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2010年7月13日 第26回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会建設労働専門委員会

職業安定局建設・港湾対策室

○日時

平成22年7月13日(火)10:00~


○場所

厚生労働省 共用第6会議室


○出席者

公益代表

征矢座長、柴田委員、白木委員

労働者代表

上山委員、野村委員、古市委員、山下委員

使用者代表

加藤委員、才賀委員、福田委員、室川委員

参考人

国土交通省総合政策局 中村建設市場整備課長補佐
(財)建設経済研究所 丸谷研究理事

事務局

山田職業安定局次長、松本建設・港湾対策室長、高松建設・港湾対策室長補佐、山建設・港湾対策室長補佐

○議題

(1)建設業の現状と今後の見通しについて
(2)その他

○議事

○征矢座長 定刻になりましたので開会します。議事に先立ち、本年6月に委員の交替がありましたので、ご紹介させていただきます。
 委員名簿はお手元に配布してありますが、使用者代表の熊谷組の野中委員が退任されまして、新たに前田建設工業の加藤委員が就任されておりますので、ご紹介いたします。
○加藤委員 前田建設の加藤です。よろしくお願いいたします。
○征矢座長 それでは議事に入ります。まずはじめに建設・港湾対策室長から6月7日に行われました、厚生労働省行政事業レビュー公開プロセスの結果について説明いただきます。
○松本室長 本日はご参集いただきありがとうございます。前回5月から第8次建設雇用改善計画の検討をお願いしているところですが、その後、行政事業レビューが行われ、今後の建設雇用改善計画策定に影響を与えかねない事情が発生いたしましたので、この場をお借りして説明申し上げます。資料1に基づき説明いたします。
 まず、行政事業レビューとは何かということから御説明しますと、これは全省庁共通の取組みといたしまして、現行のすべての事業の実態を十分に把握・点検し、その結果を今後の事業執行や予算要求等に反映する取組です。雇用開発支援事業費等補助金という建設関係の助成金の事業が、この行政事業レビューのうち公開プロセス、つまり公開の場で外部有識者の意見を直接いただく対象事業として選定され、6月7日に実施されました。
 資料の1~4頁は参考資料として配布されたものです。当日は、資料の5~12頁の横紙の資料で、現状どのような事業を実施しているのか、また事業実績や効果は何か、平成23年度に向けてどのような改革を考えているのかということを説明したところです。
12頁の改革案の内容ですが、現行の助成金メニューは多岐に渡っているわけですが、実績が十分に上がっていない、助成効果があまり上がっていないと思われるものについては廃止をするなど、メニューの統廃合を進めるということと、昨今の雇用保険の二事業懇談会や事業仕分けの情勢も見まして、助成効果の特定をもう少し綿密に実施することを提示しました。
 その後、参加された外部有識者からの質疑がありまして、その結果は同じく資料の17頁と18頁をご覧ください。
まず、17頁ではこの事業について実態把握水準が妥当であるかという判定について、8人中8人全員一致で把握水準が不十分だという判定でした。これは事業の実績、また効果の把握の仕方、数値の取り方が十分ではないという指摘でした。
 18頁は、この事業を今後どうすべきかということで、外部有識者の方々の意見は、8人中1人が「(直ちに)事業の廃止」。8人中4人が「(一定期間経過後)事業の廃止」。その他に「国が実施する必要なし」が1人。また、「事業は継続するが、更なる見直しが必要」が2人でした。外部有識者8名の方の結論、つまり公開プロセスにおける結論としては、4人が同意された「(一定期間経過後)事業の廃止」ということで一旦結論が出ているわけです。
 具体的なコメントは、18頁の下に小さい字で記載がございますが、これを総括いたしますと、建設業の今後のあり方を業所管官庁である国交省等も交えて検討すべしというのが第1段階。そういった検討を踏まえて、建設雇用関係の施策のあり方を精査する第2段階の検討をしなければならないのではないか。そのための時間として一定期間が必要ということが、外部有識者の御意見であったと理解しております。その他、細かいことを申し上げれば、例えば職業能力開発局が実施してるキャリア形成促進助成金との調整をすべき、建設事業主からの雇用保険料1,000分の1の超過負担制度についてそもそも見直す必要があるのではないかといった指摘等もありました。
 行政事業レビュー公開プロセスは、先ほど申し上げましたように、「(一定期間経過後)事業の廃止」という結論でしたが、この公開プロセスの御意見を受けて、厚生労働省としては現在、方針を検討中です。
一方で、既に前回からこの専門委員会では、平成23年度からの建設雇用改善計画の策定に向けての議論を始めていただいているところですが、現時点では、このまま23年度からの5カ年計画の策定に向けての検討を続けていただきたいと考えています。私からの説明は以上です。
○征矢座長 どうもありがとうございました。ただいまの説明に対するご質問、ご意見がありましたらお願いしたいと思います。
○野村委員 今の説明の中で有識者が8名、いろいろ検討していただいているようでありますが、この有識者は、建設業にどのくらい精通されている方なのでしょうか。どういう方がそもそも有識者と言われる人たちに入っているのでしょうか。
○松本室長 例えば大学の先生でありますとか、弁護士の方、ジャーナリスト、経済研究所の方、また府議会議員の方といった、いわば大所高所からご意見をいただけるであろうという方が外部有識者に選ばれています。
○野村委員 そういう状況の中で、一定期間経過後事業の廃止が1つの方向性ということで結論が出ているとのことですが、建設業というのは、一般の業種と役割といいますか、業態といいますか、少し違うような部分があるのではないのかなと私は思っています。建設業の役割だとか、特質みたいなものを十分に理解をした上で議論をしていただかないと、効率も大事だとは思いますが、今よく言われているような短期的な視点だけで判断されるのは、建設業には馴染まないのではないかというふうに思っています。
 とりわけ建設業は、特に地方においては地方経済や雇用をしっかり下支えし、社会資本整備も国土保全も含めて支えている。そういう建設業の役割を十分に理解をしていただいて、また、そういうところに従事する人達の今の労働環境、労働条件、そういうものもしっかり受け止めていただいて、是非こういう議論を進めていただければありがたいなと。事業仕分けもしかり、行政事業レビュー、こういうものも決して否定する気はありませんけれども、やはりそれぞれの産業の実態というものをしっかり見ていただいた上で、議論を進めていただきたいと思っています。以上です。
○福田委員 日建連の福田です。私も野村委員と同じ意見です。建設技能者がこれから不足していく中で、今現在非常に取返しのつかないことも出るということで、いろいろな一部助成をしたりとかそういうことをやっている中で、有識者8人がこういう意見だというのが、きちんとそういうジャッジをしてくれているのかなと。やはり何かもう少し議論をしていただきたいなと、私は率直な感想でそういうふうに思っています。
○室川委員 全建の室川です。私どもの会員企業なり、地方の建設業の状況を少しお話をしたいと思います。先ほど野村委員からもお話がありましたように、建設業の特性とプラスして地方の実態からいきますと、公共事業予算の大幅な減額ですとか地方財政の逼迫化で、県の公共事業も縮減はしておりますし、民間投資も大幅に減少してきております。そのような中で当然仕事量が減ってくるわけですから、価格競争になり、ダンピング受注が頻発しているのが現状です。その結果会員企業の利益率が非常に減少していると。危機的な経営環境にあるという状況です。
 私ども全建の会員企業は、ピーク時は平成7年の3万3,000社ありましたが、現在は2万1,000社まで減っています。ピーク時の約64%程度の会員数になっているのが現状です。47あります地方協会会員の減少、これが会費収入の減少に当然繋がってきていまして、協会運営に非常に大きな影響を及ぼしております。会員企業の苦しい経営環境と地方協会の厳しい運営状況の中で、労働条件の改善ですとか、労働福祉の充実に今後大きな影響が出てくるということは間違いのないことでして、今までやってきました社員の教育訓練、職場環境の改善等と、地方協会が実施しています雇用改善事業は、この助成金を利用して地道に行われて来たわけです。この雇用改善事業を継続してやって行くことに意義があるだろうというふうに思っていますし、福田委員からもお話がありましたように、ますます業界の人材確保だとか育成が困難になるのではないかと非常に心配をしていますし、雇用改善事業が途絶えるのではないかというように思っています。
