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本サイトは厚生労働省の表彰事業「グッドキャリア企業アワード」を通じて、企業や働く方に自律的なキャリア形成について発信するためのサイトです。

グッドキャリア企業アワード2022
シンポジウムを
開催しました!

令和5年1⽉24⽇(火)、時事通信ホール(東京)において「グッドキャリア企業アワード2022シンポジウム」を開催しました。 当⽇は、表彰状授与のほか、審査総評、基調講演、「グッドキャリア企業~社員の成⻑を企業の成長に~」をテーマにしたパネルディスカッションを⾏いました。

表彰式

受賞したのは、「⼤賞」5社と「イノベーション賞」11社の計16社で、表彰式では、厚生労働省からの挨拶として、小林洋司(厚⽣労働審議官)より、「我が国が直面している環境変化の中で、従業員の自律的な成長を促すために、人への投資を拡大していくことが必要不可欠である。今回の受賞内容は、新しい働き方が進む中でも、積極的に従業員とコミュニケーションの機会を設けながら、多様な人材がその能力を伸ばし、活躍できるようキャリア支援の様々な取組がなされている。今回受賞された各企業の取組を参考にし、各企業においてより一層、取組を推進していくことが重要である。」と述べました。

  • 審議官

大賞(厚生労働大臣表彰)(5社) ※五十音順

株式会社イデックスビジネスサービス(福岡県福岡市、その他の小売業、従業員数249人)
えびの電子工業株式会社(宮崎県えびの市、電子部品・デバイス・電子回路製造業、従業員数690人)
トラスコ中山株式会社(東京都港区、機械器具卸売業、従業員数2,996人)
株式会社ナンゴー(京都府宇治市、はん用機械器具製造業、従業員数15人)
雪印メグミルク株式会社(東京都新宿区、食料品製造業、従業員数4,221人)

  • 大賞

イノベーション賞(厚生労働省人材開発統括官表彰) (11社)  ※五十音順

NTTコミュニケーションズ株式会社(東京都千代田区、通信業、従業員数9,364人)
コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社(東京都港区、その他のサービス業、従業員数2,575人)
西部ガス絆結株式会社(福岡県春日市、その他のサービス業、従業員数25人)
株式会社ダイムワカイ(京都府京都市、職別工事業、従業員数90人)
トゥモローゲート株式会社(大阪府大阪市、映像・音声・文字情報制作業、従業員数40人)
社会福祉法人 平鹿悠真会(秋田県横手市、社会保険・社会福祉・介護事業、従業員数37人)
富士通株式会社(東京都港区、情報サービス業、従業員数36,216人)
明治安田生命保険相互会社(東京都千代田区、保険業、従業員数47,415人)
ヤフー株式会社(東京都千代田区、インターネット附随サービス業、従業員数7,905人)
株式会社洛北義肢(京都府京都市、業務用機械器具製造業、従業員数74人)
LAPRAS株式会社(東京都品川区、情報サービス業、従業員数41人)

  • イノベーション賞

審査総評

表彰状授与の後には、藤村博之⽒(グッドキャリア企業アワード2022 審査委員⻑)がグッドキャリア企業アワード2022において受賞した各社の取組の紹介、審査における評価のポイント、審査に携わった感想を交えた審査総評を⾏いました。

<審査委員⻑> 藤村博之 ⽒
(法政⼤学⼤学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授)

  • 審査委員長

審査総評概要

今回の「グッドキャリア企業アワード2022」には前回実施した2020年度から42社増の89社から応募があった。

キャリア開発という言葉はよく使われるが、「売れる能力を維持し続けること」と言い換えることができる。これは、単なる能力開発ではなく、企業として必要とされる能力を持つ人材を育成することを意味し、とても難しい取組である。
5年、10年先の社会で、どのような能力が求められるかは良く分からない。数年先に何が求められるか予測し難いからこそ、従業員を信じて、本人が望む能力を伸ばしていくことが重要である。従業員の声に耳を傾けながら、キャリア支援に係る職場環境の整備に尽力した企業が、今回受賞されている。

今回のグッドキャリア企業アワード2022の応募企業の応募書類に、エンゲージメント、コーチングといった言葉がよくでてきた。エンゲージメントは、「思い入れ」という言葉が相応しいと思う。仕事に対する思い入れ、職場の仲間に対する思い入れ、それから企業に対する思い入れ、もちろんお客様に対する思い入れもある。「思い入れ」を従業員一人一人がもって働いてもらうためには、やはり新たな仕事にも対応できるような能力を身につけなければならない。

