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2012年1月24日 第10回石綿による疾病の認定基準に関する検討会 議事録

労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室

○日時

平成24年1月24日(火)17:30~


○場所

中央合同庁舎5号館 専用第18・19会議室(17階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)


○出席者

参集者:五十音順、敬称略

審良正則、岸本卓巳、神山宣彦、篠原也寸志、廣島健三
三浦溥太郎、宮本顕二、森永謙二、由佐俊和

厚生労働省:事務局

鈴木幸雄、河合智則、神保裕臣、児屋野文男、渡辺輝生、倉持清子、大根秀明、斎藤将

○議事

○斉藤職業病認定業務第二係長 検討会の開催に先立ちまして、傍聴される方にお願いがございます。本検討会は原則公開としておりますが、傍聴される方におかれましては、別途配付しております留意事項をよくお読みいただいた上で、静粛に傍聴いただくとともに、参集者の自由な意見交換を旨とする検討会の趣旨を損なうことのないように、会議の前後を問わずご留意をお願いいたします。
 それでは、定刻となりましたので、これより第10回石綿による疾病の認定基準に関する検討会を開催いたします。本日は、大変お忙しい中、また雪が残りお足下が悪い中をお集まりいただきまして、大変ありがとうございます。本検討会には、厚生労働省安全衛生部労働衛生課の田原中央じん肺診査医にも同席していただいております。よろしくお願いいたします。
 写真撮影等は以上とさせていただきますので、以後の写真撮影はおやめいただきますよう、お願いいたします。それでは、座長であります森永先生に、議事の進行をお願いいたします。
○森永座長 議事に入る前に、今日の配付資料の確認からお願いします。
○斉藤職業病認定業務第二係長 資料のご確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1「石綿による疾病(肺がん)の論点メモ」。資料2として、文献等14件を用意しております。なお、文献については著作権等問題があるため、委員の方々のみに配付しております。
○森永座長 委員の先生も、抄録だけ置いてありますね。
○斉藤職業病認定業務第二係長 はい。続きまして、資料3「X線写真による胸膜プラークの具体的要件及び画像例」です。資料4「胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上要件を満たす事案の石綿小体本数について」です。資料5「石綿の輸入量と石綿障害予防の規則の規制等の変遷」です。資料6「肺がんの補償に対する考え方について(中間案)」です。資料7が3部に分かれており、資料7-1「石綿肺がんの認定基準に関する意見書」、ひらの亀戸ひまわり診療所の名取先生からの意見書です。資料7-2「石綿による肺癌の認定基準に関する検討会での問題点」、職業性疾患・疫学リサーチセンターの海老原先生からの意見書です。資料7-3「石綿関連肺がんの労災認定基準の見直しに関する意見書」、海老原先生ほか9名の先生の連名の意見書となっています。資料の確認は以上です。
○森永座長 この資料の説明を、事務局のほうからお願いします。
○大根中央職業病認定調査官 まず、資料1は肺がんの認定に関する論点メモで、前回までの検討結果についても簡潔に記載しております。前回の検討会で議論された点について見ていただくと、項目2ですが、肺がんの発症リスクが2倍となるばく露量の程度については、角閃石系の繊維とクリソタイルで肺がんの発症力に差はあるものの、クリソタイルも含めて石綿繊維25本/ml×年を今後も維持することが適当との結論であったかと思います。
○森永座長 これは新しく資料が出ますから、また議論します。
○大根中央職業病認定調査官 項目5です。石綿小体数、石綿繊維数を指標とする考え方ですが、これについてはクリソタイルのクリアランスと肺がん発症力を踏まえても、現行の要件である石綿小体数5000本以上、石綿繊維数5μm超が200万本、1μm超が500万本、これを今後も維持することが適当であるとの結論であったかと思います。また、クリソタイルについても同じ基準とすることは合理性があるという結論であったかと思います。
 項目6ですが、石綿ばく露作業従事期間を指標とする考え方です。これについては、石綿紡織製品製造作業、石綿セメント製品製造作業、石綿吹付け作業、これら3つの作業に従事した方々に限り、当該作業の従事歴が5年以上あるというものを要件化することが適当との結論であったかと思います。
 項目7、その他ですが、肺がんがびまん性胸膜肥厚に併発した場合を要件化することが適当との結論となったものと思います。
 本日の検討会で検討していただくべき事項として、項目4の下に記載してありますが、画像における胸膜プラークの具体的診断基準、これは前回、宿題となっておりました事項です。胸膜プラークに係る現行要件の妥当性についても、本日、検討していただく必要があると考えております。
 次に7の下にありますが、最初のばく露から肺がん発症までの潜伏期間について、要件化の要否及び必要な場合の具体的期間についてです。これまでは基本的に石綿ばく露作業従事期間10年以上あることが要件となっておりましたため、最初のばく露から肺がん発症までの潜伏期間として、少なくともヘルシンキ・クライテリアに示されている10年間は担保されていたことになります。しかし、胸膜プラーク画像所見を指標とするもののうち、X線写真・CT画像により、一定の所見が認められる場合は、石綿ばく露作業歴10年以上という要件がなくなることとなると、別途、潜伏期間の要件を設ける必要があるのではないかと考えて、今回検討していただくべき事項として、その他に加えている次第です。資料1の論点メモについては以上です。
 続きまして、資料2は文献等が14件あります。このうち、2-5以外については、アブストラクトないしは関係部分のみの抜粋という形で、委員の先生にお配りしております。
 簡単に申し上げますと、資料2-1は「WHOのWORLD CANCER REPORT」の2003年版で、肺がんと喫煙の関係が示されております。
 資料2-2ですが、Albergらの「肺がんの疫学」という論文で、肺がんと喫煙の関係が示されております。
 資料2-3は、Albinらの「石綿とがん」という論文で、肺がんと石綿ばく露との関係が示されております。
 資料2-4は、Darntonらの「イギリスにおける1980年から2000年までの石綿関連肺がんによる死亡者の推計」という論文で、表題のとおり、肺がんと石綿の関係が示されております。
 資料2-5ですが、イギリス雇用年金省の機関であるIIAC(労働傷害諮問会)による石綿関連疾患についての報告書で、肺がんの発症リスク2倍に関しての見解が示されております。
 資料2-6ですが、Hendersonらの「石綿と肺がん」という新しい文献で、繊維・年についてのヘルシンキ・クライテリアの修正提案等が示されております。
 資料2-7ですが、Parisらの「胸膜プラークと石綿肺」という論文で、胸膜プラーク有所見率と石綿累積ばく露量との関係が示されております。
 資料2-8ですが、Gustavssonらの論文、資料2-9はオランダの健康審議会による報告です。資料2-8、資料2-9については、名取先生の意見書において触れられている文献です。
 資料2-10は、日本の東先生らの「日本のアスベスト含有製品製造設備における労働環境」という文献で、労働環境における個人のばく露濃度についての記述があります。
 資料2-11から資料2-13までは、建設労働者のばく露濃度等について触れられている文献です。
 資料2-14は由佐先生らの文献で、胸膜プラークと石綿小体数の関係についての記述があります。文献等については以上です。
 続きまして、資料3です。こちらは前回の検討会で、胸膜プラークの画像について、判断にばらつきが生じないように、判断の基準となるような事項を示すことが宿題となっておりました。これについて、岸本先生に原案を考えていただいて、画像も提供していただいたものです。後ほど岸本先生のほうからご説明いただければと思います。
 資料4は、平成18年2月9日から平成22年11月30日までに決定した石綿による肺がんの全事案、これは当初間違って申し上げておりましたが、正確には3,030件です。3,030件のデータから、胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上、こちらの要件を満たす事案の石綿小体本数について調べたものです。石綿小体本数が判明している事例は130例ですが、この130例について石綿小体本数を確認したところ、5000本以上であるものが94例、5000本未満のものが36例という結果で、5000本以上であるものが全体の約72%という結果になっております。
 資料5です。前回、石綿ばく露作業従事期間のみを要件とする場合に、ばく露作業従事期間の評価については、○年以降は評価しないとか、半分に評価するといったことが必要ではないかということで、その点について検討しておくことが宿題とされていたわけです。これについての検討材料として、私ども事務局が作成した資料です。左のほうに石綿の輸入量を記載しております。それから、石綿障害予防の規制等、これには安全衛生関係だけではなくて、いちばん右には大気汚染防止法の敷地境界濃度基準も入れ込んでおりますが、こういったものの変遷を1つの表にまとめた資料です。
 資料6は、前回までの検討会での検討結果を踏まえた、肺がん関係の報告書の中間案です。これについては、よろしければ後ほど読上げをさせていただきたいと思います。
 資料7は、本検討会に対して意見書が3件、提出されております。先ほどもありましたが、資料7-1がひらの亀戸ひまわり診療所の名取先生の意見書です。内容については、後ほど名取先生のほうからご説明をいただきたいと思います。資料7-2ですが、職業性疾患・疫学リサーチセンターの海老原先生の意見書です。
 最後の頁の「まとめ」の読上げをさせていただきます。まとめ。(1)高度かつ広範囲の胸膜プラークであっても、「CT画像で胸壁内側の1/4」との基準に該当しない例は数多く存在していること。(2)石綿小体が高濃度の例であっても「CT画像で胸壁内側の1/4」に達しない例は少なくないなど、CT画像での胸膜プラークの範囲と肺内石綿小体量とには相関に欠けていること。(3)特に、「CT画像で胸壁内側の1/4」の基準が「石綿小体5000以上」との認定基準を満足する者を多数排除してしまうことは確実であること。(4)現行の認定基準(石綿作業10年以上+胸膜プラーク)で石綿関連肺癌と認められた例の多くが4分の1に至らない胸膜肥厚斑で補償されてきた。したがって、「CT画像で胸壁内側の1/4」を基準とすると、多くの被災者が救済されなくなってしまう。
 以上の点を踏まえ、石綿作業10年以上+胸膜プラークとの現行の認定基準は変更せず、現行通りとされたい。
 最後に、資料7-3ですが、10名の先生方の連名の意見書です。今ほど見ていただいた海老原先生の意見書と同趣旨と思われるようなご意見等が記載されております。資料については以上です。本日は、現行の胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上の要件をどうするのかということ。それから、先ほど申し上げた潜伏期間の関係、また前回の検討会で宿題とされた事項についてご討議していただくとともに、前回までの検討結果に基づく肺がんの検討結果報告書案(中間案)の内容を確認して、必要な修正を加えていただきたいと考えておりますので、ご審議をよろしくお願い申し上げます。以上です。
