ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 労働基準局が実施する検討会等> 「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会> 第10回「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会議事録(2014年4月30日)




2014年4月30日 第10回「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会議事録

労働基準局労働条件政策課

○日時

平成26年4月30日(金)15:00~17:00


○場所

中央合同庁舎第5号館 専用第14会議室(22階)


○出席者

委員

今野座長 神林委員 黒澤委員 佐藤委員
竹内(奥野)委員 山川委員

事務局

中野労働基準局長
大西大臣官房審議官
村山労働条件政策課長
岡労働条件確保改善対策室長
鈴木職業安定局派遣・有期労働対策部企画課長

○議題

(1)独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)による「多様な正社員に関する裁判例の収集・分析」について
(2)雇用保障について
(3)その他

○議事

○今野座長 それでは、始めたいと思います。

 ただいまから第10回「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」を開催いたします。

 本日は雇用保障についての議論をしたいと思っておりますが、雇用保障については多様な正社員に関する解雇裁判例にどのような傾向があるかを踏まえて議論することが有益と考えられますので、まず労働政策研究・研修機構から解雇判例の収集・分析の調査研究について御説明をいただいてから議論をしたいと思っております。

 それでは、まず出欠状況、資料等についてお願いします。

○村山労働条件政策課長 本日は黒田委員、櫻庭委員、水町委員から御欠席の御連絡をいただいております。

 黒澤委員はおくれていらっしゃるようでございます。

 続きまして配付資料ですが、2分冊ございます。

 まず資料1という分厚い資料が、今ほど座長からございました労働政策研究・研修機構の先生方から御説明いだく「多様な正社員に関する解雇判例の収集・分析」の関連資料でございます。

 最初14ページまでが説明資料で、それ以降に個別の裁判例について記載、整理していただいた資料ということになってございます。

 別冊といたしまして横置きでございますが、資料2-1が雇用保障に関する論点ペーパー、資料2-2が「多様な正社員」の雇用保障の関連資料となっております。また、後ろのほうに参考資料として規制改革会議等の資料ですとか、産業競争力会議等の資料なども含めてつけているところでございます。

 資料について不備等ございましたら事務局までお申しつけいただければと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

○今野座長 それでは、議事に入りたいと思います。

 まず労働政策研究・研修機構から、多様な正社員に関する解雇判例の収集・分析について御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

○山本研究員 それでは私どものほうから、多様な正社員に関する解雇判例の収集と分析の結果について御報告申し上げます。

 この研究の目的でありますが、御承知のとおり職務(職種)や勤務地等につき限定が付されている「多様な正社員」制度の導入が重要な政策課題になっているわけでありますが、特にこの雇用、中でも解雇をめぐるルールのあり方に注目が集まっているところであります。すなわち、このような多様な正社員の解雇のルールというのは、そういう限定が付されていない、いわば従来型の正社員における解雇のルールと違うのか否か。違うとすればそれは一体どういう点で違うのかというところが議論の焦点なのだと思われるところでございます。

 このような問題を考えるに当たりましては、従来、こういう職務や勤務地に限定が付されている無期雇用の労働者に対する解雇事案において、裁判所がどのような判断を行ってきたのかを検討してみることが有益であると思われるわけであります。しかし、現在のところこの点を網羅的に分析、検討した研究は存在しておりません。そこでJILPTのほうでは私、山本と細川研究員との2人で、従来、判例において解雇権濫用法理(現在の労働契約法16条)が確立して以降の時期における多様な正社員に対する整理解雇及び能力不足解雇に係る裁判例を網羅的に収集するとともに、そこでの裁判所による法的判断の傾向について分析を行ったところであります。

 まず、研究の手法でありますが、本研究で分析の対象といたしましたのは、以下の(1)、(2)、(3)の項目に該当する裁判例でありまして、かつ、一般的に公開されております判例集であるところの労働判例ないし労働経済判例速報あるいは労働関係民事裁判例集のいずれかに掲載されているものであります。

 (1)につきましては時間的な範囲についてでありまして、今回収集・分析いたしました裁判例の時間的範囲というのは、最高裁のレベルで解雇権濫用法理が確立したと言われるいわゆる高知放送事件(昭和52年1月31日)以降から現在、正確には平成25年9月1日まででありますが、この時間的範囲といたしました。

 次に、取り上げました事案の内容でありますが、これはいわゆる変更解約告知を含む整理解雇及び能力不足解雇の事案であります。ただし、中には例えば単なる退職金請求だったり、単なる未払賃金請求のようなものも交じっていたわけでありますが、ここで取り上げましたのはあくまで解雇の有効性にかかわっている事案でありまして、こういう単なる退職金請求や未払賃金請求のように、解雇の有効性に全く関係のない事案はここでは除外したところであります。

 さらに(3)の項目でありますけれども、職務・勤務地につき限定がついている解雇事案を取り上げたということであります。もっとも、私どもここで言う限定というものはある程度広く捉えております。すなわち職種、勤務地について労働契約等において最初から明示的に限定が付されているという例のみならず、そういうはっきりとした明示がなかったとしても、採用の経緯や就労の実態等から見て何らかの形で限定が付されているということを前提に裁判所が判断を行っていると解し得る例をも含めて、分析の対象としたところであります。

 その結果、この(1)、(2)、(3)全ての項目を満たしました裁判例は合計で61件ございました。添付資料として別紙で配付していただいている分析対象判例に掲載している61件であります。

 内訳でありますが、整理解雇が34件、能力不足解雇が26件、やや例外的になりますが、整理解雇と能力不足解雇が両方とも問題となった事案が1件ございまして、合計61件であります。

 この61件の各裁判例につきまして、個表及び整理表というものを私どものほうで作成いたしました。整理解雇につきましては配付していただいております資料の15ページから開始しておりまして、かつ、能力不足解雇につきましては112ページから開始しておるところであります。それらはあくまで資料でございますが、私どものほうではさらに裁判所による法的な判断について傾向分析を行いましたので、本日はこの裁判所の傾向分析について御報告申し上げる次第であります。

 まずは整理解雇につきまして、細川研究員から御報告させていただきます。

○細川研究員 労働政策研究・研修機構の細川でございます。

 私のほうから今、山本研究員から紹介がありました裁判例61件のうち、整理解雇に関する事案、ここには便宜上、今、山本研究員から紹介がありました整理解雇と能力不足両方が問題になった事案も含めた合計で言うと35件になりますが、35件の裁判例の傾向について御説明させていただきたいと思います。

 なお、今の山本研究員からの説明について若干補足を申し上げますと、多様な正社員、限定正社員についての裁判例の収集・分析となっていますけれども、そもそも何をもって多様な正社員とか限定正社員かというのはなかなか難しいところがありますので、私どもの今回の研究については、多様な正社員という定義に当たるかどうかはともかくとして、山本研究員より説明のあった職種や勤務地について何がしかの限定が付されている、あるいは限定性について問題となった事案を幅広く分析しようという趣旨のものでありますで、その点をあらかじめ御承知おきいただければと思います。

 2ページ目真ん中辺からになりますが、整理解雇事案に関する傾向分析について御説明させていただきます。

 整理解雇の事案について限定性が問題になっている事案35件のうち、職務あるいは職種の限定というものが問題となっている事案が22件、勤務地の限定が問題となっていると思われる事案が7件、職種及び勤務地の双方にかかわる限定性が問題となっている事案が6件という状況でございました。

 このうち順を追って説明させていただきますと、職種について今、申し上げますと「職務上の地位を特定し」とか「職種を限定し」などの表現により、裁判所が判決においてこの労働契約、労働者は明確に職種が限定されているのだということを明示的に裁判所が認定した事例は22件のうち7件でございました。これに対して、そこまで明確に契約上この労働契約は職種が限定されている、職務が限定されているという認定をしてはいないものの、後で御説明申し上げます採用の経緯や就労実態等から見て、何がしかの形で限定というものが存在しているだろうということを、そういった認識を前提に裁判所が判断を行っているというふうに理解ができるのではないかという事案について、15件存在いたしました。

 そこに事件番号を幾つか振ってありますけれども、これは以下も同じですが、先ほど山本研究員より紹介のあった15ページ以下の資料における事件番号、それから、別紙で配付させていただきました分析対象裁判例の事件の番号と一致しているところでございますので、御参照いただければと思います。

 次に、勤務地限定にかかわる事案については、7件のうち4件は明示的に勤務地の限定というものが存在するということを認定した事案でございまして、他方、3件はそのように明示的に限定しているとまでは述べてはいないものの、何がしかの限定が存在していることを前提に判断しているものが3件ということでございました。

 さらに職務及び勤務地の双方に係る限定性が問題となった事案については、3件が職種、勤務地双方について明示的に限定があるということを認定した上での判断がなされておりまして、3ページ目に行っていただきますが、1件については勤務地について明示的に限定がある。かつ、職種についても明示的な限定までは認められないものの、一定の職種についての限定が存在しているということを前提に判断しているもの。さらに勤務地については限定性を明確にしつつ、しかし、職種については何がしかの限定が付されているだろうということを前提として判断したものが1件。それから、これはやや特殊な事案でありますが、使用者側のほうでこの労働者、労働契約は勤務地及び職種の双方に限定した契約なんだと主張したのに対して、裁判所のほうでそれはいずれも否定されるというように判断した事例も1件ございました。

 それでは、今、申し上げたような限定性というものについて、裁判所がどのような。

○神林委員 済みません、ちょっとここで1点だけ確認をしたいのですけれども、事件番号16というのが(3)と(4)双方に入っていて、多分どちらかは26の間違いだと思うのですが、チェックをしていただけますか。

○細川研究員 大変失礼いたしました。職種、勤務地ともに明示のところの一番上の16となっているところは26の誤りでございます。大変失礼いたしました。ありがとうございます。

○神林委員 これ、こうやって表にしてくれるとわかりやすいです。

○細川研究員 わかりました。ありがとうございます。後でまとめるときに参考にさせていただきます。

 では、続けさせていただきます。

 今、御説明申し上げたような限定性ということについて、どのような要素をもとに裁判所が判断しているのか、それぞれの裁判例について調べましたところ、以下の要素が考慮されているというふうに言えると思います。大きく分けますと、この整理解雇の事例については下の表にございますが、職種限定、職務限定の事案については大きく分けて採用の経緯、第2に契約書や就業規則等の記載、第3に就労の実態、待遇等という要素を考慮しているという傾向がございました。もっとも一つ一つ細かく見ていきますと、どちらかと言うと契約書や就業規則等の記載よりも、それ以前の採用の経緯及び一番下の就労の実態、待遇等に着目して限定性を判断している。採用の経緯については具体的に申し上げますと、当該労働者の学歴や職歴、応募の経緯、それから、使用者側の採用の動機・目的。つまり使用者がある特定の目的をもって、こういう職種あるいは職務をこなす能力を持っている労働者を採用しようと考えて採用を行ったとか、そういった動機・目的が考慮されているということでございます。

