ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 社会保障審議会(年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会)> 第2回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録




2011年11月21日 第2回 社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録

年金局

○日時

平成23年11月21日(月) 15:00~17:00


○場所

経済産業省別館10階 1020会議室
東京都千代田区霞が関1-3-1


○出席者

吉野 直行 (委員長)
植田 和男 (委員)
小塩 隆士 (委員)
小野 正昭 (委員)
川北 英隆 (委員)
駒村 康平 (委員)
武田 洋子 (委員)
西沢 和彦 (委員)
山田 篤裕 (委員)
米澤 康博 (委員)

○議題

(1)年金積立金管理運用独立行政法人からのヒアリング
(2)長期的経済前提、経済モデルの設計について

○議事

○吉野委員長 皆様お揃いですので、ただいまから第2回目の「社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」を開催いたします。
 今日は全員の委員の方がご出席です。また、お手元の座席表には、辻副大臣の名前がありますが、急遽公務のために欠席です。今日は我々だけで議論させていただきたいと思います。
 それではお手元に議事次第があります。議題1は、年金積立金管理運用独立行政法人からのヒアリングです。本日は年金積立金管理運用独立行政法人の三谷隆博理事長、岡部修理事にお越しいただいております。事務局のほうから資料の確認と、参考資料を説明いただき、その後に三谷理事長からご説明いただきたいと思います。事務局の説明原口参事官よろしくお願いします。
○大臣官房参事官 ご説明の前に資料の確認をさせていただきます。本日の資料は、議事次第、座席表、委員名簿、資料1は、「年金積立金管理運用独立行政法人について」、資料2-1は、「経済前提の設定に用いる経済モデルについて(1)」、資料2-2は、「経済前提の設定に用いる経済モデルについて(2)」です。参考資料として1枚。本日の資料は以上です。
 参考資料について説明させていただきたいと思います。前回の会議で共済組合の貸付金の利率について、質問いただきましたので一覧にしたものです。ご覧いただきます通り、いずれの共済組合も基本的に貸付の中心は組合員に対する貸付で、国家公務員共済組合連合会の場合の利率が、2.7%。地方公務員共済組合の場合が、2.4%。日本私立学校振興・共済事業団の利率が2.0%。これらはいずれも積立金の資金を原資とする場合に、積立金に対して付与されていく利率ということです。個々の組合員に対する貸付は、必ずしもこの利率ではなくて、手数料等が加わるような利率で貸付が行われているようです。これらは貸付原資に付される利率ということで一覧にさせていただきました。以上です。こちらのほうはよろしいでしょうか。
○吉野委員長 ご説明どうもありがとうございました。それでは三谷隆博理事長から資料1について、説明をよろしくお願いします。
○三谷理事長(年金積立金管理運用独立行政法人) GPIFの三谷です。よろしくお願いいたします。初めに今日このような形で私どもの法人に対するヒアリングの機会を設けていただきましたことに御礼申し上げます。また、年金制度財政と運用を一体的に議論するという趣旨で当法人の職員が本専門委員会にオブザーバーとして参加させていただいておりますが、そのことについても重ねて感謝申し上げたいと思います。
 本日の資料の構成は、次の頁の目次にありますように、法人の概要等を順次説明し、最後に今後の運用に当たっての主要課題の説明をさせていただきたいと思います。
 1頁では、私ども法人は、前身は、特殊法人年金資金運用基金というものでありまして、これが平成18年4月1日に独立行政法人として私どもに改組され発足したという経緯です。役員は、私のほか理事1名、監事2名、職員71名です。海外では大体こういった資金を運用しているところは、数百人規模のところが多いわけですが、それに比較をすると大変コンパクトな組織で行っているということです。私どもの事業は、厚生労働大臣から寄託を受けた年金積立金の年金資金の管理運用に特化しています。以前年金福祉事業団等のころには、貸付事業等他の事業もやりましたが、現在は積立金運用に100%特化しています。運用の方法は国内の債券の一部を自家運用している他は、大半を民間の運用機関に委託しています。これによって先ほど申し上げたように、膨大な積立金を少数の人数で何とか管理できているという状況です。
 その他私どもには他の独立行政法人にない独自の組織として、運用委員会があります。中期計画、運用受託機関選定等重要事項についての審議を行っていただいており、特に基本ポートフォリオの作成に当たっては精力的なご議論をいただいています。また、運用委員会は私どもの管理運用業務の監視も任務としておりまして、委員は経済・金融の専門家等の学識経験者から厚生労働大臣が任命し、現在は1頁の下のほうにあります10名の委員の方から構成されています。
 2頁です。法人の業務としては、大臣から示されます中期目標に基づいて、中期計画を作成します。その中で基本ポートフォリオを策定しまして、大臣の認可を得たうえで、これに基づいて年金積立金の管理運用を行っています。先ほど申し上げましたが、実際に積立金の大半を運用するのは外部の運用受託機関であり、各アセットクラスについて一定の期間毎に公募のうえ、審査・選定を行っているところです。また、選定、受託後も毎年総合評価を行い、状況に応じて資金配分の見直し等も行っています。その他に運用機関の管理という点では、まず運用機関に対し運用目標等のガイドラインを示し、それに基づく運用状況について報告を聴取するほか、全体としてのリスク状況のチェック等も行っています。市場運用については、この下の段にあるように、運用機関へ委託しているものが77ファンド、私ども自身で運用している自家運用は2ファンド、これはいちばん左の国内債券のいちばん上の行に載っていますが、これを合わせて市場運用分で79もの多数のファンドを管理しています。
 次に基本ポートフォリオについてです。第2期の大臣から示された中期目標においては、「この目標が暫定的なものであることに留意し、安全・効率的かつ確実を旨とした資産構成割合を定め、これに基づき管理を行うこと。その際、市場に急激な影響を与えないこと」とされています。第1期の場合には、賃金上昇率+αという形で具体的な目標が示されたわけで、今回はそういうものが示されておりませんでした。これについて、厚労省からは、暫定的なものであること、また市場に急激な影響を与えないということに留意し、基本的には第1期の基本ポートフォリオを引き続き暫定的に用いることを想定しているという説明がありました。これを受け私どもでは、第1期中期計画における基本ポートフォリオについて、その後のデータで更新しましたリスク・リターンデータを用い、引き続き安全・効率的かつ確実であることを検証・確認したうえで、第1期中期計画における基本ポートフォリオを第2期中期計画における基本ポートフォリオとして定め、昨年3月に厚生労働大臣の認可を受けたところです。
 このように現在の私どもの基本ポートフォリオというのは、暫定的な目標を踏まえたものになっています。基本ポートフォリオの構成割合については、この3頁の下のほうにあるように、国内債券が約3分の2を占め、その他に国内株式、外国債券、外国株式等が組み合わさってできているものです。
 4頁です。ただいまお話ししましたように基本ポートフォリオは、内外4つの資産クラスを組み合わせたものになっています。こうした分散投資は、債券や株式のように特性の異なる複数の資産に分散して投資を行うことにより、長期的に見るとリスク水準を抑制できるという考え方のもとで作られたもので、これはこれまでの国内外の経験則や投資理論で明らかにされているところです。その考え方ですが、この左の図、例1の場合は、これは収益率がまったく同じ動きをする資産を組み合わせた場合、この場合のリターンのぶれは組み合わせる前とまったく同じようになってしまうわけですが、この下の例2にありますように、収益率が逆の動きをするような資産の組合せの場合には、リターンの水準そのものは例1と同じですが、リターンのぶれはそれぞれの資産のリターンが反対の動きをすることにより相殺され、より安定的な収益を確保できることになるわけです。このような分散投資の考え方を活用しますと、国内債券を中心として、国外内の株式等を一定割合組み合わせた分散投資を行うことにより、国内債券で全額を運用する場合と同程度のリスク水準を保ちながら、期待収益率を引き上げることができるということになるわけです。
 具体的には、右側に概念図を掲載しています。国内債券、国内株式、外国債券、外国株式という4資産の組合せは、いわば無限にありうるわけですが、その中でそれぞれの組合わせによって、同一のリスク水準においてもっとも高い期待リターンとなるポートフォリオの集合であります、効率的フロンティアを導き出すことができます。これによってリスクの大きさに応じて最大の期待収益率を上げる組合せが求められることになります。それにより例えば、国内債券並みのリスクで国内債券を上回る期待リターンを得る組合せを求めることが可能になってくるわけです。基本的に私どもは、こういった考え方のもとで、基本ポートフォリオを作成しているところです。
 では具体的にどのようにやっているかをもう少し噛み砕いて、5頁で申し上げます。先ほど申し上げましたように、第1期の基本ポートフォリオそのまま使用していますので、第1期の際の基本ポートフォリオの作成プロセスを説明いたします。まず、第一に個別資産毎の期待収益率を算定します。次に過去のデータから推計される資産毎のリスク、また相互の相関をもとに先ほど申し上げました効率的フロンティアというものを導き出し、その中から複数のポートフォリオを候補として選択します。最後にそれぞれについて候補として抽出しましたいくつかのポートフォリオについて、様々な検証を踏まえまして最終的な基本ポートフォリオを特定するという3段階のプロセスを経ております。
 第1の個別資産の期待収益率の推定では、いわゆるビルディング・ブロック方式というものを使用しました。ビルディング・ブロック方式とは、ここにありますように各資産に共通の物価上昇率、実質長期または短期金利といったものを、1つ1つ積み木のように積み重ねまして、期待リターンを積み上げる手法です。このうち第1期の基本ポートフォリオにおいては、この図で網掛けをしている物価上昇率、実質短期金利、実質長期金利、国内株式の実質リターンについては、国が財政再計算を行う上で使用しました経済前提をそのまま使い、外国債券と外国株式のリスクプレミアムについては、私どものほうで、主要国の過去のデータを使用して算出したところです。このように各資産の期待収益率をまず出します。次にポートフォリオ群の抽出に当たっては、一般にポートフォリオの作成に用いれられています、いわゆる平均・分散アプローチを使いまして、効率的フロンティアを導き出し、そこから複数の基本ポートフォリオ候補を選択したものです。