○森永座長 初めに、ひらの亀戸ひまわり診療所の名取先生から意見書の提出がありましたので、その説明を20分程度、質疑応答を10分程度ということでお願いします。本会は、開催要綱で参集者以外の方も出席をして、意見を述べることができますので、その一環として今日は名取先生から意見書が出たので、説明をしていただくことになります。よろしくどうぞ。
○名取医師 本日は貴重な機会を与えていただきまして、ありがとうございます。名取と申します。資料7-1ですが、全部説明すると長くなりますので、これに沿いながら、要点のみ説明いたします。私の意見書は、総論的な部分が3頁、各論的な部分が4頁、資料が10頁付いているという構成になりますので、最初の7頁を主に説明しながら、時折、必要があれば資料の後ろの10頁をご参照ください。
 最初に、石綿肺がんの労災の認定の基準と、どのような方が実際に補償されていて、どのような方が補償されていないのかということについて、大きく理解する必要があると私は思っております。実際に原発性肺がんの方、これは病院によって一定の数値が違うと思いますが、30%ぐらいの方が手術を受けて、残りの70%ぐらいの方は、進行しているとか、さまざまな理由によって手術を受けていないわけです。そうなりますと、手術を受けている方は石綿小体とか石綿繊維というものの測定ができますが、そういう基準で救われるのは30%であって、残りの70%の方は石綿肺管理2という基準か、胸膜肥厚斑の基準でないと、現状では救われていないということになります。諸外国ですと職歴の基準等がありますので、原発性肺がんで数年の職歴で救済される、補償されるのですが、日本はそうなっていないという問題があります。
 つまり、実際には石綿繊維をかなりばく露されているけれども、石綿小体の検査ができないとか、石綿小体が生じにくいクリソタイル中心のばく露の方とか、胸膜肥厚斑ができない、もしくは肥厚斑が非常に薄いという方については補償されていないということになります。本当はこういう部分について、データを基に検討したいので、補償課の事務局の方には、本来産業別、職業別で何年従事された方がどの基準で補償されているのか、是非検討をさせていただきたいので、データをお示しいただきたいというお願いをしたのですが、残念ながらそれが提出されなかったことは大変遺憾だと感じております。
 どういう方が現状の認定基準で補償されない部分があるのかということの推定の模式図については、いちばん後ろの表1です。日本の場合、手術可能な肺がんの事例の方が3割程度、手術不可能な肺がんの事例の方が7割程度あると考えられます。補償課のほうのデータがないので、岡山労災病院の岸本先生が出されたデータを参考にしますと、石綿肺という基準で33.6%、10年ばく露+胸膜肥厚斑という基準で61.8%、石綿小体+石綿繊維という基準は4.6%ということで、非常に多くの方が10年ばく露+胸膜肥厚斑の基準で補償されていることがわかります。当然7割の手術不可能な肺がん事例の方については、石綿小体+石綿繊維という基準で、もともと検査ができていないわけです。
 さらに、諸外国のことを考えますと、ばく露歴というもので認定している、もしくはばく露年数、累積ばく露量という形で認定されています。石綿ばく露はあるのに、石綿小体もしくは石綿肺が一定本数ない、それから胸膜肥厚斑がないという方が補償されていないという形になるのが日本の現状ではないかと思います。ここに問題がある訳で、この部分をよく考えて、どういう部分を今後、肺がんの労災認定基準として追加することが望ましいのか。まず、そういう哲学のようなものが必要なのではないかと私は考えておりますので、是非、今後そういうご検討をしていただければ幸いだというのが、総論的な部分の第1番目の考え方です。
 2頁です。石綿肺がんについては、石綿ばく露濃度とばく露年数を乗じた石綿繊維の累積ばく露量によって決定されているのが疫学の考えであり、また西ドイツやフランス等の欧米諸国は同様の考え方に立っております。石綿肺がんは、過去の石綿の累積ばく露量25繊維・年数/mlということで、一般人口の肺がんの約2倍の肺がんが発症するとされております。石綿の累積ばく露量と違って、石綿小体とか石綿肺は、有害なものが肺の中に入ってきたことに対する生体の防御反応等を指標化したものですので、(もちろんそういうものが非常に出やすい方にとっては、それが医学所見になるのですが、)生体の防御反応が大変少ない方にとっては、あまり補償がされないことになる医学所見になってしまいます。
 実際に日本では、肺がんの業務上認定を決定する厚生労働省の「石綿に係る疾病の業務上外に関する検討会」で、現実的には西ドイツの肺がんの労災認定の基準となっているBK報告を参考としながらの認定が、既に行われております。検討会のすべてはよくわからないのですが、第30回の検討会の議事録を紹介しますと、西ドイツの肺がんの認定基準が、この方は溶接の方だったようで、「BKレポートの中ではどこに書いてありましたかね」ということで、「石綿繊維濃度4fという中で、14年間で何回あったんでしょうかね」という検討も実際には行われております。そういう点では、こういう累積ばく露量の考え方が既に日本の労災の認定においても活かされていると考えております。
 日本の諸産業の石綿濃度は、確かに十分測定されていない側面もあるのですが、石綿濃度を実際には測っていて、まだ公表されていないという側面もあります。後述の資料に挙げています村山武彦先生の2006年の論文などを見ます。(例えばこれはドイツのものになるのですが、12頁です。)石綿の累積消費量の蓄積量ということで考えますと、ドイツが25繊維・年数という考え方の基になったさまざまな石綿濃度の測定を先進的にしている国ですが、日本は、もうドイツを超すような累積消費量になっております。ですからドイツのデータが日本で使えないという根拠にはならないだろうと私は考えておりますし、ほかの国も、ご自分の国で石綿作業のデータがない国であっても、ドイツのデータを参考にして、同じ職種の方で同じような作業をしていれば、ほぼ同一であろうと参考にしていると伺っておりますので、そういうことが日本でも可能と思います。
 また、日本ではほかの職業性肺がん、クロム肺がん、タール、砒素という肺がんの場合も、決して医学所見を重視しているのではなくて、ばく露年数のみの要件で認定されております。そういう点では石綿の肺がんの認定基準はちょっと特異的なものになりすぎていると考えておりまして、やはり石綿ばく露年数であるとか、累積ばく露量を基本的な基準として考えていく哲学を持つべきであると私は思っております。
 3頁です。各種石綿繊維による肺がんのリスクについては、国際的にもまだ論争がありますので、十分ご検討していただきたいと思います。今回検討会のほうでは、HodgsonとDarntonの論文等が参考に挙げられております。その一方で、今回名取の資料に添付したオランダの論文でも以下のように書いているのです。「HodgsonとDarntonの論文は、それぞれの疫学的なコホートデータについて、平均的なアスベストのばく露の推定量を使って平均化しているという方法を使っているところに、1つの問題点がある。」ほかの国、いろいろな国の時期の違うデータについて、石綿濃度の推定点を使って、それを基にそれぞれの石綿繊維のリスクを出してしまっています。オランダの健康審議会はこの点を批判して、「メタアナリシスの質の十分な論文について限定して分析すると、中皮腫については違いがあるけれども、肺がんについて言うとクリソタイルと角閃石系の繊維では肺がんを起こすリスクに相違がない」という報告をしております。この論文についても十分、検討会で疫学的な検討を是非していただきたいと考えております。
 この点で申しますと、各産業においてどのような石綿が使われて、どの程度の石綿ばく露の濃度があったのかということを推定する。そういう研究を今後していただければ、ばく露に基づいた補償ができる環境が整えられると思います。是非、今後、検討していただきたいと思っております。肺がんが2倍となる石綿の累積ばく露量に関しては、今後、国際的治験の変化があると思いますので、絶えず変更させている必要があろうと思っております。
 3番目ですが、石綿肺がんの労災認定数は、現状で平成20年が503人、平成21年が480人、平成22年が424人と、だんだん下がってきております。つまり、多くの方が補償という形の方向にはなっていない現状があろうと思います。中皮腫の2倍程度が石綿関連肺がんだろうと国際的にも言われておりますので、是非、日本の石綿肺がんの労災の認定数の目標として、中皮腫の2倍程度になるというような目標を掲げていただいて、労災認定の少ない都道府県での周知を図るとともに、現在の2倍の肺がんリスク、いまのところは25繊維・年数/mlと言われるわけですが、そういう点で認定基準の改善を是非図っていただきたいと考えております。総論的には、いまのようなことになります。
 4頁ですが、現在の肺がんの認定基準の改訂に関する個別的な部分について述べさせていただきます。まず、諸外国、欧米等の考え方に合わせて、25繊維・年数/mlの石綿累積ばく露量の相当の方、そのような方についてはそれのみで認定するというような基準を設けていただきたいと思います。そこについては、当然、専門家による石綿ばく露歴の検討の専門小委員会のようなものがないといけないのかと考えております。この25繊維・年数という考え方は、ご存じの方は詳しいと思うのですが、石綿製造業・吹付け石綿作業、解体というような方の平均的な石綿濃度は、25繊維・年/ml以上も非常に多いわけですし、造船とか建築でいいますと、これは中等度ばく露と言われますが、平均的に言うと2.5繊維/mlぐらいであることもあった。これは10年などを掛けるとちょうど25繊維・年/mlになります。
 逆に、低濃度の石綿ばく露の作業の方の肺がんの認定というのは、確かに難しい面があると思います。1繊維/mlであれば25年のばく露年になりますし、仮に0.5繊維/mlぐらいであれば、50年ばく露年を要する。そのような形で要件化はできるのかと思いますので、是非このような新基準を作っていただくのが国際的な考え方と合うと思っております。これを簡易化しますと、ばく露歴平均10年という基準、中等度ばく露であれば10年ばく露でいいではないか。高濃度の方については1年のばく露年。低濃度のばく露の産業や職種の方については、これは10年では当てはまらない方も当然いるわけですから、産業・職種ごとに検討するという考え方に整理するのがいいのかと思います。
 また、運用としては、同じ企業、同じ職種で胸膜肥厚斑がいる、石綿肺の方が出ている、同じ職場で中皮腫の方が出て労災に認定されているとか、同僚の方で石綿関連肺がんとして認定されている、健康管理手帳を取っている方がいる。こういう事実も当然、同じ環境におけるばく露指標ですので、是非参考にするような基準を作っていただければと考えております。
 5頁です。3番目ですが、第1型以上の石綿肺については、おそらく委員の先生方と考えは同じですので、省略させていただきます。
 4番目は、石綿ばく露10年+胸膜肥厚斑という基準です。私はこの基準については、現行基準を維持していただきたいと考えております。胸膜肥厚斑については、数年から10年単位で厚さも大きさも増加するということは、臨床の先生方は一致してご存じのことだと思います。そして、それが顕微鏡でしか把握できない段階から、胸腔鏡や外科手術、解剖時でようやく把握できる薄い時期を経て、今度はCTで検出できる時期、胸部レントゲン写真で検出できる数ミリの厚さの時期を経て、徐々に厚くなって石灰化しやすくなるものです。
