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本サイトは厚生労働省の表彰事業「グッドキャリア企業アワード」を通じて、企業や働く方に自律的なキャリア形成について発信するためのサイトです。

グッドキャリア企業アワード2022
企業向けセミナー(大阪)
を開催しました!

令和5年2月22日(水)、梅田センタービル(大阪)において「グッドキャリア企業アワード2022企業向けセミナー」を開催しました。当日は企業の経営者、人事労務担当者を中心にご来場いただき、厚生労働省による挨拶、ユースキャリア研究所代表 高橋 浩氏による「組織におけるキャリア形成と学び・学び直し」をテーマとした基調講演と、高橋 浩氏をコーディネーターに迎え、2022年度受賞企業3社を交えたパネルディスカッションを実施しました。

開会挨拶

企業セミナーでは、厚生労働省からの挨拶として、國分一行人材開発統括官付キャリア形成支援室長より、「大きな環境変化の中で自律的な経済成長を遂げていくためには、人への投資を拡大して、さらなる成長の機会を生み出していく、作り出していくことが不可欠である。そのためには働く方一人一人が自律的・主体的・継続的に能力向上あるいは、キャリア形成に取り組んでいくこと、そしてその能力を存分に発揮できる環境整備を加速させていくことが求められていると考えている。」と述べました。

基調講演

『組織におけるキャリア形成と「学び・学び直し」』をテーマに、高橋 浩 氏(ユースキャリア研究所 代表)による基調講演を行いました。

《基調講演概要》

■職場における学び・学び直し
 デスキリングとは、時間経過とともに習熟度が低下することである。その要因として職務定義が変わった時、異なる分野へ移動した時、専門性や強みがいかせない仕事に就いたときなど、変化が起きた時にこれまでいかしていた力が発揮できなくなる。DXなどで自動化への依存、労働者を機械のように扱うことは、本来持っている個性や強みがいかせなくなることである。ここで学び直しが必要になってくる。
 職場における学び・学び直しとは「急速かつ広範な経済社会環境の変化は企業内における上司・先輩の経験や能力・スキルの範囲を超えたものである。」(『「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」厚生労働省(2022)』)ことから、企業主導の教育訓練だけでなく、プラスとして労働者の自律的主体的かつ継続的な学び・学び直しを労使が協働して行うことが強調される。そうはいっても何のために何を学ぶのかという疑問を感じるかもしれない。自分事になってないとやはり主体的に学ぶというのは難しい。「学び・学び直し」を自分事にするために、個人も組織もアンラーニングと未来洞察、この二つの概念が必要であると分析する。

■アンラーニング
 アンラーニングの定義は「持てる知識・スキルのレパートリーのうち有効でなくなったものを捨て、代わりに新しい知識・スキルを取り込むこと」である。組織においては、これまでの終身雇用型で培ってきた制度やマネジメントの仕方、あるいは働き方、それらが今後も有効なのか見直していくことが肝心である。
 アンラーニングの手順の一つ目は、内省することである。時代に合わない、成長を拒んでいるものは何か、自分達が当たり前だと思っていること、大前提にあるものに気づくことが重要である。二つ目は内省を踏まえ、学ぶものを取捨選択することである。本当に役に立つものは残し、役に立たないものは捨ててよいということである。その際、個人ではなく職場単位で選択し、検討していくことがよい。三つ目は学びの場の設定で取捨選択したものや新しく学ぼうとしているものを実際にできる場を作っていくことである。組織が場を作っていくということが必要である。

■未来洞察
 未来洞察は、未来を知ろうとする、自らが未来を作ろうとする過程での「新たな気づき」である。これは未来予測ではない。未来予測をすると論理的に情報を集めて論理的に判断するのでほぼ同じ結論に至る。未来洞察はその本人にとって何に一番関心があるのかというところで変わってくる。未来に興味を持って社会の変化の兆しを収集する。何か変化が起きている、一人一人の興味関心で異なってくる。それを収集して自分の未来をイメージし、その想像した未来と現在のギャップを埋めていくために何を学べばいいのか、何を学び直せばいいのかということを我々はこれから考えていかなければいけない。
 変化が激しい時代だからこそ、これからどのように変わっていくのか、各個人があるいは企業がその兆しを捉え、未来を作っていくのかが重要である。そのための学び・学び直しなのだと捉えれば、自分事で学ぶことができるのではないかと理解できる。

■キャリア形成を支える学び
 自分や自分の会社にとって、まずこの気づくという学びが先行して必要である。その後にキャリアビジョン等を描き、学び直しを行い、その先は、ハッピープロダクティブワーカーになってほしい。ハッピープロダクティブワーカーとは幸福で生産性の高い働き手、労働者のことである。ハッピーだからこそ一生懸命働けるのではないかと考える。
 個人だけが頑張るのではなく、組織もアンラーニングをして共に学んでいくという場を作って、個人と組織の協働による学びが不可欠である。