 2つ目の契約書や就業規則等の記載はそのままでございまして、第3の就労の実態・待遇等についてもう少し細かく見ますと、重なってしまいますけれども、就労の実態。もう少し具体的に申し上げますと、ある特定の業務に従事し続けてきた、あるいは逆に他の業務に従事したことがあったかなかったか。あるにしてもそれがどの程度あったかといった要素が考慮され、次に配置や異動の運用実態、当該職種についての企業内の位置づけ、それから、数はそれほど多くありませんが、というか、それぞれ1件ずつしかございませんが、他職種との賃金制度や労働条件の違いあるいは高処遇について報酬が非常に高いということに着目した裁判例もございました。

 4ページ、これに対しまして勤務地限定の事例についてでございますが、大きく分けますと先ほどの職務・職種に関する事例と重なる部分もある。つまり採用の経緯や契約書等の記載、就労の実態等というふうになりますが、職種・職務限定事案との違いということで申し上げますと、まず採用の経緯については採用の権限や決定を行っていた者が誰だったか。つまり例えば特定の支社であるとか支店の長などが、実質的には採用の権限を有していたといった要素が考慮されるケースがあるということでございます。

 2つ目、3つ目については大きく違いはありませんが、4つ目として労働者側の私的な事情が考慮されている。これはどういうことかと申し上げますと、労働者側の個人的なプライベートな事情等で、勤務地を動かすのが難しいといった事情があるといった要素も、勤務地の限定契約になっているということを裁判所が認定するなり、そういった認識をするなりの要素として、どうもファクターとして入ってくるようだということでございます。

 それでは、以上のような限定性の判断ということを前提としまして、では、その限定性についての裁判所の認識が、具体的に法律の判断、解雇の有効性その他に関する法律判断にどういう影響を及ぼすかについて、次に説明をさせていただきたいと思います。

 まず総論といたしまして、全体的な傾向を前提として申し上げておきたいと思います。

 まず第1に限定性があるということを、そのことのみを理由として直接にいわゆる整理解雇法理、4要件とか4要素というふうによく一般的には言われますが、こういった判断枠組みを採用しないということを、一般論として明言している裁判例はございませんでした。

 他方で、限定性のゆえにであるかどうかは必ずしも判然としないところがあるのですが、結果としていわゆる4要件、4要素に基づいた判断とは異なる判断枠組みを用いたというふうに読みとれる裁判例がございます。

 詳しく見ていきますと、まず端的に就業規則等に記載のある解雇事由の存否、解雇事由があるかどうかということに基づいて判断した事例が3件、それから、いわゆる現在で言うと労働契約法の16条に規定のあります解雇権の濫用があったかどうかということを端的に判断していると読める事例が3件、それから、いわゆる整理解雇の4要件、4要素で述べられている4つの要件、要素がございますけれども、そういった要素を判断要素として含みながら、しかし、別の要素を入れたりとか、その4つのうちの2つしか判断しなかったとか、そういったようにして全体としてはいわゆる整理解雇4要件、4要素に基づく判断とは異なる枠組みで判断したというふうに評価することも可能であると読める事例が6件ございます。それから、その他1件とございますが、この1件というのは派遣あるいは請負どちらと評価するのは難しいところなのですが、その事例で派遣先の仕事が急遽なくなったということで、内定取り消しになったという特殊な事例でございまして、これはやや特殊な事例として異なる判断、枠組みを用いているということで、こういった4要件、4要素そのままの判断を用いなかったと読みとれる事例が13件あったということになります。これに対しまして何らかの限定性があるということを前提としながらも、いわゆる整理解雇法理4要件、4要素型に基づいて判断したと理解できる事例が22件でございます。

 また、判断について全体的な傾向を見ますと、今、説明申し上げましたような限定性の態様について、あるいはそれが解雇回避努力等の義務等に与える影響、この点についてはこの後、説明しますが、それのみならず、その他いろんな要素、経営上、人員削減が必要だったかどうか、あるいは解雇について手続の進め方がどうだったかということも考慮しながら、全体としては総合判断を行うというのが全体的な傾向としては言えるのではないかと思います。

 それでは、もう少し具体的にその判断の影響について御説明したいと思います。

 まず、大きく限定性というものが判断に影響を与えるのは、やはり解雇回避努力というものについてでございました。具体的に申し上げますと、これは恐らく多くの方が勤務地なり職種の限定があるということを前提とした場合に、こういう判断になるのではないかと考えることだと思いますが、第1には配置転換と検討すべき範囲を限定する。つまり職種とか勤務地にそもそも契約上、限定されているということ、あるいは就労の態様が限定されているということから、整理解雇を実施する場合に配置転換できる範囲も限定されてくるだろうということで、配置転換等を検討すべき範囲を限定するという事例がございます。

 ただし、その下、真ん中あたりに※印で書いてありますけれども、こういった解雇回避努力に関して配転等、検討すべき範囲を限定するようなことを述べている裁判例においても、職種の限定があるから直ちに配転等検討すべき範囲が限定されているというふうにストレートに述べている事例というのは必ずしも多くはなく、実際、裁判所が何をやっているかというと、多くのケースではこういった事案の場合に労働者側としては解雇する前にこういうところに配置転換できる可能性、それによって解雇回避できる可能性があったのではないかというような主張があり、そういった労働者側が主張した配置転換の可能性がある職種等について、客観的に見てそこに配転するのは難しいだろうといった事情があるということをあわせて、そういったことであればおよそ困難な配転先について、それが可能かどうかわざわざ検討するということをしていなかったとしても、解雇回避努力違反にはならないという判断を導くケースが多いと思われます。

 他方で、限定性があるからといって配置転換等の解雇回避努力が限定されるわけではない、あるいは少なくとも解雇回避努力の義務が完全に消滅するわけではないという立場をとっていると解される裁判例も多く見られるところでございました。

 ただし、6ページに行っていただきたいと思いますが、では、そうすると全く限定性がある労働者とそうでない労働者で同じ結論になるかというふうに考えますと、6ページ目の※印がありますが、限定性があるということになりますと、先ほど申し上げた物理的、客観的に配置転換できるかどうかということについて、一定の制約が実質上は生じるということになりますので、限定性や、それゆえの職務能力等の限界等が相まって、結果としてこういった限定性のある労働者について配置転換の可能性がないのだ。だから整理解雇が有効だという結論につながるケースも散見されるところでございました。

 このほか解雇回避努力と言えば、希望退職募集というようなものがございますけれども、限定性があるということをもとに、希望退職募集の範囲を限定しているというふうに読める事例も存在しているところでございます。

 それから、先ほどの物理的な配置転換の可能性ということに関連してでございますが、7ページに行っていただきたいと思いますが、確かに限定された就労をしているということで、配置転換をするのが困難だと。では配置転換しなくてもいいかというふうな直接的にそういう結論になるかというと、裁判例の中には確かに現状で限定されている労働者を職種転換、配置転換するのは、他の職種に移ったりするのは難しいだろうということを前提としながらも、しかし、教育訓練等を行えばそれは十分可能性があるのではないかということで、そういう職種転換のための教育訓練等の努力を使用者に求めているというふうに読みとれる事例もございました。

 ただし、こういった事例の場合については、多くの場合、ある特定の部門を閉鎖することについては合理性はあるけれども、企業全体として見るとそれほど経営が苦しい状況にはないなどの事情があり、つまり、そういった職種転換のための教育訓練等のコストを負担しても、それは企業にとってそれほど酷ではないといった、そういった認識を前提としてこういった考慮を働かせているのかなというふうにも読みとれるのではないかと思います。

 8ページ、勤務地限定に関する事案についてでございますが、やや特殊な判断として、勤務地限定の場合、当該勤務地には従事していた業務が消滅する。しかし、ほかの例えば事業所等に異動すれば、そういった仕事はあるというケースというのがままある。つまり、ある特定の勤務地について、その事業所そのものは完全になくなるわけではないけれども、そこでその労働者が就いていた仕事はなくなるというケースについては、考えられる解雇回避措置としては勤務地を変えて同じ仕事を続けてもらうという方法と、勤務地はそのままにして別の仕事に移ってもらうという方法等が考えられるわけでありますが、こういった事例について勤務地の移動による解雇回避措置では足りるとはせずに、むしろ勤務地限定を維持しながら、当該地域において別の職務に従事させるという形で雇用維持の努力をしなさいというふうに、使用者に求めている事例も見受けられるところでございました。

 以上が解雇回避努力に関する傾向となりますが、いわゆる整理解雇4要素、4要件のこのほかの要素についても判断に影響している事例が幾つか見られますので、簡単ではありますが、御説明させていただきます。

 8ページの下のほうに行っていただいて、人員削減の必要性について限定されているということで、その限定されている仕事がなくなるということであれば、そこに所属している人員が削減される必要性があるというのは普通でしょうということで、人員削減の必要性を裏づける要素として考慮している事例が見受けられます。

 同様の事情から9ページに行っていただきたいと思いますが、人選の合理性ということについて、まさに合理的な理由で閉鎖、縮減される部門、職種に従事した労働者が整理解雇の対象となるのは合理的と言えるでしょうということで、合理性を裏づける要素として考慮しているものが見られます。

 最後になりますが、限定性があるということで、端的に当該解雇の合理性を裏づける結論に結びつけている。4要素4要件を実質的に検討しないというような、ある種、直接的な判断をしていると読める事例もございました。

 ただし、こうした事例というのは職種とか勤務地とかいうよりも、さらに限定的に、例えばこの4件の事例のうちの1つを申し上げますと、これは中国の現地法人の社長になってもらうということを目的として契約をして、現地から撤退をするということで、そうであれば整理解雇はしようがないでしょう。現地法人の社長をやってもらう予定で採用した人を日本に戻して一営業職をやってもらうわけにはいかないのでというような、やや極端な例になりますが、そういった考慮のもとに極めて非常に限定された職種の契約というふうに評価できる場合は、それがなくなれば解雇が合理的であるという結論に導かれる事例も、読みとれる事例もあるということでございます。

 やや駆け足になりましたが、整理解雇の事案に関する傾向分析としては以上でございます。

 続きまして、能力不足の事案について山本研究員からお願いします。

○山本研究員 それでは、能力不足解雇事案に関する傾向分析について、山本から報告させていただきます。

 まず限定性に係る争い、明示の有無というところでありますが、大前提としまして当たり前の話かもしれませんが、整理解雇とは異なりまして能力不足解雇の事案におきましては、限定性が問題となりましたのは職務ないし職種の限定のみでありまして、勤務地限定が問題となった事案は1件も存在しなかったところであります。

 その上で限定性の明示に関してでありますが、職務上の地位を特定し、あるいは職種を限定し等の表現によって、職務ないし職種の限定が明示的に認定されている例は、全26件中11件あったところであります。整理解雇に比べてやや多い方法ではあります。これは恐らく能力不足解雇の事案においては例えば医者とかあるいは教師のように、ある程度高度な、専門的な職務に就いている労働者が原告となるパターンが多いことから、こうなっているものと推察されるところであります。

