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2010年10月15日 第1回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会 議事録

労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室

○日時

平成22年10月15日(金)9:00〜11:00


○場所

厚生労働省共用第9会議室(中央合同庁舎5号館19階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号)


○出席者

(参集者:五十音順、敬称略)

阿部未央、荒井稔、岡崎祐士、織英子、黒木宣夫、清水栄司、鈴木庄亮、山口浩一郎、良永彌太郎

(厚生労働省:事務局)

尾澤英夫、河合智則、神保裕臣、渡辺輝生、幡野一成、板垣正

○議事

○板垣中央職業病認定調査官 初めに、本検討会は原則公開としておりますが、傍聴される方におかれましては、別途配布しております留意事項をよくお読みの上、会議の間はこれらの事項を守って傍聴いただくようお願い申し上げます。
 定刻になりましたので、ただいまから第1回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を開催いたします。先生方におかれましては、ご多忙中のところご出席いただきまして誠にありがとうございます。
 会議を始めるに当たり、事務局から資料の確認をさせていただきます。本日ご用意した資料は、資料1「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」開催要綱、資料2「精神障害等の労災補償状況」、資料3「精神障害等の労災認定に関する審査請求・訴訟の状況」、資料4「誰もが安心して生きられる、温かい社会づくりを目指して」、資料5「精神障害等の労災認定に関する関係法令」、資料6「精神障害等の労災認定に関する関係通達」、資料7「ICD-10第5章 精神及び行動の障害」、資料8-1「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」、資料8-2「職場における心理的負荷評価表の見直し等に関する検討会報告書」、資料9「団体からの意見要望」、資料10「精神障害の労災認定の現状と論点の考え方」、資料11「精神障害の成因について」、資料12「精神障害の成因等に関する最近の裁判例」となっております。資料の欠落等ございましたらお申し出ください。
 議事に入る前に、本日の検討会出席メンバーのご紹介をさせていただきます。50音順で申し上げます。山形大学人文学部法経政策学科講師の阿部先生です。日本私立学校振興・共済事業団東京臨海病院メンタルクリニック部長の荒井先生です。東京都立松沢病院院長の岡崎先生です。弁護士で信州大学大学院法曹法務研究科講師の織先生です。東邦大学医療センター佐倉病院精神神経医学研究室教授の黒木先生です。千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学教授の清水先生です。群馬大学名誉教授の鈴木先生です。上智大学名誉教授の山口先生です。熊本学園大学社会福祉学部特任教授の良永先生です。
 それでは、開催に当たり、事務局を代表して労災補償部長の尾澤よりご挨拶申し上げます。
○尾澤労災補償部長 皆様、おはようございます。本日は、この精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会に大変朝早くよりお集まりいただきまして、ありがとうございます。また、日ごろより私ども労働基準行政、就中、労災補償行政の推進に当たりまして温かいご支援をいただいておりますことを、改めて御礼申し上げたいと思っております。
 さて、精神障害、自殺等に関する問題について、現在大変大きな問題となっており、私どもとしましても政府を挙げて取り組んでいるところです。こうした中で、業務による心理的負荷を原因とした精神障害の問題について、この労災認定は平成11年9月に策定した「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」により、現在業務上外の判断を行っております。これにより労災認定した労災補償の状況ですが、平成10年度においては年間で42件であったものが、平成21年度には約27倍の1,136件という状況になっておりまして、今後ともこうした高い水準が続くものかと考えております。
 また、精神障害の労災認定に当たっての審査に係る期間ですが、現在平均で約8.7か月という非常に長い期間を要しております。こうした中で、先ほど申しましたように、政府を挙げて精神障害等の問題について取り組んでいる中で、労災に係る認定についてより迅速に行う必要があるということが、現在大きな課題になっております。このため、私どもとしましては現在さまざまな取組みにおいて認定の迅速化に努めているところですが、さらに専門的な見地から、どのような形でこれを進めていけばより迅速な認定に結び付けることができるかということで、本検討会を開催したところです。
 本検討会におきましては、先ほどご紹介しましたが、労災認定の基準に関しての法学、医学等々の専門的な見地から皆様にお集まりいただいているところです。本検討会の開催趣旨を十分にご理解いただきながら、忌憚のない活発なご議論、ご検討を賜りますようお願い申し上げたいと思います。簡単ではございますが、第1回目の検討に当たりまして冒頭のご挨拶を申し上げさせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
○板垣中央職業病認定調査官 ここで、本検討会の庶務を務める事務局をご紹介します。ただいまご挨拶を申し上げました労災補償部長の尾澤です。補償課長の河合です。職業病認定対策室長の渡辺です。補償課長補佐の神保です。職業病認定対策室長補佐の幡野です。中央職業病認定調査官の板垣でございます。よろしくお願いします。
 続いて、本検討会の座長についてお諮りします。お手元の開催要綱に従い、座長は互選によりお願いしたいと思います。どなたかご推薦等ございますか。
○黒木先生 岡崎先生を推薦します。
○板垣中央職業病認定調査官 それでは、岡崎先生に座長をお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。
(異議なし)
○板垣中央職業病認定調査官 ありがとうございました。皆様のご賛同を得ましたので、岡崎先生におかれましては、座長席にお移りいただきたいと思います。座長に一言ご挨拶いただいたのち、以降の議事運営をお願いします。
○岡崎座長 岡崎でございます。ご推挙いただきまして引き受けることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
 先ほど労災補償部長からお話がありましたが、本検討会は精神障害の労災認定の迅速化、効率化を目的にしており、法律の専門の先生方、医学の専門の先生方にご意見を賜り、そのために資するような改善策を検討するということが目的になっておりますので、どうぞご専門の立場から忌憚のないご意見を賜りまして、所期の成果が得られますように、どうぞよろしくお願いしたいと思います。力不足で申し訳ございませんが、先生方のお力を借りながら進めさせていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
○板垣中央職業病認定調査官 ありがとうございました。写真撮影等は以上とさせていただきますので、ご協力をお願いいたします。なお、尾澤労災補償部長については、公務により9時半ごろ中座させていただきます。あらかじめお詫び申し上げます。
○岡崎座長 それでは、進めてまいります。資料が用意されておりますが、事務局から資料の説明をお願いします。
○幡野職業病認定対策室長補佐 資料として1から12まで用意しておりますが、1〜9については今後の各回共通の資料です。まず、この検討会の趣旨・目的等を含めて1〜9をご説明したいと考えております。
 資料1ですが、これは本検討会の開催要項です。先ほど座長からもご発言がありましたとおりの趣旨ですが、再度確認ということで、ここでは趣旨・目的を読み上げます。
 業務による心理的負荷を原因とする精神障害については、平成11年9月に策定した「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(以下「判断指針」という)に基づき労災認定を行っているところであるが、この労災請求件数については、平成10年度においては42件であったものが、平成21年度には1,136件に達するとともに、今後も増加が見込まれる状況にある。このような状況の下で、精神障害の事案の審査には平均して約8.7か月の期間を要し、また、その審査に当たり行政においては莫大な事務量を費しているところである。一方、精神障害の事案に対する早期の労災認定は、厚生労働省の自殺・うつ病等への対策の一環としても位置づけられる等、労災請求に対する審査の迅速化を進めることが不可欠となっている。そこで、厚生労働省労働基準局労災補償部長が労働者災害補償保険法等に精通した専門家に参集を求め、審査の迅速化や効率化を図るための労災認定の基準に関して検討を行うこととする、とされております。
