2011年1月19日 第3回労災保険財政検討会 議事録

日時

平成23年1月19日(水)10:00~12:00

場所

厚生労働省労働基準局第1会議室(中央合同長庁舎5号館16階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者(五十音順、敬称略)
 岩村正彦(座長)、岡村国和、鈴木博司、長舟貴洋、山田篤裕

厚生労働省(事務局)
 尾澤労災補償部長、木暮労災管理課長、瀧原調査官、園田労災管理課長補佐、野地労災保険財政数理室長、白尾労災保険財政数理室長補佐

議題

メリット制の財政への影響の検証について

議事録

○数理室長補佐 おはようございます。ご多忙中のところ、お集まりいただきまして感謝申し上げます。傍聴人の方々にまず注意事項を申し上げます。撮影は冒頭のみ、録音は禁止ということでお願いします。定刻が近づいてまいりましたので、よろしくお願いします。
 最初に次回の日程を申し上げたいと思いますが、次回は2月24日の16時からでお願いします。
○岩村座長 それでは「第3回労災保険財政検討会」を始めます。本日の議題は、前回の議題の「メリット労災保険率の算定方法について」を引き続き行い、それに続いて「メリット制の財政への影響の検証について」を併せて議題としたいと思います。事務局のほうで資料を用意していただいていますが、資料の構成が大きく2つになっています。お手元の資料の目次をご覧ください。上半分が「メリット制適用状況関係」という資料で、下半分が「財政への影響の検証関係」になっています。そこで、まず前半で「メリット制適用状況関係」について事務局からご説明をいただくことにしまして、そのあと、それに基づいて質疑応答をさせていただければと思います。質疑応答が終わりましたら後半ということで、「財政への影響の検証関係」に移ります。これについても、まず事務局より資料についてご説明をいただいて、それに基づいて質疑応答を行う形で進行しますので、よろしくお願いします。
 まず、「メリット制適用状況関係」について、ご用意いただいている資料に基づいて事務局から説明をいただきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。
○数理室長 ただいま、座長よりご説明のありましたように、本日は大きく前半と後半に分けましてご議論いただきたいと考えています。
 まず前半の「メリット制適用状況関係」についてご説明します。資料No.1-1と1-2は、メリット制適用事業場や適用割合の推移を表す表です。前回の検討会の資料にも同じ表がありましたが、平成21年度の数値を追加しましたので改めて配付しました。
 3頁の資料No.1-3は継続事業、いわゆる普通の工場や事業場について、先ほどの表を基にメリット制の適用事業場数と適用割合の推移をグラフ化したものです。実線が適用事業場数を表しまして、左側の目盛りとなります。点線は適用割合を示しまして、右側の目盛りとなります。継続事業については、平成の初期に適用事業場数が増加して適用割合が上昇していますが、その後、適用事業場数は減少しています。前回、適用基準の改定を行ったのは昭和61年ですが、それが完全に反映されるのは平成2年ぐらいで、そのころと適用割合、適用事業場数を比べますと、適用事業場数は若干増えていて、適用割合はほぼ当時の水準となっています。資料右端の「●」は、後ほど説明するメリット制の適用拡大を行った場合の水準を示しています。
 資料No.1-4は、メリット制を適用する最低労働者数の早見表です。継続事業については労働者数によりまして、適用・非適用が決まっていますが、その変化をまとめたものです。平成元年度と平成21年度を比較しまして、かなり最低労働者数の基準が上がっていることはご理解いただけると思います。
 5頁の資料No.1-5は、建設事業の単独有期事業、いわゆる工事現場について先ほどの表の内容をグラフにしたものです。前回の適用基準の改定が概ね反映されたと考えられる昭和62年度ないし昭和63年度には、適用事業場数が大体5、6万で、適用割合が60~70%ありましたが、現在は適用事業場数3万、適用割合50%と、かなり減少しています。
 6頁の資料No.1-6は、建設事業の一括有期事業について同様にグラフを作成しました。適用基準が昭和61年度に、それまでの確定保険料20万円以上から100万円以上に改定した影響がありまして、昭和63年度に適用事業場数が大きく減少しました。その後、概ね減少が続いています。現在の適用事業場数は、適用基準の改定が反映された平成2年度と比べまして、事業場数で見ても適用割合で見ても半分以下になっています。
 7頁の資料No.1-7は、建設事業の単独有期事業におけるメリット制の適用要件になっている「請負金額と確定保険料の関係」について、課題があることをお示しした資料です。昭和61年度以降、単独有期事業におけるメリット制の適用要件は、請負金額1億2,000万円以上又は確定保険料100万円以上のいずれかを満たすことになっていますが、メリット制の現在の適用要件を定めた昭和61年度には、1億2,000万円の請負金額に相当する保険料は大体97万円でした。これで2つの条件は概ねバランスがとれていましたが、その後、労務費率があまり変化しない一方で、保険率が大きく低下したことから、現在では請負金額が1億2,000万円に相当する保険料を計算しますと40万円弱となりまして、両者のバランスが崩れてしまっています。この関係をグラフにしたものが、8頁の資料No.1-8です。
 9頁の資料No.1-9は、「メリット制の適用要件」について1枚にまとめたものです。「継続事業」は100人以上の事業場は全部適用されます。20人以上100人未満の労働者を使用する事業は、労働者数に保険率から非業務災害率を減じた値を掛けて0.4以上の場合について適用するという基準があります。それから「単独有期事業」は大きな工事現場ですが、これについては先ほどご説明しましたように、確定保険料が100万円以上、または建設事業については請負金額が1億2,000万円以上、立木伐採事業は素材生産量が1,000㎥以上という基準があります。それから「一括有期事業」は町の工務店のような事業場に適用するものですが、こちらは確定保険料が100万円以上であることが条件です。
 10~12頁の資料No.1-10は、メリット制の適用事業場で労災が発生した場合の保険料の増減について、事例を計算したものです。事例1は、機械器具製造業のメリット制が適用される最低規模である事業場で労働災害が発生した場合を想定していて、116日間療養し、結果として14級の障害が残ったケースです。この場合、メリット制による割引・割増がない標準的な保険料は221万円ですが、3年間で発生した労災がこの1件のみの場合は、標準的な保険料が給付額よりも大きいので、保険料は20%の約40万円の割引が受けられることになります。
 事例2は、事例1よりも適用範囲を中小事業場に広げたことを想定していて、事例1の規模を半分にした場合を計算しています。ほかの条件を一定としています。この場合は、保険料は標準的な保険料より10%増の約10万円の割増となります。事例3以下は、建設事業の事例について見たものですが、説明は省略します。
 13頁の資料No.1-11は、前回話題になった「労災かくし」の事例を紹介したものです。ここに挙げられている事例は送検の事例ですので、悪質さの度合がやや高めのものばかりとなっています。これについても説明は省略します。
 15頁の資料No.1-12は、業種別の給付額と構成比をまとめたもので、この推移を見たものです。なお、この表については特別支給金を除いた給付額となっていることをご留意いただきたいと思います。
 資料No.1-13、1-14は、メリット制の増減率別の事業場数と構成比を、平成21年度と平成元年度について比較できるようにまとめたものです。以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。ただいまメリット制の適用状況関係ということでご説明をいただきました。今ご説明をいただいたことについて、ご意見あるいはご質問等があればお願いします。
 皆さんにお考えいただいている間に、10頁の資料No.1-10に「メリット制適用による労災保険の増減例」がありますよね。一見するとよくわからないところが1点あります。つまりこれだとメリット制が適用されるようになったと考え、事故が発生したと考えたのに、労災保険料が下がるというのは、どういうメカニズムなのかを説明していただけますか。