 ですから、いままでいろいろな先生方、学者の方が胸膜肥厚斑の定義を試みているのですが、一般に使用される○○の定義という形で流布してこなかった背景には、胸膜肥厚斑が絶えず成長し変化して、大きさや厚さの定義がなかなかできないということがあったと考えております。また、胸膜肥厚斑は、石綿の低濃度短期ばく露量でも生じることがありますので、量反応化というものが非常に難しかったということがあろうと思います。いま私が知っている範囲では、平成22年度の環境省の請負業務の調査報告書の部分と、菅沼先生等が出されている論文があります。菅沼論文では胸膜肥厚斑についての一定の定義の試みがされているように思います。ただ、環境省の請負業務については、何をもってCTの胸膜肥厚斑とするのか定義ががあまり書いていないのと、今回の検討委員会の場合もどういう胸膜肥厚斑を委員会の定義としているのかというのがあまり明確になっていないので、その点が臨床医の先生方が大変危惧しているところだと思います。
 菅沼先生のCT論文では、胸膜肥厚斑については分類に当たり下限値は設けてはいけない、もし検出できる場合は全部書きなさいと明記してあり、非常にわずかな胸膜肥厚も含めると書いてあります。今回この報告書でCT等による判断がどうなっていくのかという点については、その辺りを明記していただく必要があるのかと思っております。
 環境省の調査報告書等で見ても、菅沼先生のほうもそうなのですが、肺がんリスク2倍の石綿ばく露量と胸膜肥厚斑の関連が十分検討されていないという問題です。累積ばく露量と胸膜肥厚斑の関係などをしっかり出していただきませんと、これをもって肺がんリスク2倍とは言いにくいという点があります。今回検討しているのが石綿ばく露10年+胸膜肥厚斑、その場合の胸膜肥厚斑の検討をしているのか、石綿ばく露歴は関係なくて、とにかく胸膜肥厚斑単独のCTだけで肺がんが2倍になるという場合の検討をしているのか? もともと石綿ばく露10年+胸膜肥厚斑という基準は残した上で、そちらについて胸膜肥厚斑のCTの定めはしない。その上で、単独でCTだけでも認められるぐらいの胸膜肥厚斑の人の基準を決めようとしているのか、その辺の明言が今までないものですから、その辺りも今日の議論の中でしっかりとご検討いただければと思います。
 事務局のほうの参考資料にありましたが、2008年以降、胸膜肥厚斑についても一定の石綿累積ばく露量と関係があるのではないかと、フランスのParis等が報告し始めております。ただ、Job-Exposure Matrixという方法で、いくつかに分けてそれとの関係を見る方法なのですが、25繊維・年数ほどまで、しっかりとした累積ばく露量の報告にはなっておりません。ですので、Parisを根拠に今回基準を持ち込むのはちょっとまだ早急なので、今後、胸膜肥厚斑については、累積ばく露量の関係等について是非、研究をしていただきたい。その上で、一定の胸膜肥厚斑についてはこれだけの検討論文があるから、これだけ累積石綿ばく露量がある人についての胸膜肥厚は認めましょうというところまで検討していただいたあとで、認定基準を変えるというならわかるのです。現状で、あまり検討がされていない状態で認定基準の変更をされることについては、私としては反対という立場です。
 6頁です。諸外国と比較して、日本の場合は大変胸部CTが普及しておりますので、非常に判断しやすい状況にあります。2005年以前は、なかなか胸膜肥厚斑をご判断いただけなかったものですが、私も日本全国を回りますと、最近、放射線科医のレポートの中で、半分ぐらいの方が胸膜肥厚斑ありと、CTでありと書いていただく先生が増えて、大変喜んでおります。ただその一方で、まだ半分ぐらいの放射線科医の先生が、私から見ると明らかな胸膜肥厚斑がある場合でも、胸膜肥厚斑ありというレポートは十分書いていただけない状態があるように思います。そういう状態ですので、こちらに審良先生もいらっしゃいますが、是非、今後数年、放射線科の先生に、胸膜肥厚斑とはこういうものだということについて、いろいろご理解を促進していただきたい。それとともに胸膜肥厚斑と累積ばく露量の関係について研究をしていただいた上で、十分な根拠を持って胸膜肥厚斑の一定の基準を導入するのであればわかるのですが、現状の知見だけで、ここに基準を新たに導入するということについては早急すぎるのではないかと考えております。
 5番目です。石綿小体についてと繊維の基準について申し上げますと、石綿小体は、ご存じのとおりヘルシンキ基準で5000本/乾燥肺1gが肺がんのリスク2倍。職業性石綿ばく露の場合は、1000本/乾燥肺1gということは大変有名な内容です。しかしヘルシンキ・クライテリアは、石綿小体をクリソタイルばく露の指標としないようにというように指摘しております。現状の基準がクリソタイルのばく露者の補償に一定の役割を果たしてきたと思いますので、新しく職歴のみで、もしくは石綿の累積ばく露量の基準を定めたのであれば、そのときは現状の石綿小体の基準を若干変えることはいいと思うのですが、職歴のみで認定する部分の定めがない現状においては、現行の石綿小体の基準の維持が必要ではないかと思っております。電顕については(時間がないので)省略します。
 7頁です。業別の石綿小体5000本到達年数について、検討がされていると伺っております。この問題について申し上げますと、理解のために、簡単ですが、石綿小体については、角閃石の使用がどれだけあるのかという比率によって変わってしまうことを、ちょっとご理解いただければと思っております。これはあくまでモデルですので、正確さが若干欠ける部分もありますが、例えば中等度石綿作業を20年行った作業者を1として、角閃石を10%吸入して、クリソタイルを90%吸入、平均ばく露濃度が2.5繊維/mlと仮にしたとします。もう1人の作業者2は、角閃石は1%でクリソタイルが99%吸入、同じく平均ばく露濃度2.5繊維/mlだと、モデル的に仮定します。この2人は、累積石綿ばく露量は共に2.5繊維/mlの20年ですから、50繊維・年数/mlで石綿肺がんになるわけです。
 ですが、作業者1の石綿小体を仮に6000本/乾燥肺1g、角閃石のほうがたくさん作りやすいので90%、クリソタイルは10%ぐらいしか主に石綿小体の芯の繊維になっていないというのはよくあるのです。仮に角閃石が石綿小体90%で5400本、クリソタイルのほうが少ししか作らないので600本とします。そうすると、作業者2の石綿小体は、この5400本の1/10。石綿の繊維が1%ですから1/10で0.1掛け。逆にクリソタイルのほうは、99%と99/90で多いので、1.1掛ける660。そうなると、1266本となってしまいます。つまり、クリソタイルのばく露が主な人は、1266本/乾燥肺1gしかないという状態ですが、実際に50繊維・年数に達するのは197繊維・年数/mlというばく露になっているということがあります。つまり、石綿小体の数で、石綿ばく露が実際にどれだけなのかということを、仮に推定しようとするならば、どれだけ角閃石を吸入した人であるから、この産業は角閃石系石綿製品を使用したからとか、そういうことを検討しないで職歴に換算してはいけないということをモデル的に示させていただきました。
 日本の中で、石綿小体の5000本到達年数を使って、それから何とか職業のばく露の年数を考えるというのは、発想としては非常に興味深いと思うのです。今回のデータだけで適切な判断はできないので、詳細な石綿ばく露情報を追加していただいた上で、この検討をしていただきたいと思います。ほかにもありますが、時間ですので以上にさせていただきます。
○森永座長 いまの名取先生のご意見に対して、各委員の先生方からご質問はありませんか。この2002年のGustavssonの疫学調査は、ケース・コントロール・スタディで個々のばく露量はコホート調査の繊維・年とは全く違う計算の仕方をしていますから、同じように評価はできないですね。原著論文を詳しくちゃんと読めば、それはわかると思います。
○名取医師 もちろんケース・コントロールなので、そこは違うのですが、低濃度ばく露のところで、喫煙とアスベストの関係について明瞭にしたいということでのケース・コントロール・スタディだということですね。
○森永座長 だから、この傾きの計算にあれを使うのは、ちょっと間違いだと思います。
○名取医師 その点については、疫学的な議論が必要なのかと思います。
○森永座長 皆さん、ほかにもご意見はありませんか。
○神山委員 4頁なのですが、1つ教えていただきたいのです。真ん中辺のクリソタイルが主なばく露で、当然、石綿小体も少なく、胸膜肥厚斑ができにくい人であるという記載があるのですが、一般的にクリソタイルは角閃石に比べたら石綿小体がやや作りにくいというのは、最近ではよく知られてきておりますが、後半部の胸膜肥厚斑ができにくいというのはどういう文献で示されているのでしょうか。
○名取医師 これは「労災補償をされていない方は」というところにかかっているので、クリソタイルがというわけではないですね。つまり、胸膜肥厚斑ができにくい方は先ほどお示ししたとおりです。
○神山委員 クリソタイルが胸膜肥厚斑を作りにくい、と言っているわけではないのですね。
○名取委員 そうです。そこの「クリソタイルが」の部分は、「石綿小体が作りにくい」までにかかります。
○森永座長 ほかにありませんか。ちょっと誤解があるのは、石綿小体の5000本到達年数で前回議論して、石綿紡織業は5年で十分だというのは、石綿小体の計測値で言っているのです。つまり、クリソタイルばく露者でも、石綿小体はたくさんできるのです。なぜかというと、このグループは長い繊維を扱っているから、やはりクリソタイルでもできやすくて、十分これで評価できているのです。いま我々は、いろいろなオプションがほかにもないかということを議論しています。そういう意味で石綿繊維の5000本到達年数で評価できるものは、どんどん取り入れていったらいいだろうという観点で、いま検討しているという理解をしてください。
○名取医師 私は高濃度ばく露は1年で十分だと思いますので、高濃度ばく露の石綿製造業、吹付け石綿作業等の方は、1年ばく露で十分ではないかと思います。それは過去のさまざまな諸外国の知見であったり、石綿濃度から言えるのではないかと思います。
 質問でもあるのですが、先ほどの胸膜肥厚斑の1/4の基準というのは、10年ばく露と胸膜肥厚斑という基準は残しておいた上で、胸膜肥厚斑をCTで、単独でそれだけ認める基準として考えているのか、10年ばく露+胸膜肥厚斑という基準をなくした上で考えているのか、これはどちらなのですか。
○森永座長 基本的には残したらいいのですが、ただ10年というのは、これは53年の認定のときは、定常ばく露の製造業と保温・断熱の10年だったのです。ですから、それ以外のものについては、コンスタントなばく露の例については、10年というのは過去の疫学調査からそういう評価をして出してきたわけですから、それと間欠的なばく露、頻度の少ないばく露について10年をということを言ってきているわけではない。だから、そこのところの議論は検討する必要があるとは思っています。10年というときの、いままでの疫学調査では定常ばく露と断熱・保温作業についてはそうだと。それ以外の作業については、10年で25繊維・年数のばく露があるのかどうかということについては、検討はすべきだろうとは思っています。プラークの面についても、これはいままでは肉眼所見だけでも認めるということがありましたが、そこのところはどのように扱ったらいいかということをこれから議論していかなければいけないと思いますが、いままで新しく集めた知見でオプションを追加する項目があれば、それは追加していきましょうという考え方で検討会をやっていると、こういう理解をしてください。