 続きまして、資料2ですが、「精神障害等の労災補償状況」です。実態としてどのような形であるのかをご説明します。1番目ですが、精神障害等の労災補償状況です。この判断指針が策定されたのは平成11年度ですが、平成10年度は42件の請求がありました。発出した年度である平成11年度で155件、平成12年度で212件と増加し、その後平成20年度を除く各年度において、前年度に比べ増加しており、平成21年度には1,000件を超えて1,136件であったという状況にあります。一方、決定件数は平成14年度から増加し、平成19年以降は800件台で推移している状況です。支給決定件数は平成18年度以降200件台で推移しており、認定率は平成14年度以降30%前後で推移している状況にあります。本年度の状況ですが、8月末の段階での全国の請求件数は、速報ですが506件ということで、前年度同期比で109%、10%ほど増加している状況にあります。決定件数は376件で、昨年度と比べて136%増という状況にあります。
 2番目ですが、業種別の支給決定件数です。業種別の支給決定件数は、製造業がいちばん多いという状況が平成15年度以降一貫しております。また、建設業、運輸業及び郵便業、卸売・小売業が多い業種というところです。
 3番目ですが、職種別支給決定件数です。職種別としては専門的・技術的職業従事者、例えば研究所の研究員といった方たちですが、これが一貫して多い状況です。続いて事務従事者、販売従事者、生産工程・労務作業者が例年多い職種となっております。
 4番目ですが、年齢別支給決定件数です。これは平成14年度から30代が最も多い世代ということで、当然ながら20代から50代までの間が多いという状況が続いております。
 5番目ですが、都道府県別支給決定件数です。当然ながら、東京の支給決定件数がいちばん多いということです。続いて大阪、神奈川と、労働者数等に比例したものかと考えております。
 6番目ですが、時間外労働時間数別の支給決定件数です。こちらは地方局からの報告は任意となっておりますので、報告がなかったものはすべてその他に入っております。報告があった事案のうち、20時間未満がかなりの数であるということです。時間外労働時間が月100時間未満でも、支給決定しているものが多々あるという状況です。
 7番目ですが、就業形態別支給決定件数です。これは正規職員が圧倒的に多く、88%ということで、就業の人口に比例したものかと考えております。
 8番目ですが、出来事別決定及び支給決定件数です。平成21年度の決定の最多の出来事としては、「上司とのトラブル」ということで、134件あります。そのうち支給決定されているものは9件で、認定率としては6.7%です。次いで「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」という項目で、これについては114件の決定、支給決定は55件で、認定率としては48.7%です。その他決定件数が多いのは、「重度の病気やケガをした」が69件、「悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした」が64件、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が42件です。支給決定件数が多いものでは、「悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした」が37件、「勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた」が25件、「重度の病気やケガをした」及び「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が各16件という状況です。
 9番目ですが、平均処理期間です。これは平成11年度まで、要は判断指針が示されなかったところまでですが、この時期は2年以上、これは月ですので、平成11年度で24.4か月という時間を要しております。判断指針は平成11年9月14日に発出しておりますが、その判断指針策定後も、平成14年度までは前年度からの継続事案等が当然多いので、1年以上要しているという状況でした。平成14年度以降は決定数も増加しており、平成15年度に処理期間が大幅に短縮されているところです。ここで10.9か月という状況です。その後も、平成16年度を除いて前年度から短縮しているところで、平成19年度以降は10か月を割っております。
 その中で、現状で言いますと、平成21年度は過去最多の請求数がありました。一方、決定数が若干減っていることもあり、当然ながら平成22年度への継続事案が多いという状況にあります。また、先ほど申し上げましたが、平成22年度8月までの請求は前年度比で増加しており、今後処理期間の長期化の懸念が生じているものと考えられます。以上が資料2についてです。
 資料3ですが、審査請求と訴訟の状況です。審査請求については、この10年ほどですが、平成14年から平成21年で継続的に増加している傾向にあり、請求件数は平成21年度で281件となっております。取消しの件数は非常に少ないという状況があります。訴訟の件数については、新規に精神障害にかかわる労災補償関係に関する訴訟が提起されておりますが、平成21年度で37件ありますが、平成17年度で前年度の3件から22件と、大幅に増加しております。これは平成11年度に判断指針が出され、請求数が増加したということで、その決定結果についての訴訟が、審査請求前置を経てこの辺りで出てきたということであろうかと考えております。
 訴訟の勝訴、敗訴ということですが、ここにあるとおりで、敗訴件数は平成19年度まではかなり多くありました。平成20年度以降は敗訴のほうが大幅に減少しており、平成20年度で国側が勝訴したのが約87%ぐらい、平成21年度で85%前後、平成22年度においても84%という状況です。以上が資料3についてです。
 資料4です。部長のご挨拶の中にもありましたが、厚生労働省における自殺・うつ病対策ということで、職場のメンタルヘルス対策・職場復帰支援の充実が1つの柱となっており、この労災申請に対する支給決定手続の迅速化も、その中の1つという位置づけということです。読み上げますと、業務上のストレスによりうつ病等を発症した労働者が的確な治療及び円滑な職場復帰等に向けた支援を受けられるように労災申請に対する、支給決定手続の迅速化を進める、ということです。
 資料5です。「精神障害等の労災認定に関する関係法令」ですが、このうち労働基準法施行規則別表第1の2の九号に精神障害について定めがあり、人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病、と定義されております。これについては、本年5月7日に、新たにこの別表に付け加えられました。従前は、この別表のいちばん後ろにある包括規定により判断されておりました。
 続きまして、資料6、関係通達です。一覧がありますが、いちばん上の「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」、これは平成11年に出されたもので、平成21年4月6日付けで出来事強度の変更等を行って改正しております。2つ目として自殺の取扱い、さらに精神障害に係る業務上外の判断指針の運用に関しての留意点等がありますが、下から3番目の「上司の『いじめ』による精神障害等の業務上外の認定について」という平成20年の通達があり、この通達の中で複数の出来事等についても触れております。また、下から2つ目の「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針における業務による出来事の心理的負荷の強度の修正等について」という事務連絡が出ており、ここで長時間労働について一定の見解を示しております。
 判断指針ですが、非常に中身が長いので、まず第1の部分、基本的な考え方について読み上げます。心理的負荷による精神障害の業務上外の判断に当たっては、精神障害の発病の有無、発病の時期及び疾患名を明らかにすることはもとより、当該精神障害の発病に関与したと認められる業務による心理的負荷の強度の評価が重要である。その際、労働者災害補償保険制度の性格上、本人がその心理的負荷の原因となった出来事をどのように受け止めたかではなく、多くの人々が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価する必要がある。また、業務以外の心理的負荷についても同様に評価する必要がある。さらに、個体側要因についても評価されなければならない。精神障害の既往歴が認められる場合や、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向等に特に問題が認められる場合は、個体側要因(心理面の反応性、脆弱性)が大きいとされている。
 以上のことから、労災請求事案の処理に当たっては、まず、精神障害の発病の有無等を明らかにした上で、業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因の各事項について具体的に検討し、それらと当該労働者に発病した精神障害との関連性について総合的に判断する必要がある、とされております。
 続きまして、現行の判断要件についてですが、これについては第3で定めております。(1)対象疾病に該当する精神障害を発病していること。(2)対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。(3)業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと、と定めております。
