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本サイトは厚生労働省の表彰事業「グッドキャリア企業アワード」を通じて、企業や働く方に自律的なキャリア形成について発信するためのサイトです。

グッドキャリア企業アワード2020
オンラインシンポジウムを
開催しました!

令和3年3月1日(月)、「グッドキャリア企業アワード2020オンラインシンポジウム」を開催しました。 当日は、表彰式のほか、審査総評、基調講演、「グッドキャリア企業―社員が成長できる企業―とは」をテーマにしたパネルディスカッションを行いました。

表彰式

受賞したのは、「大賞」が4社、「イノベーション賞」が5社の計9社で、式の冒頭に、厚生労働省からの挨拶として、三原じゅん子(厚生労働副大臣)より、「人生100年時代の到来による職業人生の長期化や働き方の多様化、新型コロナウイルス感染症の影響による社会全体のデジタル・トランスフォーメーションの加速化といった労働環境の大きな変化に直面している。こうした環境変化に応じて、働く方一人ひとりが、自律的・主体的に能力向上やキャリア形成に取り組み、その能力を存分に発揮できる環境を整備していくことが求められている。」とのビデオメッセージがありました。また、各受賞企業から受賞の喜びのコメントを頂きました。

大賞(厚生労働大臣表彰)(4社)

株式会社JTB(東京都品川区、生活関連サービス業・娯楽業、14,497人)
TIS株式会社(東京都新宿区、情報通信業、6,002人)
万協製薬株式会社(三重県多気郡、製造業、222人)
SWSスマイル株式会社(三重県津市、管理、補助的経済活動を行う事業所、77人)

イノベーション賞(厚生労働省人材開発統括官表彰)(5社)

株式会社三井住友銀行(東京都千代田区、金融業・保険業、34,205人)
ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社(東京都中野区、製造業、905人)
エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社(神奈川県川崎市、情報通信業、2,667人)
株式会社はたらクリエイト(長野県上田市・佐久市、情報通信業、121人)
医療法人社団恵正会(広島県広島市、医療・福祉、230人)

審査総評

表彰式の後には、藤村博之 氏(グッドキャリア企業アワード2020審査委員長 法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授)がグッドキャリア企業アワード2020において受賞した各社の取組の紹介・審査における評価のポイント・審査に携わった感想を交えた審査総評を行いました。

<審査委員長>
藤村博之 氏
(法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授)

≪審査総評概要≫

「グッドキャリア企業アワード」は、社内で従業員の能力育成、キャリア開発に積極的に取り組んでいる企業を表彰するものである。「キャリア」という言葉は、いろいろな意味を含んでいる。必要とされる能力を維持し続ける、あるいは“売れる”能力をきちんと持っている、そしてそのようにすることがキャリア開発・キャリア形成だと思う。しかし、難しいのは、「今」必要とされる能力、売れる能力は分かっても、3年後や5年後、ましてや10年後にどういった能力が必要とされるかは誰にも分からない。そこで重要となるのが従業員の自主性である。

企業が予期せぬ変化に対応していくためには、いろいろな情報や視点から物事を見ることができる従業員がいることが大切である。それが企業の競争力につながっていく。昨今、ダイバーシティや多様性が重要視されているが、最も大切なのは「考え方の多様性」だと思う。異なる意見を持つ従業員同士が意見をぶつけ合うことによって、現状に対する理解がより深まり、企業として新しい施策が生まれる。つまり、いろいろなことを考えてくれる従業員がいないと企業の競争力は高まらない。企業が従業員に対してそうした場を用意・提供するだけでなく、従業員が自分たちの問題として捉えてそうした場を使ってくれることが大切である。

先ほど「必要とされる能力」について話したが、例えば外国語を話す能力やDX関連の知識・情報は、もしかしたら5年後にはコンピューターに取って代わられ、人間がわざわざやらなくてもいい分野になるかもしれない。将来どんな能力が必要になるか分からないからこそ、従業員が様々な視点から物事を考えてくれることが必要である。そういう場を企業が準備しているかどうかが問われる。今回の審査でもこうした点を重要視したが、やはり今回の受賞企業は実践されている。

「グッドキャリア企業アワード」で企業を表彰し、その取組事例をほかの企業に知ってもらって自社の従業員の能力開発に応用してもらいたいと考えている。それが日本全体にとって必ずプラスになるはずだ。「大賞」「イノベーション賞」の各受賞企業は本当によく頑張っていらっしゃる。ぜひもっともっと進めて従業員の能力を高め、様々な変化に対応できる企業に成長していただきたいと思う。