○数理室長 メリット制による増減割合は、基本的には、この労災が発生した期間を含む過去3年間分の給付データに基づき、収支率を計算するということで、労災が発生した年度ではなくて翌々年度以降に反映されます。
○労災補償部長 ご質問の趣旨と違うかもしれませんが、基本的には資料No.1-10の10~12頁は、事業場規模によって同じ事故が発生した場合でも、保険料額の下がり方や変化の仕方がどの程度違うかを見たわけです。そうすると、11頁以降については小さい規模の所ですと、1つの事故が起こることによって保険料が上がってしまう。10頁は、本来ですと事故が起こらなければ40%の割引になる予定が、割増まで行かずに20%の割引にとどまるというようなことで書いています。
○調査官 補足的にご説明します。なぜ事故が起こったのに保険料が割引になるかということであれば、メリット制が適用されないと保険料の割引はないわけですが、メリット制が適用されていない所で一般的に起こる事故の量よりは、この1件は少ないということだと思います。ですので、メリット制は事故が起これば必ず増えるということではなく、平均的に考えられている事故よりはこのケースの例は少ないと見なされるということで、保険料が割引になるということだと思います。
○岩村座長 そこのところの趣旨がややわかりにくいというのがあったためにお伺いしました。
○労災補償部長 労災が起こらなかったときと比べると、減少幅は小さくなっているというのが10頁です。
○数理室長 この事業場がそれまで4割引を受けていた場合には、また少し別な結果になってきます。
○岩村座長 そのほかはいかがですか。
○山田委員 9頁の資料No.1-9で、どちらが多いかがすぐおわかりになれば教えていただきたいのです。単独有期事業で、確定保険料の額の条件と請負金額の条件がありますが、これはどちらの条件で適用される事業場が多いのでしょうか。
○数理室長 より低い方の要件で適用されますので、大体、請負金額で適用されていると考えています。
○山田委員 そうするとバランスとして、確定保険料の方がどんどん下がっているというお話でしたが、実態としてはそこの部分が緩くなっているとか、厳しくなっているというのはあまりないということでしょうか。もし請負金額でずっと適用されてきている事業が多いということでしたら、確定保険料の要件の適用の問題とはなりません。
○労災補償部長 請負金額で見ると、これに見合う確定保険料というのは今38万円ぐらいになっていますから、この基準を保っているということは、その分、基準が緩くなってきているということです。一括有期事業は確定保険料の要件のみで100万円のままですから、依然として100万円をクリアしなければなりません。
○山田委員 それでバランスが崩れている、と考えればよろしいですね。わかりました。ありがとうございます。
○鈴木委員 同じところです。条件を設定する際に、少し性格の違うものであれば2つ条件があるということはわかりますが、ここの算式のようなことが仮に成り立っているのであれば、つまり、請負金額に労務費率を掛けて労災保険料の計算をする事業がほとんどだったら、2つの似たような条件を持つことの意味というのがよくわからないのです。どちらか一方だけの条件でいいのではないかと思います。つまり、こういう場合はこちらが適用されて、こういう場合はこちらが適用されるのだというような定性的なものがないと、2つの要件を設けている意味がもうひとつよくわからないのです。
○数理室長補佐 最初の保険料の概算申告の段階では、賃金総額ですべて計算するか、請負金額で計算するかという選択肢はあります。メリット制はまずシステム上で見まして、確定保険料が100万円以上だと自動的に適用され、確定保険料が100万円未満であっても、請負金額が1億2千万円以上である可能性がありますので、その場合は、請負金額で見てあげるということです。
○岩村座長 ダム工事だとたぶんあるかもしれない。工期が6年というような有期事業の場合だと、メリットの適用はどうするのでしょうか。継続事業だと3年見ていきますよね。例えば、工期6年の有期事業だったら、どういうことになるのですか。
○数理室長補佐 工事が終了した時点で確定申告をしてもらい、メリット制の適用を判断することとなります。
○岩村座長 継続事業の場合だと、前の3年を見て翌々度の保険料が決まりますよね。けれども、有期事業の場合だと、事業の最初で請負金額を見て、最後で確定保険料を見て、最終的にメリット制適用かが決まっているという考え方をとっているということですね。
○数理室長補佐 はい。
○岩村座長 そのほか、いかがですか。1つ質問としては、先ほど資料を提示していただいて、例えば3頁に図やグラフ、5、6頁に図が出ていて、いずれの場合にしても継続事業も単独有期も一括有期も、メリット制の適用というのが絶対数で見ても割合で見ても下がっている。そういうことはデータとして、はっきり出ていますが、これが持っている政策的な含意というのをどう読み取るかという話です。もしメリット制の適用の範囲を再検討するということであれば、メリット制の適用を受ける事業場が減っているということは、労災保険が事故予防に対して持つインセンティブというのが、この結果として弱まっていると読み取っていいのか、どうなのかです。そこのところの事務局のお考えは、どういう読み取り方なのかなというのを確認させていただければと思っています。
○労災管理課長 バックグランドのエビデンスが確としたものがないので、我々としては非常に申し上げにくいところがありますが、例えば、適用事業数や適用割合が半分以下とか大きく下がっていることだけを見れば、メリット制が本来果たすべき労働災害防止のインセンティブというものが何らか弱まっているのではないか、という仮説をある程度持っていることは申し上げられると思いますが、それが直ちに是正しなければいけない程度なのかという程度論は必ずしもわからないところです。
○岩村座長 これは、前々回から前回にかけて議論していたことにつながっていて、小規模事業場になると偶発的な事故という可能性が高まって、災害防止のインセンティブとどこまで結び付いているのかが、確率的に見てよくわからないということになってしまうので、そういうこととどうしても結び付いてくる部分があると思います。
○労災補償部長 ただ1つ、いま座長が言われた小規模事業場は、そういう原理というか考え方がある。一方で大規模事業場は、その偶発性かどうかということはある程度明確だという両極端の考え方があった上で、今まで線を引いていた基準の評価が少しずつ変わってきたということで、メリット制の適用事業が何割か減ってきて、ある時点の適用水準まで戻すのか、あるいはもう少し適用範囲を広げるのかというときに、過去にメリット制の適用対象であった事業場をまた適用対象とする場合、その事業場が小規模だから、そこで発生する労災は偶然発生するか否かわからないというところまでの極端な議論をしなくてもいいのではないか、という議論はあるだろうと思います。
 ですから、今の現状を見たときに、前回の改正から何年か経った中で、今はどの程度まで適用拡大というか、元に戻すというか、さらに広げるというか、といったところと、最初に座長が言われたように、小規模事業場にメリット制を適用して行ったときに災害防止のインセンティブが働くか働かないか。データが必ずしも十分ではないですが、小規模事業場はどの程度、客観的に言えるのか。災害防止の技術がどんどん進んできているのであれば、適用対象の事業規模を小さくしてもさらにこういうインセンティブを付与することによって、より災害防止の措置を事業場としては取り入れられるような契機になるのではないか。これはとても政策的な議論だろうと思いますが、そこのところが議論のポイントになるのかと思います。
○山田委員 ただ、座長のご指摘のように、エビデンスがないところで議論するというのはかなり難しい。少なくとも、もしインセンティブについて確認しようと思うのであれば、どんどん適用事業場が減少してきている中で、かつてはメリット制が適用されていたけれども、現在は外れてしまったような事業場について、ずっとメリット制が適用され続けてきた事業場と比べて、労働災害の発生状況にはどのような違いがあるのか。全般的に労災の発生状況は低下傾向にあると言いますが、その低下傾向が事業規模によってどれくらい違うのかがわかるようなデータがないと、どれくらい拡大していいのか、果たして、きちんとメリット制の本来の目的である労災を減少させることに寄与するのかというのが言えないので、議論のベースとしてそれがないと議論がしにくいのではないかと思います。