また、5年に一度、国が実施している『就業構造基本調査』の中に『仕事上の能力開発をするために、企業からその機会を与えられたか?または自分で自己啓発したか』という質問がある。一番注目したのは、『企業の能力開発に参加した、または自己啓発を行った』と回答した50代の方は、男女共に3~4割にとどまった点である。
高齢社会の日本において、70歳まで働こうと国が旗振りしているにもかかわらず、50代から70歳まで何一つ勉強も訓練も受けずに働き続けられるとは思えない。活力ある日本を維持していくためには、従業員一人一人の自律的な能力開発が必要不可欠である。

従業員それぞれに生きる上での目的や家族があり、企業はそれを認めながらも、企業に貢献する人材になって欲しいとの願いがある。従業員任せにするのではなく、企業も一緒にどういう能力がこれから必要とされるかを考えながら、従業員に機会を与えていくことが重要であり、今回の受賞企業の各社が、そういった取組をしていることがとても印象に残った。
「「受賞して終わり」ではなく、これからさらに取組を展開していただき、今後も従業員が生き生きと働ける企業作りに邁進していただきたい。」と審査総評を締めくくりました。

<審査委員>
坂爪洋美(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)/島村泰子(キャリア・エンパシー代表、法政大学 キャリアデザイン学部 兼任講師)/廣石忠司(専修大学 経営学部 教授)/山内麻理(国際教養⼤学 国際教養学部 客員教授)/原口剛(厚⽣労働省⼤⾂官房審議官)

基調講演

「万協流キャリア形成支援の仕組み」をテーマに、松浦 信男氏(万協製薬株式会社 代表取締役社長:グッドキャリア企業アワード2020大賞)による基調講演を行いました。

  • 松浦 信男氏

基調講演概要

昨今の日本社会では、組織の目標はあっても個人の目標とかけ離れ、燃え尽きてしまう社員が多いとされている。弊社では社員の成長が組織成長につながると考え、自主積極的な組織作りに取り組んでいる。これが弊社で考えるグッドキャリアである。

弊社のコンセプトに共感した社員が自由闊達に発言・行動できる組織風土をまず作り、経営理念に掲げられている価値観を持ち、自らの問題を自らで解決できる、私もエンパワーメント経営と呼んでいるが、この社員の自律や成長を促す仕組み、多分これが皆さんにも共通するキャリア形成の一番良いやり方ではないかと思っている。

阪神大震災の時に神戸で被災をして二年かけて三重県に工場を作ったが、社員を全員解雇せざるを得なかったので、一から会社を立て直すため何とか勤めてくれる人を一人でも多く高度人材に育て、その社員のために融通がきくように、徐々に取組を行い、それが発展した。
社員エンパワーメント(情報公開付きの権限委譲)は、社員の働く現場単位で職場改善を行う権限を与え、社員の自己成長を促すとともに社員に「自分の家庭にいるようなリラックス感」を作り出し、積極的な組織を作ることに努めている。

キャリア支援の取組、効果

キャリア支援の具体的な取組として、業務のモジュール化とジョブローテーション、キャリアアッププランと経営幹部面談がある。そして、モチベーションを高めるさまざまな取組として、「社長直行便!万協をもっと、良くしよう提案書」や「成果発表会」があり、発表会は年に一回全社員参加で開催し、短期戦略を検証し、なぜそうなったか数値化して解析を行っている。また、プチコミファミリーでは、入社年度と所属を超えた6名のグループを作り、旅行や食事会をしてモチベーションの向上を図るとともに他部署の上司・同僚と知り合うことを目的に、会社から全額補助している。

キャリア支援の取組効果としては、業務のモジュール化とジョブローテーションにより、能力向上の確認が意識向上へつながっている。キャリアアッププランと経営幹部面談では、働き方やキャリア、課題を考える機会を創出している。モチベーションを高める様々な取組では、成果発表会で個人の目標とチームの目標が連動するように数値化をしている。

過去5年間で急激に成長し、若手の人材が増え統一した教育が難しくなった。従業員の半数くらいが入社3年以内の20代前半の社員となったことから、万協人材教育プログラムという自社サイトを作った。リーダーシップ・コモンセンス・リベラルアーツ・アートの4ジャンルで動画を配信しており、社員はいつでもどこでも学ぶことができる。視聴・感想文の提出を促し教育を進めている。

