ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 社会保障審議会(年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会)> 第3回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録
2011年12月19日 第3回 社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録
年金局
○日時
平成23年12月19日(月)15:00~17:00
○場所
厚生労働省9階 省議室(公園側)
東京都千代田区霞が関1—2—2
○出席者
吉野 直行 (委員長) |
植田 和男 (委員) |
小塩 隆士 (委員) |
小野 正昭 (委員) |
駒村 康平 (委員) |
武田 洋子 (委員) |
西沢 和彦 (委員) |
山田 篤裕 (委員) |
米澤 康博 (委員) |
鹿毛 雄二 (前企業年金連合会常務理事) |
山田 正次 (ノーザン・トラスト・グローバル・インベストメンツ株式会社 エグゼクティブ・アドバイザー) |
○議題
(1)市場関係者や機関投資家などの有識者等からのヒアリング
(2)経済前提の設定に用いる経済モデルについて
○議事
○吉野委員長 それでは、時間になりましたので、ただいまから第3回目の「年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」を開催させていただきたいと思います。
委員の皆様には、御多忙の中お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。
本日の出欠状況でございますけれども、川北先生から御欠席という御連絡をいただいております。
それでは、議事に入らせていただきたいと思いますので、カメラの方は御退席をよろしくお願いいたします。
(報道関係者退室)
○吉野委員長 まず事務局から資料の確認をよろしくお願いいたします。
○原口大臣官房参事官 それでは、資料の確認をさせていただきます。
本日の資料は、議事次第、座席表の後ろに資料1-1「有識者ヒアリングについて」という1枚の紙でございます。
資料1-2「公的年金運用に関する若干の検討課題」。鹿毛様からの提出資料でございます。
資料1-3「年金積立金運用について」。山田様からの提出資料でございます。
資料2-1「経済前提の設定に用いる経済モデルについて〔指摘事項、検討事項等〕(第2版)」でございます。
資料2-2「経済前提等に対する各方面からの諸意見等(第2版)」でございます。
参考資料1「機械的に労働力率の前提を『労働市場への参加が進まないケース』に変更した場合の試算(平成21年財政検証に基づいた試算)」。1枚の紙でございます。
参考資料2「提言型政策仕分け(平成23年11月20~23日開催)について」でございます。
お手元にございますでしょうか。御確認をお願いいたします。
ここで、お集まりいただいた委員の皆様には大変恐縮なのですが、議事次第にある議事の順番を入れ替えさせていただき、議事「(2)経済前提の設定に用いる経済モデルについて」の議論を先にお願いし、その後で「(1)市場関係者や機関投資家などの有識者等からのヒアリング」を行わせていただきたいと思います。後ほど御紹介いたしますが、本日ヒアリングにお越しいただきました鹿毛様、山田様におかれましても、お忙しいところ、急な予定変更で申し訳ございませんが、お許しください。
○吉野委員長 それでは、今、お話がありましたけれども、今日は順番を逆にいたしまして、最初に「(2)経済前提の設定に用いる経済モデルについて」から始めさせていただきたいと思います。
それでは、事務局から御説明をよろしくお願いいたします。
○安部数理課長 数理課長の安部でございます。
議事(2)でございますけれども、順番を入れ替えさせていただきまして、御説明を申し上げます。
使います資料ですが、資料2-1をごらんいただきたいと思います。これは前回1回まとめた資料でございます。経済モデルにつきまして、さまざまな御意見をいただいておりますものをまとめているものでございますが、前回、更に幾つかの御意見をいただきました。それをこの資料の中に順次追加をして、整理をいたしております。今回追加いたしました部分は、アンダーラインを引いた部分、これが前回のこの委員会で御意見をいただいたものをまとめたものでございます。
1ページ目でございますけれども「?経済モデルの建て方に関して」幾つか御意見をいただきました。1ページから2ページにかけて、追加しているところが2か所ほどございます。現在、使っておりますモデルは、海外に比べて精緻にできていると評価できますが、まだ改良の余地ができるのではないかいった御意見とか、逆に2ページ目には、そうは言いましても、変数を増やして細かくしていって、いいものになるかというところは、必ずしもそうではない面もありますので、その辺りのところをどういうふうに考えていくのかといったことが、経済モデルの立て方に関しての御意見でございます。
2ページ目の「?労働力の設定に関して」。これは2つ目のポツが追加でございますけれども、労働力率の設定が年金財政にどの程度影響を与えているのかといったことも検証すべきではないかという御意見でございます。これにつきましては、後ほど参考資料を用意いたしておりますので、こちらの方で簡単に御説明をする予定でございます。
3ページから4ページにかけて「?長期の経済前提に関して」でございます。主として物質上昇率、賃金上昇率、運用利回りという3つでございますけれども、それぞれにつきまして、前回いただきました御意見を追加いたしております。
5ページ目でございます。こちらの方は「?足下の経済前提の設定について」でございますけれども、現在は内閣府による見通しを当面5年から10年間の設定として用いているわけでございますが、別の考え方としては、GPISが既に保有している債券がございます。そういった債券の利率の実態なども考慮して設定すべきではないかといった御意見を前回いただいたところでございます。
「?その他」でございますけれども、追加しておりますものは2つほどございますが、どのような経済前提であるか。年金財政の持続可能性といった観点から、ストレステストといった検証も必要ではないかといった御意見とか、今、こういうふうに専門委員会で御議論いただいておりますけれども、その議論の結果を年金部会にもわかりやすく説明する必要がある。そういった御意見を前回いただいたところでございますので、それを追加して整理をいたしたものが、資料2-1でございます。
続きまして、資料2-2でございますけれども、これも従来こういう形で整理しておりまして、経済前提等に関する各方面からさまざまな御意見をいただいております。これをこういう形で整理いたしております。
今回追加をいたしましたのは、5ページから6ページにかけてでございます。これは先月、行政刷新会議の中で提言型政策仕分けというものが行われまして、その中で年金制度の安定的な年金財政運営等といったことが1つテーマとして設定されまして、議論が行われました。そこでいろいろと御指摘をいただいた点を5ページと6ページにまとめたものでございます。
5ページ目の「経済前提の設定について」は、大体従来から言われている内容にほぼ沿ったような、同様の内容でございます。基本的に平成21年の財政検証の経済前提の水準といったものについて、甘いのではないかといった御指摘などがございました。
6ページ目には「財政検証を実施するタイミングについて」「当専門委員会のあり方や議論のスケジュールについて」の御意見もございました。
下半分の専門委員会との関係では、第三者機関のようなところが検討すべきではないかといった御意見もありましたけれども、私どもの認識といたしましては、まさにこの専門委員会が第三者の立場で専門性、中立性といったものを基に御議論いただく場だと認識しておりますので、ここでの御指摘とは少し違いがあるとは考えておりますが、そういった御指摘があったということでございます。
今回追加いたしましたのは、5ページ、6ページでございまして、それ以外は前回御説明したとおりでございます。
更に参考資料1でございます。これは先ほど御説明いたしました、前回御指摘いただきました点のうちの1つの労働力率の設定というものが、年金財政にどのような影響を与えているかということを示す1つの資料でございます。これは一番下の出典にございますように、平成21年5月の社会保障審議会年金部会に資料として提出いたしましたものでございます。
平成21年財政検証では、労働力率につきましては、労働市場への参加が進むという前提で行っているわけですけれども、この元となりましたJILPTの将来の労働力需給の推計は3通りケースを想定しております。その中の一番労働市場への参加が進まないケースで財政検証を行った場合、将来見込みがどうなるかといったことを機械的に計算したものでございます。
資料といたしましては、一番下の(2)をごらんいただきたいと思いますけれども、最終的な所得代替率に与える影響のところでございますが、平成21年財政検証では、最終的な所得代替率を50.1%と見込んでおるわけです。仮にですけれども、労働市場への参加が進まないケース、具体的には年齢、階級別、性別の労働力率というものがほとんど変わらないという前提を置いて計算をした場合ですが、最終的な所得代替率は、ここにありますように0.8~1ポイント程度低下するという見込みとなっております。法律上は50%を下回ると見込まれる場合には、別途何らかの措置を講ずるとなっておりますけれども、その規定を無視いたしまして、機械的にマクロ経済スライドの適用を続けた場合、どの水準までになるかということを推計いたしました結果ですが、ここにありますように、約49%程度という見込みとなる。ですから、労働力率の前提の影響というのが約1ポイントぐらいあることを示した資料でございますので、御参考までに本日提出をさせていただきました。
参考資料2は、先ほど申しました、先月行われました提言型政策仕分けについての説明と、最終的な答申といいましょうか、提言内容といったものをまとめたものでございますので、御参考までにごらんをいただければと思います。
