可能性は大きくない。加えて、これは釈迦に説法ですけれども、まさに昨年、ユーロ圏がノーベル平和賞を取ったということで、ドイツ、フランスが戦争のない平和なヨーロッパをつくろうというところから、ユーロが出てきているわけですから、これは経済的な合理性ではなく、とにかくユーロが瓦解しそうになれば、そこは徹底的なミルク補給することによって、このユーロの瓦解を何としても防いでいく。その姿勢が昨年1年間を通じて鮮明になった。さらにはECBの流動性供給等もありますので、私は前段のこの3つの条件、特に2の、最後はドイツ、フランスが徹底的な救済を行っていくことを考えると、リーマンショックのような本当の金融パニックに至る可能性はそれほど大きなものでなく、9割方のメインシナリオとして、ユーロの問題は緩やかな改善の方向へ少しずつ向かっていくのではないかという考え方です。
 ただ、リスクとして、37ページにケース1からケース3までありますけれども、ケース1は、今、マーケットがほぼ織り込んでいるシナリオです。ただ、ケース3のように各国の国債がどんどんヘアカットになることを織り込んでいくと、ヨーロッパで資本の不足の問題が生じて、これが最終的に質への逃避の円高などを通じて、一番右端を見ていただくと、これはあくまで蓋然性1割以下のテールリスクですけれども、本当にヨーロッパの金融危機が再燃したときは、日本のGDPが4%(約20兆円)程度落ちることを、頭の片隅に置いておく必要があるだろうという見方です。
 40ページを御覧ください。最後にアベノミクスの話と金融市場について申し上げたいと思いますが、左が今までの「茹で蛙」構造です。お金が余っていて経常黒字になって、その結果として円高になり、デフレになり、資金需要が低迷するので非常に低い金利が続いてきた。じりじりと日本経済が悪くなっていく、こういう茹で蛙のような構造が日本経済の中にビルトインされていた。他方で右側は、2015年から2020年前後にかけて、もし財政再建ができないときに起きてくるリスクシナリオですが、高齢化によって貯蓄の取り崩しが起きてくる。これを受けて経常収支が赤字化の可能性が出てきますので、その結果、円安になり、インフレというよりは不況下の物価高であるスタグフレーションになる。そして長期金利もかなり上昇してしまうような可能性がありますので、こういうことを防ぐ意味で2015年にかけて財政の規律を保っていくことが必要になる。
 具体的な政策対応としては41ページです。まず体系的な政策を行っていくこと。それから各論のレベルでは財政の規律を維持すること。それと下から2行目のところに、これは財界の方がおっしゃっている「追い出し5点セット」で、円高、自由貿易の遅れ、環境規制、労働規制、高い法人税、これらの「アンチビジネス」的な政策を「プロビジネス」の方向へ転換すること。そして政府と日銀がより一層緊密に連携して円高やデフレを阻止していく。これらの総論1点と各論3点が重要です。これらの中で2,3、取り分け3を今度の新政権の下でかなり推進していきますので、1の財政規律のところをどれぐらい保っていけるのかが、恐らく非常に大きな今後の課題になってくるだろうという考え方をしています。
 42ページを御覧ください。デフレの脱却については、売上高を上げていくという拡大均衡型の政策が必要です。緑の線が企業の売上高で、これが赤い線の1人当たりの雇用者報酬に対して大体半年程度売上高が先行する。賃金が動いた後で左が日本の動き、右がアメリカの動きですが、左のグラフを見ていただくと、1人当たりの雇用者報酬が動いて、そこから半年ぐらいして物価が動いてくることがあります。よく賃金を上げることが先だという議論があるわけですが、時系列で見れば明らかに逆であって、まずはサプライサイドの拡大均衡型の政策を打って、売上げを上げていくことが必要です。売上げが上がってから半年ぐらいして賃金が増えてくる。賃金が上がってから半年ぐらいして物価が上がってくるということですので、今、安倍政権が打とうとしている売上げをまず上げていくという成長戦略ですね、この金融緩和等によって上げていく方向性自体は極めて適正な方向に動いている。
 ただ、財政の部分の規律が心配なわけですが、47ページを御覧ください。長短の金利差ということで、30年ものと2年ものの金利差をお示ししています。これを見ると衆院選の前ぐらいのところから、もちろん財政規律の問題だけでなく需給などのテクニカルな要因も一部にはありますが、長いところの金利に対して上昇の圧力が出てきている。加えて、49ページで公共投資の乗数などで見ても、大きな流れとしてこの乗数自体は非常に落ちている状況がありますので、公共投資についてもかなり選別的に行っていくことが必要ではないかと思います。
 最後、50ページ以降でマーケットについて申し上げたいと思います。現状の日本株は長い目で見れば極めて割安な状況である。オレンジの線が日本株で緑の3本ある線がGDPのバンドですが、歴史的に日本の株はこのGDPのバンドの中で動いてきた。今回も下限でワンタッチしたところから、アベノミクスの効果によってかなり上がってきている状況です。例えば1株当たりの純資産倍率、いわゆるPBRで考えたときも、日本の株はまだ1.1倍まで届いていないような状況です。これに対してアメリカは2.2倍、イギリスは1.7倍ですので、日本の株は実体経済との比較で見れば、かなり過少評価されている可能性があるのではないかという見方です。
 55ページを御覧ください。今回、事務局の方から、世界の動きと比べて日本の株をどう捉えるのかという点についてお尋ねを受けました。左上のグラフが日本株と世界株の関係、右上のグラフが米ドル建てで見たときの日本株と世界株の関係です。日本の株がここ数年ぐらい、政策の問題等々もあって少し出遅れているということがある。
 56ページを御覧ください。輸出関連株と海外株は長い目で見るとある程度の相関が見られるわけですが、例えばここしばらくの動きということで右下のグラフを見るとR2=0.1ぐらいということで、輸出関連株と海外が必ずしも連動しない状態が起きている。
 また、57ページで世界の景気と輸出関連株の相関ですが、右下のグラフで縦軸が輸出関連株、横軸が世界の生産です。世界の生産増加の果実を日本の輸出関連株がちゃんとパフォーマンスで取れているかと言えば、いくつかのところで断層があって、なかなか世界の動きを日本の輸出関連株が取れていない部分もあります。その意味では世界経済の拡大をある程度パフォーマンスとして享受するためには、海外の株その他についても一定程度のウエイトの組入れが必要です。日本の輸出関連株を買っておけば、それで世界経済拡大のメリットを享受できるという状態には、なかなか現実問題としてなっていないことがあります。