 具体的にどのようにこれらが進められていくか、これは労働基準監督署が行っているわけですが、第4の判断要件の運用のところに書いておりますので、簡単にご説明します。まず最初に、判断要件のとおり、精神障害の発病の有無等を判断するということです。これについては医学的事項ですので、専門家による判断が必要になろうかと考えております。次に、業務との関連性で発病する可能性のある精神障害であるや否や。一応、のちほど出てくるICD-10のF0からすべてのものについて対象疾病としておりますが、いわゆる業務との関連性が薄いものや頭部外傷等によるものは、ほかの基準で考えられるべきものということです。
 続きまして、業務による心理的負荷の強度の評価をするところですが、ここでは出来事という所が1つあり、次の頁の別表1を引用しておりますが、出来事及びその出来事後の状況が持続する程度をより具体的かつ客観的に検討する、としております。その中で、当該精神障害の発病に関与したと認められる出来事が、一般的にはどの程度の強さの心理的負荷と受け止められるかを判断して、さらに出来事の個別の状況を斟酌し、その出来事の内容に即して心理的負荷の強度を修正する。さらに、出来事後の状況がどの程度持続、拡大あるいは改善したかについて評価していくということを経て、その心理的負荷を判断していくということです。その心理的負荷の強度を判断したあとに、その他の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因を勘案して、総合的に判断していくというのが原則的な流れです。
 続きまして、資料9です。こちらは団体からの要望ということで、過労死弁護団全国連絡会議意見書についてということです。資料は、平成21年11月18日に厚生労働大臣宛に提出されたもので、要請書及び判断指針改定意見書、判断指針改定案です。これについては、発病後の業務による心理的負荷を考慮すべきこと、慢性の心理的負荷を考慮すべきこと、心理的負荷の強度は同種労働者の中でその性格傾向が最も脆弱である者を基準に判断すること、本人が置かれた立場や状況を十分斟酌して心理的負荷を評価すること、心理的負荷の評価の対象とする期間は発病前1年間とすること、さらにストレスの相乗効果(複数の心理的負荷)を適切に評価すること、心理的負荷表によらず、被災者が遭遇した慢性及び急性の心理的負荷のすべてを総合して判断すること、発症前1か月当たり100時間、発症前2か月ないし6か月にわたり1か月平均80時間を超える時間外労働に従事していた場合には業務上と認めること。以上が主要な要望事項です。
 資料8-1の報告書に戻ります。この報告書は、平成11年の判断指針の策定にあたってベースとなったもので、この中では「ストレス−脆弱性」理論を基盤として考えていくということです。「ストレス−脆弱性」理論を基盤として、どこを対象とするかということでは、平均的労働者、同種労働者を評価の基準としていくということで作られたものです。この中には医学的な部分が非常に多く含まれており、現在のところ判例等ではこの医学的な部分を引用している例が非常に多く、この報告書において医学的知見はかなりの部分が網羅されているのではないかと考えております。
 資料8-2ですが、平成21年度の改定を行った際の報告書です。これは、そこに書いてありますとおり、「職場における心理的負荷評価表の見直し等に関する検討会報告書」です。その際、ストレスについての「ストレスモデル」及びストレス評価表として妥当性が高いと言われているライフイベント法についての研究結果を基盤として、ストレス強度のところを若干直していったものの報告書です。以上が資料1〜9の概略の説明です。
○岡崎座長 どうもありがとうございました。多くにわたりましたが、いまご説明いただいた資料1〜9について、この時点で何かご質問等ありましたらお願いします。よろしいですか。あとの検討で、また資料1〜9を含んでお話いただいても結構ですので、今後ご検討いただくこと等の内容が入っておりますが、資料10について事務局からご説明をお願いします。
○幡野職業病認定対策室長補佐 資料10ですが、「精神障害の労災認定の現状と論点の考え方(案)」ということです。この検討会の目的等は冒頭に申し上げたとおりですが、精神障害の事案の審査・決定に当たっての実態というか、監督署における実情はどのような形になっているかをご説明します。
 8.7か月かかっているということですが、精神障害の労災としての請求が出てくる場合、当然亡くなられている場合にはご遺族からの遺族補償の請求、働かれている方ないしはお辞めになった方でご存命の方からの場合は、療養補償給付か休業補償給付の請求ということで請求が来ます。この請求自体は1枚の請求書にまとめられており、その中には当然発生要件というか、発生状況の欄等があり、どのような理由で精神障害を発症したのかが書かれておりますが、細かな事実関係などについてはそこから調査が始まるということになっております。
 その調査に当たって請求書の内容を見て、さらに請求をなさった方からそれを立証するための資料はどんなものがあるのか、ないしはどういう状況であったのか等を聴取した上で、聴取りや実地調査の手順、当然聴取り自体は請求者ご本人のみならず、会社の皆様方等からしていくわけですが、その計画の策定に大体0.5か月ほどかかっております。
 計画の策定がなされると、②と③、いわゆる調査に入るわけですが、聴取書の作成、これは請求をなされた方、事業主、同僚の労働者等から行っております。とりわけ上司とのトラブルや上司からのいじめといったものについては、ものとして残っているものがなかなかないということがありますので、そうするとこれは関係者からの聴取で確認していかざるを得ません。そうした場合、いろいろな方からの聴取が必要になってきますので、大体2か月ほどかかっております。
 最近の請求傾向として、自殺なされた方、亡くなられた方のご遺族からの請求は一定の数で推移しており、全体数が増えておりますので、それ以外の方が請求なされているという状況があります。したがって、その中にはクリニック、病院等へかかっている方もおりまして、そうした場合には主治医の先生等からご意見を伺うと。また、仕事のストレスの量的な面となると、労働時間で測るのが最も簡便でもありますし、適切な方法かと考えます。そういった労働時間の記録等の関係資料の収集ですが、労働時間の記録についても、ご承知かと思いますが、タイムカード等があれば比較的そこから出てくるわけですが、特に事務系ですとタイムカードがないものもありますし、パソコンによる時間管理等が行われているような例があり、そのような場合にはそういったものを収集していくことが必要となってきます。これで約2か月ほど要しております。
 これらについて調査結果がまとまりますと、実際として事実としてどうであったのかという事実認定を行っていくところですが、先ほど申し上げましたように、ものとしてない場合、いわゆる聴取した供述、陳述しかないような場合ですと、どこを取っていくのかということ、その辺は非常に難しい問題があって、そこで約1か月ほどかかります。そこの取りまとめをすると、地方の労災医員の精神障害等に関する専門部会が置かれていて、その事実関係について判断指針を先ほど申し上げたような形で当てはめ、強度の心理的負荷の判断等をやっていただくわけです。これは事実認定後のもので、先生方に上げるに当たっては、専門部会は労働局に置かれているので、監督署から労働局に書類を持っていき、さらに先生方にお諮りするための書類として調整していくこと等をした上で、専門部会を開いて協議をしていただくと。監督署長の事実認定から協議が終了するまで、約2.5か月ほどかかっているという実態です。
 その後、それが協議後戻ってきますので、最終的な結論を出すということで、監督署に戻ってきたものを監督署長が判断するまでに約0.5か月かかっているという状況です。これは大体の概算で、足して8.7ということではありませんが、おおむねこの程度かかっているということでご承知いただければと思います。
 そこで、これらのものについて迅速化、効率化ということですが、どのような事項を検討すべきかということです。いま申し上げたような調査事項ですが、私どもは請求書が出てきて、その請求書だけで業務上外決定ということは当然できない状況です。これがケガといちばん違うところです。そうしますと、事実関係を明確にするためには省略できない調査があります。具体的には聴取書等の作成、関係者からの聴取りが必須だと考えておりますし、病院やクリニックに行かれている請求をなされた方については、当然主治医からの見解を伺うことも必須です。また、労働時間については、現行の仕組みの中ではほとんどの部分にかかってくるということもありますので、この辺の調査はほぼ欠かせないものであろうと、省略はできないものと考えております。むろん、特別な出来事が定められており、その出来事があるだけで心理的負荷が「強」とできるものがありますので、そういったものを除けば、これらの調査は必須だと。それと同時に、この専門検討会の先生方に確実に判断していただくためにも、事実関係のところは欠かすことのできない部分が多いのかなと考えております。
 一方、その事実関係に基づいて因果関係の判断を行う専門部会の協議ですが、認定の基準の具体化や明確化により、省略できるものがあるのではないかと考えております。現状で言いますと、この協議会で具体的にどういったものを検討していただいているかというと、この認定要件そのもので、まず発病の時期と発症した疾病名がどういったものであるのか、ないしは発病していないのかということです。続いて、心理的負荷の強度を事実関係に基づいてご判断いただくという手順を踏んでおりますが、純粋に医学的な判断ということになりますと、発症の時期や発症した疾病の特定の部分に限られていくのかなと考えております。