簡単ではございますが、資料の御説明は以上でございます。
○吉野委員長 安部数理課長、どうもありがとうございました。
それでは、最初にモデルに関しまして、何かコメントあるいは御意見がございましたら、どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。
駒村委員、どうぞ。
○駒村委員 参考資料1、今、本体資料が手元にないので、どこまで細かく出ているか、また後で教えてもらいたいんですけれども、被保険者数の変動の効果というのは2つルートがあって、1つは経済成長そのものに与えるルートと負担者の構成に与えるルートと2つあると思うんですが、これはそれぞれ何パーセントぐらいずつ影響を与えているんでしょうか。
○吉野委員長 安部数理課長、ここでお答えいただけますか。もしわかれば、今、お願いして、そうでなければ後でお願いします。
○安部数理課長 当時作成いたしました資料は、これがすべてでございます。その内訳については調べまして、また御説明を申し上げたいと思います。
○吉野委員長 ほかに事務局に対する御質問があればいただきたいと思います。今の段階でなければヒアリングをさせていただいて、また後で戻ってきてもよろしいでしょうか。
それでは、今日はお二人に来ていただいておりますので、ヒアリングが終わった後で、またモデルも含めて御議論していただきたいと思います。
まずお一人は、前企業年金連合会常務理事の鹿毛雄二様。続いて、ノーザン・トラスト・グローバル・インベストメンツ株式会社の山田正次様。このお二人から御報告いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
失礼いたしました。追加の説明をしていただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
○原口大臣官房参事官 それでは、資料1-1をごらんいただきたいと思います。
本日の有識者ヒアリングにつきまして、委員長と相談の上、1にございます、前企業年金連合会常務理事の鹿毛雄二様、ノーザン・トラスト・グローバル・インベストメンツ株式会社エグゼクティブ・アドバイザーの山田正次様にお願いをしております。
鹿毛様は年金資金運用におけるスポンサーサイドにおいて、長い御経験を積まれておりまして、その御経験から、また山田様には運用サイドの長い御経験からということで御説明をお願いしたところでございます。
限られた時間ではございますが、本日の項目としまして、2にございますような「○ 運用目標の示し方」「○ リスクの示し方」「○ 基本ポートフォリオに関し、国債のみで運用すること等及び見直しの頻度について」「○ 運用手法について」といった事項を例示としてお示しいたしました上で、御説明をお願いしたところでございます。
それでは、初めに鹿毛様、どうぞよろしくお願いいたします。
○鹿毛前企業連合会常務理事 皆さん、こんにちは。御紹介いただきました鹿毛でございます。
座ったままでやらせていただきます。
日本を代表する先生方あるいは年金の専門の方の前でお話させていただくのは、大変恐縮でございますけれども、今、お話がございましたように、私も長年資産運用の仕事とか、あるいは企業年金連合会という立場で、年金の立場からマーケットを見るということで、実務を長年やってまいりましたので、その立場から感じてきたことを御参考までにお話させていただければと思います。
いただいたテーマは、運用目標と基本ポートと運用手法、その他とございますけれども、この中では運用目標の問題が最も重要ではないかと思います。本日はいただいた時間の大部分はここに注ぎ、メリハリをつけさせていただきます。勿論御専門のよく御存じの方ばかりですので、できるだけ私の御説明は簡略にさせていだたいて、むしろ御質問あるいは御批判を浴びたいと思います。よろしくお願いいたします。
まず運用目標をどう考えるかというテーマです。私も年金福祉事業団以来、二十何年いろんな形で、GPIFの運用目標の問題を考えてきたわけですが、いま一つしっくりこないという気持ちをずっと持っておりました。今回こういうテーマをいただいたので、もう一度考え直してみました。
結論から申し上げますと、運用目標という言葉はある意味ではコンフュージングであり、ある意味ではミスリーディングでもあると思います。この言葉自身が少し問題ではないか。むしろ中身から考えていきますと、想定利回りとか、こういう種類の言葉の方が実態を表しているのではないか。それが今日お話する1つの結論めいたものです。以下、それについてお話したいと思います。
まず現状を整理しますと、年金財政上の「運用利回り」は「目標」という意味ではなくて、「予定利回り」という言葉もつかわれる通り、超長期のキャッシュフローのシミュレーションを行っていく上でのパラメーターの1つです。将来の年金債務を推定するために、予想名目賃金上昇率等について一定の前提を置いて、選択されたものでしょう。ある意味でいえば、年金財政上のコンセプトとしては、出生率と同じような位置づけになるのではないか。
一方、積立金の運用面で明らかに「目標」という概念が使われているわけですが、その中身を見てみると、今、選択された数理上のパラメーターとしての3.2%とか4.1%という超長期運用利回りを現実の資産運用の現場において、運用上の運用目標としてそのままもってきて、それを基に基本ポートをつくって、運用を執行している。これが現状の仕組みではないかと理解しております。
以下、問題点といいましょうか、感じている点を申し上げます。まず運用の評価基準の考え方です。要は実績の運用利回りから実績の名目賃金上昇率を差し引いたもの、これが年金財政への貢献とされています。実績と当初の年金財政上想定されておりました予定値と比較して、実績が上回ればよかった、下回っていればまずかった、基本的に評価はそういう形でされていると理解しております。
年金運用の目的を、年金事業運営の安定に資するためということで考える限り、概念としては誠に整合的だとは思いますが、若干問題がある。出生率や、平均寿命など年金財政に影響を与える要因が他にもあるからです。この点は今日のテーマからはずれますので、これ以上申し上げません。
これが運用目標としてしっくりこないというのは、実績名目賃金上昇率という、事前に知りえないものを運用行動の目標に出来るのか、という疑問があるからです。これだけ見るとバックミラーを見て運転しているようなものです。目標という言葉は常識的には達成すべきものであって、達成できなければ問題がある。そういう評価を考えた場合、これが目標足り得るのかということです。
またその意味で現在、運用目標とされているものは評価というコンセプトと合っていない。そうしたものを目標と呼べるのか。これはある意味では言葉の定義の問題ではありますが、これが1つの問題提起です。
資産運用という観点から見た運用目標とは何か?私も長年何らかの形で運用に関わってきておりますが、例えば目標として3%の運用をしたいとか、4%の運用をしたいといって、実際にやってみて、その結果が目標通りになるということは、言うまでもなくあり得ないことです。目標と考えることと結果とは、少なくとも1年1年で見る限り全く因果関係がない。これは運用の世界では1つの常識です。
要するにリターンというものは、そもそも管理できない。しかし、リスクであればある程度は管理できる。専門家の方に大変恐縮ですが、リスクをとっていくことの結果として長期的にある程度リターンが出てくる、ということがこの世界の常識です。そういう構図の中でリターンは投資行動の目標になるのかというと、これはならないのではないかというのが非常に原理的な考え方なんです。
一方で、運用の世界では目標という言葉が一般的に存在しております。運用の世界で使っている目標というのは何なのか?現実にも「目標」3.2%とか4.1%という言葉がありますけれども、これは毎年3.2%を達成すべし、できなければ問題という世界の話ではない。非常に超長期、30年とか50年とか100年間かけてやっていった場合の年度毎のリターンの分布が、例えば3.2%を平均値とする正規分布になるという、確率の話です。その際、過去のそれぞれの資産の長期的運用利回りがある程度正規分布に近くて、その分布の形が将来においてもある程度変わらないという前提を置いた上の確率分布のことです。運用の世界で言っております目標というのは、確率分布のことであって、1年1年を見れば平均値が発生する可能性、確率が一番高いけれども、分布にしたがって、そこから離れたリターンが発生する確率も必ずある。要するに毎年とか5年間を区切ってある一定の目標利回りが達成できるとか、できないということには、全くなっていないという事です。
そういうふうに考えていきますと、むしろ確率分布の平均値である利回りは、長期の時間をかけてその確率分布を達成していこうという意味での1つのめど、想定利回りと考える方が現実に近いのではないか。言い換えますと、当面3年、5年あるいは10年であっても、確率分布の平均値の利回りを達成できるかできないかということは、全く関係がないということです。この点も資産運用の利回りが目標管理の対象になりにくいもう一つの理由と思います。
もう一つ、タイムホライゾンのずれの問題があります。年金財政上のシミュレーションは100年と書いてありますが、50年でも100年でもいい。要するに超長期、一定の想定したところを置けばいいわけで、これは非常に長期なわけです。
基本ポートを策定するというのも確率の世界ですから、これも超長期です。ところが、現実に基本ポートをつくって運用することになると、時々刻々環境も変わっていきますし、例えば5年ぐらいのタイムホライゾンが適当なのではないか、という議論が出てきます。
ところが、現状では年金財政上に想定される利回りをそのまま年金運用上の利回りに使っています。逆にいいますと、それ以外に手がかりにするものがないために、それを使ってという面もあるでしょう。一番の基本は両方とも超長期。運用も長期であればあるほど、確率的にはある程度リスクが減っていくということが理論的には言われていますから、確かに長期であればあるほど運用のリターンも高いものが期待できるというのは事実ではあります。ただ、現実には国民、それからその代表である政治家、メディアの場合、ある程度長期運用だからリスクをとってといって、結果的には、短期的には損失が出るということに対する許容度が決して高くありません。むしろかなり低いのではないか。
