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2014年1月24日 平成25年度 第4回 遺伝毒性評価ワーキンググループ議事録

労働基準局安全衛生部化学物質対策課化学物質評価室

○日時

平成26年1月24日(金) 15:30~


○場所

厚生労働省16階 労働基準局第1・第2会議室


○議事

○大淵有害性調査機関査察官 ただいまより、第4回遺伝毒性評価ワーキンググループを開催いたします。本日は、お忙しい中お集まりいただき、どうもありがとうございます。初めに事務局から、本日の出席者を御紹介させていただきます。参考資料1に参集者名簿がありますので、参考にしていただければと思います。

 参集者名簿は上と下に分かれていまして、上の5名の先生方が固定メンバーの先生方です。本日は、このうち太田先生は所用により御欠席です。それから、本日の追加参集者ということで4名の先生方にお越しいただいていますので、御紹介します。

 まず、本日、非遺伝性の発がん性のスクリーニング試験を説明していただくということで、お二方お越しいただいています。まず、一般財団法人化学物質評価研究機構の齋藤先生です。続きまして、一般財団法人食品薬品安全センターの田中先生です。それから、私どもの検討会の関係で、本日は遺伝毒性評価ワーキンググループですが、もう1つの発がん性評価のワーキンググループから、2名の先生方に追加参集者ということでお越しいただいています。初めに、国立医薬品食品衛生研究所の西川先生です。続きまして、静岡県立大学の若林先生です。そのほか、委員の先生ということではありませんが、本日、田中先生の発表のときに御一緒に説明していただくということで、同じ食品薬品安全センターの山影様と佐々木様にも御出席いただいています。よろしくお願いいたします。

 出席者の御紹介は以上です。以下の進行については、座長の清水先生にお願いいたします。

○清水座長 今日はお忙しいところを、まだ1月ではありますが、お集まりいただきまして、ありがとうございます。議事に入る前に、まず事務局から、議事次第と資料の確認をお願いします。

○大淵有害性調査機関査察官 それでは、事務局から確認させていただきます。まず議事次第ですが、まず1番目の議題として、「平成25年度のワーキンググループにおける遺伝毒性評価のまとめ」ということで、事務局から御報告をさせていただきます。2番目に、「非遺伝毒性発がん性スクリーニング試験の試験方法について」ということで、ただいま御紹介しました食品薬品安全センターの田中先生、化学物質評価研究機構の齋藤先生から、それぞれ御説明を頂きます。そのあと、平成26年度から私ども厚生労働省で、非遺伝毒性発がん性スクリーニングの試験を委託事業として予定していますので、その委託事業の試験としてどの試験を行うのが適当か、というような御議論をしていただく予定です。

 そのあと、大きく3つ目の議題として、その選ばれた試験方法について具体的にどういった物質を選定していくべきか、ということについて、本日は物質の具体的な絞込みまでは至らないかと思いますが、どういう方針で選定をしていくかというところを御議論いただきたいと思っています。

 議事次第は以上で、配布資料の確認をさせていただきます。1ページからの資料1-1は、WGの経緯と評価結果です。5ページからが資料1-2です。7ページは資料1-39ページは資料1-4です。

 資料2は、本日、田中先生から御説明いただく資料で、「発がん性検索のためのBhas42細胞を用いた形質転換試験の概要」です。資料3は「遺伝子の発現量測定に基づいた発がん性スクリーニング手法について」ということで、齋藤先生の説明資料です。

 資料4ですが、1ページからが資料4-13ページからが資料4-2-丸数字1、5ページからが資料4-2-丸数字2、9ページからが資料4-2-丸数字3です。資料4-3は、15ページからが丸数字1、17ページからが丸数字2、19ページからが丸数字3、21ページからが丸数字4、23ページからが丸数字5、25ページからが丸数字6、27ページからが丸数字7、29ページからが丸数字8です。

 それ以降の資料については、資料5が今後の予定、参考資料1が参集者名簿、参考資料2が発がん性評価の加速化についての詳細な資料です。事務局からお配りした資料は、以上です。そのあと、先生方に、田中先生からのA4のペーパーと、雑誌Mutation Researchに掲載された論文を追加でお配りしています。資料は以上です。

○清水座長 ありがとうございました。資料の不足はございませんか。よろしいでしょうか。それでは、議事に入りたいと思います。まず、議題1「平成25年度のワーキンググループにおける遺伝毒性評価のまとめ」ということで、事務局から御説明をお願いします。

○大淵有害性調査機関査察官 それでは、資料1-1から説明をさせていただきます。今年度のWGで、遺伝毒性評価について具体的な評価の関係を作業させていただいてきたのが、第2回、第3回のWGです。その経緯、最終的な評価結果を整理しましたので御説明します。資料1-1の前半については、前回までの資料で御説明していますので、ごく簡単に説明させていただきます。3ページの5「第3WGにおける検討内容」からが今回お配りした新しい資料になりますので、そこからは少し詳しく説明させていただきます。

1ページの1「事前準備」ですが、今年度の作業をする前の事前準備ということで、委託事業において619物質について情報の調査、整理を行ったというのが事前準備です。

2「第2WG前の委員の分担による評価」ということで、第2回のWGの前に委員の先生5名で619物質について分担をして、それぞれでまず事前の評価をしていただきました。評価区分等は、こちらに示しているとおりです。

2ページの3「第2WGにおける作業方針の決定」ということで、第2WGの前に事前の作業をしていただいたのですが、そのあとの作業方法をどうするかということで御議論いただきました。少しルールを整理し、その上でもう1回再評価をしましょうと第2回では決めていただきました。

 第2回が終わったあとに先生方に作業をしていただいたというのが、2ページの4「第2WG後の各委員の作業の結果」です。再度、新しいルールに基づいて精査していただいた結果として、619物質の評価ということで、「丸数字1遺伝毒性なし」が493物質、「丸数字2弱い遺伝毒性あり」が56物質、「丸数字3強い遺伝毒性あり」が16物質、「丸数字4遺伝毒性はあるが、強弱の判断不能」が3物質、「丸数字5遺伝毒性の有無の判断困難」が34物質。もう1つの区分として、「エームス試験なしのため評価保留」が17物質。第2回のWGのあとで、このような整理がされています。

 この整理を踏まえての第3WGでの検討内容が、3ページの5「第3WGにおける検討内容」です。第3回のWGは、平成251022日に開催しました。ここでは、まずどういう内容を検討したかということについて説明させていただき、6で具体的な検討結果を御説明します。

 まず1つ目の検討事項としては、第2WGの評価で「丸数字3強い毒性あり」と評価された16物質の検討ということで、こちらについては、1物質ずつ検討していただき、行政対応の必要があるかどうかということを検討していただくこととなりました。(2)では、第2WG後の評価で、「丸数字4遺伝毒性はあるが、強弱不能」という3物質について御検討いただき、遺伝毒性の強弱を判定していただいています。(3)エームス試験の対象物質の候補の選定ということで、委託事業によるエームス試験の対象物質の候補を、事務局案を踏まえて選定しました。事務局案としては、ア及びイの物質ということで提案をさせていただきました。アとして、「エームス試験不備あり」の物質のうち遺伝毒性の有無の判断困難とされた33物質、それから、イの「エームス試験なし」の17物質を、委託事業によるエームス試験の候補ということで事務局案として提示させていただき、それを踏まえて御議論を頂いています。

6「第3WGの検討結果」です。(1)「強い遺伝毒性あり」の16物質の検討結果ですが、16物質中8物質が「強い遺伝毒性あり」、残り8物質が「弱い遺伝毒性あり」と評価されています。詳しくは後ほど表のほうで御説明しますが、ざっと文章のほうだけ御説明させていただきます。

 「強い遺伝毒性あり」と評価された8物質のうち1物質は、ラット、マウスの発がん性試験で発がんの証拠なしということでした。このため、残り7物質が、強い遺伝毒性があるため行政対応が必要と判断されています。しかしながら、WG終了後に、7物質のうち2物質は行政のほうで特定化学物質ということで規制済みであるということが判明したため、それ以外の5物質について行政対応を行うということとなりました。

(2)として、「遺伝毒性はあるが、強弱の判断不能」と評価した3物質についての検討です。3物質の検討結果ですが、1物質が「遺伝毒性なし」、1物質が「弱い遺伝毒性あり」、もう1物質が「遺伝毒性ありだが強弱の判断不能」と判断が分かれています。このうち、「遺伝毒性ありだが強弱の判断不能」とされた1物質については、試験の詳細が不明であることから、エームス試験の候補物質とすることとなりました。

(3)として、エームス試験の対象物質の候補の選定です。事務局で提案した50物質、それから、直前の(2)の議論で試験が必要とされた1物質、これを合わせて計51物質が候補とされ、これらの51物質については、試薬の入手の可否等を考慮して事務局にて試験対象物質を選定し、委員の確認を受けることとなりました。WGのあと事務局で確認したところ、51物質のうち16物質が試薬入手困難、残り35物質のうち2物質は過去に国の委託事業でエームス試験実施済みということで、最終的に33物質を試験対象物質として決定しました。

 最終的な第2WGから第3WGにかけてのまとめが7です。遺伝毒性の評価結果ということですが、619物質について、「遺伝毒性なし」が494、「弱い遺伝毒性あり」が65、「強い遺伝毒性あり」が8、「遺伝毒性はあるが、強弱の判断不能」が1、「遺伝毒性の有無の判断困難」が34、「エームス試験なしのため評価保留」が17ということで、このうち「丸数字3強い遺伝毒性あり」の8物質のうち5物質について行政対応が必要ということになりました。

 備考で記載しましたが、この5物質については、昨年の1128日付けで「変異原性が認められた化学物質の取扱いについて」という行政通達により指導済みです。それから、これら5物質については、今後開催する企画検討会で中期発がん性試験の候補物質の検討を行いますが、その際のリストに計上をする予定です。

(2)平成25年度のエームス試験対象物質ですが、先ほど御説明したように、33物質を対象物質として選定して、現在、委託の試験が進んでいるところです。

 次の5ページからが具体的な物質の資料です。まず5ページが、第2回後の評価で「強い遺伝毒性あり」だった16物質について、第3WGで検討した結果を記載してあります。作業用番号、CAS番号、3つ目の項目が、第3WG終了時点での評価ということです。網掛けをしているものが「強い遺伝毒性あり」と評価されたものです。これが8物質あり、このうち、丸数字3が付いているもののうち、発がん性試験で発がんの証拠がないと評価されたのが、作業用番号57番の物質です。それ以外の7物質については、基本的には行政対応必要とされたのですが、作業用番号390番、500番の物質については、既に規制済みということで、追加の行政対応は必要ないという判断となりました。残りの5物質について行政対応を行ったということです。

7ページの資料1-3は、第2WG後の評価で「遺伝毒性はあるが、強弱の判断不能」とされていた3物質の評価結果です。第3WGの結果を、それぞれ3物質について記載しています。