 そういった状況の中で、私どもとして明確化や具体化を具現するためにどういったことが必要なのかということで、論点を考えました。1つ目ですが、「精神障害の成因について」です。成因という考え方ですが、「ストレス−脆弱性」理論に基づいて形成されているもので、これはこのあと資料11以下でご説明しますが、そのような状況で行われているということです。また、これは平成11年の検討会報告で採用されたということで、約10年ほど経過しております。その後の医学的知見等、この成因についてどのような考え方があるのか、その辺をご検討いただくことになろうかと考えております。
 2つ目ですが、「精神障害の業務上外の判断枠組みについて」です。これは、先ほど判断指針の運用のところでご説明しましたが、この流れの中で省略できるものがあるのか、効率化できるものがあるのかといったところをご検討いただくことになろうかと考えております。
 3つ目ですが、「業務による心理的負荷の評価基準の明確化について」です。これについては、時間外労働や複数の出来事等についてさらに明確化できるかどうか、この辺をご検討いただくことになろうかと考えております。
 4つ目ですが、「出来事ごとの心理的負荷の強度の見直しについて」です。これについては、現在委託でライフイベント研究を平成22年度で行っております。これの結果が年度末に取りまとめられますので、その結果についてご検討いただくことになろうかと考えております。
 5つ目ですが、「心理的負荷の評価対象について」です。心理的負荷の評価対象は、現在は発症前おおむね6か月ということで、この辺をご検討いただくことになろうかと考えております。
 6つ目ですが、「認定基準の運用について」です。運用面ですが、この中身としては現在のところ先ほど申し上げたような精神部会、専門家による合議に全件かけております。この辺を限定できないだろうかということでご検討いただくことになろうかと思っております。以上、事務局が考えている明確化、効率化についての論点です。よろしくお願いします。
○岡崎座長 ありがとうございました。繰返しになりますが、精神障害の労災認定の審査・決定のプロセスにおいて、現状で平均して8.7か月という期間がかかっているということで、調査に基づいてそれぞれの過程がどれぐらい期間を要しているかをお示しいただき、その中で迅速化、効率化を図る上で必須のものと、迅速化、効率化のために少し手を加えて短縮できるのはどこかということを事務局から提案いただきました。特に、5番目の専門部会での協議は平均2.5か月かかっているということですが、そこを簡素化できる、あるいは短縮できる可能性があるのではないかということで、そのための検討課題を6点ほど提案いただきました。この件についてご意見を賜わって、こういった検討でよろしいかどうか、そのほかに検討すべき論点があるかということも含めてご検討いただければと思いますが、いかがでしょうか。
○良永先生 審査に平均約8.7か月の期間を必要としているということで、その内訳について縷々ご説明がありましたが、平均ということですので、非常に長かったケースと比較的短い期間で結論を得ることができたケースと、様々あろうかと思います。
 私が気になったのはその中身で、例えば長時間労働というか、いわゆる心疾患等によると過剰負荷に類するような業務が問題になったケース、最近非常に目につきますが、いじめといった言葉で言われる職場でのトラブル、人間関係が問題になっているケース。そういう成因による差がありはしないかとか、あるいは問題となっている疾患名、疾患もたくさん種類があって、私は素人でわかりませんが、その判断基準は非常に難しいという問題がありはしないか。症状も比較的軽度なものと比較的重度なもの、最悪の場合は自殺に至ったケースもあろうかと思いますが、そういう区別もあろうかと思います。
 また、私は労働基準監督業務の現場の子細については承知しておりませんが、昨今のご時世ですので、少ない人数のスタッフの方がたくさんのケースを抱えて、非常にご苦労されているのではないかと思うのです。そうしますと、ここに書かれている月数が何をモデルにして出されているのか、つまり1人でいくつものケースを抱えていることもあると思うのです。東京は非常に件数が多い、大阪も多い。ところが、比較的労働者数が少ない所は件数も少ないと思うのです。そういうことで、抱え込んでいる業務との関係ではどうなのかということも気になるのです。つまり、迅速化、効率化という限りは、そちらの面の要因分析も知りたいということですが、いかがでしょうか。
○幡野職業病認定対策室長補佐 いくつかありますが、事案によって異なるという点については、これは当然です。先ほど申し上げましたように、出来事について比較的数量的に明らかに出てくるもの、例えば労働時間といったものの評価は比較的やりやすいと。ないしは、その出来事自体が特別な出来事のように、誰が見ても非常に大きなものであるというものについては、そこの事実を認定していくということでやっていけるという状況です。先生がおっしゃったようないじめであるとか上司とのトラブル、それがいわゆる出来事に該当するのであろうか、そこから調べなければならないようなものが多々あります。こういうものについては時間がかかる要素が非常に多いです。
 監督署ごとということですが、これは業務量の部分から東京ですとかなりたくさんの人員も配置しておりますが、1人当たりで取っていくとかなりの数字になってくるということです。精神障害についての実際の調査等に当たっている現場で見ますと、比較的一定の経験を有した方が就いている状況もあります。その辺のところは大変申し訳ないのですが、正確な形での分析までいっていないです。そういう方たちの業務、大きい所も小さい所も一定の数は配置しております。そこでは当然ながら署によってのばらつきはあるものの、たくさんあるから長くかかるというわけではないようにも考えております。
 先生がご指摘のとおり、大体全部の事案についてのほぼ平均という形で出しておりますので、その辺のところで分析可能な部分については、ご紹介させていただけるものであればやっていきたいと考えております。
 ちなみに最頻値というのでしょうか、いちばん多いのは6か月でやっている所が多いです。事案によって非常に長くかかっているものがあります。そういうものを平均に取り込んでいくと非常に長くなっている実態もあります。
○良永先生 認定業務の迅速化は大いにやっていただきたいと思うのです。被害者の救済は何よりも大事ですので迅速にやっていただきたいと思います。認定基準に要因がある部分もあるのでこういう会議が持たれている。その認定基準のあり方を検討する際にも、先ほど申し上げましたように、認定基準のどこに問題があるのか、運用のどこに難しい問題が生じているかというのは、いま私が申し上げたようなことも承知しておきたいと思ったのです。
 本日の資料には出てきておりませんけれども、サンプル事例でもあれば、今後ここでの検討の資料として有効であるかもしれないです。無駄なご苦労をかけるつもりはありませんけれども、その点の資料があるといいと思った次第です。
○幡野職業病認定対策室長補佐 2回目以降、ご提案させていただきました案に従って進行するといたしますと、それぞれごとの回においての私どもの問題点というものは、認定例の分析ということも含めて出させていただく予定としております。
○岡崎座長 業務上の要因はないかということで、今後可能であればそういう資料も引き続く回において事務局から出していただくことも含めてご検討いただきました。
○山口先生 検討項目に入るかどうか、入れるとしてもどういう形で入るのか、いま私にも具体的なアイディアはないのですが、わりとよく聞く声は、業務上の負荷の評価表はわかりにくい。いろいろあるけれども、どういう事象がこれに当てはまるのか素人では判断しにくい。それで判断に時間がかかっているのではないですか。
 例えば、評価表が先般改定されて、セクハラとかいじめが入りました。そもそも、これが業務とどれだけ関係があるかというのは難しいです。人間関係だから、業務以外のことで対立しているかもしれない。どういう例がこれに当たるのだというのがあれば、一般の人にも分かりやすいし、その判断もわりと早くできるのではないかという気がいたしますけれども、その辺はどうなのでしょうか。
○幡野職業病認定対策室長補佐 通達ベースで申し上げますと、本日の資料の中で「精神障害等事案に係る類推評価状況について」を平成17年5月12日に出しております。セクシュアルハラスメントについては平成17年12月1日に、いじめについては平成20年2月6日に発出しております。すべての出来事を表に盛り込むことは実際のところ難しいし、そこまではなかなか作業ができないこともありますので、そこの部分は類推適用していくことです。その類推適用が適切に行われているのか、それは誰が見ても分かりやすいのかということについてはこういう形で対応しているところです。
 これも当然ながら今回の検討の中の目的として明確化というのがありますので、その中でご議論いただくこととさせていただければと考えております。
○山口先生 くどいようですけれども、決定を迅速化するためには、この評価表が簡易化というかシンプルファイされていればいいわけです。項目があって、その項目だけだったら判断できるでしょうけれども、持続的な程度とか、支援状況がどうかということになってくると、パッと見ただけではなかなか判断しにくいのではないでしょうか。