皆さんもよく御存じのように、これまでGPIFに限らず、長期であるべき年金運用に一時的な損失が出たときには、強い批判が出てきたわけです。要するに国民のリスク許容度がそれほど高くない。何しろ1,500兆円の家計貯蓄の中で、株式投資は10%ぐらいしかないわけで、これもある意味でいえば、国民のリスク許容度の1つのバロメーターのような気がします。(GPIFの運用をその通りやればと言っているわけではありません)ですから、超長期の年金財政の要請としてのリターンをそのまま超長期の運用目標にすることは民主主義の下での公的年金の運用としてはあまり現実的ではないのではないか。要するに国民のリスク許容度が余り高くない場合は、年金は一般に言われているほど長期運用できないのではないか、という事が、私の長い運用経験からの結論です。そういう意味でも、タイムホライゾンのコンフュージョンをもう少し整理する必要があるのではないかということです。
次に、今述べた問題点についてどのように考えればいいか、私なりの考え方を申し上げたいと思います。
まず、チャールズ・エリスの「敗者のゲーム」に書かれているようにどんな機関であれ、どういう組織であれ、投資政策を立てる場合、組織の要請、ここでいえば年金財政の要請から当然必要なリターンが出てくる。これは当然だろうと思います。そしてその必要リターンを長期的に達成するためのリスクを取る事が必要になります。
ただ、取るべきリスク水準を考える上でそれが今、申し上げたような関係者、特に意思決定者のリスク許容度の範囲内であることと、かつ資本市場の現実に即したもの、という二つの条件が必要でしょう。言ってみれば当たり前のことではありますけれども、結局この二つの条件が考慮されていないと、幾ら必要だからといっても、ある意味では夢であったり、願望であって、現実性をもたないのではないか。この2つの条件を満たす事が3.2%とか4.1%とか、年金財政上の運用利回りを策定する上である程度は必要だと思います。勿論考えていらっしゃると思いますけれども。これが第1点です。
もう一つは、先ほど申し上げましたが、国民のリスク許容度です。これをどういう形に定式化すればいいかということです。当然のことながら、リスクはどうかということだけからいけば、それは少ない方がいいに決まっている。しかし言うまでもなく、リターンとの兼ね合い、年金財政から見たら長期的にこれぐらいのリターンは必要だという面とどこまでリスクがとれるかという面との兼ね合いとして決めていく。これは当たり前の話です。
ただ、その中で、私も長年公的年金の運用に関する、新聞等で伝えられるさまざまな批判を見てきました。あるいは自分自身でも年金の運用という立場で、メディアや加入者、受給者の方からの批判を見ていまして、一体何が許容度かと考えてきました。リスクのとらえ方としてまず損失率があります。1割損した、15%損した、2割ならいいのか、こういう比率の問題があります。ただGPIFのような百何十兆円という規模になってくると、1%でも1兆円ですから、比率の問題というよりは、公的年金に関していえば、損失の絶対が問題ではないか。これもリーマンショックのように、世界中で皆さんが大損失を出しているときであれば、許容度もそれなりに広がることもあり、一概には言えないとは思いますけれども、リスクの上限を考えるときに問題となります。120兆円のうちの20兆とか30兆も損が出ましたというのは、どう考えても、国会でも説明がしにくい。どこかに損失額の上限のめどのようなものがあるのではないか。これが1つの手がかりになるのではないか。
それからポート作成上のリスク。これは言うまでもなく、リターンの変動性です。教科書に書いてあるわけですが、ただ、現実にもう少しリスクの代理変数を考えた場合、企業年金連合会などでも最近規模は違いますけれども、やっておりますのは、内外株式比率です。現実にバーラモデルなどを使って試算してみると、ポートフォリオのリスクの9割以上は内外株式となる。要するに内外株式はいいときはプラス30~40%、悪いときも3%ぐらいは下がりますから、債券が2~3%の幅で動いているのとは全く違います。債券がどんなに動いてもポートフォリオ全体の収益率にはほとんど影響はない。要するに株の動きで全体が振られるということから見れば、内外の株式比率を、リスクの代理変数と考えてもいいのではないかという感じがあります。
第1テーマ、「運用目標」の結論的なことになりますけれども、年金財政上の想定利回りと運用とをどういうふうにリンクさせるか。年金財政上出てきた運用利回りをそのまま基本ポートフォリオ策定に使うかどうかということです。
まず財政上の想定利回りを策定される際にも、国民のリスク許容度とか市場の現実をある程度明示的に入れていただくことで、より説得力が増すのではないだろうかと思います。
一方、基本ポートを作成する上で、あえて目標ではなくて、想定利回りという言葉を使わせていただきましたけれども、先ほどの国民のそれほど高くないリスク許容度を考えますと、今まで公的年金でやっておられる5年程度で見直す仕組みは、適当ではないか。結局はここに出てきた超長期の想定利回りを、超長期において達成すれば、年金財政は回ると考えれば、超長期のうちの各5年ずつすべてにそれが達成されていなくてもいいだろうという事です。ある程度環境の悪いときであれば、それを下回ってもいいだろう。好況のときは、結果的にそれを上回っていることも当然あるわけですから、超長期で出てきた財政上の要請としての利回り、上下プラスα、マイナスα、一定の幅をつくって、超長期に達成すべき利回りと5年ごとに達成すべき利回りをある程度分けていく方が、一般的な国民の理解は得やすいのではないか。
同時に実際の環境、例えば今から5年という環境を考えた場合、世界経済は非常に停滞していると考えたときに、あえて100年間に通用する利回りをねらわなくても、もう少し低目、一層リスクを抑えたような運用でも十分合理性があるのではないか。その意味で、実際の運用を5年ごとに切り離して運営することもあり得るのではないか。
そのようにして基本ポートをつくる上での運用目標はポリシーによって与えられた目標です。それでは、一体現場の目標は何なんだということになります。基本ポートというのは、前提が正しい限り、そのまま運用すれば、そこで想定利回りが達成できるように設計されています。従って現場の目標は基本ポートを維持する事です。つまりそこで想定されているリスクを管理し、資産配分比率を維持してゆくことが目標であります。
もう一つは、それぞれの個別資産ごとにおおむねベンチマーク並みのリターンを確保することです。これだけのサイズなので、ベンチマーク同等というのは基本的に困難だと思いますけれども、おおむねベンチマーク並み。
この2点が恐らく現場としての目標になるのではないか。現在も中期計画等では一応こうなっているわけです。これが現実的な目標だと思います。
あとの部分は駆け足にして、むしろ御質問あるいは御批判をいただきたいと思いますが、まず、基本ポートの問題です。これも大事な点でありますが、国債のみの運用についてどう考えるか。国債のみというのは、一般的にはリスクを抑えた運用と考えられているようですが、運用を別の見方から見た場合には、1つの資産への集中というのは、リスク管理の大原則である分散投資ができていないという意味では、リスクが非常に大きい運用です。一体これだけの過大リスクをとる余裕があるのか。
例えば年金財政上、長期利回りは0.5%でいいので、1%の20年債でも買っておけば、20年大丈夫。これは成り立ちます。しかし、今、世界中探しても、世の中に存在している資産で年金財政が賄えることは、基本的にはないとされております。ギリシャとかイタリア国債に投資するのでなければ、つまり現実的な投資対象でそれだけやっておけばリスクもないという資産はない、という事は、アムバクシアの「年金大革命」にも説明されています。彼も世界の代表的なプロの1人ですけれども、基本的にこれは願望であっても実現性がないと言っています。これが国債100%投資の問題点だと思います。
勿論インフレがあるとか、今のリターンでは間に合わないというのは、逆にそうでなければいいんだろうかということになるんですけれども、将来にわたる判断が100%絶対ということがない以上は、何らかの形で分散する方がリスクを抑える。そういうことで、私はこれが問題であると思います。
基本ポート見直し頻度の問題は、先ほど申し上げたとおりです。
「運用手法」の問題などは、基本的に先ほどの想定利回り、アセットアロケーション、基本ポートを決めた先の問題は、執行部に任せる問題だと思います。ポリシーとして執行部に指示する問題にはならないと思いますが、一言だけ申し上げますと、GPIFの規模であれば、望む、望まざるにかかわらず、パッシブ運用が原則といいますか、大部分がそうならざるを得ない。これはたしかなんですけれども、ただ、ベンチマークについていえば、いろいろと議論の余地があるのではないか。
例えば日本株について、TOPIXというのが当然のように使われておりますが、TOPIXは過去20年間で-2.9%です。しかし、ベンチマークのとり方いかんによって、ラッセルノムラとか、いろんなベンチマークをとっていくと、違った形になってきますから、パッシブ運用という枠組みの中でも、もう少し改善の余地があるのではないかということだけを申し上げておきたいと思います。
最後の「その他」の問題です。長年公的年金の運用の組織を見てまいりまして、権限と責任、つまりポリシーをつくる部分と執行の部分の権限、責任が不明確になっているように感じられますが、いろんな意味で運用の仕事は現場にある程度の裁量を与えて任せていかなければいけない面があります。勿論現場で必要なのは、ファンドマネジャーをたくさん抱えることではありません。あくまで基本的な運用は外部委託しているわけですから、運用の専門家ではなくて、運用管理の専門家が必要だということです。