○名取医師 現行の基準は、胸膜肥厚斑+10年ばく露の基準というものを、もしくは一定の職業性の何年ばく露という基準をなくすということを検討しているということですか。
○森永座長 全部なくすということは考えてはいない。
○名取医師 残すは残す。それとは独立の胸膜肥厚斑の基準を作るという意味ですか。
○森永座長 今日は環境省がいらっしゃらないけれども、それは環境省の話に及ぶ話なのですね。
○名取医師 独立して、10年ばく露と胸膜肥厚斑の現行基準は残した上で。
○森永座長 これは、いままでの認定基準はすべてorでいっているわけですよ。
○名取医師 それは残した上で、さらに胸膜肥厚斑単独基準をorで作るというのなら理解はできるのですけれども。
○森永座長 そういう考えだけれども、いままでの10年の定義は、昭和53年の定義は、石綿製品製造業の10年と保温・断熱作業の10年の疫学調査から導き出された結論なわけで、石綿製品の運搬を10年していたら、それは本当に10年、25繊維・年数の話になるのかというと、それは違うでしょうと。そこは検討しないといけないですねと、そういう話です。
○名取医師 逆に言うと、25繊維・年数を基にして、石綿小体は5000本ではないかとか、そっちの話は出てきているわけですよね。
○森永座長 それは本当は間違いで、5000本は2倍のリスクが5000本。
○名取医師 2倍のリスクですね。
○森永座長 はい。
○名取医師 2倍のリスクというところからくるのについては、そう考えているということですね。
○森永座長 そういうことです。よろしいですか。ほかに何かご意見はありますか。
○神山委員 たびたびすみません。3頁の(3)の石綿肺がんの労災認定数を中皮腫の2倍とする認定基準の改善が必要である、という論の所で、「石綿肺がんは中皮腫の2倍以上とされる」というわけですが、これの根拠とするものはどういうところに置いているわけでしょうか。
○名取医師 ヘルシンキ・クライテリアですね。
○神山委員 名取先生も出されているBOHLIG、16頁の図でご覧いただけばわかるように、肺がんと中皮腫、濃度が高ければ肺がんが高く出る可能性がありますし、濃度が低くなれば悪性中皮腫が高く出るという可能性もあるので、環境がだんだんよくなっていくと、中皮腫の発生はあっても肺がんが下がっていくということはありますので、一律2倍ということは、少し根拠として薄いのではないかと、私は常々思っているのです。一律2倍というのは、いつの時代でいうのかとか、そういう詳細な根拠が必要になると私は思うのですが、いかがでしょうか。
○名取医師 まずは、いまの根拠は何なのかというので言うと、ヘルシンキ・クライテリアでそのような推計が出されているというのが答えです。それから、過去の疫学データ等で、そのようなデータが多かったので、ヘルシンキでそのようなことが決められたというように考えています。その後、濃度が変わったり、時代が変わったりしていけば、将来的にいろいろ変わってくるだろうということは当然推定されますが、現状の日本ということを考えますと、1990年ぐらいまではかなりの量の石綿を使っていた状態です。2030年以降になったときに、もう最近の石綿肺がんの実情に合わないのではないかといわれるならわかります。いまやもう1990年以降の石綿ばく露の状態であるとなったときに、また石綿肺がんの認定基準を変えるということについては妥当かと思いますが、現状ではまだまだ肺がんは増えていく。そのような時期ですので、いまの日本において、いまのような内容はちょっと当てはまらないと考えております。
○森永座長 中皮腫と肺がんが1対2という根拠はあまりないですよ。いろいろな疫学調査で、職業ばく露集団での死亡をいろいろ見ていくと、かなりばらつきがありますね。イギリスについては、1対1ぐらいが妥当だろうと。今日論文に出してありますが、イギリスは1980年から20年間の死亡についてという、そういう制限で1対1が妥当だろうという評価をしています。ですから、やはりどこの国でどの期間という条件を付けて設定しないと、1対1か1対2かというのは、それはそこを抜かして言うのは暴論だと私は思いますね。先生、どうですか。
○名取医師 今の論点で言うと、日本の疫学調査で、例えば造船所で言えば、肺がんが中皮腫の2倍である職種もあるわけです。実際どの程度であるのかということについては、日本は非常に疫学のデータが少ないのでいい難いですね。本来はその疫学的調査を、例えば是非尼崎等でやっていただいて、そのデータを基に何倍なのかということを、まさに検討すべきなのではないですか。そういうことをなぜやらないのでしょうか。
○森永座長 それはおっしゃるとおりですね。
○名取医師 なぜ青石綿の最大の尼崎で疫学調査をしないで、そういうことを言えるのですか。
○森永座長 しかし、ここはそこの担当ではないので、ちょっと言ってもしょうがないから、先生はどこかそちらのほうに言っていただくほうがいいと思います。
○名取医師 疫学調査をやられた上で、1対2は暴論ということになるならわかりますが、それをされないで日本は少ないという点は、おかしいということですね。
○渡辺職業病認定対策室長 先ほど先生がおっしゃった話ですが、今日の議題の中にも、10年+プラークという現行の基準の妥当性の評価ということが話題に上っていますので、お聞きしたいのですが、先生としては、先ほどの意見では、この要件が残るのであれば、新たに、ある程度のプラークがあった場合の基準を加えるということについては、賛同できるというようなことでおっしゃったように聞こえたのですが、その点はどうなのでしょうか。
○名取医師 要するにプラークのみで、実際の累積ばく露量が相関できるような知見までいけば、それはあり得ると思うのですよ。
○渡辺職業病認定対策室長 仮に現行の10年プラークが残ったとしても、それを新たに付け加えるというのは反対であるということでしょうか
○名取医師 方向としてはいいけれども、現状でそこまでの知見のデータは出ていないので、2倍だと。これだけの胸膜肥厚斑なら2倍だというデータはまだ出ていないので。
○渡辺職業病認定対策室長 という評価だということですね。
○名取医師 その点ではちょっと検討が少ないではないか、そこの問題をいま言ったわけです。
○由佐委員 名取先生、ばく露量というか、ばく露とプラークの関係とおっしゃいました。今回は、あくまでも石綿小体濃度とプラークの関係ということで調べています。ですから、一応ばく露を反映するものとして、石綿小体濃度を考えているということが1つ。それから、5000本が1つの基準になっていますので、その5000本に相当するような、あるいはそれ以上になるようなプラークの所見がどうだろうかという観点で見ると、1/4以上の広がりを持っているものであれば、多くの例が5000本以上に相当しているという結果が出たわけです。ですから、1/4以上であれば、5000本以上の小体濃度があるであろうと推定して、これは認定していいのではないかというのが1つ。それから、単純レントゲン写真でプラークが明らかなものがあれば、これもほとんどの場合5000本以上にという結果が出ていますので、単純レントゲン写真で明らかなプラークがあるというものについては、ばく露歴が何年とか、そういうこととは関係なく、リスク2倍以上のばく露があったのではないかと推定できると。そんなことで、プラークの広がりとかいうことを認定の要件に加えていいのではないかという考え方だと思います。
○名取医師 ですから、その場合は従事年数と現行の胸膜肥厚斑は残したままで、リスクがさらに高いところの胸膜肥厚斑を一定程度絞り込む方向で検討していく過程で、そういう案を検討したという意味であれば、すべて理解できないわけではないのです。ところが、石綿の累積ばく露量との関係というところでいくと、石綿小体とワンクッションいってから肥厚斑との関係の検討になってしまうので、そこで不確かさが入ってしまう。例えば角閃石系のみでという人はそうなるけれども、クリソタイルが主の人は?という部分が入ってしまう。そこの不確かさについての理屈をもうちょっときちんと整理したほうがいいと、そのようにご理解いただければいいと思います。
○森永座長 先生のおっしゃる希望はわかるのですが、いままで少なくとも、残念ながら、日本で特にプラークのある患者さんについて、きちんと繊維・年数を勘定できるような調査ができていないですよね。だから、やるとしたら前向き調査でしかできないのです。ですから、その代わりとして石綿小体も同じ2倍の理屈だと考えて、それで調べたのがこの結果だったというように理解してください。
○名取医師 理解しつつも、例えばドイツ以外の国で、すべての産業の石綿の繊維濃度を、しかも各年代別に調べている国というのはあまりないのです。でも、同じ様態で同じような作業をしていれば、それを類推するというのが、それはほかの国でも使っている手段ですので、やはり職歴で極力、過去の日本はどうだったのかというものの研究を一生懸命していただいて、そちらで救う人をたくさん出してほしいと。そちらのほうをもう少し重視していただきたいということを、是非お願いしたいと思います。
○森永座長 使える仕事と使えない仕事があるのだろうと思うのですよね。
○名取医師 もちろん、そうですね。
○森永座長 そこのところがありますので。ほかの先生方どうぞ。
○廣島委員 先ほど名取先生が、手術が不可能な肺がんの患者さんは、石綿小体あるいは石綿繊維などを解析することはできないと発言されましたが、日本には2,500人ぐらいの病理医が働いており、大きな病院だと各病院に1人は病理医がいます。そういう病院では、亡くなった患者さんの病理解剖をやっておりますので、病理標本を用いることによって、石綿小体濃度及び石綿繊維の解析は可能です。
○名取医師 私も以前そういうことをずっとやってきましたので、それは重々承知しております。いまのような話になると、亡くなった人をすべて解剖して、それによってでないと認定できないという、そういう方向になってはいけないので。
○廣島委員 レントゲン写真やCT写真での基準がありますので、病理解剖を行わなくても、石綿ばく露があったことがわかる症例は多くあります。
○名取医師 いけないので、こういう職種の人だったら、これだけ肺の中にあった人もいるから、その人と従事年数でこうだから認定というような、極力解剖という最後の手段は使わないで認定をするというようにしないと。以前、中皮腫でも胸膜肥厚斑がない中皮腫は認定しないという時期があったので、かなりの方が泣く泣く解剖して認定するという時期があって、それは良くないという話があったわけです。もちろん、これはわからないというときに解剖するのは、私は先生と同じく理解しておりますが、極力、解剖という手段はとらない形にするのが、やはり労災の考えではないかという点もご理解いただきたい。
○廣島委員 臨床医学でわからないことを解明するのが病理解剖であります。いままで何例もそういう事例があったことは、先生もご存じだと思います。是非、私たちを活用していただきたいと思います。
○名取医師 必要なときには当然していますので。
○森永座長 一言だけ、私どもの平成18年の報告書で、胸膜プラークと石綿によって起こる限局性の肥厚を胸膜プラークと定義したのです。つまり、結核によっても胸膜肥厚斑、限局性胸膜肥厚はできますので、そこで言葉はそのように使っていると。だから、我々がこれは石綿にしか起こらないと思うものを胸膜プラークと呼んでいるということで、おそらく先生の言っている意味は同じだろうと思うのですが、そこのところの誤解がないように、我々は胸膜プラークと以後、呼んでいるということですので、もし賛同していただけるのでしたら、胸膜プラークという言葉を使っていただけるとありがたいと思います。
○名取医師 用語の問題ですね。今後、参考にさせていただきます。