9ページの資料1-4は、平成25年度のエームス試験の候補物質、最終的に対象物質として選ばれたものです。候補物質を左の欄に1から51まで記載していますが、第3WGのあとに、試験用の試薬の購入ができるかどうかを確認し、試薬の購入の可否に○×で記載しています。これで×の付いたものが16物質でしたが、○の付いた試薬は購入できる。その物質の中にも、過去に委託試験でエームス試験実施済みという、試験候補番号24番と25番がありまして、最終的に、太枠の中に書いてある試験対象物質1番から33番までが、今年度の委託の試験対象ということです。

 一番右側の欄に、構造活性相関の候補が書いてあります。こちらについては、過去にエームス試験がやられた実績がない物質について、まずは構造活性相関も調べてみる必要があるのではないかという御意見をWGで頂きましたので、こちらについては、別の委託事業で検討しているところです。第2回、第3回のWGの結果については、以上です。

○清水座長 ありがとうございました。ただいま事務局から、今後の進め方について御説明いただきました。これらについて何か御意見、御質問ございますでしょうか。よろしいでしょうか。特にないようですので、平成25年度の評価については御了解いただいたということで、先に進めたいと思います。

 次は、議題2「非遺伝毒性発がんスクリーニング試験の試験方法について」です。平成26年度から国の委託事業で試験を行う予定ですので、関係の先生方から説明を頂いて、その上で、どの試験を行うかを決めたいと思います。最初に、試験関係者からの御説明を頂くということで、食品薬品安全センターの田中先生から御説明をお願いします。

○田中委員 本日はこのような会議にお招きいただきまして、どうもありがとうございます。今回はBhas細胞を使った形質転換試験の御紹介をさせていただきたいと思っております。幸いにこの系、細胞を開発した佐々木が、実は30年前、国立衛研の細胞バンクにいる頃に作った系です。今日は試験法のところを本人にお話していただきます。この試験法はOECDのガイドラインに提案しておりまして、討議のテーブルの上で回り始めました。先週(11416日)、エキスパートミーティングに参加してまいりましたので、その結果を最後に山影から簡単に紹介したいと思います。 これを見ていただけますでしょうか。形質転換試験というのは、実は古くて新しい試験かなと思います。発がん物質の検出系としてエームス試験とか染色体異常試験系を使い始めて40年ぐらいたっていると思うのですが、形質転換試験は実は50年ぐらい前に盛んにやられておりました。特にアメリカ、ヨーロッパ、日本でも幾多の著名な先生方が主に細胞発がんの分野で研究的な意味で使っておられまして、実は、こういう発がんのスクリーニングに使うという観点から、アッセイ系の開発とかブラッシュアップをするというようなことはほとんどなされておりませんでした。

 幸い、佐々木が作ったv-Ha-ras遺伝子を入れたBALB/c3T3の細胞は感度も良くて、親株のBALB/c3T3細胞よりも短期間で発がん物質を検出できるということで、多くの企業の方、非変異・発がん研究会の方、日化協、厚生労働省の安対室ももちろんですが、経済産業省のサポートも得まして、試験法のブラッシュアップと、最終的にはJaCVAMECVAMICCVAMの御協力によってインターナショナルなバリデーションも終了いたしました。最終的にバリデーションレポートはECVAMによってレビューされ、OECDでガイドライン案としての議論が開始されるという状況になっております。

 この形質転換試験というのは、遺伝毒性試験とほとんど異なるエンドポイントで発がん物質を予測する試験系です。御承知のように、発がん物質の23割ぐらいは遺伝毒性試験で検出できないものがあるということが論文等で最近分かってきたわけです。これを検出するにはどのような系がいいかというと、今のところ形質転換試験しかないので、このBhas42の試験系をそういう発がん物質の検出に使っていただけるとよいと思っております。

 現在、国際的にどういう形質転換試験法が用いられているかというのは、配付資料の下のほうの図に書いてあります。欧米ではよくSHESyrian Hamster Embryocellとよばれるシリアスハムスターの胎児細胞、これは実はプライマリーの初代の細胞ですが、これを使って検出する系が比較的よく用いられています。この系が非常に難しいのは、細胞を播種して1週間ぐらい培養してコロニーを作らせ、そのコロニーの形態が悪性変化したものを判別してカウントする、その判断がちょっと難しいのです。それともう1つは、メカニズム的に一体それが何を意味しているかというところが不明で説明が非常に難しい。

 一方、細胞株(cell line)の系ではBALB/c3T3という細胞があります。これは本日紹介するBhas42の親株ですが、この系は細胞株であり非常にいい方法と思っているのですが、期間が1か月ぐらいかかることとか、若干培養に手間がかかるのでスクリーニングの系としてはあまり使われていない系です。しかしながら、研究的な意味では使われています。そこで我々の開発したBhas42というのは同じエンドポイント、いわゆる、この細胞は増殖してディッシュに満杯の状態(confluent)になると接触阻害(contact inhibition)がかかってそれ以上増えない、そういう性質を持っております。そういう増殖状態の細胞に発がん物質を処理すると、イニシエーションとかプロモーション、そういうがん化のプロセスを経て最終的にフォーカスを作る。ですから、最終的にはフォーカスを数えるだけで評価できる、そういう非常に簡単と言えば簡単な系です。

 ということで、次に佐々木がBhas42試験法の概要を説明します。

○清水座長 それでは、大体20分ぐらいでお願いいたします。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) はい。よろしくお願いします。今日話す内容ですが、最初にBhas42細胞について説明したいと思います。2番目にその実験のプロトコールを説明したいと思います。3番目に、98物質を使ってうちの研究室で、先ほど論文の別刷りをお渡ししておりますが、それによってどのぐらいの発がん性が予測できたかということを紹介したいと思います。4番目には、Bhas42の形質転換試験の国際バリデーションを実施しましたのでそれの結果を示し、最後に、この試験系の応用の可能性について紹介したいと思います。

 最初に、形質転換した細胞の形態を紹介したいと思います。このBhas42細胞は、何も処理しないでそのまま培養していますと、シャーレに一杯になった時点で増殖が止まり単層を維持しています。ところがそこに発がん物質とか、がん遺伝子、紫外線やX線などで誘導を掛けますと、このように明らかに形態が違っているような細胞が増えてきまして、それが多層に重なり合ってコロニーを作ります。そのコロニー(形質転換巣:フォーカスと称す)を1個、2個とカウントするわけです。このフォーカスの形態ですが、これは親株のBALB/c3T3と全然区別が付きません。ほかにも似たような細胞としてNI3T3とかC3H101/2細胞などのように単層になった上にフォーカスを作るような形質転換の試験系があるのですが、これらも、類似のフォーカスをつくります。

Bhas42の説明の前に、親株のBALB/c3T3のことを紹介したいと思います。in vivoの実験と同じように、この細胞を使って細胞レベルで2段階発がんを起こすことができます。例えば、BALB/c3T3細胞へイニシエーターを、形質転換を誘発しないくらいの少量で処理しますと、このようにフォーカスはできないのですが、そこにTPAを連続投与しますと、このようにフォーカスができます。一方、TPA単独処理では誘発されませんし、また、イニシエーターを高濃度で大量に処理しますとこのようにたくさんフォーカスができます。つまり、このようにin vivo2段階発がんをin vitroで再現できます。

 これは化学物質中による2段階発がんですが、ちょうど1980年頃にがん遺伝子が見つかって、ras遺伝子というのが化学物質などによって突然変異して、そして活性化を起こすということが分かってきましたので、それをこの実験に当てはめてみたわけです。つまりこの実験ではメチルコランスレンを使っているわけですが、その代わりにras遺伝子を入れたらどうなるかというのをやってみたわけです。そうしますと、化学発がん物質による2段階発がんと同じような結果が出たわけです。つまり、ras遺伝子だけではこのように少量の形質転換巣ができてくるのですが、それにプラスしてTPAを処理するとたくさんできてくる。

 つまり、この実験から何が分かるかと言いますと、この細胞の中にはras遺伝子が入っているのですが、そのままでは正常細胞と区別が付かない。ただし、TPAを入れると、このように形態が変化してくる細胞が存在するということが分かるわけです。ですから、その細胞を取ればイニシエーティブセルのモデルになるのではないかと思いまして、その細胞をクローニングしたわけです。

Bhas42 を樹立する実験方法ですが、まずBALB/c3T3細胞にras遺伝子を導入し、そしてrasを保持する細胞をクローニングする、これは実際にはneo遺伝子と共導入しています。そして、得られた細胞がTPAによって形質転換するかどうかを見ていったわけです。そうしたらras遺伝子が導入され、この中にはTPAを処理しなくても形質転換する細胞も入ってくるわけですが、そうではなくて、TPAを処理しないときにはピタッとコンフレントになって単層を維持し、TPAを処理することによって初めて形質転換する細胞をクローニングしました。数十個のクローンを取った中に、その42番目のクローンがちょうど目的の細胞だったのでBhas42の名前を付けたわけです。これがBhas42の形態変化ですが、メチルコランスレン単独処理でもフォーカスができますし、TPA単独でもできるわけです。一方、親株のBALB/c3T3の場合は、メチルコランスレン単独ではできるのですが、TPA単独処理ではフォーカスができません。

Bhas42細胞にras遺伝子がどのくらい入っているかとか、何パーセントその細胞に入っているかということですが、幸い、たまたまなのでしょうけれども非常に安定して保持されています。現在、秦野研究所ではパッセージ20ぐらいの細胞を使っているのですが、そういう細胞を調べてみますと、まず、100%の細胞にras遺伝子が入っています。そして、FISH分析をした結果、染色体の17番と19番に導入されています。そして、分布を見てみますと、平均が、細胞当たり大体2.4コピー入っているということが分かりました。実際、形質転換した細胞をヌードマウスの皮下に移植するとこのように腫瘍を作るのですが、正常なBhas42細胞を移植しても腫瘍を作りません。

 これは実際の造腫瘍性を見た実験ですが、4種の形質転換クローンを取ってきて100万個ずつマウスの背中に3か所移植し、1群当たり2匹使っていますから、全部出れば腫瘍が6か所できるわけです。そうしますと、移植してから大体20日から40日ぐらいで全ての形質転換クローンに腫瘍ができてきました。例えば、このクローンでしたら、6か所のうち2か所しか腫瘍ができてこなかったという結果です。親株のBALB/c3T3とか正常なBhas42は、マウスに移植して70日間経過しても、全然腫瘍はできてきませんでした。