 第3の基本ポートフォリオの特定は、モンテカルロシミュレーション等による基本ポートフォリオのリスク検証を踏まえまして、その中から最終的に一つの基本ポートフォリオを特定したものです。いま話しましたように、第1期では、基本ポートフォリオに対する個別資産の期待収益率の推定をする上で、物価上昇率等について、国の財政計算の前提となる経済前提をそのまま活用するという手法を採ったところです。まさにこの部分で国の経済前提の数値の作り方が私どもの基本ポートフォリオに直接影響があることから、今回この専門委員会に私どもがオブザーバーで参加して、議論に加えていただいているものと理解しています。
 次に6頁の運用機関の構成です。運用手法としては大きく分けてパッシブ運用とアクティブ運用があります。私どもでは基本的にパッシブ運用を中心に運用を委託しています。パッシブ運用と申しますのは、市場を幅広く反映した指標をベンチマークとし、基本的にそのベンチマークの通りに各銘柄を保有することにより、市場平均並みの収益率等を目指すことを目的とする方法です。
 一方アクティブ運用というのは、銘柄選定に関する一定の考え方に基づいて、投資する銘柄をある程度限定して市場平均以上の収益率を目指す方法です。厚生労働大臣から示されました中期目標においては、私どもの運用する資産が100兆円を超える巨額のものであることも考慮し、パッシブ運用を中心とすることとされております。私どもはその方針に沿った運用を行っています。平成22年度末においてはこの表にありますように、アセットクラスによって違いはありますが、7割から9割近くがパッシブ運用、残りがアクティブ運用という形になっています。
 次にこういった運用を行います運用受託機関の構成の見直し・選定です。運用受託機関構成の見直しは、原則として3年毎に行うこととしています。短期間での運用実績で運用期間、運用能力を評価する場合には、短期的な市場動向の影響を強く受けるということから、少なくとも3年以上経過した段階で評価することが適切であると考えています。運用機関の選定に当たりましては、年金積立金の運用受託のために、必要な認可やもしくは年金資産の運用残高の実績等満たすべき最低限の要件を設定した上で、公募を行っています。その後さまざまな角度から評価を行い、その評価結果及び運用受託機関構成を勘案した上で、最終的な選定を行っています。
 もう少し具体的に申し上げますと次の8頁です。具体的には、第1次、第2次、第3次と複数の段階に分けて審査を行ない、運用委員会で審議していただいた上で決定しているところです。第1次審査では、私どもが示しました公募要件に基づき書面による審査を行います。第2次審査では、運用機関から投資方針、運用プロセス、運用に関する組織体制などの各種評価事項、これは右側に表にして書いていますが、こういった事項に関するヒアリングを行い、これらを総合した評価結果や運用受託機関の構成を勘案して、第3次審査の対象となる運用機関を選定しています。
 第3次審査では、実際に運用を行っている現場に赴きましてヒアリングを行い、その結果を踏まえて運用手数料を含む総合評価結果及び運用受託機関の構成を勘案して最終的な運用機関を選定しています。評価基準については右の表にありますように、投資方針、運用プロセス、組織・人材といった運用能力に関するものに加えまして、コンプライアンス、事務処理体制等を対象とし、さらには運用委託手数料の水準についても評価を行っているところです。
 次に9頁の運用受託機関の管理及び評価です。運用受託機関の管理は毎月運用受託機関から運用実績、リスク状況等の報告を受けまして、問題がある場合には随時ミーティングを実施するなどの管理を行っています。これとは別に運用受託機関の年度の総合評価を行うために、定期ミーティングを開催するとともに、総合評価が一定水準以下の受託機関については、より詳細なリスク管理ミーティングを実施しています。運用受託機関の評価に関しましては、この右の表にありますように、定性的な評価として運用スタイルの根拠等の投資方針、戦略決定等の運用プロセス、組織・人材等、定量評価としてはパッシブ運用では、超過収益率、トラッキングエラーについて、アクティブ運用では、超過収益率、インフォメーション・レシオ等を組み合わせて評価しているところです。なお、総合評価が一定水準に達しない運用受託機関については、資金の一部の回収や資金配分の停止等の措置を実施し、総合評価結果を有効に活用することとしております。
 次に10頁の運用委託手数料です。私どもの運用委託手数料については、平成22年度で率で申しますと0.02%、金額で246億円です。これまで運用受託機関の見直し等の際に、この節減を逐次図ってきたものです。ちなみに下の表にありますように、例えばアメリカの公的年金、企業年金に比べますと手数料は一桁以上低い数字になっています。他の法人等と比べますと大変低い手数料だと評価をいただいているところです。これはひとつには先ほど申し上げましたように私どもパッシブ運用が中心になっていて、パッシブのほうがアクティブに比べましてより料率が低いということもありますが、さらに言いますと、私どもの資金量は100兆円を超え、非常に巨大な資金量ということで、受託機関のほうもそれ相応の対応をしてくれているということです。
 次に株主議決権の行使です。株主の議決権行使については、中期目標において、私どもが民間企業の経営に対して影響を及ぼさないように配慮するとともに、企業経営等に与える影響を考慮しつつ、長期的な株主等の利益の最大化を目指す観点から株主議決権の行使などの適切な対応を行うこと、とされています。抽象的な言い方ですが、こういった要請を踏まえまして、私どもは直接株主議決権の行使は行わないこととし、私どもの作成した中期計画においては、企業経営に直接影響を与えるとの疑念を生じさせないよう株主議決権の行使は直接行わず、運用を委託した民間運用機関の判断に委ねる、ということを定めています。ただそれだけでは勝手になってしまっても困りますので、具体的には株主議決権の具体的な行使に関しましては、運用受託機関において、議決権の行使に関するガイドラインというものを作成してもらい、その作成状況、また実際の議決権行使状況が、そのガイドラインに即したものであるかどうかといったようなことを、私どもが評価した上で、最終的な議決権行使の判断は運用機関に委ねているということです。昨年度の場合には、議決権行使の取組みは、概ね良好でありましたが、一部の運用機関には改善の必要が認められたことから、個別に改善を求めたといった経緯もあります。私どもはいま申し上げたようなガイドラインを介在させる形で、適切な議決権の行使に努めていきたいと考えています。
 次に現在私どもの抱える大きな課題として、キャッシュアウトへの対応という問題があります。かって旧資金運用部に受託されておりました年金積立金は財投改革に伴いまして、年金特別会計に償還され年金給付に用いられる一部を除きまして、厚生労働大臣から当法人に寄託され運用を実施してきています。私どもの前身であります旧年金資金運用基金が受託金の運用を開始した平成13年度当初の運用資金残高は23兆円でしたが、先ほど申し上げたような形で、旧資金運用部から年金特別会計を通じて私どもに次々と寄託されてまいりまして、ピークであります平成21年度には120兆円まで拡大したところです。ただこうした預託金の寄託というものは、平成20年度末に終了いたしまして、平成21年度以降は逆に年金特別会計の収支不足を補うために各寄託金の償還を行うことになり、当法人の運用資産の取り崩しが、私どもはこれをキャッシュアウトと言っていますが、必要になってきたところです。キャッシュアウトの金額は21年度の実績が約3兆9,000億円。22年度の実績が約6兆2,000億円、23年度は基礎年金に対する国庫補助の割合が3分の1か2分の1かということで、年度中に大きく振れたわけですが、最終的には本日第三次補正予算が成立したということですので、今年度はそれを勘案しますと、第三次補正後予算としては約6兆1,000億円になる見込みです。ただ、これらの金額は21年度の財政検証において試算された金額を大幅に上回っているところで、この結果私どもとしては、毎年相当の金額の資産の取り崩しが必要になってきているということです。
 キャッシュアウトに際しましては、まず私ども満期まで保有することとしています財投債、これは旧資金運用部であります財政融資資金から私どもに年金特別会計を通じて、資金が返還されます際に、財政融資資金の資金繰りに相当大きな影響を及ぼすということで、返還資金の一部で財投債を引き受けることにより、激変緩和措置を講じて欲しいとの要請の下で引き受けたものですが、これは今申し上げたように、基本的に満期償還で対応していますので、その満期償還金を活用することとしています。ただ先ほど申し上げましたが、キャッシュアウトの金額がこれを上回って、財投債の満期償還金だけでは相当不足する。その不足する部分については、市場で運用する資産を売却してキャッシュ化せざるを得ません。その際は私どもとしては市場へのインパクトを軽減するため、寄託金の償還のスケジュール等に勘案しながら平準的な売却を心がける一方、その時々市場の動向を踏まえながら売却対象の資産を選定するとともに、状況に応じて売却に緩急をつける等様々な工夫を行ったところです。これまでのところ、比較的国内債券市場が好調な状態で推移してきたので、そんなに大きなストレスを生ずることなく、多額のキャッシュアウトが可能であったわけですが、いつまでもこういう環境が続くとは限らない。これに対する対応というのが今後大きな課題になってくると思っています。
 次に私どもにおける運用状況を簡単に説明します。平成22年度は、年度初め、欧州の一部諸国、ギリシャ等の財政問題とか、米国の金融緩和、こういったことに伴う円高の影響及び23年3月に発生しました東日本大震災の影響等から、外国債券及び国内の株式がマイナスになり、収益率は-0.25%、金額にしますと-2,999億円の損失になりました。23年度第一四半期については、国内債券がプラスになったこと等から収益率はプラス0.21%、収益額はプラス2,400億円となったところです。年金自主運用を開始して以来、13年度以来のトータルでの運用実績は14頁にありますように、運用資産全体の収益額、13年度から22年度と年度毎にかなりデコボコはありますが、10年を合計すると11兆3,894億円の収益を確保できたところです。
