2019年12月24日 第157回労働政策審議会労働条件分科会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和元年12月24日(火) 10:00~12:00

場所

厚生労働省専用第22会議室(合同庁舎5号館18階)

出席者

【公益代表委員】
    荒木委員、安藤委員、川田委員、黒田委員、両角委員
【労働者代表委員】
    川野委員、北野委員、櫻田委員、仁平委員、八野委員、森口委員、世永委員
【使用者代表委員】
    池田委員、齋藤委員、早乙女委員、佐久間委員、鳥澤委員、輪島委員
【事務局】
    坂口労働基準局長、吉永審議官、久知良総務課長、黒澤労働条件政策課長、石垣監督課長、長良労働関係法課長

議題

賃金等請求権の消滅時効の在り方について

 

議事

 
○荒木会長 それでは、皆様おそろいということですので、ただいまから第157回「労働政策審議会労働条件分科会」を開催いたします。
本日の委員の出欠状況ですが、御欠席の委員として、公益代表の平野委員、藤村委員、水島委員、労働者代表の津村委員、使用者代表の佐藤委員、松永委員と承っております。
議事に入ります前に、事務局より定足数の御報告をお願いいたします。
○労働条件政策課長 事務局でございます。
定足数について御報告いたします。労働政策審議会令第9条第1項により、委員全体の3分の2以上の出席、または公労使各側委員の3分の1以上の出席が必要とされておりますが、定足数は満たされておりますことを御報告申し上げます。
○荒木会長 それでは、カメラ撮りはここまでということでお願いいたします。
本日の議題に入ります。お手元の議事次第に沿って進めてまいります。本日の議題の「(1)賃金等請求権の消滅時効の在り方について」につきまして、事務局より説明をお願いいたします。
○労働関係法課長 労働関係法課長でございます。よろしくお願いいたします。
資料は、資料と題した「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関するこれまでの主な意見及び論点」、それから参考資料を御用意させていただきました。本日は、資料「主な意見及び論点」について私から御説明をさせていただきます。
消滅時効に関しましては、この条件分科会でも数回御議論をいただいてきたところでございますが、これまでの主な意見、論点について資料としてまとめてございます。主な意見につきましては、前回も資料を提出して御議論いただいたところでございますが、それに前回11月25日の労使の御意見を追加してまとめたものになっております。本日はその追加部分について補足をさせていただきます。
2ページでございます。論点としては「3賃金請求権の消滅時効期間について」の部分でございます。前回の御議論の中では、上から4つ目のポツ「近年、労働者性が曖昧で雇用と非常に近接した働き方が増えている。労働者性の有無によって適用される消滅時効期間が異なり、働く者に無用の混乱を引き起こす懸念があることから、消滅時効期間は統一的に5年とすべき」と。
一方で、1個飛ばして次のポツですが、「賃金債権は後払いという性質がある以上、権利義務関係の確定が難しいという特殊性があることを踏まえ、権利義務関係の早期確定をすることが必要」などの御意見がございまして、今、申し上げたポツから6個が11月25日、前回の御議論で加わった部分でございます。
続きまして、「5記録の保存について」でございます。こちらは3ページに記載しておりますが、前回11月25日に御議論があった部分というのは、上から5つ目のポツからでございます。「中小企業の経営者に聴取したところ、社会保険労務士等の助言により記録のデータ化が進んでいるため、紙で労務管理をしているという企業は少なかった。労働に限って保存の負担が大きいということはないのではないか」という御意見がある一方で、次のポツ「中堅企業であればICT化が進んでいる企業もあるが、小規模企業であれば紙資料で保存しているところもある」といった御意見がございました。
続きまして、「7見直しの時期、施行期日等について」でございます。こちらに関しましては、4ページの上から2つ目「見直しの時期については、有識者検討会でも早く方向性を示すべきとの意見が出されていることを踏まえ、改正民法の施行と同時に5年の消滅時効期間の適用が受けられるようにすべき」といった御意見がございました。
以上の御意見を踏まえまして、論点を四角囲みの形で整理しているところでございます。
1つ目は消滅時効期間についてでございます。改正民法の契約に基づく債権の消滅時効期間である5年間という期間を考慮しつつ、現行の2年間をどのように考えるべきか。
2つ目は経過措置についてでございます。いわゆる労働契約締結日基準とすべきか、債権発生日基準。これは改正法の施行後に賃金の支払期日が到来する全労働者の賃金請求権から新たな消滅時効期間を適用するという内容でございますが、どちらにすべきかということが2点目。
3施行期日についてでございます。改正民法の施行期日、来年4月1日を考慮しつつ、いつから施行するか。