 他方、職務なり職種限定が明示的には認定されていないものの、先ほど細川研究員から御説明いただいたところの、いわゆる黙示的な限定を前提に裁判所が判断を行っているものと解し得る事例は、14件存在したところであります。

 なお、職務の限定について明示的に職務の限定が否定されているのですけれども、限定性の有無によって能力不足解雇の判断の基準が一体どういうふうに変わってくるのかということを一般的に述べた裁判例として、事件番号49がございましたので、明示的に否定されているのですけれども、参考判例等があると考えられましたので、ここでは分析の対象に挙げているところでありますが、この点は後ほど詳しく説明することにしたいと思います。

 続きまして、職務ないし職種の限定性に関する判断要素について見ていきますと、整理解雇と比較しますと採用の経緯に絡む判断要素が、能力不足の事案では多いように見受けられるのが特徴であります。細かく判断要素を見ていきますと学歴・職歴・能力、能力というのは特に語学力なのですが、こういうものや、あるいは募集広告等への記載、使用者側の採用の動機・目的、他職種と採用試験を別に実施していたということであったり、その仕事は一体どんな能力が要求されるのかということを労働者側が採用の時点でちゃんと認識していたという事情であったり、中途採用であるという事情であったり、職種・能力に関して俺はこんな能力を持っているんだということを、労働者が積極的に面接のときに言ったという事情であったり、高処遇、要するに高い賃金が採用時に約束されていた、こういう諸要素がございますが、傾向的にはやはり本人の経歴であったり、使用者側の採用、動機、目的に着目して限定性を認める判断が多いようであります。

 その他の点で申し上げますと、契約書の記載であったり、あるいは就労の実態、待遇といいますのは整理解雇と共通していたところでありますが、その下で挙げております請求の形式というのと人事制度の態様というのは、能力不足解雇に特殊な判断要素であります。ここで言うところの請求の形式といいますのは、事件番号38フォード事件でありますが、この事件では原告労働者側が俺は人事部長という地位にある、そういう特定の地位にあるんだということの確認を求めて裁判所に訴え出たという事案でありましたが、裁判所はその点を捉えて、この労働者の職務は人事部長に限定されていたのだろうと判断する一要素として捉えていたところであります。

 他方、その下の人事制度の態様というところでありますが、事件番号4154と挙げておりますが、これらはいずれも在日米軍の事案でありまして、ここではまさにいわゆる典型的な欧米型のジョブ型の人事制度がとられていたわけでありまして、したがって、明示的な職種の限定が認められていたというわけでありますが、在日米軍の事案に関しましてはやや特殊でありますから、これは後ほど改めて取り上げることにしたいと思っております。

 とりあえず能力不足解雇事案において、職務の限定性について裁判所が考慮していた判断要素は以上であるということでございます。

 その上で、限定性が法律判断に及ぼす影響の態様というところを見ていきたいと思いますが、まず大前提といたしまして、これは整理解雇と異なる点でありますが、能力不足解雇の事案におきましては、判断枠組みについて明確に一般論を述べているものはほとんどございません。わずかにペーパーの9ページの上にあります事件番号61、ブルームバーグ・エル・ピー事件というものが、能力不足解雇事案における解雇権濫用法理で言うところの客観的に合理的な理由の有無に関する判断のあり方について述べていたところでありますが、このような形で一般論を述べた事案というのはこの1件のみであります。

 その他の事件におきましては、基本的にこういうような一般論を述べることなく、事実認定をざっと行った上で、では原告の行為が就業規則上の解雇事由に該当していたか、あるいは使用者側に解雇権濫用があったかということを端的に判断するという例にとどまっているわけであります。

 このことを確認した上で、職務の限定性が具体的に一体どういう形で解雇の適法性判断に影響を与えているかということについて見ていきますと、まずは解雇事由該当性の判断についてある程度の影響が見られます。すなわち裁判例の中には当該職務あるいは職種に求められる能力あるいは期待の高さに即して、主に就業規則上の解雇事由該当性を労働者側にとって厳しく、要するに解雇が認められやすい方向で判断するというものがありまして、このパターンが数的には大多数でありました。

 典型例は、その下に挙げております帝国興信所事件という事件でありまして、これは興信所の調査員に対する能力不足解雇が問題となった事案でありまして、この興信所には内勤職という普通の事務員もいたのですけれども、裁判所はこの労働者は調査員としての職種の限定がなされているものと解すべきであって、その解雇事由の有無を判断するに当たっても、調査員としてもそれが基準とされるべきであるという形での判断を行っているところであります。

 次に、その下の(3)でありますが、試用期間中の解雇に関しても一定の影響が見られます。といいましてもこれはわずか1件だけなのでありますけれども、かなり高い能力が要求される労働者の採用に当たっては、その適格性を審査するために試用期間を置くということ。及びそこにおいて広い解約権を留保するということが、ある種の専門性ゆえに正当化されるんだというふうに述べる裁判例が1件、見受けられたところであります。

EC駐日代表部事件という事件でありますが、これはEC駐日代表部の報道室において広報勤務に従事しているAランク職員というかなりランクの高い職員として採用された労働者が、試用期間満了後に本採用を拒否されたという事案でありましたが、裁判所はEC駐日代表部が右のようなAランクという高いランクの職員の採用に際して、適格性の審査を十分に行うため試用期間を設けて解約権を留保するのは、このような雇用形態をとらない場合に比べてより強い合理性を有するものということができ、本件契約において留保された解約権の行使は、ある程度広くこれを認めることができると言うべきであるという判断を行っているわけであります。わずか1件ではございますが、こういう例も見られたということであります。

12ページ、さらに能力不足解雇事案におきましては、これは整理解雇の事案と同様、通常はその解雇時に解雇回避措置をとることが求められるわけでありますが、限定性が認められている事案では、この点についてもある程度の影響が見られたところであります。

 まず見られましたのは、他職種への配置転換や降格は不要である、そういうことをする必要はないと判断するものがありまして、このパターンが合計で4件ございました。典型例は先ほども少し出てきましたが、フォード事件という事件であります。この事件では、これは高裁判決でありますが、原告は人事本部長というポジションに地位を特定した契約であるということを認めた上で、判旨の下から3行目あたりですが、フォード自動車Y社はXを人事本部長として不適格と判断した場合に、改めて異なる職位、職種への適格性を判定し、当該部署への配置転換を命ずべき義務を負うものではないと解するのが相当であると判断しております。これは要するにそういうことをそもそも検討する必要がない、そういう義務がないという判断をしたわけでありますが、もう一つのパターンとして、そういう配置転換や降格というものが不可能である。やろうと思ってもできないというふうに判断するものもあります。典型例は朝日新聞社事例というものがありますが、これは新聞社の医務室に歯医者さんとして雇われた人ですけれども、この人は能力不足を理由に解雇された事案でありますが、裁判所は歯科医師という専門職としてY社に雇用され、他の職場へ配置転換することができないことも考慮すれば、この労働者に対して解雇をもって対処することが、社会通念上相当性を欠くものとは言えないと判断しているところであります。

 このように、他職種への配転や降格を不要あるいは不可能とする例が合計で9件ほど見られたところがありますが、他方で1件だけではありますけれども、当該労働者が行う業務の専門性が高くない、専門性が低い場合においては、使用者の解雇回避措置、解雇回避努力義務の範囲は限定されないんだということをはっきり述べる裁判例も、1件見受けられたところであります。これが東京エムケイ事件であります。これはタクシー運転手が2種免許を失ったがゆえに解雇された事案でありますが、裁判所は例えば医師であった者が医師免許を失った場合、当然に病院事務員に配転することはできないし、解雇することもある程度やむを得ないと解されるが、ほとんど専門性を有しない業務を行う労働者については、ある程度使用者側の必要性に置いて配置転換できるし、特定の業務ができなくなっても解雇することはできず、他の職種に就けるべきこととなると、すなわちそういう労働者に関しては解雇回避努力義務の範囲は限定されないんだと述べた事例も1件見られたところであります。

 なお、傍論的ではありますが、職務あるいは職種の限定が明示的に否定されている場合における解雇回避努力義務の範囲に関して、そういう場合には使用者は広く解雇回避努力義務を負うんだというふうに名言している裁判例が1件、先ほども若干出てきましたけれども、事件番号49というものがございまして、中川工業事件という事件でありますが、これは参考判例となり得るかと思いましたので、ここでは挙げているところであります。

 さらにその1つ下のアスタリスクのところでありますけれども、もう一つ、能力不足解雇事案に特徴的なものとしまして、その能力の低下、能力不足に至った経緯というものが、いわゆる労災、労働災害に起因する事案においては、仮に職種について明示的に限定が認められたとしても、解雇回避努力義務の範囲は限定されないという判断を行うものがあります。

 これは全日本空輸事件という事件でありますが、これはCAさんが労災に遭って従来の業務へ直ちに復帰できなくなったという事案で能力不足解雇されたという事案でありますけれども、裁判所は下から5行目、直ちに従前業務に復帰ができない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業または休職に至る経緯、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに解雇することはできないと言うべきであると、ある程度広く使用者に対して解雇回避努力義務を履行しなさいよということを言っているわけであります。

 ちなみに、このような理屈は必ずしも能力低下の原因が労災に起因する場合に、その対象を限っているわけではないのですけれども、ただ、私が見た限りにおいては、能力の低下が私傷病に起因する事案では、このような判断は行われていなかったところであります。

14ページ、その他の解雇回避措置に関する影響について見ていきたいと思いますが、数は多くはございませんけれども、解雇する前に教育訓練措置をとるということ、これを不要とするという判断を行ったものがあります。代表例はヒロセ電機事件という事件でありまして、これもかなり主事1級という高い地位で中途採用された労働者に対する能力不足解雇の事案でありますが、裁判所は上から3行目のところで、こういう労働者は長期雇用を前提として新卒採用する場合と異なり、Y社が最初から教育を施して必要な能力を身につけさせるとか、適性がない場合に受付や雑用など全く異なる部署に配転を検討すべき場合ではないと言っておるところであります。

 さらにその下の(3)というところで、これは主に医者に対する能力不足解雇の例でありますが、事前に注意とか指導とか警告というものをする必要はないと判断するものがあります。例えば自警会東京警察病院事件におきましては、これは医者である労働者が患者からクレームが多いということを理由に解雇された事案でありますけれども、裁判所は既にXは免許を取得した医師として医療行為に従事しているのだから、Xのような自己研さんに努め、自分自身で行動を規律すべきであり、日々のコミュニケーション等の問題について指導医等から注意・指導があったか否かは、本件解雇の効力を左右するものとは認められないという判断を行っているところであります。

 このように限定性に伴う法的判断、法律判断への影響というのは、さまざまなバリエーションがあったわけでございますけれども、最後に先ほど少し出てきました在日米軍事案における特殊性という点について見て終わりにしたいと思います。