 形質転換を誘導する条件ですが、これはよく言われている、別に培養細胞だけではなくてエームス試験などもそうですが、いわゆる遺伝毒性物質は、突然変異を起し、それが固定されるには、DNA合成を介して細胞分裂が必要だということはよく知られていますので、そういう実験系を組んでみたわけです。つまり、増殖期に3日間処理しますと、メチルコランスレン処理でこのようにたくさんフォーカスができてくるのですが、一方、TPA処理ではできてこないわけです。ところが、細胞がある程度サブコンフレント、ちょうどシャーレにちょっと隙間がある程度で、多くの細胞で、細胞同士くっついているような状態、そこにTPA10日間処理しますとこのようにフォーカスができてくるわけです。一方、メチルコランスレンをサブコンフレントの状態に処理しても形質転換はできてこない、という実験です。つまり、こういう実験を基に、次のようなプロトコールを考えました。 つまりイニシエーション試験では、細胞を播いてまだ細胞がパラパラの状態のときに3日間処理して、あと長期間培養する。このときにフォーカスができればイニシエーション活性があると判断します。プロモーション試験の場合には細胞を少し多く播きまして、サブコンフレントのときに10日間化学物質を処理する。やはり同じくトータルで3週間培養するわけです。そして、このときにフォーカスができればプロモーション活性があると判断します。そして、両方プラスになるときもあるのですが、どちらかがプラスになればその物質はプラスと判断します。この試験は、最初は6ウェルを使っていたのですが、後々のハイスループットスクリーニング化を考慮し、現在ロボットなども市販されつつありますので、96ウェル法でもできることをデモンストレートしました。6ウェルと96ウェル法は、用いるプレートと、培地の量とか細胞の播き数が違うだけで、あとは全く同じです。 これは6ウェル法と96ウェル法の結果です。形質転換率の表し方ですが、6ウェル法の場合には、ウェル当たりに何個あるかということで表します。例えば、これでしたら平均を取って、ウェル当たり14個あるとか、2個あるとか、そうやって表します。一方、96ウェル法では、1個のウェルの中に、フォーカスが1個ある場合も3個とか4個とかある場合もあるのですが、あるなしで数えて、フォーカスが存在するウェルが96ウェル中幾つあるかということで評価します。

 形質転換率の表し方は違うのですが、グラフにしてみますと、つまり縦軸の値が違うのですが、ほとんど同じようなカーブが描けます。メチルコランスレンの場合、こっちは6ウェル法と96ウェル法ですが、イニシエーション試験ではこのように濃度に依存して上がっていきますし、プロモーション試験ではこのようにフォーカスができてこないわけです。一方、TPAは、イニシエーション試験ではフォーカスはできてこないのですが、6ウェル法と96ウェル法は、プロモーション試験では両方ともできてきます。

 これは98物質のデータです。実際は、その98物質の中にin vivoのデータがあるのが89物質で、残りの9物質はデータがなかったので、この89物質についてプラスにでたかマイナスにでたか、そして、動物又はヒトのin vivoの実験とどのぐらい一致するかを見てみたものです。そうしますと、大体一致率が78%で、ほかのパフォーマンスも大体7080%で、割といい値を示します。一方、偽陽性とか偽陰性は20%前後と、低い値を示します。

 これは実際の化学物質のデータですが、イニシエーション試験、プロモーション試験でプラスだったかマイナスだったかを表し、比較のために文献で調べたエームス試験の成績を示しました。複数あるのは幾つかの研究室で出ている値です。例えばこの物質は、ある研究室ではプラスの結果が得られているのですが、ある研究室ではequivocalの結果を示すデータです。参考までに小核試験のデータもこのように付けております。2007年にOECDDRP31という形質転換のレビュー論文を報告したのですが、それでは、形質転換とか、エームス試験とか染色体とか、発がん性予測に関わるいろいろな短期アッセイ系で、どういう物質が試験されどのような結果になっているかをみたのですが、そこに取り上げられている物質のデータを示したものです。

 そうしますと、例えばエームス試験でマイナス、他の試験ではプラス、マイナス、又は研究室によって結果が違う物質の中で、Bhas試験でプラスになった物質はこの赤で示したものです。そうしますと、多くの物質がプロモーション試験のほうで陽性に出ているということが分かります。例えば、金属のカドミウムクロライドでは、エームス試験ではマイナスですがBhasでは陽性の結果です。これはフォルボールですが、これは、エームス試験では多分出ないと思ってやられていないと思うのですが、そういうものも陽性となります。

 一方、37個の非発がん物質を試験してみたところ、こちらでも、エームス試験でプラスに出たものですが、Bhas試験では、イニシエーション試験もプロモーション試験もマイナスという物質がありました。それは緑で表しています。

 こちらは、9個の発がん物質でin vivoのデータがないものです。こっちも、一応こういう結果が出ています。こちらはプロモーション試験のほうで出ていますので、もしかしたら発がん性がある可能性があるという物質です。

 下のこれは、エームス試験とBhas42試験を比較したデータです。52の発がん物質で黒の部分が陽性結果を示す部分、白の部分が陰性の部分です。そうしますとエームス試験の場合は、52の物質のほとんど半分だけが陽性で、あと半分が大体マイナスが出ました。Bhasの場合は、大体75%ぐらいですから、エームス試験で検出できなかった部分がBhasの部分では検出できるのではないかと考えています。この中には、例えば砒素などが入っています。一方、こちらは非発がん物質です。エームス試験で偽陽性または陽性と出てしまったものですが、Bhasのほうがこちらに比べて少なくなっていますので、これらの物質がBhas試験ではマイナスと判定される物質ということが分かります。

 これらのパフォーマンス:一致率と予測性と感受性などをレーダーグラフにして比較してみました。グラフの下に表しているのは偽陰性と偽陽性率なので、この2つの値が低く、他の5つの値が高ければ、その試験は理想的な良い試験ということが分かると思います。Bhas試験だけは98物質のデータですが、ほかのものはみんな文献上のデータです。

 そうしますと、例えばエームス試験などを見ますと、その一致率がちょうど半分ぐらいしかなくて非常に低いということが分かります。一方、これはマウスリンフォーマ試験ですが、これは偽陽性の値ですが、これが非常に突出し、ほかの試験に比べて高いということが分かると思います。そうしますとBhas42試験は、偽陽性と偽陰性の値が低くてほかの部分が高いということで、他の試験に比べ良い試験でバランスのとれた試験ではないかということが分かります。これは親株のBALB/c3T3の試験、こっちがSHE cellsの試験で培地のpHを低くした試験です。低pHの試験法は、近年、よく形質転換が出るなどと言われています。こっちは、pHが普通の培地を使ったものです。これはC3H10Tといって、やはり似たような形質転換試験系です。これは染色体異常、これはマウスリンフォーマ、これは、チャイニーズハムスター細胞を使った突然変異の試験です。

 

 以上の結果からどういうことが分かったかと言いますと、Bhas42試験では、多くのエームス試験で陰性又は不明瞭な発がん物質を検出することができたということです。これらの物質は主にプロモーション試験で検出されました。このパフォーマンスは、他の発がん物質を検出する短期試験と比べて、バランスのとれた良い試験であるということが分かったわけです。

 

 次はバリデーションの話になります。バリデーションは全部で3回実施しました。3回目は化学物質が多かったので、1回目と2回目に分けて行いました。プレートは6ウェル法と96ウェル法を使いました。それぞれのバリデーションに使った物質の中にはダブッている物質もあります。そして、参加研究室は少なくても3カ所以上、36つの研究室が参加して、少なくても1つの物質は最低2つの研究室で評価することにしました。

 そのうちのバリデーション試験ナンバー31回目の結果を代表としてまとめました。使った物質がこのように7つの物質がありまして、イニシエーション試験で参加した研究室は4施設で、イニシエーション試験とプロモーション試験でそれぞれプラスかマイナスかということを示しています。これらの4つの研究室の総合評価より、in vivoの結果と比較したところ、O-Toluidineだけが一致していませんが、ほかのところは全て一致したというデータです。

 これは全てのバリデーション試験の結果を化学物質ごとにまとめたものですが、それぞれの研究室の出した結果を表しています。そうしますと、この総合評価とin vivoのデータを比較しますと、例えばO-Toluidineは一致していませんが、ほかのところは一致しています。PyreneBhasではプラスと出てしまっているのですが、in vivoではマイナスなので一致していませんが、ほかのところは全て一致しています。Sodium arseniteは一致していません。

 

 これは実際のデータの代表例ですが、dibenz[a,h]anthraceneの場合です。これは、イニシエーション試験ではこのように濃度依存的に出ているのですが、プロモーションアッセイでは出ていません。

 一方、lithocholic acidは、イニシエーション試験では出ていないですが、プロモーション試験ではこのように出ています。

Bhas42試験にどういうメリットがあるかということですが、これは動物を使っていませんので、当然、動物は用いないのでゼロ、試験期間1か月ぐらいで結果が出る。費用は多分、日本円にして100万円以下ぐらいで1物質を試験できます。 そしてもう1つ、その有用性ですが、6ウェル、96ウェルのどちらも用いることができますので、研究室の実験状態によってどの方法でも選ぶことができる。96ウェル法はこれからやはり、ハイスループット化するとなると96ウェル法を使うようになりますので、こっちにも応用できるのではないかと考えています。そして、プロトコールを2つ使い分けることで、遺伝毒性物質と非遺伝毒性の発がん物質を分けて検出できます。

 では、どのように利用されるかです。まず1つは、構造活性相関とか、いろいろな情報などから発がん性が予測されるような物質のスクリーニングをできる。あとは、これはエームス試験などでも表しているのですが、非遺伝毒性物質ですが、実際、がんを作るような物質です。逆に、こっちはエームス試験などで一杯出るのですが、がんを作らないような物質。こういう物質のスクリーニング。あとは、例えば抗発がん物質です。つまり、例えばTPAなどを処理しまして、フォーカスが一杯出るような条件の中でこの物質を入れてこれを抑えるかどうか、そういう実験も当然組めます。あと、これは当然ながら哺乳動物細胞を使っていますので、ras遺伝子のパスウェイなども大分分かってきていますので、いろいろな発がんのメカニズムなども、調べようと思えば分かるのではないかと思っています。

○清水座長 時間が余りないので山影さん、OECDのエキスパートミーティングについて簡単に。

○食品薬品安全センター(山影氏) 資料は用意していませんが、114日から16日の3日間、パリのOECDで専門家会議がありました。現在、SHE cellsを使った形質転換試験とBhasの形質転換試験の2つがガイドライン案として出されていますが、SHE cellsが先行していましたので、1日半をSHE cells、残りの1日半をBhasのガイドライン案について会議が行われました。9か国、20数名が参加し議論しました。

 基本的にどちらも形質転換試験ですので共通の課題として、非遺伝毒性発がん物質と遺伝毒性発がん物質に分類しているのですが、定義が曖昧であるという意見があり、明確に定義した上でこれまでの結果をもう一度分類するという議論がありました。

SHE cellsは過去の文献を中心に試験系の評価をしていますので、そのデータを見直して、非遺伝毒性発がん物質と遺伝毒性発がん物質がどのぐらいあり、それらの物質の結果がどうなるかの再検討をします。最近では、新規試験法の場合、バリデーション試験を実施してからガイドライン案を提案することがルールになっていますので、Bhasはバリデーション試験をやっています。いずれにしても、SHE cellsと共通の定義に従って実施した化合物の分類をし直すことが課題として挙げられ、もう一度再評価してから結果をまとめることになっています。