 15頁、長期的な目標運用利回りとの比較です。現在の私どもの基本ポートフォリオは、先ほど申し上げましたように、平成16年度の財政再計算における年金積立金全体の長期的な運用利回りを踏まえて策定されました第1期中期計画の基本ポートフォリオを、引き続き第2期中期計画の基本ポートフォリオとして定めたもので、長期的な運用利回りの目標は、名目賃金上昇率プラス1.1%とされているところです。基本ポートフォリオの推計初年度、平成15年度以降、平成22年度までの8年間の名目賃金上昇率は、ここにありますように-0.55%。これに1.1%を加えますと財政再計算に沿った必要な名目運用利回りは0.54%になるところです。この間の私どもの名目運用利回りは2.43%ですので、必要とされる目標の運用利回りを2%近く上回る結果となっています。私どもの運用について名目リターンが運用目標に達していないではないのかという指摘を受けることがありますが、私どもとしては年毎にはいろいろありますが、ある程度の期間で見れば与えられた目標である賃金上昇率+αについて必要なリターンはなんとか確保できているものと考えています。
 最後に今後の運用にあたっての主要課題です。この主要課題については、最初に申し上げました私どもの運用委員会でも議論していただいた内容を踏まえて、整理したものです。大きく4点あります。これ以外にも技術的な課題はいろいろありますが、本日は経済前提等について議論していただく専門委員会ということもありますので、この主要な4課題に絞って説明申し上げたいと思います。
 1点目は、財政検証の経済前提です。先ほどの基本ポートフォリオの作成プロセスで申し上げた通り、私どもは基本ポートフォリオの作成の際、前提となる個別資産の期待収益率の推定に当たり、国の財政計算の前提となる経済前提の数値を活用してきたところです。ただ直近の平成21年度の財政計算をもとに第2期の基本ポートフォリオについて運用委員会で検討した際には、平成21年度の財政検証の経済前提の様々な計数が、市場環境から大きく乖離しているのではないかという議論がなされ、それを巡りまして、運用委員会の中でも様々な議論がありました。このため私どもとしては、基本的に足下から長期に渡り、現在の市場環境にも立脚して、経済前提を設定していただくことが必要だということを、まず申し上げたいと思います。
 2点目に目標とする運用利回りです。一昨年から昨年にかけ国のほうで開催されました私どものあり方に関する検討会において、目標利回りを賃金上昇率+αとするのか、金利+αとするのか、そういった議論があったものと承知いたしています。その際、金利+αのほうが良いという考え方の背景には、賃金上昇率を直接ヘッジするような資産はないのではないかということが問題点としてあったものと理解しています。ただ16頁の下の(注)に書いてあるように、国内債券、国内株式と賃金上昇率の関係を1年という短期の期間で見ますと確かに相関は小さい。国内株式の場合はわずかながら逆相関になっているわけですが、計測期間を長く取ってみますと、だんだん相関は大きくなりまして、特に国内債券では5年程度でも強い相関関係が見られるところです。したがって、長期的には伝統的資産のリターンと賃金上昇率にはある程度の相関が見られることから、私どもとしては賃金上昇率+αという運用利回りの目標と、整合的な基本ポートフォリオの構築は可能であると考えています。
 逆に運用利回りの目標を金利+αというほうがよいという考え方の背景には、市場で運用を行っている以上、金利+αのほうがより市場と連動する形で運用できるのではないかということもあったものと理解しています。ただ、金利が上昇する際には、債券価格が下落するというように、金利変動と債券の時価は実は短期的には逆方向の動きをするので、例えば目標運用利回りが金利上昇の結果、上昇しているにもかかわらず、足下では多額の評価損が発生するという事態が容易に想定されるわけで、この点にどういうふうに配慮するかという問題があります。また、名目金利、金利は名目ではマイナスにはなりませんが、債券のリターンは時価評価をとっている以上、マイナスになることは十分にあるわけです。そのために必ずしも金利+αとすることは、市場で運用するに当たりより適合していることは言えないことに留意が必要ではないかと考えています。
 3番目にリスクについての考え方です。先ほど説明したように、効率的なフロンティアを算出して、分散投資を行う場合、目標運用利回りと、その利回りを得るためのリスクというのは、効率的フロンティアの曲線上では一カ所になります。いわば目標利回りとそのリスクが同時決定であるということでありますので、その意味では目標利回りとリスクの考え方は一体的に検討することが必要であると考えています。さらに、仮に運用利回り目標を賃金上昇率+αとした場合、先ほど申し上げた名目利回りを得るためのリスクとは違う観点から、リスクについてもその目標と整合的な尺度を考慮することが必要ではないかと考えられるところです。
 具体的に申しますと、17頁の囲みの中にあるように、私どもの基本ポートフォリオのリスクについては、これまでは与えられた経済前提の数値を前提に、名目期待リターンがどの程度のばらつきがあるかということで、そのリスクについて国内債券で全額運用する場合と、同程度のリスクを目処とする形で対応してきたところです。ただ一方で、賃金上昇率+αを目標とした場合に、賃金上昇率自体が変動するものでありますので、名目運用リターンを1つセットして、それに対してどう変動するかではなく、目標そのものである賃金上昇率+α、これ自体が賃金上昇率の変動に伴って動くわけですので、それに対する目標達成上でのばらつきというものを、リスクとして捉えるべきではないかという考え方もあり得るのではないかと思っています。そうした観点からは、名目賃金上昇率に対する実質的なリターンのばらつき等をリスクとして考慮することが必要になってくるのではないか。まったく違う観点からではありますが、そういった考え方もあり得るのではないかと思っているところです。
 最後に4点目はキャッシュアウトへの対応です。先ほど説明しましたとおり、平成22年度でも6兆円強のキャッシュアウトが必要になったところです。今後のキャッシュアウトの額については、これから財政計算をしていただく中で、試算されることになりますが、この数年のように、年間数兆円にも及ぶキャッシュアウトが引き続き継続して見込まれるという場合には、大きく財政検証とずれるということがないように、試算精度の向上をお願いすることは言うまでもありませんが、さらに長期的観点からの効率的運用を確保しつつ、市場への影響を回避し、キャッシュアウトが安定的に実施できるような仕組みというものを、中期目標等において整備していただくことも必要ではないかと考えているところです。以上4つの課題を述べさせていただきました。今後この専門委員会における議論を進めるうえで、これらの年金財政の管理を行う現場からの意見を念頭においていただけばありがたいと思います。
 最後になりますが、私どもは国民からお預かりした保険料を原資とする年金積立金の管理運用を通じ、年金制度の財政の安定、ひいては国民生活安定に貢献する使命をまっとうするため役職員一同、全力で取り組んで参る所存です。委員の皆様におかれても引き続きご理解、ご支援を賜りたいと考えています。本日はどうもありがとうございました。
○吉野委員長 三谷理事長、どうもありがとうございました。これから委員の皆様からいろいろご意見をいただきたいと思いますが、最初に私から2、3、理事長にお伺いしたいと思います。
 5頁で、様々な資産のビルディング・ブロック方式を説明していただけたのですが、今回のサブプライム・ローンやヨーロッパ危機ですと、流動性リスクというのがだいぶあったような気がしますが、それは資産運用の5%の短期運用のところで年金の場合には十分に確保されていると考えていいのかどうか、これが第1点です。
 2点目です。GPIFさんの場合に、大体どれぐらいの年限でこういうパフォーマンスを考えていらっしゃるのか。というのは、よく企業年金さんの場合には、担当者の方が就任されていらっしゃる間に良い成績を上げておきたいというようなことを噂で聞きまして、そうしますと本来の運用ではなくなりますので、大体どれぐらいの周期でこのパフォーマンスをご覧になっていらっしゃるのか、これが2番目です。
 3番目は、後で委員の方々ともご議論しなくてはいけないと思いますが、賃金上昇率+αなのか、金利+αなのか、その他か。私の個人的な意見ですと、運用利回りというのは資本の収益率ですから、労働の収益率というよりはむしろ資本の限界生産性に近いのではないかという気がするのですけれども、これも後で別の議論のところでさせていただきたいと思います。
 最後は、キャッシュアウトがこれからどんどん増えてくるわけですけれども、そのキャッシュアウトに対応するためには、満期が丁度きた資産と、それから、これまである資産を切り崩していかなければならないことになると思いますが、そのときにどういう資産を切り崩すことが将来的なポートフォリオの残存として一番いいかというのは、新しい運用をする場合と切り崩す場合とで違ってくるような気がするのです。その点についてお伺いできればと思います。
○三谷理事長 まず最初の、流動性リスクに対する対応ということです。私どものこの5%というのは、直接それを念頭に置いて作っているわけではありません。年金積立金全体ということになりますと、私どもが運用しているものの他に、特別会計で資金繰り的に持っているものもございます。私どもが短期で運用しているのは基本的にはかなり小さい金額で、今はキャッシュアウトのためにちょっと膨らんでおりますけれども、私どもは基本的にはできるだけ全額運用するという考え方の下でここ数年前まではやってきておりました。そして、年金特別会計も含めた全体での支払準備としての流動資産が5%程度あるという考え方で、5%を予め別枠として置いているということです。これは実際に5%あるかどうかは、そのときによって違いますので何とも言えませんけれども、一応それを除いた形でパフォーマンスを考えています。
 それから運用年限ですが、これは確かに非常に難しい問題でありまして、私どもの中期計画は5年ですけれども、5年ではちょっと短か過ぎるなと。概ね10年、20年。30年ぐらいはちょっと長過ぎるかなと思いますけれども、10年から20年ぐらいのところで計測していかないと、やはり市場の変動というのが非常にありますので、難しいのかなと考えております。
 3番目はまた皆さんのご議論を待つとしまして、キャッシュアウトですが、先ほど申し上げましたように、たまたま私どもは今、一応満期償還を念頭に保有しております財投債というものがありまして、それが1つ、満期がくるごとにキャッシュアウトに使えるわけですけれども、それではとても足りないということで、その他の運用資産を切り崩さざるを得ないということであります。まず、資産を買うときと売るときではやはり市場へのインパクトはかなり違うと思います。買うというのはマーケットから見ればウェルカムな話ですから、あまり大きな話題にはならない。ただし売るとなりますと、例えば私どもが国債を何兆円、どうも今年度売りそうだという話になると、それだけでマーケットにあらぬ憶測を呼ぶかもしれないということで、売るについては相当それぞれのマーケットの状況を見ていかなくてはいけない。こういうことになりますと、本来でいきますと基本ポートフォリオで一定の割合を定めているわけですから、それをいわゆる輪切りといいますか、1兆円必要であれば、その3分の2は国内債券、残りを、1割を国内株式とかいった形で売るのが本当は理想的なのでありますけれども、なかなか市場の状況から見てそういうわけにはいかない。特に、昨今のように株式市場が非常に荒れているようなときには、なかなか株式の売却では対応しづらい面もあります。もう1つ念頭に置かなくてはいけないのは、私どもはそれなりの収益を得るために運用しているわけでありますので、各年度決算時に損失・利益等が出るわけですけれども、それはあくまでも評価損益でありまして、それはその後の市場の動きで変わってくるものでありますけれども、売り切ってしまうとそこで損益が確定してしまいます。そういった意味では、実際に購入した価格に比べまして、値下がりしているような資産はちょっと売りづらいなという面もあります。そういったようなことをいろいろ勘案しながら必要な金額を調達するため、うまく売っていくように工夫をしているところです。