これもちょっと誤解されるところなんですけれども、運用管理の専門性と、冒頭お話したような年金のポリシーといいましょうか、運用目標を与えるとか、管理監督の専門性というのは、おのずとスキルセットも違うと思います。運用は常にプラスになったり、マイナスになったり、損失が出たりということで、非常に説明責任を要する面があります。やはり権限・責任というのは、できるだけはっきりして、分離していた方がいいということです。組織もそういう形にもっていくことが望ましいのではないかと思います。
そういう意味からも、現在ある独立行政法人という形は非常に問題ではないか。あえて言えば、日銀型のような一定の独立性を持って、間接的にコントロールができる組織がいいのではないか。国民にとっても影響の大きい組織であるだけに、まだ組織については改善の余地があるのではないかと思います。もう一つ、情報開示ということが非常に言われております。現在のGPIFは情報開示が世界で最も行われている組織だと思うんですが、結局マーケットの当事者というのは、常にこれを眺めていて、GPIFが次にどう動くかを予想して先回りして売買する事になる。そういうことになるので、結果的にGPIFの運用面でマイナスになることも多いのではないか。
例えば日銀が記録を公表するのは、時期を結構ずらしてやっています。だから、公表ということは非常に大事だと思いますけれども、むしろ1年とか2年とか、ずらして公表していくことも必要なのではないかということを感じておりました。
私の御報告は以上でございます。
○吉野委員長 鹿毛前理事、どうもありがとうございました。
それでは、皆様から御質問があれば、受けさせていただきたいと思います。
まず私から2~3つ質問させていただきたいんですけれども、最近のソブリンリスクを見てみますと、9ページのところに、国債中心というのはちょっと考えた方がいいという御意見があったんですが、その場合、どういう資産に国債ではなくて、一部回していくんだとすれば、外債であるのか、株であるのか、社債であるのか、それを教えていただければと思います。
それから、超長期という言葉と、5年という2つのタイムホライゾンを8ページでお示しされていますけれども、超長期といった場合には何年ぐらいをごらんになっていらっしゃるのかということを教えていただければと思います。
この2点を最初に御質問させていただきたいと思います。
○鹿毛前企業年金連合会常務理事 国債のみの運用というのは、ちょっと舌足らずであったかと思うんですけれども、2つインプリケーションがあって、日本の年金だから、日本の国債だけという考え方もあり得る。それから、債券だけで外債も含めた国債だけの運用。2通りの考え方があろうかと思います。ここで主として念頭に置いておりましたのは、全額日本国債ということではあるんですけれども、ただ、先生が御指摘のとおり、今、世界中の投資家がいろんな意味で株式比率を下げてきておりまして、一方、それをどこにもっていくかというと債券しかない。債券の中で国債というのが相当程度を占めているわけです。ですから、なかなか持って行き場がないというのが、ある意味では世界中の年金が頭を抱えている問題点であるわけです。
ただ、その中でも、現実にどういうことをやっているかといいますと、国債という中でも、米国国債は、今、ヨーロッパがああいう状況でもあるので、無視できないといいましょうか、米国国債まで全部落としていってしまうと、本当にもっていくところがないので、米国国債は減らせない。むしろ日本以外の年金であれば、ヨーロッパは明らかに減らしておりますから、外貨準備の移動という点も含めて、実は日本国債にきているという事実もあって、結果的にはこれだけの円高になり、国債のリターンが低くなっている。
逆にいいますと、そういう意味での分散というところからいきますと、日本の年金にとってみれば、日本国国債100%は問題でしょうということをここで申し上げているわけで、67%が多いか、少ないかというか、多分流れからいけば、どこかでは少し下げていくことがあるかもしれませんけれども、考え方としては、これは程度問題の話で、日本国以外の米国国債であったり、あるいは欧州は別とした国債は、量的にはそれほど多くはないと思います。要するに債券の中では、そういう多様化を図るぐらいのことしかできません。余り元気のいいお答えにならないんですけれども、今、皆さんそんなにふうに苦労されているということだと思います。
それから、超長期の長さの問題です。財政の方は私も専門ではないのでよくわからないんですが、何らかの形で100年なら100年、何年なら何年という数字で決まって出てくるわけです。発表されたものには数字がついているわけなんですが、運用の方は何年というコンセプトが実はないんです。つまり確率分布の話をしていますので、大数法則が機能する程度の期間です。例えば30年ぐらいということは、議論の中ではしばしば出てまいりますけれども、それもどちらかというと、物のたとえでして、定義的には大数法則が働くぐらい十分な長さ、そういうことが定義とされておりますので、数理で決めている何年というのはちょっと違う感じがいたします。
○吉野委員長 ありがとうございます。
いかがでしょうか。植田先生、どうぞ。
○植田委員 今の超長期の話の逆の5年の方の話なんですけれども、伺った範囲では、5年程度の短期では超長期の想定利回りからずれでもいい。ただ、それは結果としてずれるだけではなくて、5年ごとに計画を立てる際に超長期の目標、あるいは想定利回りからずれるという目標を立ててもいいと拝聴したんですけれども、そうだとすると、ずれていいという場合の基準とかリスクの考え方、あるいはそもそも基本ポートについても、多少超長期とはずれていいということにもなるのかもしれません。その辺の考え方というか、あるいはどういう変数に着目するのか。結果的にではなくて、目標を立てる際にということで、もし御意見がおありでしたら伺いたいと思います。
○鹿毛前企業年金連合会常務理事 そこは難しいところでございます。つまり5年にする理由というのが、論理的な理由というよりは、国民のリスク許容度とか、そういうところからきているものと、もう一つは環境に対する現時点の認識です。その2つだと思います。
先ほどお話しましたように、根幹のところは財政上要請される、今まででしたら3.2%とか、これからは4.1%とか、超長期平均としてはそういくべきものです。例えば環境がよくないときに、そうでない状況を前提としたリスクをとっていくということですから、短期的な損失が大きくなる可能性があります。短期的なマイナスが大きくなってしまって、国民が受け入れられない、あるいは制度として非常に不信感を持たれることを避けることが目的なので、ある意味では考えられる最高損失を少し減らすために、リスクを減らそうということです。1つの考え方はそういうことなので、そういう目的に合えば、一定の幅をつくって、余り超長期と乖離できないような形でいくという方法が1つあり得ると思います。
もう一つは、一般的に企業年金などがやっている場合は、リバランスの範囲がございます。株式比率などについても例えば20%と決めていますけれども、リバランス幅を考えれば27%、28%になります。下も13%ぐらいまでいいとかいうことで、基本ポートの運営範囲というのは実は大きいんです。ですから、現実的にやっているもう一つの方法というのは、この許容範囲の中でリスクが非常に高い状況であるとすれば、この範囲ならいいということで、最低のところでオペレートするという、現実的にやっているところもございます。
先生の御質問に正面からお答えできないのは、結局論理的に5年が正しくてこうしなければいけないということよりは、外的要因を置いているために、リスクを抑えるという結果の方が大事なので、今のようなお返事になっています。現場でいろいろ考える場合にはそれが最初に頭に浮かびます。説明責任という面で、説得を持たせるとした場合には、現時点から将来5年間のリターンの目標、つまり超長期のポートをつくる上で、資産ごとに超長期のリターン目標をつくりますね。例えば円債について3%とか、そういう前提を置いておりますから、5年間についていえば、もう少し円債は下だろうとか、あるいは株式も下だろうとか、こういう形でやっていって、そういうものを前提に5年でやってみて、それが現実に超長期平均を達成する上での許容範囲に入っているかどうかということを検証しながらやっていくというのも、もう一つの方法ではないかと思われますけれども、ここはかなり検討の余地は大きいと思います。
○吉野委員長 植田先生、どうぞ。
○植田委員 要するに5年以内で消えてしまうような環境の変化に注目しても意味がないので、5年ないし5年よりは少し長く続くような環境を決めるようなファクターに着目して、勿論それはまた超長期では消えてしまうような話なんでしょうかけれども、それをうまく見つけてきて、それも利用してという理解でよろしいんですか。
○鹿毛前企業年金連合会常務理事 そうでございます。
○植田委員 具体的に何かというのは、難しいとは思います。
○鹿毛前企業年金連合会常務理事 基本ポート策定の前提としては、超長期の経済前提の基になっているマクロのパラメーターと資産ごとの想定利回りがあります。この2つの両方またはどちらか、どちらかといえば、資産ごとの利回り想定を超長期と5年で分けてつくるというのが1つの方法ではないかと思います。
○吉野委員長 今の植田先生の御意見をちょっと違った角度からいいますと、構造的な変化なのか、一時的な変化なのかというのがあるような気がします。構造的に考えて、長期で考えて、もし一時的な変化であれば、構造的なところが変わらないのであれば、長期を目指していて、5年以内で下振れがあっても構わないわけです。そういうふうに考えますと、あるショックが起こったとき、それが構造的なのか、一時的なのかということを判断しなければいけなくなるんだと思います。