 私ども全建としましては、非常に問題があると捉えておりまして、常設委員会であります労働委員会の場でもいろいろ議論をしたいと思っていますし、労働委員会の場で得られた意見等については、こういう公の場で労働政策審議会といいますか、この専門委員会というような場で、是非とも意見を申し述べる機会を作っていただければありがたいと思っています。
 先ほど事務局から説明もありましたように、やはり現状把握から今後の対応について相当な時間が必要だろうと思いますので、少なくとも何年間か相当な年月をかけて十分に検討をしてもらいたいと思っています。以上です。
○古市委員 民主党政権の売れ筋商品といいますか、事業仕分けがそういうことでありますので、結論をあまり悪し様に言ってはいけないのかもしれませんが、聞くところによりますと、委員の皆さんの発言の中に、建設産業は衰退産業なので、そこに助成する必要性そのものがあまりないのではないかという意見もあったとお聞きしてまして、そういう認識というのは非常に誤ったものなのではないかと私は思っております。個々の有識者のコメントの中でも出口戦略に特化すべきだというような意見がたくさん出てまして、建設業の就業者数が建設投資そのものに比較をして多すぎるのではないかという意見があるということについては、よく承知をしているわけでありますが、人間社会が続く限り建設産業そのものがなくなるわけではありませんので、出口戦略そのものの必要性までは否定いたしませんが、若い技能者をしっかり育てていくということは、大変必要なこと、重要なことでありますので、そのことまでを否定をするというのは、いかがなものかという気がいたします。建設業の助成そのものが効果を上げていないということであれば、それは率直に耳を傾けて効果が上がるように制度を仕組んでいくということが私達の仕事だと思いますので、そこはしっかり耳を傾けて議論をして良い制度を作っていかなくてはいけない。こういうふうに思います。
 現状の制度を更に活用しやすくして効果が上がるようにするということが、建設・港湾対策室の使命であり、私達の議論もそういうことに費やしていくべきだというふうに思っています。今労使双方から同じ様な意見が出ていますので、認識としてこの制度が必要なのだということについては、使用者側の皆さんも労働側も一致していますので、そういうことについては、今後政務三役がこれから先のことを判断いただくのだと思います。労使双方の意見が一致をしていることについては、事務方の皆さんからしっかり報告をしてもらい、誤りのない判断を是非していただきたいと思います。
○才賀委員 今古市さんから、労使双方同じ意見ということはまったくその通りだと思います。今の建設業界は、建設技術は要らないよというような施策に陥っているのかなと思いますし、それでは今のような教育もしなくていい、企業がつぶれてもいい、何もしなくてもいいということで、このまま進んでしまうと日本の建設業はどうなるのかと。まして、建設投資が非常に少なくなっている中で、働く人達も先行きの見込みがないというようなことで、非常に苦労していると思うのです。その中で、相も変わらずダンピング受注、また我々もダンピング発注ということで、マイナススパイラルにどんどん落ち込んでいる中で、建設業で働く労働者を一人前に育てるのに10年以上かかります。それが3年、5年と止まってしまうと、この5年、10年を取り戻すには何十年もかかるのです。そうすると、今海外から来ている研修生等に日本の国は大変だから来て、教えてちょうだいというような日本の建設業界にしてもいいのかというようなことで、先行きの希望がなくなるのかなと思います。
 先日もテレビで日本の国の地震の回数は何回ありますかということを聞かれた時に、毎日体に感じなくても300回以上の地震があると報道されていましたが、自然災害が多い日本で、いかに地元の建設業界の方が働いているか理解されないというのもやはりPR不足かなと思いますので、是非ともこういう良いものをなくさないように、ひとつしていただきたい。また、我々も1,000分の1の掛け金を掛けて教育をしているという意義を感じて国からお世話になっているわけでもないのだろうし、その辺を大いに強く言って、この会の意見を統一して出していただきたいなと思います。以上です。
○加藤委員 私も皆さんの意見と一緒です。本当に私たち産業というのはいわゆる人の体に例えれば動脈というか静脈というか、その体を支えるために、国家を支えるために一番重要な部分を担っているのではないかと。確かに国家のお金がなくなって、新たなインフラ整備というか、その辺は少なくなっていくかもしれないけれど、今まで作ってきたインフラ整備とか、その辺というのは絶対的にやっていかないと日本の国が成り立っていかない。あるいは、宮崎で口蹄疫被害がありました。あのときに牛の処分をしたのはやはり地場の建設業者だし、今鹿児島で土石流で大変なことになっていますが、それを復旧するのにも、やはり地場の業者さんが不眠不休で働いています。この前、東名高速道路が崩壊して流された際も、不眠不休で1週間ぐらいで開通させたと。やはり国の動脈、生命線を担っているということは決して忘れないでいただきたいというふうに思います。だから建設が衰退するとか何とかではなくて、国家を支える1つの重要な産業であるという認識は是非とも持っていただきたいと思います。以上です。
○白木委員 今業界の方々のお話を伺いまして、2つコメントがあります。1つは、17頁に把握水準が不十分であるという点についてです。業界の方々はいま効果はあるという考えでありますが、ここで判定された根拠は私もわかっていないわけですが、例えば雇用の安定について役に立っているのかというと、建設業界全体が良くないから雇用が減っていると。したがって、雇用に対する影響がないのではないかとそういう見方をされたのかどうか。今業界の方のお話を伺いますと、これは効果があるという認識を持っておられると思いますが、それを何か数字か事実として出せればこれに反論できる可能性があるのではないかという印象を持ちました。実態把握についての示し方を再提示するというか、そういう方法があるかどうかが1つの点であります。
 もう1つは、先ほどから1,000分の1の議論が出ていますが、要するに収入見合いでやっていることであり、業界団体の自力でやっているものに近いものなのです。ですから業界団体がこれは必要だといえば、自分たちでやるよということができる可能性があるわけであります。したがってこういう場に業界団体の声を十分届けるということが非常に重要じゃないかという印象を持ちました。
○柴田委員 私もまったく同じ印象を持っていて、申し上げていいか悩んでいたのですが、業界の方は自分たちがわかっていることを外にアピールしなくてもわかってくれていると思っているかもしれませんけれど、特に建設なんかは馴染みがない。一般の人には馴染みがないし、有識者の方もどこまて本気で考えていらっしゃるかはわかりませんけれども、今おっしゃったみたいに他のところでもそうなんですけれども、これをやったからどんな効果があったのかとかは、きちんと指標を出すという作業をやらないとどうしようもないと思います。もしここでこの期間にきちんと一定期間いろんな指標を作って効果があることがわかればもう1回これが復活できるというふうに考えていいのですよね。
○福田委員 意見ですけれども、私が感じるところによりますと、建設業はすぐに数字が表れることは多分少ないだろうと思います。先ほど加藤委員がおっしゃったように、例えば何か災害があった時にそれがこういうことをやっておいたからよかったねというようなことは非常に多いと思います。だから数字でこれをやったらプラスになるとはなかなか言えないかなと。それを何かで表したいとは思いますが。
○柴田委員 おっしゃることよくわかりますが、例えば他の教育についても同じように効果を図るのは大変難しい。それをどうやって図るかはすごく難しい。だけれども一方で皆さんがずっとおっしゃっていたように、安心や安全を支える建設業、私たちも安全な家に住みたいし、安全なオフィスで働きたいし、安全な高速道路あるいは電車とか交通機関にも乗りたいという思いもあるし、災害の時もきちんと対応してもらいたいというのはあります。少なくともなんらかの教育をすることにより、今までよりも技術レベルが上がったという、テストをされていればテストの結果も出せるであろうし、助成金によってこれだけの会社が雇用の改善にこのようなことをしたという数字で、見せ方によりいくらでもなることはありますが、そこの努力はしていかないと、なんとなくわからないままになってしまいます。
 経産省がいわゆる産業振興するときには必ず人材育成という言葉が最後に出てくるのですが、それはもう本当にお題目みたいな形になっているので、いったいどんな人材をどのように育てていかなくてはいけない程の危機になっているのだろうか。本当に底上げのレベルが酷い状態になっているとか、あるいはそうではなく、本当に日本の特異性を支える技術の部分、高度な技術が駄目になっているとか、そういったことは皆さんの中でわかっていることです。それをこの有識者の人たちは多分この業界を知らないために、勝手にいわゆる大臣がお国入りするからお金がばらまかれるとかマイナスのイメージだけで見ておられたりするのだと思うのです。残念ながらみんなが理解してくれない部分がたくさんあるので、そこはもっときちんとアピールしていくという作業をしていかないと、ますます酷い目にあっていってしまうなという感じかちょっとしています。