○吉野委員長 ありがとうございました。それでは、委員の先生方からご質問、あるいはご意見ございましたら、どうぞ。いかがでしょうか。
○川北委員 いくつかお聞きしたいのですけれども。1つは、最初に基本ポートフォリオを組み立てられるときに、国の財政計算上の前提を基準にされているということなのですけれども、最終的にポートフォリオを決定する際には「各種検証を踏まえて」と書いてあるのですが、1本のシナリオで将来を描くというのはなかなか難しい、外れることも想定しないといけない。そのときに、シナリオ的な考え方をどう用いられているのか、もしくは用いられる計画があるのか、それをお聞きしたいと思います。
 次に、アセットクラスに対する考え方です。国内・海外と分けられていて、国内のほうはほぼ決まっているわけですけれども、海外に関しましてはどこまでをマーケットとするのか。海外の株式に関しても債券に関しても、どの程度柔軟に考えられているのか。また、将来のリターンもしくはリスクを推計されるときに、多様なマーケットの状況をどう反映されているのか、それをお聞きしたいと思います。
 さらにもう1つは、今後の運用とも多少関係するのですけれども、債券の評価ですが、たぶんこれは証券会社のボンド・パフォーマンス・インデックスを用いられて評価をされていると思いますが、その場合は値上がりもしくは値下がりの時価が反映されてしまうわけです。そういうものと、先ほど言われた、長期的な観点から運用されているというGPIFさんの運用方針とがどこまで整合的なのか。もう少し言いますと、毎年値上がりしました、値下がりしましたと言ったところで、それはあまり関係がなくて、満期保有であれば、そのときの平均的なクーポンレートが一番重要になると思うのです。その辺りを運用に際してどう位置付けられているのか。以上、少し教えていただければと思います。
○吉野委員長 3点ありました。1つは将来のシナリオに関してです。
○三谷理事長 シナリオは後で。
○吉野委員長 はい、後で。
○三谷理事長 アセットクラスの考え方ですが。
○吉野委員長 アセットクラスでもう1つ私が追加させていただくとすれば、海外の場合に最近ですと、ヨーロッパ、アメリカ、いろいろとリスクが出てきていますので、その地域別の分散といいますか、それも今後重要になってくるような気がするのです。今の川北委員の質問に付け加えてですけれども。
○三谷理事長 私どもは、先ほど申し上げたように、基本的にパッシブ運用、ベンチマークを定めたインデックス運用となっております。現在、外国債券で採用しておりますインデックスは、シティグループの作っているWGBIと、もう1つWBIGというのがあります。これらのインデックスはいずれも先進国の債券を対象にしたもので、最初に申し上げたものが先進国の国債のインデックス、後に申し上げましたものが、その他国債以外の社債等も含むインデックスで、これをベースに基本的にはパッシブ運用ですので、その動きに追随するという形になります。外国株式につきましても、同じくMSCIというモルガン・スタンレー・グループの作っているインデックス、これが現在世の中では一番広く使われていると言われているものですが、これをベースに考えております。これも先進国を対象にしたものということで、これまでやってきております。そういった意味で、外国債券、外国株式とも、それぞれ外部で公表しておりますインデックスに即して、先進国を中心に投資を行っている形になっております。なお、付言いたしますと、これからの話ですが、外国株式について一部エマージング諸国の株式も入れることとしておりますが、それは今のところごく少額のものにとどめておきたいと考えております。
 債券の評価の問題です。おっしゃるとおり、持ち切るのであれば、途中の値上がり、値下がりは考えなくてもいいということでありますが、これは私どもの場合には、先ほど申し上げたようなキャッシュアウトということもあり得べしということで、そういった場合には当然、売却もあり得るという大前提の下に、今の経理方針を決めております。そういった意味では、時価評価がやはり原則だろうと考えています。ただ、先ほど申し上げましたように、今後キャッシュアウトがかなりの金額続くことになりますと、最終的に満期まで保有する形で、時価評価の対象外とするような資産も検討に値すると考えておりますけれども、これまでのところは基本的に売却もあり得べしという観点の下で時価評価を採用しています。ちなみに、私どもが国内債券でベンチマークにしておりますのが、野村證券が公表しておりますボンド・インデックスですが、これは長期債運用という前提の下で、残存1年未満になりますと、それはすべて処分して、それをまた新しいものに買い替えるという運用をすることが大前提になっております。そうした観点からも、途中で売却が入ってくる。最終的には残存1年のところで売却があるという意味では、今の会計ルールの中では時価評価にならざるを得ないのかなと考えております。
○吉野委員長 第1点目のシナリオ分析をお願いします。
○清水室長(年金積立管理運用独立行政法人) シナリオの件です。5頁をお開きいただきたいと思います。シナリオにおいて様々な状況を考えることにつきましては、いろいろと難しい面もあります。しかしながら、現在この〈3〉の「ポートフォリオの特定」で、「各種検証を踏まえてポートフォリオを特定」と書いていますけれども、これは具体的には、モンテカルロ・シミュレーションによりまして、様々なシナリオを発生することによって、例えば将来の積立水準への影響、こういうものを検証する中で、ポートフォリオの特定をしているとご理解いただければということです。
 第2期の検討のときに、若干、私どもとして内部的に、あるいは運用委員会も含めまして検討しましたのは、例えばリーマン・ショック等々の過去のイベントリスクというものがあるわけでして、こういうものを一種のストレステスト的な形で特定化の過程で考慮する、こういったことは今後も考えられるのではないかと思います。以上です。
○吉野委員長 ありがとうございました。
○米澤委員 私も委員をしておりましたので、割と実情はわかっているのです。ただ、そのときも内情でよくわからない点がありますので、確認で教えていただきたいのです。先ほど、このような広い意味での海外の公的な年金の運用の機関は数百人レベルの規模のところが、多いのに対して、非常に少ない人数でやっておられるということで、それは私もよく十二分に承知しております。それで、今の伝統的な4資産でしたら今のところ何とか回っているというのが実際なのでしょうか。私が委員をしていたときも、例えばですね、すべきかどうかは別として、伝統的ではない資産に少し幅を広げようといったときに、いくつかの意見の中で、やはり今のキャパシティでは無理だというような、たぶん人数のことだと思うのですけれども、そういう意見も聞いたような感じもするのです。現有のところでもう少しいろいろな広い資産、アセットクラス等を運用するというのは物理的に無理なのかどうか、その辺のところをアバウトでいいのですけれども、ご感想をお聞かせください。これが1点です。
 もう1点は、今回いろいろな事情で賃金上昇率+1.1%が目標になっていますけれども、ここに関しては、現在でも1.1%をクリアするのはそう難しくないと理解してよろしいのでしょうか。それとも、ご回答は難しいかと思いますけれども、目標としては十二分にリーズナブルな目標であると理解してよろしいのかどうか。その2点だけお教えください。
○三谷理事長 最初の人員規模と新しい運用資産の話ですけれども、正直言いまして、私ども独立行政法人ということで、人員面でも予算面でも相当大きな制約があります。したがって、簡単に人も予算も増やせない中でどう対応できるかということであります。現在、伝統的な資産以外にも勉強は始めてきているのですけれども、要は、そういったところに踏み出したときに、どの程度まで管理をしっかりできるのかどうかということです。我々は、ある意味丸投げしてしまえば、それは入口のところでそれなりの審査をすれば後は適宜やってくれという話になるのかもしれませんけれども、その辺の途中での管理をどの程度までやるかによって、その負担感は全く違ってくるということです。少なくともこれまで我々は伝統的な資産については、相当細かいところまできっちり管理してきたつもりでおりますので、それと同じレベルの管理は現時点では非常に難しいなと感じているところです。できるだけ、いろいろオルタナティブの勉強なども皆にしてもらいまして、レベルを上げようと思っておりますけれども、今すぐということになるとちょっと躊躇せざるを得ないかなということです。
 それから、1.1%は難しくないのかどうか、これは非常に難しい質問でありまして、それこそ賃金上昇率+1.1%ということですので、この後の賃金がどうなっていくのかということもありますし、最近のように、そこに、株式市場、外国為替市場が非常に動きが激しいときに、簡単ですとはとても申し上げられないし、難しいと言っても何とか長い目で見てそれに達するように努力していきますというふうにしか、お答えしようがないと思います。申し訳ございません。
○西沢委員 簡単に、関連なのですけれども。1.1%というのは2004年の財政検証の数字で、今は1.6%ではないのですか。
○三谷理事長 そうです。
○西沢委員 1.6%をやらなくてはいけないのですよね。
○米澤委員 でも、結局、1.1%になったのです。
○西沢委員 1.1%になったのですか。
○三谷理事長 運用委員会の中でもいろいろなご議論をいただいたのですけれども、最終的に、先ほど申し上げたように、具体的な、第1期のときには賃金上昇率+1.1%を中期目標の中で明確に示されたわけですけれども、第2期のときには、そういった数字的な目標はなくて、かつ、目標を示されたときに、厚労省からは、基本的には第1期のポートフォリオを暫定的に踏襲することを考えているというお話もありましたものですから、前提条件等も、基本的に第1期のポートフォリオを作ったときのものを引き続き使っているということで、今でも1.1%という数字を前提に考えています。
○西沢委員 年金財政自体は、1.6%にしないと合わないということはないのですか。整合性が取れていないということはありませんか。