■働く喜び・働きがいの重要性 
 学びも、学ぶことが楽しい、成長することが喜びだと感じることができるようにならなければならない。成果が上がるから喜びが得られるという考え方もあるが、喜びがあるから頑張れる、成果は得られるという発想でこれからの働き方を見直してみると何か違いが出てくるのではないかと推察する。
 キャリア形成を支える学び・学び直しの概念として、アンラーニングや未来洞察について説明した。喜びのある学びや仕事を通じ、ハッピープロダクティブワーカーを多く育成することができれば、個人と組織がウィンウィンになるような関係構築ができるのではないか。

パネルディスカッション

コーディネーターに高橋氏を迎え、グッドキャリア企業アワード2022受賞企業3社の代表者、人事担当による取組・事例紹介をはじめ、パネルディスカッションを行いました。

<コーディネーター>
 高橋 浩 氏  ユースキャリア研究所 代表

<パネリスト>
グッドキャリア企業アワード2022大賞:
 えびの電子工業株式会社 代表取締役社長 津曲 慎哉 氏
 雪印メグミルク株式会社 人事部人材開発センター課長 栗林 拓 氏

グッドキャリア企業アワード2022イノベーション賞:
 トゥモローゲート株式会社 代表取締役 最高経営責任者 西崎 康平 氏

<パネルディスカッション概要>

 パネルディスカッションでは、前半に各社パネリストが自社のキャリア支援における主要な取組について解説した。
 えびの電子工業株式会社の津曲氏は、人事評価制度の「成長チェック」を全従業員対象とした育成型の制度として導入し、評価内容を明確にすることで女性管理職の増加にもつながったことや、管理職には部下に対するコーチング研修を導入し、管理職が一緒に学ぶことで部下との意識や考え方の統一をしていること、そして多様性のあるキャリアサポートによるダイバーシティ&インクルージョンでの生産性の向上について紹介した。
 雪印メグミルク株式会社の栗林氏は、10年後の未来に向けた羅針盤として「グループ長期ビジョン2026」を策定し、トップ自ら従業員への強いメッセージを発信するトップメッセージ冊子の作成や、経営職(管理職)を対象としたキャリア開発支援研修および年代別のキャリア研修を実施することで、キャリアビジョンを描き、今後のキャリアを自律的に築いていく研修を行っていることについて紹介した。
 トゥモローゲート株式会社の西崎氏は、会社の経営理念を具体的にまとめたビジョンマップと従業員自身のキャリアビジョンをまとめたマイビジョンマップの連結について、自分自身のキャリアビジョンを会社のビジョンと紐づけ、目標達成に向けたアクションプランを設計し、年2回の個別面談で進捗管理を行い、その結果を人事評価へ反映することで、組織目標に沿ったかたちで従業員の自律的なキャリア形成を支援していることを紹介した。

Q1,キャリア形成、人材育成に取り組んだきっかけについて(2社へ質問)

 「下請企業のためブランドがなく開発も難しい中で、今いる社員が財産であることに気付けたことである。自分自身がサービス業出身で製造業のことが全くわからず、自らの不安を解消したいために色々と学ぶ必要があった。同様に製造業の人が苦手なこと、困っていることなど、社員の声を聞き、それらを解決するために社員の学び直し等の支援に至った。」
(えびの電子工業株式会社)
「長期ビジョンや中期経営計画の策定に際して、トップの強い意向から人材育成体系全てを見直し、その過程でキャリア開発がテーマに上がった。そこでその重要性をトップメッセージとして発信した。」
(雪印メグミルク株式会社)

Q2,採用方法について(1社へ質問)

 「年間6千人の応募がある。当初は他企業同様に求人広告を出して募集していたが、知名度、規模も小さい会社のため反響も少なく、年々応募人数が減少していった。まわりと同じことを行っていても状況は変わらないため、SNSを活用し、会社のビジョンや理念を発信することで現在の多数の応募に繋がっている。」
(トゥモローゲート株式会社)

Q3,人事評価方法について(1社へ質問)

 「仕事が多岐にわたり、細かく評価することは大変なため、全社員を個人技能適性と集団適正で判定する年2回の『共通成長チェック』を行っている。会社が求めている人材とそのための育成方針について示すことで、社員はこれを目標に仕事に取り組んでいる。
 また、シニア管理職にはシニア版の『職制成長チェック』があり、会社として後進育成のためにこうして欲しいということをわかりやすく示し、教える立場として職制が昇進することを明示している。これによりキャリアを活かして長く働ける環境があることがわかり、心理的安全性につながると考えている。」
(えびの電子工業株式会社)

Q4-1,経営職(管理職)からキャリア支援研修に取り組んだ狙いは?(1社へ質問)