 もう1つの問題は、代謝活性化に関してどのぐらいのパフォーマンスがあるのかということも議論になりました。これに関しては、代謝活性化が必要な物質として、どのような物質を実際に試験しているかをリストアップして、代謝活性化能に関する情報としましょうという議論がありました。また、発がん物質、非発がん物質の定義も明確でないことから、定義を明確にするという議論も行われました。

SHE cellsは、先ほど例が挙がりましたが、pHを変えた2つの方法がガイドラインとして挙がっているのですが、2つの方法の感度と検出力について結構大きな問題として議論されました。結論として、ほとんど差はないだろうということで、2つの方法をガイドライン案として記載することになりました。

Bhasに関してはバリデーションを実施していますが、最終的な評価法がSHE cellsの評価法と違っていましたので、同じ形質転換試験ですので、共通の評価法で評価した場合に我々のBhasの結果がどうなるかシミュレーションするということを議論しました。

 今度の4月にOECDWNT会議がありますが、SHE cellsに関しては、今回が2回目の会議になりますので、1月のexpert meetingの議論の結果を踏まえてリバイスしたものを4月の会議に上げ、最終的にガイドラインとして受け入れられるか評価されます。

Bhasに関しては、今回ガイドライン案が初めて提示されていますので、今回はまだいろいろ検討事項があるということで、4月のWNT会議に上がると思いますが、最終的には、来年の4月のWNT会議でガイドラインとして受け入れられるように準備をすることになっています。

○清水座長 ありがとうございました。ただいまの御報告に対して、全部を含めて何か御質問はございますか。

○本間委員 OECDSHEcellsBhasの結果は、完全に一致している結果が出るという結論なのでしょうか。

○食品薬品安全センター(山影氏) 実は共通の物質を評価しています。今説明したように、遺伝毒性発がん物質等の分類を再評価することになりましたので、2つの試験法に共通する物質に関しては再評価の結果を比べることも課題となりました。

○本間委員 Bhasのほうは6ウェル法と96ウェル法でしょうけれども、SHEcellsのほうはまた別の方法なのですよね。

○食品薬品安全センター(山影氏) はい。SHE cellsは大きなシャーレに細胞を播いてコロニーを作らせます。

○本間委員 結果の単位がちょっと違うように思えます。もちろんドーズレスポンスは同じように出るのだろうけれども、評価するときに、例えばエームスだったらrevertent/per plateとか、染色体だったら異常染色体を持つ細胞の頻度というような形でユニバーサルに表現できますが、こういった2つの試験の中で、定量的に評価する場合はどういった比較の仕方ができるのかと思ったので。

 

○食品薬品安全センター(佐々木氏) SHE cellsはコロニーを作らせます。例えば1シャーレ当たりに約100個程度のコロニーを作らせて、その中に幾つトランスフォームドのコロニーが出てくるかを調べるので、全コロニー数分のそのトランスフォームドコロニー数の数値が出るのです。Bhasの場合はシャーレ当たりのトランスフォームドコロニー数となります。ですから統計方法が違ってきます。

 統計方法が違っても、この濃度で有意とか、この濃度で有意でないとか、それに付くわけです。それで、先ほど山影が言ったのですが、何が違うかというと、SHE cellsの場合は例えば1ポイントでも有意で濃度依存性があればプラスと判定します。Bhasの場合は、96ウェル法と6ウェル法の両方とも、連続した2濃度で有意の場合、初めてプラスと判定します。これは、バリデーション委員会の統計専門家からの意見に従ったのですが、その結果、SHE cellsと異なる評価法のため、SHE cellsと同じ方法で評価できないかを検討することになりました。表現の仕方は、システム自体が違うので、例えばSHE cellsはコロニー分の形質転換巣、Bhasの場合は、シャーレあたりの形質転換巣、96ウェルの場合は96ウェル中のプラスのウェル数ということで。結局、値が違いますので、表現法は一致させることはできないと思います。

○本間委員 では、細胞毒性みたいなものでは測らないのですか。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) それは測ります。説明を忘れましたが、細胞毒性試験はやります。

○本間委員 では最初に行うのですね。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) ほとんど他の遺伝毒性試験と同じだと思うのですが、イニシエーション試験の場合であれば、大体90%ぐらい死ぬような最高濃度まで試験をします。

○本間委員 あと、ベンツパイレンやサイクロフォスアミドなども多少陽性反応が出ているということは、これは細胞自体も代謝活性能を持っていると考えられるのでしょうか。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) そうですね、全く代謝活性がなければ、例えばV79とかCHL細胞などは、ベンツパイレンやサイクロフォスアミドなどで処理しても、全く細胞は死なないのですが、BALBとかBhasSHE cellsなどは、ある程度代謝活性化能を持っていますので細胞が死んでいきます。

○本間委員 では酵素活性を測っていますか。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) 測っていません。それも指摘されました。現在、何十種類ものCYPの存在が知られていますが、どのぐらい酵素を持っているか調べなくてはならないかなと思っています。少なくとも芳香族炭化水素などに関する代謝酵素は十分持っていますが、例えばニトロソジメチルアミンなどに関する酵素などは多分、持っていないと思います。

○若林委員 本間先生と同種の質問になりますが、代謝活性化はかなり問題になるような感じがしました。例えば、この細胞の代謝活性化能が割合弱いならば、代謝活性化能のあるようなものを入れてあげるとか、あとは、事前にS9mixで代謝活性化したような抽出液をこの細胞に掛けてあげるとか、そのようなことが方法として考えられるのですが、それらについては、何かデータとしてはあるのでしょうか。

○田中委員 基本的にこの形質転換試験は、遺伝毒性とか、ほかの情報も合わせてやるということなので、遺伝毒性のエームスも染色体もそうですが、S9を加えた系でやるというのも、ほとんどきちんとプロトコール化されています。それを例えばBhasの形質転換試験系で一緒に同時にやるということは、実は大変な作業なので、技術的には処理時間等の関係もあるのでプロトコールの変更をしないといけないとか、幾つかの問題があります。形質転換試験はそれのみで発がん性の予測をするわけでなくて、ほかの系とも組み合わせて用いるということで、より深く代謝の問題も調べるということになったら代謝の系を噛ませてやるということで、一応、代謝の系も作ってはいます。

 代謝をからませた場合、形質転換の頻度は普通のmutation assayの頻度に比べると低くなるとか、原因がよく分からないのですがそのようなこともあるので、技術的には一応完成して持っているのですが、ルーチンで流すということはちょっと無理かなと考えております。

○若林委員 それから技術的な問題ではなくて言葉の使い方の問題なのですが。イニシエーションとプロモーション、両方あると発がんするということですよね、通常。しかし、例えばIQというような化合物は、発がんはしますが、この系ですとプロモーションがマイナスという格好になりますよね。そうすると発がんしないということになりますよね。言葉の使い方の問題なのですけれども。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) はい。

○若林委員 イニシエーションはプラスで、プロモーションがマイナスになりますよね。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) はい。

○若林委員 表面的に考えますと発がんしないという話になりますよね。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) イニシエーション試験でプラスという意味。

○若林委員 なるほど。イニシエーター、プロモーターという意味ではないということですか。ここの所の言葉をずっと聞いていると、何となく頭の中でコンフューズしてくるのです。これは使い方を少し工夫されたほうがいいのか、このまま使うのか、そこのところが気になりました。

○食品薬品安全センター(山影氏) 先ほどの説明で出ていたと思いますが、2つの試験系のどちらかの系で陽性になった場合は陽性と判断しますので、イニシエーションだけで陽性になった場合も、当然、発がん性ありと考えますし、プロモーションだけで陽性の場合も発がん性ありと考えるということになります。しかし、イニシエーションの系でポジになったらイニシエーターだというように断定するのは難しいと思います。いずれにしても、その化学物質にそのような作用があるであろうという推定はできるだろうと考えています。

SHE cellsの場合はBhasのようなプロセスがなく、コロニーの形だけからがん化しているコロニーを判定します。どういう作用でコロニーの形が変わったのか分からないがそういうコロニーをカウントした結果、確かに発がん性と一致することから、発がん性の評価をしているということなのです。Bhasは、そういう意味では、いわゆるイニシエーションに関わる物質なのかプロモーションに関わる物質なのかを、ある程度区別して評価できそうだということで、有効性は少し高いのではないかとは考えています。

○若林委員 分かりました。

○西川委員 1ついいですか。このアッセイの一番の売りは非遺伝毒性発がん物質をスクリーニングするということだと理解していますが、本日配布いただいた論文の中で、フェノバルビタールはイニシエーションもプロモーションもネガティブという結果でしたが、これは何か理由がありますか。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) 1つは、フェノバルビタールはやはり代謝が関係していますので、先ほど言ったニトロソジメチルアミンのように、この細胞に関しては反応しないのではないかと考えています。

○西川委員 そうすると、同じようなタイプのケミカルには無効というようなことになるのですか。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) ですから、例えばフェノバルビタールと同じような物質、どういう物質だったか分からないですが、そういうものは多分、反応しないのではないかと思います。

○西川委員 あと、例えばホルムアルデヒドも、両方ともネガティブ。それから、L-アスコルビン酸もネガティブ、これは典型的な膀胱発がんのプロモーターですが。結構いろいろな臓器の典型的なプロモーターをひっかけていないような気もするのですが、その辺り何か。

○田中委員 ここで見ていくと、予測に反する判定結果になる物質が結構あるのです。特にレセプターメデートの化学物質、多分、ダイオキシンなどはやったら出ないのではないかと思っているのですが、Ahローカスが関与している化学物質では、やはり関与する種とか系統が特異的に出ますので。予測に反した結果については、その原因についてそれぞれ精査する必要が出てくるかなと思っています。そこまでまだ行っていないのですが。

○西川委員 細胞毒性を目安に用量段階をたくさん作ってアッセイするということですが、これは、基本的にDMSOに全部。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) そうです。あとは水です、水又はDMSOを。

○西川委員 そのどちらにするかという判断はどうするのですか。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) 最初に溶解性試験などを。

○西川委員 分かりました。ありがとうございました。

○清水座長 水やそのDMSOに溶けない場合はどうなのですか。ほかの溶媒は使えるのですか。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) 何でしたか、染色体試験のときなど。

○食品薬品安全センター(山影氏) 懸濁。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) 懸濁のときの。

○食品薬品安全センター(山影氏) CMCナトリウムのようなものに懸濁して試験することも可能です。いわゆるin vitroの試験ですので、in vitro試験の細胞に適応できるような溶媒は、一応、この系でも適応可能ということになります。

○清水座長 ほかに何か。

○本間委員 定義として、イニシエーションというのは遺伝毒性と考えるということですか。イニシエーションという言葉の定義はどういうことですか。

○食品薬品安全センター(山影氏) 一応、遺伝的な変化に由来するプロセス。

○本間委員 それはイコールですか。Genotoxicではないですよね。イニシエーションという言葉をどう捉えるかによって、エームス試験との切分けが必要なのではないかと思うのですが。