○三谷理事長 ですから、それは「暫定的」ということの背景にも、まさにその、年金の制度そのものの見直しがこれから行われることもあって、暫定的ということでありますので。平成21年度の目標がそのまま達成できないと年金がうまく回らないということでは必ずしもない、という議論もあったように漏れ聞いております。
○小塩委員 私も西沢委員と同じようなことを申し上げようと思っておりました。そのほかに、先ほど、賃金上昇率+αか金利+αかどちらがいいかという問題提起をなさいましたが、私は年金財政との関連をどう見るかが重要だと思います。年金財政から見ると、年金の受給額が賃金上昇率と連動していますので、目標の立て方としては賃金上昇率+αというのが自然だと思います。ただ、金利を見なくていいかと言われるとちょっとそこまで言い切れない面があると思います。市場とあまりかけ離れた運用をしているとまずい。それをチェックするという点が1つあります。もう1つは、先ほどのご説明で、長期的な目標利回り、運用利回りとの比較の中で実質的におっしゃっていた、1.1%をクリアしているかいないかという点です。それはそれなりに理解できるのですが、これはどちらかというと年金局の方にお聞きしたいのですが、1.1%というαだけが年金財政に影響するのか、あるいは金利の水準そのものも別途年金財政に影響するのかということです。もしαとか1.1%だけが問題であれば、それに注目するだけでいいのですが、金利水準そのものが年金財政のあり方に影響するのか、その辺を、ちょっと年金数理に詳しくないので教えていただければと思います。その答えによって、金利をどこまで見るかという答えも違ってくると思います。
○吉野委員長 数理課長、お願いします。
○数理課長 今のご質問ですけれども、基本的にはやはりαの水準が一番大きな影響を与えているのは事実だと思うのです。ただ100%かと申しますと、今の年金財政の仕組みには、例えばマクロ経済スライドなどの発動条件がある一定の制限が加えられているということで、名目値が全く影響しないのかというと、そこは多少影響する要素はあります。ただ、長期的に見ればマクロ経済スライドとは別に、結局、超長期、何十年という先を見れば、やはり今の賃金水準が巡り巡って、将来の給付水準に影響を与えるという構造は基本的にありますので、やはり、賃金負担の+αというところが年金財政に決定的な影響を与えるのだとは言えようかと思います。
○吉野委員長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 金利の話とか足下のキャッシュアウトの話とかいろいろあります。私は企業年金に関係していますので、最近の資産構成は割と株式等々のリスク資産の比率を落として債券の比率を上げる傾向が指摘できます。ヨーロッパなどでよく言われているのはLDIですね、Liability Driven Investmentというような、債券をある種、キャッシュフロー・マッチングなりデュレーション・マッチングなりをするような話が出てきているということで、確かにアセット・ミックスもそういった形に動いているのではないかと思うのです。そういった企業年金の実態を踏まえつつ、そうは言いつつも、公的年金というのは基本的には賦課方式でありますし、積立金の位置付けも既発生債務を確保することではなくて、基本的にはバッファー・ファンドだろうということであるとか、あるいは、給付が賃金なり物価にスライドするなりという、企業年金にない特徴もあります。企業年金の考え方が公的年金にいかに適用できるかという話、償還年限の長さ等をいかに考慮すべきかという話も、これは GPIFさんに対してではなくて年金局へお願いしたうえで、一度この委員会の中で議論できればいいかなと思っています。以上です。
○吉野委員長 何か今のことについて年金局からありますか。
○数理課長 今ご指摘がありました話は、ご議論いただけるような資料などを検討いたしまして、またタイミングを見てご議論をお願いいたします。
○吉野委員長 そうですね。この場でまたご議論させていただきたいと思います。ほかにいかがでしょうか。
○武田委員 先ほど、小塩委員から運用利回りの賃金上昇率+αについてご意見がありましたが、基本的に私も同意見です。ただ、資料3.のリスクの考え方について、賃金の上昇率のばらつきを考慮するという話がございましたけれども、賃金には下方硬直性などもありますので、年金の運用全体の目標の考え方としての議論と、市場リスクを考える際のリスクは、分けて考えたほうがいいのではないかという印象を持ちました。仮に各アセットクラスのリスクを賃金上昇率のボラティリティにしてしまうと、例えば株などのリスクを極めて過少評価してしまう可能性があります。要するにボラティリティがだいぶ違いますのでリスクを過少評価してしまう懸念があります。これが1点目です。
 2点目は、キャッシュアウトへの対応が今後重要になってくるし、既に重要な課題になっていると思います。ある程度のキャッシュアウトはもともと予定されていたと思いますが、現時点でのペースは以前に予定されていた、財政検証の下で想定されていたキャッシュアウトのペースと比べてどうなのか。今後その予定を上回ってキャッシュアウトの見込みが増えているのかどうかを教えていただきたいと思います。予定どおりであれば、ある程度償還を見込んで計画してキャッシュアウトに充てていくことが可能である一方、予定以上にキャッシュアウトが増えていくのだとすると予定外に資産の取り崩しが必要となりますので、市場への影響も含めて、それなりの準備が必要になるのではないかと懸念しております。
○三谷理事長 まず、前者のほうですが、賃金上昇率に対する実質的な負担をどう考えるかと申し上げたのは、個別のアセットについてそういう測定をするわけではなく、個別のアセットについてはやはり期待収益率と、それに対してそれを実現するためのリスクだと思うのですが、それを合成して基本ポートとして、いくつかのポートを作った場合に、基本ポート全体として賃金との関係がどのようなばらつきになるだろうかについては、目標そのものが賃金上昇率+αですから、その目標達成に当たってどの程度のリスクがあるかを検証するという考え方もあるのではないだろうかということを申し上げたわけで、個別の、例えば株式なり国内債券なりが賃金とどういう関係にあるかというのは、またそれはちょっと別の話になってくるのだろうと思います。あくまでも、合成された基本ポートフォリオ全体として、これも先ほど申したように、いくつか候補を作ってその中から選定するわけですので、その中でそういうものについても考慮することが適当ではないのかということです。
 それから、当法人のキャッシュアウトのペースがどうなのかということですが。
○吉野委員長 先ほどの12頁に、キャッシュアウトのこれまでの数字はあるのですけれども、今後どうなるか。
○三谷理事長 例えば、平成21年度はですね、財政検証においては3兆円という数字があります。これが3兆9,000億円。平成22年度においては4兆3,000億円というのが財政検証の数字で、これが6兆2,000億円ということです。平成23年度につきましては、財政検証では3兆9,000億円で、したがって6兆1,000億円とは約2兆2,000億円の乖離が出ているということであります。これから先、毎年平成29年までは保険料は上がることになっております。したがって、財政検証の上ではこの額は徐々に小さくなっていくことが想定されているわけでありますが、少なくとも足下までのところを見ると、そういう想定はかなり無理があるのかなというのが私どもの実感です。したがって、キャッシュアウトが想定以上に大きな課題となってきています。
○武田委員 どうもありがとうございます。
○駒村委員 その差額の要因というか、分析の説明はあったかもしれませんが、もう一度教えてください。
○三谷理事長 それは、むしろ年金局でお答えいただいたほうがいいと思います。
○数理課長 まず、キャッシュアウトの比較で、実は財政検証というのは厚生年金基金の代行部分も含んだ数字で、こちらのほうは公的年金だけですので、きちんと比較できるものではないのですけれども。ただ、財政検証のベースで実績と見込みとを比較した資料を年金部会の第1回に一度提出したことがあります。その比較ができるのはまだ平成21年度だけなのです。そのときでも確かに、見込み、いわゆる運用利回り以外の収支を比較しましたところ、見込みよりもやはりマイナスの幅が大きいという実績がありました。
 その要因としていくつかありまして、賃金上昇率が低いということで保険料収入が見込みより少し低目になっているという要素が1つ。あと残り2つほどあります。これはちょっと特殊事情なのですけれども、1つは年金時効特例法という、要するに、記録が修正されたときに、以前は5年間だけ遡っていたものを、その時効をなくして、昔にずっと遡ってお支払いするという法律が、平成19年に成立しまして、その影響でかなり給付費が増えているという要素があります。もう1つは基礎年金の拠出金で、これはいわゆる、概算と精算を2年ごとに繰り返していくというやり方をしておりまして、平成21年度につきましては平成19年度分の精算がかなり上乗せされて支出されているという要素がございます。大きく見ますとこの3つの要素で、平成21年度については見込みよりも収支差のマイナスの幅が大きくなっている状態です。平成22年度はまだ厚生年金の代行部分のデータがまとまっておりませんのでそういった比較ができませんけれども、またこれもまとまり次第公表する予定です。以上です。
○吉野委員長 ほかにございますでしょうか。
○西沢委員 足下の金利についてです。財政検証では、内閣府の中期展望を使って、今から10年ぐらいは設定して、その後を4.1%と設定していたと思うのですが、GPIFの持っている債券はほとんどパッシブで、クーポンも決まっているので、むしろ私が思うのは、当面5年とか10年ぐらいの間は、GPIFの持っている債券などから利回りを導くことはできないのかなと思うのです。例えば、内閣府でやっている長期金利の見通しというのは、すぐに金利が上がっていくわけですけれど、GPIFは低いクーポンの債券などを持っているわけで、当面追いつかないですよね。財政検証はすぐに金利が上がって、その金利から運用収入を得るという計算をしているわけですけれども、そこのギャップが金利が上がっていく中では大きくなってくると思うので、むしろ内閣府の数字をそのまま財政検証の足下で使うよりも、GPIFが持っている債券からある程度利回りを出してそれを足下の財政検証に使うほうが、財政検証とキャッシュアウトの乖離が小さくなっていくと思うのですけれど、どうでしょうか。
○数理課長 まず今後、どのように設定していったらよいかは今後のこの委員会でのご議論だと思いますが、取りあえず事実関係だけご説明いたします。今おっしゃいましたように、平成21年度財政検証でもすぐに利回りが4.1%になるという前提を置いているわけではありませんで、例えば、2011年ですと運用利回り1.9%。これが少しずつ上がっていきまして、最終的に4.1%になるのは2020年です。ですから、大体10年ぐらいかけて4.1%に上がっていくという見込みを立てております。これは確かに内閣府の中長期見通しの長期金利の数字をベースに設定しているわけですけれども、ただ、これを今後次に設定するときにどういう考え方でしたらよいのかは、こちらの委員会でいろいろとご議論賜ればと考えております。