 あくまで特殊な事案ではございますが、いわゆる在日米軍基地で就労するために日本国に雇用されている労働者に対する能力不足解雇が問題となった事案におきましては、労働者の職種には明示的に限定が当然付されております。これは在日米軍基地におきましては、労働者はそれぞれの職位ごとにその職務をなすものとして採用されて、一旦、採用された以上は原則としてほかの職場に再度応募し、採用しない限りはほかの職務を行うことはできないという、まさにジョブ型の人事制度が採用されているためであります。

 もっとも、このような労働者に対して能力不足を理由に解雇を行う場合には、アメリカと日本との間で締結されている基本労務契約(MLC)というものの第104aにおいて、解雇を行う前にとるべき解雇回避の措置というものが定められておるわけでありまして、この事案では裁判所は解雇回避措置については、専らこのMLC104aが定めるとおりの措置(手続)がとられたか否かを判断しております。この点についての肯定例は事件番号41、否定例としては事件番号54があります。

 このMLCなるものが、日本国の労働者との間との労働契約を一体法的にどういうふうに規律しているのかという点につきましては、若干不明な部分がありますが、これはもしかすると民間企業においても恐らく限定正社員について就業規則等で解雇回避措置というものを規定している場合においては、やはりそれは少なくとも書いてあることはちゃんと履行しない限りは、解雇は違法となるということについてのインプリケーションを、もしかするとこの在日米軍の事案は与えているというふうに言えるのかもしれません。

 ということで駆け足ではございましたが、私どもが調査いたしました多様な正社員に関する解雇判例の収集・分析の結果ということで御報告させていただいた次第であります。

○今野座長 ありがとうございました。

 それでは、御意見、御質問お願いします。

○佐藤委員 資料で2つだけ確認なのですけれども、4ページのところの整理解雇の総論部分のまとめ方のところの理解で、最初のポツと最後のポツなのですけれども、整理解雇の法理、4要素のところを採用しないと言っているものはない。総合判断と書かれているのは、基本的には4要素で議論を進めるのだけれども、特に解雇回避努力義務のところで例えば事業所が限定されても、一応、別の事業所に同じようなやれる仕事があるかどうかとか、職務が限定されていても仕事の種類によっては専門が低ければ移せるのではないとか、こういうものを考慮しているという理解でいいかということが1つ。それが総合的ということなのかというのが1つ目です。

○細川研究員 御質問ありがとうございます。

 今、先生から御指摘いただいたとおりでありまして、限定があるということから、限定しているから、それは明示的な限定であってもそうなのですけれども、契約上、限定しているから直ちに別に解雇回避努力をしなくていいとか、あるいは整理解雇4要件を使わなくていいということをまず一般論として述べているものはないということが1つ。つまり「限定性があれば、直ちにいわゆる整理解雇法理が適用にはなりません」という論理を一般論として導いている事例がないということが、そういうものが実際になかったということです。そういう一般論を述べた裁判例はなかったということを1つは確認しているということであります。

 この一番下の点については、まさに先生の御指摘のとおりでございまして、限定性があると言っても限定の態様というのはいろいろございますし、また、これは限定性の有無にかかわらずと言えることかもわかりませんが、当該企業において配置転換等の解雇回避措置をするだけの余力がどれぐらいあるか。実際上どれぐらい可能かというのは、それぞれのケースによって異なるので、そういった事例に応じて判断しているというふうに、全体的な傾向としては言えるのではないかということでございます。

○佐藤委員 もう一つは3ページのところで、職種限定の実態としてまず限定の仕方が就業規則上、限定しているのは少ないですね。実態として限定されているものが多いので、ですからこれがもし今回のものが全部就業規則に限定されていた。少ない3件を想定すると、ほかのものも限定されていると、今、言ったような総合判断が違ってくるかどうかという話なのだけれども、運用として限定されているものがすごく多かったわけです。それを前提として総合判断のところ、つまり就業規則できちんと限定されている場合と、運用上で総合判断が違ってくるかどうか、印象でいいのですけれども、それが1つです。

 それと関係して、逆に総合的に判断するというのは限定性がない場合との違いは何なのだろうか。回避努力義務のところも、していない場合と何が違うのだろうか。これもやや余り法律家が議論することではないのかもわからないのだけれども、ほかに動かせるところがあるかないかで考慮するというのが、限定性があることによって多少違うのかどうか。していない場合と。

○神林委員 全然違うのではないですか。

○佐藤委員 そうですか。それならいいのだけれども、そこを教えていただければ。それで終わりです。

○細川研究員 ありがとうございます。

 まず就業規則と限定の判断要素になっているケースというのは、確かに3件しかないというのは非常に少ない。この点をどう理解するのかというのは難しいところだと思いますが、これは竹内先生、山川先生いらっしゃいますので、両先生にもお伺いしたいところでもありますが、これは私の個人的な印象ですけれども、1点はまず契約書にそういうふうに限定が仮に書いてあったとしても、結局、運用がそうなっていないということだとすると、結局その記載があるということは裁判所の認識としては紙に書いてあるだけで、実際はそうはなっていないでしょうということになると、その紙に書いてあるということを大きな要素としては考えないのではないかという点が1点ございます。

 もう一つの問題として、例えばこれが配置転換の命令を受けて、それを拒否した。例えば懲戒処分を受けたみたいなケースだと、まさに配置転換できるかどうかということが大事なので、そうすると契約がどうなっていたのかというのはすごく大事な要素になるのですけれども、結局この整理解雇の事案というのは、整理解雇をするために一定の解雇回避措置を含めていろいろな考慮をして、使用者も解雇回避の努力その他いろいろなことをしなさいよという、そういういろんな要素を考慮して、限定性があって、その結果、解雇回避の範囲がどうなるかというのは、あくまでそのファクターの1つにしか過ぎないので、結局その事案についてどういう状況にあって、解雇回避措置として企業がとり得た、あるいはとり得べき措置というのはどういうものだったかということが、むしろ裁判官の関心というか判断する上で重きを置く要素になっているということなので、契約書の記載がどうだったかということを、そこまで限定性の有無について重視していないという可能性はあるかと思います。

○佐藤委員 3ページ下の就労実態で限定されていて、問題になったのか。この事案でも就業規則で限定されていたとしても、一切判断には影響がなかったということか。極端な議論なのですが。

○細川研究員 この点は正直申し上げて、わからないとしか。というのは、我々は判決文に出ている事実だけを確認することしかできないので、判決文に書いていないことはわからないというのがあります。

○今野座長 今の2番目の質問はいいのですか。限定性のない社員と。

○細川研究員 限定されていなかった場合と比べて、限定されていたことによって総合判断が相当違うということか?

○神林委員 今、手元で計算してみたのですけれども、職務の限定がないと8件中8件が4要件判断になっているのですが、職務が明示的に限定されているとはっきりと、4要件判断しているのが11分の4なので、職務に関しては明示されていればされているほど4要件判断にはいかない。黙示を認められた場合にはその中間に落ちています。でも、興味深いのは、勤務地に関してはほとんど違いがないです。なので職務に関してはどういう判断枠組みを使うかということに多分、影響しているのですけれども、勤務地に関しては恐らく影響していないと思います。

○今野座長 私から質問よろしいですか。5ページの解雇回避努力、配転等を検討すべき範囲なのですけれども、(1)は範囲を限定するのですね。(2)は限定しないのですね。でも(1)も結局、先ほど言われたけれども、限定しているが、それは客観的に動かせないという意味で限定しているのです。だから(2)も結局、限定していないけれども、動かせないからいいよと言ってしまっているから、実は(1)と(2)はほとんど基本的には一緒で、そうすると論理としてはちゃんと配置転換の検討すべき範囲は極端に言うと無限に考えろと、範囲としては最初。でも物理的、能力的に無理だからだめという判断枠組みではないかと思うのですけれども、どうですか。これは(1)、(2)結局同じことを言ってしまっているという気がしたのです。

○細川研究員 御指摘いただきありがとうございます。

 今の5ページの(1)と(2)は、結局、同じものではないかという御指摘について、同じというのは正直断定しにくいですが、かなり近い部分、重なってくる部分はある。つまり、範囲を限定すると言っているけれども、しかし、それは前提として限定があるから結局できる範囲が配置転換とか解雇回避できる範囲が限られているので、だからその範囲でやればいいということと、確かに限定性があるから直ちに解雇回避努力の範囲が限定されるわけではないと言いながら、しかしそれが物理的にできない、客観的にこれは無理でしょうということについては、それは結果として検討していなかったとしても、それはやむを得ないというのは、確かに裏表という表現は正しいのかわかりませんが、そういう意味では同じことを裏から言っているというふうに言えなくもない。

 結局、限定性のゆえに配置転換の範囲が限られる、あるいは配置転換等の解雇回避措置をとらなかったということが、裁判官としてはこれは許容されるというのは、結局できるかできないか。1つはできるかできないか。仮に物理的にできるとしても、それを企業に強いるのが妥当かどうかということを判断していると評価せざるを得ないのかなという点がございます。

 その点に関連して、先ほど神林先生から御指摘のあった職務の限定のケースでは効いてくるのではないかという御指摘があったと思うのですが、職種限定の、これは単純に数でそもそもそういう傾向が言える言えないと言えるほどのサンプル数がこれだけしかないというものがありますので、そういう評価をしていいのかという点は1つは留保しておく必要があるだろうという点が1点と、もう一点、職種の限定として私どもが取り上げた事案の中には、先ほど少し述べたかと思いますが、ものすごく職種を限定している事例というものがあって、そういうケースはその仕事をすることしかおよそ当事者間で想定していないという事案なので、その職種の仕事がなくなるということについて、それはしようがないよねということが前提としてあるのであれば、その結果として解雇となるのはしようがないよねという事案がこの中に含まれている。

 勤務地の場合は少なからぬケースにおいて、少なくとも場所を動かせば同じ仕事がある可能性があるということと、勤務地が限定されていて、事業所そのものがすこんとなくなるというケースと、勤務地が限定されていて、かつ、職種もある程度限定されているというケースの場合に、その勤務地においては職種がなくなったというケースがあったりということで、勤務地の限定についてはいろいろまだほかに解雇を回避する手段というものが考えられるのではないかというふうになる傾向にあるという、そういう事実としての問題があるのかなというのが私の個人的な認識ということだと思います。

○今野座長 追加で、すごく職務が限定される非常に特殊な例は除いて考えてみます。あるAという仕事をしていました。それで限定されて働いています。もう要りませんということになりました。そのとき企業はAという職務を経験して、Aの職務に関連した能力を持っている人ができる仕事を前者について探さなければいけないかどうかなのです。それだけなのです。探す必要がないというのだったら(1)と(2)は違うかなというふうに思うのだけれども、(1)でも探さなければいけないのだったら一緒かなということなのです。(2)は最初から探せということでしょう。(1)は探す必要はないのかなと。でも先ほど※印にあったけれども、客観的に配転が困難である事情の存在とあわせてだから、探すのでしょうね。