4、1~3を踏まえ、仮に見直しを行った場合、一定期間後の検証が必要か。その場合、どの程度の期間を考慮することが適切かという形でまとめてございます。
資料の説明は以上でございます。
○荒木会長 ありがとうございました。
ただいまの説明につきまして、御意見、御質問等があればお願いいたします。佐久間委員。
○佐久間委員 ありがとうございます。
それでは、私のほうから発言をさせていただきたいと思います。従来からの事務局の論点に付随するものなのですけれども、まず民法の改正は検討の一つの契機となるものですが、労基法は刑罰法規であること、そして賃金債権の特殊性がある。また、企業が置かれているさまざまな事情を考えると、民法改正と連動して改正する必要はなく、2年間の消滅時効を維持すべきということをこれまでも繰り返し申し上げてきたところでございます。
特に強調したい点は、賃金債権には一般の債権にはない特殊性があるということであります。賃金債権は労働の指示があったか否かが後で紛争となりやすく、過去の事実を裁判上で立証するために相当な証拠保全が必要となりますし、また、保全しようとしても、組織の再編や本人の退職などによって、当時の上司から話を聞くことが難しいケースも出てきます。その他、就労の多様化などに伴い、今後ますます労働時間性の有無や労働者性の有無について、多様な紛争が発生し得ることも鑑みれば、早期の権利義務関係の明確化は非常に重要であると考えています。
また、企業が置かれている実情という点で言えば、中小企業の多くがいまだ紙ベースで管理を行っており、データ化のための人員確保やサーバの確保は負担となってきます。
さらに、企業の人事・労務管理の負担は増加しており、上限規制を遵守するため、長時間労働者のチェック、年休の管理、パワハラの防止等、対応しなければならない課題は多くあります。仮に労基法第115条の改正を検討していくことであっても、これらの事情に鑑み、時効期間はできる限り短くすべきであり、施行時期についてもなるべく企業実務に影響がないようにすべきであるというのが企業側の主張です。
経過措置については、激変緩和の観点から導入それ自体には賛成ですが、労働契約日基準とするべきか、債権発生日基準とするべきかについては一長一短があると存じます。しかし、仮に改正民法の考え方に倣うというのであれば、改正法の施行日以降に締結された労働契約を対象に、消滅時効期間を適用する労働契約締結日基準が素直な考え方ではないかと思います。実際この論点の中でも示していただいていますとおり、一定期間経過後の検証が必要かということもあります。もし私たちの主張が通らずに、そのままで行くのであれば、公的な調査結果に基づくそのときの検証措置を十分行っていただきたいと考えています。
以上でございます。
○荒木会長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。仁平委員。
○仁平委員 どうもありがとうございます。
労働側の意見は、これまで申し上げてきたとおりであり、先ほど説明いただいた資料に主な意見として書いてございますので、個別の論点についてもう一度同じことを繰り返すということは避けたいと思っております。
1点だけ労働側として強調しておきたいと思います。それは、労基法は労働の最低基準を定めた労働者保護のための特別法であるということです。労働条件分科会は特別法としての労基法を審議するための場と考えております。今回の見直しが労働者保護という労基法の趣旨をしっかりと踏まえて行われるべきである、ということをもう一度強調させていただき、発言とさせていただきます。
以上です。
○荒木会長 ほかにはいかがでしょうか。
労働側の御主張はこれまでのとおりということですと、時効期間は5年間で、債権発生日基準で考えるべきと、そういうお立場と理解してよろしいですか。
○仁平委員 そのとおりです。
○荒木会長 わかりました。
ほかにはいかがでしょうか。
この問題については、この分科会でずっと議論してきましたけれども、本日お聞きしたところを踏まえましても、依然として労使の意見の隔たりには大きいものがあると考えております。一方で、改正民法の施行は来年4月1日ということで、期限が迫っており、現在検討しております労働基準法上の時効期間についても早急に結論をまとめるべき状況が生じていると考えているところです。
そこで、現在の状況、見解の対立が激しいという状況を踏まえまして、ここで一旦本会を休憩といたしまして、別室にて公益委員が労使それぞれから意見を伺わせていただくということにしたいと考えます。
○労働条件政策課長 事務局でございます。
ただいま分科会長からございましたとおり、労働条件分科会はこれより一旦休憩とさせていただきます。委員の皆様におかれましては、事務局が控え室に御案内いたしますので、順次御移動をお願いいたします。
次に、会議を傍聴されている皆様にお願い申し上げます。労働条件分科会はこれより一旦休憩となりますので、会議が再開されるまでの間、傍聴席にてお待ちいただきますようお願い申し上げます。
以上、よろしくお願いいたします。
 