 長くなってしまいましたが、全体として日本経済は、これから3つの理由によって持ち直してくる。世界経済は新興国がある程度支えますが、先進国のリスクが大きく出たときは焼け石に水である。中国は当面は政策によって持ち直してきますけれども、3年、5年の中長期で見ると、かなり慎重な見方をしておく必要があるのではないか。日本は特にヨーロッパのリスク、この蓋然性は1割以下だと思いますが、本当にこれが出てしまうと、リーマンショック並のマイナスのテールリスクが存在する。そして日本の株は非常に割安なので、そこの修正は進んでいくだろうと考えています。長期金利については経常収支赤字化が視野に入ってくる2015年から2020年の間に、ある程度財政再建のめどをしっかりとしておかないと、長期金利がかなり上がってしまうリスクがあるという見方です。
 私からの御説明は以上です。皆様から御意見、御質問等を頂戴したいと思いますので、よろしくお願いします。御清聴ありがとうございました。
○吉野委員長 熊谷チーフエコノミスト、どうもありがとうございました。委員の先生方からいろいろ御質問があると思います。どなたからでも結構ですが、先に幾つか質問を受けてから、それから少しまとめてお答えいただければと思いますがいかがですか。まず、植田先生、何か一番最初にあるのではないですか。
○植田委員 それでは1つ、2つ。インフレターゲット2%という話ですが、仮に2年くらいの間に2%に到達させたいとしたときに、財政のほうは現状程度の補正予算、今年、本予算がどうなるかあれですが、補正予算程度の収益を織り込んだとして、直接、金融政策がインフレに効くわけではなく、さっきの話のように、どういう理由があるにせよ円安や株高が起こって、それが更にいい動きを起こしていくということだとして、円安や株高の程度がどのくらいになれば2年で2%までいくチャンスが出てくるのかということについて、何か計算されていたら興味があるので教えていただきたい。
○熊谷チーフエコノミスト ピンポイントではなかなか難しいところがありますが、ただ、ざっと計算すると、為替が大体10円動くと、GDPギャップがおおむね0.8ぐらいの動きではないかと思います。GDPのギャップを2%ぐらい縮めていくだとかいうことで言えば、為替の動きでは多分25円だとか。例えば80円ぐらいであったものが105円ぐらいになって、それで恒常的にいくようであれば、ある程度為替の部分でも需給ギャップが小さくなる。それ以外に、日本の個人消費も諸外国と比べれば資産効果が大きくありませんが、それでも株価の動きと個人消費を重ねてみると、ある程度の相関が見られるようなところがあります。加えて関西学院大学の本多先生などが定量分析をなさっているように、こういったものが設備投資などに効いてくる要素がありますので、それらのところを考えると、やはり為替が100円を超えて定着するようであれば、デフレ脱却に対して一定程度の効果を持つのではないかと思います。
○植田委員 ちょっと思い出してみますと、2001、2002年から2007、2008年に株価が恐らく2倍くらいになって、円も3割ぐらい安くなったと思うのですが、インフレ率はどうですか。マイナス1%がゼロになったくらいだと思うのですが、そのときと比べてどうですか。
○熊谷チーフエコノミスト 一概に言えない部分も相当程度あると思いますが、長い目で均して計算すると、大体10円の円安がGDPギャップで0.8に相当するというのが現時点での感触です。その意味で言うと、例えば、これはなかなか言うのが難しい部分があるかもしれませんが、日本銀行の政策がトランスミッションメカニズム、何をやったときにどれだけ効いてどうだということを想定してやるという考え方はもちろん分かるのですが、社会科学は実験できない部分がありますので、ある程度、今までやっていなかったことは弊害がない範囲で、もちろん大きなインフレが出ればそれは引き締めることが必要だと思いますが、弊害が出ない範囲においてはやはりやってみるというのが普通の先進国の考え方だと思うのです。ですから、その部分で、明らかに安倍政権が成立することによってこれだけ動いてきている部分があるわけですから、ピンポイントではなかなか難しいと思いますが、明らかにデフレの脱却に対してプラスの効果を及ぼしているし、またそのことに伴う弊害というのは、決して今のところはそれほど大きなものではない。ただ、財政の規律はきちんと守らないと、国債のところに悪影響が出ますから、そこだけはしっかりとやりながら、金融緩和については進めて、100円程度のところまでは円安に持っていくことがデフレの脱却にとってプラスではないかという考え方です。
○吉野委員長 私から2点あるのですが、1つはエネルギーの輸入構造が大分変わってきているので、円安になったときの輸入のコストアップが今までと相当違うような気がすることと、長期金利が上がったときに、1,000兆円以上ある国債の利払費が相当上がってくると思いますので、財政の影響、先ほどおっしゃるように、それに見合うだけ早く歳入と歳出をカットするということだと思うのですが、そのバランスはどのように御覧になっていますか。
○熊谷チーフエコノミスト 確かにLNGその他の輸入が年間で大体3兆円程度あるわけですから、そこのマイナスの部分は恐らく100円を超えてくれば一定程度出てくる可能性が当然あります。ただ、日本の経済の場合は全体として見れば、今、輸出主導型の経済構造になっていますので、大体円安が10円進むと、大手企業の経常利益のベースで、いろいろ輸入業種など全部ネットアウトしたとしても1.5兆円前後上がってくるということがあります。そこの部分は恐らく100円を超えるところまでは、まだ全体として見ればメリットのほうが相対的に大きいのではないか。加えて、実質実効の円レートで見ても、今、ちょうど過去からの長いヒストリカルな平均のところできていることがある、決して今の水準が円安だとは言えないです。それが日本経済に対してマイナスの影響を及ぼしてくるとは、まだ今のところは全体としては言えないのではないかと思うのです。