○鹿毛前企業年金連合会常務理事 今、先生がおっしゃいました下振れがあっても構わないですねという点なのですが、論理的にはそのとおりなんですけれども、日本の株は長期的には上昇していくとしても、仮に2割落ちたとき、あるいは内外株が全部で2割落ちたときの損失額が許容範囲ではなくて大問題になった場合、逆に下振れもある程度を超えた場合には国民から許容されないのではないかという考え方なんです。ですから、制度を維持するためのコストという考え方です。5年ごとに多少リスクを抑えるということは、超長期から見ればマイナスなわけです。マイナスなんだけれども、制度を維持する上でそれが必要だと考えれば、それもやむを得ない。民主主義の下での年金制度の持っている1つの限界のようなことだと考えるかどうか。もしそうでなくて、どんなにマイナスが出ても、超長期では正しいんだという立場に立つとすれば、5年ごとという必要は薄れてくるんですけれども、過去の経験から見ると、なかなかそうもいかないのではないか。
それから、ある意味では、財政も100年、運用も100年単位でということになると、一体どうやって検証ができるのかということがあります。でも、100年単位で考えればこれで正しいんだということになったときに、間違っているという議論が非常にできにくくなってくると思います。結果から見る限り、例えば過去5年で見て、10年で見て、想定したとおりには必ずしもなっていないわけで、そういうことから考えていきますと、5年ごとに検証しながら、そういう特徴を入れていくという仕組みも、クオリティコントロールとしてはないよりあった方がいいのではないだろうかという感じがいたします。ですから、この部分というのは、論理的に詰めていくというよりは、どういう立場に立ってこれを考えるかという議論だと思います。
○吉野委員長 いかがでしょうか。米澤先生、どうぞ。
○米澤委員 今の植田先生、鹿毛先生、吉野先生の議論とも関連しますが、私などの理解というか、前回の年金部会のときに、ある論客の委員の方がいらして、うまく言っていただいたんですが、ここのミッションとして、100年を予測して、そこでもってきちんとした数字を出すというのは、一応目標としてはそういうスタンスではやっているけれども、そんなことはだれもできるわけがないということで、気の効いた経済学者はそんなことを手伝う人はいないという言い方をしていました。
それでは、何かというと、一応100年を立てるけれども、5年ごとに見直していくので、それに意味があるんだということです。見直すときはパラメーターを全部変えているわけなんです。ですので、理解としては、直近の財政検証だと、このパラメーターでいけば一応100年間バランスする年金財政になりますということを、一番新しいデータの下で確認した。これでもって財政のリスク管理を行う訳です。それがその後、どのように壊れるのか、壊れないのかというのは、次の5年でチェックしましょうということで、100年をぐるぐる回すということで、大体の委員の方は理解したわけです。100年先まで何か精緻にやっているということで、そこで格別な価値を見出す必要はないというか、それは無理だという認識だと思います。
そうは言いながら、前回まではGPIFも長期のポートフォリオ策定を余儀なくされてしまったので、今日の鹿毛先生の御発言、すなわち、そこのところは切れるというのは、非常に現実的だと思います。整合的に分けることは大変なことなんですけれども、そういう考え方はあると思っています。ですから、あくまでも100年の年金財政の予定利率とGPIFが実際に策定するポートフォリオ、それは5年がいいのかどうか、財政検証は5年ですから、5年というのは1つの案だと思いますが、それは必ずしも同じものでやる必要はなくて、アンバランスでなければ分けてやるというのもいいと思います。そうすると、賃金上昇率プラスαではなくて、この5年間は名目値で目標が定められる可能性も出てくるのではないかと思います。
済みません。長くなるんですが、1点だけお聞きしたいことがあります。要するにリスクは内外も含めて株式を入れるか、入れないかの話なんですが、そこのところはどういうふうに整理したらいいのか。恐らくこのポートフォリオの運用目標は国債だけだとちょっと足りないんですけれども、ちょっと上をねらっているというのが正直なところなんです。ちょっと上というのは極めてあいまいなんですけれども、そこで株式が入ってきてしまうがゆえに、メディア的にいえば何兆円の損ということになってくるわけなので、ここまで国債100%で、広い意味での債券だけでもいいのではないかという感じもしているんです。もし年金財政上でそれが何とか賄えるのであれば、そういう選択肢があるのか。リスク分散というお話もありました。そういうところから、やはり100%債券ではまずくて、少なくとも株式を入れていくというのは、水準以外のところからも出てくるということに関して、御示唆があればいただきたいと思っております。
以上です。
○吉野委員長 鹿毛先生、お願いします。
○鹿毛前企業年金連合会常務理事 先ほど国債のところで申し上げたとおりで、これを日本国債と言ってもいいですし、債券、内外債と言ってもいいと思いますけれども、考え方としては同じだと思います。確かにベンチマークのとり方とかいろんな理由はあったにせよ、過去日本株はマイナスだったわけですが外国株は、ある程度期間をとれば結構プラスになることもありますし、これを否定する根拠は薄いのではないかと思います。ですから、問題は比率の問題であって、株式を最初から0ということではなくて、2割というのはどちらかというとミニマムだと思います。つまり10%ずつで考えても、入れるとしたらこれぐらいだと私はずっと思っておりましたけれども、結果から見る限り多過ぎたということもあるかもしれません。それは程度問題で、入れないという選択肢はないのではないか。リスク分散という観点からも、これはないのではないか。それから、年金財政上もそういうことを想定しなくて、長期のシミュレーションができるんだろうかという感じはいたします。
先ほど先生がおっしゃられた、5年ごとに100年分を見直すという考え方もあると思うんですけれども、財政上も運用上も100年ということで立てるときのパラメーターと、5年ぐらいで見るというのは違ってくると思います。超長期のスパンで考えれば、現在日本が抱えているような大問題について、これをそのまま延長してということでない可能性も出てくる。ただ、当面だけを見れば苦しい時期が続いている。
例えば過去かなりの期間にわたって、ポートフォリオをつくる上で、円債3%と置いているわけです。それから、日本株も7%です。だけれども、それはかなり長期にわたっていて、余り現実性がないわけです。だからといって、超長期にわたって株はマイナスとか、円債は1%と置くことにどれだけ合理性があるか。ですから、超長期のシミュレーションを成り立たせるパラメーターを、5年のスパンで使い続けて、結果的には想定していたものと実績は違っているわけですから、余りこういうことをやっていると、信頼性に欠けるのではないか。だからといって、足下に超長期のシミュレーションを合わせる必要もない。コンセプトとしては、超長期と足下5年ぐらいというのは違っていておかしくないと思います。ただ、先生方が御指摘のように、どういうものが最も論理的に成り立つかという、また別の種類の問題が出てくることはたしかだと思います。少なくとも過去の実績を見る限り、超長期パラメーターを基本ポートに使ってきたことについては、余り説得力がなかったのではないかという感じがしております。
○吉野委員長 西沢委員、どうぞ。
○西沢委員 ありがとうございました。
1つ質問で、8ページ目でお話になっていた下りで、GPIFの規模がかなり大きいので、ベンチマーク並みのパフォーマンスを上げることが無理であるという趣旨のお話をいただいたと思うんですけれども、私も感覚的にそう思っていたんですが、理論的あるいは市場参加者としてごらんになった実感としての背景、理由、あとこれは難しいかもしれませんが、どの程度無理なのかを教えていただきたい。
と申しますのは、今の経済前提の設定の仕方で、安全資産の利回りプラス分散投資効果をそのままオンしていると思います。ですから、理論的に導かれた分散投資効果をそのままオンすることができるのかどうかという観点から、こういった質問を申し上げています。GPIFとして、規模が大きいので、どの程度デメリットになっているか。それが目に見えるようなデメリットであれば、単純に分散投資効果をオンするといった手法を少し見直さなければいけないと思っています。
○吉野委員長 いかがでしょうか。
○鹿毛前企業年金連合会常務理事 理屈からいけば、ベンチマーク、TOPIXにしても何にしても、その中にはコストを含んでいない。一方、運用にはコストが入る。これは教科書的なお返事なんですが、コストはGPIFぐらいの規模になってまいりますと、確かにコスト率というのは下がってくることはありますけれども、コストは厳然として存在する。
もう一つは、パッシブ運用でベンチマーク並みの運用をするとしても、ベンチマークというのは、教科書みたいなことですけれども、例えばTOPIXでいえば1,800ぐらいの銘柄があって、その時価総額を考えながらつくっているわけです。中身が全部あるわけです。ベンチマークというのは、いろんな形でしょっちゅう動いているわけです。ちょっとテクニカルですけれども、しょっちゅう動いているものに合わせて、実際のポートフォリオも動かしていかなければいけないという部分があって、これはこれでコスト要因になってくることもあるんです。
ですから、これだけの規模があれば、なおさら身動きできないということなんですけれども、それだけの規模でなくても、インデックスファンドというんでしょうか、ベンチマークどおりの運用をすると言っていて、常に同じ数字とか、誤差の範囲になることは余り多くないんです。ベンチマーク利回りより下にいっていて、余り不思議はない。これは細かいことで、目標の立て方として、そこで私もおおむねという言い方をしたわけですけれども、ある程度その範囲内ということでないと、現場はお困りになるのではないかということだと思います。一般論です。
○吉野委員長 もう一人ぐらいおられますでしょうか。
もしよろしければ、次の御発表をお願いしたいと思います。ノーザン・トラスト・グローバル・インベストメンツの山田正次様にお願いしたいと思います。
鹿毛様、どうもありがとうございました。また後で御質問があるかもしれませんので、よろしくお願いいたします。