○渡辺職業病認定対策室長 資料10の2の(2)の③の評価基準の明確化の中身は、私どもの問題意識としては全く同じようなことです。いまの評価表はパッと見てもわかりにくい部分があるだろうと。そういう声は私どもも、各地の先生方も含めて聞いておりますので、その点についても是非ここで検討して、より分かりやすいものにできたらと思っておりますので、次回以降そこも検討させていただきたいと思います。
○山口先生 そういうこともお願いしたいと思います。私は、この最初の判断指針を作ったときに委員として参加していました。判断指針ですから、数例そういう例があったというのでは駄目だと思うのです。この判断指針の基になっているのは、山崎先生が収集された2,000件の症例があり、それが根拠になっていると聞いています。それぐらいの医学的な根拠がないと、たまたまこういう例があったというのでは判断指針には入れにくいです。その辺の兼ね合わせも重要だと思います。
○黒木先生 いま問題になっているのは出来事の把握だと思うのです。出来事がどういう形で精神障害の発症につながったか。労災認定の基本は、環境からくるストレスと、それに対しての個人の反応、その脆弱性との関係の中で精神障害を発症したというのは基本的な脆弱性理論です。
 これは、精神医学会でも非常に通説になっていますし、その後に業務に内在する危険因子が現実化・具現化した形で精神障害を発症したことをどのように捉えるかというのが非常に難しいのだろうと思います。そこの把握の仕方を検討していかなければいけないし、基本的に業務に内在する危険因子、これは心理的なストレスということになります。この心理的なストレスがどのように影響して、どれぐらいの精神障害の持続に関係しているのかというのも今後の大きな課題だろうと思っています。
○岡崎座長 事務局からの提案の議題の中にも、いま山口委員がおっしゃられたような課題が入っておりますので、検討していけるかと思っております。
○清水先生 いま黒木先生がおっしゃったように、今回の検討事項の①の精神障害の成因ということですが、「ストレス−脆弱性」モデルが現在の標準ですので、それで行っていただいてと思っているところです。非常に大きな点は、そのストレスの中に対人関係のトラブルというもの、我々精神科としてはストレスの中に対人関係問題があるのだというのは専門家の間では周知の事実です。対人関係のトラブルがストレスになる出来事であって、心理的負荷となってうつ病などの精神障害につながる、そしてそれが労働災害につながるというのは、まだまだ一般の方にはその辺りが非常にわかりづらいのではないかと思っています。
 そういう意味で、事実認定として、ひどい嫌がらせとかいじめが事実だったかどうかということ。実際に暴行を受けたみたいな形で、殴られて傷があるなどというのはわかりやすいと思いますが、人間の場合には言葉の暴力によるひどい嫌がらせやいじめみたいなものは形に残りませんので、そういうものを労働者のほうが記録していたようなものがあれば、少しは事実認定しやすいかもしれません。でも、それを客観的に見るとなると、労働者本人ではなくて、事業主のほうからもそういうのを記録していたということが現在ではなかなか行われていないと思うのです。
 そのように申し上げるのは、精神障害の成因モデルというのは、例えば動物実験などをさせていただいても、ある動物がほかの動物を攻撃していって、それで精神障害が起こるみたいなのは、私たちがずっと観察できるからそれが分かるところがあります。それが記録になければ、そういうことの調査に時間がかかったり、事実として認定するのは難しいのだろうと思います。そういう対人関係のトラブル、ひどい嫌がらせとかいじめがいかに記録として残されていくか。そういう意味では労働災害が人的災害の部分が大きければ防ぐ意味でも記録されていくことが、迅速化、効率化につながるのかなというのが私の意見です。
○岡崎座長 いま出たご意見は、事務局から提案のありました、今後迅速化あるいは簡素化できるところの焦点として、1の⑤にある専門部会での協議のところに関わるところが中心になっております。私もそのように思いますが、そこでの検討が、ほかの審査のプロセスにも、ほかのところに関わることもあるだろうというのは、いまのご議論で出されたかと思います。
 今後の認定基準の明確化のために6点の提案がありますが、この方向でやっていくことで、専門部会での協議のプロセスを迅速化、簡素化していくだけではなくてほかのところ、いま事実認定のこともお話いただきましたように、そういうところの認定の評価基準が明確になってくると、そういうほうの簡素化、迅速化にもつながっていくのではないかと思います。実際は、専門部会での審査過程だけではなくて、もっと広い迅速化、簡素化の可能性が生まれるのではないかということを、ご意見を拝聴していて思いました。
 したがって、そのようなことも含め、事務局から提案されたような今後の論点の考え方と、その対応について検討していくことでご了解いただけますでしょうか。
(異議なし)
○岡崎座長 特に異論がないようでしたら、そういうことで進めさせていただきます。本日は、そういう中で今後の検討の課題が6点ほど出ておりますが、もちろんそれ以外の課題を今後出していただいても結構です。本日は1回目ですので、「精神障害の成因について」の検討に移らせていただきます。その点について用意された資料11と資料12について事務局から説明をお願いいたします。
○幡野職業病認定対策室長補佐 資料11と資料12についてです。まず資料11「精神障害の成因について」です。主な論点として、精神障害の成因については、「ストレス−脆弱性」理論に基づくものであります。この「ストレス−脆弱性」理論については、最新の知見においても精神障害の成因として最も妥当であると考えてよいのかどうかというのが1つあろうかと考えております。次は、「ストレス−脆弱性」理論に基づくとどのような場合に、業務と発病との間に相当因果関係、業務起因性が認められるか。心理的負荷の強度を客観的に評価するに当たり、どのような労働者にとっての過重性を考慮することが適当か。この2つが主な論点になろうかと考えております。
 判断指針の第4の2のところに同種労働者というものが出ていて、本人がその出来事及び出来事後の持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく、「同種の労働者」が一般的にどう受け止めるかという観点から検討されなければならない。ここで同種の労働者とは職種、職場における立場や経験等が類似する者をいうこととされております。
 この論点についての検討の必要性ですが、精神障害の成因をどう捉えるかということ。これは労災の認定の基準に関する検討全体に影響を与えると考えております。本検討会の検討に当たり、これについてまず考え方を整理する必要があるのではないかということです。
 資料11の裏面では、「ストレス−脆弱性」理論について簡単に説明しております。「ストレス−脆弱性」理論とは、環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で、精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方であるということです。ストレスが非常に大きければ、個体側の脆弱性が小さくとも精神障害が起こりますし、逆に脆弱性が大きければ、ストレスが小さくとも破綻が生ずる。精神障害を考える場合、あらゆる場合にストレスと脆弱性との両方を視野に入れて考えなければならない。なお、この場合のストレス強度は、環境由来のストレスを、多くの人々が一般的にどう受け止めているかという客観的な評価に基づくものによって理解されるとされております。これについては、平成11年7月の専門検討会報告書の5頁の記載です。
 「ストレス−脆弱性」理論については、文字ではなかなかわかりにくいということで、『精神障害等の労災認定』という本がありまして、その中で「ストレス−脆弱性」モデルとして表としてまとめたものがあります。ストレスと個体側要因の関係を概念図で示すと、ここにある図のようになります。このモデルでa、b、c、d、eがそれぞれ発病ラインである。a、bは主としてストレスがその発病に関与するもの。d、eは主として個体側要因が関与して発病する精神障害である。しかし、bのようにストレスの強い例でも、個体側要因が多少とも関与する場合、dのように個体側要因の強い例でもストレスが多少とも関与する場合もある。実際にはa、eのケースはまれで、b、c、dに位置する精神障害が圧倒的に多いといわれている。
 こちらのモデルで、仮に私どもが業務上と認定する精神的な負荷をaに置くと、ストレスの強度が最大のものでなければ業務上にならないということですので、ほとんどすべてが業務上にならない。一方、eのストレス強度を業務上の判断の基準にするのだと、つまりeはストレスが最小であって、脆弱性が最も高いところです。勤めたり、人間が生活すればストレスは必ずあるわけですので、それだけで発症してしまうような状況です。したがって、それが業務の中でということであると、ほとんどすべてが業務上になってしまう。ストレスが全くない場合でない限り業務外にはならないということを示しているものです。
 資料12「精神障害の成因等に関する最近の裁判例」です。資料3で平成20年度、平成21年度の判決件数をお示しいたしましたが、判決の件数は合計で73件の精神障害に関して業務上外で争ったものがありました。一審と控訴審が重複しているもの、ないしは平成20年度以前に第一審の判決があり、控訴審においてはほとんど判示がなされず、一審引用で終わってしまっているようなものを除くと40件ほど出てきましたので、この40件について分析を行いました。なお、この40件の中には国が敗訴で確定している事案はすべて分析対象に含まれています。