 確かに、長期金利が上がってしまうと、よくリフレ派の方々が、とにかく経済成長をすれば、それで財政再建するというような話がありますが、私はそうは思っていません。例えばドーマー条件というのがありますが、私の資料で言うと19ページです。経済成長すれば財政再建できるかどうかということでは、ドーマー条件、名目GDP成長率のほうが長期金利よりも高いという必要があります。ただ、ドーマー条件を左のグラフの右上の表で見ていただくと、大体過去40年間で勝率は25%、過去30年間で勝率は10%ぐらいですので、ドーマー条件を現実問題としてはなかなか満たすのが難しい部分がある。加えて右のグラフで、これがドーマー条件を満たしている国の割合がどのぐらいあるかということですが、これも1970年代までの金利が自由化する前まではドーマー条件を満たすのが普通だったのですが、1980年以降はドーマー条件をなかなか満たさなくなっているというのが国際的な潮流です。ですから、その意味では、やはり成長だけで財政再建をするのは難しくて、併せて財政規律を保ちながら、ある程度の消費税の増税と、加えて社会保障費の合理化と成長、この3つをパッケージとしてやっていかない限りは、財政再建は難しいです。金融緩和だけに頼ってしまうと、そこはおっしゃるように金利が上がってしまう可能性があるので、併せて中長期の財政規律を保っていくことが極めて重要な課題ではないかなと思います。
○吉野委員長 ほかにいかがですか。
○米澤委員 ありがとうございました。まだ頭の中が整理できていないのですが、少し大きな視点からあえてお聞きしたいのですが、このレジュメでいきますと、41ページとか、必ずしも説明は省かれたかもしれませんが、44ページ辺りです。特に失われた15年とか20年とかいう言い方をされたこの時期をどういうように評価するのか。要するに需要が足りなくて、本当だったら潜在成長力がもう少し上にあって、足りなくて低迷していたのか、そうではなくて、いろいろ規制緩和とか、そういうことをしなかったので、潜在成長力が下がっているので、こういう下ではこんなものだよと理解するのか。昨日もテレビで野口先生と浜田先生がそういう点でやったのですが、熊谷先生は、特に最近のアベノミクスだとかの関係を見て大きくどちらのスタンスに立って理解されているのか、その辺をお聞きしたいのですが。
○熊谷チーフエコノミスト 答えが曖昧で恐縮ですが、実は私はちょうど中間ぐらいの感じです。1つは、とにかく日銀の、日銀の悪口ばかり言ってあれなのですが、日銀は完全にできることはやっていて、それでもう緩和しても意味がないという議論がここ5年ぐらい繰り返されてきました。ただ現実にその中で次から次に緩和の策は出てきて、アベノミクスがやる中で、現実問題として株が1,000円以上上がり、為替が10円以上円安になっているわけですから、そこの部分で日本銀行のスタンス自体が少し明らかに問題があって、そのことが円高などを通じて日本経済を悪化させた要素というのはやはり否めない部分がある。ただ、それだけかというと、確かにサプライサイドのほうもいろいろ規制緩和、TPP参加等々の部分でも当然やはり問題があるわけですから。よく世の中の議論で、どちらかに非常に偏った議論で、こちらだけやればいいという議論がありますが、昨日の日曜討論の浜田先生の話を聞いていると決してそういうスタンスではなくて、明らかに日銀も不十分なところがありましたねと。ただ、それだけでは駄目なのでしっかりと経済の構造を変えていくということで、非常に浜田先生はバランスのとれた議論をなさっていたと思うのです。ですから、私は、やはり両方必要であって、そこは両輪としていずれも不十分な部分があったのではないかと個人的な見解として考えております。
○米澤委員 1点だけいいですか。多分そうなのかもしれませんが、計算の仕方なのですが、政府は需給ギャップを図りますよね。確か潜在成長率から見てこの10年ぐらいにわたってずっとマイナスのギャップになっていたと記憶するのですが、その結果としてデフレが生じたというのは我々は非常に分かりやすいのですが。普通は長期にわたってデフレのギャップが続くというのはなかなか考えにくいことですよね。そのところをどういうふうに考えていったらいいのか。そもそも今のサプライサイドでやれば少し潜在成長率を高めにして、そこで全部需給ギャップとしてしまったのか、いや、戦後まれに見る政策の不作為で長期にわたって需要がこれだけ足りないのかというところが不思議に思ったのでお聞きしたのですけれども。
○熊谷チーフエコノミスト 私は日本銀行がもう少しできることがあったと個人的には思っています。それが長期にわたって、そうではない状況が続いてきたわけだと思うのです。ですから、そのことが多分1つの長期の低迷の要因であった。ただ、それだけではなく、恐らく両サイドやらなければいけないことが多分あると思っています。
○小塩委員 熊谷さん、非常に詳細な御説明ありがとうございました。2点質問させていただきます。1つは2ページ目の「世界経済の見通し」の数字を拝見してのものです。この見通しはアベノミクスを完全に反映したものではないという御説明だったのですが、これを見ると、世界経済が全体として回復基調にあるのに、その間、日本経済のアンダーパフォーマンスが続くという状況になっています。先ほどのお話だと、日本の景気回復は1990年代に入ってから輸出がリードする形がよく出てきているということなのですが、世界経済が回復基調にあるにもかかわらず、日本経済がこれだけ低成長を続けざるを得ないというのは何か理由があるのかということが1つです。
 もう1つは、私たちにとって非常に気になる金利の動向についての質問です。先ほどの御説明ですと、2015年ぐらいまでに財政再建に着手しないと金利は大きく上昇するという可能性があるという御指摘でした。年金運用の観点からすると4%ぐらいで維持してもらえば非常に有り難いわけですが、それを超えてピョンと大きく上昇してしまう可能性があるかもしれないということです。先ほどのお話だと、長期的な財政再建の指針を示すことが必要だという御指摘でしたが、私もそのとおりだと思うのですが、問題は、2015年前後にそういう方針が出せるかということです。現在の政策は、公共投資をバンバン引き上げて景気を刺激するというスタンスですよね。しかし、2015年で時点において、もうそろそろそういう梃入れはやめて、長期的な財政再建に方向を転換しましょうとしたときに日本経済が体力を回復させているかといわれると、私は自信がないのです。やはり確率の高いシナリオとしては、ズルズルと財政再建を先延ばしにしましょうということになると思うのです。そのときマーケットがどう反応するかを非常に心配しているのですが、いろいろなところで言われるように、もうそろそろ国債の追加的な吸収はマーケットに余裕がなくなってきているとなると、長期金利がコントロールできないような形で上昇するリスクは否定できないと思うのですが、そのリスクについて熊谷さんのお考えをお聞きしたいと思います。