○福田委員 建設業も労働力というのは団塊の世代が多いわけです。これからあと10年経っていったら今60歳の人が70歳になっていく。若手は全然建設業に入ってこない。なんで入ってこないのかというと労働環境が悪く、年収もよくない。以前から3Kと言われて来ましたが、きつい、汚い、危険と。その三拍子がずっとついて回って、なお賃金も安いと、そんな状況でこれからどんどん若者が減っていくだろうなと。なおかつ技能が伴っていかないというようなことが非常に大きな問題になっているんですが、柴田委員からもお話がありましたので、その辺は数字でアピールをするというか、今後どのようになっていくのかいうようなことは出さなければいけないかと思います。委員の方がやはりそういうのを理解していただいていないのであれば、委員の方にいろんな現場を見学してもらったり、そういうことをしていかなくてはいけないのかなと、そのように感じました。
○征矢座長 いろいろご意見がありましたが、基本的な考え方の流れは労使公益とも方向は同じだとお見受けいたします。一定期間というのがどのくらいの期間なのかという問題と、現在の仕組み自体に問題があるとすれば、その仕組みをどうするか。いずれにしろ政策論を議論するのは、この場だと思いますので、事務局にもいろいろご検討いただいて、ここで議論して新しい方向を考えていくというようなことで対処していくべきではないかというふうに思います。いろいろご意見もありましょうが、いずれそういうことでご議論をいただくとして、本日の議題でありますヒアリングに移りたいと思います。
 前回は、第8次建設雇用改善計画策定に向けて、策定スケジュールや建設業の雇用動向等について事務局から説明を受けたところでありますが、今回は「建設業の現状と今後の見通し」について、お二方にご説明していただくこととしています。お一人目は、国土交通省建設市場整備課中村補佐。お二人目は財団法人建設経済研究所丸谷研究理事です。それでははじめに中村補佐からよろしくお願いいたします。
○国土交通省中村補佐 国土交通省の建設市場整備課の中村と申します。お手元の説明資料に沿って説明します。資料は3部構成になっていまして、1つ目が建設労働をめぐる現状。この辺りをデータを踏まえながら説明します。2つ目が、それに対する人材確保・育成の考え方。国土交通省の取組み等を説明します。最後になりますが、建設業を取り巻く環境ということで、国土交通省で策定しました成長戦略、こちらを最後に説明します。
 それでは、まず1つ目、建設労働をめぐる現状です。まず1頁をご覧ください。こちらが、建設投資、許可業者数、就業者数の推移を年度順に表したものです。右に行くほど最新の数字になっています。建設投資のピークが84兆円、平成4年度の時でしたが、こちらが現在約41兆円、ピーク時から52%減となっています。それに伴いまして、建設業者数もピーク時から15%減りまして約51万業者。就業者数のほうは、517万人、この棒グラフの部分ですが、ピーク時の平成9年から約25%減少しているということです。月別に見ますと、今年の5月、最新の数字が492万人ということで、およそ33年ぶりに500万人を下回ったという現状です。
 次の2頁をご覧ください。これが就業者数の内訳を表したものです。これも年度別になっていますが、棒グラフの黄色い箇所が実際現場で働いていらっしゃる職員の方、技能者の方です。その上の赤い部分が技術者の方、設計・現場監督に携わっていらっしゃる方です。その上のブルーの部分が会社役員・管理・事務職。その上が営業職。その上が警備員、運転手等となっています。ご覧いただきますと、就業者数全体は、平成9年から25%減、技能労働者数も平成21年は342万人ということで、ピーク時から25%減と、実際現場で働いていらっしゃる職員の方も、全体の数値に合わせて減少してきているという状況です。
 次の3頁です。こちらが年齢構成の推移となっています。四角い部分が建設業、三角の部分が全産業の平均を取ったものです。まず、上のほうに右上がりになっている部分が55歳以上の割合ですが、建設業は32.5%の方が55歳以上。全産業の28.4%に比べて高齢化が進んでいる。それから、若い方、29歳以下の方を見ますと、建設業は12.8%、全産業の17.8%と比べましても若い人が非常に少なくなってきている。また、平成13年以降ですが、全産業との差が拡大してきているという状況です。非常に高齢化が進んでいるということを我々も心配しています。
 続きまして4頁です。こちらは建設産業への入職状況です。まず、左の棒グラフが学歴別の建設業への新規入職者の推移、新卒の方です。平成4年、9年、14年、21年と4つ取ってあります。下のブルーの部分が理工系で学校を卒業された方、上の茶色ですとかオレンジの部分が文系の教科をとって卒業された方となっています。先ほど内訳を見ました技術者、平成21年で32万人でしたが、そういった技術者の人材となります大学院ですとか、大学・短大の理工系の入職者の方は、平成21年で大学院が1,868人、大学・短大が8,774人と、およそ大体1万人ぐらい毎年入ってきている状況です。一方、技能労働者、先ほどの342万人の人材となります高校の理工系入職者の方は、平成21年で6,557人、こちらは平成9年のときには2万714人でしたが、これはもう3分の1程度まで非常に減少している。技術者の方は年間1万人いて、その方々がゆくゆくは技術者32万人の基になるわけですが、この技能労働者の若い人たちというのが入ってくる割合と言いましょうか、数が非常に減少しているという状況です。それから、右のグラフを見ていただきますと、工業科の卒業者が建設業に就職する割合、こちら高校の工業科ですが、棒グラフの青い部分が卒業者のうち建設業に入る方の割合です。ご覧いただきますとわかりますように、平成4年のときには14.3%の卒業生が建設業に入っていたわけですが、平成21年は10.6%と、工業科を卒業しても建設業に入る人の割合というのが減ってきているという状況です。
 続きまして5頁です。建設技能労働者、働いていらっしゃる方の職位ということですが、現場の中核として働いている職長さん、世話役ですとか班長を含みますが、その方が約3割を占めています。年齢階層別に見ますと、30歳から59歳の約4割がこの職長になっています。こちらご覧いただきますとわかりますとおり、最初は一般技能労働者、作業員として若いときに入りまして、最初見習いから始まりますが、職長という形にキャリアパスを経てステップアップしていくと、行く行くは中核を担う職長になっていくという流れになっています。
 次が6頁です。こちらは1つのサンプルと言いましょうか、例示としまして、「関西建設技能者会」の会員の意識調査というのを提示させていただきました。技能者会というのは、1級技能士の方ですとか、基幹技能者、施工管理技士などの資格を持つ優秀な職人の集合体ということで、建設技能者の技能ですとか資質の向上、技能の伝承を図るための活動を展開しているところです。左下の経験年数の円グラフを見ていただきますと、これは働いてからの経験年数ですが、一番多いのが40年以上、オレンジの部分です。その次が30年以上働いている方がブルーの部分、20年以上働いている方が紫の部分ということで、20年以上の経験を積んでいる方が約7割を占めています。それから、右のグラフですが、現在の職種に就いた時の年齢、何歳から現在の建設業の職種に就いているかということですが、右上のブルーの部分が18歳未満で就職した方、赤い部分が20歳未満、この左の緑の部分が25歳未満ということで、20歳未満で約5割の方が、半分以上の方は20歳未満で現在の職種に就いていると、25歳未満ということで見ますと、約8割の人が25歳未満で現在の職種に就いているということで、やはりこちらの両方のグラフを見ていただきますとわかりますとおり、若年から建設業で経験を積み重ねていく、そして腕を磨いていって経験年数を積み重ねて現場の中核を担う人材になっているということがわかるかと思います。以上が、建設労働をめぐる現状ということでした。
 続きまして2番、建設技能労働者の人材確保・育成の部分について説明をします。資料の7頁です。こちらは、国土交通省も含めて建設技能労働者に対する取組み、どういった対策が必要か、どういった課題があるかというのを1枚まとめたものです。まず左側、建設業を取り巻く環境の認識ですが、建設投資の減少とそれに伴う競争の激化ということで、下請企業・下請の企業で働く労働者へのしわ寄せというのが起こっているのではないかと考えています。
 それから、先ほど見ました建設労働者の状況ですが、就業者数が減少してきている。そのうち技能労働者も342万人まで減少している。その技能労働者の94%は下請企業で働いている。先ほどのしわ寄せの対象になります下請企業のところに94%の方がいらっしゃるということです。それから、技能労働者の構成ですが、高齢化が進んでいますのと、入職者の減少。離職者数が入職者を上回って推移するという状況にありまして、中核を担う人材の確保・育成、あるいは技能承継が課題になっていると考えています。それから、賃金水準ですが、年収が平成21年、建設業の男性ですと401万円というのが平均でして、全産業、製造業よりも低い水準にあります。