○田中委員 例えばコメットアッセイだと、あれはプライマリーな傷なので、簡単に修復するということもあるので。

○本間委員 いやいや、それは試験法ですから。私が聞いているのは、イニシエーションとかイニシエーターとか、その言葉はどうやって説明するのかということです。日本語訳はないですね。

○食品薬品安全センター(山影氏) 発想としては、増殖期に作用する物質ということですので、それに関わるのは、恐らく遺伝的な変異の固定が必要だというような発想です。

○本間委員 ではMutagenicityと基本的にイコールと考えていいですか。

○食品薬品安全センター(山影氏) 基本的にはそうです。ただ、実際に試験結果と試験物質を比べてみるとそうでもないので、そこは、定義上と実際の化合物分類と合わない部分もあると思います。しかし、系の発想からすると、先ほど言いましたように、細胞を増殖させた状態で変異を起こすようなものを検出しようという発想ですので、恐らくは遺伝的な変異が関係していると考えています。ところが、プロモーションは細胞接触阻害が起きていて、細胞が増殖しない時期の短い処理ではリバーシブルなので、処理をしても発がんにまで至らないのですが、長い処理では発がんしますので、直接、遺伝的な変化を起こさずに発がん関わるプロセスをプロモーションで見るという発想で作られていると思います。

○本間委員 実際スクリーニングするとき、この場合、イニシエーション試験とプロモーション試験、両方やらなくてはいけない。これは、そのSHEcellsみたいに一緒に1本でやることも可能なのか、両方見るか、その点はどうですか。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) はい、独立して実施可能です。

○本間委員 目的によって違うのですね。

○食品薬品安全センター(佐々木氏) 目的によって。

○食品薬品安全センター(山影氏) 遺伝毒性が分かっていて、もうイニシエーションが必要ないということであれば、プロモーションをやるということでもいいと思います。

○田中委員 ナノの研究者が結構この試験をやりたがっていて。

○本間委員 私が言っています。

○田中委員 いや、国際的に。細胞を寄越せとか、結構あるのです。うちもやって。

○本間委員 私が国際会議の場で言っているからです。

○田中委員 結局、ナノの場合には水に溶けないものが結構多くて、あれをきれいに除くとか、そういうのがなかなか難しいなという、そういう話題もちょっと出ました。

○清水座長 ほかには。よろしいですか。

○若林委員 田中先生がイントロダクションで言ったみたいに、このような系は30年前ぐらいにいろいろな遺伝毒性物質とかを探すのに使われて、その後、期間がちょっと空いたのですよね。しかし、とにかく動物をなるべく少なくしようというようなときに、このような系をもう少し見直して、化学物質のスクリーニングに使うということは、私は、方向としては非常にいい方向だと思っています。いろいろ問題点はあるのでしょうけれども、それを徐々に解決しながら、なるべく使えるようにしていくということは必要かなと思います。

○田中委員 そうですね。ありがとうございます。

○清水座長 それでは、もう1人御報告いただかなければいけないので、そちらに移りたいと思います。化学物質評価研究機構の齋藤先生、20分ぐらいでお願いいたします。

○齋藤委員 化学物質評価研究機構の齋藤と申します。本日は、このような試験法を御紹介させていただく機会を頂きまして、誠にありがとうございます。

 田中先生と佐々木先生は開発から30年ほどかかっているという非常に歴史の深い試験法ですが、今回御紹介する「遺伝子の発現量測定に基づいた発がん性スクリーニング手法」は、まだ10年ほどの研究成果ですが、実験データが蓄積して1つの形になりつつありますので御紹介します。

 開発の背景ですが、皆さん御存じのとおり、現行のがん原性試験は長期間、高コスト、多数の動物、大量の化合物が必要ということで、非常に重たい試験なので、これを短期間、低コスト、動物は使いますが動物数の削減、化合物量の削減と、新たなスクリーニング手法が開発できないかということで、まず遺伝子に着目しました。なぜかというと、遺伝子の発現量は病態や毒性が現れる以前に変化が生じるため、より早期かつメカニズムベースで発がん性をスクリーニングできるのではないかと考えました。NTPのデータベースでは、化学物質の約45%が肝臓を標的にしているという集計が出たので、まずは肝臓に着目して新規のスクリーニング手法の開発に着手しました。

 「システム開発時の実験デザイン」です。通常は2年間の投与期間が必要な発がん性試験ですが、最大の投与期間を28日間として、その間、基礎データとして13714でも屠殺を行い、肝臓からRNAを抽出してマイクロアレイ実験を行い、それらのデータを基に予測システムを構築しています。

 群構成としては、媒体対照群以外に低用量群と高用量群の合計3群を用いて、用いたラットはNTPでデータが豊富にあったF344とし、1グループ4匹で実施しています。開発に用いた化合物の数が68ありますが、この場合、Genotoxicとしているのはエームスの陽性、陰性で分けています。厳密には小核や染色体の試験で総合的に判断するとは思いますが、これら68化合物で共通してデータがあったのはエームス試験のデータだったので、今回Genotoxicとしているのはエームス陽性で、Non-genotoxicとしているのはエームス陰性の物質と御理解ください。Genotoxic carcinogenとして20物質、Non-genotoxic carcinogenとして26物質、エームスはポジティブだけれども発がんしないもので11物質、エームスも陰性、発がん性も陰性のもの11物質、合計68化合物でデータセットの構築を試みました。

 発がん性の予測システムの構築の条件については、詳細は割愛しますが、最初に行ったのが、68化合物には変異原性有り無しとか、発がん性有り無しというものが含まれているので、それらが全て同じメカニズムで発がんするわけではないだろうということで、遺伝子の発現量のプロファイルから化合物の分類を行いました。結果として大きく3つの化合物のグループに分かれたので、その3つの化合物のグループそれぞれにABCという3つの予測式を構築し、これを1つの予測システムとしてCARCINOscreenと名付けました。例えば、遺伝子発現量データを取得し、開発したCARCINOscreenにデータをインプットすると、最終的にPrediction value(PVC)の値が定量的に得られるシステムを構築しております。

 こちらが結果です。こちらのエリアのものがGenotoxic carcinogen、こちらがNon-genotoxic carcinogenです。緑のバーのものが発がんしないものですが、こちらの11物質がエームスポジティブ、こちらの11物質がエームスネガティブです。グラフの見方ですが、CARCINOscreenという発がん性予測システムにデータをインプットすると、定量的な発がん性予測値、PVC(Prediction Value of CARCINOscreen)が得られます。これがプラスの場合は発がんの可能性が高い、マイナスの値が大きければ発がんの可能性が低いという判定になります。結果としては、トータルの一致率が94%となり、センシビリティ(Sensibility)としては100%、非発がん性物質が4物質ほど外れているので、こちらでスペシフィシティ(Specificity)82%となっております。

 一部結果を抜粋します。予測精度の確認として、構造異性体で、両方ともエームス陽性だけれども、例えば2,4-Diaminotolueneは発がん性あり、2,6-Diaminotolueneは発がん性なしという構造異性体で試験をしてPVCを得たところ、きちんと正しく発がん性ありの2,4体がプラスになり、発がん性のない2,6体はマイナスと判定されています。もう1つの構造異性体のセットとして、Quinoline8-Hydroxyquinolineを試験したところ、発がん性ありのQuinolineでプラス、発がん性のない8-Hydroxyquinolineでマイナスと判定されました。

 実際に発がん性の予測値が得られるだけではなく、個々の遺伝子のExpression profileが得られるので、どのようなメカニズムが生じているのかも考察しています。こちらはジエチルニトロソアミン(Diethylnitrosoamine)の肝臓における遺伝子発現パターンで、赤の色が強ければ強いほど媒体対照群に対して発現量が増加している、という見方になります。色が余り変わっていないものに関しては、媒体対照群に対する変化率が小さい、ほとんど変化していないという見方になります。

 実際に、がん抑制遺伝子であるp53や発がん性遺伝子であるミックの変化量は多少見られますが、その周辺の遺伝子が非常に大きく発現量変化していることが分かりました。具体的には、例えばアポトーシス(Apoptosis)を誘導する遺伝子やDNA修復の遺伝子、細胞周期を停止させるような遺伝子がかなり高発現していることが分かりました。一方で、細胞周期を停止させる遺伝子も活性化されていたのですが、細胞周期を亢進させるような遺伝子も同時に活性化されており、更にDrug metabolismやトランスポート(Transport)といった辺りの遺伝子群もかなり高発現していることが分かりました。

 このExpression patternを、化合物のグループごとに比較を行いました。その結果、先ほどのジエチルニトロソアミン(Diethylnitrosoamine)と同じ化合物グループにあるDABと、これはNon-genotoxic carcinogenですが、チオアセトアミド(Thioacetamide)は、エームス試験では陰性なのですが、先ほどの例も含めて非常に似たパターンを示していることが分かるかと思います。しかし、クロフィブレート(Clofibrate)やフェノバルビタール(Phenobarbital)、先ほど議論にも上りましたが、例えば酵素を誘導して発がんに至るようなものについては、DENDABで動いているような遺伝子はほとんど変化していません。クロフィブレートやフェノバルビタールは、こちらには示していませんが、酵素系の遺伝子群が非常に活性化していることを確認しています。

 つまり、メカニズムベースから見てもこのようにグループ分けをした、例えばグループABCExpression patternが違うということで、それぞれのグループで予測式を作って3つ組み合わせる方法は、リーズナブルな方法ではないかと我々は考えております。

 以上が、ほとんど結果だけですが、開発した予測システムの概要です。予測システムの構築においては、大体今回の予測一致率が94%と非常に高い値でしたが、そのデータ自身に対する予測結果が良い数値を示す傾向にあるというのはあらかじめ分かっていることで、結果としては当たり前の結果とも言えます。

 そこで重要になってくるのが、開発した予測システムの検証になるかと思います。まず、方法論の検証が必要になってくるので、他の施設でも実施可能かというところで「施設間バリデーション」を行っています。今回、開発に用いたラットの系統がF344なので、ただ、国内ではSDラットやWistar-Hanラットが使われているので、別の系統の動物にも適用可能かを確認する必要があると考えました。また、外部のデータ、実際にこの予測システムの構築に全く用いていないデータに対してどの程度の予測精度を示すのかということと、その他の発がん性スクリーニング法と比較して予測精度はどの程度あるのかの4点について、システムの検証ということで追加実験を行っております。

 こちらは先ほど説明したものと少しかぶりますが、検証丸数字1として「施設間バリデーション」を行いました。方法としては、3つの実験機関で同一プロトコール、同一物質で4物質行っております。適用性の拡大としては、SDラットとWistarラットの2系統について、それぞれ16化合物、4化合物で実験を行いました。検証丸数字4として「外部バリデーションA」として、トレーニングデータに含まれない18化合物を動物実験から行い、予測しています。さらに、厚生労働省の「Toxicogenomics Project」で得られた、発がん性情報が明らかな40物質について予測を行いました。