○鈴木委員 料率が下がってくると適用の人数規模が大きくなるということなので、料率が下がったときに今までメリット制が適用されていて、40%割引されている事業場がメリット制の適用対象ではなくなって、全体の基本料率は下がっているけれども、その事業場の料率は上がることがたぶん起こると思います。それは適用されている事業場の側からすると、事故も起こっていないし、世の中全体の労災の発生率も下がっているのに、自分の所の料率が実額として上がるというのは、なかなか受け入れられないような気がします。
○岩村座長 おっしゃるところが、たぶんこの問題の一番のポイントのところでしょう。資料に出ていたでしょうか。メリット制の実態を見ると、ほとんどが-40%に貼り付いています。ですから、メリット制の適用を受けている事業場にとっては、実際にはメリット制というのは保険料の割引制度だと取られています。しかし、この制度というのはそうではなくて、労災防止のインセンティブを持たせる制度ですので、単なる割引制度ではないのです。ところが、現実にはメリット制の適用を受けている事業場は-40%に貼り付いているので、まさに今おっしゃったような現象が起きていて、いままで保険料が割引になっていたのに基本料率が下がった結果として、メリット制の適用事業場の範囲が狭まってしまって、自分の所は対象外となってしまった。そうすると、-40%からいきなり割引なしになって、おかしいではないかという声が当然出てきます。
 要するに、制度本来の趣旨をどこまできちんと考えるのかということと、他方で料率が下がった結果として、いままで-40%だったのが突然割引なしとなってしまうので、まさに部長がおっしゃったように政策的に両者の調和点がどこかということです。本来、両者を調和させるかどうかがそもそも問題ではありますが、メリット制の本来の趣旨というものに沿いつつ、少し範囲を広げることがどの程度可能で、データでどこまでそれが説明できるのかがポイントになってくると思います。
○労災補償部長 1点、今の話のときに、保険技術的な水準として0.4という数字を置いて、これより小さくなると偶発性はどうかということの見極めが難しいということでこの数字を置いていますが、これが保険料率の低下とともにメリット制の適用規模を上げることになってきます。これをもう少し下げるということは今まで0.4は基本的にここの水準が大事だと言っていたものを下げることになるのですが、保険技術的に大丈夫なのか、というところがもし議論ができるのであればお願いします。
○長舟委員 前回か前々回にご質問させていただいたのですが、0.4はどういう意味でしょうかと。事業場当たりに発生する事故人数に換算するという話をされたときに、確か平均大体1人の意味が0.4ということだったと思うので、「1人」ということにどれほど重みがあるのだろうかということだと思います。0.3にするということは0.75人になりますし、0.2にするということは0.5人ということだと思うので、1人であることがいままでこの制度の中で、どれほどのメリット制の基本的な考え方として意味があったのかなというのは、どうでしょうか。
○岩村座長 昔に議論したときに聞いたので疎覚えで正確ではない可能性もありますが、偶発的なものをそこで切るという意味で1人としているような説明を受けたような気がします。そういう意味で、1人というところで見れば、確率的なものの見方がある程度できますが、それより下げてしまうと難しいというような説明を、何年か前にしていただいた気がします。
○調査官 今座長がおっしゃったとおり、1件起こる起こらないという判断はある程度目に見える。けれども、1をもう少し小さくして0.8にして、0.8件起こるというのをどう見るかというところだと思います。これはおっしゃったように偶発的か、ある程度確定的かを見るために、どこかでラインを引かなければならないということでここで引いた。どこかでラインを引かないといけないので。理屈として0.75もあり得るのかもしれませんが、1人ということで偶発性を判断しましょうという考え方を仮に見直すとしたときに、その見直す理屈が、これまで-40%の適用を受けていた事業主が、料率が下がることでメリット制の適用対象外となり、割引がなしになるようなケースが起こっているから、基準の1を見直すというのはあまり説得力がない気がします。
 そういう意味では、過去0.4というのを見直してこなかったのは、1人ということで偶発性を判断する基準を見直すまでのものがなかったというところがあると思います。そういう意味では、今回も適用事業場が減っているということが、偶発性の判断基準を変え得る要素なのかの判断は非常に難しい。なかなかそういう理屈が思い浮かばないところはあります。
○岩村座長 その辺になってくると、保険なり経済の先生の方が詳しいと思います。
○長舟委員 これは、たしか前回の検討会で話し合ったことの繰り返しになってしまいますが、民間の保険会社でもこういうメリット制みたいなものがありますが、そこで平均1人という人数は統計的にいうとあまりにも小さすぎて、何十人、何百人が平均発生するぐらいのところで制度を作ります。そうすると、加入者数でいくと最低1,000名とか、そういった規模でやっています。そのときに私が申し上げたのは、本制度は民間の制度と違って、政策的な制度であるので、単純に統計的な理屈から導かれないものですねとこれまでも確認させていただいたと思います。一般的には、1人というのは統計的にいうとあまりにも小さすぎる数字であると思われます。
○岩村座長 おっしゃるとおりだと思いますが、そう言ってしまうと、今度は逆に1人にこだわる必要もないことになります。この点についてはこのぐらいで、もしよろしければ次に進みたいと思います。
 今度は、財政への影響について検証をやっていただいているということで、その関係が次のテーマになります。前回の検討会においては、事務局からメリット制の概要や適用状況についてご説明をいただきました。その際、今日の第3回の検討会でメリット制の適用を拡大した場合の影響について、シミュレーションをお示しいただけるということでした。それを今日ご用意いただいていますので、まず事務局から説明をいただきたいと思います。
○数理室長 ただいま、座長からご説明がありましたが、今回メリット制度の現行の適用要件を変更した場合の影響を取りまとめましたので、それについてご説明します。
 お手元の資料No.2-1から2-14です。初めに18頁の資料No.2-1は、19頁の表を例にして推計結果をまとめた表の見方を説明しているものです。これに沿いまして簡単に見方をご説明しますと、この頁には2つの表があります。左側の表は推計結果ではなくて、推計を見るときに参考となるデータをまとめたものです。一番左の「最低労働者数」と申しますのは、各業種の継続事業のメリット制が適用となる最低労働者数を表しています。例えば食料品製造業でしたら、68人以上の事業でメリット制が適用になるということです。その右側の「メリット制事業場数」は、メリット制が適用されている事業場数を表しています。その右側の「保険料額」というのは、メリット制を適用されているか否かを問わず、その業種全体の保険料額を表示しています。
 その右側の表は、継続事業の適用基準となっている災害度係数を0.4から0.35に変更した場合の推計結果です。この推計に当たりましては、メリット制の増減幅の最大幅は現行と同じ±40%として計算しています。一番左側の「最低労働者数」は、災害度係数を0.35に変更した場合の最低労働者数を示しています。食料品製造業ですと、現在は68人以上の事業場に適用されますが、それが災害度係数0.35に下げますと、60人以上になります。
 その右側の「変更により対象となる事業場数」は、その変更によりまして新たに適用されるであろうという事業場数です。食料品製造業でいうと、533事業場となります。その右側の「左記事業場の保険料額」は、その533事業場が納めている保険料額となります。その右側の「保険料増減額予測」は、これらの事業場に仮にメリット制を適用した場合に、全体の保険料がどのぐらい増減するかを表しています。食料品製造業で申しますと、1億円減少するということです。その右側の「保険料増減額料率相当分」というのは、メリット制の適用で減少する分の保険料を確保するために、保険率をどの程度引き上げる必要があるかということを示しています。単位は1,000分の1です。