○熊谷チーフエコノミスト 日本の経済のパフォーマンスは、金融政策が不十分だった部分と、加えてサプライサイドの政策も不十分であった部分があります。その両面から、相対的には、アベノミクスを織り込む前の予測ということであれば、状態としては厳しい状況であろうというのが基本的な考え方です。ちょっと横道にそれますが、日本の株のパフォーマンスが悪い大きな理由は、今日の資料の中に入っていないのですが、いわゆる投資効果が効いていない。つまり、負債比率です。要するに、本当はもっとレバレッジを掛けて、投資効果を効かせることによってROEを上げなくてはいけないわけですが、日本は国際比較で見ても、企業を潰さないことが非常に大きなインセンティブになっていて、レバレッジを適正にかけていないので、そのことが海外とのROEの差になっている。そういった意味で、もっと適正なレバレッジを掛けてROEを高めていくような企業の努力が必要である。そのバックグラウンドとしては、コーポレートガバナンスみたいな部分で、制度の仕組みで、もっと企業がそういう形でギアリングをかけていくような仕組みを作ることが多分必要になってきます。
 国債については51ページを御覧ください。51ページの下の部分で、ヨーロッパと比べると、日本は今のところは2つの点でそれほど悪くない。まず1点目は、彼らは「双子の赤字」ですが、日本は経常黒字国です。2点目として、その結果として日本は外国人の国債保有比率がわずか9%しかないということで、日本の国債が今すぐに暴落することではないだろうと。ただ問題は、左がイギリスの1930年代、右がアメリカの1970年代の事例ですが、いずれも経常収支の赤字化が視野に入ってくると海外から資本を呼び寄せる必要が出てきて、長短スプレッドが拡大して、経常収支の赤字化がかなり国債相場が調整することの大きなきっかけになっているというのが、イギリスとアメリカの経験から導くことができる。その意味では、今のところはまだ経常収支が黒字で、外国人が持っているわけではありませんが、それでも、例えばギリシャと違うという議論がありますが、ギリシャも危機が起きる前のCDSスプレッド5年ものは1.2%ぐらいで、日本も少し前が0.7だったのが今ジリジリ上がって0.9ぐらいまできているわけです。加えて、今後、財政再建ができるかといえば、政治的な部分で言えば、多分なかなか難しいというのが現実であろうというところがあります。一国民としては国債暴落は何としても回避しなくてはいけないと思っていますが、現実問題としては、2015年から2020年ぐらいのところで、かなり段差を伴うような、結局、信頼が一瞬失われると、ギリシャの例などで見ても一気に相場が崩れるわけですから、残念ながら、きっかけ、それは財政の中長期の規律が崩れることであるとか、ある国債の入札がうまくいかないことであったり、いろいろなことがあると思いますが、その中で一気に信頼が失われる可能性を相当程度警戒しておく必要があるのではないか。それを何としても防ぐことが必要ではないか。
○吉野委員長 そろそろ前半のほうの時間ですので、熊谷先生、今日はどうもありがとうございました。
 次の後半の議論に移ります。「労働力需給推計について」、山崎数理課長、よろしくお願いします。
○数理課長 お手元の資料2-1「労働力需給推計(2012年8月)について」から説明させていただきます。これは前回簡単に触りだけ御紹介させていただいたものを引き続き若干詳しく説明させていただきます。雇用政策研究会報告書(2012年8月)及び労働政策研究・研修機構の労働力需給モデルによる政策シミュレーションから抜粋したものです。
 まず「趣旨」です。雇用政策研究会での議論の基礎資料にすることを主たる目的として、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)で、日本の将来の労働力の需給推計を実施したものです。推計の方法は、労働力需給に関する計量経済モデルによるシミュレーションを実施し、需要と供給をそれぞれ推計して、需給の調整を各年で図るということでシミュレーションを行ったものです。まず、「労働力需要」のほうは産業別(19業種)の労働力需要関数を用い、労働力需要(マンベース)を推計しています。
 次に2ページです。「労働力供給」は、24年1月に新たに出ました「日本の将来推計人口」を基礎とし、それに対し説明変数によって推計される労働力率を乗じて労働力人口を推計しています。この際、女性の労働力関数については、有配偶と無配偶でかなり差があるので、これを分けて推定をしている。また、変数のうちの一部を政策変数として操作するようなことをやっています。そのほかに短時間勤務制度の普及による継続就業率の向上効果等、説明変数を介さないような政策効果の一部については、外生的に算出して労働力率等に直接加算することで推計を行っております。
 (3)「その他」で、シナリオについては一応3つ推計を行いました。1「成長戦略シナリオ+労働市場への参加が進むケース」、2「慎重シナリオ+労働市場への参加が一定程度進むケース」、3「ゼロ成長シナリオ+労働市場への参加が進まないケース」です。雇用政策研究会では、1と3を対比して議論が進められたと聞いています。2は1と3の中間で、こちらについては特に雇用政策研究会での議論には上っていないということですので、1と3を対比して結果を御紹介したいと思います。
 「労働力需給の推計」は、今申し上げましたような労働力需要と労働力供給それぞれの下で、賃金を媒介として労働力需要と労働力供給の調整を行うことでシミュレーションを行っていくという仕組みでやっています。
 3ページです。こちらは雇用政策研究会報告書の記述の抜粋で、これは前回の専門委員会でかい摘まんで御説明したものと全く同じものですので、説明は省略させていただきます。