 その下、それぞれの建設業の団体から提言をいくつかいただいています。1つが日建連さんの「建設技能者の人材確保・育成に関する提言」の実施における基本方針ということで、優秀な基幹技能者の年収600万円への引き上げ、あるいは教育への支援、作業労働時間・労働環境の改善。もう1つが、建専連さんですが、コア技術者の直接雇用の推進、基幹技能者の活用促進と適正評価、社会保険加入を前提とした技能者の流動化・就業確保ということが言われています。
 こういった状況を踏まえまして、右の対策を取ることが必要ではないかと考えています。真ん中に縦の棒がありますが、上に行くほど建設産業政策、業所管としての立場に近いもの。下に行きますと労働政策、より労働者の雇用改善に近いもの、その中間として位置します緑の部分、人材の確保・育成、そういったものが類型化できると思っています。
 まず、建設産業の政策、我々国土交通省として取り組んでいますが、ダンピング対策、こちらは下請企業へのしわ寄せということが非常に言われていますので、低入札価格調査基準価格の見直し。ダンピング価格が起こる時の低入札価格に対しまして調査を実施しています。その基準価格の見直しを進めています。それから、予定価格の事前公表から事後公表への移行ということで、特に公共工事の時にこういったダンピングが起こるのを防止していこうという趣旨で取り組んでいます。それから、元請から下請に発注される時ですが、下請企業対策としまして、書面契約の徹底、契約の約款というのがありまして、それの改正を検討しています。下請企業の方の請負代金が債権としてありますが、それが守られるよう、保全されるように信託方式による新たな下請債権保全策の検討というのを進めています。それから、下請企業の見積りを踏まえた入札契約方式の試行。違法行為に対する取締り、指導監督の強化ということで、より元請の方から下請の方に請負契約で仕事がいくときに適正に契約代金の支払いがなされるような取組みを進めています。
 人材の確保・育成です。建設産業への入職の促進、あるいはそういった若い人が入ってきた後の、技術・技能承継の促進を進めています。具体的には後ほど資料で説明します。それから、将来に向けたキャリアパスの構築、評価の向上が必要と考えていまして、1つ中核的な労働者ということで、基幹技能者の確保・育成・活用を進めています。それから、優秀な技能者の社会的評価の向上ということで、表彰といったものもあります。それから、労働者の教育訓練の実施支援が必要ではないかと考えています。
 もう1つは、労働環境の改善ということですが、セーフティネットへの加入促進ですとか、雇用・労働条件の明確化、労働環境の改善、こういったものを進めまして、若年層の入職促進、あるいはその人たちに対する技能の承継、技能労働者の処遇改善を進めることによって建設業の生産性向上、建設産業の持続的発展が必要だと考えています。以上が基本的な考え方ですが、具体的な取組みを8頁以降で説明します。
 まず、8頁が国土交通省の今年策定しました政策集というものです。1つ取り組んでいますのが、こちらの入札契約制度改革です。左のほうにありますように、契約の明確化・対等化の促進ということで、請負契約の約款を見直しましたり、違法行為の取締り、下請代金保全策を導入したり、そういったことで契約が元請、下請間で対等に進みますように取り組んでいます。右のほうですが、手続の透明、ダンピング対策ということで、まず1つが、国土交通省の直轄工事におきまして、総合評価方式の透明性の向上、入札ボンドの対象工事の拡大、下請企業からの見積りを踏まえた入札方式の試行。それから、下の地方公共団体における取組みを促進しています。2つ目の所にありますが、実効あるダンピング対策の取組みということで、低入札価格、こちらを厳格に実施することとしています。
 9頁です。先ほどの政策集の続きで、建設産業対策があります。左にありますのが、成長戦略の担い手たる建設産業の育成。建設業でPPPですとか、エコ建築、耐震、リフォーム、そういった成長分野があります。そちらに対応できるよう支援をしていく。右上にありますように、金融的な支援、経営支援体制の構築。それから右下、人材の部分ですが、人材の確保・育成としまして、若年層の定着率の低下等を踏まえまして、建設技能労働者の成長分野対応の促進、あるいは人材の確保・育成ということを進めていきたいと考えています。
 より具体的に説明しますと、10頁以降です。実際に行っています事業の内容を紹介しています。1つが、建設業の人材確保・育成モデル構築支援事業(専門高校の実践教育導入事業)。こちらは、背景としまして、建設業の就業者数が減少してきていて、入職者が減ってきているということで、地域の建設産業界とその地域の専門高校、主に工業高校が連携する取組みです。例えば、その下の真ん中の四角にありますが、建設現場に工業高校の生徒さんに来てもらって、実際に現場で実習をしてもらうと。高校生に勉強をしてもらう、そうやって現場のことを知ってもらったりするというのが1つ。あるいは、建設業で実際に働いている方に学校へ出向いてもらって、出前講座みたいなものですが、生徒に授業をしてもらう。工業高校の先生もなかなか実践的な指導ができない状況にありますので、教員に対する研修をしたり、あるいは生徒の技術に合わせた副教材の作成、こういったものを進める授業です。一番下の四角にありますが、平成22年度は、5地域、宮城、新潟、栃木、群馬、長崎で進めたいと考えています。こちら文部科学省と連携した取組みです。
 11頁に、実際どういうことをやっているのか写真で解説しています。企業に行って実習したりですとか、学校で実践的な指導をしたり、そういった取組みを進めています。こういった取組みにより、高校生も現場を見て実感が、建設業に対する関心がより湧いたと、それから、自分がどういう勉強をすればいいのかが具体的にわかったといった、回答がアンケート調査により把握できますます。それから、資格取得を目指したいという生徒が増えています。もう1点、実際に実習等を行った学校では、建設業に入職する割合が増えている状況でして、こういった取組みに一定の効果があると考えています。
 12頁です。建設技能労働者のキャリアパスについてということで、考え方を整理したものです。我が国の高度な土木・建築技術を支えているのは、現場にいて実際に働く技術者、技能者の方だと。そういった技術・技能を承継していくためには、中核的な役割を担う若年層の人材を確保して、そういった方を育成していくというのが大事ではないかと考えています。ただし、近年の投資環境の減少で、厳しい経営状況がありますので、個人や個別企業での取組みというのがなかなかできない状況にあるということで、業界として教育訓練、資格取得、処遇をセットにしたキャリアパスを提示していくことが必要ではないかと考えているところです。キャリアパスというのが、左下にありますが、イメージとしましては、見習いから基幹技能者に至るまでの経験年数、現場実績、それに応じて職位ですとか、責任、技能がどんどん高まっていくと、こういった流れの中で育成を考えていかなければならない。真ん中の所にありますが、教育訓練と技能の向上、資格取得、それが生産性の向上につながりまして、賃金と処遇に反映されると、それがモチベーションの向上になって、また教育訓練で腕を磨いていくと、こういった好循環が生まれることによって、夢や希望、誇りを持って働くことのできる環境が作られる、より入職の促進につながると考えています。
 一番右の部分ですが、今申し上げました教育訓練、それに伴うスキル向上という点ですが、企業における自主的取組みとしましてはOJT、実際の現場で指導を受けまして知識を磨いていくとか、職業訓練施設を活用した研修等があります。それから、先ほどお話に出ていました建設雇用改善助成金による教育訓練、雇用改善への取組みの支援ということで助成があります。教育訓練で言いますと、9万人の教育訓練に活用されていたりですとか、雇用改善ですと、2,260の事業主や、172の団体において活用されたりと、非常に人材の育成という面では役に立っている助成金だと考えています。また、こういう助成金を活用しまして、先ほど申し上げました好循環、教育訓練とスキル向上につなげて、生産性の向上につなげていくと、そういった面が国土交通省の実施している業所管、建設業の発展という面からしても非常に大事なのではないかと考えています。個々の労働者に対するものだけではなくて、建設業として、建設業の生産性向上ですとか、持っている役割の発揮という面でも非常に有益なのではないかと考えています。
 13頁です。基幹技能者の確保・育成・活用ということです。基幹技能者制度というのがあります。実際、現場で中核となって働く方を基幹技能者ということで登録していまして、要件は、実務経験が10年以上、職長経験が3年以上、それから、一定の資格を持っている方を登録しています。現在27職種で2万1,770名の方がいます。こういった方を職種ごとに育成・確保していく、現場の中核となる方を確保していくということで取り組んでいます。