○吉野委員長 ほかにありますでしょうか。では、私からもう1つ。先ほどの目標利回りですけれども、4頁の図を見ますと、縦軸にリターン、横軸にリスクがあるわけです。例えば、賃金上昇率1.1%とか、ある目標が与えられたとしますと、そのリターンを達成するためには縦軸のところのどこかに点が出るわけですね。そうするとそこを目標に、目標のところで横軸を引いていけばポートフォリオはできるわけですけれども、必ずしもそうやられているわけではないと思うのです。ですから、予想値で、期待値で達成しようと思えば、必ずそこのポートフォリオを組めると思うのですけれども、現実の場合にはどういう形でそれに対処されるのでしょうか。例えば、1.6%が目標になったとした場合に、高くしなくてはいけないわけですね。そうするとリスクは当然増えるわけですけれども、GPIFとしては、この軸でいうと、このフロンティアのところにやらざるを得なくなるのですか。それともそうではないのでしょうか。
○三谷理事長 具体的には、まず各資産の収益率については、次の5頁の〈1〉にあるような形で、まずこれを決めなくては、そもそも効率的フロンティアは出せないということで、いろいろな経済前提など、そういったものをベースにこれを作ります。リスクについては過去のデータから出せますので、各アセットクラスの期待リターン、それから想定されるリスクというのは、そこで一応計算できるわけであります。そこから当然、この効率的フロンティアというのはできるわけです。
○吉野委員長 4頁のフロンティアが出るわけですね。
○三谷理事長 例えば、平成21年度の財政検証ですと、名目金利として4.1%だというのが与えられるわけですから、この4.1%のところから横軸に平行に持っていって、これと効率的フロンティアがぶつかったところが結果的なリスクの大きさとなってきます。したがって、そのリスクが大き過ぎるというのであれば、4.1%という数字そのものについて、やはりちょっと問題があるのでという話になるのだろうと思います。たまたま、第1期では当時の平成16年度の財政検証で、比較的国内債券のリスクに近いところで、期待されている3.2%という名目値に近い数字が得られたということで、結果的には非常にうまくいっているわけです。これはやはりその前提条件が変われば、当然リスクの大きさも大きく変わってくるということです。
○吉野委員長 わかりました。前回やられたときは、ちょうどたまたまリスクが非常に低いところで割合とうまく収まったと。
○三谷理事長 うまくいったということです。
○吉野委員長 そうすると、場合によっては非常にまた右のほうに行ってしまう可能性はあるということですね。
○三谷理事長 可能性はあります。
○吉野委員長 ありがとうございました。植田委員、今までのところで何かコメントはございますか。
○植田委員 却って混乱するかもしれないのですけれど。今の点ですけれど、先ほど出てきました賃金上昇率を加えたところの、リターンないしそのリスクを見るという考え方で全部突き詰めようとしますと、リターンもリスクもこの図ではなくなってくるわけですね。
○吉野委員長 そうですね、金利でいけばこちらになりますかね。ただ、目標のパーセントは与えられるのではないですか、この図では。
○植田委員 この図では与えられますけれども。
○吉野委員長 予想賃金の上昇率に。
○植田委員 賃金上昇率+αで。
○吉野委員長 この縦軸の点を取って。
○植田委員 というのとちょっと違うと思うのです。
○吉野委員長 そうですか。
○植田委員 リスクのところが。
○吉野委員長 それはなぜですか。GPIFの目標が例えば賃金上昇率プラス1.6%としますね。
○植田委員 これは目標のリターンを与えておいて、絶対的なリターン、リアルか名目かというのはありますけれども。目標リターンを達成する中で絶対的なリターンのリスクを最小化するようなものを選ぶわけですよね。もう1つのほうは、賃金上昇率+αで目標を与えておいて、賃金上昇率+αの、αのリスクをなるべく最小化しようというところなので、ちょっと違うと思うのですね。
○吉野委員長 なるほど、ちょっと違うのですね。わかりました。ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。では、三谷理事長、今日はどうもありがとうございました。
 それでは、時間の関係で議事次第の2番目の「経済前提の設定に関する経済モデルについて」、説明を引き続きお願いしたいと思います。数理課長、よろしくお願いいたします。
○数理課長 資料2-1と2-2について、簡単に説明申し上げます。まず、資料2-1、「経済モデルについて(1)」ですが、これは前回のこの委員会でさまざまな観点からご意見を賜りました。そのご意見を中心に、検討事項を整理したものです。もちろん、検討事項をこれに限定するという趣旨ではありません。あくまでも、今後議論をいただく際の参考にしていただければという趣旨で作成をしたところです。
 1頁の〈1〉は、経済モデルの建て方に関して何点かご意見をいただきました。1つは平成16年と21年の基本的なモデルは同じなのですが、パラメーターの設定が直近の実績を踏まえて変わっており、その結果推計結果も変化しています。設定パラメーターが変わったために、経済前提がどのように高くなったのかを検証すべきとのご意見です。また、最終的に長期金利の設定に影響を与えている利潤率という推計なのですが、その推計過程にどういった要素、例えばここでいうTFPの上昇率や資本減耗率などパラメーターを設定していますが、その設定に問題がないかどうかも検討すべきというご意見をいただきました。また、コブ・ダグラス型でモデルを作っているわけですが、このモデルの試算は2、30年ぐらいを対象として行い、全体は概ね100年間ですが、それ以降の期間はモデルの計算結果に基づいた前提をそのまま延長する方法を、平成16年、21年と取っています。こういったモデルの対象期間について、どのように考えていくかというです。また、労働市場が縮小していくわけですが、そのときに資本と労働の関係を考えていく必要があるというご指摘です。
 また、最後の3つは、今後どのようにアプローチしていったらいいか、なかなか悩ましい論点ですが、非常に重要な点です。いまのモデルは、供給サイドだけを考えているわけですが、一方でやはり需要サイドからのアプローチも必要ではないか。また、最後の2つは、いずれも趣旨としては共通ですが、このモデルはあくまで国内だけを対象として作成していますが、やはり近年は海外との関係も重要になってきており、そういった要素も検討すべきではないかということです。大きく分けて、以上のような事項が経済モデルの建て方として、検討事項として整理できるのではないかということでまとめています。
 〈2〉の労働力の設定に関しては、平成21年の財政検証では、JILPTの推計結果の中の、特に労働市場の参加が進むケースを採用しているわけですが、そういった想定が適切か否かというです。〈3〉は、推計のプロセスとしては、実質の各種の指標を設定したあとで、最後に名目値にするときに物価上昇率を足しているわけですが、これは平成16年も21年も1%で設定していますが、そこが現在の状況と乖離しているがために、かなり名目値として乖離が出てきていますので、物価上昇率の設定も少し考える必要があるのではないかということです。
 〈4〉は、運用利回りの設定に関連です。特に今回平成16年から21年に上昇している要素として、TFPの上昇率も少し高く設定していますが、そういった影響をどのように考えていくか。また、利回りに関しては、このようにモデルで設定をしているわけですが、それ以外に実際の金融市場でどのように長期的な動向が予想されているかといったことも、情報として参考にすべきではないかといった点が、〈4〉の運用利回りの設定に関していただいたご意見です。
 3頁〈5〉経済前提を設定するに当たり、これまでの従来の方法では、ある1つの数字を設定すれば、それが毎年コンスタントだということで設定をしているわけですが、実際にそこは年によって変動するのが実態ではないかと。そうすると、そういった変動も織り込んだ経済前提の設定の仕方も検討すべきではないかということです。〈6〉は、それ以外の論点です。実際に検討を行っているときの直近の経済状況をどのように考えるか。また、そのプロセスの透明性といったさまざまな観点からのご意見もいただいたところです。以上、資料2-1は前回のご意見などを中心にして、少し検討事項を整理させていただいたものです。
 続いて資料2-2です。これは、先ほど説明しました検討事項の〈1〉、平成16年から21年に推計結果が変化しているわけですが、その前提としてどこがどのように変わったのかを、平成16年と21年を対比して整理をした資料です。1頁はモデルの構造です。これは前回説明した内容そのままですので、説明は省略させていただきます。2頁からが、平成16年と21年の比較になります。まず2頁には、主要な要素、出生率、平均寿命といった人口学的要素と経済状況を簡単にまとめたものです。平成16年と21年を比較すると、出生率は将来の見込みが低くなっています。一方、平均寿命はさらに延びる仮定です。その中で、長期の経済前提としては、平成16年には1.0%、2.1%、3.2%であったものが、21年には1.0%、2.5%、4.1%と推計前提が変わってきています。その前提としてどのようなパラメーターが設定されていたかが、いちばん下の欄です。TFP上昇率については平成16年は0.7%と見込んでいましたが、21年は1.0%と見込んでいます。また、主要な事項として影響を与えていると思われるものには、資本分配率や資本減耗率です。資本分配率は平成16年は37.3%と見込んでいましたが、21年は39.1%となっています。また減耗率についても、8.2%と見込んでいましたが、8.9%と変わってきています。この辺りの直近の実績などは、後ろの頁でグラフなどを示して説明します。そういった前提の変化により、実質経済成長率や1人あたり成長率が、このように平成16年と21年で変化しています。やはり下から2番目にあります利潤率の見込みが、平成16年では6.5%が、21年で9.7%と上昇しています。これが、実質長期金利の見込みの差に影響を与えているところです。
 3、4頁は、それぞれ平成16年、21年の財政再計算、もしくは財政検証を検討していた時期が、計済の変動の中でどういった時期にあったのかをグラフで示したものです。これは、内閣府が出しています「景気基準日付」に基づいて、山と谷があるわけですが、シャドー部分が山から谷へ降りていく時期で、白い所は逆に谷から山へ上がっていく時期ということで、このグラフを作っています。これをご覧いただきますと、平成16年の財政再計算の経済前提などを検討していた時期は、ちょうどこのシャドーの部分、要するに経済が山から谷へ落ちていく時期に当たっていたと。逆に、平成21年の財政検証の場合には、谷から山へ上がっていく時期に当たっていたことが、この図で出てきています。基本的には、直近の実績などをベースに推計を行っていますが、例えばTFP上昇率をどう見込むかといったところに、やはりこういった直近の経済状況などもある程度影響を与えたた可能性もあります。そういった意味もありまして、それぞれどういった景気循環の時期にあったのかをグラフで示した図が3、4頁です。