 以下、18、19、20頁と、それぞれ災害度係数を変更して推計をしています。いちばん極端な推計が、22頁の災害度係数をゼロに変更した場合です。このときには、最低労働者数は法律で全部20人以上ということになっていますので、災害度係数をゼロにしても最低20人以上という基準は変わりません。この場合の影響について見ますと、保険料増減額は全体で252億円の減少になります。
 23、24頁の資料No.2-3、2-4は、同様の推計を建設事業の単独有期事業や一括有期事業で行った結果です。これらの事業においては先ほどもご説明しましたが、メリット制適用要件は最低労働者数、災害度係数ではなくて、請負金額や確定保険料となっていますので、それらについて条件を変えて推計しています。
 25頁の資料No.2-5は、同様の計算を林業について行ったものです。資料No.2-6から2-13は、メリット制の増減率の最大幅を±30%あるいは±20%として、先ほどご説明した推計をすべて行った結果です。最後の資料No.2-14は、以上の推計結果を一覧表にまとめたものです。以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。そうしましたら、今ご説明いただいたことについて議論をするわけですが、事務局から議論をするに当たって、いくつかの視点を提示していただくということですので、1点ずつ視点をお示しいただいて皆様のご意見を伺う形で進めてまいりたいと思います。事務局からその視点をご紹介いただきたいと思います。
○数理室長 ご議論いただくに当たりまして、事務局からこれから視点をいくつかお示ししたいと存じます。1点目は、先ほど資料No.2-1から2-14までご説明しましたが、これらの資料のほとんどがメリット制の適用状況から試算を行ったものです。ご議論をいただくに当たりまして、まずこの試算の方法や方向性についてご意見をいただければと思っています。試算の方法については継続事業を例に、簡単にご説明したいと思います。
 まず、計算は業種ごとに平成21年度のデータに基づいて行っています。第1に労災保険の事務処理をしている電算システムを利用しまして、労災保険適用事業場の中から災害度係数を改定した場合に、新たにメリット制の適用を受ける事業場を特定して、これらの事業場が納付している平成21年度の保険料の額を推計しました。続きまして、メリット制の適用事業場における労働保険率の増減率の平均値をこれらの保険料に乗じることで、影響額を推計しています。最後に、その影響額を賃金総額で除すことで、保険率に換算しています。以上、継続事業の推計方法ですが、単独有期事業などについても計算はほぼ同様です。
○岩村座長 ありがとうございます。いまご説明いただきましたように、今日出していただいている推計というのは、今お話いただいたようなやり方でお出しいただいているということですが、そのこと自体についてはいかがですか。まず平成21年度のデータでもって、例えば食料品製造業であれば、いまメリット制の適用を受けている事業場があるけれども、それを18頁でいえば災害度係数を0.4から0.35に動かして、データ上それによって新たに対象となる事業場をそこだけ取り出したのですね。
○数理室長 はい。
○岩村座長 その事業場で仮にメリット制を適用すると、それぞれの事業場で出てくる保険料はいくらかというのになって、それを総計して出し、そこから今度は保険料に換算していくとどのくらいの保険料率が動くか、というのを見たということだそうです。
○山田委員 計算方法の仮定の問題でお伺いしたいのですが、メリット制を適用されていない事業場の労災事故発生率と、適用されている事業場における労災事故発生率は、同じものと考えていいということですか。
○労災補償部長 災害率は同じとして試算しています。
○岩村座長 そうですよね。そうしないと、新しく適用になるはずの事業場所は災害率の計算のしようがないので、そこは平均値で災害率を用いているということですよね。
○数理室長 全体の平均を使っていると総括できるかと思います。
○岩村座長 ほかにいかがですか。計算のやり方そのものについては、特に災害発生率については、それで試算するしかないですね。
○山田委員 この数値を過大推計と見るべきなのか、過少推計と見るべきなのか、そこの方向性はいかがでしょうか。印象から述べますと、料率も厘で書いてありますから、想像以上に小さいなと思ったので、実態の姿としてはどちらになっているのかが気になったのです。確かに平均でやるしかないというのはわかりますが、実態としてどちらなのかということをお伺いしました。
○岩村座長 新しく適用になる事業場が、それまでメリットの適用になっていなかったので、そこの発生率がどうなのかというのがわかるのだったら、それをベースに置いて推計したほうが、より正確ではありますよね。
○労災補償部長 発生率は小規模事業場の方が高い傾向にあります。そうすると、-40%になる率が少ないですから、影響が小さく済みます。
○岩村座長 そういうことですね。そこまでは、実際にデータは取れますか。
○数理室長 少なくとも、すぐにはお出しできません。データが取れるかどうかどうかは俄にわかりませんが、取れるとしても相当の時間がかかると思います。
○岩村座長 それと、そのデータを基に試算した結果としてこの数字を厘で見たときに、5も6も違うとなるかどうかです。それだったら、やる必要があるけれども、よほど差が大きくない限りは大きな差は出てこない。近似的に見るとこの程度でそれほど大きく動かないということであれば、あまり問題ないと思います。逆にいうと、18頁の表で見るといちばん上から3列目は、保険料の増減額料率のところが0.1になっています。これがもう2ポイント上がる、0.1が0.3になるというと、実際それが事故発生率でどのくらいの変化があるのかとかが逆算してわかるのであれば目鼻は何か付けようもある気がします。
○山田委員 座長もおっしゃられたように、厘で見て0.いくつという数字がほとんどですので、いまお話を聞いて、総額としてそれほど細かい計算をしても大きく変わることはないのではないかということがわかりましたので、推計としては精緻にしようと思えばいくらでも精緻にできようかと思いますが、これで議論には十分に足りる数値ではないかという印象を持ちました。
○岩村座長 1点目は、このぐらいでよろしいですか。引き続き、2点目の視点に移りたいと思います。事務局からこれについて説明をいただきたいと思います。
○数理室長 検討の視点の2点目ですが、資料No.2-1から2-14に試算結果を取りまとめましたが、この試算結果をご覧いただいて、メリット制の適用拡大をした場合に、その影響をどのようにお考えになるか、ご意見をいただければと存じます。
 メリット制の適用拡大を図れば、新たに適用される事業場について、保険料負担の公平性が増すことが期待できる一方で、メリット制の適用事業場で保険料の割引や割増を受けている割合を見ていると、割引を受けている事業場が非常に多いということがありますので、メリット制の適用拡大を図れば、それだけ保険料収入の減少となります。これを補うために基本的な保険料率を一定程度引き上げなければならないという可能性が高くなってまいります。この2点は表裏の関係がありますので、どこでバランスをとるべきなのかという問題があると考えております。この点について、委員の皆さんのご意見をいただければと存じます。
○岩村座長 2点目の視点は、いまご説明がありましたように資料でいうと19頁以下になると思いますが、これをご覧いただいて、メリット制の適用拡大を行うといった場合の財政的な影響をどのように考えますか、ということだと思います。ご質問も含めて、ご意見などありましたらお願いしたいと思います。
 確認ですが、一番最初の「推計表の見方について」という18頁で見て、表のいちばん右側に出てくる「保険料増減額料率相当分」というのが、基本料率に跳ね返るということですね。
○数理室長 そうです。
○岩村座長 基本料率に跳ね返ると、実はメリットの事業場にも跳ね返るということにはなるのですね。
○数理室長 そういうことになります。
○岩村座長 実際上のインパクトとしてあり得るとすると、結局メリット制の適用を受けないような事業場に適用される基本料率への跳ね返りというのが出てきて、例えば19頁で見ると、最大幅40%で見て、災害度係数0.35まで引き下げるという形でやると、最大0.1厘の跳ね返りということになる。そうすると、メリットの適用のない事業場というのは結構小さな事業場であるとして、それぞれ業種によりますが、0.1厘の跳ね返りをどう見るかということだろうという気がします。