エンゲージメント

私は世の中を変えるものは全て熱だと思っていて、熱のないところに変化はないと思う。今こそ組織内エンゲージメントである。組織内エンゲージメントとは、顧客満足、社員満足よりもこれから必要だと思っている。私の中ではエンゲージメントは「強く共感する」とか「意気に感じる」などという言葉である。
リーダーの発言や行動に共感して行動できる社員の比率を増やすべきである。熱い夢を持っている、そういうリーダーこそが今の沈滞した日本には必要だと思う。

そして、これからはファンマーケティングが必要になるのではないかと思う。組織内リーダーがお客さんの満足度を上げることばかりに執心していては本来の成果は発揮できない。
むしろ組織に対するファンを増やす「ファンマーケティング」、これがビジネスの主流となるだろう。これからは、その会社のブランドを愛する人を社内にも社会にも作って、その人たちが会社という神輿を上げていくようになれば、本当の意味で成長させがいのある組織になるのではないかと思う。

グッドキャリア企業アワードは、日本の賞で一番素敵な賞だと思う。
社員のことを一生懸命考えて、皆が最もよいやり方について、しのぎを削るようなこのような素晴らしいことはないと思う。

パネルディスカッション

後半では、坂爪洋美 氏(グッドキャリア企業アワード2022審査委員)をコーディネーターに迎え、受賞企業3社を交えたパネルディスカッションを行いました。
<テーマ>
「グッドキャリア企業~社員の成⻑を企業の成長に~」
<コーディネーター>
坂爪洋美 氏(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
<パネリスト>
喜多智弥  ⽒ (トラスコ中山株式会社 ⼈事部 部長)
南郷真   ⽒ (株式会社ナンゴー 代表取締役)
石井裕美子 ⽒ (コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社
     統合プログラムオーケストレーションサービス部 ケーパビリティ開発課 課長)

  • 坂爪洋美 氏(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
  • 喜多智弥 ⽒ (トラスコ中山株式会社 ⼈事部 部長)
  • 南郷真 ⽒ (株式会社ナンゴー 代表取締役)
  • 石井裕美子 ⽒
    (コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社 統合プログラムオーケストレーションサービス部  ケーパビリティ開発課 課長)

パネルディスカッション概要

 パネルディスカッションでは、前半に各パネリストが⾃社のキャリア⽀援における主要な取組について解説した。トラスコ中山株式会社の喜多⽒は、今までの人事制度の課題を補うために行ったエンゲージメントサーベイやタレントマネジメントシステムなどの導入、HRサポート課の新設といった人事制度改革について、その背景やねらいを説明。また人事制度の施策は手段であること、目的は社員の成長であり、従業員が自分起点で行動するような環境づくりの必要性について語った。
 株式会社ナンゴーの南郷氏からは、社会人としての考え方や道徳心などの「人間力」を高めていくことをグッドキャリアと結びつけて取り組んでいることについて説明があった。また、前回のイノベーション賞受賞からさらに取組を進め、自律的な職業能力の向上ができる組織作りを目指したプロジェクトグループ室の創設等、様々な取組について紹介した。
 コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社の石井氏は、グループ全体としてジョブ型の人事制度の中で、社員に求めるものも大きく変化する中、変革型リーダーの育成が急務となったことに触れた。部門責任者、管理職、キャリアコンサルタントが連携し、全世代を対象に組織戦略と一体となったキャリア形成支援の説明があり、「管理職だけではなく三位一体となったキャリア支援を行い、組織として持続的な成長を目指していきたい」との考えを示した。
 冒頭での受賞企業の事例紹介を踏まえ、テーマ「グッドキャリア企業~社員の成⻑を企業の成長に~」のもと、坂爪氏が参加者からいただいた質問をパネリストへ投げかけ、各パネリストが回答した。主な議論は以下の通りである。

Q1. 取組を進めていく上で大変だったことは何か。また、どうやって乗り越えたのか。

トラスコ中山株式会社
 キャリア形成支援に係る人事やトップの思いを、社員個人に自分事として理解してもらうことが難しい。趣旨を説明しても、現場社員の実感にはギャップが生まれてしまうもの。このギャップを埋めていくことが重要であるため、根気よく思いを伝える努力を続けている。