 5~7頁は、労働力率をどのように設定したかをまとめた資料です。平成16年においては、14年7月に当時の職業安定局が推計した労働力率の見通しをそのまま用いています。また、平成21年の財政検証においては、JILPTが平成20年に策定している「労働力需給の推計」を使っています。そのときには、何通りか推計パターンが設定されていますが、その中で労働市場への参加が進むケースに準拠して、この平成21年財政検証の労働力を設定をしたところです。それぞれ具体的な数字がどうであったかが表に示されており、また6頁にはグラフでも示しています。6頁の上は、平成16年再計算の労働力の見込み、そして下が平成21年財政検証における見込みをグラフにまとめたものです。
 7頁は、それらをベースにして、モデルに投入する労働力の量を設定しています。基本的には、それぞれの見込みを使っているわけですが、平成21年で変わっているのは、平成16年の場合には労働力人口をそのまま使って、1人あたり労働時間は変化しないという前提を置いていたわけですが、平成21年は基本的にマンアワーベースで推計をするという考え方で、この労働力人口の変化と1人あたりの労働時間の変化を織り込んで推計をして、モデルに組み込んだところが、平成16年と21年の差です。
 8、9頁は、TFPの設定をどのように行ったかです。平成16年、21年いずれも、直近の内閣府などから出されていますレポートを参考にして設定をしました。平成16年の場合には、長期的には0.5%から1.0%に高まることは十分可能といったレポートもあったことを参考にしまして、基本的には基準計数を0.7%として、それぞれ上位として1.0%、下位として0.4%の3通りを設定したところです。
 平成21年においては、先ほど景気循環のところでもご覧いただきましたように、時期としてかなり経済状況が上り坂になっていたことも影響している可能性がありますが、直近のレポートで見ますと、足下で1%程度の数字に高まってきているという分析もありました。また、将来の「日本経済の進路と戦略」という平成20年に出された資料などを見ましても、成長シナリオでは1.4%から1.5%、リスクシナリオでも0.9%程度というような前提になっていると。そういったことを参考にしまして、中位ケースとしては1.0%と設定をして、高位で1.3%、低位で0.7%の3通りを設定しました。これが、平成21年財政検証の設定です。
 9頁は、平成21年に参考とした資料について、簡単に説明したものですので、ご覧いただければと思います。10~12頁は、それ以外のパラメーターとして、資本分配率、資本減耗率、そして総投資率を設定する必要がありますが、それぞれどのように設定したかをまとめたものです。10頁は、資本分配率の設定です。グラフがありますが、実績値と、それに踏まえて設定した見込みを示しております。基本的には、これについては過去10年間の平均値を、将来とも一定であると仮定して設定をしたところです。平成16年の場合には平成4年から13年の実績、21年については平成9年から18年の実績を設定したところです。このグラフをご覧いただきますと、直近5年間で資本分配率は上昇しています。そういったデータがそのまま反映された結果、直近10年間平均の数字が37.3%から39.1%へと上昇している結果になったところです。
 11頁は、資本減耗率についてです。これは、基本的に全く同じ考え方で、直近10年間の平均値を将来とも一定と仮定したところです。これも、なかなかどのように設定するのかが非常に難しいところで、トレンドとしては上昇トレンドもあるわけですが、さりとてずっと上昇し続けるわけでもないだろうということと、特に平成21年の場合には、上昇トレンドはありましたが、直近数年間を見ますとやや頭打ちになっている傾向もあります。そういったこともありまして、これら資本減耗率についても、分配率と同様、直近10年間の平均値で固定と設定した結果、平成16年の8.2%が8.9%に上昇したところが、平成16年から21年の変化です。
 12頁は、総投資率です。これは長期的に見ましても、減少傾向にあるということを踏まえて、その実績傾向をそのまま延長していくというやり方で設定をしたところです。その結果、点線が平成16年の設定値なのですが、5年間経過しますとやや下のほうに実績値が振れていることが反映されまして、平成21年には16年と比べますと、やや低めの設定となった結果です。以上のようにパラメーターを設定したうえで、コブ・ダグラスの生産関数をベースにしたモデルに投入をした結果が、13、14頁です。13頁が平成16年財政再計算のときのマクロ経済に関する推計過程、そして14頁が平成21年における推計過程です。結果としては、平成16年の場合には、1人あたり実質賃金上昇率が1.1%から1.2%で、結果として利潤率が6.5%という推計結果となったわけです。これが14頁の平成21年においては、TFP上昇率が1.0%の場合ですが、実質経済成長が約0.8%で、被用者年金の被保険者1人あたり実質賃金上昇率が1.5%程度、この利潤率の推計結果が9.7%ということで、平成16年の6.5%に比べると3ポイントぐらい高い推計結果になったと。これが長期金利に影響を与えたと考えられます。
 15、16頁は、そういったことを踏まえて長期の運用利回りをどのように設定したかです。15頁、長期の運用利回りイコールということで、まずは実質の長期金利を推計して、それにある程度の分散投資効果を加算したうえで、最終的に名目値にするために物価上昇率を加算して、名目の長期運用利回りを推計しております。このときに、この実質長期金利をどのように推計するかが、その下の〈1〉です。これは、基本的には実質長期金利と先ほどのモデルで推計した利潤率がある程度連動して動くという仮定を置いたうえで、過去の一定期間における平均実質長期金利、実績値ですが、これをベースとして同期間における利潤率の数字と、将来モデルで将来推計された将来の利潤率の比率を掛けることによって、将来の実質長期金利を推計するというやり方を取ったところです。
 その具体的な数字が、16頁に長期金利の推計のプロセスをまとめてあります。上が平成16年、下が平成21年ですが、それぞれ過去の一定期間をどれぐらい取るかもいろいろな考え方がありますので、一応3通り設定をしました。基本的に、20年を中心として、±5年ぐらい幅をもって、3通りをそれぞれ推計しているところです。例えば、平成16年の場合のいちばん上の、過去24年間取った場合は、ご覧いただきますとこの24年間の実質の長期金利の実績値が3.27%であった。そして同期間における利潤率が11.2%、そして先ほどご覧いただきましたモデルで出てきた将来の利潤率の推計値が6.5ということで、比率を取りますと0.58倍になっています。それを、過去の長期金利の実績である〈1〉に掛けて、1.9%を導き出すという考え方で作成しています。これが平成21年の場合には、例えばいちばん上の欄の過去25年度のところでご覧いただきますと、実質長期で3.03%で、同期間における利潤率が9.8%ですが、将来の見込みも9.7%とほとんど変化しないという推計結果が出てきています。そのために、この比率、〈2〉と〈3〉の比率が0.99%と、ほぼ1になったということで、それを掛算した結果が、例えば25年間を取った場合で、約3%という推計結果が出てきたというのが、平成21年度の推計です。
 17頁は、参考として過去実質金利と利潤率がどのように推移してきたかをグラフにしたものです。以上のようなプロセスを経まして、この実質運用利回りについては、平成16年は3通り推計をしたわけですが、大体幅として1.8%から2.1%ぐらいと。それに対して、分散投資効果でどれぐらい上乗せされるかということで、最大で0.5%ということを加味しまして、この実質運用利回りの幅としては1.8%から2.6%程度と推計をした上で、この幅の中央値を取って実質運用利回りを2.2%と設定したのが平成16年です。
 平成21年もやり方としては同じですが、数字としては実質長期金利が2.4%から3.0%、そして分散投資効果によって0.3%から0.5%と推計したうえで足し算をしますと、実質運用利回りの幅が2.7%から3.5%という結果が出てきました。やはり、同じように中央値を取りまして、実質運用利回りを3.1%と設定したところです。以上は、すべて実質の世界の話ですが、19頁においてそれを最終的な名目値に置くために、物価上昇率をどのように設定するかですが、これについては直近の内閣府や日銀などのレポートなどを参考にして、これについては平成16年も平成21年も1%という設定をしたところです。
 最後に20頁は、いままで説明した数値を1枚の表にまとめたものです。これは、ご覧いただければと思います。資料の説明は以上です。
○吉野委員長 それではモデルに関して、ご質問はありますか。まず私から、平成21年計算で、名目の実質長期金利が非常に高くなっているのは、これはデフレの部分もあって平成16年より大きくなったのでしょうか。それとも、ほかの要因があるのでしょうか。
○数理課長 実質の長期金利が2.2%から3.1%に上がった要因は、いろいろな要素が絡み合っています。特にその中でも大きいと考えられるものが、3つほどあります。1つはTFP上昇率が0.7%だったのを、1.0%と見込んだことです。2つ目の要因としては、資本分配率の設定ですが、これが37.3%から39.1%と上昇しています。資本分配率が上昇しますと、その分同じGDPであっても資本に回ってくる部分が増えてまいります。その結果、利潤率も高めに出てきます。もう1つの要因は12頁の総投資率です。こちらは、逆に前回に比べてやや低めになっています。そうしますと、総投資率が低くなるということは、資本ストックの蓄積ペースが低くなるわけですから、資本ストックはやや低めに出ます。それに伴って、GDPも低くなるのですが、GDPの低くなる度合と資本ストックの低くなる度合を比較しますと、GDPの低くなる度合のほうが小さいために、相対的に資本ストックを分母としてGDPの一定割合である資本分配を割算をしますと、利潤率は高めに出てきます。ほかにも、いろいろと細々とした要因はありますが、大きい要因としてはどうもその3つぐらいがあるのではないかと考えています。
○吉野委員長 ありがとうございました。いかがでしょうか。
○西沢委員 資料2-1の2頁の労働力の設定に関してですが、09年の財政検証では特に65歳以上の高年齢者の労働市場への参加率が非常に高く、若い層はそれほどでもなかったと思うのですが、高年齢層が労働参加とすると、今度は在職老齢年金など、かなり年金財政としては潤う方向になると思うのです。ですから、参加が進むケースを想定することは適切かどうか、将来のことなのでよくわからないのですが、労働市場への参加が進むことによって、例えば09年の財政検証のときに進まなかったケースに比べて、どれだけ財政的に影響があったかを教えていただくと検討しやすいかと思います。また、ケース分けという手もあると思います。いますぐでなくても結構です。