 「若年社員は大学、高校などでキャリアに関する教育を受ける機会があり、知識もある中、現在経営職に就いている年代はキャリア開発の研修を受ける機会がなかった。そこで経営職に焦点を当てて、一般社員と日常的に接している経営職自身にキャリアについて理解してもらうことが大切と考え、キャリア支援研修を始めた。」
(雪印メグミルク株式会社)

Q4-2,研修を始めた時の経営職(管理職)の反応は?(1社へ質問)

 「当初、部下からのキャリア開発に関する面談希望に対し、話す内容や対応方法がわからず、苦慮していた。キャリア支援の研修を受講したことで、経営職の多くが積極的にキャリア開発に向けた面談を行えるようになった。また、キャリアは会社の指示命令により形成されるという考えから、部下のキャリアを支援するという流れに変わってきた。」
(雪印メグミルク株式会社)

Q5,ビジョンマップとマイビジョンマップの擦り合わせをどのように行ってきたか?
(1社へ質問)

 「マイビジョンは、期首に社員がこうありたい、なりたい形を一つのフレームワークに沿って上長に申告し、上長がその実現に向けてのサポート役となり、1年間の目標設計を行っている。半期ごとの面談時に進捗状況を確認し、目標に足りない部分はアドバイスを行い、達成していれば更に向上できるよう上長が寄り添う形でフォローしている。」
(トゥモローゲート株式会社)

Q6,離職率の改善につながった以前との違いについて(1社へ質問)

 「一番変わったのは仕事のスピードが早くなったこと。ビジョンマップにより会社の目指すところが明確になり、新規の提案もビジョンマップに則していればすぐに判断ができ、進められるようになった。離職率の減少につながっているのは、ビジョンマップ、マイビジョンマップが土台となり、その整合を図って一つの目標に向かって社員が一緒になって働いていることだと思う。」
(トゥモローゲート株式会社)

Q7,キャリア支援の取組で難しかったこと、苦労したことは?

 「一つは会社理念の浸透である。変革をすることに対し過去の否定と捉えられると、理念は全く社員に伝わらない。浸透させるためには社員だけでなく、外部へ広く発信することが必要であり、トップが公の場に自信を持って発信することを地道に行っている。もう一つは費用面の問題で、キャリア支援のための講師を招くにも費用がかかる。持続可能な取組を行っていきたいという想いから、国の助成金を利用するなどして、これらの取組を継続することができた。」
(えびの電子工業株式会社)
 「キャリアには正解はなく、納得する答えはない。それを研修受講者に伝える難しさを感じている。研修では自らの課題に向き合ってもらい、自分事として気付いてもらう研修内容になるように日々取り組んでいる。」
(雪印メグミルク株式会社)
 「自分の考える会社のビジョンが伝わっていなかったことが理由で、一緒に創業を支えてきた役員との間に会社の方向性の違いが生じた。会社のビジョン、会社がどこを目指しているかを具体的に示し、それを見て理解してもらうことが大事であり、そのことをきっかけにビジョンマップを作るにいたった。」
(トゥモローゲート株式会社)

Q8,キャリア支援に対しての社内の浸透、理解は?

 「海外からの技能実習生を受け入れており、日本語の習得能力に応じて社員寮費の割引支援を行っている。また個室を提供しプライベートを保てる環境を整えたことで、3年経過しても地域平均値の倍となる約6割の実習生が残ってくれている。こういった生活に寄り添った対応を日本人、外国人、男女を問わず継続して行っていきたい。」
(えびの電子工業株式会社)
 「昨年度までで、キャリア系の研修を受講した者が、延べ数で全体の40%を超え、2023年度にはおそらく50%を超えることになる。これを継続していくことによって、全社員が研修を1回は受講することになった時に本当の浸透、理解が進んでいくと考えている。もう一つはシニア社員の活性化、戦略化の支援である。意欲も高く能力も高い再雇用のシニア社員に対し、これからの働き方やセカンドキャリア、サードキャリアに向けて人事部として今後もサポートしていきたい。」
(雪印メグミルク株式会社)
 「マイビジョンマップに関しては人事評価と繋がっているため、自分事として取り組むという点では社員の理解、浸透に繋がっている。我々が目指すべきオモシロイ会社にしていくためには、選べる働き方、選べる福利厚生が必要であり、多様性が求められる時代の中でそれらをもっと形にしていきたい。」
(トゥモローゲート株式会社)

総括

 総括の中で高橋氏から3社の共通点として、「ハッピー、わくわく、安心」といった人間の情緒的な部分に焦点を当て、これを支援する色々な施策に取り組んでいることを挙げた。
 「受賞企業各社の取組は、従来の指示命令で動かす北風方式から、太陽方式により、自ら動く従業員を育てている。これからはアンラーニングを行い、従来型の、言われたことをただこなすような労働のあり方から、未来に向けて役に立つやり方、新しいやり方を学び実践していくことが大事なことではないか。」と述べ、パネルディスカッションを締めくくった。

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