 次に4ページのグラフを見つつポイントだけもう1回復習をします。前回、右側のほうの「就業者数と就業率の見通し」の就業者数の数字を御紹介しましたが、2010年(実績値)で就業者数6,298万人です。経済成長と労働参加が適切に進むケースはいちばん右の棒グラフの少し濃いめの色になっているところで、就業者数が6,085万人という見通しです。一方で、薄い棒グラフの経済成長と労働参加が適切に進まないケースは5,453万人まで落ち込むということで、この進むケースと進まないケースでその差がおよそ630万人と。政策が適切に行われるかどうかでこれだけ差が出てくる。そうは申しましても、人口自体が減っていきますので、進むケースであっても、就業者数そのものは減少していく。ただ就業率ということで見ると、2010年で56.7%のものが、適切に進むケースのほうでは58.2%まで上がっていくという数字になっております。
 左側は、「労働力人口と労働力率の見通し」についての数値が出ております。その差は失業者の分が違ってくる。これで見ますと、2010年の労働力人口6,632万人が、2030年では、経済成長と労働参加が適切に進むケースでは労働力人口6,255万人、一方、進まないケースのほうは5,678万人です。進むケースと進まないケースとの間でおよそ580万人ぐらいの差があります。労働力率については、足下の2010年で59.7%のものが、適切に進むケースでは59.8%とほぼ横ばいで、進まないケースでは54.3%まで低下する。これは年齢ごとの労働力率は変わらないということで、人口の構成が変わったりということによって下がっていく。このような見込みになっています。
 次に5ページです。このページ以降、前回の21年財政検証のときに用いた平成20年3月のJILPTの推計の「労働市場への参加が進むケース」の数値を点線で記述させていただき、太い実線が今回平成24年8月推計の「成長戦略+労働市場への参加が進むケース」、細い実線が「ゼロ成長+進まないケース」とし、3つのラインを比較しております。今回、太い実線の成長戦略+進むケースは、5ページは男性ですが、2030年の同じ時点で見ると、前回の財政検証のときに前提としたものとかなり近い所を通っていますが、20~24歳、あるいは50代後半ないし60代前半のところで、前回の見込みに比べて持ち上がっていない。下のほうに数値が書いてありますが、例えば60~64歳で見ると、前回財政検証のときに用いたものでは96.6%まで労働力率が上がると見込んでいましたが、今回の成長戦略+進むでは91.7%までしか持ち上がらないという見込みで、若干この辺が下がっているのが特徴的というところです。
 6ページは女性です。女性については、30~34歳、あるいは高齢のところ、どちらも前回よりも労働参加が進むというような労働力率が上がる見込みになっています。その有配偶・無配偶別に見たものが7ページ以降です。7ページが女性の有配偶で、このグラフを見ていただくと、特に30~34歳のところで、前回は65.8%となっていた数字が72.1%まで上がっており、女性の有配偶のこの辺りの年齢のところが特に今回は持ち上がっている。あと、高齢のところもかなり持ち上がっている。女性の労働参加は、より進むような見通しになっているところです。
 8ページは女性の無配偶です。30~34歳を見ると、前回は96.1%まで持ち上がる見込みだったのが、今回の成長戦略+進むでは92.9%までで、こちらのほうは逆に少し進み方の見込みが低くなっています。高齢のところは、前回に比べると少し高くなっている状況です。
 9ページは女性の労働力率の見通しを、今回の新しい推計について細い実線・中間の実線・太い実線で時系列的に、足下の実績から中間年の2020年、推計の最終年の2030年に向けてどのようにM字の底が持ち上がっていき労働力率が上がっていくかをグラフと数値で見たものです。以上、簡単ですが2012年8月推計の説明でした。
 引き続き、資料2-2で、財政検証において労働力需給推計がどのように使われているかを改めて御紹介申し上げます。
 1ページです。「財政検証における労働力需給推計の取り扱い」です。これは大きく分けて2つの局面で用いられています。1つは、長期の経済前提の設定に用いられた「労働投入量」の推計に用いています。もう1つは、下の2にあるように、将来の厚生年金被保険者数などの公的年金被保険者数の推計に、労働力人口の将来推計などが用いられている。第1点の労働投入量の推計は、平成16年のときには、労働力人口、頭数というもので推計を行っていましたが、平成21年財政検証における検討においては、短時間雇用者が増加していくことに着目して、1人当たり平均労働時間に与える影響を織り込だ延べ労働時間、言わばマンアワーベースというものを労働投入量に用いるということで改善を図ったところです。
 具体的には2ページで、「労働投入量の設定」のフローチャートです。日本の将来推計人口(平成18年12月推計)をスタートラインとして、有配偶割合の推計を用いて、男性と女性の有配偶、女性の無配偶別・年齢別の将来推計人口を準備するということです。これに対し労働力需給の推計(平成20年3月推計)に基づいて、労働力率、更には就業率/労働力率を掛けていき就業者を出してくる。その中で更に雇用者を出してくる。その中で更に雇用者と雇用者でない方の比率、これは雇用者比率も将来変化していくので、こちらについての推計も行い、雇用者と雇用者以外の就業者、自営業者の方々ですが、2つに仕分けをします。雇用者の方については、そこに更に短時間雇用者の比率、これが将来伸びていくことに基づき、フルタイムの雇用者と短時間の雇用者を35時間で2つに分け、それぞれについて平均労働時間の変化を入れていきます。基本的にフルタイムの方と、パートタイムの方の一部については厚生年金が適用されますが、労働時間という意味では、それぞれについて全部足し上げ、自営業者の方も入れて、総労働時間(マンアワーベースの労働投入量)が推計されるというフローチャートになっております。
 3ページは「人口の設定」についてです。これは先ほどから説明しているように、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」に、世帯数の将来推計における女性人口に占める有配偶者の割合を用いて算出しています。「労働力人口及び就業者数の設定」においては、平成20年3月のJILPTの「労働力需給の推計」のうち、新雇用戦略やその後の雇用政策の推進等によって実現すると仮定される状況を想定したという「労働市場への参加が進むケース」というものを用いて推計が行われています。その考え方としては、労働力人口を推計し、そこに更に就業者の割合を掛けて就業者数を将来推計します。