(休 憩)
 
○荒木会長 それでは、ただいまから本会を再開いたします。
休憩の間に改めて労使の御意見を伺いました。公益委員としましては、来年4月の改正民法の施行が迫る中で、早急に一定の結論を出す必要があると考えております。このため、取り扱いとしては大変異例ではありますが、先ほどお伺いした労使双方の主張を踏まえまして、公益委員としての見解をまとめたところであります。
事務局より配付及び説明をお願いいたします。
(資料配付)
○労働関係法課長 ただいま分科会長から御指示がございまして、公益委員としての御見解がございます。皆様、お手元にはございますでしょうか。
それでは、私のほうから公益委員見解を読み上げさせていただきます。
賃金等請求権の消滅時効の在り方について(公益委員見解)
1 賃金請求権の消滅時効の起算点及び消滅時効期間について
賃金請求権は労働者にとって重要な債権であり、それが故に労働者保護を目的とする労基法において各種の保護規制が設けられている。現行の2年の消滅時効期間についても、民法の短期消滅時効の1年では労働者保護に欠ける等の観点から定められたものであり、今回の見直しにおいてはそうした点も踏まえて検討する必要がある。
一方、労基法上の消滅時効関連規定が労使関係における早期の法的安定性の確保、紛争の早期解決・将来的な紛争の防止の機能を果たしてきたことや、大量かつ定期的に発生するといった賃金請求権の特殊性を踏まえると、民法一部改正法とは異なる取扱いをすることも理論的には考えられる。
しかしながら、そもそも今回の民法一部改正法により短期消滅時効が廃止されたことが労基法上の消滅時効期間等の在り方を検討する契機であり、また、退職後に未払賃金を請求する労働者の権利保護の必要性等も総合的に勘案すると、
・ 賃金請求権の消滅時効期間は、民法一部改正法による使用人の給料を含めた短期消滅時効廃止後の契約上の債権の消滅時効期間とのバランスも踏まえ、5年とする
・ 起算点は、現行の労基法の解釈・運用を踏襲するため、客観的起算点を維持し、これを労基法上明記することとすべきである。
ただし、賃金請求権について直ちに長期間の消滅時効期間を定めることは、労使の権利関係を不安定化するおそれがあり、紛争の早期解決・未然防止という賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等も踏まえて慎重に検討する必要がある。このため、当分の間、現行の労基法第109条に規定する記録の保存期間に合わせて3年間の消滅時効期間とすることで、企業の記録保存に係る負担を増加させることなく、未払賃金等に係る一定の労働者保護を図るべきである。そして、改正法施行後、労働者の権利保護の必要性を踏まえつつ、賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等を検証し、6の検討規定も踏まえて必要な検討を行うべきである。
また、退職手当の請求権の消滅時効期間については、現行の消滅時効期間(5年)を維持すべきである。
2 賃金請求権以外の請求権の消滅時効期間について
これらの請求権は労基法上創設された権利であるが、これまでも民法の一般債権の消滅時効期間(10年)に関わらず、一律に労基法で2年間の消滅時効期間とされていることに加えて、以下の理由から、現行の消滅時効期間(2年)を維持すべきである。
(1)年次有給休暇請求権
年次有給休暇は、労働者の健康確保及び心身の疲労回復等の制度趣旨を踏まえれば、年休権が発生した年の中で確実に取得することが要請されているものであり、仮に消滅時効期間を現行より長くした場合、この制度趣旨にそぐわないこと、また、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性に逆行するおそれもあること。
(2)災害補償請求権
災害補償の仕組みでは、労働者の負傷又は疾病に係る事実関係として業務起因性を明らかにする必要があるが、時間の経過とともにその立証は労使双方にとって困難となることから、早期に権利を確定させて労働者救済を図ることが制度の本質的な要請であること。