<審査委員>
井手明子(住友商事株式会社 社外取締役)/坂爪洋美(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)/日置政克(THK株式会社 社外取締役、株式会社小松製作所 顧問、株式会社すき家 社外取締役、株式会社瑞光 社外取締役、立命館大学大学院 経営管理研究科 客員教授)/廣石忠司(専修大学大学院 経営学研究科 研究科長 教授)/富田 望(厚生労働大臣官房審議官)

基調講演

「Withコロナ時代の社員エンゲージメント」というテーマで、鈴木 雅則氏(株式会社セールスフォース・ドットコム 常務執行役員人事本部長)による基調講演を行いました。

社員に成功してもらうためには2つの要素を考える必要がある。
1つ目は、社員のエンゲージメントをどのように高めていけば良いのか、2つ目は働きやすい環境をいかに整え、社員が会社に大切にされているという感覚を持てる環境を作るか。弊社ではこの2点に注力している。

エンゲージメントを高めるには、カルチャー・テクノロジー・データの3つの要素があると弊社では考える。
まずはコーポレートカルチャーをいかに意図的にデザインしていくのか、加えてテクノロジーとデータをいかに活用していくのか。これらを足し算で表現している。
掛け算ではなく足し算にしている理由として、3つの要素のいずれかを高めていけば、全体的にエンゲージメントが高まるのではないかと考えているからである。

また、新型コロナウイルスに弊社がどのように対応してきたか、ご紹介したい。
まず1番大切なのは、コアバリューを大切にしようと立ち返るところにある。
したがって、弊社はまずTrustを大事にし、会社がしっかりと社員を守る姿勢を表すことで社員は安心感を持って、業務に集中してもらえるだろうと考え、その上で何を大切にするのかを言語化した。
目標をV2MAMで落とし、トップダウンでどのようなことを大切にするのかを明確にした。

【セールスフォース独自の「V2MAM」とは】
Vision = ビジョン(行いたいことや達成したいことを定義)
Values = 価値(ビジョンの追求を支える原則や信念)
Methods = メソッド(業務の完遂に必要な行動や手順)
Obstacles = 障害(ビジョン達成のために克服しなければならない課題や問題、難点)
Measures = 基準 (求める成果の測定可能な指標)

実際におこなったアクションとしては、「コミュニケーション」「施策の明確化」「アンケート」の3つのみである。
まず1つは、顔の見えるコミュニケーションをしっかり行っていくこと。
次に、アンケートを用いて、できるだけボトムアップで現場の社員が何を感じているのか、どういうところに困難を抱えているのかをデータとして見ていった。
そこから人事の施策に落とし、再度コミュニケーションを取るというサイクルを上手に回していったことが、実際に弊社がここまで取り組んできたところである。

特に新型コロナウイルス発生時では、日々、様々な状況が変わっていくため、簡単な質問を社員に投げかけることと、月次で社員がどのような状況にあるのか、アンケート調査の頻度を高めて実施していた。
加えて、人事からのアドバイスをタイムリーに実行していくことが非常に重要だと考え、矢継ぎ早に声を拾いながら様々な人事施策を打っていった。

ポストコロナを見据えて働き方をどう変えていけばいいのかという議論を半年前から行ってきた。
まず、今回のことで「多くの仕事は在宅でもできる」ということが証明された。
しかし、社内のアンケート調査を見てみると、社員同士のつながりは希薄化している傾向がある。
社員が在宅勤務をしたいという気持ちは理解するが、一方で社員同士の繋がりやそこから生まれるイノベーションが大切だと、弊社は考えている。

したがって、弊社ではハイブリットな職場環境を作っていくという結論に至った。
まず、フレックスという働き方の社員で、週1~3回出勤するタイプの仕事の仕方であり、大多数の社員がこの働き方に該当する。
次に、オフィスベースという働き方の社員で、通常のように週4~5日間をオフィスで仕事するような社員である。
最後に、フルリモートで職場にはほぼ行かないという3つの働き方があると考えている。

従業員アンケートの結果、8割の社員はオフィスとの繋がり・人との繋がりを求めていることが分かった。企業文化をデザインしていく上で、オフィスも非常に重要な位置づけだという感覚を持っている。
我々は、今後の組織運営においては、エンゲージメントがより重要になってくると考えている。

エンゲージメントは3つの要素があり、1つ目は企業文化をいかに意図的にデザインしていくのかという考え方。2つ目はテクノロジーをいかに使い倒していけば良いのだろうかという考え方。3つ目はデータをどう紐づけていけば良いのかという考え方が前提としてある。