○森永座長 ありがとうございました。時間がオーバーしましたけれども、今日はまだほかに検討することがたくさんございます。先ほど話が出ました石綿小体の5000本に到達する年数で、とりあえず石綿の紡織と石綿セメントのほうは、5年で十分ではないかという話がありましたが、これでよろしいですかということです。これはよろしいですね。ただ、紡織は実質上、アメリカのノースカロライナのデータでも最近、長くて細い繊維が影響しているというTEMのデータで解析したレポートが出ていますから、これは十分にこれでいいのですが、石綿セメント製品については、かなり時代によって変遷してきているというところで、ではどういうふうに考えたらいいのかということがあります。それと同時に、胸膜プラークとばく露作業歴10年について、この10年も、将来もずっと10年でいいのかという議論があると思います。その辺について、原則として胸膜プラーク等があって、ばく露作業歴10年というのはいいわけですが、この10年をいつの10年でいくのかという議論がどうしても出てきますので、その点について、今日は事務局で資料5を提出していただきました。これについて委員の先生方から何かご意見はございませんか。
○神山委員 前回検討した石綿紡織作業あるいは吹付けに一律従事年数5年で原発肺がんということであれば、それで認めていいのではないかと。これに関しては認めた上で、それを最近の2010年、2011年までも認めるのかどうかと、そういう問題ですね。
○森永座長 石綿セメント製品は2005年でストップなのです。
○神山委員 製造は終わったと、だから要するに。
○森永座長 それまでの間を1980年代ぐらいまでと、特に最近ですね、2000年以降、どんどんよくなってきているわけです。
○神山委員 潜伏期間は、最低でも10年ぐらいを見ておかなければいけないという問題を考えると、資料5の法整備等の経緯にあるように、実際には作業環境のばく露濃度であるとか、あるいは最低でも各職場の作業環境濃度データが、全部網羅的に参照できるような体制があれば、それはそれで重要視して見るのがいちばんいいとは思います。我が国の作業環境は法規制の下で管理されているのですから。その表を見ていただくと、1988年に管理濃度2f/lという形で法規制がスタートしていまして、クロシドライトは0.2f/lです。ですから、この辺から後と前では、作業環境はずいぶん変わってきている可能性があります。
 翌年の1989年には、大気汚染防止法で製造工場の敷地境界で10f/lというのが決められて、これを超す値が検出された場合には、工場に立入って作業環境の改善命令が出せる体制ができています。吹付けは昭和50年に禁止になっていましたが、石綿紡織や石綿セメントといった作業に従事した人は、この前と後で大きく違うということで、この辺で1つの線引きができるのではないかと私は考えますが、いかがでしょうか。
○森永座長 今日配っていただいている資料2-5のイギリスは、参考までに言いますと1975年で切っています。1975年以前は、具体的に言うと29頁になりますが、これは皆さんのところにもあるのですね。これはたしかフリーでダウンロードできて著作権の問題はないので。
○大根中央職業病認定調査官 委員の先生にお配りしています。
○森永座長 そうですね。29頁のD8bのところで、1975年以前は5年で1975年以後は10年という表現になっています。ベルギーは今日は資料が用意できていませんが、1985年で切っています。日本は徐々によくはなってきていますが、1975年はまだまだ悪かったので、そこのところでそういうふうにしていれば、もっと被害は少なかったのでしょうけれども、いま神山委員がおっしゃったようなところで、同じような1年として数えるのは少し問題があるのではないかと考えられますけれども、ほかの委員の先生方、どうでしょうか。
○神山委員 1990年代の初めの1991年、1992年、当時の通産省が、スレートなどの低減化を積極的に進めたことも少しきっかけになったのだと思います。大体、1990年ぐらいから石綿輸入量は、徐々にと言ったほうが日本の場合はいいのかもしれませんが、30万トンレベルからずっと下がり始めました。それがもう1つ考慮する基準としてあると思いますので、それを追加させていただきます。
○森永座長 そうすると、建材にアモサイトの使用を禁止した1995年ぐらいが、いちばんいいかもしれないですね。ちょっとやさしく取ってね。
○大根中央職業病認定調査官 先ほどのベルギーですが、前々回、8回目の資料として提出しているものに記載があり、1985年以前に特定の石綿ばく露作業に10年以上の従事期間があることとされています。
○森永座長 先ほど神山委員がおっしゃったように、建材の石綿含有量をどんどん減らしていっているという事情もありますので、もし同じ作業を継続してやっているとすると、だいぶ下がってきていることは事実ですから、4分の1世紀前の認定基準をいま変えているわけですけれども、昔のものはいいとして、今後のものについては1/2でいくか別途考えるか、そこのところで。監督署のレベルでいくと1/2ぐらいで計算するのが、判断の仕方としてはいちばん早いのではないか。ほかの委員の先生方、何かご意見はございますか。
 もう1つは非定常作業です。製造業の10年と非定常作業の10年とは10年の意味が全く違うわけです。そこのところをどう評価するか。それについてご意見はございませんか。先ほどの管理濃度の2繊維というのは管理濃度であって、繊維・年数のときの個人のパーソナルの濃度とは違うという意味です。ここだけ誤解しないようにお願いします。基本的に石綿協会は管理濃度が2fだったら、パーソナルのサンプリング濃度は大体30%というデータを、今日付けた東論文で発表しています。それがすべて正しいかどうかは別にして、少なくとも管理濃度とパーソナルのサンプリング濃度とは値が違って、どちらかというと実際は低いのだということです。そういう理解でよろしいですね。
○神山委員 私もそれが真実かどうかわかりませんけれども、そういう論文、そういう考え方があるというのは聞いたことがあります。
○森永座長 ほかに、これは扱いをどうしますか。
○渡辺職業病認定対策室長 いま行われている議論は、1つはプラークがあって10年以上の従事歴があるという要件は、一応、残すことを前提として、その場合の10年の評価を、最近のばく露であれば少し変えるべきではないか。あるいは今度新しく追加しようとしている、特定作業については5年だけでいいという場合の5年の評価を、最近のばく露であれば、同じような5年という評価はできないのではないかと、そういう議論をしているということでよろしいですか。
○森永座長 はい、それでいいと思います。ただ、紡織と吹付けはほとんどないですから、あまり考慮しなくていい。だからそれはもういいのです。別に年代のことは考えなくていい。だけど石綿セメント製品の製造業は、一応、建材は2004年まで使われてきました。しかし、2004年と1980年とでは当然含有量も違うし、そこのところは同じ1年でも、昔の1年と2000年の1年とでは同じように評価できませんから、そこをどういうふうに考えるか。石綿セメント製品製造業について言えば、1990年か1995年から2004年までしかないわけです。ですから、そこは1/2で計算したらそれでいいのではないかという考え方もある。それはイギリスやベルギーと同じように考えたらいいわけです。
 もう1つ問題が残るのが定常業務でない作業で、頻度も違い、ばく露濃度も違う作業はたくさんあるわけです。それを一律10年で見るのは、25繊維・年数の考え方から言っても合理性に欠けると。だから、そこを他の方法でどう担保したらいいかということです。なかなかいい案も出てこないかと思いますが、これはひとつ宿題にしますか。
○渡辺職業病認定対策室長 その点に関して1つだけ申し上げたいと思っているのは、これは名取先生のご意見にもありましたけれども、ばく露の評価を何かの委員会を作ってやったらできるのではないかといったお話がありました。確かにドイツではそういう聴取りをする専門の人がいて、1日にどれだけの石綿作業をやったか、それを1週間のうち何日やったか、月に何日やったかということで、言ってみれば、ばく露作業の評価を時間単位でやった上で25繊維・年数を出すというのが、ドイツのやり方だと思います。ただ、何十年も昔の作業、30年、40年も昔の作業を時間単位で評価することを監督署の職員がやるのは、相当難しい作業になるだろうと思いますし、私どもの経験からして、例えば遺族の方の請求であるような場合に、どの程度石綿作業があったかを遺族の方から聴き取るのはほとんど不可能だと思います。これは例えば専門の委員会を作ったとしても、その詳細な聴取りをするのは不可能ではないかと考えています。そうすると、仮に個別に評価することをやったとしても、なかなかそこは難しいというのが今のところの感想です。そういう形で、細かくばく露量、ばく露時間を聴取りなどで出していくのは、相当難しいという気がしています。
○森永座長 過去のものについてはかなりしんどいけれども、これからのことについては、できるだけそういう方向でやらないと合理性に欠けます。ですから、そういう方向で検討することが事務方としてどこまでできるのかも含めて、次回までに検討していただくように、これもひとつ宿題にしましょうか。
○河合補償課長 ということは、結論としては、少なくとも当面は現行のプラーク+10年というのは残して、いま先生がおっしゃったように、非定常作業等については次回にもう1回議論するけれども、方向としてはプラーク+10年は残すという形のスタンスで、今日のところはいいというまとめでよろしいのでしょうか。
○森永座長 前の53年のときの考え方はそれなので、それは別におかしくはないのでサイエンスに基づいてやった。だけど、それは53年までに出た論文に基づいてやっているわけですから、そのときの10年というのは非常に高濃度ばく露なわけです。だからそれはそれでいい。過去のものについてはそれでいいのですが、最近あるいは今後のばく露についてはそれは適用できないから、そこのところはもう少し合理的な考え方を検討しましょうという理解です。それでよろしいですね。皆さん、そういうことでよろしいですね。
○河合補償課長 それを次回の検討会で少し議論するということですね。
○森永座長 はい。そこはとりあえず、行政でどう処理できるかということが問題になりますので、そこのところを一応検討していただくということです。
○河合補償課長 基本的にはよくわかりました。
○森永座長 それは宿題ということです。今まで10年というのはありましたけれども、これは潜伏期間の問題があります。中皮腫が潜伏期間最低10年で切っている。肺がんも最低10年は入れたらいいのではないか、入れるべきだという考え方があるわけですが、これは疫学的にはよく知られた事実なので問題ないですよね。どうですか。
○岸本委員 先ほど名取先生に挙げていただいた、岸本らの152人の石綿肺がんの検討というのが2010年に論文に掲載されました。それでいくと潜伏期間が47年という中央値で、中皮腫より若干長かったということがあります。それから潜伏期間も20年ぐらいの方がいちばん短かったということなので、10年というのは私のデータからもリーズナブルだと思います。
○森永座長 ほかの委員、どうでしょうか。
○三浦委員 肺がんが発生して臨床的に出てくるまでも、いま10年ぐらいかかるとされていますので、最初のばく露から最低でも潜伏期間10年というのは、私は設けたほうがいいと思います。
○森永座長 もう少し突っ込んで言うと、ばく露が多ければ潜伏期間が若干短くなるのですが、それでも10年というのは、今、ほとんどないですね。どうですか。