 検証丸数字6として、その他の発がん性スクリーニング法と予測精度の比較を行い、1点目が中期発がん性試験、2点目が先ほど田中先生、佐々木先生から御紹介のあったBhas42試験との比較を行っています。

1点目の施設間バリデーションの結果ですが、3施設でこちらの4物質、エームス陽性と発がん性有り無しの4カテゴリーから1物質ずつ選んで4物質としていますが、これらについて動物実験からアレイ実験を全て個別に行っております。結果としては、全て既知の発がん性情報と一致した結果が得られ、まだ3施設、かつ4物質ではありますが、施設間バリデーションとしては全て正当したという結果が得られました。

 適用性拡大として、SDラットに16化合物を試験し、一致率を算出しました。結果の一覧はこちらで、既存の発がん性情報が記載されていますが、この既存の発がん性情報と一致した場合にTrue、一致しない場合にFalseという形で判定をしております。その結果、全体の一致率としては87.5%が得られました。もう1つ、系統差の検討をして、Wistar-Hanラットについて、こちらは少なくて4物質なのですが、実施しました。その結果、Concordance(一致率)としては全てTrueとなり、今のところ4物質と少ないこともありますが、100%の一致率という結果が得られました。

 続いて「外部バリデーションA」ということで、開発に用いていない18化合物について、F344ラットから動物実験を行い、アレイ実験をして予測を行いました。その結果、表の見方は先ほどと同じなので、Predictionの結果と発がん性の結果が一致すればTrue、一致しない場合がFalseになっています。全体の一致率としては83.3%ということで、トレーニングデータに含まれない化合物、外部データに対しても80%以上の精度で予測可能であることを確認しました。こちらについては、まだデータの蓄積も行っているので、数値としてはまだ変わってくる可能性はあるかと思います。

 続いて「外部バリデーションB」です。これは完全に外部データですが、厚生労働省が取得し、既にデータが公開されていますが、GeneChipのデータを使って予測を行いました。40物質ということで、表が少しビジーになってしまったので、結果だけのお示しになりますが、低用量で85%、中用量で95%、高用量で92.5%という一致率を得ることができました。中用量以上になると非常に高い一致率を示しているのですが、低用量で外れてくるものがあるということで、我々の開発した予測システムには何か用量相関性のようなものがある可能性があると考え、用量と予測精度、PVC値との関係性を次のスライド16でお示ししています。

 先ほど、低用量で幾つか当たっていない化合物でも、中用量以上になると非常に当たっているものがあったかと思います。その化合物がこの辺りで、用量が低いとPVC値、発がん性の予測の値が低くなってしまうことが分かりました。ただし、用量が上がっていくとPVC値は上がっていく傾向にあるので、緩いながらも用量相関性のようなものがあると考え、PVC値がゼロになる用量をこのグラフから算出し、既存のTD50 値と相関性解析を行いました。その結果、全体の相関係数が0.80と比較的良い値を示しているのではないかと思いますが、まだ16物質というデータなので、今後こちらも物質を増やし、相関性を調べていきたいと考えております。

 検証丸数字6として、その他の発がん性予測スクリーニング法が幾つかあると思いますが、そのうちの「中期発がん性試験」の結果で、論文で発表されている結果を参考にし、その中で我々が実施した化合物と重なりがあったもの11化合物について一致率を見ました。その結果、中期発がん性試験では11化合物、発がん性のあるものは陽性、発がん性がないものは陰性で、CARCINOscreen、我々の発がん性予測システムも同様に、発がん性のあるものはポジティブ、ないものはネガティブと予測していることを確認しました。

 もう1つ、先ほど御紹介のあったBhas42試験については、先生が配られた論文のデータを引き出し、我々のところと一致する化合物についてのみ予測の比較を行っております。その結果としては、Bhas42試験で当たっているけれども、我々のところで外れているものがあったり、その逆があったりということで、試験法によって予測精度、正当する物質の性質が若干違うところがあると感じています。

 こちらの結果をまとめると、中期発がん性試験については、まだ論文から拾った物質が11物質と少ないのですが、11分の11と全て当たっていたということで、どちらも100%の精度です。Bhas42試験については、22物質のうちBhas42試験で当たっていたのが68.2%、CARCINOscreenで当たっていたのが86.4%という結果になりました。今後も論文情報や外部データを蓄積し、比較の数字を積み上げていきたいと考えております。

 予測システムの検証の結果をまとめると、開発した予測システムそのものの予測精度は一致率94%でした。それらについて様々な検証を行いましたが、施設間バリデーションについてはFischerF344を用いて一致率100%、適用性拡大についてはSDラットで88%、Wistar-Hanラットでも、4化合物と少ないので100%、外部バリデーションは18化合物について85%、TGPデータは40化合物になりますが、90%以上の予測一致率を示していることを確認しました。その他のスクリーニングの比較としては、中期発がん性試験で100%、Bhas42試験の重なっている22化合物で86.4%という結果が得られました。

CARCINOscreen、今回の短期発がん性予測システムをまとめると、どういう試験かを一言で言うならば、2年間投与が必要な発がん性試験を肝臓の遺伝子発現量データから、今回は28日間のデータばかり示していますが、実際は14日間でもシステムを作っており、14日間、若しくは28日間の動物実験データで発がん性を予測することができます。どうしてもin vivoの試験は必要になってきますが、1化合物を予測するのに9匹の動物で予測が可能です。9匹の動物を用いて肝臓を摘出し、遺伝子発現量解析を行い、そのデータを発がん性予測システムにアプライして、定量的なデータを得るのが、このCARCINOscreen、発がん性予測システムのまとめとなります。

 これは補足ですが、継続して経済産業省が平成23年度からTox-omicsプロジェクトに携っております。その中に発がん性も入っており、ほかにも一般毒性や神経毒性、免疫毒性といったものも計画に入っているのですが、この発がん性の中で外部データとしてのデータの蓄積を行っています。結果ですが、平成23年、平成24年までに14物質、16試験の外部データを更に蓄積しています。発がん性のないもの、NTPのデータにないものが青いバーで、発がん性のあるものが赤いバーになっています。発がん性物質である3物質は、全て正しく正当しています。BDCM、ブロモジクロロメタン(Bromodichloromethane)NTPのデータでは陰性になっていたのですが、類縁体であるジクロロメタン(Dichloromethane)はヒト胆管がんを誘発することが報告されているので、NTPのデータでは陰性ですが、今回の我々のデータでも非常に高いPVC値を示していることから、もしかしたらこれは発がん物質ではないかと懸念しております。

 また、肝臓での発がん性予測システムが構築されつつあるので、更に広く化学物質による発がんを検出できるように、現在、腎臓に対する発がん性予測システムの開発も行っております。まだ2年間のデータなので、14物質、16試験分しかありませんが、今のところ尿細管がんの有無に応じてPVC値がこのように算出され、腎尿細管がない4物質はマイナスになり、腎尿細管がんが報告されている12試験分については正しく予測できているという結果が得られております。

 今後ですが、まだまだデータを蓄積している開発途上なところもありますが、将来的にはOECD等でガイドライン化をプロジェクトの中でも目指しております。こちらはガイドライン委員会のプロセスの一例です。先ほど田中先生や佐々木先生からもお話があったとおり、ガイドライン化の道筋は非常に遠いのですが、我々はこういうところを目指して準備を進めております。先ほど少し触れた経済産業省のTox-omicsプロジェクトは、プロジェクトリーダーをJcVAMの小島先生に努めていただいているので、小島先生の協力も仰ぎながら、このラインに早く乗れるように準備を進めております。道のりは遠いですが、ガイドライン提案をプロジェクト内でどうにかできるように、2015年の下半期を目標に掲げ、現在、作業を進行しております。以上です。

○清水座長 ただいまの報告に対して、何か御質問等ありましたらお願いします。

○西川委員 何回も聞いていて、今更ということもありますが、1つは予測式が3つあって、それをどのように使い分けて、最終的に総合的に判定すると言われましたが、そのことについて説明をお願いします。それが1点です。

 もう1つは、PVCはプラスかマイナスかどちらかになるわけですが、マイナスはいいとして、プラスになったとき、どのレベル以上を陽性と判定するかについてお願いします。

○齋藤委員 1点目ですが、今日は時間の関係上細かいところまで説明していませんが、3つの予測式全てにデータをアプライします。例えば、これは今回陰性と判定された物質ですが、全ての用量、3つの試験全てで陰性と判定されなければ、最終判定としては陰性にならない、要はFalseネガティブが出ないような工夫をしております。その3つの予測式の中では、どれか1つでポジティブとなった場合は、値の一番大きなものを採用するようにしています。3つそれぞれどれに掛けるかを最初に迷うのではなく、とにかく3つ全ての予測式で予測を行い、その中の最大値を最終判定として採用すると。陰性として判定するときには、必ず全ての用量でマイナスでなければ陰性としないことにしております。

2点目ですが、プラスとマイナスに分かれたからといって、それがいきなりポジティブ、ネガティブとなるのは強引ではないかと考えており、最終的にはグレーゾーン、マージナルというか、エクイボーカル(Equivocal)のようなものだと思いますが、値が微妙にプラスとマイナスに分かれることが実際にデータとして出てきます。このマージナルゾーン(Marginal zone)、エクイボーカルに近い部分は、5段階評価で最終判定をしようと考えています。例えば、それは全体の最大値と最小値から5段階で5エリアに分けて、例えば2.5以上は2+、今具体的な計算値は出ませんが、0.12から2.5の間が++0.2から-0.2は±、更にその下も-1から-1.5までが1-、それ以下が2-という形で、強弱というか、5段階評価で最終判定はしたいと考えております。

○本間委員 実際、CERIでは受託を受けているのですか。

○齋藤委員 はい。

○本間委員 1件幾らぐらいですか。

○齋藤委員 3つのステップが、この予測が必要なのですが、動物実験は病理所見を取るとか血液生化学検査をどこまでやるかで若干前後しますが、遺伝子発現量解析と発がん性予測システムの2つを一緒にやるのに、1物質200万円です。

○本間委員 動物実験は別ですか。

○齋藤委員 動物実験は別になります。通常の動物実験の費用を考えていただければ、サイザイするだけとなると、多分200万円ぐらいでできるのではないかと思っております。

○若林委員 この種のGene expressionの分析をして、いろいろな毒性を予測しようということは、米国やいろいろな所でやっています。もっと膨大な資料があると思います。これは10年ぐらいの歴史がありますが、まだ各国がそれぞれ別々にやっているのですか。