○細川研究員 そうですね。不可能ではないので、ただ、困難だという事情を考慮していて、不可能であるということまでは言っていないという点は、ある程度考慮できると思います。

 あと、1つの傾向として2点補足的に申し上げますと、1つは恐らくこの有識者会議等の過去のペーパーとかを見ても、そういうことが確認されているのではないかと思いますけれども、そういうある程度限定があるような働き方をしている労働者の整理解雇等の事案についても、結局、企業は限定しているからってすぐ解雇ということをしているかというと、実はそれなりの解雇回避措置は取っているということはどうも実際の実務としてもそうなっているようですし、裁判例においても実は我々が分析した事例も、全く何もしていないでいきなり解雇している事例は非常に少なくて、多くの場合、ある程度解雇回避としての配転先を検討したのだけれども、見つからなくて解雇した。それに対して労働者がこういうこともできたのではないか、ああいうこともできたのではないかということでどうですかというふうに議論されている事例なので、端から何もしなくてもいいかどうかということが正面から争われた事例というのはほとんどないので、過去の裁判例からその点を導き出すのは、正直難しいということがあるのではないかと思われます。

○神林委員 ただ、ロジックとしては契約書に書いてあるから配転できないという理由になるのか、それとも、その人個人の能力を見たときに配転する場所がないというふうに考えるのかというのは全然違う話だと思うので、それはきちんと区別して書かないといけないのではないかと思います。裁判例からそれはわからないかもしれませんけれども、例えばこの東洋酸素事件というのがここに挙がっていますが、この事件の内実は、争われていることというのは酸素工場に配転できるかどうかということが争われているわけですけれども、このアセチレン工場で働いていた人たちは、技能からして酸素工場には行くことはできないんだということを企業は証明しようとするわけなのです。被用者側はそうではないということを証明しようとしていて、判決文にはこういうふうになっていますけれども、実際に争われているのは、その労働者がそこに行く能力があるかどうかということを争っているわけなので、整理の仕方はもう少し工夫をしたほうがいいのではないかと思います。

○今野座長 でも先ほどの議論からすると、いかに契約書にこの仕事だけと書いてあっても、契約だけに基づいて配転なしというわけにはいかないというわけなのでしょう。裁判事例としてはそういう感じなのではないですか。どうなのですか。先ほど人事部長の中国の社長とか、非常に特殊なところを除くと、やめましょう。

○佐藤委員 質問なのですけれども、神林さんの先ほどの整理で職種限定と勤務地限定のところで、勤務地限定のほうが裁判例を見ると限定していてもほかの異動できるかを探せって、職種限定の場合、ほかを探せというのに比べて、勤務地限定のほうが探せというのが強いという理解でいいですか。

○細川研究員 私どもが調べた傾向としては、何でそうなっているのかというのはいろいろ議論があるとしても、その傾向は強いのかなと見てとれます。

○今野座長 ほかにいかがでしょうか。山川委員、どうぞ。

○山川委員 大量の裁判例を細かく見ていただきまして、大変参考になる有益な検討結果だと思います。

 先ほどの座長のお話との関係では、5ページの(1)と(2)は確かに相対的なもので、義務がなかったというのか義務は尽くしたと言うのかというような違いで、確かに職種限定と勤務地限定とで違いがあるような感じはあるのですが、なぜそのあたりが曖昧になっているかというと、1つは職種限定とか勤務地限定ということ自体の判断がなかなか難しいといいますか、明示的なものでない。ここでも恐らく限定されているのではなかろうかということで分析していますので、現実になかなか限定するかどうかというのは曖昧な部分で、そこで運用でやっているというところが(1)と(2)が余りきっちり分けられないところに影響しているのかなと思います。逆に言うとなかなか一般的なルールとして、入口のほうで切ってしまうのは難しいという実態がもしかしたらあるのかもしれないという感じがします。

 もう一つはコメントとしては、解雇回避努力の中身の問題、整理解雇の話でありますけれども、ここで問題にしているのは基本的には配転による解雇回避努力ということですが、若干触れられてはいますけれども、その他の回避努力が検討されることもあるということで、例えば13番だったでしょうか。配転はできないけれども、退職金の上乗せと再就職のあっせんを考慮するという事例がありますし、大隈事件は転勤は求められないけれども、他店舗での新規採用抑制はやっているという事例ですとか、スカンジナビア航空の変更解約告知も整理解雇として取り扱われている事件も、退職金の上乗せあるいは契約内容の変更という形で、やや限定されている場合に解雇回避努力というよりも、もう少し広めに見ていくという傾向が余り大きくはないのですけれども、あるかなという感じはします。

 整理解雇についてはとりあえず以上です。

○竹内委員 これは若干感想的コメントということになるかと思いますけれども、先ほどから神林さんが多分、手元でいろいろクロス集計的なことをなさっているのだと思うのですけれども、私も聞いているうちにいろいろとクロスでやってみたのですが、整理解雇のところだけで時間がなくてやっていないのですが、総論で述べられている判断枠組みというのと、これは2ページで述べられているような何についての明示の限定とか黙示の限定とか、そういうふうなことと判断枠組みを並べてみたのですけれども、明確な傾向はそこにはないかなと。明示で限定しているからといって枠組み自体を限定するというわけでもないし、黙示だからといって直ちに違う枠組みをとっているというわけでもない。そこはかなりばらばらで、ただ、勤務地について言えば黙示であれ明示であれ、これは4要件、4要素の判断枠組みに全部乗っかっている。数はそもそも7件しかないのでサンプルは小さいですけれども、基本的にはそんなに差がない。結論で見ても限定の仕方によって結論に差が明確に出ているかというと、そんなには明確に、明示で限定しているものは結論だけ見ると有効としているものが多いとは言えますけれども、黙示の場合だと大体半分ぐらいになっていて、そんなにはっきりしたところはないのかなという感触を持ちました。

 もう一点、これは先ほど少し議論が出た職務の限定の場合だと、これは黙示と明示でということなのかと思うのですけれども、判断の枠組みが違うといいますか、4要件、4要素の枠組みに乗っているか、総合判断に乗っているかというところが違うというお話等がありましたが、それに関して1点補足をすると、確かに違いは出てきていると言えると思うのですが、4要件、4要素の枠組みでない枠組みに乗っていたとしても解雇権濫用法理一般でいくとか、4要件、4要素として知られている枠組み以外でいくとしても、そこの中でも解雇回避のような形のことを検討しているとか、判断の実際の中身の違いというのがどこまで離れているかということについては、もう少し詳細に分析をしないと、整理解雇の4要件4要素の枠組みとそうでないものというのが当然に建学をしているということは前提にしないほうがいいかなと。そこはもう少し分析をする必要があるかなと思います。

 とりあえず以上です。

○今野座長 ほかにいかがでしょうか。

 能力不足のことなのですけれども、枠組みは比較的こちらのほうが簡単で、職務があって、それに求められている能力が明示化されて、それを持っているか持っていないかで決めればいい。これだけの話なのですけれども、そのときに例えば持っていないときに持てるように訓練をしてあげて、するかしないかということについては判例上は全部訓練しなくてもいいというものですか。

○山本研究員 判例で出てきておりますのは、配置転換を打診しなくていいというものと、教育訓練をしなくていいという、両方みられる。

○今野座長 配置努力のほうは何かばらけていたような気がするのですが、訓練努力のほうは2件しかないけれども、不要というものが2件で、それだけなのです。これは不要なのですか。つまり判例では不要しかないですよ。どうなのですか。あと事前の注意もそうなのですけれども、事前の注意なんか要らないという判例が3件で、要るという判例はないとなっているわけです。そうすると、これだけを単純に考えると事前に注意しなくてもいいし、教育もしなくていいし、能力がなかったらすぱっとという話になるのですけれども、そこは判例にないからわからないですかね。

○山本研究員 しかも要するに訓練をしなくていいという事実、注意警告をしなくていい事実、それだけで結論を出しているわけではなくて、ほかのいろんな諸事情を考慮して、その中の1つとして、そういう訓練とか事前の注意指導をすべき場面ではないということを1つの要素で結論を導いているだけですから、なかなかそこは分析が難しいところです。

○神林委員 比較の対象なのですけれども、能力不足の解雇に関しては、職務や勤務地が明示されているか黙示されているかという区別しかないですね。つまり限定されていないという事件について調べていないのですか。

○山本研究員 限定されていないものに関しては、分析対象とはしていません。

○神林委員 比較をするときに、限定されていない事件と限定されている事件の間の判断枠組みの違いというのが欲しいわけなので。

○山本研究員 労働者に対する解雇を何と比べて判断が緩いあるいは緩くないというのをするかというのは、我々も最初のほうでかなり検討をしたのですが、典型例を見出すというのはなかなか難しいですね。唯一挙げたのがペーパーの13ページの真ん中の中川工業事件というものなのですけれども、これが唯一我々が調べた中で限定されていないとはっきり言った上での判断枠組みを示している例としてわかりやすいものがあったので、これは参考例として挙げていますが、我々は基本的に裁判例61件を出すに当たっては、何らかの形で限定されているということを前提に抽出しましたので、そこの何と比較してというところは確かに大事な点ではあると思いますけれども、ここではまだそこまで至っていないということであります。

○神林委員 多分そこが曖昧なので、先ほどの整理解雇の話も、整理解雇の事件の場合には職務の限定と勤務地の限定という2つの二次元があったので、結局、職務の限定のほうではピックアップされなかったのだけれども、勤務地の限定のほうではピックアップされていますという事件があるわけです。それはその事件の内実としては、職務の限定に関しては争われていないということになると思うのですけれども、もし仮にそれが限定がないという契約だと考えられると、3×3のマトリックスができるわけなのですが、能力不足のほうがそれができないのです。そうすると何と何を比較するのかというと、黙示と明示を比較して違いがないというのはあり得ないことではないかなと思われるのですけれども、やはり欲しい情報が限定されていないときと限定されているときの間の違い、一番大きいのは明示と限定なしです。

○山本研究員 能力不足解雇に関しましては、先ほどレジュメの11ページで申し上げたのですけれども、要するに一般的な判断枠組みを示している例がほとんどないわけです。その点でも整理解雇のほうは比較的限定があろうがなかろうが、一般論的な優遇例が多いですから、比較的問題が出てくるのですが、能力不足解雇の場合、一体無限定である場合に一体どこまで解雇回避努力義務を負うのかということをはっきり言った例というのがなかなかないですので、この中川工業事件が例外ですけれども、そこでの比較というものが難しいというところが1点あります。

○竹内(奥野)委員 横からの形での補足ということになりますけれども、神林さんがまず御指摘するとおり、限定正社員について雇用保障についてどう考えるかという点では、限定されていない人のルールと違えるべきか違えるべきでないか等を比較しながら検討していくことになると思うのです。それは御指摘のとおりだと思います。