 大まかなところで申しますと、分析を行った裁判例40件のうち、「ストレス−脆弱性」理論を肯定しているものは34件と大半を占めています。そのうち「ストレス−脆弱性」という語を用いていないものは4件ありますが、実質的に「ストレス−脆弱性」理論と同じことを書いているものです。それ以外の6件については、「ストレス−脆弱性」理論を否定しているものはありません。そもそも判断の枠組みについて述べていないものが3件です。平均的労働者を基準としていますけれども、精神障害の成因については触れていないものが3件あります。判断の枠組みについて述べていないもののうち1件は、精神障害としての発病がないという認定をしています。そもそも、そこでの業務上を争うものではないということで全く触れられていないものが1件という状況です。
 最近の裁判例ですが、今回6件ほど用意させていただきました。この6件は確定している裁判の中でいちばん新しいものから6件取りました。1件目は、平成22年3月11日の東京地裁で、国が敗訴してそのまま確定したものです。概要等については省略させていただきます。下線で示した部分が、今回の議論にかかわる判旨の部分ですので、そこを読み上げさせていただきます。業務上死亡した場合とは、労働者が業務に起因して死亡等した場合をいい、業務と労働者の死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である。最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決です。1段落後の下線です。精神障害の発病については、環境からくるストレス(心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じているかどうかが決まるという「ストレス−脆弱性」理論が広く受け入れられていると判示しております。
 その頁の下のところで、危険責任の法理にかんがみれば、業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者を基準とすべきという判示があります。
 2番目は、平成22年2月25日東京高裁の判決で国が勝訴し、最高裁不受理で確定したものです。1つ目の○は、本件疾病である適応障害等の神経性障害を含む一定の精神疾患は、環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で発症し(精神的破綻が生じ)、ストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に個体側の脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても破綻が生じると帰結されることとなった。
 2つ目の○の下線部は、業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきであると判示しています。
 3つ目は、平成22年2月23日京都地裁判決です。これは国が勝訴していて、一審で確定したものです。判旨について、最初の下線部ですが、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務上又は業務以外の心身的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければストレスが小さくても破綻が生ずるとする「ストレス−脆弱性」理論によるのが合理的であると判示しています。
 下のほうの下線は、なお、業務に内在し又は随伴する危険を要するとする以上、心理的負荷の程度については、当該労働者本人を基準とすることができず、当該労働者本人が置かれた立場や状況等の具体的事情を前提に、当該労働者と同種の業務に従事遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する労働者を基準として客観的に判断するべきと判示しています。
 4つ目は、平成21年12月25日高松高等裁判所で、国が敗訴してそのまま確定したものです。1つ目の○の下線部は、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務上又は業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるか否かが決まり、ストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、反対に個体側の脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても破綻が生ずるとする「ストレス−脆弱性」理論が合理的であると認められるとしております。
 2つ目の○は、労災保険制度の趣旨に照らし、「社会通念上、当該精神疾患を発症若しくは増悪させる一定程度以上の危険性」の判断に当たっては、通常の勤務に就くことが期待されている平均的労働者を基準とすることが相当であると判旨しております。次の頁の下線で、上記の通常の勤務に就くことが期待されている者とは、完全な健常者のみならず、一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の軽減を要せず通常の勤務に就き得る者を含むと解するのが相当であると判示しております。
 5番目は、平成21年11月13日大阪高等裁判所で、国が勝訴していて、最高裁不受理で確定したものです。判旨の2つ目の文章の「ところで」の所からです。精神障害の発症は、ストレスの存在がその主な原因の1つと考えられているが、ストレスに対する反応性、脆弱性という個体側の要因もその発症に無関係ではあり得ないから、個体側に精神障害の発生に寄与する要因があることをもって、直ちに当該精神障害の業務起因性を否定するべきでないことはいうまでもない。また、逆に、業務に由来するストレスが、業務に内在し又は通常随伴する危険とまではいえない場合であっても、個体側の要因によっては精神障害を発症し得るから、業務に関するストレスの存在のみをもって、当該精神障害の業務起因性を肯定することはできないと判示しております。
 その下の下線部の「そして」の所です。業務の内容、勤務状況及び業務上の出来事等による心理的負荷の有無及びその強度を検討するに当たっては、前記労災保険制度の趣旨及び補償の対象が、業務に内在し又は通常随伴する危険の現実化と評価すべき疾病であることに照らし、同種の労働者、すなわち職場、職種、年齢及び経験等が類似する者で、通常業務を遂行できる者を基準として検討すべきであると判示しております。
 6番目は、平成21年10月30日大阪高等裁判所の国が勝訴した事案で、これも最高裁不受理で確定したものです。判旨については2行目以降です。医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務上又は業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるか否かが決まるという「ストレス−脆弱性」理論が合理的であると認められる。「そうすると」を挟んで、業務と精神疾患の発症との相当因果関係は、環境由来のストレス(業務上又は業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上客観的に見て、平均的な労働者、すなわち、通常の勤務に就くことが期待されている者(この中には、完全な健康体の者のほかに基礎疾病等を有する者であっても勤務の軽減を要せず通常の勤務に就くことができる者を含む)に精神的疾患を発症させる程度に過重であるといえるかどうかによって判断すべきである。
 なお書きとして、控訴人は、上記「平均的な労働者」の意義について、判断指針にいう同種労働者の中で最も脆弱な者を基準とすべきであるかのように主張するが、平均的労働者の中にこのような労働者も含めて考察すべきであるとしても、控訴人の上記主張を採用することはできないという形で退けております。
 最後に参考として、先ほど出てきております昭和51年11月12日最高裁第二小法廷の判決で、相当因果関係に関する判旨ということで載せております。これは国家公務員の災害で、国家公務員災害補償法第一五条及び同法第一八条にいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい、右負傷又は疾病と公務との間には相当因果関係のあることが必要であり、その負傷又は疾病が原因となって死亡事故が発生した場合でなければならない、と解すべきであるとしております。
 「ストレス−脆弱性」理論を直接的に採用すべきと言っているもの、同種の形で述べているものがありますが、この見解によっているというのが1つです。表現等はかなり異なるものがありますけれども、「平均的労働者を基準として判断すべきであるもの」という判旨が6例されています。なお、他の例を見て、本人を基準とする又は同種労働者の最脆弱なものを基準とするという考え方を直接的に示したものはありませんでした。
○岡崎座長 精神障害の成因というテーマについて2つの点を報告していただきました。「ストレス−脆弱性」理論の説明、それから最近の判例の中で成因についてはどう扱われているかについて紹介していただきました。具体的には「ストレス−脆弱性」理論を、精神障害の労災認定の基本的な考え方にしていくかどうか。それから、具体的に同種の労働者をどのように考えるかということについてご提案をいただきました。
