先輩からのメッセージ

MESSAGE #01

科学と制度と現場を
つなぐ橋渡し役として

内閣府 食品安全委員会事務局
評価第一課長

内閣府 食品安全委員会事務局 評価第一課長

「すべてのものは毒であり、毒でないものはない。用量だけが毒でないことを決める。」これは、16世紀ヨーロッパの医師・化学者であるパラケルススの言葉です。言い換えれば、医薬品や化学物質はその量によって毒になり得るということであり、薬学と毒性学は表裏一体であることは薬学を学ぶ際にまず教え込まれることでもあります。

日常生活において様々な化学物質と接する機会がある中、化学物質と人体・生体との関係性を理解することは、国民の生活を守るために不可欠なものと言え、そこで用いられる安全性評価・リスク評価の考え方は、医薬品だけでなく、化粧品、食品添加物、農薬、環境化学物質などの規制のベースとなっています。

国民の生活を守るためには、危険な物質は使用などを禁止する手法がありますが、必ずしも○か×かの二者択一で選択できるとは限りません。例えば医薬品であれば、適応疾患や用量、対応する医師・薬剤師、販売方法など、複数の要素の組合せにより使用が認められる制度設計・運用になっています。ほかにも、品質とコスト、安全確保と利便性、検証レベルと時間・費用など、トレードオフとなる事象についてはどちらか一方を優先すればよいものではなく、最適解を導き出す必要に迫られる場面が数多くあります。

また、政策を作る上では、行政、現場、企業、医療従事者、患者、消費者など、様々な立場の意見を考慮することが必要となります。そして、複数の考慮要素からなる連立方程式を解くようなことが求められる場面も少なくありません。

なぜ「薬系」技官が必要とされるのか。それは、事象を物質から見る物理学・化学だけでなく、生体から見る生物学だけでなく、複数の視点から科学的・論理的に思考できることが「薬系」のアイデンティティであり、多様な視点から最適解を導き出そうとする人材が行政の様々な場面で必要とされているためであると実感しています。

行政の場で科学と制度をつなぎ、正しくわかりやすくコミュニケーションを図る役割を担う、多様な経験・考え方を持った人たちに集まっていただくことが、国民の生活を守ることにつながると期待しています。