○山田エグゼクティブ・アドバイザー ただいま御紹介がございました山田でございます。よろしくお願いいたします。
私は1980年代の中盤に信託銀行で年金運用の仕事を拝命いたしまして、現在は外資系の投資顧問会社に勤務しておりますが、その間約25年、運用の現場で大変苦労をしてまいりました。と申しますのも、1989年、御存じの株価の大暴落がございました。資本市場の波は、予測もつかないときに予測のつかないマグニチュードで起こることを痛感させられました。これからのお話は、そういった実務の場での体験を踏まえて個人的な意見を申し上げたいと思います。
申し付かったテーマは、大きくいって3つございまして、1つは運用目標に関するもの、2番目は基本ポートフォリオに関わるもの、3番目は運用手法に関わるものでございますので、その順番で御説明を申し上げたいと思います。
いろいろ実例を基にお話を申し上げたいと思いますが、前もって申し上げたいのは、ここでご紹介する実例は世界を代表する年金基金ではありますが、GPIFとは比較にならないほど、スケールが小さいということでございます。その辺のこともお含みおきいただき、参考例として御理解をいただければ大変ありがたいと思います。
第1のテーマは「1 運用目標とリスク」でございます。
3ページに「運用目標の示し方について」というページがございます。運用目標について、私なりに考えますキーワードは相対的な収益率であります。というのは、マーケットは常に変動しているわけでございますから、目標を絶対値であらかじめ定めて置いて結果を判断するのは大変難しいのではないかと思います。運用目標はインフレ率などの経済事象に対する相対的な収益率(リターン)という把握しかないのではないかと思っております。
ブリットポイントの1番目でございますけれども、年金給付の背景といいますか、ベースは、大まかに賃金水準あるいは物価水準に連動すると考えられるわけでございます。したがいまして、運用目標は賃金上昇率、あるいは物価上昇率をベースにした相対値として考えるべきではないかと、私、個人は思っております。
と申しますのも、これから申し上げる実例もそうですが、何をベースに資本市場が変動するのかを考えますと、一般的な考え方として受け入れられるのは物価上昇率ではないかと思っております。したがいまして、物価上昇率に対する超過収益率が、運用目標としては受け入れやすいのではないかと考えております。
また、2番目の項目にございますように、社会・経済環境というのは、将来を予測するということは大変難しいことでございまして、申し上げましたように、相対的なもので判断することが妥当ではないかと思います。物価上昇率に連動するという考え方の例として、注1に記してございますけれども、米国のフロリダ州公務員年金のケースがございます。アメリカの労働省が発表しております、消費者物価指数(都市部)を上回る収益率が長期的な運用目標だということです。このことはInvestment Policy Statement、つまり投資方針書に明確に記しておられます。
3番目のブリットポイントでございますけれども、申し上げるまでもなく、資本市場は予測できないような動きをする、ボラティリティが高いわけでございますので、株式は勿論のこと、確定利付証券であっても価格は大きく変動いたします。したがって、短い期間、例えば半年間とか1年間では運用結果がどうだったのかということは、なかなか判断することは難しい。過去にさかのぼって3年とか5年、あるいは10年という期間で、結果がどうだったかを見る必要があるのではないかと考えております。この点ですが、プラスの範囲内で変動するということでしたら、まだよろしいのですが、マイナスにも大きく変動することが日常茶飯事にあることを、我々は頭に入れておかなければならないのではないかと思っているところでございます。
4ページは、運用リスクをどんなふうに示したら良いのだろうかという問題でございますけれども、先ほど来もご議論がございましたように、運用期間が長くなればなるほど、期間を通算したボラティリティは小さくなってくるわけでございます。したがって、どのぐらいの期間でどのぐらいのリスク、つまりボラティリティが想定されるのかということを、ある程度シミュレーションとして示すことができるのではないかと考えております。相対収益率のベースにおくものが物価上昇率であれば、物価上昇率を上回る運用結果が得られなかったことが運用リスクであり、そのリスクの本質は、資本市場の変動によるものだと考えることができると思います。
4ページ2項目ですが、一定の期間、ここでの5年間は仮に置いたものですが、10年、20年であっても同様です。それらの期間において、運用収益率が物価上昇率を下回るであろう確率を5%、あるいは10%、20%以下にするという示し方で、リスク度の目安を提示できるということであります。さらにいいますと、リスクを大きく見込むことが可能であれば、より高い期待収益率を前提とした投資方針がとれるのではないかということでございます。
こういった考え方は、下の注3をご覧いただきたいのですが、先ほど例に挙げましたフロリダ州公務員年金の場合でございますけれども、このようなテーブルが示されております。一番左がTime Horizonで、これは10年、15年という2行だけが書かれ以下は省略してありますが、実際にはこの下に20年、25年、30年まで示されてございます。あとは5%タイル、10%タイル、90%タイル、95%タイルで実質収益率、つまり物価上昇を上回る収益率がどのぐらい分布するかということを確率計算して、その結果を投資方針書に表示したものでございます。
そこでは、15年を例に取り上げて、年率の幾何平均で計算した実質リターンが10%タイルでマイナス0.5%、90%タイルではプラス9.9%となっていることを示し、マイナス0.5%からプラス9.9%の間に実質リターンが実現する確率が80%ありますと説明がついておりました。申し上げましたように、30年先までを表示しておりまして、長い運用期間におけるリスクテイクをすることについて、関係者がしっかりと認識していることを感じ取ることができると思います。
高い収益率を目指して投資政策を立てるのであれば、高いリスクを許容する必要があるということでございますが、このことを関係者の全てが理解し、納得をすることが大変重要なことでございます。この点に関しては、関係者の皆さんが日夜御苦労なさっているのではないかと思います。
よく運用の是非は長期間で見るべきだと言われますが、一方では短期ではどうだったのかという議論がございます。カナダの公的年金の一般向け公表資料の例をご紹介したいのですが、短期の運用報告は、運用内容開示の一環(as part of our disclosure policy)だと言っております。短期の結果もしっかりステークホルダーに示すとともに、最も重要なのは長期の結果だと言い切っています。そこでの表現を借りると、何よりも重要なこと (what matters most)は、数年あるいは数十年を通算したパフォーマンスだと強調しています。
次のテーマの「2 基本ポートフォリオ」に移りたいと思います。
6ページ「基本ポートフォリオ(1)」をごらんください。結論的に申し上げますと、ただいま運営されております基本ポートフォリオ、日本株式、日本債券、外国株式、外国債券の4資産という構成は妥当といいますか、順当な物の考え方ではないかと感じております。
1番目にも記してございますように、資産運用の成果の源泉は、間違いなく経済活動による価値創造でございまして、株式の場合、企業が上げる将来の利益が株式投資リターンの源泉になることに相違ございませんし、企業の発行する社債であれば、当然企業利潤を原資として償還されていくわけでございます。あるいはソブリン債券、つまり国債の場合も、将来の経済活動の結果として、国民所得が増加し、税収等の必要な資金還流がない限り、償還には難しい問題が生じると考えられます。資産運用の結果は究極的には経済活動と一体だと考えているところでございます。
参考資料1をご覧いただきたいのですが、世界の機関投資家にとって普遍的な投資ユニバースを表示したものであります。左側が世界の株式市場、右側が世界の債券市場でございます。世界の株式市場の時価総額は、時点は先月末、1ドル77円で換算をしたものですが、約2,300兆円ございます。一方、世界の債券市場は時価総額で約3,000兆円ございまして、どう考えても株と債券の二つのカテゴリーが投資、資産運用の主たる運用対象であると思っているところでございます。
勿論、投資対象には株や債券以外のものがあるわけでございます。例えば最近注目を浴びておりますヘッジファンドですが、ある調査によると、マーケット規模は約2兆ドルということですから、160兆円ぐらいでございます。GPIFのような巨大基金の投資対象としては、株と債券が基本だと思っているところでございます。
したがって、冒頭申しましたように、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券の4資産で構成する分散投資戦略は、極めて納得性の高いものだと考えているところでございます。6ページの注4と注5では、米国とカナダの例を書いてございますが、主たる投資対象は、いずれも債券と株式でございまして、かつ国内、国外のグローバル運用というのが一般的ではないかと思います。
次に、「基本ポートフォリオ(2)」でございますが、まず1点は、国債だけに投資をすることも1つの方法なのではないかというご議論がございます。株や債券、あるいは海外投資は結果的に失敗だったのではないかという厳しいご意見もあるように聞いております。しかし、債券あるいは国債のみの投資を考えたとき、将来物価上昇率あるいは賃金上昇率を上回る収益率を確保できると考えて良いのだろうかという疑問が残ります。
確かに過去を見ますと、1900年代から今日まで、大きな流れはデフレ、低金利でございました。したがって、国債は継続的な金利低下によって価格は上昇をしてきました。一方、将来払う年金額が、賃金上昇率、物質上昇率にスライドすると考えると、デフレのときはマイナスもあるわけでございます。資産価値は上がり、支払う方は減るわけです。つまり、債券あるいは国債を買っていれば、問題はなかったと言えるのだろうと思います。