○長舟委員 0.1厘上がる前の元々の保険料率では、どのぐらいなのですか。
○数理室長 平均で申しますと、平均の料率は現在1,000分の5.3となっております。ただし、料率の刻みというものがあって、基本的には1,000分の10を上回る場合は、1,000分の1単位ですから、例えば12、13はありますが、11.5というのはありません。1,000分の10を下回る場合は0.5単位になっております。
○長舟委員 実際に保険料への跳ね返りを見るには、5.3が5.4になるという増減を見ればいいということですね。
○数理室長 平均で見る場合はそうです。
○岩村座長 19頁のこの表で災害度係数を0.35にした場合のシミュレーションはあるので、保険料増減額料率相当分が最後0.1厘跳ね返っているというので、何か適当な例を挙げていただければと思います。例えば料率が比較的高いものと低いものとで何か挙げていただければと思います。でも、あまりないですね。
○長舟委員 ほとんどゼロに近い。
○労災補償部長 一番極端な試算をした場合をご覧いただけばよいのではないでしょうか。
○岩村座長 災害度係数をゼロにしたときですね。22頁です。これは非常に極端にした場合です。例えば、跳ね返りが大きいのは0.5で、めっき業ですね。
○数理室長 めっき業は、現在1,000分の6ですので、ちょうど0.5の刻みに入るので1,000分の6.5になるということになります。
○岩村座長 そうしますと、有期事業を見ると、そちらの方が料率の高いものなので、それで一番極端なケースですと、どのぐらい動くのでしょうか。
○数理室長 例えば請負金額の方で見ると、1億2,000万円を2,000万円に引き下げた場合、道路新設事業というのが一番大きいかと思いますが、道路新設事業でいくと、現在1,000分の15です。ですから、0.9厘上がるということは1,000分の15から1,000分の16になるということになります。
○岩村座長 そうすると、やはりどうしても有期事業の方がデフォルトの保険料への跳ね返りが大きく出る。もちろん極端にやればという話です。問題はおそらくデフォルトの保険料が上がってメリットが適用されない所で、0.1とか0.2というところにとどまる。もう少し広げていくと、例えば0.3、0.4、場合によっては0.5となってくるのですが、ある程度事業場の規模が小さい所で0.1から0.4の料率の変化が、その事業場にとってどのぐらいのインパクトを持つのかというのが1つあります。いずれにしろ、これで計算すれば、財政的には中立になるわけですね。このシミュレーションでいけばですね。
○数理室長 はい。財政的には中立です。ただ、中・長期的に見て、もしメリット制のインセンティブの効果が、ある程度目に見える形で出てくるようであれば、むしろ財政的には良い方向に行くと考えられます。
○岩村座長 労災の発生率が下がるので、全体としては料率が下がっていくだろうということになります。
○長舟委員 ここから先は、まさに政策的な観点だと思うので、例えば目一杯拡大した上で、その増減率を例えば-40%、-20%に据えるかによって、全体として跳ね返りがどれだけ抑えられるのでしょうか。いろいろな組合わせの中で、どれが最も納得感があるのか、という視点ではないのかなという気がします。
○岩村座長 それはおっしゃるとおりだという気がします。例えば±20%ぐらいにメリットの幅を抑えると、災害度係数を結構下げても、デフォルトの保険料に跳ね返る分はせいぜい0.2ぐらいで、比較的、全体に影響が広がる。適用事業場の増加は比較的すべてに広まるけれども、最終的な保険料のデフォルトの保険料への跳ね返りは、それほど大きくないという気はしますね。
 ±20%を仮に例に取れば、災害度係数を0.15にしたとしても、いちばん大きい所で0.2ということで、大体は0.1に入っていると。あまり動かない所もあるけれどもということですね。あとは±30%で見たときには、災害度係数を0.15まで引き下げると0.3というのが出てきてしまう。災害度係数を0.25にすると、0.2になる所がいくつか出てきますが、大体は0.0から0.1の範囲内に収まるようです。結局、長舟委員のおっしゃったところは、その辺をどう見るかというお話になると思うのです。仮に増減幅±20%だとすると、デフォルトの保険料への跳ね返りをできるだけ低く抑えつつ、しかしメリット制の適用を受ける事業場数がそれなりに増える。政策的にはそういう配慮で考えることになるのでしょう。
それでは、3番目の視点に移りたいと思います。よろしくお願いいたします。
○数理室長 検討の視点の3点目ですが、先ほどの議論ともちょっと重なるところがありますが、メリット制の長所・短所について、どのようにお考えになるかということについてです。メリット制には2つ目的があり、1つは事業主の保険料負担の公平性ですが、その他に先ほどもありましたが、労働災害の発生度合に応じて保険料を増減することで、事業主の経営感覚に訴えて労災防止努力を喚起して、労働災害の減少につなげるといったことがあります。一方で、メリット制の適用を拡大しますと、保険料の割引となる事業場が多いということで、先ほど議論がありましたが、こういったマイナスの面もあります。こうしたメリット制の持つ長所・短所等について、ご意見をいただければと存じます。
○岩村座長 これについては大体ご意見をいただいていると思うのです。先ほど長舟委員からもありましたように、現在の災害度係数0.4というのは、統計的に見るとそれほど大きな意味があるということでもなさそうだということで、しかし年間1人より下になるということになったときに、それをどう意味付けるかもあまりはっきりしないということであるので、長所との関係でどれだけ意味があるかというのは、なかなかわかりにくいのではないかと思います。あとはマイナス面のところは、いま議論していたように、結局のところ引上げ幅がどのぐらいになるかということの関係で、メリット制の適用がない事業場、とりわけ、小規模事業場が多くなってくるわけですから、もし適用拡大を検討するのであれば、その影響ができるだけ小さくなるようにするということだと思います。
 私の方で1つ、マイナス面として前回も出ていた「労災かくし」の話です。先ほど労災かくしの例を見ていて気になったのは、13頁、14頁で、悪質な例を挙げていただいたということなのですが、有期事業の建設の場合、元請に迷惑がかかるというのが目立つのです。もちろん建設の場合は、例えばマンションとかビルを造っているときに、下請が入るというのはよく分かるのですが、他方で、どうしても下請の方は事故を起こすと元請に迷惑がかかる、そして、次に仕事をもらえなくなるという、いわばマイナスのインセンティブが働いてしまって、それが労災かくしにつながっている例がちょっと気になりました。
 つまり、自分の所でメリット制の適用があるから自分の所で重大事故が発生すると保険料が上がるので隠そうというのだったら、それは自分の所の話なので、メリット制の問題そのものということではないのですが、建設の場合だと、どうも労災かくしのインセンティブとして働いているという感じがしています。
○山田委員 私も全く同じようなことを13頁の資料から感じまして、単に労使と言うだけではなくて、下請という、要するに元請との関係でどうしても交渉上のバーゲニングパワーとして弱い方に置かれてしまう状況が発生した中で、二重の意味で労災かくしが非常に発生しやすい状況にあるのではないかと思います。事務局に伺いたいのは、元請・下請の関係で、この事例はたまたま選ばれたものだとは思うのですが、こういう労災かくしというのは、傾向としてもやはり多いのかどうか。もしそうであれば、有期事業にこのメリット制を拡大するときには、非常に慎重に考えなくてはいけない論点かなと思いますので、もしそういうことをご存じであれば、教えていただきたいと思います。
○労災補償部長 これはメリット制の適用範囲を拡大したときにというか、基本的に有期事業では常にあり得る話です。ですから、全国の労働局でも、建設業を対象にこうした労災かくしの問題についてはできるだけ指導して、取引関係の中でそういうことが起きないようにという指導をしているのです。これは、もし隠すと、下請が次の仕事から外されるというのはありますが、隠したこと自体は基本的に元請の責任になります。ですから、元請としては労災を起こすことも駄目だけれども、隠すことも駄目だと指導をしなければなりません。元請に対するペナルティは非常に大きいものですから、そこはそういう指導をやっているのです。実際に下請から考えると、次からは仕事をなかなかもらえないのではないかというところがあるのかもしれませんが、そこの力関係をできるだけ適正なものにするという指導をする必要がありますが、制度としてそれを実現するということはなかなか難しいと思います。