 14頁に登録基幹技能者数を載せてありますが、登録制度になったのが平成20年、2年前からですけれども、順次整備し、講習を進めております。講習を受講された方は基幹技能者という位置づけを与えられて、経営事項審査の加点対象になります。また、一部の公共工事では、総合評価方式のときに評価されて加点されるという取組みを進めております。
 15頁ですが、「建設マスター」ということで表彰をしております。優秀な施工者や、ものづくりで活躍している方、あるいは後輩の指導に積極的に当たっている方を毎年国土交通大臣から表彰しております。毎年5月に式典を実施しておりますが、今年は421名の方が建設マスターということで表彰されました。これまでに6,400名の方を顕彰しております。これは建設技能者を目指して頑張った方を表彰することによって、誇りと意欲を増進させるという取組みです。以上が人材の確保・育成についてです。
 最後に国土交通省の成長戦略を、建設業に関連する部分もありますので説明いたします。16頁です。先般政府の「新成長戦略」が閣議決定されましたが、それに先立って5月の時点で、国土交通省の分野でどの辺りが成長戦略として考えられるかということを取りまとめたものです。16頁の下にテーマが5つあります。それが海洋分野、観光立国の推進、オープンスカイ、建設・運輸産業の国際化、住宅都市です。
 17頁では「総論」についてまとめております。将来の安心した国民生活のためには経済成長が必要不可欠であるという認識で成長戦略を策定したところです。考え方としては、中国を初めとするアジア諸国の活力を取り込むことが必要ではないか。あるいは、国交省の管轄サービス産業についてICTや民間の知恵と資金を活用することが必要ではないかということで考えたものです。
 下に5つの対象分野があります。それぞれ関連する部分もありますが、特に建設業に大きく関連するのは、1つが「国際展開・官民連携分野」、もう1つが「住宅・都市分野」の部分です。
 18頁に「国際・官民連携分野」ということで掲げてあります。いちばん上に、将来目指す姿ということで、日本の建設産業が持っている技術は世界的に見ても非常に優れたものであると考えておりまして、海外へ進出する日本企業への支援を行っていく必要がある。それから、右の真ん中の中段にありますが、インフラ整備や維持管理について、民間の資金やノウハウを活用していくことが必要ではないかと考えております。
 19頁は「住宅・都市分野」で、1つが国際都市間競争です。ほかの国の都市と競争が行われている状況にあり、そういった競争に打ち勝って日本の都市が世界のイノベーションセンターに発展していくことが必要ではないか。2つ目が、地域のポテンシャルを引き出してサステナブルな地域・都市経営を実現する。例えば、まちなか居住・コンパクトシティへの誘導です。そして3つ目が、住宅・建築投資の活性化・ストックの再生です。住宅都市の活性化やリフォームの支援、あるいは高齢者が安心して住まうことができる場の確保、環境にやさしい住宅・建築物の整備、こういったものが成長分野として考えられて、これらの分野で建設業が果たす貢献度が非常に高いと考えております。3つ目は成長分野、建設業を取り巻く状況についての説明でした。私の説明は以上です。
○征矢座長 どうもありがとうございました。せっかくの機会でもありますので、ただいまのご説明について、質問等がありましたらお願いいたします。
○古市委員 丁寧なご説明をいただき、ありがとうございました。今御説明いただいた資料の7頁で1つ質問があります。建設技能労働者の就労状況等に関する調査をやっているという話でしたので、どういう調査なのかを教えていただきたいのです。
 あとは2つ意見を申し上げます。賃金水準が書いてありまして、建設業は401万円ということで赤で表示されております。これは厚生労働省の賃金構造基本統計調査から推計したということになっておりますが、この調査は10人以上雇用されている企業を調べたものです。同じ表に「技能労働者の94%は下請企業」という表現が書かれています。ここには述語がありませんが、下請企業で働いているということだろうと、下請企業に雇用されているとは書いてありませんので。
 私どもは、技能労働者12万人の賃金を毎年調査しているのですが、それによりますと、年収は320万円をちょっと欠けるというのが平均です。建設労働者は雇用されずに働いている人が非常にたくさんおります。10人以上雇用されているというのは、建設業でいうと相当立派な会社ばかりです。そこが約401万円なのです。私は中央建設業審議会でも同じ意見を申し上げたのですが、こういうふうに表現されても、こんなに高くないというのが実態だと思いますので、是非そういうことについて認識していただければありがたいと思います。
 もう1つ意見を申し上げます。これは建設市場整備課の仕事なので申し上げるのですが、先ほどのご説明の中で、訓練をしてスキルをアップして、賃金を上げて好循環を作り出していくのだということでした。それができれば大変結構なのですが、建設業は賃金が安いということが一番問題になっているわけです。賃金が安いということの非常に大きい理由は、公共工事の設計労務単価の仕組みが、建設投資がどんどん増えている時に適合した仕組みになっているからなのです。建設投資がどんどん減っている今適合した仕組みになっていないのです。2008年まで12年間連続して設計労務単価が下落しました。それで、これではいけないということで設計労務単価の見直し検討会が行われて、業界の皆さん、才賀さんたちと一緒に議論をして、業界とも、現場労働者とも意見が一致して、この仕組みを見直してくれということだったのですが、残念ながら国土交通省は「わかりました、見直しましょう」ということにならなかったのです。2009年はそういう会議をやったのでかろうじてゼロ、下がらなかったのですが、2010年からまた下がり始めた。
 これはどうしてかというと、仕組みが悪いのです。要するに、建設投資が減っていくときは現場の実態の賃金を調べると下がりますから、それを基にして翌年の設計労務単価を決める。そうすると、毎年下がっていく、それは仕組みとして下がっていくわけです。建設投資が増えていくときはその方式が有効に機能していたのですが、建設投資が下がっている時は有効に機能しない。要するに、設計労務単価そのものが建設現場の賃金を引き下げる役割を大きく担っているわけで、是非そこは改善をしてほしいと思います。質問を1つと意見を2つ言いました。
○国土交通省中村補佐 最初の質問についてお答えいたします。就労状況調査がどういうものかということです。これは3年に1回の調査で、直近では平成20年度に調査をしております。アンケート調査で、全数調査ではありませんが、大体1万人の建設技能労働者にアンケートを取りまして、年齢階層、どういった立場にあるか、職長がどういった立場にあって、1次下請、2次下請、3次下請、どの部分で多いか、あとは一人親方の年齢階層、保有している資格、賃金の支給方法といった労働条件に関わる部分もございます。それから、高年齢者(55歳以上)の方の勤労意識、今後就労年数をどれぐらい希望するか、あるいは教育訓練の実施状況、どれくらい教育訓練を受けているか、どういった内容の訓練が必要と考えているか、あるいは基幹技能者の活用状況、どういった点が優れていると考えられているか、どういうふうに認知されているか、そういったことを調査したものです。
 2つ目の部分については、確かに、賃金の平均については10人以上の事業所の部分しか数字がなかったので、今回はその辺りしか出せませんでした。そういった点があるということで、ご了承いただきたいと思うのですが、これが全部の事業所だとは考えておりません。10人以下の事業所の数字が分からなかったところです。
 最後に、設計労務単価ですが、ご指摘のあったような問題点は他でもご意見をいただいています。設計労務単価が、実際に支払われる賃金を拘束するものではないのですが、ただ、適正な調査を行って価格をしっかり把握していくことは必要だと考えております。
○征矢座長 ほかにはいかがですか。
○柴田委員 疑問や意見がたくさん出てきてしまったのですが、限りがあるので1つだけお聞きした上で意見を言わせていただます。基幹技能者の登録状況とありますが、これは講習会を受講したら、もらえてしまうということなのですか。
○国土交通省中村補佐 そうです。もともと受講資格があって、10年以上働いているとか、職長経験3年以上、また、管理技士等一定の資格を持っている人が講習を受ける。試験もございますが、そういったものをパスしますと、登録基幹技能者として認められるという形になっております。