株式会社ナンゴー
 当社は15名と少人数で全般的に兼任が多いため、個人の諸目標や部門の実行計画書はかなり力を入れて皆で作成する。個人目標に関しては、技術スキルアップシートといって、技術的な熟練度を可視化したものを用い、半年ごとに上席と面談を実施し、見直しを行うこととしている。毎月の実行計画に関してはチームメンバーが入力した内容について、三カ月に一回は私がコメントを入れて返すことで、フィードバックを行っている。

コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社
 能力開発について、いかにして社員に、主体的に取り組んでもらうかという点に苦労した。当社は、非常に速いスピードで業務の変革に取り組んでいる。社員は目の前の仕事に追われている中で能力開発をしなければならない。そのため、社員には、育成プログラムの開始時にキャリアカウンセリングを受けてもらい、一度、自分の気持ちや目標などを整理してもらった上でキャリア開発に進んでもらっている。

Q2.キャリア支援施策の効果測定の基準や方法について教えてほしい。

トラスコ中山株式会社
 定期的に実施しているエンゲージメントサーベイの中に社員の成長度合いを測る項目がある。今後取組んだことがどういう形で、エンゲージメントにつながり、成長度合いが上がるのかを見ていけば、社員にとっても、学びや成長の実感が増えていると言えるのではないかと思う。

株式会社ナンゴー
 客観的な指標としては設けていない。現状、人数も少ないので、一人一人の社員と対話をしていく中で、目標や成果がわかるような自社なりの仕組みのようなものはできていると思っている。現場はそれに対して違和感はないが、今後会社の規模が拡大した際には、KPIの設定等も考えていかなければならないと思っている。

コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社
 当社はHR戦略の一つにキャリア開発に係るKPIを組み込んでいる。KPIとしては、キャリア自律度として、意識や行動を数値化してその変化を測定している。意識が向上したかどうかは、本人も認識することが難しい。上司からも数値でフィードバックしてもらうことで、目に見えるかたちで社員に成長を実感してもらっている。

総括

最後に、総括としてコーディネーターの坂爪氏は以下の通り、パネルディスカッションを通じて感じた三つのポイントを挙げました。

企業が持続的に成長していく為には人の成長が不可欠であり、学び・学び直しが不可欠である。学びが大事だが、その学びを従業員に任せていかなければならない現状がある。つまり会社が全て主導できるわけではなく、従業員が学びたいというものへ支援しなければならないのが今の局面であると思う。

一つ目に、キャリア自律の促進には多様な方法があることである。キャリア自律といっても、従業員が一人でキャリアを組み立てていくことは簡単なことではない。これを支援するために、例えば、上司と部下とのコミュニケーションの機会を増やすといった方法もある一方、従業員のための学びの機会を設けることもできる。つまりキャリア自律を促す時、私達は一対一の面談にフォーカスしがちであるが、ほかにもいろいろな方法があることを、今回の受賞企業及びご登壇いただいた企業の事例から改めて学んだ。

二つ目のポイントは、学びの重要性である。キャリア自律を促すには、学びを身近に置くことが不可欠である。学びの機会を提供することはもちろん、本日の受賞企業の取組内容の紹介の中にもあったような、学び合い、共に教え合うことが、主体性を担保しつつ学ぶことのハードルを下げていくことにつながり、より一層多くの従業員が学びに取り組むきっかけとなるのだと思う。

三つ目のポイントは、管理職へのサポートを検討することの必要性である。管理職は部下のキャリア形成支援を担うことが多いが、業績の責任も負っており、負担が大きいのも事実である。従って、人事部、もしくは経営層などもう少し高い視点から、キャリア形成支援を担う管理職に対してサポートを行うことが大切である。組織の中でキャリア自律を進める時に、キャリア形成を支援する人が、よりよい支援を提供するために必要なことを考える上での視点が広がったことは、今年度のグッドキャリア企業アワードの特徴である。

キャリア自律とは、学びを従業員の主体性に任せていくことであるが、同時に、企業が魅力的な会社であり、企業として目指すこと、従業員に求める姿を伝えられることがとても重要である。今回の登壇企業の取組をお聞きする中で、ここにいていいという心理的安全性に代表される安心感に加え、企業の魅力とその説得力を提示していくことが、これからのキャリア自律を進めていく上で大事なことなのではないかと感じたところである。

シンポジウム当日の模様は、youtubeで配信しております。ぜひご覧ください。
URL : https://youtu.be/jB7Woin8C3o

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