 法律家の先生方には馴染みがない面もあろうかと思いますので、「ストレス−脆弱性」理論について精神科医の先生から説明していただけますか。
○黒木先生 事務局から説明がありましたように、精神疾患の発症に関しては、個人の反応が非常に大きい部分があったり、あるいは大きなストレスであれば誰が見ても客観的に精神疾患を発症するだろうというものから、これは様々なわけです。したがって、精神疾患の発症に関しては、こういう個体側の反応と発症要因となる環境要因が相互に絡み合って、どのように判断するかということをどうしても検討しなければいけないので、この「ストレス−脆弱性」理論は基本になろうと思います。
 これは、あくまでも入り口ということです。この入り口が認められて、あとはどういう経過を辿るのか。最初は過重性があって精神障害を発症した。しかし、長い経過を経ているうちに別の精神疾患に移行したり、別の要因が、長い経過を経たその時点の主たる要因になっている場合を、今後どう考えるかというのは大きな問題だろうと思います。
○岡崎座長 平成11年にこの考え方を導入した認定のシステムができたのですが、それ以後の医学的な精神医学上の知見を考慮しても、「ストレス−脆弱性」理論がいちばん有力な考え方であることについては変わらないということでしょうか。それに対して法律家の先生方のほうから、この成因の考え方についてご質問はありますか。
○山口先生 いま事務局から説明があったとおりで、精神障害の問題はいま私どもが検討している、労災保険の上での業務上の認定という問題のほかに、直接使用者に対して損害賠償を請求する事件もあります。それは多少違いがあるかと思いますが、労災保険の関係については、いま事務局から説明があったように、どの判例も「ストレス−脆弱性」理論を下敷にというか、理論的に承認していて、これがおかしいと言ったものはありません。
 それでは、どういう労働者を基準にして判断するのかというのは、当初は結構争いがありましたけれども、今は大体が「同種の労働者」という言葉で、働いている集団の中でいちばん近い同僚と比べるという判断になってきていると思います。その含意はどこにあるかというと、発症したり、負傷した労働者個人が基準になるのではないということです。
 本人を離れた場合、どういう人を基準にするのかというのは、法律の中ではいくつかよく使われてきたものがあります。1つは合理人といいますか、リーズナブルマンということ。もう1つは平均人、これはドイツ語の訳でドゥルヒシュニット・メンシュです。それは結局、本人を離れて、合理的な客観性のある基準で判断するということです。いままで、法律の中では平均人という言葉はよく使ってきましたので、平均的労働者というのは、これのニュアンスで使っているのだと思います。
 平均人とは言い切っていなくて、平均的労働者と言っている判決を見ますと、時には同種の労働者と同じように判断していたり、時にはもうちょっと抽象的なので判断していたりしています。事務局から説明がありましたように、現在は同種の労働者というところに落ち着いてきているのではないかと思います。
○岡崎座長 委員の先生から何か追加することはありますか。
○黒木先生 以前、精神神経学会という、精神科医がいちばん多い学会で、現在は1万4,000人ぐらいの会員がいますが、当時は1万人ぐらいでしたが、数年前にストレスをどのように、本人の側に立って判断するのか、あるいは客観的に判断すべきであるのかをアンケートで聞いてみました。その結果、73%がストレスは客観的に判断すべきであるという見解を、一般の精神科医が持っているということを付け加えさせていただきます。
○鈴木先生 「ストレス−脆弱性」理論でやるしかないと私も思っております。黒木先生のお話で、ストレスのほうは多数決あるいは平均人が評価する。これでストレスの大きさ、小ささがランキングで並べることができます。比較的客観的に評価できます。
 脆弱性のほうはなかなか難しい点を含んでいると思います。私は産業保健が専門で、現場にも産業医として出ております。多くのケースとして昇進ストレスがあります。特に技術者で、物を相手に非常に優秀な成績を上げている。これが、だんだん歳を取ってきて管理職に行く。そうすると、今度はソフトな業務になります。人事管理、人事評価、コンピューターの表計算などはやったことがないのに、そこにいきなり移されたときに非常に大きなストレスを感じる。
 平均的な労働者というのは何を言うのか。物ばかり扱っている優秀な人はどうなのか。最初から法律・経済でやってきた人が、今度は技術のほうへ行ったときにどうなるのか。技術屋さんと法律屋さんとどれを平均とするのか、この辺りは大変難しい議論になろうかと思います。
 管理職者になるときに、その人にエンパワーメント、技術や理解を得させるトレーニングをすれば、これはソフト技術がアップしたということで自信になります。そうなると脆弱性が減ります。そういう教育を施さなかった経営者が悪いのだということにもなりかねないのです。いろいろなケースがあるので、この脆弱性というところは裁量の余地もケース・バイ・ケースで出てくる難しい点かと思います。そんなことを考えました。
○阿部先生 山口先生の補足になるか分からないのですが、裁判例の中で同種の労働者の取扱いで、平均人というような形で言っているのですが、最もとは言っていなくても、同種の労働者の中に脆弱な者を含むというのは、今回の4みたいなもので含めているものもあります。そうすると、普通の同種の労働者として裁判例が言っているのと、その脆弱な者を含む同種の労働者というのは2つに分かれるのではないかと思います。
 脆弱な者を含むという裁判例がいくつか散見されています。いままでの判断指針では必ずしもそこまでを読み込んでいなかったのかと思うのですけれども、それをどのように取り込むのか、取り込まないのかというのは検討してもいいのではないかと思います。
○山口先生 阿部先生がおっしゃったのを入れると3つですね。
○阿部先生 そうです。
○山口先生 平均的労働者という言葉を使いながら、従来使ってきた平均人というので判断しているのと、それから同種労働者と同じように判断しているのと、その中で最脆弱者だからこれはむしろ本人に近いですよね。
○阿部先生 実質的にはそうなります。
○山口先生 その3つあるのではないでしょうか。
○阿部先生 その3つ目のニュアンスは同種の労働者をちょっと広げているような感じで、本人は基準にしないけれどもと言いつつも、実質的にはそれにちょっと近い形で広げているものもあるので、それは取り込むべきなのか、それは労災だから取り込まないほうがいいのかというのはどうなのですか。
○山口先生 1つは理屈の上で、理論的にどれが妥当かという検討も必要だと思います。それから、判例の大勢がどうなっているかです。大量観察で見てみる必要はあると思います。判例は理屈よりも、「ストレス−脆弱性」理論に則っているのですが、それに従って判決を下していない例が多いのではないかと思うのです。
 「ストレス−脆弱性」理論でできている判断指針は3要素でしょう。業務上の心理的負荷、業務外の出来事、個体要因でしょう。これを全部調べなければいけない。まず個体要因は何もないと。親戚縁者にもそういうあれはないし、病院にも通っていない。業務外の出来事で該当するものはない。そうすると、これは精神障害を発症しているのだから、業務上のそれに違いないと言って、それで判断しているのが結構あります。これは、医学の先生方から見たら、ものすごく批判を受けるのではないかと思います。
○黒木先生 それが問題だと思うのです。総合的な判断というのは非常に大事だと思うのです。そのような角度で3つの方向から判断していく。ただし極論を言えば、もう誰が見てもこれは客観的に過重性が非常に高い場合、例えば時間外労働が150時間以上を超えているような場合には脆弱性があったとしても認定をすべきであり、実務上は実際にそういう形になっているのではないかという気がします。
○山口先生 判決文に出ていないような事情でもあればいいのですが、発症というか何もエピソードのようなものがない場合も判決文にはあります。
○黒木先生 いわゆる脆弱性をどう捉えるかというのは非常に難しくて、いままで発病していないからその人は脆弱性がなかったと一般的に考えがちなのですけれども、でもよく細かく見ていくと、脆弱性には精神障害が発症していく過程で前駆症状が潜在している場合もあり、どこかの時点で発病はするけれども、それまでの潜伏期間のときに脆弱性が非常に高まっていることもあり得るのです。そこに過重性の弱い業務が関係して発病したということだってあり得ると思うのです。だから、この脆弱性は非常に難しいと思います。
 業務上のストレスはそれほど過重性がないという場合だってあるわけです。いままで発病していないから脆弱性がないとは言い切れないのではないかという気がします。
○山口先生 それは、ひょっとすると鑑定意見といいますか、医証の問題も絡んでいると思います。労災だけではなくて、医療事故もあるのですが、裁判所はどうしても主治医の意見尊重なのです。学会の先端におられるような先生方の多くの意見でも、患者を診ているのは主治医だからということがあります。先生がおっしゃったような細かいところは、裁判所もなかなか見きれないのかもしれません。それは問題だと思います。