○柴田委員 厚労省でやっている技能検定、それから外国人労働者の話で、教育のためにどうしたらいいかというところで、外国人用のテキストを作っているところに居合わせたことがあったのですが、そうなると、事業仕分けではないのですが、厚労省がやっている技能士、それから、こちらでやっている技能者。一方で、技能検定の内容自体も全然時代に合っていないではないかという業界からのご批判もあって、1級技能士とか、2級・3級の技能士があるようですが、それぞれが別々のものをこんなにやっている。片や、資格を見ながら一応登録するということをやっている。一方で技能検定があって、それと連携する形をとりながらも、実はちょっと時代遅れの研修をしているというのがあるというと、効率的、効果的にお金が教育訓練に使われていないのではないかという疑問を持つ人がいるような気がするのです。私は実態を知らないので、実はそうではないかもしれないのですが。最初に申し上げたように、建物を作るとか、土木工事をきちんとしたものにしていくということは人命にも深く関わりがあって、大変重要な業務を担っているのです。だから、そこにいる方はきちんとした方であってほしいと消費者も思うし、それを雇う一番上の人、請負会社を頼むというときも、やはり品質の良いところを選びたいと考えたら、きちんとした教育をされた者がきちんとした認定を受ける。それも複雑ではない。これは厚労省でやっていて、これは国交省でやっているとかというのではなくて、JISマークではありませんが、誰にでもわかるような形、あるいは業者の方にわかる。それから、入札方式の中でも、その人たちが入っていたら、最低限これだけの金額はキープできるというような形で、技術や技能を尊重するというやり方をどこかでやっていかないと、何となく安いほうにばかり行って、安かろう、悪かろうみたいな状態で、国民も不安な状態になってしまうという感じがものすごくすると感じましたので、皆さんの力でそれを何とかしていただきたいと思います。他にもいろいろあるのですが、それだけは特に強く感じましたので、意見として言わせていただきました。
○松本室長 そうですね、行政事業レビューでも、どのような訓練が、どのような種類で、どのくらいの回数必要なのかという議論が出て、その試算も説明はしたのですが、それが理解いただけるように私どもが説明できなかったということもあります。今後のあり方検討の中で、技術士なり技能士の所管の話もあるわけですが、訓練のあり方も、業のあり方も、雇用施策のあり方も、まさにゼロベース、という表現は悪いのですが、そういった点はきちんと見直しをしていきたいと思います。ご意見をありがとうございました。
○柴田委員 多品種小ロットというか、基礎のところや枠組みのところは随分いろいろに分かれているということがこの前勉強して分かりました。一遍に回数とか内容と言っても、それを説明するのはすごく難しいような気がするので、こんなに違うんだとバーンと出せるものを何か国交省と一緒に用意されたらいいのではないかという気がします。
○才賀委員 我々建設業界をあずかっている者として、業行政の中で「資格」が多すぎるのです。その資格が縦割行政なものですから、こちらの省庁はいいけれど、こちらは使えませんというようなことになってくるので、個人の能力を上げるためにいろいろな資格をとらないとやっていけない、というのが現状かなと思います。
 基幹技能者についても、今までは技能・技術だけでよかったのですが、これからは、ゼネコンがやっている仕事を我々が施工、品質、そういうものを全部受けてやらなければならない。今までは労働者だけ出して経営だけしていればよかったのですが、その辺が変わってきているのです。要するに、現場で職長を教育していかなければいけないかなということで基幹技能者制度を作ったのですが、それと同時に、基幹技能者の年収を国で決めていただければと。そうすれば、きちんとゼネコンも積算の中に入れてくれるのではないかなという希望もあるのです。そんなことを考えています。
○加藤委員 教えていただきたいのですが、資料の7頁の「建設労働者に関する取組み」の左側の真ん中辺りで、中核を担う人材の確保・育成、技能承継が課題。また左側の一番下に、コア技能者の直接雇用の推進云々ということがありまして、右側に、その政策として「人材の確保・育成」として?@~?Bまで、「労働環境の改善」ということで?@~?Aまで載っているのです。そして一番右側に、技能労働者の処遇改善とあります。これを見ると、建設雇用改善助成金とまるっきりリンクしているような感じがするのですが、国交省も、雇用助成金については支持ということでよろしいのですか。
○国土交通省中村補佐 国土交通省としては、建設業の生産性向上が必要不可欠で、それには、そこで働いている人材の育成が必要であり、それを何らかの形で支援していくというのは非常に大事なことだと考えております。
○征矢座長 時間もまいりましたので、次の説明に移らせていただきます。引き続き建設経済研究所の丸谷理事にご説明をお願いいたしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○建設経済研究所丸谷理事 資料3で説明いたしますが、その前に、簡単に自己紹介をいたします。私は6~8年前に国土交通省の労働資材対策室長を務めておりました。これから、建設経済研究所の立場でわりとドライな話をいたしますが、基本的には、こちらにご参加の方々の一部には従来からお世話になっておりましたし、一定程度建設労働についてのシンパであるということはご理解いただきたいと思うのです。しかし、現在は国土交通省から離れて財団法人の立場になっておりますので、国土交通省の施策に対する疑問のようなものも入り込むところはあります。実は、身分はまだ国土交通省にありますが、立場はそのようなことでお話を申し上げたいと思っております。
 資料3で説明いたします。これは国土交通省の長期的な投資推計の、名目値ではなくて実質値です。私どもは、長期を見る時には当然実質で見ることが必要だと思っていますが、現在こういった状況になっているのはご案内のとおりです。
 建設投資がいろいろ議論になっておりますが、建設業に対するイメージが、最近の数字に基づくものではなくて、バブル直後の政府建設投資がかなり大きい時の状況のイメージを引きずったまま、建設産業の議論がなされているのではないかと考えられてならないのです。今回、国土交通省が2010年度の数字を出しましたが、それが過去のいつの時代の額と同程度なのかということを踏まえて議論がなされれば、建設産業は衰退産業などと言っている場合ではなく、消滅するかもしれない。特に、地域ベースで必要な建設業がいなくなったらどうなるかという議論を本来しなければいけない時期になっている。にも関わらず、建設産業は衰退産業でもっと減らせばいいのだというようなことになっている、そんな感じがしてなりません。
 公共事業予算は、小泉構造改革の時以来ずっとシーリング3%減できたわけですが、当時は、バブル以前の状況に公共投資額を戻せというのことが基本的な方向だったわけです。バブルというのは大体80年代最後ですので、どう見ても、80年代の中頃以前の水準というのがバブル以前の水準です。これは実質値で、名目値ではありませんので注意が必要ですが、それよりはるかに下回るような状況に現在なっているにも関わらず、もっと減らせばいいというような議論が行われていること自体が、きちんと認識されていない。要するに、時間的な意味で政策決定者と政策評価者の方々に認識のタイムラグがあると言うべきではないかと思っております。
次の頁は名目値ですが、2009年度、2010年度と非常に厳しい状況になっております。
 私どもは2011年度の投資見通しをこの月末に出すことにしております。そこでは、民間の投資が回復しますので40兆円を超える数字が維持されるだろうと思いますが、政府部門はかなり減ります。2009年度には補正予算で政府部門が建設投資を支え何とか頑張ったわけです。2010年度は民間投資が若干回復する。2011年度もさらに回復すると見ています。逆に言えば、民間が2010年度の水準を2011年度が超えていかないと、2010年度以上の建設投資の数字にはならないということです。
国土交通大臣が、2011年度は、公共事業関係費は減らせない、減らさないと言っておられますが、シーリングを超えた特別枠の要求は国の財政事情が改善しないので削るということになると、所管大臣の方針が維持されるかどうかさえすでに疑問視されている状況です。しかし、私どもは、その懸念は今回2011年度予測には盛り込まないつもりで、2010年度と同じ政府予算があると仮定するつもりですが、実はそれでも政府の投資は減ります。なぜかと言いますと、2009年から2010年には少なくとも通常の年度よりは繰越しが多かったからです。その繰越しが2010年から2011年度については平年度以下になると思いますので、政府投資は、公共事業関係費が維持されたとしても減少します。そして、さらにシーリング分が特別枠でで取り戻せなければ、もっと政府建設投資が足を引っ張りますので、民間投資がいくら増えても、2010年度を大きく上回ることは期待できないと言わざるを得ない。そういう状況であると説明したいわけです。
 政府建設投資の数字を、三大都市圏と地方圏に分けて比較しました。三大都市圏と分けるよりも、本当は三大都市圏から山梨や長野、それから和歌山を排除するというような方法がよりよいのですが、国土交通省の数字はそれができませんので、修正せずに出しました。地方圏が一貫して減っているということが分かっていただけると思います。一方で、三大都市圏は、経済の基調が悪くなると落ちて、ある程度経済がいいと横ばいに推移していることが分かっていただけると思います。