○岩村座長 実際には建設工事ですと、業者も頻繁に入れ替わって、それを全部、労災保険の保険関係を個別に適用させるのは非常に難しいだろうというのは容易に想像がつきます。あとは土木関係で、公共土木関係だと重大事故が起きると入札から外れてしまうことも労災かくしに影響するのかもしれません。山田委員が指摘のように、有期事業のところは何か慎重に考える必要があるかなと思います。そのほか、長所・短所で何かお気付きのところがありましたらお願いします。また何かお気付きであれば、ご指摘いただきたいと思います。次は4点目です。まず、事務局から説明をいただければと思います。
○数理室長 検討の視点の4点目ですが、継続事業のメリット制の改正についてです。現在の継続事業のメリット制の適用要件は、100人以上の労働者を使用する事業または20人以上100人未満の労働者を使用する事業であって、労働者数に保険率を掛けて0.4よりも大きくなるという基準を満たす事業場となっています。労災が減少していることを反映して、保険率が低下していることから、メリット制が適用される最低の規模は次第に大きくなってきています。例えば、平成元年度には、食料品製造業では、労働者が50人以上の規模でメリット制が適用されていたところですが、現在では68人以上の労働者を使用する事業場に対して、メリット制が適用されることになっています。こうしたことから、適用基準の中でも災害度係数を小さくしていった場合に、適用事業場数の変化を試算して、今回資料で提示させていただいたところです。
 次に、継続事業の適用状況ですが、資料No.1-3にあるように、前回のメリット制の要件の見直しの効果がほぼ安定的に現れた平成2年度と平成21年度を比較しますと、適用率はやや減少しており、また適用事業場数についても、平成2年度に比べると平成21年度はやはり減少しているところです。また、前回の検討会の資料にもありますように、災害の発生率については、事業場規模を問わず概ね年々減少しているところですが、平成21年度で比較しますと、100人以上の大規模事業場に比べて30~99人の小規模事業場は災害率が1.75倍となっています。小規模事業場の労働災害の発生率は依然として高い状況です。こうした状況を踏まえて、継続事業のメリット制の適用要件について、ご意見をいただければと存じます。
○岩村座長 既に若干、議論した部分もあるのですが、いかがでしょうか。いまご紹介いただいた最後のところで出てくる、第2回検討会の資料No.3-17で、災害の度数率の経年表が出ているのですが、確かに事業場規模で見ると、平成20年でみても100人以上だと1.75なのが、50~99人だと3.26、30~99人が3.07ということは、明らかにまだ事業場規模による差があります。この差がなぜかというのは、何か説明要素はあるのですか。
○数理室長 私どもとしては、当然メリット制の効果もあって、大規模な事業場で労災が少ないと考えております。ただ、それ以外にも事業規模が大きいほど、それなりに安全に向けた体制もしっかり整っているということは言えると思います。
○岩村座長 この度数率の計算上、小規模な事業場の方が高く出るというのは、度数率自体の式が延べ実労働時間数×100万で計算するので、小規模事業場の場合だと延べ実労働時間数自体が当然小さく出てしまいませんか。そうすると、要するに労働災害の発生数が仮に同じだったとしても、この式からすると当然、小規模の方が高く出てしまいます。
○数理室長 100万時間働いたら、何件事故が起こるかということを表す指標です。
○岩村座長 何件起きるかという確率を計算しているということですね。わかりました。
○調査官 50人で1件が起こったときに、同じ場所で同じ時間で100人にしたときに2倍になるかということだと思います。ただ、同じ事業場で考えた場合、広がっても単純には2倍にはならないのではないかというイメージだと、小さい所が大きく反映されているというのはあると思うのですが。
○岩村座長 わかりました。そうなってくると、小さい所にもメリットを適用するかどうかというのは、最終的には政策的に割切で見直すというような、これまでの議論を整理していくと、どうもそういうことになってしまいそうな気がするのです。
○山田委員 先ほども申し上げたように、メリット制適用事業、適用割合が減ってきて、適用から外れたような事業場で、果たして労災事故発生率の下がり方が緩やかになっているのか、下がり方が遅くなっているのかどうかという検証のあり方はあると思うのです。もし下がり方が遅くなっているということが確認できたとしたら、それはある意味ではエビデンスとしてやはり少し戻したほうが良いのではないかと言えると思うのです。そうしたデータがちょっと入手が難しい、もしくは不可能であるのであれば、政策的に割切で見直すという形になるしかないのではないかと思うのです。その場合には、逆にエビデンスがしっかりしていませんから、徐々に広げていくとか、料率を±40%みたいな大きさではなくて、それは財政的にも大きく動いてしまうからというのもありますが、ちょっと様子を見ながらという進め方が必要になってくるのではないかと思います。
○岩村座長 今おっしゃったのはまさにそうで、メリット制を見直すのであれば、1つはあまり影響が大きくないようにやるということと、おそらくこのあとむしろデータを取れるような状態に整備をするということが重要なのかもしれないですね。今度は少しエビデンスに基づいて議論できるような、そういう体制を作っていくというのも1つの考え方であるというのは、確かに山田委員のおっしゃるとおりかという気がします。ただ、問題はデータを取れるような体制ができるのかというところです。
○数理室長 山田委員に今ご示唆いただきましたが、どういうデータを取るかということです。データを取るとなると、システム的にどの程度、費用とか時間といったものがかかってくるのか、それらが膨大になると、現実的ではなくなってくるのではないかと思います。
○岩村座長 ほかにありますか。あと残っているのが有期事業関係です。5点目が単独有期事業ということですので、それについてまたご説明をいただければと思います。
○数理室長 検討の視点の5点目ですが、有期事業のメリット制の適用要件についてです。有期事業については、先ほど説明いたしましたが、単独有期事業は前回の適用要件の改正の効果がほぼ安定的に現れた昭和62年度ないし昭和63年度頃と平成21年度を比較しますと、メリット制の適用事業場数はかなり大きく減少しているところです。また、単独有期事業のうち、建設事業におけるメリット制の適用要件は、請負金額に関する要件と確定保険料の要件と2つありますが、現在この2つの要件のバランスに若干、齟齬が生じているところです。前回のメリット制の大幅な要件を見直したのは昭和61年度ですが、この時点では両者はほぼ同じバランスでしたが、2つの要件はこのようにちょっとバランスの均衡が崩れているところです。この点について、皆様のご意見をいただければと存じます。
○岩村座長 これも大体今までと同じような状況ですが、単独有期事業の場合も適用事業がそもそも減っているということと、それから先ほどご説明もありましたし、今もご説明いただきましたが、メリット制の適用の要件にある請負金額要件と確定保険料要件がずっと見直されてこなかった結果として、アンバランスになってしまっているということだと思います。これについてどうお考えになるかということで、ご意見あるいはご質問があればお願いしたいと思います。
 一般に、建設業などの方が事故発生率が高い、料率が高いということを考えると、メリットの適用があった方が、労災かくしの問題を除けばインセンティブが働くことは確かだとは思うのです。そういう意味で、あまりメリットの適用の事業者が減ってしまうというのは、一般の継続事業に比べると、一般論としてはやはり問題はあるのかなと思います。
 先ほどの5頁の推移表を見ると、例えば、前の改定を行ってから安定的な状況の適用割合というと、大体70%ぐらいというところが平成2、3年から平成10年ぐらいまでです。もし、その水準まで適用事業場を戻そうとすると、請負金額2,000万円まで引き下げなければいけないということになって、2,000万円まで引き下げると、37頁で道路新設事業が1,000分の0.5引き上げられる。しかし、ほかには意外と引き上げにならない。