 整理解雇について言えば整理解雇法理と呼ばれるものがあって、それは、これまでは半ば留保をつけずに、基本的に長期雇用のもとにある、いわゆる正社員を念頭に置いた法理だということで考えてきており、ある意味、比較のルールというものがあるのだという理解だと思うのです。能力不足のほうは確かにそこの点がはっきりしないということで御指摘があったのだと思います。その点はよく理解できると思います。

 今、山本さんが御指摘されたことと同じになりますけれども、解雇に関する研究論文で整理解雇については過去、裁判例の分析ということはかなり数年前から、あるいはもう少し前からたびたび行われてきて、10年ほど前から行われてはいるのですけれども、能力不足の解雇の分析については限定ある場合に限らずですけれども、これまで裁判例の労働法学者による分析自体がそれほど多くなくて、比較的最近、そういう論稿が幾つか出されている状況にあります。ようやくそこに来ているという状況にあることが、1つの、必ずしも別に2人の報告を弁護するつもりではないですけれども、事情としてはあります。

 その上でこのプルームバーグ・エル・ピー事件が一般論を述べているのですけれども、このような形で一般論が述べられたというのは確かにこれまでないのですが、一応、補足的に申し上げますと、こういうふうな一般論は述べられていないのですけれども、非常に著名な例としてはセガエンタープライズ事件ですとか、エース損害保険事件とかがあり、そこでは、新卒採用された長期雇用の下にあるとに考えられている人たちの事例について、教育訓練をするとか警告をするという形である意味、チャンスを与えて、改善の機会を与え、それでもだめだったら解雇ということで、それを何もやらずに直ちに解雇というのはいけないという、一般論は述べていませんけれども、具体的な判断の中では一応そういうふうな考え方が示されていまして、ですので法律の研究家としては能力不足解雇について、いわゆる無限定の場合には基本ルールとしてはそういうふうな改善のチャンスを与えて、その上で、それでもなお改善の見込みがないということであれば、濫用とは言えないだろう、という一応の理解があると思います。

 もう少し言うと、改善のチャンスを与えずに、いきなり解雇するのは濫用だというルールなのですけれども、それがある意味、基本線にあると、かなり数は少ないのですが、過去の裁判例の分析から言えば無限定社員について言えば、そういうふうなルールが一応下級審裁判例の中では形成されているかなと言うことができます。ですので、議論としてはそれを参照しつつ、そういうふうなチャンスを与えることが、改善の機会を与えるということがどこまで求められるかどうかというのを対比していくことになろうかなと思います。補足でした。

○山本研究員 ありがとうございました。

 1点追加といいますか、能力不足解雇に関しましては26件抽出したわけですが、よく26件もあったなというのが純粋な感想であります。といいますのは、我々が調べる過程で能力不足の事案というのは大体が懲戒解雇に至っているのです。能力が足りないパフォーマンスをした。そういう人は大体職場秩序を乱しているのです。したがって、それに対して懲戒解雇を行う。そうすると懲戒解雇の効力の問題になるわけです。

 ただ、そうすると現在は労働契約法16条の前提のお話をしていますが、懲戒に関しては労働契約法の中に別のルール、15条というものがございますので、そちらのルールの話になりかねないので、その懲戒的な能力不足解雇に関しては今回、除外しているところで、そこまで広げるのであれば、もしかするともう少し見えてくるものがあるかもしれませんが、一応そういうものを今回スポイルしていますから、現在のような分析結果に至っているということでございます。

○山川委員 先ほどから問題になっています勤務地限定と職種限定とで違いがあるのではないかという点で、能力不足の点はもちろん職種限定にのみ恐らく問題になると思うのですけれども、整理解雇について言えば、かなり解雇回避の発想といいますか、勤務地限定の場合は仮に解雇回避努力に義務違反がないとしても、そこで検討されるのは受け入れ先があるかどうかというお話でしたけれども、職種限定の場合、特に専門能力を持っている人の場合はやっていけるかどうか。専門能力に限らないかもしれません。要するに受け入れ先があるかどいうか、やっていけるかどうかというのは影響するのかなという感じが、明示的にそういう議論はなされていませんけれども、します。

 能力不足の場合についてですけれども、12ページ、先ほど神林さんもおっしゃられたことだったかと思います。座長もかもしれませんが、12ページで配置転換や降格について不要と判断するものと不可能と判断するものとありますけれども、ここは比較の対象として言えば、限定していない場合については基本的にはほかの仕事を考えるというものが恐らくほとんどで、限定していると不要とか不可能という判断がふえる。比較すると恐らくそういうことになるであろうと思います。

 さらに竹内さんのお話の追加になりますけれども、14ページの教育訓練措置と事前の注意指導。これはやはり職種限定でない一般的な正社員の場合は、教育訓練措置も必要であるとするものも比較的多いと思いますが、問題は事前の注意指導や警告、特に警告についてはそんなに差がないかなと。つまりもともと専門能力を持っている人だとすると、教育訓練までは要らない。しかし、警告までは要るといいますか、考慮している事例が多いと思います。

 ざっと見たところですけれども、3842435258とか、そのあたりは事実認定として警告はしたとかいうことが出ているので、そこは余り変わらないのかなと思いますけれども、いずれにしても教育訓練措置が不要であるとか配転が不要であるというのは、この点は雇用の目的といいますか、そういう専門的能力を持っているから職種限定で採用して、それだけのお金が払っているというような雇用の位置づけみたいなところが影響しているのかなという感じがします。余り整理していないのですけれども、とりあえずそんな感じのコメントです。

○今野座長 今の点でちょっといいですか。今おっしゃられた通りなのですけれども、職務限定とか職種限定の多くの人たちは、そんな専門性が必要でない人たちが人数としても多い。ただ、販売職だけですよというぐらい。そうすると少し訓練すれば事務職に回せたりとかいうことが想定されたときに、教育の努力義務はないのですか。

○山川委員 専門職があるからそれだけの賃金を払っているという場合と、そうでない場合とで差があるかなという感じはします。

○佐藤委員 山川先生が言われた勤務地限定の場合仕事があるかどうかということで、職種限定の場合やっていけるか。それはあれですかね。勤務地限定で職種限定されていない場合は、そこの事業所の中でいろんな仕事をやってもらえるようなことを人事権を持ってやっていた。だからそういう意味では行った先で仕事ができるかどうかというのは、経営側の責任だという理解でいいですか。

○山川委員 そういうことになると思います。いわば企業にとっての労働力の価値の評価のあり方は少し違う。抽象的に言えばそんな感じです。

○神林委員 少し前に戻ってしまうのですけれども、今野さんがおっしゃったことを敷衍すれば、結局、能力不足の解雇なのですが、職種の限定、勤務地の限定がなければ、およそこういう留保はつかないと考えればいいわけですね。そう考えると半分近くの件数といいますか、事件で留保がついているということは、やはり職種や勤務地が限定されていると能力不足の解雇をするときの判断基準に多少留保がつくというふうに判断することができるのではないかと思います。

○山本研究員 ただ、職務に限定がついているから、直ちに基準がよくなるという話ではありませんで、なぜついているかというと、それはクオリフィケーションの高い仕事のために採用されて、中途採用でヘッドハンティングとか即戦力の目的とされているにもかかわらず、そういう能力を持っていなかったという、そこを捉えて解雇事由該当性があるとか、そういう判断に至っているわけで。

○神林委員 だからこそ100%にならないわけですね。

○山本研究員 そうです。

○神林委員 この判断基準がある意味、限定されていないものと変わらないという事件がある程度散見されるわけで、そういうところというのは恐らく実質で判断していて、ちゃんと面倒を見ましょうねという。

○山本研究員 事件番号55の東京エムケイ事件は、その他のものでは典型的なケースだと思います。

○今野座長 先ほどの流れで、単純に言うとハイレベルの人はやらなくていい。低い人は考えてねという感じですね。

○山本研究員 誤解を恐れずに言えば、そういう事件も見られるということであります。

○神林委員 ただ、その辺はもう少し詳しく言う必要があるのではないでしょうか。というのはどういう理由で職務なんかが限定されているかというのが、そちらの判断で明示的に限定されているのと、黙示で限定されているもので分けると、結構かなり分かれますね。はっきりと。例えば募集広告への記載というものがある場合には、これが明示されているとみなしますけれども、逆に言うと労働者側の説明とか、あるいはその他、あとは契約書等における記載となると黙示で限定されていたと見なしているわけなので、裁判所が判断するときにどの程度、どういう格好で限定というものがなされていたのかというのが今、言った判断に影響を及ぼすというのはあり得ると思いますけれども、それは多分、統計的に見るとハイレベルの人のほうが明示的に限定することがあると思いますので、コリレートしていますけれども、ロジックとしては全然違うロジックなので、そこは判決文だとわからないかもしれませんが、裁判資料のほうに限定に当たれば結構ちゃんと見られるのではないかと思います。

○細川研究員 神林先生の今の御指摘で、1つなるほどなと思って私が考えたことなのですが、今後多様な正社員なり限定正社員なりという形でどうなっていくかはわからないのですが、あくまで私ども昭和50年ぐらいの、まさにこれまでの裁判例を見ているわけで、従来わざわざ限定して契約する、あるいは限定して働くという場合に、何のためにそれをやるかと考えた場合に、勤務地は割と労働者側も使用者側も多分ある程度、例えば労働者側からとってみればいろいろな事情があって異動ができないとか何とかということで、割とこういう目的で限定して、契約して働く。あるいは契約してとまで言えるかわからないけれども、限定して働くということが想定しやすいと思うのですが、職種とか職務ということについては今、神林先生からまさに御指摘があったのではないかと思いますが、まさにハイレベルな能力を持っている人というのは、まさにそういう能力を求められて使用者側も採用するし、まさに当該の労働者から見ても、こういう能力をある種、こういう言い方は語弊があるかもしれませんけれども、買ってもらって、それで高い報酬をもらうなり何なりして働くということで、まさに限定して働くという目的というのがはっきりしていると思うのです。

 私は自分のとりあえずきょうの担当は整理解雇なので、整理解雇の事例を改めて見て見たのですが、採用の経緯のところで、採用の経緯で判断しているといった場合には、その中でも使用者側の採用の動機、目的で見ている事例が、数の上では5個ということが基本多かったのですが、6番、10番、30番というのは、いずれも外資系などでハイレベルな職務を目的としているものですし、30番というのは先ほど来、何回か話題に出ている中国の現地法人の社長になってもらうというものですし、33番は大学の准教授ですから、そういう人だとまさに職種を限定して働いてもらうという目的はよくわかるのですけれども、ではそういう人でない人が何のために限定して働いてもらうのか、働くのかというところが、少なくとも従来の裁判例を見る限りは、そこは必ずしも明確ではないということが影響しているのかなというふうに思った次第です。