しかし、重要なのはこれから先のことでございまして、デフレ、低金利がこの先も永久に続くという保障は全くございませんし、考えることも難しい。もしも将来物価上昇ということになれば、払う年金額は連動して増えていきます。賃金も上がるわけですから、払う方は増えるわけですけれども、金利上昇は債券価格の下落をもたらすわけですから、結果的に立ち行かなくなる可能性が高いのではないかと思っております。したがいまして、結論は、債券だけの運用というのは、私はノーでございます。
先ほどご覧いただきました株式市場あるいは債券市場の実態について中身を見てみたいと思います。参考資料2「世界の株式市場別の実像(1)」をごらんください。これは世界の株式市場の国別の時価総額と株式数を投資対象の基準で集計したものでございます。注に記しましたとおり、これは代表的なインデックスのベンダーであるMSCIインクが提供するMSCI All Country World Investable Market Indexでありまして、世界の株式市場を最も広くカバーしており、多くの機関投資家が使っている指標でございます。
まさにグローバル化した今日の世界経済の佇まいを見る思いがいたします。上位には、米国、イギリス、日本、カナダ、オーストラリアといった先進諸国が続いておりますが、その先には中国、韓国、ブラジル、台湾といった新興国の躍進が見られます。相撲の番付でいえば、いつの間にか幕の内上位ぐらいまで、新興国の位置が上がっていることも我々は考えながら、資産運用を考えることが必要な時代になったと思います。
14ページは、イギリスのフィナンシャルタイムズ社が3か月ごとに世界の時価総額の上位500社を発表しておりますが、この表はうち10年末の時点で100大企業について時価総額と純利益をそれぞれの国籍ごとに集計したものでございます。アメリカが突出した資本市場を有しておりますが、企業純利益も突出しております。我が国は時価総額ランクが11位で、社数は3社を数えるにとどまっております。また、純利益も他の国と比べてかなり見劣りするといわざるを得ません。株式投資収益の源泉が企業利益であると考えると、こういった事実を下敷きに今後の投資政策を考えてみる必要があると思います。ちなみに、時価総額と純利益との相関係数は0.992でございますから、株価と企業利益の間は極めて相関度が高いと見ることができると思います。
それでは、第3番目のテーマであります「3 運用手法」について御説明申し上げたいと思います。
先ほどの鹿毛様の御説明にもございましたけれども、運用管理において、ベンチマーク・インデックスが、大変重要な役割を担っております。実例を基に御説明を申し上げたいと思いますので、参考資料4をごらんください。
この図でございますけれども、ニューヨーク州公務員年金の例でございます。内外の株式投資はグローバル株式として一元管理されています。そのベンチマーク・インデックスはMSCIのAll Country World Indexです。国内株である米国株は、Russell 3000、外国株はAll Country World ex.US、つまり米国を除いた部分でございます。
一方、運用機関に付与するベンチマーク・インデックスは、それぞれの運用戦略を反映するインデックスが使われております。米国の大型株はS&P500、中型株はS&P400、小型株にS&P600というインデックスがありますが、この基金はそれを使わずに、Russell 2000、つまりRussell 3000から上位1,000の大中型株を除いた2,000の小型株で構成されるインデックスを使ってございます。右側は海外投資でございます。
ここにあるように、個別のマンデート・レベルでは、それぞれの戦略にフォーカスしたインデックスで管理されています。次に、国内株であるアメリカ株は、全部通算してRussell 3000と比較し運用成果をチェックする。外国株はMSCI All Country World ex.USと比較して運用成果をチェックする。国内株と外国株を併せたグローバル株式運用は、MSCI All Country Worldと比較してチェックをするということでございます。
注8をご覧いただきたいのですが、インデックスは株価などの統計数値のように思われがちなのですが、実際には投資対象の視点から銘柄を選びますので、先進国でもインデックスに採用されるのは全上場会社の3割程度、発展途上国の場合は17%ぐらいでございます。上場銘柄イコール、インデックス運用の対象ではございません。
また、インデックスを構築する過程では、時価総額の最低規模、浮動株調整、外国投資家に対する制約、市場における売買頻度や根付け率などがチェックされております。したがって、採用するベンチマークの是非は重要な投資判断の一つではないかと思います。
注9では、何が最適のベンチマークかの判断によって、採用するインデックスを入れ替えている機関投資家の例であります。
それでは、最後のテーマであるアクティブ運用、パッシブ運用の議論ですが、率直に言って私自身はどちらが優れているとか、あるいは、どちらだけを採用するべきであるとか申し上げることができません。個人的には、双方を併用することに落ち着くように思っております。実際に多くの経験から語られているように、常にベンチマークを上回るマネジャーは、ないとは言えませんけれども稀です。それだったら全てパッシブ運用にすれば良いではないかと言うことなのですが、アクティブ運用をギブアップする投資家はごく小数というのも現実ではないかと思います。
一般的に言われますのは、上のブリットポイントにございますように、市場の効率性が高いと言われる先進国の大型株はパッシブ運用の有効性が高く、非効率なマーケットと言われる小型株とか新興国市場ではアクティブ運用の有効性が高いと言うことであります。しかし最近では、インデックス構築のレベル自体も上がっておりますし、個別銘柄を調査するアナリストも増えております。世界中の投資家が多くの銘柄に注目をすればするほど、市場の効率性が高くなると言えるのではないかと思います。
注10に示したものは、先ほどのニューヨーク州公務員年金の例ですが、世間で言われているセオリーに忠実な投資政策をとっております。パッシブ運用の比率ですが、大型株92%、中型株69%、小型株61%です。市場の効率性の程度に応じて、アクティブ運用とパッシブ運用の比率が選択されています。このような考え方から、効率性が低いと言われる新興国市場は全てアクティブ運用が採用されています。運用会社は3社ですが、ベンチマークのMSCIエマージング・マーケット指数をアウトパフォームしたのは、過去1年は0、過去3年は1社、5年は1社、過去10年で2社という結果であります。一般に言われているような結果に近いように思います。
また、アクティブ運用の場合はアグレッシブに銘柄選択をしますから、結果が上下に振れがちです。しかし、運用の結果が上下に振れること自体は好ましいわけではありませんから、とったリスク、つまり運用結果のブレも勘案して運用成果を評価することの妥当性が高いと言うことができると思います。
注11は、アクティブ運用の目標として、超過収益率だけでなくリスクつまりブレの範囲も定めている例であります。オレゴン州の公務員年金は、目標とするアクティブ運用の対ベンチマーク超過収益率を報酬控除後で0.8%としていますが、ベンチマークからの乖離を示すトラッキングエラーを2%から3%の範囲とすることを目標としています。
お話があちこちに行き来いたしましたけれども、私の御報告は以上でございます。
○吉野委員長 山田様、どうもありがとうございました。
それでは、どなたからでも結構ですけれども、御質問あるいは御意見はございますでしょうか。
小野委員、どうぞ。
○小野委員 質問ではなくて、感想とか意見という部類に属しますけれども、お二人の先生のお話を伺っていて、まず前提の違いで考えますと、鹿毛先生のお話というのは、私の理解違いだったらお詫びしますが、例えば3.2%であるとか、4.1%であるとか、そういった目標といいますか、年金財政の方からくる固定値が、ある種運用目標に対して与件だという前提があるのではないかという印象を持ちました。
4.1%でお話していきますと、これは非常に好ましくない目標だと思っています。それは2つの点で言えまして、1つは4.1%というのはシミュレーションの中でいうと、2020年以降の話ですので、足下ではそんなに高いリターンにはなっていない。そのことを無視して4.1%にしているということが1つ。それから、物質上昇率とか賃金上昇率、金利ですけれども、これを基本的に固定値で与件としてしまっているところがあって、これを足下の運用環境に当てはめて云々という議論をする最近の風潮というのは、かえって年金制度運用全体にとってのガバナンスという意味では、非常に問題含みだと思っております。
例えば賃金なり物質なりも全部そうだと思うんですけれども、想定に届かなかったということであれば、その分だけ年金の支払いの方も縮まるわけです。そういう意味では、年金の債務を考慮すると、そういったことも無視しながら、単に4.1%で想定するというのは、極めて不適切だと思っています。
山田先生の御意見というのは、そういうことを前提とすると、アメリカなりカナダでやっているのは、物価という実質価値の維持向上という観点から見ると、それは当然の目標ですという話で、基本的には非常に納得性が高いという気がしております。
以上です。
○吉野委員長 その場合、年金の支払いとコントリビューションがずっと同じ比率でいくのであれば、この目標でいいわけですけれども、若手の数と年寄りが違ってきてしまうと、これだけではだめなわけですね。
○小野委員 例えば物価プラスαという目標でもよろしいと思いますし、賃金プラスαでもよろしいと思います。財政上はそうだということだと思います。
それから、シミュレーション上出てきているのは、長期金利を国内債券と見立てた上で、それに超過リターンをねらって設定しているという意味では、国内債券プラス何%とか、そういう目標というのは、財政的には賃金と物価と金利とが、将来的に著しく外れていってしまうのは考えづらいので、その中で考えていけば、最近はマイナスの物価でもきちんと適正化していくというお話もありますので、マイナスの期間も含めて、それほど大きな問題ではないと思います。