加えて、労災事故が発生した際に早期に災害補償の請求を行うことにより、企業に対して労災事故を踏まえた安全衛生措置を早期に講じることを促すことにつながり、労働者にとっても早期の負傷の治癒等によって迅速に職場復帰を果たすことが可能となるといった効果が見込まれること。
なお、仮に見直しを検討する場合には、使用者の災害補償責任を免除する労災保険制度は当然のこと、他の労働保険・社会保険も含めた一体的な見直しの検討が必要である。
(3)その他の請求権(帰郷旅費、退職時の証明、金品の返還(賃金を除く。))
これらの仕組みは元来早期の権利確定を念頭に置いたものであることに加え、一般に労働契約が解消された後に長期間経過した場合には、労働者と労働契約を解消した使用者の間での権利関係を立証すること等が困難となり、それに伴い無用の混乱が生じるおそれがあるため、早期の権利確定のインセンティブを維持する必要性があること。
※ 帰郷旅費:契約解除の日から14日以内
退職時の証明:労働者が請求した場合、遅滞なく交付
金品の返還:権利者が請求した場合、7日以内に返還
3 記録の保存について
労働者名簿や賃金台帳等の記録の保存義務については、紛争解決や監督上の必要から、その証拠を保存する意味で設けられていることを踏まえ、賃金請求権の消滅時効期間に合わせて原則は5年としつつ、消滅時効期間と同様に、当分の間は3年とすべきである。
4 付加金について
付加金については、割増賃金等の支払義務違反に対する一種の制裁として未払金の支払を確保することや私人による訴訟のもつ抑止力を強化する観点から設けられており、その請求期間については、賃金請求権の消滅時効期間に合わせて原則は5年としつつ、消滅時効期間と同様に、当分の間は3年とすべきである。
5 見直しの時期、経過措置について
(1)施行期日
民法一部改正法による契約上の債権の取扱いを踏まえ、民法一部改正法の施行の日(令和2年4月1日)とすべきである。
(2)経過措置
民法一部改正法の経過措置は、当事者は時効の対象である債権の発生原因である契約の締結時点における法律が適用されると予測し期待するのが通常であるという考えに基づき、施行期日前に締結された契約に基づく債権は改正前の法律が適用されることとしている。
一方で、仮に賃金請求権の消滅時効期間について民法一部改正法と同様の経過措置とした場合、同じ職場でも労働者単位で消滅時効期間が異なることとなり、労務管理等に混乱が生ずるおそれがある。
加えて、賃金債権は大量かつ定期的に発生するものであり、その斉一的処理の要請も強いことから、施行期日以後に賃金の支払期日が到来した賃金請求権の消滅時効期間について改正法を適用することとし、付加金の請求期間についても同様の取扱いとすべきである。
6 検討規定について
改正法の施行から5年経過後の施行状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講じることとすべきである。
以上でございます。
○荒木会長 ありがとうございました。
労使双方の委員におかれましては、ただいま説明のあった公益委員見解についてお持ち帰り、御検討いただき、その結果について次回の分科会において報告をお願いいたします。
また、事務局におかれては、この見解を労使双方に御了承いただけることを前提として、取りまとめ案を作成し、次回分科会において提示できるよう準備を進めておいてください。
では、時刻が参りましたので、本日はここまでといたします。
最後に、次回の日程等について、事務局から説明をお願いします。
○労働条件政策課長 次回の労働条件分科会の日程・場所につきましては、調整の上、追ってお知らせいたします。
○荒木会長 それでは、本日の第l57回労働条件分科会は以上で終了とさせていただきます。
なお、議事録の署名につきましては、労働者代表の森口委員、使用者代表の鳥澤委員にお願いいたします。
以上といたします。どうもありがとうございました。