 4ページは、それから更に「雇用者数の設定」をします。こちらは就業者に占める雇用者の割合の将来推計を行い、就業者から更に雇用者というものを出していくわけです。この雇用者の割合、雇用者比率の設定で、コーホート(生まれ年)が若くなるごとに年齢別の雇用者比率を見ると、そもそも年齢が上がるにつれて徐々に雇用者の割合が低下します。60歳近くなるとどのコーホートでも急激に低下する傾向がありますが、若い世代ほど雇用者比率が高い、つまりサラリーマン化が進んでいっている。この傾向を外挿するような形で、将来についての見込みを行う。これは絵で見ていただくほうが分かりやすいと思いますので5ページを見ていただくと、下はX年生まれと書いてありますが、この辺の方はもう65歳まできている方で、その方の雇用者割合の数値は、過去の時系列を遡っていってもある。この人が5年前に60歳のときにはこういう割合だったのが、65歳になると割合が落ちていると。この方より5歳若い方、今60歳の方が将来65歳になるときにどういうふうに雇用者割合が落ちていくのかを、先輩の方が落ちていく比率とパラレルに落ちていくという見方で外挿していくという考え方でやっています。ガタつきをならすために、5年平均値を使うというようなことでテクニカルにはやっておりますが、基本的にはこちらにあるように、若い世代ですと同じ年齢でも雇用者比率が上がっている。この両方の状況を踏まえて推計を行う設定方法を取っております。
 6ページは「短時間雇用者割合及び平均労働時間の設定」です。2005年の国勢調査結果における性、年齢階級別の短時間雇用者比率を基礎データとし、性、年齢階級別の短時間雇用者比率が設定され、更にフルタイム雇用者、短時間雇用者それぞれの平均労働時間の設定が行われています。短時間雇用者比率については、男女計の短時間雇用者比率がこの推計における「労働市場への参加が進むケース」の前提と整合的になるように推計を行っております。具体的に見ると、6ページ下の右側の枠で、労働市場への参加が進むケースにおける短時間雇用者比率については、短時間雇用者比率が上がる2030年には35.4%になる見込みです。平均労働時間は、フルタイムの労働者に関しては2006年の月間180時間から2012年にかけて時短が進み3%減の174.6時間になり、それ以降は一定という見込みでした。一方で、短時間雇用者については、逆に平均労働時間は伸びて、2030年に110.1時間まで到達する見込みになっております。これが2008年3月の労働力需給の推計ということでした。
 7ページです。今回、2012年8月の推計において、短時間雇用者比率と平均労働時間がどうなっているかを「成長戦略シナリオ+労働市場への参加が進むケース」で参考として掲げております。まず、短時間雇用者比率については、2030年に34.2%という見込みで、前回の推計の35.4%より若干低い推計結果です。平均労働時間のフルタイムについては、2020年に175.4時間、2030年に171.9時間になるように減少して、前回推計の2012年で174.6時間に比べると、2020年でもこれより上回っておりますので、時短の進み方は緩やかですが2030年までずうっと時短が続いて、最終的には前回の見通しよりフルタイム労働者の平均労働時間は短いものになるという推計になっております。一方で、短時間雇用者については、2030年に112.1時間になるように増加するということで、前回推計が2030年で110.1時間でしたので、それよりは若干伸びる推計です。
 8ページです。平成21年のマンアワーベースでの労働投入量の推計結果です。男女計の2006年の足下のところでは1,200億時間余りである総労働時間が、人口の減少に伴い2030年には1,090億時間程度になるという見通しです。少し桁が大きくイメージが湧きにくいですが、その下にグラフで書いてあります。男女計の1,211.6という数字から2030年は1,086.5でおよそ10%ぐらいダウンしている数字です。男女別に分けて見ると、男性の場合は12%ぐらい減っており、女性の場合は8%ぐらい減っています。そういう意味では男性・女性どちらも人口減少を反映して減っていくわけですが、比重としては、やはり女性の比重が少し重くなっていくというような形の労働投入量の推計結果になっています。
 9ページは、「厚生年金被保険者数の推計(平成21年財政検証)」の手順です。フルタイム雇用者数・短時間雇用者数の見込みを出すところまでは労働投入量の推計と同じ手順です。フルタイム雇用者の中から別途推計される共済組合の被保険者を差し引いて、それに対し厚生年金のフルタイムの被保険者割合を乗じる。一方、短時間雇用者に対しては、短時間についての厚生年金被保険者割合を乗じる考え方で厚生年金被保険者数というものを推計しています。
 厚生年金の被保険者割合は10ページ以下を御覧ください。厚生年金被保険者割合(フルタイム・短時間)は、平成15年の就業形態の多様化に関する総合実態調査の特別集計結果を用いて算出しております。ただ、この調査は従業員5人以上の事業所を対象としており、一方で厚生年金そのものは5人未満でも法人のところでは強制適用ということで、5人未満も適用しておりますので、その辺のずれを補正するという意味で、足下のところで実績に合わせるための調整率を乗じて数値を調整して推計を行っております。
 11ページで少し具体的に見ています。35時間以上の方をフルタイムとしておりますが、この実態調査では下の表にあるように週所定労働時間で区分けをしております。パーセンテージで見ると40時間以上の方か51%、35~39時間が30.5%で、かなり40時間未満の方も多いです。実態としては、所定労働時間以外に超過勤務をしている。2005年国勢調査における雇用者として下の欄にありますが、実際の労働時間の分布は40時間以上が70.7%、35~39時間が6.4%で、超過勤務を入れると大多数の方が40時間以上で働いています。こちらの結果を組み合わせることにより、フルタイムの方の厚生年金被保険者割合というものを算出しています。平成15年調査では、35~39時間の厚生年金被保険者割合は91.8%、40時間以上で96.5%です。この両者の加重平均は、この調査そのものの所定労働時間で見ると51%と30.5%ですが、その比率ではなく、実際の70.7%と6.4%という下の欄で加重をとることにより96.1%となり、96.5%のほうに寄った数字になります。こういうことで適用割合というものを算出しております。
 短時間労働者については、それぞれの時間ごとに厚生年金被保険者適用割合は労働時間が長いほど高まっていく。このデータを利用いたしまして、将来、平均労働時間が伸びていくにつれて、短時間の方の厚生年金の適用割合が上がっていくという見通しに反映しているところです。