 もう1つ見ていただきたいのは、90年、91年ぐらい、ちょうどバブル経済の辺りから後において、地方圏の政府建設投資が増えているということです。バブル経済の後に増えた後、96年を境に減少しているわけです。民間建設投資は、バブルの崩壊後にこういった形で投資が減っています。
建設業の就業者比率を示した図ですが、就業者数は、左軸に青線で書いてあります。最近は景気の状況あるいは高齢化の問題等で、若干、足下が減少しておりますが、基本的には横ばい基調です。建設業の就業者の比率は、赤で示してあるように8%ぐらいです。ところで8%で止まるかどうかについては、おそらく、このままでは止まらない。ちなみに、例えば、北海道でこういう話をすると、我々建設業は雇用を必死になって維持しているのに、何で就業者数がもっと下がるというドライな話ができるのだと言われて怒られますが、怒られても、こういう数字を見て、これだけ建設投資が減ってきたのに、まだ8%も建設業就業者がいるのはおかしいのではないかと、まず考えなければいけないわけです。
 5頁を見てください。これは国交省の資料にもあったものですが、投資額と就業者数の数字です。就業者数の調整はかなり遅れている状況です。就業者数の説明変数は何で説明しやすいかというと、建築の投資が比率は多いのですが、土木の投資の変動の方が、説明力があります。地方圏ではバブルの後に投資額が若干増えたと先ほど申しましたが、就業者数の変動は地方圏の建設投資に近い形で動いています。地方圏の雇用を支えた一方で、地方圏の投資が減ってくると、ずるずると減らざるを得ない形になります。いずれにしても、投資額も雇用者数もグラフの下の数字を0に合わせてあります。直感的に言えばこの比率イメージです。減少はまだまだあるということになりそうです。
 6頁では、これらを比率で見ています。青の数字は、建設投資額がGDPに占める比率ですが、一時は25%に達したときもあるのです。これは列島改造論の時期です。現状ではすでに10%を切っております。この水準は、現在の新興国の水準よりもはるかに下がっておりますし、先進国水準の平均よりとは言いませんが、一部の先進国より下回る場合もあるレベルになっております。
 就業者の比率と比べると、建設業界は、生産額の比率の方がずっと上回っていたのですが、その後、ほとんど一緒になってきました。建設業は機械設備を投入する産業であり、いわゆる人手だけの産業ではないはずなのに、こういったほとんど一緒のレベルになっています。そこで、今後、赤い就業者比率の線が下の方に行かないと均衡がとれないのではないか、と思える状況です。
 7頁は建設業就業者1人当たりの建設投資額ですが、実質を取るとこのような形になっています。労務単価の減少が低下の理由ではないかという話もありますが、建設投資額は売上げに近く、1人当たりの売上げと近い概念です。それがこれだけ下がってきているのです。しかし、この数字が下がるといっても、よく考えると長くは下がれないわけです。1人当たりの投資額が減るということは、1人当たりの売上げが少なくなるので、永遠に下がっていくと企業経営ができないことになってしまいます。現状は、雇用調整の先送りと感じざるを得ない状況ですので、皆様方がいかに雇用維持に御苦労されているかは分かってはいるのですが、グラフを見る限り、今後しばらくの間は、建設労働者は減少せざるをえないだろう、とドライに見るしかありません。それを前提に政策を立案していかないと、どうしようもないだろうと感じています。
 就業者数の推計としては、私共はタイムラグを考慮したモデル推計もやっていますが、今回は非常にシンプルなものを提示します。1つ目の2009年度の数字は、前の頁のグラフでは788万円でした。2010年度については、1人当たりの建設投資額がトレンドに沿ってもっと下がらず固定されたら487万人まで減ると予測されます。ここで、暦年の就業者数と年度の建設投資額の見通しを使っているのでご注意いただきたいのですが、1年間に30万人減るということになります。対前年で517万人に減った2009年の20万人減より1.5倍減ってしまいます。では、もうマイルドな仮定にして、トレンドに沿って一人当たり投資額をもう少し下げるのを許容すると22万人減る。それでも2009年度の20万人減を上回るものになります。つまり、就業者数が多く減らなければ、1人当たり投資額がもっと減ることになります。こういったことを考えると、ここしばらくの間、雇用調整の圧力は相当あるのではないかと思います。
 ただ、投資額の変動と就業者数の変動は、数十年レベルで長期的に見ると、タイムラグが2年から1年半あります。ところが、減少局面の90年代半ばぐらいからにみを見ると、このタイムラグは短くなってきて、1年半から1年ぐらいになっています。そして、最近の517万人に減ったという事実は、このタイムラグがかなりまた短くなっていきた状況なのかもしれません。今後、建設投資は減っていく、横ばい、という話になると、これはここ数年は、非常に大きな就業者数の減少を前提にしなければならないと思われます。
 一方で、建設業就業者の年齢構成はどうか。9頁の数字ですが、私どもは2010年度の国勢調査の結果を心待ちにしていま。現在、使えるのは2005年の数字です。就業者の統計は毎年のものでは都道府県ごとまでは出ないので、国勢調査をみると確実に地域ごとの就業者数を把握できます。図は、地方ブロック別に分解して年齢構成を把握し、2000年から2005年の各年齢構成の増減率を延長する方法、これをコーホート法と言うのですが、この方法によって2010年度以降を推計しました。全国一本でやったのではなく、地方ブロック別に推計したものを合計していますので、かなり緻密な分析となっています。
 このグラフで山は2つあり、現在いちばん大きい山は55~64歳のところです。60代を過ぎたということで、2005年の実数から大きく減少しています。この高齢層について仕事がなくなってくると一気にやめるのではないか。また、35~39歳のところに2番目の山があり、おそらく、バブルの時期に入職された山です。それより若年の数字は極めて低く、2005年の水準が変わらずに引っ張られていくと仮定するとどうなるか。結果は、2020年になるとその低い水準が35~39歳まで続くという深刻な状況になることが分かります。
 私どもは、この分析を2010年の数字を使って是非更新したいと思っています。年齢構成がどうなるかがより確かに推測できます。若年層の入職増の必要性がどのくらいかもより確かにわかるでしょう。
また、就業者が過剰な状態が続く中で建設投資額が減ってしまうと、高齢者がドンと減る。これが何を意味するかというと、勤退共制度もありますので退職金もある程度は入るかもしれませんが、一般論として、建設業の高齢層の人たちが社会福祉対象、つまり生活保護対象になるリスクを国全体で考えなければならなくなります。そして、更に労働者数が余剰になると、どの年齢層も全体が下がるという状況になってくると見られます。
 中長期的な投資推計について考え方のポイントをまとめてみました。現在のところ中長期的な投資推計は不可能というのが私どもの見方です。なぜかというと、1つ目は、政府が長期的な社会資本整備計画を発表しなくなってしまいました。前回数年前に私どもから発表した中長期見通しは、政府の投資についての一般的な将来の見方がある程度は推察できたわけですが、今後はわかりません。例えば、公共事業関係費について1年に18.3%も減らした後、来年度は減らさないと言っているが、本当に減らさないかどうか分からない。長期的なフレームとしても決まっていませんので、今日のタイミングで我々は何も言えないのです。財政状況は、少なくとも消費税等の増税がないと投資余力の推察がつかない状況で、これも分からない。そこで、政府建設投資の中長期的な将来推計は、誰にもできないだろうと考えております。
 民間投資については、現在経済は回復していますが、景気回復が始まって建設投資に火がつくまでに1年から2年程度ラグがあります。状況によって違いますが。現在、景気はすでに回復基調にあると言っても、民間建設投資は、ようやくこれから火がつくかどうかという状況です。しかし、円高で、輸出産業が国内に投資するか、海外に投資すか今非常に大きな問題になっています。また、投資条件の内外格差、主に法人税と言われていますが、こういったものもどうなるかによって、国内の建設投資になるかどうか決まります。私どもが建設会社や民間の一般企業の方から話を聞く中でも、投資は国外ではないかという議論がかなり強いということを肌で感じております。
 住宅着工につきましては、100万戸を下回っていて、今年度も90万戸にいくかいかないか程度です。昨年度は80万戸台の中頃でしたが、私どもとしては、年間100万戸を上回ることはもうないだろうと見ております。このような状況で、将来について明るい材料を投資の面から申し上げることは全くできないです。