○調査官 37頁は±20%に緩和する表ですので、23頁が±40%での試算です。
○岩村座長 そうすると、±40%のままでやると「道路新設事業」は1,000分の0.9、「その他の建設事業」が1,000分の0.5、あとは「既設建築物設備工事業」が1,000分の0.4引き上げになります。
○岡村委員 論点は、たぶん請負金額の要件と確定保険料の要件と2つあると思います。まず、100万円という確定保険料がいま38.8万円に下がっているということですね。それはよろしいですね。
○数理室長 請負金額に相当するような額がそのぐらいになっているということです。
○岡村委員 もう一つは、逆に確定保険料100万円に相当する程度の請負金額だと、3億5,000~3億6,000万円ぐらいになると思います。バランスをとるということであれば、どちらか片方を動かすのではなくして、やはり両方を動かして、例えば、保険料の方で言えば100万円を50万円にシミュレートしてみるとか、あるいは請負金額だと1億2,000万円を8,000万円とか6,000万円にするような組み合わせでマトリックスを作ってみて、そこで道路新設事業の影響が1,000分の0.9とか大きかったわけですから、その影響が少ない組合せを探ってみるというのも1つの考え方ではないかと考えます。
○岩村座長 今日はそのマトリックスは、組み合わせれば見られることは見られるのですか。
○数理室長 この推計では、組合せはできておりませんので、例えば請負金額を2,000万円にして、確定保険料を25万円にした場合と考えると、この2つの影響度合いを足し合わせるというのは少々違うと考えます。この推計では、重複してしまうのです。今回は条件をバラバラにして、請負金額を動かしたらこれだけの影響が出ますと、確定保険料を動かしたらこれだけの影響が出ますという単体での影響を表すものです。単純にこの2つの足し算をしてしまうと、重複するところが多くなるので、少々過大評価になるということをご承知おきいただいてご覧いただくということで、ご容赦願いたいと思います。
○岡村委員 この2つの要件のバランスというのは、例えば請負金額が1億2,000万円であれば、確定保険料は100万円でなくて38.8万円にすることでバランスをとる、というような発想なのでしょうか。
○数理室長 今の請負金額1億2,000万円が大体、確定保険料でいうと40万円ぐらいに相当するということになってしまっているので、請負金額と確定保険料、両方の基準を変えるとしたら、確定保険料の方をより大きく変えていくというのがバランスを元に近付けることになると考えているところです。
○岡村委員 請負金額を1億2,000万円から2,000万円にするというのは、変化としては大きすぎるということですね。
○岩村座長 請負金額を2,000万円にすると、保険料はいくらになってしまうのですか。
○数理室長 現行の6分の1ですから、確定保険料としては6万円、7万円となります。
○調査官 冒頭で鈴木委員から、そもそも何で2要件あるのかという話がありましたが、災害が先ほどの1件発生するかどうかというところが基本にあって、それを労働者数で見るというのが継続事業です。それがやはり原則で、それを有期事業で見たときにどう判定するかということだと思います。建設現場ですと、日雇いで人が入ったり出たり、なかなか労働者数が確定できない。その労働者数をどういう指標で見るかというときに、1つは確定保険料ではないかと考えられます。支払った給料に相当する人がいるはずだという形で、確定保険料という要素があるのです。一方で、例えば左官さんがちょっと働いて、8時間は働かないでいるという形になったときに、時間換算すれば実は確定保険料で読めるのかもしれませんが、短時間労働の人が非常にたくさんいるのであればそれを評価しないといけない。そうすると、工事で働いている人の規模を何で見るかというときに、請負金額というのは1つあるのではないかという指標だとは思うのです。
 ただ、請負金額の要素が適当かどうかと見るときに、例えば請負金額に占める人件費の割合が非常に大きく変わっていると、請負金額の今の指標は非常に不適切になっている可能性はあります。労働者数100人とか20人以上の災害度数0.4以上などというところに相当するものが、確定保険料の額と請負金額の額とで、どちらが非常に大きくずれているかで、寄せるべきものが決まってくると思います。
○鈴木委員 24頁の確定保険料100万円を75万円に引き下げるとしたら、どれだけ広がるかということですよね。一番左上は、そういう表ですよね。そうすると、これで建設事業のところが312事業で、それを筆頭にして全体で435事業に広がるということですね。これは請負金額のほうは固定、いまのままということですよね。そうすると、先ほどの感覚で言うと、請負金額のところの保険料換算というのは30何万円になっているので、確定保険料額を動かしてもほとんど変わらないということでしたら、これはこちらの方で引っかかるのが、かなりあるということですね。
○岩村座長 今の議論でだんだんわかってきたのは、単独有期事業の場合、いままで請負金額と確定保険料でやっていて、その1億2,000万円というのと100万円というのは、もともと両者が大体バランスがとれていた。ところが、今1億2,000万円と38万円というようになってしまって、それを例えば50万円に合わせると、請負金額は大体どの辺の数字になるのか。いずれにしろ、1億2,000万円より上に行ってしまうのですね。だから、ここの部分は適用の拡大をしようとすると、請負金額と確定保険料の両者をバランスをとりつつ、適用拡大を検討するには、マトリックスを作ってみないと、ちょっと分からないですね。
○労災補償部長 基本的には緩い基準の方でメリット制適用が決まってしまうから、単独有期事業に関しては緩いほうの基準を設けておけば、そこのところはもう大丈夫だと思います。問題は、一括有期事業とのバランスではないかなと思います。
○岩村座長 むしろバランスが問題になってくる。両者の隙間が空かないようにしなくてはいけないということなので、逆に言うと単独有期事業については、2要件の不均衡にこだわる必要は実はあまりないのかもしれないということですね。その上で、一括有期事業との連続性をどう考えるかと、実はそこが論点なのかもしれない。実は一括有期のメリット制の話にもなっているのですが、時間の関係もあるので、そこも併せてご説明をいただければと思います。
○数理室長 一括有期事業のメリット制についてですが、検討の視点の第6点になります。現在の一括有期事業のメリット制の適用要件は、単独有期事業ですと2つ要件があったのですが、確定保険料のみで、これが100万円以上であることということになっております。一括有期事業のメリット制の適用状況を見ると、資料No.1-6にありますように、前回のメリット制の要件の見直しの効果が完全に現れた平成2年度と平成21年度を比較しますと、適用率は減少しているところです。適用事業場数についても、平成2年度が約2万8,000事業であることに比べると、平成21年度は1万2,700事業ということで減少しているところです。こうした状況を踏まえて、一括有期事業のメリット制の適用要件について、先ほどからご議論の中に出ているところですが、ご意見を賜れればと存じます。
○岩村座長 これについては、先ほどのマトリックスという話はなくて、適用要件は確定保険料額一つなので、そういうことで考えていくと、比較的単純で、昭和61年、昭和62年まで戻そうとすると、25万円のところまでラインが下がり、平成の安定的なところよりちょっと上ということで50万円というレベルになる。あとはそれとの関係で、どの程度影響を考えるのかということだと思います。特にデフォルトの保険料などへの反映をどう考えるかということになります。
 そうすると、一番大きい影響だと±40%の例で、24頁ですね。一括有期事業で確定保険料要件を25万円まで引き下げると、「舗装事業」が1,000分の1.8、「既設建築物設備工事業」が1,000分の2.2、料率が引き上げになる。確定保険料要件を50万円まで引き下げると、「その他の建設事業」が1,000分の1.4、料率の引き上げになります。結構引き上げになりますね。ちょっと厳しいかもしれないですね。そうすると、例えば、「その他の建設事業」で、確定保険料要件を50万円まで引き下げた場合、1,000分の1.4引き上げになるとすると、料率はいくつになってしまうのですか。