 概略、このようなことを行い算出したものとして12ページの「被保険者数の将来見通し」です。13、14ページで就業者・雇用者等の最近の動向を参考までに示しました。直近、平成23年の平均で見ると、就業者のうち、雇用者が既に88%程度、自営業主が9%程度、家族従業者が3%程度になっており、長期的に見ると、産業構造の変化に伴い、就業者に占める雇用者の割合はずっと上昇傾向にあるというところです。14ページで男女別に見ると、男性の場合は就業者数・雇用者数ともに1996年頃をピークに頭打ち傾向がある中で、就業者に占める雇用者の割合は現在でも緩やかな上昇傾向にある状況です。女性は就業者数には頭打ち傾向が見られますが、雇用者数は上昇傾向が続いており、就業者に占める雇用者の割合というものは現在でも上昇傾向にあるというところです。ただし、就業者に占める雇用者の割合は、既に足下で男性87%、女性88%強の水準まで高まっており、今後、いずれかの時点で頭打ち傾向に転ずるものと考えられます。説明は以上です。
○吉野委員長 山崎数理課長、どうもありがとうございました。それでは、今の御報告を踏まえまして、何か御質問があればいかがでしょうか。
○西沢委員 労働力需給推計のほうで、2つお伺いしたいのです。1つは、5ページ目の男性の2030年における60~64歳のところで、専ら成長するかしないかで太い実線か細い実線かという、大きな差が出てくるという説明でした。成長すると確かに労働需要が盛り上がって60~64歳の労働力率は上がると思うのですが、一方で、労働供給するほうからすると、ちょうどこの頃私も60~64歳に入っていると思いますが、支給開始年齢引上げで年金が全くない年齢です。ですから、成長する・しないにかかわらず、労働供給側としては労働供給をしようとするはずであって、労働力率自体がここまで大きく変わってくるのか。あるいは、もう少し失業率で調整されるのではないかなという気がしますが、供給側のほうは、この推計でどう勘案されているのかです。
 6ページ目で、女性のM字カーブが残っているところです。これも成長するかしないかで労働力の需要が変わってきているという説明になっていますが、女性のM字カーブの形状は、成長するしないと同時に、供給する側としてみれば保育所の整備の状況ですとか会社の働き方によってかなり変わってくる側面があると思います。そこはちょっと定性的なので定量面で織り込みにくいのかもしれませんが、そこをどのような形で考えられているのかをお伺いしたいと思います。
○吉野委員長 これは、供給と需要で賃金の決定というのはどうなっているかにも関連するのですが。ですから、不均衡のままでやっているのか、それとも均衡も考えてやっているのか、需要と供給の今の御質問についてお願いします。
○数理課長 まず、このケースは、成長と成長しないのとに見えるのは申し訳ないのですが、「成長戦略+進む」と、「ゼロ成長+進まない」と書いてあるのは、「成長戦略+労働市場への参加が進むケース」はこの太い実線のほうでして、成長戦略というのが労働需要の側の話で、進むと書いてあるのが労働供給の側、労働市場への参加が進むことで、対比されている細実線のほうはゼロ成長+労働市場への参加が進まないケースで、そういう意味で、成長の違いのほかに、まさにおっしゃっているように労働市場への参加のしやすさ、参加の程度が違うということです。
 その上で、男性について、労働市場への参加が進むケースのほうで、特に高齢のところでどういうことが見込まれているかですが、政策変数として、希望者全員が65歳まで働ける企業の割合が導入されていると説明されていますので、ゼロ成長+進まないでは、そこが固定された足下の状況、労働力率をそのまま動かさないというのがこの進まないケースです。一方で、希望者全員が65歳まで働ける企業の割合が増えていくのが、労働市場の参加が進むケースのほうの男性の高齢者のところでは想定されているので、供給側のほうではそういうことが入っていることがあります。
 女性の場合については、当然、高齢者については同じようなことがありますが、そのほかにも、御質問にあったように保育所、幼稚園の在所児童比率がトレンドで伸びていくことで伸ばしていると、進むケースのほうで記述されています。
 それから、男性の家事分担割合は2006年で12.2%のものが、2030年では37.2%まで伸びていく、こういう政策変数が入っている。当然、男性の家事分担が増えれば女性の家事負担が減少して、それは女性の労働力率に良い影響を及ぼすという経路があるので、供給が増える要素は、当然この進むケースのほうで想定されています。
 その上で、賃金を通じて労働力需要と労働力供給の調整が行われるメカニズムですが、こちらのほうは、ちょっと私も専門家でないので余り立ち入ったところまでは御説明できないのですが、基本的には賃金水準が高くなれば労働需要は減退し、一方で労働供給は増える、それによって労働力需給が調整されるというメカニズムがあります。ただ、必ずしも完全雇用ではないので、賃金水準が変わると完全失業率が変動し、それを通じて労働供給ブロックにフィードバックする要素があるので、有効求人倍率を1つ介して、賃金水準と完全失業率が変動するというモデルになっていると伺っています。そういうことで、毎年、賃金を通じて需要と供給の調整は図られながら、1年ずつシミュレーションが行われていくというモデルと説明されています。
○植田委員 関連して、今の点ですが、この3つのシナリオの中で、成長率が高い成長戦略シナリオでは労働市場への参加が進むことが仮定されていて、低い成長率では参加は進まないと仮定されていますので、需要と供給のギャップが余り広がらないようなケースだけを採って分析している結果、恐らく賃金や失業率、あるいは有効求人倍率の変動が小さくなるようになっているのだと思うのです。それはそれとして、このゼロ成長と成長戦略シナリオで成長率でいうとどれくらいの違いになっているのですか。
○数理課長 そうですね、ゼロ成長のほうは基本的にゼロ成長ですが、成長戦略シナリオのほうは実質2%程度の成長率が見込まれていると承っています。
○植田委員 ずっと2%ですか。
○数理課長 日本再生の基本戦略という、平成23年12月24日閣議決定ですが、これを踏まえた実質2%程度の経済成長を想定していると記述がありまして、時期的にいつ頃までというのは・・・