○数理課長 わかりました。どのような資料が作成できるかわかりませんが、ちょっと検討させていただければと思います。
○駒村委員 細かいことですが、20頁で自分も前回関係していたので確認です。実質賃金上昇率の計算式が、平成16年と平成21年では、労働人口の変化率と被用者数の変化率と違うようになっていますよね。これは部会で議論している適用拡大のようなことをやれば、新しい推計をやるときには、そのような制度変更は被用者数の変化率に反映できるのでしょうか。
○数理課長 この違いは、もともと平成16年の場合には労働力人口をそのまま使っていたのですが、平成21年の場合には人ベースでなくマンアワーベースに一旦モデルを組み替えて、それを最後人数ベースに変換するときに被用者数と。計算プロセスが少し変わったせいで計算式は少し変わっていますが、一応比較できるベースに揃えるために、このようにしていると。実際、モデルは人数ではなくて、マンアワーベースの設定で組んでいます。
○米澤委員 私も若干記憶があるのですが、その趣旨はやはりワーク・ライフ・バランスでいまほど働らかなくなるのではないかということです。ですから単に人数が減っていくだけではなくて、働く時間も減っていくのではないかということで、たぶんこのほうがより正しい推計ということでやったのではないかと思います。いまおっしゃったように、もちろん最後は被用者年金ですので賃金総額に帰着しているかと思いますが、一応平成16年よりは細かく見ておこうというのがあったかと思います。
○吉野委員長 ほかにありますか。
○川北委員 質問というよりも意見に近いのですが、前回の推計のときは資本分配率がアップしていて、それが利潤率のアップの要因になって、さらに実質の長期金利に影響するというようなロジックがあったと思います。そのときに、資本分配率の上昇が、生産性が向上して上昇しているというよりは、単に賃金をカットし、かつ人員をカットして、労働分配率を落とすことでもたらされているというのが、実態だと私は理解しています。ということは、この状況が金利に影響を与える流れは、少し考え直したほうがいいのではないか。むしろ、労働分配率が落ちることによって、実需というのですか、国内の需要が減少する、それによってインフレ率が低下をする、むしろデフレ的な状況に陥りやすい環境が生まれている。このルートといいますか、これはモデルの設定のところで需要サイドをどのように組み込むのかという部分なのですが、そこを考えて今回は議論したほうがいいのではないかと、少し印象を持ちました。
○数理課長 まさしく、ご指摘のとおりかと思います。そういう意味で、前回使ったモデルは供給だけ、生産の面だけですので、指摘がありました需要面の要因などももし組み込むことができればと考えていますので、さまざまな観点から議論いただければと思います。
○吉野委員長 需要面を組み込むと、今度は物価が内政になりますよね。いままでのように物価を外政に与えることができにくくなりますから、少し複雑にはなると思いますが。ほかにいかがでしょうか。植田先生、何かありますか。
○植田委員 これはこれで難しい作業だと思うのです。前回も出たと思いますが、過去10年を見れば、先ほどありましたように、公的年金の運用利回りは1%前後ですから、3や4には到底及んでいないわけですね。それは、こういうモデルを前提とする長期の経済均衡には現実がなくて、したがって一時的に外れているだけと考えるのか、むしろそうではなくて、全く違う長期の均衡に陥ってしまっていると考えるのか。あるいは短期だとしたら、どういう理由でそういうところに行って、今後どういう理由で長期のところに戻っていくのか。そういうものが、年金財政を考えるうえでも大事ですし、運用を考える際にも非常に重要になるので、どれぐらいできるかどうかはあれですが、1つの大きな論点ではあると思います。
○吉野委員長 以前おっしゃっていたように、ずっとこのままデフレが続くというような長期の可能性もあるという論点ですね。
○小野委員 若干身も蓋もないことかもしれませんが、前回以降いろいろ考えまして、年金制度というのは1つの再分配機能だと考えますと、このコストを左右するのは結果的に何かというと、それは、おそらく1人あたり賃金上昇率とインフレ率との間のスプレッドの大きさだと思うのですね。既裁定の人たちの年金が物価上昇するという意味では、そのスプレッドが大きくなればなるほど、相対的に受給者の比率が小さくなるわけですから。それ以外のところは、人口動態などいろいろありますが、結局最終的に給付の適正性と支給開始年齢を一旦決めてしまえば、それを負担するしかない面はあると思います。最終的に1人あたり賃金上昇率の実質値をどれだけ引き上げるかがいちばん大事だろうと思います。その意味でいうと、このモデルでは1人あたりの実質GDP成長率がどうなるかという話ですので、これは私の感想ですが、ある意味ここは政策的な努力目標も入ってこようかと思います。前回も申し上げましたが、年金の財政だけを考えるということではなくて、国全体のことを考えていくと、ある種そこはこの委員会で理論的なことを打ち出すにしても、最終的には政治決断の要素が非常に強いのではないかということが、前回から今回の間に考えていたことです。
○吉野委員長 ありがとうございます。ほかにありますか。
○小塩委員 前回の財政検証に少し関わったので、批判すると自分で自分を批判するような面があるのですが、前回諸外国の財政検証のモデルを勉強させていただいていたのですが、日本のモデルは非常に精緻にできていて、ほかの国に比べても非常にうまくできていると思います。ただ、そこで裁量の余地がないかと言われると、結構あります。例えばTFPをどのように設定するか。それから、利潤率と利子率をどのようにつなげるか。利子率と運用利回りをどのように設定するか。そこで分散投資でどれだけプレミアムが付くか、など。結構政策的に操作できる部分があるのですね。そこをいろいろ動かすと、非常にきれいな絵が描けるというような問題もあるわけです。そうすると、非常に慎重に議論しないといけないと思います。
 私はいつも、1つは利子率については実体モデルとリンクさせるのは止めたほうがいいのではないかと思っております。モデルは全体的に非常に整合的にできているのですが、これはコブ・ダグラス型ですよね。しかも、いわゆるクローズド(閉鎖経済)・モデルですので、ちょっと難しいのではないかと思います。しかも、金利の話をするのに実体だけで議論を留めておくのは、無理があるような気がします。やはり金利は金融市場のメカニズムを前提にして議論したほうがいい。これは、少し議論があるかと思います。
 もう1つは、先ほど独法の室長から出た言葉なのですが、ストレステストという考え方があります。政策的にいろいろ操作できる余地があると申し上げましたが、変数をいじることによって、どれぐらいまでだったらいまの制度が持続できるかというようなテストも、重要ではないかと思います。例えば金利がここまで落ちたら危ないとか、賃金上昇率がここまで落ちるとまずいとか、そういう現行制度の持続可能性を別の角度からチェックすることが、長期の姿を見る上でも重要だと思います。というのは、人間の予測能力は半年ぐらいだろうと思うからです。2、30年というのは、人間の能力を超えると思います。ですから、できるだけ間違いをうまくコントロールするような仕組みを、長期の見通しを設定する作業と同時に用意しておく必要があるのではないかと思います。非常に感想的なコメントで申し訳ありません。
○吉野委員長 ありがとうございます。TFPを上げれば何でも解決してしまうというのがありますから、おっしゃるとおりだと思います。利子率も、これだけ海外との資金の流れが出てくれば、当然国内の利子率は海外の影響を受けるわけですし、投資率でも日本の企業が海外に逃げていけば、日本の投資率が変わると思います。それから、最後の感応度テストは、どのようになるかというよりは、いろいろな部分で変更できるところを変えたときに、どのようにモデルが動くかを見るには重要だと思います。これも、もしそのようなことができるのであれば、感応度テストも含めていただけるといいのではないかと思います。ほかにありますか。
○駒村委員 前回欠席してしまったので、前回のメモを見ながらですが、いまのお話もあると思うのですが、部会にわかりやすく定期的に報告する必要があると思うのですね。いまのようなお話で、この部分を変えると、このような読み方もできますよ、あるいは前回も労働力率の見通しはある種政策効果が出たあとの数字を出しているわけで、これは目標値ですし、そのような重要なところを適宜部会にきちんと説明すると。
 もう1つは、例えば先ほどの運用の話もありましたが、賃金上昇率+αと金利+αはどのように意味が違っていて、どのようにリスクが変わってくるのかという辺りも、拠出者のガバナンスとしては、やはり年金部会しかないと思いますので、その辺りもわかりやすく部会に適宜説明、報告する必要はあるのではないかと思います。我々が入っている部会ではない年金部会の前の部会で、どのような報告があったのかは確認していませんが、コミュニケーションをする必要があるのではないかと思います。以上です。
○米澤委員 最初からこういうものを、セミマクロみたいに使わない手はないのかもしれませんが、いま小塩先生がおっしゃったような意見で、まずそこのところをもう一度全部見直していくのが、かなり現実的な方法かなと思っています。需要を入れるとかいろいろあると思いますが、諸外国のモデルはもっとシンプルなのですね。ですから、そこのところを細かくして、いいものができるかどうかわからないので、むしろできればより単純な方向にもっていって、原則としてはこれをベースにして、いくつかの鉛筆をなめるところをうまくなめるというのが、1つの現実的な方法かなという感じがしています。私は、それだったらある程度見えてくるかなと思います。
○吉野委員長 どうもありがとうございました。次回までに私も考えさせていただいて、金利+αと、賃金上昇率+αのどこが違うか。モデルに関しても、折角ここのモデルがありますから、これを中心にやっていただいて、それに需要面も含めるのであれば、おそらく需給ギャップのようなものも入れながらやるやり方もあると思います。それから、小塩先生もおっしゃいましたように、ストレステストといいますか、感応度分析ができると思いますので、それを使いながらどのような範囲にどのようになるかを考えさせていただきたいと思います。今日は、活発な議論をありがとうございました。原口参事官から今後の予定についてお願いします。
○大臣官房参事官 次回は、12月19日(月)15時からを予定していますが、詳細については委員長とも相談のうえ、追って連絡させていただきたいと思います。よろしくお願いします。
○吉野委員長 今日は、活発な議論をどうもありがとうございました。これで終了させていただきます。


(了)

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