○数理室長 「その他の建設事業」は、現在1,000分の19ですので、1,000分の20を超えるということです。
○岩村座長 「その他の建設事業」というのは、例としてはどんなものが入ってくるのですか。
○数理室長 例えば、道路の改修、鉄道軌道の改修、隧道の改修などです。それから、河川等の付属物の改修、貯水池等の建設事業などです。
○岩村座長 さすがに料率が1,000分の20を超えてしまうというのは、直感的にちょっと厳しいような気はします。そうなると、確定保険料要件を25万円のラインまで引き下げるのは、とてもではないけれども厳しいという感じですね。「その他の建設事業」だと1,000分の2.1、「既設建築物設備工事業」も1,000分の2.2ですから、もっと料率が引き上げになる。少なくとも「その他の建設事業」については、非常に大きく料率を引き上げなければならない。一括有期事業の方があまり選択の幅がないような感じが直感的には受けます。そうすると、先ほどの単独有期事業の議論の所に、それが結局影響するという関係になるのですね。
 もう1つ、7点目ということで、激変緩和措置の必要性ということが、議論の項目として挙がっています。これは先ほども議論がありましたが、小規模事業場の場合、1件労災が発生すると、メリット収支が急激に変わってしまって、保険料率が非常に大きく上がる。それが経営に及ぼす影響がどうしても出てくる。それを小さくすることが必要ではないかということだと思います。これも先ほど議論した中にも、別の趣旨からではありますが入っていて、±40%のメリットの増減幅をもう少し小さくするというような形で、全体としてバランスをとるということもあるのではないかと、そういうお話もしていたところです。
 規模の小さい所だとメリット幅が±40%で本当にいいのかというのは、経営への影響を考えると、ちょっと検討する必要はあるかなという気はしますが、この点何かご意見はありますでしょうか。先ほどの議論の中で発言されていたということでよろしいでしょうか。何か事務局の方でありますか。
○労災補償部長 先ほども説明の中にあったのですが、メリット制の制度の中の公平性ということをどう考えるかというときに、増減幅を±40%とそうではない増減幅を設定した場合に、「激変緩和」という言い方でやるべきなのか、あるいは、制度を広げるときに増減幅±40%しかないときに、もう少しなだらかになっている方が、公平性という観点からはいいのではないかとか。あるいはなだらかなものができないので、途中±20%とか±30%とかを入れるのが良いのか。制度の公平性という観点からこういう問題をどのように捉えればいいのか。もちろん制度設計の仕方と言えばそうかもしれませんが、ちょっとお考えがあればいただければと思います。
○岩村座長 一言だけ、「激変緩和」というイメージと、ここで議論しようとすることのイメージがちょっとずれているような気がするのです。「激変緩和」というと、普通イメージするのは、制度を切り替えるときに影響が出るので、それを弱めるという感じだと思うのです。これも激変緩和といえば激変緩和なのですが、普通イメージするのとはちょっと違っていて、むしろメリット幅を大きくしてしまうと、中小企業、特に小規模事業場の場合は1件の労災が起きただけで非常に大きな料率のぶれが起きるというのでどうですか、という議論なので、言葉を何か少し考えていただいたほうがいいのかなという気がします。
 あと、バランスの問題として、±40%の所と違うのが出てくる、あるいは事業場によって少しずつ増減幅を変えるというのはシステム上、非常に難しくないかと直感的には思います。保険の観点からいかがですか。先ほどの議論をちょっと離れて考えたときに、事業場の規模によって、保険料率の動く幅が±40%と±30%と±20%があるというのはいかがでしょうか。
○鈴木委員 あり得るような気がします。
○長舟委員 規模が大きければ大きいほど、発生する実態は本来の実態に近いというとダイレクトに反映するのですが、規模が小さいと発生した事象が本来と違うかもしれないので、それほど大きな増減幅にはしないという考え方はあると思います。ただ、20人程度ではもともとそういうことはない、違う世界での話になってはしまうのですけれども。
○鈴木委員 先ほど申し上げた、要は料率が下がっていってメリット制の適用の対象から外れて、結果的に料率が上がるということが、たぶん現実にはあったわけですね。我々民間の感覚からすると、それはちょっとあり得ないです。つまり、事業主の側からすれば何ら落ち度がないのに、保険料が上がるということでは、それは民間の保険だと継続してもらえないので、まずそういう制度は作らないのです。ただ、これは社会保険で強制適用なので、そこの感覚は私には正直はわからないところなのです。社会保険であれば、やはり公平性もある程度犠牲にしてもいいといいますか、そういう部分があるということだと思うのです。
○岩村座長 そこはたぶん社会保険の世界でも、全くの別途の考え方になりますが、今までメリット制を受けていた事業場は、料率変更により料率が低下したためにメリットから外れてしまうという場合については、例えば、何年間かに限り、従来の料率を適用するというようにすることは、技術的にはあり得ます。ある意味で、既得の利益を一定期間は保護してあげましょうということです。それがむしろ激変緩和なのです。今までの料率より急激に上がる場合、それはやはりちょっと酷だから上がらないように措置する。といって未来永劫というわけにいかないから、何年間かに限って、そういう措置をしましょうということはあり得ると思うのです。ただ、それは今までやってきていないのです。
 仮に今回メリットの適用条件を変えたとしても、また労災の発生率が下がっていけば、今後とも同じ問題が常に出てくるので、またその問題とは別に、今ご指摘の問題はちょっと考える必要があるかもしれないということです。自分の領域内で起きた労災の場合は、料率が何年か後に上がるということがメリット制の場合はわかっているので、経営側としてはやや時間的な余裕があって対応ができる。ところが、基本料率が下がることで、あるとき突然、来年からメリット制が適用されないことになるので、それは経営的にはいかがなものかというのは確かにあるのだろうと思うのです。
○労災補償部長 制度は政策的な意味合いからすべての条件を決めています。ただ、やはり信頼性の中で保険料を納めていただきながら、労災保険制度を運営しなければなりませんので、そういうことからすると公平性などといったところにも十分配慮するという必要性もあろうかと思っています。
○山田委員 公平性といった場合に、例えば先ほど長舟委員がご指摘のとおり、要するに労災保険料率が下がってくるというのは、その背後に労災発生率が下がっているというのがありまして、そうするとますますもって、この事故が経営者の努力で下げられなかったのか、それとも偶然に発生したのかというのが見えなってくると。そうした偶然による部分が、もし変わらないとすれば、それによって±40%という大きな差をつけてしまうというのは、また別の意味での公平性の観点から問題があると考えられます。だからこそ、そうした公平性、要するに偶然性によるものであまりにも大きな影響を与えないように、増減の幅を狭めるといえば、もう1つの公平性の議論としてはあり得るのではないかと思います。
○岩村座長 大体予定していた項目はほぼ議論できたかなと思いますし、もしまた事務局の方で今日の議論で尽きない部分があるということであれば、また次回少し持ち越しでということで検討いただければと思います。予定した時間にもなっておりますので、今日の議事はこの辺で終わらせていただきたいと思います。
 次回の開催日時は冒頭にご案内いただいたとおりです。議題については、もし何か今日積み残しがあれば、それを少し継続するということもあろうかと思いますが、次回については第1回から今日の第3回までの検討会でご議論いただいた積立金やメリット制について、中間的な取りまとめをさせていただきたいと考えております。議事内容等の詳細については、また後日、事務局からご連絡をいただけると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。それでは、本日はここまでということにさせていただきます。お忙しい中、どうもありがとうございました。

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