○岸本委員 私のデータは33.6%が石綿肺に合併した肺がんで、高濃度ばく露でありましたけれども、それでも潜伏期間が10年という症例はなかったですから、10年以上の潜伏期間というのはリーズナブルだと思います。
○森永座長 それは、少なくとも報告書に入れたほうがいいだろうと。
○渡辺職業病認定対策室長 いまの認定基準の中に、中皮腫も含めて潜伏期間要件は一切入っていません。もしかすると中皮腫も含めて必要なのかもしれないですが。
○森永座長 石綿小体5000本もそうです。5年前にばく露を受けて5000本あった例は、たぶん本当はもっと前にばく露があったのだろうと思いますけれども、少なくとも5年前のばく露ではないので、その場合は違うということになるわけです。少なくとも5年前のばく露で5000本あって肺がんになったけれども、それは5年前のばく露が原因かと言うと、それではないという意味でも10年というのは最低要るという理解だと思います。
○渡辺職業病認定対策室長 それはそうなのですが、先ほど森永先生は、中皮腫の場合は定めがあるとおっしゃったように思いますので。
○森永座長 ごめんなさい、なかったです。
○渡辺職業病認定対策室長 中皮腫も含めて石綿の疾病の関係で、今まで潜伏期間の要件は一切設けていなかった。肺がんについてはばく露期間10年という要件があるので、それが含まれる形になりますが、中皮腫の場合は、いま1年以上の業務ばく露があれば認められるので、もし作るとすれば、それも併せて作らなければいけないと、いま突然ですけれども、そう思ったのです。
○森永座長 中皮腫も入っていなかったですね。入れたほうがいいですか。ほかの委員の先生方、どうですか。救済法では10年も入っていないのですが、今日は環境省の方がおられないのであまり救済の話はしたくないのですけれども、日本国においてばく露したという条件が入っているのです。ですから、9年前によその国から来て中皮腫を発症した人については救済法の適用にならないと思うのです。それはなぜかと言うと、中皮腫の潜伏期間は10年以上だから、9年前に日本に来た人は日本国以外でばく露を受けたということになりますので、それは実質上裁判で争っても、たぶんもらえないことになるということがあるのです。ですから、今までの医学的な根拠としては、よほどのことがない限りひっくり返ることはないと思いますけれども、ほかの委員の先生方、どうですか。何か入れて具合が悪いことがありますか、肺がん、中皮腫。
○渡辺職業病認定対策室長 入れて具合が悪いことはないと思います。
○河合補償課長 中皮腫は、10年という何らかの医学的な報告があるのでしょうか。
○森永座長 今まで10年以下のものはないのです。あったというのはあるのですが、それは、どうもそれ以前にもばく露があったらしいという報告です。
○河合補償課長 先生の本か何かで、いちばん早いので2年とか3年というのがあったというのは。
○森永座長 いちばん短いのは13.5年です。
○神山委員 それは外国の例ですね。
○森永座長 いや、日本で。外国もそれぐらいで10年未満はない。
○渡辺職業病認定対策室長 ちなみにヘルシンキ・クライテリアには、肺がんの潜伏期間は10年以上と明確に書いています。
○森永座長 それから今日、議論しなければいけないのがプラークの話です。岸本委員に作っていただいた資料の説明がまだですね。
○岸本委員 先ほど名取先生も言われましたように、胸部単純写真で胸膜プラークと認められるというのはとても難しいと思ったので、私も前回質問をして何らかの基準を設けるべきだろうと申しました。この写真がとても悪くて見るのにちょっと耐えられないと思いますけれども、この3症例というのは、我々が労働者健康福祉機構で『アスベスト関連疾患日常診療ガイド』という本に記載している典型例ということです。非石灰化胸膜プラークが最初の例で、2例目と3例目は石灰化がある例です。もちろん胸膜プラークは片側性のものもあるのですが、通常は両側性のものであるということです。いちばん多く見られるものとしては、資料3にありますように両側横隔膜上に石灰化胸膜プラークがあるような症例です。このような例はとても検出しやすいということです。もちろん鑑別は陳旧性の結核性胸膜炎ですが、両側性の横隔膜頂上部に石灰化があると、アスベストばく露によるものでいいということになっています。
 その次の好発部位は、ここにありますように第7~10肋骨内側に厚みのある胸膜肥厚が見られる場合、典型的な胸膜プラークと診断を付けます。ただ、この場合はプラークのように見えるけれども、それが肋間筋内の脂肪であったり、ほかのものであったりということがあるものですから、CTで確認することが担保されれば、胸部レントゲン単純写真で認められるプラークとしていいのではないかと思います。典型例ということです。肉眼で見られる胸膜プラークを100%とすると、胸部単純写真で認められるプラークというのは、わずか30%にすぎないというふうに言われています。もちろんCTやHRCTでは検出率が上がるのですが、古典的なレントゲンによって認められるプラークというのは実際に少ないということも事実です。
 ただ、私が1989年、かなり昔ですけれども、『CHEST』というアメリカの雑誌に書いているのですが、当時はCTが自由に使えなくて胸部レントゲンで、それらしいものと、この基準のように間違いがない非石灰化胸膜プラークであるもの、もしくは石灰化胸膜プラークであるという、3群に分けて石綿小体数を測りました。そうするとデフィニットの非石灰化プラーク、もしくは石灰化プラークであれば、らしい程度で、はっきりしないものよりも石綿小体数が多いというデータが出ていて、スウェーデンのHillerdalにとても評価を受けました。もちろん、それよりもプロバブルな症例というのはあるのですが、このようなプラークをを担保する事が出来る例であれば、これだけで石綿肺がんを認めてもいいのではないかと思います。これは試案でご批判は多々あろうと思いますが、たたき台ということで作ってきました。以上です。
○森永座長 あとCTのほうの問題があるのですが、何かご意見はないですか。審良委員、何かありますか。
○審良委員 エックス線写真のほうは典型像というか、好発部位で取ってしまわないと仕方がないということですかね。石灰化だったら別にこの部位でなくても見えます。ひいらぎ状の形の石灰化がバーッと広範に出ていれば、部位とは関係なしにプラークと取れないかと。
○森永座長 ほかに出ているといったら、必ずこの辺も出ています。
○岸本委員 はい、大体。
○森永座長 片側の場合、肺尖部がきれいで、肋横角が潰れていない場合は片側でもいいという言い方はあると思います。しかし、そう言っても、結核性の胸膜炎の痕をみんなプラークとわざと呼ぶ先生もおられるからね。
○岸本委員 そうだと思います。ですから、ここまで明らかにすればということで書いてみました。1989年の私の『CHEST』の論文は、かなりストリクトに分類をして肺内石綿小体数をカウントしたわけですが、そうするとプロバブルとデフィニットの間に有意差が出たということでした。
○森永座長 一応、こういうことにして、ここでない場合は今度はCT画像でどう評価するかということを議論したいと思います。何かご意見はございますか。CT画像だと少なくとも両側もしくは多発のはずです。
○三浦委員 「両側横隔膜上」の「両側」というのは、両側にきれいに見えないことが多いので、もうちょっと石灰化プラークがフェイスオンで見えるとか、あるいは心膜とか、その辺も加えたほうがいいのではないかと思います。
○森永座長 心膜にあれば絶対ほかにありますから、それはいいです。片側を取る場合は、何かそういう結核性のものを否定する文言を入れなければいけないのですが、それがなかなか理解してくれないでしょう。そういう意味で両側にしておいて、では両側でない場合はバツかと言うと、ほとんどCTがありますからCTでどうなのかということでいいですね。
○岸本委員 そうしないと、いろいろ言うと基準が作れないので、一応、ざっくりということで、あとはCTで評価するという形がいいのではないかと思います。
○森永座長 CTの場合は、明らかな限局性の肥厚が両側もしくは片側で多発に認められるということにしないと、胸壁結核などの限局性胸膜肥厚を石綿のものと間違えます。審良先生、そうですね。だから両側あるいは片側多発というのは必要です。それでどうですか。
○三浦委員 必要なのですが、要するに石灰化している場合には両側横隔膜に限定してしまうと、それ以外のものは明らかな胸膜プラークでなくなってしまう。そうすると明らかな胸膜プラークをCTで担保するというのが順序ですけれども、CTを診て、ここは明らかな胸膜プラークだと逆に言わなければいけないことになると、それはまずいので、最初から胸膜プラークを両側横隔膜上の石灰化というふうに限局しないほうが、私はいいと思います。
○森永座長 片側の場合、何か条件を付けないと。
○三浦委員 両側横隔膜上に必ずしも石灰化は見えないことがあるので、要するに基本は両側です。横隔膜上でなくてもどこか両側に石灰化プラークがあればいいと。横隔膜はドームの上ですよね。
○岸本委員 いま私が言っているのは、両側横隔膜上に石灰化胸膜プラークがあるけれども、第7~10肋骨内側も横隔膜も含めてという意味で私は言っていたのです。
○森永座長 1)、2)はorでしょう。
○岸本委員 そのとおりで、非石灰化胸膜プラークだと第7~10肋骨の内側にしか典型的なものは見えないけれども、石灰化の場合はここにも石灰化が見えるということで、この3番目の症例の石灰化胸膜プラークは、そこにも石灰化があるし横隔膜上にも石灰化があるということで、それで提出をしたということです。
○森永座長 ここは、1) or 2)以外の場合は次はCT画像で評価しましょうと、こういうことでしょう。
○岸本委員 そうなのですけれども。
○森永座長 明らかに単純で、これだともういいのではないですかと、こういう条件で書いているのでしょう。
○岸本委員 そうです。ただ、非石灰化は第7~10肋骨内側ですけれども、石灰化は横隔膜上であっても7~10肋骨の内側でもいいですよという意味で、私は症例は出しています。ですから症例2、症例3は横隔膜上にも石灰化がありますが、7~10肋骨のところの内側にも石灰化があるものを2種類出しています。これは写真が悪すぎて見えませんけれども。
○森永座長 1)は両側横隔膜上に石灰化プラークの陰影が検出されること。2)は両側側胸壁の第7~10肋骨内側に非石灰化胸膜の非対称性の陰影が認められること。やはり「非対称」ということを入れたほうがいいと思いますが、どうでしょうか。
○岸本委員 そうですね。
○森永座長 プラークでなくてプラークの陰影が認められる、画像ですからね。単純のフィルムで認められない場合は、今度、CTで評価するわけですから。
○三浦委員 1/4。
○森永座長 これはほかの条件でクリアできなくても、これでも拾いましょうと。この考え方は環境省がどう考えるかにもよりますけれども、これは職歴がなくても評価できる非常にいい基準だと私は思っているのです。それは時期尚早だとして延ばすよりも、私はこれだけのことが言えるのだったらしたほうがいいと、座長としては個人的にそう思っています。ほかにCT画像の場合はどういう表現にしますか。先ほど言ったような言い方でいいですか。両側又は片側複数、やはり単発ではよくないですよね。具体的にどういうふうに表現するかというのは、最後の報告書のところでどう表現するかの検討をしなければいけないですから、一応、今日はこういう議論をしたので、とりあえず今日出てきた報告書案を検討し、次に今日検討した話を盛り込んで修正するということで話を進めたいと思いますが、よろしいですか。だから今日出てきた中間案は、あくまでも今日までの議論を踏まえてどういうふうに直すかという議論を、いまから20~30分でやりたいと思います。そういう進め方でよろしいですか。