 今後、建設業はどちらの方向に向いていくかということですが、まず、国土交通省には恐縮なのですが、新分野進出による雇用対策の量的効果は、我々からすると見えません。いろいろな努力をされていることはわかりますし、その成功例はいくつかあることも把握していますが、量的効果として1割をこれが担うといったような積算ができる根拠がまだ見出せないということです。ただし、新分野といっても、建設業内のものは別です。今申し上げたのは、建設業から出て農業、林業、あるいは観光や福祉、そういったところに対してです。先程申し上げたように、1年に建設業就業者は20万人減ります。その20万人分をどこかに引き受けてもらう有力な先というのは、建設業外にはまだ見出すことができないだろうというのが我々の見方です。これが変わることを祈りながらも、現状はこの様に分析せざるを得ないと思っています。雇用の調整の時間が必要なのが明らかです。ソフトランディングさせたいですが、18.3%減らしてしまったのでハードランディングさせるのか、それが今後どうなるかということの問題です。
 海外進出の雇用対策効果は極めて限定的です。建設産業の生産高を維持するためには海外に出ていただくことが有力です。私もシンガポールの駐在経験、それから国際的な建設業の交渉に携わった経験もあり、海外で成功するためには、日本人を多く連れていかないことが基本的な条件です。人件費が全く違います。日本の給与水準の中で、建設業の雇用者、労働者が低いといっても、海外では、例えばシンガポール、香港のようなところでさえ、外国人労働者が担っています。つまり、ミャンマーやバングラデッシュから人を連れてくるという産業ですので、海外に日本から人を連れていって太刀打ちできるかといえば20年前から不可能であった、とわかっています。ホワイトカラーの方々が海外出るのも、なるべく減らしていかないとコスト的に駄目だということが常識なので、基本的には、雇用調整の問題で海外進出に期待する人は少数と考えていただいて結構だと思います。
 ということでどうなるかといいいますと、新設から維持更新へという流れ、『国土交通白書』におきましても、公共投資については新設をする余地が2030年代にはなくなってくるという状況を指摘しています。建築投資につきましても、新築住宅が100万戸割れは確実であると申し上げたとおりで、今後は維持更新についての需要が、比率としては圧倒的に高まるということです。私どもは、地方部で新設の公共土木に依存していた地域経済の構造は、このままではさらに厳しさが増すと考えています。
 今年度、政府が公共事業関係費を前年度比18.3%減少させましたが、地方がどのくらい地方単独事業を減らしたかというと、実は数パーセントしか減らしませんでした。地方政府は国に付き合って、すなわち民主党政権の方針に付き合って地方単独を減らすのではないかと、当初、総務省は15%減らす見通しを立てたのですが、フタを開けてみたら、昨年度から3%ぐらいしか減らしていません。ただ、国の補助金が減ったわけですから、その裏負担も減ります。つまり、補助金をもらうと3分の1とか2分の1は地方が自分のお金を付けて補助事業が実施できる仕組みで、その補助裏が浮くわけです。それを全部地方単独に回して前年度比で増やしてくれればよかったのですが、増やしてはいない状況です。地方が地域経済を守るために投資を減らさない努力は見られるものの、補助裏を地方単独の建設投資にすべて回すほど財政状況は良くない。ですから、今後、公共投資を国ほど減らすかどうかは分かりませんが、地方も財政状況が非常に苦しいので、新設投資は今後非常に絞られてくるでしょう。
最終的には何が残るかというと、地方の建設業については維持補修関係。土木にも当てはまることです。さらに、先ほどから議論になっている防災の機能です。ただし、防災で儲けることができるかというと、基本的には無理な状況が多いと思いますが。
建設経済研究所としては、維持補修投資に地域の建設業が向きあい、地域の維持補修の担い手として我々が必要だと積極的に主張する。同時に、いざというときの防災に必要な地域の建設業を残すべきだと主張することが有効ではないかと考えています。逆に言えば、それしかできないのではないかということです。積み上げの発想で減少していく建設投資に歯止めをかけ、これだけは絶対不可欠という議論をしていこうということです。今年5月に発表いたしました「建設経済レポート」においても、地方公共団体、特に県、政令市に対するアンケート調査で「防災力のある建設業に対する期待」について取りあげたところであり、そういったところをいかにPRしていくかという発想です。
 余談になって恐縮ですが、私は防災の専門家です。建設業の防災力を客観的に測るという取組みを、関東地方整備局及び四国地方整備局でやっています。これは、災害時の基礎的事業継続力認定制度といい、昨年度から始めています。災害時に、例えば自分たちが施工している現場に12時間以内にすべて行けるか、さらに、1日以内に災害現場に行って、元請と主要な下請の人たちがどういう対応をすればいいか検討できる体制を築いているかなどを確認します。地震時には携帯電話も普通の電話も1週間ぐらいかかりにくいことは常識になっていますが、携帯メールでも連絡がとり合えるように専門工事業と連携がとれているかどうか等も含め、BCP(事業継続計画)という観点から認定制度を始めています。認定を受けると、一般競争入札の総合評価で1点の加点になります。
 防災力を持っているか持っていないかは客観的に評価しにくいという意見が従来あったのですが、ある程度の工夫をすれば、防災力のある企業と防災では頼りにならない企業の判定はつくものだと思っています。そこで、防災力のある企業が生き残るべき、という判断はあり得るわけです。
また、地域の建設企業が組合をつくり、そこに公共投資をある程度優先的に配分するという発想は、すでに国土交通省の資料の中にもあります。大規模な国際競争に付すべき建設工事は別ですが、それ以外の地域の建設工事は必要な建設業を生き残らせるために使うといった発想をもっと強めることはできないか。コストを下げることはかなり限界まで実現したと思いますので、今度は、ある程度の仕事は安定的に与える形にして、必要な建設企業を残すという時代にすでに入りかけているのではないかという意見を私個人は持っています。安定的な仕事ができる企業でなければ、当然就職したくもありません。
それから、防災力のある企業とない企業がごっちゃになっていると、防災へ貢献できるのが建設産業だというプライドも持つことができないのです。国土交通省からきちんと「防災力がある」という認定を受けた企業について、選別して残すという余地はあるはずです
 最後にもう1つ、下から2つ目の○です。建築物件などについては顧客管理をしっかりする。つまり、自分の作った物件について、維持管理や更新で顧客を囲い込むという流れです。これは他の産業では当然やっているわけです。例えば、最近ではお坊さんが自分の所にお墓を持っている人に、「今回は十三回忌ですよ。忘れないでやりましょう」というようなことを言う。そういったことを提案できる業種が建設業の中にもようやく出てきているのです。そういった形の自助努力によって、維持補修を自分の仕事としてきちんと管理することを、私どものレポートで提案したところです。微々たるものではありますが、こういった形で、まず自分たちで生き残っていただくということを1つ提案できるのではないかと思っております。
あとは、公共投資が下がっている中で、いかに若者の雇用を確保するかについては、ご議論のあったとおりだという認識でございます。
○征矢座長 どうもありがとうございました。ただいまの説明に対しましてご質問、ご意見等がありましたら伺います。
○白木委員 最後のところのご提案で、ストック管理の発想ですね。これは要するに建設業界だけが建設業界という形でまとまるのではなくて、不動産業界と十分に組んだ上でやっていくという、業界の再編成のようなことを提案されているという解釈でよろしいのですか。
○建設経済研究所丸谷理事 それも含みます。ただ、不動産会社と組まなくても、施工物件の図面管理をして自分で受注することもあるかと思っております。
○白木委員 メーカー的な発想ですね。メーカーは、すでにやっています。
○征矢座長 ほかにはいかがですか。ないようですので、事務局から、今後の予定などについてお話いただきます。
○松本室長 今回は国交省、それから建設経済研究所にお話を賜りましてありがとうございました。次回は訓練機関からのお話をいただきたいと思っておりまして、雇用能力開発機構、それから富士教育訓練センターからお話をいただきたいと思っております。日程調整は追って個別にさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
○征矢座長 本日は以上をもって委員会を終了させていただきます。本日の会合に関する議事録の署名委員として、労働者代表は古市委員、使用者代表は加藤委員とさせていただいております。よろしくお願いいたします。本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。


(了)
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職業安定局建設・港湾対策室建設労働係

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