○荒井先生 脆弱性という言葉自体の定義なのですけれども、1人の個体の中で脆弱性が変化するというイメージを持たれるかもしれないのですが、医学辞典によれば、素因という言葉で、ある一定程度同じ脆弱性をその個体が持ち続けているとしています。証明はできていませんけれども、そのように考えておかないと、それをもし先ほどの脆弱性が高くなったというような表現をするときには緩衝要因等の変化による可能性を考えます。ストレスに対する緩衝機能がうまく働かなかった場合には、同じ脆弱性であっても脆弱性が高まったかのように見えると医学的には考えておかないと、脆弱性が個体の中で、例えば老化という問題も新しい要素として出てきますけれども、それは置いておいて、働いている間にはほぼ一定の脆弱性を持っていると考えておいたほうが、一般医学的な見解としてはいいのではないかと思っております。
 先ほど、脆弱性は不明だと言われましたが、全くそのとおりだと思うのです。ある個体の脆弱性を数字で示せとか、ある特定の言葉で表せというのはなかなか難しいことだと思うのですが、概念的にはそういうことだと定義されるべきものだろうと。個体側要因ということと同じだと思うのです。
○山口先生 そこは、是非先生に少しまとめて整理していただいて、ご意見を伺いたいところです。平成11年の判断指針の基になった検討委員会では、脆弱性の問題をどう扱っているかというと、大体ストレス原因から6か月ないし1年遠ざかると治癒する。治癒という言葉がいいのかどうか知りませんが、当時は寛解という言葉がなかったから治癒すると言っています。だから、文章では旧に復するという考え方に立っていると思います。
 それは、どこに結び付いてくるかというと再発なのです。平成11年に指針ができてからはこれでやっていますから、再発の患者も出ています。そこで出てくる主張は、一遍かかったら脆弱性が増大すると。こうなってくると、判断指針の考え方は崩れてしまいます。脆弱性がどういう転帰といいますか、経過を辿るのかというのはきちんとつかんでおかないといけないので、是非そこのところを先生方にお願いしたいところです。
○荒井先生 一般論で申し上げれば、疾病が完治した場合には脆弱性はその時点では旧に復している。脆弱に見えるのですけれども、それは症状であり、対処行動がうまくとれないというか、あるいはソーシャルネットワークがうまくつくれないという問題があって、より病気が増悪しやすい状況になっているのであって、素因自体は変わっていないと考えるのが妥当と思います。素因が変化するというのは語義矛盾です。
○山口先生 いずれまた議論になるでしょうから、そこでいろいろ教えをいただきたいと思います。
○荒井先生 脆弱性自体は、今申し上げたように一般には言われていますが、それはまた議論しなければいけないと思います。
○清水先生 いまのディスカッションを聞いていて、脆弱性というのは難しいと思いました。特別にある人が全体的に弱いというよりは、ある特定の状況についてだけ脆弱だという場合もあると思うのです。具体的に言わせていただくと、20年間ずっと営業をやってきて、非常に社交的な人で、他人と話すのが何より楽しいという人が、急に配置転換になって、1日中モニターの前で1人で作業をするような仕事になった。その人の場合は他人と社交的に過ごすことが、それまでのその人の適性というか得意分野で、いままで20年間ずっとそういうことをやってきた人が1人でやる作業になったときに、それに対しては非常に脆弱になる。あるいは20年間の間に脆弱になったという可能性ももちろんあると思うのですが、だから1人でコツコツやる作業は非常に不得手であり、脆弱だったという方です。
 もちろん逆もあると思います。1人でコツコツやるのがすごい得意な人が、急に営業みたいな社交的なことをやれと言われたと。もちろん若いころからずっとそういうトレーニングを受けていれば脆弱ではないかもしれませんけれども、急に状況が変わったということで。そういう意味では、脆弱という意味はある状況下でとても苦手なもの、脆弱な部分がある。それ自身はその場に行ってみないと見つからなかったりします。
 変な例ですが、高所恐怖症みたいに、高い所に行かないと自分が高所恐怖症だと分からないこともありますので、普通の2階ぐらいの高さで働いていれば全然問題ないのに、急に30階へ行ったら、自分は高い所は怖いのだ、脆弱だったと気づくこともあるかと思います。
○黒木先生 脆弱性が隠れていたということです。
○清水先生 ある意味では。それが露呈したということです。
○岡崎座長 大体ご議論は出尽くしたでしょうか。ご議論いただいておわかりのとおり、「ストレス−脆弱性」理論というか、精神障害の成因の考え方として、「ストレス−脆弱性」理論というのは非常に大きな枠組みであり、両方が関係していることは、おそらく委員の先生皆様にご承認いただけるものだと思います。ストレスのほうは、比べると測定しやすいとも言えます。脆弱性のほうがなかなか難しいということをお分かりいただけたと思います。これは、なお研究が必要ですけれども、しかし大枠としては「ストレス−脆弱性」理論で精神疾患の原因を考えるということは概ね妥当だということはご了解いただけるのではないかと思います。今後進めていく全体にかかわるものですから、この点についてはご確認いただければと思います。
 それが、さらに具体的な個人に適用された場合に、その方にとってどういうストレスの過重があったかと評価していく場合に、その方は平均的な、「同種の」という表現になっておりますけれども、「同種の労働者」がというものをどのように考えるかということです。あるいは職種、職場における立場や経験等が類似するような方が置かれた場合を想定して、それで心理的負荷の影響を考慮するという考え方です。最脆弱者を含むような判例も出ているということです。しかし、ストレスが与える影響を考える場合に、モデル的に平均的な方を想定しておかないと、それを修正して総合判断を最終的にするわけですけれども、最脆弱者を含むような判例が出るということは、やはりそこを修正する何らかの要因が働いてなったのだろうということが含まれることもあり得るだろうと思うのです。あくまで労災の認定ですから、そういう心理的な過重があったということが認められて、中心になって、そういう方も、その場合には何らかの修正が働いて含まれたのだろうと思います。したがって、指針のように平均的な労働者がということを想定して総合的に判断するという行き方で大きな矛盾はないのではないかと思います。
 2番目の確認としては、そういう意味で平均的な労働者ということを想定した、同種の労働者にとっての過重性を客観的に判断して総合的に判断をするという行き方をいまは採っているわけですが、それに則って今後も判定をしていくということのご了解をいただいて先へ進みたいと思います。その点についてはよろしいでしょうか。先ほどちょっと議論がありましたけれども。
○良永先生 確認みたいな話ですが、「平均的」という用語と、「同種の」というのは必ずしも同じではないかもしれません。いま、座長は2つをそれぞれ使いましたけれども、必ずしも同じではない。先ほど山口先生は、どちらかというと「同種の」と言われました。あとは「合理人」というような発想で、ある種労働者のパターン化されたものを想定せざるを得ないというご発言がありましたが、それはそれで私も理解できました。
 それで、いまは「平均的」と言い、「同種の」と言いました。これは判例にも出てきますけれども、いわゆる健康体をもった労働者と、厳格ではなくて相当幅があるものだと理解しておいていいですね。
○岡崎座長 はい。
○良永先生 もう1つは、「最も脆弱な方」というのは、ここで確認を取れというと変ですけれども、従来労働省の時期に、既に解説書で書かれていました「機会原因を除外する」というほどの意味と理解しておいてよろしいでしょうか。今後議論してもいいと思います。
○岡崎座長 文章上は訂正いたします。「平均的」ということではありませんで、「同種の」ということでご了解いただいたほうがいいかと思います。
○織先生 いま良永先生がご発言されたことに賛成です。今回の判例には紹介されていないのですが、トヨタ事件の判例で、地裁で勝って、高裁でも結論は変わらなかったときに、平成11年のときに座長を務められた原田医師が証人に立たれたときに、平均人というのが特定の固定されたところを示すわけではなくて、必ずしも健康ではない、何らかの脆弱性を持っている人も含むのだというお話がありました。平成11年の議論のときにも、脆弱性理論というのはもともとそういう幅がある、要するに同種労働者の中で脆弱性がありつつも、何らかの軽減措置を受けずに通常どおり勤務している人を含むということで、言葉の違いはあると思うのですが、それが判例の主流ですし、平成11年のときの議論もそういう話だったのではないかと思いました。
○岡崎座長 そういうふうに対応しております。事務局のほうもよろしいですね。繰り返しませんが、2点ほど確認をさせていただきまして、精神疾患、精神障害の成因・原因についての本日の議題については終わらせていただきます。本日検討をお願いいたしました議題については概ね終了いたしました。今後の予定について事務局からお願いいたします。
○板垣中央職業病認定調査官 次回の日程ですが、検討会は11月15日(月)の午後4時から開催を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。
○岡崎座長 次回以降は、先ほどの6点のうちの2点目以降について、もちろん成因の問題に立ち返っていただいても結構ですが、検討を進めていきたいと思います。
○板垣中央職業病認定調査官 本日はどうもありがとうございました。これをもちまして本日の検討会を終了させていただきます。


(了)
<照会先>

労働基準局労災補償部
補償課職業病認定対策室

電話: 03(5253)1111(内線5570、5572)

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