○植田委員 これは2030年まで計算していますから、そこまでは2%ということですよね。
○吉野委員長 そういうことでしょうね。だからずっと2%じゃないでしょうか。
○植田委員 あるいは平均的にですね。
○吉野委員長 そうですね。
○数理課長 失礼しました。この「日本再生戦略」においては、2020年度までの平均で実質2%程度の成長を目標としているということで、こちらを踏まえているという記述がありまして、ちょっとその先のところの具体的な数値までは私どもは承知していないのですが、こう説明されているところではあります。
○植田委員 ただ、この労働供給でも需要でもイコールですが、どれくらい伸びるかという数値を置くときに、既に成長率の前提が入っているということを注意して将来扱わないといけないと思いますが。
○吉野委員長 そうですね。
○米澤委員 賃金も裏で出てくるわけですよね、ここにはね。
○吉野委員長 そうですね。だから、その動きがどうなっているかというのが。
○米澤委員 また賃金推計するので。
○植田委員 その辺を気を付けないと。
○吉野委員長 その辺はちょっと気を付けないと。
○植田委員 非整合的なことをやってしまうと。
○吉野委員長 そうですよね、まさにこの需給のところで。では、先に小塩委員でいいですか。
○小塩委員 私も労働力の需給推計について御質問をしたいのです。先ほど、男性、女性それぞれにおいて2030年における労働力率の見通しを説明してもらいましたが、これをざっと見ますと、平成21年の財政検証よりもカーブが下方シフトしていますね。成長戦略が一生懸命頑張って奏効し、それから労働力参加が進めば何とか平成21年財政検証が確保できるものの、ちょっと手を抜くというか、ゼロ成長でかつ労働力参加が進まないと下にとどまってしまうという構図ですね。まずお聞きしたいのは、この新しい推計において、そういう労働力率の下方シフトが起こった大きな理由は何なのでしょうかということです。それからもう1つは、この結果を素朴に考えると、前回の財政検証で想定したよりも日本経済の将来は暗いということになります。そうすると、年金の給付をカットするとか、あるいは負担を引き上げるというような政策的なインプリケーションをつい感じてしまうのですが、そういう理解でよろしいのでしょうか。その2点をお聞きしたいのです。
○数理課長 この点線にありますのは、前回の財政検証のときに用いました平成20年3月の労働力需給推計の「労働市場への参加が進むケース」についての、同じ2030年における見込みでして、若齢のところとか、あるいは、ある程度高齢のところについて、前回見込んだほどは今回の「進むケース」でも労働力率が達していないところがある、特に男性ですね。女性のほうは、むしろ持ち上がっているといいますか、高齢のところでは、見ていただくとこう持ち上がっていますし、あと、M字の谷のところも、6ページの女性全体、有配偶と無配偶を合わせたもので見ると若干持ち上がっているということで、そういう意味では、女性のほうは少し労働力率の見込みは全体として上がっている状況です。男性の場合は、かなりもう高いところまで持ち上がる見込みをしている中で、60代のところとか、あるいは逆に20代前半が少し落ちている。総合してみて男女合わせてどのぐらいになるか、それほど落ち込んでいると言えるかどうかというのは見方の分かれるところかなと思うのですが、前回の推計と今回の推計での将来の見通しの差の説明については、ちょっと恐縮ですが、私どもが直接やっていませんので、今、この場で御説明するのは難しいところです。この辺のところのもう少し詳しい話を実際にこの推計を担当されたJILPTの方にお伺いするなり、場合によっては、この場で次回にでも若干御説明をいただくなり、その辺のところは調整を図ってみたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。
○吉野委員長 先ほどの賃金の調整も含めて、更に御質問もあると思いますが、できればお願いします。
○小野委員 1点だけ確認です。資料2-1の2ページで、今、御議論のあった成長戦略シナリオ等々の(3)のところです。1~3があって、今日は2は省略というお話だったと思いますが、これは大分前に、内閣府の経済財政の中長期見通しを御説明いただきましたが、そのときには成長戦略シナリオと慎重シナリオが出てきたかと思うのですが、ほぼそれの結果と呼応していると思ってよろしいのでしょうか。それだけ確認をお願いしたいと思います。
○数理課長 成長戦略シナリオ、慎重シナリオと言っているものは、内閣府の経済財政の中長期試算(平成24年1月24日)の成長戦略及び慎重シナリオにおける経済成長、物価変化率の試算値を使用しているとなっていますので、それはリンクしていると考えてよろしいかと存じます。
○吉野委員長 ほかにいかがでしょうか。
○西沢委員 労働力の需給によって賃金も変わってくるというご指摘で、ただ、実際の年金の将来推計における賃金は労働力需給などと全く別に決めているので、労働力需給を見ながら将来推計の賃金も変えろというリクエストなのでしょうか。
○吉野委員長 いや、だから、ここの私の質問は、供給と需要があって、そこでどういう形で賃金が調整しているかが分からないと、全体が。
○西沢委員 それを、では推計に反映させろということでは。
○米澤委員 というか、少なくともこれでもう1回、前回、賃金も出しましたよね。
○吉野委員長 はい。
○米澤委員 でも、ここの出てくる数字の下にまた賃金があるわけですね。それが、余りにも食い違ったら全体として整合性がないのですよねということなので。
○吉野委員長 整合性がないのではないかという。
○米澤委員 前回は根っこまで見なかったのですが、できれば見てチェックする必要はあります。
○吉野委員長 ですから、この需給のところは、賃金の関係がどうなっているかというのが分かるといいと思います。
そろそろよろしいでしょうか。まだまだ御質問もあるかもしれませんが、今日は時間がきましたのでこの辺りにしたいと思います。それでは、次回の予定などについて事務局の森参事官のほうからよろしくお願いします。
○大臣官房参事官 日程につきましては、改めて調整をしたいと考えていますので、後日改めて連絡させていただきます。
○吉野委員長 今日は活発な御意見をありがとうございました。これで終了したいと思います。ありがとうございました。


(了)

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