○吉野委員長 ありがとうございました。
ほかにありますでしょうか。小塩委員、どうぞ。
○小塩委員 貴重なお話をいただきまして、どうもありがとうございました。
お聞きしたいのですが、アメリカではいろんなペンションファンドがあって、それぞれ運用している形になっていると思いますが、日本の場合、GPIFは非常にビッグプレイヤーで、日本のマーケットに占めるウェートは大きいわけです。そうすると、運用に関わるリスクとか収益率というのは、アメリカと日本では違うような気がします。小さなプレイヤーが競っている世界と、大きなプレイヤーがいる世界ではちょっと違うのではないかという気がするのですが、日本とアメリカの違いについて、何かお考えがあればお聞きしたいということが1つあります。
もう一つ、先ほど国債だけで運用するのは問題があるという御指摘があって、私もそのとおりだと思うのですが、例えばアメリカの公的年金は非市場性の国債が100%だったのではないかと思います。それはどのように考えたらいいのかと疑問に思いましたので、その点について、何かお考えがあればお聞きしたいと思います。
以上です。
○吉野委員長 2点、お願いいたします。マーケットのプレイヤーのことです。
○山田エグゼクティブ・アドバイザー GPIFは運用資産の規模で100兆円を超える世界最大の突出したビッグプレイヤーで、その次はどこかというと、ノルウェーの公的年金が40兆円程度、あるいは米国ですと、公的年金ではなくて、州の公務員年金でございますけれども、カリフォルニア州公務員年金が20兆円弱、その他としてはカリフォルニア州教職員年金、ニューヨーク州公務員年金、フロリダ州公務員年金などが大体10兆強ぐらいではないかと思います。
投資行動についてですが、GPIFが今月は100兆円投資をして、来月には100兆円を売り、その翌月には100兆円を買うということはございません。実際には入ってくるお金と出るお金を考えながら、運用されているのだろうと思います。したがって、そのときの瞬間的な購入額あるいは売却額というのは、それほど大きくありません。また、マーケットに対して一気に出ることは大きな影響を与えてしまいます。どうしても買いたいとなれば、高く値を出さないと買えませんし、どうしても売りたいというときは、値を下げてでも売らなければいけませんから、運用会社はそういうことに十分警戒をして、売るときにはわからないように売り、買うときもわからないように買うことに努めています。
したがって、例えば100兆円と20兆円の差はあるにしても、多数の運用会社を使っているわけで分散もされていきますので、資産規模によって運用に差し障るような差は出てこないと思っております。
2番目のアメリカの公的年金でございますが、私は門外漢でございますけれども、日本の国民年金あるいは厚生年金保険とは性格が違っているように認識しております。アメリカではいわゆるソーシャルセキュリティズタックスと言われている形で徴収した保険料を、政府の資金としてバジェットの中に組み込まれていると理解しております。GPIFが将来の年金を支払うためという明確な目的を持って、リスクをとって投資しようという前向きな考えなのに比べて、アメリカの場合はある一定期間に上がってくる税といいますか、保険料を政府が預かり勘定としてキープする仕組みであると理解しています。それゆえに世間では国債と言っているようですが、詳しくは存じませんが、いわゆるマーケットで流通する米国国債ではないと理解しております。
○吉野委員長 ほかにいかがでしょうか。
先ほど小野委員からもございましたけれども、物価上昇率プラスαという目標を設定して、あるいは賃金プラスαでもいいと思うんですが、ある期間に日本の運用の方々というのは、その目標を達成することができるんでしょうか。これまでの御体験からいかがでしょうか。
○山田エグゼクティブ・アドバイザー 物価上昇なり賃金上昇なりにどれだけの幅で超過収益率を上げるかという、言ってみれば運用機関にとってはお客様からのオーダーの高さがどうかということもあると思いますが、もし物価上場をほぼカバーする程度であって、余りリスクをとるなということであれば、私の経験からすれば、かなり債券のウェートが高くても、先ほどのどなたかのお話にもありましたように、ある一部はリスクのある運用も加味しながら、分散投資によるリスクのコントロールをしていけば、基本的には賃金上昇、物質上昇をカバーできると思っております。
○吉野委員長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
もう一つ、私から御質問させていただきたいんですけれども、海外との運用のパフォーマンスを見てみますと、やはり日本人のパフォーマンスは余りよくないという数字もありまして、外国人のパフォーマンスの方がいいということもあるんですが、アメリカなどの人たちはグローバルに運用するところがうまいような気がしまして、それが情報とかいろんなものから来ているような気がします。それが1つです。
それから、ロンドンでこういうファンドをやっている社長の方のインタビューをしたときに、これまでの御議論と全然違うんですが、コモディティを入れないことがかえってマイナスになるのではないか。むしろ、債券、株以外にもコモディティまで含めた大きなポートフォリオでやる方がいいという、それはヘッジファンドに近い社長のコメントでした。
その2点をお伺いしたいです。
○山田エグゼクティブ・アドバイザー まず、最初の御指摘でございますけれども、それぞれのマーケット、国によって、物価上昇率が異なります。したがって、物価上昇率に対する超過収益を運用のメルクマールとするならば、日本の場合に物価上昇が0であれば、運用リターンが0であっても、物価上昇率をカバーしたことになります。アメリカの場合、もしそれが4%であれば、4%の運用があって初めて物価上昇をカバーしたことになります。
したがって、相対的に比較してみる必要があると思います。たまたま手元に持っております数字は、先ほどご紹介したカルフォルニア州公務員年金の運用実績なのですが、2001年1月から2010年12月までのちょうど10年間の算術平均運用収益率でございますが、5.5%でございました。アメリカの10年間のインフレ率がどうかということは、ここでは把握できていませんが、実質収益率という点では世間で言われるほど高いものではないように思います。
もう一つ、余談かも知れませんが、カルフォルニア州公務員年金の場合、この10年間で最大の収益率を上げたのは2003年で23.3%でした。大変高い収益率が上がっています。しかし、2008年、例のリーマンショックのあった年は-27.8%でした。全資産の約3割が1年間で失われたということが、現実に起こっております。ただし、10年間を通算すると5.549%でございました。やはりリスクをとって運用をしていても、長期的で考えると、ならされるということが言えると思います。
2番目のコモディティを加えるべきかにつきましては、先ほども申しましたように、基本となる部分は4資産で変わらないのではないかと思います。しかし、仮に5%とか10%ということでもいいのかもしれませんが、基本4資産以外の資産を取り込むことは、全体の分散投資効果が高まる、あるいはコモディティ投資の場合ですと、インフレ追随率が高いという観点から、組み入れるメリットがあると言えると思います。しかし、例えば世界中のヘッジファンドは約160兆しかございません。日本の公的年金の規模で、このような性格の資産に投資をする場合には、ベースをよく確かめ、やるとするならば徐々にやっていくことが賢いのではないかと思っております。
○吉野委員長 どうもありがとうございました。
それでは、ほぼ予定の時間になりましたので、お二人の御意見を踏まえながら、我々は積立金の運用に関して、引き続き議論させていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
○山田エグゼクティブ・アドバイザー どうもありがとうございました。
○吉野委員長 最後に事務局の安部数理課長から、次回の予定について、お願いいたします。
○安部数理課長 次回の予定の前に、駒村委員から最初に御質問いただいた件についてですが、私がちょっと御趣旨を勘違いしておりました。参考資料2の数字というのは、経済前提は変えておらず、純粋に被保険者数の影響だけでどれぐらいになるかという試算でございます。そういう意味で、2つおっしゃったうちの2番目の要因だけの効果が参考資料1に示されております。当時、経済前提をいじってどうなるかという試算をやっておりませんでした。今日はこの資料をお示ししましたが、次回の経済前提を設定する際には、そういったところの影響も見ていく必要があるかと思っておりますので、今回の資料はそういう内容でございます。先ほど私が勘違いいたしました。申し訳ございませんでした。
あと、第2回の委員会が終わりました後に、前回の平成21年の経済前提を設定いたしますときのエクセルのファイルをお送りさせていただいております。これをごらんいただきまして、経済モデルの策定に当たっての御意見等がございましたら、事務局まで御連絡いただければと思います。
次回でございますけれども、年明けを目途に公表されます予定の新しい人口推計の結果、それに加えまして、その時点で公表されております政府の経済見通しなどについて御議論を行っていただきたいと考えております。それらの公表スケジュールなどと併せまして、改めて日程調整をさせていただきたいと思いますので、年明け以降、改めて御連絡を申し上げます。
○吉野委員長 どうもありがとうございました。
各先生方にはエクセルの表が配付されていると思いますので、もしお気づきの点がありましたら、是非事務局の方にお知らせいただきたいと思います。
それでは、今日はこれで終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
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