世の中は激しく変化しており、外部環境の変化と内部環境の変化をいかにすり合わせていくか、それをリードできる状態にしていくことが重要になっている。さらに、コミュニケーションの重要性もますます増していく。

トップダウンでこのような目標でこのようなビジョンを掲げてやっていきましょうという発想と現場からの声を拾い、しっかり施策に落として動かしていこうという発想の2つが必要になる。
それがコロナという危機の中で、我々の行動に試されてくるのではないかと思っている。

パネルディスカッション

後半では、坂爪洋美 氏(グッドキャリア企業アワード2020審査委員、法政大学 キャリアデザイン学部 教授)をコーディネーターに迎え、受賞企業3社を交えたパネルディスカッションを行いました。

<テーマ>
「グッドキャリア企業 —社員が成長できる企業— とは」

<コーディネーター>
坂爪洋美 氏(グッドキャリア企業アワード2020審査委員、法政大学 キャリアデザイン学部 教授

<パネリスト>
高岡裕之 氏(株式会社JTB 人事部 人財開発担当部長・ダイバーシティ推進事務局長)
松浦信男 氏(万協製薬株式会社 代表取締役社長)
芳賀恒之 氏(エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 取締役人事部長)

≪パネルディスカッション概要≫

 パネルディスカッションの冒頭では、3社のパネリストが自社のキャリア開発支援における考え方や主要な取組について解説を行った。まず、キャリア改革を経営改革の1つと位置づけているJTBの高岡裕之氏は、「社員と会社の成長ベクトルのすり合わせがキャリア開発支援の基盤」とする。そのうえで、「会社全体のカルチャー改革にキャリア改革を紐付け、社員が仕事に向き合い挑戦する機会、多様な場面でキャリアを考える対話を創出するような具体的な取組を進めている」と話した。
 
次に、阪神・淡路大震災での被災によって三重県に本社・工場を移転した万協製薬は、急激に成長したことで社員の平均年齢32歳と若く、こうした若手社員への教育が課題の1つだという。代表取締役の松浦信男氏は、「社員の成長が組織の成長につながるという考えを持っています。社員エンパワーメント(情報公開と権限委譲)を徹底することでモチベーションアップを図るとともに、様々な問題を自ら解決し、自律した成長を促す仕組みづくりに務めています」と述べた。

 NTTグループであるエヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジは、NTTの研究所で開発した先進技術を世の中に使える形で実用化するのが主たる事業。取締役人事部長の芳賀恒之氏はこう話す。「変化・進化の激しいIT業界で柔軟に対応していくためには、社員一人ひとりの人間力と技術力が必要です。そのために、これまでの専門性を極める育成から、技術領域の幅も併せ持った複合型人材の育成へとシフトしました。また、社内キャリアコンサルタントを新たに育成し、社員の主体的なキャリア開発を支援する仕組みづくりを推進しています」。

このほか、聴講者からの質問を含めていくつかのテーマに沿って進められ、各社の今日に至るまでの苦労や今後の展望が語られ、参加者がともにキャリア支援・キャリア開発について考える機会となった。

最後に、総括として、コーディネーターの坂爪氏は以下の通り、ディスカッションを通じて感じた4つのポイントを挙げた。
■『社員一人ひとりが単独で自律的にキャリア形成するだけではもったいない』というのが1つめの気づきである。『会社のあり方』と『個人のキャリア形成のあり方』がリンクしていることが重要で、会社がこう変わっていくから社員もこう変わるという関係性が理解できれば、社員が自律的にキャリア形成していくにあたって納得感や腹落ちにつながる。
■自律的なキャリア形成には、『自分以外の人との対話が必要不可欠である』とあらためて感じた。対話の相手は上司や経営層、社内外のキャリアコンサルタントなど様々だが、『どの人と対話するのが会社にとって最も適しているのか』をきちんと考えて仕組みづくりをしていく必要がある。さらに、個別の内容は守秘しながらも対話で得た情報を社員の声として共通言語化し、社内の仕組みや具体的な施策に落とし込み、より良いキャリア形成の実現につなげていくことも重要である。
■組織風土が自律的キャリア形成に向かわせやすいのか否かも重要なポイントである。また、仕事のさせ方、つまり日々の仕事の中で自主性を培っていくアプローチも大切である。
■自律的なキャリア形成を進めるには『個人のニーズ』と『会社のニーズ』のすり合わせが必要で、そのために今まで以上に会社側が情報発信していくことが重要になってくる。『個人のニーズ』も大切だが、『当社ではこういう人材になってほしい、こういうキャリアを歩んでもらいたい』といったメッセージを企業側が示す必要があると思う。

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