○齋藤委員 多分、NIHSが最初にToxicogenomicsプロジェクトに着手したかと思いますが、そのスタート時期が1999年だと記憶しています。その後、プロジェクト自体は2005年か2006年に一旦終わっているのですが、会議や学会等でそういう方々とお話する機会があったときに、米国などの報告では余りぱっとした結果が得られていないというのが現状なのです。データとしてはオープンになっているものはあるかもしれませんが、こういう形で1つの予測システムにまとまっているといった形にはなっていないのです。欧米でin vitroの遺伝子発現解析で発がん性予測システムを作っているという取組がありますが、in vivoでは現状ほとんどないと思います。

 その原因として、担当者とお話した中で感じたのは、個体間差が非常に大きくて、有意差の取れる遺伝子が選定できなかったというコメントをOECDの会議等で聞いています。これは我々のバックグランウドデータですが、アレイ実験は非常にばらつきが多いところがあって、昔のものは精度が悪くて、そういうところもありましたが、今は精度がかなり上がっています。これは全く違う日に同一サンプルの再現性実験を行ったものですが、かなり再現性よくデータが取得できます。このように非常に正確なアレイ実験を行うと、これは4匹の総当たりの相関性解析で、1個体目対2個体目、1個体目対3個体目と、全部で6組合せあるのですが、その決定係数としては0.9780.99と非常にばらつきを抑えた形で検出ができているので、恐らくきちんとしたデータを取っているということがバックにあったので、我々や厚労省のプロジェクトもあると思いますが、国内の遺伝子発現医療データは比較的高精度なものが多いので、こういう発がん性予測システムにつながったのではないかと考えています。

○若林委員 国内でも、菅野先生の所がやっていますね。そういう所のデータを重ね合わせていかなければいけないと思います。実際にデータを取るときに投与量や投与動物、投与方法、投与した後のマイクロアレイをするときの時間といったものも一緒になっているのですか。それとも、ばらばらなのですか。

○齋藤委員 菅野先生の所はパーセローム・プロジェクトだと思いますが、あちらはマウスがメインなのです。こちらはどうしても毒性評価に応用したいということがあって、ラットをメインで取っているところがあるので、そういう意味では正確な横並びの条件を合わせることは実際はやっておりません。菅野先生がメインでされたいところは、毒性のメカニズムそのものを調べたいということが非常にあるのですが、我々の所はどちらかというと試験法として遺伝子発現量データを1つのツールとして使って、それを基に簡易な方法で遺伝子の予測結果が得られるような、試験法としてというのが目的だったのです。菅野先生は、ある物質の毒性メカニズムがどのようになっているかの非常に細かいデータを取られていると思いますので、その辺りは目的も若干違うという印象は受けています。

○若林委員 最後の質問ですが、実際にリライアブル(Reliable)のデータが出てくるのは、いつ頃になりますか。

○齋藤委員 そうですね。ただ、物質としては100物質を超えてきていますもちろん、何物質以上だったらできて、何物質以下はできないというのは難しいのですが、まずガイドライン提案を目指しながら、その間、地道にデータを蓄積し、提案をしていろいろなコメントが来ると思いますが、そのときに物質が少ないといったコメントが来れば、まだまだデータを蓄積する必要が出てくるかと思いますが、TGPのデータまで合わせると、延べ200物質超えるのです。我々のプロジェクト、経産省のプロジェクトだけでは何百物質というのは難しいと思いますので、厚労省のデータなども全部活用して、良い形でガイドライン提案ができればと思っております。

○田中委員 いつも同じような質問をして申し訳ありませんが、5ページで「施設間バリデーション」とか、「外部バリデーション」という言葉を使っていますが、普通「バリデーション」と言うと、試験法を開発した人が第三者評価、客観的にこの試験はロバストネス(Robustness)がちゃんと取れているかとか、プレディクティビティ(Predictivity)があるとか、施設内のデータがちゃんと一致するかとか、化学物質を第三者に選んでもらって、ブラインドでやることが原則なのです。この場合は、いわゆるバリデーション・セオリーのバリデーションではないですね。

○齋藤委員 そうですね。まだガイドラインのスキームにのっとったバリデーションではないのですが、それにできるだけ近付けた形でのバリデーションということで、外部データで精度を見ていくのは非常に重要なので、可能な範囲でやっているということが1点です。恐らく、その中でもTCPのデータ、検証の中で使っている「外部バリデーションB」は、先生から頂いたコメントに非常に近いバリデーションではないかと思います。我々が選んだものでもないし、動物実験はTGPの中でされたものなので、そういうものを使っても90%以上の精度を持っています。これは、そういう意味での外部バリデーションの条件に近いデータになるのではないかと考えています。

○田中委員 もう1つ、OECDのガイドライン化を狙うのであれば、全てオープンでないとまずい。CARCINOscreenはいつまでもブラックボックスで、オープンはしてくれないけれども、それがオープンにならないと、社会一般に使えない。

 また、みんなでやろうと思っても、最終的にCARCINOscreenは先生の所にお願いすると、それはそれでもいいのですが、その辺りがいつもよく分からないのです。OECDのガイドライン化とおっしゃるなら、そこまでも考慮してやらないと、いつまでもオープンにできないのではないかと思います。これは5年前から言っていることですが。

○齋藤委員 補足しますと、遺伝子に関してはもうオープンになっております。手法としてはデータ自体も公開しているものもありますが、特許取得したこともあって、公開特許にもなっているので、遺伝子は全てオープンになっております。そういう意味では、我々はクローズド(Closed)にしようとは考えておりません。ただ、国内で開発したものを海外でそのままデータを引用されてというのは、知財関係は守りたいので、特許に関しては米国と国内としていますが、その内容については既にオープンになっているので、我々としては抱え込もうとか、そういうことは全くありません。基本的にはオープンにしてガイドライン化というところは、先生のおっしゃるとおり、そういう思想で進めていく予定にしております。

○清水座長 よろしいですか。時間も迫っておりますので、今後、国が行う試験の選定をしなければならないので、事務局から説明をお願いします。

○大淵有害性調査機関査察官 事務局としては、非遺伝子毒性スクリーニングは今まで全くやったことがなくて、これから初めて導入しようというところです。行政的にも新規化学物質の場合どういう試験をするかが決まっていて、それはOECDのガイドラインに裏付けされたものになっていますが、新しく始めるものについては、今日の試験はどちらもガイドラインの確定したものにはなっていませんが、それぞれガイドライン化に向けていろいろな作業が進んでおります。私ども事務局としては、特にどちらでなければ駄目という案を持っているわけではありませんが、試験を行って出てきた結果については、それをもってすぐに行政指導ではなく、次のステップの試験の対象物質を選ぶための材料にはしたいと思うので、信頼性のある試験を選びたいと思っております。そういう観点で、今日御説明いただいた試験の中でどちらがより適当か御判断をいただければと思います。

○清水座長 事務局からそういう御説明がありましたが、国が今選定しているような物質について委託試験をしてもらうことになりますが、今、御説明いただいた2つの試験系でどちらを選ぶかということで、何か御意見がありましたらお願いします。

○本間委員 目的としては、陽性の物質を発がん性物質としてラベリングするのか、陰性の物質を問題ないとするのか、どちらの目的ですか。

○大淵有害性調査機関査察官 使う目的としては前者で、陽性の物質は発がん性の可能性があるということで、次のステップの試験に進めていくということです。

○本間委員 そうなると、どちらがいいかは、感度が高いほうを優先するといった考え方でよろしいですか。可能性があるものを、できるだけ漏れなく検出できるという方です。2つタイプの試験能力があると思います。発がん性の物質を検出する能力と、非発がん性物質を非発がん性とする能力と、どちらを優先するかということであれば、今のお考えだと前者を優先して考えるべきだということでよろしいですか。○清水座長 中期試験に持っていくにはどうしたらいいかということですね。

○西川委員 試験の簡便性とか試験に要する時間は、スクリーニングですから、その辺りを考慮しなければいけないと思います。

○清水座長 費用の面は当然考えなければいけないでしょうし。

○大淵有害性調査機関査察官 委託事業なので、できれば国内で1か所だけではなくて、幾つかの所が実施可能ということで選んだほうが、将来的なことも考えるとよいかと思います。

○清水座長 現在は、Bhasができる機関は日本には何か所ぐらいあるのですか。

○田中委員 バリデーションに参加していただいた所は、一応技術移転しているので、可能だろうと思います。特に、今お見えになっているバイオアッセイや安評センターは信頼のおけるデータを出してくれていると思います。

○清水座長 齋藤先生の所で、この方法ができる所はほかにありますか。

○齋藤委員 動物実験はGLP施設であればどこでもできますし、アレイ実験もアジレント社、アフィメトリックス社の、各社が認めているサービスプロバイダーがあって、アジレント社で5社ぐらいあって、アフィメトリックス社でも9社か10社ぐらいあったと思います。そちらも、契約をしている所であればどこでもできると思います。

○清水座長 そういうことですが、どちらを選定するか、いかがでしょうか。

○大淵有害性調査機関査察官 今の齋藤先生のお話ですと、動物実験なりアレイのところまではどこかがやって、最後のこのシステムを使っての計算予測は化評研(化学物質評価研究機構)だけができるという仕組みですね。

○齋藤委員 今のところは、そういう状態になっております。

 ガイドライン化と並行して進めてはいくのですが、将来的にはオープンにしたいのですが、現時点でオープンにするのはまだ難しい状況です。

○荒木委員 田中先生の所は、いわゆる細胞株ですね。いわゆる特異性のあるような発がん物質も広く捉えていると考えてよろしいですか。齋藤先生の所の最初のものは、肝臓がんが45%だからということで開発されていますね。ということは、臓器特異性の問題はまだ全部解決されているわけではない。

○齋藤委員 はい。どちらかというと、我々のシステムは中期発がん性試験に近いような感じだと思います。

○荒木委員 先生の所はいかがですか。

○食品医薬品安全センター(佐々木氏) 先ほどフェノバルビタールの話がありましたが、物質としてはいろいろな発がん物質を選んだつもりです。もちろん臓器毒性の話もありますし、構造物質、芳香族炭化水素やニトロ化合物、ステロイドといったものも選んで、その結果、出るものもあるし、出ないものもあるという結果です。

○荒木委員 ある程度得意なものと不得意なものがあるのですか。

○食品医薬品安全センター(佐々木氏) 少なくとも芳香族炭化水素は得意です。ポジティブコントロールにメチルコラントレン(Methylcholanthrene)を使っているぐらいですが、もちろん最初にBhasを吊り上げたときに選んだプロモーターがTPAなのです。ですから、TPA like promoterといって、いわゆるC kinaseを活性するようなもの、MedullarinTPAなどは入れてしばらくすると、3週間など培養しなくても形が変わってきます。

○荒木委員 ちなみに、今お幾らで受けられているのですか。

○食品医薬品安全センター(佐々木氏) 100万円前後ですね。

○田中委員 それはプロモーショントとイニシエーションと2つセットの場合と、それぞれ別の場合で費用がことなるでしょう。でも、こういう公的な仕事だと、国のため、世のためというのが財団法人の目的なので。