○今野座長 ここでは何度かそういう情報が出たのですけれども、実態からしたら限定する種類というのは職務限定はすごく少なくて、勤務地限定が多い。時間限定だとほとんどない。もう一つは職務限定の場合、そういうデータが出たかわかりませんけれども、組織の下に行けばいくほど多分、職務限定ではなくて広め職種限定になっている。販売員なんていったらいろんなものを売っているわけだから、上に行けば行くほどピンポイントになってくると思うのです。この職務というふうになってくる。だから多くの人たちというのは広めの職種限定社員だというのが前提だと思うのです。

○佐藤委員 今野先生、11ページ36の帝国興信所事件なのだけれども、これは内勤と調査職でしょう。これは高度だと書いてあるけれども、いろんなスキルの人がいるわけです。だから入社3年目とか4年目で互換性ないなんてうそですね。そんなにレベルは高くないです。だけれども、採用とかで給与が違うからって総合判断していますね。だからここだけわからないけれども、多分、調査職がスキルが高いというのはうそで、実際上はいろんなスキルの人がいますね。上のほうはそうです。だけれども、入口で新卒でとったりしたらば、入社3年目、4年目なんていうのが実際上はいるわけで、ただ、異動はさせないし給与は少ない。本人も入るときに自分は調査職をやりたいといって入っているし、内勤も選んでいます。多分、これは本当にスキルが高いからということかというと、これだけ見ると今野先生が言われたようなものが実際、一方的に判断しているのではないか。

○今野座長 つまりある限定といったときに、今の調査員の限定というのは調査員の仕事しかないのです。ランクが低くても。でも、普通のところはスーパーで売り場と言うと広いのです。だから上と下というのは変な言い方だけれども、下のほうで言っても狭くやっている場合と広くやっている場合がある。

 ほかにいかがでしょうか。そろそろ時間かなと思っているのですけれども、よろしいですか。それでは、何か言い残したことはありますか。これを最後言っておきたいと。

○山本研究員 今、申し上げたことですが、明示、黙示を一体どういうふうに切り分けるのかというのが今、されているお話なのかと思います。我々はあくまで判決文の中で、その職種に限定しとかいう言葉が出たら、それを明示というふうに捉えてやっております。そういう文言が出てこなくても、何らかの形で限定はあるだろうと思えば黙示というふうに入れておりますから、この切り分けのおかしさが今の議論のところにつながっているのかもしれませんが、一応そういう形で我々は明示と黙示を切り分けていることはございます。

○細川研究員 せっかくなのでもう一点なのですけれども、今回、私どもの調査で分析の対象としなかった事例のパターンが2点あるので、そこを一応補足しておきます。

 1つは、そもそも限定されているということを当事者同士も認識していて、そこは特に何も主張していなという事例というものがあるのです。例えば証券会社とかの営業職みたいな人とかだと、当然、会社側はもちろんですけれども、労働者側も自分たちはそういうノルマで働くような仕事で、それが達成できなかったら解雇になってもしようがないみたいな認識でいるケースというのはあって、そういう事例だと労働者側もそこは争わない。つまり、ほかにも配転されて解雇回避措置すべきだみたいなそもそも主張しなくて、その解雇事由に該当するようなものがあったかどうかだけがその争いになっている。そういう事例だと、限定についての判断というのは裁判所の判決としては全く出てこないものですから、そういう事例というのは今回としては分析対象になっていないということが1点。

 もう一点、今、議論になったところで、実は似たような事例といいますか、ある部門でずっと働いていて、その部門を閉鎖することにしたから整理解雇みたいな事例は、実は結構あるのですけれども、そういう事例というのはたまたまそこの部門にいたというだけで、限定という契約になっているとはおよそ考えにくいですし、当事者も余り限定されているとは思っていない。ただ、使用者側はそういうときにここで働いていて、ある種、限定とは言わないですが、そこの部門がなくなってから整理解雇するのは当然でしょうみたいな事例は幾つかるあので、それは限定とまでは言えないので、しかも裁判所もたまたまそこにいた部門が閉鎖されたから、そこにいた人が解雇というのが合理的になるとはさすがに裁判所もほとんど言わないということなので、そういった事例については今回、分析の対象外としているということは一応、補足として御案内申し上げておきます。

○今野座長 ありがとうございました。

 先ほど神林さんも幾つか宿題を言っていましたので、もし面白い結果が出たらまた教えてください。ありがとうございました。

 それでは、きょうは雇用保障について議論しようということですので、事務局からまず説明いただけますか。

○岡労働条件確保改善対策室長 それでは、資料2-1をごらんいただきたいと思います。今、JILPTから判例の分析をしていただきまして、ほとんど繰り返しになってしまいますけれども、論点ペーパーとしてまとめてございます。

 1ページ、限定性についてということで、今、JILPTから発表がありました判例分析でございますけれども、勤務地または職種が限定されている無期契約労働者の解雇に関する裁判例の分析において、採用過程や就業の実態、慣行等から勤務地や職種の限定の有無について判断する裁判例が多く、就業規則や労働契約の規定で限定されているということで限定有りと判断した裁判例というのは少ない。なお、本懇談会における企業ヒアリングの8社だけでございますけれども、それを見ましても事業所閉鎖や職種を廃止した場合の人事上の取り扱いについて、就業規則などで規定する事例というのはなかったところでございます。

 次に解雇の有効性等についてということで、今の発表では有効・無効ということはあまり説明はされていなかったかもしれませんけれども、勤務地または職種が限定されている無期契約労働者の整理解雇に関する裁判例の分析において、限定性のゆえに整理解雇法理の適用を否定する裁判例はなく、また、整理解雇法理及びこれに準拠した枠組みで判断したものがほとんどであるという御説明が先ほどありました。

 また、勤務地や職種の限定性があっても、解雇回避努力が必要とするもの、その範囲が限定されるわけではないとする裁判例も多々ありました。さらに解雇回避のために教育訓練の実施などを求める裁判例もありました。

 整理解雇法理とは異なる判断枠組みを用いたと解し得る裁判例があるということでしたけれども、これについても解雇事由の存否あるいは解雇権の濫用の有無ということで判断しておりまして、限定性ゆえに直ちに解雇が有効としているわけではないということだったかと思います。むしろ限定性ゆえに解雇回避努力が限定されるわけではないとする裁判例もあったところでございます。

 2ページ、他方、限定性ゆえに解雇回避努力の範囲を限定する裁判例、影響する裁判例と言ったほうが正確かもしれませんけれども、そういった裁判例とか、あるいは人員削減の必要性、人選の合理性等の判断において限定性を考慮する裁判例もあったかと思います。

 なお、事務局によるヒアリングにおきまして、事業所閉鎖等の際に解雇する旨を就業規則等で規定する企業について幾つか聞いてみたのですけれども、そういった企業においても他の事業所への配置転換等を行うことをあわせて規定している企業ですとか、あるいはそういうことが書いていなくても、実際には配置転換が困難なときに限定して解雇という事例が見られたところでございます。

 その他、これもJILPTの別の研究事例でございますけれども、事業所閉鎖等の際に就業規則で解雇する旨を規定する場合であっても、他の事業所への配置転換を進めたりして、本人の同意が得られない場合には、解雇というよりは合意退職という事例が多いということであります。

 勤務地や職種が限定されていると認められた事案において、事業所閉鎖の際に企業が社員の雇用維持のために勤務地や職種が限定された正社員を命令で配置転換や職種転換することについて、これを有効とした裁判例もあるということでございます。

 以上のことから、勤務地や職種が限定される場合であっても、解雇権濫用法理は適用され、解雇回避努力等が求められることが多いわけですけれども、解雇の有効性の判断に当たっては、その限定がないいわゆる正社員とは必ずしも同列に扱われるとは限らないのではないか。多少影響するのではないかという話が先ほどあったかと思います。

 同様に、職種が限定される場合の能力不足解雇についても、限定がある場合は限定がない、いわゆる正社員とは必ずしも同列に扱われるとは限らないのではないかということが言えるのではないかと思います。

 最後は論点らしい論点かもしれませんけれども、勤務地や職種が限定される場合の解雇の有効性の判断について、先ほど限定がない場合とは必ずしも同一ではないということを申し上げましたけれども、そういったことについて法令等で明確にすべきという意見が、この懇談会でも経済団体へのヒアリングのときにあったかと思います。そういった意見についてどのように考えるかということでございます。

 以下、3ページ以降は参考で雇用保障に関する資料を幾つかつけてございます。

 まず3ページ目は当懇談会におけるヒアリングでございまして、先ほど申し上げたように就業規則等で事業所等が閉鎖した場合の扱いを規定したものはなく、もし仮にそういった事態になった場合には、ほかの勤務地への配置転換等で対応するというところばかりでございました。

 4ページ、5ページはJILPTの別の研究事例でありますけれども、この場合も、事業所を閉鎖するという場合にはほかの事業所を紹介して、本人が望まないときは、その場合は雇用契約を解消する、あるいは再就職支援を行って別のところに就職してもらうということでございます。

 5ページ目のところは、実際にJILPTのほうで企業に、事業所閉鎖の場合は直ちに解雇するということが最近言われているけれども、そういった主張についてどのように考えるか、ということをインタビューしたものでございますが、製造業のE社については、そういったことをすると、そもそもよい人材が集まらないのではないか、というようなことを言っております。もう一点は、今、グローバル化しているのでむしろ国内の勤務地限定というよりは、むしろ無限定といいますか、広い範囲で働いてもらうほうに視点がなっているということも言っておるところであります。

 同じく6ページは別の製造業F社に聞いておりますけれども、このF社についても事業所閉鎖の場合に直ちに勤務地限定正社員を解雇することについては、非常に違和感を覚えるとしています。というのも、そもそも会社としては事業所を閉鎖する前提でビジネスを行っているわけではない、経営の姿勢としては万が一閉鎖することになっても、やはりそういう有意な人材というのはほかの事業所で力を発揮してほしいということを言っているということで、先ほど議論の中でもありましたけれども、実務としても事業所がなくなったからといって、直ちに解雇ということは実際には行われないのではないかということでございます。

 7ページ、先ほど当懇談会でヒアリングした企業では、事業所閉鎖時の人事上の取り扱いについて定めている企業はなかったわけですが、厚労省のほうで以前行いました多様な形態による正社員に関する研究会の企業アンケートでは、約3割ぐらいの企業においてはそういう事業所閉鎖時の人事上の取り扱いを定めているところがあるということでございます。

 8ページ、これはわかりづらい資料で恐縮なのですけれども、勤務地限定正社員や職務限定正社員に他の雇用区分の人が転換を希望している場合に、ではその勤務地限定正社員あるいは職種限定正社員に転換した場合に、雇用保障はどの程度求めるかといったデータでございます。

 左上の勤務地限定正社員への転換希望についてですが、まず一番上の現在いわゆる正社員の人が勤務地限定正社員への転換を希望している場合ですけれども、その場合であっても転換後も遠方への転勤があり得る、いわゆる正社員と同様の雇用保障を求めている人が87.8%ということで、いくら限定はあっても雇用保障という点では正社員と同じと考えている労働者が圧倒的に多いということでございます。