○由佐委員 レントゲン写真での胸膜プラークのところで確認ですけれども、岸本先生、2)のところで非石灰化胸膜プラークが認められるということですが、非石灰化の胸膜プラークでもいいし石灰化していてもいいと。
○岸本委員 はい、そういうことです。
○由佐委員 ですから、これは石灰化あるいは非石灰化、両方よろしいということですか。
○岸本委員 そういうことです。
○由佐委員 それから、先ほど審良先生がおっしゃいましたが、よく言われるのはレントゲンのフェイスオンの場所で、ひいらぎ状の石灰画像というか不整型の地図状というか、そういった石灰画像があるというのも、かなり胸膜プラークを示唆する所見と考えていいのではないかと思います。それだけ単独で1個あったというのはちょっときついと思いますが、そういうのが複数あるとか両側あるとか、それも入れていいのではないかと思いますけれども、どうでしょうか。これは次回まで、また検討してもいいかと思いますけれども。
○森永座長 入れなくていいと思います。そういう例はほかにもありますからね。逆にCTでは必ず確認できます。しょっちゅうプラークを見ている人はわかるのですが、そうでない人に、ひいらぎ様の石灰化の影をというのは、理解できていない先生方にそれを言うと余計混乱すると私は思います。
○岸本委員 座長の言うとおりだと思います。由佐先生などはよくわかっていらっしゃる
方なのでいいのですが、一般医の先生方に我々が指導していると、わかってくれない方が半分程度いると名取先生も言われていましたが、いちばん代表的なものだけを掲載しておいて、あとはうまくCTでフォローする形がいいのではないかと思います。
○森永座長 中間案の検討に移りたいと思いますが、よろしいですか。資料6です。
○大根中央職業病認定調査官 先生、その前に、先ほどの潜伏期間の関係で中皮腫の10年というのは、いかがしますか。
○森永座長 私は入れたらいいと思っているので、ほかの委員も反対がなかったので入れる方向で。
○渡辺職業病認定対策室長 ヘルシンキ・クライテリアのコンセンサスレポートの中にも、中皮腫も10年というのが入っています。肺がんと同じような形で入っていますので、肺がんをやるのであれば中皮腫も同じようにやったほうがいいかと思います。
○森永座長 その方向で最終の案を作ってください。時間的に終わるのが遅くなると思いますが、ここまでやってしまいましょう。
○大根中央職業病認定調査官 資料6の肺がんの補償に対する考え方について、報告書の中間案です。最初から読み上げさせていただきます。
○森永座長 わかっているところは飛ばしたらいいから、とりあえず読んでください。
○大根中央職業病認定調査官 「はじめに」は省略させていただきまして、2から入らせていただきます。2 石綿ばく露と肺がん発症との因果関係について。肺がんについては、石綿に特異的な疾患である中皮腫と異なり、様々な要因があることは知られている。中でも喫煙は、肺がんの最大要因であり、世界保健機関(WHO)の「世界がん報告 WORLD CANCER REPORT(2003)」は、男性の肺がんの80%以上は喫煙によって発症すると述べている。Albergら(2003)は、アメリカの男性肺がんの90%は能動喫煙であり、職場の発がん物質へのばく露はおよそ9~15%であると述べている。石綿を原因とする肺がんの割合については、定まった見解はないものの、喫煙に次ぐ要因であると思われている。Albinら(1999)は、ヨーロッパの肺がんの10~20%が石綿によるものと推測している。他方、Darntonら(2006)は、イギリスの1980~2000年の男性肺がんの2~3%が石綿関連であろうと推測している。
 また、数多くの信頼できる疫学調査から、肺がんの相対リスクと石綿への累積ばく露量との間には、累積ばく露量が増えれば発症リスクが上がるという量ー反応関係があることも明らかにされており、これらの知見を否定する有力な見解は見当たらない。続けてよろしいですか。
○森永座長 2倍のリスクは、皆さんが合意されているからいいです。
○大根中央職業病認定調査官 よろしいですか。4 肺がん発症の原因が石綿ばく露であるとするためのばく露量の程度。平成18年報告書は、肺がんの発症リスクが2倍となる石綿ばく露量について、ヘルシンキ・クライテリアやHendersonらの報告に基づき、石綿繊維25~100本/ml×年の石綿ばく露量がこれに相当し、その最小値である25本/ml×年とするのが妥当であるとしている。
 今回、発症リスクが2倍になる石綿ばく露量について、最近の文献を改めて精査したところ、オーストラリア職業医学会(Australian Faculty of Occupational Medicine)の職業がん作業部会(2003)は、石綿の種類によって発症リスクが2倍になるばく露量は異なるとして、角閃石系石綿のみのばく露の場合は21本/ml×年、クリソタイルのみのばく露の場合は43本/ml×年、角閃石系石綿とクリソタイルの混合ばく露の場合は21本/ml×年と報告している。
 また、ヘルシンキ・クライテリアのまとめに参加していたHendersonら(2011)の最新の著書では、相対リスクが2倍となるばく露量として、角閃石系石綿のみのばく露の場合は20本/ml×年、クリソタイルのみのばく露の場合は200本/ml×年、角閃石系石綿とクリソタイルの混合ばく露の場合は25本/ml×年をヘルシンキ・クライテリアの修正案として提案している。
 英国政府主任科学顧問会議(Government Chief Scientific Adviser meeting)でも角閃石系石綿とクリソタイルでは、中皮腫ほどではないとしても、肺がんの発症リスクに差があると報告されている。
 しかしながら、諸外国においても、肺がんの発症リスクを判断するに当たり、石綿の種類ごとに区分して発症リスクが2倍となるばく露量の基準を個別に設定している国は見当たらない。その理由は、従事した作業からばく露した石綿の種類を特定することが困難であるという事情によるものと考えられる。日本においてもそのような事情は同様である上、純粋な角閃石系石綿のみ、あるいはクリソタイルのみのばく露は、ごく限られた作業でしか想定されないことや、クリソタイルのみのばく露については、発症リスクが2倍になるばく露量に関する見解に大きな幅がある。続けてよろしいですか。
○森永座長 いや、ここはご議論がございますか。今日付けていただいた資料2-6ですが、これは2011年に出版されている本です。Hendersonが石綿の種類別に繊維・年数は違うというのを、資料2-6の目次で言うと6.1、6.15で述べているということです。
 石綿の種類を特定することが困難であるという事情というのもありますが、実質はほとんどが混合ばく露だということもあるのです。神山委員、そうですよね。
○神山委員 そうです。
○森永座長 実質はほとんど混合ばく露なのです。そういう理解でいいですよね。だからそれも入れたほうがいい。書いてありますね、これもあるということなのです。ちょっとそこは、ちょこちょこっと直せばいいだけの話です。ほかにご意見はございますか。次にいってよろしいですか。では5です。
○大根中央職業病認定調査官 5 発症リスクが2倍になるばく露量に相当する指標。発症リスクが2倍になるばく露に相当する指標としては、石綿肺所見、胸膜プラーク所見、肺内石綿繊維数、石綿作業ばく露従事期間があり、それぞれ次のように考えられる。
 (1)石綿肺所見の指標。平成18年報告書は、Roggliらの報告、Wilkinsonの報告及び日本の石綿肺認定患者を対象とした疫学調査の結果に基づく報告から、石綿ばく露作業従事歴のある者の石綿肺(じん肺法上の第1型以上)は、肺がんリスクを2倍以上に高める所見であるとしている。
 最新の文献の検証においても、Hendersonら(2011)は、石綿肺は重症度に応じて肺がんリスクを2~5倍以上上昇させるとしており、他方、当該考え方を否定するような知見は得られていないことから、石綿ばく露作業従事歴のある者の石綿肺(じん肺法上の第1型以上)は、肺がんリスクを2倍以上に高める所見であるとする考え方は、今後においても維持するのが妥当である。
○森永座長 ここは読まなくてもよかった。
○大根中央職業病認定調査官 (2)胸膜プラーク所見の指標。胸膜プラークは、そのほとんどが石綿ばく露のみによって発生するものであり、石綿ばく露の医学的な指標となるものの、低濃度のばく露でも発生するとされている。
 平成18年報告書は、画像上の胸膜プラークがある人の肺がんの発症リスクは、これまでの疫学調査では1.3倍~3.7倍と幅があり、調査対象集団が最も大きいHillerdalのコホート調査の結果では1.4倍であることから、何らかの胸膜プラークが認められることのみをもって、肺がん発症リスクが2倍になる石綿ばく露があったとはいえないとしている。
 一方、ドイツでは一定の広がりや厚みがある胸膜プラークが認められる場合を認定要件の一つに掲げているが、その他の国において単独の要件としているところは見当たらない。
 今回、胸膜プラークと石綿ばく露量との関係についての研究報告を検証したところ、廣島、由佐ら(2011)が行った、胸膜プラークと石綿小体濃度の関係についての症例研究(161例)においては、エックス線写真によりプラークとみなされる陰影が認められ、かつ、CT画像によって当該陰影が胸膜プラークとして確認される事例(31例)については、その約90%(28例)が石綿小体数5000本以上であったと報告している。また、左右いずれか1側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範に描出されたスライスで、プラークの範囲が胸壁内側の1/4以上の事例(50例)については、その約74%(37例)が石綿小体数5000本以上であったと報告している。
 また、Parisら(2009)は、過去に石綿ばく露作業に従事した者5,545人を対象にHRCTで胸膜プラークを調べた結果、胸膜プラーク有所見率は、ばく露開始からの期間及び石綿累積ばく露量とそれぞれ個別に相関関係が認められたと報告している。
 これらの結果は、画像上のプラークの所見やその範囲と石綿ばく露量との間の相関関係の存在を示唆している。本検討会は、最近の胸部CTを用いたこれらの調査結果を重視して、以下の(1)又は(2)の要件を満たすものは、肺がん発症リスクが2倍になる石綿ばく露があったものとみなして差し支えないものと考える。
 (1)エックス線写真によりプラークの陰影が認められ、かつ、CT画像によって当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの。
 (2)左右いずれか1側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範に描出されたスライスでプラークの範囲が胸壁内側の1/4以上のもの。
 この「プラークの陰影」とは、~。ということで、これが先ほどの議論の部分です。
 なお、業務起因性の要件としては従事年数を必要としない場合であっても、労災保険給付の要件として、労働者としての石綿ばく露作業従事歴が1年以上あることを付加すべきである。
○森永座長 ここまで、よろしいですか。2倍のリスクのところはずっといってください。
○大根中央職業病認定調査官 (3)肺内石綿繊維数等の指標。ヘルシンキ・クライテリアは、肺がんの発症リスクを2倍にする所見として、
 (1)乾燥肺重量1g当たりの石綿小体5000~15000本。
 (2)気管支肺胞洗浄液(BALF)1ml中の石綿小体5~15本。
 (3)乾燥肺重量1g当たりの角閃石繊維200万本(5μm超)又は500万本(1μm超)、の角閃石繊維を示している。