○食品医薬品安全センター(佐々木氏) 実際、依頼者が希望するのは、ほとんどプロモーションアッセイです。イニシエーションアッセイは、ほかの試験でできますので。

○若林委員 セルラインの安定性は、いかがですか。培養中に何か変わってしまうということはないのですか。

○食品医薬品安全センター(佐々木氏) 不思議なことに、最初にクローニングしたときには、neo遺伝子と共導入にして、G418でセレクションしているのです。私もMolecular biologyは疎かったのと、G418が高かったので、最初のクローニングのときだけG418を入れて、あとはG418を抜いて培養していたのです。そうしたら、普通は遺伝子を導入した細胞はどんどん抜けてしまうのですが、このクローンはなぜか非常に安定していて、100%入っていたのです。現在秦野研究所で保有している細胞は、クローニングしてから20回ぐらい継代していますが、抜けません。何か特別な仕組みを入れるようなことは全然していません。たまたまです。しかし、neo遺伝子は抜けていますので、G418を入れると全滅します。ras遺伝子は抜けていません。

○清水座長 どちらかにある程度絞らなければいけませんが、今までのお二人の御発表から考えると、期間や費用、信憑性、試験機関の数ということから考えると、形質転換という結論になるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○本間委員 我々は遺伝毒性の専門家なので異存はありませんが、私が前から懸念していたのは、発がんを専門でやっている先生が、これを発がん性があるという結果として認めてくれるかが重要です。もともとこれは発がん性の部分で議論するということだったのですが、方法論的にin vitroだということで、ここでやりましょうということになりました。個人としては問題ありませんが、発がん性の専門家が納得してくださるのであれば、私は問題ないと思います。

○清水座長 WGの話は、西川先生、いかがですか。

○西川委員 動物で実験しているわけではないので、発がん性ありと確定的なことは言えないと思いますが、可能性があるという程度のことは言えるかと思います。

○若林委員 エームス試験や染色体異常試験に加えてこのような試験系は、短期又は中期試験としては非常に必要だと思います。セルラインも安定しているし、物質数もかなりたくさん試験しているし、いろいろな所でバリデーションもやっているので、現段階では清水先生が指摘されているように、2者どちらかという場合には形質転換試験です。マイクロアレイはもう少しデータが蓄積すると、良い試験法に発展するのではないかと思います。

○清水座長 形質転換試験ということになれば、今、プロモーション試験とイニシエーション試験が両方あるわけですが、両方なのか、どちらか一方なのか、その辺りはいかがですか。先ほどのお話では、プロモーション試験の依頼が多いのですね。

○西川委員 そもそも対象物質は変異原性がないものと理解していますので、したがってプロモーションに限定した試験でよいのかなと思います。

○本間委員 両方を1回で見ることはできないのですね。

○田中委員 できます。

○本間委員 それは同じ値段になりますか。

○食品医薬品安全センター(佐々木氏) ×2回です。

○田中委員 2にはなりませんが、でも、一緒に流すわけですね。

○本間委員 一緒に流すということですか。

○田中委員 プロトコールで若干違いますから。

○本間委員 両方兼ね備えたプロトコールはないわけですか。

○食品医薬品安全センター(山影氏) それは別々にやる必要があります。

○大淵有害性調査機関査察官 ただ同時にやるだけです。

○食品医薬品安全センター(佐々木氏) 例えば、どちらかが毒性が強過ぎて細胞が全滅して、適正な濃度が取れず、片方は適正な濃度が取れたとすれば、適正な濃度がとれない方をもう1回独立に試験するわけです。つまり、たまたまイニシエーションとプロモーションを両方見たいときには、一緒に細胞を播いて試験しているということです。

○清水座長 そうすると、一応プロモーション優先ということで、あとは費用の問題もあるでしょうけれども。

○大淵有害性調査機関査察官 どういった委託内容にするかも、内部で検討させていただきます。

○清水座長 それでは、議題3に移ります。「非遺伝毒性発がんスクリーニング試験の対象物質の選定」について、事務局から御説明をお願いします。

○大淵有害性調査機関査察官 簡単に、おおむねの方向を御理解いただければ、あとの細かい作業は事務局でするという前提で御説明します。

 資料4-1を御覧ください。今決めていただいた遺伝毒性発がんスクリーニング、こちらは形質転換でやる方向ですが、その場合の対象物質の選定については、今お話がありましたように、「遺伝毒性なし」とこのWGで判断された物質から選んでいくことにします。619物質を分類して、そのうち494物質が遺伝毒性なしと判断されております。それを絞り込むときの考え方ですが、最優先の事項としては、国内の製造・輸入量が多いものを優先と考えます。その中で用途についても、全部の物質ではありませんが、用途が分かっているものはその用途も考慮して、広い用途で使用されるもの、あるいは用途の中身から見て開放系での使用が予想されるような物質を優先に考えたいと思います。量についてこちらで機械的に分類したところ、100300万トンが8物質、1090万トンが53物質、19万トンが88物という状況です。

 試験の対象物質は、今日、手法が決まったので、予算の総額は決まっているので、試験の手法によって何物質できるかが変わってきます。15ないしは20物質ぐらいできればいいかと思っておりますので、この中から絞込みを掛けていきたいと思っております。

 そのほかに考慮すべき事項として、2ページですが、試験をする際に外さなければいけない要素として、(1)常温で気体の物質です。事前に田中先生、齋藤先生から伺っていたお話で、ガス状の物質については試験手法が難しいということですので、将来的には手法が確立されれば気体のものもできるかもしれませんが、現段階では難しいと考えております。(2)として、天然物由来、あるいは構造類似物質の混合物のようなものです。こちらは試験に使用する試薬が入手できないということで、除外せざるを得ないと考えます。

 そのほかの要素として、事務局でこういったことも考慮すべきだということで、(1)(2)を挙げております。「遺伝毒性なし」の494物質は、いずれもIARCACGIH等々の国際機関等による発がん性分類が、今何もないものを選んでいるわけですが、一部の物質については、分類はされていないけれども、発がん性試験の情報がある物質もあります。分類はされていないけれども、試験の情報があるという物質があるので、そういう物質についてはわざわざスクリーニング試験を行う必要が低いのではないかということで、優先順位は低くなると考えております。

 また、製造・輸入量の多い物質の中には、アルカンやアルケン、アルコールなど、比較的単純な構造の物質もかなり多く含まれており、同じような構造の物質についてたくさん試験をしなくても、アルカンならアルカン、アルケンならアルケンの1つのグループの中で、まずは炭素数の小さいものについて試験を行って、その結果がもし陰性であれば、炭素数が大きいものについては試験が省略できるのではないかということで、考えてみてはどうかと。できるだけいろいろなタイプの物質をやったほうがいいのではないかということで、このようなことも御提案させていただきました。

 ちなみに、494物質の中で主だった構造のものを拾い上げたところ、ここに書いてあるようなもの、例えば多いものではアルカノールについては19物質ありましたので、こういったものでは比較的低分子のものを先にやってはどうかという提案です。

 具体的な物質のリストは3ページ以降です。資料4-2の丸数字1~丸数字3は量別のリストです。資料4-2-丸数字1、100万~300万トンの物質の資料でどんな項目を書いているかですが、左から3番目の項目に第3WGまでの評価ということで、「遺伝毒性なし」ということを書いております。そのほか、ただいま申し上げた考慮すべき事項では、判断材料としては製造・輸入量、単位はトンです。また、関連事項として製造・輸入量、ここに書いてある数字が必ずしもその物質にイコールになっていないケースがあって、例えば2番目の1-ブテンは、1-ブテンの量そのままではなくて、2-ブテンなども含むということで、その合計量なので、配慮して考えなければいけないところがあります。主な用途が次の欄です。

 発がん性の情報を手っ取り早く調べられるものということで、私どもで安全データシート、モデルSDSを作って公開しております。その中から発がん性に関する情報を抜き出して、発がん性について、もし何か分類があればその分類、ない場合でも何か発がん性について情報が書いてあれば、それをコピー&ペーストで整理しております。例えば、下から2番目のアンモニアは、分類はないけれども、過去に発がん性試験をした実績があるという情報がありました。

 最後の項目は、物性のところで常温で気体といったことが分かっている物質については、ここにその旨を記載しております。そのような形で判断材料になるようなものを表にして、物質の製造・輸入量別表、構造のグループ別の表を整理しております。先ほどの12ページで記載したような方針でよろしければ、今後、事務局で絞込みの作業をし、先生方にメール等で御連絡して、その方向でよいか御確認を取った上で、次年度の委託事業の形に進めていきたいと思っております。以上です。

○清水座長 選定方針に関して御説明いただきましたが、特に御意見はありませんか。よろしいでしょうか。今後、事務局で物質の選定をしていただくということで、決まりましたら委員にメール等でお知らせいただければと思います。何か御質問はありませんか。

 それでは、「その他」に進みます。事務局からお願いします。

○大淵有害性調査機関査察官 資料5「今後の予定」です。WGについては、今年度は今回が最後ということで、次回は4月以降の開催になります。第1回で予定しているテーマとしては、今年度エームス試験を委託事業で33物質実施という予定になっているので、その結果を評価していただくこと。また、別の事業において、約1,000物質について構造活性相関を計算してもらっているので、それの評価もこのWGでお願いしたいと思っております。日程は別途調整させていただきます。

 検討会と絡んで、委託事業ですが、先ほどから申し上げているように、今現在、平成26年度の事業に向けて準備をしているところです。年度の途中でいろいろ御相談させていただくことがあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。以上です。

○本間委員 確認ですが、形質転換試験は評価書で遺伝毒性試験の中に入れられることが多いのですが、今回の議論で、私は、これは発がん性試験の代替として認められたと考えているので、切分けとしては今後も発がん性の代替として考えてよろしいですか。

○田中委員 私もそう思います。

○本間委員 それでは、それは発がん性の評価書の中からは外して、発がん性を入れるかどうかは別として、そういった形でいいですね。

○大淵有害性調査機関査察官 遺伝毒性から外すということですか。

○本間委員 遺伝毒性試験の中の評価文書から外すということです。

○清水座長 それは、そちらの問題ですね。

○本間委員 発がん性の代替と考えてよろしいですね。

○清水座長 そうです。

○西川委員 そもそも発がん性のグループで検討することになっていたのですが、発がん性のグループはほとんどが動物を使う試験しかやっていないので、この試験では細胞を扱うことから、用量設定とか、いろいろ難しい面があるので、遺伝毒性のWGと合同のWGとしてという理解でよろしいですね。

 

○大淵有害性調査機関査察官 はい。

○本間委員 これは恐らく、世界で初めて形質転換試験を安全評価に使うプロジェクトではないかと思います。非常に重要なプロジェクトだと思いますので、今後も期待しております。

○清水座長 データも蓄積されてきていますから、非常に期待できるものと思います。

 それでは、不手際で大分時間が長くなりましたが、これで終了します。今日、特別参加いただいた先生方、どうもありがとうございました。


(了)

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