 同じく右側に、職種限定正社員への転換を希望しているいわゆる正社員についても87.5%の人が雇用保障についてはいわゆる正社員と全く同じレベルを希望しているということでございます。

 9ページは佐藤先生が座長をされた、先ほどのデータ等の研究会でございますけれども、この中でもやはりそういう事業所閉鎖になった場合は、他の雇用区分への転換を勧めたり、あるいは近隣にある他の事業所や関連企業の事業所での受け入れの可能性を探る。それがどうしてもだめな場合に限って解雇せざるを得ないといったことが述べられてございます。

10ページ、これもJILPTの別の実態調査でございます。これは解雇と直接は関係ないのかもしれないですけれども、職種限定正社員あるいは勤務地限定正社員で職種あるいは勤務地が限定されているのだけれども、実際にはその他の職種へ配置転換することがあるか、あるいは転勤を命じることがあるかということでございまして、まず職種限定については25.8%、4分の1の企業では、実際には限定された職種以外の職種に転換を命じることがあるということでございます。同じく右側が勤務地限定でございまして、こちらについても14%の企業が実際には限定されている以外のほかの地域への転勤を命じることがあるということでございます。

11ページは今の調査の続きでございますけれども、では、そういった予定されていない職種への転換あるいは勤務地への転勤を命じた場合に、その後どうなったかということでございますが、まず左側でございますけれども、約17%が労働者側から拒否されたということでございます。その結果としてどうなったかということで右側でございますが、6割の企業はそのまま従来の配置のまま仕事を続けてもらった。他方、4割は結果的には折り合いがつかずに退職になってしまったということでございます。

12ページは前回あるいはその前におつけした、先ほども申し上げた事務局でヒアリングした事業所閉鎖の場合の取り扱いを定めている例をつけてございます。

 以下、経済団体のヒアリングの際の主張もつけてございます。

 少し飛ばしますけれども、16ページをごらんいただきたいと思います。これは参考として先週、4月25日に規制改革会議の雇用ワーキンググループがございまして、その際、厚生労働省から提出し、説明した資料をお付けしてございます。

17ページは、これまでの懇談会の経緯、議論の主な内容を御紹介しております。

 真ん中より下ですけれども、雇用管理上の留意点を取りまとめるということで、また、その後も今年度中にもいろいろな事業をやり、雇用管理上の留意点を踏まえて来年度もまた新たな支援措置を検討するということで説明しておるところでございます。

 私からは以上でございます。

○今野座長 ありがとうございました。

 何か御質問、御意見どうぞ。

○佐藤委員 2ページ目の下から3つ目のまとめ、限定されていても同列に扱われるとは限らないという、これはよくわかりませんという話なのだけれども、これでいいかどうかですね。だから限定していても一律に、限定されていた場合、回避努力義務、例えば職務限定であれば、その仕事がなくなったらほかの仕事に移すということが自動的になるわけではないのだけれども、多分そうなる場合とならない場合がある程度限定していて、ちゃんと限定されたように扱われる場合と、限定されていても扱われない、つまり限定されない、同列になる場合をもう少し整理したほうがいいかなと思うのですけれども、そういう議論をするのか、これでいいではないかというふうにするのかというのは、これから議論することかなと思ったということです。

○今野座長 最後の落ちどころをどうするかですね。

○竹内(奥野)委員 私も残った時間、何を議論するのか余りわかっていませんけれども、2ページ目の一番下3つというのは今、佐藤先生がおっしゃった議論がありましたので、先ほどもいろいろ議論が出ていたところとかぶりますが、下から3つ目の「以上のことから」という、ちょっと「以上のことから」がつながっているかどうかわからないのですが、1つだけ、最終的な落としどころをどうするかという話にもまた別途あるでしょうけれども、現時点の文章で補足だけをさせていただきますと、先ほども勤務地と職種の限定の場合とか、あるいは職種でもすごく、言い方はあれですけれども、専門的で高度なものとか、ある程度一般的な職なのだけれども、ある程度緩やかに限定しておくかとか、幾つかのバリエーションで判断の違いというものがあり得るので、個人的な感触としてはそこはある程度コンパクトに書く必要があるのでしょうけれども、ちゃんと書き込んだほうがいいなというのが1つあります。

 あと、勤務地とか職種の限定の場合というのは、整理解雇を念頭に置いて申し上げますと、確かに、解雇回避で配転をするだとか、そういうふうなことが必要となるかどうかという点で、整理解雇のいわゆる4要件ないし4要素と呼ばれるもののうちの2つ目で出てくる解雇回避努力のところが特に問題になるのは間違いないのですけれども、先ほどの報告でもありましたとおり、人員削減の必要だとか人選だとか、ほかのところの要素に影響するかしないのかということも考える必要がありますし、あと、例えば逆に手続はいい加減でいいかというと、それは多分変わらないのではないかとか、勤務地限定とか職種というのは整理解雇で言うと解雇回避努力には非常に関係をしていて、そこで違いが出てくるという議論はあり得ると思うのですけれども、ほかの整理解雇で求められる事情とかも当然考える必要があって、場合によってはいわゆる正社員の解雇の場合と区別なく考えられるべきものもあって、そうすると最終的な求められる規制の中身としては、例えば解雇回避のところは何か分析をすると違いがあるかもしれないと言えるかもしれないですけれども、そのほかのところを見ると必ずしも違いがないとか、あるいは違いを設けるべきではないとか、そういうふうな意味では解雇回避努力の程度というのと解雇の有効性の判断というか、最終的な判断のところというのは、少しそこはまた分けて考えておく、論じておく必要はあるかなという気がいたしました。

○山川委員 今の竹内さんの御意見と同じようなことになりますけれども、特に2ページ目の「以上のことから」と「同様に」のつながりについて、1ページ目に書いてあることだけを見ると全然変わりがないみたいに見えなくもないので、どちらかと言うと解雇回避努力が整理解雇の場合、必要であるものが多いと言えそうな感じがして、ただ、中には範囲が限定されるものもあるという感じという気がします。

 能力不足については明示的な資格がないような感じもするのですけれども、これも一概に言えないのですが、職種限定の場合は専門性の高さに応じて例えば配転、降格を不要としたり、教育訓練措置を不要としている。けれども、警告は考慮している事例は多いとか、そんなことかなという感じがします。同列に扱われると限らない。それは多分そうだと思うのですけれども、なぜそうなのかをもう少し説明したほうが、傾向的なことしか言えないというのも踏まえた上でですけれども、そのほうがいいかなと。これは論点ペーパーですから、これ自体どうのということではないです。

○今野座長 最終的な報告書の書き方ですけれども、こうすべきと書くパターンもあるし、今、山川さんがおっしゃられたように裁判例とかいろいろ見ると、こうした傾向が見られますと書くパターンもあるし、最終的にどちらにするか。前者のほうだったら難しいかなと思うのですけれども、後者だったら少し丁寧にこういう傾向が見られますから、多様な正社員を雇用する場合はちゃんと頭に置いておいてくださいねという趣旨ですね。それは最終的にどうするかですけれどもね。

 ほかにございますか。

○竹内(奥野)委員 あと一点よろしいですか。今の2ページのペーパーの一番最後のところで、これはまさしくこれから最終的に論じていくことなので、中身はどうのというのは特にないのですけれども、前回も議論したとおり、これはやはり人事に関する配転とか、そういうふうな権限の明示といいますか、契約の中身の解釈として限定されているかされていないかというところと関連する議論だと思っています。そこを念頭に置きつつ、今、議論をする必要があろうかと思います。

○今野座長 最後に私の感想をいいですか。今おっしゃられたことなのですけれども、前回、労働条件明示で制約YESNOぐらい入れようかという話になったのですが、あれからよく考えたのですけれども、何の意味があるのかよくわからなくて。

○神林委員 NOを明示する。限定していませんと宣言をする。

○竹内(奥野)委員 少なくとも両当事者の、契約内容についての、双方の理解のギャップ解消には役立ちます。

○今野座長 NOの場合。

○竹内(奥野)委員 どちらで明示させるということでしょうか。

○今野座長 でも、NOでもYESでもいいですけれども、中身ははっきりしないわけですね。

○竹内(奥野)委員 限定しないということを明示した場合には、限定がないんだということで、どこへでも配転される可能性があるということになると思います。

○佐藤委員 今回のを見ると、明示していないところがすごく多いわけです。実態の判例でも。だからそれがどうかかわったか少し議論しなければいけないのだけれども、やはり明示したほうが。それは今回の判例分析だけでは明示しておけばどう変わったかわからないのだけれども、実際に少ないのが問題なのかなという気がします。

○今野座長 大企業の状況を考えると、人事管理で社員をちゃんと区分していて定義したわけです。それは就業規則に書いてあるから、どの身分でいくかというのがはっきりすれば全部決まってしまうわけです。そういうことだと中身がはっきりするのだけれども、単なるYESNOはどういう意味があるのか。そこの解釈でまた紛争が起こるのではないか。よけいなことを言いました。きょうは終わりましょう。

○神林委員 1点だけ言い残しておきたいことがありまして、結局、その話の筋としては労使双方ともに職務に関して、勤務地に関して限定されているという争いがない場合、誰がどう見ても限定されていますというときには、恐らく整理解雇の4要件とは違う話になるということになるのか、そうだとしても整理解雇の4要件的な枠組みになるのかというのは大きな違いだと思います。

 つまり裁判例で行われていること、実際に紛争が起こるというのは、そこに関する意識が一致していないからですね。限定されていると思っていたのだけれども、限定されていないというふうに言うし、どの範囲で限定されているかということについても合意があるわけではないし、そこについて曖昧だと紛争になる可能性があるということは明らかなのですけれども、ここで話さなければいけないことは、それはどんなことをやったって曖昧になると思うのです。最終的には。けれども、もし仮に曖昧ではない合意ができたとしたらどうなるかということを話しておく必要があると思います。

○山川委員 その場合、先ほど勤務地限定があるということに力点を置くか、置かないということに力点を置くかというようなことも実務上の影響を考えたときに、例えばコース別管理の一般職です。そういう職種で実際上、余り動かさないという人に対してどういう行動が誘発されるか。そのあたりの実務上の影響も考えたほうがいいかなと思います。

 以上です。

○今野座長 ついでに、地域は限定されているけれども、職務は限定されていない人は限定ありなのか。まあいいや。

 それでは、終わりましょう。それでは、次回の日程についてお願いします。

○村山労働条件政策課長 次回の日程は調整中でございますので、改めて御案内申し上げますが、前回も最後にお願いして、本日の最後のほうの話はまさにそういうことになったと思っているのですが、明示と本日のお話ともう一度よく咀嚼させていただいて、一度そこのところをよく突っ込んで御議論いただくことができればありがたいと思っています。よろしくお願いいたします。

○今野座長 それでは、終わりましょう。ありがとうございました。


(了)

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 労働基準局が実施する検討会等> 「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会> 第10回「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会議事録(2014年4月30日)

ページの先頭へ戻る