 平成18年報告書は、石綿繊維数についてヘルシンキ・クライテリアの数値をそのまま全ての石綿繊維に採用し、実際の繊維数の評価に際しては、繊維の種類別かつ繊維長別(5μm超、1μm超)の全ての石綿繊維の計測値を採用してきた。また、石綿小体数については、乾燥肺重量1g当たり5000本から15000本までという幅のある値のうち最小本数を採用して、乾燥肺重量1g当たり5000本以上、気管支肺胞洗浄液中5本以上が妥当であるとしている。
 ヘルシンキ・クライテリアでは、クリソタイル繊維についてはクリアランス率が高いため、角閃石系石綿繊維と同じように肺内に蓄積することはないとして、上記(1)の繊維数は、角閃石系石綿についてのみ適用するものとされ、また、石綿小体数については、角閃石系石綿とクリソタイルを区別するものではないが、クリソタイルについては、石綿小体を形成しにくい性質を有するとされている。
 こうした中、肺内の石綿繊維数や石綿小体数を指標とする要件に関して、平成18年報告書は、角閃石系石綿繊維とクリソタイルを特段区分していない。
 今回、改めて角閃石系石綿繊維とクリソタイルは区別して取り扱うべきであるかを検討した。
 まず、クリソタイルのクリアランスの程度に関しては、それを定量的に分析した文献は見当たらない。これは、クリアランスの程度を試算することは、特殊な条件を満たす事例、すなわちクリソタイルと角閃石系石綿に同時にばく露しており、かつ、クリソタイルと角閃石系石綿の量比がわかっている事例においてしかこれを行うことはできないためであるが、この条件を満たす世界的にも数少ない事例に基づきこれを試算した神山の結論は、ばく露から40年で1/2~1/5に減少するとしており、この結論は、評価可能なものとして類例をみないことから、意義があるものである。
 他方、クリソタイルの肺がん発症リスクは、角閃石系石綿と比較して低いとする報告が多数なされ、Hodgson及びDarntonは1/10~1/50であるとし、Berman及びCrumpは1/6~1/60であるとし、GCSA会議では1/10であるとしている。これらの報告をまとめると、クリソタイルの肺がん発症リスクは、角閃石系石綿繊維と比べて1/10以下の低いものと考えられる。そうすると、クリソタイルについては、クリアランスの影響が最大に現れたとしても、肺がん発症リスクの低さを考慮すれば、角閃石系石綿繊維以上の肺内繊維数や小体数がなければ発症リスク2倍のばく露量に至らないという結果が導き出されることとなる。
 これらを総合的に勘案し、石綿ばく露労働者の幅広い救済という観点も考慮して、クリソタイルについて角閃石系石綿と同じ基準で認定するのは合理的なものであると判断する。
 ただし、石綿小体は、肺の各葉で形成されやすさが異なる特性やクリソタイル繊維では形成されにくいという特性、さらには石綿小体数計測の方法等を考慮する必要がある場合もあることから、これまでと同様、石綿小体数が5000本未満であることをもって直ちに業務外とせず、職業ばく露が疑われるレベルである乾燥肺重量1g当たり1000本以上ある事案については、本省の検討会で個別に審査する方法を継続するのが妥当である。
 なお、石綿小体数の基準としている値は、標準的な方法により計測された結果を前提とするものであり、日本では、独立行政法人労働者健康福祉機構、同環境再生保全機構が発行する「石綿小体計測マニュアル(第2版)」に示された方法がこれに当たると認められるため、それ以外の方法により計測されたものについては、改めてマニュアルに示された方法に基づいて計測をし直すことにより認定の公平性が確保されると考える。
 (4) 石綿ばく露作業従事期間の指標。石綿ばく露作業従事期間のみで肺がん発症リスク2倍と判断するためには、ドイツのBK-Report(2007)で示されているように、年代別の作業ごとのばく露濃度のデータが必要となるが、日本にはそのようなデータが存在せず、また、ドイツとは作業方法や作業環境等が全く同じとは限らず、ドイツのデータをそのまま採用することはできないことから、平成18年報告書では従事期間のみの基準の設定は見送られた。
 今回、平成18年2月9日から平成22年11月30日までに決定した石綿による肺がんの全事案3030件のデータを収集・分析し、石綿ばく露作業従事期間のみで肺がん発症リスク2倍となる基準が設定できるかを検討した。
 収集したデータのうち、石綿小体計測が行われた事例について、労働者が従事していた作業の種類ごとに分類の上、各事例の石綿小体数が5000本に到達する期間を推定して比較したところ、「石綿糸、石綿布等の石綿紡織製品製造作業」の従事者9例のうち、8例が5000本到達期間4.13年以下、「石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、石綿円筒等のセメント製品の製造工程における作業」の従事者6例のうち、5例が5000本到達期間3.44年以下、「石綿の吹付け作業」の従事者9例はすべてが5000本到達期間7.34年以下であり、また、そのうち8例は3.13年以下という結果を得た。
 この結果から、以上の3つの作業に従事した者については、その期間が5年程度あることが確実である場合には、発症リスクが2倍以上となる石綿ばく露があったものとみなすことに合理性があると考える。
 一方、それ以外の作業の従事者については、石綿小体数が5000本に到達する期間に大きな差が認められ、作業内容や従事頻度により累積ばく露量が大きく異なることが改めて示唆されており、石綿ばく露作業従事期間によって累積ばく露量を推定することは、現在までに日本で得られた知見からは適当ではない。
 上記の3作業以外については、さらに事例が集積された時点で、再検証の必要があると考える。
 ※各事案について石綿小体計測数を当該作業の従事年数で割った単位年当たりの石綿小体数から算出。例:石綿小体計測数10000本、作業従事年数20年の場合、単位年当たり石綿小体数は10000本/20年で500本、したがって、5000本到達年数は10年となる。
○森永座長 ご意見、ございませんか。今日議論したプラークと10年は、53年のときの考え方はそのまま引き継ぐと。しかし、時代の変遷のことについては検討を要するのと、作業内容、頻度が定常でないものについてはどう扱うか検討していただいて、それを次回に提案として出していただくということで、よろしいですか。ほかに意見はございますか。
○宮本委員 4頁の下の段に要件の(1)と(2)があって、(2)の「左右いずれか1側の胸部CT画像」云々とありますが、その頭に胸部エックス線写真でプラークの陰影が認められない場合は、こうこう、こうであるというふうにしないと、(1)と(2)で混乱するかなという気がしたのですが。
○森永座長 「(1)又は(2)の要件を満たすもの」。
○岸本委員 (1)又は(2)、どちらかでいいということだから、いいのではないですか。
○森永座長 ここは、エックス線写真により「明らかな」という言葉を入れていただいて、この明らかなプラークの陰影とはということで修文して出しましょう。今日議論したのを採用してそこを修正すると、それでよろしいですね。ほかにご意見はございますか。では6のその他に検討のところです。
○大根中央職業病認定調査官 6 その他に検討した事項。(1)びまん性胸膜肥厚に併発した肺がんについて。ヘルシンキ・クライテリアでは、両側性のびまん性胸膜肥厚は、中度又は高度のばく露が原因であることがあるため、肺がんの原因特定の観点から考慮すべきであるとし、ドイツとベルギーにおいては、両側性のびまん性胸膜肥厚を単独の認定要件としている。
 今回、改めてびまん性胸膜肥厚患者の石綿ばく露量に関しての定量的な分析結果を報告する文献を検索した。
 Gibbsらは、石綿ばく露歴のあるびまん性胸膜肥厚の症例13例について石綿繊維濃度の計測をし、その結果、最少の症例で622万本、最多の症例で3億2722万本あったことを報告している。
 これらの報告等から、びまん性胸膜肥厚を発症した者は、肺がん発症リスク2倍以上の累積ばく露量があるとみなすことは合理的であると考えられる。したがって、既にびまん性胸膜肥厚を発症して労災保険給付を受けた者が、原発性の肺がんを併発した場合には、当該肺がんについても石綿ばく露によるものと認めるのが妥当である。
 (2)微小石綿肺について。ドイツにおいては、微小石綿肺を認定要件の一つに掲げているところであるが、微小石綿肺の所見と肺がんの発症リスクに関しては有力な文献等は見当たらず、直ちに認定要件に加えるには知見が不足していると考える。
 ただし、石綿によると考えられる肺組織の僅かな繊維化が認められる事案は、一定の石綿ばく露があったことを示唆するものであり、病理診断に基づき微小石綿肺の所見が確認できるものについては、本省の検討会における個別の事案の検討に際し、それを参考的な所見として活用できるのではないかと考える。以上です。
○森永座長 ここのところは、どうですか。微小石綿肺のことはBK-Reportに書いてありますね。
○渡辺職業病認定対策室長 BK-Reportに微小石綿肺という言葉があって、これは8回目に議論したかと思いますが、微小石綿肺がどういうものかというのが今一はっきりしないと言いますか、BK-Reportを見ますと、僅かな繊維化があって、しかし、石綿肺と定義されるようなものではないけれども、病理診断によってそこが確認されるといった内容だったかと思います。そういったものを微小石綿肺と呼ぶという定義は、それでいいかどうか。
○森永座長 ここはいろいろ議論があるのです。
○廣島委員 顕微鏡で見た石綿肺の所見というものを言っていると思いますが、それはレントゲンで見た石綿肺の所見とは全く違うものであり、非常に軽微なものです。気管支中心に繊維化が始まって、その周囲の肺胞域に繊維化が及ぶというものです。論文が2010年に出ていますが、石綿小体がそこに存在するべきだというふうに書いてあり、スライドガラスですね、1平方センチ当たり2本以上の石綿小体が存在する。要するに繊維化を起こす原因はいろいろありますので、それが石綿によって起きたという証拠を示すものが石綿小体であると、2010年の論文には書いてあります。
○森永座長 これはTLBとかで、そういうのが得られた時にということはあると思いますが、そういうことがされないまでも認定がされるような条件を、いま議論していますので、そこまでは今のところいいかなという意味のほうが強いと私は思っています。そういう理解でいいですよね。
○渡辺職業病認定対策室長 そうですね。
○森永座長 ただ、びまん性胸膜肥厚は、イギリスは外しているのも事実なのです。今日の資料2-5の19頁を読むとそういうことが書いてありますから、イギリスはそうしていると。一応、イギリス、ベルギー、ドイツは何とか資料が手に入って参考にしているということなので、イギリスはこうだというのは書いておいたらいいとは思います。時間がオーバーしましたが、今日議論したことで宿題もありました。次回、最終の報告案を決めたいと思いますので、次回までに宿題について準備して次回に決めるという段取りでいきたいと思います。今日はこれで終わりたいと思いますが、よろしいですか。日程については事務局で早急に調整をお願いできますね。
○斉藤職業病認定業務第二係長 日程につきましては、追って調整させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○森永座長 それでは今日は、これで終わりにしたいと思います。皆さん、長時間、ご苦労さまでした。ありがとうございました。


(了)

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